(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成形面の一部又は全部の水の接触角が100度以上であり、ジヨードメタンの接触角が75度以上であり、エチレングリコールの接触角が85度以上である、請求項1又は2に記載の繊維強化複合材料の成形装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[成形装置]
本発明の成形装置は、強化繊維基材にマトリクスとして樹脂組成物を含浸した繊維強化複合材料を成形して繊維強化複合材料成形品(以下、単に「成形品」とも記す。)を得るための成形型を備える成形装置である。
【0016】
本発明では、成形型の成形面の一部又は全部の三液法によって測定される表面自由エネルギーが、25.0mJ/m
2以下である。好ましくは、この成形型の成形面の一部又は全部が、フッ素及びケイ素のいずれか一方又は両方が注入された注入面である。これにより、成形品の成形型からの離型性が優れたものとなる。
本発明における成形面は、成形品の成形時に繊維強化複合材料と接する成形型の表面であり、成形型が互いに近接して形成されるキャビティを構成するキャビティ面や、中空状成形体の製造時に成形型として用いられる芯材の表面等を含むものである。
本発明の成形装置においては、成形品の成形型からの離型性がより優れる点から、前記注入面が成形型における少なくとも成形面の周縁部に形成されていることがより好ましく、成形面の全部が注入面であることがさらに好ましい。
【0017】
前記成形面の一部又は全部の水の接触角は、成形品の成形型からの離型性に優れる点から、100度以上が好ましく、105度以上がより好ましい。
前記成形面の一部又は全部のジヨードメタンの接触角は、成形品の成形型からの離型性に優れる点から、75度以上が好ましく、80度以上がより好ましい。
前記成形面の一部又は全部のエチレングリコールの接触角は、成形品の成形型からの離型性に優れる点から、85度以上が好ましく、90度以上がより好ましい。
水、ジヨードメタン、エチレングリコールの接触角により、注入面の濡れ性が定量的に表される。なお、接触角は、液滴法により測定される。
【0018】
前記成形面の一部又は全部の表面自由エネルギーは、25.0mJ/m
2以下であり、20.0mJ/m
2以下が好ましい。表面自由エネルギーが前記上限値以下であれば、成形品の成形型からの離型性に優れる。表面自由エネルギーは、低ければ低いほど良く、実質的には8.0mJ/m
2以上である。
表面自由エネルギーにより、注入面の極性の有無に対する濡れ性が定量的に表される。なお、表面自由エネルギーは、三液法により測定される。すなわち、水、ジヨードメタン、エチレングリコールの3種のプローブ液体を用いて測定される接触角を用い、北崎−畑の理論より算出される。
【0019】
前記成形面の一部又は全部の表面自由エネルギーのp成分とh成分の和は、3.0mJ/m
2以下が好ましく、2.0mJ/m
2以下がより好ましい。p成分とh成分の和が前記上限値以下であれば、成形品の成形型からの離型性がより優れる。p成分とh成分の和は、低ければ低いほど離型性に優れるが、実質的には0mJ/m
2以上である。
表面自由エネルギーのp成分とh成分の和により、注入面の極性を持つ液体に対する濡れ性や、前記液体が密着状態で硬化した硬化物との接着力が表される。前記接着力には、表面自由エネルギーのd成分(分散成分)はあまり寄与せず、p成分(極性成分)、h成分(水素結合成分)との相関が強い(日本接着協会誌18,346,1982 角谷ら、高分子論文集40,65,1983 中前ら)。
これら接触角及び表面自由エネルギーの条件を満たす前記成形面の一部又は全部は、当該部分が接着材料や粘着材料と接触する状態で使用される場合等でも、充分な離型性を発現する。
【0020】
一方、前記h成分を0.4mJ/m
2以上とすることによって、エポキシ系樹脂等をマトリックスとするプリプレグと成形型との適度な貼り付き性を確保できる傾向にあるため、シートラップ成型にて中空状成形体を製造する場合において、マンドレル等の芯材にプリプレグを巻き付ける際の作業性を向上させることができる。前記h成分は、より好ましくは、0.6mJ/m
2以上であり、さらに好ましくは、0.8mJ/m
2以上である。
また、上述の離型性とのバランスが良好となる傾向にあることから、前記h成分は、2.0mJ/m
2以下が好ましく、1.8mJ/m
2以下がより好ましく、1.5mJ/m
2以下がさらに好ましい。
【0021】
前記成形面の一部又は全部の表面ビッカース硬度は、750HV以上が好ましく、800Hv以上がより好ましく、1000HV以上がさらに好ましい。表面ビッカース硬度が前記下限値以上であれば、注入面の耐擦過性に優れ、粒子等と接触しても注入面において傷付きや剥離が生じにくくなり、離型性の低下を抑制しやすい。表面ビッカース硬度が750HV以上であるとは、一般の金属表面に施す硬質クロムめっきと同等以上の硬度であることを示している。
前記成形面の一部又は全部の表面ビッカース硬度は、成膜性、膜安定性、剥離性、耐久性等の点から、5000HV以下が好ましく、3000HV以下がより好ましい。
【0022】
前記成形面の一部又は全部の擦過耐久指数は、耐擦過性に優れ、充分な摺動性を確保しやすい点から、0.66以上が好ましく、0.75以上がより好ましい。前記成形面の一部又は全部の擦過耐久指数は、高ければ高いほど良く、理論上、1以下である。
【0023】
前記成形面の擦過耐久指数は、下記の擦過耐久試験により下記式1から求められる。
(擦過耐久試験)
一方の表面が前記成形型の前記成形面と同じ状態の表面Xである2枚の正方形状の試験板(厚さ6mm、100mm×100mm角)を140℃に加熱し、繊維強化複合材料からなる33mm×33mm角の正方形状のプローブ中間材を、各試験板の表面Xが前記プローブ中間材に接するように2枚の試験板で挟み、圧力80MPaで5分間、加熱加圧する。このプローブ中間材の加熱加圧試験を合計30回繰り返し、1回目と30回目の加熱加圧試験において、プローブ中間材の4辺それぞれの最大の流動長を計測して平均し、1回目の平均流動長をF(1)(mm)、30回目の平均流動長をF(30)(mm)とする。
擦過耐久指数=F(30)/F(1) ・・・(式1)
【0024】
成形型の成形面の一部又は全部の表面自由エネルギーを25.0mJ/m
2以下にする方法としては、例えば、プラズマブースタースパッタリング(PBS)プロセス(ナノコートTS社製)により、窒化クロム膜にフッ素を注入する表面処理(以下、「表面処理A」とも記す。)や、セルテスN−S(登録商標)コーティング(ナノコートTS社製)により窒化物セラミック硬質薄膜を形成する表面処理(以下、「表面処理B」とも記す。)が挙げられる。
【0025】
表面処理A及び表面処理Bにより、フッ素が注入された注入面が形成される。表面処理A及び表面処理Bにより形成される注入面は、水の接触角が100度以上、ジヨードメタンの接触角が75度以上、エチレングリコールの接触角が85度以上、表面自由エネルギーが25.0mJ/m
2以下、表面自由エネルギーのp成分とh成分の和が3.0mJ/m
2以下、及び表面ビッカース硬度が750HV以上の条件を満たす。
【0026】
なお、成形型の成形面に形成する表面自由エネルギーが25.0mJ/m
2以下の面は、表面処理Aや表面処理Bを施した面には限定されない。例えば、成形型の材質により、成形面の一部又は全部が、表面自由エネルギーが25.0mJ/m
2以下となる場合には、表面処理を要しない。
【0027】
成形装置における成形型の母材は、特に限定されず、樹脂組成物を用いた一般の成形に使用される金型を使用できる。成形型の母材としては、鉄、鉄を主成分とする鋼材、アルミニウム、アルミニウムを主成分とする合金、亜鉛合金、ベリリウム−銅合金等が挙げられる。なかでも、鋼材が好ましい。なお、炭素繊維強化複合材料等の樹脂材料が母材となった成形型でもよい。
成形型は、母材表面に数μmから数十μmのチタンやクロム系の皮膜等を形成したものであってもよい。前記皮膜を形成することで、成形時に繊維強化複合材料に含まれる強化繊維による摩耗が低減されると共に、ガス焼けや腐食による鋼母材の荒れも抑制される。
【0028】
成形面の一部又は全部は、必要に応じて加飾されていてもよい。
加飾による凹凸模様の例としては、木目柄や皮シボ等の天然素材を模したもの、金属を加工したかの様なヘアライン模様、織物の経糸と緯糸からなる織目模様、格子柄やストライプ模様、水玉模様等の幾何抽象柄等が挙げられる。これらは単独で採用してもよく、複数の組み合わせでもよい。
【0029】
加飾処理の方法としては、特に限定されず、酸腐食によるエッチング法、ダイヤモンドスタイラスを用いた機械彫刻法、CO
2レーザーやYAGレーザー等を用いたレーザー彫刻法、サンドブラスト法等が挙げられる。
【0030】
本発明の成形装置は、成形品の成形型からの離型性に優れるため、成形型の成形面に離型剤を塗布する必要がない。そのため、成形面にエンボス加工やシボ加工等の加飾処理が施されていても、成形後に成形品の表面に対して研磨処理を行わなくてもよいことから外観の低下を防止できる。
【0031】
成形型の形態は、特に限定されない。本発明は、互いに近接して型締めされた状態でキャビティが形成される一対の型を備える熱プレス成形用の成形型や、シートラップ成形用の芯材に特に有効である。
以下、成形型及び成形装置の実施形態例について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0032】
成形装置としては、例えば、
図1に例示した成形装置101が挙げられる。
成形装置101は、一対の下金型部102及び上金型部103を備える。
下金型部102は、ボルスタB上に固定されるベース金型111と、ベース金型111上に脱着可能に装着される金型112と、金型112を加熱する熱源114とを備えている。金型112は、上側にコア113を有し、コア113の表面がキャビティ面(成形面)113aになっている。
【0033】
上金型部103は、上昇又は下降するスライドSに固定されるベース金型121と、ベース金型121に脱着可能に装着される金型122と、金型122を加熱する熱源124とを備えている。金型122は、下側に凹部123が形成されており、凹部123の表面がキャビティ面(成形面)123aになっている。
【0034】
このように、成形装置101は、一対の金型112,122を有する成形型130を備えている。型締め状態においては、金型112のコア113と金型122の凹部123の間にキャビティが形成される。熱源114,124により一対の金型112,122を加熱し、金型112のキャビティ面113a上に繊維強化複合材料を設置し、型締めして加熱加圧することで、成形品が得られる。
【0035】
成形装置101では、金型112のキャビティ面113aと金型122のキャビティ面123aの一部又は全部の表面自由エネルギーが25.0mJ/m
2以下とされる。これにより、一対の金型112,122からの成形品の離型性に優れる。キャビティ面123aの一部又は全部は、注入面とされることが好ましい。
【0036】
成形型は、
図2A及び
図2Bに例示した成形型130Aであってもよい。
成形型130Aは、一対の金型112A,122Aを有している。
金型112A及び金型122Aは、キャビティの周囲に、型締めした際に上下方向において互いに摺動するように接する第1シアエッジ部115と第2シアエッジ部125がそれぞれ設けられている以外は、成形型130の金型112及び金型122と同じである。
【0037】
成形型130Aでは、このようなシアエッジ構造を有するため、型締めした状態でキャビティ内部の気密が保たれる。成形型は、このように型締めした状態でキャビティ内の気密を保つことができる構造であることが好ましい。ここで、気密を保つとは、キャビティを満たすのに充分な量の繊維強化複合材料Pを投入し、加熱加圧した状態でも繊維強化複合材料Pに含まれる樹脂組成物が実質的に漏れ出さないことをいう。
なお、キャビティ内部の気密を保つ構造は、シアエッジ構造には限定されず、一対の金型における型締めした際に互いに接する部分にゴムシール構造を採用した成形型であってもよい。
【0038】
成形時に成形型のキャビティ内に空気が残存すると、成形品の表面にピンホールが生じたり、内部にボイドが生じたりする原因となる。そのため、特にキャビティ内の気密を保つ構造を有する成形型の場合には、成形型に脱気機構を設けることが好ましい。キャビティ内に繊維強化複合材料を満たした状態で脱気機構によりキャビティ内を脱気することにより、キャビティ内に残存する空気を効果的に除去できる。
脱気機構としては、例えば、金型に脱気用の開閉可能な孔を形成し、空気を型外に開放する機構(例えば、国際公開第2004/048435号)、前記孔をポンプと接続して減圧する機構等が挙げられる。この場合、キャビティ内を繊維強化複合材料で満たすまでは開孔しておき、加圧時に孔を閉じることにより脱気できる。
【0039】
成形型は、一対の型のうちの一方に、キャビティ面に形成された塗料注入口に通じる塗料注入路が形成されている、インモールドコーティング用の成形型であってもよい。
例えば、
図3に例示した成形型130Bであってもよい。成形型130Bは、上側の金型122Aの代わりに金型122Bを備える以外は、成形型130Aと同じである。
【0040】
金型122Bは、キャビティ面123aに形成された塗料注入口126に通じる塗料注入路127が形成されている以外は、金型122Aと同じである。
成形型130Bでは、成形後に金型112Aと金型122Bを離間させ、キャビティ内の成形品200とキャビティ面123aとの間に生じた隙間Gに、塗料注入口126から塗料を注入する。その後、再び型締めして成形品200の表面に塗料を均一に拡散させ、金型112A,122Bの熱で塗料を硬化させことで、成形品200の表面に塗膜を形成できる。
【0041】
熱プレス成形用の成形型としては、一対の型の少なくとも一方が、凹状の入れ子挿入部が形成された型本体と、入れ子挿入部に挿入される複数の分割入れ子とを備え、複数の分割入れ子が入れ子挿入部に挿入された状態で、少なくとも1つの分割入れ子の表面が注入面を形成するものが好ましい。例えば、下側の金型112の代わりに、
図4A及び
図4Bに例示した入れ子型の金型140を有する成形型が挙げられる。
【0042】
金型140は、コア141の上面に凹状の入れ子挿入部142が形成された型本体143と、入れ子挿入部142に挿入される5つの分割入れ子144とを備えている。
図4Bに示すように、5つの分割入れ子144が入れ子挿入部142に挿入された状態では、それら分割入れ子144の上側の表面がキャビティ面(成形面)145となっている。また、少なくとも1つの分割入れ子144の上側の表面が注入面となっている。
5つの分割入れ子144は、それぞれ入れ子挿入部142に挿入された状態で、ボルト147により型本体143に固定される。
【0043】
この例の5つの分割入れ子144のうち、4つの分割入れ子144の上部には片側に筋状の欠け部144aが形成されている。これにより、5つの分割入れ子144が入れ子挿入部142に挿入された状態では、それらの分割入れ子144によりキャビティ面145に4つの凹条の凹陥部146が形成される。
【0044】
入れ子型でない成形型のキャビティ面に、表面処理によって注入面を形成する場合、大型の成形品を形成する目的で成形型が大きくなると、それに伴って大型の表面処理装置が必要となる。そのため、成形型のサイズには限界がある。
これに対して、金型140のような入れ子型を採用した成形型とすれば、入れ子挿入部から取り出した分割入れ子に対して個別に表面処理を施すことができるため、成形型のサイズの制限がなくなる。特に、自動車の車体フレーム等の大型部品を成形するための成形型の場合に有効である。
【0045】
入れ子型の成形型は、金型140のように、分割入れ子の形状を調節することで、アンダーカット、リブ、ボス等を形成するための凹陥部を簡便にキャビティ面に形成できる。入れ子型の成形型であれば、深くて間口が狭い形状の凹陥部であっても簡便に形成できる。また、キャビティ面に凹陥部を形成する場合であっても、分割入れ子に対する個別の表面処理の簡便性を確保でき、凹陥部内のキャビティ面も含めて均一な表面処理が可能である。
【0046】
また、入れ子型の成形型では、分割入れ子の形状を調節することで、目的の成形品の形状を容易に変更できる点も有利である。繊維強化複合材料の特性に応じて、分割入れ子の材質や表面処理を最適化することも容易である。
たとえ成形を繰り返し継続することで、キャビティ面において凹み、ヒートチック等のクラック、膜の擦過等の不具合が生じても、分割入れ子の修復や交換により、成形作業を容易に継続できる。
【0047】
なお、成形型及び成形装置は、前記したものには限定されない。
成形型は、成形後に成形品の取り出しを容易にするために、エジェクターピン、エアー弁等の脱型機構を備えていてもよい。脱型機構を備える成形型は、成形型の冷却を待たずに容易に成形品を取り出せるため、大量生産に好適である。
成形型においては、キャビティに樹脂組成物を注入できる位置に開閉可能な樹脂注入口が形成されていてよい。これにより、強化繊維基材をキャビティ内に配置して型締めした状態で、所定の繊維体積含有率を満たすように前記樹脂注入口からキャビティ内に樹脂組成物を注入して成形する、レジントランスファーモールディング(RTM)が可能となる。
【0048】
本発明の成形装置は、熱プレス成形用の成形型を備えるものには限定されない。
本発明の成形装置は、樹脂組成物が収容された含浸槽に強化繊維ロービングが連続的に通されることで、樹脂組成物が付着した強化繊維を、キャビティに通して連続的に硬化しながら棒状の成形品を得る引き抜き成形用の成形型を備える成形装置であってもよい。
本発明の成形装置は、キャビティ内に樹脂組成物を筒状に配置し、配置した樹脂組成物の内側から圧力を付与し、樹脂組成物をキャビティ面(成形面)に密着させた状態で加熱して成形する内圧成形用の成形型を備える成形装置であってもよい。
本発明の成形装置は、マンドレルのような芯材にプリプレグを巻回して、熱硬化後に芯材を抜いて中空形状の成形品を得るようなシートラップ成形用の成形装置であってもよい。この場合は、芯材が成形型であり、芯材の表面が成形面である。
【0049】
[繊維強化複合材料成形品の製造方法]
本発明の成形品の製造方法は、本発明の繊維強化複合材料の成形装置により、強化繊維基材に樹脂組成物を含浸した繊維強化複合材料を成形して成形品を得る方法である。成形方法としては、熱プレス成形法、引き抜き成形法、内圧成形法、シートラップ成形法等が挙げられ、適した形態の成形型を用いることで適宜選択できる。
【0050】
繊維強化複合材料としては、プリプレグ、SMC等が挙げられる。プリプレグを単独で用いてもよく、SMCを単独で用いてもよく、プリプレグとSMCを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。これらの中でも、比強度及び比弾性に優れる点から、炭素繊維が好ましい。
【0052】
樹脂組成物としては、熱プレス成形に適応できるものであれば、熱硬化性樹脂に限らず、熱可塑性樹脂も含むことができる。
例えば、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、硬化後の強度を高くできる点から、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物が好ましい。
【0053】
以上説明したように、本発明においては、成形面の一部又は全部の表面自由エネルギーを25.0mJ/m
2以下にした成形型を備える成形装置を用いる。これにより、成形品の成形型からの離型性に優れるため、速やかに脱型が可能であり、高い生産性で成形品を製造できる。また、成形面において離型性を付与した領域の耐擦過性に優れ、離型性の低下を抑制できるため、繰り返しの成形に有効である。
【0054】
また、本発明では、成形型の成形面に離型剤を塗布したり、繊維強化複合材料に離型剤を添加したりしなくても、成形品の離型性に優れる。そのため、成形後の成形品に対して、塗料や接着剤を塗布する前処理として、研磨や洗浄等の処理が不要であり、生産コストを低減できる。また、成形後の成形品の研磨処理が不可能なエンボスやシボ等の加飾模様を有する成形品の表面に対しても塗装が可能であり、高付加価値の成形品を高い生産性で製造できる。
【0055】
なお、上述した注入面は、マンドレルのような芯材の表面に形成することで、芯材にプリプレグを巻回してプリプレグを加熱成形した後、芯材を引き抜いて筒状の成形品を製造するシートラップ成形にも応用できる。
この場合、充分なタック性を有するプリプレグを用いるか、プリプレグとの適度な貼り付き性を有する上述の成形面を採用すれば、この注入面に対するプリプレグの貼付保持性も確保できる。これにより、上記のプリプレグを巻回する際の作業性と、筒状の成形品の脱型性を両立させることができる。
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0057】
[実施例1]
鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に、プラズマブースタースパッタリング(PBS)プロセス(ナノコートTS社製)による、窒化クロム膜にフッ素を注入する表面処理(表面処理A1)を行った。
【0058】
[実施例2]
鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に、セルテスN−S(登録商標)コーティング(ナノコートTS社製)による表面処理(表面処理B)を行った。
【0059】
[実施例3]
鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に、プラズマブースタースパッタリング(PBS)プロセス(ナノコートTS社製)による、窒化クロム膜にフッ素を注入する表面処理(表面処理A2)を行った。
【0060】
[実施例4]
鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に、プラズマブースタースパッタリング(PBS)プロセス(ナノコートTS社製)による、窒化クロム膜にフッ素を注入する表面処理(表面処理A3)を行った。
【0061】
[比較例1]
比較対象として、鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に表面処理を施さずに、各種試験に用いた。
【0062】
[比較例2]
鏡面加工した金属板(SUS304、厚さ6mm、100mm×100mm角)の加工表面に、セルテスX(登録商標)コーティング(ナノコートTS社製)による表面処理(以下、「表面処理C」とも記す。)を行った。
【0063】
[接触角及び表面自由エネルギー]
各例の表面処理後の金属板を検体とし、液滴法(液滴量:1μL)により、検体表面(表面処理した表面)にプローブ液滴を付着させてできた液滴と検体表面との接触角を測定した。プローブ液として、水、ジヨードメタン、エチレングリコールを採用した。接触角の測定には、測定機として協和界面化学株式会社製の「PCA−11」、付属の解析ソフトとして協和界面化学株式会社製の「FAMS」ソフトウェア バージョン:5.0.10を用いた。接触角は、1つの検体表面につき5回測定した値の平均値とした。
検体表面(表面処理した表面)の表面自由エネルギーは、三液法により算出した。具体的には、前記の3つのプローブ液の特性値と、各プローブ液を用いて測定した接触角とを前記解析ソフトに入力して算出した。各プローブ液の特性値を表1に示す。
なお、接触角及び表面自由エネルギーの測定に際しては、アセトンを吸わせたウエスで拭き取り、十分脱脂することで、測定面を充分に清浄した。
【0065】
[離型性及び擦過耐久指数]
炭素繊維を一方向に引き揃えた繊維基材にエポキシ樹脂組成物を含浸したUDプリプレグ(TR368E250S、三菱ケミカル社製)5枚を、平面視で各UDプリプレグの炭素繊維の繊維方向が[0°/90°/0°/90°/0°]となるように順に積層して5層構成のプリプレグ積層体(繊維強化複合材料)とした。前記プリプレグ積層体を、33mm×33mmの正方形に切り出し、プローブ中間材とした。
試験板として各例で得られる金属板を2枚用意した。各試験板を140℃に予熱し、各試験板の表面処理した表面が前記プローブ中間材に接するように、2枚の試験板で前記プローブ中間材を挟み込んだ後、速やかに140℃に加熱したプレス機に設置して、80MPaの圧力で5分間の加熱加圧を行った。試験板及びプローブ中間材の硬化物が冷める前に、プローブ中間材の硬化物の試験板からの離型性の有無を確認した。離型性の評価基準は以下の通りとした。
(離型性)
非常に良好:加熱加圧後、硬化物の試験板からの剥離が不要であった。
良好:加熱加圧後、硬化物の試験板からの剥離が容易であった。
無し:加熱加圧後、硬化物の試験板の剥離が困難であった。
離型性が非常に良好又は良好であった例について、前記と同じ条件で、同一の2枚の試験板を用いて、プローブ中間材を挟み込んで加熱加圧する加熱加圧試験を合計30回繰り返した。各加熱加圧試験において、プローブ中間材の硬化物の試験板からの離型性の有無を確認した。30回の加熱加圧試験でも離型性が有りであったものを離型性が良好であると評価した。30回の加熱加圧試験を繰り返す途中で離型性がなくなったものについては、離型性がなくなるまでの試験回数を計測した。
30回目の加熱加圧試験でも離型性があったものについては、1回目と30回目の加熱加圧試験において、プローブ中間材の4辺それぞれの最大の流動長を計測して平均し、1回目の平均流動長をF(1)(mm)、30回目の平均流動長をF(30)(mm)とした。得られたF(1)及びF(30)の値を用いて下記の式1から擦過耐久指数を算出した。
擦過耐久指数=F(30)/F(1) ・・・(式1)
【0066】
[プリプレグ貼り付き性]
炭素繊維を一方向に引き揃えた繊維基材にエポキシ樹脂組成物を含浸したUDプリプレグ(TR368E250S、三菱ケミカル社製)を、15mm×15mmの正方形に切出し、貼り付き性評価用プリプレグとして用意した。試験板として各例で得られる金属板を1枚ずつ用意した。プリプレグの貼り付き性評価の一連の作業は、室温23℃、湿度50%の恒温室で実施した。プリプレグは、製品表面に載置されたカバーフィルムを剥がさずに静置し、プリプレグの温度が室温と同じになった時点でカバーフィルムを剥がしてプリプレグ面を露出し、前記露出面を試験板に向けて載置した。次いで、プリプレグを試験板に貼り付ける為、プリプレグに対して上方から試験板に向けて約1Kg/cm
2の力を5秒間加えた。試験板に圧着したプリプレグを剥離する為、幅15mm×長さ約30mmに切り出した粘着テープ(CT405AP−15、粘着力3.93N/10mm、ニチバン製)を試験板に接触しない様にプリプレグに貼り付け、余った部分を手で持ち、約50mm/秒の速さで引き上げた。この時の剥離抵抗と剥離時の状態から、プリプレグ貼り付き性を評価した。評価は各試験板に対して5回ずつ実施し、以下の4段階に分類した。
(A)非常に良好
剥離抵抗は高く、プリプレグが反る様に変形しながら剥離する。
(B)良好
剥離抵抗は中程度であり、プリプレグ全体が一気に剥離する。
(C)実用可能
剥離抵抗は低いが、プリプレグを圧着した試験板を垂直に起こしても、プリプレグは直ぐには剥落しない。
(D)不良
剥離抵抗は低く、プリプレグを圧着した試験板を垂直に起こすと、プリプレグは直ぐに剥落する。
【0067】
各例の金属板における表面処理した表面の接触角の測定結果を表2、前記表面の表面自由エネルギーの測定結果を表3に示す。各例の金属板における表面処理した表面のプリプレグ貼り付き性の測定結果と、離型性及び擦過耐久指数の評価結果を表4に示す。
【0071】
実施例1〜4(表2〜4)に示すように、PBSプロセスにより形成した窒化クロム膜にフッ素をドーピングさせる表面処理A1,A2,A3や、セルテスN−S(登録商標)コーティングによる表面処理Bにより、表面自由エネルギーが25.0mJ/m
2以下である、フッ素又はケイ素が注入された注入面(表面処理した表面)が形成された。また、実施例1〜4の注入面(表面処理した表面)は、水の接触角が100度以上であり、ジヨードメタンの接触角が75度以上であり、エチレングリコールの接触角が85度以上であり、表面自由エネルギーのp成分とh成分の和が3.0mJ/m
2以下であった。
【0072】
実施例1〜4の注入面(表面処理した表面)は、離型性及び耐擦過性に優れ、比較例1、2に比べて、離型性に優れていた。この結果から、実施例の表面処理A及び表面処理Bは、成形型のキャビティ面を離型性及び耐擦過性に優れた面とする表面処理として有効であることがわかった。また、注入面の優れた離型性及び耐擦過性には、水、ジヨードメタン、エチレングリコールの接触角、表面自由エネルギー、及び表面自由エネルギーのp成分とh成分の和との相関も見られた。
【0073】
さらに、実施例3、4の表面処理A2,A3は、プリプレグの貼り付き性にも優れる傾向にあった。
ここで、実施例3の表面処理A2を施した鉄製の棒をマンドレル(芯材)として用いて、下記の条件でプリプレグの巻き付き性評価を行った。
その結果、下記(3)の巻き付け終了後10秒経過した時点でも、プリプレグの端部が浮き上がることなく芯材に貼り付いた状態が維持されていることが観察され、この芯材は、シートラップ成型に適したものであることが確認された。
【0074】
(プリプレグの巻き付き性評価)
(1)まず、直径約10mm、長さ300mmの断面が丸形状の鉄製の棒に表面処理A2を施した芯材を準備した。
(2)次に、長さ280mm、幅30mmのUDプリプレグ(TR350H150S、三菱ケミカル社製)2枚を、その長手方向に対する炭素繊維の繊維方向が平面視でそれぞれ+45°と−45°となる様に準備した。
(3)さらに、室温23℃,湿度50%の恒温室にて、23℃の前記2枚のUDプリプレグを前記芯材の軸方向に対する炭素繊維の繊維方向が[+45°/−45°]となる様に、予め30℃に予熱した芯材に素早く巻き付けた。
【0075】
なお、実施例2の擦過耐久指数は理論上の上限値である「1」をわずかに超えているが、これは測定誤差によるものである。