【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1:哺乳類オルソレオウイルスリバースジェネティクス系の改良〕
哺乳類オルソレオウイルス(MRV)はレオウイルス科のモデルウイルスとして解析が進んでおり、プラスミドのみを用いたリバースジェネティクス(RG)系がレオウイルス科で最初に開発された(非特許文献3)。レオウイルス科のRG系の改良を目的に膜融合性(Fusogenic)レオウイルスグループがコードするFASTタンパク質ならびにワクシニアウイルスがコードするキャッピング酵素を用いて人工組換えウイルス作製効率の増強能について検討した。
【0060】
<材料および方法>
(1)ウイルス
哺乳類オルソレオウイルスtype1 Lang株(以下、「MRV T1L株」と記す)を使用した。MRV T1L株はATCCから購入することができる(ATCC VR-230)。MRV T1L株の10個の各分節RNAゲノムの遺伝子名およびGenBank ACCESSIONを表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(2)MRV T1L株の各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製
MRV T1L株の10個の分節RNAゲノム(L1〜3、M1〜3、S1〜4)のcDNAを含むプラスミドは、参考文献1(Kobayashi et al. Virology. 2010 Mar 15;398(2):194-200)に記載の方法に従って作製した。すなわち、ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(各分節RNAゲノムのcDNA)をp3E5EGFP(Watanabe et al., (2004) Journal of virology, 78, 999-1005)にクローニングした。これにより、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された発現カセットを有するプラスミドを得た。得られたプラスミドは、
図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に各分節RNAゲノムをコードするcDNAが挿入された構造を有する。
【0063】
次に、L1をクローニングしたプラスミド(pT7-L1T1L)にM2の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L1-M2T1L)を作製した。同様に、L2をクローニングしたプラスミド(pT7-L2 T1L)にM2の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L2-M3T1L)を作製し、L3をクローニングしたプラスミド(pT7-L3 T1L)にS3の発現カセットを挿入して、バイシストロニックなプラスミド(pT7-L3-S3T1L)を作製した。さらに、S2をクローニングしたプラスミド(pT7-S2T1L)にS3、S4およびM1の発現カセットをそれぞれ挿入して、テトラシストロニックなプラスミド(pT7-S1-S2-S4-M1T1L)を作製した。
【0064】
(3)FASTタンパク質発現ベクターの作製
FASTタンパク質発現ベクターは、ネルソンベイレオウイルスp10遺伝子(GenBank ACCESSION: AB908284 参照)のタンパク質コード領域DNA(配列番号26)またはトリレオウイルスp10遺伝子(GenBank ACCESSION: AF218358 参照)のタンパク質コード領域DNA(配列番号27)を、
図10に示すpCAGGSプラスミド(5699bp、配列番号28、Matsuo et al., 2006, Biochem Biophys Res Commun 340(1): 200-208)に挿入して作製した。各コード領域DNAは、配列番号27の塩基配列および配列番号28の塩基配列に基づいて、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-p10(ネルソンベイレオウイルスp10発現ベクター)およびpCAG-ARVp10(トリレオウイルスp10ベクター)を得た。
【0065】
(4)キャッピング酵素発現ベクターの作製
キャッピング酵素発現ベクターは、ワクシニアウイルスD1R遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の93948位〜96482位、配列番号29)およびワクシニアウイルスD12L遺伝子のタンパク質コード領域DNA(GenBank ACCESSION: NC006998の107332位〜108195位、配列番号30)を、上記pCAGGSプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、配列番号29の塩基配列および配列番号30の塩基配列に基づいて、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-D1R(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素ラージサブユニット発現ベクター)およびpCAG-D12L(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素スモールサブユニット発現ベクター)を得た。
【0066】
(5)宿主細胞
T7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。BHK-T7/P5細胞は、CAGプロモーターの下流にT7RNAポリメラーゼをコードするDNAを挿入したpCAGGSプラスミドをBHK細胞(Baby Hamster Kidney Cells)にトランスフェクションし、ピューロマイシン含有培地で培養して選択することにより作製した。
【0067】
(6)人工組換えウイルスの作製
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を2×10
5個/ウェルで24ウェル培養プレートに播種した。分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)各0.4、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10またはpCAG-ARVp10)0.05μg、0.005μgまたは0.0005μg、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)各0.2μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μlのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO
2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解したものをウイルス試料としてプラークアッセイに供し、ウイルスタイターを測定した。
【0068】
(7)プラークアッセイ
プラークアッセイは以下の手順で行った。
(a) マウスL929細胞を、1.2×10
6個/ウェル/2ml MEM培地で6ウェル培養プレートに播種し、一夜培養。
(b) 上記ウイルス試料110μlをゼラチン含有生理食塩水1mlに添加して攪拌し、10倍希釈液を調製。この手順を繰り返して、段階希釈ウイルス試料を調製。
(c) 培地を除去し、各希釈段階のウイルス試料100μl/ウェルを添加(1試料につき2ウェル)。時々攪拌しながら、室温で60分間インキュベーション。
(d) 保温した2×199培地/ager(2%アガロースと2×199培地の等量混合物)3ml/ウェルを添加し、37℃2日間インキュベート。
(e) (d)の2日後に2×199培地/agerを2ml/ウェルで重層し、37℃4日間インキュベート。
(f) (e)の2日後にニュートラルレッド含有2×199培地/agerを2ml/ウェルで重層し、37℃一夜インキュベート。
(g) プラークカウント。
【0069】
<結果>
結果を
図1に示した。MRV T1L株の4種の分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)のみを導入した細胞のウイルスタイターと比較して、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10、0.005μg)を共導入した細胞のウイルスタイターは約600倍に増加した。また、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)を共導入した細胞のウイルスタイターは約100倍に増加した。さらに、FASTタンパク質発現ベクターとキャッピング酵素発現ベクターの両方を共導入した細胞のウイルスタイターは約1200倍に増加した。この結果から、FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターの少なくとも一方と、分節RNAゲノム発現ベクターとを宿主細胞に共導入することにより、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することが示された。ただし、宿主細胞に導入するFASTタンパク質発現ベクターのDNA量が0.05μgの場合はウイルスタイターが検出されず、0.0005μgの場合にはウイルスタイターの大幅な増加は認められなかった。したがって、宿主細胞にFASTタンパク質を共発現させる場合は、適切な発現量になるように、導入するFASTタンパク質発現ベクターのDNA量を調整する必要があることが示された。
【0070】
図を示していないが、FASTタンパク質発現ベクターとしてpCAG-ARVp10を用いた場合も、
図1と同様の結果が得られた。さらに、本発明者らは、哺乳類オルソレオウイルスtype3 Dearing株(MRV T3D株)の人工組換えウイルスについても、MRV T3D株の分節RNAゲノム発現ベクター(非特許文献3参照)と、FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターの少なくとも一方とを宿主細胞に共導入する実験を行い、MRV T1L株と同様に、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することを確認した。
【0071】
また、本発明者らは、ネルソンベイレオウイルスの人工組換えウイルス作製において、ネルソンベイレオウイルスの分節RNAゲノム発現ベクター以外にキャッピング酵素発現ベクターを宿主細胞に導入すれば、人工組換えネルソンベイレオウイルスの作製効率が大幅に向上することを確認した。なお、ネルソンベイレオウイルスは自身のp10遺伝子によりFASTタンパク質を発現している。
【0072】
〔実施例2:ロタウイルスリバースジェネティクス系の開発〕
<材料および方法>
(1)ウイルス
サルロタウイルスSA11株を使用した。本発明者らは、このウイルス株の11個の各分節RNAゲノムの塩基配列を決定し、登録している。本実験に使用したサルロタウイルスSA11株(以下、「SA11株」と記す)の11個の各分節RNAゲノムの名前およびGenBank ACCESSIONを表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
(2)SA11株の各分節RNAゲノム発現カセットを含むプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)の作製
SA11株の11個の分節RNAゲノムのcDNAを含むプラスミドを作製した。ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(各分節RNAゲノムのcDNA)を
図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に挿入し、各分節RNAゲノムの発現カセットを含むプラスミドを得た。各分節RNAゲノムの発現カセットは、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された構造を有する。作製したプラスミド(分節RNAゲノム発現ベクター)を、それぞれpT7-VP1SA11、pT7-VP2SA11、pT7-VP3SA11、pT7-VP4SA11、pT7-VP6SA11、pT7-VP7SA11、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11、pT7-NSP4SA11およびpT7-NSP5SA11と称する。
【0075】
(3)マーカー変異導入プラスミドの作製
KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)を用いて、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11およびpT7-NSP4SA11にマーカー変異を導入した。具体的には、pT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の1053位のTをC、1059位のTをCに変異させ、pT7-NSP2SA11のNSP2遺伝子(配列番号18)の409位のAをT、418位のTをCに変異させ、pT7-NSP3SA11のNSP3遺伝子(配列番号17)の406位のAをG、412位のAをTに変異させ、pT7-NSP4SA11のNSP4遺伝子(配列番号20)の389位のGをA、395位のAをGに変異させた。その結果、NSP1遺伝子(配列番号15)の1049位〜1054位がBamHI認識配列、NSP2遺伝子(配列番号18)の413位〜418位がEcoRV認識配列、NSP3遺伝子(配列番号17)の408位〜413位がEcoRI認識配列、NSP4遺伝子(配列番号20)の393位〜398位がMluI認識配列になったマーカー変異導入プラスミド(それぞれpT7-NSP1SA11 /BamHI、pT7-NSP2SA11 /EcoRV、pT7-NSP3SA11 /EcoRI、pT7-NSP4SA11 /MluIと称する)を作製した(
図2参照)。
【0076】
(4)FASTタンパク質発現ベクター
FASTタンパク質発現ベクターには、実施例1で作製したpCAG-p10(ネルソンベイレオウイルスp10発現ベクター)を使用した。
【0077】
(5)キャッピング酵素発現ベクター
キャッピング酵素発現ベクターには、実施例1で作製したpCAG-D1R(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素ラージサブユニット発現ベクター)およびpCAG-D12L(ワクシニアウイルスmRNAキャッピング酵素スモールサブユニット発現ベクター)を使用した。
【0078】
(6)宿主細胞
宿主細胞には、実施例1と同じT7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。
【0079】
(7)人工組換えウイルスの作製
野生型人工組換えウイルスの作製には、上記(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターを用いた。1個のマーカー変異を有する人工組換えウイルス(rsSA11)の作製には、pT7-NSP4SA11に代えてpT7-NSP4SA11/MluIを用いた。3個のマーカー変異を有する人工組換えウイルス(rsSA11-3)の作製には、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11/BamHIを用い、pT7-NSP2SA11に代えてpT7-NSP2SA11/EcoRVを用い、pT7-NSP3SA11に代えてpT7-NSP3SA11/EcoRIを用いた。
【0080】
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を8×10
5個/ウェルで6ウェル培養プレートに播種した。11種類の分節RNAゲノム発現ベクター各0.8μg、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10)0.015μg、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)各0.8μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO
2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、サルMA104細胞(ATCC CRL-2378.1)に継代した。具体的には、前記細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加した。MA104細胞の培養にはFBS不含DMEM培地を使用した。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えウイルスが作製されたと判断した。本実施例では、野生型SA11、rsSA11およびrsSA11-3のいずれの発現ベクターを導入した細胞にも細胞変性が認められたので、人工組換えロタウイルスの作製に成功したと判断した。
【0081】
(8)マーカー変異の確認
細胞変性が観察されたウェルの培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製した。野生型SA11、rsSA11およびrsSA11-3の細胞溶解液から、Trizol試薬(Thermo Scientific)を用いて、それぞれウイルスゲノムRNAを抽出した。抽出したRNAを鋳型とし、各分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。逆転写酵素には、SuperScript III 逆転写酵素(Thermo Scientific)を用いた。野生型SA11およびrsSA11-3のNSP1の増幅産物、NSP2の増幅産物およびNSP3の増幅産物をそれぞれBamHI、EcoRVおよびEcoRIで処理し、1.2%アガロース電気泳動に供した。野生型SA11およびrsSA11のNSP46の増幅産物をMluIで処理し、1.2%アガロース電気泳動に供した。
【0082】
<結果>
結果を
図3に示した。(A)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP1の増幅産物をBamHIで処理した結果、(B)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP2の増幅産物をEcoRVで処理した結果、(C)が野生型SA11およびrsSA11-3のNSP3の増幅産物をEcoRIで処理した結果、(D)が野生型SA11およびrsSA11のNSP46の増幅産物をMluIで処理した結果の電気泳動像である。rsSA11-3およびrsSA11のゲノムRNAにはマーカー変異が導入されており、いずれも対応する制限酵素で切断されることが確認できた。したがって、本ロタウイルスリバースジェネティクス系によって得られたウイルスは、分節RNAゲノム発現ベクター由来の人工組換えロタウイルスであることが明らかになった。
【0083】
〔実施例3:欠失変異を有する人工組換えロタウイルスの作製〕
宿主自然免疫反応の抑制因子であるNSP1の部分的欠失変異を有する人工組換えロタウイルスの作製を試みた。
【0084】
<材料および方法>
(1)欠失変異NSP1遺伝子を有するプラスミドの作製
pT7-NSP1SA11を鋳型として、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)および特異的プライマーを用いて、NSP1遺伝子(配列番号15)の1192位〜1490位の299塩基が欠失した変異NSP1遺伝子(
図4参照)を有するプラスミドを作製した。このプラスミド(pT7-NSP1SA11ΔC108と称する)は、NSP1のC末端側108アミノ酸を欠失したNSP1タンパク質を発現する。
【0085】
(2)人工組換えウイルスの作製および変異の確認
欠失変異ロタウイルス(rsSA11/NSP1ΔC108)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11ΔC108を用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。同時に野生型人工組換えウイルスを実施例2と同じ方法で作製した。細胞変性が観察されたMA104細胞のウェルから培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、rsSA11/NSP1ΔC108および野生型SA11の細胞溶解液からそれぞれウイルスゲノムRNAを抽出し、SDS-PAGEに供した。
【0086】
<結果>
結果を
図5に示した。
図5から明らかなように、rsSA11/NSP1ΔC108の各ゲノムRNAのバンドは、NSP1以外すべて野生型人工組換えウイルスと同じ位置に確認された。一方NSP1ΔC108のバンドの位置は、野生型のバンドの位置と異なり、NSP1ΔC108のゲノムRNAが野生型より短いことが確認された。NSP1のC末端領域は自然免疫の抑制に重要な領域であることから、本実施例で作製された変異ロタウイルスは、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0087】
〔実施例4:ルシフェラーゼ発現ロタウイルスの作製〕
ロタウイルスをワクチンベクターとして利用する目的で外来遺伝子発現ロタウイルスの作製を試みた。
【0088】
<材料および方法>
(1)ルシフェラーゼ遺伝子挿入NSP1発現プラスミドの作製
ルシフェラーゼ遺伝子として、トゲオキヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)由来のルシフェラーゼ遺伝子であるNluc遺伝子を用いた。pNL1.1ベクター(プロメガ、GenBank ACCESSION: KM359774、3817 bp)のNlucタンパク質コード領域である815位〜1330位(配列番号31)をPCRで増幅し、増幅産物をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の128位と129位の間に挿入して、ルシフェラーゼ遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-Nlucと称する)を作製した(
図6参照)。
【0089】
(2)人工組換えウイルスの作製およびルシフェラーゼ発現の確認
ルシフェラーゼ発現ロタウイルスは、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11-Nlucを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。MA104細胞に継代7日後に培地および細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製して、プラークアッセイに供した。プラークアッセイには、CV-1細胞(ATCC CCL-70)を使用した。CV-1細胞の培養には、FBS不含DMEM培地を使用した。MA104細胞の細胞溶解液を10倍段階希釈し、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のCV-1細胞に添加してウイルスを感染させた。60分間インキュベーションした後、培地を除去し、0.8%アガロースゲルおよび0.5μg/mlのトリプシンを含有するDMEM培地を細胞に重層した。ウイルス感染から4日後にプラークの発光を確認した。すなわち、Nano-Glo Luciferase Assay System(商品名、プロメガ)の基質原液をFBS不含DMEM培地で約500倍に希釈して各ウェルに添加し、インビボイメージングシステム(IVIS Spectrum、Xenogen社製)で発光を検出した。続いて、10%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、クリスタルバイオレットで染色してプラークを可視化した。
【0090】
<結果>
結果を
図7に示した。左が細胞をクリスタルバイオレットで染色してプラークを観察した画像であり、右は同一ウェルの発光を観察した画像である。プラークの位置と同じ位置が発光していることから、ルシフェラーゼ遺伝子を発現する人工組換えロタウイルスが作製できたことが示された。この結果はロタウイルスのゲノムに外来遺伝子を挿入できることが実証するものであり、人工組換えロタウイルスはワクチンベクターとして応用可能であると考えられる。なお、自立増殖可能な外来遺伝子発現ウイルスの作製における外来遺伝子挿入部位として、NSP1遺伝子の他に、NSP3遺伝子(Montero H, Arias CF, Lopez S. Rotavirus Nonstructural Protein NSP3 Is Not Required for Viral Protein Synthesis. Journal of Virology. 2006;80(18):9031-9038. doi:10.1128/JVI.00437-06.)も使用可能と考えられる。
【0091】
〔実施例5:FASTタンパク質発現ベクターおよびキャッピング酵素発現ベクターのいずれか一方による人工組換えロタウイルスの作製〕
<材料および方法> 実施例2<材料および方法>(2)で作製したサルロタウイルスSA11株の11種類の分節RNAゲノム発現ベクター、実施例1<材料および方法>(3)で作製したFASTタンパク質発現ベクターpCAG-p10、(4)で作製したキャッピング酵素発現ベクターpCAG-D1RおよびpCAG-D12Lを表3に記載の組み合わせで、BHK-T7/P5細胞(実施例1参照)に導入し、人工組換えロタウイルスが作製できるか否かを確認した。具体的には、トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を4×10
5個/ウェルで12ウェル培養プレートに播種し、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いて各ベクターを表3に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。2日後に、MA104細胞(4×10
4個/ウェル)を加え3日間培養した。培地および細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製した。この細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加し、7日間培養した。
【0092】
【表3】
【0093】
<結果>
キャッピング酵素発現ベクターのみを共発現させたA群、FASTタンパク質発現ベクターのみを共発現させたB群、キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターの両方を共発現させたC群のいずれの群においても、細胞変性を観察することができた。すなわち、キャッピング酵素発現ベクターおよびFASTタンパク質発現ベクターのいずれか一方のみの共発現で、人工組換えロタウイルスを作製できることが示された。
【0094】
〔実施例6:FASTタンパク質による哺乳類オルソレオウイルス(MRV)、ロタウイルス(RV)複製能の増強〕
<材料および方法>
24ウェルプレートでコンフルエントな状態のVero細胞に、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-p10)または空ベクター(pCAG empty)を、それぞれ0、0.25、0.5、1、2μgでトランスフェクションした。トランスフェクション試薬には、TransIT-LT1(商品名、Mirus)を用いた。2時間後、培地を新鮮な5%FBS含有DMEMに交換し、MOI 0.001で、哺乳類オルソレオウイルス(MRV T1L株)またはサルロタウイルス(SA11株)を感染させた。37℃で1時間吸着させた後、PBSで細胞を6回洗浄し、MRV感染細胞は5%FBS含有DMEMで、RV感染細胞はFBS不含DMEMで培養した。感染16時間後に培地および細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して調製した細胞溶解液をプラークアッセイに供した。プラークアッセイは、実施例1と同じ方法で行った。
【0095】
<結果>
結果を
図8に示した。(A)はMRVの結果、(B)はRVの結果である。MRVでは、pCAG-p10を0.5μg以上トランスフェクションした場合、空ベクター(mock)と比べて複製能が増強した。RVでは、pCAG-p10を1μg以上トランスフェクションした場合、空ベクター(mock)と比べて複製能が増強した。これらの結果から、FASTタンパク質を発現する細胞を宿主細胞とすることにより、ウイルスの複製能が向上することが示された。
【0096】
〔実施例7:サルロタウイルスおよびヒトロタウイルスのモノリアソータントロタウイルスの作製〕
サルロタウイルスを基盤として、NSP4遺伝子分節のみヒトロタウイルスのNSP4遺伝子をもつ人工組換えロタウイルス(SA11/KUNSP4)の作製を試みた。
【0097】
<材料および方法>
(1)ヒトロタウイルス
ヒトロタウイルスKU株(Urasawa, S., Urasawa, T., Taniguchi, K., and Chiba, S. (1984). Serotype determination of human rotavirus isolates and antibody prevalence in pediatric population in Hokkaido, Japan. Archives of virology 81, 1-12.)を使用した。
【0098】
(2)ヒトロタウイルスNSP4遺伝子を有するプラスミドの作製
KU株のNSP4分節RNAゲノム(GenBank ACCESSION: AB022772、配列番号32)のcDNAを含むプラスミドを作製した。ウイルスから抽出した二本鎖RNAを鋳型とし、ヒトNSP4分節RNAゲノムの塩基配列に基づく特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。得られたRT-PCR産物(NSP4分節RNAゲノムのcDNA)を
図9に示すp3E5プラスミド(3076bp、配列番号25)のT7プロモーター配列とHDVリボザイム配列の間(配列番号25の30位と31位の間)に挿入し、NSP4分節RNAゲノムの発現カセットを含むプラスミドを得た。各分節RNAゲノムの発現カセットは、各分節RNAゲノムのcDNAの5'側にT7プロモーター配列(配列番号22)、3'側にD型肝炎ウイルス(HDV)リボザイム配列(配列番号23)が隣接し、その下流にT7ターミネーター配列(配列番号24)が配置された構造を有する。作製したプラスミドを、pT7-NSP4KUと称する。
【0099】
(3)人工組換えウイルスの作製および変異の確認
NSP4モノリアソータントロタウイルス(SA11/KUNSP4)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP4SA11に代えてpT7-NSP4KUを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。細胞変性が観察されたMA104細胞のウェルから培地と細胞を回収し、3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、SA11/KUNSP4からウイルスゲノムRNAを抽出し、野生型SA11株および野生型KU株より抽出したウイルスゲノムRNAとともにSDS-PAGEに供した。
【0100】
<結果>
結果を
図11に示した。
図11から明らかなように、SA11/KUNSP4の各ゲノムRNAのバンドは、NSP4(図中g10KU)以外すべて野生型SA11株と同じ位置に確認された。一方SA11/KUNSP4のNSP4分節の位置は、野生型KU株のNSP4のバンドと同じ位置に確認された。この結果から、本発明の作製方法を用いれば、様々な動物種由来のロタウイルスの分説ゲノムRNAを自由に組み換えたリアソータントロタウイルスを作製できると考えられた。
【0101】
〔実施例8:ルシフェラーゼ発現ロタウイルスを利用した抗ロタウイルス薬のスクリーニング試験〕
実施例4で作製したルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスを用いて、既知の抗ロタウイルス薬として知られるリバビリン(Smee, D.F., Sidwell, R.W., Clark, S.M., Barnett, B.B., and Spendlove, R.S. (1982). Inhibition of rotaviruses by selected antiviral substances: mechanisms of viral inhibition and in vivo activity. Antimicrobial agents and chemotherapy 21, 66-73.)によるロタウイルス増殖抑制効果の可視化を試みた。
【0102】
<材料および方法>
感染実験前日に、CV-1細胞を1×10
5個/ウェルで96ウェル培養プレートに播種した。野生型SA11株および実施例4で作製したルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスをMOI 0.001でCV-1細胞に感染させた。37℃で1時間吸着させた後、培養上清を除去し、リバビリン(Sigma Aldrich)を0、1、5、10、50、100または200μMを含むDMEM(FBS不含、0.5μg/mlトリプシン含)を加え、37℃で14時間培養した。培養終了後、Nano-Glo Luciferase Assay System(商品名、プロメガ)の基質原液を培地に添加し、インビボイメージングシステム(IVIS Spectrum、Xenogen社製)で発光を検出した。
【0103】
<結果>
結果を
図12に示した。
図12から明らかなように、リバビリンを添加したウェルでは、リバビリン濃度に依存して発光強度が減少し、リバビリン濃度50μM以上のウェルでは、発光が観察されなかった。この結果は、ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスを用いることにより、ウイルス増殖量を簡便に可視化できることを示すものである。したがって、ルシフェラーゼ発現人工組換えロタウイルスは、未知の抗ロタウイルス薬のスクリーニングに有用であると考えられる。
【0104】
〔実施例9:ロタウイルスリバースジェネティクス系の改良(1)〕
実施例2において人工組換えロタウイルスの作製に成功したロタウイルスRG系の改良を目的に、NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物の過剰発現系を用いて人工組換えロタウイルスの作製効率を検討した。
【0105】
<材料および方法>
分節RNAゲノム発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、キャッピング酵素発現ベクターは、実施例2と同じものを使用した。
NSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターは、サルロタウイルスSA11株のNSP2遺伝子(GenBank ACCESSION:LC178571、配列番号18)のタンパク質コード領域DNAおよびNSP5遺伝子(GenBank ACCESSION:LC178574、配列番号21)のタンパク質コード領域DNAを、それぞれ
図10に示すpCAGGSプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGGSプラスミドのEcoRI切断部位に挿入して、pCAG-NSP2、pCAG-NSP5を得た。
宿主細胞には、T7RNAポリメラーゼを安定発現するBHK-T7/P5細胞を使用した。BHK-T7/P5細胞は、CAGプロモーターの下流にT7RNAポリメラーゼをコードするDNAを挿入したpCAGGSプラスミドをBHK細胞(Baby Hamster Kidney Cells)にトランスフェクションし、抗生物質含有培地で培養して選択することにより作製した。
【0106】
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を24ウェル培養プレートに播種した(2×10
5個/ウェル)。分節RNAゲノム発現ベクター(T7-VP1SA11、pT7-VP2SA11、pT7-VP3SA11、pT7-VP4SA11、pT7-VP6SA11、pT7-VP7SA11、pT7-NSP1SA11、pT7-NSP2SA11、pT7-NSP3SA11、pT7-NSP4SA11およびpT7-NSP5SA11)、FASTタンパク質発現ベクター(pCAG-FAST p10)、キャッピング酵素発現ベクター(pCAG-D1RおよびpCAG-D12L)、NSP2発現ベクター(pCAG-NSP2)およびNSP5発現ベクター(pCAG-NSP5)を、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いて、表4に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。
【0107】
【表4】
【0108】
BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100 units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO
2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解して細胞溶解液を調製し、サルMA104細胞(ATCC CRL-2378.1)に継代した。具体的には、前記細胞溶解液約0.5mlをトリプシン0.5μg/ml 存在下で、12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に添加した。MA104細胞の培養にはFBS不含DMEM培地を使用した。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えロタウイルスが作製されたと判断した。
【0109】
<結果>
結果を表5に示した。
【表5】
ロタウイルスの11個の分節ゲノム発現プラスミドに加えて、キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターを共発現させたA群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP2発現ベクターを共発現させたB群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP5発現ベクターを共発現させたC群、キャッピング酵素発現ベクター、FASTタンパク質発現ベクター、NSP2発現ベクター、NSP5発現ベクターを共発現させたD群のすべての群で細胞変性が観察され、人工組換えロタウイルスを作製できることが示された。作製効率は、A群と比較してB群が3倍、C群が等倍、D群が8倍の上昇が認められた。この結果から、NSP2遺伝子産物および/またはNSP5遺伝子産物の過剰発現は作製効率を向上させることが明らかとなった。
【0110】
〔実施例10:ロタウイルスリバースジェネティクス系の改良(2)〕
FASTタンパク質発現ベクター、キャッピング酵素発現ベクターを使用せずにロタウイルスの作製を試みた。
【0111】
<材料および方法>
分節RNAゲノム発現ベクター、NSP2発現ベクター、NSP5発現ベクター、トランスフェクション試薬および宿主細胞は実施例9と同じものを使用した。トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を12ウェル培養プレートに播種した(4×10
5個/ウェル)。各ベクターを表6に記載のDNA量でBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μLのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養およびサルMA104細胞への継代は、実施例9と同様に行った。継代後7日間培養し、その間に細胞変性が認められた場合に人工組換えロタウイルスが作製されたと判断した。
【0112】
【表6】
【0113】
<結果>
キャッピング酵素発現ベクターとFASTタンパク質発現ベクターを宿主細胞に導入しなくても、NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物を過剰発現させた場合、人工組換えロタウイルスを作製することができた。NSP2遺伝子産物およびNSP5遺伝子産物を宿主細胞に過剰発現させる手段としては、X群のようにNSP2発現ベクターおよびNSP5発現ベクターを別途に導入してもよく、Y群のようにNSP2およびNSP5をコードする分節RNAゲノム発現ベクターの導入DNA量を増加させてもよいことが示された。特にY群は、ロタウイルスの11個の分節RNAゲノム発現ベクターのみを宿主細胞に導入して培養すれば、人工組換えロタウイルスが作製できることを実証したものである。
【0114】
〔実施例11:NSP4タンパクへの変異導入による人工組換え弱毒化ウイルスの作製〕
NSP4に人工的なアミノ酸変異を導入することによる人工組換え弱毒化ロタウイルスの作製を試みた。
【0115】
<材料および方法>
(1)アミノ酸変異NSP4遺伝子を有するプラスミドの作製
pT7-NSP4SA11(実施例2参照)を鋳型として、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(商品名、東洋紡)および特異的プライマーを用いて、NSP4遺伝子(配列番号20)の55位のシトシン(C)をグリシン(G)に置換した変異NSP4遺伝子を有するプラスミドを作製した。このプラスミド(pT7-NSP4SA11-L5Sと称する)は、NSP4タンパクの5番目のロイシン(L)がセリン(S)に置換した変異型NSP4タンパク質を発現する。
【0116】
(2)NSP4変異を有する人工組換えウイルスの作製
NPS4変異を有する人工組換えロタウイルス(rsSA11/NSP4-L5S)は、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP4SA11-L5Sを用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。同時に野生型人工組換えロタウイルス(野生型SA11)を実施例2と同じ方法で作製した。
【0117】
(3)NSP4変異を有する人工組換えロタウイルスの複製能の確認
12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に、rsSA11/NSP4-L5Sもしくは野生型SA11をMOI 0.01で感染させた。37℃で1時間吸着させた後、PBSで細胞を1回洗浄し、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで培養した。感染48時間後に培地および細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して調製した細胞溶解液をプラークアッセイに供した。プラークアッセイは、実施例1と同じ方法で行った。
【0118】
<結果>
結果を
図13に示した。rsSA11/NSP4-L5Sの増殖は野生型SA11に比べ8.7倍低下していた(21500000 vs 2450000)。NSP4に人工的な変異を加えることによる弱毒化ロタウイルスの作製はこれまで報告されておらず、本実施例で作製されたNSP4変異ロタウイルスは、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0119】
また、図を示していないが、本発明者らは、実施例3で作製したNSP1欠失変異ロタウイルス(rsSA11/NSP1ΔC108)および別途作製したNSP3欠失変異ロタウイルスについても、野生型ロタウイルスに比べ増殖が低下していることを確認している。したがって、NSP1またはNSP3に人工的な変異を加えて作製した人工組換えロタウイルスも、複製能を保持した弱毒ウイルスとして優れたワクチン候補であると考えられる。
【0120】
〔実施例12:安定的に緑色蛍光タンパク質を発現する人工組換えロタウイルスの作製〕
緑色蛍光タンパク質であるZsGreenを発現する組換えロタウイルスの作製を試みた
【0121】
<材料および方法>
(1)緑色蛍光タンパク質遺伝子挿入NSP1発現プラスミドの作製
緑色蛍光タンパク質遺伝子として、ZsGreen(以下ZsGと称する)遺伝子を用いた。pZsGreenベクター(クロンテック)のZsGタンパク質コード領域(配列番号33)をPCRで増幅し、増幅産物をpT7-NSP1SA11のNSP1遺伝子(配列番号15)の111位と112位の間に挿入して、ZsG遺伝子挿入NSP1遺伝子発現プラスミド(pT7-NSP1SA11-ZsG-Fullと称する)を作製した。さらにその変異体として、 pT7-NSP1SA11-ZsG-Fullプラスミドを元に、NSP1遺伝子の134-465位、134-855位または134-1243位をそれぞれ欠失したプラスミド(それぞれpT7-NSP1SA11-ZsG-Δ332、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ722、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ1110と称する)を作製した(
図14参照)。
【0122】
(2)人工組換えウイルスの作製およびZsG発現の確認
ZsG発現ロタウイルスは、実施例2の(2)で作製した11種類の分節RNAゲノム発現ベクターにおいて、pT7-NSP1SA11に代えてpT7-NSP1SA11-ZsG-Full、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ332、pT7-NSP1SA11-ZsG-Δ722またはpT7-NSP1SA11-ZsG-Δ1110を用いた以外は、実施例2と同じ方法で作製した。それぞれのZsG発現プラスミドを用いて作製したウイルスを、それぞれrsSA11/ZsG-Full、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722およびrsSA11/ZsG-Δ1110と称する。作製したウイルスをそれぞれMA104細胞に感染させ、蛍光顕微鏡下で緑色蛍光(ZsG発現)の有無を確認した。
【0123】
(3)ZsG発現ロタウイルスにおけるウイルス継代後のZsG遺伝子の保持率の確認
24ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に、rsSA11/ZsG-Full、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722またはrsSA11/ZsG-Δ1110をMOI 0.0001で感染させ、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで培養した。感染後72時間の培養上清から得られたウイルス株をP1ストックとした。それぞれのウイルスのP1ストックの1μLを、24ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に感染させ、トリプシン0.5μg/ml を加えたFBS不含DMEMで72時間培養し、P2ストックを得た。同様にウイルス感染実験を繰返し、P10までのウイルスストックを得た。12ウェルプレートでコンフルエントな状態のMA104細胞に各ウイルスのP1、P5およびP10ストックをMOI 0.01でそれぞれ感染させ、5%FBS不含DMEMで培養した。感染16時間後に、細胞を10%ホルマリンで24時間固定し、ウイルス抗原を対象とした免疫染色に供した。固定後の細胞はPBSで2回洗浄し、0.1%Triton-X-100で細胞膜を透過させ、ウサギ抗ロタウイルスNSP4抗体および、抗ウサギIgG抗体-Alexa594コンジュゲートを反応させ、ウイルス抗原の検出を試みた。免疫染色後の細胞は、蛍光顕微鏡による観察を行い、ウイルス抗原陽性細胞におけるZsG発現率を測定した。
【0124】
<結果>
結果を
図15に示した。rsSA11/ZsG-FullにおけるZsGの発現率は、P1が100%、P5が57.1%、P10が8.6%であり、継代を繰り返すごとにZsGの発現が低下することが明らかとなった。一方、rsSA11/ZsG-Δ332、rsSA11/ZsG-Δ722、rsSA11/ZsG-Δ1110はいずれも、P1、P5、P10とも99-100%のZsG発現率を示し、NSP1遺伝子を332-1110塩基欠失させることでZsG遺伝子が安定的に保持されることが明らかになった。
【0125】
〔実施例13:哺乳類オルソレオウイルスリバースジェネティクス系の改良〕
ロタウイルスのNSP2およびNSP5と同じ機能を有する哺乳類オルソレオウイルのμNSおよびσNSを共発現させることにより、人工組換え哺乳類オルソレオウイルスの作製効率が向上するか検討した。
【0126】
<材料および方法>
(1)μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターの作製
μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターは、哺乳類オルソレオウイルスT1L株のμNS遺伝子(表1のM3遺伝子、GenBank ACCESSION:AF174382、配列番号6)のタンパク質コード領域DNAおよびσNS遺伝子(表1のS3遺伝子、GenBank ACCESSION:M14325、配列番号9)のタンパク質コード領域DNAを、それぞれ
図10に示すpCAGPMプラスミドに挿入して作製した。各コード領域DNAは、人工遺伝子合成サービス(Eurofins Genomics)にて合成した。各合成DNAをそれぞれpCAGPMプラスミドのBglII切断部位(配列番号28の1753位と1754位の間)に挿入して、pCAG-μNST1L(哺乳類オルソレオウイルスμNS発現ベクター)およびpCAG-σNST1L(哺乳類オルソレオウイルスσNS発現ベクター)を得た。
【0127】
(2)人工組換えウイルスの作製
トランスフェクションの前日に、BHK-T7/P5細胞を2×10
5個/ウェルで24ウェル培養プレートに播種した。実施例1で作製した分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)各0.4μg、μNS発現ベクター(pCAG-μNST1L)および/またはσNS発現ベクター(pCAG-σNST1L)各0.4μgを、トランスフェクション試薬(TransIT-LT1(商品名)、Mirus)を用いてBHK-T7/P5細胞に導入した。DNA 1μgあたり2μgのトランスフェクション試薬を使用した。BHK-T7/P5細胞の培養には、5% FBS、100units/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地を用い、37℃5%CO
2環境下で培養した。トランスフェクションの48時間後に培地および細胞を回収した。回収した培地および細胞を3回凍結融解したものをウイルス試料としてプラークアッセイ(実施例1参照)に供し、ウイルスタイターを測定した。
【0128】
<結果>
MRV T1L株の4種の分節RNAゲノム発現ベクター(pT7-L1-M2T1L、pT7-L2-M3T1L、pT7-L3-S3T1LおよびpT7-S1-S2-S4-M1T1L)のみを導入した細胞のウイルスタイターと比較して、μNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターを共導入した細胞のウイルスタイターは約8.2倍に増加した。また、μNS発現ベクターのみを共導入した細胞のウイルスタイターは約6.4倍に増加した。この結果から、μNS発現ベクターもしくはμNS発現ベクターおよびσNS発現ベクターと、分節RNAゲノム発現ベクターとを宿主細胞に共導入することにより、人工組換えウイルスの作製効率が大幅に向上することが示された。
【0129】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。