特許第6762100号(P6762100)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6762100乳化安定剤及び該乳化安定剤を用いた飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762100
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】乳化安定剤及び該乳化安定剤を用いた飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/30 20160101AFI20200917BHJP
【FI】
   A23L29/30
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-15553(P2016-15553)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-131177(P2017-131177A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月12日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】寺田 敦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 政泰
(72)【発明者】
【氏名】今井 恵太
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 智子
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−080518(JP,A)
【文献】 特開2008−083657(JP,A)
【文献】 食品工業,1993, Vol. 36, No. 12, pp. 26-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物を有効成分とする乳化安定剤であって、
前記澱粉分解物は、
酸又はαアミラーゼで液化された、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉、及び、馬鈴薯、キャッサバ、又は甘藷由来の澱粉から選ばれる1種又は2種以上の澱粉原料を、酸および/又はαアミラーゼによりDEを3〜15に調整し、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる枝作り酵素により処理することで得られ、
グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)x、及び、分子量が14000〜80000である画分の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす、
乳化安定剤。
(1)7≦x
(2)31≦y≦60
【請求項2】
前記xが、下記(1’)を満たす請求項1に記載の乳化安定剤。
(1’)8≦x
【請求項3】
前記yが、下記(2’)を満たす請求項1又は2に記載の乳化安定剤。
(2’)35≦y≦60
【請求項4】
前記澱粉分解物の分子量が14000〜80000である画分に、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれる請求項1から3のいずれか一項に記載の乳化安定剤。
【請求項5】
粉末状である請求項1から4のいずれか一項に記載の乳化安定剤。
【請求項6】
液体状である請求項1から4のいずれか一項に記載の乳化安定剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の乳化安定剤を含む飲食品。
【請求項8】
コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉、及び、馬鈴薯、キャッサバ、又は甘藷由来の澱粉から選ばれる1種又は2種以上の澱粉原料を、酸又はαアミラーゼで液化した後、
酸および/又はαアミラーゼによりDEを3〜15に調整し、
α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる枝作り酵素による処理する、
グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)x、及び、分子量が14000〜80000である画分の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす澱粉分解物を有効成分とする乳化安定剤の製造方法。
(1)7≦x
(2)31≦y≦60
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化安定剤に関する。より詳しくは、所定の特性を満たす澱粉分解物を有効成分とする乳化安定剤及び該乳化安定剤を用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
水と油のように互いに混じり合いにくい液体同士を混合し、一方の液体中に他方が細かい粒子として分散して存在している状態をエマルジョン(乳濁液)といい、エマルジョン状態にすることを乳化という。乳化は、食品分野、医療分野、化粧品分野、工業分野等様々な分野で利用される技術である。例えば、食品分野においては、ドレッシング、飲料、ホイップクリーム、コーヒークリーム等に乳化技術が用いられており、医療分野では経腸栄養剤等に乳化技術が用いられている。
【0003】
乳化技術を用いることにより、本来は混ざり合わない水相と油相の成分を思い通りに組み合わせ、天然にはない豊かな風味や色調、より栄養バランスの優れた食品を作り出すことができる。例えば、油脂成分に少量の水を組み合わせて乳化することによりさっぱりとした口当たりの良い食品に変えることができ、逆に、水溶性成分に少量の油を組み合わせて乳化することによりコクのある豊かな風味の食品に変えることができる。
【0004】
水に油を細かく分散させた乳化状態は非常に不安定な状態であり、短時間で乳化状態は壊れてしまう。そのため、乳化の効率を高め、乳化状態を安定化するために乳化剤として界面活性剤等の両親媒性物質が用いられる。乳化剤を使用することにより、離水や沈殿の発生、乳を使用した飲料等において乳脂肪が浮上する現象(いわゆるリング現象やオイルオフ)を防止することができる。また、脂溶性の香料や着色料等を効率的に水に分散させることができる。
【0005】
乳化剤は、様々な飲食品に利用されているが、特有の不快な風味があるため、飲食品の風味に悪影響を与えるため、添加できる量に限りがある等というデメリットがある。また、乳化剤は、添加コストが高いことや食品添加物であることにより、近年、消費者から敬遠される傾向がある。
【0006】
乳化剤以外にも、乳化を安定化するためにガム類等の粘質物質やタンパク質等の水溶性の高分子が乳化安定剤として使用されている。例えば、特許文献1では、ワキシーコーンスターチまたはコーンスターチを主原料とするデンプンを溶解糊化し、これに超音波を照射したデンプン分散物からなる油脂含有組成物のための乳化安定剤が開示されている。
【0007】
このように、食品添加物に分類されないものを乳化安定剤として用いる技術が開発されつつあるが、乳化安定剤としての効果が不十分であったり、pHによって効果が大きく変動するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−93657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乳化剤は、食品添加物と表示されるため、近年の健康志向によって消費者から敬遠される傾向にある。また、乳化安定作用があると言われているサイクロデキストリンも、食品添加物として取り扱われる。また、前述の通り、従来の乳化剤には、独特の風味があり、特に食品への使用が難しいといった実情もある。更に、乳化剤を添加するために、コストが上昇するという問題や、食品添加物に分類されないものを乳化安定剤として用いる場合、乳化安定剤としての効果が不十分であったり、pHによって効果が大きく変動するという問題もある。そのため、風味に悪影響を与えることがなく、乳化安定剤としての効果が高く、食品に分類される乳化安定剤は、食品分野や医療分野において、有用であると考えられる。
【0010】
そこで、本発明では、食品に分類される新規な澱粉分解物を用いた乳化安定剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、澱粉分解物の乳化安定作用について鋭意研究を行った結果、乳化安定作用には、澱粉分解物に含まれる分岐糖質の分岐構造及び澱粉分解物中の特定の分子量画分の含有量が重要であることを突き止め、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明では、主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む澱粉分解物を有効成分とする乳化安定剤であって、
グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)x、及び、分子量が14000〜80000である画分の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)yが、下記(1)及び(2)を満たす澱粉分解物を有効成分とする乳化安定剤を提供する。
(1)7≦x
(2)31≦y≦60
本発明に係る乳化安定剤において、前記xは、下記(1’)を満たしていてもよい。
(1’)8≦x
本発明に係る乳化安定剤において、前記yは、下記(2’)を満たしていてもよい。
(2’)35≦y≦60
本発明に係る乳化安定剤に用いる前記澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。
本発明に係る乳化安定剤は、粉末状であってもよい。
また、本発明に係る乳化安定剤は、液体状であってもよい。
以上説明した本技術に係る乳化安定剤は、飲食品に用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、比較的安価で、食品に分類される乳化安定剤を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】乳化している例(実施例7)及び分離している例(比較例1)を示す図面代用写真である。
図2】実施例7の澱粉分解物、及び、実施例7の澱粉分解物を後述する「b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定」における方法で枝切り酵素処理した酵素処理物について、表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィーにて分析したチャートを示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<澱粉分解物>
本発明に係る乳化安定剤の有効成分である澱粉分解物は、主鎖と分岐鎖とからなる分岐糖質を含む。この分岐糖質は、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)xが、下記(1)を満たすことを特徴とする。
(1)7≦x
【0017】
なお、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)xは、前記澱粉分解物中に含まれるDP8〜9である糖鎖の含有量と、前記澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態の、前記澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9である糖鎖の含有量を測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP8〜9である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0018】
また、本発明に係る乳化安定剤の有効成分である澱粉分解物は、分子量が14000〜80000である画分の含有量(質量%)yが、下記(2)を満たすことを特徴とする。
(2)31≦y≦60
【0019】
本発明で用いる澱粉分解物は、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)xと、分子量が14000〜80000である画分の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)yとが、前記(1)及び(2)の両方を満たすことを特徴とする。後述する実施例で示す通り、これらの2つの条件を同時に満たすことで、乳化安定作用が発揮される。
【0020】
本発明に用いる澱粉分解物は、前記(1)及び(2)を満たしていれば、乳化安定作用を発揮することができるが、前記xは、下記(1’)を満たすことが好ましい。前記xが、下記(1’)を満たすと、より乳化安定作用を向上させることができる。
(1’)8≦x
【0021】
また、前記yは、下記(2’)を満たすことが好ましい。前記yが、下記(2’)を満たすと、より乳化安定作用を向上させることができる。
(2’)35≦y≦60
【0022】
本発明に用いる前記澱粉分解物において、分子量が14000〜80000である画分には、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の少なくとも一部が含まれていてもよい。即ち、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の一部又は全部が、分子量が14000〜80000である画分に含まれていてもよく、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖を有する分岐糖質の一部が、分子量が14000〜80000である画分以外の画分に含まれていてもよい。
【0023】
更に、本発明に用いる前記澱粉分解物において、グルコース重合度(DP)が3〜7である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、下記(3)を満たすことが好ましい。
(3)z≦15
【0024】
グルコース重合度(DP)が3〜7である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)を15質量%以下とすることにより、乳化安定作用を更に向上させることができる。
【0025】
なお、グルコース重合度(DP)が3〜7である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)zは、グルコース重合度(DP)が8〜9である前記分岐鎖の前記澱粉分解物中の含有量(質量%)xと同様に、前記澱粉分解物中に含まれるDP3〜7である糖鎖の含有量と、前記澱粉分解物をイソアミラーゼやプルラナーゼ等の枝切り酵素で処理することにより分岐鎖が切られた状態の、前記澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP3〜7である糖鎖の含有量を測定し、枝切り酵素処理によって増加したDP3〜7である糖鎖の量を算出することにより求めることができる。
【0026】
<澱粉分解物の製造方法>
本発明に係る乳化安定剤に用いる澱粉分解物は、その組成自体が新規であって、その収得の方法については特に限定されることはない。例えば、澱粉原料を、一般的な酸や酵素を用いた処理や、各種クロマトグラフィー、膜分離、エタノール沈殿等の所定操作を適宜、組み合わせて行うことによって得ることができる。
【0027】
本発明で用いる澱粉分解物を得るために原料となり得る澱粉原料としては、公知の澱粉分解物の原料となり得る澱粉原料を1種又は2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉等の澱粉(地上系澱粉)、馬鈴薯、キャッサバ、甘藷等のような地下茎又は根由来の澱粉(地下系澱粉)を挙げることができる。
【0028】
本発明で用いる澱粉分解物を効率的に得る方法として、澱粉原料を、酸又はαアミラーゼを用いて液化した後、枝作り酵素を作用させる方法がある。酸を用いて液化する場合、本発明で用いる澱粉分解物の製造に用いることができる酸の種類は特に限定されず、澱粉の酸液化が可能な酸であれば、公知の酸を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、塩酸、シュウ酸等を用いることができる。
【0029】
また、澱粉原料の酸液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を自由に組み合わせることも可能である。例えば、澱粉原料を、酸を用いて液化した後、枝作り酵素を作用させ、更に、他の分解酵素(例えば、αアミラーゼ等)による処理を行う方法を採用することも可能である。このように、酸液化、枝作り酵素による作用の後に、分解酵素を作用させることで、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0030】
また、本発明で用いる澱粉分解物は、澱粉原料の酸液化を行わず、澱粉原料をαアミラーゼ等の分解酵素を用いて液化し、次いで、枝作り酵素を用いた処理を行った後、更に、αアミラーゼ等の分解酵素を用いて分解することによっても、製造することができる。
【0031】
ここで、枝作り酵素(branching enzyme)とは、α−1,4−グルコシド結合でつながった直鎖グルカンに作用して、α−1,4−グルコシド結合を切断してα−1,6−グルコシド結合による枝分かれを形成させる働きを持った酵素の総称である。本発明で用いる澱粉分解物の製造で枝作り酵素を用いる場合、その種類は特に限定されず、公知の枝作り酵素を1種又は2種以上、自由に選択して用いることができる。例えば、動物や細菌等から精製したもの、又は、馬鈴薯、イネ種実、トウモロコシ種実等の植物から精製したもの等を用いることができる。
【0032】
以上のように、本発明で用いる澱粉分解物を製造する方法は特に限定されないが、澱粉原料を酸又は酵素で液化した後、枝作り酵素処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、グルコース重合度(DP)8〜9の分岐鎖の含有量を所望の範囲に調整しやすいため、本発明で用いる澱粉分解物を安価にかつ、工業的に製造する場合に好適である。更に、澱粉原料の液化の前後や、枝作り酵素を作用させる前後に、αアミラーゼ処理を行う方法が好ましい。この方法を用いれば、澱粉分解物の分解度を所望の範囲に調整することが容易になる。
【0033】
また、本発明では、目的の澱粉分解物となるように各種処理を行った後に、活性炭脱色、イオン精製等を行い、不純物を除去することも可能であり、不純物を除去することが好ましい。
【0034】
更に、固形分30〜80%に濃縮して液体状にすることや、真空乾燥や噴霧乾燥により脱水乾燥することで粉末化した状態で乳化安定剤として用いることも可能である。
【0035】
<乳化安定剤>
本発明に係る乳化安定剤は、前述した澱粉分解物を含有することを特徴とする。前述した澱粉分解物は、食品に分類されるため、これを有効成分とする乳化安定剤も、食品添加物として取り扱う必要がない。また、本発明に係る乳化安定剤は、乳化剤特有の不快な風味がないにも関わらず、十分な乳化安定効果を有するため、食品分野や医療分野等、様々な分野において、利用することが可能である。
【0036】
本発明に係る乳化安定剤には、本発明の効果を損なわない限り、他の成分を1種又は2種以上、自由に選択して含有させることができる。例えば、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤等の成分を用いることができる。更に、公知の又は将来的に見出される機能を有する成分を、適宜目的に応じて併用することも可能である。
【0037】
<飲食品>
本発明に係る飲食品は、前述した乳化安定剤を含有することを特徴とする。本発明に係る乳化安定剤は、公知の飲食品に添加して調製することもできるし、飲食品の原料中に混合して新たな飲食品を製造することもできる。
【0038】
本発明に係る乳化安定剤を飲食品に使用することで、乳化状態を安定化し、離水や沈殿の発生、乳を使用した飲料等において乳脂肪が浮上する現象(いわゆるリング現象やオイルオフ)を防止することができる。また、脂溶性の香料や着色料等を効率的に水に分散させることができる。
【0039】
本発明に係る乳化安定剤を含有することができる飲食品は、特に限定されず、例えば、ジュース、ココア、お茶、コーヒー、紅茶等の飲料、ドレッシング等の調味料、スープ類、クリーム類、各種乳製品類、アイスクリーム等の冷菓等、あらゆる飲食物に含有することができる。また、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品、飲料を含む)や、機能性表示食品(飲料を含む)、いわゆる健康食品(飲料を含む)、濃厚栄養剤、流動食、乳児・幼児食にも含有することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0041】
<実験例1>
実験例1では、澱粉分解物の具体的な糖組成が、その特性にどのように影響するかを検討した。
【0042】
(1)試験方法
[枝作り酵素]
本実験例では、枝作り酵素の一例として、WO00/58445の方法に則って、精製したRhodothermus obamensis由来の酵素(以下「枝作り酵素」とする)を用いた。
【0043】
なお、枝作り酵素の活性測定は、以下の方法で行った。
基質溶液として、0.1M酢酸 緩衝液(pH5.2)にアミロース(Sigma社製,A0512)を0.1質量%溶解したアミロース溶液を用いた。
50μLの基質液に50μLの酵素液を添加し、30℃で30分間反応させた後、ヨウ素-ヨウ化カリウム溶液(0.39mMヨウ素−6mMヨウ化カリウム−3.8mM塩酸混合用液)を2mL加え反応を停止させた。ブランク溶液として、酵素液の代わりに水を添加したものを調製した。反応停止から15分後に660nmの吸光度を測定した。枝作り酵素の酵素活性量1単位は、上記の条件で試験する時、660nmの吸光度を1分間に1%低下させる酵素活性量とした。
【0044】
[DE]
「澱粉糖関連工業分析法」(澱粉糖技術部会編)のレインエイノン法に従って算出した。
【0045】
[分子量]
下記の表1に示す条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーにて分析を行った。
分子量スタンダードとして、ShodexスタンダードGFC(水系GPC)カラム用Standard P-82(昭和電工株式会社製)を使用し、分子量スタンダードの溶出時間と分子量の相関から算出される検量線に基づいて、試作品の分子量を測定した。
【0046】
【表1】
【0047】
[澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖又はDP3〜7である分岐鎖の含有量]
a.未処理の澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix1%に調製した澱粉分解物溶液について、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0048】
【表2】
【0049】
b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定
Brix5%に調整した澱粉分解物溶液200μLに、1M酢酸緩衝液(pH5.0)を2μL、イソアミラーゼ(Pseudomonas sp.由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり125ユニット、プルラナーゼ(Klebsiella planticola由来、Megazyme製)を固形分(g)当たり800ユニット添加し、水で全量400μLになるように調整した。これを40℃で24時間酵素反応させた後、煮沸により反応を停止した。これに600μLの水を加え、12000rpmにて5分間遠心分離を行った。上清900μLを脱塩、フィルター処理後、表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにて分析を行い、保持時間に基づいて、DP8〜9又はDP3〜7の含量を測定した。
【0050】
c.澱粉分解物中のDP8〜9又はDP3〜7である分岐鎖の含有量の算出
前記bで求めたDP8〜9の含量から、前記aで求めたDP8〜9の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP8〜9である分岐鎖の含有量を算出した。同様に、前記bで求めたDP3〜7の含量から、前記aで求めたDP3〜7の含量を引くことにより、澱粉分解物中のDP3〜7である分岐鎖の含有量を算出した。
【0051】
[評価方法]
(a)乳化安定性
βカロテンで着色した食用菜種油(昭和産業株式会社製)12.9gに固形分30%に調整した各澱粉分解物17.1gを加え、ホモジナイザー(CM−200、アズワン株式会社製)で16,000rpm、5分間撹拌して均質化した。均質化した混合液20gを、直径18mm、長さ180mmの試験管に分注し、25℃で24時間静置した。乳化相の幅を測定し、試験管の底面から液面までの高さを100としたときの、乳化相の幅の割合を乳化安定性の指標とした。乳化している例(実施例7)及び分離している例(比較例1)の写真を、図1に示す。
【0052】
(2)実施例・比較例の製法
[実施例1]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30重量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE12になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で50時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例1の澱粉分解物を得た。
【0053】
[実施例2]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが10になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり1000ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが15になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度60質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例2の澱粉分解物を得た。
【0054】
[実施例3]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した20質量%のワキシーコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり400ユニット添加し、65℃で30時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度40質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例3の澱粉分解物を得た。
【0055】
[実施例4]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE2まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが7になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり400ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。更にαアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが11になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例4の澱粉分解物を得た。
【0056】
[実施例5]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE5まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり600ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが14になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製、濃縮(固形分60質量%)して、実施例5の糖質を得た。
【0057】
[実施例6]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE6まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分グラム当たり400ユニット添加し、65℃で60時間反応させた。更にαアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが13になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例6の澱粉分解物を得た。
【0058】
[実施例7]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のコーンスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE4まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが8になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり500ユニット添加し、65℃で45時間反応させた。更にαアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが9になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、実施例7の澱粉分解物を得た。
【0059】
[比較例1]
パインデックス#1(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0060】
[比較例2]
パインデックス#2(松谷化学工業株式会社製)を使用した。
【0061】
[比較例3]
クラスターデキストリン(グリコ栄養食品株式会社製)を使用した。
【0062】
[比較例4]
BLD−8(参松工業株式会社製)を使用した。
【0063】
[比較例5]
10質量%消石灰にてpH5.8に調整した30重量%のコーンスターチスラリーに、αアミラーゼ(ターマミルSC、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.2質量%添加し、ジェットクッカー(温度110℃)で液化して、この液化液を95℃で保温して、継時的にDEを測定して、DE17になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例5の澱粉分解物を得た。
【0064】
[比較例6]
10質量%塩酸にてpH2.5に調整した30質量%のタピオカスターチスラリーを、140℃の温度条件でDE3まで分解した。常圧に戻した後、消石灰を用いて中和することにより反応を停止した糖液のpHを5.8に調整した後、αアミラーゼ(クライスターゼT10S、天野エンザイム株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、95℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが14になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。反応を停止した糖液のpHを6.0に調整した後、枝作り酵素を固形分(g)当たり700ユニット添加し、65℃で40時間反応させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例6の澱粉分解物を得た。
【0065】
[比較例7]
実施例7の澱粉分解物を30質量%に調整し、pHを6.0に調整した後、αアミラーゼ(リコザイムスープラ、ノボザイムズ ジャパン株式会社製)を、固形分(g)当たり0.02質量%添加し、80℃で反応を行い、経時的にDEを測定して、DEが19になった時点で、塩酸でpH4.0に調整し、煮沸により反応を停止した。この澱粉分解物の溶液を、活性炭脱色、イオン精製し、固形分濃度50質量%に濃縮した。更に濃縮液をスプレードライヤーで粉末化し、比較例7の澱粉分解物を得た。
【0066】
(3)測定
前記で得られた実施例1〜7及び比較例1〜7について、それぞれ、澱粉分解物中のDE、DP8〜9である分岐鎖の含有量、分子量を、前述した方法で測定した。また、乳化能について、前述した方法で評価した。結果を下記の表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示す通り、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31〜60質量%の実施例1〜7は、全て良好な乳化安定作用を有していた。一方、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満、かつ、分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例2、5及び6は、乳化安定性を全く有さなかった。また、分子量14000〜80000の画分の含有量は31〜60質量%の範囲内であっても、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%未満である比較例1及び3についても、乳化安定性を全く有さなかった。更に、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上であっても、分子量14000〜80000の画分の含有量が31質量%未満の比較例4及び7については、わずかに乳化安定作用を示していたが、実施例1〜7に比べると低い結果であった。
【0069】
実施例内で比較すると、分子量14000〜80000の画分の含有量がほぼ同等の実施例4及び5においては、DP8〜9の分岐鎖の含有量が8質量%以上の実施例5の方が乳化安定性がより高い結果であった。また、DP8〜9の分岐鎖の含有量がほぼ同等の実施例3及び4においては、分子量14000〜80000の画分の含有量が35質量%以上の実施例3の方が乳化安定性がより高い結果であった。
【0070】
更に、比較例4は、DP8〜9の分岐鎖の含有量が7質量%以上であり、分子量14000〜80000の画分の含有量が29.6質量%と、本発明の範囲より少し少ない例であるが、DP3〜7の分岐鎖の含有量が15質量%を超えるために、乳化安定作用が低い結果であった。
【0071】
なお、一例として、実施例7の澱粉分解物、及び、実施例7の澱粉分解物を前記「b.分岐鎖が切られた状態の澱粉分解物の枝切り酵素処理物中のDP8〜9又はDP3〜7である糖鎖の含有量の測定」における方法で枝切り酵素処理した酵素処理物について、前記表1に示す条件のゲルろ過クロマトグラフィーにて分析したチャートを図2に示す。分子量スタンダードの溶出時間に基づいて算出した、分子量14000〜80000の画分の溶出時間は、約16〜19分である。図2に示す通り、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分は、枝切り酵素処理を行うことで、低分子画分へ移行していることが分かった。この結果から、澱粉分解物の分子量14000〜80000の画分に、DP8〜9の分岐鎖を有する分岐糖鎖が含まれていることが確認できた。
【0072】
<実験例2>
実験例2では、前記実験例1で製造した澱粉分解物を、実際の飲食品に適用した場合の乳化能について、検証した。
【0073】
(1)試験例1:分離液状ドレッシング
サラダ油150g、食酢50g、塩5g、砂糖5g、固形分30質量%に調整した下記表4に示す実施例又は比較例の澱粉分解物水溶液50gを混合したものを密閉した容器にいれて、手で激しく上下に1分間撹拌した後、5分間静置した。試作したドレッシングが、最も均一に混合した状態を維持しているものを5点、最も分離しているものを1点として、5段階で評価した。
【0074】
【表4】
【0075】
表4に示す通り、実施例3及び5の澱粉分解物を使用したドレッシングは、撹拌後時間が経過しても分離が起こりにくく、喫食時に良好な分散状態を維持していた。この結果から、本発明に係る乳化安定剤をドレッシングに用いれば、ドレッシングを撹拌後、すぐに分離が起こらないため、喫食時に油相や水相が偏って容器から出ることがなく、複数回使用してもドレッシングの油相と水相のバランスが崩れることがないことが分かった。また、ドレッシングを撹拌して油相と水相を混合した後、小さい容器に分注する場合にも、偏りなく均一に分注することができる。
【0076】
(2)試験例2:メレンゲ
卵白40g、砂糖58g、油性香料0.5g、下記表5に示す実施例又は比較例の澱粉分解物1.5gを混合し、ハンドミキサーで10分間撹拌した。試作したメレンゲが最も固まっているものを5点、最も固まっていないものを1点として、5段階で評価した。
【0077】
【表5】
【0078】
表5に示す通り、実施例2及び7の澱粉分解物を使用したメレンゲは、泡立ちが良く、10分間の撹拌で十分にメレンゲ状に仕上げることができた。この結果から、メレンゲは、卵白に油脂が混ざると、泡立ちが悪く泡立てた後もすぐにつぶれてしまうという性質があるが、本発明に係る乳化安定剤を添加すると油脂が存在してもきれいに泡立てることができ、つぶれることがないことが分かった。また、本発明に係る乳化安定剤を用いることで、脂溶性の香料や着色料を卵白に添加して特徴のあるメレンゲを製造することができる。
【0079】
(3)試験例3:経腸栄養剤
乳たんぱく55g、植物油22g、食塩2.3g、塩化カリウム1.5g、難消化性デキストリン10g、塩化カルシウム0.75g、クエン酸鉄ナトリウム10mg、β-カロテン1.8mg、ビタミンB1.6g、ビタミンB1.8mg、下記表6に示す実施例又は比較例の澱粉分解物160gを混合し、全量が1000mLになるように加水した。これを70℃に加温した状態で高圧ホモジナイザーで乳化した後、20℃に冷却してから1時間静置後の外観を観察した。試作した経腸栄養剤が最も乳化した状態を維持しているものを5点、最も分離しているものを1点として、5段階で評価した。
【0080】
【表6】
【0081】
表6に示す通り、実施例4及び7の澱粉分解物を使用した経腸栄養剤は、乳化後時間が経過しても分離が起こりにくく、乳化状態を維持していた。この結果から、本発明に係る乳化安定剤を経腸栄養剤に添加することにより、経腸栄養剤の分離を抑制し、乳化状態を維持できることが分かった。一般的に、経腸栄養剤は乳化剤を配合して製造することが多いが、本発明に係る乳化安定剤を用いることで、食品添加物に分類される乳化剤無添加の経腸栄養剤や食品添加物に分類される乳化剤の使用量の少ない経腸栄養剤を製造することができる。
【0082】
(4)試験例4:紅茶
紅茶葉15gに沸騰させた脱イオン水800mLを加え、3分間抽出したのち、No.5Cのろ紙でろ過した。この紅茶抽出液100mLに対して、下記表7に示す実施例又は比較例の澱粉分解物4gを添加し、スプーンで30秒間撹拌し、20℃に冷却してから1時間静置後の外観を観察した。試作した紅茶が最も透明なものを5点、最も濁りや沈殿が激しいものを1点として、5段階で評価した。
【0083】
【表7】
【0084】
表7に示す通り、実施例1及び6の澱粉分解物を使用した紅茶は、時間経過による沈殿の発生が抑制されていた。一方、比較例1及び比較例4の澱粉分解物を添加した紅茶は、紅茶に含まれるタンニン等に由来すると考えられる沈殿の発生が激しかった。この結果から、本発明に係る乳化安定剤を紅茶に添加することにより、紅茶に含まれるタンニン等に由来すると考えられる沈殿の発生を抑制することができ、透明で外観の良好な紅茶を製造することができることが分かった。
【0085】
(5)試験例5:カフェオレ
コーヒードリッパーに、粉砕したコーヒー豆50gを載せたペーパーフィルターをセットした。これに95℃の脱イオン水800mLを注ぐことで、コーヒーを抽出した。このコーヒー抽出液100mLに対して、下記表8に示す実施例又は比較例の澱粉分解物5gを添加、混合したあとに、牛乳を70mL添加し、スプーンで30秒間撹拌した。撹拌後のコーヒーを20℃に冷却してから1時間静置後、液面の状態を観察し、最も均一に牛乳が混合されているものを5点、最も浮遊物が多いものを1点として、5段階で評価した。
【0086】
【表8】
【0087】
表8に示す通り、実施例2及び7の澱粉分解物を使用したカフェオレは、牛乳が均一に混合され、時間経過による分離が抑制されていた。この結果から、本発明に係る乳化安定剤をカフェオレに添加することにより、牛乳が均一に混合され、時間経過による分離も抑制された外観の良好なカフェオレを製造することができることが分かった。
図1
図2