特許第6762390号(P6762390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6762390研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762390
(24)【登録日】2020年9月10日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20200917BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20200917BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20200917BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-33232(P2019-33232)
(22)【出願日】2019年2月26日
(62)【分割の表示】特願2016-508662(P2016-508662)の分割
【原出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2019-116627(P2019-116627A)
(43)【公開日】2019年7月18日
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-57480(P2014-57480)
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大和 泰之
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−041037(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093153(WO,A1)
【文献】 特開2012−040671(JP,A)
【文献】 特開2013−243208(JP,A)
【文献】 特開2012−231170(JP,A)
【文献】 特開2011−181884(JP,A)
【文献】 特開2005−262413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 − 3/60
B24B 21/00 − 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用され、
砥粒(A)と、砥粒(B)と、pH調整剤とを含み、
前記砥粒(A)は、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカであり、
前記砥粒(B)は、有機酸を表面に固定したコロイダルシリカであり、pH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ、前記砥粒(B)の平均二次粒子径の値が前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下である砥粒であり、
前記砥粒(A)の含有量/前記砥粒(B)の含有量が、10〜500であり、
pHが6以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
砥粒(A)の平均一次粒子径が15nm以上であり、前記砥粒(B)の平均一次粒子径が、13nm以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒(A)の平均会合度が、2.0以上であり、前記砥粒(B)の平均会合度が、1.7以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用され、
砥粒(A)と、pH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ、前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さい、平均二次粒子径の値が15nm以下である砥粒(B)と、pH調整剤とを、混合することにより製造さ前記砥粒(A)の含有量/前記砥粒(B)の含有量が、10〜500である、研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の研磨用組成物で、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する、研磨方法。
【請求項6】
請求項に記載の研磨方法で研磨する工程を含む、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を有する基板の製造方法。
【請求項7】
pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨速度を抑制する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨用組成物で、前記層を研磨することを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<技術分野>
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<関連技術>
従来、LSIの高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、単にCMPとも記す)法もその一つであり、LSI製造工程、特にシャロートレンチ分離(STI)、層間絶縁膜(ILD膜)の平坦化、タングステンプラグ形成、銅と低誘電率膜とからなる多層配線の形成などの工程でCMPは用いられている。そのうちSTIでは、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層(例えば、窒化ケイ素の層)をストッパーとして使用して、CMPにより例えば、酸化ケイ素の層を研磨除去することが一般的である。
【0003】
特許文献1〜3に開示されているように、STIなどの特定のCMP用途で酸化セリウム砥粒を使用することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/010487号
【特許文献2】国際公開第2008/032681号
【特許文献3】特開2011−181946号公報
【発明の概要】
【0005】
<発明の概要>
しかしながら、酸化セリウム砥粒は一般に高価であり、また、容易に沈降するために保存安定性に劣る点でも不利がある。そのため、酸化セリウム砥粒をコロイダルシリカなどの別の砥粒で代替する要求が生じている。
【0006】
同じ用途で酸化セリウム砥粒の代わりに別の砥粒を含有した研磨用組成物を使用する場合には、研磨用組成物の酸化ケイ素研磨速度を低下させることなくpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層(例えば、窒化ケイ素)の研磨速度をいかに抑えるかが重要である。
【0007】
そこで本発明の目的は、STIなどの特定のCMP用途で酸化セリウム砥粒を含有した研磨用組成物の代替として使用が可能な研磨用組成物を提供すること、またその研磨用組成物を用いた研磨方法および基板の製造方法を提供することにある。
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用され、砥粒(A)と、砥粒(B)と、pH調整剤とを含み、前記砥粒(B)はpH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ前記砥粒(B)の平均二次粒子径の値が前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下である砥粒であり、pHが6以下である研磨用組成物を使用することで、上記課題が解決されうることを見出した。そして、上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
上述した目的のうち少なくとも一つを実現するために、本発明の一側面を反映した研磨用組成物は、以下を有する。
【0010】
すなわち、本発明は、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用され、砥粒(A)と、砥粒(B)と、pH調整剤とを含み、前記砥粒(B)はpH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ前記砥粒(B)の平均二次粒子径の値が前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下である砥粒であり、pHが6以下である研磨用組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<好ましい実施形態の説明>
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0012】
本発明は、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用され、砥粒(A)と、砥粒(B)と、pH調整剤とを含み、前記砥粒(B)はpH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ前記砥粒(B)の平均二次粒子径の値が前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下である砥粒であり、pHが6以下である研磨用組成物である。
【0013】
このような構成とすることにより、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨速度を抑制することができる。
【0014】
よって、上記構成によれば、STIなどの特定のCMP用途で酸化セリウム砥粒を含有した研磨用組成物の代替として使用が可能な研磨用組成物を提供することができ、ひいてはその研磨用組成物を用いた研磨方法および基板の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明の研磨用組成物を用いることにより、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨速度を抑制することができる詳細な理由は不明であるが、以下のメカニズムが推測される。
【0016】
本発明において砥粒(B)は、負のゼータ電位を有する。それに対して研磨対象物は正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を有している。pH6以下の水溶液中において、砥粒(B)と、正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層とは、お互いに引き合う電気的な力が働くため、砥粒(B)が層に対して吸着する。この時、平均二次粒子径の大きい砥粒であれば、高い研磨レートが発現することになるが、平均二次粒子径の値が15nm以下である場合には、その砥粒は基板の表面を保護する作用を生じさせるものと考えられる。さらに本発明は、前記砥粒(B)よりも大きい平均二次粒子径の値を有する砥粒(A)を含有している。そのため砥粒(B)が比較的吸着しにくい物質を含む層に対しては、研磨レートを発現させることができる。従来の当業者の常識であれば、砥粒と、研磨対象物としての層とが引き合う関係にある時は、メカニカル作用が高まり、その結果として高い研磨レートが発現すると考えられていた。それに対して本発明は、砥粒が一定の条件を満たすことで、研磨対象物の表面を保護する作用を持つことを見出したことに基づく。そして、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0017】
なお上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0018】
[研磨対象物]
本発明の研磨対象物はpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層である。pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質の具体例としては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化タングステン等の窒化物、アルミニウム−マグネシウム、シリコン-ゲルマニウム等の合金が挙げられる。
【0019】
これらの物質のゼータ電位は、測定対象の微粒子をpH6以下の水溶液に混ぜ、レーザードップラー法によって測定する等の方法によって測定することができる。
【0020】
これらの材料は、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
さらにpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を有する基板も本発明の研磨対象物となる。
【0022】
次に、本発明の研磨用組成物の構成について、詳細に説明する。
【0023】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、その特徴的な構成成分として、粒子径(平均二次粒子径)の異なる2種の砥粒を必須に含む。またこの2種の砥粒のうち一方の砥粒は、pH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつその砥粒の平均二次粒子径の値は、もう一方の砥粒の平均二次粒径の値より小さい値の平均二次粒子径であり、かつ15nm以下である必要がある(その砥粒を本明細書では便宜的に「砥粒(B)」と呼んでいる。)。
【0024】
なお砥粒は三種類以上含有してもよい(つまり、平均二次粒子径の異なる三種類以上の砥粒を含有してもよい。)。この場合、三種以上のうち、少なくとも1種の砥粒の平均二次粒子径が15nm以下であり(これを便宜的に「砥粒(B)」と呼ぶ)、少なくとも1種の砥粒の平均二次粒子径が15nm超である(これを便宜的に「砥粒(A)」と呼ぶ)。
【0025】
[砥粒(A)]
研磨用組成物に含まれる砥粒(A)は、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降性シリカのようなシリカであってもよいし、ジルコニア、アルミナ、およびチタニアのようなシリカ以外であってもよい。ただし、研磨用組成物に含まれる砥粒(A)は、好ましくはシリカであり、特に好ましくはコロイダルシリカである。
【0026】
使用するコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、例えば、表面修飾したコロイダルシリカの使用が可能である。コロイダルシリカの表面修飾は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属、あるいはそれらの酸化物をコロイダルシリカと混合してシリカ粒子の表面にドープさせることにより行うことができる。
【0027】
あるいは、シリカ粒子の表面に有機酸の官能基を化学的に結合させること、すなわち有機酸の固定化により行うこともできる。
【0028】
なお、コロイダルシリカと有機酸とを単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid−functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0029】
あるいは、有機酸の一種であるカルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2−Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228−229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0030】
この中で特に好ましいのは、容易に製造できるという観点からスルホン酸を固定したコロイダルシリカである。
【0031】
研磨用組成物中に含まれる砥粒(A)が有機酸を固定化したコロイダルシリカである場合には、保存安定性に特に優れた研磨用組成物が得られる。その理由は、有機酸を固定化したコロイダルシリカは、有機酸が固定化されていない通常のコロイダルシリカに比べて、研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きい傾向があるためである。研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きくなるにつれて、シリカ粒子同士の間の静電的斥力が強まるために、ファンデルワールス力による引力が原因のコロイダルシリカの凝集は起こりにくくなる。例えば酸性のpH領域において、有機酸を固定化したコロイダルシリカのゼータ電位は一般に−15mV以下の負の値を示すのに対し、通常のコロイダルシリカのゼータ電位はゼロに近い値を示す。これは、砥粒(B)を含む、他の砥粒についても同様である。なお、負のゼータ電位は、好ましくは0mV未満であり、より好ましくは−10mV未満である。
【0032】
砥粒(A)の含有量は、研磨用組成物中において、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、よりさらに好ましくは5質量%以上である。0.1質量%以上であると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0033】
砥粒(A)の含有量はまた、研磨用組成物中において、25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。砥粒(A)の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくい。また、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0034】
砥粒(A)の平均一次粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは12nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。砥粒(A)の平均一次粒子径は10nm以上であると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0035】
なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0036】
砥粒(A)の平均一次粒子径はまた、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下であり、よりさらに好ましくは50nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0037】
砥粒(A)の平均二次粒子径は250nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは180nm以下であり、よりさらに好ましくは100nm以下であり、特に好ましくは80nm以下である。
【0038】
砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができ、測定機器としては、日機装株式会社製動的光散乱式粒度分布計UPA−UT151を用いた際に算出される値を言う。
【0039】
砥粒(A)の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。また、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0040】
また、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層(例えば、窒化ケイ素)の研磨速度を抑制する効果がある。
【0041】
砥粒(A)の平均二次粒子径の値は砥粒(B)の平均二次粒子径の値よりも大きい必要があり、15nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上である。
【0042】
砥粒(A)の平均二次粒子径が15nm以上であると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0043】
砥粒(A)の平均会合度は1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。この平均会合度とは砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度が、砥粒(A)の平均会合度は1.2以上であると、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0044】
砥粒(A)の平均会合度はまた、4以下であることが好ましく、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは3以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0045】
[砥粒(B)]
研磨用組成物に含まれる砥粒(B)は、pH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ平均二次粒子径の値が砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下であることを必須の条件とする。
【0046】
この条件を満たせばコロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降性シリカのようなシリカであってもよいし、ジルコニア、アルミナ、およびチタニアのようなシリカ以外であってもよい。ただし、研磨用組成物に含まれる砥粒は好ましくはシリカであり、研磨対象物上への傷(スクラッチ)低減、研磨対象物の研磨速度を得る観点で、特に好ましくはコロイダルシリカである。
【0047】
使用するコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、例えば、表面修飾したコロイダルシリカの使用が可能である。表面修飾の説明は、砥粒(A)において行った説明が同様に妥当する。上述もしたが、本発明の好ましい形態では、砥粒(B)が、有機酸を表面に固定した(コロイダル)シリカであり、この中で特に好ましいのは、容易に製造できるという観点からスルホン酸を固定したコロイダルシリカである。
【0048】
砥粒(B)の含有量は0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.002質量%以上、さらに好ましくは0.005質量%以上であり、よりさらに好ましくは0.01質量%以上である。砥粒(B)の含有量が、0.001質量%以上であると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質である窒化ケイ素等の層の研磨速度を低減させる有利な効果がある。
【0049】
砥粒(B)の含有量はまた、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.1質量%以下である。砥粒(B)の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくい。
【0050】
砥粒(B)の平均一次粒子径は2nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質である窒化ケイ素等の層の研磨速度を低減させる有利な効果がある。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0051】
砥粒(B)の平均一次粒子径はまた、15nm以下であることが好ましく、より好ましくは14nm以下、さらに好ましくは13nm以下である。
【0052】
砥粒(B)の平均二次粒子径は15nm以下であることが好ましく、より好ましくは14nm以下、さらに好ましくは選択比の観点から13nm以下である。
【0053】
砥粒(B)の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0054】
砥粒(B)の平均二次粒子径が15nmを超えると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質である窒化ケイ素等の層の研磨速度を低減する有利な効果が失われる。
【0055】
砥粒(B)の平均二次粒子径は2nm以上であることが好ましく、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは4nm以上である。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、SiN研磨レートをより細かく制御できる。
【0056】
砥粒(B)の平均会合度は1.0以上であることが好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質である窒化ケイ素等の層の研磨速度が低減させる有利な効果がある。
【0057】
砥粒(B)の平均会合度はまた、4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチの少ない研磨面を得られやすい。
【0058】
また、本発明の好ましい実施形態によると、砥粒(A)の平均二次粒子径/砥粒(B)の平均二次粒子径が、好ましくは3.5〜15であり、より好ましくは4〜14である。
【0059】
また、本発明の好ましい実施形態によると、砥粒(A)の含有量/砥粒(B)の含有量が、好ましくは10〜500であり、より好ましくは20〜300であり、さらに好ましくは50〜300である。このように、粒径の小さな砥粒をにごく少量入れることによって、その砥粒は基板の表面を保護する作用を生じさせ、窒化ケイ素の研磨速度を低減することができる。
【0060】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは6以下である。仮に、pH6を超えると、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨速度を抑制することができない。本発明の研磨用組成物のpHは6以下であればよいが、より好ましくは4以下である。pHは6以下であると、研磨用組成物によるpH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質以外の層(酸化ケイ素等)の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0061】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するのにpH調整剤を使用する。
【0062】
使用されるpH調整剤は、無機酸、有機酸、キレート剤、アルカリがある。これらは1種または2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0063】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。中でも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0064】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2−フランカルボン酸、2,5−フランジカルボン酸、3−フランカルボン酸、2−テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。中でも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0065】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアンモニウム塩やアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0066】
pH調整剤として使用できるキレート剤の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、イミノ二酢酸、アセトアミドイミノ二酢酸、ニトリロ三プロパン酸、ニトリロ三メチルホスホン酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸およびエチレンジアミン四酢酸が挙げられる。
【0067】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。
【0068】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、水、無機塩類、界面活性剤、水溶性高分子、防腐剤、防カビ剤、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、他の成分である、水、無機塩類、界面活性剤、高分子、防腐剤および防カビ剤について説明する。
【0069】
[水]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するための分散媒または溶媒として水を含んでもよい。
【0070】
他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0071】
[無機塩類]
本発明の研磨用組成物は、無機塩類を含んでもよい。本発明で添加される無機塩類の具体例としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、および硝酸アルミニウム等が挙げられる。
【0072】
[界面活性剤]
本発明の研磨用組成物は、界面活性剤を含んでもよい。本発明で添加される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0073】
陰イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アルキルエーテル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0074】
陽イオン性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0075】
両性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0076】
非イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルエーテルである。これらの界面活性剤は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができる。このことは、本発明の研磨用組成物を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平坦性を向上させる上で有利である。
【0078】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量の下限は、0.001g/L以上であることが好ましく、0.005g/L以上であることがより好ましく、0.01g/L以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の界面活性剤の含有量の上限は、50g/L以下であることが好ましく、25g/L以下であることがより好ましく、10g/L以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性が向上し、かつ、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を維持することができる。
【0079】
[水溶性高分子]
本発明の研磨用組成物は、水溶性高分子を含んでもよい。本発明で添加される水溶性高分子の具体例としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリイソプレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸との共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、およびキトサン塩類が挙げられる。
【0080】
[防腐剤および防カビ剤]
本発明で用いられる防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0081】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、研磨用組成物を構成する成分(例えば、砥粒(A)、砥粒(B)およびpH調整剤を含む)および必要に応じて他の成分を、水等の溶媒または分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0082】
よって、本発明では、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を研磨する用途で使用される、研磨用組成物の製造方法であって、砥粒(A)と、砥粒(B)と、pH調整剤と混合することを有し、前記砥粒(B)は、pH6以下の水溶液中において負のゼータ電位を有し、かつ、前記砥粒(B)の平均二次粒子径の値が前記砥粒(A)の平均二次粒子径の値よりも小さく、15nm以下である砥粒であり、pHを6以下とする、研磨用組成物の製造方法も提供される。
【0083】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0084】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨に好適に用いられる。
【0085】
よって、本発明は、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を有する基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む基板の製造方法を提供する。
【0086】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0087】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0088】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10〜500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5〜10psiが好ましい。
【0089】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0090】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層を有する基板が得られる。
【0091】
[研磨速度を抑制する方法]
また、本発明では、上記説明より明らかなように、pH6以下の水溶液中において正のゼータ電位を示すpH領域がある物質を含む層の研磨速度を抑制する方法であって、上記研磨用組成物または上記製造方法で製造されてなる研磨用組成物で、上記層を研磨することを有する、上記研磨速度を抑制する方法が提供される。かかる発明の構成要件の具体的な説明は、上記で説明しているものが同様に妥当するので、ここでは説明は省略する。
【実施例】
【0092】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるものではない。
【0093】
(実施例1〜8、比較例1〜4)
研磨用組成物は、表1に示す組成で、砥粒(A)および砥粒(B)としてコロイダルシリカと、所定のpHになるように、pH調整剤として酸性側へはリン酸、アルカリ性側へは水酸化カリウムを水中で混合することにより得た(混合温度約25℃、混合時間:約10分)。なお、表1において“−”と表示されているものは、その剤を含んでいないこと示す。
【0094】
研磨用組成物のpHは、pHメータ(堀場製作所社製 型番F−72)により確認した。なお、pHは液温25℃で測定した。
【0095】
なお、表1に示す砥粒(砥粒(A)および砥粒(B))は全て、スルホン酸を表面に固定したシリカであり、”Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups“, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で作製されたものである。
【0096】
また、平均二次粒子径は、レーザー光を用いた光散乱法によって測定し、測定機器としては日機装株式会社製動的光散乱式粒度分布計UPA−UT151を用いた。
【0097】
得られた研磨用組成物を用い、研磨対象物を以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0098】
<研磨条件>
(1)研磨機: 片面CMP研磨機
(2)パッド: ポリウレタン製パッド
(3)圧力: 2psi(約28kPa)
(4)定盤回転数: 100rpm
(5)キャリア回転数: 100rpm
(6)研磨用組成物の流量: 100ml/min
(7)研磨時間:1分
研磨速度は、以下の式により計算した。
【0099】
研磨速度[Å/min]=1分間研磨した時の膜厚の変化量
直径200mmの酸化ケイ素膜ブランケットウェハを、実施例1〜8、および比較例1〜4の各研磨用組成物を用いて上記研磨条件に記載の条件で1分間研磨したときの酸化ケイ素の研磨速度を表1の酸化ケイ素の研磨速度の欄に示す。酸化ケイ素の研磨速度の値は、光干渉式膜厚測定装置を用いて測定される研磨前後の各ウェハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。
【0100】
直径200mmの窒化ケイ素膜ブランケットウェハを、実施例1〜8および比較例1〜4の各研磨用組成物を用いて上記研磨条件に記載の条件で1分間研磨したときの窒化ケイ素の研磨速度を表1の窒化ケイ素の研磨速度の欄に示す。窒化ケイ素の研磨速度の値は、光干渉式膜厚測定装置を用いて測定される研磨前後の各ウェハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。
【0101】
実施例1〜8および比較例1〜4の各研磨用組成物について上記したようにして求められる酸化ケイ素の研磨速度および同じ研磨用組成物による窒化ケイ素の研磨速度の値を表1に示す。
【0102】
なお実施例の研磨用組成物のpH領域(2〜4)において窒化ケイ素のゼータ電位は正であった。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、実施例1〜8の研磨用組成物を用いた場合には、砥粒(B)を加えていない比較例1の組成に比べて窒化ケイ素の研磨速度を低減する目的で満足に使用できるレベルの結果が得られている。
【0105】
より詳しく考察すると、実施例1〜3によれば、砥粒(B)の二次粒子径が小さくなることで、SiN表面により早く吸着しやすくなるためにSiN研磨レート低減効果が大きくなることが示唆される。他方で、実施例4によれば、pHを上げることによって、砥粒とTEOS間の相互作用(ファンデルワールス力)が下がるためにTEOS研磨レートが下がるが、SiNはゼータ電位がゼロに近づくことで砥粒とSiNの電気的引力が下がるためにSiN研磨レートが下がり、SiN研磨レートの抑制がより高いため、結果として高い選択比を実現することができる。他方で、実施例5によれば、砥粒(B)の二次粒子径を小さくすると、二次粒子径が小さく、TEOSに対するメカニカル作用が小さいためにTEOS研磨レートが下がり、同様の理由でSiN研磨レートが下がり、SiN研磨レートの抑制がより高いため、結果として高い選択比を実現することができることが示唆される。実施例6では、砥粒(A)の含有量が少なく機械的作用が小さいため、TEOS、SiN研磨レートが下がることが示唆される。また、実施例7〜8によれば、砥粒(B)の添加量を多くしてもSiN研磨レートを抑制することが示唆されている。
【0106】
これに対し、砥粒(B)の平均二次粒子径が15nmを超えている比較例2は窒化ケイ素の研磨速度を低減できていない。
【0107】
また、研磨用組成物のpHが6を超えている比較例3は窒化ケイ素の研磨速度のみならず酸化ケイ素の研磨速度も大きく低減されており、酸化ケイ素の研磨速度を維持しつつも窒化ケイ素の研磨速度を低減する目的で満足に使用できるレベルの結果が得られなかった。
【0108】
なお、本出願は、2014年3月20日に出願された日本国特許出願第2014−057480号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。