特許第6762649号(P6762649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762649
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】焼きベーカリー製品用粉末油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20200917BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20200917BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20200917BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   A23D9/00 502
   A21D2/14
   A21D13/00
   A21D10/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-9338(P2016-9338)
(22)【出願日】2016年1月21日
(65)【公開番号】特開2017-127257(P2017-127257A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2018年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直人
(72)【発明者】
【氏名】小林 徹也
(72)【発明者】
【氏名】戸田 徹
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−075565(JP,A)
【文献】 特開平04−088939(JP,A)
【文献】 特開2001−057844(JP,A)
【文献】 特開昭57−115497(JP,A)
【文献】 特開2007−289116(JP,A)
【文献】 特開2009−149796(JP,A)
【文献】 特開昭61−285944(JP,A)
【文献】 特開平11−269483(JP,A)
【文献】 特開平05−292874(JP,A)
【文献】 特開平10−028543(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/074689(WO,A1)
【文献】 日本農芸化学会誌,1990, Vol.64, No.7, pp.1285-1290
【文献】 GUNSTONE F.D. "RAPESEED AND CANOLA OIL Production, Processing, Properties and Uses" 2004, Blackwell Publishing, pp.48-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A21D 10/00
A21D 13/00
A21D 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、焼きベーカリー製品用粉末油脂組成物。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの飽和の脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを90〜98質量%と、前記XXX型トリグリセリドの飽和の脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの飽和の脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを10〜2質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは10〜12から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である。
【請求項2】
ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、請求項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
パン粉と、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物とを混合することにより製造した改良パン粉。
【請求項4】
パン粉100質量%に対して、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物10〜400質量%混合することにより製造した改良パン粉。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の改良パン粉を含有してなる、焼きベーカリー製品。
【請求項6】
パン粉と、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物とを混合する、改良パン粉の製造法。
【請求項7】
パン粉100質量%に対して、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物10〜400質量%混合する、改良パン粉の製造法。
【請求項8】
請求項3又は4に記載の改良パン粉とベーカリー生地と組み合わせて焼成する、焼きベーカリー製品の製造法。
【請求項9】
請求項3又は4に記載の改良パン粉を、焼きカレーパンの生地の表面に付着させたものを焼成することを特徴とする焼きカレーパンの品質改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続している焼きベーカリー製品を製造するための焼きベーカリー製品用粉末油脂組成物に関する。また、前記のごとき粉末油脂組成物を用いて製造した改良パン粉、焼きベーカリー製品及びそれらの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー製品には様々な種類のものがあるが、その中の1つとして、例えばカレーパンがある。カレー風味は日本人に好まれている風味の1つであり、カレーパンは消費者の間で大変人気のあるベーカリー製品の1つである。しかしながら、従来のカレーパンは、カレーフィリングをパン生地で包み込み、パン生地の表面にパン粉を付けて揚げ調理を行っているため、油がパン全体に吸収されてしまい、高カロリーになるという欠点があった。そこで、最近では、このような揚げ調理に代えて、焼き料理を行う、焼きカレーパンも市場に広く出回るようになってきている。この焼きカレーパンは、揚げカレーパンに比べて油分の吸収が少ないため、昨今のヘルシー志向、ダイエット志向と合致しており、消費者の間で人気が高まっている。
【0003】
一般に、焼きカレーパンは、カレーフィリングをパン生地で包み込み、パン生地表面にバッター液を付けてパン粉を付着させ、オーブン等で焼成して製造されるが、焼成後、水分がパン生地からパン粉へ移行してしまい、数日経過した焼きカレーパンは、パン粉のサクサクとした食感が失われ、製品全体のやわらかくてしっとりした食感も失われてしまうため、好ましい食感が弱くなってしまうという欠点があった。
【0004】
一方、従来技術では、例えば、食用油脂、乳化剤及びカゼイン酸ナトリウムを含有するO/W型乳化組成物もしくはそれを噴霧乾燥した粉末油脂をパン生地に添加して焼成した後、粉砕して得られたパン粉を用いて、フライ直後の食感が良好であるだけでなく、冷めた後又は再加熱後であっても食感の変化が少ないパン粉を得る技術が提案されている(特許文献1)。また、パン生地を焼成した後、これに粉末油脂及び焼成小麦粉を含有する打ち粉をコーティングし、次いで、油脂を含まないバッターでコーティングした後、パン粉を付着させて油ちょうすることにより、カリカリ感と自然な揚げたて感がバランスよく維持されたフライドベーカリーを得る技術が提案されている(特許文献2)。
前者は、本発明とは原料となる油脂が異なり、焼きベーカリー製品における、パン粉のサクサクとした食感、全体的にしっとりした柔らかい食感の持続性についての記載はない。また、後者は、フライドベーカリー製品に関するものであり、本発明の焼きベーカリー製品に関するものではない。いずれにしても、これまで焼きベーカリー製品における焼成後の経時的な食感の変化を抑制する技術は今まで存在しておらず、その開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3086818号公報
【特許文献2】特許第4519092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続している焼きベーカリー製品を製造するための焼きベーカリー製品用粉末油脂組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、焼きベーカリー製品における焼成後の経時的な食感の変化を抑制する方法について鋭意研究を行った結果、意外にも特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることにより、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続している焼きベーカリー製品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、次の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、焼きベーカリー製品用粉末油脂組成物を提供することができる。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記XXX型トリグリセリドが80〜99質量%と、前記1種以上のX2Y型トリグリセリドの合計が20〜1質量%とを含有する、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜18から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+2〜x+10から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜12から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を含有してなる、改良パン粉を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、パン粉100質量%に対して10〜400質量%含有してなる、改良パン粉を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記改良パン粉を含有してなる、焼きベーカリー製品を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を配合する、改良パン粉の製造法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、パン粉100質量%に対して10〜400質量%となるように配合する、改良パン粉の製造法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記改良パン粉をベーカリー生地と組み合わせて焼成する、焼きベーカリー製品の製造法を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、焼きベーカリー製品用品質改良剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続している焼きベーカリー製品を簡便に製造することができる。これにより、従来の焼きベーカリー製品では満足できなかった人々の需要に応えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の「焼きベーカリー製品」について順を追って記述する。
<パン粉及び改良パン粉>
本発明の「パン粉」とは、パン粉もしくはパン粉類似物を意味する。パン粉とはパンを粉砕し細かくして作ったものをいう。パン粉類似物とはパン粉の代替物であって、例えば、クラッカー,ビスケットを粉砕したもの、パイ風(多層パン)のもの、唐揚げ粉などを意味する。本発明のパン粉の種類は、乾燥パン粉(水分約10〜13%)、生パン粉(水分約35〜38w/w%が標準)、セミドライパン粉(水分が約18w/w%から約28w/w%前後の調整品)、ブレダーパン粉(高周波式)、微粉パン粉(粒度は30〜40メッシュ位)、ブレッドパウダー(粒度は80メッシュ位)、着色料を加えたカラーパン粉等が挙げられる。特に、本発明においては乾燥パン粉が好ましい。本発明のパン粉の粒度は約1〜100メッシュが好ましい。本発明において、「パン粉」とは、焼成する前のパン粉を指すこともあれば、文脈上、焼成された後のパン粉を指すこともある。
また、本発明の「改良パン粉」とは、上記で定義された「パン粉」に、下記に示す粉末油脂組成物を配合したものである。
【0011】
<ベーカリー生地>
本発明において「ベーカリー生地」とは、小麦粉、糖類、牛乳や脱脂粉乳などの乳製品、ショートニングやマーガリンなどの油脂、卵、水、ベーキングパウダー、イーストなどからなるものであり、例えば、パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、クロワッサン、フランスパン、セミハードロール、ビスケット、クッキー、ケーキ、クラッカー、プレッツェル、シュー、ドーナツ、ワッフル、スコーン等の穀物粉をベースとした生地のことを意味する。特に、本発明においてはパン生地が好ましい。本発明において、「ベーカリー生地」とは、焼成する前の生地を指すこともあれば、文脈上、焼成された後の生地を指すこともある。なお、本発明では冷凍ベーカリー生地も好ましく使用される。
【0012】
<焼きベーカリー製品>
本発明において「焼きベーカリー製品」とは、上記「改良パン粉」の1種又は2種以上を含み、上記「ベーカリー生地」の1種又は2種以上と組み合わせてから、オーブン等で焼成されたベーカリー製品を意味する。「焼きベーカリー製品」としては、パン、菓子パン、パイ、デニッシュ、クロワッサン、フランスパン、セミハードロール、ビスケット、クッキー、ケーキ、クラッカー、プレッツェル、シュー、ドーナツ、ワッフル、スコーンが挙げられるが、特に、本発明においては焼きカレーパンが好ましい。
【0013】
<油脂組成物>
本発明は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種類又はそれ以上のXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である条件から選ばれる、油脂組成物に関する。上記2種類のトリグリセリドを上記質量%にて含む当該油脂組成物は、乳化剤、賦形剤等の添加剤を含めることなく、容易に粉末状の油脂組成物となる。本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物については、先に出願したPCT/JP2015/070850(特願2014−149168号)において詳しく説明されているので、ここでは詳細を割愛する。なお、前記出願の内容は、本明細書の中に取り込まれる。以下、本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物の特徴を要約して説明する。
【0014】
<XXX型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、その含有量が65〜99質量%である、単一種又は複数種、好ましくは単一種(1種類)のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは8〜20から選択される整数であり、好ましくは10〜18から選択される整数、より好ましくは10〜16から選択される整数、更に好ましくは10〜12から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びアラキジン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸であり、さらに好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸であり、殊更好ましくは、カプリン酸及びラウリン酸である。
XXX型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、65〜99質量%含まれる。XXX型トリグリセリドの含有量として好ましくは、75〜99質量%であり、より好ましくは80〜99質量%であり、更に好ましくは83〜98質量%であり、特に好ましくは85〜98質量%であり、殊更好ましくは90〜98質量%である。
【0015】
<X2Y型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを1種以上含む。ここで、1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる各脂肪酸残基Xは互いに同一であり、かつXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xとも同一である。当該1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる脂肪酸残基Yの炭素数yはx+2〜x+12でありかつy≦22である条件から選ばれる整数である。炭素数yは、好ましくはy=x+2〜x+10を満たし、より好ましくはy=x+4〜x+8を満たす条件から選ばれる整数である。また、炭素数yの上限値は、好ましくはy≦20であり、より好ましくはy≦18である。本発明の油脂組成物は複数、例えば、2種類〜5種類、好ましくは3〜4種類のX2Y型トリグリセリドを含んでいてもよく、その場合の各X2Y型トリグリセリドの定義は上述の通りである。各X2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yの炭素数yは、上述の範囲内から、各X2Y型トリグリセリドごとにそれぞれ独立して選択される。例えば、本発明の油脂組成物を、トリカプリンとパーム核ステアリン極度硬化油とをエステル交換して製造する場合は、xは共通してx=10であるが、yはそれぞれy=12、14、16及び18である4種類のX2Y型トリグリセリドを含む。
脂肪酸残基Yは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Yとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸である。
このX2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yは、1位〜3位の何れに配置していてもよい。
X2Y型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、35〜1質量%含まれる。X2Y型トリグリセリドの含有量としては、例えば、25〜1質量%であり、好ましくは20〜1質量%であり、より好ましくは17〜1質量%であり、更に好ましくは15〜2質量%であり、殊更好ましくは10〜2質量%である。本発明の油脂組成物に複数のX2Y型トリグリセリドが含まれる場合、上記X2Y型トリグリセリドの量は、含まれるX2Y型トリグリセリドの合計量である。
【0016】
<その他のトリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5〜30質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0〜30質量%、好ましくは0〜18質量%、より好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜8質量%である。
【0017】
<その他の成分>
本発明の油脂組成物は、上記トリグリセリドの他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。その他成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0018】
<粉末油脂組成物>
本発明の粉末油脂組成物は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の上記油脂組成物を得、この油脂組成物を冷却することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を任意に加熱・融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。得られた該固形物を篩にかける等により外部より軽く衝撃を加えて粉砕する(ほぐす)ことで容易に粉末油脂組成物を得ることができる。
【0019】
<粉末油脂組成物の物性>
本発明の粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂のみからなる場合、0.1〜0.6g/cm3、好ましくは0.15〜0.5g/cm3であり、より好ましくは0.2〜0.4g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0020】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、以下の工程、
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である、油脂組成物を調製する工程、
(b)前記油脂組成物を加熱し、前記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記油脂組成物を得る任意の工程、
(d)溶融状態の前記油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、及び/又は(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
【0021】
(a)油脂組成物の調製工程I
工程(a)で調製される油脂組成物は、上述したとおりのXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とX2Y型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを、上述した質量%で含有するものである。具体的には、例えば、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)と、1位〜3位に炭素数yの脂肪酸残基Yを有するYYY型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを別々に入手し、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比で90/10〜99/1にて混合して反応基質を得(ここで、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yはx+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である)、前記反応基質を加熱し、触媒の存在下でエステル交換反応する工程を経て得られる。
(a)油脂組成物の調製工程II
本発明の工程(a)で調製される油脂組成物の製造方法としては、さらに以下に示すようなXXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを同時かつ直接合成する方法を挙げることができる。すなわち、本調製工程IIは、XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを得るために、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとを別々に合成してエステル交換するということはせず、双方のトリグリセリドを製造するための原料(脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリン)を、例えば単一の反応容器に投入し、同時かつ直接合成する。
(a)油脂組成物の調製工程III
油脂組成物は、さらに65〜99質量%の範囲外にあるXXX型トリグリセリド及び/または35〜1質量%の範囲外にあるX2Y型トリグリセリドを含む油脂組成物を調製した後、XXX型トリグリセリド又はX2Y型トリグリセリドを更に添加することによって65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい(希釈による油脂組成物の調製)。例えば、50〜70質量%のXXX型トリグリセリドと50〜30質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得た後、所望量のXXX型トリグリセリドを添加して65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい。
【0022】
(b)溶融状態の前記油脂組成物を得る工程
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で得られた油脂組成物は、調製された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、得られた時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物を得る。
ここで、油脂組成物の加熱は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70〜200℃、好ましくは、75〜150℃、より好ましくは80〜100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.5〜3時間、好ましくは、0.5〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間継続することが適当である。
【0023】
(d)溶融状態の油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物は、さらに冷却されて粉末油脂組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物を冷却」とは、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物の融点より低い温度に保つことを意味する。「油脂組成物の融点より低い温度」とは、例えば、当該融点より1〜30℃低い温度、好ましくは当該融点より1〜20℃低い温度、より好ましくは当該融点より1〜15℃低い温度である。溶融状態にある油脂組成物の冷却は、例えばxが8〜10のときは最終温度が、好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜25℃、更に好ましくは18〜22℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが11又は12のときは、好ましくは30〜40℃、より好ましくは32〜38℃、更に好ましくは33〜37℃であり、xが13又は14のときは、好ましくは40〜50℃、より好ましくは42〜48℃、更に好ましくは44〜47℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは50〜60℃、より好ましくは52〜58℃、更に好ましくは54〜57℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは60〜70℃、より好ましくは62〜68℃、更に好ましくは64〜67℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは70〜80℃、より好ましくは72〜78℃、更に好ましくは74〜77℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間〜2日間静置することが適当である。場合によっては、例えばXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの炭素数xが8〜12の場合など、比較的粉体化に時間を要するものは、特に以下の(c)工程を使用しない場合、例えば2〜8日間、具体的には3〜7日間、より具体的には約6日間静置しなければならない場合もある。
【0024】
(c)粉末生成促進工程
さらに、上記工程(a)又は(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)及び/又は(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。
ここで、(c1)シーディング法とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物の冷却時に少量添加して、粉末化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物に、当該油脂組成物中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物の冷却時、当該油脂組成物の温度が、例えば、最終冷却温度±0〜+10℃、好ましくは+5〜+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部添加することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
(c2)テンパリング法とは、溶融状態にある油脂組成物の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5〜20℃低い温度、好ましくは7〜15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間程度冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
(c3)予備冷却法とは、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、工程(d)にて冷却する前に、工程(a)又は(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2〜40℃高い温度、好ましくは3〜30℃高い温度、より好ましくは4〜30℃高い温度、さらに好ましくは5〜10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の粉末化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
【0025】
(e)固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
【0026】
<粉末油脂組成物に含まれるその他の成分>
本発明の粉末油脂組成物は、任意に乳化剤、タンパク質、澱粉、酸化防止剤等のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、粉末油脂組成物に対し、乳化作用のあるものを加えることによって、粉末油脂組成物の水系への分散性を向上させることができる。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。
但し、本発明の好ましい粉末油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、粉末油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0027】
<粉末油脂組成物の含有量>
本発明の改良パン粉は、その原材料であるパン粉の質量を基準として上記粉末油脂組成物を含有する。つまり、パン粉の全質量を100質量%とした場合、本発明の粉末油脂組成物を10〜400質量%となるように含有する。より好ましくは20〜350質量%、さらに好ましくは20〜300質量%となるように含有する。
パン粉100質量%に対する上記粉末油脂組成物が400質量%を超えると、パン粉が付着しづらくなり、成型が難しくなるとともに、食味が悪くなってしまう。一方、上記粉末油脂組成物が10質量%よりも少ないと、所望の効果が得られない。
【0028】
<改良パン粉の製造方法>
本発明の改良パン粉は、従来公知の方法により製造されたパン粉に上記粉末油脂組成物を配合することで製造することができる。例えば、パン粉は、小麦粉を主原料とし、食塩、イースト、イーストフード、油脂等を適宜添加してパン生地を製造し、常法に従ってパン生地を焼成し、得られたパンを粉砕したり、粉砕したものをさらに乾燥することにより製造される。一旦、パン粉を製造した後、適宜の方法で、本発明の粉末油脂組成物を配合すればよい。必要に応じて、例えば、Vブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、流動層ミキサーなどの機械を用いることもできる。
【0029】
<焼きベーカリー製品の製造方法>
本発明の焼きベーカリー製品は、上記改良パン粉の1種又は2種以上を、ベーカリー生地の表面に付着させて焼成することにより製造できる。改良パン粉の付着方法は特に制限されず、例えば、ベーカリー生地の上に改良パン粉を載置して押圧する方法や、改良パン粉を敷いたものの上にベーカリー生地を載せて押圧する方法などが挙げられる。本発明の焼きベーカリー製品において、改良パン粉の使用量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、上記ベーカリー生地100質量%に対して、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%とすることができる。
【0030】
<焼きベーカリー製品用品質改良剤>
ところで、以上述べたように、本発明に用いる粉末油脂組成物は、従来の焼きベーカリー製品を、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続しているものとするから、本発明は、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、焼きベーカリー製品用の品質改良剤にも関する。以下に示すように、本発明の焼きベーカリー製品用品質改良剤を従来のパン粉へ配合することにより、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続しているものへ変更する品質改良効果を達成することができる。
本発明の焼きベーカリー製品用品質改良剤は、上述の粉末油脂組成物を含有する。本発明の焼きベーカリー製品用品質改良剤は、少量で効果を発揮するため、上記の粉末油脂組成物を、好ましくは60質量%以上含有し、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは100質量%以上含有する。
また、本発明の焼きベーカリー製品用品質改良剤は、有効成分であると上述した粉末油脂組成物を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、品質改良剤等の他の成分を含有させたものであってもよい。
但し、本発明の好ましい焼きベーカリー製品用品質改良剤は、実質的に当該粉末油脂組成物のみからなることが好ましい。また「実質的に」とは、焼きベーカリー製品用品質改良剤中に含まれる粉末油脂組成物以外の成分が、焼きベーカリー製品用品質改良剤を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【実施例】
【0031】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0032】
<原料油脂>
(1)粉末油脂組成物(融点約44℃)
〔x=12、y=18、テンパリング法〕
攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び水分分離機を備えた500mLの四つ口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製)38.8g(0.421mol)と、ステアリン酸(Palmac98−18(アシッドケム社製))26.2g(0.092mol)とラウリン酸(Palmac99−10(アシッドケム社製))271.3g(1.354mol)を仕込み、窒素気流下、250℃の温度で15時間反応させた。過剰のラウリン酸を220℃、減圧下にて留去した後、脱色・濾過、脱臭を行い、50℃において淡黄色液状の反応物を242g得た(XXX型:78.3質量%、X2Y型:19.2質量%)。得られた反応物60gとトリラウリン(日清オイリオグループ(株)製)140gを混合し原料油脂とした(XXX型:93.1質量%、X2Y型:5.8質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、28℃恒温槽にて0.5時間冷却した後、35℃恒温槽にて12時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物を得た(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、平均粒径130μm)。このようにして製造した粉末油脂組成物を以下の実施例で用いた。
ここで、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出した。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とした。続いて、受器から盛り上がった試料をすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めた。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行って、その平均値を測定値とした。
ここで、平均粒径は、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて測定した。
【0033】
<その他の原材料>
下記実施例における、パン粉、薄力粉、強力粉、上白糖、全卵、ベーキングパウダー、生イースト、イーストフード、食塩、脱脂粉乳はいずれも市販されているものを用いた。また、ショートニングとして、日清ロイヤルショート20(業務用:日清オイリオグループ株式会社製)を用いた。
【0034】
[実施例1]
<改良パン粉の製造>
下記表1の配合(粉1kg仕込み)に従って、実施例1、比較例1の改良パン粉を製造した。より詳細には、市販されているパン粉に、本発明の粉末油脂組成物を、パン粉100質量%に対して、200質量%となるように配合し、ミキサーで良く撹拌して製造した。
【0035】
【表1】
【0036】
<ベーカリー生地の製造>
下記表2の配合(粉1kg仕込み)に従って、実施例1、比較例1のベーカリー生地を、常法(中種法)に従って製造した。より具体的には、まず、強力粉、生イースト、イーストフード、全卵及び水を混合して、25℃で捏ね上げた。次に、こうして得られた生地(中種)を28℃、240分(湿度80%)で発酵させた。次に、強力粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、ショートニング及び水をさらに加え、28℃で捏ね上げた。こうして得られた生地(本種)をフロアタイムが28℃、30分(湿度80%)となるように寝かせた後、1つ50gとなるように分割し、ベンチタイムが28℃、20分(湿度80%)となるように寝かせて、ベーカリー生地を調製した。
【0037】
【表2】
【0038】
<焼きカレーパンの製造>
上記ベーカリー生地50gを用いて、35gのカレーフィリングを包み込んだ。これに、卵白と水を1:1で溶いたバッター液を塗布し、上記実施例1及び比較例1のパン粉を2〜3g付着させた。ホイロ内で34℃、60分(湿度75%)で寝かせた後、オーブン入れて、上火200℃下火200℃で、12分間焼成し、焼きカレーパンを製造した。
【0039】
【表3】
<焼きカレーパンの評価1>
上記のように製造した、実施例1、比較例1の焼きカレーパンについて、以下の評価方法に従って評価した。なお、焼きカレーパンを製造した直後に喫食し評価した。その結果を表3に示した。
【0040】
<焼きカレーパンの評価方法>
(1)パン粉のサクサク感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
○:パン粉が火の通った硬い食感でサクサクしている
△:パン粉のサクサク感がやや欠ける
×:パン粉のサクサク感がない
(2)やわらかしっとり感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
○:焼きベーカリー製品全体がやわらかくしっとりしていている
△:焼きベーカリー製品全体がややパサつき、やわらかさやしっとりさに欠ける
×:焼きベーカリー製品全体が硬くなり、やわらかさやしっとりさがない
【0041】
表3の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造した焼きカレーパン(実施例1)は、パン粉部分がサクサクしており、好ましい食感を有しているとともに、製品全体がやわかくしっとりしているので、食感のコントラストが面白い焼きカレーパンが製造できた。一方、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造した焼きカレーパン(比較例1)は、製品全体のやわらかさやしっとりさは変わらないものの、パン粉のサクサクとした食感が実施例1に比べてやや足りなく感じられた。なお、外観においても同等であり、本発明の粉末油脂組成物を用いた場合でも見た目において問題は全く生じない。
【0042】
<焼きカレーパンの評価2>
上記のように製造した、実施例1、比較例1の焼きカレーパンについて、1日後(製造から24時間後)、2日後(製造から48時間後)に、再び上記評価方法に従って評価した。その結果を表4に示した。
【0043】
【表4】
【0044】
表4の結果から明らかであるように、製造1日後の、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造した焼きカレーパン(実施例1)は、製造直後のパン粉のサクサクとした食感と製品全体のやわらかくてしっとりした食感が持続していたのに対して、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造した焼きカレーパンは(比較例1)は、パン粉が水分を吸収してサクサク感が弱くなり、製品全体の食感もややパサつきがあり、やわらかさやしっとりさに欠けていた。
また、製造2日後の、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造した焼きカレーパン(実施例1)は、パン粉のサクサク感についてはやや欠けていたものの、製品全体のやわらかさやしっとりさは維持していた。また、比較例1に比べて歯切れの良さも感じられた。一方、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造した焼きカレーパンは(比較例1)は、パン粉のサクサク感や全体のやわらかさやしっとりさが失われており、もはや好ましい食感はなくなっていた。
以上のように、本発明の粉末油脂組成物を用いることによって、パン粉のサクサクした食感と、製品全体のやわらかくてしっとりした食感が経日的に持続している焼きカレーパンを製造することができた。