(54)【発明の名称】耐熱性シラン架橋樹脂成形体及びその製造方法、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法、シランマスターバッチ、並びに耐熱性シラン架橋樹脂成形体を用いた耐熱性製品
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」は下記工程(a)〜(d)を有する。本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」は下記工程(a)及び(b)を有し、工程(c)及び工程(d)を必須の工程としない。
このように、本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」と本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」は、下記工程(c)及び工程(d)の有無以外は基本的に同様である。したがって、本発明の「耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法」及び本発明の「耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法」(両者の共通部分の説明においては、これらを併せて、本発明の製造方法ということがある)を、併せて、以下に説明する。
【0021】
以下に本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
工程(a):ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、有機過酸化物0.01質量部以上0.6質量部以下と、無機フィラー10質量部以上400質量部以下と、シランカップリング剤4質量部を超えて15.0質量部以下とを、有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混練して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合して混合物を得る工程
工程(c):混合物を成形して成形体を得る工程
工程(d):成形体を水と接触させて耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得る工程
ここで、混合するとは、均一な混合物を得ることをいう。
【0023】
まず、本発明において用いる各成分について説明する。
<ポリオレフィン樹脂>
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来、耐熱性樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。
例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン−α−オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、及びそれらのゴム、エラストマー、スチレン系エラストマー、エチレン−プロピレンゴム(例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等の重合体からなる樹脂が挙げられる。
これらの中でも、金属水和物等をはじめとする各種無機フィラーに対する受容性が高く、無機フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持できる点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、スチレン系エラストマー、エチレン−プロピレンゴム等の樹脂が好適である。これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
ポリエチレンは、エチレン成分を主成分とする重合体であれば特に限定されない。ポリエチレンは、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンと5mol%以下のα−オレフィレン(プロピレンを除く)との共重合体、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ1mol%以下の非オレフィンとの共重合体を包含する(例えば、JIS K 6748)。なお、上述のα−オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
本発明において用い得るポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。なかでも、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましい。ポリエチレンは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリプロピレンは、プロピレン成分を主成分とする重合体であれば特に限定されない。ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体のほか、共重合体としてランダムポリプロピレン等のエチレン−プロピレン共重合体及びブロックポリプロピレンを包含する。
ここで、「ランダムポリプロピレン」は、プロピレンとエチレンとの共重合体であって、エチレン成分含有量が1〜5質量%のものをいう。また、「ブロックポリプロピレン」は、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体とを含む組成物であって、エチレン成分含有量が5〜15質量%程度で、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
ポリプロピレンは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(なお、上述のポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く)が挙げられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィン構成成分の具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等の各構成成分が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く)である。具体的には、エチレン−プロピレン共重合体(ただし、ポリプロピレンに含まれるものを除く)、エチレン−ブチレン共重合体、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0027】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、並びに、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸アルキル等の酸エステル化合物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、炭素数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基が挙げられる。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体(ポリエチレンに含まれるものを除く)としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等が挙げられる。この中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体が好ましく、さらには無機フィラーの受容性及び耐熱性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体が好ましい。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体は1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。
【0028】
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とするものをいう。したがって、本発明において、分子内にエチレン構成成分を含んでいても芳香族ビニル化合物構成成分を含んでいれば、スチレン系エラストマーに分類する。
このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p−(t−ブチル)スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、これらの中でも、スチレンが好ましい。この芳香族ビニル化合物は、1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物は、これらの中でも、ブタジエンが好ましい。この共役ジエン化合物は、1種単独で使用され、又は2種以上が併用される。また、スチレン系エラストマーとして、同様な製法で、スチレン成分が含有されてなく、スチレン以外の芳香族ビニル化合物を含有するエラストマーを使用してもよい。
【0029】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SBS、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、水素化SIS、水素化スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)、水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム(HNBR)等を挙げることができる。
スチレン系エラストマーとしては、スチレン構成成分の含有率が10〜40%であるSEPS、SEEPS又はSEBSを単独で、あるいはこれらの2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
なお、スチレン系エラストマーは、市販品を用いることができ、例えば、セプトン4077、セプトン4055、セプトン8105(いずれも商品名、クラレ社製)、ダイナロン1320P、ダイナロン4600P、6200P、8601P、9901P(いずれも商品名、JSR社製)等が挙げられる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂、すなわち上記重合体は、酸変性されていてもよい。酸変性に用いられる酸としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸又はその誘導体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等が挙げられる。これらのなかでも、マレイン酸又は無水マレイン酸が好ましい。酸変性量は、酸変性されたポリオレフィン樹脂1分子中、通常0.1〜7質量%程度である。
【0031】
ポリオレフィン樹脂は、所望により可塑剤又は軟化剤として使用される各種オイルを含有していてもよい。このようなオイルとして、ポリオレフィン樹脂に用いられる可塑剤又はゴムの鉱物油軟化剤としてのオイルが挙げられる。鉱物油軟化剤は、芳香族環を有する炭化水素からなるオイル、ナフテン環を有する炭化水素からなるオイル及びパラフィン鎖を有する炭化水素からなるオイルの三者を含む混合油である。パラフィン鎖を有する炭化水素を構成する炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものをパラフィンオイル、ナフテン環を有する炭化水素を構成する炭素数が30〜40%のものはナフテンオイル、芳香族環を有する炭化水素を構成する炭素数が30%以上のものはアロマオイルと呼ばれて区別されている。これらの中でも、液状又は低分子量の合成軟化剤、パラフィンオイル、ナフテンオイルが好適に用いられ、特にパラフィンオイルが好適に用いられる。このようなオイルとして、例えば、ダイアナプロセスオイルPW90、PW380(いずれも商品名、出光興産社製)、コスモニュートラル500(コスモ石油社製)等が挙げられる。
【0032】
ポリオレフィン樹脂がオイルを含有する場合、オイルは、耐熱性能、架橋性能及び強度の点で、ポリオレフィン樹脂に含まれる上述の重合体とオイルとの合計質量に対して、80質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。オイルの含有率は、最少で0質量%であるが、例えば20質量%以上にすることもできる。すなわち、ポリオレフィン樹脂は、上記合計質量に対して、20質量%以上が好ましく、45%質量以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂の含有率は、最多で100質量%であるが、例えば80質量%以下にすることもできる。
【0033】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、熱分解によりラジカルを発生して、シランカップリング剤のポリオレフィン樹脂へのグラフト化反応を促進させる働きをする。特に、シランカップリング剤がエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基とポリオレフィン樹脂とのラジカル反応(ポリオレフィン樹脂からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を促進させる働きをする。有機過酸化物は、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はない。例えば、一般式:R
1−OO−R
2、R
1−OO−C(=O)R
3、R
4C(=O)−OO(C=O)R
5で表される化合物が好ましく用いられる。ここで、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。このうち、本発明においては、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5がいずれもアルキル基であるか、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0034】
このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド(DCP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0035】
有機過酸化物の分解温度は、80〜195℃であるのが好ましく、125〜180℃であるのが特に好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0036】
<無機フィラー>
無機フィラーは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位もしくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
このような無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウム、ウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物や、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。
無機フィラーは、これらのなかでも、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛の少なくとも1種が好ましく、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム及び三酸化アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
なお、無機フィラーは、1種類を単独で配合してもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0037】
無機フィラーの平均粒径は、0.2〜10μmが好ましく、0.3〜8μmがより好ましく、0.4〜5μmがさらに好ましく、0.4〜3μmが特に好ましい。無機フィラーの平均粒径が0.2μm未満であると、シランカップリング剤との混合時に無機フィラーが2次凝集を引き起こして、成形体の外観が低下し、又はブツを生じるおそれがある。一方、10μmを超えると、外観が低下したり、シランカップリング剤の保持効果が低下し、架橋に問題が生じたりするおそれがある。なお、平均粒径は、アルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0038】
無機フィラーは、シランカップリング剤で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとして、水酸化マグネシウムの市販品(キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学社製)等)や水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0039】
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、ラジカルの存在下でポリオレフィン樹脂にグラフト反応しうる基と、無機フィラーと化学結合しうる基とを有するものであればよく、末端に加水分解性基を有する加水分解性シランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤は、末端に、アミノ基、グリシジル基又はエチレン性不飽和基を含有する基と加水分解性基を含有する基とを有しているものがより好ましく、さらに好ましくは末端にエチレン性不飽和基を含有する基と加水分解性基を含有する基とを有しているシランカップリング剤である。エチレン性不飽和基を含有する基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p−スチリル基等が挙げられる。またこれらのシランカップリング剤と、その他の末端基を有するシランカップリング剤を併用してもよい。
【0040】
このようなシランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0042】
一般式(I)中、R
a11はエチレン性不飽和基を含有する基、R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY
13である。Y
11、Y
12及びY
13は加水分解しうる有機基である。Y
11、Y
12及びY
13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0043】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤のR
a11は、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましく、エチレン性不飽和基を含有する基は、上述した通りであり、好ましくはビニル基である。
【0044】
R
b11は脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY
13であり、脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられ、好ましくは後述のY
13である。
【0045】
Y
11、Y
12及びY
13は、加水分解しうる有機基であり、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。この中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシがさらに好ましく、メトキシが特に好ましい。
【0046】
シランカップリング剤としては、好ましくは加水分解速度の速いシランカップリング剤、より好ましくはR
b11がY
13であり、かつY
11、Y
12及びY
13が互いに同じであるシランカップリング剤である。さらに好ましくは、Y
11、Y
12及びY
13の少なくとも1つがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤であり、特に好ましくはすべてがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤である。
【0047】
末端にビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基を有するシランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のオルガノシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は単独又は2種以上を併用してもよい。このような架橋性のシランカップリング剤の中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
末端にグリシジル基を有するものは、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
シランカップリング剤は、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0049】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィン樹脂にグラフト化されたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ポリオレフィン樹脂同士が架橋される。その結果、耐熱性に優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体が得られる。
【0050】
シラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が用いられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくはジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズジラウリレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0051】
<キャリア樹脂>
シラノール縮合触媒は、所望により樹脂に混合されて用いられる。このような樹脂(キャリア樹脂ともいう)としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン樹脂と同様の樹脂が挙げられる。キャリア樹脂は、上述のポリオレフィン樹脂の一部を用いることもできる。シラノール縮合触媒と親和性がよく耐熱性にも優れる点で、ポリエチレンからなる樹脂が好ましい。
【0052】
<添加剤>
耐熱性シラン架橋樹脂成形体及び耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、電線、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤が本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合されていてもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、充填剤、他の樹脂等が挙げられる。
これらの添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの成分に混合されてもよいが、キャリア樹脂に加えた方がよい。架橋助剤は実質的に含有していないことが好ましい。特に架橋助剤はシランマスターバッチを調製する工程(a)において実質的に混合されないのが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、混練り中にポリオレフィン樹脂同士の架橋が生じにくく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の外観及び耐熱性に優れる。ここで、実質的に含有しない又は混合されないとは、架橋助剤を積極的に添加又は混合しないことを意味し、不可避的に含有又は混合されることを除外するものではない。
【0053】
架橋助剤は、有機過酸化物の存在下においてポリオレフィン樹脂との間に部分架橋構造を形成する化合物をいう。例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のメタクリレート化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物、マレイミド化合物、ジビニル化合物等の多官能性化合物を挙げることができる。
【0054】
酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜15.0質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部で加えることができる。
【0055】
滑剤としては、炭化水素、シロキサン、脂肪酸、脂肪酸アミド、エステル、アルコール、金属石けん等が挙げられる。これらの滑剤はキャリア樹脂(E)に加えた方がよい。
【0056】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
【0057】
充填剤(難燃(助)剤を含む)としては、上述の各種フィラー以外の充填剤が挙げられる。
【0058】
次に、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明の製造方法において、工程(a)は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、有機過酸化物0.01質量部以上0.6質量部以下と、無機フィラー10質量部以上400質量部以下と、シランカップリング剤4質量部を超えて15.0質量部以下とを、有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混練する。これにより、シランマスターバッチが調製される。
【0059】
有機過酸化物の混合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.01〜0.6質量部であり、0.1〜0.5質量部が好ましい。有機過酸化物の混合量が0.01質量部未満では、架橋時に架橋反応が進行せず、またシランカップリング剤同士が縮合して、耐熱性、機械的強度、補強性を十分に得ることができない場合がある。一方、0.6質量部を超えると、副反応によってポリオレフィン樹脂の多くが直接的に架橋してしまいブツが生じるおそれがある。すなわち、有機過酸化物の混合量をこの範囲内にすることにより、適切な範囲で重合を行うことができ、架橋ゲル等に起因する凝集塊(ブツ)も発生することなく押し出し性に優れた組成物が得ることができる。
【0060】
無機フィラーの混合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、10〜400質量部であり、30〜280質量部が好ましい。無機フィラーの混合量が10質量部未満の場合は、シランカップリング剤のグラフト反応が不均一となり、所望の耐熱性が得られず、又は、不均一な反応により外観が低下するおそれがある。一方、400質量部を超えると、成型時や混練時の負荷が非常に大きくなり、2次成形が難しくなるおそれがある。
【0061】
シランカップリング剤の混合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、4.0質量部を超えて15.0質量部以下であり、好ましくは6〜15.0質量部である。
シランカップリング剤の混合量が4.0質量部以下の場合は、シラノール縮合触媒と共に成形する際に、押出機を止めたり、調整等で押出機の回転数を大きく変えた際にはブツが多く生じたりして、外観不良を生ずるおそれがある。一方、15.0質量部を超えると、それ以上の無機フィラー表面にシランカップリング剤が吸着しきれず、シランカップリング剤が混練中に揮発してしまい、経済的でない。また、吸着しないシランカップリング剤が縮合してしまい、成形体に架橋ゲルブツや焼けが生じて、外観が悪化するおそれがある。
【0062】
このように、シランカップリング剤の使用量が4.0質量部を超えて15.0質量部以下であると外観に優れる。その機構の詳細についてはまだ定かではないが、次のように考えられる。
すなわち、工程(a)において、シランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にシラングラフトする際の有機過酸化物分解による反応は、反応速度が速いシランカップリング剤とポリオレフィン樹脂とのグラフト反応やシランカップリング剤同士の縮合反応が支配的になる。したがって、外観荒れや外観ブツの原因となるポリオレフィン樹脂同士の架橋反応は非常に起こりにくくなる。このように、ポリオレフィン樹脂同士の架橋反応がシランカップリング剤の混合量によって効果的に抑えられる。これにより、成形時の外観が良好になる。また、ポリオレフィン樹脂同士の架橋反応による上記欠陥が少なくなるため、押出機を止めても外観不良が発生しにくくなる。その結果、ポリオレフィン樹脂同士の架橋反応を抑えて、外観の良好なシラン架橋樹脂成形体を製造することができる。
一方で、工程(a)において、多くのシランカップリング剤が無機フィラーに結合して固定化されている。したがって、無機フィラーに結合しているシランカップリング剤同士の縮合反応は起こりにくい。加えて、無機フィラーに結合せず、遊離しているシランカップリング剤同士の縮合反応もほとんど生じず、遊離しているシランカップリング剤同士の縮合反応によるゲルブツの発生を抑えることができる。
このように、特定量のシランカップリング剤を用いることにより、ポリオレフィン樹脂同士の架橋反応、及び、シランカップリング剤同士の縮合反応のいずれをも抑えることができ、外観のきれいなシラン架橋樹脂成形体を製造することができると、考えられる。
【0063】
工程(a)において、上述の成分を溶融混合する混練温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃の温度である。この分解温度はポリオレフィン樹脂が溶融してから設定することが好ましい。また、混練時間等の混練条件も適宜設定することができる。有機過酸化物の分解温度未満の温度で混練りすると、シランカップリング剤のグラフト反応等が起こらず、所望の耐熱性を得ることができないばかりか、押出中に有機過酸化物が反応してしまい、所望の形状に成形できない場合がある。
【0064】
混練方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば満足に使用でき、混練装置は例えば無機フィラーの混合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられ、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーがポリオレフィン樹脂の分散性及び架橋反応の安定性の面で好ましい。
また、通常、このような無機フィラーがポリオレフィン樹脂100質量部に対して100質量部を超えて混合される場合、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサーで混練りするのがよい。
【0065】
本発明において、混合順は特定されるものではなく、混合割合が上述の範囲内にあれば、どのような順で上記成分を混合してもよい。すなわち、工程(a)において、混合順は特に限定されない。例えば、上述の成分を一度に溶融混合することができる。
好ましくは、シランカップリング剤は、シランマスターバッチに単独で導入されず、無機フィラーと前混合等して導入される。これにより、シランカップリング剤が混練中に揮発しにくくなり、無機フィラーに吸着しないシランカップリング剤同士の縮合を防止できる。したがって、外観に優れる。また工程(a)の溶融混練が困難になることも防止できる。さらに、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
このような混合方法として、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機を用い、有機過酸化物の分解温度未満の温度で有機過酸化物と無機フィラーとシランカップリング剤を混合又は分散させた後に、この混合物とポリオレフィン樹脂とを溶融混合させる方法が挙げられる。このようにすると、ポリオレフィン樹脂同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観に優れる。
【0066】
無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物は、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で、混合される。無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物とを混合する方法としては、特に限定されず、有機過酸化物は無機フィラー等と同時に混合されても、また無機フィラーとシランカップリング剤との混合段階のいずれにおいて混合されてもよい。無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物との混合方法として、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。
【0067】
無機フィラーとシランカップリング剤とを混合する方法としては、水などの溶媒に無機フィラーを分散させた状態でシランカップリング剤を加える湿式処理、加熱又は非加熱で両者を加え混合する乾式処理、及び、その両方が挙げられる。本発明においては、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
上述の湿式混合では、シランカップリング剤が無機フィラーと強く結合しやすくなるため、その後のシラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合は、無機フィラーとシランカップリング剤の結合が比較的弱いため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。
【0068】
無機フィラーに加えられたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部は無機フィラーに吸着されたり、無機フィラー表面と化学的な結合を生じたりする。このような状態になることにより、その後のニーダーやバンバリーミキサー等で混練り加工する際のシランカップリング剤の揮発を大幅に低減するとともに、有機過酸化物によってシランカップリング剤の不飽和基はポリオレフィン樹脂と架橋反応すると考えられる。また、成形の際にシラノール縮合触媒によってシランカップリング剤同士が縮合反応すると考えられる。この反応の機構は定かではないが縮合反応の際に、無機フィラーとシランカップリング剤の結合があまりに強いと、シラノール縮合触媒を加えても無機フィラーと結合したシランカップリング剤が無機フィラーからはずれることがなく、シラノール縮合反応(架橋反応)が進みにくくなると考えられる。
【0069】
工程(a)において、有機過酸化物は、シランカップリング剤と一緒に混合した後に無機フィラーに分散させても良いし、シランカップリング剤と分けて別々に無機フィラーに分散させてもよい。本発明において、有機過酸化物とシランカップリング剤とは実質的に一緒に混合した方がよい。
なお、本発明において、生産条件によっては、シランカップリング剤のみを無機フィラーに混合し、次いで有機過酸化物を加えてもよい。すなわち、工程(a)において、無機フィラーはシランカップリング剤と予め混合したものを用いることができる。有機過酸化物を加える方法としては、ポリオレフィン樹脂に分散させたものでもよいし、単体で加えてもよく、オイル等に分散させて加えてもよく、好ましくはポリオレフィン樹脂に分散させて加える。
【0070】
好ましい混合方法においては、次いで、無機フィラー、シランカップリング剤及び有機過酸化物の混合物とポリオレフィン樹脂とを、有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら、溶融混練して、シランマスターバッチを調製する。
【0071】
工程(a)において、シラノール縮合触媒は用いられない。すなわち、工程(a)は、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練する。これにより、シランカップリング剤が縮合せずに溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。
【0072】
このようにして、工程(a)を行い、シランマスターバッチが調製される。
【0073】
工程(a)で調製されるシランマスターバッチは、有機過酸化物の分解物、ポリオレフィン樹脂、無機フィラー及びシランカップリング剤の反応混合物を含有しており、後述の工程(b)により成形可能な程度にシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフトした2種のシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)を含有している。
【0074】
本発明の製造方法において、次いで、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合して混合物を得る工程(b)を行う。
混合方法は、上述のように均一な混合物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。
いずれの混合においても、シラノール縮合反応を避けるため、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。得られる混合物について、少なくとも工程(c)での成形における成形性が保持された混合物とする。
【0075】
工程(b)において、シラノール縮合触媒はキャリア樹脂と共に用いられるのが好ましい。すなわち、工程(b)は、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合する工程であればよく、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂を含有する触媒マスターバッチとシランマスターバッチとを溶融混合する工程が好ましい。したがって、好ましくは、工程(b)を行うに当って、キャリア樹脂とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製する。
触媒マスターバッチにおけるキャリア樹脂とシラノール縮合触媒との混合割合は、後述する工程(b)におけるシランマスターバッチのポリオレフィン樹脂との混合割合を満たすように、設定される。
キャリア樹脂とシラノール縮合触媒との混合は、キャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に決定される。例えば、混練温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。なお、混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。混練方法は上記混練方法と同様の方法で行うことができる。
【0076】
このようにして調製される触媒マスターバッチは、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂、所望により添加されるフィラーの混合物である。
【0077】
工程(b)において、シラノール縮合触媒の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部である。シラノール縮合触媒の混合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性、外観及び物性に優れ、生産性も向上する。
触媒マスターバッチを混合する場合は、キャリア樹脂の配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜50質量部、さらに好ましくは2〜40質量部である。またこのキャリア樹脂には無機フィラーを加えてもよいし、加えなくてもよい。その際の無機フィラーの量は、特には限定しないがキャリア樹脂のポリオレフィン樹脂100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。あまりフィラー量が多いとシラノール縮合触媒が分散しにくく、架橋が進行しにくくなるためである。一方、キャリア樹脂が多すぎると、成形体の架橋度が低下してしまい、適正な耐熱性が得られないおそれがある。
【0078】
工程(b)においては、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチの混合条件は、適宜に選択される。すなわち、シラノール縮合触媒を単独でシランマスターバッチに混合する場合には、混合条件はポリオレフィン樹脂に応じて適宜の溶融混合条件に設定される。
【0079】
一方、シラノール縮合触媒を含む触媒マスターバッチをシランマスターバッチと混合する場合、シラノール縮合触媒の分散の点で、溶融混合が好ましく、工程(1)の溶融混合と基本的に同様である。なお、DSC等で融点が測定できないポリオレフィン樹脂、例えばエラストマーもあるが、少なくともポリオレフィン樹脂及び有機過酸化物のいずれかが溶融する温度で混練する。溶融温度は、キャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。なお、混練時間等の混練条件は適宜設定することができる。
【0080】
このようにして、本発明の工程(a)及び工程(b)、すなわち本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の製造方法が実施され、後述するように少なくとも2種の架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する耐熱性シラン架橋性樹脂組成物が製造される。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は工程(a)及び工程(b)を実施することによって得られる組成物であって、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとの混和物と考えられる。その成分は、基本的には、シランマスターバッチ及びシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチと同じである。
【0081】
本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(c)及び工程(d)を行う。すなわち、本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、得られた混合物、つまり本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を成形して成形体を得る工程(c)を行う。この工程(c)は、混合物を成形できればよく、本発明の耐熱性製品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。例えば、本発明の耐熱性製品が電線又は光ファイバケーブルである場合には、押出成形等が選択される。
【0082】
工程(c)は、押出機の掃除、段替え、偏心調整及び製造中断等の事由によって押出機の作動を一旦停止後、再開させることが問題なくできる。ここで、一旦停止後、再開するとは、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の組成、加工条件等に左右され一義的に述べることはできないが、例えば間隔で5分間まで、好ましくは10分間まで、さらに好ましくは15分間まで停止できることをいう。このときの温度は、ポリオレフィン樹脂が軟化又は溶融する温度であれば特に限定されず、例えば200℃である。
【0083】
また、工程(c)は工程(b)と同時に又は連続して実施することができる。例えば、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒(C)又は触媒マスターバッチとを被覆装置内で溶融混練し、次いで例えば押出し電線やファイバに被覆して所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
【0084】
このようにして、本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物が成形され、工程(a)〜工程(c)で得られる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体は未架橋体である。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(c)の後に、下記工程(d)を実施することによって架橋もしくは最終架橋された成形体とするものである。
【0085】
本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、工程(c)で得られた成形体(未架橋体)を水と接触させる工程を行う。これにより、シランカップリング剤の加水分解性の基を加水分解してシラノールとし、樹脂中に存在するシラノール縮合触媒により、シラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こり、成形体が架橋した耐熱性シラン架橋樹脂成形体を得ることができる。この工程(d)の処理自体は通常の方法によって行うことができる。成形体に水分を接触させることで、シランカップリング剤の加水分解しうる基が加水分解してシランカップリング剤同士が縮合し、架橋構造を形成する。
【0086】
シランカップリング剤同士の縮合は、常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(d)において、成形体(未架橋体)を水に積極的に接触される必要はない。架橋をさらに加速させるために、水分と接触させることもできる。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0087】
このようにして、本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法が実施され、本発明の耐熱性シラン架橋性樹脂組成物から耐熱性シラン架橋樹脂成形体が製造される。したがって、この発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(a)〜工程(d)を実施することによって得られる成形体である。そして、この成形体は、後述するように、シラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなるポリオレフィン樹脂を含んでいる。
【0088】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、ポリオレフィン樹脂は有機過酸化物成分の存在下、無機フィラー及びシランカップリング剤と共に有機過酸化物の分解温度以上で加熱混練すると、有機過酸化物が分解してラジカルを発生し、ポリオレフィン樹脂に対してシランカップリング剤によりグラフト化が起こる。また、このときの加熱により、部分的には、シランカップリング剤と無機フィラーの表面での水酸基等の基との共有結合による化学結合の形成反応も促進される。
本発明では、工程(d)で、最終的な架橋反応を行うこともあり、ポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤を上述のように特定量配合すると、成形時の押し出し加工性を損なうことなく無機フィラーを多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも耐熱性及び機械特性等を併せ持つことができる。
【0089】
また、本発明の上記プロセスの作用のメカニズムはまだ定かではないが次のように推定される。すなわち、ポリオレフィン樹脂と混練り前及び/又は混練り時に、無機フィラー及びシランカップリング剤を用いることにより、シランカップリング剤は、アルコキシ基で無機フィラーと結合し、もう一方の末端に存在するビニル基などのエチレン性不飽和基でポリオレフィン樹脂の未架橋部分と結合し、又は、無機フィラーと結合することなく、無機フィラーの穴や表面に物理的及び化学的に吸着して、保持される。このように、無機フィラーに対して強い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、無機フィラー表面の水酸基等との化学結合の形成が考えられる)と弱い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が考えられる)を形成できる。この状態で、有機過酸化物を加えてポリオレフィン樹脂と混練りを行うと、無機フィラーとの結合が異なる、ポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤がグラフト反応した少なくとも2種のシラン架橋性樹脂が形成される。
【0090】
上述の混練りにより、シランカップリング剤のうち無機フィラーと強い結合を有するシランカップリング剤は、架橋基であるエチレン性不飽和基等がポリオレフィン樹脂の架橋部位とグラフト反応する。特に、1つの無機フィラー粒子の表面に複数のシランカップリング剤が強い結合を介して結合した場合、この無機フィラー粒子を介してポリオレフィン樹脂が複数結合する。これら反応又は結合により、無機フィラーを介した架橋ネットワークが広がる。
無機フィラーと強い結合を有するシランカップリング剤の場合は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、無機フィラーとの結合が保持される。そこで、ポリオレフィン樹脂と無機フィラーの結合が生じ、無機フィラーを介したポリオレフィン樹脂の架橋が生じる。これによりポリオレフィン樹脂と無機フィラーの密着性が強固になり、機械強度及び耐摩耗性が良好で、傷つきにくい成形体が得られる。
【0091】
一方、シランカップリング剤のうち無機フィラーと弱い結合を有するシランカップリング剤は、無機フィラーの表面から離脱して、シランカップリング剤の架橋基であるエチレン性不飽和基等が、ポリオレフィン樹脂の有機過酸化物の分解で生じたラジカルによる水素ラジカル引き抜きで生じた樹脂ラジカルと反応して、グラフト反応が起こる。このようにして生じたグラフト部分のシランカップリング剤は、その後シラノール縮合触媒と混合され、水分と接触することにより、縮合反応(架橋反応)が生じる。
【0092】
特に、本発明では、この工程(d)における、水存在下でのシラノール縮合触媒を使用した縮合による架橋反応を成形体を形成した後に行う。これにより、従来の最終架橋反応後に成形体を形成する方法と比較して、成形体形成までの工程での作業性に優れる。また、1つの無機フィラー粒子表面に複数のシランカップリング剤を複数結合でき、従来以上に高い耐熱性を得ることが可能となるとともに、高い機械強度を得ることができる。
【0093】
このように、無機フィラーに対して強い結合で結合したシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が水分と接触すると、シランカップリング剤のシラノール結合を介して無機フィラーと架橋してなるシラン架橋ポリオレフィン樹脂が形成される。無機フィラーに対して強い結合で結合したシランカップリング剤は、高い機械特性、場合によっては耐摩耗性、耐傷付性等に寄与すると考えられる。
また、無機フィラーに対して弱い結合で結合したシランカップリング剤がポリオレフィン樹脂にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が水分と接触すると、シランカップリング剤のシラノール結合を介してポリオレフィン樹脂同士が架橋してなるシラン架橋ポリオレフィン樹脂が形成される。無機フィラーに対して弱い結合で結合したシランカップリング剤は、架橋度の向上、すなわち耐熱性の向上に寄与すると考えられる。
【0094】
特に、本発明では、4.0質量部を超えて15.0質量部以下のシランカップリング剤が無機フィラーに混合されており、上述したように、工程(a)での溶融混練時におけるポリオレフィン樹脂同士の架橋反応を効果的に抑えることができる。また、程度の差はあるが、シランカップリング剤は無機フィラーに結合しており、工程(a)での溶融混練中にも揮発しにくく、遊離しているシランカップリング剤同士の反応も効果的に抑えることができる。したがって、押出機を止めても外観不良が発生しにくく、外観の良好なシラン架橋樹脂成形体を製造できると、考えられる。
【0095】
本発明の製造方法は、耐熱性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む)、強度が求められる製品、ゴム材料等の製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。このような製品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の電線、耐熱難燃ケーブル被覆材料、ゴム代替電線・ケーブル材料、その他耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気、電子機器の内部及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ケーブルの製造に適用することができる。本発明の製造方法は、上述の製品の構成部品等の中でも、特に電線及び光ケーブルの絶縁体、シース等の製造に好適に適用され、これらの被覆として形成することができる。
絶縁体、シース等は、それらの形状に、押出し被覆装置内で溶融混練しながら被覆する等により成形することができる。このような絶縁体、シース等の成形品は、無機フィラーを大量に加えた高耐熱性の高温溶融しない架橋組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線等の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の耐熱性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが通常0.15〜5mm程度である。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、表1及び表2において、各実施例
、参考例及び比較例における数値は質量部を表す。
【0097】
参考例1〜18
、実施例12及び比較例1〜5は、表1及び表2に示す成分を用いて、それぞれの諸元又は製造条件等を変更して、それぞれ実施した。
【0098】
なお、表1及び表2中に示す各成分として下記化合物を使用した。
<ポリオレフィン樹脂>
(1)「UE320」(日本ポリエチレン社製、ノバテックPE(商品名)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、密度0.92g/cm
3)
(2)「エボリューSP1540」(商品名、プライムポリマー社製、直鎖状メタロセンポリエチレン(LLDPE))
(3)「EC9」(日本ポリプロ社製、ノバテックPP(商品名)、ポリプロピレン)
(4)「EV360」(商品名、三井・デュポンケミカル社製、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、VA含有量33質量%)
(5)「セプトン4077」(商品名、クラレ社製、スチレン系エラストマー(SEEPS)、スチレン含有量30質量%)
(6)「三井3092EPM」(商品名、三井化学社製、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン含有量66%)
(7)「アドマー XE−070」(商品名、三井化学社製、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体)
(8)「ダイアナプロセスPW90」(商品名、出光興産社製、パラフィンオイル)
【0099】
<有機過酸化物>
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度149℃)
<無機フィラー>
(1)水酸化マグネシウム(商品名:キスマ5、協和化学工業社製、平均粒径0.8μm)
(2)水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH42M、昭和電工社製、平均粒径1.2μm)
(3)炭酸カルシウム(商品名:ソフトン1200、備北粉化社製、平均粒径1.5μm)
(4)三酸化アンチモン(商品名:PATOX−C、日本精鉱社製、平均粒径3.5μm)
(5)シリカ(商品名:クリスタライト5X、龍森社製、平均粒径1.2μm)
【0100】
<シランカップリング剤>
「KBM−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
「KBE−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリエトキシシラン)
<キャリア樹脂>
上述の「UE320」(商品名)
<シラノール縮合触媒>
「アデカスタブOT−1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズラウリレート)
<酸化防止剤(ヒンダードフェノール酸化防止剤)>
「イルガノックス1010」(商品名、長瀬産業社製、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート])
【0101】
(
参考例1〜15
、実施例12及び比較例1〜5)
まず、有機過酸化物、無機フィラー及びシランカップリング剤を、表1に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入して、室温(25℃)で1時間混合して、粉体混合物を得た。
次に、このようにして得られた粉体混合物とポリオレフィン樹脂とを、表1に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物(P)の分解温度以上の温度、具体的には180〜190℃で約12分混練り後、材料排出温度180〜190℃で排出し、シランマスターバッチ(シランMBともいう)を得た(工程(a))。得られたシランMBは、オレフィン樹脂にシランカップリング剤がグラフト反応した少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0102】
一方、キャリア樹脂「UE320」とシラノール縮合触媒と酸化防止剤を、表1に示す質量比で、180〜190℃でバンバリーミキサーにて別途溶融混合し、材料排出温度180〜190℃で排出して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を得た。この触媒マスターバッチは、キャリア樹脂、シラノール縮合触媒及び酸化防止剤の混合物である。 次いで、シランMBと触媒MBを、表1に示す質量比、すなわち、シランSMのポリオレフィン樹脂が100質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる割合で、バンバリーミキサーによって180℃で溶融混合した(工程(b))。
このようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を調製した。この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、シランMBと触媒MBとの混合物であって、上述の少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
【0103】
次いで、この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入し、1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(c))。
【0104】
得られた電線(未架橋)を温度80℃湿度95%の雰囲気に24時間放置した(工程(d))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
この耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、上述のように、シラン架橋性樹脂がシランカップリング剤の加水分解しうる基の縮合反応によって架橋した上述のシラン架橋樹脂を含有している。
【0105】
(
参考例16)
表2に示す各成分を同表に示す質量割合(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、シランMB(工程(a))及び触媒MBをそれぞれ調製した。
次いで、得られたシランMB及び触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入して、室温(25℃)で5分ドライドブレンドしてドライドブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合割合は、シランSMのポリオレフィン樹脂が100質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる割合(表2参照)とした。次いで、このドライドブレンド物を、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に投入し、押出機スクリュー内にて溶融混合を行いながら1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(b)及び工程(c))。
得られた電線(未架橋)を温度80℃、湿度95%の雰囲気に24時間放置した(工程(d))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0106】
(
参考例17)
表2に示す各成分を同表に示す質量割合(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、導体の外周を耐熱性シラン架橋性樹脂組成物で被覆した電線(外径2.8mm、未架橋)を得た(工程(a)、工程(b)及び工程(c))。
得られた電線を温度23℃、湿度50%の雰囲気に72時間放置した(工程(d))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0107】
(
参考例18)
表2に記載に示す各成分を同表に示す質量割合(質量部)で用い、上記
参考例1と同様にして、シランMBを調製した(工程(a))。
一方、キャリア樹脂「UE320」とシラノール縮合触媒と酸化防止剤を、表2に示す質量比で、2軸押出機にて溶融混合し、触媒MBを得た。2軸押出機のスクリュー径は35mm、シリンダー温度を180〜190℃に設定した。得られた触媒MBは、キャリア樹脂、シラノール縮合触媒及び酸化防止剤の混合物である。
次いで、得られたシランMB及び触媒MBをバンバリーミキサーによって180℃で溶融混合した(工程(b))。シランMBと触媒MBとの混合割合は、シランSMのポリオレフィン樹脂が100質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる割合(表2参照)とした。このようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を調製した。この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物は、シランMBと触媒MBとの混合物であって、上述の少なくとも2種のシラン架橋性樹脂を含有している。
次いで、この耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を、L/D=24の40mm押出機(圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入し、1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線(未架橋)を得た(工程(c))。
得られた電線(未架橋)を温度50℃の温水に10時間浸漬した状態に放置した(工程(d))。
このようにして、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆を有する電線を製造した。
【0108】
製造した電線について下記評価をし、その結果を表1及び表2に示した。
【0109】
<機械特性>
電線の機械特性として引張試験を行った。
この引張試験は、JIS C 3005に準じて行った。電線から導体を抜き取った電線管状片を用いて、標線間25mm、引張速度500mm/分で行い、引張強度(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
引張強度は8MPa以上のものを合格とし、引張伸びは100%以上のものを合格とする。
【0110】
<加熱変形試験>
電線の耐熱性として加熱変形試験を行った。
加熱変形試験は、UL1581に基づいて、測定温度150℃、荷重5Nで行った。なお、測定値が50%以下を合格とした。
【0111】
<ホットセット試験>
電線の耐熱性としてホットセット試験を行った。
ホットセット試験1は、電線の管状片を作製し、長さ50mmの評線を付けた後に、170℃の恒温槽の中に117gのおもりを取り付け15分間放置し、放置後の長さを測定し、伸び率を求めた(ホットセット試験1)。
次に、荷重を取り外した後の放置後の長さを測定して伸び率を求めた(ホットセット試験2)。
ホットセット試験1は伸び率が100%以下を合格とし、ホットセット試験2は伸び率が80%以下を合格とした。
【0112】
<電線の押出外観特性>
電線の押出外観特性として押出外観試験1を行った。
押出外観試験1は、電線を製造する際に押出外観を観察することで評価した。具体的には、65mm押出機にて線速50m/分で押し出した際に電線の外観が良好だったものを「A」、外観がやや悪かったものを「B」、外観が著しく悪かったものを「C」とし、「B」以上を製品レベルとして合格とした。
【0113】
電線の押出外観特性として、押出機を一旦停止後、再開する押出外観試験2を行った。
押出外観2は、電線を製造する際に、65mm押出機にて線速50m/分に設定して電線を製造し、途中で1度押出機を止め、10分後に再度同条件で押出機を稼動させて電線を製造し、製造された電線の外観を観察することで評価した。具体的には、再度線速を50m/分に設定して押出機を再稼動させて5分後に押し出された電線の外観を観察した。
評価は、再度線速を50m/分に設定した後5分後に観察した際に、電線の外観が良好でブツが1mに2個以内だったものを「A」、外観がやや悪かったもの、又は、1mにブツが3〜10個確認されたものを「B」、外観が著しく悪かったもの、又は、ブツが1mに11個以上確認されたものを「C」とし、「B」以上を製品レベルとして合格とした。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1及び表2の結果から明らかなように、
参考例1〜18
及び実施例12は、いずれも、押出外観試験2に合格しており、押出機を停止後、再開させても、外観荒れやブツが発生しにくく外観に優れた電線を製造できた。特に、シランカップリング剤をポリオレフィン樹脂に対して6質量部以上用いた
参考例1〜4、6〜10、
13、14
、16〜18
及び実施例12は、押出外観試験2において、ブツが1mに2個以内しか生じず、さらに優れた外観特性を有する電線を製造できた。
また、
参考例1〜18
及び実施例12は、いずれも、機械特性、耐熱性及び押出外観に合格する電線を製造できた。
このように、
参考例1〜18
及び実施例12の電線の被覆として設けられた本発明における耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、押出機を停止させた後に再開させても外観に優れていた。しかも、機械特性、耐熱性及び外観のいずれにも優れていた。なお、難燃性は無機フィラーの混合量から優れていることが容易に理解できる。
【0117】
これに対して、シランカップリング剤の使用量が少ない比較例1及び2は、いずれも、押出外観試験1に合格したものの、押出外観試験2は不合格であった。一方、シランカップリング剤の使用量が多い比較例3は、製造時に発泡して押出外観試験1及び押出外観試験2に合格せず、しかも、ホットセット試験1が不合格で耐熱性にも劣っていた。
有機過酸化物の使用量が少ない比較例4は加熱変形試験及びホットセット試験1が不合格で耐熱性に劣り、また有機過酸化物の使用量が多い比較例5は押出成形すらできなかった。
【0118】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0119】
本願は、2013年8月27日に日本国で特許出願された特願2013−175676に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。