特許第6762476号(P6762476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762476
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】筒状体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 1/067 20060101AFI20200917BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20200917BHJP
   B81C 99/00 20100101ALI20200917BHJP
   F16F 1/06 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   G01R1/067 C
   G01R1/067 J
   B81B3/00
   B81C99/00
   F16F1/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-529281(P2019-529281)
(86)(22)【出願日】2019年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2019015569
(87)【国際公開番号】WO2019208216
(87)【国際公開日】20191031
【審査請求日】2019年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2018-86082(P2018-86082)
(32)【優先日】2018年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392019709
【氏名又は名称】日本電産リード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118496
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 耕三
(72)【発明者】
【氏名】山本 正美
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第7491069(US,B1)
【文献】 特表2009−527874(JP,A)
【文献】 特開2016−109664(JP,A)
【文献】 特許第4572303(JP,B1)
【文献】 特開2011−95254(JP,A)
【文献】 特開2010−257757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 1/067−1/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状のばね部が設けられた導電性部材からなる筒状体であって、
当該筒状体は、Ni金属層と、Wを含有するNi−W合金層とを有し、
当該Ni−W合金層の端部が、前記Ni金属層の外方に突出している筒状体。
【請求項2】
前記Ni−W合金層が、前記Ni金属層の外周面側に配設されている請求項1記載の筒状体。
【請求項3】
前記Ni−W合金層が、前記Ni金属層の内周面側に配設されている請求項1記載の筒状体。
【請求項4】
芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、
前記金めっき層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、
前記Ni金属層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、
前記Ni−W合金層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、
前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、
前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、
前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、
前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有する筒状体の製造方法。
【請求項5】
芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、
前記金めっき層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、
前記Ni−W合金層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、
前記Ni金属層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、
前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより、前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、
前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、
前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、
前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有する筒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象の検査に使用可能な筒状体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、極細の芯線の外周に、金めっき層、Ni電鋳層、及びレジスト層を形成した後、このレジスト層に螺旋状にレーザ光を照射して照射部分のレジスト層を除去し、次いでエッチングを行うことによりレジスト層が除去された部分のNi電鋳層を除去し、その後に芯線を除去することにより、螺旋状のばね部を有する接触端子を製造することが行われていた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようにして製造された接触端子は、検査対象の検査を行う際に、螺旋状のばね部が弾性変形することにより生じる復元力に応じ、接触端子の一端部が電極側に圧接されるとともに、接触端子の他端部が検査対象側に付勢される。これにより、電気的な導通が得られるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4572303号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上述のように構成された接触端子の一端部が圧接される電極に自然酸化膜が形成されると、電気的導通性が低下する可能性がある。このため、電極に金めっきを施して自然酸化膜が形成されるのを抑制し、あるいは電極の表面に形成された自然酸化膜を定期的に取り除く必要があった。
【0006】
本発明の目的は、簡単な構成で優れた電気的導通性が得られる筒状体、及びその製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の一例に係る筒状体は、螺旋状のばね部が設けられた導電性部材からなる筒状体であって、当該筒状体は、Ni金属層と、Wを含有するNi−W合金層とを有し、当該Ni−W合金層の端部が、前記Ni金属層の外方に突出している。
【0008】
また、本発明の一例に係る筒状体の製造方法は、芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、前記金めっき層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、前記Ni金属層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、前記Ni−W合金層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有している。
【0009】
また、本発明の一例に係る筒状体の製造方法は、芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、前記金めっき層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、前記Ni−W合金層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、前記Ni金属層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより、前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る筒状体を用いた接触端子の一実施形態を示す正面図である。
図2】接触端子を構成する筒状体の具体的構造を示す一部切欠き正面図である。
図3】本発明に係る筒状体の製造方法の第一実施形態を示す工程図である。
図4】筒状体の製造過程の第一段階を示す断面図である。
図5】筒状体の製造過程の第二段階を示す断面図である。
図6】筒状体の製造過程の第三段階を示す断面図である。
図7】筒状体の製造過程の第四段階を示す断面図である。
図8】筒状体の製造過程の第五段階を示す断面図である。
図9】筒状体の製造過程の第六段階を示す断面図である。
図10】筒状体の製造過程の第七段階を示す断面図である。
図11】筒状体と中心導体とからなる接触端子の構成を示す断面図である。
図12】接触端子を備えた検査治具の構成を示す断面図である。
図13】筒状体の端部を電極に対向させた状態を示す斜視図である。
図14】検査対象の検査状態を示す断面図である。
図15】電極がベースプレートの端面から突出した状態を示す断面図である。
図16】本発明に係る筒状体の製造方法の第二実施形態を示す工程図である。
図17】本発明の第二実施形態に係る筒状体の端部を電極に対向させた状態を示す斜視図である。
図18】電極がベースプレートの端面よりも内方側に没入した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(第一実施形態)
【0012】
図1は、接触端子1の一例を示す正面図、図2は、接触端子1を構成する本発明に係る筒状体2の具体的構造を示す一部切欠き正面図である。
【0013】
接触端子1は、図1に示すように、導電性を有する素材により円筒状等に形成された筒状体2と、導電性を有する素材により断面略円形の棒状に形成された中心導体3とを備えている。
【0014】
筒状体2は、図2に示すように、最内層の金めっき層4と、その外周面側に配設されたニッケル(以下、Niという)又はNiおよび所定量のリン(以下、Pいう)を含有するNi−P合金等からなるNi金属層5と、一定量のタングステン(以下、Wという)を含有するNi−W合金層6とにより構成されている。
【0015】
筒状体2の両端部を除く部分には、筒状体2の軸方向に伸縮する螺旋状のばね部51,61が、Ni金属層5及びNi−W合金層6にそれぞれ所定長さに亘って形成されている。なお、当実施形態では、後述のようにNi金属層5に形成されたばね部51の幅寸法w1が、Ni−W合金層6に形成されたばね部61の幅寸法w2よりも小さく形成されている。
【0016】
また、Ni−W合金層6の端部62は、金めっき層4及びNi金属層5の端面よりも一定距離だけ外方側に突出している。Ni−W合金層6の端部62の突出量は、1μm以上で、かつ筒状体2の外径の0.5倍以下であることが好ましい。
【0017】
図3は、本発明に係る筒状体2の製造方法の第一実施形態を示す工程図、図4図10は、筒状体2の製造過程の第一段階〜第七段階を示す断面図、図11は、筒状体2と中心導体3とからなる接触端子1の構成を示す断面図、図12は、接触端子1を備えた検査治具8の構成を示す断面図、図13は、筒状体2の端部62を電極85に対向させた状態を示す斜視図、図14は、検査対象9の検査状態を示す断面図、図15は、電極85がベースプレート83の端面から突出した状態を示す断面図である。
【0018】
本発明に係る筒状体2の製造方法は、図3に示すように、後述する芯線10の外周面に金めっき層4を形成する金めっき層形成工程K1と、金めっき層4の外周面にNi金属層5を形成するNi金属層形成工程K2と、Ni金属層5の外周面にWを含有するNi−W合金層6を形成するNi−W合金層形成工程K3と、Ni−W合金層6の外周面にレジスト層7を形成するレジスト層形成工程K4と、レジスト層7に螺旋溝71を形成する螺旋溝形成工程K5と、レジスト層7をマスキング材としたエッチングにより螺旋溝71の形成部分に位置するNi金属層5及びNi−W合金層6を除去するとともに、Ni金属層5とNi−W合金層6のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層6の端部62をNi金属層5の外方に突出させる金属層除去工程K6と、レジスト層7を除去するレジスト層除去工程K7と、レジスト層7の螺旋溝71の形成部分に位置する金めっき層4を除去する金めっき層除去工程K8と、芯線10を引き抜く芯線引抜工程K9とを有している。
【0019】
金めっき層形成工程K1では、ステンレス鋼又はアルミニウム合金等の鋼線、又はナイロン樹脂又はポリエチレン樹脂等の合成樹脂製の線材からなる芯線10の表面に、図4に示すように、0.2μm〜1μm程度の厚みを有する金めっき層4を形成する。なお、芯線10は、5μm以上、例えば30μm程度の極細の外径を有するものを使用することが可能である。また、芯線10として合成樹脂製の線材を使用した場合には、無電解めっきにより金めっき層4を形成することが好ましい。
【0020】
次いで、Ni金属層形成工程K2において、図外の電鋳装置を使用して金めっき層4の外周面に電鋳処理を施すことにより、図5に示すように、Ni、又は0.5重量%〜10重量%のPを含有するNi−P合金等からなるNi金属層5を、金めっき層4の外周面に形成する。Ni金属層5は、その厚さが4μm〜15μm程度に設定されている。
【0021】
また、Ni−W合金層形成工程K3において、図外の電鋳装置を使用してNi金属層5の外周面に電鋳処理を施すことにより、図6に示すように、例えば10重量%〜90重量%のWを含有するNi−W合金からなるNi−W合金層6を形成する。Ni−W合金層6は、その厚さが2μm〜8μm程度に設定され、Ni金属層5よりも薄肉に形成されている。
【0022】
さらに、レジスト層形成工程K4において、金めっき層4、Ni金属層5及びNi−W合金層6が形成された芯線10を、フォトレジスト液が収容されたフォトレジスト漕内に所定時間浸漬する。これにより、図7に示すように、Ni−W合金層6の外周面にレジスト層7が形成される。
【0023】
次いで、螺旋溝形成工程K5において、芯線10を一定速度で回転させるとともに、図外のレーザ照射装置を芯線10の軸線方向に移動させつつ、レーザ光を照射することにより、図8に示すように、レジスト層7に螺旋溝71を形成する。
【0024】
そして、金属層除去工程K6において、外周にレジスト層7が形成された芯線10を、酸性の電解研磨溶液中に浸漬し、Ni−W合金層6の外周部に残存したレジスト層7をマスキング材としてエッチングを行うことにより、螺旋溝71の形成部分に位置するNi金属層5及びNi−W合金層6を除去する。この結果、図9に示すように、レジスト層7の螺旋溝71に沿って螺旋状に延びるばね部51及びばね部61が、Ni金属層5及びNi−W合金層6にそれぞれ形成される。
【0025】
上述の製造法によれば、Ni−W合金層6が、Ni金属層5の外周面側に配設されるとともに、Ni−W合金層6の端部62がNi金属層5の外方に突出し、優れた電気的導通性を有する筒状体2を容易に製造することができる。
【0026】
すなわち、一定量のWを含有するNi−W合金層6は、Ni金属層5に比べて優れた耐食性を有しているため、Ni−W合金層6のエッチング速度は、Ni金属層5よりも遅くなる傾向がある。したがって、電解研磨溶液への浸漬時間が同じであっても、Ni金属層5の端部が、Ni−W合金層6の端部62よりも大きく浸食され、これによって、Ni−W合金層6の端部62がNi金属層5の外方に突出した状態となる。
【0027】
また、同様にして、螺旋溝71の形成部分に位置するNi金属層5は、Ni−W合金層6よりも顕著に浸食されるため、Ni金属層5に形成されたばね部51の幅寸法w1が、Ni−W合金層6に形成されたばね部61の幅寸法w2よりも小さくなる(図2参照)。
【0028】
次いで、レジスト層除去工程K7において、レジスト層除去液等を使用してレジスト層7を溶解させて除去するとともに、金めっき層除去工程K8において、超音波洗浄法等により螺旋溝71の形成部分に位置する金めっき層4を除去する(図10参照)。
【0029】
芯線引抜工程K9において、芯線10を引っ張ってその外径を縮小させることにより、金めっき層4から芯線10を剥離させて引き抜くようにする。この結果、図2に示すように、金めっき層4が内周面に設けられたNi金属層5と、その外周面側に配設されたNi−W合金層6とを有する筒状体2が製造される。
【0030】
一方、中心導体3は、筒状体2内に挿入可能な外径を有する断面円形の棒状体からなり、中心導体3の一端部には、先窄まり形状の接続部31が形成されている。そして、中心導体3の本体部が筒状体2内に挿入されるとともに、接続部31を含む中心導体3の先端部が筒状体2外に所定距離だけ突出した状態で、図11に示すように、筒状体2と中心導体3とが、カシメ加工、溶接、圧入、その他の方法で一体に連結される等により、筒状体2と中心導体3とを備えた接触端子1が製造される。
【0031】
上述のようにして製造された接触端子1は、図12に示すように、検査治具8を構成する支持部材81及びベースプレート83に支持される。この検査治具8は、例えばガラスエポキシ基板、フレキシブル基板、セラミック多層配線基板、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ用の電極板、タッチパネル用等の透明導電板、及び半導体パッケージ用のパッケージ基板やフィルムキャリア、又は半導体ウェハや半導体素子等の半導体基板等からなる検査対象9の検査等に使用される。
【0032】
支持部材81は、例えば板状の支持プレート81a,81b,81cが積層されることにより構成されている。そして、支持プレート81a,81b,81cを貫通するように、複数の貫通孔Hが形成されている。
【0033】
支持プレート81b及び支持プレート81cには、所定径の開口孔からなる挿通孔部Haがそれぞれ形成されている。また、支持プレート81aには、挿通孔部Haよりも小径の貫通孔からなる小径部Hbが、検査対象9である基板等の被検査点91と対向する部位に形成されている。支持プレート81aの小径部Hbと、支持プレート81b及び支持プレート81cの挿通孔部Haとが連通されることにより、接触端子1の設置部となる貫通孔Hが形成されている。
【0034】
なお、支持部材81は、板状の支持プレート81a,81b,81cが積層されて構成される例に限らず、例えば一体の部材に、小径部Hb及び挿通孔部Haからなる貫通孔Hが設けられた構成としてもよい。また、支持部材81の支持プレート81b,81cが互いに積層された例に代え、支持プレート81bと支持プレート81cとが互いに離間して配設された状態で、例えば支柱等により連結された構成としてもよい。
【0035】
支持プレート81cの一端側には、例えば絶縁性の樹脂材料からなるベースプレート83が配設される。このベースプレート83により貫通孔Hの開口部、つまり挿通孔部Haの端面が閉塞されようになっている。ベースプレート83には、貫通孔Hに対向する位置において、ベースプレート83を貫通するように配線84が取り付けられている。そして、図13に示すように、配線84の端面からなる電極85が、接触端子1の筒状体2に対向するように配置されている。
【0036】
基板等からなる検査対象9の検査時には、図14に示すように、支持部材81に支持された接触端子1の一端部、具体的には、筒状体2を構成するNi−W合金層6の端部62が、ベースプレート83に設けられた電極85に当接する。また、接触端子1の他端部、具体的には、中心導体3の接続部31が、検査対象9に設けられた配線パターンや半田バンプ等の被検査点91に当接する。
【0037】
そして、接触端子1に作用する圧力に応じて、筒状体2のばね部、具体的にはNi金属層5のばね部11及びNi−W合金層6のばね部61が圧縮されて弾性変形した状態となる。この結果、筒状体2の復元力に応じて、その一端部が電極85に圧接されて接触端子1の基端部と電極85とが導通接続される。また、中心導体3の接続部31が被検査点91に弾性的に圧接されて接触端子1の先端部と被検査点91とが導通接続される。
【0038】
このように、接触端子1は、螺旋状のばね部51,61が設けられた導電性部材からなる筒状体2を備え、筒状体2がNi金属層5と、Wを含有するNi−W合金層6とを有し、Ni−W合金層6の端部62が、Ni金属層5の外方に突出するように設置されているため、簡単な構成で優れた電気的導通性が得られるという利点がある。
【0039】
すなわち、筒状体2を構成するNi金属層5及びNi−W合金層6の両方を電極85に接触させる場合に比べて、筒状体2と電極85との接触面積が大幅に低減されて、両者の接触圧力を十分に高めることができる。しかも、一定量のWを含有するNi−W合金層6は、Ni金属層5等に比べて硬度が顕著に高いという特性を有しているため、電極85の表面に自然酸化膜が形成されている場合に、この自然酸化膜を突き破って接触端子1と電極85とを導通接続させる確実性が増大する。
【0040】
したがって、従来技術のように、電極85に金めっきを施して自然酸化膜が形成されるのを抑制したり、電極85の表面に形成された自然酸化膜を定期的に取り除く等の作業を行ったりすることなく、接触端子1と電極85とを導通接続させた状態で、検査対象9の検査を適正に行うことが容易である。
【0041】
例えば、Ni−W合金層6を構成するWの含有量を10重量%以上に設定することにより、Ni−W合金層6の硬度を効果的に高めることができる。また、Ni−W合金層6におけるWの含有量を90重量%未満に設定することにより、Ni−W合金層6の強度を十分に維持することができる。
【0042】
タングステンの含有率が高いと、Ni−W合金層6の抵抗値が高くなるため、Ni−W合金層6におけるWの含有量は10〜70重量%がさらに望ましい。また、タングステンの含有率が高い方が、NiもしくはNi合金と、Ni−Wとのエッチング量の差が大きくなるので、Ni−W合金層6におけるWの含有量は30〜70重量%がさらに望ましい。
【0043】
Ni−W合金層6におけるWの含有量は、Ni−W合金層6の表面をエネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定する。この測定方法は、Ni−W合金層6の所定のポイントを設定し、複数のポイントの平均により算出する。所定のポイントは、特に限定されるものではないが、例えば、Ni−W合金層6の長さ方向に等間隔で定めたポイントに設定することもできる。また、図1で示される如く、ばね部61と、ばね部61を挟んで形成されている二つの筒状部から1又はそれ以上のポイントを夫々設定することもできる。具体的には、Ni−W合金層6が露出した状態で表面をEDX測定する。後述する図17の接触端子1aにおいては、端部62a付近のNi−W合金層6aの露出部分の表面、又はNi金属層5aを剥離させて露出させたNi−W合金層6aの表面を測定すればよい。測定前に、対象物の表面をエタノール洗浄する。測定は例えば、SEMとEDXとを組み合わせた装置を使用することができる。電子ビームは、15kV、80μAとする。W含有量は、長さ方向(パイプ軸方向)に5ポイント測定し、その平均値として算出する。
【0044】
また、上述の第一実施形態に示すように、Ni−W合金層6が、Ni金属層5の外周面側に配設された構成によれば、電極85に当接する端部62が設けられたNi−W合金層6を、その内面側に配設されたNi金属層5により効果的に補強することにより、筒状体2の強度及び弾力性を十分に維持することができる。
【0045】
しかも、Ni金属層5は、Ni−W合金層6に比べて高い導電性を有しているため、筒状体2の端部を除いて、接触端子1を通る電流の大半がNi金属層5を流れることになる。したがって、筒状体2が、Ni金属層5とNi−W合金層6とを有する複数層構造とされることにより、接触端子1の電気抵抗が上昇するのを効果的に抑制できるという利点がある。特に、上述の実施形態に示すように、Ni−W合金層6の厚さをNi金属層5よりも薄肉に形成した場合には、接触端子1の電気抵抗が上昇するのを、より効果的に抑制することができる。
【0046】
さらに、図15に示すように、配線84の端面からなる電極85がベースプレート83の端面から突出している場合、又は電極85とベースプレート83の端面とが面一に形成されている場合において、Ni−W合金層6が、Ni金属層5の外周面側に配設された構成とすることにより、Ni−W合金層6の端部62と電極85との接触範囲を広範囲に設定することができる。この結果、筒状体2と電極85との電気的導通性を良好に維持しつつ、電極85に打痕が形成されること等を効果的に抑制できるという利点がある。
【0047】
なお、0.5重量%〜10重量%のPを含有するNi−P合金からなるNi金属層5は、150℃以上の高温下においても、塑性変形しにくいという特性を有している。このため、Ni金属層5を、0.5重量%〜10重量%のPを含有するNi−P合金により構成することにより、筒状体2の強度及び弾力性を、より向上させることができる。
【0048】
また、上述のようにNi−W合金層6の端部62の突出量を1μm以上に設定した場合には、Ni金属層5が電極85に接触するのを抑制して、Ni−W合金層6の端部62を電極85に接触させることができる。しかも、上述のようにNi−W合金層6の端部62の突出量を筒状体2の外径の0.5倍以下に設定することにより、筒状体2の電気抵抗の増大を低減できるとともに、電極85にNi−W合金層6の端部62を接触させる際等に、このNi−W合金層6の端部62が折損するおそれを低減できるという利点がある。
【0049】
なお、図3に示す筒状体の製造方法において、金めっき層形成工程K1と、金めっき層除去工程K8とを省略し、芯線10の外周面にNi金属層5を電鋳により形成し、Ni金属層5の内周面に位置する金めっき層4を省略した構造としてもよい。
(第二実施形態)
【0050】
図16は、本発明の第二実施形態に係る筒状体の製造方法を示す工程図、図17は、本発明の第二実施形態に係る筒状体2aを用いた接触端子1aの構成を示す斜視図、図18は、電極85がベースプレート83の端面よりも内方側に没入した状態を示す断面図である。
【0051】
第二実施形態に係る筒状体の製造方法では、芯線の外周面に金めっき層4を形成する金めっき層形成工程K1と、金めっき層4の外周にWを含有するNi−W合金層6aを形成するNi−W合金層形成工程K2aと、Ni−W合金層6aの外周面にNi金属層5aを形成するNi金属層形成工程K3aと、Ni金属層5aの外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程K4と、このレジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程K5と、レジスト層をマスキング材としたエッチングにより前記螺旋溝の形成部分に位置するNi金属層5a及びNi−W合金層6aを除去するとともに、Ni金属層5及びNi−W合金層6のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層6aの端部をNi金属層5aの外方側に突出させる金属層除去工程K6と、レジスト層を除去するレジスト層除去工程K7と、前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層4を除去する金めっき層除去工程K8と、芯線を引き抜く芯線引抜工程K9とを有している。
【0052】
第二実施形態に係る筒状体の製造方法によれば、金めっき層形成工程K1で形成された金めっき層4の外周面に、図17に示すようにNi−W合金層6aが形成されるとともに、その外周面にNi金属層5aが形成された筒状体2aが製造される。この筒状体2aは、Ni−W合金層6aがNi金属層5aの内周面側に配設されている点で、Ni−W合金層6がNi金属層5の外周面側に配設された上述の第一実施形態と異なっている。
【0053】
このようにNi−W合金層6aがNi金属層5aの内周面側に配設されている場合には、第一実施形態に係る筒状体2に比べて、Ni−W合金層6aの端部62aが筒状体2aの軸心近くに位置することになる。このため、Ni−W合金層6aの端部62aと、電極85との位置合わせが容易であるという利点がある。
【0054】
例えば、図18に示すように、電極85がベースプレート83の端面よりも内方側に没入している場合において、筒状体2の軸心と電極85の軸心との間に大きな位置ずれが生じると、Ni−W合金層6aがベースプレート83の端面に当接して、電極85とNi−W合金層6aとを接触させることができない可能性がある。しかし、第二実施形態のように、Ni−W合金層6aを筒状体2aの内方側に位置させた場合には、第一実施形態のようにNi−W合金層6を筒状体2の外方側に位置させた場合に比べて、Ni−W合金層6aがベースプレート83の端面に当接するのを極力、抑制することができる。したがって、上述のようにNi−W合金層6aをNi金属層5aの内周面側に配設することにより、電極85とNi−W合金層6aとを接触させるための位置合わせを容易に行うことができる。
【0055】
なお、図16に示す接触端子の製造方法において、金めっき層形成工程K1と、金めっき層除去工程K8とを省略し、芯線の外周面にNi−W合金層6aを電鋳により形成し、Ni−W合金層6aの内周面に位置する金めっき層4を省略した構造としてもよい。
【0056】
また、筒状体2,2aは、必ずしも接触端子の構成部材として用いられる例に限らず、種々の用途に使用可能である。また、必ずしも筒状体2,2aと中心導体3とを組み合わせる例に限られず、筒状体2,2aをそのまま接触端子として用いてもよい。
【0057】
すなわち、本発明の一例に係る筒状体は、螺旋状のばね部が設けられた導電性部材からなる筒状体であって、当該筒状体は、Ni金属層と、Wを含有するNi−W合金層とを有し、当該Ni−W合金層の端部が、前記Ni金属層の外方に突出している。
【0058】
この構成によれば、筒状体と電極と接触面積が大幅に低減されて、両者の接触圧力を十分に高めることができる。しかも、一定量のWを含有するNi−W合金層は、Ni、又はNi−P合金等からなるNi金属層等に比べて硬度が顕著に高いという特性を有しているため、電極の表面に自然酸化膜が形成されている場合でも、この自然酸化膜を突き破って筒状体と電極とを導通接続させることが容易である。
【0059】
また、前記Ni−W合金層が、前記Ni金属層の外周面側に配設された構成とすることが好ましい。
【0060】
この構成によれば、電極に当接する端部が設けられたNi−W合金層を、電気抵抗の低いNi金属層により効果的に補強することができる。したがって、筒状体の導電性を良好に維持しつつ、筒状体の強度及び弾力性を十分に維持することができる。
【0061】
また、前記Ni−W合金層が、前記Ni金属層の内周面側に配設された構成としてもよい。
【0062】
この構成によれば、Ni−W合金層の端部が筒状体の軸心近くに位置することになるため、電極がベースプレート内に没入している場合においても、Ni−W合金層の端部と、電極との位置合わせが容易であるという利点がある。
【0063】
また、本発明の一例に係る筒状体の製造方法は、芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、前記金めっき層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、前記Ni金属層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、前記Ni−W合金層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有している。
【0064】
この構成によれば、Ni−W合金層が、Ni金属層の外周面側に配設されるとともに、Ni−W合金層の端部がNi金属層の外方に突出した筒状体を備え、優れた電気的導通性を有する筒状体を容易に製造することができる。
【0065】
また、本発明の一例に係る筒状体の製造方法は、芯線の外周面に金めっき層を形成する金めっき層形成工程と、前記金めっき層の外周面にWを含有するNi−W合金層を形成するNi−W合金層形成工程と、前記Ni−W合金層の外周面にNi金属層を形成するNi金属層形成工程と、前記Ni金属層の外周面にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層に螺旋溝を形成する螺旋溝形成工程と、前記レジスト層をマスキング材としてエッチングを行うことにより、前記螺旋溝の形成部分に位置する前記Ni金属層及び前記Ni−W合金層を除去するとともに、前記Ni金属層と前記Ni−W合金層のエッチング速度の違いに応じてNi−W合金層の端部を前記Ni金属層の外方に突出させるように前記Ni金属層の端部を浸食する金属層除去工程と、前記レジスト層を除去するレジスト層除去工程と、前記螺旋溝の形成部分に位置する金めっき層を除去する金めっき層除去工程と、前記芯線を引き抜く芯線引抜工程とを有している。
【0066】
この構成によれば、Ni−W合金層が、Ni金属層の内周面側に配設されるとともに、Ni−W合金層の端部がNi金属層の外方に突出した筒状体を備え、Ni−W合金層の端部と、電極との位置合わせが容易な筒状体を容易に製造することができる。
【0067】
このような構成の筒状体は、簡単な構成で優れた電気的導通性を得ることが容易である。また、上述の筒状体の製造方法によれば、優れた電気的導通性を有する筒状体を容易に製造することができる。
【0068】
この出願は、2018年4月27日に出願された日本国特許出願特願2018−086082を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。なお、発明を実施するための形態の項においてなされた具体的な実施態様又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、本発明は、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではない。
【符号の説明】
【0069】
1,1a 接触端子
2,2a 筒状体
3 中心導体
4 金めっき層
5,5a Ni金属層
6,6a Ni−W合金層
7 レジスト層
8 検査治具
9 検査対象
10 芯線
31 接続部
51 Ni金属層のばね部
61 Ni−W合金層のばね部
62,62a Ni−W合金層の端部
71 レジスト層の螺旋溝
81 支持部材
81a,81b,81c 支持プレート
83 ベースプレート
84 配線
85 電極
91 被検査点
H 貫通孔
Ha 挿通孔部
Hb 小径部
K1 金めっき層形成工程
K2 Ni金属層形成工程
K2a Ni−W合金層形成工程
K3 Ni−W合金層形成工程
K3a Ni金属層形成工程
K4 レジスト層形成工程
K5 螺旋溝形成工程
K6 金属層除去工程
K7 レジスト層除去工程
K8 金めっき層除去工程
K9 芯線引抜工程
w1,w2 ばね部の幅寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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