特許第6762005号(P6762005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000002
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000003
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000004
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000005
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000006
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000007
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000008
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000009
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000010
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000011
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000012
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000013
  • 特許6762005-カーボンナノチューブ集合体の製造方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762005
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ集合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20200917BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20200917BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200917BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C01B32/05
   B01J23/745 MZNM
   B82Y40/00
   H01B13/00 503Z
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-229095(P2016-229095)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83741(P2018-83741A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】桜井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】畠 賢治
(72)【発明者】
【氏名】フタバ ドン エヌ.
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−139972(JP,A)
【文献】 特開2003−206117(JP,A)
【文献】 特表2012−506312(JP,A)
【文献】 特開2008−230957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 − 32/991
B01J 23/745
B82Y 40/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を用意し、
前記基材上に、触媒金属を構成する元素を含む化合物からなる触媒原料物質と、還元性ガス発生物質とを含む、触媒前駆体層を設け、
前記触媒前駆体層を不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、還元性ガス発生物質から還元性ガスを発生させ、
前記還元性ガスにより、前記触媒原料物質を還元することにより、微粒子化した触媒金属を形成し、
前記微粒子化された触媒金属に原料ガスを接触させてカーボンナノチューブを成長させる、
カーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項2】
前記還元性ガス発生物質が還元性ガスを発生する温度は、300℃以上900℃未満である、
請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項3】
前記還元性ガス発生物質が、前記触媒前駆体層中に2重量パーセント以上存在する、
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項4】
前記還元性ガス発生物質は、有機化合物である、
請求項1乃至3のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物は、
前記触媒金属を構成する金属元素に配位する部位を2箇所以上有する、高分子有機化合物又は低分子有機化合物である、
請求項4に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項6】
前記有機化合物は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びこれらの誘導体並びにエチレンジアミン、ビピリジン、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、クラウンエーテル、ポルフィリン及びこれらの誘導体の少なくとも1つ以上を含む、
請求項4に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒前駆体層は、厚さ10nm以上、を備える、
請求項1乃至6のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項8】
前記微粒子化された前記触媒金属は、平均サイズが1nm以上10nm以下であって、個数密度が1×1010個/cm2以上を備える、
請求項1乃至7のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項9】
前記触媒前駆体層は、
触媒原料物質および還元性ガス発生物質を溶解させた溶液を、前記基材上に塗布し、前記基材を乾燥させることによって設けられる、
請求項1乃至8のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項10】
前記触媒金属は、鉄、コバルト、ニッケルの少なくとも1つ以上の元素を含む金属である、
請求項1乃至9のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項11】
前記基材は、
前記基材の表面の少なくとも一部に、金属酸化物を含む触媒下地層を有する、
請求項1乃至10のいずれか一に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ集合体の製造方法に関する。特に、短時間かつ効率的に、高活性を発現する触媒微粒子を基材上に高密度に調整する方法を用いた、カーボンナノチューブ集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料、及び生体関連材料などの機能性新素材へのカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する)の展開が期待されており、その用途、品質、及び量産性などに対する検討が精力的に進められている。
【0003】
CNTの製造方法の一つに、化学気相成長法(以下、CVD法とも称する)が知られている(特許文献1などを参照されたい)。この方法は、約500℃以上1200℃以下の高温雰囲気下で炭素化合物などの原料ガスを触媒微粒子と接触させることを特徴としており、触媒の種類や配置、あるいは原料ガスの種類や、還元性ガス、雰囲気ガス、合成炉や反応条件といった態様を様々に変化させた中でのCNTの製造が可能であり、CNTの大量生産に適したものとして注目されている。またこのCVD法は、単層CNTと多層CNTのいずれも製造可能である上、触媒を担持した基材を用いることで、基材面に多数のCNTが垂直に配向したCNT集合体を製造することができる、という利点を備えている。
【0004】
CNTのなかでも単層CNTは、電気的特性(極めて高い電流密度)、熱的特性(ダイアモンドに匹敵する熱伝導度)、光学特性(光通信帯波長域での発光)、水素貯蔵能、及び金属触媒担持能などの各種特性に優れている上、半導体と金属との両特性を備えているため、電子デバイス、蓄電デバイスの電極、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部材、及び機能性複合材料のフィラーなどの材料として注目されている。
【0005】
また、金属不純物が少なく、800m2/g以上の高い比表面積を有する垂直配向したCNT集合体は、触媒の担持体やエネルギー・物質貯蔵材として有効であり、スーパーキャパシタやアクチュエータなどの用途に好適である。
【0006】
このような垂直配向したCNT集合体が創製されれば、CNTの応用分野が飛躍的に拡大するものと予測されるが、実用化を推進するためには、垂直配向したCNT集合体の量産性を向上させることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−171108号公報
【特許文献2】特開2010−248073号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Shunsuke Sakurai et al, Role of Subsurface Diffusion and Ostwald Ripening in Catalyst Formation for Single-Walled Carbon Nanotube Forest Growth, J. Am. Chem. Soc., 2012, vol.134, P.2148-2153
【非特許文献2】Don N Futaba et al,84% Catalyst Activity of Water-Assisted Growth of Single Walled Carbon Nanotube Forest Characterization by a Statistical and Macroscopic Approach, J. Phys. Chem. B, 2006, 110 (15), p.8035-8038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CVD法において、CNT集合体、特に単層CNT集合体を高効率で合成するためには、微細かつ高活性を発現する触媒微粒子を、基材上に高密度に配置する必要がある。特許文献2など従来の化学気相成長法では、上記触媒微粒子を調整するために、フォーメーション工程と呼ばれる以下の工程が必要だった。すなわち、還元性ガスをCNT製造装置外部から供給し、上記CNT製造装置内に配置された基材上の触媒金属に接触させるとともに、上記触媒金属及び上記還元性ガスの少なくともいずれか一つを加熱して、上記触媒金属を還元及び微粒子化の少なくともいずれか一つを行う工程が必須であった。このフォーメーション工程後に、不活性ガスにより希釈された原料ガスを触媒微粒子に接触させること(CNT成長工程と呼ばれる)により、CNT集合体を製造することができる。
【0010】
一方で、従来の還元性ガスを必要とするフォーメーション工程には、以下のような問題がある。第一に、フォーメーション工程において大量に供給された還元性ガスが基材周りに残存した状態では、続くCNT成長工程において製造装置内に供給される原料ガス(炭化水素)の分解が抑制される。これによりCNT成長効率が低下してしまう。また、残留水素を速やかに基材周りから排除するために、製造装置内から還元性ガスを高速で排出する必要がある。または特許文献2のように残留水素を速やかに基材周りから排除するために、フォーメーション工程に適した雰囲気にあるチャンバーからCNT成長工程に適した雰囲気を有するチャンバーまで基材を搬送する必要がある。しかしながら、いずれの処理を行う場合も一定の時間が必要となる。これにより、CNTの製造効率が低下するおそれがある。第二に、多くの還元性ガスは可燃性や毒性を有している。したがって、CNTを製造する上でこのようなガスを大量に使う場合、コスト面や安全面からも問題のある工程である。
【0011】
それでもなお、従来技術では、還元性ガスを用いないと、例えば不活性ガス雰囲気中で基材上にある触媒原料物質を加熱するのみでは、高活性を発現する触媒微粒子を、基材上に高密度に配置することはできない。そのため、その後のCNT成長工程でもカーボンナノチューブは合成できないことが知られていた。(非特許文献1)。
【0012】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決するものであって、従来のフォーメーション工程を省いても、なお高効率でカーボンナノチューブを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような従来技術の問題点に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、還元性ガス発生物質を不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、従来技術では必要であった還元性ガス雰囲気下でのフォーメーション工程を用いずに、高活性を発現する触媒微粒子を、基材上に高密度に配置できることを見出した。
【0014】
本発明の一実施形態によると、基材を用意し、基材上に、触媒金属を構成する元素を含む化合物からなる触媒原料物質と、還元性ガス発生物質とを含む、触媒前駆体層を設け、触媒前駆体層を不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、還元性ガス発生物質から還元性ガスを発生させ、還元性ガスにより、触媒原料物質を還元することにより、微粒子化した触媒金属を形成し、微粒子化された触媒金属に原料ガスを接触させてカーボンナノチューブを成長させる、カーボンナノチューブ集合体の製造方法が提供される。
【0015】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、還元性ガス発生物質が還元性ガスを発生する温度は、300℃以上900℃未満であってもよい。
【0016】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、還元性ガス発生物質が、前記触媒前駆体層中に2重量パーセント以上存在してもよい。
【0017】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、還還元性ガス発生物質は、有機化合物であってもよい。
【0018】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、有機化合物は、前記触媒金属を構成する金属元素に配位する部位を2箇所以上有する、高分子有機化合物又は低分子有機化合物であってもよい。
【0019】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、有機化合物は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びこれらの誘導体並びにエチレンジアミン、ビピリジン、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、クラウンエーテル、ポルフィリン及びこれらの誘導体の少なくとも1つ以上を含んでもよい。
【0020】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、触媒前駆体層は、厚さ10nm以上を備えてもよい。
【0021】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、微粒子化された前記触媒金属は、平均サイズが1nm以上10nm以下であって、個数密度が1×1010個/cm2以上を備えてもよい。
【0022】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、触媒前駆体層は、触媒原料物質および還元性ガス発生物質を溶解させた溶液を、前記基材上に塗布し、前記基材を乾燥させることによって設けられてもよい。
【0023】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、触媒金属は、鉄、コバルト、ニッケルの少なくとも1つ以上の元素を含む金属であってもよい。
【0024】
上記カーボンナノチューブ集合体の製造方法において、基材は、該基材表面の少なくとも一部に、金属酸化物を含む触媒下地層を有してもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、従来のフォーメーション工程を省いても、なお高効率でカーボンナノチューブを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るCNT集合体の製造装置の模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るCNT集合体の製造方法を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るCNT集合体の製造方法を示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るCNT集合体の製造方法を示す断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るCNT集合体の製造方法を示す断面図である。
図6】本発明の実施例1により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びSEM観察結果である。
図7】本発明の実施例1により得られたCNT集合体の高倍率SEM観察結果及びAFM観察結果である。
図8】本発明の実施例2により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びAFM観察結果である。
図9】本発明の実施例3により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びAFM観察結果である。
図10】本発明の実施例4により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びAFM観察結果である。
図11】本発明の実施例5により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びAFM観察結果である。
図12】従来例1により得られたCNT集合体のラマンスペクトル及びAFM観察結果である。
図13】比較例1により得られたラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1−1.CNT集合体製造に用いる材料)
以下に、CNT集合体を製造するために各種材料について説明する。
【0028】
[還元性ガス発生物質]
還元性ガス発生物質は、不活性雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウムなど)で加熱される際に、還元性ガスを生成する物質である。還元性ガスには、例えば、水素、一酸化炭素、アンモニア、二窒化酸素(N2O)、二酸化硫黄(SO2)が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
還元性ガス発生物質には、例えば熱分解時に水素ガスを発生する、水素原子を含んだ有機化合物が用いられる。または、還元性ガス発生物質には、高温で水素ガスを放出するマグネシウム及びその合金などが用いられる。
【0030】
上記熱分解温度は、特に限定されないが、300℃以上900℃未満の範囲で適宜設定すればよい。熱分解温度が300℃未満の場合、触媒原料物質と、還元性ガスとの反応が十分に進行しないおそれがある。一方、熱分解温度が900℃以上の場合、基材上に調整された大半の触媒微粒子が、オストワルド熟成などの現象により高速で消失してしまう。そのため、CNT成長に適した、個数密度の高い触媒微粒子を形成するには不適である。
【0031】
還元性ガス発生物質から発生した還元性ガスは、触媒原料物質と効率的に接触することが望ましい。そのため、還元性ガス発生物質は、還元性ガス発生物質から還元性ガスが発生するまで、触媒原料物質触媒金属の凝集を抑える機能を有することが望ましい。故に、還元性ガス発生物質は、触媒金属を構成する金属元素と配位できる部位を2箇所以上有する分子であることが望ましい。具体的には、還元性ガス発生物質には、アルコール基、カルボニル基、エーテル基及び配位部位として機能する官能基を2箇所以上有する有機化合物が用いられる。さらに具体的には、還元性ガス発生物質には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン及びこれらの誘導体並びに多座配位子であるエチレンジアミン、ビピリジン、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、クラウンエーテル、ポルフィリン及びこれらの誘導体が用いられる。
【0032】
なお、触媒原料物質に対する還元性ガス発生物質の量については、特に制限はない。これは、全ての触媒原料物質を、発生した還元性ガスにより完全に還元する必要はないためである。ただし、ある程度の還元性ガス発生物質の量を有することが触媒原料物質の還元及びそれに伴う微粒子化された触媒金属の形成を促進しやすい。したがって、還元性ガス発生物質の量は、触媒前駆体層中に2重量%以上、より望ましくは5重量%以上、さらには50重量%以上存在することが望ましい。
【0033】
上記還元性ガス発生物質は、不活性ガス雰囲気で加熱されることにより、還元性ガスを放出する。触媒前駆体層内で発生したこの還元性ガスは、同じく触媒前駆体層内にある触媒原料物質に直ちに接触することができ、上記触媒原料物質を還元し、微粒子化された触媒金属が形成される。これにより、製造装置外部から還元性ガスを一切供給する必要なく、効率的に触媒微粒子を調整することができる。加えて、還元性ガスは触媒前駆体層内の極めて局所的な領域のみで発生するものであるため、その発生量は従来のフォーメーション工程を用いる製造方法にて供給される量と比べて、大幅に減少させることができる。そのため、発生した還元性ガスを触媒微粒子近傍の雰囲気から直ちに排出し、続くCNT成長工程へと移行することが極めて容易である。また、大量の水素ガスを使用しないため、きわめて安全にCNTを製造することができる。
【0034】
[触媒金属]
触媒金属は、CNT集合体製造に用いられる公知の金属であれば特に制限はないが、特に鉄、コバルト及びニッケルの少なくともいずれか1つを含む金属であることが望ましい。
【0035】
[触媒原料物質]
触媒原料物質は、上記触媒金属の構成元素からなる金属単体だけでなく、金属化合物(塩化物などの金属塩、酸化物、窒化物、硫化物、あるいはアセチルアセテート錯体などの有機金属化合物を含む)の形で存在していても構わない。また、触媒原料物質は、触媒金属を構成する元素以外の金属元素が含まれてもよい。
【0036】
[触媒前駆体層]
触媒前駆体層は、基材及び下地層を少なくとも一部被覆すればよい。ここで、触媒原料物質から基材上に形成される触媒金属の量が1nm程度から10nm程度の金属膜に相当する量となることが望ましい。したがって、触媒前駆体層の厚さは、10nm以上、より望ましくは100nm以上であることが望ましい。
【0037】
また、触媒前駆体層における、触媒原料物質と還元性ガス発生物質との混合状態は、限定されるものではない。すなわち、触媒原料物質が微粒子状や膜状などの形態で、還元性ガス発生物質と分離して存在していても構わない。ただし、還元性ガス発生物質から発生した還元性ガスが効率的に触媒原料物質に接触することが望ましい。そのため、還元性ガス発生物質及び触媒原料物質は分子レベルで混合されていることが望ましい。
【0038】
[原料ガス]
炭素供給源としてCNT集合体の製造に用いる原料ガスは、炭素数2以上、炭素数10以下、さらに好ましくは炭素数5以下の鎖状飽和炭化水素化合物または不飽和炭化水素化合物が用いられる。例えば、原料ガスには、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、エチレン、アセチレンなどが用いられる。
【0039】
[基材]
基材(基板)とは、その表面にCNTを成長させる触媒を担持することのできる部材であり、最低限400℃以上の高温でも形状を維持できるものであれば適宜のものを用いることができる。基材の形態としては、平板等の平面状の形態が、本発明の効果を用いて、大量のCNTを製造するために好ましい。しかしながら、粉末、または線状体の集合体で、平面状をなす基材でもよい。平面状の基材を用いると、原料ガスと触媒賦活物質を触媒に均一に供給しやすいため好ましい。
【0040】
[下地層]
下地層は、基材表面上に形成される膜である。下地層は、触媒微粒子の形状を保持するための下地層としての機能を有する。下地層には、金属酸化物が用いられる。例えば、下地層には、酸化シリコン(SiO2)、アルミナ(Al23)及び酸化マグネシウム(MgO)の少なくともいずれかが用いられる。
【0041】
[製造装置]
本発明に係るカーボンナノチューブ集合体(CNT集合体)の製造方法に用いる製造装置は、化学気相成長(CVD)法によりCNT集合体を成長可能な装置であれば、公知の装置が用いられる。図1にCNT集合体の製造装置100の模式図を示す。
【0042】
製造装置100は、例えば、触媒前駆体層103が形成された基材101(例えばシリコンウエハ)が基材ホルダ105に載置された合成炉110を備える。合成炉110には、第1ガス流路145及び第2ガス流路147が配設される。第1ガス流路145には、第1ガス供給管141を介して原料ガスボンベ161、不活性ガスボンベ163が接続される。また、第2ガス流路147には、第2ガス供給管143を介して、触媒賦活物質ボンベ165が接続される。
【0043】
合成炉110には、第1ガス流路145及び第2ガス流路147から供給されたガスを外部へ排出するガス排出管150が配設される。また、合成炉110には、加熱手段130が配設される。加熱手段130は、図示しない制御手段により制御される。
【0044】
なお、後述する触媒微粒子形成工程およびCNT成長工程に用いる合成炉110は、異なってもよいし、同じ合成炉を用いてもよい。
【0045】
(1−2.CNT集合体製造工程)
以下に、CNT集合体の製造方法を示す。
【0046】
[基材の用意]
まず、図2に示すように、基材101を用意する。例えば、基材101には、シリコンウェハが用いられる。なお、図3に示すように、基材101上には下地層102が形成される。下地層102は、基材101表面の少なくとも一部に設けられればよい。下地層102は、スパッタリング法、CVD法、熱酸化法などにより形成される。例えば、下地層102には、熱酸化法により形成された酸化シリコン膜が用いられる。なお、基材101及び下地層102を含めて基材101と呼んでもよい。
【0047】
[触媒成膜工程]
次に、下地層102上に、触媒原料物質と、還元性ガス発生物質とを含む触媒前駆体層103を形成する。触媒原料物質には、触媒金属を構成する金属元素が含まれる。触媒前駆体層の成膜工程は特に制限はない。触媒前駆体層103は、塗布法や蒸着法などを、選択された触媒原料物質と還元性ガス発生物質の組み合わせによって適時選択してよい。
【0048】
なお、触媒前駆体層103において、触媒原料物質が効率的に還元性ガスと接触するために、触媒原料物質が還元性ガス発生物質と分子レベルで混合していることが望ましい。そのため、触媒成膜工程としては、それぞれ少なくとも一部の触媒原料物質及び還元性ガス発生物質を溶解させた溶液を基材上に塗布する工程と、基材を乾燥させる工程からなることが望ましい。
【0049】
例えば、触媒前駆体層103を塗布法により形成する場合、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、ブレードコート、その他各種塗工技術や印刷技術が用いられる。
【0050】
また、触媒前駆体層103を塗布法による形成する際の乾燥条件についても特に限定するものではない。ただし、乾燥温度は、還元性ガス発生物質の分解や反応が起こる温度以下であることが望ましい。例えば、室温にて真空や大気下で乾燥してもよい。その際、溶液の溶媒が未乾燥のまま一部残存しても良い。
【0051】
また、前述した触媒成膜工程において、上記溶液の溶媒の種類は問わないが、触媒原料物質及び還元性ガス発生物質の溶解度が高い溶媒を選択することが望ましい。例えば、上記溶液の溶媒には水やアルコール類が選ばれる。
【0052】
また、上記溶液内において溶解された触媒原料物質や還元性ガス発生物質は、保管された溶液内及び塗布工程の後の乾燥工程においてそれぞれが分離や凝集しないことが望ましい。そのため、還元性ガス発生物質は、イオン状で溶解された触媒金属を構成する金属元素が配位できる部位を2箇所以上有することが望ましい。また、還元性ガス発生物質は、触媒原料物質の凝集を抑える働きを持つ分子であることが望ましい。これによって触媒金属を構成する金属元素同士が接触することが抑えられ、上記保管された溶液内、ならびに塗布工程の後の乾燥工程における触媒原料物質の凝集が抑えられる。
【0053】
[触媒微粒子形成工程]
次に、触媒前駆体層103が形成された基材101を不活性ガス雰囲気下で加熱する。これにより、触媒前駆体層103に含まれる還元性ガス発生物質から、還元性ガスが発生する。この還元性ガスにより、触媒原料物質が還元される。このとき、図5に示すように、金属状態となった触媒金属元素が微粒子化され、触媒微粒子107が形成される。触媒微粒子107は、CNT集合体の成長用触媒として好適な状態に調整される。本工程においては、必要に応じて触媒賦活物質が添加されてもよい。触媒賦活物質は、酸素もしくは、硫黄などの酸化力を有する物質であり、且つ成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質である。触媒賦活物質には、例えば、水・酸素・オゾン・酸性ガス、及び酸化窒素・一酸化炭素・二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、またはエタノール・メタノール・イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類・酸類・塩類・アミド類・エステル類、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水・酸素・二酸化炭素・一酸化炭素・エーテル類・アルコール類が好ましいが、特に、極めて容易に入手できる水が好適である。また、触媒賦活物質として、炭素を含むものを用いた場合、触媒賦活物質中の炭素が、CNTの原料となりうる。
【0054】
不活性ガスには、ヘリウム・アルゴン・窒素・ネオン・クリプトンなどや、これらの混合ガスが挙げられ、特に窒素・ヘリウム・アルゴン、及びこれらの混合ガスが好適である。なお、不活性ガスに変えて還元性ガスが用いられてもよいし、不活性ガスに還元性ガスが加えられてもよい。
【0055】
また、加熱温度は特に限定されず、CNT成長工程と違っていてもよい。ただし、用いた還元性ガス発生物質の還元性ガス発生開始温度近傍であることが望ましい。高温過ぎると、還元性ガスが一度に大量に発生して直ちに製造装置内で拡散し、効率的に触媒原料物質に接触させることができない。したがって、加熱温度は、300℃以上900℃未満の範囲で適宜設定すればよい。なお、加熱温度は、500℃以上800℃未満であることが望ましい。
【0056】
また、加熱時間は、特に制限ないが、還元性ガス発生物質からの還元性ガス発生が十分に開始してから、完全に終了するまでの間が望ましい。還元性ガス発生物質やその量、また分解温度に依存するが、1秒から10分以内の範囲で適宜設定すればよい。
【0057】
以上により、触媒微粒子形成工程において、適切な触媒原料物質及び還元性ガス発生物質の量や混合状態、ならびに加熱温度と時間が適宜選択される。これにより、基材101に直交する向きに配向したCNT集合体を成長させるのに好適なサイズや個数密度を有する触媒微粒子107が基材101上に形成される。
【0058】
具体的には、生成される触媒微粒子107のサイズは、それぞれ1nm以上10nm以下の範囲にあることが望ましい。より好ましくは、個数密度は1×1010個/cm2以上、より好ましくは3×1010個/cm2以上さらには1×1011個/cm2以上であることが望ましい。個数密度の測定法としては、例えば触媒微粒子形成工程の後で基材をCNT製造装置から取り出し、基材表面を原子力顕微鏡(AFM)で直接測定してもよい。あるいは、次のCNT成長工程で成長したCNT集合体におけるCNTの本数密度を以下のように求め、これが触媒の個数密度と同等であると仮定して評価してもよい。即ちCNTの本数密度は(CNT集合体の重量密度)/(CNTの線密度)となるが、CNT集合体の重量密度はCNT集合体の重量測定と高さ測定を行うことで算出し、またCNT線密度は、非特許文献2に記載されるCNTの直径との比例関係から算出する。CNTの直径は透過型電子顕微鏡(TEM)による直接観察や吸収スペクトルにおける吸収バンドエネルギーから測定される。
【0059】
[CNT成長工程]
次に、基材101が配置された合成炉110に原料ガス(例えばブタンまたはアセチレン)と、雰囲気ガスと、触媒賦活物質(例えば水)を含むガスと、を供給する。雰囲気ガスには、上述した不活性ガスが用いられる。
【0060】
なお、加熱温度は特に限定されない。したがって、加熱温度は、500℃以上900℃未満の範囲で適宜設定すればよい。また、加熱時間は、特に制限ないが、還元性ガス発生物質の分解が十分に開始してから、完全に分解が終了するまでの間が望ましい。還元性ガス発生物質やその量、また分解温度に依存するが、1秒から20分以内の範囲で適宜設定すればよい。
【0061】
一般に触媒のサイズとCNTの直径は相関または一致する。上記CNT成長工程において、ラマン分光分析で幅広い波長範囲に渡ってピークを有するCNT、すなわち、大きく異なる複数の直径を有するCNTが合成される。この複数の直径を有するCNTの集合体をCNT集合体109という。本製造方法において、基材101に被着した触媒前駆体層103から高速にかつ高収量で効率良くCNT集合体109が製造される。
【0062】
上記製造方法により製造されるCNT集合体109は、垂直配向体である。CNT集合体109の高さは、10μm以上であることが望ましい。より好ましくは、50μm以上さらに好ましくは100μm以上であることが望ましい。または、CNT集合体109の層数は、問わないが単層を10%以上含むことが望ましい。より好ましくは、50%以上であることが望ましい。
【0063】
CNT集合体109の生産終了後、第1ガス流路145から不活性ガスのみを流す。これは、合成炉110内に残余する、第1ガスに含まれる原料ガス、第2ガスに含まれる触媒賦活物質、それらの分解物又は合成炉110内に存在する炭素不純物等がCNT集合体109へ付着することを抑制するために行われる。同時に、CNT集合体109、触媒微粒子107、下地層102及び基材101を冷却する。冷却温度は、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下とする。このようにして、CNT集合体109を製造することができる。
【0064】
本発明により、高温下の炉内において、原料ガス及び触媒賦活物質を、触媒微粒子に接触させ、カーボンナノチューブ集合体を成長させる化学気相成長法において、カーボンナノチューブ集合体の製造が容易になる。また、本発明により、短時間で高活性を発現する触媒微粒子107を基材101上に高密度に調整することができ、従来よりも効率的にカーボンナノチューブ集合体の製造が可能となる。さらに、本発明により、カーボンナノチューブ集合体の製造コストが低減される。また、従来の方法では、還元性ガスが高流量で用いられていた。しかしながら、本発明では、還元性ガス発生物質より発生する還元性ガスのみが用いられる。そのため、本発明において発生する還元性ガスの量は、従来の還元性ガスの使用量に比べて非常に少なく、よってカーボンナノチューブ集合体を安全に製造することができる。
【実施例1】
【0065】
[単層CNT集合体の製造及び評価]
以下に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【0066】
まず、基材として、シリコンウェハ上に厚さ500nmの酸化シリコン(SiO2)膜を形成し、さらに厚さ40nmのアルミナ(Al23)膜をスパッタリング法により形成した。次に、触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)、モル濃度70mMのクエン酸及び1重量パーセントのポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液を調製した。次に、SiO2膜及びAl23が形成されたシリコンウェハ上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。膜厚測定により、乾燥後の触媒前駆体層の厚さは約10μmであった。
【0067】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、ヘリウム(He)ガス(流量:500sccm)、550℃の環境下で2分間熱処理を行った。
【0068】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(水分量:約1500ppm、流量:50sccm)及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0069】
実施例1の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。ラマン分光測定には、532nmの励起波長の光を用いた。図6(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図6(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、CNTの品質評価の基準であるG/D比評価を行った。実施例1の方法により製造されたCNT集合体のG/D比は、2.8であった。図6(B)に走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す。図6(B)により、基材から剥離されたCNT集合体の形態を観察した。図7(A)に高倍率のSEM観察結果を示す。図7(A)に示すように、一方向にCNTが配向した集合体であることが示された。
【0070】
また、実施例1の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、1.191mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは589μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図7(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例1の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ3nm、個数密度は5×1011個/cm2であった。
【実施例2】
【0071】
次に、実施例2の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分(例えば、基材及び下地層)については、実施例1の説明を援用する。
【0072】
触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)及び1重量パーセントのポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液を調製した。次に、基材上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。
【0073】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、ヘリウムガス(流量:500sccm)、550℃の環境下で2分間熱処理を行った。
【0074】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0075】
実施例2の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図8(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図8(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、実施例2の方法により製造されたCNTのG/D比は、2.5であった。
【0076】
また、実施例2の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、0.42mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは、467μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図8(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例2の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ4nm、個数密度は2×1011個/cm2であった。
【実施例3】
【0077】
次に、実施例3の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分については、実施例1の説明を援用する。
【0078】
触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)、モル濃度70mMのクエン酸及び1重量パーセントのポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液を調製した。次に、基材上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。
【0079】
次に、触媒微粒子形成工程及びCNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。なお、実施例3では触媒微粒子形成工程及びCNT成長工程が同時に行われた。
【0080】
実施例3の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図9(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図9(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、実施例3の方法により製造されたCNT集合体のG/D比は、1.9であった。
【0081】
また、実施例3の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、1.017mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは、738μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図9(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例2の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ3nm、個数密度は3×1011個/cm2であった。
【実施例4】
【0082】
次に、実施例4の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分については、実施例1の説明を援用する。
【0083】
触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)及びモル濃度700mMのクエン酸を含む水溶液を調製した。次に、基材上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。
【0084】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、ヘリウムガス(流量:500sccm)、550℃の環境下で2分間熱処理を行った。
【0085】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0086】
実施例4の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図10(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図10(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、実施例4の方法により製造されたCNTのG/D比は、2.2であった。
【0087】
また、実施例4の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、0.308mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは、599μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図10(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例2の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ4nm、個数密度は5×1010個/cm2であった。
【実施例5】
【0088】
次に、実施例5の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分については、実施例1の説明を援用する。
【0089】
触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)及び0.1重量パーセントのポリビニルアルコール(PVA)を含む水溶液を調製した。次に、基材上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。
【0090】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、ヘリウムガス(流量:500sccm)、550℃の環境下で2分間熱処理を行った。
【0091】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0092】
実施例5の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図11(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図11(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、実施例5の方法により製造されたCNTのG/D比は、2.1であった。
【0093】
また、実施例5の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、0.246mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは、130μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図11(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例2の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ8nm、個数密度は1×1010個/cm2であった。
【0094】
(従来例1)
次に、従来例1の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分(例えば、基材及び下地層)については、実施例1の説明を援用する。
【0095】
触媒成膜工程において、厚さ1.8nmの鉄をスパッタリング法により形成した。
【0096】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、水素ガス(流量:500sccm)、750℃の環境下で6分間熱処理を行った。なお、この触媒成膜工程および触媒微粒子形成工程は、従来のフォーメーション工程と同様である。
【0097】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0098】
従来例1の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図12(A)に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図12(A)に示すように、G−bandに起因する鋭いピークが確認された。これにより、CNTが製造されていることが確認された。また、従来例1の方法により製造されたCNTのG/D比は、8.0であった。
【0099】
また、従来例1の方法により製造されたCNT集合体の基材面積当たりの収量は、2.208mg/cm2であった。また、CNT集合体の平均高さは、914μmであった。微粒子形成工程の後に合成炉から取り出した基材表面のAFM観察により、形成された触媒微粒子の評価を行った。図12(B)にAFM観察結果を示す。その結果、実施例2の方法により製造された触媒微粒子は平均サイズ2.8nm、個数密度は6×1011個/cm2であった。
【0100】
(比較例1)
次に、比較例1の製造方法を示す。なお、実施例1と同様の部分(例えば、基材及び下地層)については、実施例1の説明を援用する。
【0101】
触媒成膜工程において、モル濃度70mMの塩化鉄(FeCl3)を含む水溶液を調製した。次に、基材上に上記水溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させた。
【0102】
次に、触媒微粒子形成工程において、基材を合成炉に配置して、ヘリウムガス(流量:500sccm)、550℃の環境下で2分間熱処理を行った。
【0103】
次に、CNT成長工程において、アセチレン(流量:10sccm)、触媒賦活物質として水をバブリングさせた窒素ガス(流量50sccm)、及び雰囲気ガスとしてHe(流量:500sccm)を用い、750℃の環境下で10分の成長時間で合成した。
【0104】
比較例1の方法により製造されたCNT集合体について、ラマン分光測定を行った。図13に、測定により得られたラマンスペクトルを示す。図13に示すように、G−bandに起因するピークは確認されなかった。つまり、比較例1に示す製造方法ではCNTが製造されないことがわかった。
【0105】
以上より、触媒前駆体層に還元性ガス発生物質を含むことにより、従来のフォーメーション工程のように還元性ガスを用いなくても、CNT集合体を製造することができることが分かった。つまり、本発明により、短時間で高活性を発現する触媒微粒子を基材上に高密度に形成することができる。これにより、従来よりも効率的にカーボンナノチューブ集合体の製造が可能となる。さらに、本発明により、カーボンナノチューブ集合体の製造コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0106】
100・・・製造装置、101・・・基材、103・・・触媒前駆体層、105・・・基材ホルダ、107・・・触媒微粒子、109・・・CNT集合体、110・・・合成炉、130・・・加熱手段、141・・・第1ガス供給管、143・・・第2ガス供給管、145・・・第1ガス流路、147・・・第2ガス流路、150・・・ガス排出管、161・・・原料ガスボンベ、163・・・不活性ガスボンベ、165・・・触媒賦活物質ボンベ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13