特許第6766470号(P6766470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6766470
(24)【登録日】2020年9月23日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】銅合金材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/11 20060101AFI20201005BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20201005BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20201005BHJP
   B22D 11/116 20060101ALI20201005BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   B22D11/11 B
   B22D11/00 F
   B22D11/10 310J
   B22D11/10 310P
   B22D11/116
   B22D1/00 J
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-126301(P2016-126301)
(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公開番号】特開2018-1174(P2018-1174A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋光
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−260021(JP,A)
【文献】 特開平05−050194(JP,A)
【文献】 特開昭56−068578(JP,A)
【文献】 実開平01−127663(JP,U)
【文献】 特開2009−148825(JP,A)
【文献】 特開2017−159332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B22D 1/00
B22D 41/00−41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銅に金属元素を添加する工程と、
前記金属元素を含む前記溶銅をタンディッシュに貯留する工程と、
前記タンディッシュに貯留する前記溶銅に含まれる、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち少なくとも1つにより構成された介在物を、前記タンディッシュの内壁面上であって注湯ノズルの開口部よりも上流側に配置され、前記介在物と同種の材料により構成された付着部材に付着させる工程と、
前記タンディッシュから前記注湯ノズルを介して前記溶銅を流出させる工程と、
前記タンディッシュから流出させた前記溶銅を連続的に鋳造する連続鋳造工程と、
を有し、
前記介在物を前記付着部材に付着させる工程では、前記注湯ノズルの開口部へ延在し、前記延在方向と直交する方向に沿って凹凸の表面を有する凹凸形状、または管形状からなる前記付着部材に、前記介在物を付着させる、
銅合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金材の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅合金材を製造する方法として、例えば、連続鋳造圧延法が知られている。この方法では、まず、溶解炉において、銅材料を溶融させて溶銅を生成する。次に、溶銅にチタン、マグネシウム等の金属元素(合金成分)を添加する。次に、合金成分を添加した溶銅をタンディッシュに移送し、タンディッシュ内の溶銅を注湯ノズルから連続鋳造機に流出させる。次に、連続鋳造機により溶銅を冷却・固化しつつ、圧延することにより銅合金材を製造する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3552043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によると、合金成分の酸化物等で構成された介在物を含む溶銅をタンディッシュから注湯ノズルを介して流出させると、介在物が注湯ノズルに付着して、注湯ノズルが詰まることが分かった。そのため、銅合金材の製造装置においては、注湯ノズルの詰まりを掃除する必要があり、長時間の連続操業により銅合金材を生産性よく製造することが困難となっていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、銅合金材の製造において、溶銅に含まれる介在物が注湯ノズルに付着することによって生じる注湯ノズルの詰まりを抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
溶銅を連続的に鋳造して銅合金材を製造する銅合金材の製造装置であって、
前記溶銅に金属元素を添加する添加手段と、
前記金属元素を含む前記溶銅を貯留するタンディッシュと、
前記タンディッシュに接続され、前記タンディッシュから前記溶銅を流出させるための注湯ノズルと、
前記タンディッシュ内に配置され、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち少なくとも1つと同種の材料により構成された付着部材と、
を備える、銅合金材の製造装置
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
溶銅に金属元素を添加する工程と、
前記金属元素を含む前記溶銅をタンディッシュに貯留する工程と、
前記溶銅に含まれる、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち少なくとも1つにより構成された介在物を、前記タンディッシュ内に配置され、前記介在物と同種の材料により構成された付着部材に付着させる工程と、
前記タンディッシュから注湯ノズルを介して前記溶銅を流出させる工程と、
を有する、銅合金材の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶銅に含まれる介在物が注湯ノズルに付着することによって生じる注湯ノズルの詰まりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる銅合金材の製造装置を示す概略構成図である。
図2図2は、タンディッシュ近傍を拡大した概略構成図である。
図3図3(a)および図3(b)は、それぞれ、付着部材の構造の一例を示す概略上面図および概略断面図である。
図4図4(a)および図4(b)は、それぞれ、付着部材の構造の他の例を示す概略上面図および概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<銅合金材の製造装置>
本発明の一実施形態にかかる銅合金材の製造装置について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る銅合金材の製造装置を示す概略構成図である。
【0011】
なお、以下において、「銅合金材」とは、荒引線や荒引線を伸線加工して得られた素線を含む総称として用いられる。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る銅合金材の製造装置10は、銅合金材を連続鋳造圧延するための、いわゆる連続鋳造圧延装置(SCR:Southwire Continuous Rodsystem)として構成され、例えば、溶解炉210と、上樋220と、保持炉230と、添加手段240と、下樋260と、タンディッシュ300と、注湯ノズル320と、連続鋳造機500と、連続圧延装置620と、コイラー640と、を有している。
【0013】
溶解炉210は、銅原料を加熱して溶融させ、溶銅110を生成するよう構成され、例えば、炉本体と、炉本体の下部に設けられるバーナーと、を有している。銅原料が炉本体に投入され、バーナーで加熱されることで、溶銅110が連続的に生成される。銅材料としては、例えば、電気銅(Cu)等を用いることができる。
【0014】
上樋220は、溶解炉210の下流側に設けられ、溶解炉210と保持炉230との間を連結し、溶解炉210で生成された溶銅110を下流側の保持炉230に移送するよう構成されている。
【0015】
保持炉230は、上樋220の下流側に設けられ、上樋220から移送される溶銅110を所定の温度で加熱して(一時的に)貯留するよう構成されている。また、保持炉230は、溶銅110を所定の温度に保持したまま、所定量の溶銅110を下樋260に移送するよう構成されている。
【0016】
保持炉230には、添加手段240が接続されている。添加手段240は、保持炉230内の溶銅110に、所定の金属元素を連続的に添加するよう構成されている。溶銅110に添加される金属元素としては、例えば、錫(Sn)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)等が挙げられる。つまり、好ましくは、これらの金属元素のうち少なくとも1つが、溶銅110に添加される。以下、溶銅110に添加される金属元素を、合金成分と呼ぶことがある。合金成分を添加する方法としては、特に限定されないが、例えば、合金成分からなるワイヤを溶銅110中に投入するワイヤインジェクションを用いることができる。
【0017】
下樋260は、保持炉230の下流側に設けられ、保持炉230から移送される溶銅110を下流側のタンディッシュ300に移送するよう構成されている。
【0018】
なお、添加手段240は、保持炉230に接続される態様に限定されず、例えば下樋260や、タンディッシュ300に接続される態様であってもよい。
【0019】
タンディッシュ300は、下樋260の下流側に設けられ、下樋260から移送される溶銅110を(一時的に)貯留し、連続鋳造機500に対して所定量の溶銅110を連続的に供給するよう構成されている。タンディッシュ300内に、付着部材350が配置されている。
【0020】
タンディッシュ300の下流側には、貯留する溶銅110を流出させるための注湯ノズル320が接続されている。注湯ノズル320は、例えば、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物等の耐火物で形成されている。タンディッシュ300に溜まった溶銅110は、注湯ノズル320を介して、連続鋳造機500へと供給される。注湯ノズル320の開口部近傍には、注湯ノズル320を介して流出する溶銅110の流出量を調整するための流量調整部材として、流量調整ピン310(図2参照)が設けられている。
【0021】
連続鋳造機500は、いわゆるベルトホイール式の連続鋳造を行うよう構成され、例えば、ホイール(またはリング)510と、ベルト520と、を有している。円筒状のホイール510は、外周に溝部を有している。また、ベルト520は、ホイール510の外周面の一部に接触しながら周回移動するよう構成されている。ホイール510の溝部とベルト520との間に形成される空間に、タンディッシュ300から流出される溶銅110が注入される。また、ホイール510およびベルト520は、例えば冷却水により冷却されている。これにより、溶銅110が冷却・固化(凝固)されて、棒状の鋳造材120が連続的に鋳造される。
【0022】
連続圧延装置620は、連続鋳造機500の下流側(鋳造材排出側)に設けられ、連続鋳造機500から移送される鋳造材120を連続的に圧延するよう構成されている。鋳造材120が圧延されることで、銅合金材130として、例えば所定の外径を有する荒引線や素線が成形加工される。
【0023】
コイラー640は、連続圧延装置620の下流側(銅合金材排出側)に設けられ、連続圧延装置620から移送される銅合金材130を巻き取るよう構成されている。
【0024】
上述したように、タンディッシュ300の注湯ノズル320は、溶銅110に含まれる介在物が付着することにより、詰まることがある。本発明者らは、注湯ノズル320における詰まりを抑制するには、溶銅110が注湯ノズル320に導入される前に、溶銅110に含まれる介在物を取り除く必要があると考え、そのような方法について検討を行った。
【0025】
溶銅110中で生成される介在物としては、合金成分の酸化物、窒化物、炭化物、および、硫化物が挙げられる。つまり、介在物は、合金成分の酸化物、合金成分の窒化物、合金成分の炭化物、および、合金成分の硫化物のうち少なくとも1つにより構成されている。特に多く生成される介在物としては、合金成分の酸化物が挙げられる。
【0026】
介在物は、凝集して大きな粒径となった状態では、溶銅110の湯面に浮上するので、湯面で捕集して除去することが可能である。しかし、凝集しておらず粒径が小さい状態では、介在物は湯面に浮上せず、溶銅110中に含まれたまま注湯ノズル320から流出して、鋳造物に混入してしまう。
【0027】
ただし、凝集しておらず粒径が小さい介在物は、介在物同士が互いに凝集しやすい状態にあると考えられている。また、介在物は、溶銅110との濡れ性が低いことで介在物同士の凝集が促進されやすく、特に同種の材質の介在物同士が凝集しやすいと考えられている。ここで、材質や材料について「同種」とは、合金成分の酸化物に対しては当該合金成分の酸化物を意味し、合金成分の窒化物に対しては当該合金成分の窒化物を意味し、合金成分の炭化物に対しては当該合金成分の炭化物を意味し、合金成分の硫化物に対しては当該合金成分の硫化物を意味する。例えば、チタン酸化物と同種の材質、材料は、チタン酸化物である。
【0028】
このような知見を踏まえ、本発明者らは、タンディッシュ300内に、介在物を含む溶銅110と接触するように、介在物と同種の材料により構成された付着部材350を配置することで、付着部材350に介在物を付着させて(堆積させて)、溶銅中110中の介在物を除去できる(減少させられる)ことを見出した。
【0029】
このように、付着部材350で介在物を付着させて捕集することにより、注湯ノズル320での介在物の付着による詰まりを抑制することが可能となる。
【0030】
以下、図2図4(b)を参照し、本実施形態における付着部材350について、さらに説明する。図2は、タンディッシュ300の近傍を拡大して示す概略図である。図3(a)および図3(b)は付着部材350の構造の一例を示す概略図であり、図4(a)および図4(b)は付着部材350の構造の他の例を示す概略図である。
【0031】
図2に示すように、タンディッシュ300においては、下樋260の供給口から溶銅110が流入し、タンディッシュ300の底部に接続される注湯ノズル320から溶銅110が流出する。つまり、溶銅110は、下樋260の供給口側から注湯ノズル320側に向かって流れることになる。
【0032】
注湯ノズル320と対向して(注湯ノズル320の開口部と対向して)、流量調整部材として、流量調整ピン310が設けられている。流量調整ピン310の、注湯ノズル320の開口部と対向する先端部と、注湯ノズル320の開口部との距離を調整して、溶銅110が通過できる実質的な開口面積を変化させることで、溶銅110の流量が調整される。
【0033】
付着部材350は、介在物が堆積すると操業上問題となる場所、つまり注湯ノズル320の開口部よりも、溶銅110の流れの上流側であって、溶銅110の流れの断面積が充分に広く(例えば注湯ノズル320の開口部の10倍以上)、閉塞の問題が起こらない場所に配置されることが好ましい。
【0034】
付着部材350は、好ましくは例えば、タンディッシュ300の内壁面上、および、流量調整ピン310の表面上の少なくとも一方に配置される。これにより、下樋260の供給口側から注湯ノズル320側に向かって流れる溶銅110に含まれる介在物が、付着部材350に付着し、捕集される。図2には、タンディッシュ300の底面上、側面上にそれぞれ付着部材350a、350bが配置され、流量調整ピン310の先端部よりもやや上方の表面上に付着部材350cが配置されている構造を例示する。
【0035】
なお、付着部材350は、タンディッシュ300や流量調整ピン310と別体の構造体として配置される態様に限定されず、タンディッシュ300や流量調整ピン310の表面の少なくとも一部を、付着部材350として構成する態様であってもよい。
【0036】
付着部材350は、介在物の付着性能を高める観点から、介在物との接触面積を増やす構造、つまり、溶銅110との接触面積を増やす構造を有することが好ましい。
【0037】
例えば、図3(a)および図3(b)に示すように、付着部材350を、表面に凹凸を有するものとすることで、(付着部材350が例えば平板形状である場合と比べて、)介在物との接触面積を増やすことができる。図3(a)および図3(b)は、それぞれ、付着部材350の概略上面図、および、(溝の延在方向と直交する)概略断面図である。
【0038】
付着部材350の凹凸形状としては、例えば、一端側よりも他端側が注湯ノズル320の開口部に近づくように延在する溝形状を用いることができる。付着部材350がこのような溝形状を有することで、タンディッシュ300内で注湯ノズル320の開口部に向かう溶銅110の流れの乱れを抑制しつつ、介在物との接触面積を増やすことができる。なお、図3(a)および図3(b)には、タンディッシュ300の底面上に配置された付着部材350を例示するが、他の位置に配置された付着部材350についても同様に、凹凸を有する構造としてもよい。
【0039】
また例えば、図4(a)および図4(b)に示すように、付着部材350を、管形状を有するものとすることで、(付着部材350が例えば平板形状である場合と比べて、)介在物との接触面積を増やすことができる。つまり、管形状の内面側および外面側の表面の両方に、介在物を付着させることができる。図4(b)および図4(c)は、それぞれ、付着部材350の概略上面図、および、(管の延在方向と直交する)概略断面図である。
【0040】
付着部材350の管形状としては、例えば、一端側よりも他端側が注湯ノズル320の開口部に近づくように延在する管形状を用いることができる。付着部材350がこのような管形状を有することで、タンディッシュ300内で注湯ノズル320の開口部に向かう溶銅110の流れの乱れを抑制しつつ、介在物との接触面積を増やすことができる。なお、図4(a)および図4(b)には、タンディッシュ300の底面上に配置された付着部材350を例示するが、他の位置に配置された付着部材350についても同様に、管形状としてもよい。
【0041】
付着部材350は、溶銅110に含まれる介在物と同種の材料、すなわち、合金成分の酸化物、合金成分の窒化物、合金成分の炭化物、および、合金成分の硫化物のうち少なくとも1つと同種の材料により構成されることが好ましい。
【0042】
合金成分として好ましくは、上述のように、例えば、錫、チタン、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、および、マンガンのうち少なくとも1つが添加される。
【0043】
合金成分として錫が添加される場合、付着部材350は、錫酸化物、錫窒化物、錫炭化物、および、錫硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0044】
合金成分としてチタンが添加される場合、付着部材350は、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン炭化物、および、チタン硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0045】
合金成分としてマグネシウムが添加される場合、付着部材350は、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム炭化物、および、マグネシウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0046】
合金成分としてアルミニウムが添加される場合、付着部材350は、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、アルミニウム炭化物、および、アルミニウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0047】
合金成分としてカルシウムが添加される場合、付着部材350は、カルシウム酸化物、カルシウム窒化物、カルシウム炭化物、および、カルシウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0048】
合金成分としてマンガンが添加される場合、付着部材350は、マンガン酸化物、マンガン窒化物、マンガン炭化物、および、マンガン硫化物のうち少なくとも1つにより構成されることが好ましい。
【0049】
介在物としては、特に、合金成分の酸化物が生成されやすい。このため、付着部材350は、少なくとも合金成分の酸化物と同種の材料により構成されることが、特に好ましい。
【0050】
なお、介在物は、溶銅110中から完全に除去することが必須ではなく、注湯ノズル320を閉塞させない程度、あるいは、銅合金材中に残留しても品質低下が生じない程度に除去されれば(減少させれば)よい。
【0051】
合金成分としてチタンを添加し、溶銅110中に(銅合金材中に)適度な量のチタン酸化物を残すことで、結晶粒の大きさを制御することが可能となり、銅合金材のやわらかさ、伸び特性、屈曲特性を制御することができる等の利点が得られる。このため、合金成分としては、チタンを添加することが特に好ましく、付着部材350は、少なくともチタン酸化物により構成されることが特に好ましい。
【0052】
なお、タンディッシュ300内に配置される付着部材350の全体は、単一材料により構成されていなくともよい。付着部材350を構成する材料は、必要に応じて2種以上(つまり複数)とすることができる。つまり、付着部材350は、少なくとも、合金成分の酸化物、合金成分の窒化物、合金成分の炭化物、および、合金成分の硫化物のうち、第1のものと同種の第1の材料、および、(第1のものと異なる)第2のものと同種の第2の材料により構成されていてよい。これにより、各々の材料に対応する介在物を、つまり複数種類の介在物を、付着部材350に付着させることができる。例えば、付着部材350の全体が複数の構造体から構成される場合、個々の構造体を互いに異なる材料で構成してもよい。また例えば、一つの構造体を複数の材料で構成してもよい。具体例としては、付着部材350をチタン酸化物とチタン硫化物とで構成することにより、チタン酸化物の介在物とチタン硫化物の介在物の両方を付着させることができる。
【0053】
なお、付着部材350を複数の材料で構成する態様は、2種以上(つまり複数)の合金成分を添加する場合に適用してもよい。つまり、2種以上の合金成分は、錫、チタン、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、および、マンガンのうち、第1の合金成分と(第1の合金成分と異なる)第2の合金成分とを含み、付着部材350は、少なくとも、第1の合金成分の酸化物、第1の合金成分の窒化物、第1の合金成分の炭化物、および、第1の合金成分の硫化物のうち少なくとも1つと同種の第1の材料、および、第2の合金成分の酸化物、第2の合金成分の窒化物、第2の合金成分の炭化物、および、第2の合金成分の硫化物のうち少なくとも1つと同種の第2の材料により構成されていてよい。具体例としては、付着部材350をチタン酸化物とマグネシウム酸化物とで構成することにより、チタン酸化物の介在物とマグネシウム酸化物の介在物の両方を付着させることができる。
【0054】
<銅合金材の製造方法>
次に、上述した銅合金材の製造装置10を用いて銅合金材を製造する方法について説明する。
【0055】
本実施形態の銅合金材の製造方法は、溶融工程、添加工程、タンディッシュ貯留工程、介在物付着工程、溶銅流出工程、連続鋳造工程、連続圧延工程を有している。これらの工程は、個々に不連続に行われるのではなく、一連の工程として連続的に行われる。
【0056】
(溶融工程)
まず、溶解炉210の炉本体に、銅材料を投入する。例えば、1100℃以上1320℃以下に加熱された溶解炉210に、銅材料として、電気銅を投入する。そして、バーナーで炉本体を加熱する。これにより溶銅110を連続的に生成する。
【0057】
(添加工程)
次に、溶解炉210で生成された溶銅110を、上樋220を介して、所定温度に保持された保持炉230に移送させる。また、添加手段240により、保持炉230内の溶銅110に対して、所定の合金成分を連続的に添加する。このとき、溶銅110中では合金成分(例えばチタン、マグネシウムなど)を含む介在物(例えばチタン、マグネシウムの酸化物、窒化物、炭化物、および、硫化物など)が生成する。
【0058】
(タンディッシュ貯留工程)
次に、合金成分を含む(介在物を含む)溶銅110を、保持炉230から下樋260を介してタンディッシュ300に移送させる。これにより、タンディッシュ300に溶銅110を(一時的に)貯留させる。
【0059】
(介在物付着工程)
本実施形態では、タンディッシュ300内に付着部材350を配置しているため、溶銅110が注湯ノズル320に向かって流れている間に、介在物が付着部材350に付着して捕集される。
【0060】
(溶銅流出工程)
次に、タンディッシュ300から注湯ノズル320を介して連続鋳造機500に、溶銅110を流出させる。本実施形態では、タンディッシュ300内で介在物が捕集されているので、注湯ノズル320を介して溶銅110を流出させる際に、介在物が注湯ノズル320に付着して詰まることを抑制できる。
【0061】
(連続鋳造工程)
次に、タンディッシュ300から注湯ノズル320を介して流出させた溶銅110を、連続鋳造機500におけるホイール510の溝部とベルト520との間に形成される空間に注入する。そして、ベルト520を、ホイール510の外周面の一部と接触させながら周回移動させる。このとき、ホイール510およびベルト520を冷却水に冷却する。これにより、溶銅110を冷却・固化し、棒状の鋳造材120を連続的に鋳造する。
【0062】
(連続圧延工程)
次に、連続圧延装置620により、連続鋳造機500から移送される鋳造材120を例えば550℃以上880℃以下の温度で連続的に圧延する。これにより、銅合金材130として、例えば、所定の外径を有する荒引線を成形加工する。そして、コイラー640により、連続圧延装置620から移送される荒引線を巻き取る。なお、銅合金材130は、荒引線にさらに熱間圧延および冷間圧延を施し、外径を細くした素線として成形加工してもよい。
【0063】
以上により、銅合金材130が製造される。
【0064】
本実施形態では、タンディッシュ300内に配置された付着部材350により溶銅110に含まれる介在物を付着させて捕集することで、注湯ノズル320での詰まりを抑制することができる。したがって、銅合金材130の製造を連続して長時間行うことが可能であり、銅合金材130を生産性よく製造することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、注湯ノズル320を介在物の付着が少ない状態に保つことができるので、銅合金材130に混入する介在物の量を低減し、品質を向上させることができる。
【0066】
以上、実施形態に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
【0067】
<本発明の好ましい態様>
以下に、本発明の好ましい態様について付記する。
【0068】
[付記1]
本発明の一態様によれば、
溶銅を連続的に鋳造して銅合金材を製造する銅合金材の製造装置であって、
前記溶銅に金属元素を添加する添加手段と、
前記金属元素を含む前記溶銅を貯留するタンディッシュと、
前記タンディッシュに接続され、前記タンディッシュから前記溶銅を流出させるための注湯ノズルと、
前記タンディッシュ内に配置され、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち少なくとも1つと同種の材料により構成された付着部材と、
を備える、銅合金材の製造装置が提供される。
【0069】
[付記2]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、錫であり、前記付着部材は、錫酸化物、錫窒化物、錫炭化物、および、錫硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0070】
[付記3]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、チタンであり、前記付着部材は、チタン酸化物、チタン窒化物、チタン炭化物、および、チタン硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0071】
[付記4]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、マグネシウムであり、前記付着部材は、マグネシウム酸化物、マグネシウム窒化物、マグネシウム炭化物、および、マグネシウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0072】
[付記5]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、アルミニウムであり、前記付着部材は、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、アルミニウム炭化物、および、アルミニウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0073】
[付記6]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、カルシウムであり、前記付着部材は、カルシウム酸化物、カルシウム窒化物、カルシウム炭化物、および、カルシウム硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0074】
[付記7]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、マンガンであり、前記付着部材は、マンガン酸化物、マンガン窒化物、マンガン炭化物、および、マンガン硫化物のうち少なくとも1つにより構成される。
【0075】
[付記8]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記付着部材は、少なくとも、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち、第1のものと同種の第1の材料、および、第2のものと同種の第2の材料により構成される。
【0076】
[付記9]
付記1の銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記金属元素は、錫、チタン、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、および、マンガンのうち、第1の金属元素と第2の金属元素とを含み、
前記付着部材は、少なくとも、前記第1の金属元素の酸化物、前記第1の金属元素の窒化物、前記第1の金属元素の炭化物、および、前記第1の金属元素の硫化物のうち少なくとも1つと同種の第1の材料、および、前記第2の金属元素の酸化物、前記第2の金属元素の窒化物、前記第2の金属元素の炭化物、および、前記第2の金属元素の硫化物のうち少なくとも1つと同種の第2の材料により構成される。
【0077】
[付記10]
付記1〜9のいずれか1つの銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記付着部材は、前記タンディッシュの内壁面上、および、前記注湯ノズルと対向して配置される流量調整部材の表面上の、少なくとも一方に配置される。
【0078】
[付記11]
付記1〜10のいずれか1つの銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記付着部材は、表面に凹凸を有する。
【0079】
[付記12]
付記1〜11のいずれか1つの銅合金材の製造装置において、好ましくは、
前記付着部材は、一端側よりも他端側が前記注湯ノズルの開口部に近づくように延在する溝形状または管形状を有する。
【0080】
[付記13]
本発明の他の態様によれば、
溶銅に金属元素を添加する工程と、
前記金属元素を含む前記溶銅をタンディッシュに貯留する工程と、
前記溶銅に含まれる、前記金属元素の酸化物、前記金属元素の窒化物、前記金属元素の炭化物、および、前記金属元素の硫化物のうち少なくとも1つにより構成された介在物を、前記タンディッシュ内に配置され、前記介在物と同種の材料により構成された付着部材に付着させる工程と、
前記タンディッシュから注湯ノズルを介して前記溶銅を流出させる工程と、
を有する、銅合金材の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0081】
10 銅合金材の製造装置
110 溶銅
120 鋳造材
130 銅合金材
210 溶解炉
220 上樋
230 保持炉
240 添加手段
260 下樋
300 タンディッシュ
310 流量調整ピン
320 注湯ノズル
350 付着部材
500 連続鋳造機
510 ホイール
520 ベルト
620 連続圧延装置
640 コイラー
図1
図2
図3
図4