【実施例】
【0058】
以下に実施例(調製例)を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例(調製例)の範囲に限定されない。
【0059】
調製例1(各種の塩基触媒を用いたRF樹脂の合成)
水40mL及びエタノール32mLの混合溶液に、レゾルシノール400mgとホルムアルデヒド612mg(R/Fモル比(R/F比ともいう)は約1/2)、及び表1に示す塩基触媒1.7mmolを加えた。
【0060】
Entry 1では塩基触媒としてNa
2CO
3(粉末0.5mg)を用いた。
【0061】
Entry 2では塩基触媒としてNH
3(28%水溶液を0.18mL)を用いた。
【0062】
この溶液をテフロン(登録商標)製容器(容量60cc)に入れ、容器をステンレス製オートクレーブにセットした。次いでオートクレーブを200℃に加熱したオーブンに入れて24時間放置(水熱処理)した。室温下で30分間放置して冷却した。
【0063】
【表1】
【0064】
Entry 1ではオートクレーブから取り出すと、赤色の塊状固体(ゲル)が得られた。この固体を乳鉢で粉砕後、得られた粉末をガラス製ソックスレー抽出器に入れた。アセトンを洗浄液としてセットし、70℃で加熱しながら24時間洗浄した。得られた粉末を、真空デシケータに入れ、室温下で乾燥させた。これにより、Entry 1のRF樹脂(光触媒)を得た。
【0065】
Entry 2ではオートクレーブから取り出すと、オレンジ色の懸濁液となっていた。この懸濁液をガラス製ソックスレー抽出器に入れた。アセトンを洗浄液としてセットし、70℃で加熱しながら24時間洗浄した。得られた粉末を、真空デシケータに入れ、室温下で乾燥させた。これにより、Entry 2のRF樹脂(光触媒)を得た。
【0066】
Entry 1, 2で得られた各RF樹脂のBET比表面積をBELSORP 18PLUS-SP analyzer (BEL Japan, Inc.)による窒素吸脱着測定(77K)により求めた。他の調製例についても同様である。結果を表1に示した。
【0067】
Entry 1, 2で得られた各RF樹脂をHitachi S-2250 microscopeを用いてSEM観察した。SEM観察の結果から各RF樹脂の粒子径が分かる。他の調製例についても同様である。
【0068】
Entry 1で得られたRF樹脂のSEM観察像を
図2に示す。
図2の左図はレンズ倍率600倍であり、右図はレンズ倍率800倍である。
図2によれば、10〜50μmの粒子径を有する粒子が得られたことが分かる。他方、Entry 2で得られたRF樹脂のSEM観察像を
図3に示す。
図3の左図はレンズ倍率600倍であり、右図はレンズ倍率800倍である。
図3によれば、1μm未満の粒子径を有する微粒子が得られたことが分かる。
(各RF樹脂の光触媒活性の評価)
ホウ珪酸ガラス製容器(容量50cc、内径3.5cm)に、純水(30ml)及び各光触媒50mg、並びにマグネチックスターラーバーを入れた。容器上部をラバーセプタムで栓をした。反応容器内を5分間超音波処理して各光触媒を溶液に分散させた。シリンジを差し込むことにより内部を酸素ガスで15分間パージした。
【0069】
反応容器をマグネチックスターラー上にセットしたパイレックス(登録商標)製ウォーターバスに入れ(298±0.5K)、攪拌しながら、側面からキセノンランプ(2kW、ウシオ電機製)により24時間光照射した。この際、色ガラスフィルターL42(アサヒテクノグラス製)を用い、420nm以上の光を照射した。420〜500nmの範囲における光強度は、520.6Wm
−2であった。
【0070】
反応終了後、ラバーセプタムを外し、懸濁液を遠心分離することにより、光触媒から溶液を回収した。
【0071】
溶液内のH
2O
2量を、電気化学アナライザー(ED723, GL Sciences Inc.)を検出器とするHPLC(Prominence UFLC, Shimadzu)により分析した。H
2O
2生成量に基づいて光触媒活性を評価した。他の調製例についても同様である。結果を表1に示した。
【0072】
表1の結果から、塩基触媒のNa
2CO
3とNH
3とを比較すると、NH
3を用いる方が粒子径が小さな(比表面積の大きい)RF樹脂が得られ易く、H
2O
2生成量の点で触媒活性が高いことが分かる。これは、NH
3を用いることにより、生成したRF樹脂の粒子表面が保護されて粒子成長が妨げられることにより微粒子が得られるためと推測される。
【0073】
調製例2(塩基触媒NH3の使用量を変えたRF樹脂の合成)
塩基触媒NH
3の使用量を変えて各RF樹脂(光触媒)を得た。
【0074】
なお、調製例2のEntry 2は調製例1のEntry 2と同じである。つまり、調製例2のEntry 1ではNH
3として28%水溶液を0.09mL使用した。また、調製例2のEntry 3ではNH
3として28%水溶液を0.36mL使用した。その他の条件は、調製例1のEntry 2と同じである。
【0075】
【表2】
【0076】
調製例1で説明したSEM観察により各RF樹脂の粒子径を調べて表2に示した。また、調製例1と同様に、各RF樹脂の光触媒活性を評価し、H
2O
2生成量を表2に示した。
【0077】
表2の結果から、Entry 2のNH
3の使用量の場合に最も光触媒活性が高いことが分かる。これは、NH
3の使用量が少な過ぎると粒子径が大きくなる傾向があり、NH
3の使用量が多過ぎると微粒子が生成する傾向があるが、RF樹脂中の架橋基の量が増えて疎水化し、RF樹脂が水に分散し難くなるためと推測される。
【0078】
調製例3(塩基触媒NH3を使用し、水/エタノール比を変えたRF樹脂の合成)
塩基触媒NH
3を使用し、水/エタノール比(容量比)を変えて各RF樹脂(光触媒)を得た。
【0079】
なお、調製例3のEntry 3は調製例1のEntry 2と同じであり、水/エタノール比は40/32である。つまり、調製例3のEntry 1, 2では水/エタノール比を順に、40/0、40/16に変えた。その他の条件は、調製例1のEntry 2と同じである。
【0080】
【表3】
【0081】
表3の結果から、水/エタノール混合溶液のエタノール量を減らすにつれて、RF樹脂の表面張力が大きくなり、粒子径が小さくなることが分かる。また、粒子径が小さくなるにつれて(比表面積が大きくなるにつれて)光触媒活性が高くなることが分かる。
【0082】
調製例4(塩基触媒NH3を使用し、R/F比を変えたRF樹脂の合成)
塩基触媒NH
3を使用し、R/F比を変えて各RF樹脂(光触媒)を得た。
【0083】
なお、調製例4のEntry 3は調製例1のEntry 2(R/F比が1/2)をベースとし、水/エタノール混合溶液を水(エタノール不使用)に変えた。調製例4のEntry 1, 2, 4, 5は更にR/F比を変えた。
【0084】
つまり、調製例4のEntry 1, 2, 4, 5では、R/Fを順に、1/1、1/1.5、1/2.5、及び1/3に変えた。その他の条件は、調製例1のEntry 2と同じである。
【0085】
【表4】
【0086】
表4の結果から、R/F比が大きくなるにつれて(ホルムアルデヒドに由来する架橋基の量が少なくなるにつれて)、RF樹脂の粒子径が小さくなるが、架橋基の量が少なくなり過ぎると却って光触媒活性は低下することが分かる。これは、架橋基の量が少なくなり過ぎると安定な樹脂が形成され難くなるためと推測される。
【0087】
調製例5(塩基触媒NH3を使用し、水熱処理温度を変えたRF樹脂の合成)
塩基触媒NH
3を使用し、水熱処理温度を変えて各RF樹脂(光触媒)を得た。
【0088】
なお、調製例5のEntry 3は調製例1のEntry 2(水熱処理温度200℃)をベースとし、水/エタノール混合溶液を水(エタノール不使用)に変えた。調製例5のEntry 1, 2, 4は更に水熱処理温度を変えた。
【0089】
つまり、調製例5のEntry 1, 2, 4では水熱処理温度を順に、100℃、150℃、250℃に変えた。その他の条件は、調製例1のEntry 2と同じである。
【0090】
【表5】
【0091】
調製例5のEntry 4で得られたRF樹脂のSEM観察像を
図4に示す。
図4の左図はレンズ倍率6000倍であり、右図はレンズ倍率20000倍である。また、調製例5のEntry 4で得られたRF樹脂のTEM観察像を
図5示す。
図5の左図及び右図はいずれもレンズ倍率60000倍である。TEM観察は、FEI Tecnai G2 20ST 電子顕微鏡(200kV)により行った。
【0092】
表5の結果から、水熱処理温度が高くなるにつれて、得られたRF樹脂の光触媒活性が高くなることが分かる。これは、水熱処理温度が高くなるにつれて、RF樹脂中に安定な電荷移動吸収帯が形成し易くなるためと推測される。
(調製例5のEntry 4で得たRF樹脂の太陽エネルギー変換効率の評価)
RF樹脂の太陽エネルギー変換効率(SCC efficiency(%))の算出は、ウシオ電機製ソーラーシミュレータ(SX-UID502XQ)により行った。
【0093】
具体的には、ホウ珪酸ガラス製容器(反応容器)(100cc、3.5cm内径)に純水(50mL)及びRF樹脂(250mg)を入れ、酸素ガス(1atm)を封入して光照射を行った。この際、アサヒテクノガラス製の色ガラスフィルターを装着し、λ>420nm以上の波長光を照射した。
【0094】
ソーラーシミュレータの光強度は、AM1.5 global spectrum〔American society for testing and materials (ASTM) terrestrial reference spectra for photovoltaic performance evaluation, National renewable energy laboratory (NREL)〕に準拠した条件に合わせた。
【0095】
反応容器をウォーターバスに入れ、反応溶液の温度を一定(25℃、40℃及び60℃の3態様)にして2時間光照射を行った。
【0096】
太陽エネルギー変換効率(SCC efficiency)は、次式を用いて算出した。
【0097】
【数1】
【0098】
太陽エネルギー変換効率の算出結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
表6の結果から、調製例5のEntry 4で得たRF樹脂は、太陽エネルギー変換効率0.39%以上の効率で過酸化水素を生成することが分かる。反応温度を増加させると、変換効率は上昇する。これは、反応温度の上昇によりRF樹脂の導電性が向上するため、高い光触媒活性が発現することに基づく。非特許文献4 Reijnders, L.; Huijbregts, M. Biofuels for Road Transport: A Seed to Wheel Perspective; Springer Science & Business Media: New York, 2008; pp 49-57. によれば、 天然光合成植物の太陽エネルギー変換効率は平均で約0.1%であり、RF樹脂は6倍以上高い太陽エネルギー変換効率を示すことが分かる。
【0101】
調製例6(フェノール又はフェノール誘導体を用いた光触媒の合成)
調製例5のEntry 3において、レゾルシノールに換えてm−アミノフェノール、m−クロロフェノール、m−メトキシフェノール、m−クレゾール、m−フェニレンジアミン、フェノールをそれぞれ用いて光触媒を合成した。
【0102】
得られた各光触媒(参考としてレゾルシノールを用いて合成した光触媒も含む)の光触媒活性を、調製例1で説明した方法(但し、420〜500nmの範囲における光強度は、260.0Wm
−2とした。)により評価した。
【0103】
フェノール及び各フェノール誘導体に対応する、光触媒活性(H
2O
2生成量)の結果を
図6に示す。
図6の結果から、フェノール及び各フェノール誘導体のいずれを用いる場合でも光触媒活性が得られることが分かる。また、レゾルシノールよりもm−アミノフェノールの方が光触媒活性が高いことが分かる。これは、レゾルシノールよりもm−アミノフェノールの方が電子供与性官能基を有する点で、光触媒活性を発現するのに好適なバンド構造が得られたためと推測される。
【0104】
調製例7(酸触媒であるシュウ酸を用いたRF樹脂の合成)
調製例7のEntry 1は調製例5のEntry 4と同じである。
【0105】
調製例7のEntry 2〜7では、塩基性触媒を表7に示す各種使用量の酸性触媒(シュウ酸)に換えてRF触媒を合成した。酸性触媒を用いる以外の条件は、調製例5のEntry 4と同じである。
【0106】
【表7】
【0107】
表7の結果から、Entry 3〜7に示すような適切量の酸触媒を用いる場合には、Entry 1の塩基性触媒と比較して得られたRF樹脂の光触媒活性が高くなることが分かる。
【0108】
調製例8(導電性高分子PEDOT [poly(3,4-ethylenedioxythiophene)]を含むRF樹脂の合成)
PEDOTは、非特許文献5(Abdiryim, T.; Ali, A.; Jamal, R.; Osman, Y.; Zhang, Y.,“A facile solid-state heating method for preparation of poly(3,4-ethelenedioxythiophene)/ZnO nanocomposite and photocatalytic activity,”Nanoscale Research Letters 2014,9:89)の記載に沿って合成した。つまり、2,5−ジブロモ−3,4−エチレンジオキシチオフェンをルツボに入れ、60℃で24時間静置し、黒色のPEDOT粉末を得た。
【0109】
調製例8のEntry 1は表7のEntry 6の触媒と同じである。
【0110】
調製例8のEntry 2は、PEDOT4mgを加えてRF触媒を合成した。PEDOTを加える以外の条件は、調製例7のEntry 6と同じである。つまり、レゾルシノールとホルムアルデヒドとPEDOTの割合は、レゾルシノール400mg、ホルムアルデヒド612mg及びPEDOT4mgである。
【0111】
合成したこれらの触媒を使い、前述の調製例5と同様にして太陽エネルギー変換効率の評価を行った。なお、光照射時の反応溶液の温度は60℃で一定とした。
【0112】
太陽エネルギー変換効率の算出結果を表8に示す。
【0113】
【表8】
【0114】
表8の結果から、調製例7のEntry 6(調製例8のEntry 1)で得たRF樹脂は、太陽エネルギー変換効率0.83%の効率で過酸化水素を生成することが分かる。これに対して、調製例8のEntry 2で得たPEDOT含有RF樹脂は、太陽エネルギー変換効率1.17%で過酸化水素を生成することが分かる。
【0115】
下記論文(非特許文献6:Wang, Q.; Hisatomi, T.; Jia, Q.; Tokudome, H.; Zhong, M.; Wang, C.; Pan, Z.; Takata, T.; Nakabayashi, M.; Shibata, N.; Li, Y.; Sharp, I. D.; Kudo, A.; Yamada, T, Domen, K.,“Scalable water splitting on particulate photocatalyst sheets with a solar-to-hydrogen energy conversion efficiency exceeding 1%,”Nat. Mater. 2016, 15, 611-617)によれば、粉末光触媒による水分解での水素及び酸素生成の太陽エネルギー変換効率は最大1.1%であり、PEDOT含有RF触媒はより高い太陽エネルギー変換効率で過酸化水素を生成することが分かる。