特許第6762718号(P6762718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6762718
(24)【登録日】2020年9月11日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】表面処理銅粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20200917BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20200917BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200917BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20200917BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200917BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   B22F1/02 A
   B22F9/24 B
   B22F1/00 L
   C22C9/00
   H01B13/00 501Z
   H01B5/00 B
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-603(P2016-603)
(22)【出願日】2016年1月5日
(65)【公開番号】特開2017-122252(P2017-122252A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年10月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金城 優樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−345201(JP,A)
【文献】 特開2014−199720(JP,A)
【文献】 特開2015−132000(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/122251(WO,A1)
【文献】 特開2005−222737(JP,A)
【文献】 特開2001−220607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式還元法によって製造された銅粉が溶存酸素を除去した液中に分散したスラリーに、窒素雰囲気中において、ランタンを含む水溶液を添加して攪拌することによって、銅粉の表面にランタンを存在させる表面処理を行うことを特徴とする、表面処理銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記銅粉を製造する湿式還元法が、水酸化銅が水に懸濁した液に還元剤を添加して一次還元を行って亜酸化銅を生成させた後に、この亜酸化銅が水に懸濁した液に還元剤を添加して二次還元を行って銅を生成させる方法であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記銅粉の平均粒径が0.1〜10μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面処理銅粉の製造方法。
【請求項4】
銅粉の表面にランタンが存在し、酸素含有量が1質量%以下であることを特徴とする、表面処理銅粉。
【請求項5】
前記表面処理銅粉中のランタンの含有量が0.01〜1質量%であることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅粉。
【請求項6】
前記表面処理銅粉の熱機械的分析により求めた焼結開始温度が500〜1000℃であることを特徴とする、請求項またはに記載の表面処理銅粉。
【請求項7】
前記表面処理銅粉の平均粒径が0.1〜10μmであることを特徴とする、請求項乃至のいすれかに記載の表面処理銅粉。
【請求項8】
前記表面処理銅粉のBET比表面積が0.5〜5m/gであることを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の表面処理銅粉。
【請求項9】
前記表面処理銅粉中の硫黄含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の表面処理銅粉。
【請求項10】
記表面処理銅粉中の硫黄含有量が0.04質量%未満であることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅粉およびその製造方法に関し、特に、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極などを形成するための導電性ペーストに使用するのに適した表面処理銅粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの一般的な製造方法では、まず、チタン酸バリウム系セラミックなどの誘電体グリーンシートを複数枚用意し、各々のシートの上に、内部電極用の導電性ペーストを所定のパターンで印刷し、これらのシートを積み重ねて圧着することによって、誘電体グリーンシートと導電性ペースト層が交互に積層された積層体を作製する。この積層体を所定の形状の複数のチップに切断した後、高温で同時に焼成して、積層セラミックコンデンサの素体を作製する。次いで、この素体の内部電極が露出する端面に、導電性粉体、ガラス粉末および有機ビヒクルを主成分とする外部電極用の導電性ペーストを塗布し、乾燥した後、高温で焼成することによって外部電極を形成する。その後、必要に応じて外部電極にニッケルやスズなどのめっき層を電気めっきなどにより形成する。
【0003】
従来、このような積層セラミックコンデンサなどの内部電極などを形成するための導電性ペーストに使用する金属材料として、パラジウム、銀−パラジウム、白金などが使用されていたが、これらは高価な貴金属であるため、コストがかかるという問題があった。そのため、近年では、ニッケルや銅などの卑金属を使用するのが主流になってきており、現在では、主にニッケル微粒子(積層セラミックコンデンサの大きさや容量などにもよるが、一般に平均粒径0.1〜0.5μmのニッケル微粒子)が使用されている。また、銅は、ニッケルと比べて、導電率が高く、融点が低いため、積層セラミックコンデンサの特性を改善し、焼成時の低温化などの生産時の省エネに寄与することが可能であり、内部電極用の金属材料の有望な一つとして期待されている。
【0004】
しかし、導電性ペースト中の導電性粉体として銅粉を使用して積層セラミックコンデンサを製造すると、誘電体グリーンシートと導電性ペースト層が交互に積層された積層体を焼成する際に、導電性ペースト中の銅粉よりも誘電体グリーンシートの焼結開始温度が高く、熱収縮率が低いため、銅粉の焼結層の収縮により焼成の途中で誘電体グリーンシート側に引張応力が作用して、焼成により形成されたセラミックにクラックが生じて割れ易くなる。特に、導電性ペースト中の導電性粉体として銅微粒子を使用すると、銅微粒子の焼結開始温度は銅のバルクの融点(1083℃)よりも低いため、上記の問題がさらに顕著になる。
【0005】
一方、積層セラミックコンデンサの製造に使用する銅超微粉などの金属超微粉の耐酸化性や熱収縮特性を改善するために、化学的気相反応によって製造された平均粒径0.1〜1.0μmの銅超微粉などの金属超微粉の表面に、Y、ZrおよびLaからなる群から選ばれた1以上の元素の硫黄含有化合物を存在させるとともに、金属超微粉全体に対して、硫黄含有化合物に含まれる元素の合計量およびS量をそれぞれ0.05〜6質量%および0.04〜4質量%にして、表面処理した金属超微粉が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3947118号公報(段落番号0016−0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の金属超微粉は、表面処理の前に、化学的気相反応により製造された金属超微粉を液中に分散させたスラリーをホモミキサなどの分散機で予備分散処理する必要があるため、金属超微粉が酸化し易い銅微粉である場合には、予備分散処理において銅超微粉の粒子に加わるエネルギーによって酸化して、積層セラミックコンデンサなどの内部電極などの形成に使用すると、導電性が低下するおそれがある。
【0008】
そのため、銅粉の酸化を抑制するとともに焼結開始温度を高くして、焼成時の熱収縮温度を高温側にシフトさせることが望まれる。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、銅粉の酸化を抑制し且つ焼結開始温度を高くすることができる、表面処理銅粉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、湿式還元法によって製造された銅粉が液中に分散したスラリーに、ジルコニウム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選ばれる1以上の元素を含む水溶液を添加して、銅粉の表面に上記の元素を存在させる表面処理を行うことにより、銅粉の酸化を抑制し且つ焼結開始温度を高くすることができる、表面処理銅粉およびその製造方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による表面処理銅粉の製造方法は、湿式還元法によって製造された銅粉が液中に分散したスラリーに、ジルコニウム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選ばれる1以上の元素を含む水溶液を添加して、銅粉の表面に上記の元素を存在させる表面処理を行うことを特徴とする。
【0012】
この表面処理銅粉の製造方法において、表面処理が、窒素雰囲気中において上記のスラリーに上記の元素を含む水溶液を添加して攪拌することによって行われるのが好ましい。また、銅粉を製造する湿式還元法が、水酸化銅が水に懸濁した液に還元剤を添加して一次還元を行って亜酸化銅を生成させた後に、この亜酸化銅が水に懸濁した液に還元剤を添加して二次還元を行って銅を生成させる方法であるのが好ましく、銅粉の平均粒径が0.1〜10μmであるのが好ましい。
【0013】
また、本発明による表面処理銅粉は、銅粉の表面に、ジルコニウム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選ばれる1以上の元素が存在し、酸素含有量が1質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
この表面処理銅粉中の上記の元素の含有量が0.01〜1質量%であるのが好ましく、表面処理銅粉の熱機械的分析により求めた焼結開始温度が500〜1000℃であるのが好ましい。また、表面処理銅粉の平均粒径が0.1〜10μmであるのが好ましく、表面処理銅粉のBET比表面積が0.5〜5m/gであるのが好ましい。また、表面処理銅粉中の硫黄含有量は、0.3質量%以下であるのが好ましく、上記の元素がランタンまたはイットリウムの場合には、表面処理銅粉中の硫黄含有量が0.04質量%未満であるのが好ましい。
【0015】
なお、本明細書中において、「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)をいい、「焼結開始温度」とは、熱機械分析(TMA)において300℃のときの測定試料の長さに対して0.5%収縮したときの温度をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銅粉の酸化を抑制し且つ焼結開始温度を高くすることができる、表面処理銅粉およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜4および7〜8と比較例1で得られた銅粉中のZr含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を示す図である。
図2】実施例1〜3および5〜6と比較例1で得られた銅粉中の添加元素の含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による表面処理銅粉の製造方法の実施の形態では、湿式還元法によって製造された銅粉が(窒素ガスにより脱気して溶存酸素を除去した純水などの)液中に分散したスラリーに、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)およびイットリウム(Y)からなる群から選ばれる1以上の元素を含む水溶液を添加して、銅粉の表面に上記の元素を存在させる表面処理を行う。湿式還元法により製造された銅粉を使用すれば、化学的気相反応により製造された銅粉を液中に分散させてスラリー化するために必要であったホモミキサなどの分散機による予備分散処理が必要なくなるため、表面処理銅粉中の酸素含有量を低減させて、導電性ペーストに使用した場合に導電性を向上させることができる。
【0019】
この表面処理銅粉の製造方法において、銅粉を製造する湿式還元法は、銅(II)塩の水溶液をアルカリで中和して得られた水酸化銅(II)が水に懸濁した液に(ヒドラジン水溶液などの)還元剤を添加して一次還元を行って亜酸化銅(酸化銅(I))を生成させた後に、この亜酸化銅が水に懸濁した液に(ヒドラジン一水和物などの)還元剤を添加して二次還元を行って金属銅を生成させる方法であるのが好ましい。このようにして生成した略球状の銅粉の平均粒径は、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜1μmであるのがさらに好ましい。
【0020】
上記の表面処理銅粉の製造方法において、銅粉の表面処理は、窒素雰囲気中において、上記の(銅粉が液中に分散した)スラリーに上記の元素(Zr、LaおよびYからなる群から選ばれる1以上の元素)を含む水溶液を添加して攪拌することによって行われるのが好ましい。上記の元素を含む水溶液として、上記の元素の塩またはその水和物の水溶液を使用することができる。この塩として、硫酸塩、オキシ硝酸塩、硝酸塩、塩酸塩またはアンモニウム塩のうち、(20℃の水に対する溶解度が1(g/100g−HO)以上である)水溶性の塩を使用することができる。この水溶性の塩の使用量によって、銅粉の表面に存在する上記の元素の量を調整することができる。なお、表面処理を窒素雰囲気中で行うために、表面処理を行う反応槽内の液面の上方および液中の少なくとも一方に窒素ガスを吹き込むのが好ましい。また、表面処理の際の攪拌は、10〜60℃において5〜120分間行うのが好ましい。
【0021】
また、表面処理後の反応液を固液分離して固形分を(好ましくは、真空中または(窒素雰囲気中などの)不活性ガス雰囲気中において)乾燥した後、解砕するのが好ましい。
【0022】
本発明による表面処理銅粉の実施の形態では、銅粉の表面に、ジルコニウム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選ばれる1以上の元素が存在し、表面処理銅粉中の酸素含有量が1質量%以下(好ましくは0.01〜1質量%)である。なお、上記の元素は、銅粉の表面に(分析により検出できる程度に)存在していればよく、上記の元素が単独で存在する場合の他、酸素、窒素、硫黄などとの化合物として存在してもよい。また、上記の元素またはその化合物が、銅粉の表面に被着している場合の他、銅粉の表面を被覆している場合でもよい。このように銅粉の表面にジルコニウム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選ばれる1以上の元素を存在させることにより、銅粉の焼結開始温度を高くして、焼成時の熱収縮温度を高温側にシフトさせることができる。また、表面処理銅粉中の酸素含有量を1質量%以下にすれば、導電性ペーストとして使用した場合に、優れた導電性の導電膜を形成することができる。
【0023】
このような表面処理銅粉は、上述した本発明による表面処理銅粉の製造方法の実施の形態により製造することができる。
【0024】
この表面処理銅粉中の上記の元素の含有量は、0.01〜1質量%であるのが好ましく、0.03〜1質量%であるのがさらに好ましい。なお、上記の元素のうち、ランタンを使用すれば、より少ない量で銅粉の焼結開始温度を高めることができる。また、表面処理銅粉の平均粒径は、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜1μmであるのがさらに好ましい。表面処理銅粉のBET比表面積は、0.5〜5m/gであるのが好ましく、1.5〜2.5m/gであるのがさらに好ましい。表面処理銅粉のタップ密度は、1.0〜5.0g/cmであるのが好ましく、3.0〜4.0/cmであるのがさらに好ましい。表面処理銅粉中の炭素含有量は、0.01〜0.1質量%であるのが好ましく、0.03〜0.08質量%であるのがさらに好ましい。
【0025】
なお、銅粉の表面処理の際に上記の元素の硫酸塩またはその水和物の水溶液を使用した場合には、表面処理銅粉中の硫黄含有量が多くなるが、硫黄は他の金属と反応して化合物を形成して銅粉の導電性を阻害するおそれがあるので、硫黄含有量は少ないのが望ましい。本発明による表面処理銅粉の製造方法の実施の形態では、銅粉の表面処理の際に上記の元素の硫酸塩またはその水和物の水溶液を使用した場合でも、表面処理銅粉中の硫黄含有量を0.3質量%以下(好ましくは0.001〜0.3質量%、さらに好ましくは0.25質量%以下)にすることができる。また、上記の元素がランタンまたはイットリウムの場合には、表面処理銅粉中の硫黄含有量を0.04質量%未満(好ましくは0.01〜0.035質量%)にすることができる。
【0026】
また、本発明による表面処理銅粉の製造方法の実施の形態により、表面処理銅粉の熱機械的分析(TMA)により求めた焼結開始温度を(表面処理を行わない銅粉よりも高い)500〜1000℃にすることができる。なお、表面処理銅粉を積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極などを形成するための導電性ペーストに使用する場合には、表面処理銅粉の熱機械的分析(TMA)により求めた焼結開始温度を、誘電体グリーンシートの焼結開始温度に近づけてセラミックの割れを防止するために、520〜900℃にするのが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明による表面処理銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0028】
[実施例1]
まず、硝酸銅三水和物(圓商産業株式会社製)の濃度が50.1質量%の硝酸銅(II)水溶液941.6gと、純水387.6gと、クエン酸一水和物73.9gを純水549.6gに溶解させたクエン酸水溶液とを混合して撹拌し、硝酸銅(II)とクエン酸の混合液を用意するとともに、48.8質量%の水酸化ナトリウム水溶液358.6gと純水543.0gとを混合して得られた水酸化ナトリウム希釈水溶液を用意した。
【0029】
次に、容量4Lの反応槽に上記の水酸化ナトリウム希釈水溶液を入れ、撹拌機により回転数350rpmで撹拌しながら、液温を27℃に保持して、反応槽内の水溶液の上方の部分に窒素ガスを吹き込み、排気されるガス中の酸素濃度が0.2体積%以下になった時点で攪拌を停止し、その直後に、上記の硝酸銅(II)とクエン酸の混合液を水酸化ナトリウム希釈水溶液に添加し、その後、上記の撹拌を再開して、水酸化銅(II)を生成させた。
【0030】
この反応液(水酸化銅(II)が水に懸濁した液)の攪拌と反応槽内への窒素ガスの吹き込みを継続しながら、液温を35℃に昇温し、水和ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製の80%ヒドラジン一水和物)21.3gを純水551.6gに溶解させたヒドラジン水溶液を添加した後、反応液の液温を70℃に昇温して120分間保持することによって一次還元を行って亜酸化銅(酸化銅(I))を生成させた。
【0031】
この反応液(亜酸化銅が水に懸濁した液)を冷却して液温を50℃にし、水和ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製の80%ヒドラジン一水和物)40.5gを添加して60分間保持した。その後、反応液の液温を50℃に維持しながら水和ヒドラジン(大塚化学株式会社製のヒドラジン一水和物)50.7gを添加して60分間保持した。その後、反応液の液温を90℃に昇温して180分間保持することによって二次還元を行って、金属銅を生成させた後、反応液の攪拌と反応槽内への窒素ガスの吹き込みを停止した。
【0032】
この反応液を固液分離して固形分を純水で水洗し、窒素雰囲気中において110℃で9時間加熱する乾燥処理を行うことによって銅粉を得た。
【0033】
また、銅粉の表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物(キシダ化学株式会社製)3.90gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を用意した。また、反応槽としての1Lのビーカーに(窒素ガスにより脱気して溶存酸素を除去した)純水300gを入れ、撹拌機により回転数660rpmで撹拌しながら、液温を15℃に保持して、反応槽内の液上に1L/分の流量で窒素ガスを吹き込み、排気されるガス中の酸素濃度を0体積%にした後、上記の銅粉100gを添加して、銅粉分散スラリーを得た。この銅粉分散スラリーに上記の硫酸ジルコニウム水溶液を添加し、15℃で60分間撹拌保持して、銅粉の表面処理を行った後、窒素ガスの吹き込みを停止した。この反応液を固液分離して固形分を真空中において170℃で12時間加熱する乾燥処理を行い、解砕した後、目開き32μmの篩に通した。
【0034】
このようにして表面処理した銅粉について、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0035】
表面処理銅粉の粒度分布として、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS))により測定した体積基準の累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)および累積99%粒子径(D99)を求めた。その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.41μm、累積50%粒子径(D50)は0.76μm、累積90%粒子径(D90)は8.04μm、累積99%粒子径(D99)は23.44μmであった。
【0036】
表面処理銅粉のBET比表面積は、BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を用いてBET法により求めた。その結果、表面処理銅粉のBET比表面積は1.9m/gであった。
【0037】
表面処理銅粉のタップ密度(TAP)は、特開2007−263860号公報に記載された方法と同様に、表面処理銅粉を内径6mmの有底円筒形の容器に充填して銅粉層を形成し、この銅粉層に上部から0.16N/mの圧力を加えた後、銅粉層の高さを測定し、この銅粉層の高さの測定値と、充填された表面処理銅粉の重量とから、表面処理銅粉の密度を求めて、表面処理銅粉のタップ密度とした。その結果、表面処理銅粉のタップ密度は3.6g/cmであった。
【0038】
表面処理銅粉中の酸素含有量は、酸素・窒素分析装置(LECO社製のTC−436型)により測定した。その結果、表面処理銅粉中の酸素含有量は0.85質量%であった。
【0039】
表面処理銅粉中の炭素含有量と硫黄含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−220V)により測定した。その結果、表面処理銅粉中の炭素含有量は0.07質量%であり、硫黄含有量は0.230質量%であった。
【0040】
銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(サーモ・ジャーレル・アッシュ社製のIRIS/AP)によって測定した。その結果、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は9400ppm(0.94質量%)であった。
【0041】
表面処理銅粉の熱機械的分析(TMA)は、表面処理銅粉を直径5mm、高さ3mmのアルミナパンに詰めて、熱機械的分析(TMA)装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製のTMA/SS6200)の試料ホルダ(シリンダ)にセットし、測定プローブにより荷重1470mNで1分間押し固めて作製した測定試料について、200mL/分の流量で窒素ガスを流入しながら、測定荷重980mNで荷重を付与して、常温から昇温速度10℃/分で900℃まで昇温し、測定試料の収縮率を測定した。この熱機械分析(TMA)において300℃のときの測定試料の長さに対して0.5%収縮したときの温度を焼結開始温度とすると、表面処理銅粉の焼結開始温度は850℃であった。
【0042】
[実施例2]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物1.95gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0043】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.40μm、累積50%粒子径(D50)は0.71μm、累積90%粒子径(D90)は1.45μm、累積99%粒子径(D99)は15.34μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.2m/gであり、タップ密度は3.7g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.83質量%、炭素含有量は0.06質量%、硫黄含有量は0.113質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は4800ppm(0.48質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は637℃であった。
【0044】
[実施例3]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物7.79gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0045】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.39μm、累積50%粒子径(D50)は0.71μm、累積90%粒子径(D90)は7.31μm、累積99%粒子径(D99)は23.21μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m/gであり、タップ密度は3.7g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.45質量%、炭素含有量は0.04質量%、硫黄含有量は0.069質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は1600ppm(0.16質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は526℃であった。
【0046】
[実施例4]
乾燥処理を窒素雰囲気中において120℃で9時間加熱することによって行った以外は、実施例2と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0047】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.40μm、累積50%粒子径(D50)は0.70μm、累積90%粒子径(D90)は1.41μm、累積99%粒子径(D99)は12.65μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.1m/gであり、タップ密度は3.7g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.73質量%、炭素含有量は0.06質量%、硫黄含有量は0.117質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は4900ppm(0.49質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は604℃であった。
【0048】
[実施例5]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ランタン九水和物(三津和化学薬品株式会社製)2.62gを混合した硫酸ランタン水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(La)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0049】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.41μm、累積50%粒子径(D50)は0.74μm、累積90%粒子径(D90)は1.49μm、累積99%粒子径(D99)は13.51μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m/gであり、タップ密度は3.6g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.82質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.015質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(La)の含有量は530ppm(0.053質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は733℃であった。
【0050】
[実施例6]
表面処理水溶液として、酸化イットリウムを硫酸溶液に溶解して得られた2.13質量%の硫酸イットリウム水溶液46.95gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Y)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0051】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.41μm、累積50%粒子径(D50)は0.75μm、累積90%粒子径(D90)は1.64μm、累積99%粒子径(D99)は15.49μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.8m/gであり、タップ密度は3.5g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.83質量%、炭素含有量は0.04質量%、硫黄含有量は0.030質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Y)の含有量は440ppm(0.044質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は523℃であった。
【0052】
[実施例7]
表面処理水溶液として、純水60gと硫酸ジルコニウム四水和物0.39gを混合した硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0053】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.36μm、累積50%粒子径(D50)は0.71μm、累積90%粒子径(D90)は1.29μm、累積99%粒子径(D99)は1.91μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.0m/gであり、タップ密度は3.6g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.61質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.021質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は1000ppm(0.10質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は539℃であった。
【0054】
[実施例8]
表面処理水溶液として、純水60gとオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(キシダ化学株式会社製)0.30gを混合したオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0055】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.38μm、累積50%粒子径(D50)は0.73μm、累積90%粒子径(D90)は1.32μm、累積99%粒子径(D99)は1.86μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は2.0m/gであり、タップ密度は3.5g/cmであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は0.67質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.001質量%未満であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は700ppm(0.07質量%)であった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は468℃であった。
【0056】
[比較例1]
表面処理をしなかった以外は、実施例1と同様の方法により、銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積およびタップ密度を求め、銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0057】
その結果、銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.36μm、累積50%粒子径(D50)は0.69μm、累積90%粒子径(D90)は1.50μm、累積99%粒子径(D99)は16.08μmであった。銅粉のBET比表面積は1.8m/gであり、タップ密度は3.6g/cmであった。銅粉中の酸素含有量は0.45質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.001質量%であった。また、銅粉の焼結開始温度は411℃であった。
【0058】
[比較例2]
銅粉の表面処理において、反応槽中に純水を入れた後、攪拌機により撹拌する前に、超音波ホモジナイザ(株式会社日本精機製作所製のUS−300E)により超音波分散処理を1分間行った以外は、実施例1と同様の方法により、表面処理した銅粉を作製し、粒度分布、BET比表面積を求め、表面処理銅粉中の酸素含有量、炭素含有量および硫黄含有量と、表面処理により添加されて表面に被着した元素(Zr)の含有量を測定するとともに、熱機械的分析(TMA)を行った。
【0059】
その結果、表面処理銅粉の累積10%粒子径(D10)は0.42μm、累積50%粒子径(D50)は0.80μm、累積90%粒子径(D90)は9.68μm、累積99%粒子径(D99)は25.89μmであった。表面処理銅粉のBET比表面積は1.0m/gであった。表面処理銅粉中の酸素含有量は1.06質量%、炭素含有量は0.05質量%、硫黄含有量は0.223質量%であり、銅粉の表面に被着した添加元素(Zr)の含有量は9600ppmであった。また、表面処理銅粉の焼結開始温度は652℃であった。
【0060】
これらの実施例および比較例の表面処理銅粉の特性を表1および表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
また、実施例1〜4および7〜8と比較例1で得られた銅粉中のZr含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を図1に示し、実施例1〜3および5〜6と比較例1で得られた銅粉中の添加元素の含有量に対する銅粉の収縮開始温度の関係を図2に示す。図1および図2から、銅粉に添加するZrなどの添加元素の量が増大するに従って、収縮開始温度が高くなるのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明による表面処理銅粉は、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極や、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極を形成するための導電性ペーストに使用することができる。
図1
図2