(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記屈折率異方性を有する層は、上記3次元空間伝播光が上記反射鏡で反射されて上記屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率が、上記屈折率異方性を有する層を透過して上記面状光導波路内に入射し、上記面状光導波路の上記主面で全反射された後に上記屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率より大きい請求項7記載の光導波装置。
上記3次元空間伝播光が上記反射鏡で反射されて上記屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率は上記面状光導波路の屈折率と同等である請求項9記載の光導波装置。
上記屈折率異方性を有する層上にさらに光波進行方向変換層が設けられ、上記放物線の軸は、上記光波進行方向変換層による進行方向変換後の方向に平行である請求項12記載の光導波装置。
上記屈折率異方性を有する層上に上記反射鏡が上記屈折率異方性を有する層に平行な一方向に周期的に複数設けられて反射鏡アレイが形成されている請求項7記載の光導波装置。
上記半導体層はp型半導体層とn型半導体層とからなるpn接合であり、そのpn接合面は上記面状光導波路の上記主面に平行または垂直である請求項19記載の光電変換装置。
上記半導体層のバンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが光の進行方向に順に段階的および/または連続的に減少するように構成されている請求項19記載の光電変換装置。
上記半導体層はバンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが光の進行方向に順に段階的に減少した複数の領域からなり、上記第1の電極および上記第2の電極のうちの少なくとも一方は各領域間で互いに分離して設けられている請求項20記載の光電変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で提案された回折格子は、回折効率の波長依存性が大きいため、例えば黒体輻射の光スペクトルのように広範な波長帯の光に遍く対応して進行方向のリディレクションを行うことは容易ではなく、従って光伝播特性が向上せず、ひいては光電変換装置の光電変換効率の向上を十分に図ることができないという問題があった。
【0007】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、広範な波長帯の光に遍く対応して進行方向のリディレクションを容易に行うことができることにより、広範な波長帯の3次元空間伝播光を効率良く2次元空間伝播光に変換することができる光導波装置、この光導波装置により得られる2次元空間伝播光を光電変換用の半導体層に入射させることにより極めて高い光電変換効率を得ることができる光電変換装置ならびにこの光電変換装置を用いた建築物および電子機器を提供することである。
【0008】
また、この発明が解決しようとする他の課題は、集光型太陽発電において、集光した光の導入による副産物としての温度上昇により、本来集光無しの場合よりも高まる光電変換効率が相殺されてしまうのを防止することができる光電変換装置を提供することである。
【0009】
また、この発明が解決しようとするさらに他の課題は、レンズなどを用いる集光型太陽発電において、太陽の直射光が欠けた場合、つまり拡散光がメインとなった場合に光電変換効率が低下する問題があったが、これを解決することができる光電変換装置を提供することである。
【0010】
また、この発明が解決しようとするさらに他の課題は、入射光に対する不感領域をなくすことができ、ステブラー・ロンスキー効果や紫外成分による有機半導体の劣化を抑えることができ、極めて高い光電変換効率を得ることができ、大面積化も極めて容易な、太陽電池などとして用いて好適な光電変換装置を提供することである。
【0011】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、半導体発光素子などの光源から出射される広範な波長帯の光に遍く対応して進行方向のリディレクションを容易に行うことができることにより、広範な波長帯の2次元空間伝播光を効率良く3次元空間伝播光に変換することができる光導波装置およびこの光導波装置により得られる3次元空間伝播光を利用した発光装置を提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、住宅などがビルなどの建築物の影になることによる日照権問題を緩和することができる光導波装置を提供することである。
【0013】
上記課題および他の課題は、本明細書の以下の記述によって明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明は、
面状光導波路を有し、
上記面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を上記面状光導波路に入射する前に立体角π以下に絞り込んでから上記面状光導波路に入射させ、当該絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、上記面状光導波路に入射した光が、上記面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播する光導波装置である。
【0015】
ここで、面状光導波路の主面とは、外部から光が入射し、かつ後述の屈折率異方性を有する層および反射鏡が設けられる面を意味するものとし、この面状光導波路の主面と反対側の面は裏面と言うものとする。
【0016】
この光導波装置においては、立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を立体角π以下に絞り込んでから面状光導波路に入射させ、絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、面状光導波路に入射した光が、面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播するように構成されている。例えば、3次元空間伝播する太陽光の入射に関し、その立体角を2πの範囲からπ以下に絞り込むことにより、空間を二つに分けることが可能で、進行方向“手前”から“向こう”へ、或いは進行方向が“向かって左”から“同右”へといった方向付けを一意的に行うことができる。これにより空間反転対称性を設計の対象としたり、左右の非対称性を明確に設定ならびに定義できる。この概念を
図1A、
図1Bおよび
図1Cを用いて説明する。即ち、
図1Aに示すように、面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から3次元空間伝播光が入射する。
図1A中、面状光導波路の主面上の光入射領域を例示的に破線で囲んで示したが、受光自体は面状光導波路全体で行うことは言うまでも無い。なお、立体角2πとは3次元空間伝播光が太陽光である場合の曇天時の拡散光なども想定している。
図1Bに示すように、面状光導波路そのものだけでは、入射角の分布になんら縛りが無いために、面状光導波路の主面に入射した3次元空間伝播光の多くはこの面状光導波路を透過して面状光導波路の裏面から出てしまい(
図1Bの破線矢印)、面状光導波路の内部を導波される光は僅かである。しかし、面状光導波路の主面に入射する3次元空間伝播光を、例えば後述の、有効な対称性を持って配置された反射鏡などの光制御構造体に入射させることなどにより立体角π以下に絞り込むことができる。
図1Cに示すように、こうして立体角π以下に絞り込まれた3次元空間伝播光は、さらに、後述する対称性を以って配置された例えば反射鏡の作用などにより、面状光導波路の主面に対して垂直な平面内の角度としてΔ=θ
max −θ
min (ただし、θ
min は最小入射角、θ
max は最大入射角)の範囲内の光に変換されて面状光導波路の主面に入射する。
図1Cは、上述の対称性の方向での一地点(併進対称性の場合は或る位置y、回転対称性の場合は或る位相角φ)における断面図である。適切な構造設定により、Δ<π/4とすることができる。入射角がΔの範囲内の入射光が面状光導波路の内部に入るようにすることは容易であるから、結局、面状光導波路の内部を2次元導波光が導波、即ち2次元空間伝播光が伝播するようにすることができる。
図1Cにおいては、3次元空間伝播光の立体角π以下への絞絞り込みが行われる方向は左側であり、その反対の方向、即ち右側に向けて、面状光導波路内を2次元空間伝播光が伝播する。
【0017】
この光導波装置においては、上述のように、立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を立体角π以下に絞り込んでから面状光導波路に入射させ、絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、面状光導波路に入射した光が、面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播するように構成されていることにより、空間反転対称性を破り、左右が非対称となる。即ち、面状光導波路自体は至るところ同じ厚さで空間反転対称性を持つものの、全体として、非対称導波路構造となることが特徴である。この光導波装置においては、好適には、光を制御する光制御構造体により3次元空間伝播光を立体角π以下に絞り込んでから面状光導波路に入射させるように構成される。この場合、光制御構造体は面状光導波路の主面上に幾何学的対称性を以て配置される。この幾何学的対称性は、例えば、面状光導波路の内部を光が進行する方向に垂直な方向への並進対称性(面状光導波路は無限の広がりは有しないので近似的なものであるが、その本質において並進対称であるという意味)であり、この並進対称性により、2自由度の立体角から1自由度の入射角に縮減されて上記の絞り込みが行われる。あるいは、この幾何学的対称性は、面状光導波路の主面で定義される回転対称性(ここでも、面状光導波路は無限の広がりは有しないので近似的なものであるが、0〜π/2程度の方位角に対し回転対称であるという意味)であり、この回転対称性により、2自由度の立体角から1自由度の入射角に縮減されて上記の絞り込みが行われる。光制御構造体は、例えば光波進行方向変換層を含み、立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光は最初にこの光波進行方向変換層に入射するように構成される。この場合、この光波進行方向変換層による進行方向変換後は、面状光導波路の主面に対してほぼ垂直に光が入射する。ただし、光制御構造体の最表面に、傷や埃がついたりするのを防止するための保護層を有する場合には、この保護層も光波進行方向変換層に含まれるとする。
【0018】
この光導波装置は、典型的な一つの例では、
上記面状光導波路と、
上記面状光導波路の上記主面上の、透明な屈折率異方性を有する層と、
上記屈折率異方性を有する層上の少なくとも一つの反射鏡とを有し、
上記反射鏡は、外部から入射する3次元空間伝播光を反射して上記屈折率異方性を有する層に入射させるように構成され、
上記屈折率異方性を有する層は、上記3次元空間伝播光が上記反射鏡で反射されて、上記屈折率異方性を有する層を斜めに横断して上記面状光導波路の上記主面を経て上記面状光導波路の内部に入ることは許容するが、上記面状光導波路の内部に入った光が、上記面状光導波路を斜めに横断して上記面状光導波路の裏面で全反射されて戻ってきた後に上記屈折率異方性を有する層に再び入射する際は全反射されるような屈折率異方性を有する。
【0019】
あるいは、この光導波装置は、好適な一つの例では、
透明な屈折率異方性を有する第1の層と、
上記第1の層上の第1の面状光導波路と、
上記第1の面状光導波路上の、透明な屈折率異方性を有する第2の層と、
上記第2の層上の透明な偏光方向変換層と、
上記偏光方向変換層上の、透明な屈折率異方性を有する第3の層と、
上記第3の層上の第2の面状光導波路と、
上記第1の層の上記第1の面状光導波路と反対側の主面上の少なくとも一つの反射鏡とを有し、
上記反射鏡は、外部から入射する3次元空間伝播光を反射して上記第1の層に入射させるように構成され、
上記第1の層は、上記3次元空間伝播光が上記反射鏡で反射されて、上記第1の層を斜めに横断して上記第1の面状光導波路の主面を経て上記第1の面状光導波路の内部に入ることは許容するが、上記第1の面状光導波路の内部に入った光が、上記第1の面状光導波路を斜めに横断して上記第1の面状光導波路の裏面で全反射されて戻ってきた後に上記第1の層に再び入射する際は全反射されるような屈折率異方性を有し、
上記第2の層は、上記第1の面状光導波路の内部に入った光が上記第2の層を斜めに横断して上記第1の面状光導波路の裏面を経て上記偏光方向変換層の内部に入ることが許容されるような屈折率異方性を有し、
上記第3の層は、上記偏光方向変換層の内部に入った光が上記第3の層を斜めに横断して上記第2の面状光導波路の主面を経て上記第2の面状光導波路の内部に入ることは許容するが、上記第2の面状光導波路の内部に入った光が、上記第2の面状光導波路を斜めに横断して上記第2の面状光導波路の裏面で全反射されて戻ってきた後に上記第3の層に再び入射する際は全反射されるような屈折率異方性を有する。
【0020】
ここで、偏光方向変換層は、この偏光方向変換層の一方の主面から入射して他方の主面から出射される光の偏光面を90°回転させるものである。そして、この光導波装置においては、外部から入射して反射鏡により反射された3次元空間伝播光は第1の層を透過して第1の面状光導波路の内部に入り、第1の面状光導波路と第2の層との界面に入射した光のうち、光の電場の振動方向が入射面に平行な成分(面内偏光、p偏光)だけが反射されてこの第1の面状光導波路の内部を導波される。一方、第1の面状光導波路と第2の層との界面に入射した光のうち、光の電場の振動方向が入射面に垂直な成分(面直偏光、s偏光)は第2の層を透過して偏光方向変換層に入射し、この偏光方向変換層により偏光面が90°回転され、面内偏光に変換される。この面内偏光は第3の層を透過して第2の面状光導波路の内部に入り、この第2の面状光導波路と外界との界面で反射されてこの第2の面状光導波路の内部を導波される。以上の結果、光導波装置への入射光の全てが第1の面状光導波路および第2の面状光導波路の内部を導波される。
【0021】
面状光導波路は、平面状光導波路であっても、曲面状光導波路であってもよい。また、面状光導波路の平面形状は必要に応じて選ばれるが、典型的には、四角形、例えば長方形または正方形の形状を有する。この場合、必要に応じて、面状光導波路の光出射端面を除いた端面、例えば、面状光導波路が四角形の形状を有し、その互いに対向する一対の辺のうちの少なくとも一方の辺に相当する面状光導波路の端面の全部または一部が光出射端面となる場合にはこの四角形の上記の互いに対向する一対の辺と異なる一対の辺のうちの少なくとも一方の辺に相当する面状光導波路の端部に光反射機構が設けられる。この場合、面状光導波路の主面に入射した光が面状光導波路内を導波される際にこの光反射機構に入射すると反射され、光出射端面に向かう方向に光路が曲げられることにより、光出射端面から取り出すことができる光の量が多くなる。この光反射機構は、例えば、面状光導波路の端面に設けられた光反射膜や面状光導波路の端面が鏡面に構成されたものである。
【0022】
屈折率異方性を有する層は、好適には、3次元空間伝播光が反射鏡で反射されてこの屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率(n
1 )が、この屈折率異方性を有する層を透過して面状光導波路内に入射し、面状光導波路の裏面で全反射された後にこの屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率(n
2 )より大きい。最も好適には、3次元空間伝播光が反射鏡で反射されて屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率は面状光導波路の屈折率とほぼ同等に選ばれる。屈折率異方性を有する層を透過して面状光導波路内に入射し、面状光導波路の裏面で全反射された後に屈折率異方性を有する層に入射する光に対する実効屈折率(n
2 )は、面状光導波路の屈折率より小さく選ばれる。屈折率異方性を有する層は、典型的には、その断面内の互いに異なる第1の方向および第2の方向の屈折率が互いに異なる。第1の方向および第2の方向は例えば互いに直交する方向である。屈折率異方性を有する層を構成する媒質は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、液晶、樹脂、無機物質、有機無機複合物質などが用いられる。液晶の具体例を挙げると、Δn=n
1 −n
2 として、アゾトラン部位を有するアゾベンゼン液晶高分子、PM6ATCN、側鎖末端にシアノ基を有するPM6ATCN(非特許文献1参照。)でΔn=0.46である。アゾトラン部位を有するアゾベンゼン液晶高分子、5環アゾトラン系 光照射後0.65、トラン基を有する光架橋性液晶高分子(非特許文献2参照。)ではΔn=0.76、0.65、0.35、0.27を取りうる。樹脂の具体例を挙げると、
・含フッ素ポリイミド(非特許文献3参照。)。BPDA/PDA Δn=0.51、PMDA/TFDB Δn=0.33、PMDA/ODA Δn=0.33
である。屈折率異方性を有する層を構成する媒質としては、例えば、互いに異なる方向の屈折率が異なる有機分子が同一方向を向いて平面内に配列した配向膜や、有機・無機誘電体、無機半導体などからなるナノ構造体、特に棒状・針状微結晶或いは円盤状微結晶を或る一定方向に向けて平面内に配列した配向膜などを用いることもできる。この場合も、当該構造体の配向方向は、入射光に対し誘電率が大きく、面状光導波路の裏面で反射してくる光に対しては、誘電率が小さくなるように設定して層に屈折率異方性を付与する。無機の棒状・針状微結晶は、例えばII−VI族化合物半導体などにより実現することができる。
【0023】
反射膜は少なくとも一つ設けられるが、典型的には、複数の反射鏡が設けられる。反射鏡の断面形状および配置は、外部から入射する3次元空間伝播光が、面状光導波路を直射することなく(即ち、まず必ず反射鏡に入射して反射されてから)、かつ、一つの反射鏡で反射された光が隣の反射鏡に入射して散乱されることのないように設定される。反射鏡の断面形状は、好適には、3次元空間伝播光が入射する側から屈折率異方性を有する層の側に向かって凸の放物線状の形状を有する。このように反射鏡の断面が放物線状の形状を有することにより、放物線の2回対称の軸に平行な方向から当該反射鏡に入射する光は放物線の焦点に向かって反射されるようにすることができ、それによって屈折率異方性を有する層に入射する光の入射角度を一定範囲内に絞り込むことができる(
図1Cの状況の実現)。光導波装置に入射する3次元空間伝播光の方向が、晴天時のある時刻の太陽光のように一定であり、この3次元空間伝播光が光導波装置に垂直方向から入射する場合、好適には、放物線の軸は屈折率異方性を有する層にほぼ垂直に選ばれる。あるいは、屈折率異方性を有する層上にさらに光波進行方向変換層が設けられる場合には、放物線の軸は、好適には、この光波進行方向変換層による進行方向変換後の方向に平行に選ばれる。光波進行方向変換層としては、例えば、光波進行方向変換シート(一例を後述の
図20および
図21に示す)が用いられる。反射鏡と面状光導波路との幾何学的交点は、好適には、直線状または円弧状の形状を有する。複数の反射鏡が設けられる場合、これらの反射鏡と面状光導波路との幾何学的交点は、複数の直線状または同心円弧状の形状を有する。前者では、屈折率異方性を有する層上に反射鏡が屈折率異方性を有する層に平行な一方向に周期的に複数設けられて反射鏡アレイが形成される。反射鏡の材料は、この光導波装置で対象とする波長帯の光に対して高い反射率を得ることができる材料であれば、基本的にはどのようなものであってもよいが、好適には、例えば、銀(Ag)、銀合金(Ag−Pdなど)、アルミニウム(Al)などの金属が用いられる。典型的には、屈折率異方性を有する層上に反射鏡と透明層とが面状光導波路の主面に沿って交互に複数設けられるが、これに限定されるものではない。透明層は、好適には、面状光導波路を構成する透明物質とほぼ等しい屈折率を有する透明物質(透明ガラスや透明樹脂など)からなる。
【0024】
この光導波装置においては、面状光導波路の内部を導波される2次元空間伝播光の外部への漏れを極力少なくするために、面状光導波路の裏面が面する空間は面状光導波路より屈折率が小さい媒質、最も好適にはこの裏面で全反射の条件が成立するような屈折率の媒質からなる。この媒質は、面状光導波路より屈折率が必要量小さい限り、基本的にはどのようなものであってもよく、各種の透明な固体または液体のほか、空気であってもよい。
【0025】
また、この発明は、
面状光導波路と、
上記面状光導波路の端部に設けられた光電変換用の半導体層とを有し、
上記面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を上記面状光導波路に入射する前に立体角π以下に絞り込んでから上記面状光導波路に入射させ、当該絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、上記面状光導波路に入射した光が、上記面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播して上記半導体層に入射する光電変換装置である。
【0026】
この光電変換装置においては、面状光導波路、屈折率異方性を有する層および反射鏡が上記の光導波装置と同様な構成の光導波装置部を構成する。即ち、この光電変換装置は、光導波装置部と面状光導波路の端部に設けられた光電変換用の半導体層からなる光電変換部とを有する。この半導体層がpn接合を有する場合、そのpn接合面は、面状光導波路の主面に垂直または平行である。pn接合面が面状光導波路の主面に垂直の場合は、p型半導体層およびn型半導体層にそれぞれアノード電極およびカソード電極(第1の電極および第2の電極)が設けられる。pn接合面が面状光導波路の主面に平行な場合は、半導体層の上下の互いに対向する一対の面にそれぞれ第1の電極および第2の電極が設けられる。これらの第1の電極および第2の電極の一方はアノード電極、他方はカソード電極として用いられる。pn接合面が面状光導波路の主面に平行な場合は、典型的には、面状光導波路の内部を導波される光の正味の進行方向と、面状光導波路の端面から半導体層に入射した光により半導体層中に生成されるキャリアの正味の移動方向とのなす角度Θがほぼ直角である。Θは、具体的には、例えば、π/2−δ≦Θ≦π/2+δに選ばれる。ただし、δは、第1の電極および第2の電極のうちのアノード電極として用いられるものの、半導体層内の光の進行方向に平行な方向の幅(電極幅)に対する半導体層の厚さの比に対応し、δ〜半導体層の厚さ/電極幅である。典型的には、面状光導波路と半導体層とは互いに一体に設けられ、例えば、それらの端部同士が接合されて一体化される。
【0027】
好適には、光電変換装置に光が入射する際に半導体層に光が直接入射しないように構成される。言い換えると、光電変換装置に光が入射する場合、光導波装置部には光が入射するが、半導体層の面には光が直接入射しない。こうすることで、半導体層に直接入射する光により半導体層が加熱されて温度が上昇するのを防止することができるので、半導体層の特性劣化を防止することができ、ひいては、熱として散逸するエネルギーも少ないことと相俟って、この光電変換装置の光電変換効率の低下を防止することができ、高い光電変換効率を得ることができる。
【0028】
面状光導波路の厚さは半導体層の厚さに比べて大きくても小さくても同じでもよいが、半導体層の厚さに比べて大きい場合は、面状光導波路の内部を導波される光の有効利用を図るため、必要に応じて、面状光導波路の内部を導波される光を集光して半導体層に入射させるようにしてもよい。このためには、例えば、面状光導波路が、面状光導波路の内部を導波される光が面状光導波路のうちの半導体層と接触する部分(半導体層と同じ厚さを有する)に、例えば漸近的に集光される屈折率分布を有するようにする。即ち、面状光導波路の内部を導波される光は、この面状光導波路の屈折率分布に従って導波されるため、導波されながら漸近的に半導体層と接触する部分に集光される。
【0029】
半導体層は、無機半導体または有機半導体からなり、典型的には、p型半導体層とn型半導体層とからなるpn接合であり、そのpn接合面は、上述の通り面状光導波路の主面に平行または垂直である。半導体層の厚さは、この半導体層内のキャリアの拡散長の関数を勘案して適宜選ばれるが、pn接合面が面状光導波路の主面に平行な場合、好適には100nm以上100μm以下、pn接合面が面状光導波路の主面に垂直な場合、好適には1μm以上500μm以下である。半導体層を構成する半導体は、アモルファス(非晶質)、多結晶、単結晶のいずれの形態のものであってもよい。
【0030】
無機半導体としては、CdSe、PbS、PbSe、PbTeなどのII−VI族化合物半導体、GaSb、InAs、InN、AlInN、GaInN、GaN、AlGaN、GaAsN、GaPNなどのIII−V族化合物半導体、SiやSiGeなどのIV族半導体、Si
x Ge
y Sn
1-x-y O、SiN
x 、SiO
x 、CIS(CuInSe)、CIGS(CuInGaSe)、CuInGaSeTeなどを用いることができる(例えば、非特許文献4〜9参照。)。これらの半導体は、例えば、In、GaなどのIII族元素の組成比の制御や硫黄(S)の混合などによってバンドギャップを制御することができるのが特徴である。半導体層は、これらの無機半導体からなる微粒子により構成することもできる。
【0031】
有機半導体としては、有機太陽電池の材料として一般的に報告されているものは全て用いることができるが、具体的には、ペンタセンなどのポリアセン、ポリアセチレン(好ましくは二置換型ポリアセチレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリピロール、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−ビチオフェン)(F8T2)、ポリ(1−ヘキシル−2−フェニルアセチレン)(PH
X PA)(発光材料としては青色の発光を示す)、ポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体(PDPA−nBu)(発光材料としては緑色の発光を示す)、ポリ(ピリジン)(PPy)、ポリ(ピリジルビニレン)(PPyV)、シアノ置換型ポリ(p−フェニレンビニレン)(CNPPV)、ポリ(3,9−ジ−tert−ブチルインデノ[1,2−b]フルオレン(PIF)などを用いることができる。これらの有機半導体のドーパントについては、ドナーとしてはアルカリ金属(Li、Na、K、Cs)を用いることができ、アクセプタとしてはハロゲン類(Br
2 、I
2 、CI
2 )、ルイス酸(BF
3 、PF
5 、AsF
5 、SbF
5 、SO
3 )、遷移金属ハロゲン化物(FeCl
3 、MoCl
5 、WCl
5 、SnCl
4 )、有機アクセプタ分子としてはTCNE、TCNQを用いることができる。また、電気化学ドーピングに用いられるドーパントイオンは、陽イオンとしてはテトラエチルアンモニウムイオン(TEA
+ )、テトラブチルアンモニウムイオン(TBA
+ )、Li
+ 、Na
+ 、K
+ 、陰イオンとしてはClO
4 - 、BF
4 - 、PF
6 - 、AsF
6 - 、SbF
6 - などを用いることができる。有機半導体としてはさらに、高分子電解質を用いることもできる。この高分子電解質の具体例を挙げると、ポリアニオンとしては、サルフォネートポリアニリン、ポリ(チオフェン−3−酢酸)、サルフォネートポリスチレン、ポリ(3−チオフェンアルカンサルフォネート)など、ポリカチオンとしては、ポリアリルアミン、ポリ(p−フェニレン−ビニレン)前駆体高分子、ポリ(p−メチルピリジニウムビニレン)、プロトン化ポリ(p−ピリジルビニレン)、ポロトン(2−N−メチルピリジニウムアセチレン)などを用いることができる。半導体層として低不純物濃度にドープされた有機半導体層を用いる場合、この有機半導体層はヘテロジャンクション型あるいはバルクヘテロジャンクション型の構造とすることができる。ヘテロジャンクション型構造の有機半導体層においては、p型有機半導体膜およびn型有機半導体膜を第1の電極および第2の電極と接触するように接合する。バルクヘテロジャンクション型構造の有機半導体層は、p型有機半導体分子とn型有機半導体分子との混合物からなり、p型有機半導体とn型有機半導体とが互いに入り組んで互いに接触した微細構造を有する。
【0032】
半導体層を構成する半導体としては、無機半導体および有機半導体のほかに、有機無機ハイブリッド半導体を用いることもできる。このような有機無機ハイブリッド半導体としては、例えば、ペロブスカイト系半導体(例えば、非特許文献10参照。)を用いることができる。
【0033】
好適には、第1の電極および第2の電極は半導体層とオーミック接触している。半導体層として有機半導体を用いる場合は、第1の電極および第2の電極は半導体層とオーミック接触していなくてもよい。第1の電極および第2の電極としては、金(Au)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などの金属のほか、特にp型SiにはAl、n型SiにはAgを用いることが有効であり、インジウム−スズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)などの各種の透明導電性酸化物などを用いることができ、クロム、チタン、モリブデンなども合わせて用いることができるが、これに限定されるものではない。また、上記の透明導電性酸化物を用いた透明電極は、光電変換層である半導体層の電極として用いられた場合、その低屈折率性、ワイドギャップ性を以て、半導体層への進入光子の高導波特性、生成フォトキャリアの低表面再結合レートへと導き、結果として高光電変換効率を可能とする効果も有する。半導体層自体のバンドギャップを第1の電極および第2の電極に近づくにつれて大きくすることも少数キャリアの表面再結合を抑制するのに有効であり、同時に光の閉じ込めをする上でも効果を有するので2重に有効である。上記透明電極は、面状光導波路の主面に対し垂直方向の半導体層の差し渡しの方向の両端に設ける、上記半導体層の屈折率より低屈折率の領域に相当する。
【0034】
好適には、半導体層のバンドギャップ、あるいは半導体層が有機半導体からなる場合にはHOMO(最高被占分子軌道)−LUMO(最低非占分子軌道)ギャップが光の進行方向に順に段階的および/または連続的に減少するようにする。こうすることで、例えば、光電変換装置の光導波装置部の光入射面に太陽光が入射した場合、この太陽光は、面状光導波路内を導波されて半導体層に入射すると、バンドギャップあるいはHOMO−LUMOギャップが一番大きい半導体にまず入射し、最終的にバンドギャップが一番小さい半導体に入射することになり、この過程で太陽光スペクトルのうちの短い波長の光から長い波長の光に亘って順次吸収され、しかもこの吸収量は最大化される。このため、半導体層のバンドギャップあるいはHOMO−LUMOギャップの変化のさせ方および使用する半導体の種類によって、太陽光スペクトルの主要部あるいは実質的に全部の光を光電変換することができ、究極的には光電変換効率を理論最大効率に近づけることができる。典型的には、半導体層は、バンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが光の進行方向に順に段階的に減少した複数の領域からなり、各領域の互いに対向する一対の面に第1の電極および第2の電極が設けられ、これらの第1の電極および第2の電極のうちの少なくとも一方は各領域間で互いに分離して設けられる。
【0035】
好適には、半導体層はバンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが光の進行方向に順に段階的に減少した複数の領域からなり、各領域の光の進行方向の幅が、各領域のバンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップと等しいエネルギーを有する光の各領域における吸収係数の逆数以上である。
【0036】
半導体層が、バンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが光の進行方向に順に段階的に減少した複数の領域からなる場合、これらの領域の例を挙げると、光の進行方向に順に、Si
x C
1-x (0<x<1)からなる領域、Siからなる領域およびSi
y Ge
1-y (0<y<1)からなる領域、あるいは、Si
x C
1-x からなる領域、Siからなる領域およびマイクロクリスタルSi
y Ge
1-y からなる領域、あるいは、AlGaN、GaNおよびIGZO(In、Ga、Znの酸化物)からなる群より選ばれた少なくとも一つの半導体を含む領域、Si
x C
1-x からなる領域、Siからなる領域およびSi
y Ge
1-y からなる領域、あるいは、Si
x C
1-x からなる領域、Siからなる領域、Si
y Ge
1-y からなる領域およびGeからなる領域である。
【0037】
光電変換装置には、太陽電池のほか、光センサーなども含まれる。必要に応じて、光電変換装置または太陽電池を複数組み合わせてモジュール化あるいはシステム化してもよい。
【0038】
また、この発明は、
少なくとも一つの光電変換装置を有し、
上記光電変換装置が、
面状光導波路と、
上記面状光導波路の端部に設けられた光電変換用の半導体層とを有し、
上記面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を上記面状光導波路に入射する前に立体角π以下に絞り込んでから上記面状光導波路に入射させ、当該絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、上記面状光導波路に入射した光が、上記面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播して上記半導体層に入射する光電変換装置である建築物である。
【0039】
ここで、建築物は、光電変換装置を設置可能な建築物であれば、基本的にはどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、ビルディング、マンション、戸建住宅、アパート、駅舎、校舎、庁舎、競技場、球場、病院、教会、工場、倉庫、小屋、橋などが挙げられる。これらの建築物への光電変換装置の設置箇所は特に限定されず、必要に応じて選ばれる。設置箇所の例を挙げると、これらの建築物のガラス窓や採光部などである。この場合、光電変換装置は、例えば、これらの建築物やその内部に設置される電気製品の電源として用いられる太陽電池である。好適には、面状光導波路の主面に光が入射する際に半導体層に光が直接入射しないように半導体層が建築物の陰の部分に配置される。例えば、面状光導波路が緩やかな曲率を有する部分を含むようにし、この部分を、例えば、瓦の下、屋根の中央部迫り出し稜線の下、窓の枠あるいは桟などに配置する。
【0040】
また、この発明は、
外面に取り付けられた少なくとも一つの光電変換装置を有し、
上記光電変換装置が、
面状光導波路と、
上記面状光導波路の端部に設けられた光電変換用の半導体層とを有し、
上記面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を上記面状光導波路に入射する前に立体角π以下に絞り込んでから上記面状光導波路に入射させ、当該絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、上記面状光導波路に入射した光が、上記面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播して上記半導体層に入射する光電変換装置である電子機器である。
【0041】
電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器、ロボット、パーソナルコンピュータ、車載機器、各種家庭電気製品などである。この場合、光電変換装置は、例えば、これらの電子機器の電源として用いられる太陽電池である。
【0042】
上記の光電変換装置、建築物および電子機器の各発明においては、その性質に反しない限り、上記の光導波装置の発明に関連して説明したことが成立する。
【0043】
また、この発明は、
面状光導波路と、
上記面状光導波路の主面上の、透明な屈折率異方性を有する層と、
上記屈折率異方性を有する層上の少なくとも一つの反射鏡とを有し、
上記反射鏡は、上記面状光導波路に端部から光を入射させることにより上記面状光導波路の内部を導波される2次元空間伝播光が上記屈折率異方性を有する層に入射し、上記屈折率異方性を有する層を透過する光を反射して外部に出射するように構成され、
上記屈折率異方性を有する層は、上記面状光導波路の内部から上記屈折率異方性を有する層に入射する上記2次元空間伝播光の透過を許容する屈折率異方性を有する光導波装置である。
【0044】
この光導波装置における面状光導波路の主面は、上記の光導波装置においては外部から光が入射し、かつ屈折率異方性を有する層および反射鏡が設けられる面を面状光導波路の主面としたのに対し、面状光導波路の内部を伝播する2次元空間伝播光が外部に出るときに通り、かつ屈折率異方性を有する層および反射鏡が設けられる面を意味する。この光導波装置の発明においては、上記以外のことは、その性質に反しない限り、上記の光導波装置の発明に関連して説明したことが成立する。
【0045】
また、この発明は、
面状光導波路と、
上記面状光導波路の主面上の、透明な屈折率異方性を有する層と、
上記屈折率異方性を有する層上の少なくとも一つの反射鏡と、
上記面状光導波路の端部に設けられた光源とを有し、
上記反射鏡は、上記面状光導波路に端部から光を入射させることにより上記面状光導波路の内部を導波される2次元空間伝播光が上記屈折率異方性を有する層に入射し、上記屈折率異方性を有する層を透過する光を反射して外部に出射するように構成され、
上記屈折率異方性を有する層は、上記面状光導波路の内部から上記屈折率異方性を有する層に入射する上記2次元空間伝播光の透過を許容する屈折率異方性を有する発光装置である。
【0046】
この発光装置においては、面状光導波路、屈折率異方性を有する層および反射鏡が上記の光導波装置と同様な構成の光導波装置部を構成する。即ち、この発光装置は、光導波装置部と面状光導波路の端部に設けられた光源とを有する。面状光導波路の端部に設けられる光源は、基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、発光ダイオード、半導体レーザなどの半導体発光素子が用いられる。この発光装置は、面発光が可能であることから、面状光源、照明装置、液晶ディスプレイのバックライトなどとして用いることができる。
【0047】
この発光装置の発明においては、その性質に反しない限り、上記の光導波装置の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、面状光導波路の主面に向かって立体角2πの範囲内の複数の方向から入射してくる3次元空間伝播光を立体角π以下に絞り込んでから面状光導波路に入射させ、当該絞り込みが行われる方向からその反対の方向に向けて、面状光導波路に入射した光が、上記面状光導波路内を2次元空間伝播光として伝播することにより、3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換することができる。この変換は、3次元空間伝播光の波長によらず行うことができる。即ち、広範な波長帯の光に遍く対応して進行方向のリディレクションを容易に行うことができる。このため、広範な波長帯の3次元空間伝播光を効率良く2次元空間伝播光に変換することができる。そして、この光導波装置と同様な構成を有する光導波装置部を有する光電変換装置においては、この光導波装置部の面状光導波路の端面から出射される広範な波長帯の2次元空間伝播光を半導体層に入射させることができるため、極めて高い光電変換効率を得ることができる。また、別の光導波装置によれば、面状光導波路の端面から光を入射させ、面状光導波路の内部を導波される2次元空間伝播光を波長によらず3次元空間伝播光に変換することができる。即ち、広範な波長帯の光に遍く対応して進行方向のリディレクションを容易に行うことができる。このため、広範な波長帯の2次元空間伝播光を効率良く3次元空間伝播光に変換することができる。そして、この光導波装置と同様な構成を有する光導波装置部を有する発光装置においては、この光導波装置部の面状光導波路の端面に光源から広範な波長帯の光を入射させ、面状光導波路の内部を導波される2次元空間伝播光を波長によらず効率良く3次元空間伝播光に変換して外部に出射させることができるため、高い発光強度を得ることができる。
【0049】
また、特に光電変換装置においては、面状光導波路内を導波される光の正味の進行方向と、面状光導波路の端面から半導体層に入射した光により半導体層中に生成されるキャリアの正味の移動方向とのなす角度θをほぼ直角とすることにより、光の入射方向の光電変換層の厚さの選択による光の吸収量の最大化と電極間距離の最小化とを両立させることができる。このため、極めて高い光電変換効率を得ることができる。また、面状光導波路の主面の全体で入射光を受けることができるので、入射光に対する不感領域がない。また、面状光導波路の主面に入射した光が面状光導波路内を導波されて半導体層に入射するので、半導体層に光が直接入射しないようにすることができる。このため、半導体層が例えばアモルファスシリコンや有機半導体からなる場合であっても、ステブラー・ロンスキー効果や紫外成分による有機半導体の劣化を抑えることができる。また、面状光導波路の面積を大きくすることにより、光電変換装置の大面積化も極めて容易である。また、半導体層のバンドギャップあるいは半導体層が有機半導体からなる場合にはHOMO−LUMOギャップが光の入射方向に段階的および/または連続的に減少するようにすることにより、太陽光スペクトルの主要部あるいは全部の波長の光を吸収して光電変換することができ、究極的には理論最大効率に迫る光電変換効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1A】この発明の原理を説明するための略線図である。
【
図1B】この発明の原理を説明するための略線図である。
【
図1C】この発明の原理を説明するための略線図である。
【
図2】この発明の第1の実施の形態による光導波装置を示す断面図である。
【
図3】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において面状光導波路の裏面に基板が設けられた形態を示す断面図である。
【
図4】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の面状光導波路の平面形状の一例を示す平面図である。
【
図5】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの具体例を示す平面図である。
【
図6】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの他の具体例を示す平面図である。
【
図7】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の屈折率異方性媒質層の屈折率異方性を説明するための断面図である。
【
図8A】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の具体例を示す正面図である。
【
図8B】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の具体例を示す側面図である。
【
図8C】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の具体例を示す一部拡大図である。
【
図9A】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の他の具体例を示す平面図である。
【
図9B】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の他の具体例を示す側面図である。
【
図9C】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の反射鏡アレイの製造方法の他の具体例を示す一部拡大図である。
【
図10】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の動作を説明するための断面図である。
【
図11】この発明の第1の実施の形態による光導波装置の動作を説明するための平面図である。
【
図12】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図13A】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を400nmに設定して検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図13B】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を530nmに設定して検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図13C】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を650nmに設定して行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図14A】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を800nmに設定して検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図14B】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を1200nmに設定して検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図14C】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する性能を3次元空間伝播光の波長を1600nmに設定して検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図15】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光の波長と反射鏡31の反射率および光伝播率との関係を示す略線図である。
【
図16】この発明の第1の実施の形態による光導波装置において外部から入射する3次元空間伝播光の偏光角度と偏光板透過光量との関係を示す略線図である。
【
図17】この発明の第2の実施の形態による光導波装置を示す断面図である。
【
図18】この発明の第2の実施の形態による光導波装置の光波進行方向変換層による効果を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図19】この発明の第2の実施の形態による光導波装置の光波進行方向変換層による効果を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図20】この発明の第2の実施の形態による光導波装置の光波進行方向変換層による効果を検証するために行った実験の結果を示す図面代用写真である。
【
図21】この発明の第2の実施の形態による光導波装置の光波進行方向変換層による効果を検証するために行った実験の結果を示す図面代用写真である。
【
図22A】この発明の第2の実施の形態による光導波装置への光の入射方向に垂直方向からのずれがある場合のトレランスを高める方法を説明するための略線図である。
【
図22B】この発明の第2の実施の形態による光導波装置への光の入射方向に垂直方向からのずれがある場合のトレランスを高める方法を説明するための略線図である。
【
図22C】この発明の第2の実施の形態による光導波装置への光の入射方向に垂直方向からのずれがある場合のトレランスを高める方法を説明するための略線図である。
【
図22D】この発明の第2の実施の形態による光導波装置への光の入射方向に垂直方向からのずれがある場合のトレランスを高める方法を説明するための略線図である。
【
図23】この発明の第3の実施の形態による光電変換装置を示す断面図である。
【
図24】この発明の第3の実施の形態による光電変換装置の一部を拡大して示す断面図である。
【
図25】この発明の第3の実施の形態による光電変換装置の光電変換用の半導体層の具体例を示す断面図である。
【
図26】光子エネルギーと太陽光の光子密度との関係を示す略線図である。
【
図27】この発明の第3の実施の形態による光電変換装置の光電変換用の半導体層の具体例を示す断面図である。
【
図28】この発明の第3の実施の形態による光電変換装置の要部を示す断面図である。
【
図29】この発明の第4の実施の形態による建築物を示す側面図である。
【
図30】この発明の第4の実施の形態による建築物において側壁に設置された光電変換装置の動作を説明するための平面図である。
【
図31】この発明の第5の実施の形態によるスマートフォンを示す正面図である。
【
図32】この発明の第6の実施の形態による光電変換装置を示す断面図である。
【
図33】この発明の第7の実施の形態による発光装置を示す断面図である。
【
図34】この発明の第7の実施の形態による発光装置の動作を説明するための平面図である。
【
図35】この発明の第8の実施の形態による照明システムを示す平面図である。
【
図36】この発明の第8の実施の形態による照明システムを建築物の外壁に設置した例を示す斜視図である。
【
図37】この発明の第8の実施の形態による照明システムを建築物の外壁に設置した例を示す正面図である。
【
図38】この発明の第8の実施の形態による照明システムを建築物の外壁に設置した他の例を示す正面図である。
【
図39】この発明の第9の実施の形態による光導波装置を示す断面図である。
【
図40A】この発明の第9の実施の形態による光導波装置の一部を拡大して示す断面図である。
【
図40B】
図40Aに示す構造における光場のシミュレーション結果を示す略線図である。
【
図40C】
図40Aに示す構造における光場のシミュレーション結果を示す略線図である。
【
図41】この発明の第9の実施の形態による光導波装置において外部から入射する波長500nmの3次元空間伝播光の偏光方向を偏光方向変換層により90°回転させる性能を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図42】この発明の第9の実施の形態による光導波装置において外部から入射する波長410nmの3次元空間伝播光の偏光方向を偏光方向変換層により90°回転させる性能を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図43】この発明の第9の実施の形態による光導波装置において外部から入射する波長670nmの3次元空間伝播光の偏光方向を偏光方向変換層により90°回転させる性能を検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【
図44】この発明の第10の実施の形態による光電変換装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と言う。)について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態においては、原則として、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
【0052】
〈第1の実施の形態〉
[光導波装置]
図2は第1の実施の形態による光導波装置を示す。
図2に示すように、この光導波装置は、面状光導波路10と、この面状光導波路10の主面上に設けられた、透明な屈折率異方性を有する層(以下「屈折率異方性媒質層」と言う)20と、この屈折率異方性媒質層20上に設けられた反射鏡アレイ30とを有する。
【0053】
面状光導波路10の裏面が面する空間は、この面状光導波路10の屈折率より低い媒質からなり、空気層であってもよいし、
図3に示すように、面状光導波路10の、屈折率異方性媒質層20と反対側の主面に接して設けられて光導波装置の機械的支持や機械的保護の役割なども果たすことができる基板40であってもよい。基板40は、面状光導波路10の内部に光を効率良く閉じ込めるためのクラッド層としての役割を果たすことができるように、好適には、面状光導波路10に比べて十分に低屈折率の材料により形成される。また、基板40は2層以上の多層構造となっていてもよい。この場合、この基板40のうち、面状光導波路10に接する層の屈折率は上記の条件を満たし、必要な厚み(典型的には0.1μm〜数μm)を有する必要があるが、これを満たす限り、残りの層の物性値は自由に選定することができる(例えば、光吸収がある物質でも許容される)。
【0054】
面状光導波路10を構成する物質は、この光導波装置が対象とする範囲の波長の光、例えば、太陽光スペクトルの主要な波長帯の光(紫外光、可視光、赤外光)に対しできるだけ透明な物質であることが望ましい。面状光導波路10を構成する物質は、一般には透明ガラス、高屈折率ガラス、透明プラスチックなどである。透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などが挙げられる。面状光導波路10を構成する物質としては、特に、プラスティックオプティカルファイバー(POF)などに用いられるフッ素系の素材が、その低光損失性により好適である。面状光導波路10の厚さは必要に応じて選ばれるが、例えば1〜1000μmである。面状光導波路10の大きさ(縦横の長さ)は、この光導波装置を設置する箇所に応じて適宜選ばれるが、一般的には、例えば(1cm〜1m)×(1cm〜1m)である。
【0055】
面状光導波路10の平面形状は特に限定されず、光導波装置の用途などに応じて適宜選ばれるが、例えば、長方形または正方形である。
図4に、一例として面状光導波路10の平面形状が上記のサイズを有する長方形である場合を示す。
【0056】
反射鏡アレイ30は、反射鏡31と透明層32とが、屈折率異方性媒質層20に平行な一方向に交互に繰り返し設けられた構造を有する。反射鏡31および透明層32は、例えば、既に挙げた材料により構成される。屈折率異方性媒質層20に平行な一方向の透明層32の厚さは必要に応じて選ばれるが、例えば数μm〜数十μmである。また、反射鏡31と透明層32との繰り返しの周期、即ち、一つの反射鏡31とこれに隣接する透明層32との、屈折率異方性媒質層20に平行な一方向の合計の厚さに対する反射鏡31の厚さの比は、小さい方が望ましく、少なくとも5%以下、好適には1%以下で1nm以上に選ばれる。反射鏡31は、典型的には、周期的に設けられ、反射鏡アレイ30の一部または全部において規則的または不規則に反射鏡31の間隔を変化させるようにしてもよいが、入射光の抜け(入射光が反射鏡31で反射せず、面状光導波路10を直射すること)が無いよう、また、
図2中、互いに隣接する二つの反射鏡31に着目した場合、向かって左側の反射鏡31で反射した光が右隣の反射鏡31の裏面で反射(散乱)されないように構造ならびに配列の設定をする。反射鏡31の間隔および反射鏡31と透明層32との繰り返し数は、光導波装置の用途などに応じて適宜選ばれる。反射鏡31は、光導波装置の外部から入射する3次元空間伝播光を反射して屈折率異方性媒質層20に入射させることができるように構成されている。好適には、反射鏡31は、光導波装置に一定方向から入射する3次元空間伝播光を反射して屈折率異方性媒質層20に一定範囲内の入射角で入射させることができるように断面形状が選ばれる。
図2においては、典型的な一例として、反射鏡アレイ30の、面状光導波路10の主面に垂直な断面における反射鏡31の形状が、放物線の軸の片側の一部をなす場合が示されている。反射鏡アレイ30に対してほぼ垂直方向から3次元空間伝播光が入射する場合には、最終的に面状光導波路10にできるだけ多くの光が入射するようにするために、この放物線の軸は、面状光導波路10の主面に立てた法線に対して好適には±10°以内に設定され、最も好適には0°付近、つまり、面状光導波路10の主面に垂直に設定される。放物線の軸に平行に入射する光は放物線の焦点に集まる性質があるため、放物線の軸を面状光導波路10の主面に垂直に設定することで、反射鏡アレイ30に対してほぼ垂直に3次元空間伝播光が入射する場合、反射鏡31で反射される光の方向はほぼ同じになる。光導波装置に入射する入射光をできるだけ多く面状光導波路10に入射させるようにするために、好適には、反射鏡31は、面状光導波路10の端から端まで延在して設けられるが、これに限定されるものではない。各反射鏡31の平面形状は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、典型的には、反射鏡31で反射され、屈折率異方性媒質層20を透過して面状光導波路10の内部に入射して導波される2次元空間伝播光の少なくとも大部分が一定方向に向かうように選ばれる。反射鏡アレイ30の具体例を
図5および
図6に示す。
図5および
図6に示すように、面状光導波路10と反射鏡31との幾何学的交点(の集合)が、幾何学的対称性を有していることに留意されたい。
図5は面状光導波路10および反射鏡アレイ30が長方形の平面形状を有する場合に、各反射鏡31が反射鏡アレイ30の短辺の方向に直線状に延びた形状を有する場合であり、並進対称性を有する。この場合には、各反射鏡31で反射された光は、面状光導波路10の内部を各反射鏡31に垂直な方向に導波される。
図6は、面状光導波路10および反射鏡アレイ30が長方形の平面形状を有する場合に、各反射鏡31が反射鏡アレイ30の一つの短辺の中点を中心とする同心円弧状に湾曲した形状を有し、部分的回転対称性および方位対称性を有する。この場合には、各反射鏡31で反射された光は、面状光導波路10の内部を反射鏡アレイ30の一つの短辺の中点に向かって導波される。
【0057】
図7に示すように、屈折率異方性媒質層20は、外部からの入射光(3次元空間伝播光)が反射鏡アレイ30の反射鏡31で反射して屈折率異方性媒質層20に向かう方向(A方向)の屈折率と、この方向に垂直な方向(B方向)の屈折率とが互いに異なり、A方向の屈折率の方がB方向の屈折率より大きくなっている。A方向の屈折率は、面状光導波路10および透明層32の屈折率とほぼ同等であり、そのため、反射鏡31で反射された光は屈折率異方性媒質層20から面状光導波路10への入射が許容され、面状光導波路10の内部に入る。一方、屈折率異方性媒質層20を透過して面状光導波路10の内部に入った後、面状光導波路10の裏面で反射された光が進む方向はほぼB方向であるが、B方向の屈折率は、面状光導波路10の屈折率より十分に小さく、そのため、面状光導波路10の主面では全反射の条件が満たされることにより、面状光導波路10の裏面で反射されて面状光導波路10を斜めに横断してその主面に入射する光は面状光導波路10と屈折率異方性媒質層20との界面で全反射される。屈折率異方性媒質層20を構成する屈折率異方性を有する媒質は特に限定されないが、例えば、最も典型的には、液晶からなる。今、簡単のため、液晶分子を一軸性の誘電率楕円体と近似し、その長軸方向の誘電率をε//、短軸方向の誘電率をε⊥と記し、典型的な異方性を有する場合としてε//−ε⊥>0の場合を例にとって考える。この場合、液晶の分子の長軸方向の屈折率をn//、短軸方向の屈折率をn⊥とすると、n//>n⊥が成立する。ただし、(n//)
2 〜ε//、(n⊥)
2 〜ε⊥である。この逆の場合、即ちε//−ε⊥<0の場合も、液晶分子の配向方向を、面状光導波路10に入射する光が、相対的に大きい屈折率を感じるように液晶分子の配向を制御することで当該液晶を使用することができる。
【0058】
基板40は、上述のように多層構造を有する場合、面状光導波路10に接しない層は、基本的にはどのようなものであってもよいが、面状光導波路10に接する層は、少なくとも大部分の太陽光波長に対して透明で、面状光導波路10より小さい屈折率を有する必要がある。当該透明層は、具体的には、例えば、ガラス板、透明プラスチック板などである。透明プラスチック板を構成する透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類などを用いることができる。
【0059】
[光導波装置の製造方法]
この光導波装置は従来公知の技術を使って製造することができる。即ち、例えば、面状光導波路10を用意し、その主面に屈折率異方性媒質層20を形成する。次に、この屈折率異方性媒質層20上に反射鏡アレイ30を形成する。例えば、予め形成した反射鏡アレイ30を屈折率異方性媒質層20上に貼り付ける。こうして、
図2に示す光導波装置が製造される。基板40を用いる場合には、基板40を用意し、その一方の主面に面状光導波路10を形成し、さらにその上に屈折率異方性媒質層20および反射鏡アレイ30を順次形成する。こうして、
図3に示す光導波装置が製造される。
【0060】
[反射鏡アレイ30の製造方法]
反射鏡アレイ30は、例えば、次のような方法により容易に製造することができる。即ち、まず、
図5に示すように、反射鏡31が直線状に真っ直ぐに延在している反射鏡アレイ30を製造する場合について説明する。
図8Aおよび
図8Bは真空蒸着装置の真空チェンバー50の正面図および側面図、
図8Cは
図8Bの破線で囲んだ部分の拡大図である。
図8Aおよび
図8Bに示すように、角が丸まった正方形の断面形状を有する偏平なローラ51に、例えば幅が狭くて薄い平坦なテープ状の透明樹脂製のベースフィルム52を巻き付けておき、このベースフィルム52の一方の面に蒸着源53の金属54を蒸発させて薄く金属膜55を形成した後、この金属膜55付きベースフィルム52を巻き取りローラ56で巻き取っていく。
図8Bおよび
図8Cに示すように、巻き取りローラ56の巻き取り面は、反射鏡アレイ30の反射鏡31と同じ断面形状、例えば放物線の形状を有する。ローラ51の外周面の断面形状も巻き取りローラ56の巻き取り面の断面形状と同様にしてもよい。
【0061】
上述のようにして金属膜55付きベースフィルム52が巻き取りローラ56で巻き取られることにより、ベースフィルム52と金属膜55とが交互に積層された渦巻き構造が形成される。この渦巻き構造から
図8Aの破線で示すように切り出すことにより、反射鏡アレイ30を製造することができる。ここで、金属膜55が反射鏡31に対応し、ベースフィルム52が透明層32に対応する。
【0062】
上記と同様な反射鏡アレイ30はインプリンティングの手法を用いて製造することもできる。即ち、まず、ベースフィルム52と同一の性質を有する平坦膜を用意し、この平坦膜に対し、反射鏡アレイ30の断面における反射鏡31の形状と同様な形状の曲面部とこれに連なる垂直な直線部とを有する鋸歯状断面の金型を押し付けた後、その金型を平坦膜から引き離す。金型の押し付け深さは平坦膜の厚さより小さくし、金型を押し付けたときに平坦膜を突き抜けないようにする。次に、例えば真空蒸着法により平坦膜に対して垂直な方向から型押しされた面上に例えばAgなどの金属を蒸着する。型押しされた面のうち平坦膜に対して垂直な部分には金属は蒸着されず、曲面部にのみ金属が蒸着されて金属膜が形成される。この後、平坦膜の両面を研磨して両面に金属膜が露出するようにする。この金属膜が反射鏡31に対応し、平坦膜が透明層32に対応する。
【0063】
次に、
図6に示すように、反射鏡31が同心円弧状に延在している反射鏡アレイ30を製造する場合について説明する。
図9Aおよび
図9Bは真空蒸着装置の真空チェンバー50の正面図および側面図、
図9Cは
図9Bの破線で囲んだ部分の拡大図である。
図9Aおよび
図9Bに示すように、円柱状のローラ51に、例えば幅が狭くて薄い平坦なテープ状の透明樹脂製のベースフィルム52を巻き付けておき、このベースフィルム52の一方の面に蒸着源53の金属54を蒸発させて薄く金属膜55を形成した後、この金属膜55付きベースフィルム52を巻き取りローラ56で巻き取っていく。上述のようにして金属膜55付きベースフィルム52が巻き取りローラ56で巻き取られることにより、ベースフィルム52と金属膜55とが交互に積層された渦巻き構造が形成される。この渦巻き構造から
図9Aの破線で示すように切り出すことにより、反射鏡アレイ30を製造することができる。
【0064】
[光導波装置の動作]
光導波装置の動作について説明する。
図10に示すように、外部から光導波装置の反射鏡アレイ30に対してほぼ垂直方向から入射光が入射する場合を考える。入射光は反射鏡アレイ30の各反射鏡31で反射された後、屈折率異方性媒質層20を透過して面状光導波路10の内部に入る。面状光導波路10の内部に入った光は、面状光導波路10と屈折率異方性媒質層20との界面および面状光導波路10と空気層または基板40との界面で全反射を繰り返し、面状光導波路10の内部を矢印方向に導波され、面状光導波路10の端面から出射される。例えば、面状光導波路10および反射鏡アレイ30が
図5に示すような長方形である場合、面状光導波路10の右側の短辺の端面から外部に出射される。このときの光導波装置を反射鏡アレイ30側から見た図を
図11に示す。
【0065】
[光導波装置の検証実験]
コンピュータシミュレーションにより、光導波装置の性能の検証実験を行った。
図12は、基板40、面状光導波路10、屈折率異方性媒質層20および反射鏡アレイ30の4層構造を仮定して行った光波の追跡実験をコンピュータシミュレーションにより行った結果を示す。これらの基板40、面状光導波路10、屈折率異方性媒質層20および反射鏡アレイ30の厚さ方向をz軸、これらの基板40、面状光導波路10、屈折率異方性媒質層20および反射鏡アレイ30に平行な方向をx軸、これらのx軸およびz軸に垂直な方向をy軸とした。
図12は、光波の電場のy軸方向の振幅E
y の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したものである(このxyz3次元座標系のとり方は、
図1Cの議論の際想定された座標系と整合させている。また
図1Cのところで議論した位相角φは、xy平面上で定義され、左記のzと相俟って円筒座標系を形成する)。シミュレーションの諸条件は下記の通りである。基板40の屈折率はn=1.45、面状光導波路10の屈折率はn=2.10(面状光導波路10の素材としては高屈折率ガラスを想定)とした。屈折率異方性媒質層20はΔn=0.46とした。反射鏡アレイ30を構成する反射鏡31の材料はAgとし、透明層32の屈折率はn=1.85とした。面状光導波路10の厚さは5μm、屈折率異方性媒質層20の厚さは1μm、反射鏡アレイ30の厚さ(高さ)は30μmである。z軸の負の方向から反射鏡アレイ30に太陽光が入射すると仮定した。
図12より、
図10に示すような光路で入射光が反射鏡アレイ30の反射鏡31で反射され、屈折率異方性媒質層20を透過して面状光導波路10の内部に入り、外部に漏れることなく効率的にこの面状光導波路10の内部をx軸方向に導波されている様子が良く分かる。
図12の結果を
図1Cに即して説明すると、θ
min 〜7°、θ
max 〜39°であり、Δ=θ
max −θ
min 〜32°より、ラジアン単位ではΔ〜π/6<π/4を満たしている。
【0066】
図13A、
図13B、
図13C、
図14A、
図14Bおよび
図14Cは、入射光の波長をそれぞれ、400nm、530nm、650nm、800nm、1200nm、1600nmと変えて面状光導波路10、屈折率異方性媒質層20および反射鏡アレイ30を伝播する光の様子をシミュレーションにより求めた結果を示す。
図13A、
図13B、
図13C、
図14A、
図14Bおよび
図14Cに示すように、波長430nm〜1600nmの範囲の入射光では、光は同様に外部に漏れることなく効率的に伝播することが分かる。
図15は、
図13A、
図13B、
図13C、
図14A、
図14Bおよび
図14Cに示す結果に基づいて、波長の関数として放物線形状の反射鏡31の反射率および光伝播率(光導波装置への入射光量に対する面状光導波路10内を導波される光量の比)をプロットした図である。
図15より明らかなように、400〜1600nmの範囲の波長の光に対して放物線形状の反射鏡31の反射率は約92〜98%、光伝播率は波長によらず概ね80%と高く、このことから、波長によらず高い反射率および光伝播率が得られていることが分かる。このことは、太陽光スペクトルのほぼ全体の波長の光を面状光導波路10の内部に取り込み、導波することができることを意味する。
【0067】
次に、反射鏡アレイ30の反射鏡31に入射する光の偏光方向と反射鏡31の反射率との関係について説明する。この関係を解析するために、次のような実験を行った。即ち、光源として、赤色のレーザ光を発する市販のレーザーポインターを用いた。平坦なAl製の反射鏡を用意し、この反射鏡にレーザーポインターにより入射角54°でレーザ光を照射した。ここで、54°という入射角は、放物線反射鏡の重み付き平均角度である。レーザ光を照射しながらレーザーポインターをその中心軸の周りに1回転(360°)させ、偏光角度に対する反射率の変化を測定した。その結果を
図16の上の曲線に示す。
図16より、偏光方向によらず、Al製反射鏡の反射率としてほぼ理論通りの値88.1%が得られていることが分かる。次に、レーザーポインターの前方にレーザ光に対して垂直に偏光板を置き、この偏光板にレーザ光を照射しながらレーザーポインターをその中心軸の周りに1回転(360°)させ、偏光角度に対する偏光板の透過光量の変化を測定した。その結果を
図16の下の曲線に示す。
図16に示すように、偏光板の透過光量は偏光角度に応じて周期的に変化しており、このことから、回転角に応じて偏光方向が変化していることが分かる。これらの結果から、偏光方向が変わっても、反射率はほぼ不変であることが分かる。赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のどの光に対してもほぼ同様の結果が得られた。従って、反射鏡31は、光導波装置に対する入射光の偏光方向によらず、同じ反射率を得ることができる。
【0068】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、光導波装置に入射する3次元空間伝播光を反射鏡アレイ30の反射鏡31で反射して面状光導波路10に入射させるので、入射する3次元空間伝播光の波長によらず、面状光導波路10の内部に効率的に光を導入することができ、2次元空間伝播光に変換することができる。このため、広範な波長帯の3次元空間伝播光を効率良く2次元空間伝播光に変換することができる。
【0069】
〈第2の実施の形態〉
[光導波装置]
図17は第2の実施の形態による光導波装置を示す。
図17に示すように、この光導波装置は、反射鏡アレイ30上に光波進行方向変換層60が設けられていることを除いて、第1の実施の形態の形態による光導波装置と同様な構成を有する。
【0070】
図17に示すように、光波進行方向変換層60は、この光波進行方向変換層60に入射する入射光の入射角度によらず、入射光をこの光波進行方向変換層60の面に垂直な方向の光に変換することができる。このため、様々な方向から入射光が光導波装置に入射しても、光波進行方向変換層60により進行方向が反射鏡アレイ30に対して垂直な方向に変換されるため、結果として一定方向から面状光導波路10の内部に光を入射させることができる。
【0071】
光波進行方向変換層60による効果を検証するためにシミュレーションを行った。光波進行方向変換層60として、スラブ導波路上に、放物線の断面形状を有する透明樹脂構造体のラインアンドスペース(L&S)構造(スペース=0の場合を含む)を一方向に形成した1次元構造を用いた。当該透明樹脂の屈折率は1.52とした。この1次元構造付きスラブ導波路に対して入射角θ
0 (〜30°)で波長1.0μmの光(平面波)を入射させた。この1次元構造付きスラブ導波路の厚さ方向をz軸、この1次元構造付きスラブ導波路に対する入射光と垂直方向をx軸、これらのx軸およびz軸に垂直な方向をy軸とした。
図18は、光波の電場のy軸方向の振幅E
y の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したものである。
図18より、この1次元構造付きスラブ導波路に入射角θ
0 で入射した光は、この1次元構造を透過した後、スラブ導波路に対してほぼ垂直な方向から入射していることが分かる。即ち、このL&S構造により、斜め入射光の進行方向を光波進行方向変換層60の面に対しほぼ垂直方向に変換することができることが分かる。
【0072】
図19は、1次元構造を構成する放物線断面の構造体の幅wおよび高さhを変えて、入射角θ
0 に対する屈折角(実効屈折角)の変化をシミュレーションにより求めた結果を示す。比較のために、1次元構造無しの単純なスラブ導波路を用いた場合の同様な結果も
図19に示す。
図19より、単なるスラブ導波路を用いた場合に比べて、放物線断面の構造体からなる上記L&S構造を介すると、垂直入射に近づくことが分かる。なお、断面形状は放物線でこれが軸の周りに回転対称性を有する構造、即ち回転放物面(パラボロイド)の集合体からなる膜(パラボロイド集合体膜)を光波進行方向変換層60に用いることも有効である。
【0073】
次に、光波進行方向変換層60により実際に進行方向変換実験を行った結果について説明する。
図20の各図は、向かって左から光ビームが入ってきて、次に、パラボロイド集合体膜を置き、その後ろにスクリーンを置いた配置となっている。
図20より、垂直入射(入射角θ=0°)の配置から徐々に入射角θを大きくしていった場合(入射方向は矢印で示す)のスクリーン上の光強度の最も大きなところの位置の変遷が分かる。
図21の各図は、それぞれ
図20の各図に示す光入射の様子に対応し、スクリーンの裏側から見た光強度の様子を示す。
図20より、斜め入射をしても、垂直入射の場合の光の位置に強い光強度が確認され、斜めから入る光に対しても垂直方向への光波進行方向変換が良く行われていることが分かる。これにより、昼間のどの時間帯であるかにかかわらず、3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換する構造体、即ち、反射鏡アレイ30へは、
図18に示すように、ほぼ垂直に太陽光が入射するように設定されることが実証された。
【0074】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、光導波装置に対する光の入射角によらず、ほぼ垂直に太陽光が入射するように設定することができるという利点を得ることができる。特に、
図19から分かるように、上記L&S構造では、w=0.7μm、h=0.7μmのL&S構造を用いると垂直入射からのずれ(δ)を概ね8°以下に抑えることができることが、また、パラボロイド集合体膜を光波進行方向変換層60に用いる場合も、
図20および
図21から分かるように垂直入射からのずれδを概ね同程度に抑えることができる。このように光波進行方向変換層60により入射光を反射鏡アレイ30を介して効率良く面状光導波路10に導入することができ、面状光導波路10の内部を導波される光量の大幅な増加を図ることができるという利点を得ることができる。なお、垂直入射からのずれδがゼロで無い場合にも(この場合も
図19から分かるようにδは概ね8°程度に抑えられる)、入射光の抜け(入射光が反射鏡31で反射せず、面状光導波路10を直射すること)が無いよう対応するべく、
図17中の互いに隣接する二つの反射鏡31に着目した場合、向かって左側の反射鏡31の右端(反射鏡31が面状光導波路10に接する部分)をその右隣の反射鏡31の左端(反射鏡31が光波進行方向変換層60に接する部分)の、面状光導波路10への射影成分において(x軸方向において)、(反射鏡31の高さ)×tanδだけオーバーラップさせることも有効である。また、向かって左側の反射鏡31で反射した光が右隣の反射鏡31の裏面で反射(散乱)されないように対応するべく、右隣の反射鏡31の右端をできるだけ向かって右側に逃す(シフトする)ようにするとよい。導波率が最も高い
図22Aに示す垂直入射(270°入射)の場合からの方位のずれに対するトレランスを高める他の手法として(理想的な垂直入射からのずれをδとして)、特に、
図22Bに示すような270°+δ入射の場合は、向かって左側の反射鏡31で反射した光が右隣の反射鏡31の裏面で反射(散乱)されやすい(垂直入射の時の導波率を100%とすると、12%しか導波されない)のに対し、
図22Cに示す270°−δ入射の場合は、上述の屈折率設定により、導波率の減少を僅かなものに抑えることができる(垂直入射の時の導波率を100%とすると、84%が導波されている)。
図22Dに示すように、やや極端な270°−2δ入射の場合でも垂直入射の時の導波率を100%として35%の導波がなされる。このことから、光波進行方向変換層60をそれ以外の部分(周期配列反射鏡31+屈折率異方性媒質層20+面状光導波路10)に対し、予め0とδの間の値をとる微少角度分傾けて(即ち、光が270°と270°−δとの間の角度の方向から入射するように)配置する(貼り付ける)ことが有効であることが分かる。或いは、
図18におけるL&S構造体の放物線の軸を(垂直ではなく)0とδの間の値をとる微少角度分だけ傾けた構造を以って(光が270°と270°−δとの間の角度の方向から入射するように)構成することも有効である。この場合は、光波進行方向変換層60をそのままそれ以外の部分(周期配列反射鏡31+屈折率異方性媒質層20+面状光導波路10)に対し貼り付けることができる。なお、
図22A、
図22B、
図22Cおよび
図22Dでは、
図19、
図20および
図21に基づき、有効な一つの例としてδ=8°として計算を行った。
【0075】
〈第3の実施の形態〉
[光電変換装置]
図23は第3の実施の形態による光電変換装置を示す。
図23に示すように、この光電変換装置は、第1の実施の形態による光導波装置、特に基板40を有する
図3に示す光導波装置を用いたものである。
【0076】
図23に示すように、この光電変換装置は、光導波装置部および光電変換部を有する。光導波装置部は、
図3に示す光導波装置と同様な構造を有する。光電変換部においては、面状光導波路10の外側に延在した基板40上に、面状光導波路10の端面に接触して光電変換用の半導体層70が設けられている。半導体層70はpn接合を有し、そのpn接合面が面状光導波路10の主面に平行になっている。半導体層70は一般的には細長い長方形の平面形状を有する(
図5に示す場合に対応)が、これに限定されるものではなく、
図6に示す場合は、短い長方形形状でもよい。後者の場合は、半導体層70の材料の節約および集光比の上昇につなげることができるので、有効である。面状光導波路10と半導体層70とは互いに一体に設けられており、全体として面状の形状を有する。
【0077】
半導体層70の上下(光入射側を上とする)の互いに対向する一対の面(上面および下面)にそれぞれ第1の電極80および第2の電極90が設けられている。これらの第1の電極80および第2の電極90の一方はアノード電極、他方はカソード電極として用いられる。例えば、第1の電極80がアノード電極、第2の電極90がカソード電極として用いられる。第1の電極80および第2の電極90は、半導体層70が互いに異なる半導体からなる複数の領域に分割されている場合には各領域毎に設けられてもよいし、一方が全ての領域上に延在する全面電極であってもよい。
【0078】
この光電変換装置においては、光導波装置部の反射鏡アレイ30に入射した入射光(3次元空間伝播光)は、面状光導波路10の内部に入って2次元空間伝播光に変換され、導波された後、面状光導波路10の端面から出射されて半導体層70に入射するように構成されている。
図24に示すように、この場合、面状光導波路10の内部を導波される光の正味の進行方向と、面状光導波路10の端面から半導体層70に入射した光によりこの半導体層70中に生成されるキャリア(フォトキャリア)の正味の移動方向(第1の電極80と第2の電極90とを最短で結ぶ方向)とのなす角度Θはほぼ直角である。角度Θは、具体的には、第1の電極80の光の進行方向の幅あるいは半導体層70が互いに異なる半導体からなる複数の領域に分割されており第1の電極80が各領域毎に設けられる場合には各領域毎に設けられる第1の電極80の光の進行方向の幅をW´、半導体層70の厚さをdとすると、π/2−δ≦Θ≦π/2+δ(ただし、δ〜d/W´)であり、典型的には80°≦Θ≦100°であり、最も好適には90°である。面状光導波路10と半導体層70との接合面には、面状光導波路10から半導体層70に入射する光の反射を防止するために、好適には反射防止膜が設けられる。
【0079】
この光電変換装置においては、好適には、外部から光が入射する際に半導体層70に光が直接入射しないように構成される。言い換えると、光電変換装置に光が入射する場合、光導波装置部の反射鏡アレイ30には光が入射するが、半導体層70の面には光が直接入射しないようにする。このためには、具体的には、例えば次のようにする。例えば、第1の電極80を覆うように半導体層70の上方に遮光層を設ける。遮光層は従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、例えば、アルミ箔の両面にプラスチックフィルムが形成されたアルミラミネートフィルムなどである。この遮光層により、半導体層70に光が直接入射しないようにすることができる。また、基板40が建築物や電子機器の外面の一部を構成する場合には、光導波装置部には太陽光が入射するが、半導体層70には太陽光が入射しないように、言い換えれば半導体層70が陰になるように部材などにより覆うようにする。例えば、建築物の窓にこの光電変換装置を設置する場合には、窓ガラスが基板40となり、外部に露出した窓ガラス上に面状光導波路10が設けられ、半導体層70は例えばAl製の窓枠の内側に隠れるようにする。また、この光電変換装置を建築物の屋根に敷き詰める場合には、隣接する光電変換装置の端部が上下に重なり合うようにし、上の光電変換装置の端部の半導体層70により下の光電変換装置の端部の半導体層70が覆われるようにする。また、電子機器、例えばスマートフォンのディスプレイ部にこの光電変換装置を設置する場合には、このディスプレイ部の表面の透明部材が基板40となり、外部に露出した透明部材上に面状光導波路10が設けられ、半導体層70はこのディスプレイ部の表面に設けられた部材の内側に隠れるようにする。
【0080】
半導体層70は、例えば、既に挙げたものの中から必要に応じて選ばれる。半導体層70は、典型的には、p型半導体層とn型半導体層とからなるpn接合である。好適には、半導体層70のうちの第1の電極80および第2の電極90が接触する部分が高不純物濃度にドープされ、これらの第1の電極80および第2の電極90が半導体層70とオーミック接触するようにする。半導体層70の一辺の長さは、典型的には、この半導体層70が設けられる面状光導波路10の辺の長さと同一に選ばれるが、この辺と直角な辺の長さは、典型的には0.5μm〜5mmであり、好適には2μm〜1mmである。面状光導波路10の大きさは上述のように例えば(1cm〜1m)×(1cm〜1m)であるので、この半導体層70の面積は一般的には面状光導波路10の面積よりはるかに小さくて済む。即ち、この光電変換装置においては、面状光導波路10が大部分を占め、半導体層70は端のわずかな部分しか占めない。例えば、面状光導波路10の大きさが10cm×10cm、半導体層70の大きさが1mm×10cmとすると、面状光導波路10と半導体層70との全体の面積に占める半導体層70の面積の割合は、0.1×10/10.1×10=0.0099≒1%に過ぎない。これに加えて、半導体層70の厚さは、一般的には数十μm以下と小さいので、半導体層70の体積も極めて小さい。即ち、半導体層70の使用量が極めて少なくて済む。このため、光電変換装置の製造コストの低減を図ることができる。また、この面状光導波路10の端部を有限の曲率半径を以て、例えば下向きに90°曲げる(ベンドする)ことで、半導体層70中を
図23において縦方向に光が進行するように構成することができる。これにより、上記のように、第1の電極80を覆うように半導体層70の上方に遮光層を設けた場合に発生する遮光ロスを最小限に抑えることができる。
【0081】
半導体層70のバンドギャップあるいはHOMO−LUMOギャップE
g は、半導体層70内の光の進行方向にN段階(N≧2)に段階的に減少し、順にE
g1、E
g2、…、E
gN(E
g1>E
g2>…>E
gN)となるようにすることができる。
図25に一例としてN=4の場合を示すが、これに限定されるものではない。
図25に示すように、半導体層70は、バンドギャップあるいはHOMO−LUMOギャップE
g がそれぞれE
g1、E
g2、E
g3、E
g4の領域71、72、73、74からなる。各領域71、72、73、74は、面状光導波路10の半導体層70が設けられた辺に平行な方向に延在する細長いストライプ状の形状を有する。
図25においては、各領域71、72、73、74上に互いに分離してそれぞれ第1の電極81、82、83、84が設けられている。第2の電極90は全面電極であり、各領域71、72、73、74の共通電極である。半導体層70を構成する各E
gi領域の幅(光の進行方向の幅で、
図25の横方向の長さ)は、各E
gi領域の光電変換対象光子(各E
gi領域のバンドギャップE
gi以上のエネルギーを有する光子)のうち、最低エネルギーのものに対するこのE
gi領域の吸収係数をα
i とすると、1/α
i 以上とする。
【0082】
E
giは次のように設定することができる。例えば、AM1.5太陽光スペクトルの全波長範囲またはその主要な波長範囲(入射エネルギーが高い部分を含む範囲)において、波長をN個の区間に分ける。そして、これらの区間に短波長側(高エネルギー側)から順に1、2、…、Nというように番号を付け、i番目の区間の最小光子エネルギーに等しくE
giを選ぶ。こうすることで、k番目の区間の光子エネルギーを有する光子がE
gi領域に入射すると電子−正孔対が発生し、光電変換が行われる。また、この場合、このk番目の区間の光子エネルギーを有する光子が各E
gi領域に到達して十分に吸収されるように、面状光導波路10と半導体層70との接合面からこのE
gi領域までの距離を選ぶ。これによって、面状光導波路10の内部を導波されて半導体層70に入射する太陽光は、まずE
g1領域に入射してそのスペクトルのうち光子エネルギーがE
g1以上のものが吸収されて光電変換され、続いてE
g2領域に入射してそのスペクトルのうち光子エネルギーがE
g2以上でE
g1より小さいものが吸収されて光電変換され、最終的にE
gN領域に入射してそのスペクトルのうち光子エネルギーがE
gN以上でE
gN-1より小さいものが吸収されて光電変換される。この結果、太陽光スペクトルのほぼ全範囲あるいは主要な波長範囲の光を光電変換に使用することができる。
【0083】
E
giの理想的な設定例について説明する。
図26にAM1.5太陽光スペクトルの光子エネルギーhνと光子数n(hν)との関係を示す。ここでは、AM1.5太陽光スペクトルの光子エネルギーをエネルギー幅Δの10個の区間に等分するものとする。この場合の理論最大光電変換効率は約70%にもなり、これは例えばE
g =1.35eVの従来の太陽電池の理論最高光電変換効率31%の倍以上である。
【0084】
ただし、光子数n(hν)は
【数1】
で表される。また、光電変換効率ηは
【数2】
で表される。
【0085】
各E
giの設定は、各E
gi領域を構成する半導体の組成や半導体の形態(アモルファス、多結晶、単結晶)などを変えることにより行うことができる。具体的には、各E
gi領域を別種の半導体により構成する。この場合、この半導体は、吸収係数αの大小は問わず、キャリア移動度μの高いものを選ぶことができるので、選択肢が広い。無機半導体を用いる場合について具体例をいくつか挙げると次の通りである。N=3の場合には、例えば、E
g1領域をSi
x C
1-x (E
g =1.8〜2.9eV)、E
g2領域をSi(E
g =1.11eV)、E
g3領域をGe(E
g =0.76eV)により構成する。また、N=4の場合には、例えば、E
g1領域をSi
x C
1-x (E
g =1.8〜2.9eV)、E
g2領域をアモルファスシリコン(a−Si)(E
g =1.4〜1.8eV)、E
g3領域をSi
y Ge
1-y (E
g =1.11eV)、E
g4領域をSi
y Ge
1-y (E
g =〜0.76eV)により構成する。あるいは、N=4の場合に、E
g1領域をIGZO(In、Ga、Znの酸化物)(E
g =〜3eV)、E
g2領域をSi
x C
1-x (E
g =〜1.8eV)、E
g3領域をSi(E
g =1.11eV)、E
g4領域をSi
y Ge
1-y (E
g =〜0.76eV)により構成する。そのほかに、次のように構成することもできる。N=2の最も簡単な場合には、例えば、E
g1領域をa−Si(E
g =1.4〜1.8eV)、E
g2領域をSi
y Ge
1-y (E
g =〜0.76eV)により構成する。また、N=3の場合には、例えば、E
g1領域をGaP(E
g =2.25eV)、E
g2領域をGaAs(E
g =1.43eV)、E
g3領域をInN(E
g =0.7eV)により構成する。また、N=4の場合には、例えば、E
g1領域をGa
x In
1-x N(E
g =2.3eV)、E
g2領域をGa
y In
1-y N(E
g =1.4〜1.8eV)、E
g3領域をGa
z In
1-z N(E
g =1.1eV)、E
g4領域をInN(E
g =0.7eV)により構成する。また、N=5の場合には、例えば、E
g1領域を直径1.9nm程度のCdSe微粒子(吸収ピーク波長445nm)、E
g2領域を直径4.0nm程度のCdSe微粒子(吸収ピーク波長585nm)、E
g3領域を直径2nm程度のPbSe微粒子(吸収ピーク波長800nm)、E
g4領域を直径4.5nm程度のPbSe微粒子(吸収ピーク波長1100nm)、E
g5領域を直径90nm程度のPbSe微粒子(吸収ピーク波長2300nm)により構成する。さらに、GaInN
x As
1-x やGaInN
x P
1-x を用いてxの制御だけでN〜10の場合のE
gi領域を構成することも可能である。加えて、Teを含ませると大きなボウイング(bowing)を示すことが知られているII−VI族化合物半導体を用いてE
gi領域を構成してもよい。有機半導体と無機半導体とを用いる場合についての具体例を挙げると次の通りである。例えば、N=4の場合には、E
g1領域をMDMO−PPV(E
g =2.2eV)、E
g2領域をa−Si(E
g =1.4〜1.8eV)、E
g3領域をポリアセン系(ヘキサセン)半導体(E
g =1〜1.2eV)、E
g4領域をポリアセン系(ヘプタセン)半導体(E
g =0.6〜0.8eV)により構成する。また、N≧2の場合に、E
g1領域をIGZO(In、Ga、Znの酸化物)(E
g =〜3eV)、AlInN(E
g =2.8〜3eV)、またはGaInN(E
g =2.8〜3eV)、あるいは同様のバンドギャップを有する酸化物半導体(ZnO、ZnMgOなど)のうちのいずれか一つとし、それに続く領域、例えば、E
g2領域をa−Si(E
g =1.4〜1.8eV)とすることで、450nm以下の波長の光によって生ずることが示されているステブラー・ロンスキー反応を起こす光子を、予め、a−Si層に侵入する前に、光電変換しておくことで同反応を抑えることができ、従って、a−Si層からなる光電変換領域の寿命を伸ばすことができる。この単なるパッシベーションでなく、有効に光電変換しつつコヒーシブエネルギーを抑える高エネルギー光子除去機能は、同じく戸外での使用には弱いとされている有機半導体光電変換部の信頼性の向上や長寿命化にも有効である。
【0086】
各E
gi領域の厚さdは必要に応じて選ばれるが、例えば数μm〜数十μmである。各E
gi領域の幅(半導体層70内の光の進行方向の幅)も必要に応じて選ばれるが、例えば数十μm〜数百μmである。例えば、
図27は
図25の領域71〜74の拡大図であるが、各領域71〜74の厚さdを数μm〜数十μm、各領域71〜74の幅w
1 〜w
4 を数十μm〜数百μm、例えば〜100μmに選ぶ。
【0087】
図28に示すように、典型的な場合、各領域71〜74はp型半導体層とn型半導体層とからなるpn接合により構成される。
図28には、各領域71〜74を構成するpn接合の接合面を破線で示す。
【0088】
[光電変換装置の動作]
この光電変換装置の動作について説明する。半導体層70はpn接合とする。
図23に示すように、この光電変換装置の光導波装置部の光入射面に3次元空間伝播黒体輻射光、例えば太陽光が入射する。半導体層70の主面には光は直接入射しない。光導波装置部の光入射面に入射した3次元空間伝播光は、反射鏡アレイ30に入射して反射され、屈折率異方性媒質層20を透過して面状光導波路10の内部に入り、2次元空間伝播光に変換される。この2次元空間伝播光は面状光導波路10の内部をその上面および下面で反射を繰り返したりしながら効率的に導波され、面状光導波路10の端面から出て半導体層70の側面(端面)に入射した後に半導体層70内を進み、その過程で半導体層70中に電子−正孔対が生成される。そして、こうして生成された電子および正孔は半導体層70内をドリフトまたは拡散により移動し、第1の電極80および第2の電極90のうちの一方および他方に収集される。こうして半導体層70内で光電変換が行われ、第1の電極80と第2の電極90とから外部に電流(光電流)が取り出される。
【0089】
この光電変換装置においては、上述のようにΘはほぼ直角であるため、従来の一般的な太陽電池と異なり、吸収光子数およびフォトキャリア収集効率はトレードオフの関係ではなくなる。最も好適には、Θ=90°とすることができる。言い換えると、第1の電極80と第2の電極90とを最短に結ぶ直線に垂直な方向から、面状光導波路10の内部を導波されて面状光導波路10の端面から出射される光を半導体層70に入射させることができる。この場合、半導体層70の吸収光子数は、光の入射方向の幅(半導体層70が例えば領域71〜74からなる場合には領域71〜74の幅w
1 〜w
4 )で支配され、光電変換効率は光吸収律速領域では半導体層70の厚さdに支配されない。即ち、この光電変換装置の極めて有利な点は、半導体層70に対する光の入射方向とキャリアの移動方向とを例えば互いに直交させることにより、光吸収の最適化とキャリア収集効率の最適化とを完全に両立させることができることである。さらに、半導体層70の吸収係数αの小ささは、光の入射方向の半導体層70の幅(半導体層70が例えば領域71〜74からなる場合には領域71〜74の幅w
1 〜w
4 )を大きくすることにより補うことができるので、半導体層70の材料として、αの大小にとらわれることなく、唯一の支配パラメータであるμの大きい材料を用いることができる。こうすることで、高い光電変換効率を得ることが可能となり、熱力学的限界に迫る光電変換効率を得ることも可能である。
【0090】
この第3の実施の形態によれば、次のような種々の利点を得ることができる。即ち、この光電変換装置においては、光導波装置部により、第1の実施の形態と同様に、広範な波長帯の3次元空間伝播光を面状光導波路10の内部を伝播する2次元空間伝播光に変換することができ、この広範な波長帯の2次元空間伝播光を半導体層70に入射させて光電変換を行うことができるので、極めて高い光電変換効率を得ることができる。また、この光電変換装置においては、面状光導波路10が大部分の面積を占め、この面状光導波路20の全体で入射光を受光することができるため、入射光に対する不感領域が実質的にない。また、この光電変換装置においては、光導波装置部の光入射面に入射し、最終的に面状光導波路10の内部を導波されて集光された光が半導体層70に入射するため、例えば
図26の挿入図に示すように、極めて高い光電変換効率を得ることができる。例えば、面状光導波路10の大きさが10cm×10cm、半導体層70の厚さdが50μm=50×10
-4cm、半導体層70の幅が10cmとすると、集光率は(面状光導波路10の面積)/(半導体層70の光が入射する端面の面積)=(10×10)/(10×50×10
-4)=2000倍となる。このときの光電変換効率は
図26の挿入図より少なくとも60%を超える。また、従来の太陽電池では、光入射面の全体に光電変換用の半導体を設ける必要があるため、半導体の使用量が多いのに対し、この光電変換装置においては、半導体層70はごく一部の面積を占めるに過ぎず、その体積も極めて小さくて済むため、半導体の使用量が少なくて済み、製造コストの低減を図ることができる。また、半導体層70が、この半導体層70内の光の進行方向にバンドギャップまたはHOMO−LUMOギャップが段階的に減少する複数の領域により構成される場合には、太陽光の高エネルギーの紫外成分を例えば1段目の領域で吸収することができるため、後段の領域に紫外成分が入射しないようにすることができる。このため、後段の領域をアモルファスシリコンや有機半導体により構成しても、ステブラー・ロンスキー効果や有機半導体の劣化の問題がない。このため、これによっても光電変換効率の向上を図ることができるとともに、光電変換装置の信頼性の向上を図ることができる。さらに、この光電変換装置は、面状光導波路10の面積を大きくするだけで容易に大面積化が可能である。また、面状光導波路10の端部に半導体層70が設けられ、面状光導波路10内を導波される光が面状光導波路10の端面から出て半導体層70に入射するように構成されているため、集光のためのレンズなどが不要であり、構成も極めて簡単であり、光軸合わせなども不要であるため、製造が容易であるだけでなく、製造コストの低減を図ることもでき、経時変化や経年変化を防止することもできる。また、レンズ式集光システムの欠点であった拡散光に対し光電変換効率が下がる点も、互いに面状構造であり貼り合わせができるという意味で、光波進行方向変換層60、例えば光波進行方向変換シートとの相性が極めてよい面状光導波路10の構造をとることで、拡散光であっても、直射光に対する光電変換効率に比し(光波進行方向変換シートの効率である)約95%まで、回復させることができる。加えて、この光電変換装置では、アモルファスシリコン太陽電池で問題になっている空間電荷効果を抑制することができる。即ち、アモルファスシリコン太陽電池では、アモルファスシリコンの厚さを大きくして光吸収を増やそうとしても、内部電界が空間電荷でキャンセルされて特性の向上につながらないという問題がある。これに対し、この光電変換装置では、半導体層70の一部の領域をアモルファスシリコンにより構成する場合、半導体層70の上下に設けられた第1の電極80と第2の電極90との間の距離を小さくすることができ、同時に、半導体層70内の光の進行方向のアモルファスシリコン領域の長さは大きく取ることができるので、空間電荷効果を抑制することができる。
【0091】
また、この光電変換装置においては、3次元空間伝播光を2次元空間伝播光に変換し、2次元空間伝播光の伝播を効率的に行うことができる面、即ち受光面(光導波装置部の反射鏡アレイ30の面)と光電変換領域である半導体層70とを空間的に分離することができるので、太陽光の直射による半導体層70の温度上昇を抑えることができる。例えば、面状光導波路10が緩やかな曲率を持つ部分を含み、当外部分を瓦の下、屋根の中央部迫り出し稜線の下、窓の桟の下などに配置し、光導波装置部の反射鏡アレイ30の光入射面に光が入射する際に半導体層70は陰の部分に配置することができる。これにより直射光による温度上昇と、直射光の中の紫外成分による半導体層70の化学結合に対する悪影響との双方を抑制することができる。特に、太陽光の入射する一層目のバンドギャップE
g1を、用いる半導体材料のコヒーシブエネルギー以上に設定することで、後段の半導体の化学結合を保護し、素子寿命を延ばすことができ、長期信頼性が得られる。温度上昇に関しては、この光電変換装置の高効率性は、とりもなおさず、熱としてのロスを極小化できることを意味しているので、導波される光に対しては、そのエネルギーを高効率で電気エネルギーに変え、熱に転化する成分を低減することによって、やはり温度上昇を抑えることができる。
【0092】
このように、この光電変換装置によれば、高効率化による(熱として失うエネルギー減少を通じての)温度上昇の抑制のベースの上に、さらに、集光システムの悪いところ(高強度光の入射による温度上昇)をなくし、良いところ(変換効率が非集光系に比べ、
図26内の挿入図に示すように、約2割も上昇する点)のみを生かすことができる。
【0093】
この光電変換装置の利点を改めてまとめると次の通りである。
(1)半空間の全方位(立体角2π)から入射しうる広範な波長帯の3次元空間伝播光を絞り込み、最終的に2次元空間伝播光に変換して収率ならびに効率良く半導体層70に入射させることができる。
(2)フォトンの進行方向とフォトキャリアの移動方向との直交性により、光吸収とキャリア捕集効率を独立に、同時最適化できる。
(3)傾斜組成による多段のマルチストライプ性が可能となり、太陽光スペクトルの全幅光電変換が可能となる。
(4)集光系であることにより、非集光系に比べ、約20%の効率上昇が見込まれる。
(5)多段のマルチギャップ半導体による光電変換を行うことができることから、熱として散逸してしまうエネルギーを極小化できるため、集光太陽光発電系の弱点であった温度上昇を抑制することができる。
(6)光波進行方向変換層60により面状光導波路10の片側の半空間の全方位(立体角2π)から来る光子に、対応可能で、かつ、反射鏡アレイ30を用いた面状光導波路10による集光比1000以上も容易に可能な集光系であるため、曇天時などの拡散光に対する集光特性の劣化が抑制される。
(7)物質の化学結合に害を与える高エネルギーフォトンをマルチストライプの最初の層で、光電変換することで(エネルギーを無駄にすることなく)、それに続く中間ギャップ半導体層、ナローギャップ半導体層を形成する物質の劣化を未然に防ぐことができ、結果として高い信頼性が得られる。特に、従来は戸外で使えなかったような材料もこの光電変換装置中に用いれば、高い信頼性を以て戸外でも使うことができる。
【0094】
以上のように、この光電変換装置は数多くの特性を備えた究極の光電変換システムということができる。
【0095】
〈第4の実施の形態〉
[建築物]
図29は第4の実施の形態による建築物、特に外壁の一部を示す。
図29に示すように、この建築物においては、外壁の少なくとも一部、例えば側壁100に例えば第3の実施の形態による光電変換装置200が太陽電池として、反射鏡アレイ30が外を向くようにしてアレイ状に複数設置されている。
図30に光電変換装置200の一例を示す。
【0096】
この第4の実施の形態によれば、建築物の側壁100に設置された太陽電池としての光電変換装置200に太陽光が入射することにより、極めて効率的に電気エネルギーを得ることができ、この電気エネルギーを例えば建築物で消費される電気エネルギーに充当することができる。
【0097】
〈第5の実施の形態〉
[スマートフォン]
図31は第5の実施の形態によるスマートフォンを示す。
図31に示すように、このスマートフォン300においては、ディスプレイ部の少なくとも一部に例えば第3の実施の形態による光電変換装置200が太陽電池として、反射鏡アレイ30が外を向くようにして設置されている。
【0098】
この第5の実施の形態によれば、スマートフォン300のディスプレイ部に設置された光電変換装置200に太陽光が入射することにより、極めて効率的に電気エネルギーを得ることができ、この電気エネルギーをスマートフォン300で消費される電気エネルギーに充当することができる。
【0099】
〈第6の実施の形態〉
[光電変換装置]
図32は第6の実施の形態による光電変換装置を示す。
図32に示すように、この光電変換装置は、光導波装置部の反射鏡アレイ30上に光波進行方向変換層60が設けられていることを除いて、第3の実施の形態の形態による光電変換装置と同様な構成を有する。
【0100】
この第6の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて、第2の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0101】
〈第7の実施の形態〉
[発光装置]
図33は第7の実施の形態による発光装置を示す。この発光装置は、半導体層70、第1の電極80および第2の電極90の代わりに光源400が設けられていることが、第3の実施の形態による光電変換装置と異なる。即ち、この発光装置は、光導波装置部および発光部を有する。また、この場合、屈折率異方性媒質層20は、面状光導波路10の内部からこの屈折率異方性媒質層20に入射する光の透過を許容するだけで足りる点も第3の実施の形態と異なる。光源400としては、単一の光源を用いてもよいし、互いに発光波長が異なる複数の光源を用いてもよい。光源400からの光の出射方向は面状光導波路10の端面に向いている。光源400としては、例えば、発光ダイオードや半導体レーザなどの半導体発光素子が用いられる。
【0102】
[発光装置の動作]
光源400に電源を投入して光を出射させると、この出射光は面状光導波路10の端面に入射してこの面状光導波路10の内部に入る。この面状光導波路10の内部に入った光は、この面状光導波路10の上下の面で反射されながら導波されて2次元空間伝播光となる。この2次元空間伝播光は、屈折率異方性媒質層20を透過した後に反射鏡アレイ30に入り、反射鏡31で反射されて外部に出射される。こうして発光装置から発光が行われる。この様子を
図34に示す。
【0103】
この第7の実施の形態によれば、光源400から出射される光の波長帯が広くても、反射鏡アレイ30からほぼ同一方向に、しかも均一な強度で光を取り出すことができる発光装置を実現することができる。この発光装置は、例えば、面状光源として用いることができ、照明装置や液晶ディスプレイのバックライトなどに用いることができる。
【0104】
〈第8の実施の形態〉
[照明システム]
図35は第8の実施の形態による照明システムを示す。
図35に示すように、この照明システムは、光導波装置500、光導波路600および照明装置700を有する。光導波装置500の光出射面は光導波路600の光入射面と結合し、光導波路600の光出射面は照明装置700の光入射面と結合している。そして、光導波装置500の光出射面から出射した光は、光導波路600の光入射面に入射し、この光導波路600を通って照明装置700の光入射面に伝送され、照明装置700から外部に照明光が取り出されるようになっている。光導波装置500としては、例えば、第1の実施の形態または第2の実施の形態による光導波装置が用いられる。光導波路600は、フレキシブルに構成され、面状光導波路(2次元光導波路)や複数の光ファイバーからなる集積ファイバーなどが用いられる。この光導波路600は、光の導波中に光の漏れがないように構成される。照明装置700としては、例えば、第7の実施の形態による発光装置の光導波装置部と同様な構成を有し、反射鏡アレイ30から出射される3次元空間伝播光を照明光として用いることができるものや、集積ファイバーからなり、各光ファイバーを導波中に光が外部に漏れやすいように構成し、漏れた光を照明光として用いることができるものなどが用いられる。
【0105】
[照明システムの応用例]
図36は照明システムの応用例を示す。
図36に示すように、この例では、ビルなどの建築物800の外壁に照明システムが設置される。具体的には、この照明システムは、建築物800の南面の外壁に光導波装置500が設置され、北面の外壁に照明装置700が設置され、光導波装置500と照明装置700とを接続する光導波路600が側壁から南面の外壁および北面の外壁にかけて設置されている。この照明システムは、光導波装置500の反射鏡アレイ30および照明装置700の前面の光出射面(照明光取り出し面)がそれぞれ表側となるようにする。
【0106】
図37に示すように、この照明システムでは、建築物800の南面に3次元空間伝播光である太陽光が入射すると、既に述べた原理によりこの3次元空間伝播光は光導波装置500により2次元空間伝播光に変換され、光導波路600を経由して照明装置700の光入射面に入射し、この照明装置700の前面の光出射面から外部に3次元空間伝播光として照明光が取り出される。照明装置700として、第7の実施の形態による発光装置の光導波装置部と同様な構成を有するものを用いる場合は、照明装置700の前面の光出射面に垂直方向に照明光が取り出される。この場合、照明装置700の前面に光の拡散板を設置することで、
図38に示すように様々な方向に照明光を取り出すことができる。照明装置700として、集積ファイバーからなり、各光ファイバーを導波中に光が外部に漏れやすいように構成したものを用いる場合は、拡散板を用いないでも
図38に示すように様々な方向に照明光を取り出すことができる。
【0107】
以上のように、この第8の実施の形態によれば、外部から入射する3次元空間伝播光を光導波装置500の光入射面から取り込んで2次元空間伝播光に変換し、この2次元空間伝播光を光導波路600内で伝播させて照明装置700の光入射面に伝送し、この照明装置700の光出射面から照明光を取り出すことができる照明システムを実現することができる。光導波装置500、光導波路600および照明装置700はいずれも電力を使用しないため、この照明システムは電力が不要である。また、光導波装置500、光導波路600および照明装置700のいずれも簡単に構成することができるだけでなく、光導波装置500、光導波路600および照明装置700を接続するだけで照明システムを製造することができるので、照明システムを容易に製造することができる。そして、この照明システムを上述のように建築物800の外壁に設置することで、建築物800の南面に入射する太陽光を光導波装置500から取り込んで最終的に北面の壁面に設置された照明装置700の光出射面から照明光として外部に取り出すことができる。このため、建築物800の高さなどにより北側の日照が少ない場合でも、照明装置700から出射される照明光で北側の領域を照らすことができるので、日照権問題を緩和することができる。より一般的には、この照明システムは、光導波装置500を太陽光が入射する場所に設置するとともに、照明を行いたい場所に照明装置700を設置することで、光導波装置500から太陽光を取り込み、この光を光導波路600を経由して照明装置700に伝送し、この照明装置700から照明光を出射させて照明を行うことができる。
【0108】
〈第9の実施の形態〉
[光導波装置]
図39は第9の実施の形態による光導波装置を示す。この光導波装置は、面状光導波路が二段設けられたものである。即ち、
図39に示すように、この光導波装置においては、透明な屈折率異方性媒質層20a、一段目の面状光導波路10a、透明な屈折率異方性媒質層20b、偏光方向変換層900、透明な屈折率異方性媒質層20cおよび二段目の面状光導波路10bがこの順序で積層されている。屈折率異方性媒質層20aの面状光導波路10aと反対側の主面上に反射鏡アレイ30が設けられている。また、二段目の面状光導波路10bの、屈折率異方性媒質層20cと反対側の裏面は基板40と接触している。ここで、屈折率異方性媒質層20aは、3次元空間伝播光が反射鏡アレイ30で反射されて、屈折率異方性媒質層20aを斜めに横断して面状光導波路10aの主面を経て面状光導波路10aの内部に入ることは許容するが、面状光導波路10aの内部に入った光が、面状光導波路10aを斜めに横断して面状光導波路10aの裏面で全反射されて戻ってきた後に屈折率異方性媒質層20aに再び入射する際は全反射されるような屈折率異方性を有する。また、屈折率異方性媒質層20bは、面状光導波路10aを透過した光がこの屈折率異方性媒質層20bを斜めに横断して偏光方向変換層900の内部に入ることを許容する屈折率異方性を有する。屈折率異方性媒質層20cは、偏光方向変換層900を透過した光がこの屈折率異方性媒質層20cを斜めに横断して面状光導波路10bの主面を経てこの面状光導波路10bの内部に入ることは許容するが、この面状光導波路10bの内部に入った光が、この面状光導波路10bを斜めに横断してこの面状光導波路10bの裏面で全反射されて戻ってきた後に屈折率異方性媒質層20cに再び入射する際は全反射されるような屈折率異方性を有する。屈折率異方性媒質層20a、20b、20cとしては、第1の実施の形態の屈折率異方性媒質層20と同様なものが用いられる。面状光導波路10a、10bとしても、第1の実施の形態の面状光導波路10と同様なものが用いられる。偏光方向変換層900は、この偏光方向変換層900の一方の主面から入射する光の偏光方向を90°回転させてこの偏光方向変換層900の他方の主面から出射する。この偏光方向変換層900としては、例えば、液晶ディスプレイなどに用いられている従来公知の各種の液晶を用いることができ、必要に応じて選ばれる。この光導波装置の上記以外の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0109】
[光導波装置の製造方法]
この光導波装置は、第1の実施の形態による光導波装置の製造方法と同様に製造することができる。
【0110】
[光導波装置の動作]
光導波装置の動作について説明する。
図40Aはこの光導波装置の一部を拡大して示したものである。外部からこの光導波装置の反射鏡アレイ30に対してほぼ垂直方向から入射光が入射する場合を考える。入射光として自然光である太陽光を考える。自然光は、光の電場の振動方向が入射方向の周りの360°の範囲に亘る直線偏光が合成されたものである。入射光は反射鏡アレイ30の各反射鏡31で反射された後、
図40A、
図40Bおよび
図40Cに示すように、屈折率異方性媒質層20aに入射する。
図40Aに示すようにxyz3次元座標系を取り、入射方向をz軸方向とする。自然光を構成する全ての偏光は、光の電場の振動方向がx軸方向の成分と、電場の振動方向がy軸方向の成分とに分解することができる。従って、入射光は、光の電場の振動方向がx軸方向の成分、即ち電場の振動方向が入射面内にある偏光(面内偏光:p偏光、図中、左右両矢印で示す)と、光の電場の振動方向がy軸方向の成分、即ち電場の振動方向が入射面と垂直な面内にある偏光(面直偏光:s偏光、図中、丸に×矢印で示す)とからなると考えることができる。屈折率異方性媒質層20aの屈折率異方性を適切に設定すれば、この屈折率異方性媒質層20aに入射した光は、この屈折率異方性媒質層20aを透過して一段目の面状光導波路10aの内部に入る。屈折率異方性媒質層20bの屈折率異方性を適切に設定すれば、
図40Aおよび
図40Bに示すように、面状光導波路10aの内部に入った光のうち、電場の振動方向がy軸方向である成分(面直偏光)は、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面で反射することなく、この屈折率異方性媒質層20bの内部に入る。この屈折率異方性媒質層20bの内部に入った光は、この屈折率異方性媒質層20bを透過して偏光方向変換層900(
図40Bにおいては図示せず)に入射する。一方、屈折率異方性媒質層20a、20bの屈折率異方性を適切に設定すれば、面状光導波路10aの内部に入った光のうち、電場の振動方向がx軸方向である成分(面内偏光)は、
図40Aおよび
図40Cに示すように、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面で全反射された後、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20aとの界面および面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面との間で全反射を繰り返し、面状光導波路10aの内部を矢印方向に導波され、この面状光導波路10aの右端面から出射される。偏光方向変換層900に入射した電場の振動方向がy軸方向である偏光(面直偏光)は、この偏光方向変換層900により偏光方向が90°回転させられて、つまり電場の振動方向がx軸方向に変換されてこの偏光方向変換層900から出射される。この偏光方向変換層900から出射される光は、電場の振動方向がx軸方向(面内偏光)であるため、上記の一段目の過程を踏襲する。即ち、偏光方向変換層900から出射される光は屈折率異方性媒質層20cを透過した後、二段目の面状光導波路10bの内部に入る。この面状光導波路10bの内部に入った電場の振動方向がx軸方向である偏光(面内偏光)は、面状光導波路10bと基板40との界面で全反射された後、面状光導波路10bと屈折率異方性媒質層20cとの界面と面状光導波路10bと基板40との界面との間で全反射を繰り返し、面状光導波路10bの内部を矢印方向に導波され、面状光導波路10bの右端面から出射される。以上のようにして、入射光を構成する面内偏光および面直偏光の両方を面状光導波路10a、10bの内部を導波させることができる。
【0111】
基板40は、屈折率が適切に設定された等方性屈折率層であってもよいし、屈折率異方性媒質層20bと同じ属性の屈折率異方性媒質層を面状光導波路10b側に有する多層構造体であってもよい。屈折率の設定例としては、例えば、屈折率異方性媒質層20aについては、3行3列の行列表示の屈折率テンソルの11成分が1.91、22成分も1.91、33成分が1.45の対角行列で表される屈折率異方性物質を用い、屈折率異方性媒質層20bについては、屈折率テンソルの11成分が1.45、22成分が1.91、33成分も1.91の対角行列で表される屈折率異方性物質を用い、面状光導波路10aの屈折率は等方的な屈折率2.1を有するとし、簡単のため屈折率異方性媒質層20aから面状光導波路10aへそれらの界面に対し45°を成して入射する場合を考えると
図40Bおよび
図40Cに示す結果が得られる。今、屈折率異方性媒質層20a、20bが液晶により構成されているとすると、屈折率異方性媒質層20aでは、円盤状の液晶分子が円盤の法線をz軸方向にして並んでおり、屈折率異方性媒質層20bでは、円盤状の液晶分子が円盤の法線をx軸方向にして並んでいると上記の対角行列を実現することができる。
図40Bに示すように、上述の通り、電場の振動方向がy軸方向である成分(面直偏光)は、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面で反射することなく、この屈折率異方性媒質層20bの内部に入っている。また、
図40Cに示すように、電場の振動方向がx軸方向である成分(面内偏光)は、屈折率異方性媒質層20aを透過して面状光導波路10aに入った後、この面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面で全反射されていることが分かる。このとき、面状光導波路10aから屈折率異方性媒質層20bへ向かう(
図40A中、上向きに伝搬する)光の反射(透過)の状況は、屈折率テンソルの形から、面状光導波路10aから屈折率異方性媒質層20aへ向かう(
図40A中、右向きに伝搬する)光の反射(透過)の状況と全く同一になることが分かる。即ち、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20bとの界面で全反射する光は、面状光導波路10aと屈折率異方性媒質層20aとの界面でも全反射する。再び上向きに進行方向を変えた光は、上述の過程を繰り返し、面状光導波路10aの右端面まで殆どロスのないまま導波される。
図40Bおよび
図40Cの計算には、固有モード展開による伝搬解析ツールを用いた。この場合、方向による屈折率差Δn=0.46であるが、非特許文献2に挙げた研究グループにより、上記の例に加え、Δnが0.7を上回る系も報告されており、物質選択の範囲は狭くはないと考えられる。
【0112】
[偏光方向変換層900の性能の検証実験]
上述のコンピュータシミュレーションにより、光導波装置の偏光方向変換層900の性能の検証実験を行った。偏光方向変換層900として、偏光方向をそれぞれ30°回転させることができる層を三段積層した構造のものを用いた。ここでは、偏光方向変換層900の一方の主面にz軸方向から、電場の振動方向がy軸に平行な偏光(E
x =0、E
y =大)を入射させ、偏光方向変換層900の他方の主面から出射させる場合を考える。
図41は、入射光の波長を500nmと設定して偏光方向変換層900を透過する光の様子をシミュレーションにより求めた結果を示す。ここで、
図41の左の図は光波の電場のy軸方向の振幅E
y の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したもの、
図41の右の図は光波の電場のx軸方向の振幅E
x の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したものである。
図41に示すように、波長500nmの入射光では、偏光方向変換層900を透過した光は、電場の振動方向がx軸に平行な偏光(E
x =大、E
y =0)に変換されていること、即ち偏光方向が90°回転していることが分かる。
図42および
図43は、入射光の波長をそれぞれ、410nm、670nmと変えて偏光方向変換層900を透過する光の様子をシミュレーションにより求めた結果を示す。ただし、偏光方向変換層900として、偏光方向を段階的に回転させて合計90°回転させることができる四層構造のものを用いた。ここでは、偏光方向変換層900の一方の主面にz軸方向から、電場の振動方向がx軸に平行な偏光(E
x =大、E
y =0)を入射させ、偏光方向変換層900の他方の主面から出射させる場合を考える。ここで、
図42の左の図は光波の電場のx軸方向の振幅E
x の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したもの、
図42の右の図は光波の電場のy軸方向の振幅E
y の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したものである。また、
図43の左の図は光波の電場のx軸方向の振幅E
x の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したもの、
図43の右の図は光波の電場のy軸方向の振幅E
y の大きさ(強度)のxz面内の分布を示したものである。
図42および
図43に示すように、波長410nmおよび670nmの入射光では、偏光方向変換層900を透過した光は、電場の振動方向がy軸に平行な偏光(E
x =0、E
y =大)に変換されていること、即ち偏光方向が90°回転していることが分かる。なお、偏光方向変換層900の一方の主面にz軸方向から、電場の振動方向がy軸に平行な偏光(E
x =0、E
y =大)を入射させ、偏光方向変換層900の他方の主面から出射させる場合には、電場の振動方向がx軸に平行な偏光(E
x =大、E
y =0)に変換することができる。
【0113】
この第9の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、入射光を構成する面内偏光および面直偏光の両方を二段の面状光導波路10a、10bの内部に導波させることができるため、光導波装置に入射する光の利用効率を最大化することができるという利点を得ることができる。
【0114】
〈第10の実施の形態〉
[光電変換装置]
図44は第10の実施の形態による光電変換装置を示す。
図44に示すように、この光電変換装置は、第9の実施の形態による光導波装置を用いたものである。
【0115】
図44に示すように、この光電変換装置は、第3の実施の形態と同様に、光導波装置部および光電変換部を有するが、光導波装置部は、
図39に示す光導波装置と同様な構造を有する。この光電変換装置のその他の構成は第3の実施の形態と同様である。
【0116】
この第10の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。即ち、光導波装置部が第9の実施の形態による光導波装置により構成されているため、光導波装置部に入射する光の利用効率を最大化することができる。このため、この光電変換装置は光導波装置部に入射する光のほぼ全てを利用して光電変換が可能となることから、熱力学限界に迫る極めて高い光電変換効率(〜75%)の達成が可能となる。
【0117】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0118】
例えば、上記の面状光導波路10の端部において、例えば、イオン交換法によりガラス導波路の屈折率を変えることで、背面側から屈折率の小さな層を形成し、2次元導波されてきた光が、半導体層70に近づくにつれ、面に垂直方向にもコンデンスされて、面状光導波路10と半導体層70との接触部においてこの半導体層70の厚さと同一の厚さにまで集合する(漸近的に光を集中させる)ようにすることもできる。
【0119】
また、例えば、太陽光スペクトルのうちのUV光成分は、
図26から分かるようにその比率は高くないので、最初から2次元空間伝播光に変換せず、従って面状光導波路10内を導波させず、これより低エネルギー成分の光のみを2次元空間伝播光に変換して面状光導波路10内を導波させて半導体層70に入射させることにより光電変換することで、半導体層70にa−Siや有機半導体を含む場合の光電変換装置の長寿命化および信頼性の向上を図ることもできる。
【0120】
また、例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、材料、形状、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、形状、配置などを用いてもよい。
【0121】
また、例えば、第3の実施の形態または第10の実施の形態による光電変換装置を複数敷き詰めて光電変換装置システム(あるいは太陽電池システム)を構成してもよい。
【0122】
また、上記のリディレクション ウエイブガイド(光導波装置に相当)で例えばビルの側面全面を鉢巻状にぐるりと取り巻き、これと結合する半導体層70は、例えば、当該ビルの北側面の一箇所(即ち、例えば、鉛直方向数m、横方向数mm〜1cmの領域)に集約して配置してもよい。なお、この鉢巻状のリディレクション ウエイブガイド自体は、当該ビルの日陰の部分に存在するその一部分に、いわば逆リディレクション(即ち、2次元空間伝播光を3次元空間伝播光に戻す)構造を設けることで、当該ビルにより形成される日陰を実質的に解消する用途に用いることもできる。また、光波進行方向変換層と上記の放物線反射鏡配列構造などを結合したものを、通常の薄膜半導体太陽電池の上部に配置することで、薄膜半導体太陽電池の薄膜性を補って、特性向上をもたらすことができる。