(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年高感度の欠陥検査装置が開発され、100nmサイズの傷やパーティクル、汚れも検出可能となってきており、ガラスの洗浄方式として一般的に知られるディップ方式や枚葉方式の洗浄を行っても、時々パーティクルの付着や汚れのあるガラス基板が見つかり、製品歩留まりが落ちるという問題点があった。
【0006】
特許文献1の基板の場合、枚葉洗浄機で洗浄し、スピンドライヤー乾燥を行った後に表面を検査すると、目視で確認できるサイズであるおよそ1μm以上のパーティクルは認められないものの、側面に近い領域に100nmサイズの付着汚れが検出される。
また、特許文献2の基板の場合、特許文献1に記載された基板よりも稜線がより丸く形成されているため、一枚一枚のガラス基板に対して、常に新しい水や薬液を供給できる枚葉洗浄機を用いて洗浄し、乾燥した後のガラス板の表面は、比較的100nmサイズの汚れが少ない傾向である。一方、ガラス基板を耐薬品の専用のカセットに複数枚を縦に収納し、カセットごとに薬液が満たされた水槽に浸漬するディップ洗浄を行った後のガラス板の表面は、乾いた後に側面に残った最終洗浄槽の液体が表面に垂れてしまうことによって、100nmサイズの汚れが多くなる場合があった。
【0007】
更に、特許文献3のような滑らかな表面を有する側面を有するガラス基板であっても、面取り面と表面の稜線及び面取り面と側面の稜線の形状によっては、枚葉洗浄又はディップ洗浄、もしくはこれらの両方の方式の洗浄後にガラス基板の表面は、100nmサイズの付着汚れが多くなる場合があった。
【0008】
特許文献4のような面取り面の平坦度が50μm以下であって、面取り面の高さがその中心領域から周縁部に向かって漸次低くなる凸形状であっても、特許文献3と同様に、面取り面と表面の稜線部及び面取り面と側面の稜線部の形状によって付着汚れの程度に影響を受ける。また、面取り面の表面粗さを小さく規定することによって、研磨剤微粒子等が捕捉されにくく、汚れを防ぐことに一定の効果は期待できるものの、特許文献4でも述べられている側面の研磨方法として一般的なブラシによる加工では、面取り面と表面の稜線部や面取り面と側面の稜線部が一定の面積をもって存在することとなり、面取り面の粗さだけ規定するのでは、効果が十分ではない場合があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、洗浄方式に関わらず、洗浄後のサブミクロンサイズのガラス基板の表面汚染を抑制し、製造歩留まりの低下を抑えることができる、表面側の面取り面近傍に所定の形状を有する曲面を形成した、主に半導体関連電子材料に用いられるガラス基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、表面と、裏面と、4個の側面と、表面と各側面及び裏面と各側面との間にそれぞれ形成された8個の面取り面とを有する角形ガラス基板における表面と表面側の面取り面とを結ぶ稜線部や、側面と表面側の面取り面とを結ぶ稜線部に、所定の平均勾配を有する曲面を形成することが、前記課題の解決に有用であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、以下の角形ガラス基板及びその製造方法を提供する。
〔1〕
表面と、裏面と、4個の側面と、表面と各側面及び裏面と各側面との間にそれぞれ形成された8個の面取り面とを有する角形ガラス基板であって、
表面を上向きにして水平に載置した際、表面とこの表面側の面取り面との間の稜線部に、この表面から50μm下方の位置までの平均勾配が25%以下である第一曲面を有すると共に、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面と前記表面側の面取り面との間の稜線部に、この側面から50μm下方の位置までの平均勾配が30%以上である第二曲面を有し、かつ
板厚が6mm以上である角型ガラス基板。
〔2〕
前記第一曲面の算術平均粗さ(Sa)が、2nm以下である〔1〕記載の角型ガラス基板。
〔3〕
前記角型ガラス基板の側面及び表面側の面取り面の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)が、0.1μm以下である〔1〕又は〔2〕記載の角型ガラス基板。
〔4〕
前記角型ガラス基板の外形より2mm内側の範囲を除く表面の平坦度が、5μm以下である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の角型ガラス基板。
〔5〕
側面及び面取り面が研削加工された複数枚の角形ガラス原料基板同士を表裏面が対向するようにして離間して配置した状態で、側面及び面取り面をブラシ研磨する工程を含み、前記ブラシが円筒状又は円柱状の基体と、この基体側面に放射状に設けられた複数本の毛体とを備えるものであって、前記毛体1本の線径が0.2mm以下であり、かつ原料基板同士の間隔が毛体線径の2〜10倍である〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の角型ガラス基板の製造方法。
〔6〕
更に研磨布を張った定盤を角型ガラス基板の側面に当接させて研磨する〔5〕記載の角型ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の角型ガラス基板によれば、洗浄方式に関わらず、洗浄後のサブミクロンサイズの表面汚染を抑制し、製造歩留まりの低下を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の角形ガラス基板は、表面と、裏面と、4個の側面と、表面と各側面及び裏面と各側面との間にそれぞれ形成された8個の面取り面とを有し、表面を上向きにして水平に載置した際、表面とこの表面側の面取り面との間の稜線部に、この表面から50μm下方の位置までの平均勾配が25%以下である第一曲面を有すると共に、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面と前記表面側の面取り面との間の稜線部に、この側面から50μm下方の位置までの平均勾配が30%以上である第二曲面を有し、かつ板厚が6mm以上である角型ガラス基板である。
なお、本発明の角形ガラス基板は、表面側の面取り面の近傍に上記形状が形成されたものであり、裏面側の面取り面及びその近傍の形状等は特に制限されない。
【0015】
図1に、本発明にかかる角型ガラス基板の表面及び裏面に垂直な断面で表面から面取り面を経て側面にかけての形状を測定したプロファイルを示す。なお、
図1において、1は表面、2は表面側の面取り面、3は側面、4は表面より50μm下方の位置、5は表面より50μm下方の位置までの第一曲面、6は側面より50μm下方の位置、7は側面より50μm下方の位置までの第二曲面である。ここで、角型ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した際、この表面から50μm下方の位置までの平均勾配とは、
図1の5の部分の平均勾配をいう。本発明においては、この部分の平均勾配が25%以下、好ましくは23%以下、更に好ましくは20%以下である。なお、平均勾配の下限値は特に制限はないが、第一曲面が表面側に入り込みすぎると表面の平坦度が悪くなるため、15%以上が好ましい。
【0016】
本発明を成すにあたって、本発明者らは角型ガラス基板の表面と表面側の面取り面を結ぶ稜線部の第一曲面における平均勾配の緩急が、表面の汚れに及ぼす影響を検討した。角型ガラス基板の表面を水平に載置して洗浄する枚葉洗浄方式の場合、表面の有機物、金属不純物、研磨剤の残り等の様々な種類の汚れを除去するために、対象物に対応した様々な薬液を組み合わせて使用する。その中で、表面汚染が生じる原因としては、薬液を変更する際のpHや表面電位の影響が考えられる。例えば、酸性薬液を供給することによって元々表面についていた汚れを薬液中に溶出させたとしても、汚れがガラス基板上から系外に排出しきれなかった場合、次の工程にてアルカリ性薬液を供給してしまうと、溶出していた汚れは塩となって析出し、ガラス基板に再付着してしまう。枚葉洗浄においては基板を回転させながら薬液を供給し、溶出した汚れを遠心力によって系外へ排出する機構をとっているが、回転数を上げすぎると表面が乾いてしまうため、数十〜数百rpm程度の低速回転で回転する。このとき、角型ガラス基板の表面から面取り面にかけての勾配が急であると、薬液中に溶出した汚れ成分が薬液の表面張力によって面取り面付近の表面に留まってしまう場合がある。更に、枚葉洗浄で種類の異なる薬液を使用する場合、洗浄機内で洗浄槽を分ける構成が一般的であるが、洗浄槽を移す際、一旦、ガラス基板の回転を止める必要がある。このとき、回転が止まったタイミングで遠心力がなくなるので、表面と面取り面付近に留まっていた汚れ成分が表面中心側へ流れてくる。その状態で、次の洗浄槽においてpHや表面電位影響の異なる薬液を供給すると、汚れ成分が塩となって析出して角型ガラス基板の表面に凸状付着物を発生させてしまうと考えた。そこで、低速回転であっても薬液中に溶出した汚れを遠心力で円滑に系外へ排出でき、表面の凸状付着物の発生を抑制することができるようにするために、表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配を25%以下にした。
【0017】
また、本発明の角型ガラス基板における4個の側面のうち、少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配とは、
図1の7の部分の平均勾配をいう。本発明においては、このような曲面が、角形ガラス基板の4個の側面及び表面側の面取り面を結ぶ稜線部に形成されていることが好ましく、この部分の平均勾配が30%以上、好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上である。なお、平均勾配の上限値は特に制限はないが、勾配が急すぎると治具等に接触した場合、クラックやチップが入りやすくなるため、48%以下が好ましい。
【0018】
本発明を成すにあたって、本発明者らは角型ガラス基板の側面から表面側の面取り面にかけての第二曲面の平均勾配の緩急が、表面の汚れに及ぼす影響を検討した。角型ガラス基板の側面を水平に載置して洗浄するディップ洗浄方式において、表面汚染の可能性の高い工程として、洗浄工程が終わった後の乾燥工程が挙げられる。ディップ洗浄方式の乾燥工程としては、温純水引き上げ乾燥、マランゴニ乾燥、蒸気加熱乾燥等が知られているが、いずれの乾燥方法もガラス基板を縦にして槽内から引き上げる態様を採る。槽内において側面付近に存在していた水もしくは薬液の大部分は、引き上げの瞬間にはまだ濡れている表面を伝って流れ落ちるが、引上げ中もしくは引き上げが終わった後も一部の水もしくは薬液は側面に残存する場合がある。ここで、乾燥工程において水もしくは薬液は高温になっているため、側面に残った水もしくは薬液はほとんどが蒸気となって飛ぶものの、洗浄機の振動やガラス基板及び洗浄カセットの傾きによっては、前記側面に残存する水もしくは薬液が蒸気とならずに角型ガラス基板の表面側に垂れてくる場合がある。この場合、水もしくは薬液は高温で、かつ側面や槽内に存在していた汚れが濃縮された状態で含んでいるため、このような状態の水もしくは薬液が角型ガラス基板の表面に垂れてくると、表面を伝って流れ落ちる前に表面上で汚れとして乾燥し、固着してしまうと考えた。そこで、洗浄機の振動やガラス基板及び洗浄カセットの傾きがあった場合でも、引上げ中もしくは引き上げが終わった後に、側面に残存する水もしくは薬液が表面張力によって側面に留まりやすくなり、角型ガラス基板の表面に流れて汚れとして固着することを防ぐために、側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配を30%以上にした。
【0019】
表面から表面側の面取り面にかけての形状及び側面から表面側の面取り面にかけての形状を示す平均勾配は、触診式の粗さ計や触診式及びレーザー変異方式等の非接触の三次元計測機で測定することができる。例えば、東京精密社製の表面粗さ、輪郭形状測定機サーフコム 1900により測定した曲面のプロファイルを用いて、表面より50μm下方の位置を決定するために表面を水平方向にレベリングし、表面をX軸と合わせ、Y軸に50μm下方の位置を決定し、表面がX軸を離れ始める点から50μm下方の点までのX方向の変位を分母とし、50μmを分子とすることで、表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配を算出した。
【0020】
本発明の角型ガラス基板の板厚は、6mm以上である。6mmよりも板厚が薄い場合、側面幅も小さくなるため、側面に残る液体が少なくなり、表面汚れの懸念が少なくなり、平均勾配を考慮しなくてもよいためである。
また、本発明の角型ガラス基板は、一辺が150〜300mmの角型の合成石英ガラス基板が好ましく、更に、チタニアが0.1〜20質量%含まれていても良い。
【0021】
本発明の角型ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した際における表面から50μm下方の位置までの第一曲面(
図1の5の部分)の算術平均粗さ(Sa)は、汚れの除去しやすさの観点から、好ましくは2nm以下、より好ましくは1nm以下、更に好ましくは0.5nm以下、特に好ましくは0.3nm以下である。この場合、算術平均粗さは、ISO25178等に基づいて測定し得る。
【0022】
本発明の角型ガラス基板の側面及び表面側の面取り面の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)は、汚れの残存を防止する観点から、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下、更に好ましくは0.025μm以下である。この場合、算術平均粗さは、JIS B0601−1994等に基づいて測定し得る。
本来、汚れや液体の残存しやすさを評価するには面のパラメータであるSaを用いた方が適切であるが、側面や面取り面を測定しようとする場合、基板を縦置きしてステージから基板の縦や横の寸法だけ高いところに測定対象が位置することとなる。その場合、測定機の可動範囲の制約により2次元のSaを測定、算出できるAFM測定機等で測定することが困難である一方、1次元のRaを算出できる触診式の粗さ計のような測定機であれば、ステージから基板の縦や横の寸法だけ高い位置であっても比較的簡易に測定できるためRaを用いて規定した。
【0023】
なお、本発明の角形ガラス基板の表面の算術平均粗さ(Sa)は、汚れの除去しやすさの点から、0.3nm以下が好ましく、より好ましくは0.2nm以下である。
【0024】
本発明の角型ガラス基板の外形より2mm内側の範囲を除く表面の平坦度は、液体の排出の観点から、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下である。特に、本発明の角型ガラス基板を最先端用途であるフォトマスク用やナノインプリント用として用いる場合、露光や転写の際に高い位置精度や均一性が要求される場合がある。ここで、外形は
図1において、表面1を延長した線と側面3を延長した線との交点Sからの距離であり、該Sから2mm内側の範囲を除く表面の平坦度を規定したものである。なお、平坦度の測定は特に制限されないが、例えば、光学干渉式の測定法が好適である。本発明において、平坦度の測定は、例えばTROPEL社製UltraFlatM200等の光学干渉式の平坦度測定機を用いて測定できる。
【0025】
次に、本発明の角型ガラス基板の製造方法について説明する。
まず、一辺が150〜300mmの角型ガラス基板の原料基板を複数枚用意し、表面及び裏面をラッピングした後、側面及び面取り面を研削加工する。得られた基板を例えば10〜100枚表裏面が対向するようにして離間させて配置した状態で、側面及び面取り面についてブラシ研磨を行う。複数枚重ねた状態でブラシ研磨することにより、生産性が良く、角型ガラス基板の表面と表面側の面取り面を結ぶ第一曲面の平均勾配も制御しやすくなる。
【0026】
用いられるブラシとしては、例えば円筒状又は円柱状の基体と、この基体側面に放射状に設けられた複数本の毛体とを備えるものが好ましい。毛体1本の線径は、0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下、より好ましくは0.09mm以下である。毛体の線径が0.2mmを超えると、毛の強度が増して硬くなり、側面及び面取り面に研磨むらが生じ、粗さ曲線の算術平均粗さも粗くなりやすくなる。むらが生じた部分や粗い部分では汚れが溜まりやすくなり、角型ガラス基板の表面汚染の原因となる。なお、毛体の線径の下限は特に制限はないが、0.01mm以上が好ましい。
【0027】
ブラシはどのような形状でも良いが、例えば
図3に示すように直径30〜300mm、長さ50〜300mmの円筒状又は円柱状のブラシ基体12の側面に毛体13として長さ10〜50mmの短繊維を放射状に基体側面全体に1〜10本/mm
2の密度で植毛したブラシ9を使用することができる。なお、
図3においては、角型ガラス基板の原料基板8の側面に接触する毛体のみを示した。毛体の材質は樹脂製、獣毛製等であることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、メラミン、羊毛などが用いられる。
【0028】
また、ブラシ研磨の際に、角形ガラス基板の原料基板同士を表裏面が対向するようにして離間させた状態で配置した基板同士の間隔(以下、「スタッキング間隔」ともいう。)は、毛体線径の2〜10倍、好ましくは2.5〜7.5倍である。スタッキング間隔が毛体線径の2倍未満の場合、毛体の毛先が前記間隔に入りにくく、面取り面と表面の間が研磨されにくくなり、表面と面取り面を結ぶ稜線部が曲面になりづらい。すなわち、角型ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した際、表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配が25%以下である基板を作製しづらくなる。また、研磨時間を長くして曲面を形成しようとすると、同時に面取り面と側面の間の研磨が進み、平均勾配の大きな曲面となり、側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配が30%未満になってしまう。
一方、スタッキング間隔が毛体線径の10倍を超える場合、スタッキング間隔が広すぎてしまい、一度に側面及び面取り面を研磨できる枚数が減ってしまうため、生産性が悪くなる。また、スタッキング間隔が狭すぎる場合ほどではないが、広すぎる場合も表面と面取り面の間にあたるブラシが疎になる影響で、面取り面と表面の間が研磨されづらくなり、表面と面取り面を結ぶ稜線部が所定の曲面になりづらくなる。
【0029】
なお、スタッキング間隔はどのように制御しても良いが、例えば、
図3の符号14で示したように、厚みの揃ったナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂製のシート又は紙を角型ガラス基の原料基板間に挟むことにより制御が可能である。前記樹脂製のシート又は紙は、基板同士が接触して表面のキズの原因となることを避ける観点から、基板の縦、横の寸法よりそれぞれ10mm以下小さいサイズのものを用いて、中心が基板中心と重なるように配置することが好ましい。
【0030】
本発明のブラシによる側面及び面取り面の研磨方法について、
図2及び
図3を用いて説明する。
図3に示すように毛体13が側面研削加工後の角型ガラス基板の原料基板8の側面及び面取り面に毛先から1〜30mmの深さで当たるようにしてブラシ9を配置する。このときのスタックした角型ガラス基板の原料基板8とブラシ9(毛体は図示せず)の配置を
図2(B)に示す。ブラシを
図2(A)中、11に示す方向に回転数100〜5000rpmで回転させて、毛体の毛先が連続的に角型ガラス基板の原料基板の側面部及び面取り面部に当たるようにしながら研磨剤を供給することにより、側面と面取り面を研磨することができる。ブラシによって角型ガラス基板の外側を形成する側面と面取り面を万遍なく研磨するために、
図2の10のように角型ガラス基板の原料基板の外周を10〜1000mm/分の移動速度で周回するように動かしても良いし、ブラシが角型ガラス基板の原料基板の一辺に沿って10〜1000mm/分の移動速度で往復運動する機構と角型ガラス基板が90°ずつ回転する機構を組み合わせても良い。
ブラシ研磨工程において用いられる研磨剤としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化鉄(ベンガラ)、コロイダルシリカ等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、前記ブラシ研磨工程後に、更に角型ガラス基板の側面及び面取り面について、研磨布を張った定盤を当接して研磨剤を供給しながら研磨することができる。これにより、角型ガラス基板の表面と表面側の面取り面を結ぶ稜線部における第一曲面と、側面と表面側の面取り面を結ぶ稜線部における第二曲面の平均勾配を所望の範囲に制御することができる。具体的には、
図4のように研磨布16を張った定盤15を当接する面に対して平行な方向18に5〜100rpmの回転数で回転させながら10〜300gf/cm
3の圧力で当接させ、定盤もしくは角型ガラス基板を当接する辺の長辺方向17に10〜1000mm/分の移動速度で往復運動させることで、側面及び面取り面の平坦度を比較的高い状態にすることができる。例えば、ブラシ研磨によって、角型ガラス基板の表面から面取り面にかけての平均勾配と、側面から面取り面にかけての平均勾配の両方が小さくなりすぎた場合、側面のみを研磨布を張った定盤で研磨することによって側面から面取り面にかけての勾配を大きくすることができる。この場合、研磨布の材質としては、硬質ポリウレタンパッド、ポリウレタンを含浸した不織布パッド、エポキシパッド等が挙げられ、研磨剤としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン、ベンガラ等を用いることができる。
【0032】
本発明の角型ガラス基板の製造方法は、前記側面と面取り面の研磨工程の前後に、表面の粗研磨及び最終研磨を行うことで、最終製品に仕上げることができる。粗研磨工程は、硬質の発泡ポリウレタン等の研磨布と酸化セリウム系等の研磨剤を使用することができる。最終研磨工程は、スェード系軟質ポリウレタン等の研磨布とコロイダルシリカ等の研磨剤を用いることができる。粗研磨工程及び最終研磨工程は、片面方式のポリッシュ装置を用いても良いし、両面方式のポリッシュ装置を用いても良い。研磨の順番としては、側面と面取り面の研磨を行った後に表面の粗研磨と最終研磨を行っても良いし、表面の粗研磨を行った後、側面と面取り面の研磨を行い、その後に表面の最終研磨を行っても良い。
【0033】
表面の最終研磨工程において、研磨時の圧力、使用するスェード系軟質ポリウレタン等の研磨布の硬度及びナップ層の長さ等を制御することにより、本発明の角型ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した場合におけるこの表面から50μm下方の位置までの第一曲面(
図1の5の部分)の算術平均粗さ(Sa)を制御することができる。
表面の研磨時に、スェード系軟質ポリウレタン等の研磨布の沈み込みを大きく、基板表面から厚さ方向に50μm以上、好ましくは100μm以上沈み込ませることによって、表面を上向きにして水平に載置した場合におけるこの表面から50μm下方の位置までの第一曲面について、表面と同等に研磨され、最終研磨後の表面に近いレベルの算術平均粗さ(Sa)を達成することができる。
【0034】
用いられる最終研磨工程の研磨布の硬度は、アスカーC硬度で、好ましくは60以下、より好ましくは57以下、更に好ましくは55以下であり、下限値は通常40以上である。研磨布のナップ層の長さは、好ましくは350μm以上、より好ましくは400μm以上、更に好ましくは450μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは700μm以下である。
また、研磨時の圧力は、好ましくは50gf/cm
2以上、より好ましくは75gf/cm
2以上、更に好ましくは100gf/cm
2以上であり、通常500gf/cm
2以下である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
外寸が152mmサイズであるスライスされた角型合成石英ガラスの原料基板100枚を用意し、表面及び裏面をラッピングした後、ダイヤモンドホイール(番手800番)による側面及び面取り面研削加工を行った。続いてブラシ線径60μm、基体の直径200mm、長さ150cm、毛体の長さ20mm、植毛密度3本/mm
2であるナイロン製ブラシと酸化セリウム系研磨剤(A−10、昭和電工社製)を用いて、側面1面に対して5分間の側面鏡面化加工を計4面について行い、側面及び面取り面形状を形成した。具体的には、100枚のガラス基板をスタッキング間隔500μm(ブラシの毛体線径の8.3倍)でスタッキングし、これら基板側面に対して毛体の毛先からおよそ8mmの深さで当たるようにブラシを配置して、回転数1000rpmでブラシを回転させながら移動速度200mm/分で側面1面に沿って往復運動させた。
【0038】
側面鏡面化加工が終了した時点で、板厚は約6.45mmであった。表面粗さ、輪郭測定機サーフコム 1900(東京精密製)により、100枚から任意の10枚を抜き取り、面取り面とその近傍の形状を測定したところ、この表面を上向きにして水平に載置した際、表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最大値が21%であった。また、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最小値が40%であった。
【0039】
その後、硬質の発泡ポリウレタン研磨布と酸化セリウム系研磨剤(A−10、昭和電工社製)を使用して両面ポリッシュ装置により表裏面の粗研磨を行った後に、スェード系軟質ポリウレタン研磨布(FILWEL社製 N0092(アスカーC硬度55、ナップ層の長さ550μm))とコロイダルシリカ研磨剤(コンポール80、フジミインコーポレーテッド社製)を用いて、両面ポリッシュ装置にて研磨布の沈み込み量120μm、研磨圧力150g/cm
2で最終精密研磨を実施し、加工を終了した。
【0040】
加工終了した10枚の基板について、ISO25178に基づいて、原子間力顕微鏡Park NX20(Park SYSTEMS社製)にてガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した場合におけるこの表面から50μm下方の位置までの第一曲面の算術平均粗さ(Sa)を測定したところ、1μm角の測定範囲で0.25nmであった。
【0041】
加工終了後、100枚中50枚の角型合成石英ガラス基板について、側面が水平になるような向きでディップ洗浄を行い、乾燥してから集光灯下の目視による欠陥検査を行ったところ、50枚のいずれの角型合成石英ガラス基板とも、表面の外周側に汚れやシミがないことを確認した。
【0042】
残りの50枚の角型合成石英ガラス基板について、表面を上向きにして水平となるように角型ガラス基板を載置して枚葉式の洗浄を行った。枚葉洗浄では、角型合成石英ガラス基板を100rpmで回転させながらSPM洗浄液(Sulfuric acid−Hydrogen Peroxide Mixture)を表面に供給した後、同じく100rpmで回転させながら超音波を印加した超純水を表面に供給し、超純水の供給を止めた後、1,200rpmに回転速度を上げ、角型合成石英ガラス基板表面に残存していた超純水を遠心力で振り切って乾燥した。
【0043】
枚葉式洗浄後、50nmのPSL粒子を検出できる感度のレーザーコンフォーカル光学系高感度欠陥検査装置(レーザーテック社)を用いて、角型合成石英ガラス基板の表面を146mm角範囲で欠陥検査を行ったところ、50枚全数で100nm以上のサイズの欠陥は見られなかった。また、角型合成石英ガラス基板表面の外周側にパーティクルやウォーターマーク等も見られなかった。
また、洗浄した角型合成石英ガラス基板について光学干渉式の平坦度測定機TROPEL社製UltraFlatM200によりフラット検査を行ったところ、角型合成石英ガラス基板は全数が外形より2mm内側の範囲を除く表面の平坦度が5μm以下であった。
【0044】
[実施例2]
実施例1と同様にして、外寸が152mmサイズであるスライスされた角型合成石英ガラスの原料基板100枚を用意し、ラッピング、側面及び面取り面研削加工を行った後、ブラシ線径60μmであるナイロン製ブラシと酸化セリウム系研磨剤を用いて、側面1面に対して5分間の側面鏡面化加工を計4面について行い、側面及び面取り面形状を形成した。この際、角型合成石英ガラス基板のスタッキング間隔は200μm(ブラシの毛体線径の3.3倍)であった。
【0045】
側面鏡面化加工が終了した時点で、板厚は約6.45mmであった。実施例1と同様にして、100枚から任意の10枚を抜き取り、面取り面とその近傍の形状を測定したところ、表面を上向きにして水平に載置した際、この表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最大値が23%であった。また、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最小値が39%だった。
【0046】
その後、実施例1と同様にして、粗研磨と最終精密研磨を実施し、加工を終了した。
【0047】
加工終了した10枚の基板について、実施例1と同様にして、ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した場合における表面から50μm下方の位置までの第一曲面の算術平均粗さ(Sa)を測定したところ、0.28nmであった。
【0048】
加工終了後、100枚中50枚の角型合成石英ガラス基板について、側面が水平になるような向きでディップ洗浄を行い、乾燥してから集光灯下の目視による欠陥検査を行ったところ、50枚のいずれの角型合成石英ガラス基板とも、表面の外周側に汚れやシミがないことを確認した。
【0049】
残りの50枚の角型合成石英ガラス基板について、表面を上向きにして水平となるように角型合成石英ガラス基板を載置して実施例1と同様にして枚葉式の洗浄を行い、欠陥検査装置で欠陥検査を行ったところ、50枚全数で100nm以上のサイズの欠陥は見られなかった。また、角型合成石英ガラス基板表面の外周側にパーティクルやウォーターマーク等も見られなかった。
更に、洗浄した角型合成石英ガラス基板について、実施例1と同様にしてフラット検査を行ったところ、角型合成石英ガラス基板は全数が外形より2mm内側の範囲を除く表面の平坦度が、5μm以下であった。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様にして、外寸が152mmサイズであるスライスされた角型合成石英ガラスの原料基板100枚を用意し、ラッピング、側面及び面取り面研削加工を行った後、ブラシ線径60μmであるナイロン製ブラシと酸化セリウム系研磨剤を用いて、側面1面に対して5分間の側面鏡面化加工を計4面について行い、側面及び面取り面形状を形成した。この際、角型合成石英ガラス基板のスタッキング間隔は200μm(ブラシの毛体線径の3.3倍)であった。
【0051】
その後、更に研磨布を張った直径300mmの定盤を側面に当接して研磨を行った。定盤には硬質ウレタンパッドを貼り、回転数は70rpm、研磨圧力150gf/cm
2とし、研磨剤に酸化セリウム(A−10、昭和電工社製)を用いて研磨を行った。
【0052】
側面鏡面化加工が終了した時点で、板厚は約6.45mmであった。実施例1と同様にして、100枚から任意の10枚を抜き取り、面取り面とその近傍の形状を測定したところ、表面を上向きにして水平に載置した際、この表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最大値が20%であった。また、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最小値が43%だった。
更に、JIS B0601−1994に基づいて、表面粗さ、輪郭形状測定機サーフコム 1900(東京精密社製)により測定した10枚の角型合成石英ガラス基板の側面及び表面側の面取り面の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)は、側面が0.01μm、面取り面が0.03μmであった。
【0053】
その後、実施例1と同様にして、粗研磨と最終精密研磨を実施し、加工を終了した。
【0054】
加工終了した10枚の基板について、実施例1と同様にして、ガラス基板の表面を上向きにして水平に載置した場合における表面から50μm下方の位置までの第一曲面の算術平均粗さ(Sa)を測定したところ、0.26nmであった。
【0055】
加工終了後、100枚中50枚の角型合成石英ガラス基板について、側面が水平になるような向きでディップ洗浄を行い、乾燥してから集光灯下の目視による欠陥検査を行ったところ、50枚のいずれの角型合成石英ガラス基板とも、表面の外周側に汚れやシミがないことを確認した。
【0056】
残りの50枚の角型合成石英ガラス基板について、表面を上向きにして水平となるように角型合成石英ガラス基板を載置して実施例1と同様にして枚葉式の洗浄を行い、欠陥検査装置で欠陥検査を行ったところ、50枚全数で100nm以上のサイズの欠陥は見られなかった。また、角型合成石英ガラス基板表面の外周側にパーティクルやウォーターマークなども見られなかった。
更に、洗浄した角型合成石英ガラス基板について、実施例1と同様にしてフラット検査を行ったところ、角型合成石英ガラス基板は全数が外形形より2mm内側の範囲を除く表面の平坦度が、5μm以下であった。
【0057】
[比較例1]
実施例1と同様にして、外寸が152mmサイズであるスライスされた角型合成石英ガラスの原料基板100枚を用意し、ラッピング、側面及び面取り面研削加工を行った後、ブラシ線径60μmであるナイロン製ブラシと酸化セリウム系研磨剤を用いて、側面1面に対して5分間の側面鏡面化加工を計4面について行い、側面及び面取り面形状を形成した。この際、角型合成石英ガラス基板のスタッキング間隔は1,000μm(ブラシの毛体線径の16.7倍)であった。
【0058】
側面鏡面化加工が終了した時点で、板厚は約6.45mmであった。実施例1と同様にして、100枚から任意の10枚を抜き取り、面取り面とその近傍の形状を測定したところ、表面を上向きにして水平に載置した際、表面から50μm下方の位置までの第一曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最大値が37%であった。また、4個の側面のうち少なくとも1個の側面を上向きにして水平に載置した際、この側面から50μm下方の位置までの第二曲面における平均勾配については、10枚の角型合成石英ガラス基板の最小値が41%だった。更に、実施例3と同様にして測定した10枚の角型合成石英ガラス基板の側面及び表面側の面取り面の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)は、側面が0.03μm、面取り面が0.04μmであった。
【0059】
その後、実施例1と同様にして、粗研磨と最終精密研磨を実施し、加工を終了した。
【0060】
加工終了後、100枚中50枚の角型合成石英ガラス基板について、実施例1と同様にして枚葉洗浄を行い、欠陥検査を行ったところ、50枚中5枚の基板で100nm以上のサイズの欠陥が検出され不合格となった。検出位置は5枚とも表面の外周側で、パーティクルやウォーターマークであった。表面を水平に載置した際、表面から面取り面の勾配がきつかったため、表面張力が働き、洗浄後の薬液が遠心力によって表面から離れにくく、パーティクルやウォーターマークの原因となったものと考えられる。