特許第6764955号(P6764955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764955
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】免疫検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20200928BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/483 C
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-568048(P2018-568048)
(86)(22)【出願日】2018年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2018001060
(87)【国際公開番号】WO2018150787
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-25362(P2017-25362)
(32)【優先日】2017年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一郎
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−101758(JP,A)
【文献】 特開2010−032447(JP,A)
【文献】 特開平09−288730(JP,A)
【文献】 特開2013−174519(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/128205(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて前記検体液を分析する免疫検査装置であって、
前記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって取得された画像に基づいて前記クロマトグラフィー試験片に対する前記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を報知する報知部と、
前記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、
前記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記検体液が滴下されてから前記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、
前記判定時間が経過した際に、前記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、
前記判定部は、
前記画像中に設定される判定領域において、前記クロマトグラフィー試験片の長手方向の輝度変化率を取得し、
前記輝度変化率の絶対値が第1閾値以上である輝度段差が存在する場合に、前記検体液が滴下されたものと判定する免疫検査装置。
【請求項2】
検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて前記検体液を分析する免疫検査装置であって、
前記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって取得された画像に基づいて前記クロマトグラフィー試験片に対する前記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を報知する報知部と、
前記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、
前記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記検体液が滴下されてから前記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、
前記判定時間が経過した際に、前記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、
前記判定部は、
前記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第2閾値以下である暗画素を検出し、
前記暗画素が所定数以上存在する場合に、前記検体液が滴下されたものと判定する免疫検査装置。
【請求項3】
検体液が滴下され且つ滴下された前記検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて前記検体液を分析する免疫検査装置であって、
前記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって取得された画像に基づいて前記クロマトグラフィー試験片に対する前記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を報知する報知部と、
前記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、
前記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記検体液が滴下されてから前記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、
前記判定時間が経過した際に、前記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、
前記判定部は、
複数枚の前記画像毎に、前記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第3閾値以上である明画素を検出し、
前記画像それぞれの前記明画素の画素数が前記画像の取得順に減少している場合に、前記検体液が滴下されたものと判定する免疫検査装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の免疫検査装置であって、
前記制御部は、
前記クロマトグラフィー試験片の長手方向が水平である場合に設定する前記判定時間を基準判定時間とし、
前記クロマトグラフィー試験片を流れる前記検体液の流れの下流側が上流側よりも下側に配置される傾きが検出された場合に、前記判定時間を前記基準判定時間よりも短く設定し、
前記クロマトグラフィー試験片を流れる前記検体液の流れの下流側が上流側よりも上側に配置される傾きが検出された場合に、前記判定時間を前記基準判定時間よりも長く設定する免疫検査装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の免疫検査装置であって、
前記クロマトグラフィー試験片は、前記検体液との接触によって呈色する反応部を有するものであり、
前記判定領域は、前記画像中の前記反応部よりも、前記クロマトグラフィー試験片を流れる前記検体液の流れの上流側に設定される免疫検査装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載の免疫検査装置であって、
前記判定部は、前記検体液の分析に用いられる分析用画像の取得タイミングより前のタイミングで前記撮像部によって取得された画像に基づいて前記クロマトグラフィー試験片に対する前記検体液の滴下の有無を判定する免疫検査装置。
【請求項7】
請求項6記載の免疫検査装置であって、
前記撮像部は、前記分析用画像を取得する免疫検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等のウイルス感染症の検査に、抗原抗体反応を利用して検体中のウイルス等の抗原を検出し又は定量する免疫検査装置が用いられている。この種の免疫検査装置では、典型的には、検体液がクロマトグラフィー試験片に滴下される。試験片に滴下された検体液は、試験片を長手方向に流れ、試験片に設けられている反応部を通過する。反応部は検体液中の抗原を抗原抗体反応によって捕捉することにより呈色し、この反応部が撮像され、取得された画像中の反応部の呈色強度に基づいて抗原が検出され又は定量される。
【0003】
反応部の呈色は、反応部が検体液と接触している時間(反応時間)に影響され、検体液中の抗原の濃度が同じであっても反応時間が異なれば反応部の呈色強度が異なる。特許文献1に記載された検査装置では、反応時間を高精度に管理する観点から、反応部を撮像する撮像センサとは別に、試験片において検体液が滴下される添加部を撮像する添加状態撮像センサがさらに設けられている。添加状態撮像センサによって取得される画像に基づいて適正量の検体液が試験片に滴下されたことが検出されるのと同時に時間計測が開始され、計測開始から所定時間経過後に反応部が撮像され、反応時間が管理されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2010−32447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検体液は、オペレータによって試験片に滴下されるため、滴下忘れが生じ得る。例えば、上記反応時間は、典型的には10分程度とされるが、検体液が滴下されないまま分析が進められると、この反応時間を含めて分析に要する時間が無駄となる。分析作業の効率化の観点から、滴下忘れが早期に検出され、オペレータに報知されることが望ましい。
【0006】
特許文献1に記載された検査装置では、添加状態撮像センサによって取得される添加部の画像の明暗度が監視されており、検体液が滴下されていない状態での明暗度を基準値として、基準値からの差分に基づいて検体液が適正量に達したか否かが検出されている。以上の検出動作では、基準値とされる検体液が滴下されていない状態、すなわち滴下忘れを検出することはできない。
【0007】
また、特許文献1に記載された検査装置では、試験片が検査装置に装着されてから所定時間内に検体液が適正量に達しない場合に、再測定を促す表示が表示部に出力される。この表示に基づき、結果的に滴下忘れがオペレータに認識されるとしても、試験片の反応部を撮像する撮像センサとは別に試験片の添加部を撮像する追加の添加状態撮像センサが必要となるため、検査装置の小型化及び低コスト化に不利である。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、クロマトグラフィー試験片に対する検体液の滴下忘れを早期に報知可能な免疫検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、上記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、上記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、を備え、上記制御部は、上記検体液が滴下されてから上記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、上記判定時間が経過した際に、上記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、上記判定部は、上記画像中に設定される判定領域において、上記クロマトグラフィー試験片の長手方向の輝度変化率を取得し、上記輝度変化率の絶対値が第1閾値以上である輝度段差が存在する場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【0010】
また、本発明の一態様の免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、上記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、上記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、を備え、上記制御部は、上記検体液が滴下されてから上記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、上記判定時間が経過した際に、上記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、上記判定部は、上記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第2閾値以下である暗画素を検出し、上記暗画素が所定数以上存在する場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【0011】
本発明の一態様の免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された上記検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、上記クロマトグラフィー試験片の長手方向の水平に対する傾きを検出するセンサと、上記撮像部と前記判定部と前記報知部とによって実行される判定処理を、前記センサによって検出される傾きに基づいて制御する制御部と、を備え、上記制御部は、上記検体液が滴下されてから上記画像が取得されるまでの経過時間である判定時間を前記センサによって検出される傾きに応じて設定し、上記判定時間が経過した際に、上記撮像部に前記クロマトグラフィー試験片を撮像させるものであり、上記判定部は、複数枚の上記画像毎に、上記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第3閾値以上である明画素を検出し、上記画像それぞれの上記明画素の画素数が上記画像の取得順に減少している場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クロマトグラフィー試験片に対する検体液の滴下忘れを早期に報知可能な免疫検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態を説明するための、クロマトグラフィー試験片を収納したカートリッジの一例の斜視図である。
図2図1のクロマトグラフィー試験片の模式図である。
図3】本発明の実施形態を説明するための、免疫検査装置の一例のブロック図である。
図4図3の免疫検査装置の撮像部の模式図である。
図5】クロマトグラフィー試験片の色調の一例を示す模式図である。
図6】クロマトグラフィー試験片の色調の他の例を示す模式図である。
図7】クロマトグラフィー試験片の画像の輝度情報の一例を示すグラフである。
図8図7の輝度情報から取得される輝度変化率を示すグラフである。
図9図3の免疫検査装置の制御部が実行する判定処理の一例のフローチャートである。
図10】クロマトグラフィー試験片の色調の他の例を示す模式図である。
図11】クロマトグラフィー試験片の画像の輝度情報の他の例を示すグラフである。
図12図3の免疫検査装置の制御部が実行する判定処理の他の例のフローチャートである。
図13図3の免疫検査装置の制御部が実行する判定処理の他の例のフローチャートである。
図14図3の免疫検査装置の制御部が実行する判定処理の他の例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2は、本発明の実施形態を説明するための、検体液の分析に用いられるクロマトグラフィー試験片及びクロマトグラフィー試験片を収納したカートリッジの一例を示す。
【0015】
図1及び図2に示すクロマトグラフィー試験片(以下、試験片という)1は、抗原抗体反応を利用して検体液中のウイルス等の抗原を検出し又は定量する分析に用いられるものである。試験片1は、例えばセルロース等の多孔質材料からなる帯状の薄片であり、典型的には白色である。試験片1は、長手方向xの一方側の端部に設けられている滴下部2と、長手方向xに滴下部2に隣設されている展開部3とを備える。検体液は滴下部2に滴下され、滴下部2に滴下された検体液は、毛細管現象によって滴下部2から展開部3に流れ、さらに滴下部2とは反対側の端部に向けて展開部3を長手方向xに流れる。
【0016】
滴下部2には、金コロイド粒子によって標識された標識抗体bが設けられている。標識抗体bは、滴下部2に滴下された検体液に溶解し、検体液に抗原aが含まれている場合には抗原aと結合して抗原抗体複合物abを形成する。抗原抗体複合物abは検体液の流れに乗って移動され、抗原aと結合することなく残った余剰の標識抗体bもまた検体液の流れに乗って移動される。
【0017】
展開部3には、反応部4が設けられている。反応部4は、検体液中の抗原aを検出又は定量するための判定ライン5を有し、さらに本例では、検体液が試験片1に適切に流れたことを検出するためのコントロールライン6を有する。判定ライン5及びコントロールライン6は、長手方向xと直交する短手方向yに展開部3を横断して設けられており、コントロールライン6は、判定ライン5よりも検体液の流れの下流側に設けられている。
【0018】
検体液中の抗原aを検出又は定量するための判定ライン5には、抗原aと結合する第1捕捉抗体cが固定的に設けられている。検体液の流れに乗って移動される抗原抗体複合物abは、判定ライン5の第1捕捉抗体cに捕捉され、判定ライン5に固定される。抗原抗体複合物abが判定ライン5に固定されることにより、抗原抗体複合物abの標識抗体bに付着している金コロイド粒子によって判定ライン5が呈色し、固定される抗原抗体複合物abが増加するほどに判定ライン5の呈色が強くなる。この判定ライン5の呈色が吸光度の変化として光学的に検出され、検体液中の抗原aが検出又は定量される。
【0019】
検体液が試験片1に適切に流れたことを検出するためのコントロールライン6には、標識抗体bと結合する第2捕捉抗体dが固定的に設けられている。検体液の流れに乗って移動される余剰の標識抗体bは、第1捕捉抗体cに捕捉されずに判定ライン5を通過し、コントロールライン6の第2捕捉抗体dに捕捉され、コントロールライン6に固定される。標識抗体bがコントロールライン6に固定されることにより、標識抗体bに付着している金コロイド粒子によってコントロールライン6が呈色し、固定される標識抗体bが増加するほどにコントロールライン6の呈色が強くなる。すなわち、コントロールライン6は、検体液に抗原aが含まれているか否かにかかわらず、検体液と接触することによって呈色する。このコントロールライン6の呈色が吸光度の変化として光学的に検出され、検体液が試験片1に適切に流れたことが検出される。
【0020】
試験片1は、カートリッジ7に収納されて用いられる。カートリッジ7には、収納されている試験片1の滴下部2に対向する開口部8が設けられており、検体液は開口部8を通して滴下部2に滴下される。カートリッジ7は、透明な樹脂材料からなり、試験片1の反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色は、カートリッジ7を通して光学的に検出される。
【0021】
図3及び図4は、試験片1を用いて分析を実施する免疫検査装置の一例を示す。
【0022】
免疫検査装置10は、操作部11と、撮像部12と、報知部13と、記憶部14と、これら操作部11、撮像部12、報知部13、及び記憶部14の動作を統括する制御部15とを備える。
【0023】
操作部11は、オペレータの各種指示(例えば分析開始指示等)を受け付ける。操作部11は、例えばスイッチ等のハードウェアキーによって構成される。操作部11によって受け付けられた指示は、制御部15に入力される。
【0024】
撮像部12は、試験片1の反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色を光学的に検出する。撮像部12は、試験片1を収納したカートリッジ7が設置される設置部20と、LED(Light Emitting Diode)等の光源21と、CCD(Charge-Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子22とを含む。設置部20に設置されたカートリッジ7の試験片1は、光源21によって照明され、照明された状態で撮像素子22によって撮像される。取得された試験片1の画像は、制御部15に入力される。
【0025】
報知部13は、オペレータに各種の情報(例えば分析結果等)を報知する。報知部13は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)、OELD(Organic Electro-Luminescence Display)等の表示パネルを含み、表示パネルの表示画面に画像や文字を表示することによって情報を報知してもよい。また、報知部13は、LED(Light Emitting Diode)等の表示灯を含み、表示灯の点灯、点滅等によって情報を報知してもよい。また、報知部13は、ブザーを含み、音声によって情報を報知してもよい。
【0026】
記憶部14は、制御部15によって実行される制御プログラム及び制御データを記憶しており、また、分析結果等の各種の情報を記憶する。記憶部14は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の格納媒体によって構成される。
【0027】
制御部15は、制御プログラムに従って動作することにより、操作部11、撮像部12、報知部13、及び記憶部14の動作を統括する。また、制御部15は、制御プログラムに従って動作することにより、画像処理部23、分析部24としても機能する。
【0028】
画像処理部23は、試験片1の画像に表れる反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色強度を、画像の輝度によって数値化した輝度情報を生成する。
【0029】
分析部24は、輝度情報によって示される判定ライン5の呈色強度に基づいて検体液中の抗原aを検出又は定量する。また、分析部24は、輝度情報によって示されるコントロールライン6の呈色強度に基づいて検体液が試験片1に適切に流れたことを検出する。そして、分析部24は、以上の分析の結果を生成する。
【0030】
上記構成において、制御部15は、制御プログラムに従って動作することにより、操作部11から分析開始指示が入力されると、所定の分析プロセスを実行する。所定の分析プロセスは、分析開始から所定の反応時間の経過を計時するステップと、所定の反応時間経過後に撮像部12に試験片1を撮像させるステップと、取得された試験片1の画像に表れる反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色強度を画像の輝度によって数値化した輝度情報を生成するステップと、生成した輝度情報に基づいて分析結果を生成するステップとを含む。なお、反応時間は、反応部4が検体液と接触している時間であり、所定の反応時間は、抗原を所定の濃度で含む検体液が水平に置かれた試験片1を流れた場合に、反応部4が検出に十分な強度で呈色する時間であり、適宜設定される。
【0031】
そして、制御部15は、上記所定の分析プロセスを経て生成された分析結果を報知部13に報知させ、また、記憶部14に記憶させる。
【0032】
さらに、制御部15は、制御プログラムに従って動作することにより、判定部25としても機能し、試験片1に検体液が滴下されているか否かを判定し、判定結果を報知部13に報知させる処理を実行する。この判定処理については後述する。
【0033】
本例では、コントロールライン6の呈色強度に基づいて検体液が試験片1に適切に流れたことが検出され、この検出結果によっても試験片1に検体液が滴下されたか否かの判定は可能である。ただし、この検出結果が取得されるまでには、上記所定の反応時間が経過して、反応部4の呈色強度を数値化した輝度情報を生成するための画像、すなわち検体液の分析に用いられる分析用画像が取得されることを要する。試験片1に対する検体液の滴下忘れを早期に報知する観点から、上記判定処理の実行、及び判定結果の報知は、少なくとも分析用画像の取得タイミングよりも前のタイミングで行われる。
【0034】
画像処理部23、分析部24、判定部25として各種の処理を行う制御部15のハードウェア的な構造は、汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0035】
制御部15の各処理部(画像処理部23、分析部24、判定部25等)は、処理部毎に、上記各種のプロセッサのうちの一つのプロセッサによって構成されてもよいし、同種又は異種の二つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAや、CPUとFPGAとの組み合わせ)によって構成されてもよい。また、複数の処理部が一つのプロセッサによって構成されてもよい。
【0036】
複数の処理部を一つのプロセッサによって構成する例としては、第1に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、一つ以上のCPUとソフトウェアの組み合せで一つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を一つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを一つ以上用いて構成される。さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0037】
以下、試験片1に検体液が滴下されているか否かを判定する判定方法について説明する。
【0038】
図5は、検体液が流れている途中の試験片1の色調を示す模式図であり、図6は検体液が流れきった試験片1の色調を示す模式図である。
【0039】
試験片1は、検体液が滴下されていない状態では白色であり、検体液が滴下されて濡れることによって検体液に濡れた領域は暗くなる。図5に示すように、検体液が流れている途中の試験片1、すなわち検体液の流れの先端が試験片1の滴下部2とは反対側の端部に達する以前の試験片1では、既に検体液に濡れた既展開領域A1と、未展開領域A2との間に色調の境界Bが生じる。この色調の境界Bは、試験片1の画像において、試験片1の短手方向yに延びる輝度段差となって表れる。
【0040】
そこで、試験片1の画像の輝度段差を検出することによって、試験片1に検体液が滴下されているか否かを判定することが可能である。すなわち、輝度段差が検出された場合には、検体液が滴下されているものと判定することができ、輝度段差が検出されない場合には、検体液が滴下されていないものと判定することができる。
【0041】
ただし、図6に示すように、検体液が流れきった試験片1、すなわち検体液の流れの先端が試験片1の滴下部2とは反対側の端部に達した試験片1では、試験片1の全体が既展開領域A1となり、境界Bは消失してしまう。したがって、検体液が滴下されているか否かの判定に用いられる試験片1の画像(判定用画像)は、少なくとも試験片1に滴下された検体液が試験片1を流れきる以前に取得される。
【0042】
検体液が試験片1に滴下されてから試験片1を流れきるまでに要する時間は、試験片1の長さ及び試験片1の長手方向x(検体液の流れ方向)の水平に対する傾きにもよるが、典型的には2分程度である。このことから、判定用画像は、例えば検体液が試験片1に滴下されてから30秒〜1分30秒経過後に取得された画像とすることができる。
【0043】
図7は、判定用画像の輝度情報の一例を示し、図8は、図7の輝度情報から取得される輝度変化率を示す。
【0044】
図7に示す輝度情報は、図5に示した検体液が流れている途中の試験片1の画像を、輝度によって数値化したものであり、試験片1の長手方向xの輝度変化を示している。試験片1の既展開領域A1と未展開領域A2との間に生じる色調の境界Bは、輝度情報において、輝度段差Δとなって表れている。
【0045】
数値化の手法は、特に限定されるものではないが、例えば撮像部12からYUV(Y:輝度信号、U:輝度信号と青色成分の差、V:輝度信号と赤色成分の差)形式又はYCbCr(Y:輝度信号、Cb:輝度信号と青色成分の差、Cr:輝度信号と赤色成分の差)形式の画像信号が出力される場合に、Y信号を直接用いる方法がある。この方法は、撮像部12から出力される信号を直接用いることができるので簡便であり、且つ検体液の色によらないので汎用性に優れる。
【0046】
また、Y信号に替えて、YUV形式のU信号及びV信号のうちいずれか一つの信号、又はYCbCr形式のCb信号及びCr信号のうちいずれか一つの信号を用いることもでき、また、撮像部12からRGB(R:赤色成分、G:緑色成分、B:青色成分)形式又はRaw(Raw image format)形式の画像信号が出力される場合に、RGB形式のR信号、G信号、及びB信号のうちいずれか一つの信号、又はRaw形式のR信号、G信号、及びB信号のうちいずれか一つの信号を用いることもできる。この方法は、検体液が着色されている場合に、検体液の色に対して感度の高い色成分の信号を用いることにより、既展開領域A1と未展開領域A2との境界B1に対応する輝度段差Δを拡大でき、輝度段差Δの検出精度を高めることができるので、検体液が着色されている場合に好適である。
【0047】
なお、Y信号、U信号、V信号、Cb信号、Cr信号、R信号、G信号、B信号の各信号を単独で使用する場合に、信号の0を黒色とし、1を白色とする。
【0048】
長手方向xの輝度変化は、長手方向xに延びる任意の一つの画素列の輝度値に基づいて生成されてもよいが、好ましくは、短手方向yに延びる画素列毎の輝度値の平均値に基づいて生成される。平均値を用いることにより、例えば試験片1、カートリッジ7等に付着したゴミに起因するノイズを低減することができる。
【0049】
図8に示す輝度変化率は、図7の輝度情報から生成される輝度変化率であり、試験片1の長手方向xの輝度変化率を示している。試験片1の滴下部2をx=0とし、x=0,1,2・・・1023の位置の画素の輝度値をY,Y,Y・・・Y1023とした場合に、あるx=n(ただし、n=m+1、m>1の整数)における輝度変化率Zは、例えば式(1)によって求めることができる。Z=Y−(Yn−m+Yn−m+1+・・・+Yn−1)/m・・・(1)
さらに、Z〜Zn−l(ただし、l>1の整数であり、n>l)の中央値ZZを求め、このZZを判定用の輝度変化率として採用することにより、ノイズを低減することができる。なお、xの値域は撮像部12の画素分解能に応じて変更され、上記の例ではx方向の分解能が1024画素の場合である。また、mの値は、撮像部12の分解能や感度に応じて適宜設定可能である。
【0050】
境界Bに対応する輝度段差Δは、輝度変化率において正側に凸となるピークPとなって表れる。例えば、検体液が滴下された試験片1を実際に免疫検査装置10で撮像して得たピークPの輝度変化率(絶対値)の実験値と、既展開領域A1及び未展開領域A2の輝度変化率(絶対値)の実験値との間で第1閾値TVを設定しておき、輝度変化率(絶対値)が第1閾値TV以上である輝度段差を検出し、第1閾値TV以上である輝度段差が存在する場合に、検体液が試験片1に滴下されているものと判定することができる。
【0051】
第1閾値TVの設定例を以下に示す。まず、試験片1の画像の数値化にY信号を用い、試験片1の白色部分に対応する10X10画素の輝度平均値を1とする。そして、式(1)のm、lをそれぞれm=5、l=5として、検体液が滴下されている試験片1の輝度変化率ZZを求めたところ、ピークPの輝度変化率の最大値(絶対値)は約0.035であり、既展開領域A1及び未展開領域A2の輝度変化率の最大値(絶対値)は0.005であったとする。この場合に、第1閾値TVは(0.035−0.005)/2=0.015とすることができる。なお、第1閾値TVは、必ずしも上式によって設定される必要はなく、既展開領域A1及び未展開領域A2の輝度変化率のバラつきを考慮した上で、ピークPの輝度変化率と既展開領域A1及び未展開領域A2の輝度変化率との間で適宜設定可能である。
【0052】
図9は、輝度段差に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定する場合の、制御部15が実行する判定処理のフローを示す。
【0053】
検体液が試験片1に滴下された後に直ちに分析が開始されるものとして、制御部15は、分析開始指示が入力されると、分析開始から所定の判定時間tの経過を計時する(ステップS1)。所定の判定時間tは、試験片1に滴下された検体液が試験片1を流れきるのに要する時間よりも短い時間であり、例えば30秒〜1分30秒とすることができる。
【0054】
所定の判定時間経過後、制御部15は、撮像部12に試験片1を撮像させる(ステップS2)。そして、制御部15は、ステップS2にて取得された試験片1の画像(判定用画像)を用い、この判定用画像の長手方向xの輝度変化率を取得し(ステップS3)、判定用画像に設定される判定領域の輝度変化率に基づいて、検体液が滴下されているか否かを判定する(ステップS4)。
【0055】
ここで判定領域は、判定用画像の全域に設定されてもよいし、判定時間tが経過した時点で境界Bに対応する輝度段差Δの存在が予測される領域を少なくとも含んだ判定用画像の一部の領域に設定されてもよい。判定領域が判定用画像の一部の領域に設定される場合に、上記ステップS3において、判定領域の輝度変化率のみを取得するようにしてもよい。判定領域が判定用画像の一部の領域に設定されることにより、制御部15にかかる処理負荷を軽減することができる。
【0056】
検体液が滴下されているか否かの判定において、制御部15は、輝度変化率が第1閾値TV以上である輝度段差Δが存在しない場合に、検体液が滴下されていないものと判定し(ステップS5)、報知部13に判定結果を報知させる(ステップS6)。一方、輝度変化率が第1閾値TV以上である輝度段差Δが存在する場合には、制御部15は、検体液が滴下されているものと判定し(ステップS7)、判定処理に続けて分析処理を実行する。
【0057】
判定処理に続く分析処理では、制御部15は、分析開始から所定の反応時間tの経過を計時する(ステップS8)。所定の反応時間tは、抗原を所定の濃度で含む検体液が水平に置かれた試験片1に流れた場合に、反応部4が検出に十分な強度で呈色する時間であり、例えば20分とすることができる。
【0058】
所定の反応時間経過後、制御部15は、撮像部12に試験片1を撮像させる(ステップS9)。そして、制御部15は、ステップS8にて取得された試験片1の画像(分析用画像)を用いて、反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色強度を数値化した輝度情報を生成する(ステップS10)。
【0059】
そして、制御部15は、ステップS10にて生成した輝度情報に基づいて反応部4(判定ライン5及びコントロールライン6)の呈色強度を検出し(ステップS11)、検出された呈色強度から得られる分析結果(検体液中の抗原の検出結果又は定量結果、及び検体液が試験片1に適切に流れたこと)を報知部13に報知させる(ステップS12)。
【0060】
このように、試験片1の判定用画像の判定領域に表れる輝度段差に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定することにより、反応部4のコントロールライン6の呈色が検出可能となる所定の反応時間tの経過を待たずに、早期に検体液の滴下忘れを報知することが可能となる。そして、滴下忘れの状態で分析が進められた場合の無駄を排し、分析作業の効率化を図ることができる。また、試験片1の判定用画像と、分析用画像とを、共通の撮像部12によって取得するので、免疫検査装置10の小型化及び低コスト化を図ることもできる。
【0061】
コントロールライン6の呈色が検出可能となる所定の反応時間tの経過を待たずに、早期に検体液の滴下忘れを報知する観点から、判定領域が画像の一部の領域に設定される場合に、好ましくは、判定領域は、画像中のコントロールライン6よりも、試験片1を流れる検体液の流れの上流側に設定される。図5に示すように、判定領域Rがコントロールライン6よりも上流側に設定されることにより、検体液の流れの先端、すなわち境界Bが早期に判定領域Rに達し、これにより、分析開始から判定用画像が取得されるまでの判定時間tを短縮して、さらに早期に検体液の滴下忘れを報知することができる。
【0062】
なお、上記の判定処理において、所定の判定時間tが経過する以前に検体液が試験片1を流れきり、境界Bが試験片1から消失してしまう場合がある。このような場合として、免疫検査装置10の設置状況に起因して試験片1の長手方向xが水平に対して傾き、試験片1を流れる検体液の流れの下流側が相対的に下側に配置され、検体液の流れが速くなる場合が例示される。逆に、試験片1を流れる検体液の流れの下流側が相対的に上側に配置される場合には、検体液の流れが遅くなり、判定時間tが経過した時点で境界Bが試験片1に生じない可能性がある。これらの場合に対し、例えば試験片1の長手方向xの水平に対する傾きを検出するセンサを設け、センサによって検出される傾きに応じて判定時間tを変更するようにしてもよい。
【0063】
具体的には、試験片1の長手方向xが水平である場合の判定時間tを基準とし、試験片1を流れる検体液の流れの下流側が相対的に下側に配置される傾きである場合には判定時間tを短縮し、試験片1を流れる検体液の流れの下流側が相対的に上側に配置される傾きである場合には判定時間tを延長すればよい。これにより、試験片1の長手方向xの水平に対する傾きにかかわらず、境界Bを試験片1の画像に収め、検体液が滴下されているか否かを適切に判定することができる。
【0064】
ただし、試験片1の長手方向xの水平に対する傾きが過大である場合、すなわち検体液の流れが過度に速いか又は過度に遅い場合などであって、試験片1の長手方向xの水平に対する傾きに応じて判定時間tを変更したとしても境界Bを試験片1の画像に収めることができない場合に、輝度段差を検出する上記の判定方法では検体液が滴下されているか否かの判定に支障が生じる虞がある。
【0065】
また、試験片1の短手方向yが水平に対して傾き、検体液が試験片1の短手方向yの片側に片寄って流れた場合に、図10に示すように、境界Bが試験片1の短手方向yに対して傾斜する場合がある。輝度段差の検出に用いられる輝度情報、すなわち試験片1の長手方向xの輝度変化は、好ましくは、短手方向yに延びる画素列毎の輝度値の平均値に基づいて生成されるが、境界Bが短手方向yに対して傾斜している場合に、境界Bに対応する輝度段差の輝度及び輝度変化率が、平均化によって実際の輝度及び輝度変化率よりも小さくなる可能性がある。この場合に、輝度変化率が第1閾値TV以上である輝度段差を検出する上記の判定方法において、検体液が滴下されているか否かの判定に支障が生じる虞がある。
【0066】
以下に説明する判定方法は、試験片1の画像において輝度値が第2閾値以下である暗画素を検出し、暗画素の数に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定するものである。
【0067】
図11は、試験片1の画像を輝度によって数値化した輝度情報であり、試験片1の長手方向xに延びる一つの画素列に含まれる各画素の輝度値を示している。そして、図中、実線は、検体液が滴下されている場合の輝度情報を示し、一点鎖線は、検体液が滴下されていない場合の輝度情報を示している。
【0068】
検体液が滴下されていない場合の試験片1は白色であり、その輝度情報によって示される各画素の輝度値は総じて高い値となっている。一方、検体液が滴下されている場合の試験片1では、検体液が僅かでも流れることによって、色調が相対的に暗い既展開領域A1が広がり、その輝度情報によって示される各画素の輝度値のうち既展開領域A1に対応する画素の輝度値は、相対的に低い値となっている。
【0069】
検体液が滴下されていない場合の試験片1の輝度値の実験値と、既展開領域A1の輝度値の実験値との間で第2閾値TVを設定しておき、輝度値が第2閾値TV以下である暗画素を検出し、暗画素の画素数が所定数以上である場合に、既展開領域A1が存在している、すなわち検体液が試験片1に滴下されているものと判定することができる。
【0070】
第2閾値TVの設定例を以下に示す。x=n、y=pの位置の画素の輝度をY(n、p)とし、Y(n−q、p−q)〜Y(n+q、p+q)の中央値、すなわち座標(n、p)を中心とした2q×2qの領域における輝度の中央値をYY(n、p)とし、輝度の最大値を1とする。検体液が滴下されていない試験片1のYY(n、p)の最小値が0.94であり、検体液が滴下されている試験片1の既展開領域A1のYY(n、p)の最大値が0.72であった場合に、第2閾値TVは(0.94+0.72)/2=0.83とすることができる。なお、第2閾値TVは、必ずしも上式により設定される必要はなく、検体液が滴下されていない場合のYY(n、p)の最小値と検体液が滴下されている場合のYY(n、p)の最大値との間で適宜設定可能であり、上記の例において、第2閾値TVを0.83よりも大きな値(例えば0.88)とすれば、暗画素の検出精度を高めることが可能である。
【0071】
図12は、暗画素の画素数に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定する場合の、制御部15が実行する判定処理のフローを示す。
【0072】
制御部15は、分析開始指示が入力されると、分析開始から所定の判定時間tの経過を計時する(ステップS21)。所定の判定時間tは、輝度段差を検出する上記の判定処理に用いられた判定時間tと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0073】
所定の判定時間経過後、制御部15は、撮像部12に試験片1を撮像させる(ステップS22)。制御部15は、ステップS2にて取得された試験片1の画像(判定用画像)を用い、この判定用画像の各画素の輝度値を取得する(ステップS23)。
【0074】
そして、制御部15は、ステップS23にて取得した判定用画像の各画素の輝度値に対して第2閾値TVを適用することにより、判定用画像に設定される判定領域内の暗画素を検出し、検出した暗画素の画素数nに基づいて、検体液が滴下されているか否かを判定する(ステップS24)。判定領域は、判定用画像の全域に設定されてもよいし、判定用画像の一部の領域に設定されてもよく、判定領域が判定用画像の一部の領域に設定される場合に、好ましくは画像中のコントロールライン6よりも、試験片1を流れる検体液の流れの上流側に設定される。
【0075】
検体液が滴下されているか否かの判定において、暗画素の画素数nが所定数N未満である場合に、制御部15は、検体液が滴下されていないものと判定し(ステップS25)、報知部13に判定結果を報知させる(ステップS26)。一方、暗画素の画素数nが所定数N以上である場合には、制御部15は、検体液が滴下されているものと判定し(ステップS27)、判定処理に続けて分析処理を実行する。
【0076】
所定数Nは特に限定されず、例えばN=1であってもよいが、好ましくは、所定数Nは複数である。試験片1、カートリッジ7等に付着したゴミに起因するノイズが暗画素として検出される可能性があり、また、撮像部12の光源21のセッティングに起因する試験片1上の照明ムラが暗画素として検出される可能性もあるが、所定数Nを複数とすることによって、ノイズ、照明ムラ等の影響を低減し、判定精度を高めることができる。
【0077】
判定処理に続く分析処理は、図9に示したステップS8〜ステップS12と同一であるので、説明を省略する。
【0078】
このように、試験片1の判定用画像の判定領域に含まれる暗画素の画素数に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定することにより、反応部4のコントロールライン6の呈色が検出可能となる所定の反応時間tの経過を待たずに、早期に検体液の滴下忘れを報知することが可能となる。そして、滴下忘れの状態で分析が進められた場合の無駄を排し、分析作業の効率化を図ることができる。さらに、暗画素は、検体液が試験片1を僅かでも流れることによって試験片1の判定用画像に生じ、また、検体液が試験片1を流れきった場合にも試験片1の判定用画像に生じていることから、試験片1の長手方向xの水平に対する傾きにかかわらず、検体液が滴下されているか否かを安定して判定することができる。
【0079】
なお、明画素を検出することによっても、検体液が滴下されているか否かを判定することができる。
【0080】
再び、図11を参照して、検体液が滴下されている場合の試験片1の輝度情報によって示される各画素の輝度値のうち、既展開領域A1に対応する画素の輝度値は相対的に低い値となっており、未展開領域A2に対応する画素の輝度値は相対的に高い値となっている。そして、時間の経過に伴い検体液が流れると、既展開領域A1は拡大していき、逆に未展開領域A2は縮小していく。
【0081】
既展開領域A1の輝度値の実験値と、未展開領域A2の輝度値の実験値との間で第3閾値TVを設定しておき、適宜な時間間隔で取得された複数枚の判定用画像毎に輝度値が第3閾値TV以上である明画素を検出し、複数枚の判定用画像それぞれの明画素の画素数が、画像の取得順に減少している場合に、未展開領域A2が縮小している、すなわち検体液が試験片1に滴下されているものと判定することができる。
【0082】
第3閾値TVの設定例を以下に示す。x=n、y=pの位置の画素の輝度をY(n、p)とし、Y(n−q、p−q)〜Y(n+q、p+q)の中央値、すなわち座標(n、p)を中心とした2q×2qの領域における輝度の中央値をYY(n、p)とし、輝度の最大値を1とする。検体液が滴下されていない試験片1、すなわち未展開領域A2のYY(n、p)の最小値が0.94であり、検体液が滴下されている試験片1の既展開領域A1のYY(n、p)の最大値が0.72であった場合に、第3閾値TVは(0.94+0.72)/2=0.83とすることができる。なお、第3閾値TVは、必ずしも上式により設定される必要はなく、検体液が滴下されていない場合のYY(n、p)の最小値と検体液が滴下されている場合のYY(n、p)の最大値との間で適宜設定可能であり、上記の例において、第3閾値TVを0.83よりも小さな値(例えば0.78)とすれば、明画素の検出精度を高めることが可能である。
【0083】
そして、j枚(ただし、j>1の整数)の画像を取得し、各画像の明画素の数をaとして、aj−1−a>α(α>0の整数)が常に成り立つ場合に、明画素の画素数が画像の取得順に減少していると判断することができる。好ましくは、jは3以上であり、また、αは撮像部12の欠陥画素を含めたノイズに基づいて適宜設定でき、例えばj=5、α=10とすることができる。
【0084】
図13は、明画素の画素数に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定する場合の、制御部15が実行する判定処理のフローを示す。なお、以下では、二枚の判定用画像を取得するものとして説明するが、判定用画像は二枚に限定されず、三枚以上の複数枚であってもよい。
【0085】
制御部15は、分析開始指示が入力されると、分析開始から所定の判定時間tの経過を計時する(ステップS31)。所定の判定時間tは、輝度段差を検出する上記の判定処理に用いられた判定時間tと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0086】
所定の判定時間経過後、制御部15は、撮像部12に試験片1を撮像させる(ステップS32)。そして、制御部15は、ステップS32にて取得された試験片1の画像(第1判定用画像)を用い、この第1判定用画像の各画素の輝度値を取得する(ステップS33)。
【0087】
そして、制御部15は、ステップS33にて取得した第1判定用画像の各画素の輝度値に対して第3閾値TVを適用することにより、第1判定用画像に設定される判定領域内の明画素を検出し、検出した明画素の画素数n1をカウントする(ステップS34)。判定領域は、判定用画像の全域に設定されてもよいし、判定用画像の一部の領域に設定されてもよく、判定領域が判定用画像の一部の領域に設定される場合に、好ましくは画像中のコントロールライン6よりも、試験片1を流れる検体液の流れの上流側に設定される。
【0088】
また、制御部15は、ステップS32にて撮像部12に試験片1を撮像させた後、適宜な時間間隔(例えば5秒)をあけて、再び撮像部12に試験片1を撮像させる(ステップS35)。制御部15は、ステップS35にて取得された試験片1の画像(第2判定用画像)を用い、この第2判定用画像の各画素の輝度値を取得する(ステップS36)。
【0089】
そして、制御部15は、ステップS36にて取得した第2判定用画像の各画素の輝度値に対して第3閾値TVを適用することにより、第2判定用画像に設定される判定領域内の明画素を検出し、検出した明画素の画素数n2をカウントする(ステップS37)。なお、第2判定用画像に設定される判定領域は、第1判定用画像に設定された判定領域と同じとする。
【0090】
制御部15は、ステップS34にてカウントした第1判定用画像の明画素の画素数nと、ステップS37にてカウントした第2判定用画像の明画素の画素数nとに基づいて、検体液が滴下されているか否かを判定する(ステップS38)。
【0091】
検体液が滴下されているか否かの判定において、第2判定用画像の明画素の画素数nが第1判定用画像の明画素の画素数n以上、すなわち減少していない場合に、制御部15は、検体液が滴下されていないものと判定し(ステップS39)、報知部13に判定結果を報知させる(ステップS40)。一方、第2判定用画像の明画素の画素数nが第1判定用画像の明画素の画素数nより小さい、すなわち減少している場合には、制御部15は、検体液が滴下されているものと判定し(ステップS41)、判定処理に続けて分析処理を実行する。
【0092】
判定処理に続く分析処理は、図9に示したステップS8〜ステップS12と同一であるので、説明を省略する。
【0093】
このように、試験片1の判定用画像の判定領域に含まれる明画素の画素数に基づいて検体液が滴下されているか否かを判定することにより、反応部4のコントロールライン6の呈色が検出可能となる所定の反応時間tの経過を待たずに、早期に検体液の滴下忘れを報知することが可能となる。そして、滴下忘れの状態で分析が進められた場合の無駄を排し、分析作業の効率化を図ることができる。さらに、複数枚の判定用画像間における明画素の画素数の減少は、暗画素として検出され得るノイズ、照明ムラ等には影響されないので、検体液が滴下されているか否かを安定して判定することができる。
【0094】
ここまで、輝度段差を検出する判定方法、暗画素を検出する判定方法、及び明画素を検出する判定方法の各判定方法を個別に説明したが、複数の判定方法を組み合わせてもよい。
【0095】
図14に示す例は、図9に示した輝度段差を検出する判定方法と、図12に示した暗画素を検出する判定方法とを組み合わせたものである。制御部15は、判定用画像の輝度変化率に基づいて、検体液が滴下されているか否かを判定し(ステップS4)、輝度変化率が第1閾値TV以上である輝度段差Δが判定用画像に存在しない場合(ステップS4−No)には、さらに、判定用画像の暗画素を検出して、暗画素の画素数nに基づいて、検体液が滴下されているか否かを判定する(ステップS24)。そして、暗画素の画素数nが所定数N未満である場合に、検体液が滴下されていないものと判定する(ステップS25)。このように、複数の判定方法を組み合わせることにより、検体液が滴下されていないと判定する場合の判定精度を高めることができる。
【0096】
図14に示した例では、輝度段差を検出する判定方法と暗画素を検出する判定方法とが組みわされているが、輝度段差を検出する判定方法と明画素を検出する判定方法とが組み合わされてもよいし、暗画素を検出する判定方法と明画素を検出する判定方法とが組み合わされてもよいし、輝度段差を検出する判定方法と暗画素を検出する判定方法と明画素を検出する判定方法とが組み合わされてもよい。
【0097】
以上、説明したとおり、本明細書に開示された免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、を備え、上記判定部は、上記画像中に設定される判定領域において、上記クロマトグラフィー試験片の長手方向の輝度変化率を取得し、上記輝度変化率の絶対値が第1閾値以上である輝度段差が存在する場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【0098】
また、本明細書に開示された免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、を備え、上記判定部は、上記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第2閾値以下である暗画素を検出し、上記暗画素が所定数以上存在する場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【0099】
また、本明細書に開示された免疫検査装置は、検体液が滴下され且つ滴下された上記検体液が長手方向に流されるクロマトグラフィー試験片を撮像し、得られた画像に基づいて上記検体液を分析する免疫検査装置であって、上記クロマトグラフィー試験片を撮像する撮像部と、上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を報知する報知部と、を備え、上記判定部は、複数枚の上記画像毎に、上記画像中に設定される判定領域において、輝度値が第3閾値以上である明画素を検出し、上記画像それぞれの上記明画素の画素数が上記画像の取得順に減少している場合に、上記検体液が滴下されたものと判定する。
【0100】
また、上記クロマトグラフィー試験片は、上記検体液との接触によって呈色する反応部を有するものであり、上記判定領域は、上記画像中の上記反応部よりも、上記クロマトグラフィー試験片を流れる上記検体液の流れの上流側に設定される。
【0101】
また、上記判定部は、上記検体液の分析に用いられる分析用画像の取得タイミングより前のタイミングで上記撮像部によって取得された画像に基づいて上記クロマトグラフィー試験片に対する上記検体液の滴下の有無を判定する。
【0102】
また、上記撮像部は、上記分析用画像を取得する。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、クロマトグラフィー試験片に対する検体液の滴下忘れを早期に報知可能な免疫検査装置を提供することができる。
【0104】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。本出願は、2017年2月14日出願の日本特許出願(特願2017−025362)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 クロマトグラフィー試験片
2 滴下部
3 展開部
4 反応部
5 判定ライン
6 コントロールライン
7 カートリッジ
10 免疫検査装置
11 操作部
12 撮像部
13 報知部
14 記憶部
15 制御部
20 設置部
21 光源
22 撮像素子
23 画像処理部
24 分析部
25 判定部
a 抗原
b 標識抗体
ab 抗原抗体複合物
c 第1捕捉抗体
d 第2捕捉抗体
A1 既展開領域
A2 未展開領域
B 境界
n 画素数
N 所定数
n1 画素数
n2 画素数
P ピーク
R 判定領域
判定時間
反応時間
判定時間
判定時間
TV 第1閾値
TV 第2閾値
TV 第3閾値
x 長手方向
Y 短手方向
Δ 輝度段差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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図14