特許第6762070号(P6762070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762070
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】人工組換えロタウイルスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20200917BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 15/46 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20200917BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20200917BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20200917BHJP
   A61K 39/15 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12N15/86 Z
   C12N15/54
   C12N15/46
   C12N7/00
   C12N7/01
   A61P31/14
   A61K39/15
【請求項の数】15
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2018-542604(P2018-542604)
(86)(22)【出願日】2017年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2017034783
(87)【国際公開番号】WO2018062199
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-188881(P2016-188881)
(32)【優先日】2016年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-68323(P2017-68323)
(32)【優先日】2017年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】金井 祐太
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102703475(CN,A)
【文献】 特表2011−504367(JP,A)
【文献】 特開2007−215466(JP,A)
【文献】 特表2013−507952(JP,A)
【文献】 KOMOTO S, et al.,Proc. Natl. Acad. Sci USA,2006年,Vol.103, No.12,p.4646-4651
【文献】 BARRO M, et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2005年,Vol.102, No.11,p.4114-4119
【文献】 BROWN C W, et al.,Journal of Virology,2009年,Vol.83, No.2,p.552-561
【文献】 TRASK S D, et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2010年,Vol.107, No.43,p.18652-18657
【文献】 KANAI Y, et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2017年 2月28日,Vol.114, No.9,p.2349-2354
【文献】 KOBAYASHI T, et al.,Virology,2010年,Vol.398,p.194-200,第195頁第2段落, Fig.1,3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00−39/44,A61P1/00−43/00,
C12N7/00−7/08,15/00−15/90
CAPlus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN),
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法であって、
(1)FASTタンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入する工程、
(2)ウイルスの全分節RNAゲノムに対応する発現カセットのセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された全分節RNAゲノムに対応する一本鎖RNAのセットを宿主細胞に導入する工程、および
(3)宿主細胞を培養する工程
を含むことを特徴とする作製方法。
【請求項2】
工程(1)において、さらにキャッピング酵素発現ベクターを宿主細胞に導入する請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
人工組換えウイルスが、分節RNAゲノムの少なくとも1つに変異が導入されていること、および/または、分節RNAゲノムの少なくとも1つに外来遺伝子が組み込まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の作製方法。
【請求項4】
FASTタンパク質が、ネルソンベイレオウイルスのp10、トリレオウイルスのp10、ブルームウイルスのp13、爬虫類レオウイルスのp14、ヒヒレオウイルスのp15、ソウギョレオウイルスのp16およびタイセイヨウサケレオウイルスのp22から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の作製方法。
【請求項5】
キャッピング酵素が、宿主細胞の細胞質内で複製するDNAウイルスまたはRNAウイルスのキャッピング酵素である請求項1〜4のいずれかに記載の作製方法。
【請求項6】
分節RNAゲノムの発現カセットが、RNAポリメラーゼプロモーター、ウイルス分節RNAゲノムをコードするDNAおよび自己切断作用を有するリボザイムをコードするDNAを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の作製方法。
【請求項7】
RNAポリメラーゼプロモーターがT7プロモーターであり、宿主細胞が組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞であることを特徴とする請求項6に記載の作製方法。
【請求項8】
リボザイムが、D型肝炎ウイルスリボザイムである請求項6または7に記載の作製方法。
【請求項9】
宿主細胞とウイルス高感受性細胞を共培養することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の作製方法。
【請求項10】
レオウイルス科に属する人工組換えウイルスが、人工組換えロタウイルスである請求項1〜9のいずれかに記載の作製方法。
【請求項11】
宿主細胞にロタウイルスNSP2遺伝子産物および/またはロタウイルスNSP5遺伝子産物を過剰発現させることを特徴とする請求項10に記載の作製方法。
【請求項12】
人工組換えロタウイルスが、外来遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスであり、NSP1をコードする分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクターに代えて、NSP1をコードする分節RNAゲノムの発現カセットのNSP1遺伝子内に外来遺伝子が挿入され、かつ、NSP1遺伝子の100〜1550塩基が欠失している発現カセットを含むベクターを用いることを特徴とする請求項10または11に記載の作製方法。
【請求項13】
FASTタンパク質を発現する宿主細胞にレオウイルス科に属するウイルスを感染させて培養することを特徴とするウイルス複製促進方法。
【請求項14】
レオウイルス科に属するウイルスが、オルソレオウイルス属またはロタウイルス属に属するウイルスである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
FASTタンパク質が、ネルソンベイレオウイルスのp10、トリレオウイルスのp10、ブルームウイルスのp13、爬虫類レオウイルスのp14、ヒヒレオウイルスのp15、ソウギョレオウイルスのp16およびタイセイヨウサケレオウイルスのp22から選択される少なくとも1種である請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法に関するものであり、特に人工組換えロタウイルスの作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レオウイルス科に属するロタウイルスは、乳幼児の下痢症の原因ウイルスとして知られている。ロタウイルスが感染、発症しやすいのは生後6か月から2歳の乳幼児であり、5歳までにほぼ100%が感染する。ロタウイルスに対するワクチンは実用化されており、その予防効果も確認されている。しかし一方で、より安価で防御効果の高い次世代ワクチンの開発研究が進められている。
【0003】
人工的にウイルスを作製できるリバースジェネティクス(RG)系は多くのRNAウイルスで確立されており、ウイルス学的基礎研究、およびウイルスベクターやワクチンベクター開発等の応用研究の発展に大いに貢献している。しかし、10〜12本の分節二本鎖RNAゲノムを有するレオウイルス科におけるRG系は、その分節ゲノムの複雑さから、他のRNAウイルスと比較して開発が遅れている。
【0004】
レオウイルス科において、オルビレオウイルス属ブルータングウイルス、アフリカ馬疫ウイルスでは、ウイルスRNAを細胞に導入することで組換えウイルスを作製できるRNAベースのRG系が開発されている(非特許文献1,2)。オルソレオウイルス属哺乳類オルソレオウイルスでは、完全なcDNAからなるDNAベースのRG系が開発されている(非特許文献3)。ロタウイルス属ロタウイルスでは、ヘルパーウイルスを用いた部分的なDNAベースのRG系が報告されている(非特許文献4,5)。しかし、ヘルパーウイルスを用いるRG系は、ヘルパーウイルスから目的のウイルスを選別する強力な方法が必要であること、限られた分節遺伝子(VP4遺伝子、NSP2遺伝子)にしか変異を導入できないこと、作製効率が低いことが問題である。そこで、ヘルパーウイルスを必要としない、cDNAまたはRNAのみの導入によりロタウイルスを作製できる完全なRG系の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Boyce, M., Celma, C.C., and Roy, P., Development of reverse genetics systems for bluetongue virus: recovery of infectious virus from synthetic RNA transcripts, J Virol 82:8339-8348, 2008.
【非特許文献2】Kaname Y, Celma CC, Kanai Y, Roy P., Recovery of African horse sickness virus from synthetic RNA, J Gen Virol 94:2259-2265, 2013.
【非特許文献3】Kobayashi, T, Antar, AAR, Boehme, KW, Danthi, P, Eby, EA, Guglielmi, KM, Holm, GH, Johnson, EM, Maginnis, MS, Naik, S, Skelton, WB, Wetzel, JD, Wilson, GJ, Chappell, JD, and Dermody, TS, A plasmid-based reverse genetics system for animal double-stranded RNA viruses. Cell Host Microbe 1:147-157, 2007.
【非特許文献4】Komoto, S, Sasaki, J, and Taniguchi, K, Reverse genetics system for introduction of site-specific mutations into the double-stranded RNA genome of infectious rotavirus. Proc Natl Acad Sci USA 103:4646- 4651, 2006.
【非特許文献5】Trask SD, Taraporewala ZE, Boehme TS, Dermody TS, Patton JT, Dual selection mechanisms drive efficient single-gene reverse genetics for rotavirus. Proc Natl Acad Sci USA 107:18652-18657 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レオウイルス科に属するウイルスのリバースジェネティクス系を改良し、従来法よりウイルス作製効率が向上したレオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法を提供することを課題とする。また、ヘルパーウイルスを必要としない人工組換えロタウイルスの作製方法を提供することを課題とする。さらに、ウイルス分節ゲノムに変異を導入したワクチン候補の人工組換えロタウイルスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]レオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法であって、
(1)FASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクターを宿主細胞に導入する工程、
(2)ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットを宿主細胞に導入する工程、および
(3)宿主細胞を培養する工程
を含むことを特徴とする作製方法。
[2]人工組換えウイルスが、分節RNAゲノムの少なくとも1つに変異が導入されていること、および/または、分節RNAゲノムの少なくとも1つに外来遺伝子が組み込まれていることを特徴とする前記[1]に記載の作製方法。
[3]FASTタンパク質が、ネルソンベイレオウイルスのp10、トリレオウイルスのp10、ブルームウイルスのp13、爬虫類レオウイルスのp14、ヒヒレオウイルスのp15、ソウギョレオウイルスのp16およびタイセイヨウサケレオウイルスのp22から選択される少なくとも1種である前記[1]または[2]に記載の作製方法。
[4]キャッピング酵素が、宿主細胞の細胞質内で複製するDNAウイルスまたはRNAウイルスのキャッピング酵素である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の作製方法。
[4−1]キャッピング酵素が、ポックスウイルス科に属するウイルスのキャッピング酵素である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の作製方法。
[5]分節RNAゲノムの発現カセットが、RNAポリメラーゼプロモーター、ウイルス分節RNAゲノムをコードするDNAおよび自己切断作用を有するリボザイムをコードするDNAを含むことを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の作製方法。
[6]RNAポリメラーゼプロモーターがT7プロモーターであり、宿主細胞が組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞であることを特徴とする前記[5]に記載の作製方法。
[7]リボザイムが、D型肝炎ウイルスリボザイムである前記[5]または[6]に記載の作製方法。
[8]宿主細胞とウイルス高感受性細胞を共培養することを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の作製方法。
[9]レオウイルス科に属する人工組換えウイルスが、人工組換えロタウイルスである前記[1]〜[8]のいずれかに記載の作製方法。
[10]宿主細胞にロタウイルスNSP2遺伝子産物および/またはロタウイルスNSP5遺伝子産物を過剰発現させることを特徴とする前記[9]に記載の作製方法。
[11]人工組換えロタウイルスが、外来遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスであり、NSP1をコードする分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクターに代えて、NSP1をコードする分節RNAゲノムの発現カセットのNSP1遺伝子内に外来遺伝子が挿入され、かつ、NSP1遺伝子の100〜1550塩基が欠失している発現カセットを含むベクターを用いることを特徴とする前記[9]または[10]に記載の作製方法。
[12]FASTタンパク質を発現する宿主細胞にウイルスを感染させて培養することを特徴とするウイルス複製促進方法。
[13]FASTタンパク質が、ネルソンベイレオウイルスのp10、トリレオウイルスのp10、ブルームウイルスのp13、爬虫類レオウイルスのp14、ヒヒレオウイルスのp15、ソウギョレオウイルスのp16およびタイセイヨウサケレオウイルスのp22から選択される少なくとも1種である前記[12]に記載の方法。
[14]NSP1、NSP3およびNSP4から選択される少なくとも1つの機能を抑制する変異が導入されていることを特徴とする人工組換えロタウイルス。
[15]外来遺伝子を発現することを特徴とする人工組換えロタウイルス。
[16]リアソータントであることを特徴とする人工組換えロタウイルス。
[17]前記[14]〜[16]のいずれかに記載の人工組換えロタウイルスを含有するワクチン。
[18]FASTタンパク質およびキャッピング酵素を発現しない宿主細胞に、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された11個の一本鎖RNAのセットを導入し、培養することを特徴とする人工組換えロタウイルスの作製方法。
[19]宿主細胞にロタウイルスNSP2遺伝子産物および/またはロタウイルスNSP5遺伝子産物を過剰発現させて培養することを特徴とする前記[18]に記載の作製方法。
[20]レオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法であって、ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットが導入された宿主細胞に、ウイルス感染細胞内のウイルス封入体形成に関与する遺伝子産物を過剰発現させて培養することを特徴とする作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来のリバースジェネティクス系より人工組換えウイルスの作製効率が向上したレオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法を提供することができる。また、従来実現していなかったヘルパーウイルスを必要としない人工組換えロタウイルスの作製方法を提供することができる。さらに、ウイルス分節ゲノムに変異を導入したワクチン候補の人工組換えロタウイルスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】哺乳類オルソレオウイルスのリバースジェネティクス系において、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を宿主細胞で共発現させることによる人工組換えウイルス作製効率の向上を検討した結果を示す図である。
図2】人工組換えロタウイルスの作製に用いたマーカー変異導入プラスミドの変異導入部位を示す図である。
図3】ロタウイルスのリバースジェネティクス系で作製されたウイルスが、マーカー変異を有することを確認した結果を示す図である。
図4】野生型NSP1遺伝子および欠失変異を有するNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図5】野生型人工組換えウイルスとNSP1遺伝子に欠失変異を有する人工組換えウイルスの各分節ゲノムRNAをSDS−PAGEで分析した結果を示す図である。
図6】野生型NSP1遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子を挿入したNSP1遺伝子の構造を示す図である。
図7】ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスのプラークアッセイの結果(左)と、プラークの発光を確認した結果(右)を示す図である。
図8】哺乳類オルソレオウイルス(MRV)またはロタウイルス(RV)の複製能が、FASTタンパク質発現ベクターを導入した宿主細胞を用いることにより増強されることを確認した結果を示す図である。
図9】p3E5プラスミドの構造を示す図である。
図10】pCAGGSプラスミドの構造を示す図である。
図11】ヒトロタウイルスのNSP4分節RNAゲノムを有する人工組換えサルロタウイルスの各分節ゲノムRNA、野生型ヒトロタウイルスの各分節ゲノムRNA、および野生型サルロタウイルスの各分節ゲノムRNAをSDS−PAGEで分析した結果を示す図である。
図12】ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスを用いて、抗ロタウイルス薬リバビリンによるウイルス増殖抑制効果を発光強度で評価した結果を示す図である。
図13】NPS4変異を有する人工組換えロタウイルスと野生型人工組換えロタウイルスの複製能を比較した結果を示す図である。
図14】ZsGreen遺伝子を挿入したNSP1遺伝子の構造を示す図であり、1段目は塩基の欠失がないNSP1遺伝子、2〜4段目は一部の塩基を欠失させたNSP1遺伝子を用いている。
図15図14に示した4種類のZsGreen遺伝子挿入NSP1遺伝子を含む分節ゲノム発現ベクターを用いてZsGreen発現人工組換えロタウイルスを作製し、ウイルス継代後のZsGreen遺伝子の保持率(ZsGreen発現率)を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔人工組換えウイルスの作製方法〕
本発明は、レオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法(以下、「本発明の作製方法」と記す)を提供する。本発明の作製方法は、以下の工程(1)、(2)および(3)を含むものであればよい。
(1)FASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクターを宿主細胞に導入する工程
(2)ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットを宿主細胞に導入する工程
(3)宿主細胞を培養する工程
【0011】
レオウイルス科に属するウイルスは、10〜12本に分節した直鎖二本鎖RNAをゲノムに持つウイルスであり、そのビリオンは直径60〜80nmの正二十面体構造を示す。レオウイルス科に属するウイルスには、哺乳類オルソレオウイルス、ネルソンベイレオウイルス、トリレオウイルス等のオルソレオウイルス属(Genus Orthoreovirus)、アフリカ馬疫ウイルス、ブルータングウイルス等のオルビウイルス属(Genus Orbivirus)、ロタウイルス等のロタウイルス属(Genus Rotavirus)、コロラドダニ熱ウイルス等のコルチウイルス属(Genus Coltivirus)、アクアレオウイルスA等のアクアレオウイルス属(Genus Aquareovirus)、細胞質多角体病ウイルス等のサイポウイルス属(Genus Cypovirus)、イネ南方黒すじ萎縮病ウイルス等のフィジウイルス属(Genus Fijivirus)、イネ萎縮病ウイルス等のフィトレオウイルス属(Genus Phytoreovirus)およびイネラギッドスタントウイルス(Rice ragged stunt virus)等のオリザウイルス属(Genus Oryzavirus)が含まれる。なかでも、本発明の作製方法は、哺乳類オルソレオウイルスおよびロタウイルスの人工組換えウイルスに適用することが好ましい。
【0012】
ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットは、ウイルス分節ゲノムである二本鎖RNAの鋳型となる一本鎖プラス鎖RNA(ウイルスmRNA)を発現可能な構造を有するものであれば特に限定されない。好ましい発現カセットとしては、例えば上流から順にRNAポリメラーゼプロモーター、分節RNAゲノムをコードするDNA(分節RNAゲノムのcDNA)および自己切断作用を有するリボザイムをコードするDNAから構成される発現カセットが挙げられる。RNAポリメラーゼプロモーターがT7プロモーターの場合は、T7ターミネーター配列が発現カセットに含まれる。RNAポリメラーゼプロモーターがポリメラーゼI由来プロモーターの場合は、そのプロモーターに対応するターミネーター配列が発現カセットに含まれる。ポリメラーゼII由来のプロモーターの場合は、ポリアデニレーションシグナル配列が発現カセットに含まれる。
【0013】
ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットは、RNAポリメラーゼプロモーターと分節RNAゲノムをコードするDNA(分節RNAゲノムのcDNA)のみから構成されていてもよい。このような発現カセットを含むベクターにおいて、分節RNAゲノムをコードするDNAの3’末端を、例えば制限酵素で切断することにより、直鎖状ベクターの切断パターンがウイルスゲノム3’末端のみをコードし、ベクター由来の配列が転写されない構造を有する状態で使用することができる。
【0014】
分節RNAゲノムのcDNAは、ウイルスからRNAを抽出し、得られた二本鎖RNAを鋳型とするRT−PCRにより取得することができる。プライマーセットは、目的の分節RNAゲノムの塩基配列に基づいて特異的なプライマーセットを設計することができる。ウイルスの分節RNAゲノムの塩基配列は、公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。また、市販のシークエンサーを用いて公知の方法により、ウイルスの分節RNAゲノムの塩基配列を決定してもよい。
【0015】
RNAポリメラーゼプロモーターとしては、T7プロモーター、ポリメラーゼI由来プロモーター、ポリメラーゼII由来のCAGプロモーター、CMVプロモーターなどを好適に用いることができる。好ましくはT7プロモーターである。
【0016】
自己切断作用を有するリボザイムは、公知の自己切断作用を有するリボザイムを適宜選択して用いることができる。自己切断作用を有するリボザイムとしては、ハンマーヘッド型リボザイム、ヘアピン型リボザイム、リボヌクレアーゼPのM1サブユニット、D型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム、Varkud satelliteリボザイムなどが挙げられる。好ましくはHDVリボザイムである。
【0017】
分節RNAゲノム発現カセットを挿入するベクターとしては、公知のクローニングベクター、哺乳動物細胞用発現ベクター、各種ウイルスベクター(ワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等)などを好適に用いることができる。
【0018】
1つのベクターに、1つの分節RNAゲノム発現カセットが含まれている場合、ウイルスの分節数と同数のベクターが1セットになる。2つ以上の分節RNAゲノム発現カセットが1つのベクターに含まれているポリシストロニックベクターを使用してもよい。1つのベクターに含まれる分節RNAゲノム発現カセットの数は限定されず、1つのベクターに全分節の発現カセットが含まれてもよい。人工組換えウイルスの作製効率の観点から、ベクター数は少ない方が好ましい。
【0019】
宿主細胞に導入するための一本鎖RNAはプラス鎖RNAであり、分節RNAゲノムの発現カセットからインビトロ転写することにより取得することができる。インビトロ転写は、例えば市販の試薬(例えば、in vitro Transcription T7 Kit(タカラバイオ)等)を用いて行うことができる。使用するRNAはインビトロ転写後、キャップアナログ(例えば、Ribo m7G Cap Analog(プロメガ)等)を用いてキャッピングすることが望ましい。一本鎖RNAのセットは、ウイルスの分節数と同数である。
【0020】
FAST(fusion-associated small transmembrane)タンパク質としては、レオウイルス科オルソレオウイルス属の膜融合性(Fusogenic)レオウイルスグループに属する既知のウイルスおよび今後新規に分離されるウイルスのFASTタンパク質を使用することができる。具体的には、例えばネルソンベイレオウイルス(Nelson Bay reovirus)のp10(GenBank ACCESSION: BAJ52806)、トリレオウイルス(Avian reovirus)のp10(GenBank ACCESSION: AGO32037)、ブルームウイルス(Broome reovirus)のp13(GenBank ACCESSION: YP_003717780)、爬虫類レオウイルス(Reptilian reovirus)のp14(GenBank ACCESSION: AAP03134)、ヒヒレオウイルス(Baboon reovirus)のp15(GenBank ACCESSION: YP_004769555)、ソウギョレオウイルス(Grass carp reovirus)のp16(GenBank ACCESSION: ABV01045)、タイセイヨウサケレオウイルス(Atlantic salmon reovirus)のp22(GenBank ACCESSION: ACN38055)などが挙げられる。好ましくはネルソンベイレオウイルスのp10またはトリレオウイルスのp10である。
【0021】
FASTタンパク質発現ベクターは、例えばpCAGGSプラスミド(図10参照)のような公知の哺乳動物細胞用発現ベクターや公知のウイルスベクターに、上記FASTタンパク質をコードする遺伝子を挿入することにより、作製することができる。FASTタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、ウイルスゲノムの塩基配列情報から取得することができる。ウイルスゲノムの塩基配列情報は公知のデータベース(GenBank等)に登録されているものを使用することができる。ネルソンベイレオウイルスのp10をコードする遺伝子の塩基配列として、例えば配列番号26の塩基配列を使用することができ、トリレオウイルス(Avian reovirus)のp10をコードする遺伝子の塩基配列として、例えば配列番号27の塩基配列を使用することができる。
【0022】
FASTタンパク質発現ベクターに代えて、FASTタンパク質をコードする一本鎖プラス鎖RNAを用いることができる。FASTタンパク質をコードする一本鎖プラス鎖RNAは、例えばFASTタンパク質発現ベクターからインビトロ転写することにより取得することができる。インビトロ転写は、例えば市販の試薬(例えば、in vitro Transcription T7 Kit(タカラバイオ)等)を用いて行うことができる。使用するRNAはインビトロ転写後、キャップアナログ(例えば、Ribo m7G Cap Analog(プロメガ)等)を用いてキャッピングすることが望ましい。
【0023】
キャッピング酵素としては、細胞質でmRNAのキャッピング反応を触媒できる酵素であれば特に限定されず、宿主細胞の細胞質内で複製するDNAウイルスまたはRNAウイルスのキャッピング酵素を好適に用いることができる。宿主細胞の細胞質内で複製するDNAウイルスのキャッピング酵素としては、例えば、ポックスウイルス科に属するウイルスがコードするキャッピング酵素、アスファウイルス科に属するウイルスがコードするキャッピング酵素などが挙げられる。宿主細胞の細胞質内で複製するRNAウイルスのキャッピング酵素としては、トガウイルス科のウイルスのnsp1タンパク質などが挙げられる。好ましくは、ポックスウイルス科またはアスファウイルス科に属するウイルスがコードするキャッピング酵素である。ポックスウイルス科のウイルスがコードするキャッピング酵素としては、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を好適に用いることができる。アスファウイルス科に属するウイルスがコードするキャッピング酵素としてはアフリカ豚コレラウイルスのNP868Rを好適に用いることができる。ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いる場合、キャッピング酵素ラージサブユニット(GenBank ACCESSION: YP_232988)をコードする遺伝子(D1R)およびスモールサブユニット(GenBank ACCESSION: YP_232999)をコードする遺伝子(D12L)を、例えばpCAGGSプラスミド(図10参照)のような公知の哺乳動物細胞用発現ベクターや公知のウイルスベクターにそれぞれ挿入することにより、キャッピング酵素発現ベクターを作製することができる。ワクシニアウイルスキャッピング酵素のラージサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列として、例えば配列番号29の塩基配列を使用することができ、スモールサブユニットをコードする遺伝子の塩基配列として例えば配列番号30の塩基配列を使用することができる。FASTタンパク質発現カセットとキャッピング酵素サブユニット発現カセットが1つのベクターに含まれているポリシストロニックベクターを使用してもよい。
【0024】
キャッピング酵素発現ベクターに代えて、キャッピング酵素の各サブユニットをコードする一本鎖プラス鎖RNAを用いることができる。キャッピング酵素の各サブユニットをコードする一本鎖プラス鎖RNAは、例えばキャッピング酵素の各サブユニットの発現ベクターからインビトロ転写することにより取得することができる。インビトロ転写は、例えば市販の試薬(例えば、in vitro Transcription T7 Kit(タカラバイオ)等)を用いて行うことができる。使用するRNAはインビトロ転写後、キャップアナログ(例えば、Ribo m7G Cap Analog(プロメガ)等)を用いてキャッピングすることが望ましい。
【0025】
宿主細胞には、レオウイルス科に属するウイルスに対する感受性が高く、かつ遺伝子導入効率が高い細胞を好適に用いることができる。このような細胞として、BHK細胞、MA104細胞、COS7細胞、CV1細胞、Vero細胞、L929細胞、293T細胞A549細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。また、上記各細胞由来の改変細胞(新たにクローニングされた細胞や外来遺伝子を導入した細胞など)も宿主細胞として好適に用いることができる。
【0026】
分節RNAゲノム発現カセットのプロモーターにT7プロモーターを用いる場合、宿主細胞として組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞を使用することができる。組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞は、例えば宿主細胞として使用可能な細胞に、T7RNAポリメラーゼ(GenBank ACCESSION: ADJ00046)をコードする遺伝子が挿入された哺乳動物細胞用発現ベクターをトランスフェクションし、薬剤選択等の手段を用いて組換えT7RNAポリメラーゼを安定発現する細胞を選択することにより、作製することができる。また、例えば宿主細胞として使用可能な細胞に、T7RNAポリメラーゼをコードする遺伝子が挿入された各種ウイルスベクター(ワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等)を感染させて、組換えT7RNAポリメラーゼを一過性、もしくは持続的に発現する細胞を作製することもできる。T7RNAポリメラーゼをコードする遺伝子の塩基配列としては、例えば「T7RNA polymerase vector pGemT7cat」の塩基配列(GenBank ACCESSION: HM049174)の894位〜3545位の塩基配列を使用することができる。また、公知の組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞(例えばBHK/T7-9: Ito, N et al., (2003) Microbiology and immunology 47, 613-617)を使用することができる。
【0027】
工程(1)におけるFASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクターの宿主細胞への導入、工程(2)におけるウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットの宿主細胞への導入は、例えば、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知のトランスフェクション手段を用いて行うことができる。また、市販のトランスフェクション試薬(例えば、TransIT-LT1(商品名、Mirus)等)を用いて行うことができる。
【0028】
本発明の作製方法において、工程(1)と工程(2)を別々に行ってもよく、同時に行ってもよい。工程(1)と工程(2)を別々に行う場合は、工程(1)の後に工程(2)を行ってもよく、工程(2)の後に工程(1)を行ってもよい。好ましくは工程(1)と工程(2)を同時に行うことである。つまり、本発明の方法は、以下の工程(I)および(II)を含むことが好ましい。
(I)FASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクター、ならびに、ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクターまたは該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットを、同時に宿主細胞に導入する工程
(II)宿主細胞を培養する工程
【0029】
FASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクターが導入された宿主細胞は、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を一過性に発現する細胞でもよく、持続的に発現する細胞でもよい。宿主細胞として、上記の組換えT7RNAポリメラーゼ発現細胞を使用する場合は、T7RNAポリメラーゼに加えて、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を持続的に発現する細胞を用いることができる。FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を持続的に発現する細胞は、FASTタンパク質発現ベクターおよび/またはキャッピング酵素発現ベクターを導入し、薬剤選択等の手段を用いてFASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を安定発現する細胞を選択することにより、作製することができる。また、持続発現細胞は、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を常時発現している細胞でもよく、例えばTet on/offシステム等により、発現を制御できる細胞でもよい。また、例えば宿主細胞として使用可能な細胞に、FASTタンパク質をコードする遺伝子および/またはキャッピング酵素をコードする遺伝子が挿入された各種ウイルスベクター(ワクシニアウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等)を感染させて、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を一過性、もしくは持続的に発現する細胞を作製することもできる。
【0030】
トランスフェクションに用いる核酸量は、使用する培養プレートの大きさ、宿主細胞の種類、播種細胞数等に応じて適切な量を選択することが好ましい。例えば、T7RNAポリメラーゼ安定発現BHK細胞を宿主細胞とし、6ウェルプレートに8×10個/ウェルで播種し、翌日にトランスフェクションを行う場合、各分節RNAゲノム発現ベクターのDNA量はそれぞれ0.5〜1.0μgが好ましく、FASTタンパク質発現ベクターのDNA量は0.002〜0.02μgが好ましく、キャッピング酵素発現ベクターのDNA量は0.5〜1.0μgが好ましい。例えば、T7RNAポリメラーゼ安定発現BHK細胞を宿主細胞とし、12ウェルプレートに4×10個/ウェルで播種し、翌日にトランスフェクションを行う場合、各分節RNAゲノム発現ベクターのDNA量はそれぞれ0.25〜0.5μgが好ましく、FASTタンパク質発現ベクターのDNA量は0.0001〜0.01μgが好ましく、キャッピング酵素発現ベクターのDNA量は0.25〜0.5μgが好ましい。
【0031】
宿主細胞の培養には、宿主細胞に適した培地を適宜選択して用いることができる。宿主細胞に細胞変性が観察されれば、人工組換えウイルスが作製されたと判断することができる。細胞変性が確認されたプレートまたはウェルの培地と細胞を回収し、細胞溶解液を調製して、これをウイルス試料とすることができる。また、この細胞溶解液からプラーク法によりウイルスを単離し、多量培養後、ウイルス粒子を精製してウイルス試料としてもよい。ウイルス粒子の精製は、公知の方法(例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離等)により行うことができる。
【0032】
宿主細胞に数日培養した後、細胞変性の有無に関わらず上記のように細胞溶解液を調製し、この細胞溶解液を他の細胞に添加してウイルスを継代してもよい。他の細胞としては、ウイルス高感受性細胞が好ましく、作製しようとするウイルスに対する高感受性細胞がより好ましい。例えば人工組換えロタウイルスを作製する場合は、MA104細胞またはCV1細胞が好ましい。細胞溶解液を添加した他の細胞を培養し、細胞変性が観察されれば、人工組換えウイルスが作製されたと判断することができる。
【0033】
あるいは、宿主細胞に各ベクター等をトランスフェクションした数日後に、宿主細胞の培養プレートまたはウェルに上記のウイルス高感受性細胞を播種し、共培養を行ってもよい。共培養を行う場合、添加する他の細胞の播種細胞数はトランスフェクションに供した細胞の1/5〜1/20程度が好ましい。細胞添加後、トリプシン(例えば、約0.5μg/ml)を添加した無血清培地で約3〜5日程度培養した後、細胞溶解液を調製してウイルス高感受性細胞に添加し継代する。継代したウイルス高感受性細胞を上記のトリプシン添加無血清培地で培養し、細胞変性が観察されれば、人工組換えウイルスが作製されたと判断することができる。細胞変性が確認されたプレートまたはウェルの培地と細胞を回収し、細胞溶解液を調製して、これをウイルス試料とすることができる。また、この細胞溶解液からプラーク法によりウイルスを単離し、多量培養後、ウイルス粒子を精製してウイルス試料としてもよい。ウイルス粒子の精製は、公知の方法(例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離等)により行うことができる。
【0034】
本発明の作製方法において、分節RNAゲノムの少なくとも1つに変異が導入されている人工組換えウイルス、分節RNAゲノムの少なくとも1つに外来遺伝子が組み込まれている人工組換えウイルス、または、分節RNAゲノムの少なくとも1つに変異が導入されかつ分節RNAゲノムの少なくとも1つに外来遺伝子が組み込まれている人工組換えウイルスを作製することができる。このような人工組換えウイルスは、分節RNAゲノムの発現カセットに所望の変異を導入すること、および/または、所望の外来遺伝子を組み込むことにより作製することができる。分節RNAゲノムの発現カセットへの変異導入や外来遺伝子の組み込みは、公知の遺伝子組換え技術を用いて行うことができる。
【0035】
本発明者らは、ロタウイルスのNSP1に欠失変異を導入した自立増殖が可能な人工組換えロタウイルス、NSP3に欠失変異を導入した自立増殖が可能な人工組換えロタウイルスおよびNSP4にアミノ酸置換変異を導入した自立増殖が可能な人工組換えロタウイルスの作製に成功している。また、増殖に必須のウイルスタンパク質遺伝子を一部欠失させ、自立増殖できない人工組換えロタウイルスを作製することができる。すなわち、増殖に必須のウイルスタンパク質遺伝子を一部欠失させ、変異タンパク質を発現するように改変した宿主細胞を用いることにより、自立増殖できない人工組換えウイルスを作製することができる。このようにして作製された人工組換えウイルスは、変異ウイルスタンパク質に対応する正常ウイルスタンパク質を発現する細胞でのみ増殖することができる。したがって、当該人工組換えウイルスは、1回感染型のウイルス様粒子の作製に応用でき、ワクチンとして有用であると考えられる。さらに、既知の強毒化、弱毒化に関与するウイルスタンパク質遺伝子に変異を加えて、弱毒化ワクチン候補の人工組換えウイルスを作製することもできる。
【0036】
また、本発明者らは、ロタウイルスのNSP1遺伝子にルシフェラーゼ遺伝子(Nluc遺伝子)を組み込んで、ルシフェラーゼを発現する人工組換えロタウイルスの作製に成功している。さらに、本発明者らは、ロタウイルスのNSP1遺伝子に緑色蛍光タンパク質遺伝子(ZsGreen遺伝子)を組み込んで、ZsGreenを発現する人工組換えロタウイルスの作製に成功している。外来遺伝子は、ロタウイルスのいずれの分節ゲノムにも組み込むことが可能であると考えられる。外来遺伝子は、Nluc遺伝子(配列番号31)やZsGreen遺伝子(配列番号33)のような500bp以上のサイズの遺伝子に限定されず、短いペプチドをウイルスタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。2以上の外来遺伝子を有する場合、外来遺伝子は異なる2以上の分節ゲノムにそれぞれ1つの外来遺伝子が組み込まれていてもよく、1つの分節ゲノムに2以上の外来遺伝子が組み込まれていてもよい。分節ゲノムの変異と外来遺伝子の組み合わせも特に限定はなく、適宜選択して組み合わせることができる。
【0037】
外来遺伝子発現ベクターとして、外来遺伝子をロタウイルスのNSP1遺伝子に挿入すると共に、NSP1遺伝子の一部を欠失させた分節ゲノム発現カセットを含むベクターを用いることが好ましい。外来遺伝子の挿入位置は特に限定されないが、通常NSP1遺伝子の5’末端(非翻訳領域を含む)の約30塩基〜約200塩基より下流、かつ、NSP1遺伝子の3’末端(非翻訳領域を含む)の約30塩基〜約200塩基より上流の範囲に外来遺伝子の挿入することが好ましい。より好ましくはNSP1遺伝子の5’末端(非翻訳領域を含む)から約80塩基〜約150塩基の範囲、さらに好ましくはNSP1遺伝子の5’末端(非翻訳領域を含む)から約100塩基〜約130塩基の範囲に外来遺伝子を挿入する。NSP1遺伝子の欠失部位は特に限定されないが、外来遺伝子挿入位置より下流であることが好ましい。ただし、NSP1遺伝子の3’末端(非翻訳領域を含む)領域を残すことが好ましく、少なくとも約30塩基以上、約50塩基以上、約100塩基以上、約200塩基以上を残すことが好ましい。欠失させる塩基数は特に限定されず、1550塩基以下、1200塩基以下、1000塩基以下、800塩基以下、700塩基以下、600塩基以下、500塩基以下、400塩基以下であってもよい。また、欠失させる塩基数は、100塩基以上、200塩基以上、300塩基以上であってもよい。このような外来遺伝子発現ベクターを用いることにより、外来遺伝子を長期間安定に保持し、外来遺伝子産物を長期間安定に発現する人工組換えロタウイルスを作製することができる。
【0038】
本発明の作製方法により作製された変異を有する人工組換えウイルスや外来遺伝子を発現するウイルスは、ウイルスタンパク質の機能解析に有用であると共に、ワクチンやワクチンベクターの開発に有用である。また、変異を有する人工組換えウイルスや外来遺伝子を発現するウイルスをワクチンとして使用できると考えられる。
【0039】
本発明の作製方法により人工組換えロタウイルスを作製する場合、宿主細胞にロタウイルスNSP2遺伝子産物および/またはロタウイルスNSP5遺伝子産物を過剰発現させることにより、人工組換えロタウイルスの作製効率を向上させることができる。NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物のどちらか一方を宿主細胞に過剰発現させてもよく、両方を宿主細胞に過剰発現させてもよい。NSP2遺伝子産物とNSP5遺伝子産物の両方を宿主細胞に過剰発現させることが好ましい。
【0040】
NSP2遺伝子産物を発現するベクター(以下、「NSP2発現ベクター」と記す)およびNSP5遺伝子産物を発現するベクター(以下、「NSP5発現ベクター」と記す)を作製し、これらの一方または両方を宿主細胞に導入することにより、宿主細胞にNSP2遺伝子産物および/またはNSP5遺伝子産物を過剰発現させることができる。NSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターは、NSP2遺伝子(GenBank ACCESSION: LC178571、配列番号18)およびNSP5遺伝子(GenBank ACCESSION: LC178574、配列番号21)を、例えばpCAGGSプラスミド(図10参照)のような公知の哺乳動物細胞用発現ベクターや公知のウイルスベクターにそれぞれ挿入することにより作製することができる。
【0041】
NSP2発現ベクターに挿入するNSP2遺伝子およびNSP5発現ベクターに挿入するNSP5遺伝子は、作製しようとする人工組換えロタウイルスと同一株のNSP2遺伝子およびNSP5遺伝子であってもよく、異なる遺伝子型、異なる血清群または異なる動物(ヒト、サル、ウマ、トリ、イヌ、ブタ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ等)のロタウイルスのNSP2遺伝子およびNSP5遺伝子であってもよい。NSP2発現カセット、NSP5発現カセットが1つのベクターに含まれているポリシストロニックベクターを使用してもよい。
【0042】
NSP2発現ベクターに代えて、NSP2をコードする一本鎖プラス鎖RNAを用いることができる。同様に、NSP5発現ベクターに代えて、NSP5をコードする一本鎖プラス鎖RNAを用いることができる。これらの一本鎖プラス鎖RNAは、例えばNSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターからインビトロ転写することにより、それぞれ取得することができる。インビトロ転写は、例えば市販の試薬(例えば、in vitro Transcription T7 Kit(タカラバイオ)等)を用いて行うことができる。使用するRNAはインビトロ転写後、キャップアナログ(例えば、Ribo m7G Cap Analog(プロメガ)等)を用いてキャッピングすることが望ましい。
【0043】
NSP2発現ベクターおよび/またはNSP5発現ベクターを使用せずに、セグメント8(NSP2遺伝子)を発現する分節RNAゲノム発現ベクター(セグメント8発現ベクター)および/またはセグメント11(NSP5遺伝子)を発現する分節RNAゲノム発現ベクター(セグメント11発現ベクター)の宿主細胞への導入量を、他のセグメントを発現する分節RNAゲノム発現ベクターより増量することにより、宿主細胞にNSP2遺伝子産物および/またはNSP5遺伝子産物を過剰発現させることができる。宿主細胞に導入するセグメント8発現ベクターおよび/またはセグメント11発現ベクターのDNA量は、他の分節RNAゲノム発現ベクターより多ければ特に限定されず、他の分節RNAゲノム発現ベクターのDNA量の約1.5倍〜約10倍であってもよく、約2倍〜約5倍であってもよい。ロタウイルスの各分節ゲノム(セグメント)については、実施例2の表2を参照のこと。
【0044】
さらに本発明者らは、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を発現する宿主細胞を使用しなくても、人工組換えロタウイルスを作製できることを確認した(実施例10参照)。すなわち本発明は、FASTタンパク質およびキャッピング酵素を発現しない宿主細胞に、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された11個の一本鎖RNAのセットを導入し、培養することを特徴とする人工組換えロタウイルスの作製方法を提供する。
【0045】
当該作製方法の第一の実施形態は、NSP2発現ベクターおよび/またはNSP5発現ベクターを導入した宿主細胞を用いる方法である。当該作製方法の第二の実施形態は、宿主細胞に、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された11個の一本鎖RNAのセットのみを導入する方法である。第2の実施形態において、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノムの発現カセット中、セグメント8発現ベクターおよび/またはセグメント11発現ベクターの宿主細胞への導入量を、他のセグメントを発現する分節RNAゲノム発現ベクターより増量することが好ましい。宿主細胞に導入するセグメント8発現ベクターおよび/またはセグメント11発現ベクターのDNA量は、他の分節RNAゲノム発現ベクターより多ければ特に限定されず、他の分節RNAゲノム発現ベクターのDNA量の約1.5倍〜約10倍であってもよく、約2倍〜約5倍であってもよい。
【0046】
ロタウイルスのNSP2とNSP5はウイルス感染細胞内にウイルス封入体(Viral inclusion body)を形成し、ウイルス複製の場として機能することが知られている(Hu L, Crawford S, Hyser J, Estes M, and Prasad V (2012): Rotavirus non-structural proteins: Structure and Function Current Opinion in Virology 2(4): 380-388.)。ウイルス封入体は、レオウイルス科に属するウイルスに共通して見られる構造であり、レオウイルス科オルソレオウイルス属(哺乳類オルソレオウイルス、ネルソンベイレオウイルス、トリレオウイルス等)のM3遺伝子にコードされるμNSおよびS3遺伝子またはS4遺伝子にコードされるσNS、レオウイルス科オルビウイルス属(アフリカ馬疫ウイルス、ブルータングウイルス等)のセグメント8にコードされるNS2が同様にウイルス封入体を形成し、ウイルス複製の場として機能することが知られている(Thomas CP, Booth TF, Roy P (1990): Synthesis of bluetongue virus-encoded phosphoprotein and formation of inclusion bodies by recombinant baculovirus in insect cells: it binds the single-stranded RNA species. Journal of General Virology, 71 (Pt 9): 2073-2083.)。そこで、本発明らは、哺乳類オルソレオウイルスの人工組換えウイルス作製の際に、μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターを導入した宿主細胞を用いたところ、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することを確認した(実施例13参照)。
【0047】
したがって、本発明は、ウイルスの各分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクター、または該発現カセットから転写された一本鎖RNAのセットが導入された宿主細胞に、ウイルス感染細胞内のウイルス封入体形成に関与する遺伝子産物を過剰発現させて培養することを特徴とするレオウイルス科に属する人工組換えウイルスの作製方法を提供する。宿主細胞には、FASTタンパク質および/またはキャッピング酵素を発現する宿主細胞を用いてもよく、FASTタンパク質およびキャッピング酵素を発現しない宿主細胞を用いてもよい。ウイルス感染細胞内のウイルス封入体形成に関与する遺伝子産物としては、オルソレオウイルス属ウイルスのM3遺伝子にコードされるμNS、オルソレオウイルス属ウイルスのS3遺伝子またはS4遺伝子にコードされるσNS、オルビウイルス属のセグメント8にコードされるNS2などが挙げられ、これらを単独または組み合わせて用いることができる。
【0048】
ウイルス感染細胞内のウイルス封入体形成に関与する遺伝子産物を過剰発現させるために、該遺伝子発現ベクターを宿主細胞に導入してもよく、該遺伝子をコードする分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクターのDNA量を、他の分節RNAゲノム発現ベクターより増量して宿主細胞に導入してもよい。該遺伝子をコードする分節RNAゲノムの発現カセットを含むベクターのDNA量は、他の分節RNAゲノム発現ベクターのDNA量の約1.5倍〜約10倍であってもよく、約2倍〜約5倍であってもよい。
【0049】
〔人工組換えロタウイルスおよびワクチン〕
本発明は、NSP1、NSP3およびNSP4から選択される少なくとも1つの機能を抑制する変異が導入されている人工組換えロタウイルスを提供する。本発明者らは、ロタウイルスのNSP1のC末端領域の108アミノ酸を欠失した人工組換えロタウイルスの作製に成功している。NSP1のC末端領域は自然免疫の抑制に重要な働きをすることが知られているので(Barro, M., and Patton, J.T. (2005). Rotavirus nonstructural protein 1 subverts innate immune response by inducing degradation of IFN regulatory factor 3. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102, 4114-4119.)この人工組換えロタウイルスは複製能を保持した弱毒ウイルスであり、ワクチンとして有用であると考えられる。さらに本発明者らは、NSP3に欠失変異を有する人工組換えロタウイルスおよびNSP3にアミノ酸置換変異を有する人工組換えロタウイルスを作製し、NSP1、NSP3およびNSP4にそれぞれ変異を有する人工組換えロタウイルスが、野生型人工組換えロタウイルスと比較して増殖が低下していることを確認している。したがって、NSP3およびNSP4にそれぞれ変異を有する人工組換えロタウイルスも複製能を保持した弱毒ウイルスであり、ワクチンとして有用であると考えられる。このようなNSP11、NSP3およびNSP4から選択される少なくとも1つの機能を抑制する変異が導入されている人工組換えロタウイルスを含有するワクチンも本発明に含まれる。
【0050】
本発明は、外来遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスを提供する。外来遺伝子は特に限定されないが、例えば、ワクチン抗原をコードする外来遺伝子を用いることにより、作製された人工組換えロタウイルスをワクチンとして使用することができる。ワクチン抗原としては、例えば経口または粘膜感染症であるノロウイルス抗原、アデノウイルス抗原、A型肝炎抗原、サポウイルス抗原、手足口病ウイルス抗原、エンテロウイルス抗原、HIV抗原、サルモネラ抗原、カンピロバクター抗原、腸炎ビブリオ抗原、大腸菌O157抗原、コレラ抗原、腸チフス抗原、赤痢抗原等が挙げられる。これらのワクチン抗原は、エピトープペプチドであってもよい。異なる外来ワクチン抗原を発現する人工組換えロタウイルスを複数組み合わせて、ワクチンを構成してもよい。
【0051】
外来遺伝子として、異種または異株のロタウイルスの抗原タンパク質(例えばVP4、VP7等)をコードする遺伝子を1つ以上発現させることにより、ロタウイルスの多価ワクチンとして使用可能な人工組換えロタウイルスを提供することができる。抗原タンパク質は、エピトープペプチドであってもよい。
【0052】
レポーター遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスは、ウイルス量を容易に可視化できるので、抗ロタウイルス薬のスクリーニングに利用することができる。レポーター遺伝子は公知のレポーター遺伝子から適宜選択することができる。例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、RFP遺伝子などを好適に選択することができる。
【0053】
本発明は、リアソータントである人工組換えロタウイルスを提供する。ロタウイルスのリアソータントとは、異種または異株のロタウイルス間で分節ゲノムの組換えが生じた新しい遺伝子型構成を持つロタウイルスを意味する。リアソータントは遺伝子再集合体とも称される。本発明の作製方法を用いれば、全てのロタウイルス種間で人工組換えリアソータントロタウイルスのデザイン、作製が可能である。異なるウイルス株同士の遺伝子分節の交換は自然感染においても認められ、ロタウイルスのような分節ゲノムをもつウイルスにとって重要な進化の方法であると考えられている。このような種または株が異なるロタウイルス間のリアソータントは、分節ゲノムの機能解析に有用であると共に、ワクチン候補の人工組換えロタウイルスとして極めて有用である。例えば、血清型が異なるロタウイルスのVP4遺伝子分節ゲノムまたはVP7遺伝子分節ゲノムを含むリアソータントは、二価のロタウイルスワクチンとして使用できる。また、これらを複数混合することにより、多価ロタウイルスワクチンを構成することができる。
【0054】
〔ウイルス複製促進方法〕
本発明は、ウイルス複製促進方法を提供する。本発明のウイルス複製促進方法は、FASTタンパク質を発現する宿主細胞にウイルスを感染させて培養することを特徴とする。感染させるウイルスは特に限定されないが、レオウイルス科に属するウイルスが好ましい。なかでも、哺乳類オルソレオウイルスおよびロタウイルスが好ましい。FASTタンパク質を発現する宿主細胞は、宿主細胞として使用可能な細胞に、FASTタンパク質発現ベクターを導入することにより作製することができる。FASTタンパク質発現ベクターは、上記本発明の作製方法において説明したFASTタンパク質発現ベクターを使用することができる。宿主細胞および宿主細胞への各ベクターの導入方法も、上記本発明の作製方法と同じ方法で行うことができる。FASTタンパク質を発現する宿主細胞は、FASTタンパク質を一過性に発現する細胞でもよく、FASTタンパク質を持続的に発現する細胞でもよい。
【0055】
トランスフェクションに用いる核酸量は、使用する培養プレートの大きさ、宿主細胞の種類、播種細胞数等に応じて適切な量を選択することが好ましい。例えば、Vero細胞を宿主細胞とし、6ウェルプレートに8×10個/ウェルで播種し、翌日にトランスフェクションを行う場合、FASTタンパク質発現ベクターのDNA量は0.002〜0.02μgが好ましい。トランスフェクションに用いるDNA量は、用いるプレートに適した播種細胞数に比例するように適宜変更することができる。
【0056】
宿主細胞へのウイルスの感染は、宿主細胞の培地にウイルス試料を添加することで行うことができる。ウイルス感染量は特に限定されないが、MOI0.1〜0.0001が好ましい。培養期間は特に限定されないが、16〜48時間がより好ましい。
【0057】
本発明のウイルス複製促進方法は、増殖(複製)能が低いウイルスに適用することでウイルスの増殖(複製)を促進することができる。また、高いウイルス力価を有するウイルスストックを作製する際に有用である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1:哺乳類オルソレオウイルスリバースジェネティクス系の改良〕
哺乳類オルソレオウイルス(MRV)はレオウイルス科のモデルウイルスとして解析が進んでおり、プラスミドのみを用いたリバースジェネティクス(RG)系がレオウイルス科で最初に開発された(非特許文献3)。レオウイルス科のRG系の改良を目的に膜融合性(Fusogenic)レオウイルスグループがコードするFASTタンパク質ならびにワクシニアウイルスがコードするキャッピング酵素を用いて人工組換えウイルス作製効率の増強能について検討した。
【0060】
<材料および方法>
(1)ウイルス
哺乳類オルソレオウイルスtype1 Lang株(以下、「MRV T1L株」と記す)を使用した。MRV T1L株はATCCから購入することができる(ATCC VR-230)。MRV T1L株の10個の各分節RNAゲノムの遺伝子名およびGenBank ACCESSIONを表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(2)MRV T1L株の各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製
MRV T1L株の10個の分節RNAゲノム(L1〜3、M1〜3、S1〜4)のcDNAを含むプラスミドは、参考文献1(Kobayashi et al. Virology. 2010 Mar 15;398(2):194-200)に記載の方法に従って作製した。すなわち、ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(各分節RNAゲノムのcDNA)をp3E5EGFP(Watanabe et al., (2004) Journal of virology, 78, 999-1005)にクローニングした。これにより、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された発現カセットを有するプラスミドを得た。得られたプラスミドは、図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に各分節RNAゲノムをコードするcDNAが挿入された構造を有する。
【0063】
次に、L1をクローニングしたプラスミド(pT7-L1T1L)にM2の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L1-M2T1L)を作製した。同様に、L2をクローニングしたプラスミド(pT7-L2 T1L)にM2の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L2-M3T1L)を作製し、L3をクローニングしたプラスミド(pT7-L3 T1L)にS3の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L3-S3T1L)を作製した。さらに、S2をクローニングしたプラスミド(pT7-S2T1L)にS3、S4およびM1の発現カセットをそれぞれ挿入して、テトラシストロニックなプラスミド(pT7-S1-S2-S4-M1T1L)を作製した。
【0064】
(3)FASTタンパク質発現ベクターの作製
FASTタンパク質発現ベクターは、ネルソンベイレオウイルスp10遺伝子(GenBank ACCESSION: AB908284 参照)のタンパク質コード領域DNA(配列番号26)またはトリレオウイルスp10遺伝子(GenBank ACCESSION: AF218358 参照)のタンパク質コード領域DNA(配列番号27)を、図10に示すpCAGGSプラスミド(5699bp、配列番号28、Matsuo et al., 2006, Biochem Biophys Res Commun 340(1): 200-208)に挿入して作製した。各コード領域DNAは、配列番号27の塩基配列および配列番号28の塩基配列に基づいて、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-p10(ネルソンベイレオウイルスp10発現ベクター)およびpCAG-ARVp10(トリレオウイルスp10ベクター)を得た。
【0065】
(4)キャッピング酵素発現ベクターの作製
キャッピング酵素発現ベクターは、ワクシニアウイルスD1R遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の93948位〜96482位、配列番号29)およびワクシニアウイルスD12L遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の107332位〜108195位、配列番号30)を、上記pCAGGSプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、配列番号29の塩基配列および配列番号30の塩基配列に基づいて、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-D1R(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素ラージサブユニット発現ベクター)およびpCAG-D12L(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素スモールサブユニット発現ベクター)を得た。
【0066】
(5)宿主細胞
T7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。BHK-T7/P5細胞は、CAGプロモーターの下流にT7RNAポリメラーゼをコードするDNAを挿入したpCAGGSプラスミドをBHK細胞(Baby Hamster Kidney Cells)にトランスフェクションし、ピューロマイシン含有培地で培養して選択することにより作製した。
【0067】
(6)人工組換えウイルスの作製
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を2×105個/ウェルで24ウェル培養プレートに播種した。分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)各0.4、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10またはpCAG-ARVp10)0.05μg、0.005μgまたは0.0005μg、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)各0.2μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μlのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解したものをウイルス試料としてプラークアッセイに供し、ウイルスタイターを測定した。
【0068】
(7)プラークアッセイ
プラークアッセイは以下の手順で行った。
(a) マウスL929細胞を、1.2×106個/ウェル/2ml MEM培地で6ウェル培養プレートに播種し、一夜培養。
(b) 上記ウイルス試料110μlをゼラチン含有生理食塩水1mlに添加して攪拌し、10倍希釈液を調製。この手順を繰り返して、段階希釈ウイルス試料を調製。
(c) 培地を除去し、各希釈段階のウイルス試料100μl/ウェルを添加(1試料につき2ウェル)。時々攪拌しながら、室温で60分間インキュベーション。
(d) 保温した2×199培地/ager(2%アガロースと2×199培地の等量混合物)3ml/ウェルを添加し、37℃2日間インキュベート。
(e) (d)の2日後に2×199培地/agerを2ml/ウェルで重層し、37℃4日間インキュベート。
(f) (e)の2日後にニュートラルレッド含有2×199培地/agerを2ml/ウェルで重層し、37℃一夜インキュベート。
(g) プラークカウント。
【0069】
<結果>
結果を図1に示した。MRV T1L株の4種の分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)のみを導入した細胞のウイルスタイターと比較して、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10、0.005μg)を共導入した細胞のウイルスタイターは約600倍に増加した。また、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)を共導入した細胞のウイルスタイターは約100倍に増加した。さらに、FASTタンパク質発現ベクターとキャッピング酵素発現ベクターの両方を共導入した細胞のウイルスタイターは約1200倍に増加した。この結果から、FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターの少なくとも一方と、分節RNAゲノム発現ベクターとを宿主細胞に共導入することにより、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することが示された。ただし、宿主細胞に導入するFASTタンパク質発現ベクターのDNA量が0.05μgの場合はウイルスタイターが検出されず、0.0005μgの場合にはウイルスタイターの大幅な増加は認められなかった。したがって、宿主細胞にFASTタンパク質を共発現させる場合は、適切な発現量になるように、導入するFASTタンパク質発現ベクターのDNA量を調整する必要があることが示された。
【0070】
図を示していないが、FASTタンパク質発現ベクターとしてpCAG-ARVp10を用いた場合も、図1と同様の結果が得られた。さらに、本発明者らは、哺乳類オルソレオウイルスtype3 Dearing株(MRV T3D株)の人工組換えウイルスについても、MRV T3D株の分節RNAゲノム発現ベクター(非特許文献3参照)と、FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターの少なくとも一方とを宿主細胞に共導入する実験を行い、MRV T1L株と同様に、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することを確認した。
【0071】
また、本発明者らは、ネルソンベイレオウイルスの人工組換えウイルス作製において、ネルソンベイレオウイルスの分節RNAゲノム発現ベクター以外にキャッピング酵素発現ベクターを宿主細胞に導入すれば、人工組換えネルソンベイレオウイルスの作製効率が大幅に向上することを確認した。なお、ネルソンベイレオウイルスは自身のp10遺伝子によりFASTタンパク質を発現している。
【0072】
〔実施例2:ロタウイルスリバースジェネティクス系の開発〕
<材料および方法>
(1)ウイルス
サルロタウイルスSA11株を使用した。本発明者らは、このウイルス株の11個の各分節RNAゲノムの塩基配列を決定し、登録している。本実験に使用したサルロタウイルスSA11株(以下、「SA11株」と記す)の11個の各分節RNAゲノムの名前およびGenBank ACCESSIONを表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
(2)SA11株の各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製
SA11株の11個の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドを作製した。ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(各分節RNAゲノムのcDNA)を図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に挿入し、各分節RNAゲノムの発現カセットを含むプラスミドを得た。各分節RNAゲノムの発現カセットは、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された構造を有する。作製したプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)を、それぞれpT7-VP1SA11、pT7-VP2SA11、pT7-VP3SA11、pT7-VP4SA11、pT7-VP6SA11、pT7-VP7SA11、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11、pT7-NSP4SA11およびpT7-NSP5SA11と称する。
【0075】
(3)マーカー変異導入プラスミドの作製
KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)を用いて、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11およびpT7-NSP4SA11にマーカー変異を導入した。具体的には、pT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の1053位のTをC、1059位のTをCに変異させ、pT7-NSP2SA11のNSP2遺伝子(配列番号18)の409位のAをT、418位のTをCに変異させ、pT7-NSP3SA11のNSP3遺伝子(配列番号17)の406位のAをG、412位のAをTに変異させ、pT7-NSP4SA11のNSP4遺伝子(配列番号20)の389位のGをA、395位のAをGに変異させた。その結果、NSP1遺伝子(配列番号15)の1049位〜1054位がBamHI認識配列、NSP2遺伝子(配列番号18)の413位〜418位がEcoRV認識配列、NSP3遺伝子(配列番号17)の408位〜413位がEcoRI認識配列、NSP4遺伝子(配列番号20)の393位〜398位がMluI認識配列になったマーカー変異導入プラスミド(それぞれpT7-NSP1SA11 /BamHI、pT7-NSP2SA11 /EcoRV、pT7-NSP3SA11 /EcoRI、pT7-NSP4SA11 /MluIと称する)を作製した(図2参照)。
【0076】
(4)FASTタンパク質発現ベクター
FASTタンパク質発現ベクターには、実施例1で作製したpCAG-p10(ネルソンベイレオウイルスp10発現ベクター)を使用した。
【0077】
(5)キャッピング酵素発現ベクター
キャッピング酵素発現ベクターには、実施例1で作製したpCAG-D1R(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素ラージサブユニット発現ベクター)およびpCAG-D12L(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素スモールサブユニット発現ベクター)を使用した。
【0078】
(6)宿主細胞
宿主細胞には、実施例1と同じT7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。
【0079】
(7)人工組換えウイルスの作製
野生型人工組換えウイルスの作製には、上記(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターを用いた。1個のマーカー変異を有する人工組換えウイルス(rsSA11)の作製には、pT7-NSP4SA11に代えてpT7-NSP4SA11/MluIを用いた。3個のマーカー変異を有する人工組換えウイルス(rsSA11-3)の作製には、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11/BamHIを用い、pT7-NSP2SA11に代えてpT7-NSP2SA11/EcoRVを用い、pT7-NSP3SA11に代えてpT7-NSP3SA11/EcoRIを用いた。
【0080】
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を8×105個/ウェルで6ウェル培養プレートに播種した。11種類の分節RNAゲノム発現ベクター各0.8μg、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10)0.015μg、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)各0.8μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、サルMA104細胞(ATCC CRL-2378.1)に継代した。具体的には、前記細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加した。MA104細胞の培養にはFBS不含DMEM培地を使用した。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えウイルスが作製されたと判断した。本実施例では、野生型SA11、rsSA11およびrsSA11-3のいずれの発現ベクターを導入した細胞にも細胞変性が認められたので、人工組換えロタウイルスの作製に成功したと判断した。
【0081】
(8)マーカー変異の確認
細胞変性が観察されたウェルの培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製した。野生型SA11、rsSA11およびrsSA11-3の細胞溶解液から、Trizol試薬(Thermo Scientific)を用いて、それぞれウイルスゲノムRNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。逆転写酵素には、SuperScript III 逆転写酵素(Thermo Scientific)を用いた。野生型SA11およびrsSA11-3のNSP1の増幅産物、NSP2の増幅産物およびNSP3の増幅産物をそれぞれBamHI、EcoRVおよびEcoRIで処理し、1.2%アガロース電気泳動に供した。野生型SA11およびrsSA11のNSP46の増幅産物をMluIで処理し、1.2%アガロース電気泳動に供した。
【0082】
<結果>
結果を図3に示した。(A)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP1の増幅産物をBamHIで処理した結果、(B)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP2の増幅産物をEcoRVで処理した結果、(C)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP3の増幅産物をEcoRIで処理した結果、(D)が野生型SA11およびrsSA11のNSP46の増幅産物をMluIで処理した結果の電気泳動像である。rsSA11-3およびrsSA11のゲノムRNAにはマーカー変異が導入されており、いずれも対応する制限酵素で切断されることが確認できた。したがって、本ロタウイルスリバースジェネティクス系によって得られたウイルスは、分節RNAゲノム発現ベクター由来の人工組換えロタウイルスであることが明らかになった。
【0083】
〔実施例3:欠失変異を有する人工組換えロタウイルスの作製〕
宿主自然免疫反応の抑制因子であるNSP1の部分的欠失変異を有する人工組換えロタウイルスの作製を試みた。
【0084】
<材料および方法>
(1)欠失変異NSP1遺伝子を有するプラスミドの作製
pT7-NSP1SA11を鋳型として、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)および特異的プライマーを用いて、NSP1遺伝子(配列番号15)の1192位〜1490位の299塩基が欠失した変異NSP1遺伝子(図4参照)を有するプラスミドを作製した。このプラスミド(pT7-NSP1SA11ΔC108と称する)は、NSP1のC末端側108アミノ酸を欠失したNSP1タンパク質を発現する。
【0085】
(2)人工組換えウイルスの作製および変異の確認
欠失変異ロタウイルス(rsSA11/NSP1ΔC108)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11ΔC108を用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。同時に野生型人工組換えウイルスを実施例2と同じ方法で作製した。細胞変性が観察されたMA104細胞のウェルから培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、rsSA11/NSP1ΔC108および野生型SA11の細胞溶解液からそれぞれウイルスゲノムRNAを抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0086】
<結果>
結果を図5に示した。図5から明らかなように、rsSA11/NSP1ΔC108の各ゲノムRNAのバンドは、NSP1以外すべて野生型人工組換えウイルスと同じ位置に確認された。一方NSP1ΔC108のバンドの位置は、野生型のバンドの位置と異なり、NSP1ΔC108のゲノムRNAが野生型より短いことが確認された。NSP1のC末端領域は自然免疫の抑制に重要な領域であることから、本実施例で作製された変異ロタウイルスは、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0087】
〔実施例4:ルシフェラーゼ発現ロタウイルスの作製〕
ロタウイルスをワクチンベクターとして利用する目的で外来遺伝子発現ロタウイルスの作製を試みた。
【0088】
<材料および方法>
(1)ルシフェラーゼ遺伝子挿入NSP1発現プラスミドの作製
ルシフェラーゼ遺伝子として、トゲオキヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来のルシフェラーゼ遺伝子であるNluc遺伝子を用いた。pNL1.1ベクター(プロメガ、GenBank ACCESSION: KM359774、3817 bp)のNlucタンパク質コード領域である815位〜1330位(配列番号31)をPCRで増幅し、増幅産物をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の128位と129位の間に挿入して、ルシフェラーゼ遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Nlucと称する)を作製した(図6参照)。
【0089】
(2)人工組換えウイルスの作製およびルシフェラーゼ発現の確認
ルシフェラーゼ発現ロタウイルスは、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11-Nlucを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。MA104細胞に継代7日後に培地および細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製して、プラークアッセイに供した。プラークアッセイには、CV-1細胞(ATCC CCL-70)を使用した。CV-1細胞の培養には、FBS不含DMEM培地を使用した。MA104細胞の細胞溶解液を10倍段階希釈し、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のCV-1細胞に添加してウイルスを感染させた。60分間インキュベーションした後、培地を除去し、0.8%アガロースゲルおよび0.5μg/mlのトリプシンを含有するDMEM培地を細胞に重層した。ウイルス感染から4日後にプラークの発光を確認した。すなわち、Nano-Glo Luciferase Assay System(商品名、プロメガ)の基質原液をFBS不含DMEM培地で約500倍に希釈して各ウェルに添加し、インビボイメージングシステム(IVIS Spectrum、Xenogen社製)で発光を検出した。続いて、10%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、クリスタルバイオレットで染色してプラークを可視化した。
【0090】
<結果>
結果を図7に示した。左が細胞をクリスタルバイオレットで染色してプラークを観察した画像であり、右は同一ウェルの発光を観察した画像である。プラークの位置と同じ位置が発光していることから、ルシフェラーゼ遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスが作製できたことが示された。この結果はロタウイルスのゲノムに外来遺伝子を挿入できることが実証するものであり、人工組換えロタウイルスはワクチンベクターとして応用可能であると考えられる。なお、自立増殖可能な外来遺伝子発現ウイルスの作製における外来遺伝子挿入部位として、NSP1遺伝子の他に、NSP3遺伝子(Montero H, Arias CF, Lopez S. Rotavirus Nonstructural Protein NSP3 Is Not Required for Viral Protein Synthesis. Journal of Virology. 2006;80(18):9031-9038. doi:10.1128/JVI.00437-06.)も使用可能と考えられる。
【0091】
〔実施例5:FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターのいずれか一方による人工組換えロタウイルスの作製〕
<材料および方法> 実施例2<材料および方法>(2)で作製したサルロタウイルスSA11株の11種類の分節RNAゲノム発現ベクター、実施例1<材料および方法>(3)で作製したFASTタンパク質発現ベクターpCAG-p10、(4)で作製したキャッピング酵素発現ベクターpCAG-D1RおよびpCAG-D12Lを表3に記載の組み合わせで、BHK-T7/P5細胞(実施例1参照)に導入し、人工組換えロタウイルスが作製できるか否かを確認した。具体的には、トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を4×105個/ウェルで12ウェル培養プレートに播種し、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いて各ベクターを表3に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。2日後に、MA104細胞(4×104個/ウェル)を加え3日間培養した。培地および細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製した。この細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加し、7日間培養した。
【0092】
【表3】
【0093】
<結果>
キャッピング酵素発現ベクターのみを共発現させたA群、FASTタンパク質発現ベクターのみを共発現させたB群、キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターの両方を共発現させたC群のいずれの群においても、細胞変性を観察することができた。すなわち、キャッピング酵素発現ベクターおよびFASTタンパク質発現ベクターのいずれか一方のみの共発現で、人工組換えロタウイルスを作製できることが示された。
【0094】
〔実施例6:FASTタンパク質による哺乳類オルソレオウイルス(MRV)、ロタウイルス(RV)複製能の増強〕
<材料および方法>
24ウェルプレートでコンフルエントな状態のVero細胞に、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10)または空ベクター(pCAG empty)を、それぞれ0、0.25、0.5、1、2μgでトランスフェクションした。トランスフェクション試薬には、TransIT-LT1(商品名、Mirus)を用いた。2時間後、培地を新鮮な5%FBS含有DMEMに交換し、MOI 0.001で、哺乳類オルソレオウイルス(MRV T1L株)またはサルロタウイルス(SA11株)を感染させた。37℃で1時間吸着させた後、PBSで細胞を6回洗浄し、MRV感染細胞は5%FBS含有DMEMで、RV感染細胞はFBS不含DMEMで培養した。感染16時間後に培地および細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して調製した細胞溶解液をプラークアッセイに供した。プラークアッセイは、実施例1と同じ方法で行った。
【0095】
<結果>
結果を図8に示した。(A)はMRVの結果、(B)はRVの結果である。MRVでは、pCAG-p10を0.5μg以上トランスフェクションした場合、空ベクター(mock)と比べて複製能が増強した。RVでは、pCAG-p10を1μg以上トランスフェクションした場合、空ベクター(mock)と比べて複製能が増強した。これらの結果から、FASTタンパク質を発現する細胞を宿主細胞とすることにより、ウイルスの複製能が向上することが示された。
【0096】
〔実施例7:サルロタウイルスおよびヒトロタウイルスのモノリアソータントロタウイルスの作製〕
サルロタウイルスを基盤として、NSP4遺伝子分節のみヒトロタウイルスのNSP4遺伝子をもつ人工組換えロタウイルス(SA11/KUNSP4)の作製を試みた。
【0097】
<材料および方法>
(1)ヒトロタウイルス
ヒトロタウイルスKU株(Urasawa, S., Urasawa, T., Taniguchi, K., and Chiba, S. (1984). Serotype determination of human rotavirus isolates and antibody prevalence in pediatric population in Hokkaido, Japan. Archives of virology 81, 1-12.)を使用した。
【0098】
(2)ヒトロタウイルスNSP4遺伝子を有するプラスミドの作製
KU株のNSP4分節RNAゲノム(GenBank ACCESSION: AB022772、配列番号32)のcDNAを含むプラスミドを作製した。ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、ヒトNSP4分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(NSP4分節RNAゲノムのcDNA)を図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に挿入し、NSP4分節RNAゲノムの発現カセットを含むプラスミドを得た。各分節RNAゲノムの発現カセットは、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された構造を有する。作製したプラスミドを、pT7-NSP4KUと称する。
【0099】
(3)人工組換えウイルスの作製および変異の確認
NSP4モノリアソータントロタウイルス(SA11/KUNSP4)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP4SA11に代えてpT7-NSP4KUを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。細胞変性が観察されたMA104細胞のウェルから培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、SA11/KUNSP4からウイルスゲノムRNAを抽出し、野生型SA11株および野生型KU株より抽出したウイルスゲノムRNAとともにSDS-PAGEに供した。
【0100】
<結果>
結果を図11に示した。図11から明らかなように、SA11/KUNSP4の各ゲノムRNAのバンドは、NSP4(図中g10KU)以外すべて野生型SA11株と同じ位置に確認された。一方SA11/KUNSP4のNSP4分節の位置は、野生型KU株のNSP4のバンドと同じ位置に確認された。この結果から、本発明の作製方法を用いれば、様々な動物種由来のロタウイルスの分説ゲノムRNAを自由に組み換えたリアソータントロタウイルスを作製できると考えられた。
【0101】
〔実施例8:ルシフェラーゼ発現ロタウイルスを利用した抗ロタウイルス薬のスクリーニング試験〕
実施例4で作製したルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスを用いて、既知の抗ロタウイルス薬として知られるリバビリン(Smee, D.F., Sidwell, R.W., Clark, S.M., Barnett, B.B., and Spendlove, R.S. (1982). Inhibition of rotaviruses by selected antiviral substances: mechanisms of viral inhibition and in vivo activity. Antimicrobial agents and chemotherapy 21, 66-73.)によるロタウイルス増殖抑制効果の可視化を試みた。
【0102】
<材料および方法>
感染実験前日に、CV-1細胞を1×105個/ウェルで96ウェル培養プレートに播種した。野生型SA11株および実施例4で作製したルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスをMOI 0.001でCV-1細胞に感染させた。37℃で1時間吸着させた後、培養上清を除去し、リバビリン(Sigma Aldrich)を0、1、5、10、50、100または200μMを含むDMEM(FBS不含、0.5μg/mlトリプシン含)を加え、37℃で14時間培養した。培養終了後、Nano-Glo Luciferase Assay System(商品名、プロメガ)の基質原液を培地に添加し、インビボイメージングシステム(IVIS Spectrum、Xenogen社製)で発光を検出した。
【0103】
<結果>
結果を図12に示した。図12から明らかなように、リバビリンを添加したウェルでは、リバビリン濃度に依存して発光強度が減少し、リバビリン濃度50μM以上のウェルでは、発光が観察されなかった。この結果は、ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスを用いることにより、ウイルス増殖量を簡便に可視化できることを示すものである。したがって、ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスは、未知の抗ロタウイルス薬のスクリーニングに有用であると考えられる。
【0104】
〔実施例9:ロタウイルスリバースジェネティクス系の改良(1)〕
実施例2において人工組換えロタウイルスの作製に成功したロタウイルスRG系の改良を目的に、NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物の過剰発現系を用いて人工組換えロタウイルスの作製効率を検討した。
【0105】
<材料および方法>
分節RNAゲノム発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、キャッピング酵素発現ベクターは、実施例2と同じものを使用した。
NSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターは、サルロタウイルスSA11株のNSP2遺伝子(GenBank ACCESSION:LC178571、配列番号18)のタンパク質コード領域DNAおよびNSP5遺伝子(GenBank ACCESSION:LC178574、配列番号21)のタンパク質コード領域DNAを、それぞれ図10に示すpCAGGSプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのEcoRI切断部位に挿入して、pCAG-NSP2、pCAG-NSP5を得た。
宿主細胞には、T7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。BHK-T7/P5細胞は、CAGプロモーターの下流にT7RNAポリメラーゼをコードするDNAを挿入したpCAGGSプラスミドをBHK細胞(Baby Hamster Kidney Cells)にトランスフェクションし、抗生物質含有培地で培養して選択することにより作製した。
【0106】
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を24ウェル培養プレートに播種した(2×105個/ウェル)。分節RNAゲノム発現ベクター(T7-VP1SA11、pT7-VP2SA11、pT7-VP3SA11、pT7-VP4SA11、pT7-VP6SA11、pT7-VP7SA11、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11、pT7-NSP4SA11およびpT7-NSP5SA11)、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-FAST p10)、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)、NSP2発現ベクター(pCAG-NSP2)およびNSP5発現ベクター(pCAG-NSP5)を、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いて、表4に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。
【0107】
【表4】
【0108】
BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100 units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、サルMA104細胞(ATCC CRL-2378.1)に継代した。具体的には、前記細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加した。MA104細胞の培養にはFBS不含DMEM培地を使用した。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えロタウイルスが作製されたと判断した。
【0109】
<結果>
結果を表5に示した。
【表5】
ロタウイルスの11個の分節ゲノム発現プラスミドに加えて、キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターを共発現させたA群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP2発現ベクターを共発現させたB群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP5発現ベクターを共発現させたC群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP2発現ベクター、NSP5発現ベクターを共発現させたD群のすべての群で細胞変性が観察され、人工組換えロタウイルスを作製できることが示された。作製効率は、A群と比較してB群が3倍、C群が等倍、D群が8倍の上昇が認められた。この結果から、NSP2遺伝子産物および/またはNSP5遺伝子産物の過剰発現は作製効率を向上させることが明らかとなった。
【0110】
〔実施例10:ロタウイルスリバースジェネティクス系の改良(2)〕
FASTタンパク質発現ベクター、キャッピング酵素発現ベクターを使用せずにロタウイルスの作製を試みた。
【0111】
<材料および方法>
分節RNAゲノム発現ベクター、NSP2発現ベクター、NSP5発現ベクター、トランスフェクション試薬および宿主細胞は実施例9と同じものを使用した。トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を12ウェル培養プレートに播種した(4×105個/ウェル)。各ベクターを表6に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養およびサルMA104細胞への継代は、実施例9と同様に行った。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えロタウイルスが作製されたと判断した。
【0112】
【表6】
【0113】
<結果>
キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入しなくても、NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物を過剰発現させた場合、人工組換えロタウイルスを作製することができた。NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物を宿主細胞に過剰発現させる手段としては、X群のようにNSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターを別途に導入してもよく、Y群のようにNSP2およびNSP5をコードする分節RNAゲノム発現ベクターの導入DNA量を増加させてもよいことが示された。特にY群は、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノム発現ベクターのみを宿主細胞に導入して培養すれば、人工組換えロタウイルスが作製できることを実証したものである。
【0114】
〔実施例11:NSP4タンパクへの変異導入による人工組換え弱毒化ウイルスの作製〕
NSP4に人工的なアミノ酸変異を導入することによる人工組換え弱毒化ロタウイルスの作製を試みた。
【0115】
<材料および方法>
(1)アミノ酸変異NSP4遺伝子を有するプラスミドの作製
pT7-NSP4SA11(実施例2参照)を鋳型として、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)および特異的プライマーを用いて、NSP4遺伝子(配列番号20)の55位のシトシン(C)をグリシン(G)に置換した変異NSP4遺伝子を有するプラスミドを作製した。このプラスミド(pT7-NSP4SA11-L5Sと称する)は、NSP4タンパクの5番目のロイシン(L)がセリン(S)に置換した変異型NSP4タンパク質を発現する。
【0116】
(2)NSP4変異を有する人工組換えウイルスの作製
NPS4変異を有する人工組換えロタウイルス(rsSA11/NSP4-L5S)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP4SA11-L5Sを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。同時に野生型人工組換えロタウイルス(野生型SA11)を実施例2と同じ方法で作製した。
【0117】
(3)NSP4変異を有する人工組換えロタウイルスの複製能の確認
12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に、rsSA11/NSP4-L5Sもしくは野生型SA11をMOI 0.01で感染させた。37℃で1時間吸着させた後、PBSで細胞を1回洗浄し、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで培養した。感染48時間後に培地および細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して調製した細胞溶解液をプラークアッセイに供した。プラークアッセイは、実施例1と同じ方法で行った。
【0118】
<結果>
結果を図13に示した。rsSA11/NSP4-L5Sの増殖は野生型SA11に比べ8.7倍低下していた(21500000 vs 2450000)。NSP4に人工的な変異を加えることによる弱毒化ロタウイルスの作製はこれまで報告されておらず、本実施例で作製されたNSP4変異ロタウイルスは、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0119】
また、図を示していないが、本発明者らは、実施例3で作製したNSP1欠失変異ロタウイルス(rsSA11/NSP1ΔC108)および別途作製したNSP3欠失変異ロタウイルスについても、野生型ロタウイルスに比べ増殖が低下していることを確認している。したがって、NSP1またはNSP3に人工的な変異を加えて作製した人工組換えロタウイルスも、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0120】
〔実施例12:安定的に緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルスの作製〕
緑色蛍光タンパク質であるZsGreenを発現する組換えロタウイルスの作製を試みた
【0121】
<材料および方法>
(1)緑色蛍光タンパク質遺伝子挿入NSP1発現プラスミドの作製
緑色蛍光タンパク質遺伝子として、ZsGreen(以下ZsGと称する)遺伝子を用いた。pZsGreenベクター(クロンテック)のZsGタンパク質コード領域(配列番号33)をPCRで増幅し、増幅産物をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の111位と112位の間に挿入して、ZsG遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-ZsG-Fullと称する)を作製した。さらにその変異体として、 pT7-NSP1SA11-ZsG-Fullプラスミドを元に、NSP1遺伝子の134-465位、134-855位または134-1243位をそれぞれ欠失したプラスミド(それぞれpT7-NSP1SA11-ZsG-Δ332、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ722、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ1110と称する)を作製した(図14参照)。
【0122】
(2)人工組換えウイルスの作製およびZsG発現の確認
ZsG発現ロタウイルスは、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11-ZsG-Full、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ332、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ722またはpT7-NSP1SA11-ZsG-Δ1110を用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。それぞれのZsG発現プラスミドを用いて作製したウイルスを、それぞれrsSA11/ZsG-Full、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722およびrsSA11/ZsG-Δ1110と称する。作製したウイルスをそれぞれMA104細胞に感染させ、蛍光顕微鏡下で緑色蛍光(ZsG発現)の有無を確認した。
【0123】
(3)ZsG発現ロタウイルスにおけるウイルス継代後のZsG遺伝子の保持率の確認
24ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に、rsSA11/ZsG-Full、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722またはrsSA11/ZsG-Δ1110をMOI 0.0001で感染させ、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで培養した。感染後72時間の培養上清から得られたウイルス株をP1ストックとした。それぞれのウイルスのP1ストックの1μLを、24ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に感染させ、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで72時間培養し、P2ストックを得た。同様にウイルス感染実験を繰返し、P10までのウイルスストックを得た。12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に各ウイルスのP1、P5およびP10ストックをMOI 0.01でそれぞれ感染させ、5%FBS不含DMEMで培養した。感染16時間後に、細胞を10%ホルマリンで24時間固定し、ウイルス抗原を対象とした免疫染色に供した。固定後の細胞はPBSで2回洗浄し、0.1%Triton-X-100で細胞膜を透過させ、ウサギ抗ロタウイルスNSP4抗体および、抗ウサギIgG抗体-Alexa594コンジュゲートを反応させ、ウイルス抗原の検出を試みた。免疫染色後の細胞は、蛍光顕微鏡による観察を行い、ウイルス抗原陽性細胞におけるZsG発現率を測定した。
【0124】
<結果>
結果を図15に示した。rsSA11/ZsG-FullにおけるZsGの発現率は、P1が100%、P5が57.1%、P10が8.6%であり、継代を繰り返すごとにZsGの発現が低下することが明らかとなった。一方、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722、rsSA11/ZsG-Δ1110はいずれも、P1、P5、P10とも99-100%のZsG発現率を示し、NSP1遺伝子を332-1110塩基欠失させることでZsG遺伝子が安定的に保持されることが明らかになった。
【0125】
〔実施例13:哺乳類オルソレオウイルスリバースジェネティクス系の改良〕
ロタウイルスのNSP2およびNSP5と同じ機能を有する哺乳類オルソレオウイルのμNSおよびσNSを共発現させることにより、人工組換え哺乳類オルソレオウイルスの作製効率が向上するか検討した。
【0126】
<材料および方法>
(1)μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターの作製
μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターは、哺乳類オルソレオウイルスT1L株のμNS遺伝子(表1のM3遺伝子、GenBank ACCESSION:AF174382、配列番号6)のタンパク質コード領域DNAおよびσNS遺伝子(表1のS3遺伝子、GenBank ACCESSION:M14325、配列番号9)のタンパク質コード領域DNAを、それぞれ図10に示すpCAGPMプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGPMプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-μNST1L(哺乳類オルソレオウイルスμNS発現ベクター)およびpCAG-σNST1L(哺乳類オルソレオウイルスσNS発現ベクター)を得た。
【0127】
(2)人工組換えウイルスの作製
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を2×105個/ウェルで24ウェル培養プレートに播種した。実施例1で作製した分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)各0.4μg、μNS発現ベクター(pCAG-μNST1L)および/またはσNS発現ベクター(pCAG-σNST1L)各0.4μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μgのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解したものをウイルス試料としてプラークアッセイ(実施例1参照)に供し、ウイルスタイターを測定した。
【0128】
<結果>
MRV T1L株の4種の分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)のみを導入した細胞のウイルスタイターと比較して、μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターを共導入した細胞のウイルスタイターは約8.2倍に増加した。また、μNS発現ベクターのみを共導入した細胞のウイルスタイターは約6.4倍に増加した。この結果から、μNS発現ベクターもしくはμNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターと、分節RNAゲノム発現ベクターとを宿主細胞に共導入することにより、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することが示された。
【0129】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]