【実施例】
【0027】
以下、本発明による表面処理銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0028】
[実施例1]
まず、硝酸銅三水和物(圓商産業株式会社製)の濃度が50.1質量%の硝酸銅(II)水溶液941.6gと、純水387.6gと、クエン酸一水和物73.9gを純水549.6gに溶解させたクエン酸水溶液とを混合して撹拌し、硝酸銅(II)とクエン酸の混合液を用意するとともに、48.8質量%の水酸化ナトリウム水溶液358.6gと純水543.0gとを混合して得られた水酸化ナトリウム希釈水溶液を用意した。
【0029】
次に、容量4Lの反応槽に上記の水酸化ナトリウム希釈水溶液を入れ、撹拌機により回転数350rpmで撹拌しながら、液温を27℃に保持して、反応槽内の水溶液の上方の部分に窒素ガスを吹き込み、排気されるガス中の酸素濃度が0.2体積%以下になった時点で攪拌を停止し、その直後に、上記の硝酸銅(II)とクエン酸の混合液を水酸化ナトリウム希釈水溶液に添加し、その後、上記の撹拌を再開して、水酸化銅(II)を生成させた。
【0030】
この反応液(水酸化銅(II)が水に懸濁した液)の攪拌と反応槽内への窒素ガスの吹き込みを継続しながら、液温を35℃に昇温し、水和ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製の80%ヒドラジン一水和物)21.3gを純水551.6gに溶解させたヒドラジン水溶液を添加した後、反応液の液温を70℃に昇温して120分間保持することによって一次還元を行って亜酸化銅(酸化銅(I))を生成させた。
【0031】
この反応液(亜酸化銅が水に懸濁した液)を冷却して液温を50℃にし、水和ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製の80%ヒドラジン一水和物)40.5gを添加して60分間保持した。その後、反応液の液温を50℃に維持しながら水和ヒドラジン(大塚化学株式会社製のヒドラジン一水和物)50.7gを添加して60分間保持した。その後、反応液の液温を90℃に昇温して180分間保持することによって二次還元を行って、金属銅を生成させた後、反応液の攪拌と反応槽内への窒素ガスの吹き込みを停止した。
【0032】
この反応液を固液分離して固形分を純水で水洗し、窒素雰囲気中において110℃で9時間加熱する乾燥処理を行うことによって銅粉を得た。
【0033】
また、銅粉の表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物(キシダ化学株式会社製)3.90gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を用意した。また、反応槽としての1Lのビーカーに(窒素ガスにより脱気して溶存酸素を除去した)純水300gを入れ、撹拌機により回転数660rpmで撹拌しながら、液温を15℃に保持して、反応槽内の液上に1L/分の流量で窒素ガスを吹き込み、排気されるガス中の酸素濃度を0体積%にした後、上記の銅粉100gを添加して、銅粉分散スラリーを得た。この銅粉分散スラリーに上記の硫酸ジルコニウム水溶液を添加し、15℃で60分間撹拌保持して、銅粉の表面処理を行った後、窒素ガスの吹き込みを停止した。この反応液を固液分離して固形分を真空中において170℃で12時間加熱する乾燥処理を行い、解砕した後、目開き32μmの篩に通した。
【0034】
このようにして表面処理した銅粉について、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0035】
表面処理銅粉の粒度分布として、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))により測定した体積基準の累積10%粒子径(D
10)、累積50%粒子径(D
50)、累積90%粒子径(D
90)および累積99%粒子径(D
99)を求めた。その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.41μm、累積50%粒子径(D
50)は0.76μm、累積90%粒子径(D
90)は8.04μm、累積99%粒子径(D
99)は23.44μmであった。
【0036】
表面処理銅粉のBET比表面積は、BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を用いてBET法により求めた。その結果、表面処理銅粉のBET比表面積は1.9m
2/gであった。
【0037】
表面処理銅粉のタップ密度(TAP)は、特開2007−263860号公報に記載された方法と同様に、表面処理銅粉を内径6mmの有底円筒形の容器に充填して銅粉層を形成し、この銅粉層に上部から0.16N/m
2の圧力を加えた後、銅粉層の高さを測定し、この銅粉層の高さの測定値と、充填された表面処理銅粉の重量とから、表面処理銅粉の密度を求めて、表面処理銅粉のタップ密度とした。その結果、表面処理銅粉のタップ密度は3.6g/cm
3であった。
【0038】
表面処理銅粉中の酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(LECO社製のTC−436型)により測定した。その結果、表面処理銅粉中の酸素含有量は0.85質量%であった。
【0039】
表面処理銅粉中の炭素含有量と硫黄含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−220V)により測定した。その結果、表面処理銅粉中の炭素含有量は0.07質量%であり、硫黄含有量は0.230質量%であった。
【0040】
銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(サーモ・ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/AP)によって測定した。その結果、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は9400ppm(0.94質量%)であった。
【0041】
表面処理銅粉の熱機械的分析(TMA)は、表面処理銅粉を直径5mm、高さ3mmのアルミナパンに詰めて、熱機械的分析(TMA)装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製のTMA/SS6200)の試料ホルダ(シリンダ)にセットし、測定プローブにより荷重1470mNで1分間押し固めて作製した測定試料について、200mL/分の流量で窒素ガスを流入しながら、測定荷重980mNで荷重を付与して、常温から昇温速度10℃/分で900℃まで昇温し、測定試料の収縮率を測定した。この熱機械分析(TMA)において300℃のときの測定試料の長さに対して0.5%収縮したときの温度を焼結開始温度とすると、表面処理銅粉の焼結開始温度は850℃であった。
【0042】
[実施例2]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物1.95gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0043】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.40μm、累積50%粒子径(D
50)は0.71μm、累積90%粒子径(D
90)は1.45μm、累積99%粒子径(D
99)は15.34μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.2m
2/gであり、タップ密度は3.7g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.83質量%、炭素含有量は0.06質量%、硫黄含有量は0.113質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は4800ppm(0.48質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は637℃であった。
【0044】
[実施例3]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物7.79gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0045】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.39μm、累積50%粒子径(D
50)は0.71μm、累積90%粒子径(D
90)は7.31μm、累積99%粒子径(D
99)は23.21μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m
2/gであり、タップ密度は3.7g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.45質量%、炭素含有量は0.04質量%、硫黄含有量は0.069質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は1600ppm(0.16質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は526℃であった。
【0046】
[実施例4]
乾燥処理を窒素雰囲気中において120℃で9時間加熱することによって行った以外は、実施例2と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0047】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.40μm、累積50%粒子径(D
50)は0.70μm、累積90%粒子径(D
90)は1.41μm、累積99%粒子径(D
99)は12.65μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.1m
2/gであり、タップ密度は3.7g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.73質量%、炭素含有量は0.06質量%、硫黄含有量は0.117質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は4900ppm(0.49質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は604℃であった。
【0048】
[実施例5]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ランタン九水和物(三津和化学薬品株式会社製)2.62gを混合した硫酸ランタン水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(La)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0049】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.41μm、累積50%粒子径(D
50)は0.74μm、累積90%粒子径(D
90)は1.49μm、累積99%粒子径(D
99)は13.51μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m
2/gであり、タップ密度は3.6g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.82質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.015質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(La)の含有量は530ppm(0.053質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は733℃であった。
【0050】
[実施例6]
表面処理水溶液として、酸化イットリウムを硫酸溶液に溶解して得られた2.13質量%の硫酸イットリウム水溶液46.95gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Y)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0051】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.41μm、累積50%粒子径(D
50)は0.75μm、累積90%粒子径(D
90)は1.64μm、累積99%粒子径(D
99)は15.49μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m
2/gであり、タップ密度は3.5g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.83質量%、炭素含有量は0.04質量%、硫黄含有量は0.030質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Y)の含有量は440ppm(0.044質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は523℃であった。
【0052】
[実施例7]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物0.39gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0053】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.36μm、累積50%粒子径(D
50)は0.71μm、累積90%粒子径(D
90)は1.29μm、累積99%粒子径(D
99)は1.91μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.0m
2/gであり、タップ密度は3.6g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.61質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.021質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は1000ppm(0.10質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は539℃であった。
【0054】
[実施例8]
表面処理水溶液として、純水60gとオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(キシダ化学株式会社製)0.30gを混合したオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0055】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.38μm、累積50%粒子径(D
50)は0.73μm、累積90%粒子径(D
90)は1.32μm、累積99%粒子径(D
99)は1.86μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.0m
2/gであり、タップ密度は3.5g/cm
3であった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.67質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.001質量%未満であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は700ppm(0.07質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は468℃であった。
【0056】
[比較例1]
表面処理をしなかった以外は、実施例1と同様の方法により、銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0057】
その結果、銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.36μm、累積50%粒子径(D
50)は0.69μm、累積90%粒子径(D
90)は1.50μm、累積99%粒子径(D
99)は16.08μmであった。銅粉のBET比表面積は1.8m
2/gであり、タップ密度は3.6g/cm
3であった。銅粉中の酸素含有量は0.45質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.001質量%であった。また、銅粉の焼結開始温度は411℃であった。
【0058】
[比較例2]
銅粉の表面処理において、反応槽中に純水を入れた後、攪拌機により撹拌する前に、超音波ホモジナイザ(株式会社日本精機製作所製のUS−300E)により超音波分散処理を1分間行った以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0059】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D
10)は0.42μm、累積50%粒子径(D
50)は0.80μm、累積90%粒子径(D
90)は9.68μm、累積99%粒子径(D
99)は25.89μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.0m
2/gであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は1.06質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.223質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は9600ppmであった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は652℃であった。
【0060】
これらの実施例および比較例の表面処理銅粉の特性を表1および表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
また、実施例1〜4および7〜8と比較例1で得られた銅粉中のZr含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を
図1に示し、実施例1〜3および5〜6と比較例1で得られた銅粉中の添加元素の含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を
図2に示す。
図1および
図2から、銅粉に添加するZrなどの添加元素の量が増大するに従って、収縮開始温度が高くなるのがわかる。