【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1:抗CL−2抗体の作製
DNA免疫法は、非変性(native form)の抗原タンパク質に対する抗体を作製する基盤技術であり、一般的にタンパク質全長アミノ酸配列をコードするcDNAを免疫原としている、DNA免疫法では、抗原タンパク質のトランケーションにより、しばしばin vivoでの抗原発現量が増加し、結果として抗体価が上がりやすくなることが多い。しかしながら、作製した抗体が、非変性の抗原タンパク質を認識しない例が多く認められること、及び複数回膜タンパク質をターゲットとする場合には、タンパク質のN末端又はC末端に余分なタグ配列等を付加することなどによってターゲットタンパク質の膜配向性や細胞内局在が非変性のものとは変わってしまうことなどが観察されている。
【0052】
そこで、CL−2に対するモノクローナル抗体(以下、「抗CL−2抗体」と記載する。)の作製にあたっては、N末端又はC末端に余分なタグ配列等を付加していないタンパク質全長アミノ酸配列からなる免疫コンストラクトを抗原として用い、さらに、マウスに比して抗体価が上昇しやすいラットを免疫動物として用いた。
【0053】
1)免疫
20匹のWister系ラットにヒトCL−2発現プラスミドを皮下免疫し、フローサイトメトリー(FCM)解析により血清中の抗体価を測定し、抗体価の上昇が確認されたラット7匹に対し最終免疫(ブースティング)を行った。
【0054】
2)細胞融合
最終免疫後、ラットからリンパ細胞を回収し、マウスミエローマ(P3U1)と細胞融合を行うことによりハイブリドーマを作製した。その後、96ウェルプレート5枚に播種し、下記の組成を有する培養培地にて37℃、5% CO
2の環境下で14日間培養した。
【0055】
(培養培地の組成)
D-MEM(Wako, 044-29765) + 10% FCS(Hyclone), 10% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement(Roche, 1088947), 1 × HAT supplement(Invitrogen, 21060017), 1×Penicillin/Streptomycin(Wako, 168-23191), 1×L-Glutamine(Wako, 073-05391)
【0056】
3)1次スクリーニング
培養後、全てのプレートウェルから培養上清を回収した。1次スクリーニングには、ヒトCL−2発現HT1080細胞(hCL-2/HT1080細胞)及びコントロール用HT1080細胞(mock/HT1080細胞)を用いた。なお、これらの細胞及びその作製法は、Li et al., J Pharmacol Exp Ther, 351, pp.206-213, 2014において報告されている。細胞培養プレート上で培養していたhCL-2/HT1080細胞及びmock/HT1080細胞をトリプシン処理により回収し、これらの細胞に対して、回収したハイブリドーマの培養上清を添加し、二次抗体としてPE標識抗ラットIgG抗体を用いて染色した後、FCM解析を行った。
【0057】
4)2次スクリーニング
1次スクリーニングで陽性の確認された18クローンを96ウェルプレートから24ウェルプレートに拡大し、37℃、10%CO
2の環境下で培養した。培養後、全てのウェルから培養上清を回収した。その後、hCL-2/HT1080細胞及びmock/HT1080細胞を用い、培養上清及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、FCM解析を行った。
【0058】
5)限界希釈及び3次スクリーニング
2次スクリーニングで陽性の確認された5ウェルからそれぞれハイブリドーマを回収し、各ハイブリドーマを1.2cells/wellで96ウェルプレート1枚(合計5プレート)に播種し、37℃、10% CO
2の環境下で12日間培養した。また、同時に、限界希釈前のハイブリドーマについても6ウェルプレートにて上記と同条件にて培養し、バックアップとした。培養後、各プレートのシングルコロニー形成ウェルから10クローンずつ選定し、hCL-2/HT1080細胞及びmock/HT1080細胞を用い、培養上清及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、FCM解析を行った。
【0059】
6)アイソタイプ解析
3次スクリーニングで陽性であることが確認された3クローン(それぞれ、1A2、2G8及び3B2と命名)を24ウェルプレート及び6ウェルプレートに37℃、10% CO
2の環境下で順次拡大し、培養を行った。培養後、全てのウェルから培養上清を回収し、rat immunoglobulin isotyping ELISA kit(BD)を用いて培養上清中の抗体のクラス及びサブクラスを決定した。アイソタイプ解析の結果を下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
7)最終スクリーニング
サブクラス決定後、3次スクリーニングでシフト強度が強く、かつ単一サブクラスのウウェルを1ウェル選択し、下記の組成を有する培養培地にて150mmディッシュへ拡大培養を行った。
【0062】
(培養培地の組成)
D-MEM(Wako, 044-29765)+10%FCS(Hyclone), 3% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement(Roche, 1088947), 1XHAT supplement(Invitrogen, 21060017), 1×Penicillin/Streptomycin (Wako, 168-23191)
【0063】
培養後、各ハイブリドーマを回収し、セルバンカー(血清タイプ)にて細胞ストックを3本作製し、−80℃で保管した。また、拡大培養と同時に、150mmディッシュでオーバーグロースになるまで培養後、各培養上清(約20mL)を回収し、−20℃で保管した。
【0064】
以下、これらの操作により保管した各ハイブリドーマ、及び各ハイブリドーマ培養上清を、それぞれ「実施例1で作製したハイブリドーマ」及び「実施例1で調製したハイブリドーマ培養上清」と記載する。また、これらをクローン名と共に記載する場合には、「クローン1A2」を例にとると、「実施例1で作製したハイブリドーマ1A2」及び「実施例1で作製したハイブリドーマ培養上清1A2」などと記載する。
【0065】
hCL-2/HT1080細胞及びmock/HT1080細胞を用い、上記で調製した各ハイブリドーマ培養上清(1A2、2G8及び3B2)及びPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、FCM解析を行った。FCM解析の結果を
図1に示す。
【0066】
図1から明らかなように、上記で調製した3つのハイブリドーマ培養上清1A2、2G8及び3B2の全てにおいて陽性を示すシフトが確認された。
【0067】
実施例2:抗CL−2抗体の結合特異性の解析
ヒトCL−1発現HT1080細胞(hCL-1/HT1080細胞)、ヒトCL−2発現HT1080細胞(hCL-2/HT1080細胞)、ヒトCL−3発現HT1080細胞(hCL-3/HT1080細胞)、ヒトCL−4発現HT1080細胞(hCL-4/HT1080細胞)、ヒトCL−6発現HT1080細胞(hCL-6/HT1080細胞)、ヒトCL−7発現HT1080細胞(hCL-7/HT1080細胞)、及びヒトCL−9発現HT1080細胞(hCL-9/HT1080細胞)、並びにマウスCL−2発現L細胞(mCL-2/L細胞)をそれぞれ、5.0×10
5 /sampleとなるように96ウェルプレートに播種し、実施例1で調製した各ハイブリドーマ培養上清(1A2、2G8、及び3B2)をそれぞれ添加して撹拌した後、氷上で1時間静置した。次いで、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄後、1%BSA−PBSにて希釈したGoat anti−rat IgG(H+L)−FITC抗体(KPL)を添加して撹拌し、氷上で30分間静置した。その後、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄し、1%BSA−PBSにて最終濃度5μg/mLとなるように希釈したPI(Mitenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。FCM解析の結果を
図2に示す。
【0068】
図2から明らかなように、実施例1で調製した3つのハイブリドーマ培養上清1A2、2G8、及び3B2の全てにおいて、hCL-1/HT1080細胞、hCL-3/HT1080細胞、hCL-4/HT1080細胞、hCL-6/HT1080細胞、hCL-7/HT1080細胞、及びhCL-9/HT1080細胞には結合性を示さず、hCL-2/HT1080細胞に特異的に結合性を示すことが確認された。
【0069】
さらに、実施例1で調製した3つのハイブリドーマ培養上清1A2、2G8、及び3B2は、いずれもmCL-2/L細胞にも結合性を示すことが確認された。当該結果から、抗CL−2抗体は、ヒトCL−2及びマウスCL−2に交叉性を有しており、マウスを用いた実験系(例えば、抗体の有効性や安全性の評価)においても使用し得るものと考えられる。
【0070】
実施例3:抗CL−2抗体の可変領域の配列の解析
TRIzol(Invitrogen)を用い、実施例1で作製したハイブリドーマ1A2及び2G8からmRNAをそれぞれ回収及び精製した。回収したmRNAを鋳型とし、cDNA amplification kit(Clontech)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型とし、KOD−plus−(TOYOBO)を用いてPCRを行い、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)の遺伝子をそれぞれ増幅した。PCR後、PCR産物を電気泳動により分離・精製し、Mighty Cloning Reagent set(Takara)を用いて、pUC118HincII/BAPにライゲーションした。ライゲーション産物によりコンピテントセルDH−5αをトランスフォーメーションし、形成した独立大腸菌クローンを回収した。なお、大腸菌クローンの選別に際して、LAプレートにX−gal及びIPTGを塗布することでBlue−White selectionを行い、PCR産物が挿入されているクローンを効率よく選別した。回収した大腸菌クローンを培養し、プラスミドDNAを回収した後、シークエンス解析により目的遺伝子配列を解析した。当該解析結果から得られた可変領域のアミノ酸配列を下記表2及び表3に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
実施例4:抗CL−2ヒト−ラットキメラ抗体の作製
1)発現ベクターの作製
抗CL−2抗体1A2及び2G8の軽鎖可変領域にAgeIサイト及びBsiWIサイトを、重鎖可変領域にEcoRIサイト及びNheIサイトをそれぞれ付加するように抗体の可変領域のVL及びVHをそれぞれPCR法により増幅した。PCR後、PCR産物を電気泳動により分離・精製し、制限酵素(VL:AgeI及びBsiWI、VH:EcoRI及びNheI)により処理した。ヒト定常領域をもつクローニングベクター(VL:pFUSE2−CLIg−hk,VH:pFUSE−CHIg−hG1)のマルチクローニングサイト上にあるAgeIサイト、BsiWIサイト、EcoRIサイト、及びNheIサイトをそれぞれ制限酵素(VL:AgeI及びBsiWI、VH:EcoRI及びNheI)で切断し、制限酵素で切断したPCR産物とライゲーションした。ライゲーション産物によりコンピテントセルDH−5αをトランスフォーメーションさせた。形成した独立大腸菌クローンを培養し、プラスミドDNAを回収した後、制限酵素解析とシークエンス解析によりVL:pFUSE2−CLIg−hk−anti−CL−2、及びVH:pFUSE−CHIg−hG1−anti−CL−2を得た。
【0074】
2)抗CL−2キメラ抗体の作製及び精製
フラスコに5×10
5cells/mLに調製したCHO−S細胞を150mL入れ、37℃、8% CO
2の環境下で一晩培養した。また、上記1)で作製したpFUSE2−CLIg−hk−anti−CL−2、及びpFUSE−CHIg−hG1−anti−CL−2をそれぞれ93、75μg混合し、OptiPRO SFMを加え3mLに調製し撹拌した。別のマイクロチューブにFreeStyle MAX Reagent(Invitrogen)187.5μLとOptiPRO SFM2812.5μLを加え転倒混和し、上記発現ベクターの溶液に加え、10分間常温静置した後、CHO−S細胞の入ったフラスコに上記の混合液全量を加えた。その後6日間、37℃、8% CO
2環境下で培養し、上清を回収した。
【0075】
回収した上清を100× g、5分間遠心にかけ、0.45μmフィルターを通した。HiTrap Protein G HP(GE Healthcare)をMilliQ水5mLで 洗浄後、0.02Mリン酸バッファー10mLでカラムの平衡化を行った。サンプルをカラムに通した後、0.02Mリン酸バッファー20mLで洗浄、5mLの0.1M Glycine−HClで溶出した。溶出の際は、あらかじめマイクロチューブに37.5μLの1M Tris−HClを入れておいたものに0.5mLずつ回収した。溶出後のサンプルはPD−10カラム(GE Healthcare)を用いてPBSにバッファー置換した。
【0076】
上記した方法により得られたタンパク質溶液を非還元条件下及び還元条件下のSDS−PAGEにより分子量を確認した。また、吸光度法によりタンパク質濃度を測定した。SDS−PAGEの結果を
図3に示す。
【0077】
以下、これらの操作により得られた抗体溶液を、「実施例4で作製した抗CL−2キメラ抗体」、「抗CL−2ヒト−ラットキメラ抗体」、あるいは単に「抗CL−2キメラ抗体」と記載する。また、これらをクローン名と共に記載する場合には、「クローン1A2」を例にとると、「実施例4で作製した抗CL−2キメラ抗体1A2」、「実施例4で作製した抗CL−2ヒト−ラットキメラ抗体1A2」、及び「抗CL−2キメラ抗体1A2」などと記載する。
【0078】
図3から明らかなように、抗CL−2キメラ抗体1A2、及び抗CL−2キメラ抗体2G8のいずれにおいても、非還元条件化では高分子量側(約200kDa付近)にバンドが確認され、還元条件下では約50kDa及び約25kDaのバンドが確認された。当該結果より、抗CL−2キメラ抗体1A2及び2G8の精製が確認できた。
【0079】
実施例5:抗CL−2ヒト‐ラットキメラ抗体の結合特異性の確認
hCL-1/HT1080細胞、hCL-2/HT1080細胞、hCL-3/HT1080細胞、hCL-4/HT1080細胞、ヒトCL―5発現HT1080細胞(hCL-5/HT1080細胞)、hCL-6/HT1080細胞、hCL-7/HT1080細胞、及びhCL-9/HT1080細胞、並びにマウスCLDN1発現L細胞(mCL-1/L細胞)、mCL-2/L細胞、及びマウスCL4発現L細胞(mCL-4/L細胞)をそれぞれトリプシン処理により回収した。各細胞5.0×10
5cells/sampleに対して実施例4で作製した抗CL−2キメラ抗体1A2及び2G8(5μg/mL)をそれぞれ100μL添加して撹拌し、氷上で1時間静置した。次いで、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄後、1%BSA−PBSにて希釈したGoat anti−human IgG(H+L)−FITC抗体(Jackson ImmunoResearch)を添加して撹拌し、氷上で30分間静置した。その後、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄し、1%BSA−PBSにて最終濃度5μg/mLとなるように希釈したPIを加え、FCM解析を行った。FCM解析の結果を
図4に示す。
【0080】
図4から明らかなように、抗CL−2キメラ抗体1A2及び2G8は、hCL-1/HT1080細胞、hCL-3/HT1080細胞、hCL-4/HT1080細胞、hCL-5/HT1080細胞、hCL-6/HT1080細胞、hCL-7/HT1080細胞、及びhCL-9/HT1080細胞には結合性を示さず、hCL-2/HT1080細胞に特異的に結合性を示すことが確認された。また、抗CL−2キメラ抗体1A2及び2G8は、mCL-1/L細胞及びmCL-4/L細胞には結合性を示さず、mCL-2/L細胞に結合性を示すことが確認された。以上の結果から、当該抗CL−2キメラ抗体1A2及び2G8が抗CL−2抗体1A2及び2G8の有する結合特異性をそれぞれ保持していること、並びにクローニングしたCDR領域がCL−2との結合に関与していることが分かった。
【0081】
実施例6:抗CL−2抗体の精製
1)マウス腹水の調製
ヌードマウス腹腔内に実施例1で作製した各ハイブリドーマ1A2及び2G8を0.5〜1.0×10
7cells/匹で移植した。なお、腹水形成を促進させるために、ハイブリド−マの移植の前日までにプリスタン500μL/匹を投与した。ハイブリドーマ移植後10日目から14日目までに1回又は複数回にわたり腹水を回収した。回収した腹水を遠心分離し、回収した上清にNaN
3(最終濃度:0.05%)を添加し、精製に使用するまで4℃で保存した。
【0082】
2)IgG精製
IgG2bであったクローン(1A2及び2G8)について回収した腹水の精製を行った。予めリン酸バッファーで前処理したprotein G Sepharoseカラム (GE) に、腹水をアプライした。その後、リン酸バッファーにてカラムを洗浄し、溶出バッファー(0.1M Glycine−HCl、pH 3.0)で目的タンパク質を溶出した。溶出後の溶液には、直ちに少量の1M Tris−HCl(pH7.0)にて中和した。更に中和後の溶液をリン酸バッファーにて透析し、バッファーを置換した。透析後、0.2μmフィルターにてろ過後、無菌的に分注した。得られた目的タンパク質溶液の一部を常法に従い、還元条件下のSDS−PAGEにより分子量を確認した。また、吸光度法によりタンパク質濃度を測定した。SDS−PAGEの結果を
図5に示す。
【0083】
以下、これらの操作により得られた抗体溶液を、「実施例6で調製した抗CL−2抗体」、あるいは単に「抗CL−2抗体」と記載する。また、これらをクローン名と共に記載する場合には、「クローン1A2」を例にとると、「実施例6で調製した抗CL−2抗体1A2」及び「抗CL−2抗体1A2」などと記載する。
【0084】
図5から明らかなように、抗CL−2抗体1A2及び2G8のいずれにおいても、重鎖(約50kDa)及び軽鎖(約25kDa)のバンドが確認された。
【0085】
実施例7:抗CL−2抗体のエピトープの解析
hCL-2/HT1080細胞、hCL-2の細胞外領域の第1ループ(28〜78番目のアミノ酸)をhCL-4の細胞外領域の第1ループに置換したHT1080細胞(CL-2 EL1-CL-4/HT1080細胞)、hCL-2の細胞外領域の第2ループ(144〜162番目のアミノ酸)をhCL-4の細胞外領域の第2ループに置換したHT1080細胞(CL-2 EL2-CL-4/HT1080細胞)、並びにhCL-2の細胞外領域の第1ループ及び第2ループをそれぞれhCL-4の細胞外領域の第1ループ及び第2ループに置換したHT1080細胞(hCL-2 EL1,2-CL-4/HT1080細胞)をそれぞれトリプシン処理により回収した。5.0×10
5cells/sampleに対し、実施例6で調製したCL−2抗体1A2及び2G8(5μg/mLに調製)をそれぞれ100μL添加して撹拌した後、氷上で1時間静置した。次いで、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄後、1%BSA−PBSにて希釈したGoat anti−rat IgG(H+L)−FITC抗体(KRL)を添加して撹拌し、氷上で30分間静置した。その後、0.2%BSA−PBSにて1回洗浄し、FCM解析を行った。FCM解析の結果を
図6に示す。なお、本実施例では、ポジティブコントロールとしてhCL-2及びhCL-4に結合する分子(CL-2, -4 binder)を用い、CL-2, -4 binderの検出には、anti−6 x His tag monoclonal antibody(Pierce)及びGoat anti−mouse IgG(H+L)−FITC抗体(abcam)を用いた。なお、当該CL-2, -4 binderは、分子量約14kDaのポリペプチド(m19)であり、その作製法は、Takahashi et al., Biomaterials, 33, pp.3464-3474, 2012において報告されている。
【0086】
図6から明らかなように、抗CL−2抗体1A2及び2G8のいずれにおいても、hCL-2 EL1-CL-4/HT1080細胞では結合性が消失したのに対して、hCL-2 EL2-CL-4/HT1080細胞では結合性を保持していることが確認された。当該結果から、抗CL−2抗体1A2及び2G8は、CL−2の細胞外領域の第1ループに特異的に結合することが示唆された。
【0087】
実施例8:抗CL−2抗体の変性CL−2タンパク質に対する結合性の解析
hCL-2/HT1080細胞、hCL-4/HT1080細胞、及びmock/HT1080細胞を回収し、作製した細胞可溶化液を用いて、ウエスタンブロッティング解析を行った。なお、細胞可溶化液は、細胞をprotease inhibitor(Nacalai Tesque)及び1%Triton−Xを含むPBSで懸濁後、超音波処理で破砕することにより調製した。細胞可溶化液及びpolyacrylamide gelを用いてSDS−PAGEを行った後、TRANS−BLOT SD SEMI−DRY TRANSFER CELL(Bio−Rad Laboratories)により240mA、20分間処理することで、polyvinylidene difluoride(PVDF)膜上に転写した。転写後、PVDF膜を5%skim milk−T−TBSに浸し、室温で2時間振盪しブロッキングを行った。T−TBSで洗浄し、一次抗体:市販のマウス抗CL−2抗体(Invitrogen)、抗CL−2抗体1A2、抗CL−2抗体2G8、及び市販のマウス抗CL−4抗体(Invitrogen)とそれぞれ2時間反応させた後、二次抗体:Goat anti−mouse IgG HRP conjugated(Millipore)又はGoat anti−rat IgG HRP conjugated (R&D Systems)と1時間反応させた。なお、上記で使用した各種抗体は、5% skim milk−T−TBSの溶液である。T−TBSで洗浄した後、Chemi−Lumi One L(Nakcalai Tesque)又はChemi−Lumi One Super(Nakcalai Tesque)を用いて発光させ、Image Quant LAS 4010(GE Healthcare Bio−Sciences Corp)により検出を行った。ウエスタンブロッティング解析の結果を
図7に示す。
【0088】
図7から明らかなように、市販のマウス抗CL−2抗体ではCL−2のバンドが確認されたのに対して、抗CL−2抗体1A2及び抗CL−2抗体2G8ではCL−2のバンドが検出されなかった。本実施例で用いたマウス抗CL−2抗体は、CL−2の細胞内領域の一次構造を認識する抗体であることから、抗CL−2抗体1A2及び抗CL−2抗体2G8は、CL−2の細胞外領域の1次構造ではなく、立体構造を認識することが示唆された。
【0089】
実施例9:抗CL−2抗体のTJバリア制御活性の解析
ヒト腸管上皮モデルとして汎用されるCaco−2細胞をtrans well (CORNING) のtop wellに8×10
4cells/200μLで播種し、bottom wellには700μLの培地を加え、37℃、5% CO
2の環境下で培養した。1日おきにMillicell−ERS (MILLIPORE)で、上皮バリア機能の指標である経上皮電気抵抗(TEER)値を測定し、培地交換を行った後、培養を続けた。TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地を加え、bottom wellには、抗CL−2抗体1A2又は2G8を培地で10μg/mLに調製した抗CL−2抗体溶液、ラットIgG抗体を培地で10μg/mLに調製したラットIgG抗体溶液、20μg/mLのTJ modulator(タイトジャンクション(TJ)バリア機能を低下させることが知られている分子(m19):Takahashi et al., Biomaterials, 33, pp.3464-3474, 2012)溶液、及び培地をそれぞれ600μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で培養し、各種溶液添加後0、6、12、18、及び24時間後のTEER値をそれぞれ測定した。その後、top wellの培地、及びbottom wellの抗体溶液を除去し、PBSで洗浄した後、Top wellは100μLの培地、及びbottom well は600μLの培地にそれぞれ交換し、12時間後にTEER値を測定した。TEER値の測定結果を
図8のAに示す。
【0090】
また、同様にして、TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地を加え、bottom wellには、抗CL−2抗体1A2を培地で0.01、0.1、1及び10μg/mLにそれぞれ調製した抗CL−2抗体溶液、20μg/mLのTJ modulator、並びに培地をそれぞれ600μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で培養し、各種溶液添加後0、6、12、24、36及び48時間後のTEER値をそれぞれ測定した。その後、top wellの培地、及びbottom wellの抗体希釈液を除去し、PBSで洗浄し、Top wellは100μLの培地、bottom well は600μLの培地にそれぞれ交換し、6時間後にTEER値を測定した。TEER値の測定結果を
図8のBに示す。
【0091】
さらに、同様にして、TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地を加え、bottom wellには、培地で10μg/mLに調製した抗CL−1抗体溶液(7A5)、抗CL−2抗体溶液(1A2)、抗CL−4抗体溶液(4D3)、及びラットIgG抗体を培地で10μg/mLに調製したラットIgG抗体溶液をそれぞれ600μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で培養し、各抗体溶液添加後0、6、12、18、及び24時間後のTEER値をそれぞれ測定した。その後、top wellの培地、及びbottom wellの抗体希釈液を除去し、PBSで洗浄し、Top wellは100μLの培地、bottom well は600μLの培地にそれぞれ交換し、12時間後にTEER値を測定した。TEER値の測定結果を
図9に示す。なお、
図9では、抗体溶液添加0時間におけるTEER値を100とした時の各時間におけるTEER値の割合を示している。
【0092】
図8から明らかなように、抗CL−2抗体は、濃度依存的にTEER値を上昇させており、TJバリア機能を増強することが分かった。
【0093】
また、
図9からも明らかなように、抗CL−1抗体を添加してもTEER値は減少しないことから、抗CL−1抗体はTJバリア機能には影響を与えないと考えられる。一方、抗CL−4抗体を添加することによりTEER値が減少していたことから、抗CL−4抗体はTJバリア機能を低下させることが示唆された。これに対して、上記の通り、抗CL−2抗体を添加することでTEER値が上昇しており、TJバリア機能を増強することが分かった。以上の結果から、抗CL−2抗体がTJバリア機能増強活性を有していることが分かった。
【0094】
実施例10:TNF−αのTJバリア機能への影響の解析
実施例9と同様の方法により、trans wellに播種したCaco−2細胞の培養を行い、TEER値が安定した細胞播種10日後に、炎症性サイトカインであるTNF−α(R&D systems)を培地で10ng/mLに調製し、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地、及びbottom wellには600μLのTNF−α溶液を加え、37℃、5% CO
2の環境下で培養し、TNF−α添加後0、24、及び48時間後にTEER値をそれぞれ測定した。さらに、48時間経過後に細胞を回収し、実施例6と同様の方法によりウエスタンブロッティング解析を行った。
【0095】
TEER値及びウエスタンブロッティング解析の結果を
図10に示す。なお、
図10中、AはTEER値の測定結果を示す図であり、Bはウエスタンブロッティング解析の結果を示す図である。
【0096】
図10から明らかなように、Caco−2細胞にTNF−αを添加することにより、TEER値が減少し、CL−2の発現量が増加することが確認された。
【0097】
実施例11:TNF−α存在下における抗CL−2抗体のTJバリア機能への影響の解析 実施例9と同様の方法により、trans wellに播種したCaco−2細胞の培養を行い、TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100 μLの培地を加え、bottom wellには、TNF−α(10ng/mL)を含む培地、TNF−α(10ng/mL)と抗CL−2抗体1A2を含む培地(10μg/mL)、もしくはTNF−α(10ng/mL)とラットIgG抗体(10μg/mL)を含む培地600μLを添加して、37℃、5% CO
2の環境下で培養した。培地等を添加前(0時間)及び添加24時間後にTEER値を測定した。TEER値の測定結果を
図11に示す。
【0098】
さらに、実施例10と同様の方法により、trans wellに播種したCaco−2細胞の培養を行い、TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地、及びbottom wellには、TNF−α(10ng/mL)溶液600μLを添加して37℃、5% CO
2の環境下で24時間培養した後、TEER値を測定した。その後、培地を除き、top wellに100μLの培地を加え、bottom wellにはTNF−α(10ng/mL)を含む培地、TNF−α(10ng/mL)と抗CL−2抗体1A2を含む培地(10μg/mL)、もしくはTNF−α(10ng/mL)とラットIgG抗体(10μg/mL)を含む培地600μLを添加して、37℃、5% CO
2の環境下で培養した。培地等を添加前(0h)及び添加24時間後にTEER値を測定した。TEER値の測定結果を
図12に示す。なお、
図12では、TNF−α溶液と抗CL−2抗体を含む培地等の添加時点を「0h」としている。従って、「−24h」はTNF−α溶液添加時点を、「24h」はTNF−α溶液と抗CL−2抗体を含む培地等を添加し24時間経過後をそれぞれ示している。
【0099】
図11から明らかなように、ラットIgG抗体添加群では、TEER値が減少したのに対して、抗CL−2抗体1A2添加群では、TEER値の上昇が確認された。当該結果から、抗CL−2抗体の添加により、TNF−α等の炎症性サイトカインによるTJバリア機能の低下を防止できるだけではなく、TJバリア機能を向上できることが分かった。
【0100】
さらに、
図12から明らかなように、抗CL−2抗体1A2添加群では、TNF−α処理により低下したTEER値が上昇することが確認された。当該結果から、抗CL−2抗体の添加により、TNF−α等の炎症性サイトカインにより低下したTJバリア機能を改善することができることが分かった。
【0101】
実施例12:既存薬との併用効果の解析
実施例9と同様の方法により、trans wellに播種したCaco−2細胞の培養を行い、TEER値が安定した細胞播種10日後に、前培養していた細胞の培地を除き、top wellに100μLの培地、及びbottom wellには、TNF−α(10ng/mL)溶液600μLを添加して37℃、5% CO
2の環境下で24時間培養した後、TEER値を測定した。その後、培地を除き、top wellに100μLの培地、及びbottom wellには、TNF−α(10ng/mL)と下記の各種抗体溶液との混合溶液600μLを添加して37℃、5% CO
2の環境下で24時間及び48時間培養し、TEER値を測定した。なお、上記した抗体溶液としては、抗CL−2抗体1A2溶液(10μg/mL)、インフリキシマブ(infliximab;抗TNF−α抗体)溶液(10μg/mL)、アダリムマブ(adalimumab;抗TNF−α抗体)溶液(10μg/mL)、抗CL−2抗体1A2溶液(5μg/mL)とインフリキシマブ溶液(5μg/mL)との混合溶液、ラットIgG抗体溶液(5μg/mL)とインフリキシマブ溶液(5μg/mL)との混合溶液、抗CL−2抗体1A2溶液(5μg/mL)とアダリムマブ溶液(5μg/mL)との混合溶液、及びラットIgG抗体溶液(5μg/mL)とアダリムマブ溶液(5μg/mL)との混合溶液を用いた。また、コントロールとしてbottom wellにラットIgG抗体(10μg/mL)溶液600μLを添加して同様に培養を行った。TEER値の測定結果を
図13に示す。なお、
図13では、TNF−α溶液と各種抗体溶液との混合溶液の添加時点を「0h」としている。従って、「−24h」はTNF−α溶液添加時点を、「24h」及び「48h」はTNF−α溶液と各種抗体溶液との混合溶液の添加後24時間、48時間経過後をそれぞれ示している。
【0102】
図13から明らかなように、ラットIgG抗体添加群では、TEER値が減少したのに対して、抗CL−2抗体1A2添加群、及び抗TNF-α抗体(インフリキシマブ又はアダリムマブ)添加群では、TEER値の上昇が確認された。さらに、抗CL−2抗体と抗TNF−α抗体(インフリキシマブ又はアダリムマブ)とを共に添加した群では、相加的なTEER値の上昇が観察された。当該結果から、抗CL−2抗体は既存の抗TNF−α抗体と併用することで、TNF−α等の炎症性サイトカインにより低下したTJバリア機能を相加的に改善できることが分かった。
【0103】
実施例13:抗CL−2抗体の細胞内取込みの検討
96ウェルプレートにヒト小腸上皮モデルであるT84細胞を2.5×10
5cells/wellで播種し、一晩培養した。次いで、細胞の培養上清を除き、抗CL−2抗体1A2及び2G8をそれぞれ0(抗体非添加)、0.1、及び0.5μg/mLに調製した抗体溶液を100μL添加し、2日間培養した。その後、細胞の培養上清を除き、新鮮な培地90μLに交換した後、10.0μg/mLなるようにPBSで調製したサポニン標識抗ラット抗体Rat−Zap(Advanced Targeting Systems)溶液10μLを培地に添加し、72時間培養した。なお、Rat−Zapは、細胞内に取り込まれると細胞障害性を発揮する抗体であり、単独で細胞内に取り込まれることはない。72時間経過後、WST−8試薬(Nacalai tesque)を10μL添加し、37℃で1時間培養した後、450nmの吸光度を測定し、抗体非添加群の吸光度を基準として各抗体濃度における吸光度の相対値を求め、細胞生存率を算出した。結果を
図14に示す。
【0104】
図14から明らかなように、抗CL−2抗体1A2添加群及び抗CL−2抗体2G8添加群では、抗体非添加群に対して濃度依存的に生存率が低下していることが確認された。当該結果から、抗CL−2抗体は、CL−2に結合することにより細胞内に取り込まれるものと考えられる。従って、抗CL−2抗体は、CL−2発現細胞に対して薬物などを送達する運搬体(キャリア)として利用可能であることが示唆された。
【0105】
実施例14:抗CL−2ヒト‐ラットキメラ抗体のCDC活性の評価
Opti−MEM1Reduced Serum Media(Life Technologies)で懸濁した10% human complement serum(SIGMA)及びhCL-2/HT1080細胞(1.0×10
5cells/well)90μLを播種し、実施例4で作製した抗CL−2キメラ抗体1A2をそれぞれ0(抗体非添加)、1、10及び100μg/mLに調製した抗体溶液を10μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で3時間培養した。3時間経過後、WST−8試薬(Nacalai tesque)を10μL添加し、37℃で1時間培養した後、450nmの吸光度を測定し、抗体非添加群の吸光度を基準として各抗体濃度における吸光度の相対値を求め、細胞生存率を算出した。結果を
図15に示す。
【0106】
図15から明らかなように、抗CL−2キメラ抗体添加群では、抗体非添加群に対して濃度依存的に生存率が低下していることが確認された。当該結果から、抗CL−2キメラ抗体は、補体依存性細胞障害活性(CDC活性)を有することが分かった。
【0107】
実施例15:抗CL−2キメラ抗体のFcγ受容体活性化能の評価
以下の方法により、抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)の指標の一つであるFcγ受容体活性化能を評価した。なお、本実施例では、Fcγ受容体の活性化をルシフェラーゼの発現によりモニターできる細胞系を用いた(Tada et al., PLoS One, 9, e95787, 2014)。
【0108】
hCL-2/HT1080細胞(1×10
4cells/well)を96ウェルプレートにそれぞれ播種し、37℃、5% CO
2の環境下で1日培養した後、上清を除去し、Opti−MEM1Reduced Serum Mediaで懸濁したJurkat/FcγRIIIa/NFAT−Luc及びJurkat/FcγRIIa/NFAT−Lucをそれぞれ1×10
5cells/well/90μL播種した後、抗CL−2抗体1A2、抗CL−2キメラ抗体1A2、ラットIgG抗体、ヒトIgG抗体をそれぞれ10μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で5時間共培養した。培養後、ONE−Glo Luciferase Assay System(Promega)でルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性の測定結果を
図16に示す。なお、
図16中、AはJurkat/FcγRIIIa/NFAT−Lucを用いた場合のルシフェラーゼ活性の測定結果を、BはJurkat/FcγRIIa/NFAT−Lucを用いた場合のルシフェラーゼ活性の測定結果をそれぞれ示している。
【0109】
さらに、上記と同様にして、mCL-2/L細胞(1×10
4cells/well)を96ウェルプレートにそれぞれ播種し、37℃、5% CO
2の環境下で1日培養した後、上清を除去し、Opti−MEM1Reduced Serum Mediaで懸濁したJurkat/FcγRIIIa/NFAT−Luc及びJurkat/FcγRIIa/NFAT−Lucをそれぞれ1×10
5cells/well/90μL播種した後、抗CL−2抗体1A2、抗CL−2キメラ抗体1A2、ラットIgG抗体、ヒトIgG抗体をそれぞれ10μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で5時間共培養した。培養後、ONE−Glo Luciferase Assay System(Promega)でルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性の測定結果を
図17に示す。なお、
図17中、AはJurkat/FcγRIIIa/NFAT−Lucを用いた場合のルシフェラーゼ活性の測定結果を、BはJurkat/FcγRIIa/NFAT−Lucを用いた場合のルシフェラーゼ活性の測定結果をそれぞれ示している。
【0110】
図16及び17から明らかなように、hCL-2/HT1080細胞の存在下、又はmCL-2/L細胞の存在下において、抗CL−2抗体1A2及び抗CL−2キメラ抗体1A2はいずれも濃度依存的にFcγIIIa受容体及びFcγIIa受容体を活性化していることが確認された。当該結果から、抗CL−2抗体1A2及び抗CL−2キメラ抗体1A2は、共に、hCL-2発現細胞存在下において、Fcγ受容体を発現するNK細胞、好中球、マクロファージ等の活性化能を有していることが分かった。
【0111】
実施例16:抗CL−2キメラ抗体のADCC活性の評価
末梢血単核細胞球(PBMC)(Precision Bioservices)を37℃で溶かし、PBMC 1vial(≧10×10
6cells)をRPMI1640で洗浄後、RPMI1640に懸濁した。RPMI1640で懸濁したhCL-2/HT1080細胞を1×10
4cells/well/90μL、及びPBMCを2×10
5cells/well/90μL、96ウェルプレートに播種し、抗CL−2キメラ抗体1A2をそれぞれ終濃度が0(抗体非添加)、01、0.1及び1μg/mLとなるように調製した培地もしくは抗体溶液を20μL添加し、37℃、5% CO
2の環境下で4時間培養した。4時間経過後、WST−8試薬(Nacalai tesque)を10μL添加し、37℃で1時間培養した後、450nmの吸光度を測定し、抗体非添加群の吸光度を基準として各抗体濃度における吸光度の相対値を求め、細胞生存率を算出した。結果を
図18に示す。
【0112】
図18から明らかなように、抗CL−2キメラ抗体添加群では、抗体非添加群に対して濃度依存的に生存率が低下していることが確認された。当該結果から、抗CL−2キメラ抗体は、抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)を有することが分かった。
【0113】
実施例17:抗CL−2抗体の腫瘍集積性の評価
XenoLight CF蛍光標識キット(Caliper)のプロトコールに準じて、抗CL−2抗体1A2及びラットIgG抗体の定常領域のリジン残基をCF750(蛍光物質)で化学修飾した蛍光ラベル抗体を作製した。具体的には、1mgの各抗体と0.05μmolのCF750と混合し、室温で1時間反応させた。フィルターつき遠心チューブでサンプルを回収し、PBS(pH7.4)で三回洗浄した後、1mlのPBSに溶解し、0.22μmのフィルターで濾過した後、吸光度法によりタンパク質濃度を測定した。以下において、当該操作により作製した蛍光ラベル抗体を「CF750標識抗CL−2抗体1A2」及び「CF750標識ラットIgG抗体」と記載する。
【0114】
BALB/c Slc−nu/nuマウス(雌性、7週齢)にhCL-2/HT1080細胞(1.0×10
7cells/mouse)を皮下投与した。4週間経過後、腫瘍が十分大きくなってから、上記で作製したCF750標識抗CL−2抗体1A2及びCF750標識ラットIgG抗体(各20μg/mouse)をそれぞれ静脈内投与し、投与から6時間、24時間、及び72時間経過後、マウスの全体像をイメージング装置(Maestro EX)にて蛍光強度を撮影した。その後、心臓、肺、肝臓、腎臓、腸、及び腫瘍を単離し、上記したイメージング装置にて蛍光強度を測定し、ソフトウェア(Maestro 2.10.0)にて解析した。なお、各臓器の蛍光強度は%ID/g(%Injected dose/g)で求めた。その結果を
図19に示す。
【0115】
図19から明らかなように、抗CL−2抗体1A2は投与6時間後には腫瘍組織に集積していることが分かった。当該結果から、抗CL−2抗体は、in vivoにおいてCL−2発現細胞をターゲティングする能力を有することが分かった。
【0116】
実施例18:抗CL−2抗体の抗腫瘍効果の評価
BALB/c Slc−nu/nuマウス(雌性、7週齢)にhCL-2/HT1080細胞(1.0×10
7cells/mouse)を皮下投与した。移植日から4週間、週2回、contol rat IgG(R&D Systems)(1 mg/kg body weight)、及び抗CL−2抗体1A2(1mg/kg body weight)をそれぞれ腹腔内投与した。毎投与前に、マウスの体重及び腫瘍サイズの測定を行った。なお、腫瘍サイズは下記式[1]に基づいて算出した。
Tumor volume(mm
3)=length×width
2/2 [1]
【0117】
移植日から4週間経過後までのマウスの体重変化及び腫瘍サイズの変化を
図20に示す。
【0118】
図20のAから明らかなように、抗CL−2抗体投与群では、ラットIgG抗体投与群に対して有意な腫瘍増殖抑制効果が確認された。さらに、
図20のBから明らかなように、抗CL−2抗体投与群では、体重減少の副作用は確認されなかった。
【0119】
実施例19:抗CL−2抗体の炎症性腸疾患に対する治療効果の評価
Claudin-2は無機イオンなどの受動輸送を促進する、すなわち漏れを促進するclaudinとして知られている。このような特性を持つclaudin-2は炎症性腸疾患において発現が上昇し、それに伴い腸管バリアが破綻することが知られている。また、炎症性サイトカインであるTNF-αを抑制することでclaudin-2の発現抑制に伴い、腸管バリアが維持されることからも、claudin-2を抑制することで腸管バリアを維持することが炎症性腸疾患の治療戦略の一つになると考えられる。そこで、claudin-2抗体1A2による炎症性腸疾患に対する治療効果をCD4
+ CD45RB
high T細胞移入モデルを用いて検証した。
【0120】
(1)脾臓CD4
+ CD45RB
high T細胞の精製
8週齢、♀、BALB/cマウス (SLC)から脾臓を摘出し、赤血球溶血バッファーを用いることで脾臓細胞から赤血球を除去した。2% NCS-PBSを加え、400 g, 5分間遠心後、Purified anti-mouse CD16/32抗体 (BioLegend: clone 93)を室温で15分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g, 5分間遠心後、Rat anti-mouse CD4-APC (BioLegend: clone RM4-5)およびRat anti-mouse CD45RB-FITC (BD Bioscience: clone 16A)を氷上で30分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g, 5分間遠心後、7-AAD Viability Staining Solution (BioLegend)を氷上で10分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g、5分間遠心後、FACSAriaII(BD Bioscience)を用いて、CD4
+ CD45RB
high T細胞を採取した。
【0121】
(2)T細胞移入腸炎モデルの作製
採取したCD4
+ CD45RB
high T細胞を8週齢、♀、SCIDマウス (SLC)に4.0×10
5 cells/mouse腹腔内投与することにより移植した。移植マウスにcontrol IgGもしくはclaudin-2抗体1A2 (300 μg/time)を週3回、計24回、腹腔内投与した。各マウスの体重は週1回測定した。
【0122】
(3)大腸マクロファージ、好中球の測定
CD4
+ CD45RB
high T細胞移入8週後のSCIDマウスの大腸を摘出し、腸内内容物をRPMIで洗浄した。大腸を1% EDTA-2% NCS-RPMIに入れ、37℃, 15分間撹拌した。その後、1 mg/mlコラゲナーゼ-2% NCS-RPMIに大腸を入れ、細かく切り刻んだのちに37℃, 20分間撹拌した。上清を回収後、再度同じ操作を行った。回収した上清を820 g, 20分間遠心した。ペレットを4 mlの40%パーコールで懸濁し、4 mlの75%パーコールに重層し、820 g, 20分間遠心した。中間層に集積した細胞を回収し、Purified anti-mouse CD16/32抗体 (BioLegend: clone 93)を室温で15分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g、5分間遠心後、Rat anti-mouse CD11b-APC-Cy7 (BioLegend: clone M1/70)、Rat anti-mouse Ly6G-FITC (BioLegend: clone 1A8)、Rat anti-mouse F4/80-Pacific Blue (BioLegend: clone BM8)を氷上で30分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g, 5分間遠心後、7-AAD Viability Staining Solution (BioLegend)を氷上で10分間作用させた。2% NCS-PBSを加え、400 g, 5分間遠心後、FACSAriaII(BD Bioscience)を用いて、マクロファージおよび好中球を測定した。
【0123】
(4)大腸組織の蛍光免疫染色
CD4
+ CD45RB
high T細胞移入8週後のSCIDマウスの大腸を摘出し、腸内内容物をRPMIで洗浄した。大腸をOptimal Cutting Temperature compound (sakura-finetek)に包埋し、液体窒素で凍結させた。その後、クリオスタットを用いて6 μmの切片を作製した。切片を99.5%エタノールで30分間、100%アセトンで1分間作用させることで固定した。PBSで5分間×2回洗浄後、 2% NCS-PBSを添加し、室温で30分間反応させた。PBSで5分間×2回洗浄後、Rabbit anti-claudin-2 (abcam)を添加し、4℃で一晩反応させた。PBSで5分間×2回洗浄後、Rat anti-mouse CD11b-APC (BioLegend: clone M1/70)、Rat anti-mouse Ly6G-FITC (BioLegend: clone 1A8)、anti-rabbit Cy3を添加し、室温で30分間作用させた。PBSで5分間×2回洗浄後、Fluoro-KEEPER Antifade Reagent (nacalai tesque)を1滴滴下し、封入した。
【0124】
(5)大腸組織のHematoxylin-Eosin (HE)染色
CD4
+ CD45RB
high T細胞移入8週後のSCIDマウスの大腸を摘出し、腸内内容物をRPMIで洗浄した。大腸をOptimal Cutting Temperature compound (sakura-finetek)に包埋し、液体窒素で凍結させた。その後、クリオスタットを用いて6 μmの切片を作製した。切片を99.5%エタノールで30分間、100%アセトンで1分間作用させることで固定した。流水で10分間洗浄後、ヘマトキシリンを室温で10分間作用させた。流水で30分間洗浄後、エオシンを室温で1分間作用させた。その後、70%,80%,90% エタノールにそれぞれ10、15、20秒ずつ浸し、99.5% エタノールに1分間×2回浸した。その後、キシレンに1分間×3回浸した。Permount Fisher (Fisher Scientific)を1滴滴下し、封入した。
【0125】
(6)結果
claudin-2抗体1A2投与群ではcontrol IgG投与群に比べて体重減少や炎症性腸疾患の増悪に関わるマクロファージ・好中球の抑制傾向が認められた (control IgG投与群内1匹は5週目時点で死亡) (
図21A-C)。同様に、組織学的な解析からもclaudin-2抗体1A2投与群では好中球の粘膜固有層への浸潤抑制が認められた (
図21D)。さらに、claudin-2抗体1A2投与によりclaudin-2発現の抑制も認められた (
図21D)。これらの結果及び上述の他の実施例の結果を踏まえれば、claudin-2抗体1A2によりclaudin-2のタイトジャンクション形成が阻害され、腸管バリアの破綻を抑制し、炎症性腸疾患に対する治療効果が認められたものと考えられる。