【実施例】
【0010】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0011】
本実施例は
図10,11に図示したような蒸着装置に本発明を適用した例である。この蒸着装置は、減圧雰囲気を保持する真空槽20内で基板3に薄膜を形成させるために、成膜材料を放出する蒸発源25が基板3と対向する位置に配設され、蒸発源25から放出された蒸発粒子の蒸発レートをモニタする膜厚モニタ22と、真空槽20外に設けたモニタした蒸発粒子の量を膜厚に換算する膜厚計23と、換算された膜厚が所望の膜厚になるように成膜材料の蒸発レートを制御するために容器1を加熱するヒータ用電源24とを設けている。また、基板3と蒸発源25とを相対的に移動させる相対移動機構が設けられており、相対移動しながら成膜を行うことで、基板全面に渡って均一な膜厚の蒸着膜を形成することができる。
【0012】
また、前記容器1と前記容器1に対向する位置に配設された基板3とは、前記容器1の長手方向と直交する方向に相対的に移動し、蒸発口部2から前記成膜材料を放出することで、基板3上に蒸着膜を形成するように構成している。
【0013】
本実施例においては、成膜材料が収容される容器1と、この容器1に容器1の長手方向に沿って複数設けられる蒸発口部2a・2bとから成る蒸発源25を採用している。
【0014】
具体的には、
図1に図示したように、前記複数の蒸発口部2a・2bのうち外側に設けられた少なくとも一対の外側蒸発口部2aは、夫々前記容器1の長手方向外側に向くように傾斜する開口端面を有している。
【0015】
そして、少なくとも1つの前記外側蒸発口部2aは、前記開口端面の中心からの法線が前記基板3の成膜有効範囲の外側に指向するように構成され、且つ、前記外側蒸発口部2aの開口端面から放出された成膜材料が最も厚く成膜される最大成膜点Xが前記基板3の成膜有効範囲の外側に位置するように構成された膜厚分布調整用外側蒸発口部2aに設定されている。
【0016】
具体的には、少なくとも最も外側に位置する一対の蒸発口部2aを前記外側蒸発口部2aとする。本実施例においては、最も内側の一組を内側蒸発口部2b、内側蒸発口部2b以外の蒸発口部2aを全て外側蒸発口部2aとし、全ての蒸発口部2a・2bは容器1の長手方向外側に向くように傾斜する開口端面を有する構成としている。
【0017】
なお、本実施例の最も外側の外側蒸発口部2a以外の他の蒸発口部2a・2bは、上述の構成に限らず、長手方向内側を向くように傾斜する開口端面を有する構成としても良いし、容器1に垂直に立設された構成としても良い。また、内側蒸発口部2bのみを長手方向内側を向くように傾斜する開口端面を有する構成としたり、容器1に垂直に立設された構成としても良い。
【0018】
また、本実施例においては、最も外側に位置する一対の外側蒸発口部2aを夫々分布調整用外側蒸発口部2に設定している。
【0019】
なお、
図2に図示した別例のように、最も外側に位置する外側蒸発口部2aだけでなく、これらと隣り合う外側蒸発口部2aを膜厚分布調整用外側蒸発口部2aとしても良い。
【0020】
また、蒸発口部2a・2bの配列範囲W1は基板3の容器1の長手方向における成膜有効範囲W2より狭い幅に設定されている(
図3参照)。
【0021】
膜厚分布調整用外側蒸発口部2aの開口中心の成膜有効範囲端からの距離(内側オフセット距離)bは、b=W2−W1÷2から得ることができる。また、基板3の成膜面を含む仮想平面上における蒸発口部2の開口端面からの法線と蒸発口部2の開口中心との距離aは、基板・蒸発口部間の距離をT/Sとすると、a=T/S×tanθから得ることができる。ここで、a>bとなるように膜厚分布調整用外側蒸発口部2aの位置及び開口端面の傾斜角度を設定する。
【0022】
また、膜厚分布調整用外側蒸発口部2aの成膜材料の蒸発角度分布は、具体的には下記式(1)に示す余弦則を満たすように構成されている。
【0023】
cos
nθ(ただし、nは3〜20)・・・(1)
即ち、
図4に図示したように、蒸発口部先端から放出される蒸発粒子の蒸発角度分布(放出角度分布)は、開口の法線方向を0°とする余弦則(cos
nθ)に従う。このとき、n値が大きい程指向性が高く、蒸発口部の開口の内径(D)と、高さ(H)の比、H/Dが大きい程、n値が大きくなる傾向がある。このn値を3〜20の間で適宜設定することで、最大成膜点の位置を調整する。
【0024】
また、膜厚分布調整用外側蒸発口部2aは、内径と高さの比が1:2以上となるように設定している。
【0025】
なお、本実施例において、最大成膜点とは、膜厚分布の頂点を意味し、この膜厚分布の頂点は、基板の成膜された分布形状において接線の傾きが0°になる地点である。
【0026】
例えば、
図5に図示したように、T/Sが400mm、θが30°の場合、n値が3,5,10及び20とした場合の膜厚分布を比較すると、最大成膜点は、n値が大きい程、基板の成膜面を含む仮想面と法線との交点に近づき、n値が小さい程、膜厚分布調整用外側蒸発口部2aの直上位置に近づくことが分かる。また、n値が小さいと、分布傾斜が緩やかとなり、膜厚分布誤差に対する感度が低くなり、膜厚分布調整用外側蒸発口部2aの位置ずれ、角度ずれ、レートずれによる影響が小さくなる。
【0027】
また、
図6に図示したように、θが40°の場合には、30°の場合に比べて最大成膜点が外側にシフトする。また、基板の成膜面を含む仮想面と法線との交点からの内側オフセット量が30°の場合に比べて大きくなる。
【0028】
更に、T/Sが300mmの場合には、400mmの場合に比べて基板の成膜面を含む仮想面と法線との交点からの内側オフセット量が小さい傾向があり、この傾向はn値が小さい程顕著となる。また、400mmの場合の方が最大成膜点は外側にシフトする。
【0029】
以上の傾向を踏まえてT/S、θ、n値等を調整し、最大成膜点Xの位置を設定する。
【0030】
また、本実施例は、最も外側の外側蒸発口部2aを、容器1の長手方向外側に向くように傾斜する開口端面を有する構成とした上で、この外側蒸発口部2aを、前記膜厚分布調整用外側蒸発口部2aに設定しているが、最も外側の蒸発口部が、容器1に垂直に立設された蒸発口部(垂直ノズル)や、容器1の長手方向内側を向くように傾斜する開口端面を有する蒸発口部(内傾ノズル)である場合、以下の問題点がある。なお、
図7〜9において本実施例と対応する部分には’付きの同一符号を付した。
【0031】
即ち、垂直ノズル、内傾ノズルいずれの場合も、
図7及び
図8に図示したように、本実施例と同様に膜厚分布調整用外側蒸発口部に設定することは可能であるが、最も外側に位置する蒸発口部2a’と成膜有効範囲端とを結んだ最大入射角αが小さくなってしまう問題点がある(最大入射角が小さいとパターンボケ量が大きくなる原因となる。)。
【0032】
また、
図9に図示したように、本実施例と同様、最も外側の外側蒸発口部2a’を容器1’の長手方向外側に向くように傾斜する開口端面を有する構成(外傾ノズル)とした上で、最大成膜点X’が成膜有効範囲の内側となるように構成した場合には、最大入射角αを大きくできるメリットはあるが、成膜有効範囲内の膜厚分布均一性を確保し難くなり、レート変動の影響を受け易くなる等、デメリットが大きい。
【0033】
従って、最も外側の外側蒸発口部2aを、容器1の長手方向外側に向くように傾斜する開口端面を有する構成とした上で、この外側蒸発口部2aを、前記膜厚分布調整用外側蒸発口部2aに設定する必要があると考えられる。
【0034】
なお、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。