特許第6761981号(P6761981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6761981高機械強度な漆喰成形体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6761981
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】高機械強度な漆喰成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/12 20060101AFI20200917BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20200917BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20200917BHJP
   B28B 3/00 20060101ALI20200917BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C04B28/12
   C04B14/02 A
   C04B40/02
   B28B3/00 C
   B28B11/24
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-8962(P2016-8962)
(22)【出願日】2016年1月20日
(65)【公開番号】特開2016-196393(P2016-196393A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2019年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-76629(P2015-76629)
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】橋本 忍
(72)【発明者】
【氏名】霜田 航
(72)【発明者】
【氏名】武田 はやみ
(72)【発明者】
【氏名】草譯 翔平
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−238021(JP,A)
【文献】 特開2005−145808(JP,A)
【文献】 特開平08−217522(JP,A)
【文献】 日本セラミックス協会年会講演予稿集,2015年 3月 6日,p.3G26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/12
B28B 3/00
B28B 11/24
C04B 14/02
C04B 40/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウムからなる原料粉末を、温度100℃以上、圧力100MPa以上を印加して、加熱加圧保持時間を90min以上として成形体を作製し、その後、この成形体を大気圧以上の二酸化炭素中で炭酸化温度50℃以上で炭酸カルシウム化して、前記水酸化カルシウムの少なくとも一部が炭酸カルシウム化した、密度が1500kg/m以上、前記成形体中の水酸化カルシウムの割合が80重量%以上であり、残余が顔料または金属酸化物であり、圧縮強度が50MPa以上であることを特徴とする高機械強度な漆喰成形体の製造方法
【請求項2】
前記大気圧以上が3気圧までであることを特徴とする請求項1記載の高機械強度な漆喰成形体の製造方法
【請求項3】
前記水酸化カルシウム原料粉末は、平均粒子径が1μm〜1000μmであることを特徴とする請求項1または2記載の高機械強度な漆喰成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレープ(高圧蒸気滅菌)装置を使用することなく、作製できる高機械強度な漆喰成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漆喰は、城郭、寺社仏閣、あるいは民家の内外壁用上塗り材として、400〜500年以前から広く使用されてきた。漆喰の白色審美性、調湿効果、防火性、耐久性、再利用性はよく知られたところであるが、さらに殺菌や消臭効果を有すると言われ、健康や環境に優しい材料である。
一方、漆喰は水酸化カルシウム(Ca(OH))を主成分とし、大気中の炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収しながら炭酸カルシウム(CaCO)に変化して硬化し、強度が向上する。漆喰は、水酸化カルシウム以外に布海苔(フノリ)や麻等の繊維、あるいは藁、さらには合成樹脂等を加えて混合することが一般的であり、水酸化カルシウムのみを原料とすることは少ない。漆喰は前記水酸化カルシウム等の原料に水を加えて練って固める通常の養生法で成形・固化させるが、炭酸カルシウムに変化しても、圧縮強度が低いという欠点があった。
【0003】
本発明者らは、非晶質アルミノシリケイト相を主成分とし、一度固化したジオポリマーを含む固形物を粉砕した粉砕物を再固化して、ジオポリマー組成物にする試みを行い、比較的高い圧縮強度を有するジオポリマーを得ており、前記粉砕物を再固化する際に、加熱と加圧により粉砕物を固化させるウォームプレス法を用いた(特許文献1参照)。
【0004】
また、炭酸カルシウムを使用する例として、キトサンを固化助剤とし、この固化助剤を含有するカルサイト結晶以外の炭酸カルシウム粉末を水の存在下で加温及び加圧することにより固化体を製造することが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−188329公報
【特許文献2】特許第3656129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムからなる漆喰成形体を高機械強度化(高密度化)することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、漆喰をウォームプレスする条件を検討することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
本発明は、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムからなる原料粉末を、300℃より低い温度で加熱すると共に、100MPa以上に高加圧して成形したことを特徴とする。
または、原料粉末を水酸化カルシウム粉末とし、その少なくとも一部が炭酸カルシウム化した、密度が1500kg/m以上であることを特徴とする。
または、漆喰成形体中の水酸化カルシウムの割合が80重量%以上であり、残余が顔料または金属酸化物であることを特徴とする。
または、水酸化カルシウム粉末を温度100℃以上、圧力100MPa以上を印加して成形体を作製し、その後、この成形体を大気圧以上の二酸化炭素中で炭酸カルシウム化することを特徴とする。
または、原料粉末を水のみを加えた炭酸カルシウム粉末としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高機械強度な漆喰成形体およびその製造方法によれば、オートクレープ装置を使用することなく、高機械強度な漆喰成形体を容易に作製することができ、その製品は耐熱性・耐火性に優れ、耐熱・耐火用材料としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明に係る高機械強度な漆喰成形体の作製実験の概要を示す図である。
図2図2は、同、温度と加温加圧の保持時間を変えた場合の圧縮強度を示す図である(圧力:130MPaを一定)。各加熱加圧保持時間(Duration Time)における加熱温度は左から右に向かって、100℃、150℃、250℃の順である。
図3図3は、同、印加圧力を変えた場合の圧縮強度と密度の変化を示す図である(温度:150℃一定、加圧時間:90分一定)。
図4図4は、同、X線回折(XRD分析)と緻密化の様子を示す図である。
図5図5は、同、試料の炭酸化処理(1気圧、24時間、炭酸化温度を変化)前後の圧縮強度を測定した結果を示す図である。
図6図6は、同、試料の炭酸化処理(3気圧、24時間、炭酸化温度を変化)前後の圧縮強度を測定した結果を示す図である。
図7図7は、同、試料の炭酸化処理(1気圧、24時間、炭酸化の温度を変化)前後のX線回折(XRD分析)結果を示す図である。
図8図8は、同、試料の炭酸化処理(3気圧、24時間、炭酸化の温度を変化)前後のX線回折(XRD分析)結果を示す図である。
図9図9は、原料粉末を水のみを加えた炭酸カルシウム粉末とした試料の温度と加温加圧の保持時間を変えた場合の圧縮強度を示す図である(圧力:240MPaを一定)。各加熱加圧保持時間(Duration Time)における加熱温度は左から右に向かって、150℃、200℃、225℃、250℃、280℃の順である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
本発明の漆喰の原料である、水酸化カルシウム粉末は、平均粒子径が1μm〜1000μmであることが好ましく、10μm〜300μmであることがより好ましい。水酸化カルシウムの純度は96重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。本発明においては、漆喰の原料として、布海苔(フノリ)や麻等の繊維、あるいは藁、さらに合成樹脂等は故意に含ませず、着色するための顔料、金属酸化物等を含ませることが可能である。着色した漆喰(カラー漆喰)としては、例えば茶色系やうぐいす色系がなじみ易く、その場合は、赤色系のヘマタイト、茶色系のブラウンミレライト、うぐいす色系のブラウンミレライトとゲーレナイトとの混合体が水酸化カルシウムに添加して混合され、その添加量は漆喰としての圧縮強度の観点から20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0012】
水酸化カルシウム粉末をウォームプレス装置(図1参照)の円柱金型に投入し、一軸的(例えば上下方向)に加熱、かつ加圧(以下、「温間加圧」という)して円柱状の固化サンプルを作製する。固化させるための温間加圧の条件は、100〜250℃の温度で100MPa以上の圧力、より好ましくは200MPa以上の圧力を与えて、60分以上、より好ましくは90分以上保持する。より具体的には、前記スラリーをウォームプレス装置の円柱金型に詰め、ウォームプレス装置の上下の台座から金型へ熱を伝え、円柱金型が所定の温度(室温〜300℃)に到達後、100MPa以上の圧力で一軸加圧する。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を以下に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0014】
(サンプル作製)
漆喰の原料として、水酸化カルシウムの特級試薬(キシダ化学社製、特級試薬、純度96%以上)をウォームプレス装置の円柱金型に投入し、ウォームプレス装置(図1参照)の上下の台座から金型へ熱を伝え、円柱金型が所定温度に到達後、所定圧力で所定時間一軸加圧して、直径15mm、高さ30mmの円柱状のサンプルを作製した。加熱温度は100℃、150℃、および200℃の3ポイント、圧力は60MPa、120MPa、および240MPaの3ポイント、加熱加圧保持時間を10、20、30、60、90、120min(分)の6ポイントとした。圧力を120MPaとした場合の、加熱温度、加熱加圧保持時間を変化させた場合の、各サンプルの圧縮強度を測定した結果を図2に示す。
【0015】
(圧縮強度測定)
図2に示すように、加熱温度が高くなるほど、総じて圧縮強度が大きくなり、加熱加圧保持時間に関しては、90minで最大値に達した。一方、加熱温度を150℃、加熱加圧保持時間を90minとした場合の、印加圧力変化による圧縮強度と密度(嵩密度)の関係を図3に示す。印加圧力が大きくなるほど、圧縮強度が大きくなり、嵩密度も大きくなった。なお、印加圧力240MPaでの密度1800kg/m(1.8g/cm)は水酸化カルシウムの理論密度の約81%であった。
【0016】
(ウォームプレス処理前後のX線解析測定)
図4に示すように、加熱温度を150℃、加熱加圧保持時間を90minとした場合の、印加圧力変化による結晶相の変化を、ウォームプレス処理を行っていない原料粉末と比較した。その結果、印加圧力を増加させても、結晶相は原料粉末と同じ水酸化カルシウムの相のみであることが判った。また、緻密化の様子をSEMにて観察した結果(240MPa印加、原料粉末)を図4に併せて示す。ウォームプレス処理により緻密化が進んでいることが判った。
【0017】
(炭酸化処理)
圧縮強度が57MPa(150℃、240MPa、90min)である試料を、ウォームプレス処理直後に水に浸漬すると崩壊したので、ウォームプレス処理後に炭酸化処理を行い、炭酸化処理条件と圧縮強度との関係について調べた。図5は1気圧、図6は3気圧の炭酸ガス中にサンプルを置き、それぞれ炭酸ガス温度を変えたサンプルと炭酸化処理を行っていないウォームプレス処理直後のサンプルとを比較した。1気圧、3気圧ともに炭酸化処理温度による大きな差異はなく、また炭酸化処理を行っていない試料との差異も小さかった。
また、図5および図6に示す各試料の結晶相をX線回折にて調べた結果を図7図8に示す。炭酸ガス雰囲気が1気圧、3気圧ともに、50℃以上で炭酸化処理した試料の一部に炭酸カルシウムの相が存在することを確認した。また炭酸化処理したサンプルは水に浸漬してもいずれも崩壊することなく形状を維持した。
【0018】
以上の結果より、ウォームプレス処理により、漆喰の密度が大きくなり、ひいては圧縮強度も大きくなるが、その後炭酸化処理を行っても圧縮強度の変化は小さい。しかし、耐水性等を高めるには炭酸化処理が必要である。従って、ウォームプレス処理、その後の炭酸化処理という2段処理することが、高機械強度な漆喰成形体の実用化のために好ましい。
【実施例2】
【0019】
以下、本発明の別の実施例を以下に説明する。
【0020】
本例は、実施例1の原料粉末を、水のみを加えた炭酸カルウシム粉末とし、固化体としたものである。本例において、使用する水は、超純水のみならず、水道水、井戸水、等の水であればよく、原料粉末中の水の比率を10〜15mass%とし、加熱温度を150〜300℃とし、加圧力を120〜240MPaとし、加圧時間を10〜180minとした。
【0021】
まず、上下天板に発熱機構を備えた一軸加圧装置(ウォームプレス装置)を用い、水のみを加えた炭酸カルシウム粉末を金型に詰め、150〜300℃より低い温度で加熱し、同時に120〜240MPaまでの高圧にて加圧することにより、固化助剤(バインダー)を用いることなく、圧縮強度が約40MPaとなる固化体(成形体)を作製できた。
【0022】
その試料の温度と加温加圧の保持時間を変えた場合の圧縮強度を示す図である(圧力:240MPaを一定)。各加熱加圧保持時間(Duration Time)における加熱温度は左から右に向かって、150℃、200℃、225℃、250℃、280℃の順である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の本発明の高機械強度な漆喰成形体は建築用内外装材として利用できるばかりか、構造用セラミックス、例えばセラミックスタイル、として利用でき、さらにはテーブルウェア、家具、食器等としても利用することができる。






図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9