(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、使用が簡単であり使用者による不適当な使用の危険の減少を助長する薬剤送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、薬剤送達デバイスであって、注射針を含む薬剤送達機構を収容するハウジングと、ハウジングに連結される殺菌機構と、薬剤送達プロセス中に患者の皮膚にデバイスを固定するための接着面とを含む薬剤送達デバイスを提供する。殺菌機構は、殺菌剤が染み込んだ殺菌パッドを含む。薬剤送達デバイスは、殺菌パッドが接着面に対して繰り返し可動であり、その結果、使用時にデバイスが患者の皮膚に固定されるとき、患者の皮膚の領域を注射部位として働くように殺菌するために患者の皮膚に接触して繰り返し動かすことができることを特徴とする。これは、有利には、薬剤送達手順のために使用者が集めなければならない別個になった材料の量を減少させることができる。これは、有利には、皮膚の十分かつ効果的な殺菌を確実にすることができる。これは、さらに、デバイスの使用をより単純にすることができる。
【0008】
殺菌パッドは、患者の皮膚をスイープするまたは拭うように動くことができる。殺菌パッドは、接着面に実質的に平行な平面内を動くことができる。殺菌パッドは、皮膚に近づき遠ざかるように動くこともできる。殺菌パッドは、接着面に実質的に垂直な平面内を動くこともできる。これは、有利には、患者の皮膚の有効かつ効果的な殺菌を提供することができる。
【0009】
殺菌パッドは、キャリアに取り付けられる。これによって、有利には、キャリアおよび殺菌パッドとデバイスの残りの部分を別々に製造することが可能になり、したがって費用効果が高くかつ/またはより単純な製造になる。
【0010】
殺菌パッドは、キャリアの凹部に受け入れられる。これは、有利には、拭うときに殺菌パッドに横方向の支持を与えることができる。それによって、有利には、より多くの殺菌剤を担持するように、より厚いまたはより吸収力のあるパッドの提供が可能になる。これは、有利には、使用前の収納の間、パッドがなかに圧縮される空間をもたらすことができる。
【0011】
キャリアは、ハウジング(11)に可動に取り付けられる。それによって、有利には、ハウジングを動かす必要なくして、殺菌パッドを皮膚上に動かすことが可能になる。
【0012】
キャリアは、回転可能プレートを含むことができる。これは、有利には、コンパクトで空間効率のよいデバイス構造をもたらすことができる。あるいは、キャリアは、摺動可能プレートを含むこともできる。これは、有利には、デバイスの代替構造の作製を可能にする。
【0013】
注射針は、完全にハウジング内に配置される後退位置と、使用時に患者の皮膚を注射するようにハウジングから突出する係合位置との間で動くことができる。キャリアは、第1の位置と第2の位置との間で動くことができる。注射針は、キャリアが第1の位置にあるとき、係合位置に動くのを防止される。これは、有利には、患者の皮膚の注射部位が殺菌される前に患者が注射を行わないようにする安全機能を提供することができる。
【0014】
キャリアが第1の位置にあるとき、キャリアは、注射針が係合位置に動くのを防止するように注射針の進路を遮断することができ、キャリアが第2の位置にあるとき、注射針は、係合位置へと自由に動くことができる。これは、有利には、キャリアが第1の位置にあるときに針を物理的に阻止する、キャリアによる安全機能を提供することができる。
【0015】
キャリアは、欠けた扇形部(17)を含む円形プレート(14)を含むことができる。キャリアの第2の位置において、プレートの欠けた扇形部は、注射針が欠けた扇形部を通って係合位置になるように、注射針と位置合わせされる。これは、有利には、コンパクトなデバイス構造における安全機能を可能にすることができる。
【0016】
薬剤送達機構は、キャリアが第1の位置にあるとき、動作が防止され、キャリアが第2の位置にあるとき、動作することができるように、キャリアに連結される。これは、有利には、殺菌前に注射部位の注射が行われないようにする代替安全機能を提供することができる。
【0017】
薬剤送達機構は、ハウジングのボタンによって作動される。ボタンは、キャリアが第1の位置にあるとき、薬剤送達機構の作動を防止する。これは、有利には、デバイスの不慮の動作の危険を軽減するさらなる安全機能を提供することができる。
【0018】
薬剤送達機構は、電子的に制御される。薬剤送達機構を作動させる電力は、キャリアが第1の位置にあるときには止められる。これは、有利には、デバイスの不慮の起動を回避する機能の一実施形態を提供することができる。
【0019】
キャリアは、ハウジングの外面に取り付けられる制御ノブに連結される。キャリアは、制御ノブを動かすことによって手動で動かされる。これは、有利には、単純なデバイス構造を提供し、それによって、製造の節約が可能になる。さらに、これによって、患者またはその他の使用者が皮膚の殺菌プロセスを制御できる度合いが増す。
【0020】
殺菌剤は、患者の皮膚を色付けする染料を含むことができる。それによって、有利には、最近の注射部位が識別可能になり、使用者または患者が同じ注射部位を連続して使用することが回避される。
【0021】
殺菌剤は、ゲルを含むことができる。これは、有利には、デバイスから漏れにくく、また蒸発の影響を受けにくく、したがってデバイスの収納寿命または保存期間をより長くすることが可能になる。
【0022】
殺菌機構は、殺菌剤の供給源に連結される噴霧ノズルを含むこともできる。殺菌剤の供給源は、殺菌剤の加圧容器を含むことができる。これは、有利には、可動殺菌パッドに対する殺菌機構の代替構造を提供することができる。
【0023】
ハウジングは、ベースプレートに可動に取り付けられ、殺菌パッドは、デバイスが患者に固定されるときに患者の皮膚に接触するまで延びるようにハウジングに固定される。殺菌パッドは、ベースプレートのアパーチャを通って延びることができる。殺菌パッドは、ハウジングがベースプレートに対して動かされるとき、患者の皮膚上を動くことができる。ハウジングは、ベースプレートに対して回転可能であってよい。これは、有利には、一体化された殺菌機構を含む薬剤送達デバイスの代替構造を可能にすることができる。デバイスの動作は、ベースプレートに対するハウジングの動きにリンクされる。
【0024】
薬剤送達デバイスは、薬剤の容器を備えてもよい。
【0025】
薬剤送達デバイスは、デバイスが患者に固定される前の殺菌機構の動作を防ぐ機構を含むことができる。そのような機構は、殺菌機構にリンクされデバイスが患者に固定されると作動する、デバイスにおけるスイッチまたは検出器を含むことができる。そのような検出器は、電子センサ、またはデバイスの接着面にある機械的に押し下げられるボタンを含むことができる。これは、有利には、デバイスが患者に固定される前に殺菌機構が偶発的に起動されることを防ぐことができる。
【0026】
殺菌パッドに染み込まされる、または、たとえば噴霧ノズルである殺菌機構からもたらされる殺菌剤は、局所麻酔薬を含むことができる。これは、有利には、殺菌される患者の皮膚の領域に局所的に麻酔をかけることができる。これは、有利には、そうでない場合患者の皮膚に針を注射することで引き起こされることがある痛みまたは不快感を減少させることができる。
【0027】
本発明は、さらに、薬剤送達デバイスの使用方法を提供する。薬剤送達デバイスは、注射針を含む薬剤送達機構を収容するハウジングと、ハウジングに連結される殺菌機構と、薬剤送達プロセス中に患者の皮膚にハウジングを固定するための接着面とを含む。方法は、ハウジングを患者の皮膚に固定することと、患者の皮膚の領域を注射部位として働くように殺菌するように殺菌機構を作動させることと、薬剤投与プロセスを開始することとを含む。
【0028】
次に、添付の図面を参照して、単なる一例として、本発明の実施形態について述べる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1〜
図4には、例示的な実施形態においてボーラス注射デバイスを含む、本発明の第1の実施形態による薬剤送達デバイス10(以降、単に「デバイス10」と称する)が示されている。デバイス10は、薬剤送達機構12を収容するハウジング11を含む。デバイス10は、LVDを含むことができる。薬剤送達機構は、図面には概略的にしか示されず、いくつかの機能構成要素は、明確化および簡素化のために省略されている。しかし、薬剤送達機構12は、液体薬剤を患者の体内に注射するための針13を含む。液体薬剤は、薬剤送達機構12内のリザーバ(図示せず)内で提供しても、デバイス10の外部から提供してもよい。ハウジング11は、さらに、それに対して動くように構成される可動プレート14を収容する。
図1〜
図4に示される実施形態では、プレート14は、軸15を介してアクチュエータに回転可能に連結される。アクチュエータは、第1の実施形態では、ハウジング11の外側にあるノブ16を含む。しかし、プレート14およびアクチュエータのその他の構造も、以下において討論されるように、本発明の範囲に入るものとする。
【0031】
図面に示されないが、デバイスの薬剤送達機構12は、以下の構成要素のうちの1つまたはそれ以上を含むことができる。デバイス10の動作を制御するように構成されるコントローラ。後退位置から係合位置まで、患者に針13を挿入する針挿入機構。たとえば電気モータまたはばね機構である、針挿入機構を駆動する針ドライバ。針ドライバに動力を供給するエネルギー源。患者に投与予定の薬剤の供給源を収容する薬剤リザーバ。薬剤リザーバは、たとえば、カートリッジまたはガラス製のバイアルを含むことができる。プランジャがカートリッジ内に設けられ、プランジャドライバがプランジャに機械的に連結される。プランジャドライバは、薬剤カートリッジに沿ってプランジャを動かすように制御可能であってよい。プランジャによってもたらされる力によって、薬剤は、薬剤カートリッジの薬剤送達アパーチャから排出され、薬剤送達管に沿って、針13に入り、針13の孔を通って排出される。コントローラに電力を供給する電池の形態の電力源。電池は、さらに、プランジャドライバが電動デバイスの場合、それに電力をもたらすことができる。電池は、さらに、針ドライバのためのエネルギー源を構築することができる。
【0032】
図5には、プレート14、軸15およびノブ16がより詳細に示されている。
図5から、回転可能プレート14は、円形であるが不完全な円盤として形成され、プレート14の円周の一部の周りに開扇形部17を含むことが見られる。
図1〜
図5に示される例示的な実施形態では、開扇形部17は、回転可能プレート14の円周の約90度の扇形にわたって延びるが、本発明は、この構造に限定されず、他のサイズの開扇形部も本発明の範囲に入るものとする。
【0033】
回転可能プレート14の、ノブ16から離れた方の面は、アルコールのような殺菌剤が染み込んだ殺菌パッド18を含む。殺菌パッド18は、たとえばスポンジ、脱脂綿または綿ガーゼなどの任意の適当な材料で作られる。殺菌パッド18は、円形の回転可能プレート14の一扇形部として形作られる。
【0034】
図2および
図3から、回転可能プレート14は、第1の位置(
図2)と第2の位置(
図3)との間で動くことができ、使用者がノブ16を回すことによって手動で動かされることが見られる。第1の位置は、デバイス10の使用前位置、すなわち使用前に患者に提供されるときのデバイス10の構造に対応する。第2の位置は、デバイス10の動作位置、すなわち、患者がノブ16を回して回転可能プレート14を第1の位置から動かした後のデバイス10の構造であり、したがって、デバイス10が注射/薬剤投与工程を開始する準備ができたときの構造に対応する。
【0035】
デバイス10は、全体的に、ノブ16が配置される上側面10aと、殺菌パッド18が配置される下側面10bとを含み、回転可能プレート14は、下側面10bと実質的に同一平面にある。デバイス10の下側面10bは、使用中に患者の皮膚にデバイス10を接着させるための接着パッチ19を含む。デバイス10の下側面10bは、さらに、使用前に接着パッチ19および殺菌パッド18を覆い、デバイス10を使用する前に患者によって除去される着脱可能シート20を含む。
【0036】
薬剤送達機構12の針13は、後退位置と係合位置との間で動くことができる。針13は、(
図4に実線で示される)後退位置では、デバイス10のハウジング11内に配置され、(
図4に破線で示される)係合位置では、デバイス10が患者に取り付けられるときに患者の皮膚を穿孔し注射するようにデバイス10の下側面10bから突出する。針13は、後退位置では、回転可能プレート14とデバイスの上側面10aとの間に位置する。さらに、針13が後退位置にあり回転可能プレート14が第1の位置にあるとき、回転可能プレート14は、針13とデバイス10の下側面10bとの間に位置し、それによって、針13が係合位置に動かされることが阻止される。
【0037】
デバイス10の使用は、
図13の流れ図を参照して、患者による自己投与プロセスの文脈で述べることにする。しかし、本発明のデバイス10の使用は、患者による使用に限定されず、第3者、たとえば医療関係者が患者に適用するために使用してもよいことを理解されたい。デバイス10の使用では、工程S1で、患者は、カバーシート20をデバイス10の下側面10bから取り外して接着パッチ19および殺菌パッド18を露出させる。次いで、工程S2で、患者は、デバイス10を、関連の薬剤の注射部位としての役割をする身体の適切な部位に接着させる。接着パッチ19は、その後の薬剤投与プロセスの間中、デバイス10を患者に対して固定する。
【0038】
身体に接着させた後、次の工程S3で、患者は、ノブ16を180度回転させて、殺菌パッド18を第1の位置から第2の位置まで動かす。その際、殺菌パッド18は、針の13の真下の患者の皮膚の領域、すなわち所期の注射部位をスイープする。皮膚上における殺菌パッド18のこのスイープ運動によって、殺菌パッド18中のアルコールまたは他の殺菌剤で注射部位が消毒され、薬剤送達注射が行われる準備が整う。回転可能プレート14を第2の(動作)位置まで動かすと、やはり、回転可能プレート14の開扇形部17が針13と位置合わせされ、それによって針13は、回転可能プレート14によって患者の皮膚からそれ以上遮断されなくなり、後退位置から係合位置に動くことができるようになる。
【0039】
後続の薬剤送達工程では、工程S4で、薬剤送達機構12が作動され、針が係合位置に動かされ、患者の皮膚を穿孔し、次いで、薬剤が針13を介して患者に投与される。薬剤送達機構12の作動は、たとえばボタン(図示せず)を押すことによって使用者が手動で開始しても、回転可能プレート14が第2の位置に動かされた後に自動で行ってもよい。
【0040】
デバイス10に組み込まれた皮膚殺菌機構を有する本発明のデバイス10により、使用者が彼らの皮膚にデバイス10を固定する前に薬剤投与プロセスの別の皮膚殺菌工程を実施する必要がなくなり、それによって手順がより単純かつ迅速になり、患者の負担が少なくなることを理解されたい。さらに、それによって、使用者が彼らの薬剤投与プロセスに備えて組み立てる必要のある機器の部品および材料の数が減少される。
【0041】
上述した利点に加えて、第1の実施形態のデバイス10の構造は、皮膚の殺菌前に針13が係合位置に動かされないようにする、回転可能プレート14による安全機能をもたらす。デバイス10は、回転可能プレート14が第2の位置に動かされる前に薬剤送達機構12が偶発的に作動されないようにするさらなる機構を含むことができる。たとえば、軸15にある突出要素(図示せず)は、回転可能プレート14が第2の位置になるのに十分に軸15が回転されるまで、アクチュエータのボタン(図示せず)をロックすることができる。あるいは、薬剤送達機構12は、回転可能プレート14が第2の位置に達したときだけ、自動的に作動してもよい。たとえば、薬剤送達機構12は、電池および1つまたはそれ以上の作動モータ(図示せず)によって電子的に電力供給を受けてもよく、電池とモータとの間の接続は、回転可能プレート14が第2の位置に達するまでなされない。あるいは、薬剤送達機構12の作動を可能にするコントローラ(図示せず)は、回転可能プレート14が第2の位置に達したときだけコントローラが薬剤送達機構12を作動させるように、回転可能プレート14、軸15またはノブ16の位置に機械的または電子的にリンクさせることができる。
【0042】
殺菌パッド18は、プレート14に少なくとも部分的に埋め込まれるように、回転可能プレート14に形成される凹部21に受け入れられる。これは、殺菌パッド18が患者の皮膚をスイープするときに患者の皮膚による摩擦抵抗に対抗するように、殺菌パッド18に対する横方向の支持を与えるという追加の利点を提供する。殺菌パッド18は、好ましくは、圧縮可能材料で作られ、はじめは圧縮状態で回転可能プレート14にもたらされ、着脱可能ラベル20の取り外しのとき、膨張して回転可能プレート14の表面および/またはデバイス10の下側面10bから盛り上がった状態になる。それによって、殺菌パッド18が使用中に患者の皮膚に良好に接触することが確実になる。本発明のさらなる任意選択の実施形態では、殺菌パッド18は、はじめは回転可能プレート14の凹部21内に圧縮され、殺菌パッド18が受け入れられる凹部21の周りの回転可能プレート14表面に接着されるカバーシート20によって所定位置に保持される。次いで、カバーシート20の取り外しのとき、殺菌パッド18は、膨張して、回転可能プレート14の表面を越えて突出することができる。
【0043】
図1〜
図5に示される本発明の第1の実施形態のデバイス10は、殺菌パッド18が、アーチ形の回転運動で、患者の皮膚をスイープするように、キャリア(すなわち回転可能プレート14)に取り付けられるように構成される。しかし、本発明は、この構造または動き、またはこの特定のタイプの殺菌パッドキャリアに限定されることを意図するものではない。したがって、本発明の第2の実施形態の薬剤送達デバイス30は、
図6〜
図9に示されており、
図1〜
図5に示される第1の実施形態のデバイス10と類似している。したがって、同様の機能は同じ参照番号のままになっており、その詳細は繰り返さない。デバイス30は、全体的に、上側面30aと、下側面30bとを含む。
【0044】
第2の実施形態のデバイス30と第1の実施形態のデバイス10の違いは、第2の実施形態のデバイス30は、殺菌パッド18が取り付けられる回転可能プレート14を含まないところである。その代わりに、デバイス30は、殺菌パッドキャリアの異なる構造、すなわち、ハウジング11内に配置される摺動プレート34を含む。殺菌パッド18は、摺動プレート34上にもたらされる。摺動プレート34は、剛性ウェブ35によってデバイス30の上側面30aにあるノブ36に連結される。スロット37は、デバイス30の上側面30aのハウジング11に設けられ、ウェブ35は、スロット37を通って延びる。ノブ36をデバイス30の一方側から他方に動かすことによって、摺動プレート34は、並進運動でデバイス30を横切るように摺動することができる。
【0045】
図7および
図8から見られるように、摺動プレート34は、第1の位置(
図7)と第2の位置(
図8)との間で動くことができ、使用者がノブ36を摺動させることによって手動で動かされる。第1の位置は、デバイス30の使用前位置、すなわち使用前に患者に提供されるときのデバイス30の構造に対応する。第2の位置は、デバイス30の動作位置、すなわち、患者がノブ36を摺動させて摺動プレート34を第1の位置から動かした後のデバイス30の構造であり、したがって、デバイス30が注射/薬剤投与工程を開始する準備ができたときの構造に対応する。
【0046】
第1の実施形態のデバイス10のように、第2の実施形態のデバイス30は、デバイス30の下側面30bに接着パッチ19を含み、さらに、使用前に接着パッチ19および殺菌パッド18を覆いデバイス30を使用する前に使用者によって除去されるカバーシート20を含む。
【0047】
針13は、後退位置では、摺動プレート34とデバイスの上側面30aとの間に位置し、摺動プレート34は、第1の位置では、針13とデバイス30の下側面30bとの間に位置し、それによって、針13が係合位置に動かされることが阻止される。
【0048】
デバイス30の使用では、患者は、カバーシート20をデバイス30の下側面30bから取り外して接着パッチ19および殺菌パッド18を露出させる。次いで、患者は、デバイス30を、関連の薬剤の注射部位としての役割をする身体の適切な部位に接着させる。接着パッチ19は、その後の薬剤投与プロセスの間中、デバイス30を患者に対して固定する。
【0049】
身体に接着させた後、患者は、ノブ36をスロット37にわたって摺動させて、殺菌パッド18を第1の位置から第2の位置まで動かす。その際、殺菌パッド18は、針の13の真下の患者の皮膚の領域、すなわち所期の注射部位をスイープする。皮膚上における殺菌パッド18のこのスイープ運動によって、殺菌パッド18中のアルコールまたは他の殺菌剤で注射部位が消毒され、薬剤送達注射が行われる準備が整う。さらに、摺動プレート34を第2の(動作)位置まで動かすと、摺動プレート34が針13と位置合わせされなくなり、それによって針13は、摺動プレート34によって患者の皮膚からそれ以上遮断されなくなり、後退位置から係合位置に動くことができるようになる。
【0050】
後続の薬剤送達工程では、薬剤送達機構12が作動されて、針が係合位置に動かされ、患者の皮膚を穿孔し、次いで、薬剤が針13を介して患者に投与される。薬剤送達機構の作動は、たとえばボタン(図示せず)を押すことによって、使用者により手動で開始される、または摺動プレート34が第2の位置に動かされた後に自動で行われる。
【0051】
第1の実施形態のデバイス10のように、本発明の第2の実施形態のデバイス30は、使用者が別の皮膚殺菌工程を実施する必要がなくなり、使用者が彼らの薬剤投与プロセスに備えて組み立てる必要のある機器の部品および材料の数が減少されるという、上述した利点を提供する。さらに、第2の実施形態のデバイス30は、摺動プレート34が、皮膚の殺菌前に針13が係合位置に動くのを防ぐ類似の安全機能を提供する。デバイス30は、摺動プレート34が第2の位置に動かされる前に薬剤送達機構12が偶発的に作動されないようにするさらなる機構を含むことができる。たとえば、ウェブ35にある突出要素(図示せず)は、摺動プレート34が第2の位置になるのに十分にウェブ35がスロット37にわたって摺動されるまで、アクチュエータのボタンをロックすることができる。あるいは、薬剤送達機構12は、第1の実施形態について先に述べたものと同じように、摺動プレート34が第2の位置に達したときだけ、自動的に作動させることができる。
【0052】
殺菌パッド18は、摺動プレート34に少なくとも部分的に埋め込まれるように、摺動プレート34に形成される凹部41に受け入れられる。これは、患者の皮膚をスイープするときに患者の皮膚による摩擦抵抗に対抗するように、殺菌パッド18に対する横方向の支持を与えるという利点を提供する。殺菌パッド18は、好ましくは、圧縮可能材料で作られ、はじめは圧縮状態で摺動プレート34にもたらされ、カバーシート20の取り外しのとき、膨張して摺動プレート34の表面および/またはデバイス30の下側面から盛り上がった状態になる。それによって、殺菌パッド18が使用中に患者の皮膚に良好に接触することが確実になる。本発明のさらなる任意選択の実施形態では、殺菌パッド18は、はじめは摺動プレート34の凹部41内に圧縮され、殺菌パッド18が受け入れられる凹部41の周りの摺動プレート34の表面に接着されるカバーシート20によって所定位置に保持される。次いで、カバーシート20の取り外しのとき、殺菌パッド18は、膨張して、摺動プレート34の表面を越えて突出することができる。
【0053】
本発明の上述した実施形態のデバイス10、30は、患者の注射部位のすぐ周囲の皮膚の小さい領域を殺菌するように構成されることを理解されたい。したがって、殺菌パッド18に染み込まされる殺菌剤は、デバイス10、30の使用中に殺菌される患者の皮膚の領域に色を付けるように染料を含むことができる。薬剤投与プロセスの完了後にデバイス10、30が取り除かれた後、注射部位の領域は、染料によって印付けされた状態になる。これは、患者が注射部位として最近使用した彼らの身体の領域を簡単に識別することができるので、同じ部位を次に続く薬剤投与プロセスでまた使用しないことを確実にするという点で有利である。さらに、注射部位のすぐ周囲の小さい領域だけを殺菌する(それによって色が付く)デバイス10、30の構造は、皮膚の色が付く領域が小さく、ばらばらであり、したがって目立たないことを意味する。殺菌剤に使用される染料は、薬剤投与の特定頻度に対応するように、所定の時間、または所定の回数の皮膚の洗浄の間、患者の皮膚に見えるように残るように構成される。たとえば、問題の薬剤が週1回の投与を意図する場合、染料は、7日または8日間、患者の皮膚を染色するように設計される。このように、直近の注射部位だけが患者に見えるので、どの注射部位を最近使用したかについての混乱が回避される。
【0054】
殺菌パッド18に染み込まされる、または、たとえば噴霧ノズル(以下参照)である殺菌機構からもたらされる殺菌剤は、場合により、殺菌される皮膚の領域を局所的に麻痺させる局所麻酔薬を含むことができる。これは、有利には、そうでない場合患者の皮膚に針を注射することで引き起こされることがある痛みまたは不快感を減少させることができる。
【0055】
殺菌パッド18に染み込まされる殺菌剤は、本発明の範囲内で液体またはゲルであってよい。ゲルを含む殺菌剤の利点は、デバイス10、30の収納中に殺菌パッド18から殺菌剤が漏れにくく、したがって、デバイス10、30の保存期間または収納寿命をより長くすることができることである。
【0056】
本発明の第1および第2の実施形態のデバイス10、30は、デバイスのハウジング11に可動に連結されるキャリアに取り付けられる殺菌パッド18を含む。しかし、本発明は、この特定の構造に対する限定を意図するものではなく、発明の概念は、患者の皮膚の所期の注射部位を拭うことができる、薬剤送達デバイスに組み込まれた殺菌パッドを提供することを含むことを理解されたい。したがって、たとえばハウジング11が患者の皮膚の所定位置にもたらされた後にそれ自体が動くことができる場合、殺菌パッドは、ハウジング11に対して必ずしも動くことが可能である必要はない。
図10〜
図12には、そのような例である、本発明の第3の実施形態のデバイス50が示されている。第1および第2の実施形態度と同じ機能は、同じ参照番号のままになっている。デバイス50は、全体的に、上側面11aと下側面11bとを有するハウジング11を含む。ハウジング11は、ベースプレート52から直立しハウジング11の下側面11bの円筒形凹部54に受け入れられるポスト53によって、ベースプレート52に回転可能に取り付けられる。ベースプレート52は、上側面52aと、下側面52bとを有する。接着パッチ19は、ベースプレート52の下側面52bにもたらされ、カバーシート20は、接着パッチ19の上に配置される。
【0057】
ベースプレート52は、弓状アパーチャ55を含む。ハウジング11の下側面11bは、針アパーチャ56を含む。針13は、その係合位置では、ハウジング11から針アパーチャ56を通って外に延びる。殺菌パッド18は、ハウジング11の下側面11bに針アパーチャ56に近接して固定される。したがって、ハウジング11は、殺菌パッドキャリアとして機能する。ハウジング11は、
図11に示される第1の位置と
図12に示される第2の位置との間で動くことができるように、ベースプレート52に取り付けられる。第3の実施形態のデバイス50において、ハウジング11は、ベースプレート52に対して回転可能である。代替実施形態では、ハウジング11は、たとえばベースプレート52に対する並進または摺動である、ベースプレート52に対して他の形で動くことができる。殺菌パッド18は、ハウジングの下側面11bから弓状アパーチャ55を通って突出する。殺菌パッド18は、圧縮可能であってよく、したがって、カバーシート20が所定位置にあるとき、圧縮状態の殺菌パッド18は、ベースプレート52の下側面52bと少なくとも同一平面に保持される。カバーシート20の除去のとき、殺菌パッド18は、弓状アパーチャ55を通ってベースプレート52の下側面52bを越えて突出するように膨張することができる。カバーシート20は、さらに、殺菌パッド18の汚染を回避し、さらに、殺菌パッド18が乾かないように、デバイスの使用前に殺菌パッド18を封止する機能を果たすことができる。
【0058】
デバイス50は、ハウジング11を第1の位置から第2の位置に動かすことで動作される。第1の位置では、薬剤送達機構12は、動作不能であるが、ハウジング11が第2の位置に動かされると動作可能になる。これは、薬剤送達機構12に接続されるコントローラ(図示せず)、および、ハウジング11が第2の位置にあることを検出する、コントローラに接続される検出器(図示せず)によって実行される。さらに、
図11には、デバイス50が示されており、第1の位置において、針アパーチャ56が弓状アパーチャ55から見える。しかし、第3の実施形態のデバイス50は、別法として、ハウジング11が第1の位置にあるときに弓状アパーチャ55が針アパーチャ56を横切るように延びないように構成することができる。それによって、針は、ハウジングが第1の位置にある間中、ベースプレート52によって、係合位置に動かされることが阻止される。
【0059】
本発明の第3の実施形態のデバイス50の使用では、患者は、カバーシート20を取り外してベースプレート52の下側面52bの接着パッチ19を露出させ、接着パッチ19を用いてデバイス50を身体に固定する。殺菌パッド18が膨張し、弓状アパーチャ55を通って延び、患者の皮膚に接触する。次いで、患者は、ハウジング11を第1の位置から第2の位置まで動かす。ハウジング11のこの動きによって、ハウジングに固定されている殺菌パッド18が患者の皮膚の所期の注射部位をスイープする。第2の位置になると、薬剤投与プロセスが開始可能になる。薬剤投与プロセスは、自動的に作動されるか、押しボタンなどの患者操作アクチュエータによって作動されるかのいずれかであってよい。次いで、薬剤送達のために、針13が係合位置に動かされ、弓状アパーチャ55の輪郭内に位置する患者の皮膚の殺菌済みの注射部位を穿孔する。殺菌剤は、前述した理由により染料を含むことができる。
【0060】
本発明の薬剤送達デバイスの発明の概念は、LVDに適用可能であることを理解されたい。しかし、本発明は、この特定のタイプの薬剤送達デバイスに対する限定を意図するものではなく、たとえばパッチポンプおよび注入ポンプなど、患者の皮膚に接触して機能する別のタイプの薬剤送達デバイスを包含するものとする。
【0061】
殺菌パッド18は、第1および第2の実施形態では、殺菌剤が染み込んだ材料として述べられている。しかし、殺菌パッドの他の構造も、本発明の範囲に入るものとし、たとえば、殺菌材料からなる固体要素を提供することができる。さらに、本発明は、殺菌パッド18の任意の特定の形状に限定されず、第1および第2の実施形態で示される扇形および矩形の殺菌パッドは一例に過ぎない。
【0062】
上述の本発明の実施形態では、殺菌パッドは、所期の注射部位を殺菌するように患者の皮膚上を手動で動かされる。しかし、本発明は、そのようなデバイスに限定されない。本発明の他の実施形態は、デバイスが患者の身体に固定された後、殺菌パッド18を患者の皮膚上に動かすように動作可能なアクチュエータの代替装置(arrangement)を含むことができる。たとえば、殺菌パッドは、自動機構によって動かすことができ、たとえば、注射部位にわたって動かされるように、電動キャリアプレートを電気モータに機械的に連結してもよい。デバイスは、患者の必要または要望に応じて皮膚殺菌工程を繰り返すように、殺菌パッドの動きを独立して制御するアクチュエータを含むこともできる。たとえば、アクチュエータは、殺菌パッドによる患者の皮膚の複数回のスイープを可能にすることができる。これは、手動で動かされる殺菌パッドを含むデバイスの場合では、患者がアクチュエータを何度も動かすことで可能となる。コントローラは、さらに、薬剤投与プロセスを制御することができる。患者は、単一のボタンまたは他のアクチュエータを押して、殺菌パッドを動かして注射部位を殺菌することができる。次いで、殺菌工程の後に薬剤投与プロセスが自動的に行われる。これは、注射の自動挿入および患者への薬剤の自動的な送達を含むことができる。
【0063】
殺菌パッド18は、適当な殺菌剤が染み込んだ吸収性パッドを含むことができる。例示的な殺菌剤は、これらに限定されないが、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、溶解物としてのイソプロピルアルコール、たとえば70%溶解物としてのイソプロピルアルコール、ヨウ素のチンキ、過酸化水素、クロラミンT、アルコール(たとえば、エタノール、1−プロパノール)、フェノール、窒素化合物、クロルヘキシジン、および/または洗浄剤を含むことができる。
【0064】
本発明の範囲に入ることを意図するデバイスは、薬剤がその中を通って送達される中空針、またはトロカールデバイスなどにおける中実針を含むことができる。トロカールデバイスでは、中実針または栓子(obturator)が皮膚を穿孔し、その後で穿孔された孔に可撓性中空管またはカニューレが挿入され、その後で薬剤がその中を通って患者に送達される。トロカールデバイスでは、中実針または栓子は、薬剤送達中は患者の皮膚内に残らない。
【0065】
上述した本発明の実施形態のデバイス10、30、50は、接着パッチ19を含む。しかし、本発明のデバイスは、ハウジング11またはベースプレート52に直接適用される接着剤のコーティングを含むことができる、接着層または接着面の他の構造を含むこともできる。
【0066】
上述した本発明の実施形態のデバイス10、30、50は、殺菌プロセスにおいて患者の皮膚をスイープするように患者の皮膚に概ね平行な平面内を動くことができる殺菌パッド18を含む。しかし、本発明は、そのような構造に対する限定を意図するものではなく、代替実施形態では、殺菌パッドは、注射部位に近づき遠ざかるように接着面に対して動くことができる。そのような装置では、殺菌パッドは、「スタンピング」運動で患者の皮膚に近づいてそれに接触することができ、次いで、皮膚から遠ざかり、それによって殺菌された注射部位における注射が可能になる。
【0067】
上述した本発明の実施形態のデバイス10、30、50は、殺菌プロセスにおいて患者の皮膚に接触して動くことができる殺菌パッド18を含む。しかし、本発明は、そのような構造に対する限定を意図するものではなく、代替実施形態のデバイスは、患者の皮膚に接触するパッドを含まない殺菌機構の代替装置を含むことができる。そのようなデバイスは、たとえば、殺菌剤の供給源に流体連結される殺菌用噴霧ノズルを含むことができる。患者の皮膚にデバイスを取り付けるとき、患者の皮膚に針が注射される前に、殺菌手段が作動されて注射部位に殺菌剤が噴霧される。殺菌剤は、流体であってよい。殺菌剤は、上述した理由により、染料を含むことができる。さらに、殺菌機構は、注射部位を照射するUV光発光装置を含むことができる。そのような殺菌機構の作動は、手動でなされる、または上述したのと類似の装置においてコントローラによって電子的に制御される。
【0068】
本発明の実施形態のデバイスは、使用者の皮膚にデバイスを取り付ける前に殺菌工程が行われないようにする手段を含むことができる。これは、殺菌パッドキャリアに連結されるロッキング機構に連結される、ハウジング11の下側面11bまたはベースプレート52の下側面52bにおける押し下げ可能なボタンのような機械的なものであってよい。これは、ボタンが押し下げられるまで、すなわちデバイスが患者の身体に固定されるときまで、キャリアの動きを防止することができる。あるいは、手段は、デバイスの動作および殺菌プロセスを制御するコントローラに接続されるスイッチまたはセンサのような電子部品であってもよい。コントローラは、デバイスが患者の身体に固定されたことをセンサが検出するまで、薬剤投与プロセスまたは殺菌プロセスが動作されないようにすることができる。
【0069】
デバイスは、薬剤を皮下的に送達するように構成されるが、そうではなくて、たとえばマイクロニードルを使用する皮内注射、または他の形での注射用に構成することができる。
【0070】
ボーラス注射デバイスは、大容量デバイス(LVD)として知られているタイプのものであってよい。LVD注射デバイスは、薬剤の比較的大量の用量、具体的には、少なくとも1ml、典型的には最大2.5mlまで、しかし場合によっては最大10mlまでの薬剤を投薬するように構成される。
【0071】
ボーラス注射デバイスは、所定時間内に患者の体内にある分量の薬剤を入れるように、それぞれの薬剤のボーラスを送達するように構成される。しかし、注射速度は、重要ではなく、すなわち必ずしも厳格に管理しなくてもよい。しかし、送達部位の周辺の組織にダメージを与えないようにするために、送達速度の(生理学的な)上限がある。薬剤のボーラス用量を送達するのに要する時間は、薬剤の量(分量)、薬剤の粘度、および注射デバイスの使用が意図される注射部位の性質を含むいくつかの要因に応じて、数分から数時間の間であってよい。
【0072】
使用者または医療従事者の視点から、注射デバイスは、患者のライフスタイルおよびスケジュールに最小限の影響しか与えないように構成され、それによって患者が注射の合間に彼または彼女の病気を思い出すことが最小限になることが望ましい。治療のための処置スケジュールは、一般的に、断続的であり、すなわち、週に1度、隔週に1度、または毎月1度の注射であることがある。したがって、患者には、通常、彼または彼女の病気に関するルーチンがなく、したがって、必要な注射を実施する最低限のルーチン/経験しかない。したがって、患者によるその操作を簡素化する注射デバイスの構造が非常に望ましい。
【0073】
注射デバイスの構造は、ボーラス動作を対象としているので、基本動作(basal operation)に使用される目的の注射デバイスとは非常に異なる。さらに、その使用も非常に異なる。たとえば、基本タイプのインスリンポンプは、一般的に、比較的高価である。というのも、それは、プログラム可能な送達速度プロファイル、ボーラス計算機(bolus calculator)などのような糖尿病に特有の精巧な機能を多数含むからである。さらに、注入セットを介した身体への連結によって、患者は、治療の進行中に彼/彼女の視界内にあるポンプを扱い、操作することができる。さらに、糖尿病患者は、通常、注入セットをセットアップし、ポンプに連結し、それを動作させ、シャワーを浴びるときなどの間にポンプが水に曝されないように一時的にポンプを連結解除するというルーチンを有する。それとは対照的に、上述したボーラス注射デバイスは、比較的単純であり、安価なデバイスである。それらは、薬剤で再び満たすことができない単回使用デバイスとして提供され、したがって、さらに、複雑さおよびコストが低減される。
【0074】
本明細書で使用する用語「薬物」または「薬剤」は、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味する。いくつかの実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有することができ、または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA分子、RNA分子、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモン、もしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物を含むことができる。様々なタイプまたはサブタイプの化合物も企図される。たとえば、RNAは、RNAi、siRNAまたはmiRNAを含むことができる。他の実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症または関節リウマチの処置または予防に有用である。いくつかの実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に伴う合併症の処置または予防のための少なくとも1つのペプチドを含むことができる。薬学的に活性な化合物は、さらに、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4もしくはエキセンジン−3もしくはエキセンジン−4の類似体もしくは誘導体、または薬学的に許容される塩もしくはその溶媒和物を含むことができる。
【0075】
インスリン類似体としては、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28−B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンがある。
【0076】
インスリン誘導体としては、たとえば、B29−N−ミリストイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−パルミトイル−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−ミリストイルヒトインスリン;B29−N−パルミトイルヒトインスリン;B28−N−ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28−N−パルミトイル−LysB28ProB29ヒトインスリン;B30−N−ミリストイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30−N−パルミトイル−ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29−N−(N−パルミトイル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(N−リトコリル−γ−グルタミル)−des(B30)ヒトインスリン;B29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)−des(B30)ヒトインスリン、およびB29−N−(ω−カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンがある。
【0077】
エキセンジン−4としては、たとえば、エキセンジン−4(1−39)がある。
【0078】
ホルモンとしては、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストがある。
【0079】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。
【0080】
抗体としては、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている略球状血漿タンパク質(約150kDa)がある。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有することができるので、糖タンパク質にも分類される。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり;分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0081】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖;すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2本の重鎖および2本の軽鎖を含むことができる「Y」字型の分子である。各重鎖は約440アミノ酸長であり得;各軽鎖は約220アミノ酸長であり得る。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらのフォールディングを安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含むことができる。各鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは、典型的には、約70〜110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリンフォールドを有する。
【0082】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが規定され;これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0083】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり;αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(CH)および可変領域(VH)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインおよび可撓性を加えるためのヒンジ領域から構成される定常領域を有し;重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリンドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一のB細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0084】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン:すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211〜217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を含み;哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0085】
抗体の一般的な構造は類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(VH)に3つであることが多い可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、通常、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0086】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH−H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0087】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンを有する塩である。薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0088】
いくつかの実施形態では、様々な粘度の薬剤が注射可能である。たとえば、粘度は、約3〜約50cPの範囲であってよい。他の実施形態では、粘度は、約3cP未満、または約50cPを上回ってもよい。注射は、さらに、薬剤を患者の身体の皮下、筋肉内または経皮的な場所に送達することを含むことができる。薬剤は、液体、ゲル、スラリー、懸濁液、粒子、粉末または他のタイプの形態であってよい。
【0089】
典型的な注射量は、約1mL〜約10mLの範囲であってよい。注射速度は、約0.5mL/分、約0.2mL/分、または約0.1mL/分であってよい。そのような注射プロファイルは、流量が概ね一定、または継続時間が概ね連続的、または両方が概ね一定かつ連続的であってよい。これらの注射は、単一の投与工程で行うことができる。そのような注射プロファイルは、ボーラス注射と呼ばれる。
【0090】
そのような薬剤について機能する送達デバイスは、針、カニューレ、または薬剤を患者に送達するように構成される他の注射要素を用いることができる。そのような注射要素は、たとえば、外側サイズ、すなわち直径が27G未満であってよい。さらに、注射要素は、剛性または可撓性であってよく、1つまたはそれ以上の広範な材料を使用して形成される。いくつかの実施形態では、注射要素は、2つ以上の構成要素を含むことができる。たとえば、剛性トロカールは、可撓性カニューレと一緒に動作することができる。はじめに、トロカールとカニューレの両方を一緒に動かして皮膚を穿孔することができる。次いで、カニューレを標的組織内に少なくとも部分的に残しながら、トロカールを後退させることができる。その後、カニューレは、別に、送達デバイス内に後退させることができる。
【0091】
針を挿入する挿入機構は、あらゆる適当な形態を取ることができる。それは、機械的なばねベース機構であってよい。あるいは、挿入要素機構は、たとえば、使用者に対する挿入要素の挿入を引き起こす、電気モータとギア機構を含むこともできる。あるいは、挿入機構は、ガスまたは流体の圧力で動作する機構であってもよく、その場合、針を駆動させるエネルギー源は、加圧ガスのリザーバか、2つ以上の化学物質が混合されてガスまたは流体の圧力を生成する化学システムのどちらかである。
【0092】
図面に示される本発明の実施形態は、発明の概念を明確かつ簡単に例示するように概略的に例示され、したがって寸法および比率は正確ではないことを理解されたい。たとえば、接着層19およびカバーシート20の厚さは誇張されている。