(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に、前記工程Aの前に、基板上に前記第1電極を形成する工程を有するか、又は、前記工程Bの後に、前記第1電極、若しくは、前記第2電極の前記ZnO系圧電体膜とは反対側の表面上に基板を貼付する工程を有する、請求項4〜6のいずれか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[圧電素子]
図1は、本発明の実施形態に係る圧電素子の一例(以下「本圧電素子」ともいう。)の模式断面図を表す。圧電素子10は、基板11、第1電極12、ZnO系圧電体膜13、及び、第2電極14を備え、第1電極12及び第2電極14によって、ZnO系圧電体膜13に電界を印加できる。なお、本圧電素子は、第1電極12のZnO系圧電体膜13とは反対側の表面に基板11を有しているが、本発明の実施形態に係る圧電素子は、上記に制限されない。圧電素子は、第2電極14のZnO系圧電体膜13とは反対側の表面に基板11を有していてもよいし、基板を有さなくてもよい。
なお、本明細書において、ZnO系圧電体膜とは、金属原子のうちZnを主成分とする金属酸化物からなる圧電体膜である。主成分とは、全金属原子に対して、Znを少なくとも50モル%以上含むことを意図する。
【0012】
〔ZnO系圧電体膜〕
上記圧電素子が有するZnO系圧電体膜(以下「本圧電体膜」ともいう。)は、Caを含有し、本圧電体膜中には、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って、Caの含有量とZnの含有量との和に対するCaの含有量の含有モル比Rが増加する第1領域が存在する。
なお、本明細書においては、「増加」とは、ZnO系圧電体膜中における含有モル比Rの最小値から、ZnO系圧電体膜中における含有モル比Rの最大値へと、含有モル比Rが変化することを意味する。すなわち、第1領域における含有モル比Rの最小値は、ZnO系圧電体膜中における含有モル比Rの最小値に該当し、第1領域における含有モル比Rの最大値は、ZnO系圧電体膜中における含有モル比Rの最大値に該当する。
【0013】
また、第1領域においては、含有モル比Rが増加していればよく、部分的に含有モル比Rが一定となる領域があってもよい。また、第1領域としては、上記含有モル比Rが減少することなく、かつ、一定値を維持することなく、徐々に増加する形態であってもよい。つまり、含有モル比Rが、漸増する形態であってもよい。
【0014】
より簡便に第1領域を形成できる点で、第1領域は、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って、含有モル比Rが階段状(段階的)に増加するのが好ましい。
ここで、含有モル比Rは、ZnO系圧電体膜中におけるCaの含有量(M
Ca)とZnの含有量(M
Zn)との和に対する、Caの含有量の含有モル比R(M
Ca/(M
Ca+M
Zn)として計算される。含有モル比Rは、後述するスパッタリング法によりZnO系圧電体膜を形成する場合には、典型的には、ZnO及び/又はCaOターゲットに対する印加電力の変化から推測できる。また、含有モル比Rは、以下の方法により測定できる。
【0015】
ZnO系圧電体膜全体に係る含有モル比Rは、言いかえれば、ZnO系圧電体膜における含有モル比Rの平均値は、エネルギー分散型蛍光X線分析により測定できる。また、上記以外にも、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析、又は、波長分散型蛍光X線分析によって測定してもよい。
また、ZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って含有モル比Rが変化する様子は、ZnO系圧電体膜の厚み(深さ)方向に分析が可能となる任意の方法が適用可能である。
例えば、深さ方向にエッチングをしながら分析する手法として、XPS(X線光電子分光法)、SIMS(二次イオン質量分析法)、オージェ電子分光法、及び、GD−MS(グロー放電質量分析法)が挙げられる。また、ZnO系圧電体膜の厚みが、数百nm程度の場合は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)も使用できる。
【0016】
例えば、SIMS(二次イオン質量分析法)のように、信号強度のみで得られる分析法の場合は、信号チャートの膜厚方向の積分値が、膜全体を測定した測定値と合致するように比例係数を定める事で含有モル比Rを定める事もできる。また、深さ(ZnO系圧電体膜の厚み)方向の分析値と膜全体の含有モル比Rの平均値との間に大きな乖離がある場合は分析法に誤りがあると考えられるが、絶対値に差がある場合があり得る。この場合は、膜全体の平均値の計測法の値を採用し、前述と同じように、比例係数を定めて分析結果を補完して標記する。
【0017】
本発明者らは、ウルツ鉱型結晶構造を有するZnOにおいて、Znの一部を各種の2価のカチオンで置換した場合の圧電特性がどのように変化するかを検討したところ、ZnOにおいて、所定量のZnをCaで置換した場合、ZnOのZnを他のアルカリ土類金属(Mg、Sr、Ba、又は、Cd)で置換した場合と比較して、圧電特性が向上することを見出した。なかでも、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って含有モル比Rが増加する第1領域を有するZnO系圧電体膜を有する圧電素子が、特に優れた圧電特性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
上記ZnO系圧電体膜を有する圧電素子が、特に優れた圧電特性を有する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、下記の推測により本発明の効果が得られる機序が限定されるものではない。
【0019】
図2は、
図1におけるZnO系圧電体膜13の第1電極12から第2電極14に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向Lに沿って、含有モル比Rが変化する様子を表す概念図の一例である。
図2において、横軸XがZnO系圧電体膜の厚み(μm)を表し、縦軸Yが、上記含有モル比Rを表す。横軸Xの正の方向は、
図1の方向Lに対応している。
図2に表すとおり、上記ZnO系圧電体膜は、第1電極12から第2電極14に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向Lに沿って、含有モル比Rが増加する第1領域(
図2中のA1で示した部分)を有する。
なお、第1領域は、
図2に示すように、ZnO系圧電体膜の第1電極12側の表面から始まることが好ましい。言い換えれば、ZnO系圧電体膜の第1電極12側の表面が含有モル比Rの最小値を示し、ZnO系圧電体膜の第1電極12側の表面から第1領域が存在することが好ましい。ただし、第1領域の存在する位置は、
図2に示す態様に制限されず、ZnO系圧電体膜中の内部に存在していてもよい。
なお、本発明の実施形態に係る圧電素子が有するZnO系圧電体膜としては上記に制限されず、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向Lに沿って、ZnO系圧電体膜の厚み方向の全部が第1領域であってもよい。
【0020】
本圧電体膜において、Caは、典型的には、少なくとも一部がZnOの結晶格子に取り込まれている(ZnOにおけるZnの一部Caにより置換されている)ことが多い。このような場合、置換後の結晶は、置換前の結晶と比較するとZnの少なくとも一部がCaにより置換されている又はZnO結晶格子の間にCa(又はCaO)が混在するため、純粋なZnO結晶と比較すると格子定数等が異なることが推測される。また、Caの含有量によっても、上記の理由から格子定数等が異なることが推測される。このような格子定数等の異なる結晶を厚み方向に積層し、ZnO系圧電体膜を形成した場合、格子定数等の違いに起因する歪みが原因となり、結晶の配向状態に乱れが生じやすく、結果として所望の圧電特性を有する圧電素子が得られない場合があるものと推測される。
【0021】
一方、本圧電体膜は、第1領域を有するため、結晶の格子定数等の変化が、ZnO系圧電体膜の厚み方向に向かって緩やかになっている。そのため、膜中に歪みが発生しにくく、優れた配向性を有するZnO系圧電体膜が得られたものと推測される。その結果として、本圧電素子は優れた圧電特性を有するものと推測される。
【0022】
第1領域の厚みとしては特に制限されない。ZnO系圧電体膜の厚みに方向に対する、含有モル比Rの変化率(増加率又は減少率)、及び、第1領域における最終的な含有モル比Rの大きさに応じて、適宜選択できる。
【0023】
第1領域は、本圧電体膜において、本圧電体膜の表面に対して略平行な層状の領域として存在することが好ましい。第1領域が本圧電体膜中において層状に存在すると、圧電体膜における面内での圧電定数のばらつきがより小さくなりやすい。
【0024】
本圧電体膜は、第2領域を有する。第2領域は、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に向かって、第1領域における含有モル比Rの最大値を略一定に維持する領域である。第2領域は、本圧電体膜において、本圧電体膜の表面に対して略平行な層状の領域として存在することが好ましい。第2領域が本圧電体膜中において層状に存在すると、圧電体膜における面内での圧電定数のばらつきがより小さくなりやすい。
なお、第2領域は、第1領域と隣接して存在することが好ましい。つまり、第2領域は、第1領域の最大値を示す位置から、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に向かって存在することが好ましい。
【0025】
上記領域を有する本圧電体膜は、膜全体としての含有モル比R(言い換えれば、含有モル比Rの平均値)を所望の範囲に制御しやすい。つまり、第2領域の厚みを調整することによって、ZnO系圧電体膜の全体としての含有モル比Rの平均値を所望の範囲により容易に制御できる。なお、本圧電体膜は第2領域を有しているが、本発明の実施形態に係る圧電素子、及び、圧電体膜は第2領域を有していなくてもよい。
【0026】
第2領域では、第1領域における含有モル比Rの最大値が略一定に維持される。
略一定とは、第2領域の任意の点における含有モル比Rが、第1領域における含有モル比Rの最大値Rに対して、80〜100%であることを意味し、90〜100%であることが好ましい。
【0027】
第2領域の厚みとしては特に制限されず、圧電体膜中の含有モル比Rの平均値、及び、圧電体膜の厚みに応じて適宜選択できる。
なお、圧電素子の性能がより優れる点で、第2領域は、第1領域の最大値を示す位置から、ZnO系圧電体膜の第2電極側の表面まで存在することが好ましい。
また、第1領域の厚みに対する第2領域の厚みの比(第2領域の厚み/第1領域の厚み)は特に制限されないが、圧電素子の性能がより優れる点で、1.0以上が好ましく、5.0以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、100以下が挙げられる。
第2領域の厚み/第1領域の厚みが1.0以上だと、得られる圧電素子はより優れた圧電特性を有し、第2領域の厚み/第1領域の厚みが100以下だと、第1領域の厚みが十分に厚く、ZnO系圧電体膜に生ずる膜応力が小さくなりやすいため、結果としてZnO系圧電体膜にクラック等がより生じにくい。
【0028】
圧電体膜中の含有モル比Rの平均値としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する圧電素子が得られる点で、0.12〜0.50が好ましい。
含有モル比Rの平均値が0.12〜0.50であると、優れた圧電特性を有する圧電素子が得られる。含有モル比Rの平均値は、エネルギー分散型蛍光X線分析法により測定でき、詳細は、実施例に記載したとおりである。
また、第1領域における含有モル比Rの最小値と最大値との差としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する圧電素子が得られる点で、0.06〜0.50が好ましく、0.12〜0.50がより好ましい。
【0029】
本圧電体膜は、アルカリ金属を実質的に含有しないことが好ましい。アルカリ金属は、非常に拡散しやすく、圧電体膜を半導体又は電気回路に適用する場合、不良の原因となりやすい。なお、アルカリ金属を実質的に含有しないとは、本圧電体膜に含有される全金属原子に対して、アルカリ金属原子の含有量が0.1モル%以下であることを意図し、0モル%であることが好ましい。
本圧電体膜中に含有されるアルカリ金属の含有量は、エネルギー分散型蛍光X線分析により測定できる。また、上記以外にも、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析、又は、波長分散型蛍光X線分析によって測定してもよい。
【0030】
本圧電体膜の結晶構造としては特に制限されないが、より優れた圧電特性を有する圧電素子が得られる点で、多数の柱状結晶が、ZnO系圧電体膜の厚み方向(
図1中のL方向)に配向した集合体であることが好ましい。上記のようなZnO系圧電体膜を本明細書では、柱状結晶膜ともいう。
なお、ZnO系圧電体膜において、結晶はウルツ鉱型結晶をとることが多く、このウルツ鉱型結晶は六方晶構造であり、単位胞は、1辺が格子定数aの正三角形であり、c軸方向に伸びた三角柱が6個集まって形成される。本ZnO系圧電体膜は、上記ウルツ鉱型結晶のc軸が、ZnO系圧電体膜の厚み方向(
図1のT方向)に優先配向していることが好ましい。
【0031】
本圧電体膜は、より優れた圧電特性を有する点で、CuKα線を用いたout−of−plane法(2θ/ω)によるX線回折スペクトルにおいて、(002)面回折ピーク強度をI(002)、(100)面回折ピーク強度をI(100)としたとき、以下の式(1)が成り立ち、かつ、本圧電体膜のCuKα線を用いたin−plane法によるX線回折スペクトルにおいて、(100)面回折ピーク、及び、(110)面回折ピークの両方が検出されることが好ましい。
式(1) I(100)/I(002)<1.0×10
−2
なお、上記X線回折スペクトルは、30〜60°の範囲にて測定される。つまり、(002)面回折ピーク、(100)面回折ピーク、及び、後述する(110)面回折ピークは、2θ:30〜60°の測定範囲において検出される。また、本明細書において、(XXX)面回折ピーク強度という場合は、(XXX)面由来のピークの回折強度の最大値を表す。
また、本明細書において、CuKα線を用いたout−of−plane法、及び、in−plane法によるX線回折スペクトルにおいて(XXX)面回折ピークとは、Powder Diffraction File番号36−1451(PDF#36−1451)に記載された純ZnOの(XXX)面回折ピークに対応する回折ピークを意図する。対応する回折ピークとは、PDF#36−1451における各面回折ピークと略同じ回折角に検出される回折ピークを意図する。具体的には、PDF#36−1451における各面回折ピークと比較して、2θが−3〜+0.5°の位置に検出されるピークを意図する。PDF#36−1451における各面回折ピークと比較して、上記ZnO系圧電体膜のピークにおける2θが正方向にシフトするのは、膜応力等によるものと推測され、負方向にシフトするのは、ZnOの結晶格子において、Znの一部がCaで置換されることによって生じる格子定数の変化に起因するものと推測される。
【0032】
まず、out−of−plane法によるX線回折スペクトルにおいて、(002)面回折ピーク強度をI(002)とし、かつ、(100)面回折ピーク強度をI(100)とした場合、以下の式(1)が成り立つ状態とは、圧電体膜の厚み方向(
図1のT方向)に結晶のc軸が優先配向している状態を表している。
なお、上記式(1)において、I(100)/I(002)は有効数字2桁(3桁目を四捨五入)で計算する。
また、上記式(1)において、I(100)/I(002)の下限値としては特に制限されないが、一般に、0以上が好ましい。なお、I(100)/I(002)が0である場合とは、I(100)が検出されない、すなわち検出限界以下であることを意味する。
【0033】
また、ZnO系圧電体膜のCuKα線を用いたin−plane法によるX線回折スペクトルにおいて、(100)面回折ピーク、及び、(110)面回折ピークの両方が検出される状態とは、ZnO系圧電体膜の面内方向に結晶のa軸がランダム配向していることを表している。なお、(100)面回折ピーク、及び、(110)面回折ピークの両方が検出される状態とは、(100)面回折ピーク強度をI
in(100)、(110)面回折ピーク強度をI
in(110)、及び、(002)面回折ピーク強度をI
in(002)とした場合、以下の式(3)及び式(4)が成り立つことをいう。
式(3)I
in(002)/I
in(100)<1.0×10
−2
式(4)I
in(002)/I
in(110)<1.0×10
−2
【0034】
上記実施形態に係るZnO系圧電体膜においては、結晶の単位胞(ユニットセル)の体積が、純ZnOの単位胞の体積よりも大きいことが好ましい。
すなわち、以下に定義する単位胞の体積V
1と、以下に定義する単位胞の体積V
0とが以下の式(2)を満たすことが好ましい。
式(2) V
1/V
0>1.02
【0035】
ここで、単位胞の体積V
1とは、ZnO系圧電体膜について、以下の方法により求められた「a軸長(ZnO系圧電体膜)」及び「c軸長(ZnO系圧電体膜)」から算出された単位胞の体積を表す。
・c軸長(ZnO系圧電体膜):CuKα線を用いたout−of−plane法によるX線回折スペクトルにおいて、(002)面回折ピークから算出されたc軸長である。
・a軸長(ZnO系圧電体膜):CuKα線を用いたin−plane法によるX線回折スペクトルにおいて、(100)面回折ピークから算出されたa軸長である。
【0036】
また、単位胞の体積V
0とは、純ZnOのCuKα線を用いたX線回折スペクトルにおいて、(002)面回折ピークから算出されたc軸長と、(100)面回折ピークから算出されたa軸長と、を用いて算出された単位胞の体積を表す。
【0037】
ここで、a軸長、及び、c軸長の単位はそれぞれオングストローム(「Å」、10
−1nmに相当する。)であり、単位胞の体積は、Å
3(10
−3nm
3)である。
また、本明細書において、純ZnOのCuKα線を用いたX線回折スペクトルとは、PDF#36−1451の回折スペクトルを意図する。
【0038】
V
1/V
0としては、1.02を超えることが好ましく、1.04以上がより好ましい。また、V
1/V
0の上限値としては特に制限されないが、一般に1.15以下が好ましい。
【0039】
なお、V
1/V
0が1.02を超える状態とは、ZnOの結晶格子内にCa原子が取り込まれたことによって単位胞のサイズが大きくなったことを表している。
【0040】
〔電極(第1電極及び第2電極)〕
本圧電素子は、本圧電体膜を挟んで対向する第1電極及び第2電極を有する。それぞれの電極の材料としては特に制限されず、電極用として公知の材料を使用できる。なかでも、本圧電体膜と反対側の主面に基板を有する基板付き電極の材料としては、例えば、Au、Pt、Ir、IrO
2、RuO
2、LaNiO
3、SrRuO
3、ITO(Indium Tin oxide)、及び、TiN(窒化チタン)等の金属、金属酸化物、及び、透明導電性材料、並びに、これらの組合せ等が好適に使用でき、なかでも、Irを含有することが特に好ましい。
【0041】
一方、本圧電体膜と反対側の主面に基板を有さない電極の材料としては特に制限されず、公知の材料を用いることができる。上記の電極の材料としては、例えば、基板付き電極の電極用材料として説明した材料、Al、Ta、Cr、及び、Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極用材料、及び、これらの組合せが挙げられる。
なお、2つの電極のそれぞれの厚みとしては特に制限されないが、一般に、50〜500nmが好ましい。
【0042】
〔基板〕
本実施形態に係る圧電素子は基板を有してもよい。基板としては特に制限されず、公知の基板を用いることができる。基板としては、例えば、有機基板、及び、無機基板が挙げられる。
有機基板としては典型的には樹脂基板が挙げられ、樹脂基板の材料としては、PET(Polyethylene terephthalate)、及び、ポリイミド等が挙げられる。
無機基板としては、金属基板も挙げられる。また、無機基板の材料としては、シリコン、ガラス、ステンレス鋼、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ:Yttria−stabilized zirconia)、SrTiO
3、アルミナ、サファイヤ、及び、シリコンカーバイド等の基板が挙げられる。
また、基板としては、シリコン上にSiO
2膜とSi活性層とが順次積層されたSOI(Silicon on Insulator)基板等の積層基板を用いてもよい。
【0043】
ZnO系圧電体膜の厚みとしては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するZnO系圧電体膜が得られる点で、20〜10000nmが好ましく、100〜2000nmがより好ましい。
ZnO系圧電体膜が20nm以上であると、ZnO系圧電体膜は島状となりにくく、連続膜が得られやすい。また、下部電極として用いる電極材料に対しても同様に良好な連続膜が得られやすい。また、電極の厚みと比較して圧電体膜が十分に厚ければ、ZnO系圧電体膜は、より優れた圧電性能を有する。
また、ZnO系圧電体膜が10000nm以下であると、膜応力が大きくなりすぎないため、ZnO系圧電体膜が電極から剥離しにくい。
【0044】
本実施形態に係る圧電素子は、様々な用途に用いることができる。典型的には、本実施形態に係る圧電素子はセンサ又はアクチュエータとして用いることができ、具体的には、ウェアラブルデバイス、タッチパッド、ディスプレイ、及び、コントローラ等に用いることができる。
【0045】
[圧電素子の製造方法]
本圧電素子の製造方法としては特に制限されないが、典型的には、以下の工程をこの順に有することが好ましい。
・工程A:第1電極上にZnO系圧電体膜を形成する工程
・工程B:形成したZnO系圧電体膜上に第2電極を形成する工程
なお、工程Aは、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って、含有モル比Rが増加する第1領域を形成する工程を含む。
更に、本圧電素子の製造方法としては、上記工程Aの前に、基板上に第1電極を形成する工程(工程C)、又は、工程Bの後に、第1電極若しくは第2電極のZnO系圧電体膜とは反対側の表面上に基板を貼付する工程(工程D)を有してもよい。
以下では、工程ごとにその形態を説明する。
【0046】
・工程A
工程Aは、第1電極上にZnO系圧電体膜を形成する工程である。第1電極上にZnO系圧電体膜を形成する方法としては特に制限されず、後述する、第1領域を形成できれば、公知の方法が使用できる。ZnO系圧電体膜を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、及び、PLD(Pulsed Laser Deposition)法等の気相成長法;ゾルゲル法及び有機金属分解法等の液相法;エアロゾルデポジション法;等が挙げられる。
なかでも、形成条件をより制御しやすい点で気相成長法が好ましい。また、気相成長法によれば、形成時にZnO系圧電体膜に横スジが発生するのを抑制でき、より耐久性の高いZnO系圧電体膜が得られる。
【0047】
気相成長法による圧電体膜等の形成方法としては特に制限されないが、典型的には、基板(又は仮基板)とターゲットとを対向させて、プラズマを用いて基板(又は仮基板)上にターゲットの構成元素を含有する膜を形成する方法が挙げられる。
【0048】
気相成長法としては、例えば、2極スパッタリング法、3極スパッタリング法、直流スパッタリング法、高周波スパッタリング法(RF:Radio Frequencyスパッタリング法)、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法、パルススパッタリング法、及び、イオンビームスパッタリング法等が挙げられる。
なかでも、気相成長法としては、スパッタリング法(特に高周波スパッタリング法が好ましい)、イオンプレーティング法、又は、プラズマCVD法が好ましく、スパッタリング法が好ましい。
ZnO系圧電体膜の形成方法がスパッタリング法であると、得られるZnO系圧電体膜は、柱状結晶膜になりやすい。すなわち、ZnO系圧電体膜中で、結晶粒が圧電体膜の厚み方向(
図1のL方向)にc軸配向した柱状結晶の集合体となりやすい。
スパッタリング法による成膜では、柱状結晶膜が形成されやすいため、単結晶膜で用いられるような高価な基板(例えば、サファイヤ基板等)を用いる必要がない点も優れている。
【0049】
上記工程Aは、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って、含有モル比Rが増加する第1領域を形成する工程を含む。上記ZnO系圧電体膜中に第1領域を形成する方法としては、少なくともCaを含有するターゲット(含CaOターゲット)に対する印加電力を増加させるスパッタリング法が好ましい。
含CaOターゲットとしては特に制限されないが、CaO、及び、Zn
1−xCa
xO(但し、0<X<1)等が挙げられる。
典型的には、上記ZnO系圧電体膜の形成方法としては、含CaターゲットとしてCaOを用い、上記以外のターゲットとしてZnOを併用する方法が挙げられる。上記方法により第1領域を形成する場合、CaOターゲットに対する印加電力を増加させるか、又は、ZnOターゲットに対する印加電力を減少させ(相対的にCaOターゲットに対する印加電圧を漸増させ)ればよい。なかでもより効率的に第1領域を形成できる点で、CaOターゲットに対する印加電力を増加させるのが好ましい。
なお、印加電力を増加する方法としては特に制限されないが、段階的に印加電力を大きくする方法が好ましい。
この場合、CaOターゲットに対する印加電力の増加率(電力印加時間に対する印加電力の大きさの変化量)としては特に制限されず、ZnO系圧電体膜の厚みに対する含有モル比Rの増加率を所望の範囲に制御できるよう、適宜調整すればよい。
【0050】
なお、上記は、第1領域を有するZnO系圧電体膜を形成する方法の一例であり、第1領域を有するZnO系圧電体膜を形成としては上記に制限されず、形成時の条件(ターゲットと基板との距離、及び、圧力)等を適宜調整又は変化させる方法も使用できる。
【0051】
上記工程Aは、第1電極から第2電極に向かうZnO系圧電体膜の厚み方向に沿って、第1領域における含有モル比Rの最大値を略一定に維持する、第2領域を形成する工程を含むことが好ましい。
第2領域を形成する工程としては特に制限されず、公知の方法を使用できる。例えば、上記で説明したCaOターゲット及びZnOターゲットを併用するスパッタリング法の場合、例えば、第1領域終了時のCaOターゲットに対する印加電圧を維持し、印加電圧を略一定とする方法が好ましい。
この場合、CaOターゲットとZnOターゲットに対するそれぞれの印加電力は、第2領域における含有モル比Rが所望の値となるよう適宜調整すればよい。
【0052】
・工程B
工程Bは、形成したZnO系圧電体膜上に第2電極を形成する工程であり、その方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。第2電極を形成する工程としては、例えば、スパッタリング法、プラズマCVD法、MOCVD法、及び、PLD法等の気相成長法;ゾルゲル法及び有機金属分解法等の液相法;エアロゾルデポジション法;等が挙げられ、簡便に第2電極を形成できる点で気相成長法が好ましい。
【0053】
・工程C
工程Cは、工程Aの前に基板上に第1電極を形成する工程である。基板上に第1電極を形成する工程としては特に制限されず、工程Bにおいて、ZnO系圧電体膜上に第2電極を形成するのと同様の方法が使用できる。なお、基板上に第1電極を形成する前に、更に基板上にプライマー層を形成し、次いで、上記プライマー層上に第1電極を形成してもよい。
【0054】
・工程D
工程Dは、工程Bの後に、第1電極又は第2電極のZnO系圧電体膜とは反対側の表面に基板を貼付する工程である。本圧電素子の製造方法が工程Dを有する場合、工程Aの前に、更に、仮基板上に第1電極を形成する工程と、工程Bの後であって工程Dの前に、第1電極から仮基板を除去する工程を更に有していてもよい。
なお、仮基板としては特に制限されず、公知の仮基板が使用できる。仮基板としては、例えば圧電素子が有する基板として既に説明したものを使用できる。
また、圧電素子の製造方法が工程Dを有し、かつ、工程Aの前に仮基板上に第1電極を形成する工程と、工程Bの跡であって工程Dの前に第1電極から仮基板を除去する工程とを有する場合、基板としては、樹脂基板を用いるのが好ましい。樹脂基板上に例えばスパッタリング法によって直接に第1電極を形成する場合と比較して、樹脂基板の劣化をより抑制することができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0056】
(実施例1)
表面に熱酸化膜(厚み:300nm)を有する厚み625μmのSi基板(基板に該当する)上に、スパッタ装置を用いて、Ti(20nm)/Ir(150nm)の下部電極(第1電極に該当する)を作製して電極付き基板を得た。
【0057】
次に、この電極付き基板上に、ターゲットとして、ZnO(φ100)及びCaO(φ100)を用い、ZnOに対する印加電力を250Wとし、CaOに対する印加電力を0〜400Wまで、20Wずつ順次増加させて、第1領域を形成した。次に、CaOターゲットに対する印加電力を400Wで保持し、膜みが500nmに達するまでZnO系圧電体膜を形成した。このとき、ZnO系圧電体膜の形成には、アルバック社製スパッタ装置MPS−6000を用いた。なお、O
2/(Ar+O
2)=16%、チャンバ内の圧力は、0.2Pa(チャンバの圧力)だった。得られたZnO系圧電体膜上に、上部電極(第2電極に該当する)を形成し、実施例1の圧電素子を得た。
【0058】
(比較例1及び2)
ZnOターゲット及びCaOターゲットに対する印加電力をそれぞれ一定とし、それぞれの印加電力を、ZnO系圧電体膜における含有モル比Rの平均値が表1に記載したとおりとなるよう調整したことを除いては、実施例1と同様にして、比較例1及び2の圧電素子を形成した。
【0059】
実施例及び比較例で作製したZnO系圧電体膜の組成をエネルギー分散型蛍光X線分析したところ、ZnO系圧電体膜中におけるモル基準のCaの含有量とZnの含有量の和に対する、モル基準のCaの含有量の含有モル比R(M
Ca/(M
Ca+M
Zn))の平均値は表1に記載したとおりだった。
【0060】
X線回折測定は、40kV、40mAのCuKα線管球を有するリガク社製「Ultima III」を用いた。out−of−plane法は、一般的な2θ/ω法により測定した。in−plane法は、入射角ω=0.2°、反射角θ=0.2°とし、一般的な2θχ/φ測定にて測定した。
【0061】
ZnO系圧電体膜の各回折面は、PDF#36−1451(純ZnOのX線回折スペクトル)に基づいて同定した。測定範囲30〜60°では、純ZnOの場合、(100)面、(002)面、(101)面、(102)面、及び、(110)面のピークが出現し、配向性の有無によって一部出現しないピークがある。
【0062】
実施例及び比較例のout−of−plane法、及び、in−plane法のX線回折スペクトルから、いずれも、ほぼ(002)面回折ピークのみが出現しており、結晶がc軸に優先配向した膜であることがわかった。また、in−plane法の測定結果からいずれも、(100)面及び(110)面双方の回折ピークが見られたことから、単結晶膜(エピタキシャル膜)ではなく、面内方向はランダムの結晶粒の集合体であることが示された。
また、実施例及び比較例のZnO系圧電体膜の断面を透過型電子顕微鏡で観察したところ、ZnO系圧電体膜は、柱状結晶の集合体(柱状結晶膜)であり、等方的な粒子、及び、結合層といった、耐圧及び機械的特性が低い箇所は見られなかった。
【0063】
また、X線回折スペクトルから求めたa軸長、及び、c軸長から計算した単位胞の体積、及び、PDF#36−1451(純ZnOのX線回折スペクトル)から求めた単位胞の体積との比を表1に示した。
【0064】
[圧電定数の測定]
次に、ZnO系圧電体膜上にスパッタで上部電極を成膜し圧電素子を得た。次に、上記圧電素子を2mm×25mmの短冊状に切断して、カンチレバーを作製し、I.Kanno et. al. Sensor and Actuator A 107(2003)68.に記載の方法に従い圧電定数を測定した。印加電圧は、1Vpp・2Vpp・4Vppで2kHzのサイン波を印加し、いずれの電圧測定でも、各測定結果のうち最大値及び最小値と、測定値の算術平均と差が、測定値の算術平均の±3%以内となることを確認し、平均値を測定結果とした。なお、測定結果は、比較例2の圧電素子の測定結果を1.0として、比率により示した。数値が大きいほうがより優れた圧電特性を有する圧電素子であることを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に記載した結果から、実施例1の圧電素子は、本発明の効果を有していた。一方、比較例1及び比較例2の圧電素子は、本発明の効果を有していなかった。