特許第6762325号(P6762325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6762325フラットケーブル、フラットケーブルの製造方法、及びフラットケーブルを備える回転コネクタ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762325
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】フラットケーブル、フラットケーブルの製造方法、及びフラットケーブルを備える回転コネクタ装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20200917BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20200917BHJP
   H01R 35/04 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   H01B7/08
   H01B7/00
   H01R35/04 F
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-564137(P2017-564137)
(86)(22)【出願日】2017年7月18日
(86)【国際出願番号】JP2017025928
(87)【国際公開番号】WO2018055884
(87)【国際公開日】20180329
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-182882(P2016-182882)
(32)【優先日】2016年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−111070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
H01B 7/00
H01R 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要数の導体と、前記所要数の導体を挟み込むように配置された一対の絶縁フィルムと、前記一対の絶縁フィルム間に設けられた接着剤層とを備えるフラットケーブルであって、
前記導体は、屈曲半径が4mm〜8mmの範囲で、屈曲半径をX(mm)、0.2%耐力をY(MPa)、厚さをt(mm)、ヤング率をE(MPa)としたとき、Y≧ 1.2×t×E/(2X−t)を満たし、かつ導電率が50%IACS以上である、
ことを特徴とするフラットケーブル。
【請求項2】
前記フラットケーブルの長手方向の中間部分に、湾曲して折り返された折り返し部が設けられ、
前記フラットケーブルは、前記折り返し部にて屈曲を維持した状態で巻き締め又は巻き戻しされ、
前記折り返し部は、屈曲半径4mm〜8mmを維持した状態で、折り返しを伴って巻き締め又は巻き戻しされることを特徴とする、請求項1記載のフラットケーブル。
【請求項3】
前記導体は、0.1〜0.8質量%のスズ、0.05〜0.8質量%のマグネシウム、0.01〜0.5質量%のクロム、0.1〜5.0質量%の亜鉛、0.02〜0.3質量%のチタン、0.01〜0.2質量%のジルコニウム、0.01〜3.0質量%の鉄、0.001〜0.2質量%のリン、0.01〜0.3質量%のシリコン、0.01〜0.3質量%の銀、及び0.1〜1.0質量%のニッケルのうちの1種又は2種以上を含有し、残部が銅及び不可避不純物からなることを特徴とする、請求項1記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記導体の伸びが5%未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラットケーブル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラットケーブルの製造方法であって、
幅方向断面積が0.75mm以下である所要数の導体を準備し、
前記所要数の導体に0.3kgf以上の張力を付与しながら、前記所要数の導体を、接着剤を介して一対の絶縁フィルムで挟み込むことを特徴とする、フラットケーブルの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラットケーブルを備える回転コネクタ装置であって、
8mm以下の屈曲半径を維持した状態で行なった20万回の屈曲運動後における前記フラットケーブルの長手方向の0.2%耐力が、前記屈曲運動前における前記長手方向の0.2%耐力の80%以上であることを特徴とする、回転コネクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットケーブル、フラットケーブルの製造方法、及びフラットケーブルを備える回転コネクタ装置に関し、特に車両用の回転コネクタ装置内に配置されるフレキシブルフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、四輪自動車などの車両において、操舵用のステアリングホイールとステアリングシャフトの連結部に、エアバッグ装置等に電力を供給するための回転コネクタ装置(SRC)が装着されている。回転コネクタ装置は、ステータと、該ステータに回転自在に組み付けられたロテータと、ステータとロテータとによって形成される環状の内部空間に巻かれて収容されたフレキシブルフラットケーブル(FFC)とを備えており、FFCの端部には、当該FFCと外部とを電気的に接続する接続構造体を備えている。
【0003】
FFCは、並列配置された複数本の導体と、該複数本の導体を挟み込むように配置された一対の絶縁フィルムと、該一対の絶縁フィルム間に設けられた接着剤層とを備え、上記複数の導体、一対の絶縁フィルム及び接着剤層で構成されるラミネート構造を有している。導体は、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅等からなる。また、絶縁フィルムは、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリスチレン系の樹脂からなる接着剤層を有し、複数の導体が挟み込まれた状態で、上記一対の絶縁フィルムを、接着剤層を介して接着することにより、導体同士、或いは導体と外部とが絶縁される。
【0004】
上記導体としては、例えば、B,Sn,In,Mgのうちの1種もしくは複数種が合計で0.005〜0.045%添加され、結晶粒が7μm以下にまで微細化された、銅合金からなるフラットケーブル用導体が提案されている(特許文献1)。
また、他の導体として、無酸素銅(99.999wt%Cu)に、0.3wt%以下のSnと0.3wt%以下のIn或いはMgを添加した銅合金、又は、無酸素銅(99.999wt%Cu)に、10wt%以下のAgを添加した銅合金を母材とし、その表面にSnをめっきした平板状の導体に熱処理を行い、引張り強さ350MPa以上、伸び5%以上、導電率70%IACS以上である平角導体が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3633302号公報
【特許文献2】特許第4734695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、銅合金における添加元素種及びその含有量の規定による結晶粒径制御のみでは、導体の屈曲特性が不十分である。
また、特許文献2の技術では、伸び5%以上を必須とし、伸びがその範囲外であると剛性が強く、折り曲げが困難であること、また、折り曲げ時に導体を座屈させてしまう虞があることが開示されているものの、伸び5%以上であっても導体の屈曲特性が不十分であることが分かってきた。特に近年、自動車の高性能化・高機能化が進められると共に、信頼性、安全性等の向上の観点から自動車に搭載される各種装置、機器の耐久性の向上が要求されており、回転コネクタ装置等に用いられるフラットケーブルの屈曲特性の更なる向上が求められている。
【0007】
本発明の目的は、従来と比較して同等の導電性を維持しつつ、良好な折り曲げ性を有すると共に座屈発生を抑制し、屈曲特性の更なる向上を実現することができるフラットケーブル、フラットケーブルの製造方法、及びフラットケーブルを備える回転コネクタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、フラットケーブルの屈曲半径、導体厚さ及びヤング率と、所定の屈曲寿命回数を超える場合の当該フラットケーブルの0.2%耐力との関係を見出すと共に、銅合金における添加元素種及び各元素の含有量の範囲を規定し、更に、集合組織における結晶粒や析出物の適切な組織制御を行うことで、良好な折り曲げ性が得られると共に座屈発生が抑制され、また、適切な耐力とすることにより、屈曲特性を更に向上できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]所要数の導体と、前記所要数の導体を挟み込むように配置された一対の絶縁フィルムと、前記一対の絶縁フィルム間に設けられた接着剤層とを備えるフラットケーブルであって、
前記導体は、屈曲半径が4mm〜8mmの範囲で、屈曲半径をX(単位:mm)、0.2%耐力をY(単位:MPa)、厚さをt(単位:mm)、ヤング率をE(単位:MPa)としたとき、Y≧ 1.2×t×E/(2X−t)を満たし、かつ導電率が50〜98%IACSである、
ことを特徴とするフラットケーブル。
[2]前記フラットケーブルの長手方向の中間部分に、湾曲して折り返された折り返し部が設けられ、
前記フラットケーブルは、前記折り返し部にて屈曲を維持した状態で巻き締め又は巻き戻しされ、
前記折り返し部は、屈曲半径4mm〜8mmを維持した状態で、折り返しを伴って巻き締め又は巻き戻しされることを特徴とする、上記[1]記載のフラットケーブル。
[3]前記導体は、0.1〜0.8質量%のスズ、0.05〜0.8質量%のマグネシウム、0.01〜0.5質量%のクロム、0.1〜5.0質量%の亜鉛、0.02〜0.3質量%のチタン、0.01〜0.2質量%のジルコニウム、0.01〜0.3質量%の鉄、0.001〜0.2質量%のリン、0.01〜0.3質量%のシリコン、0.01〜0.3質量%の銀、及び0.1〜1.0質量%のニッケルのうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]記載のフラットケーブル。
[4]前記導体の伸びが5%未満であることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のフラットケーブル。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載のフラットケーブルの製造方法であって、
幅方向断面積が0.75mm以下である所要数の導体を準備し、
前記所要数の導体に0.3kgf以上の張力を付与しながら、前記所要数の導体を、接着剤を介して一対の絶縁フィルムで挟み込むことを特徴とする、フラットケーブルの製造方法。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載のフラットケーブルを備える回転コネクタ装置であって、
前記フラットケーブルは、8mm以下の屈曲半径を維持した状態で行なった20万回の屈曲運動後における前記フラットケーブルの長手方向の0.2%耐力が、前記屈曲運動前における前記長手方向の初期耐力の80%以上であることを特徴とする、回転コネクタ装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフラットケーブルによれば、適切な強度とすることで曲げ性や耐座屈性を向上し、また、適切な耐力とすることで伸びを小さくし、これにより優れた屈曲特性を得ることができる。よって、車両においてステアリングホイールの操舵がなされ、時計回り或いは反時計回りの回転に伴って回転コネクタ装置内のフラットケーブルが繰り返して屈曲運動する場合に、フラットケーブルの屈曲特性を更に向上することができ、また、数十万回の屈曲運動が行われた後であっても塑性変形を極力抑えることができ、耐久性、ひいては信頼性、安全性を向上したフラットケーブルを提供することが可能となる。
【0011】
また、本発明のフラットケーブルは、ステアリング・ローリング・コネクタ(SRC)と称される回転コネクタ装置のみならず、例えばルーフハーネス、ドアハーネス、フロアハーネス等の自動車用部品、折り畳み式携帯電話の折り曲げ部、デジタルカメラやプリンターヘッドなどの可動部、HDD(Hard Disk Drive)、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu−ray(登録商標) Disc、CD(Compact Disc)の駆動部などの配線体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るフラットケーブルの構成を示す幅方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
[フラットケーブルの構成]
本実施形態のフラットケーブル1は、図1に示すように、例えば複数の導体11−1,11−2,11−3,11−4,11−5,11−6(所要数の導体)と、該複数の導体を挟み込むように配置された一対の絶縁フィルム12,13と、一対の絶縁フィルム12,13間に設けられた接着剤層14とを備える。本実施形態のフラットケーブル1は、例えばフレキシブルフラットケーブル(FFC)である。
導体11−1〜11−6は、圧延面の面内方向がほぼ同一となるように並べて配置されており、これら導体の一方の圧延面側に絶縁フィルム12が設けられ、他方の圧延面側に絶縁フィルム13が設けられている。導体11−1〜11−6は、幅0.1mm〜15mm、好ましくは幅0.3mm〜15mm、厚さ0.02mm〜0.05mmである。導体11−1〜11−6の各々の幅方向断面積は、0.75mm以下、好ましくは0.02mm以下である。
【0015】
接着剤層14は、複数の導体11−1〜11−6を埋設するのに十分な厚みを有しており、絶縁フィルム12,13によって挟持されている。接着剤層14は、一対の絶縁フィルム12,13に適合する周知の接着剤で構成されている。
【0016】
一対の絶縁フィルム12,13は、接着剤層14及び/又は複数の導体11−1〜11−6との良好な密着性を発現することができる樹脂で構成されている。また、好適な例として、一対の絶縁フィルム12,13が、接着剤層が融着される際に溶けない融点が200℃以上であるポリエチレンテレフタレートの最外層とポリエステル系樹脂の接着剤層との2層で構成されてもよい。絶縁フィルム12,13は、例えば幅6mm〜15mm、厚さ0.01mm〜0.05mmである。
【0017】
上記のように構成されるフラットケーブル1は、好ましくは回転コネクタ装置に適用される。この場合、回転コネクタ装置は、不図示のステータとロテータとによって形成される環状の内部空間に巻かれて収容されたフラットケーブル1を備える。例えばこの回転コネクタ装置において、フラットケーブル1の長手方向の中間部分に、湾曲して折り返された不図示の折り返し部が設けられ、フラットケーブル1は、折り返し部にて屈曲を維持した状態で巻き締め又は巻き戻しされる。そして、上記折り返し部は、屈曲半径4mm〜8mmを維持した状態で、折り返しを伴って巻き締め又は巻き戻しされる。
【0018】
[導体の化学組成]
導体は、0.1〜0.8質量%のスズ(Sn)、0.05〜0.8質量%のマグネシウム(Mg)、0.01〜0.5質量%のクロム(Cr)、0.1〜5.0質量%の亜鉛(Zn)、0.02〜0.3質量%のチタン(Ti)、0.01〜0.2質量%のジルコニウム(Zr)、0.01〜0.3質量%の鉄(Fe)、0.001〜0.2質量%のリン(P)、0.01〜0.3質量%のシリコン(Si)、0.01〜0.3質量%の銀(Ag)、0.1〜1.0質量%のニッケル(Ni)のうちの1種又は2種以上を含有し、残部が銅(Cu)及び不可避不純物からなる。
【0019】
<スズ:0.1〜0.8質量%>
スズは、銅に添加することで固溶し高強度化する作用を有する元素である。含有量が0.1質量%未満であると、その効果は不十分であり、0.8質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、スズの含有量を0.1〜0.8質量%とする。
【0020】
<マグネシウム:0.05〜0.8質量%>
マグネシウムは、銅に添加することで固溶し高強度化する作用を有する元素である。含有量が0.05質量%未満であると、その効果は不十分であり、0.8質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、マグネシウムの含有量を0.05〜0.8質量%とする。
【0021】
<クロム:0.01〜0.5質量%>
クロムは、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。クロムの含有量が0.01質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、0.5質量%を超えると、粗大晶出物や析出物が現れ疲労特性劣化の原因となり不適である。したがって本実施形態では、クロムの含有量を0.01〜0.5質量%とする。
【0022】
<亜鉛:0.1〜5.0質量%>
亜鉛は、銅に添加することで固溶し高強度化する作用を有する元素である。亜鉛の含有量が0.1質量%未満であると、固溶硬化は望めず耐力が不十分であり、5.0質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、亜鉛の含有量を0.1〜5.0質量%とする。
【0023】
<チタン:0.02〜0.3質量%>
チタンは、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。チタンの含有量が0.02質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、0.3質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難であり、また粗大晶出物や析出物が現れ疲労特性劣化の原因となり不適であり、製造性も著しく悪くなるためである。したがって本実施形態では、チタンの含有量を0.02〜0.3質量%とする。
【0024】
<ジルコニウム:0.01〜0.2質量%>
ジルコニウムは、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。ジルコニウムの含有量が0.01質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、0.2質量%を超えると、粗大晶出物や析出物が現れ疲労特性劣化の原因となり不適であり、製造性も著しく悪くなるためである。したがって本実施形態では、ジルコニウムの含有量を0.01〜0.2質量%とする。
【0025】
<鉄:0.01〜3.0質量%>
鉄は、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。鉄の含有量が0.01質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、3.0質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、鉄の含有量を0.01〜3.0質量%とする。
【0026】
<リン:0.001〜0.2質量%>
リンは、脱酸する作用を有する元素であり、特性面ではなく製造性を向上する元素である。リンの含有量が0.001質量%未満であると、製造上の改善効果が不十分であり、0.2質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、リンの含有量を0.001〜0.2質量%とする。
【0027】
<シリコン:0.01〜0.3質量%>
シリコンは、クロムやニッケル等の添加元素と化合物を形成し、析出強化する作用を有する元素である。シリコンの含有量が0.01質量%未満であると、効果が不十分であり、0.3質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、シリコンの含有量を0.01〜0.3質量%とする。
【0028】
<銀:0.01〜0.3質量%>
銀は、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。銀の含有量が0.01質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、0.3質量%を超えると、効果が飽和するだけでなく、コスト増の要因となる。したがって本実施形態では、銀の含有量を0.01〜0.3質量%とする。
【0029】
<ニッケル:0.1〜1.0質量%>
ニッケルは、銅に添加、固溶させ、微細析出させることで高強度化する作用を有する元素である。ニッケルの含有量が0.1質量%未満であると、析出硬化は望めず耐力が不十分であり、1.0質量%を超えると、導電率を50%以上に保つことが困難である。したがって本実施形態では、ニッケルの含有量を0.1〜1.0質量%とする。
【0030】
<残部:銅及び不可避不純物>
上述した成分以外の残部は銅および不可避不純物である。ここでいう不可避不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。不可避不純物は、含有量によっては導電率を低下させる要因にもなりうるため、導電率の低下を加味して不可避不純物の含有量をある程度抑制することが好ましい。
【0031】
[導体の製造方法]
上述の導体の製造方法では、[1]溶解及び鋳造、[2]熱間加工、[3]冷間加工、[4]熱処理、[5]仕上加工、の各工程を経て導体を製造する。例えば、スリット製法では、[1−1]溶解及び鋳造、[2−1]熱間圧延、[3−1]冷間圧延、[4−1]熱処理、[5−1]仕上圧延、の各工程を経て導体を製造し、所望幅のスリット切断を実施して、断面積が0.75mm以下、ヒートステアリングホイール(ハンドルの加温装置)用の大電流用導体を除けば、好ましくは0.010mm〜0.02mmである導体を複数個準備する。尚、後述する実施例のプロセスA及びプロセスBでは、[1−1]溶解及び鋳造及び[2−1]熱間圧延の2工程を共通条件とし、その後の[3−1]冷間圧延、[4−1]熱処理及び[5−1]仕上圧延の3工程を異なる条件で設定している。
【0032】
[1−1]溶解及び鋳造
溶解及び鋳造は、上述した同合金組成になるように各成分の分量を調整して溶製し、厚さ150mm〜180mmの鋳塊を製造する。
【0033】
[2−1]熱間圧延
次いで、上記で製造された鋳塊を600〜1000℃で熱間圧延して、厚さ10mm〜20mmの板材を作製する。
【0034】
[3−1]冷間圧延
更に、熱間圧延処理後の板材を冷間圧延して、厚さ0.02mm〜1.2mmの導体を作製する。本冷間圧延工程後、後述する熱処理前に、任意の熱処理を行うことができる。
【0035】
[4−1]熱処理
次に、熱処理条件200〜900℃、5秒〜4時間で、導体に熱処理を施す。このときの熱処理は、再結晶が目的であれば12μm以下の結晶粒径にすることが好ましく、具体的な条件は合金種によって異なるが、上記[3]にて十分な冷間加工が加えられている場合、銅錫系合金であれば300〜450℃、30分間程度の熱処理にて制御可能である。本熱処理が時効熱処理であれば、時効熱処理は結晶粒径10nm未満の微細析出をさせることが好ましく、これもまた合金種により条件が異なるが、銅クロム系合金であれば400〜500℃、2時間程度の適当な温度域を選択すればよい。銅合金が、再結晶させる固溶型合金であれば、熱処理条件を振り結晶粒径を確認することで熱処理条件の適正範囲を容易に選定することが可能であり、また時効熱処理を要する析出型合金であれば、同様に熱処理条件を振り、析出物サイズ確認を実施するか、もしくは、代替として機械的強度が最高値となり、かつ導電率が析出により十分高まる熱処理条件を選定することが可能である。析出型合金の場合、本発明で規定する範囲の耐力に最終的に制御できれば、敢えて強度は低下するが高導電性を引き出すことの出来る過時効熱処理を選定することも可能である。
【0036】
[5−1]仕上圧延
その後、熱処理後の導体を仕上圧延して、幅0.1mm〜15mm、厚さ0.02mm〜0.05mmの導体を作製する。仕上圧延の圧下率(厚さ減少率)は、12〜98%である。上記[4]にて再結晶させた材料は本仕上圧延によりその結晶粒が扁平し、結晶粒の長径/短径の比が1.5〜15程度となる。
【0037】
[導体の他の製造方法]
上記のスリット製法以外の他の製法でも、上述の導体を製造することができる。例えば、丸線圧延製法であれば、上記[1−1]〜[5−1]の工程中の熱間圧延が熱間伸線に、冷間圧延が冷間伸線にそれぞれ変わり、[1−2]溶解及び鋳造、[2−2]熱間伸線、[3−2]冷間伸線、[4−2]熱処理、[5−2]仕上圧延、の各工程を経て導体を製造し、最終のスリットは不要となる。また、冷間伸線と熱処理の間に冷間圧延を追加し、[1−3]溶解及び鋳造、[2−3]熱間伸線、[3−3]冷間伸線、冷間圧延、[4−3]熱処理、[5−3]仕上圧延の各工程を経て導体を作製することもできる。また、上記他の製法において、固溶型合金であれば任意の複数回の熱処理を施すことができる。このように、導体の特性等が本発明の範囲を満たしていれば、導体の製法に限定はない。
【0038】
[フラットケーブルの製造方法]
本実施形態に係るフラットケーブルの製造方法では、例えばスリット製法によって上記の条工程で製造された場合はスリット切断を施し、幅方向断面積が0.75mm以下、好ましくは0.02mm以下である導体を所要数準備する。また、丸線圧延製法ではスリット切断不要であるため所望の形状にした導体(仕上圧延材)を準備する。そして、所要数の導体の主面の両側に絶縁フィルムを配置し、これら所要数の導体一本あたりに0.3kgf以上の張力を付与しながら、上記所要数の導体を接着剤を介して一対の絶縁フィルムで挟み込む。そして、所要数の導体、接着剤及び一対の絶縁フィルムからなる積層体をプレスしてラミネート処理する。本実施形態に係る所要数の導体の場合、一本あたり0.3kgf以上の張力を付与しながら一対の絶縁フィルムで当該複数の導体を挟み込んでも、導体の塑性変形が起きずにラミネート作製が可能となる。また、ラミネート処理条件が定められた所定のガイドラインに沿ってフラットケーブルを製造する場合にも、同ガイドライン通りに安全性、信頼性の高いフラットケーブルを提供することができる。
【0039】
[フラットケーブル及び導体の特性]
本実施形態のフラットケーブルにおいて、導体は、付与される屈曲半径が4mm〜8mmの範囲で、屈曲半径をX(単位:mm)、0.2%耐力をY(単位:MPa)、厚さをt(単位:mm)、ヤング率をE(単位:MPa)としたとき、Y≧ 1.2×t×E/(2X−t)を満たし、かつ導電率が50%IACS以上である。また、上記不等式は、導体の厚さが本発明における0.02mm〜0.05mmの範囲内で成り立つ。例えば、屈曲半径8mm、厚さ0.02mm、銅および銅合金の一般的なヤング率120000MPaであるとき、導体の0.2%耐力は、180MPa以上を満たす。0.2%耐力及び導電率をそれぞれ上記範囲内の値とすることにより、従来と同等の導電性を製品に影響の出ない範囲で維持すると共に、高強度特性にしないことで、曲げ性や耐座屈性を配慮し、良好な屈曲特性を得ることができる。また、好ましくは、伸びが5%未満である。伸びを上記範囲とすることにより、屈曲特性を改善し、より小半径でも寿命を延ばすことができる。
【0040】
[回転コネクタ装置の特性]
上記フラットケーブルを備える回転コネクタ装置において、8mm以下の屈曲半径を維持した状態で行なった20万回の屈曲運動後における当該フラットケーブルの長手方向の0.2%耐力(以下、残存耐力ともいう)は、屈曲運動前における上記長手方向の0.2%耐力(以下、初期耐力ともいう)の80%以上である。上記屈曲運動後における導体の残存耐力が初期耐力の80%未満である場合、導体の形状維持のために必要な弾性が失われる。よって本発明では、上記屈曲運動後の残存耐力が80%以上である場合に、導体がその形状維持のために必要な弾性を保持しているとする。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0042】
先ず、スズ、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、鉄、リン、シリコン、銀及びニッケルを表1に示す含有量となるように調製し、鋳造機を用いて、各合金組成を有する銅合金(合金No.1〜No.20)からなる厚さ150mm〜180mmの鋳塊を作製した。次いで、600〜1000℃の熱間圧延により厚さ20mmの板材を作製し、その後冷間圧延を施した。
【0043】
上記共通工程を経た後、表2に示すように、プロセスAでは、処理温度400℃、425℃、450℃のいずれか、処理時間30分間又は2時間で板材に時効熱処理を施した後、圧下率19%で仕上圧延を施し、厚さ0.035mmの導体を得た。
また、プロセスBでは、表3に示すように、処理温度400℃、425℃、450℃のいずれか、処理時間30分間又は2時間で、板材に時効熱処理を施した後、圧下率90%或いは77%で圧延処理を施し、厚さ0.035mmの導体を得た。プロセスA及びBにおいて、最終製品である導体の厚さは同じとした。
更に、比較としてのプロセスCでは、表4に示すように、熱間圧延後の厚さ20mmの板材に冷間圧延を施して厚さ0.035mmの導体を得て、その後処理温度350℃、375℃、400℃、450℃、700℃、750℃、800℃、900℃のいずれか、処理温度15秒間、30分間、2時間のいずれかで、導体に時効熱処理を施した。
【0044】
作製された導体について、以下に示す方法により、0.2%耐力、導電率(EC)、伸び及び屈曲寿命の各特性、並びに仕上圧延前の結晶粒径をそれぞれ測定した。
【0045】
(A)0.2%耐力
試験条件は、JIS Z 2241に準拠し、圧延方向を長手方向として引張試験を行った。
【0046】
(B)導電率(EC)
電気抵抗(又は電気伝導度)の基準として、国際的に採択された20℃における焼鈍標準軟銅(体積抵抗率: 1.7241×10−2μΩm)の導電率を、100%IACSとして規定している。各材料の導電率は一般的に知られたものであり、純銅(タフピッチ銅、無酸素銅)はEC=100%IACS、Cu−0.15Sn、Cu−0.3Crでは、EC=85%IACS程度である。ここでECは、Electrical Conductivityの略称であり、IACSは、International Annealed Copper Standardを示す。
【0047】
一方、製造プロセスによってその導電性は変化する。例えば本実施例におけるプロセスAとプロセスBでは、仕上圧延量が異なるために、プロセスBの方がやや導電性が劣化する。各実施例における材料の電気抵抗は、導電率70%IACS以上であれば想定される環境若しくは設計の相当範囲において十分な役割を果たすとして極めて良好「◎」とし、50〜70%IACSであれば使用環境、SRC構造如何によっては製品特性が十分あると判断して良好「〇」、50%IACS未満であればその導体は不適であると判断して不良「×」とした。
【0048】
(C)伸び
試験条件は、JIS Z 2241に準拠し、導体の長手方向にて引張試験を行い、突合せ伸びを測定した。測定結果の伸びが5%未満の場合には寿命を延ばすことが出来、例えば設計範囲を広げることも可能となることから、測定値を明記した。なお、導電率を多少犠牲にして従来よりも多少低い値になることがあっても、伸びの特性をより良好とすることで、屈曲特性を更に向上することが可能となり、その性能バランスに因っては回転コネクタ装置に用いるフラットケーブルに適した導体となる。
【0049】
(D)ヤング率
ヤング率は上記項目(A),(C)の引張試験で得られた応力−歪曲線の0.2%耐力に達しない弾性域に限定して、応力変化量を歪変化量で除した傾きに相当する数値(MPa)を用いた。この数値はプロセスによって変化するが、本実施例では組成依存の方が大きかったため、代表値のみを表2に示した。
【0050】
(E)仕上圧延前の結晶粒径
結晶粒径は、試験サンプルを幅と厚さの2方向断面について樹脂埋め及び研磨にて鏡面を出し、クロム酸などのエッチング液で粒界腐食させ、光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察した際結晶粒径が十分判断できる状態にしてから、JIS H 0501の切断法に準拠し測定を実施した。測定数は30から100とし、1結晶粒当たりの直径の平均値を求めた。
【0051】
(F)屈曲寿命
FPC屈曲試験機(上島製作所社製、装置名「FT−2130」)を用い、試料固定板および可動板に、導体を100mmの長さに切断した後、2本を通電可能な架橋を施して、一端を可動板側に貼り付け、他端を鉛直方向に所望の径で屈曲させ、更にその他端を固定板側に固定し、両自由端を測定器につなげることで屈曲寿命を判定した。2本のうち1本が断線した場合に電圧は測定不能となることから、その時点を寿命と判断した。試験条件は、試験温度:20〜85℃、屈曲半径X:半径4mm〜8mm(7.5mm、6.3m、5.5mm、4.7mm)、ストローク:±13mm、回転速度:180rpmとした。電圧が測定不能となったときの屈曲回数が30万回以上である場合を、回転コネクタが要求される疲労特性を満足するとして良好「〇」、30万回未満である場合を不良「×」とした。上記の方法にて測定、評価した結果を表2〜4に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
表2〜4の結果より、合金No.1〜No.17ではいずれも、プロセスA或いはプロセスBを経て導体を製造することで(表2及び表3)、所望半径に対する寿命が十分な耐力を有し、導電率が50〜98%IACSの範囲内の値となった。特にプロセスBにおいて、伸びが好ましい範囲である5%未満となった。
但し、合金No.1〜No.17では、プロセスCを経て導体を製造すると(表4)、0.2%耐力及び導電率のいずれか或いは双方が本発明の範囲外となった。
【0057】
一方、合金No.18では、プロセスAを経て導体を製造した場合(表2)、0.2%耐力が本発明の範囲外となった。
【0058】
合金No.19,20は、プロセスAを経て製造した場合、耐力は高く寿命スペック化には十分であるが、導電率が本発明の範囲外となった。また、プロセスB,Cを経て製造した場合も同様であった。合金組成におけるSn或いはZnの含有率が、本発明の範囲の上限を上回っていることが原因である。
【0059】
次に、表1の合金No.で示す各合金とプロセスA、B、C(表2、表3、表4)の各発明例の導体を、0.35kgf又は0.2kgfの張力を付与しながら、PET樹脂及び接着剤の複合材(リケンテクノス社製、エアバッグ用フレキシブルフラットケーブル(絶縁フィルム)、樹脂厚25μm、接着剤厚20μm」)で挟み込み、両面からプレスしてラミネート処理を施し、フラットケーブルを作製した。ラミネート処理条件は、プレス温度165℃、プレス時間3分間、プレス圧力0.5MPaとした。
【0060】
また、表1の合金No.18,19,20とプロセスA(表2)とを組合せ、上記と同様にしてフラットケーブルを作製した。
【0061】
次いで、合金No.1〜No.17,及び合金No.18〜No.20について、以下に示す方法により、ラミネート作製時における導体間のピッチずれ、ラミネート作製時の導体断面積変化、及び屈曲試験後の導体残存耐力を観察、測定した。尚、屈曲試験前のフラットケーブル(初期製品)においてスリット形成前の広幅条の導電率を4端子法で測定した後、屈曲試験後のフラットケーブルについて全く同じ屈曲試験環境下で広幅条(12.75mm)の導電率を測定し、屈曲試験前後で導電率の変化が無いことを確認した。
【0062】
(G)ラミネート作製時における導体間ピッチずれの判定
ラミネートの導体間ピッチを0.2mm〜1mmとし、ラミネート処理前の導体間ピッチとラミネート処理後の導体間ピッチを比較して、導体間ピッチのずれが1/10未満であった場合を良好「〇」、1/10以上であった場合を不良「×」とした。ラミネート作製時における導体間ピッチのずれを評価項目としたのは、導体間ピッチの1/10以上のずれが起きた場合、導体がラミネート作製時の張力不足によりたるみが起きたためである。ラミネートの導体間のピッチずれは、導体と樹脂間の空隙発生の原因となり屈曲寿命が低下することや、付与張力の変化が起きた場合はラミネート製造中における断線もしくは断面積減少の原因となる。
【0063】
(H)ラミネート作製時の導体断面積変化
ラミネート作製時の導体断面積変化は、回転コネクタ装置に用いられる長さのケーブル両端の電気抵抗測定にて確認し、ラミネート作製の前後で小数点以下1桁のオーダ(単位はΩ)で抵抗変化が無い場合断面積を維持したとして良好「〇」、抵抗変化がある場合を不良「×」とした。また抵抗変化とは別に、厚さが3μm以上減少した箇所が存在するか、もしくは板幅が0.05mm以上減少した箇所が存在する場合は、不良「×」とした。厚さ或いは幅は、光学顕微鏡で拡大した像にて測定を行った。
【0064】
(I)屈曲試験後の導体残存耐力の測定
FPC屈曲試験機(上島製作所社製、装置名「FT−2130」)を用い、試料固定板および可動板に、フラットケーブルを150mmの長さに切断した各供試片を固定し、モータ部により可動板を移動させて、屈曲試験を行った。試験条件は、試験温度:20〜85℃、屈曲半径X:半径4mm〜8mm、ストローク:±13mm、回転速度:180rpmとし、同条件にて20万回の試験を実施した。屈曲試験後、試験材を取り出して、ラミネートをクレゾールで溶解し、屈曲半径Xを上記範囲内で維持した状態で行なった20万回の屈曲運動後における導体の長手方向の0.2%耐力(残存耐力)が、屈曲試験前における長手方向の0.2%耐力(初期耐力)の80%以上である場合、形状維持のために必要な弾性を保持しているとして良好「〇」、20万回の屈曲運動後における導体の長手方向の0.2%耐力が上記初期耐力の80%未満である場合、形状維持のために必要な弾性が失われたとして不良「×」とした。
上記の方法にて測定、判定した結果を表2〜4に示す。
【0065】
表2の結果より、合金No.1〜No.17では、合金成分が本発明の範囲内にあり、かつプロセスAを経ることで0.2%耐力及び導電率の双方が良好であった。また、プロセスAを経ることで、フラットケーブルの屈曲寿命、電気抵抗、ラミネート作製時の導体間ピッチずれ、ラミネート作製時の導体断面積変化、屈曲試験後の導体残存耐力が良好となった。特に、4mm〜8mmの範囲のうち少なくとも6.3mm及び7.5mmの屈曲半径で、回転コネクタ装置のフラットケーブルに要求される疲労特性(屈曲寿命)を十分に満たすことが分かる。また、表中の限界屈曲半径とは、下記(1)式を用いて、0.2%耐力、ヤング率及び厚さtから算出される算出値である。
X=(1.2×E/Y+1)×t/2 ・・・(1)
ここで、Xは限界屈曲半径(単位:mm)、Eはヤング率(単位:MPa)、Yは0.2%耐力(単位:MPa)、tは厚さ(単位:mm)である。
この実験結果と限界屈曲半径の算出値との相関関係によれば、上記(1)式を用いて算出される限界屈曲半径は、フラットケーブルの屈曲寿命が十分となることが分かる指標であることが確認できる。よって、屈曲半径4mm〜8mmの範囲の中でより厳しい屈曲半径を要求される場合、上記(1)式を用い、0.2%耐力、ヤング率及び厚さから限界屈曲半径を算出し、算出された限界屈曲半径に基づいて適切な合金およびプロセスを選定することが可能となる。また、上記(1)式から得られる算出値以上の屈曲半径であれば、フラットケーブルの屈曲寿命がより良好になる。
【0066】
更に、上記(1)式をYで整理して、以下の式に変換することができる。
Y=1.2×t×E/(2X−t) ・・・(2)
すなわち、仕様等に応じた指定の屈曲半径に基づいて想定される最小の屈曲半径の値が分かれば、上記(2)式を用い、当該最小の屈曲半径を限界屈曲半径とし、更にヤング率及び厚さを決定することで、その限界屈曲半径において十分な疲労特性(屈曲寿命)が得られる0.2%耐力の値を決定することができる。また、上記(2)式から得られる算出値以上の0.2%耐力を有するフラットケーブルであれば、より良好な屈曲寿命が得られる。
【0067】
また、表2の結果より、合金No.1〜No.17では、プロセスAを経ることで、ラミネート作製時の導体間ピッチずれ、ラミネート作製時の導体断面積変化、及び屈曲試験後の導体残存耐力のいずれも良好であることが分かった。
【0068】
一方、合金成分が本発明の範囲外である合金No.18においては、7.5mm、6.3m、5.5mm及び4.7mmの屈曲半径で屈曲寿命が不良となった。また、屈曲試験後の導体の残存耐力が初期耐力の80%未満となり、材料強度不足となった。これは、合金組成が本発明の範囲外であるために屈曲試験中結晶粒粗大化を抑止できず、導入歪の硬化と結晶粒微細化による硬化の双方の効果を失ってしまったためである。
また、合金成分が本発明の範囲外である合金No.19,20では、先に述べたように導電率が本発明の範囲外となった。
【0069】
また、表3の結果から、合金No.1〜No.17において伸びを5%未満にするようなプロセスBを経ることで、プロセスAを経て製造した場合と比較して、同一の合金でより厳しい屈曲半径でも屈曲寿命がより良好となり、特に好ましい特性が得られることが分かる。
【0070】
表4の結果は、不適なプロセスCを経た試作材の結果である。合金No.1〜No.17において不適なプロセスを経ることで、0.2%耐力及び導電率の一方又は双方が本発明の範囲外となった。また、例えば耐力不足が招く断面積減少を防ぐため、合金No.13,No.14のように張力を0.35kgfから0.20kgfに下げても、ラミネート作製時の導体間のピッチずれを起こしてしまうため、評価項目の全てを満足させることはできなかった。なお、本発明の不等式において、0.2%耐力が最も低くなる条件である屈曲半径8mmと、厚さ0.035mmと、一般的なヤング率120000MPaとを用いて計算した場合、本発明における0.2%耐力の範囲は315.7MPa以上となるが、軟銅の場合、本発明の不等式の範囲外にある耐力を有する場合が多く、本不等式に則らないと推察される。
【符号の説明】
【0071】
1 フレキシブルフラットケーブル
11−1,11−2,11−3 導体
11−4,11−5,11−6 導体
12,13 一対の絶縁フィルム
14 接着剤層
図1