特許第6765107号(P6765107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6765107イリジウム錯体の製造方法、イリジウム錯体ならびに該化合物からなる発光材料
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  • 特許6765107-イリジウム錯体の製造方法、イリジウム錯体ならびに該化合物からなる発光材料 図000058
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765107
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】イリジウム錯体の製造方法、イリジウム錯体ならびに該化合物からなる発光材料
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20200928BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20200928BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20200928BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200928BHJP
【FI】
   C07F15/00 ECSP
   C09K11/06 660
   H05B33/14 B
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2018-549044(P2018-549044)
(86)(22)【出願日】2017年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2017039582
(87)【国際公開番号】WO2018084189
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2016-215037(P2016-215037)
(32)【優先日】2016年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】今野 英雄
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/073246(WO,A1)
【文献】 HOHENLEUTNER,A. et al.,ADVANCED FUNCTIONAL MATERIALS,2012年,Vol.22,p.3406-3413
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
H01L
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(8)で表されるトリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法であって、
【化51】
(環A〜環Cは、各々独立に、ピリジン環またはイソキノリン環を表す。R〜Rは、環A〜環Cの環構造に含まれる原子に結合する基または原子を表す。R〜Rは、それぞれのベンゼン環構造に含まれる炭素原子に結合する基または原子を表す。Rは、下記一般式(2−2)および(3)〜(7)の何れかで表される置換基である。Rは、水素原子を表す。R〜RおよびR〜Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、またはハロゲン原子を表す。隣り合ったR〜RおよびR〜Rは、各々結合して縮合環を形成しても良い。R〜Rを有するフェニル基とRは、同一の基ではない。)
【化52】
(R〜R27およびR38〜R42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、またはハロゲン原子を表す。隣り合ったR〜R27およびR38〜R42は、各々結合して縮合環を形成しても良い。)
下記一般式(18)で表されるトリスシクロメタル化イリジウム錯体とハロゲン化剤とを反応させ、該トリスシクロメタル化イリジウム錯体のイリジウムと結合するベンゼン環の炭素原子から数えてパラ位へハロゲン原子を導入する工程(1)と、
【化53】
(環A〜環Cは、各々独立に、ピリジン環またはイソキノリン環を表す。R〜Rは、環A〜環Cの環構造に含まれる原子に結合する基または原子を表す。R〜Rは、それぞれのベンゼン環構造に含まれる炭素原子に結合する基または原子を表す。RおよびRは、水素原子を表す。R〜RおよびR〜Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、またはハロゲン原子を表す。隣り合ったR〜RおよびR〜Rは、各々結合して縮合環を形成しても良い。)
前記工程(1)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体のハロゲン原子をボロン酸エステルに変換する工程(2)と、
前記工程(2)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体と一般式(19)〜(24)の何れかで表される有機ハロゲン化合物とをクロスカップリング反応させ、炭素−炭素結合を形成する工程(3)とを、
【化54】
(Xはハロゲン原子を表す。R〜R27およびR38〜R42は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、またはハロゲン原子を表す。隣り合ったR〜R27およびR38〜R42は、各々結合して縮合環を形成しても良い。)
順次含むことを特徴とするトリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法。
【請求項2】
下記一般式(9)、(10)、(13)の何れかで表されることを特徴とするイリジウム錯体。
【化55】
【化56】
(環A〜環Cは、各々独立に、ピリジン環またはイソキノリン環を表す。R〜Rは、環A〜環Cの環構造に含まれる原子に結合する基または原子を表す。R〜Rは、それぞれのベンゼン環構造に含まれる炭素原子に結合する基または原子を表す。R〜R、R〜R14、およびR21〜R27は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、またはハロゲン原子を表す。隣り合ったR〜R、R〜R14、およびR21〜R27は、各々結合して縮合環を形成しても良い。R〜Rを有するフェニル基とRは、同一の基ではない。)
【請求項3】
〜Rが、水素原子、アルキル基、または、アリール基であることを特徴とする請求項に記載のイリジウム錯体。
【請求項4】
水素原子であることを特徴とする請求項2または3に記載のイリジウム錯体。
【請求項5】
〜Rが、すべて水素原子であることを特徴とする請求項からの何れかに記載のイリジウム錯体。
【請求項6】
請求項からの何れかに記載のイリジウム錯体を含むことを特徴とする発光材料。
【請求項7】
請求項に記載の発光材料を含むことを特徴とする有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子や発光センサー等の発光材料として好適に用いられるイリジウム錯体の製造方法と、当該製造方法で得られる新規イリジウム錯体ならびに該化合物からなる発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電界発光素子はテレビや携帯電話のディスプレイとして注目されており、今後の実用化に向けて発光効率の向上が強く求められている。有機電界発光素子に用いられる発光材料は、励起一重項状態からの発光を利用する蛍光材料と、励起三重項状態からの発光を利用する燐光材料に大きく分類できる。励起一重項状態からの発光を用いる場合、一重項励起子と三重項励起子との生成比が1:3であるため発光性励起子の生成確率が25%であるとされている。また、光の取り出し効率が約20%であるため、外部取り出し量子効率の限界は5%とされている。一方で、さらに励起三重項状態も利用できると、内部量子効率の上限が100%となるため、励起一重項状態のみを用いる場合に比べて原理的に発光効率が4倍となる。したがって、有機電界発光素子の発光材料として、燐光材料が活発に研究されている。
【0003】
これまで燐光材料としてシクロメタル化イリジウム錯体が知られている。その中でも特に、シクロメタル化された芳香族複素環配位子を3つ有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体は、強固なイリジウム−炭素結合を3つ有することから熱安定性が高く、耐久性に優れた燐光材料である。
【0004】
このようなトリスシクロメタル化イリジウム錯体の例として、特許文献1には、3つのシクロメタル化された芳香族複素環配位子が全て同じ構造のイリジウム錯体が開示されている(化1)。特許文献2には、シクロメタル化された芳香族複素環配位子の構造が1つだけ異なったイリジウム錯体が開示されている(化2)。非特許文献1には、3つのシクロメタル化された芳香族複素環配位子の構造が全て異なったイリジウム錯体が開示されている(化3)。
【0005】
【化1】
【0006】
【化2】
【0007】
【化3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2000/070655号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/028151号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Helv.Chim.Acta,2014年,97巻,939−956頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまで、芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体を、従来公知の製造方法を用いて、収率良く合成することは困難であった。例えば、本発明者の知見によれば、トリス(2,4−ペンタンジオナト)イリジウム(III)と3つの異なった芳香族複素環配位子とを同時に反応させると、多様な生成物が生成するため、所望とするイリジウム錯体を単離することが極めて困難である。
【0011】
一方、非特許文献1では、芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体(化3)を下記工程(A)〜(E)からなる方法で製造可能なことが開示されている。
【0012】
工程(A):3塩化イリジウムと2種類の異なった芳香族複素環配位子を反応させ、塩素架橋イリジウムダイマー混合物を得る。
【化4】
【0013】
工程(B):工程(A)で得られた塩素架橋イリジウムダイマー混合物とアセチルアセトンを反応させ、3種類のイリジウム錯体混合物(B−1)〜(B−3)を得る。
【化5】
【0014】
工程(C):工程(B)で得られた3種類のイリジウム錯体混合物をカラムクロマトグラフィーにより分離精製し、イリジウム錯体(B−1)を単離する。
【0015】
工程(D):工程(C)で得られたイリジウム錯体(B−1)と塩酸を反応させ、塩素架橋イリジウムダイマーを得る。
【化6】
【0016】
工程(E):工程(D)で得られた塩素架橋イリジウムダイマーと2−フェニルピリジンを反応させ、シクロメタル化された芳香族複素環配位子の構造が全て異なった所望のトリスシクロメタル化イリジウム錯体を得る。
【化7】
【0017】
以上、説明してきた非特許文献1に記載の製造方法では、工程(B)で得られた3種類のイリジウム錯体(B−1)〜(B−3)のうち、芳香族複素環配位子の構造が異なったイリジウム錯体(B−1)を単離する必要がある。しかし、工程(B)で得られる3種類のイリジウム錯体の極性が類似している場合、所望とするイリジウム錯体を分離精製することが極めて難しい。つまり非特許文献1に記載のイリジウム錯体の製造方法は、工程(B)で生成する3種類のイリジウム錯体の極性に大きな違いがある場合にしか適用できない本質的な問題が存在する。さらに、工程(E)では、200℃もの高温で反応させるため、配位子のスクランブリングが生じやすく、所望とするイリジウム錯体を単離することが困難になる可能性がある。
【0018】
現在、有機電界発光素子の分野において、発光特性に優れた燐光材料の開発が渇望されているが、これまで、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の分子設計指針としては、前述したようにシクロメタル化された芳香族複素環配位子の構造が全て同じイリジウム錯体、または、シクロメタル化された芳香族複素環配位子の構造が1つだけ異なったイリジウム錯体にほぼ限定されていた。もし、芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体を効率よく製造することができれば、燐光材料の分子設計の範囲は格段に広がるが、その実現は極めて困難であった。
【0019】
本発明の目的は、有機電界発光素子や発光センサー等に好適に用いられる、芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体を効率よく製造する方法と、本発明の製造方法で得られる新規イリジウム錯体ならびに該化合物を用いた発光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記実状に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、従来は合成が困難であった芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体について、従来法より効率良く合成可能な、汎用性の高い製造方法を開発するに至った。そして実際に、本発明の製造方法を用いて、優れた発光特性を示す新規骨格のイリジウム錯体を種々製造できることを実証し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
【0022】
<1> イリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する芳香族複素環配位子を3つ有し、かつ、該芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法であって、
イリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体とハロゲン化剤とを反応させ、該トリスシクロメタル化イリジウム錯体へハロゲン原子を導入する工程(1)と、
前記工程(1)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体のハロゲン原子をボロン酸エステルに変換する工程(2)と、
前記工程(2)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体と有機ハロゲン化合物とをクロスカップリング反応させ、炭素−炭素結合を形成する工程(3)とを、
順次含むことを特徴とするトリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法。
<2> 前記工程(1)におけるハロゲン原子の導入が、イリジウムと結合するベンゼン環の炭素原子から数えてパラ位で行われることを特徴とする前記1に記載のイリジウム錯体の製造方法。
<3> 前記工程(1)におけるハロゲン原子の導入が、構造が同一の2つの芳香族複素環配位子の何れか一方で行われることを特徴とする前記1または2に記載のイリジウム錯体の製造方法。
<4> 前記工程(1)で用いるトリスシクロメタル化イリジウム錯体において、イリジウムと結合するベンゼン環の炭素原子から数えてパラ位の1つまたは2つが、アルキル基、アリール基、または、複素環基の何れかで置換されていることを特徴とする前記1から3の何れかに記載のイリジウム錯体の製造方法。
<5> 前記、芳香族複素環配位子が、2−フェニルピリジン、1−フェニルイソキノリン、2−フェニルキノリン、2−フェニルイミダゾール、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール、3−フェニル−1,2,4−トリアゾール、1−フェニルピラゾール、2−フェニルピラジン、2−フェニルピリミジン、4−フェニルピリミジン、3−フェニルピリダジン、ベンゾ[h]キノリン、ジベンゾ[f,h]キノキサリン、2,3−ジフェニルキノキサリン、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジンから選ばれ、当該配位子はアルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基で置換されていても良いことを特徴とする前記1から4の何れかに記載のイリジウム錯体の製造方法。
<6> 下記一般式(1)で表されることを特徴とするイリジウム錯体。
【化8】
(一般式(1)中、Irはイリジウム原子を表し、Nは窒素原子を表す。環A、環B、環Cは、各々独立に、5員環または6員環の含窒素複素環を表す。R〜Rは環A〜環Cの環構造に含まれる原子にそれぞれ結合する基又は原子を表し、また、R〜Rはそれぞれのベンゼン環の環構造に含まれる3つの炭素原子にそれぞれ結合する基又は原子を表す。それぞれの環構造に含まれる原子に結合するR〜Rのそれぞれ、および、R〜Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは、一般式(2)〜(7)の何れかで表される置換基であり、かつ、R≠R≠Rである。また、R〜RおよびR〜Rの隣り合った基同士は各々結合して縮合環を形成しても良い。)
【化9】
(一般式(2)〜(7)中、Nは窒素原子を表す。R〜R27は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。また、R〜R27の隣り合った基同士は各々結合して縮合環を形成しても良い。)
<7> 一般式(8)〜(15)の何れかで表されることを特徴とする前記6に記載のイリジウム錯体。
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
(一般式(8)〜(15)中、それぞれの環構造に含まれる原子に結合するR〜Rのそれぞれ、および、R〜R37は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。また、R〜RおよびR、Rの隣り合った基同士、及び、R〜R37の隣り合った基同士は各々結合して縮合環を形成しても良い。但し、R〜Rを有するフェニル基、R、および、Rは同一の基ではなく、また、R〜Rを有するフェニル基、R28〜R32を有するフェニル基、および、R33〜R37を有するフェニル基は同一の基ではない。)
<8> 環A、環B、環Cが、各々独立に、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノキサリン環、イミダゾール環、または、トリアゾール環であることを特徴とする前記6または7に記載のイリジウム錯体。
<9> 環A、環B、環Cが、各々独立に、ピリジン環、キノリン環、または、イソキノリン環であることを特徴とする前記6から8の何れかに記載のイリジウム錯体。
<10> R〜Rが、水素原子、アルキル基、または、アリール基であることを特徴とする前記6から9の何れかに記載のイリジウム錯体。
<11> R〜Rのうち、何れか1つが水素原子であることを特徴とする前記6から10の何れかに記載のイリジウム錯体。
<12> R〜Rが、すべて水素原子であることを特徴とする前記6から11の何れかに記載のイリジウム錯体。
<13> 前記6から12の何れかに記載のイリジウム錯体を含むことを特徴とする発光材料。
<14> 前記13に記載の発光材料を含むことを特徴とする有機発光素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、有機電界発光素子などの燐光材料として好適に用いることが可能な、3つの芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体の新たな製造方法が提供される。当該製造方法を用いて発光特性に優れた新規イリジウム錯体を提供することができる。
【0024】
また、本発明の製造方法で製造された新規なイリジウム錯体は、溶媒に対する溶解性が高く加工性に優れ、かつ、室温下で可視光領域に強い発光を示すことから、各種用途の発光素子材料として好適に用いることができる。また該化合物を用いた発光素子は、可視光領域に高輝度発光を示すことから、表示素子、ディスプレイ、バックライトまたは照明光源などの分野に用いるのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明化合物(K−34)のTHF中、アルゴン雰囲気下での発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの
記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々
の変形をしてもよい。
【0027】
本発明の一般式の説明における水素原子は同位体(重水素原子等)も含み、またさらに置換基を構成する原子は、その同位体も含んでいることを表す。
【0028】
まず、一般式(1)〜(15)中に記載した記号(Ir、N、環A、環B、環C、R〜R、R〜R37)について以下に説明する。
【0029】
一般式(1)〜(15)中に記載した同じ記号については、同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0030】
Irはイリジウム原子を表し、Nは窒素原子を表す。
【0031】
環A、環B、環Cは、各々独立に、5員環または6員環の含窒素複素環を表し、6員環の含窒素複素環であることが好ましい。環A、環B、環Cは同一でも異なっても良く、同一であることが好ましい。ここで同一とは、同じ骨格の含窒素複素環であることを意味しており、含窒素複素環についた置換基は考慮しない。
【0032】
環A、環B、環Cは、具体的には、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノキサリン環、ベンゾキノリン環、ベンゾキノキサリン環、ジベンゾキノリン環、ジベンゾキノキサリン環、フェナントリジン環、テトラゾール環、イミダゾール環、または、トリアゾール環が好ましく、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノキサリン環、イミダゾール環、または、トリアゾール環がより好ましく、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、または、トリアゾール環が特に好ましく、ピリジン環、または、イソキノリン環がさらに特に好ましく、ピリジン環が最も好ましい。
【0033】
環A、環B、環Cは、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基で置換されていても良く、これらの置換基は上記置換基でさらに置換されても良い。上記置換基としては、アルキル基、アリール基、または、複素環基が好ましく、アルキル基、または、アリール基がより好ましく、アルキル基が特に好ましい。
すなわち、一般式(1)において、環A〜環Cの環構造に含まれる原子にそれぞれ結合する基又は原子を表すR〜Rのそれぞれは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。この中でも、R〜Rは、水素原子、アルキル基、または、アリール基であることが好ましく、水素原子、または、アルキル基であることがより好ましい。これらの置換基は、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基でさらに置換されていても良い。
【0034】
また、一般式(1)において、それぞれのベンゼン環の環構造に含まれる3つの炭素原子にそれぞれ結合する基又は原子を表すRd〜Rのそれぞれは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。この中でも、R〜Rは、水素原子、アルキル基、または、アリール基であることが好ましく、水素原子、または、アルキル基であることがより好ましく、すべて水素原子であることが特に好ましい。これらの置換基は、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基でさらに置換されていても良い。
【0035】
〜Rは、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表す。但し、R〜Rのうち少なくとも1つは、前記一般式(2)〜(7)の何れかで表される置換基である。R〜Rのうち少なくとも1つは、一般式(2)〜(4)、または、(7)であることが好ましく、一般式(2)〜(4)であることがより好ましく、一般式(2)であることが特に好ましい。
【0036】
但し、R〜Rは、R≠R≠Rである。R≠R≠Rは、R〜Rが各々同一の基ではないことを意味する。例えば、R〜Rが一般式(2)で表される基である場合、その置換基のR〜Rの何れかが異なれば同一の基ではない。
【0037】
〜Rの何れか1つが、水素原子、またはハロゲン原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。特に、Rが、水素原子であることが好ましい。
【0038】
また、R〜RおよびR〜Rの隣り合った基同士は各々結合して縮合環を形成しても良い。
【0039】
〜R37は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子を表し、水素原子、アルキル基、または、アリール基が好ましい。これらの置換基は、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基でさらに置換されていても良い。また、R〜R37の隣り合った基同士は各々結合して縮合環を形成しても良い。
【0040】
本明細書中のアルキル基は、置換基の炭素数は含めないで、炭素数1〜30であることが好ましく、炭素数1〜20がより好ましく、炭素数1〜10が特に好ましく、炭素数1〜6がより特に好ましい。
【0041】
本明細書中のアルキル基として、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、ネオペンチル基、1−メチルペンチル基、1−ペンチルヘキシル基、1−ブチルペンチル基、1−ヘプチルオクチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、または、3,5−テトラメチルシクロヘキシル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、または、1−メチルペンチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0042】
本明細書中のアリール基は、置換基の炭素数は含めないで、炭素数6〜30であることが好ましく、炭素数6〜20がより好ましく、炭素数6〜15が特に好ましく、炭素数6〜12がより特に好ましい。
【0043】
本明細書中のアリール基として、好ましくは、フェニル基、ビフェニル−2−イル基、ビフェニル−3−イル基、ビフェニル−4−イル基、p−ターフェニル−4−イル基、p−ターフェニル−3−イル基、p−ターフェニル−2−イル基、m−ターフェニル−4−イル基、m−ターフェニル−3−イル基、m−ターフェニル−2−イル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基、p−(2−フェニルプロピル)フェニル基、4’−メチルビフェニルイル基、4”−t−ブチル−p−ターフェニル−4−イル基、o−クメニル基、m−クメニル基、p−クメニル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、メシチル基、m−クウォーターフェニル基、1−ナフチル基、または、2−ナフチル基であり、より好ましくは、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、または、メシチル基であり、特に好ましくはフェニル基またはp−トリル基である。
【0044】
本明細書中の複素環基は、置換基の炭素数は含めないで、炭素数1〜30であることが好ましく、炭素数1〜20がより好ましく、炭素数1〜10が特に好ましく、炭素数1〜6がより特に好ましい。
【0045】
本明細書中の複素環基として、好ましくは、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基、ピラジル基、ピリダジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基、ジベンゾチエニル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンズオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、カルバゾリル基、または、アゼピニル基であり、より好ましくは、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基、ピラジル基、ピリダジル基、または、ジベンゾチエニル基であり、特に好ましくは、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基、または、ジベンゾチエニル基であり、さらに特に好ましくは、ピリミジル基、または、ジベンゾチエニル基である。
【0046】
本明細書中のアルキルシリル基は、置換基の炭素数は含めないで、炭素数1〜30であることが好ましく、炭素数1〜20がより好ましく、炭素数1〜10が特に好ましく、炭素数1〜6がより特に好ましい。
【0047】
本明細書中のアルキルシリル基として、好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルフェニル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基であり、より好ましくは、トリイソプロピルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基である。
【0048】
本明細書中のハロゲン原子は、好ましくは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、より好ましくは臭素原子またはヨウ素原子であり、特に好ましくは臭素原子である。
【0049】
以下、本発明が係るイリジウム錯体の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0050】
本発明に係るイリジウム錯体の製造方法は、以下に詳述する工程(1)〜工程(3)を順次含むことを特徴とする。
【0051】
工程(1)は、イリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体とハロゲン化剤とを反応させ、トリスシクロメタル化イリジウム錯体へハロゲン原子を導入することを特徴とする。
【0052】
前記工程(1)における、2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法については、WO2012/166608、特開2011−68634、WO2013/098177、特開2016−145216、特開2016−121160、特開2015−134823、特開2013−147497、特開2013−028604、WO2013/137162、特開2014−234360などに記載があり、適宜必要な方法を採用すれば良い。
【0053】
前記工程(1)における、2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体は一般式(16)または(17)で表されることが好ましい。一般式(16)はフェイシャル体であり、一般式(17)はメリジオナル体である。前記工程(1)ではフェイシャル体を用いることが特に好ましい。
【化14】
(一般式(16)、(17)中、Yはイリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する芳香族複素環配位子を表し、Zはイリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する芳香族複素環配位子を表す。但し、Y≠Zである。)
【0054】
前記工程(1)における、芳香族複素環配位子としては、2−フェニルピリジン、1−フェニルイソキノリン、2−フェニルキノリン、2−フェニルイミダゾール、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール、3−フェニル−1,2,4−トリアゾール、1−フェニルピラゾール、2−フェニルピラジン、2−フェニルピリミジン、4−フェニルピリミジン、3−フェニルピリダジン、ベンゾ[h]キノリン、ジベンゾ[f,h]キノキサリン、2,3−ジフェニルキノキサリン、または、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジンが好ましく、2−フェニルピリジン、1−フェニルイソキノリン、2−フェニルキノリン、2−フェニルイミダゾール、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール、3−フェニル−1,2,4−トリアゾール、または、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジンがより好ましく、2−フェニルピリジン、1−フェニルイソキノリン、または、2−フェニルキノリンが特に好ましく、2−フェニルピリジンが最も好ましい。これらの芳香族複素環配位子は、アルキル基、アリール基、複素環基、アルキルシリル基、または、ハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの基で置換されていても良く、これらの置換基は上記置換基でさらに置換されても良い。
【0055】
前記工程(1)における、トリスシクロメタル化イリジウム錯体へのハロゲン原子の導入は、WO2015/141603、WO2009/073245、特開2014−205643などに記載の方法を参考にして行うことができる。以下に反応例を示す。
【化15】
【化16】
【0056】
前記工程(1)におけるハロゲン原子の導入は、イリジウム−炭素結合を形成している芳香族複素環配位子のベンゼン環部位で行われ、その位置がイリジウムと結合する炭素原子から数えてパラ位であることが好ましい。
【0057】
前記工程(1)におけるハロゲン原子の導入は、構造が同一の2つの芳香族複素環配位子(一般式(16)または(17)のY)で行われることが好ましく、構造が同一の2つの芳香族複素環配位子(一般式(16)または(17)のY)の何れか一方で行われることがより好ましい。
【0058】
前記工程(1)で用いるトリスシクロメタル化イリジウム錯体において、イリジウムと結合するベンゼン環上の炭素原子から数えてパラ位(1つまたは2つ、好ましくは1つ)が、アルキル基、アリール基、または、複素環基で置換されていることが好ましく、アリール基で置換されていることがより好ましい。さらに、上記置換基で置換されている芳香族複素環配位子は、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の1つだけ異なっている芳香族複素環配位子(一般式(16)または(17)のZ)であることがより好ましい。このように、芳香族複素環配位子Zの上記パラ位が上記置換基で置換されていることにより、イリジウム錯体におけるハロゲン原子の導入部位が、一般式(16)または(17)のYの上記パラ位に制約され、これにより、生成したイリジウム錯体の精製が容易になることが明らかになった。
【0059】
一方、前記工程(1)で用いるトリスシクロメタル化イリジウム錯体において、イリジウムと結合するベンゼン環上の炭素原子から数えてパラ位(1つまたは2つ、好ましくは1つ)が、アルキル基、アリール基、または、複素環基で置換されていないケースでは、下記に示すように、ハロゲン化される芳香族複素環配位子の種類が複数存在するため、多様なイリジウム錯体が得られる。したがって、前記工程(1)で用いるトリスシクロメタル化イリジウム錯体において、イリジウムと結合するベンゼン環上の炭素原子から数えてパラ位(1つまたは2つ、好ましくは1つ)が、アルキル基、アリール基、または、複素環基で置換されているケースと比較して、後述する工程(2)または(3)において、所望とするイリジウム錯体の分離精製にはより多くの時間がかかる。
【化17】
【0060】
前記工程(1)に用いるハロゲン化剤としては、ヨウ素化剤、臭素化剤、または、塩素化剤が好ましく、ヨウ素化剤、または、臭素化剤がより好ましく、臭素化剤が特に好ましい。
【0061】
前記工程(1)で用いるヨウ素化剤としては、例えば、N−ヨードスクシンイミド(NIS)、1,3−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン(DIH)などが好ましく用いられる。
【0062】
前記工程(1)で用いる臭素化剤としては、例えば、N−ブロモスクシンイミド(NBS)、ジブロモイソシアヌル酸(DBI)、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインなどが好ましく用いられる。
【0063】
前記工程(1)で用いる塩素化剤としては、例えば、N−クロロスクシンイミド(NCS)、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどが好ましく用いられる。
【0064】
前記工程(1)においては、イリジウム−窒素結合およびイリジウム−炭素結合を形成する2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体を用いることが特徴であり、トリスシクロメタル化イリジウム錯体がフェイシャル体である場合、工程(1)により、例えば、下記に示すように新たな幾何異性体が生成する。このように、本発明の製造工程(1)によれば、2種類の異なった芳香族複素環配位子を有するトリスシクロメタル化イリジウム錯体とハロゲン化剤を反応させることにより、新たな幾何異性体を製造することができる。
【化18】
【0065】
工程(2)は、前記工程(1)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体のハロゲン原子をボロン酸エステルに変換することを特徴とする。
【0066】
前記工程(2)における、トリスシクロメタル化イリジウム錯体上のハロゲン原子からボロン酸エステルへ変換については、WO2015/141603、WO2009/073246、特開2014−139193などに記載の方法を参考にして行うことができる。以下に代表的な反応例を示す。
【化19】
【0067】
前記工程(2)において、ハロゲン原子が複数導入されたトリスシクロメタル化イリジウム錯体を用いると、ボロン酸エステルが複数導入されたイリジウム錯体が生成する可能性がある。シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いてボロン酸エステルが1つ導入されたトリスシクロメタル化イリジウム錯体を分離精製することが可能である。
【0068】
工程(3)は、前記工程(2)で製造したトリスシクロメタル化イリジウム錯体と有機ハロゲン化合物とをクロスカップリング反応させ、炭素−炭素結合を形成することを特徴とする。
【0069】
前記工程(3)における、トリスシクロメタル化イリジウム錯体とハロゲン化合物とをクロスカップリング反応させる方法は、いわゆる鈴木カップリング反応と言われており、例えば、WO2015/141603、WO2009/073246、特開2014−139193などに記載の方法を用いることができる。
【0070】
前記工程(3)における、有機ハロゲン化合物としては、ハロゲン化アリール化合物、ハロゲン化アルキル化合物、ハロゲン化複素環化合物などがあり、当該ハロゲンとしてはヨウ素、臭素、または、塩素が好ましく、ヨウ素、または、臭素がより好ましい。
【0071】
以下に工程(3)の代表的な反応例を示す。
【0072】
【化20】
【0073】
本発明に係るイリジウム錯体は、通常の合成反応の後処理に従って処理した後、必要があれば精製してあるいは精製せずにその後の利用に供することができる。後処理は、例えば、抽出、冷却、水若しくは有機溶媒を添加することによる晶析、または反応混合物からの溶媒を留去する操作などの方法を単独あるいは組み合わせて行うことができる。精製は、再結晶、蒸留、昇華またはカラムクロマトグラフィーなどの方法を単独あるいは組み合わせて行うことができる。
【0074】
以下、本発明の製造方法で得られる新規イリジウム錯体について、詳細に説明する。
【0075】
本発明の製造方法で得られるイリジウム錯体は、一般式(1)で表されることが好ましい。その中でも、一般式(8)〜(15)の何れかで表されるイリジウム錯体が好ましく、一般式(8)〜(10)、(13)〜(15)の何れかで表されるイリジウム錯体がより好ましく、一般式(9)、(10)、(13)〜(15)の何れかで表されるイリジウム錯体が特に好ましい。
【0076】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体の中でも、室温下、溶液中での発光量子収率が、0.1以上であるものが好ましく、0.5以上であるものがより好ましく、0.85以上であるものが特に好ましい。
【0077】
溶液中の発光量子収率の測定は、溶存酸素を取り除くため、イリジウム錯体が溶解した溶液にアルゴンガスもしくは窒素ガスを通気した後に行うか、または、発光材料が溶解した溶液を凍結脱気した後に行うのが良い。発光量子収率の測定法としては、絶対法または相対法のどちらを用いてもよい。相対法においては、標準物質(キニン硫酸塩など)との発光スペクトルの比較によって、発光量子収率を測定することができる。絶対法においては、市販の装置(例えば、浜松ホトニクス株式会社製、絶対PL量子収率測定装置(C9920−02))を用いることで、溶液中での発光量子収率の測定が可能である。溶液中での発光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係わるイリジウム錯体は、任意の溶媒のいずれかにおいて上記発光量子収率が達成されればよい。
【0078】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体の中でも、室温下、溶液中における発光スペクトルの半値幅が、75.0nm以下であるものが好ましく、72.5nm以下であるものがより好ましく、70.0nm以下であるものが特に好ましく、68.0nm以下であるものがさらに特に好ましい。発光スペクトルの半値幅が狭いと、特にディスプレイ用途の燐光材料として有用である。
【0079】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体は8面体6配位錯体であり、幾何異性体としてフェイシャル体とメリジオナル体とが存在する。
【0080】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体はフェイシャル体であることが好ましい。本発明に係るイリジウム錯体にはフェイシャル体が50%以上含まれていることが好ましく、80%以上含まれていることがより好ましく、90%以上含まれていることが特に好ましく、99%以上含まれていることがより特に好ましい。なおフェイシャル体またはメリジオナル体については、例えば、カラムクロマトグラフィーや再結晶などの手法を用いて分離精製することが可能であり、NMR、質量分析またはX線結晶構造解析などで同定することができる。またその含有率についてはNMRまたはHPLCで定量することができる。
【0081】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体のメリジオナル体、もしくはメリジオナル体を含む溶液に光照射し、フェイシャル体へ異性化させることも好ましい。
【0082】
本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体は、3つの異なる芳香族複素環配位子を有することから、フェイシャル体とメリジオナル体の他に、さらなる幾何異性体を有する。本発明の製造方法では、前述したように工程(1)において2種類の幾何異性体が生成し、工程(2)および工程(3)では、おそらく2種類の幾何異性体は互いに異性化することなく、最終的に2種類の幾何異性体が得られる。例えば、以下に示す本発明化合物(K−40)のフェイシャル体には、幾何異性体1と幾何異性体2がある。本発明に係る一般式(1)で表されるイリジウム錯体を実際に合成すると、これら幾何異性体の混合物として得られることが明らかになった(実施例参照)。本発明のイリジウム錯体は、このような構造的特徴により、溶媒に対する溶解性が良好であり、また結晶化が抑制されるという実用的に優れた特徴を有する。
【化21】
【0083】
さらに、同じシクロメタル化配位子を3つ有するホモレプティックなトリスシクロメタル化イリジウム錯体は対称性が高いため固体状態での結晶性が良く、そのため錯体同士を結び付けるエネルギーが大きく、昇華性が低くなる問題があった。一方、一般式(1)で表される本発明のイリジウム錯体は、対称性が低いため固体状態での結晶性が低く、錯体同士を結び付けるエネルギーが小さくなり、昇華性も向上する傾向にある。
【0084】
以上、述べてきたように、本発明に係るイリジウム錯体の製造方法によって、3つの芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体を簡便に効率よく製造することが可能である。また、本発明の方法によって製造されたイリジウム錯体は真空蒸着法やスピンコート法等によって、発光素子の発光層もしくは発光層を含む複数の有機化合物層に含有させることで、可視光領域に優れた発光を示す発光素子が得られる。さらに、本発明のイリジウム錯体を発光素子に用いることで、膜質の変化(例えば、材料の結晶化)が抑制され、安定で長寿命な発光素子が得られる。
【0085】
一般式(8)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化22に示す。
【化22】
【0086】
一般式(9)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化23に示す。
【化23】
【0087】
一般式(10)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化24に示す。
【化24】
【0088】
一般式(11)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化25に示す。
【化25】
【0089】
一般式(12)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化26に示す。
【化26】
【0090】
一般式(13)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化27に示す。
【化27】
【0091】
一般式(14)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化28に示す。
【化28】
【0092】
一般式(15)で表わされるイリジウム錯体の代表例を化29に示す。
【化29】
【実施例】
【0093】
次に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0094】
実施例1(本発明化合物(K−40)の合成)
【0095】
<ステップ1 化合物Aの合成>
【化30】
化合物(1)2.0g、トリフルオロメタンスルホン酸銀1.06g、ジクロロメタン110ml、メタノール2.5mlをアルゴン雰囲気下、25℃で17時間撹拌させた。反応終了後に、反応溶液をセライト層に通して不溶物を除去した。ろ液を濃縮乾固することで、化合物(A)を収率99%で得た。
【0096】
<ステップ2 化合物Bの合成>
【化31】
化合物(A)2.64g、配位子(L−1)2.27g、メタノール60ml、エタノール60mlを、アルゴン雰囲気下、75℃で72時間加熱反応させた。反応終了後、反応溶液を室温まで冷却し、析出した固体をろ取し、メタノールで洗浄した。さらに、この固体をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒)で分離精製し、化合物(B)を収率40.9%で得た。化合物(B)のH−NMRデータを以下に示す。化合物(B)はフェイシャル体であった。
H−NMR(400MHz/アセトン−d):δ(ppm) 8.28(d,1H),8.09(m,3H),7.79(m,5H),7.69(m,3H),7.56(d,2H),7.20(d,2H),7.09(m,4H),6.92(m,5H),6.84(m,2H),2.32(s,3H).
【0097】
<ステップ3 化合物Cの合成>
【化32】
化合物(B)670mgとジクロロメタン100mlの混合物を、遮光下で0℃に冷却した。この溶液にN−ブロモスクシンイミド160mgを加え、室温下で17時間撹拌させた。反応終了後、ジクロロメタンを減圧留去し固体を得た。この固体をHPLCで分析したところ、所望とする化合物(C)のほか、化合物(B)と化合物(D)が含まれていることが明らかになった。その割合は、化合物(B)12%、化合物(C)78%、化合物(D)10%であった。これ以上の精製は行わずに、次のステップ4ではこの混合物のまま用いた。
【0098】
<ステップ4 化合物Eの合成>
【化33】
ステップ3で得られた化合物(C)1.05g、ビス(ピナコラト)ジボロン635mg、酢酸カリウム1.1g、1,4−ジオキサン50ml、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド ジクロロメタン付加物(Pd(dppf)Cl・CHCl)153mg、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)104mgをアルゴン雰囲気下で17時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し不溶物を除去した。ろ液を減圧濃縮し固体を得た。これをさらに、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で分離精製し、幾何異性体の混合物からなる目的化合物(E)を510mg得た。収率は84%であった。化合物(E)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(400MHz/アセトン−d):δ(ppm) 8.26(dd,1H),8.08−8.13(m,3H),8.03(s,1H),7.74−7.80(m,4H),7.62−7.68(m,3H),7.52−7.55(m,2H),7.17(d,2H),7.03−7.10(m,5H),6.80−6.98(m,4H),6.73(dd,1H),2.31(s,3H),1.29(s,12H).
ESI−MS:m/z=871.8([M+H]
【0099】
<ステップ5 化合物(K−40)の合成>
【化34】
ステップ4で得られた化合物(E)250mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)24mg、リン酸カリウム183mg、1−ブロモ−3,5−ジメチルベンゼン160mg、トルエン40ml、水4mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)5.2mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−40)を90mg得た。収率は37%であった。本発明化合物(K−40)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.25−8.29(m,2H),8.10(d,1H),8.03−8.05(m,2H),7.62−7.81(m,7H),7.53−7.56(m,2H),7.26(s,2H),7.18(dd,2H),7.02−7.08(m,5H),6.91−6.97(m,4H),6.83(t,1H),6.73(t,1H),2.30(d,9H).
ESI−MS:m/z=850.8([M+H]
【0100】
実施例2(本発明化合物(K−39)の合成)
【化35】
化合物(E)150mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)14mg、リン酸カリウム110mg、1−ブロモ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン116mg、トルエン40ml、水4mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)3.1mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−39)を30mg得た。収率は20%であった。本発明化合物(K−39)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.34(d,1H),8.29(dd,1H),8.17(t,1H),8.13(d,1H),8.05(dd,1H),7.89(dd,2H),7.68−7.85(m,10H),7.53−7.56(m,2H),7.01−7.20(m,7H),6.84−6.94(m,3H),6.72−6.76(m,1H),2.31(d,3H).
ESI−MS:m/z=889.8([M+H]
【0101】
実施例3(本発明化合物(K−41)の合成)
【化36】
化合物(E)300mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)28mg、リン酸カリウム220mg、5’−ブロモ−4,4”−ジイソプロピル−1,1−3’,1”−ターフェニル406.2mg、トルエン50ml、水5mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)6.2mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−41)を180mg得た。収率は48.6%であった。本発明化合物(K−41)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.37−8.40(m,1H),8.25−8.31(m,2H),8.10−8.13(m,1H),8.05−8.07(m,1H),7.87−7.88(m,2H),7.69−7.83(m,12H),7.54−7.56(m,2H),7.34−7.37(m,4H),7.17−7.24(m,3H),6.92−7.12(m,7H),6.83−6.86(m,1H),6.73−6.77(m,1H),2.93−3.00(m,2H),2.31(s,3H),1.28(dd,12H).
ESI−MS:m/z=1057.9([M+H]
【0102】
実施例4(本発明化合物(K−16)の合成)
【化37】
化合物(E)360mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)34mg、リン酸カリウム263mg、5−ブロモ−2−tert−ブチルピリミジン267mg、トルエン50ml、水5mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)7.5mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−16)を180mg得た。収率は50.0%であった。本発明化合物(K−16)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.98(d,2H),8.39(d,1H),8.29(dd,1H),8.16−8.17(m,1H),8.10−8.13(m,1H),8.06−8.07(m,1H),7.69−7.88(m,7H),7.54−7.56(m,2H),7.02−7.20(m,8H),6.85−6.94(m,3H),6.72−6.77(m,1H),2.31(d,3H),1.39(d,9H).
ESI−MS:m/z=880.3([M+H]
【0103】
実施例5(本発明化合物(K−34)の合成)
【化38】
化合物(E)200mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)19mg、リン酸カリウム146mg、4−ブロモジベンゾチオフェン182mg、トルエン40ml、水4mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)4.1mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−34)を70mg得た。収率は32.9%であった。本発明化合物(K−34)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.19−8.33(m,5H),8.10−8.15(m,1H),8.06(dd,1H),7.91−7.95(m,1H),7.74−7.85(m,6H),7.70(dd,1H),7.55−7.57(m,4H),7.47−7.50(m,2H),6.95−7.20(m,10H),6.84−6.87(m,1H),6.75−6.80(m,1H),2.31(s,3H).
ESI−MS:m/z=928.2([M+H]
【0104】
実施例6(本発明化合物(K−10)の合成)
【化39】
化合物(E)150mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)14.1mg、リン酸カリウム101mg、2−ブロモ−4,6−ジフェニルピリミジン161mg、トルエン40ml、水4mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)3.1mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−10)を11mg得た。収率は5.9%であった。本発明化合物(K−10)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ9.11(dd,1H),8.46−8.49(m,4H),8.28−8.32(m,3H),8.05−8.13(m,3H),7.71−7.88(m,7H),7.53−7.59(m,8H),7.05−7.21(m,7H),6.92−7.00(m,2H),6.82−6.89(m,1H),6.72−6.79(m,1H),2.31(d,3H).
ESI−MS:m/z=975.9([M+H]
【0105】
実施例7(本発明化合物(K−46)の合成)
【0106】
<ステップ1 化合物(K−42)の合成>
【化40】
化合物(K−41)50mgとジクロロメタン15mlの混合物を、0℃まで冷却した。この反応溶液に遮光下でN−ブロモスクシンイミド13.5mgを加え、25℃で17時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を減圧留去し固体を得た。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン)にて分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−42)を得た。
【0107】
<ステップ2 化合物(K−46)の合成>
【化41】
化合物(K−42)54mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)156mg、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(20%水溶液)245mg、ボロン酸エステル化合物(BE−1)156mg、THF3mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)6mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−46)を16mg得た。収率は24.4%であった。化合物(K−46)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(アセトン−d,400MHz):δ8.38−8.46(m,2H),8.30−8.35(m,3H),8.10(s,1H),7.90−7.92(m,4H),7.79−7.82(m,2H),7.74−7.77(m,14H),7.57(d,2H),7.52(d,4H),7.36(d,4H),7.26−7.30(m,2H),7.06−7.20(m,9H),2.93−2.99(m,2H),2.31(s,3H),1.36(s,18H),1.28(d,12H).
ESI−MS:m/z=1398.6([M+H]
【0108】
実施例8(本発明化合物(K−11)の合成)
【化42】
化合物(E)200mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)19mg、リン酸カリウム146mg、2−ブロモ−4,6−ジ−ターシャルブチルピリミジン156mg、トルエン50ml、水5mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)4.2mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:THFとヘキサンの混合溶媒)により精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−11)を1mg得た。本発明化合物(K−11)のESI−MSデータを以下に示す。
ESI−MS:m/z=936.3([M+H]
【0109】
実施例9(本発明化合物(K−44)の合成)
【0110】
<ステップ1 化合物Gの合成>
【化43】
化合物(F)300mgとジクロロメタン150mlの混合物を、遮光下で0℃に冷却した。この溶液にN−ブロモスクシンイミド57.5mgを加え、室温下で17時間撹拌させた。反応終了後、ジクロロメタンを減圧留去し固体を得た。この固体をHPLCで分析したところ、所望とする化合物(G)のほか、化合物(F)が含まれていることが明らかになった。その割合は、化合物(F)50%、化合物(G)50%であった。これ以上の精製は行わずに、次のステップ2ではこの混合物のまま用いた。
【0111】
<ステップ2 化合物Hの合成>
【化44】
ステップ1で得られた化合物(G)を全量と、ビス(ピナコラト)ジボロン165mg、酢酸カリウム286mg、1,4−ジオキサン60ml、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド ジクロロメタン付加物(Pd(dppf)Cl・CHCl)49mg、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)27mgをアルゴン雰囲気下で17時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し不溶物を除去した。ろ液を減圧濃縮し固体を得た。これをさらに、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で分離精製し、幾何異性体の混合物からなる目的化合物(H)を60mg得た。収率は35%であった。化合物(H)のESI−MSデータを以下に示す。
ESI−MS:m/z=1052.5([M+H]
【0112】
<ステップ3 化合物(K−44)の合成>
【化45】
化合物(H)80mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)6.2mg、リン酸カリウム42mg、5’−ブロモ−4,4”−ジイソプロピル−1,1−3’,1”−ターフェニル90mg、トルエン20ml、水2mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)1.4mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−44)を60mg得た。収率は64%であった。本発明化合物(K−44)のESI−MSデータを以下に示す。
ESI−MS:m/z=1238.6([M+H]
【0113】
実施例10(本発明化合物(K−43)の合成)
【0114】
<ステップ1 化合物Jの合成>
【化46】
化合物(I)940mgとジクロロメタン940mlの混合物を、遮光下で0℃に冷却した。この溶液にN−ブロモスクシンイミド198mgを加え、室温下で17時間撹拌させた。反応終了後、ジクロロメタンを減圧留去し固体を得た。この固体をHPLCで分析したところ、所望とする化合物(J)のほか、化合物(I)が含まれていることが明らかになった。その割合は、化合物(I)13%、化合物(J)87%であった。これ以上の精製は行わずに、次のステップ2ではこの混合物のまま用いた。
【0115】
<ステップ2 化合物Kの合成>
【化47】
ステップ1で得られた化合物(J)を全量と、ビス(ピナコラト)ジボロン565mg、酢酸カリウム983mg、1,4−ジオキサン150ml、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド ジクロロメタン付加物(Pd(dppf)Cl・CHCl)136mg、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)93mgをアルゴン雰囲気下で17時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し不溶物を除去した。ろ液を減圧濃縮し固体を得た。これをさらに、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)で分離精製し、幾何異性体の混合物からなる目的化合物(K)を370mg得た。収率は35%であった。化合物(K)のESI−MSデータを以下に示す。
ESI−MS:m/z=972.1([M+H]
【0116】
<ステップ3 化合物(K−43)の合成>
【化48】
化合物(K)370mg、SPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)31.2mg、リン酸カリウム66mg、5’−ブロモ−4,4”−ジイソプロピル−1,1−3’,1”−ターフェニル450mg、トルエン100ml、水10mlの混合物へ、アルゴンガスを30分間通気した後、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)7mgを加え、アルゴン雰囲気下で17時間、加熱還流した。その後、反応溶液を室温まで冷却し、反応溶液をセライト層に通してろ過し、不溶物を除去した。ろ液にジクロロメタンを加えて抽出し、有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により分離精製し、幾何異性体の混合物からなる本発明化合物(K−43)を70mg得た。収率は16%であった。本発明化合物(K−43)のH−NMRデータとESI−MSデータを以下に示す。
H−NMR(400MHz/アセトン−d):δ(ppm) 9.13−9.17(m,1H),8.99−9.03(m,1H),8.63(d,1H),8.22−8.32(m,2H),8.07(d,1H),7.85−7.94(m,4H),7.72−7.81(m,10H),7.58−7.65(m,2H),7.51−7.55(m,3H),7.43−7.47(m,1H),7.33−7.39(m,5H),7.10−7.29(m,5H),6.89−7.07(m,4H),6.75−6.83(m,1H),2.92−3.00(m,2H),2.29−2.30(m,3H),1.26−1.28(m,12H).
ESI−MS:m/z=1158.2([M+H]
【0117】
<比較例1> トリス(アセチルアセトナート)イリジウム(III)を用いた化合物(K−40)の合成
トリス(アセチルアセトナート)イリジウム(III)200mg、配位子(L−1)175mg、配位子(L−2)185mg、2−フェニルピリジン111mg、エチレングリコール5mlをアルゴン雰囲気下、210℃で17時間、加熱反応させた。反応溶液を室温まで冷却後、メタノールを加え析出した固体をろ取した。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタンとヘキサンの混合溶媒)により精製したが、多様な生成物の中から本発明化合物(K−40)を単離することはできなかった。
【化49】
【0118】
<比較例2> 非特許文献1に記載の方法による化合物(K−40)の合成
塩化イリジウム・3水和物300mg、配位子(L−1)314mg、配位子(L−2)331mg、2−エトキシエタノール6.3ml、水2.1mlをアルゴン雰囲気下、15時間、加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却後に析出した固体をろ取し、水とメタノールで洗浄した。さらに、この固体をジクロロメタンとメタノールで再結晶し、塩素架橋イリジウムダイマーの混合物401mgを得た。引き続いて、塩素架橋イリジウムダイマー混合物200mg、ナトリウムアセチルアセトナート167mg、2−エトキシエタノール40ml、アルゴン雰囲気下、17時間加熱還流させた。室温まで冷却後に反応溶液を減圧留去し、ここへ水を加え析出した固体をろ取し、水とメタノールで洗浄した。さらにこの固体をジクロロメタンとメタノールで再結晶し、黄色固体を得た。ここで得られた生成物には、化合物(A−1)、化合物(A−2)、化合物(A−3)などが含まれていた。この混合物をカラムクロマトグラフィーで分離精製したが、本発明化合物(K−40)の前駆体である化合物(A−3)を単離することができなかった。したがって、本発明化合物(K−40)を得ることはできなかった。
【化50】
【0119】
以上述べてきたように、従来法では合成が極めて困難であった、3つの芳香族複素環配位子の構造が全て異なったトリスシクロメタル化イリジウム錯体を、本発明の製造方法で簡便に幅広く合成することが可能になった。本発明の製造方法により、有機電界発光素子等に適用できるトリスシクロメタル化イリジウム錯体のバリエーションを大幅に増やし、燐光材料の開発とその実用化に貢献することが可能である。
【0120】
次に本発明の製造方法で合成した新規骨格のトリスシクロメタル化イリジウム錯体の発光特性について説明する。
【0121】
実施例11(本発明化合物(K−40)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−40)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:520.0nm)を示した。発光量子収率は0.89であった。発光スペクトルの半値幅は71.9nmであった。
【0122】
実施例12(本発明化合物(K−41)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−41)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:519.3nm)を示した。発光量子収率は0.88であった。発光スペクトルの半値幅は67.8nmであった。
【0123】
実施例13(本発明化合物(K−16)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−16)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:518.5nm)を示した。発光量子収率は0.89であった。発光スペクトルの半値幅は69.3nmであった。
【0124】
実施例14(本発明化合物(K−34)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−34)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:519.3nm)を示した。発光量子収率は0.88であった。発光スペクトルの半値幅は68.0nmであった。
【0125】
実施例15(本発明化合物(K−10)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−10)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:515.6nm)を示した。発光量子収率は0.87であった。発光スペクトルの半値幅は66.8nmであった。
【0126】
実施例16(本発明化合物(K−46)のTHF中での発光)
本発明化合物(K−46)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:520.8nm)を示した。発光量子収率は0.88であった。発光スペクトルの半値幅は70.7nmであった。
【0127】
比較例3(Ir(ppy)のTHF中での発光)
Ir(ppy)([化1]のイリジウム錯体)をTHFに溶解させ、アルゴンガスを通気した後、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置(C9920)を用いて、室温下での発光スペクトル(励起波長:350nm)を測定したところ、緑色発光(発光極大波長:514.8nm)を示した。発光量子収率は0.84であった。発光スペクトルの半値幅は72.7nmであった。
【0128】
次に本発明の製造方法で合成した新規骨格のトリスシクロメタル化イリジウム錯体の溶媒に対する溶解性について説明する。
【0129】
実施例17(本発明化合物の溶解性)
実施例1〜実施例6で合成した(K−40)、(K−39)、(K−41)、(K−16)、(K−34)、(K−10)の溶媒(クロロホルム、トルエン)に対する溶解性を確認するために、0.1wt%の溶液をそれぞれ作製し、目視により確認したところ、完全に溶解することがわかった。
【0130】
比較例4(比較化合物の溶解性)
Ir(ppy)の溶媒(クロロホルム、トルエン)に対する溶解性を確認するために、0.1wt%の溶液を作製し、目視により確認したところ、かなりの溶け残りが生じた。
【0131】
比較例5(比較化合物の溶解性)
実施例1のステップ2で合成した化合物(B)の溶媒(クロロホルム、トルエン)に対する溶解性を確認するために、0.1wt%の溶液を作製し、目視により確認したところ、かなりの溶け残りが生じた。
【0132】
実施例11〜16と比較例3より、本発明の一般式(1)で表されるイリジウム錯体はIr(ppy)よりも高い発光量子収率を示した。さらに、本発明の一般式(1)で表されるイリジウム錯体の発光スペクトルの半値幅は、Ir(ppy)よりも狭いことが明らかになった。本発明の一般式(1)で表されるイリジウム錯体は、本発明の製造方法により初めて合成された新規化合物であり、、Ir(ppy)よりも高発光効率でシャープな形状の発光スペクトルを示すことから、特にディスプレイ用途の燐光材料として有用である。
【0133】
さらに、実施例17と比較例4、5より、3つの芳香族複素環配位子の構造が全て異なった本発明のイリジウム錯体は、芳香族複素環配位子が全て同じ構造のイリジウム錯体(Ir(ppy))、ならびに、芳香族複素環配位子の構造が1つだけ異なったイリジウム錯体(化合物(B))より、溶媒に対する溶解性が優れていることがわかる。実施例17に記載の本発明のイリジウム錯体は、化合物(B)に置換基を導入することで合成されたものであり、3つの芳香族複素環配位子の構造が全て異なる構造的特徴により、溶媒に対し高い溶解性を示すことが明らかになった。
図1