特許第6763377号(P6763377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6763377
(24)【登録日】2020年9月14日
(45)【発行日】2020年9月30日
(54)【発明の名称】黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/10 20060101AFI20200917BHJP
   C22C 37/00 20060101ALI20200917BHJP
   C21D 5/06 20060101ALI20200917BHJP
【FI】
   C22C37/10 A
   C22C37/00 P
   C21D5/06
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-521697(P2017-521697)
(86)(22)【出願日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】JP2016002670
(87)【国際公開番号】WO2016194377
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2019年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-112049(P2015-112049)
(32)【優先日】2015年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭31−007814(JP,B1)
【文献】 中国特許出願公開第1219601(CN,A)
【文献】 特開昭49−094514(JP,A)
【文献】 特公昭56−022924(JP,B2)
【文献】 特開平07−138636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00 − 37/10
C21D 5/00 − 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で2.0%以上、3.4%以下の炭素と、
0%以上、1.4%以下のケイ素と、
2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムと、を含有し、
残部は、鉄及び不可避的不純物であり
前記炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、前記ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、前記アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下である、黒心可鍛鋳鉄。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の黒心可鍛鋳鉄であって、
含有する前記ケイ素が0%以上、0.5%以下である、黒心可鍛鋳鉄。
【請求項3】
請求項1に記載の黒心可鍛鋳鉄であって、
含有する前記アルミニウムが4.0%以上、6.0%以下である、黒心可鍛鋳鉄。
【請求項4】
質量百分率で2.0%以上、3.4%以下の炭素と、0%以上、1.4%以下のケイ素と、2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムと、を含有し、残部は、鉄及び不可避的不純物であり、前記炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、前記ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、前記アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下であるように配合された原料を溶解して溶湯を準備する工程と、
前記溶湯を鋳型に注湯して白銑化された鋳物を鋳造する工程と、
前記鋳物を720℃を超える温度に再加熱して焼鈍する工程とを有する、黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
【化1】
【請求項5】
請求項4に記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法であって、
含有する前記ケイ素が0%以上、0.5%以下である、黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の黒心可鍛鋳鉄の製造方法であって、
含有する前記アルミニウムが4.0%以上、6.0%以下である、黒心可鍛鋳鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械的強度、高温耐酸化性及び振動減衰能が改良された黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄は、炭素の存在形態によって片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄及び黒心可鍛鋳鉄などに分類することができる。
【0003】
片状黒鉛鋳鉄は、ねずみ鋳鉄とも呼ばれ、パーライトでなるマトリックスに片状黒鉛が分布する形態を有する。片状黒鉛鋳鉄は、機械的強度は低いが、振動減衰能に優れている。そのため、片状黒鉛鋳鉄は、機械的強度が必要とされない一般用途や、振動減衰能を必要とする工作機械等に広く使用されている。
【0004】
球状黒鉛鋳鉄は、ダクタイル鋳鉄とも呼ばれ、パーライトでなるマトリックスに球状黒鉛が分布する形態を有する。球状黒鉛鋳鉄は、片状黒鉛鋳鉄と比べて機械的強度に優れているが、振動減衰能は低い。
【0005】
本発明の対象である黒心可鍛鋳鉄は、マレアブル鋳鉄とも呼ばれ、フェライトでなるマトリックスに塊状の黒鉛が分布する形態を有する。黒心可鍛鋳鉄は、片状黒鉛鋳鉄と比べて機械的強度に優れ、マトリックスがフェライトであることから靱性にも優れている。このため、機械的強度および靭性が必要とされる自動車部品や管継手などの部材に広く使用されている。
【0006】
片状黒鉛鋳鉄及び球状黒鉛鋳鉄は、鋳放し状態で黒鉛の最終的な分布形態が決定される。これに対し、黒心可鍛鋳鉄は、例えば特許文献1に記載されているように、鋳放し状態の中間品では、炭素は、黒鉛ではなくセメンタイト(FeC)の形態で存在している。これを720℃以上の温度に再加熱して焼鈍することによってセメンタイトが分解され、塊状の黒鉛が析出する。
【0007】
黒心可鍛鋳鉄は、片状黒鉛鋳鉄に比べると確かに機械的強度に優れているが、球状黒鉛鋳鉄や鉄鋼材料、鋳鋼などに比べると機械的強度は低い傾向にあった。このため、極めて高い機械的強度が求められる用途に対して黒心可鍛鋳鉄を使用することができない場合があった。また、黒心可鍛鋳鉄に限らず鋳鉄は鉄系材料であることから、高温域では酸素と反応し表面の酸化が進行する傾向にあった。このため、高温耐酸化性が求められる用途に対しては、鋳鉄を使用することができない場合があった。高温耐酸化性を改善するためにニッケルを添加したニレジスト鋳鉄等が実用化されている。しかし、ニッケルは高価なため製造コストが増大するという課題がある。
【0008】
上記の課題に対して、鋳鉄にニッケルよりも安価なアルミニウムを添加することにより、機械的強度や高温耐酸化性などの性質を改善する試みが従来からなされている。例えば、特許文献2及び特許文献3には、片状黒鉛鋳鉄にアルミニウムを添加することによって剛性(ヤング率)及び振動減衰能が向上することが記載されている。また、例えば、特許文献4には、アルミニウムを添加した球状黒鉛鋳鉄が優れた高温耐酸化性及び靱性を示すことが記載されている。したがって、もし黒心可鍛鋳鉄においてもアルミニウムを添加することができれば、アルミニウムを添加した片状黒鉛鋳鉄や球状黒鉛鋳鉄の場合と同様に機械的強度、高温耐酸化性及び振動減衰能の性質を改善できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−285711号公報
【特許文献2】特開2002−348634号公報
【特許文献3】特開2008−223135号公報
【特許文献4】特開2014−148694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、黒心可鍛鋳鉄にアルミニウムを添加しようとすると、以下のような課題が発生する。第1に、アルミニウムは黒鉛化を促進する元素であるため、アルミニウムを添加した黒心可鍛鋳鉄の溶湯を鋳型に注湯したとき(以下「鋳造時」という。)にモットルと呼ばれる片状黒鉛が晶出する。この片状黒鉛は安定相であるため、焼鈍によっても消失せずにマトリックス中に残存する。このため、焼鈍によって析出した塊状の黒鉛と注湯時に晶出した片状黒鉛が並存することから、機械的強度が片状黒鉛鋳鉄と同程度のレベルに低下する。
【0011】
第2に、アルミニウムは、マトリックスにおいてFe−Al複合炭化物(κ相)を形成しやすい元素である。Fe−Al複合炭化物が形成されると、添加されたアルミニウムの一部は、Fe−Al複合炭化物の晶出に消費される。また、形成されたFe−Al複合炭化物は、通常の焼鈍温度では分解するのに長時間を要する。このため、フェライト(α相)でなるマトリックスに固溶するアルミニウムの濃度が低下するので、黒心可鍛鋳鉄の高温耐酸化性を十分に改良することができない。上記のような課題が発生していたために、黒心可鍛鋳鉄にアルミニウムを添加することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、鋳放し状態で片状黒鉛の晶出がなく、焼鈍後のフェライトでなるマトリックスに高温耐酸化性を改善するのに十分な量のアルミニウムを固溶する黒心可鍛鋳鉄及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、炭素と、ケイ素と、アルミニウムと、残部鉄及び不可避的不純物とを含有する、黒心可鍛鋳鉄である。この黒心可鍛鋳鉄は、鋳放し状態で片状黒鉛の晶出がなく、焼鈍後のフェライトでなるマトリックスに高温耐酸化性を改善できる。また、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、質量百分率で2.0%以上、3.4%以下の炭素と、0%以上、1.4%以下のケイ素と、2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムと、残部鉄及び不可避的不純物とを含有し、炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下である。
【化1】

炭素、アルミニウム及びケイ素の含有量及び炭素当量CEの値を上記の範囲にすることにより、鋳造時の片状黒鉛の晶出を抑制することができる。また、従来の焼鈍の温度と同じ温度で焼鈍してもFe−Al複合炭化物を短時間で分解することができ、アルミニウムはフェライトでなるマトリクスに固溶する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態において、黒心可鍛鋳鉄が含有するケイ素が0%以上、0.5%以下である。ケイ素は黒鉛化を促進する元素であるため、ケイ素の含有量を少なくすることによって片状黒鉛の晶出がさらに抑制されるので、好ましい。また、本発明の好ましい実施の形態において、黒心可鍛鋳鉄が含有するアルミニウムが4.0%以上、6.0%以下である。
【0015】
また、本発明は、炭素と、ケイ素と、アルミニウムと、残部鉄及び不可避的不純物とを含有するように配合された原料を溶解して溶湯を準備する工程と、溶湯を鋳型に注湯して白銑化された鋳物を鋳造する工程と、鋳物を720℃を超える温度に再加熱して焼鈍する工程とを有する、黒心可鍛鋳鉄の製造方法である。また、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、溶湯を準備する工程において、溶湯は、質量百分率で2.0%以上、3.4%以下の炭素と、0%以上、1.4%以下のケイ素と、2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムとを含有し、炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下であるように配合された原料を溶解した溶湯である、黒心可鍛鋳鉄の製造方法である。
【化1】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミニウムを含有する組成であっても、鋳造工程における片状黒鉛の晶出を抑制することができ、焼鈍工程においてフェライトでなるマトリックスにアルミニウムを固溶させることができるので、従来よりも機械的強度、高温耐酸化性及び振動減衰能が改良された黒心可鍛鋳鉄を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例2の試料の光学顕微鏡写真である。
図2】実施例3の試料の光学顕微鏡写真である。
図3】比較例3の試料の光学顕微鏡写真である。
図4】実施例4の試料の光学顕微鏡写真である。
図5】実施例5の試料の光学顕微鏡写真である。
図6】比較例4の試料の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態につき、図及び表を参照しながら以下に詳細に説明する。なお、ここに記載された実施の形態はあくまで例示であり、本発明を実施するための形態はここに記載された形態に限定されない。
【0019】
<組成>
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の組成について説明する。なお、本明細書において各元素の含有量及び炭素当量CEはすべて質量百分率で表示する。
【0020】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、2.0%以上、3.4%以下の炭素を含有する。炭素の含有量が2.0%よりも少ないと、黒心可鍛鋳鉄の鋳造に使用する溶湯の融点が1400℃を超える。その結果、溶湯を製造するために原料を高温まで加熱しなければならず、大規模な設備が必要となる。それと同時に溶湯の粘度も高くなるので、溶湯が流れにくくなり、鋳造用鋳型に溶湯を注湯することが困難になる。よって、炭素の含有量の下限値は2.0%とする。炭素の含有量が3.4%よりも多いと、鋳造時に片状黒鉛が析出しやすくなる。よって、炭素の含有量の上限値は、3.4%とする。好ましい炭素の含有量の下限値は、2.5%である。一方、好ましい炭素の含有量の上限値は、3.0%である。
【0021】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、0%以上、1.4%以下のケイ素を含有する。ケイ素の含有量が1.4%よりも多いと、ケイ素は黒鉛化を促進する元素であるため、鋳造時に片状黒鉛が晶出しやすくなる。よって、ケイ素の含有量の上限値は1.4%とする。好ましいケイ素の含有量は0.5%以下である。ケイ素の含有量は0%以上であり、0%である場合を含む。本明細書で、ある元素の含有量が0%であるとは、その元素が通常の分析手段によって検出することができないことを意味する。
【0022】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムを含有する。アルミニウムの含有量が2.0%よりも少ないと、機械的強度、高温耐酸化性及び振動減衰能が向上する効果が減少する。よって、アルミニウムの含有量の下限値は2.0%とする。アルミニウムの含有量が6.0%よりも多いと、マトリックス中に形成されたFe−Al複合炭化物の分解が始まる温度が1000℃を超えるので、焼鈍を行うために鋳鉄を高温まで加熱しなければならず、大規模な設備が必要となる。よって、アルミニウムの含有量の上限値は6.0%とする。好ましいアルミニウムの含有量の下限値は3.0%である。一方、上限値は、5.0%である。
【0023】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、上記の元素のほかに、残部として鉄及び不可避的不純物を含有する。鉄は黒心可鍛鋳鉄の主要元素である。不可避的不純物とは、もともと原料に含まれていた微量金属元素や、製造工程において炉壁から混入する酸化物などの化合物及び溶湯と雰囲気ガスとの反応によって生成される酸化物などの化合物をいう。これらの不可避的不純物は、黒心可鍛鋳鉄に合計で1.0%以下含有されていても、黒心可鍛鋳鉄の性質を大きく変えることはない。好ましい不可避的不純物の合計の含有量は0.5%以下である。
【0024】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下である。
【化1】

炭素当量CEの値が3.0%を下回ると、従来の焼鈍温度で焼鈍してもFe−Al複合炭化物の分解に極めて長時間を要する。したがって、経済的に実施可能な焼鈍時間で焼鈍した場合だと、アルミニウムをフェライトでなるマトリクスに固溶させることができない。また、炭素当量CEの値が4.2%を超えると、鋳造時の片状黒鉛の晶出を抑制することができない。よって、炭素当量CEの値の下限値は3.0%とする。一方、上限値は、4.2%とする。ケイ素の含有量が0%であるときは、式(1)におけるケイ素の含有量Siは0(ゼロ)とみなして炭素当量CEの値を計算する。
【0025】
好ましい実施の形態において、本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、ビスマス及びテルルからなる元素群から選択される1又は2の元素を合計で0%を超え、0.5%以下含有する。本明細書で、ある元素の含有量が0%を超えるとは、その元素が通常の分析手段によって検出することができる最少の量(例えば0.01%など。)以上含まれることを意味する。ビスマス及びテルルは白銑化を促進する元素であるため、これらの元素を合計で0%を超えて含有する黒心可鍛鋳鉄では鋳造時の片状黒鉛の晶出がさらに抑制される。ビスマス及びテルルの含有量が合計で0.5%よりも多いと、焼鈍を行った後も塊状の黒鉛を析出させることが困難になる。よって、好ましいビスマス及びテルルの含有量の下限値は合計で0%を超えるものとする。一方、上限値は、0.5%とする。ビスマス及びテルルの合計の含有量は0.01%以上とすることがより好ましい。これらの元素は少量添加するだけで片状黒鉛の析出が抑制される。この効果は「接種効果」と呼ばれることがある。
【0026】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、0%を超え、0.5%以下のマンガンを含有してもよい。マンガンの含有量が0.5%よりも多いと、焼鈍を行った後のフェライトでなるマトリックスにパーライトが残存しやすくなる。その結果、靱性の低下および黒鉛化の阻害が起こりやすくなる。よって、マンガンの含有量の上限値は0.5%とする。マンガンは、硫黄と結合して硫化マンガンを形成すると黒鉛化に影響しないので、溶湯中のマンガンと硫黄とのバランスをとることにより黒鉛化への影響を抑制することができる。キュポラを用いて原料を溶解する場合、燃料のコークスから硫黄が供給される。
【0027】
<製造方法>
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法について説明する。本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、2.0%以上、3.4%以下の炭素と、0%以上、1.4%以下のケイ素と、2.0%以上、6.0%以下のアルミニウムと、残部鉄及び不可避的不純物とを含有し、炭素の含有量を質量百分率で表した値をC、ケイ素の含有量を質量百分率で表した値をSi、アルミニウムの含有量を質量百分率で表した値をAlで表したときに次式(1)で表される炭素当量CEの値が3.0%以上、4.2%以下であるように配合された原料を溶解して溶湯を準備する工程を有する。各元素の組成範囲を限定した理由については既に述べたので、ここでは説明を省略する。
【化1】
【0028】
上記の元素のうちアルミニウムは炉壁と反応して鋼滓(スラグ)を形成しやすい元素である。また、マンガンは蒸気圧が高く溶湯の表面から蒸発して失われやすい元素である。したがって、アルミニウム及びマンガンについては、原料の溶解が始まって鋳造が完了するまでの間に溶湯中の含有量が徐々に減少するので、その減少する量を予測して原料を多めに配合しなければならない。
【0029】
配合に使用する原料は、炭素、ケイ素、アルミニウム及び鉄の単体を使用してもよいし、炭素、ケイ素及びアルミニウムについてはそれぞれの元素と鉄との合金(フェロアロイ)などを使用してもよい。鉄の原料には鋼くずを使用することができる。アルミニウムの原料にはアルミニウム合金製の廃棄物などを使用することができる。
【0030】
鉄の原料に鋼くずを使用する場合に、炭素及びケイ素については一般の鋼材に既に含まれているので、多くの場合、鋼くずを溶解するだけでこれらの元素を本実施形態に規定する組成範囲に適合させることができる。アルミニウムについては一般の鋼材に含まれている量では本実施形態に規定する組成範囲には不足するので、溶湯中に意図的に添加する必要がある。
【0031】
原料を溶解して溶湯を準備するには、キュポラ又は電気炉などの公知の手段を使用することができる。本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の炭素の含有量は2.0%以上のため、溶解に必要な温度は1400℃を超えることはない。したがって、1400℃を超える到達温度を有する大規模な溶解設備は必要としない。
【0032】
既に述べたように、溶湯中のアルミニウムは炉壁と反応して鋼滓を形成しやすいため、アルミニウムを多く含む本実施形態の溶湯の取扱いには特別の注意が必要である。具体的には、炉壁を形成する材料にアルミニウムと反応しにくいアルミナなどを採用することが好ましい。また、溶湯の表面でアルミニウムが雰囲気中の酸素と反応して酸化物を形成し、溶湯の流動性を著しく低下させるので、溶湯を準備する工程を真空中又は不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0033】
好ましい実施の形態において、溶湯を準備する工程の後、鋳物を鋳造する工程の前に、溶湯にビスマス及びテルルからなる元素群から選択される1又は2の元素を合計で0%を超え、0.5%以下添加する工程をさらに有する。鋳物を鋳造する直前にビスマス及び/又はテルルを添加する理由は、これらの元素は蒸気圧が高いため、溶湯を準備する工程の途中で添加してしまうと歩留りが低下してしまうからである。具体的には、溶解設備から注湯用の取鍋に溶湯を出湯する際にビスマス及び/又はテルルを添加することが好ましい。マンガンの添加についても同様の注意が必要である。
【0034】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する工程を有する。本実施形態に係る製造方法において、鋳造用鋳型には、鋳型砂を成形したものや金型などの公知の鋳型を使用することができる。
【0035】
アルミニウムは黒鉛化を促進する元素であるため、アルミニウムを含む黒心可鍛鋳鉄の組成を有する溶湯を鋳型に注湯して鋳物を鋳造する場合、従来の黒心可鍛鋳鉄の組成を有する溶湯に比べて鋳造時に片状黒鉛が晶出しやすい傾向がある。しかし、本実施形態に規定する組成範囲を有する溶湯を使用すれば、鋳型砂を成形した鋳造用鋳型を使用しても、片状黒鉛を晶出させることなく鋳造することが可能である。本明細書では、片状黒鉛を晶出させることなく鋳鉄を鋳造することを「白銑化」という。
【0036】
大型の鋳物や厚さの厚い鋳物を鋳造しようとして冷却速度が著しく低下することが予想される場合や、炭素、アルミニウムを多く含有した黒鉛化能の高い溶湯を使用したい場合には、鋳造用鋳型の中に冷やし金を挿入して溶湯の冷却を促進したり、冷却性能に優れた金型などを使用したりすることが好ましい。
【0037】
本実施形態の鋳物を鋳造する工程において、1200℃から800℃までの溶湯の冷却速度が1.0℃毎秒未満だと、鋳造時に片状黒鉛が晶出しやすくなり好ましくない。よって、1200℃から800℃までの溶湯の冷却速度は1.0℃毎秒以上であることが好ましい。1200℃から800℃までの溶湯のより好ましい冷却速度は10℃毎秒以上である。
【0038】
本実施形態に係る溶湯はアルミニウムを多く含むので、雰囲気中の酸素や鋳型の湯道と反応してアルミニウム酸化物を形成しやすい。アルミニウム酸化物が形成されると溶湯の流動性が低下するおそれがある。このため、鋳造用鋳型に滓上げ湯道を形成すること、もしくは、湯道にストレーナーを設けることによって、溶湯中のアルミニウム酸化物を除去する手段を設けることが好ましい。また、鋳物を鋳造する工程を真空中又は不活性雰囲気中で行うことも好ましい。
【0039】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄の製造方法は、鋳物を720℃を超える温度に再加熱して焼鈍する工程を有する。本実施形態に係る製造方法において、焼鈍を行う手段には、ガス燃焼炉や電気炉などの公知の熱処理炉を使用することができる。
【0040】
鋳物を焼鈍する工程は黒心可鍛鋳鉄の製造方法に特有の工程である。この工程では、A1変態点に相当する720℃を超える温度に加熱することによりセメンタイトを分解して塊状の黒鉛を析出させるとともに、オーステナイトでなるマトリックスを冷却してフェライトに変態させることによって、鋳物に靱性を付与することができる。鋳物を焼鈍する工程は、最初に行う第1段焼鈍と、第1段焼鈍の後に行う第2段焼鈍とに分かれる。
【0041】
第1段焼鈍は、900℃を超える温度域でオーステナイト中のセメンタイトとFe−Al複合炭化物とを分解して黒鉛にする工程である。本実施形態では鋳造時にマトリックスにFe−Al複合炭化物が形成されやすい。Fe−Al複合炭化物は高温で分解することができるが、分解に要する温度はアルミニウムの組成が高いほど高くなる。しかし、アルミニウムの組成が本実施形態に規定するように6.0%以下である場合には、Fe−Al複合炭化物の分解温度は1000℃以下となるため、アルミニウムを添加しない従来の黒心可鍛鋳鉄の焼鈍を行う温度と同じ程度の温度で焼鈍を行うことが可能である。よって、高温を得るための特別な焼鈍炉を必要としない。
【0042】
第1段焼鈍において、セメンタイト及びFe−Al複合炭化物の分解によって生成した炭素は、塊状の黒鉛の成長に寄与する。また、アルミニウムはオーステナイトでなるマトリックスに固溶し、冷却後はフェライトでなるマトリックスに固溶する。
【0043】
第1段焼鈍を行う温度が950℃未満だと、セメンタイトの分解と塊状の黒鉛の成長に時間がかかったり、Fe−Al複合炭化物の分解が不十分になったりするので、好ましくない。第1段焼鈍を行う温度が1100℃を超えると、大規模な焼鈍炉が必要となったり、焼鈍する工程に要するエネルギーが増加したりするので、好ましくない。よって、第1段焼鈍を行う温度の下限値は、950℃が好ましい。一方、上限値は、1100℃が好ましい。より好ましい温度範囲の下限値は、980℃である。一方、上限値は、1030℃である。
【0044】
第1段焼鈍を行う時間は、焼鈍炉の大きさや、処理を行う鋳物の量などによって適宜定めることができる。典型的には、3.0時間以上、10時間以下が好ましい。第1段焼鈍においてFe−Al複合炭化物の分解に要する時間は、炭素当量CEの値が低いほど長くなる。炭素当量CEの値が本実施形態に規定するように3.0%以上である場合には、Fe−Al複合炭化物の分解に要する時間は10時間以下となるため、アルミニウムを添加しない従来の黒心可鍛鋳鉄の焼鈍を行う時間と同じ程度の時間で焼鈍を行うことが可能である。
【0045】
第2段焼鈍は、第1段焼鈍を行う温度よりも低い温度域でフェライト及び/又はパーライト中のセメンタイト及びFe−Al複合炭化物を分解して黒鉛にする工程である。第2段焼鈍は、塊状の黒鉛の成長を促し、オーステナイトからフェライトへの変態を確実に行わせるために、第2段焼鈍開始温度から第2段焼鈍完了温度までゆっくりと時間をかけて行うことが好ましい。第2段焼鈍開始温度の下限値は720℃が好ましい。一方、上限値は、800℃が好ましい。より好ましい温度範囲の下限値は、740℃である。一方、上限値は、780℃である。第2段焼鈍完了温度の下限値は、680℃、上限値は、780℃の温度で、第2段焼鈍開始温度よりも低い温度が好ましい。より好ましい温度範囲の下限値は710℃である。一方、上限値は、750℃である。
【0046】
第2段焼鈍の開始から完了までの時間は、焼鈍炉の大きさや、処理を行う鋳物の量などによって適宜定めることができる。典型的には3.0時間以上が好ましい。上限は特に設けない。
【0047】
<機械的強度>
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄では、マトリックスにアルミニウムが固溶しているため、従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて機械的強度が向上する。例えば、引張強度について言えば、従来の黒心可鍛鋳鉄の引張強度がおよそ300MPaであるのに対し、アルミニウムを4.0%含有する黒心可鍛鋳鉄の引張強度は例えば470MPaまで向上する。これは、マトリックスにアルミニウムが固溶したことによる影響と考えられる。
【0048】
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄を使用した部材では、このように従来の黒心可鍛鋳鉄を使用した部材に比べて機械的強度が向上するので、機械的強度か要求される用途に使用することができる。また、同一の強度を維持しながら部材の軽量化を図ることができる。
【0049】
<高温耐酸化性>
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄では、マトリックスにアルミニウムが固溶している。このため、本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄は、使用される際に高温に加熱された場合でも表面に酸化アルミニウムの層が形成されることから、表面から内部に酸素が拡散することが防止される。したがって、従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて高温耐酸化性が向上する。
【0050】
鋳物を焼鈍する工程においても、鋳物を加熱したときに表面に酸化アルミニウムの層が形成されるので、酸化はそれ以上進行しない。したがって、焼鈍を行う際の雰囲気を真空又は不活性雰囲気にする必要は特にない。また、表面が過剰に酸化されることを防ぐための密閉容器等も必要としないので、鋳物を焼鈍する工程にかかるコストを低減することができる。
【0051】
<振動減衰能>
本実施形態に係る黒心可鍛鋳鉄では、マトリックスに十分な量のアルミニウムを固溶させることができるので、黒心可鍛鋳鉄の振動減衰能を著しく向上させることができる。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
炭素、ケイ素、アルミニウム及び鉄の原料を配合して溶湯を準備した後、鋳型砂を成形した鋳造用鋳型に溶湯を注湯して鋳物を鋳造した。得られた鋳物を大気中で1000℃に5時間加熱、保持した後、760℃から730℃までの温度範囲を6時間かけて徐冷した後、急冷して、表1に示す組成を有する試料を得た。
【0053】
【表1】
【0054】
得られた試料の中心部を採取して鏡面研磨した後、ナイタールでエッチングしたものを、光学顕微鏡を使用して金属組織を観察した。実施例1の試料では、フェライトでなるマトリックスに塊状の黒鉛が分布した典型的な黒心可鍛鋳鉄の金属組織が観察された。この試料のビッカース硬度は、236であった。一方、比較例1の試料では、金属組織にFe−Al複合炭化物が多数見られた。これは、炭素当量CEの値が本実施形態に規定する範囲の下限を下回っていたために、従来の焼鈍温度と同じ1000℃で焼鈍してもFe−Al複合炭化物を短時間で分解することができなかったからであると考えられる。
【0055】
比較例2の試料では、フェライトでなるマトリックスの結晶粒界に粒状の黒鉛が分散して分布していた。この試料のビッカース硬度は376であった。これは、アルミニウムの量が6.0%を超えていたために、鋳造時に晶出したFe−Al複合炭化物が焼鈍後も分解されずに残ったことによって、ビッカース硬度は増加したものの、実施例1の試料に比べて靱性は低下したものと推定される。
【0056】
<実施例2、3>
炭素、ケイ素、アルミニウム及び鉄の原料を配合して溶湯を準備した後、溶湯を金型に注湯して鋳造した。得られた鋳物を実施例1と同じ条件で焼鈍して、表2に示す組成を有する試料を得た。
【0057】
【表2】
【0058】
得られた試料の中心部を採取して鏡面研磨した後、ナイタールでエッチングしたものを、光学顕微鏡を使用して金属組織を観察した。実施例2、実施例3及び比較例3について得られた光学顕微鏡写真を図1図2及び図3にそれぞれ示す。実施例2の試料では、フェライトでなるマトリックスMに塊状の黒鉛Bが分布した典型的な黒心可鍛鋳鉄の金属組織が観察された。一部には、Fe−Al複合炭化物が存在しているが、これは、鋳造時に晶出して第1段焼鈍で分解されずに残存したもの(Fe−Al複合炭化物Cとする)ではなく、第2段焼鈍で析出したもの(Fe−Al複合炭化物Dとする)であると考えられる。実施例3の試料でも実施例2と似た金属組織が観察されたが、フェライトでなるマトリックスMの結晶粒径及び塊状の黒鉛Bのサイズはいずれも実施例2に比べて小さくなっていた。
【0059】
一方、比較例3の金属組織は、実施例3と同等のサイズの塊状の黒鉛Bも分布しているものの、その量は実施例3の金属組織に比べて非常に少なかった。また、マトリックスM中に多くのFe−Al複合炭化物C及びFe−Al複合炭化物Dが存在していた。このことから、マトリックスのほとんどがFe−Al複合炭化物で構成されているものと考えられる。
【0060】
次に、実施例2および実施例3の試料から引張試験用のサンプルを採取し、機械加工により全長が25mm、つかみ部の外径がφ6.0mm、中央部の外径がφ3.57mm、中央部の長さが15mmのサイズに加工した。このサンプルを株式会社島津製作所製の万能試験機(型番:RH−50)にセットし、引張強度および伸びを測定した。比較例3の試料は硬すぎて、引張試験用のサンプルを採取することができなかった。実施例2の試料の引張強度は468MPa、伸びは11.3%であった。実施例3の試料の引張強度は623MPa、伸びは4.1%であった。
【0061】
アルミニウムを含まない従来の黒心可鍛鋳鉄の引張強度はおよそ300MPa、伸びはおよそ10%であるから、アルミニウムを含む実施例2及び実施例3の試料の引張強度はこれに比べて向上している。これは、マトリックスにアルミニウムが固溶したことによる固溶硬化のためであると考えられる。実施例3の伸びが低下したのは、第2段焼鈍でFe−Al複合炭化物Dが析出したためであると考えられる。
【0062】
次に、実施例2及び実施例3の試料から縦の長さが12mm、横の長さが10mm、厚さが2mmの試験片をそれぞれ採取し、表面を研磨した後、大気中で800℃に6時間保持し、さらに900℃に3時間保持した後、冷却した。比較として、従来の黒心可鍛鋳鉄の試料からも試験片を採取し、同様の処理を行った。試験後の試料の表面を観察したところ、いずれの試料についても表面の酸化スケールの生成が従来の黒心可鍛鋳鉄の試験片に比べて大幅に減少していることが確認できた。
【0063】
<実施例4、5>
炭素、ケイ素、アルミニウム及び鉄の原料を配合して溶湯を準備した後、溶湯を金型に注湯して鋳造した。得られた鋳物を大気中で1050℃に10時間加熱、保持した後、760℃から730℃までの温度範囲を10時間かけて徐冷した後、急冷して、表3に示す組成を有する試料を得た。
【0064】
【表3】
【0065】
得られた試料の中心部を採取して鏡面研磨した後、ナイタールでエッチングして、光学顕微鏡を使用して金属組織を観察した。実施例4、実施例5及び比較例4について得られた光学顕微鏡写真を図4図5及び図6にそれぞれ示す。実施例4の試料では、フェライトでなるマトリックスMに塊状の黒鉛Bが分布した典型的な黒心可鍛鋳鉄の金属組織を示していた。
【0066】
実施例5の試料でも実施例4と似た金属組織を示していたが、フェライトでなるマトリックスMの結晶粒径及び塊状の黒鉛Bのサイズはいずれも実施例4に比べて小さくなっていた。また、実施例2の試料に比べて第1段焼鈍および第2段焼鈍の時間を長くしたことから、鋳造時に晶出したFe−Al複合炭化物Cは分解されてほとんど残存していなかった。一方、焼鈍時に析出したFe−Al複合炭化物Dがわずかに見られた。
【0067】
比較例4の金属組織は、比較例3の試料に比べて第1段焼鈍および第2段焼鈍の時間を長くしたことから、鋳造時に晶出したFe−Al複合炭化物Cはほとんどが一旦分解されるものの、第2段焼鈍でFe−Al複合炭化物Dが再び析出した組織となっていた。このため、比較例3の金属組織と同様にフェライトでなるマトリックスMの割合が低く、実施例に比べて靱性および加工性が劣ると考えられる。
【0068】
以上の実施例が示すように、本発明に係る黒心可鍛鋳鉄は、アルミニウムを添加されていない従来の黒心可鍛鋳鉄と同様の金属組織を有し、アルミニウムを添加されていない従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて機械的強度、高温耐酸化性及び振動減衰能に優れていることが分かった。
【0069】
以上、本実施形態によれば、炭素、アルミニウム及びケイ素の含有量及び炭素当量CEの値を上記の範囲にすることにより、鋳造時の片状黒鉛の析出を抑制することができることによって、塊状の黒鉛が形成できる。また、従来の焼鈍の温度と同じ温度で焼鈍してもFe−Al複合炭化物を短時間で分解することができる。
【0070】
また、本実施形態によれば、アルミニウムはフェライトでなるマトリクスに固溶しているため、従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて黒心可鍛鋳鉄の機械的強度および振動減衰能を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、使用される際に高温に加熱された場合でも表面に酸化アルミニウムの層が形成されることから、黒心可鍛鋳鉄の表面から内部に酸素が拡散することが防止される。したがって、従来の黒心可鍛鋳鉄に比べて黒心可鍛鋳鉄の高温耐酸化性を向上させることができる。
【0072】
なお、本実施形態の説明では、黒心可鍛鋳鉄にアルミニウムが添加された形態を説明していたが、本発明はこれに限られない。例えば、白心可鍛鋳鉄にアルミニウムが添加された形態、または、パーライト可鍛鋳鉄にアルミニウムが添加された形態であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6