(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6765761
(24)【登録日】2020年9月18日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】静電チャック装置及び静電吸着方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20200928BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20200928BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-252944(P2016-252944)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-107308(P2018-107308A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄
【審査官】
宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−235605(JP,A)
【文献】
特開2016−111121(JP,A)
【文献】
特開2004−022979(JP,A)
【文献】
特開2016−171292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧環境下で被保持物を静電吸着する静電チャック装置であって、
電極と、保持面と、を備える静電チャックテーブルと、
該保持面に保持した該被保持物の露出面にイオン化エアーを供給するイオン化エアー供給ユニットと、を有し、
該電極は、被保持物の静電吸着時に電荷が供給される機能を有し、
該イオン化エアー供給ユニットは、該電極に供給される電荷の極性と反対の極性の電荷のイオンを該被保持物の露出面に供給して、該被保持物の該露出面側の電荷を維持する機能を有することを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
該被保持物は、一方の面に保護部材が設けられており、
該保護部材を介して該被保持物を該保持面に静電吸着することを特徴とする請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
電極と、保持面と、を備える静電チャックテーブルの該保持面に被保持物を載置する載置ステップと、
該電極に電荷を供給し、静電吸引力を発生させる吸引制御ステップと、
該被保持物の露出面に、該電極に供給された電荷の極性と反対の極性の電荷のイオン化エアーを供給して該被保持物の該露出面の電荷を維持し、静電吸引力の制御を補助する吸引補助ステップと、
を備えることを特徴とする静電吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置及び静電吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の被保持物を保持して加工するプラズマエッチング装置等の加工装置は、該被保持物を静電吸着する静電チャックテーブル等の静電チャック装置を有し、被保持物は加工装置の静電チャック装置に固定されて加工される。
【0003】
静電チャック装置は電極と、該電極上の誘電体(絶縁体)と、を有する。被保持物が該誘電体を介して電極の上方に載せ置かれ、その後、該電極が所定の電位とされると、電極から生じた電界(電場)により被保持物中に静電誘導または静電分極を生じる。そして、被保持物中の電荷または分極と、静電チャック装置の電極と、の間のクーロン力(静電気力)により、被保持物が静電チャック装置に固定される。
【0004】
クーロン力による静電吸着は、被保持物が自由電子を有する導体である場合に静電誘導が生じて特に強力となる。一方で、被保持物が半導体や絶縁体である場合には静電分極が生じるが、該静電分極による静電吸着力は比較的弱い。そこで、例えば、加工装置内の静電チャック装置の電極を所定の低電位にして半導体や絶縁体の被保持物を保持させるとき、加工装置の内部を真空にして加工装置の内部にプラズマを生じさせ、該プラズマから被保持物に陽イオンを供給する。
【0005】
すると、該被保持物の上面側に、静電分極が生じる。該分極は、上に負の電荷が、下に正の電荷が配された電気双極子で構成される。静電チャック装置の電極に低電位の直流電圧が供給されるときに生じる該被保持物の下面側の静電分極も、上に負の電荷が、下に正の電荷が配された電気双極子で構成される。そのため、被保持物の上側に生じた静電分極により下側の静電分極が補助されて、クーロン力による静電吸着が強まる。
【0006】
この場合、静電チャック装置の電極への給電を停止しても吸着力が完全には失われにくいので、被保持物を剥離する際は、給電を停止した後にプラズマを発生させ、該プラズマから被保持物の上面(露出面)に電子を供給して被保持物に残留した電位を消滅させる。しかし、プラズマを利用するためには静電チャック装置を真空環境に置かねばならず、大気圧環境下ではプラズマによる静電吸着の制御ができない。
【0007】
そこで、大気圧環境下において半導体や絶縁体の被保持物を保持できるように、静電チャック装置が有する電極の形状を工夫して、グラジエント力により被保持物を保持可能とした静電チャック装置が開発された。また、保持面の平坦性を上げて給電停止後でも吸着力を維持可能とした静電チャック装置が開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016−51836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、グラジエント力を利用する場合も保持面の平坦性を上げる場合も、被保持物が導体ではない場合や電極への給電が維持されない場合、静電チャック装置の吸着力はなおも十分とはいえない。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大気圧環境下においても半導体や絶縁体等の被保持物を静電吸着できる静電チャック装置、及び、静電吸着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、大気圧環境下で被保持物を静電吸着する静電チャック装置であって、電極と、保持面と、を備える静電チャックテーブルと、該保持面に保持した該被保持物の露出面にイオン化エアーを供給するイオン化エアー供給ユニットと、を有し、該電極は、被保持物の静電吸着時に電荷が供給される機能を有し、該イオン化エアー供給ユニットは、該電極に供給される電荷の極性と反対の極性の電荷のイオンを該被保持物の露出面に供給して、該被保持物の該露出面側の電荷を維持する機能を有することを特徴とする静電チャック装置が提供される。
【0012】
本発明の一態様において、該被保持物は、一方の面に保護部材が設けられており、該保護部材を介して該被保持物を該保持面に静電吸着してもよい。
【0013】
また、本発明の他の一態様によると、電極と、保持面と、を備える静電チャックテーブルの該保持面に被保持物を載置する載置ステップと、該電極に電荷を供給し、静電吸引力を発生させる吸引制御ステップと、該被保持物の露出面に、該電極に供給された電荷の極性と反対の極性の電荷のイオン化エアーを供給して該被保持物の該露出面の電荷を維持し、静電吸引力の制御を補助する吸引補助ステップと、を備えることを特徴とする静電吸着方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る静電チャック装置は、電極と、保持面と、を備える静電チャックテーブルと、イオン化エアーを供給できるイオン化エアー供給ユニットと、を有する。該静電チャック装置に被保持物を静電保持させるときは、該静電チャック装置の静電チャックテーブルの保持面に被保持物を接触させ、該静電チャックテーブルの電極に電荷を供給する。
【0015】
すると、該電荷から発生する電界により、該被保持物中の該保持面に向いた面側に該電荷の極性とは反対の極性の電荷等が誘導される。または、該保持面に向いた面側に分極が生じる。該分極は、該電極の電荷の極性とは反対の極性の電荷が該保持面側に、該電極の電荷の極性と同じ極性の電荷が該保持面側とは反対側に、それぞれ配された電気双極子により構成される。そして、被保持物中の電荷または分極と、静電チャック装置の電極と、の間のクーロン力(静電気力)により、被保持物が静電チャック装置に固定される。
【0016】
さらに、該静電チャック装置は、イオン化エアー供給ユニットから被保持物の露出面(該保持面に向いていない面)にイオン化エアーを供給できる。このとき、イオン化エアー供給ユニットからは、該電極に供給される電荷の極性と反対の極性のイオン化エアーが被保持物に供給される。すると、被保持物の該露出面側には該イオン化エアーの極性とは反対の極性の電荷が誘起される。または、被保持物中の該保持面に向いた面側の分極の電気双極子と同様の電気双極子で構成される分極が生じる。
【0017】
したがって、被保持物の該保持面に向いた面側と、該露出面側と、のそれぞれに誘起される電荷の極性が逆となる。または、被保持物中の該保持面に向いた面側と、該露出面側と、にそれぞれ生じる分極の向きが揃う。そのため、被保持物中の帯電状態が該イオン化エアーから供給される電荷により強められる。すなわち、イオン化エアー供給ユニットがクーロン力による被保持物の静電吸着を補助する。
【0018】
また、静電吸着を解除して被保持物を該静電チャックテーブルから剥離するときは、静電吸着時に静電チャックテーブルに供給されていた電荷とは逆の極性の電荷を該電極に供給する。
【0019】
このとき、イオン化エアー供給ユニットから供給され被保持物の該露出面に残留するイオン化エアーにより被保持物中の帯電状態が維持されるため、被保持物の該保持面に向いた面の電荷等の極性と、該電極に新たに供給された電荷の極性と、が一致するようになる。すると、該電極と、該被保持物と、の間に互いに反発する向きに力が生じるため、被保持物を該静電チャックテーブルから剥離しやすくなる。
【0020】
よって、本発明によれば、大気圧環境下においても半導体や絶縁体等の被保持物を静電吸着できる静電チャック装置、及び、静電チャックテーブルの吸引制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(A)は、静電チャック装置に静電吸着される被保持物の一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、静電チャック装置を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、静電チャック装置を模式的に示す断面図であり、
図2(B)は、静電チャック装置への被保持物の静電吸着を模式的に説明する断面図である。
【
図3】
図3(A)は、被保持物の静電吸着時の電荷等を模式的に説明する断面図であり、
図3(B)は、被保持物の剥離時の電荷等を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1(A)は、本実施形態に係る静電チャック装置に静電吸着される被保持物の一例を模式的に示す斜視図である。
図1(A)に示す通り、本実施形態に係る静電チャック装置に静電吸着される被保持物は、例えば、半導体でなるウェーハ1である。
【0023】
該ウェーハ1は略円板状であり、表面1aに格子状に配列された複数の分割予定ライン3によって区画される各領域に、ICやLSI等のデバイス5が形成されている。該ウェーハ1は、裏面1b側から研磨加工されることで薄化される。そして、該分割予定ライン3に沿って該ウェーハ1が分割されると、個々のデバイスチップが形成される。
【0024】
ただし、本実施形態に係る静電チャック装置に静電吸着される被保持物は半導体でなるウェーハに限られず、金属等の導電体、または、ガラス等の絶縁体でなる円板状の基板でもよい。本実施形態に係る静電チャック装置では、被保持物が導電体、絶縁体、または、半導体のいずれであっても、被保持物を静電吸着できる。また、ウェーハ1等の被保持物の一方の面には保護部材が設けられてもよく、その場合、該保護部材を介して該被保持物が静電チャック装置に静電吸着される。
【0025】
次に、本実施形態に係る静電チャック装置について説明する。
図1(B)は、本実施形態に係る静電チャック装置2を模式的に説明する斜視図である。
図1(B)に示される通り、該静電チャック装置2は、静電チャックテーブル4と、該静電チャックテーブル4の上方に設けられたイオン化エアー供給ユニット6と、を備える。
【0026】
図2(A)は、静電チャック装置2を模式的に説明する断面図である。静電チャックテーブル4は、その上側の保持面4a上に載せ置かれたウェーハ1等の被保持物を静電吸着できる機能を有する。該静電チャックテーブル4の保持面4a側には、電極4cと、該電極4cを囲む絶縁体4bと、が設けられている。該電極4cは、電源4dに電気的に接続されており、該電源4dは、該電極4cに正または負の電荷を供給する機能を有する。
【0027】
イオン化エアー供給ユニット6は、例えばイオナイザーであり、静電チャックテーブル4の保持面4aに向けて正または負に帯電したイオン化エアーを供給できる機能を有する。
図1(B)に示す通り、イオン化エアー供給ユニット6は、静電チャックテーブル4の上方に、イオン化エアー供給ヘッド6aと、該イオン化エアー供給ヘッド6aに正または負に帯電したイオン化エアーを供給するイオン化エアー供給源6bと、を有する。
【0028】
一般的に、イオナイザーを所定の対象の除電に用いるときには、概略同じ量の正に帯電したイオン化エアーと、負に帯電したイオン化エアーと、を発生させるように使用する。これに対して、本実施形態に係る静電チャック装置2のイオナイザー等のイオン化エアー供給ユニット6では、正に帯電したイオン化エアー、または、負に帯電したイオン化エアーの一方を生成して静電チャックテーブル上に供給する。
【0029】
イオン化エアー供給源6bは、例えば、高圧電源に接続された放電針を有する。該イオン化エアー供給源6bに外部から空気を取り込ませ、該放電針から交流電圧または直流電圧を印加させてコロナ放電を行い、空気を正または負に帯電させイオン化エアーを生じさせる。
【0030】
イオン化エアー供給源6bに、例えば、交流電源に接続された放電針を用いる場合、該放電針に供給される交流電圧の最低電圧が正となるように、該交流電圧を該交流電圧の振幅より大きく昇圧させる。または、交流電圧の最高電圧が負となるように、該交流電圧を該交流電圧の振幅より大きく降圧させる。そして、正に帯電したイオン化エアー、または、負に帯電したイオン化エアーの一方を生成させる。
【0031】
また、イオン化エアー供給源6bに、直流電源の正極側に接続された放電針と、直流電源の負極側に接続された放電針と、の2つの放電針を用いる場合、一方の放電針にのみ直流電圧を供給する。そして、正に帯電したイオン化エアー、または、負に帯電したイオン化エアーの一方が生成されるようにする。
【0032】
イオン化エアー供給源6bで生成されたイオン化エアーは、イオン化エアー供給ヘッド6aに供給され、該イオン化エアー供給ヘッド6aの下面に設けられた供給口6cから静電チャックテーブル4の保持面4aに向けて放出される。
【0033】
次に、本実施形態に係る静電チャック装置に被保持物を静電吸引させる方法について説明する。
図2(B)は、該静電チャック装置2にウェーハ1を静電吸引させた状態を模式的に示す断面図である。
【0034】
図2(B)に示す通り、該方法ではまず静電チャックテーブル4の保持面4aにウェーハ1を載置する載置ステップを実施する。載置ステップの後に、静電チャックテーブル4の電極4cに電荷を供給し、静電吸引力を発生させる吸引制御ステップを実施する。また、載置ステップの後に、該電極4cに供給される電荷と反対の極性の電荷のイオン化エアー8をウェーハ1の露出面に供給し、該ウェーハ1の該露出面の電荷を維持し、静電吸引力の制御を補助する吸引補助ステップを実施する。
【0035】
静電チャック装置2にウェーハ1を静電吸引させる方法の各ステップについて詳述する。載置ステップでは、ウェーハ1に対して行う加工の対象ではない側の面が該保持面4aに接するように、ウェーハ1を静電チャックテーブル4の上に載置する。するとウェーハ1に対する加工の対象となる側の面が露出面となり、該面に所定の加工を実施できる。
【0036】
次に、吸引制御ステップについて説明する。該吸引制御ステップでは、静電チャックテーブル4の電極4cに電源4dから電荷を供給して、ウェーハ1に対する静電吸引力を発生させる。該電極4cが所定の電位となると、電極4cから生じた電界によりウェーハ1中に静電誘導または静電分極が生じる。そして、ウェーハ1中の電荷または分極と、静電チャックテーブル4と、の間のクーロン力(静電気力)により、ウェーハ1が静電チャックテーブル4に固定される。
【0037】
ただし、クーロン力による静電吸着の吸着力は、ウェーハ1が自由電子を有する導体である場合に強くなるが、被保持物が半導体や絶縁体であると比較的弱く、例えば、電極4cに対する電荷の供給を停止すると吸着力が大幅に減少する。そこで、吸引補助ステップを実施する。
【0038】
次に、吸引補助ステップについて説明する。該吸引補助ステップでは、該電極4cに供給される電荷と反対の極性に帯電したイオン化エアー8を、イオン化エアー供給ユニット6からウェーハ1の露出面に供給する。例えば、該電極4cに正の電荷を供給する場合、負に帯電したイオン化エアー8をイオン化エアー供給ヘッド6aから放出させ、該電極4cに負の電荷を供給する場合、正に帯電したイオン化エアー8をイオン化エアー供給ヘッド6aから放出させる。
【0039】
図3(A)は、被保持物の静電吸着時の電荷等を模式的に説明する断面図である。
図3(A)に、電極4cの電荷、ウェーハ1の電荷等、及び、イオン化エアーによる電荷10のそれぞれの極性の関係を模式的に示す。
図3(A)において、電荷等を表す円の色は該電荷等の極性を表す。同色の円は同極性の電荷等である。2つの円が互いに異色の場合、互いに逆の極性の電荷であることを表す。また、ウェーハ1の円は、静電誘導または静電分極による電気的な偏りを電荷として模式的に表現すものである。
【0040】
静電チャックテーブル4の電極4cに供給された電荷12の極性が正である場合、イオン化エアーによる電荷10の極性を負とする。すると、電極4cに起因して生じるウェーハ下面の電荷7bの極性が負となる一方で、イオン化エアーによる電荷10に起因して生じるウェーハ上面の電荷7aの極性は正となる。そのため、ウェーハ上面の電荷7aと、ウェーハ下面の電荷7bと、が互いに逆の極性となる。
【0041】
ウェーハ上面の電荷7aと、ウェーハ下面の電荷7bと、が同極性となる場合比べ、逆の極性となる場合では、静電誘導または静電分極がより強くなりやすい。また、電極4cへの電荷(電圧)の供給を停止しても、イオン化エアーによる電荷10によりウェーハ1の内部の電荷または分極が解消せず、ウェーハ1に依然としてクーロン力を作用させることができる。そのため、ウェーハ1は静電チャックテーブル4に静電吸着され続ける。
【0042】
次に、ウェーハ1の静電吸着を解除してウェーハ1を静電チャックテーブル4から剥離させる場合について説明する。ウェーハ1を静電チャックテーブル4から剥離させるときには、静電チャックテーブル4の電極4cに、静電吸着時に供給した電荷の極性と逆の極性の電荷を該電極4cに供給する。
図3(B)は、静電チャックテーブル4からウェーハ1を剥離させる状態を模式的に説明する断面図である。
【0043】
図3(B)に示す通り、イオン化エアーによる電荷10によりウェーハ1の内部の電荷または分極は解消していない。例えば、静電吸着時に電極4cに供給された電荷12の極性が正である場合、電極4cに起因して生じているウェーハ下面の電荷7bの極性が負となる。
【0044】
そして、電極4cに負電荷を供給する。すると、ウェーハ下面の電荷7bと、電極4cに供給された電荷14と、が互いに同極性となる。そのため、電極4cと、ウェーハ1と、の間に反発力が生じてウェーハ1を剥離しやすくなる。
【0045】
以上、説明した通り、本実施形態に係る静電チャック装置2は、電極1cを備えた静電チャックテーブル4と、イオン化エアー供給ユニット6と、を有しているため、ウェーハ1の静電吸着と、剥離と、を容易に実施することができる。このとき、プラズマを利用しないため、静電チャック装置2は大気圧環境下でもウェーハ1を静電吸着できる。
【0046】
静電チャック装置2に静電吸着されたウェーハ1に対しては、所定の加工が実施される。例えば、静電チャック装置2がウェーハ1を研削する研削装置に組み込まれている場合、ウェーハ1には研削加工が実施される。また、静電チャック装置2がウェーハ1を切削する切削装置に組み込まれている場合、ウェーハ1には切削加工が実施される。このように、静電チャック装置2は真空環境下でなくてもウェーハ1を静電吸着できるため、ウェーハ1に実施される加工は真空中で行われる加工に限られない。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、静電チャックテーブル4と、イオン化エアー供給ユニット6と、は互いに分離して独立に使用できてもよく、それぞれ、他の用途に用いられてもよい。例えば、イオン化エアー供給ユニット6がイオナイザーである場合、両方の極性のイオン化エアーを概略等量含むイオン化エアーを供給できてもよく、対象の除電用に用いられてもよい。
【0048】
互いに独立している静電チャックテーブル4と、イオン化エアー供給ユニット6と、がウェーハ1等の被保持物の静電保持のために、上記の実施形態に説明するように用いられる場合、両者は静電チャック装置2を構成する。
【0049】
その他、上記実施形態に係る構成、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0050】
1 ウェーハ
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
5 デバイス
7a ウェーハ上面の電荷
7b ウェーハ下面の電荷
2 静電チャック装置
4 静電チャックテーブル
4a 保持面
4b 絶縁体
4c 電極
4d 電源
6 イオン化エアー供給ユニット
6a イオン化エアー供給ヘッド
6b イオン化エアー供給源
6c 供給口
8 イオン化エアー
10 イオン化エアーによる電荷
12,14 電極に供給された電荷