特許第6765247号(P6765247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6765247-漆喰層を有する化粧シート 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765247
(24)【登録日】2020年9月17日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】漆喰層を有する化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/02 20060101AFI20200928BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
   B32B13/02
   E04F13/07 B
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-143247(P2016-143247)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12266(P2018-12266A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
【審査官】 石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−250422(JP,A)
【文献】 特開2003−103741(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/067787(WO,A1)
【文献】 特開平11−050591(JP,A)
【文献】 国際公開第98/001296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
E04F 13/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと、該基材シートの上面に積層され且つ半固化状態の漆喰を含む漆喰層とを有しており、該漆喰層中には、目付け量が10〜50g/mの連続した不織布シートが埋設されており、かつ、該漆喰層は上から視認した際に、埋設された不織布の一部が露出した不織布部位が点在する漆喰層表面であり、かつ、該漆喰層表面は水との接触角が60度以上であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
漆喰層表面における露出している不織布部位の割合が20〜80面積%である請求項1の化粧シート。
【請求項3】
前記漆喰層から露出した不織布部位の厚みが5〜50μmである請求項1または2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半固化状態の漆喰を含む漆喰層が基材シートの表面に形成された化粧シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
漆喰は水酸化カルシウムの水性スラリーを塗工などして乾燥させ、その水酸化カルシウムが炭酸化し炭酸カルシウムに転化して固化したものであり、半固化状態の漆喰は水酸化カルシウムの一部が炭酸化されずに残存している状態である。半固化状態の漆喰が基材シートの表面に層状に形成された化粧シートは、漆喰の特性を活かして、種々の用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、半固化状態の漆喰層を備えた化粧シートを、建築構造物の外面(例えば、壁、柱、天井など)に貼着して化粧シート(所謂、壁紙)として使用することが提案されている。従来、壁紙としては、塩化ビニル樹脂等の樹脂製のシートが広く使用されているが、この種のシートは、通気性に乏しいという欠点があり、シートの貼着面(壁等の表面)に結露を生じ、この結果、カビの発生やシートの剥離などを生じやすいという問題が指摘されている。また、シートの作製や貼着に使用する接着剤から発生する有害な揮発成分が様々な健康被害をもたらすことも指摘されている。しかるに、半固化状態の漆喰層を備えた化粧シートは、通気性に富み、また有害な揮発成分を発生することもないという利点を有している。
【0004】
また、特許文献2には、基材シートの上面に半固化状態の漆喰層を有し、該半固化状態の漆喰層の表層部には、引張強度が5N/25mm以上の連続した不織布が埋設されていることを特徴とする化粧シートが提案されている。
【0005】
この化粧シートを化粧シートとして使用する場合、折り曲げたときに割れなどを生じないという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3891898号
【特許文献2】特開2012−250422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、漆喰層を備えた化粧シートには、未だ解決すべき課題が残されている。
【0008】
即ち、漆喰層を備えた化粧シートを内装材として使用した場合、漆喰層が炭酸化し固化するまでには数週間以上の期間が必要とされ、施工直後の化粧シートは、その表面に半固化状態の漆喰が露出した状態にあり、その際、漆喰表面に水滴が付着すると白華が生じてしまい、漆喰層の外観が損なわれるという問題がある。この白華は、例えば半固化状態の漆喰の表面に水滴が付着した場合、半固化状態の漆喰中の水酸化カルシウムが表面に付着している水滴に溶け込み、その水分が乾燥すると水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素によって炭酸化され、炭酸カルシウムとなり、漆喰の表面に析出し白く見える現象である。特に、漆喰に顔料などで色が付けられていた場合には、この白華現象は顕著に視認され、外観上不具合を生じる。
【0009】
従って、本発明の目的は、施工直後に水滴が付着したとしても半固化状態の漆喰層表面に白華の発生が有効に防止された漆喰層を有する化粧シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、基材シートと、該基材シートの上面に積層され且つ半固化状態の漆喰を含む漆喰層とを有しており、該漆喰層中には、目付け量が10〜50g/mの連続した不織布が埋設されており、かつ、該漆喰層は上から視認した際に、埋設された不織布の一部が露出した不織布部位が点在する漆喰層表面であり、かつ、該漆喰層表面は水との接触角が60度以上であることを特徴とする積層シートが提供される。
【0011】
さらに本発明の化粧シートにおいては、
(1)漆喰層表面における露出している不織布部位の割合が20〜80面積%であること、
(2)漆喰層から露出した不織布部位の厚みが5〜50μmであること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化粧シートでは、基材シートの表面に形成されている漆喰層の表層部に存在している連続した不織布の一部が漆喰層表面から露出しているため、漆喰層表面に水滴が付着したとしても半固化状態の漆喰層表面に白華が発生することを有効に防止することができる。
【0013】
即ち、半硬化状態の漆喰層表面に水滴が付着すると、漆喰層に存在する水酸化カルシウムが水滴に溶け込み、水滴が乾燥すると水酸化カルシウムが炭酸化した炭酸カルシウムが析出する白華が生じ易いが、本発明では、一部が露出した不織布部位は疎水性であり、水滴をはじくため、漆喰層表面では、水との接触角が60度以上と疎水性を示し、該不織布部位が緩衝域のような役割を果たし、これにより、水滴と漆喰部位との接触を有効に防止することができるのである。
【0014】
さらに、強度を有する不織布を採用することにより、以下の効果も追加的に得ることができる。即ち、本発明の化粧シートでは、基材シートの表面に形成されている漆喰層の表層部には、連続した不織布が存在しているため、漆喰層に折り目が発生した場合においても、漆喰層の表面に折り目に沿って割れが発生することを有効に防止することができる。
【0015】
即ち、漆喰層に折り目が発生した場合、漆喰層の表面の伸びが最も大きく、このため、漆喰層の表層部に大きな応力が発生し、これが割れの発生要因となるが、本発明では、漆喰層の表層部に不織布が連続して存在しているため、漆喰層表層部の伸びが該不織布によって抑制され、これにより、折り目による割れの発生を有効に防止することができるのである。
【0016】
なおここで、「連続した不織布が存在している」とは、漆喰層の表層部中に存在している不織布は繊維屑や裁断された不織布の断片が層状に分布しているものではなく、少なくとも繊維が絡み合ってシート状に一体化している状態をいう。
【0017】
また、上記の一部が露出した不織布は通気性を有しており、従って、漆喰の特性が失われることはない。
【0018】
例えば、化粧シートとして用いた場合、漆喰層の通気性は保持されているため、施工後、半固化状態の漆喰が炭酸化により硬化することができる。さらに、基材シートの材質を適宜選択することにより、この化粧シートの貼着面に結露の発生を防止することができ、且つ、吸放湿性能が損なわれることもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の化粧シートの構成を示す図。
図2図1の化粧シートに形成されている漆喰層の表層部を拡大した図。
図3】本発明の化粧シートの製造プロセスの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、全体として1で示す本発明の化粧シート1は、基材シート3と、基材シート3の表面に積層された漆喰層5を有しており、漆喰層5の表層部には不織布7が存在しており、該不織布7の一部7aは漆喰層5の表層から露出している。
【0021】
(基材シート3)
基材シート3は、その表面に漆喰前駆体を含む漆喰層5が形成できるものであれば、特に制限されず、この積層体1の用途に応じて、適宜の材料で形成されていてよい。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリレート等のビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などの各種の樹脂シート乃至樹脂フィルム、或いは紙や混抄紙などからなっていてもよいし、また、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布、不織布またはこれらを用いた混抄紙が好ましく、さらには、これらの積層フィルム乃至シートも基材シート3として好適である。これらの中でも、紙や各種混抄紙、あるいは繊維状物は、この積層体1を化粧シートとして使用する場合においても、適度な通気性を確保でき、貼着面での結露を防止し、カビの発生等を防止することができる点で好ましい。
【0022】
特に、本発明における基材シート3としては、ポリ塩化ビニル樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルム、ポリエステル繊維とパルプを混抄した不織布、水酸化アルミニウムとパルプを混抄した水酸化アルミニウム混抄紙が好適に使用される。これらの基材シートは可撓性や曲げ強さを有し、しかも漆喰層5との密着性を良好なものとすることができる。
【0023】
尚、基材シート3の表面は、必要に応じてコロナ処理などの表面処理により親水性を向上させてもよく、これにより、以下に述べる漆喰層5と基材シート3との接合強度を向上させることができる。
【0024】
また、基材シート3の厚みは、施工に適した厚みに調整することが好ましく、例えば、50〜400μm、更に好ましくは100〜300μmの範囲とすることが好適である。これにより、施工の際、取り扱い時の強度が確保されると共に、柱や壁のコーナー部へ貼付ける時に、適度な力により折り曲げることができ、効率的な作業性を得ることができる。
【0025】
(漆喰層5)
本発明において、漆喰層5は、半固化状態の漆喰を含む層である。即ち、該漆喰層は、水酸化カルシウムと炭酸カルシウムが混在しつつも、分離不能なほど一体化して存在する層である。
【0026】
本発明において、上記の漆喰層5は、水酸化カルシウムが完全に炭酸化して炭酸カルシウムとなり完全に固化する前の半固化状態の漆喰であればよいが、好ましくは、この漆喰層5中の水酸化カルシウム含有量(後述する不織布7を差し引いた量に対する含有量)が、少なくとも30質量%、好ましくは40質量%以上であるのがよい。即ち、水酸化カルシウムの含有量が上記範囲よりも少ないと、この化粧シート1が炭酸化した後、漆喰層5の硬度が上がらず強度が弱いため、漆喰層5の破損等を生じ易くなったりするおそれがある。
【0027】
従って、漆喰層5から不織布7を除く、漆喰構成全成分100質量%中における水酸化カルシウム濃度は、上記目的を達成するために多いほどよいが、あまり多すぎると漆喰層5の柔軟性が不十分となり、使用前の搬送中に漆喰層5の破損等を生じ易くなる。従って、漆喰層5中の水酸化カルシウム含有量は、80重量%以下、好ましくは、70重量%以下の割合とすることが好ましい。
【0028】
尚、漆喰層5中の水酸化カルシウムの割合は、XRD(X線回折法)により確認することができる。
【0029】
また、漆喰層5中には、前述した特許文献1,2に記載されているとおり、漆喰層5の物性を調整するための各種添加剤、例えば、バインダー材、各種繊維屑、水酸化カルシウム以外の無機粉体、樹脂粉体、界面活性剤等が配合されていてよい。これらの添加剤は、漆喰層5の強度等の物理特性を向上させるものである。
【0030】
本発明においては、例えば基材シート3に糊をつけて壁面等に貼着した状態で、化粧シート1を大気中に放置することにより、漆喰層5中の水酸化カルシウムが炭酸化して最終的には漆喰となる。このような漆喰層5の初期の靭性を向上させるために、特に、漆喰層5には、バインダー材としてポリマーを含有していることが好適である。このようなポリマーは、エマルジョンに由来するものが好ましく、具体的には水媒体中にモノマー、オリゴマー或いはこれらの重合体等が分散したもの、例えばアクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン、スチレン/ブタジエンゴム系等の重合体のエマルジョンに由来するものを挙げることができる。このようなエマルジョンは、後述する製造方法における乾燥工程で、媒体(水)が蒸発してエマルジョン中のポリマー成分が漆喰層5中に残存することとなる。
【0031】
ただし、このようなエマルジョンの固形分(即ちポリマー)が過度に存在すると、漆喰層5の通気性が低下する傾向があるため、漆喰層5におけるポリマー固形分は、10〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0032】
繊維屑の例としては、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、金属繊維等を挙げることができる。これらのうち短繊維の繊維屑は、漆喰層5の靱性および切断加工性の向上に特に有効である。このような繊維屑の大きさは特に制限されないが、通常、繊維径が5〜50μm、特に10〜30μmであることが、漆喰層5の靱性をより向上させ、場合によっては、切断加工性においても優れたものとするために好適である。
【0033】
また、水酸化カルシウム以外の無機粉体は、平均粒子径が0.02〜20μm程度の範囲内にある無機粒状物であり、この範囲内で、漆喰層5の厚みの1/4以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、天然マイカ、合成マイカ、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、シリカ、アルミナ、或いは炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0034】
また、樹脂粉体は、平均粒子径が0.5〜20μm程度の範囲内にある粒状物であり、この範囲内で、漆喰層5の厚みの1/4以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエステルなどを挙げることができる。
【0035】
また、本発明における化粧シートの意匠性を高めるために、漆喰層5中に各種の無機顔料、体質顔料、或いは有機顔料を配合することもできる。
【0036】
このような無機顔料は、一般に左官用に使用されるものであり、具体的には、平均粒子径が0.1〜20μmの酸化鉄、酸化チタン、黄鉛、クロムグリーン、コバルトグリーン、紺青、カーボンブラック等の金属酸化物や各種の石粉である。
【0037】
また、体質顔料は、天然の岩石、粘土を粉砕したりして作られ、塗料用としても使用されているものであり、具体的には、平均粒子径が0.5〜20μmの沈降性硫酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ粉、珪藻土、タルク、アルミナホワイト、塩基性炭酸マグネシウム、バライト粉などである。
【0038】
また、有機顔料は、発色部が有機化合物で水に溶解せず粒子として分散するものであり、具体的には、平均粒子径が0.5〜20μmのパーマネントレッド、ファーストイエロー、ベンツイミダゾロンイエロー、イソインドリノンなどのアゾ系顔料、フタロシアニングリーン、銅フタロシアニンブルーなどのフタロシア任継系顔料、或いはアントラキノンレッド、キナクリドンレッドなどの縮合多環式系顔料などである。
さらに、本発明の漆喰層5中には、防水性、耐凍結融解性、耐薬品性、耐候性を向上させるために、パラフィン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の有機質混和材;ジメチルポリシロキサンおよびそのメチル基の一部を水素原子、フェニル基、アルキル基、メルカプト基、ビニル基、シアノアルキル基、フルオロアルキル基等で置換したポリシロキサンを主成分としたシリコーンオイルまたはシリコーン樹脂;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘプチルジメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン;などを漆喰層5に配合することもできる。
【0039】
本発明において、漆喰層5中に配合され得る各種添加剤は、その目的に応じて、それぞれ1種単独でも、2種以上が配合されていてもよいが、何れにしろ、漆喰層5に特有の意匠性および通気性などが損なわれない程度の量で配合すべきであり、例えば、消石灰が炭酸化して形成される炭酸カルシウムの含有量(即ち、炭酸化率100%のときの炭酸カルシウム含有量)が50重量%以上に維持されるように、各種の添加剤を配合することが望ましい。
【0040】
上記のような漆喰層5の厚みは、積層体1の用途に応じて、漆喰層5の特性が十分に発揮し得る程度の厚みに設定されていればよく、一般的には、0.02乃至1.0mm、特に0.05乃至0.5mm程度の範囲でよい。
【0041】
本発明における上記漆喰層5を形成するためには、消石灰(水酸化カルシウム)の粉末と水、及び必要に応じて配合されるその他の成分を含む混練物(スラリー)を基材シート3上にコーティング、乾燥させて形成すればよい。かかるコーティング層は通常、空気中で乾燥されるが、その際に水酸化カルシウムの一部が空気中の炭酸ガスを吸収し、半固化状態の漆喰(水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとの混合物)となる。必要に応じて、乾燥完了後も空気中にさらして炭酸化を進行させてもよい。
【0042】
なお本発明の化粧シートは、使用後には、半固化状態の漆喰中に存在する水酸化カルシウムが炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成することにより、さらに固化が進行して漆喰を形成する。
【0043】
(不織布7)
図1と共に、図2の要部拡大図を参照して、本発明の化粧シート1では、前述した漆喰層5中に、不織布7が存在していることが重要である。即ち、この不織布7はシート状に連続しているものであり、繊維屑や裁断された不織布の断片が層状に分布しているものではなく、少なくとも繊維が絡み合ってシート状に一体化しているものである。
【0044】
このような不織布7は、図2から理解されるように、漆喰層5の上面に不織布7の表面が一部露出するように形成されることが重要である。好ましくは、漆喰層表面における不織布部位の割合が20〜80面積%である。
【0045】
本発明において、上記不織布を含む漆喰層の表面は、その接触角が60度以上、好ましくは90度以上、特に好ましくは100度以上である。漆喰を形成する水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムは親水性を示すが、このような接触角を得るためには、上記不織布として疎水性のものを採用すればよい。なお当該接触角は、純水を水平な測定面に滴下して接触角計により測定する液適法に準じたものである。
【0046】
疎水性の不織布が漆喰層表面に露出していることにより、水滴が化粧シート1の表面に付着したときに、付着した水滴が漆喰層(炭酸カルシウム+水酸化カルシウム部分)5の表面に接触することを防止でき、白華を有効に防ぐ効果がを得ることができる。
【0047】
従って、漆喰層表面における不織布部位の割合が大きいほど当該効果は顕著に発現するが、一方で化粧シート1の炭酸化を進行しやすくし、使用後の化粧シートの硬度を上げやすく、漆喰の特性を発揮しやすくするために、漆喰層表面における非不織布部位の割合はある程度あった方がよい。
【0048】
漆喰層表面における不織布部位の割合は、不織布7をサーモゾール染色法などにより一部あるいは全部を染色あるいは着色し、その不織布を用いて化粧シート1を製造し、得られた化粧シート1の漆喰層表面をデジタルカメラで撮影し、画像処理ソフトを用い、漆喰層5の表面に露出した不織布7aの面積を漆喰層5の面積で除することにより測定することができる。
【0049】
本発明においては、このような効果を発現させるために、不織布の目付け量が10〜50g/mのものを用いる。
【0050】
さらに本発明においては、漆喰層5から露出した不織布部位7aの厚みが5〜50μmであることが好ましい。この範囲とすることにより、水滴が化粧シート1の表面に付着したときに、付着した水滴が漆喰層5の表面に接触することを防止でき、白華を有効に防ぐ効果が発揮され、且つ、漆喰層5の炭酸化を短期間で進行させやすく、漆喰層5の硬度が短期間で上がり、漆喰の特性を発揮しやすい。当該厚みは化粧シートの断面をデジタルマイクロスコープなどにより拡大観察し、漆喰層3の表面と漆喰層3の表面から露出した不織布7aの表面との高低差により測定することができる。
【0051】
本発明においては、漆喰層5の表層に、このような不織布7が埋め込まれているために、この化粧シート1が折り曲げられ、折り目が付けられたときにも、漆喰層5に割れなどの損傷が発生することを効果的に防止することもできるのである。
【0052】
即ち、化粧シート1は、たとえば、住宅や施設の内装材として漆喰層5が外面側となるようにして石膏ボードなどの下地材に張り付けられるが、出隅箇所に施工される場合、折り曲げられて貼り付けられることになる。このような場合、折り目が付けられてしまうと、この折り目に沿って漆喰層5(特に、表面側)に割れなどが生じてしまう。表面側が基材シート3側に比して大きく伸ばされてしまうからである。しかるに、上記のような漆喰層3の表層部が形成されるように、不織布7の一部を残して漆喰層5に埋め込んでおくことにより、折り曲げによって発生する応力が有効に緩和され、折り目がつくほど折り曲げられた場合にも、割れの発生を有効に防止することができるのである。
【0053】
本発明における、不織布7は、不織布自体の面方向の引張強度が好ましくは0.6〜20N/25mm 、特に好ましくは1〜10N/25mmの範囲にあるのがよい。不織布7の引張強度を0.6N/25mm以上にしておくことにより、折り曲げによって不織布7自体が破断してしまう可能性を減じ、よって曲げにより発生する応力を有効に緩和でき、割れの発生を防止する効果が大きい。
【0054】
尚、不織布7の引張強度が必要以上に大きいと、その剛性が高くなり、化粧シート1を折り曲げたとき、不織布7が支配的となって、漆喰層5が不織布7に追随できず、この結果、漆喰層5が内部から破断してしまうおそれがある。従って、不織布7の引張強度は、上記の好適範囲(0.6乃至20N/mm)にあるのがよい。
【0055】
不織布7は、繊維で形成されているため、通気性を有しており、漆喰層5の特性が損なわれることはない。
【0056】
本発明において、上記のような不織布7は、上記のような引張強度を有している範囲内で、その目開きが、前述した漆喰層5の形成に用いる消石灰粒子等を通過し得る程度の大きさを有していることが好ましい。即ち、このような目開きを有していることにより、漆喰層5中に不織布7を埋め込んで固定することが可能となるからである。例えば、漆喰層5の形成には、通常、平均粒径が0.2乃至25μm程度の微細な消石灰粒子が水に分散された混練物(スラリー)が使用されるが、このような大きさの消石灰粒子が透過し得る程度の目開きを有していることが好ましい。
【0057】
従って、不織布7としては、上述した引張強度、目開きおよび水との接触角が90度以上、好ましくは100度以上の疎水性を有しているものが好適に使用され、例えば、各種の合成繊維で形成された不織布が好適に使用され、最も好適には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートからなる不織布が使用される。
【0058】
尚、漆喰層5の表面は、必要に応じて撥水処理などの表面処理により疎水性をさらに向上させてもよく、これにより、漆喰層5との水滴の接触をさらに効果的に防ぐことができる。
【0059】
また、漆喰層5の表面位置(上面の位置)は、漆喰層5から一部が露出した不織布7の表面位置(上面の位置)より露出しないことが好適であり、その高低差(d)は5μm以上、特に10μm以上にあることが好ましい。
【0060】
即ち、基材シート3を下にした場合、一部が漆喰層5から露出した不織布7aが漆喰層5の表面より高い位置に存在するために、この化粧シート1の表面に水滴がついたときにも、漆喰層5から露出した不織布7aにより水滴がはじかれ、漆喰層5の表面に水滴が接触しないため、白華の不具合が発生することを効果的に防止することができるのである。
【0061】
漆喰層5の表面位置と漆喰層5から一部が露出した不織布7aの表面位置の高低差を5μm以上とすることにより、水滴が化粧シート1の表面に付着したときに、付着した圧力で水滴が漆喰層5の表面に接触することを効果的に防止し、白華を有効に防ぐことができる。
【0062】
当該高低差は、化粧シートの断面をデジタルマイクロスコープにより観察し、その画像データを解析することにより測定することができる。
【0063】
<化粧シート1の使用>
上述した本発明の化粧シート1は、漆喰層5の特性を活かして、種々の用途に使用することができ、例えば、内装材、有害物の吸着材、各種装飾品、工芸品、印刷用シートの用途に使用することができるが、特に、折り曲げられた折り目が付けられたときに漆喰層5の割れが効果的に防止されていることから、特に内装材として、最も効果的に使用される。内装材として使用される場合には、基材シート3の裏面に澱粉糊等の接着剤を塗布し、漆喰層5が表側となるように壁面などに貼着されることとなる。この場合においても、壁面などにコーナー部が存在する場合には、このシートは折り曲げられ、漆喰層5には折り目が形成されることとなるが、やはり、このような折り目に沿って漆喰層5に割れが生じるという不都合は有効に防止することができる。
【0064】
<化粧シート1の製造>
上述した構造を有する本発明の化粧シート1は、例えば、基材シート3の表面に前述したような所定の添加剤が配合された消石灰の水性スラリーを塗布し、この塗布層の上に不織布7を積層するという手段により製造することができるが、工業的に連続生産する場合には、図4に示すプロセスで製造することが好ましい。
【0065】
即ち、図4に示されるように、送りローラ31の周囲に、該送りローラ31と対向して圧ローラ35を配置する。
【0066】
先ず、保護フィルム9と不織布7とを重ね合わせ、これを送りローラ31を介して、図示されていない巻き取りローラより巻き取っていくが、この際、保護フィルム9が送りローラ31のローラ面側に位置し、圧ローラ35とのニップ位置を通過せしめる。
【0067】
一方、基材シート3は、圧ローラ35の表面に位置するように導入され、送りローラ31とのニップ位置を通過せしめる。
【0068】
この状態で、送りローラ31と圧ローラ35とのニップ位置に、漆喰層5を形成するための消石灰スラリー37を供給する。即ち、このニップ位置を保護フィルム9と不織布7との重ね合わせ体が通過する際、圧ローラ35による加圧により、不織布7の開口部に消石灰スラリー37が侵入し、前述した漆喰層5に不織布7の一部が埋め込まれた状態が形成される。
【0069】
また、送りローラ31と圧ローラ35のニップ部には、基材シート3が導入されるため、この部分での加圧によって、基材シート3の表面に消石灰スラリー37が加圧密着され、これにより、基材シート3が漆喰層5の下部に付着する。
【0070】
従って、保護フィルム9と不織布7との重ね合わせ体には、消石灰スラリーを介して基材シート3が付着した状態で、圧ローラ35のニップ部を通過することとなる。従って、このニップ部を通過した後、保護フィルムは除去され、加熱乾燥工程を経て水分を除去することにより、目的とする本発明の化粧シート1が連続的に製造される。
【0071】
尚、圧ローラ35による圧力は、適度な厚みの漆喰層5が形成されるように、適度な範囲に設定しておけばよい。即ち、これらの圧力が過度に大きいと、消石灰スラリー37が不織布7の開口部に過剰に侵入し、漆喰層表面における不織布部位の割合が20面積%以下となってしまい、漆喰層5の厚みも極めて薄くなってしまい、その特性を活かすことが困難となってしまう。また、圧力が小さ過ぎると、消石灰スラリー37が不織布7の開口部に十分に侵入できず、漆喰層表面における不織布部位の割合が80面積%以上となってしまい、不織布7の一部が漆喰層5に埋設できなくなる。
【0072】
このようにして得られた化粧シート1は、その用途に応じて、例えば適度な大きさに裁断されて包装されて市販され、或いは巻き取りローラに巻き取られた状態のまま、包装されて市販される。
【0073】
上記方法において、漆喰層表面における不織布部位の割合を制御する方法は、不織布7の目付量と圧ローラ35による圧力を適宜選択すれば制御できる。即ち、不織布7の目付量を小さくすると消石灰スラリー37が不織布7の内部に侵入しやすくなり、漆喰層5の表面から露出した不織布7aの面積は小さくなるし、不織布7の目付量を大きくすると消石灰スラリー37が不織布7の内部に侵入しにくくなり、漆喰層3の表面から露出した不織布7aの面積は大きくなる。また、圧ローラ35による圧力を大きくすれば消石灰スラリー37が不織布7の内部に侵入しやすくなり、漆喰層5の表面から露出した不織布7aの面積は小さくなるし、圧ローラ35による圧力を小さくすると消石灰スラリー37が不織布7の内部に侵入しにくくなり、漆喰層3の表面から露出した不織布7aの面積は大きくなる。
【0074】
また、上記方法において、漆喰層5と不織布7aの高低差(d)は、不織布7の目付量と厚さを適宜選択すれば制御できる。即ち、不織布7の目付量を小さくすると消石灰スラリー37が不織布7の厚さ方向に侵入しやすくなり、漆喰層5の表面と漆喰層5から露出した不織布7aの高低差(d)は小さくなるし、不織布7の目付量を大きくすると消石灰スラリー37が不織布7の厚さ方向に侵入しにくくなり、漆喰層5の表面と漆喰層5から露出した不織布7aの高低差(d)は大きくなる。また、不織布7の厚さを小さくすると不織布7に進入した消石灰スラリー37が不織布7の表面に達し易くなり、漆喰層5の漆喰表面と漆喰層5から露出した不織布7aの高低差(d)は小さくなるし、不織布7の厚さを大きくすると不織布7に進入した消石灰スラリー37が不織布7の表面に達しにくくなり、漆喰層5の表面と漆喰層5から露出した不織布7aの高低差(d)は大きくなる。
【実施例】
【0075】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
【0076】
なお、以下に、実験例で用いた材料および各試験方法を示す。
【0077】
(1)漆喰層表面における不織布部位の割合の測定方法
本発明の漆喰層表面における不織布部位の割合は、不織布7をサーモゾール染色法などにより一部あるいは全部を染色あるいは着色し、その不織布を用いて化粧シート1を製造する。得られた化粧シート1の漆喰層表面をデジタルカメラで撮影し、画像処理ソフトにより、漆喰層5の表面に露出した不織布7aの面積を測定し、漆喰層5の面積で除することにより算出した。
【0078】
(2)疎水性試験
協和界面科学株式会社製の自動接触角計(型番:DM−301)を用い、化粧シート1の漆喰層3の表面に純水を滴下し、5点の平均接触角を求めた。
【0079】
(3)漆喰層と露出した不織布の高低差の測定
後述の製造例により得られた化粧シートの断面を株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(型番:VHX−5000)により観察し、漆喰層3の表面と漆喰層3の表面から露出した不織布7の表面の高低差を測定した。
【0080】
(4)角部貼付試験
後述の製造例により得られた化粧シートを切り出し、100mm×100mmの貼付試験用の試験体を得た。
【0081】
次に、厚さ1mm、大きさ150×150mmのステンレス鋼板の中央を直線に折り曲げ、曲げ角度90、70、50度のL型下地を作製し、その表面にアクリル共重合樹脂エマルジョン(製品名「パラダイン コンタクトセメント No1」、矢沢化学工業製)を所定量塗布した後に乾燥させ、試験用L型下地材を得た。
【0082】
次に、貼付試験用の試験体の裏に壁紙施工用でん粉系接着剤(成分:エステル架橋化小麦澱粉+エチレン酢ビ共重合エマルジョン、商品名「ウォールボンド200」、矢沢化学工業製)を所定量塗布し、2分間放置後、試験用L型下地材の角部分に貼付け、化粧シート表面にクラックが発生するかを目視で確認し、以下の評価基準で評価した。
【0083】
A:角部の表面にクラック発生なし
B:角部の表面の一部にクラック発生あり
C:角部の表面の全体にクラック発生あり
【0084】
(5)白華試験
後述の製造例により得られた化粧シートを切出し、基材シート側に両面粘着シートを張り付け、ガラス板に固定した。ガラス板を水平にし、化粧シートの表面に純水を滴下し5分間放置した。その後、水滴をふき取り、乾燥させて表面を観察し、白華が生じているかを目視で確認した。
【0085】
(A)基材シート:
水酸化アルミニウム混抄紙:リンテック株式会社製「セラフォーム150」(商品名)(厚み0.15mm、目つけ量150g/m
(B)水酸化カルシウム:
消石灰:宇部マテリアルズ製「高純度消石灰CH」(商品名)
(C)無機粉体:
炭酸カルシウム:薬仙石灰製「ホワイト7」(商品名)
(D)ポリマー(バインダー材):
ポリトロン:旭化成工業株式会社製「ポリトロンA1480」(商品名)(アクリル系共重合体ラテックス(エマルジョン)、固形分:40重量%)
(E)保護フィルム
ポリエステルフィルム:東レ株式会社製「ルミラー」(商品名)(透明ポリエステルフィルム、品番:T60、厚さ:50μm)
【0086】
(F)不織布A〜D
表1に示した不織布を用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
(実施例1〜4)
消石灰80重量部、炭酸カルシウム20重量部、ポリマー60重量部、水25重量部の配合比で混練し、消石灰スラリーを得た。次に、基材シートとして水酸化アルミニウム混抄紙(500×800mm)を使用し、その表面に得られた消石灰スラリーを二軸ロールコーターで塗布し、直後に不織布A〜Dを積層した保護フィルムを、不織布が消石灰スラリー側に位置するように消石灰スラリー表面に密着させ、保護フィルムを剥がした。続いて、70℃の乾燥機中で20分間乾燥させ、不織布の一部が漆喰層から露出するように形成された半硬化状態の漆喰を含む漆喰層を有する化粧シートA〜Dを得た。
【0089】
その後、得られた化粧シートA〜Dの漆喰層表面について、不織布部位の割合の測定、および疎水性試験を行った。次に、化粧シートA〜Dを用い、漆喰層と露出した不織布の高低差を測定した。また、化粧シートA〜Dの表面に純水をピペットで滴下し、5分間放置した後に水滴をふき取り、白華の有無を調べた。これらの結果を表3に示す。
【0090】
さらに、化粧シートA〜Dを用い、角部貼付試験の操作に従い、試験用L型下地材の角部分に貼付け、印刷層表面にクラックが発生するかを目視で確認し、評価した。その結果を表4に示す。
【0091】
(比較例1〜3)
表1に示した不織布を表2に示す不織布X〜Zに変更した以外は、実施例1〜4と同様な操作を行い、不織布の一部が漆喰層から露出するように形成された半硬化状態の漆喰を含む漆喰層を有する化粧シートX〜Zを得た。
【0092】
得られた化粧シートX〜Zについて、実施例1〜4と同じ試験を行い、それらの結果を表3と表4に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【符号の説明】
【0096】
1:化粧シート
3:基材シート
5:漆喰層
7:不織布
7a:漆喰層表面から露出した不織布部位
9:保護フィルム
図1
図2
図3