【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成26年度科学技術試験研究委託事業「免疫機構をターゲットとした創薬(次世代型遺伝子改変T細胞による新規がん免疫療法の開発)」に係る再委託研究、および国立研究開発法人日本医療研究開発機構、平成27年度次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム「免疫機構をターゲットとした創薬(次世代型遺伝子改変T細胞による新規がん免疫療法の開発)」に係る再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
POLI T et al.,Proteoglycans as potential markers of the biological behaviour of head and neck carcinomas: Interim,Oral Oncology,2011年 7月,vol.47, Supp.1,S38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グリピカン−1(GPC−1)に結合する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び1つ又は複数個の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体をコードする核酸であって、少なくとも1つの細胞内ドメインが、一次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインであり、前記キメラ抗原受容体が、二次細胞質シグナル伝達配列を含む、同一又は異なっている、1つ又は複数個の細胞内ドメインをさらに含む、上記キメラ抗原受容体をコードする核酸。
抗GPC−1抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列又は同一の機能を有する、95%以上の同一の塩基配列を含み、及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列が配列番号2に記載の塩基配列又は同一の機能を有する、95%以上の同一の塩基配列を含む、請求項2に記載の核酸。
ITAMを含む細胞内ドメインが、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、又はCD66d由来である、請求項4に記載の核酸。
二次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインが、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD28、CD134、CD137、ICOS、及び/又はCD154由来である、請求項5又は6に記載の核酸。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、固形腫瘍、例えば、扁平上皮癌に対するCAR−T療法に使用することができる核酸配列、該核酸配列を含む遺伝子改変T細胞、扁平上皮癌を治療及び/又は予防する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従前、グリピカン−1(GPC−1)が固形腫瘍である食道癌、肺癌、子宮頸癌などの扁平上皮癌に特異的に発現していることを見出し、抗GPC−1抗体を作製した(WO2015/098112)。さらに、この抗GPC−1抗体の遺伝子を用いて、抗GPC−1−CAR−T細胞を作製することに成功し、該CAR−T細胞が、固形腫瘍に対して、GPC−1特異的に非常に高い細胞傷害活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]グリピカン−1(GPC−1)に結合する細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び1つ又は複数個の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体をコードする核酸であって、少なくとも1つの細胞内ドメインが、一次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインである、上記キメラ抗原受容体をコードする核酸。
[2]GPC−1に結合する細胞外ドメインが、抗GPC−1抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含む、上記[1]に記載の核酸。
[3]抗GPC−1抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列又は同一の機能を有する、95%以上の同一の塩基配列を含み、及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列が配列番号2に記載の塩基配列又は同一の機能を有する、95%以上の同一の塩基配列を含む、上記[2]に記載の核酸。
[4]一次細胞質シグナル伝達配列が、免疫受容体チロシンベース活性モチーフ(
ITAM)を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の核酸。
[5]ITAMを含む細胞内ドメインが、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、又はCD66d由来である、上記[4]に記載の核酸。
[6]キメラ抗原受容体が、二次細胞質シグナル伝達配列を含む、同一又は異なっている、1つ又は複数個の細胞内ドメインをさらに含む、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の核酸。
[7]二次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインが、一次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインのN末端側に配置される、上記[6]に記載の核酸。
[8]二次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインが、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD28、CD134、CD137、ICOS、及び/又はCD154由来である、上記[6]又は[7]に記載の核酸。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸によってコードされたキメラ抗原受容体。
[10]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸を含むベクター。
[11]上記[10]に記載のベクターを用いて遺伝子導入されたキメラ抗原受容体を発現する細胞。
[12]細胞がT細胞又はT細胞を含有する細胞集団である、上記[11]に記載の細胞。
[13]GPC−1を発現している固形腫瘍を治療及び/又は予防するための、上記[12]に記載の細胞を含む細胞製剤。
[14]固形腫瘍が扁平上皮癌である、上記[13]に記載の細胞製剤。
[15]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸、[9]に記載のキメラ抗原受容体、[10]に記載のベクター、又は[11]若しくは[12]に記載の細胞と、医薬として許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
[16]GPC−1を発現している固形腫瘍を治療及び/又は予防するための、上記[15]に記載の医薬組成物。
[17]固形腫瘍が扁平上皮癌である、上記[16]に記載の医薬組成物。
[18]GPC−1を発現している固形腫瘍を治療及び/又は予防するための薬剤の製造における、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸、[9]に記載のキメラ抗原受容体、[10]に記載のベクター、又は[11]若しくは[12]に記載の細胞の使用。
[19]固形腫瘍が扁平上皮癌である、上記[18]に記載の使用。
[20]治療を必要とする対象に、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の核酸、[9]に記載のキメラ抗原受容体、[10]に記載のベクター、[11]若しくは[12]に記載の細胞、[13]若しくは[14]に記載の細胞製剤、又は[15]〜[17]のいずれかに記載の医薬組成物を投与することを特徴とする、GPC−1を発現している固形腫瘍を治療及び/又は予防する方法。
[21]固形腫瘍が扁平上皮癌である、上記[20]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、扁平上皮癌を対象とした、GPC−1抗原を標的にした養子免疫遺伝子治療の分野において有用なキメラ抗原受容体、キメラ抗原受容体をコードする核酸及びキメラ抗原受容体を発現する細胞が提供される。本発明のキメラ抗原受容体が導入された細胞は、扁平上皮癌細胞に高い特異性と細胞傷害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、グリピカン−1(GPC−1)を特異的に発現している扁平上皮癌を治療するためのキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor;CAR)−T細胞を提供し、該細胞を用いた免疫療法に関する。ここで、「キメラ抗原受容体T細胞」(以下、単に「CAR−T細胞」とも言う。)とは、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させたT細胞を意味する。CARは、例えば、腫瘍抗原に特異的なモノクローナル抗体の可変領域の重鎖(VH)と軽鎖(VL)を結合させた単鎖抗体(scFv)をN末端側に有し、T細胞受容体(TCR)ζ鎖をC末端に有するキメラタンパク質の総称である。CARを発現させたT細胞は、scFv領域で腫瘍抗原を認識した後、その認識シグナルが、引き続きζ鎖を介してT細胞内に伝達される。さらに、T細胞の活性化を増強するために、免疫抗原受容体において、scFvとζ鎖の間に共刺激ドメインが組み込まれてもよい。
【0013】
本明細書において使用するとき、用語「単鎖抗体(scFv)」とは、抗原との結合能力を保持した、抗体由来の一本鎖ポリペプチドを意味する。例えば、組換えDNA技術により形成され、スペーサー配列を介して免疫グロブリン重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)フラグメントのFv領域を連結した抗体ポリペプチドが例示される。scFvの各種作製方法が公知であり、例えば、米国特許第4694778号;Science,242,423−442(1988);Nature,334,54454(1989)に記載されている方法が挙げられる。
【0014】
本明細書において使用するとき、用語「ドメイン」とは、ポリペプチド内の一領域であって、他の領域とは独立して特定の構造に折りたたまれる(フォールディングされる)領域を意味する。本明細書において、「ドメイン」は、キメラ抗原受容体分子内の位置により、「細胞外ドメイン」、「膜貫通ドメイン」、及び「細胞内ドメイン」のように使用される。
【0015】
(1)本発明のキメラ抗原受容体(CAR)
本発明のCARは、N末端側から順に、(i)グリピカン−1(GPC−1)に結合する細胞外ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、及び(c)少なくとも1つの細胞内ドメインを含むことを特徴とする。本発明のCARは、細胞において発現量が高く、本発明のCARを発現する細胞は、細胞の増殖率、サイトカインの産生量が高く、CARが結合するGPC−1抗原を表面に有する細胞に対して高い特異性と細胞傷害活性を有する。
【0016】
(a)細胞外ドメイン
本発明のCARに使用される「グリピカン−1(GPC−1)に結合する細胞外ドメイン」は、標的とするGPC−1抗原に結合することができるオリゴ又はポリペプチドを含むドメインであり、典型的には、抗GPC−1抗体の抗原結合ドメインが含まれる。このドメインは、GPC−1抗原、例えば、癌細胞表面に局在するGPC−1抗原と結合し、相互作用することにより、CARを発現する細胞に特異性を付与する。本発明において、特に有用な細胞外ドメインとしては、抗体(重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖))、特に、抗原に結合するドメイン、例えば、抗体Fabフラグメント、抗体可変領域(重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL))を使用することができる。特にscFvが好適に使用できる。また、scFvにおいて、VH及びVLを互いに任意の順で直接的に連結させたものであってもよく、又はスペーサーを介して間接的に連結させたものであってもよい。ここで、VH及びVLを連結させるために使用されるスペーサーのアミノ酸配列及び鎖長は限定されず、適宜調整して選択することができる。具体的な態様において、本発明に使用される細胞外ドメインとしては、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を任意の順番で含むscFvを有することが好ましい。
【0017】
本発明のCARの細胞外ドメインは、GPC−1抗原に結合する性質を有するが、このような細胞外ドメインとしては、上記の通り、抗GPC−1抗体のscFvが好ましい。ここで、本発明に使用されるscFvの由来となる抗GPC−1抗体は、従前、本発明者らによって作製された抗GPC−1抗体(PCT/JP2014/006455)であってもよく、又は、GPC−1を抗原として、公知の技術を用いて新たに作製したモノクローナル抗GPC−1抗体であってもよい。
【0018】
一態様において、本発明に使用される細胞外ドメインは、上述したGPC−1抗原に結合する性質を有する細胞外ドメインに、そのC末端側で直接的に又はスペーサーを介して間接的に更なる他の細胞外ドメインを連結させてもよい。このような他の細胞外ドメインとしては、後述する共刺激分子の細胞外ドメインを利用することもできる。
【0019】
(b)膜貫通ドメイン
本発明のCARは、膜貫通ドメインを含む。膜貫通ドメインは、天然のポリペプチドに由来するものでもよく、人為的に設計したものでもよい。天然のポリペプチド由来の膜貫通ドメインは、任意の膜結合又は膜貫通タンパク質(例えば、共刺激分子など)から取得することができる。本明細書で使用するとき、「共刺激分子」とは、標的細胞膜上の共刺激リガンドに特異的に結合し、それによって、細胞増殖、細胞溶解活性、サイトカイン分泌などのT細胞による共刺激応答を媒介する、T細胞上の同族結合パートナーを意味する。典型的な共刺激分子として、例えば、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD28、CD134、CD137、ICOS、及びCD154の膜貫通ドメインを使用することができる。また、人為的に設計された膜貫通ドメインは、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含むポリペプチドである。また、フェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが、合成膜貫通ドメインの各末端に見出されることが好ましい。場合により、短いオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカー、例えば長さが2〜10個のアミノ酸配列からなるリンカーを、膜貫通ドメインと後述の細胞内ドメインとの間に配置することができる。
【0020】
本発明の一態様として、膜貫通ドメインは、CD28(例えば、NCBI RefSeq:NP
006130.1のアミノ酸番号153〜179)の配列を有する膜貫通ドメインが使用され得る。
【0021】
本発明のCARは、細胞外ドメインと膜貫通ドメインの間、又は細胞内ドメインと膜貫通ドメインの間に、スペーサードメインを配置することができる。スペーサードメインは、膜貫通ドメインと細胞外ドメイン及び/又は膜貫通ドメインと細胞内ドメインとを連結する働きをする任意のオリゴペプチド又はポリペプチドを意味する。スペーサードメインは、300個までのアミノ酸、好ましくは10〜100個のアミノ酸、最も好ましくは25〜50個のアミノ酸を含む。
【0022】
(c)細胞内ドメイン
本発明に使用される細胞内ドメインは、同一分子内に存在する細胞外ドメインが、抗原と結合(相互作用)した際に、細胞内にシグナルを伝達することが可能な分子である。本発明のCARは、細胞内ドメインとしてCD3ζ細胞内ドメインを含むことを特徴の1つとする。CD3は、T細胞受容体(TCR)に会合する膜貫通型ポリペプチドであり、TCR−CD3複合体を形成する。CD3は、ポリペプチドとしてγ、δ、ε、ζ鎖を有し、ヘテロ二量体又はホモ二量体を形成する。いずれのポリペプチドも、その塩基配列及びアミノ酸配列は公知である。したがって、本発明においては、CD3ζ細胞内ドメインの塩基配列に関する情報は、一般に利用可能な塩基配列データベースを用いてCD3のcDNA配列等を検索することにより得ることができる。
【0023】
また、CD3ζ細胞内ドメインは、同一の機能を有するその変異体も含んでもよい。ここで、用語「変異体」は、1個又は数個〜複数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を含む任意の変異体を意味するが、該変異体は、野生型と同一の機能を保持することが好ましい。
【0024】
一般に、TCR複合体のみを介して発生されたシグナルは、T細胞の活性化に不十分であることが多いため、二次シグナル(又は共刺激シグナル)を必要とする場合がある。天然のT細胞活性化は、2つの異なる種類の細胞質シグナル伝達配列、すなわちTCR複合体を介して抗原依存的一次活性化を開始させる配列(一次細胞質シグナル伝達配列)及び抗原非依存的に作用して二次又は共刺激シグナルを提供する配列(二次細胞質シグナル伝達配列)によって伝達されている。好ましい態様において、本発明のCARは、細胞内ドメインとして、上記一次細胞質シグナル伝達配列及び/又は二次細胞質シグナル伝達配列を含む。
【0025】
一次細胞質シグナル伝達配列は、TCR複合体の一次活性化を調節する。活性化を刺激する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含むことがある(Nature,338,383−384,1989参照)。一方、抑制的に作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)として知られるシグナル伝達モチーフを含む(J Immunol.,162,897−902,1999参照)。本発明では、ITAM、又は場合によりITIMを有する細胞内ドメインを使用してもよい。
【0026】
本発明において使用され得るITAMを有する細胞内ドメインは、限定されないが、CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するITAMを包含する。具体的には、CD3ζ(NCBI RefSeq:NP
932170.1)のアミノ酸番号51〜164、FcεRIγ(NCBI RefSeq:NP
004097.1)のアミノ酸番号45〜86、FcεRIβ(NCBI RefSeq:NP
000130.1)のアミノ酸番号201〜244、CD3γ(NCBI RefSeq:NP
000064.1)のアミノ酸番号139〜182、CD3δ(NCBI RefSeq:NP
000723.1)のアミノ酸番号128〜171、CD3ε(NCBI RefSeq:NP
000724.1)のアミノ酸番号153〜207、CD5(NCBI RefSeq:NP
055022.2)のアミノ酸番号402〜495、CD22(NCBI RefSeq:NP
001762.2)のアミノ酸番号707〜847、CD79a(NCBI RefSeq:NP
001774.1)のアミノ酸番号166〜226、CD79b(NCBI RefSeq:NP
000617.1)のアミノ酸番号182〜229、CD66d(NCBI RefSeq:NP
001806.2)のアミノ酸番号177〜252の配列を有するペプチド及びこれらと同一の機能を有するその変異体が挙げられる。なお、本明細書に記載するNCBI RefSeq IDやGenBankのアミノ酸配列情報に基づくアミノ酸番号は、各タンパク質の前駆体(シグナルペプチド配列などを含む)を全長として付された番号である。なお、細胞内ドメインとして、上記の具体的な分子を用いる場合、該分子に含まれる細胞内ドメイン及び/又は膜貫通ドメインを、本発明のキメラ抗原受容体に適宜利用することができる。
【0027】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、上記一次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインの他に、二次細胞質シグナル伝達配列を含む、同一又は異なっている、1つ又は複数個の細胞内ドメインを含んでもよい。本発明において使用され得る二次細胞質シグナル伝達配列を含む細胞内ドメインには、限定されないが、CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD28、CD134、CD137、ICOS、及びCD154に由来する配列が含まれる。具体的には、CD2(NCBI RefSeq:NP
001758.2)のアミノ酸番号236〜351、CD4(NCBI RefSeq:NP
000607.1)のアミノ酸番号421〜458、CD5(NCBI RefSeq:NP
055022.2)のアミノ酸番号402〜495、CD8α(NCBI RefSeq:NP
001759.3)のアミノ酸番号207〜235、CD8β(GenBank:AAA35664.1)のアミノ酸番号196〜210、CD28(NCBI RefSeq:NP
006130.1)のアミノ酸番号181〜220、CD137(4−1BB、NCBI RefSeq:NP
001552.2)のアミノ酸番号214〜255、CD134(OX40、NCBI RefSeq:NP
003318.1)のアミノ酸番号241〜277、ICOS(NCBI RefSeq:NP
036224.1)のアミノ酸番号166〜199の配列を有するペプチド及びこれらと同一の機能を有するその変異体が挙げられる。なお、細胞内ドメインとして、上記の具体的な分子を用いる場合、該分子に含まれる細胞内ドメイン及び/又は膜貫通ドメインを、本発明のキメラ抗原受容体に適宜利用することができる。
【0028】
具体的な実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体(CAR)は、N末端からC末端に、(i)抗GPC−1抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域(又は軽鎖可変領域と重鎖可変領域)を含む細胞外ドメイン、(ii)CD2、CD4、CD5、CD8α、CD8β、CD28、CD134、CD137、ICOS、CD154、及びこれらの組み合わせから選択される細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン及び/又は細胞内ドメイン、並びに(iii)CD3ζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dから選択される細胞内ドメイン、を含む。好ましい実施形態において、本発明のCARは、N末端からC末端に、(i)抗GPC−1抗体の重鎖可変領域(配列番号3)と軽鎖可変領域(配列番号4)(又は軽鎖可変領域と重鎖可変領域)を含む細胞外ドメイン、(ii)CD28の細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン、並びに(iii)CD3ζの細胞内ドメインを含む(実施例1参照)。なお、上記重鎖及び軽鎖可変領域は、同一の機能を有するその変異体も含んでもよい。ここで、用語「変異体」は、1個又は数個〜複数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を含む任意の変異体を意味するが、該変異体は、野生型と同一の機能を保持することが好ましい。
【0029】
複数の細胞内ドメインを含むCARは、それらの細胞内ドメイン間にオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカーを挿入して連結することができる。好ましくは、長さが2〜10個のアミノ酸からなるリンカーを用いることができる。例えば、Gly−Serが連続した配列を有するリンカーを使用することができる。
【0030】
(2)本発明のキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸
本発明によれば、上記(1)に記載するCARのアミノ酸配列をコードする核酸が提供される。別段の規定がない限り、「アミノ酸配列をコードする核酸(又は塩基配列)」には、相互に縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードするすべての塩基配列が含まれる。タンパク質をコードするヌクレオチド配列がある型でイントロンを含み得る限り、タンパク質及びRNAをコードするヌクレオチド配列という語句はまた、イントロンを含み得る。
【0031】
CARをコードする核酸は、特定されたCARのアミノ酸配列から常法により容易に作製することができる。上述の各ドメインのアミノ酸配列を示すNCBI RefSeq IDやGenBankのAccession番号からアミノ酸配列をコードする塩基配列を取得することが可能であり、標準的な分子生物学的及び/又は化学的手順を用いて本発明の核酸を作製することができる。例えば、これらの塩基配列をもとに、核酸を合成することができ、また、cDNAライブラリーよりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して得られるDNA断片を組み合わせて本発明の核酸を作製してもよい。具体的な態様において、本発明の核酸に使用される細胞外ドメインをコードする核酸は、抗GPC−1抗体の重鎖可変領域をコードする塩基配列(配列番号1)及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列(配列番号2)であることが好ましい。なお、上記重鎖及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列は、同一の機能を有する実質的に相同な塩基配列であってもよい。ここで、用語「実質的に相同」は、一次塩基配列レベルで互いに有意に類似した2つ以上の生物分子配列を包含する。例えば、2つ以上の核酸配列の文脈で、「実質的に相同」とは、少なくとも約75%同一、好ましくは少なくとも約80%同一、及びより好ましくは少なくとも約85%同一又は少なくとも約90%同一であり、並びにさらにより好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約97%同一である、より好ましくは少なくとも約98%同一である、より好ましくは少なくとも約99%同一であることを意味する。
【0032】
本発明の核酸は、適切なプロモーターの制御下に発現されるように別の核酸と連結することができる。プロモーターとしては構成的に発現を促進するもの、薬剤等(例えば、テトラサイクリン又はドキソルビシン)により誘導されるものなどのいずれも用いることができる。また、核酸の効率のよい転写を達成するために、プロモーター又は転写開始部位と協同する他の調節要素、例えば、エンハンサー配列又はターミネーター配列を含む核酸を連結してもよい。また、本発明の核酸に加えて、該核酸の発現を確認するためのマーカーとなり得る遺伝子(例えば、薬剤耐性遺伝子、レポーター酵素をコードする遺伝子、又は蛍光タンパク質をコードする遺伝子など)を適宜組み込んでもよい。なお、適切なプロモーターの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、これに機能的に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動することができる強力な構成的プロモーター配列である。ここで、「機能的に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現をもたらす機能的連結を指す。例えば、第1核酸配列が第2核酸配列と機能的関係下に配置されている場合、第1核酸配列は第2核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を及ぼすならば、プロモーターはコード配列と機能的に連結されている。一般的に、機能的に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合には、同じリーディングフレーム内にある。
【0033】
適切なプロモーターの別の例は、伸長増殖因子−1α(EF−1α)、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイル前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびに非限定的に、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターなどのヒト遺伝子プロモーターを含むがこれらに限定されない他の構成的プロモーター配列もまた使用することができる。さらに、本発明は、構成的プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターもまた、本発明の一部として企図される。誘導性プロモーターの使用は、それが機能的に連結されているポリヌクレオチド配列の発現を、このような発現が所望される場合にオンにし、又は発現が所望されない場合に発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネインプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、及びテトラサイクリンプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
(3)本発明のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞の製造方法
本発明のCARを発現する細胞の製造方法は、上記(2)に記載するCARをコードする核酸を細胞に導入する工程を含む。該工程は、生体外(ex vivo)で実施される。例えば、本発明の核酸を含むウイルスベクター又は非ウイルスベクターを利用して、細胞を生体外で形質転換することにより製造することができる。
【0035】
本発明の方法は、哺乳動物、例えば、ヒト由来の細胞、又はサル、マウス、ラット、ブタ、ウシ、イヌなどの非ヒト哺乳動物由来の細胞を使用することができる。本発明の方法に使用される細胞としては、特に限定はなく、任意の細胞を使用することができる。例えば、血液(末梢血、臍帯血など)、骨髄などの体液、組織又は器官より採取、単離、精製、誘導された細胞を使用することができる。末梢血単核細胞(PBMC)、免疫細胞(例えば、樹状細胞、B細胞、造血幹細胞、マクロファージ、単球、NK細胞又は血球系細胞(好中球、好塩基球))、臍帯血単核球、線維芽細胞、前駆脂肪細胞、肝細胞、皮膚角化細胞、間葉系幹細胞、脂肪幹細胞、各種癌細胞株又は神経幹細胞を使用することができる。本発明においては、特にT細胞、T細胞の前駆細胞(造血幹細胞、リンパ球前駆細胞等)又はこれらを含有する細胞集団の使用が好ましい。T細胞には、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、又は腫瘍浸潤リンパ球が含まれる。T細胞及び/又はT細胞の前駆細胞を含有する細胞集団には、PBMCが含まれる。上記の細胞は生体より採取されたもの、それを拡大培養したもの又は細胞株として樹立されたもののいずれでもよい。製造されたCARを発現する細胞又は該細胞より分化させた細胞を生体に移植することが望まれる場合には、その生体自身又は同種の生体から採取された細胞に核酸を導入することが好ましい。
【0036】
本発明によれば、本発明のCARをコードする核酸をベクターに挿入して、このベクターを細胞に導入することができる。例えば、レトロウイルスベクター(オンコレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、シュードタイプベクターを包含する)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、シミアンウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又はセンダイウイルスベクター、エプスタイン−バーウイルス(EBV)ベクター、HSVベクターなどのウイルスベクターが使用できる。上記ウイルスベクターとしては、感染した細胞中で自己複製できないように複製能を欠損させたものが好適である。
【0037】
また、リポソーム、並びにWO96/10038、WO97/18185、WO97/25329、WO97/30170及びWO97/31934に記載されている陽イオン脂質などの縮合剤との併用により、非ウイルスベクターも本発明において使用することができる。さらに、リン酸カルシウム形質移入、リポフェクション、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、パーティクルボンバードメントにより細胞に本発明の核酸を導入することができる。
【0038】
例えば、レトロウイルスベクターを使用する場合、ベクターが有しているLTR配列及びパッケージングシグナル配列に基づいて適切なパッケージング細胞を選択し、これを使用してレトロウイルス粒子を調製して実施することができる。例えば、PG13(ATCC CRL−10686)、PA317(ATCC CRL−9078)、GP+E−86やGP+envAm−12(米国特許第5,278,056号)、Psi−Crip(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.85,p.6460−6464(1988))のパッケージング細胞が例示される。また、トランスフェクション効率の高い293細胞や293T細胞を用いてレトロウイルス粒子を作製することもできる。多くの種類のレトロウイルスを基に製造されたレトロウイルスベクター及び該ベクターのパッケージングに使用可能なパッケージング細胞は、各社より広く市販されている。
【0039】
核酸を細胞に導入する工程で、導入効率を向上させる機能性物質を用いることもできる(例えば、WO95/26200号、WO00/01836)。導入効率を向上させる物質としては、ウイルスベクターに結合する活性を有する物質、例えば、フィブロネクチン又はフィブロネクチンフラグメントなどの物質が挙げられる。好適には、ヘパリン結合部位を有するフィブロネクチンフラグメント、例えば、レトロネクチン(RetroNectin、CH−296、タカラバイオ)として市販されているフラグメントを用いることができる。また、レトロウイルスの細胞への感染効率を向上させる作用を有する合成ポリカチオンであるポリブレン、線維芽細胞増殖因子、V型コラーゲン、ポリリジン又はDEAE−デキストランを使用することができる。
【0040】
(4)本発明のキメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞
本発明のCARを発現する細胞は、上記(3)の製造方法により、上記(2)のCARをコードする核酸が導入及び発現された細胞である。
【0041】
本発明の細胞は、CARを介して特定の抗原との結合により細胞内にシグナルが伝達され、活性化される。CARを発現する細胞の活性化は、宿主細胞の種類及び/又はCARの細胞内ドメインにより異なるが、例えば、サイトカインの放出、細胞増殖率の向上、細胞表面分子の変化等を指標として確認することができる。例えば、活性化された細胞からの細胞傷害性のサイトカイン(腫瘍壊死因子、リンホトキシンなど)の放出は、抗原を発現する標的細胞(具体的には、扁平上皮癌細胞)の破壊をもたらす。また、サイトカイン放出や細胞表面分子の変化により、他の免疫細胞、例えば、B細胞、樹状細胞、NK細胞、マクロファージなどを刺激する。
【0042】
(5)本発明の細胞製剤及び医薬組成物又はこれらを用いた治療及び予防方法
本発明によれば、キメラ抗原受容体(CAR)を発現する細胞は、疾患を治療及び/又は予防するために使用することができ、典型的には、細胞製剤及び医薬組成物が提供され得る。ここで、「治療」とは、標的疾患に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延することなどが含まれ、治療の中には疾患の改善も含まれる。「予防」とは、疾病(障害)又はその症状の発症/発現を防止若しくは遅延すること、又は発症/発現の危険性を低下させることをいう。一態様において、本発明の細胞製剤は、CARを発現する本発明の細胞を活性成分として含み、さらに、適切な賦形剤などを含んでもよい。別の態様において、本発明の医薬組成物は、有効量の本発明の核酸、CAR、ベクター、及び/又は細胞を活性成分として含み、さらに、適切な医薬として許容される賦形剤などを含んでもよい。該細胞製剤及び医薬組成物に含まれる賦形剤には、種々の細胞培養培地、リン酸緩衝生理食塩水、等張食塩水などが挙げられる。CARを発現する細胞等によって治療対象となり得る疾患としては、GPC−1を特異的に発現している固形腫瘍が挙げられ、より具体的には、膵癌、乳癌、脳腫瘍及び各種扁平上皮癌がんである。扁平上皮癌としては、限定されないが、食道癌、肺癌、子宮頸癌が含まれる。該疾患を有する治療対象は、限定されないが、霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどの哺乳動物が意図され、好ましくはヒトである。上記疾患の治療においては、本発明の治療有効量の細胞製剤が患者に投与される。本明細書で使用するとき、「有効量」とは、治療的又は予防的な利点を提供する量を意味する。なお、投与経路としては、当業者が認識するように、限定されないが、非経口投与、例えば、注射又は注入により、皮内、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、動脈内、静脈内、腫瘍内、又は輸入リンパ管内などに投与することが挙げられる。
【0043】
以下の実施例は、本開示の様々な態様を例証する。材料と方法の両方に対する多数の修飾は、本開示の範囲から逸脱せずに実施されてもよいことは当業者に明らかである。市販品供給業者から購入される全ての試薬及び溶媒は、さらに精製又は加工することなしに使用される。
【実施例】
【0044】
実施例1:抗GPC−1−CAR遺伝子搭載ウイルスベクターの作製
抗GPC−1抗体の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列は、出願人の一人である医薬基盤・健康・栄養研究所でニワトリを用いて作製されたモノクローナル抗GPC−1抗体(WO2015/098112)の重鎖及び軽鎖部分の塩基配列情報より特定した。Kozak配列−LS(leader sequence)−VL−linker−VH配列(TypeA)又は、−LS−VH−linker−VL配列(TypeB)の二本鎖DNAを合成し、CAR発現用ベクター(pMS3−F)にクローニングした(
図1)。この組換えレトロウイルスベクターを、pGPベクター、pE−Ecoベクターと共にG3T−hi細胞にトランスフェクションし、感染用レトロウイルスベクター溶液を調製した。この溶液をPG13細胞(GaLV env.)に感染させ、プロデューサー細胞を作製した。この細胞より、抗GPC−1−CAR遺伝子搭載レトロウイルスベクター溶液(TypeAとTypeBの2種類)を調製した。
【0045】
実施例2:抗GPC−1−CAR−T細胞の作製
ヒトより採血し、末梢血単核球(PBMC)を、Lymphoprep(Axis−Shield社 # 1114544)を用いて分離した。分離したPBMCを、AIM−V(Life Technologies #087−0112DK)+10%ヒトAB血清(Gemini #100−512)に、2×10
6/2ml/wellの細胞濃度で調製した。ヒトrIL2(500IU/ml)と抗ヒトCD3抗体(OKT−3)(50ng/ml)を添加し、24−wellプレートに播種し、37℃、5%CO
2で2日間培養した。翌日、別のノートリートメント24wellプレート(BD #351147)にレトロネクチン(タカラバイオ #T100B)(1mg/ml)10μL+PBS400uL/wellを入れ、4℃にて一晩静置した。その翌日、このレトロネクチンをコートしたプレートを、PBS 1mlで洗浄後、3%BSA/PBSを500uL/wellで展開し、室温にて30分静置後、PBS 1mlで洗浄した。実施例1で調製した抗GPC−1−CAR遺伝子を担持したレトロウイルスベクター溶液(Type A又はType B)を2〜5倍に希釈し、レトロネクチンをコートしたプレートに、1ml/wellで添加した。このプレートを3044rpm、32℃、2時間遠心し、ウイルスをプレート底面のレトロネクチンに吸着させた。遠心後、ウイルス溶液を除き、先の2日間培養したPBMCを5×10
5/500μL(AIM−V+10%ヒトAB血清)/wellで添加し、ヒトrIL2(500IU/ml)を加えた。2153rpmで10分遠心後、37℃、5%CO
2で培養を開始した。翌日、AIM−V+10%ヒトAB血清1.5mlとヒトrIL2(500IU/ml)を添加した。以後、細胞がコンフルエントになるたびに、培養するwellの数を倍量に増やした。
【0046】
実施例3:IFN−γ産生試験
GPC−1−CAR遺伝子を担持したレトロウイルスベクター(TypeA又はTypeB)をヒト活性化末梢血単核球に感染後、抗ヒトCD8抗体、抗ヒトCD4抗体、抗ニワトリIgY抗体を用いて染色し、GPC−1−CARの発現を確認した(
図2)。次に、セルソーターを用いてCD8陽性抗GPC−1−CAR−T細胞及びCD4陽性抗GPC−1−CAR−T細胞をそれぞれ分離した。これらのT細胞(1〜2×10
5cell)とGPC−1強制発現細胞株(LK−GPC1(G11))又はGPC−1非発現細胞株(LK−MOCK)(1×10
5cell)を200μlのAIM−V+10%ヒトAB血清に懸濁し、96wellプレートに播種した。24時間後、培養上清を回収し、ELISA法でIFN−γ、TNF−α、IL−4、IL−5の濃度を測定した。遺伝子改変されたT細胞からのIFN−γ、TNF−α、IL−4、及びIL−5の産生は、GPC−1特異的であり、高発現であった(
図3及び
図4参照)。
【0047】
実施例4:細胞傷害試験
ターゲット細胞として、GPC−1強制発現細胞株(LK−GPC1(G11))又はGPC−1非発現細胞株(LK−MOCK)をCalcein−AMで標識した後、5×10
3cellを96wellプレートに播種した。そこに、40倍、20倍、10倍、5倍、2.5倍量のCD8陽性抗GPC−1−CAR−T細胞又はCD4陽性抗GPC−1−CAR−T細胞をエフェクター細胞として加え、4時間培養後、上清中のCalcein−AMを蛍光光度計で測定し、T細胞によって傷害された細胞の割合を計算した。Mockと比較して、抗GPC−1−CAR−T細胞は、GPC−1特異的に細胞を非常に高い割合で溶解した(
図5)。
【0048】
実施例5:抗GPC−1−CAR−T細胞による食道癌細胞の認識及び殺傷効果
実施例3及び4に記載の試験方法を用いて、GPC−1を発現する食道癌細胞株(「TE8」及び「TE14」)に対する抗GPC−1−CAR−T細胞の認識及び殺傷効果について検討した。食道癌細胞株以外の試験例として、GPC−1強制発現細胞株(「LK2−GPC1(G11)」及び「LK2−GPC1(G52)」)、GPC−1非発現細胞株(「LK−MOCK(E4)」、及び抗GPC−1−CAR−T細胞の添加なしの系(「no stimulator」)を用いた。
図6Aに示されるように、GPC−1を発現する細胞(「TE8」、「TE14」、「LK2−GPC1(G11)」、及び「LK−GPC1(G52)」)に対しては、抗GPC−1−CAR−T細胞はIFN−γを産生させた。一方、陰性対照として使用した「LK2−MOCK(E4)」及び「no stimulator」では、抗GPC−1−CAR−T細胞によるIFN−γ産生は見られなかった。また、抗GPC−1−CAR−T細胞ではなく、対照T細胞(「control T cells」)及びT細胞による刺激なし「no T cells」では、いずれもIFN−γ産生は見られなかった。このことから、抗GPC−1−CAR−T細胞によるIFN−γ産生誘導は、GPC−1特異的であることが分かる。
【0049】
試験対象となる細胞として、上記のうち「TE8」及び「LK2−MOCK」を用いて、実施例4と同様の手法で細胞傷害試験を行った。GPC−1を発現するTE8では、添加される抗GPC−1−CAR−T細胞の比率が上昇するにつれて、TE8の細胞溶解率が高くなり、抗GPC−1−CAR−T細胞は、GPC−1特異的に細胞を溶解した(
図6B)。一方、添加する細胞として、対照T細胞(「control T cells」)を用いた場合、及びGPC−1非発現細胞株(「LK−MOCK)」を用いた場合には、細胞溶解は観察されなかった(
図6C)。
【0050】
実施例6:ヒト食道癌細胞株の治療モデル
ヒト食道癌細胞株TE14(3×10
6個)をNOG(NOD.Cg−Prkdcscid Il2rgtm1Sug/Jic)マウス(各群)に皮下移植した。9日後(TE14の生着を確認している)に、抗GPC−1−CAR−T細胞又はCAR遺伝子を導入していない活性化T細胞(陰性対照群)をそれぞれ2.5×10
7個腹腔内投与した。経時的に、各マウスにおける腫瘍体積(mm
3)を長径×短径×短径/2で計算して求め、結果を
図7に示す。陰性対照群は、CAR遺伝子を導入していない活性化T細胞が投与された系であり、経時的に腫瘍体積が増加している(
図7A)。一方、抗GPC−1−CAR−T細胞を投与した系に関して、「aGPC−1−CAR−T
1」及び「aGPC−1−CAR−T
2は、それぞれ、
図2に記載の「GPC−1−CAR
L−H」及び「GPC−1−CAR
H−L」に相当し、これらの細胞を用いた場合、腫瘍体積の増加が抑制されていることが分かる(それぞれ、
図7A及び7B)。
図7Dは、それぞれの群における腫瘍体積の変化を平均±標準偏差として表したものである。抗GPC−1−CAR−T細胞を添加したいずれの系の場合にも、陰性対照群と比較して、腫瘍体積の増加が顕著に抑制されていることが分かる。
【0051】
実施例7:GPC−1強制発現マウス大腸癌細胞株の治療モデル
本発明のGPC−1
CAR遺伝子は、ヒトとマウスのGPC−1を認識することができるため、以下では、マウスの細胞を用いて治療実験を行った。マウス大腸癌細胞株MC38にレンチウイルスベクターを用いてマウスGPC−1を遺伝子導入し、強制発現株を作製した(MC38−GPC−1)。
図1に示すプラスミドを用いて、GPC−1−CAR遺伝子のエコトロピックレトロウイルスベクターを作製し、マウスGPC−1−CAR−T細胞を作製した。具体的には、まず、マウス脾臓細胞(2×10
6個)をConA(2μg/ml)、マウスIL−7(1ng/ml)、ヒトIL−2(500IU/ml)を含む完全RPMI1640培地(基礎培地RPMI1640に最終濃度10%FCS、10mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、1%MEM NEAA(Non−essential amino acids)(Gibco社、#11140−050)、2mM L−グルタミン、0.05mM 2−メルカプトエタノールを添加した)で24時間培養し、活性化マウスT細胞を作製した。次に、前述のレトロウイルスを用いて、この活性化マウスT細胞にGPC−1−CAR遺伝子(
図2の「GPC−1−CAR
L−H」)を導入し、GPC−1−CAR−T細胞を作製した。導入方法は、実施例2に記載した手順による。ただし、レトロネクチンコートプレートの1ウェルに入れる活性化マウスT細胞数を2×10
6個とした。感染後、ヒトIL−2(500IU/mL)、抗マウスCD3抗体(1μg/mL)、抗マウスCD28抗体(1μg/mL)を含む完全RPMI1640培地で培養し、翌日同様の手順でもう一回行った。その後、作製したCAR−T細胞はヒトIL−2(500IU/mL)を含む完全RPMI1640培地で培養し、細胞がコンフルエントになるたびに、ウェルを倍々に増やしながら、5〜7日間培養した。なお、GPC−1−CAR遺伝子の導入効率は20%程度であった。次に、C57BL/6マウスに5×10
5個のMC38−GPC−1を皮下移植し、3日後(生着を確認している。)に、放射線を5Gy照射した。その後、前述の作製したGPC−1−CAR−T細胞(2×10
7個)を腹腔内投与した。同日より、1日2回、連続3日間、IL2を腹腔内投与した(50000IU/マウス/回)。陰性対照群には、CAR遺伝子を導入していない活性化T細胞が投与された。各マウスにおける腫瘍体積(mm
3)を長径×短径×短径/2で計算して求めた。各群における腫瘍体積の変化を経時的に記録した結果を
図8に示す。
図8A及び8Bは、それぞれ、陰性対照群及びGPC−1−CAR−T細胞投与群のマウス個体ごとの腫瘍体積の変化を示し、
図8Cは、それぞれの群における腫瘍体積の変化を平均±標準偏差として表したものである。
図8Cの結果から明らかなように、対照群と比較して、GPC−1−CAR−T細胞を投与されたマウスでは、腫瘍体積の増加が顕著に抑制されていることが分かる。また、正常マウスには、副作用などの影響が全くなく、癌モデル動物でのみ抗腫瘍効果が観察された。なお、上記のモデルは、免疫系が正常に機能しているインビボのモデルであるため、ヒトの臨床場面を再現していると言える。このような実験系は、他のCRT−T細胞では構築することはできない。