特許第6768115号(P6768115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6768115研磨用組成物およびそれを用いた研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768115
(24)【登録日】2020年9月24日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】研磨用組成物およびそれを用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20201005BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20201005BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-96990(P2019-96990)
(22)【出願日】2019年5月23日
(62)【分割の表示】特願2016-510165(P2016-510165)の分割
【原出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2019-194329(P2019-194329A)
(43)【公開日】2019年11月7日
【審査請求日】2019年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-69265(P2014-69265)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 敏男
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/172111(WO,A1)
【文献】 特開2008−112970(JP,A)
【文献】 特開2013−094906(JP,A)
【文献】 特開2013−229098(JP,A)
【文献】 特開2012−135863(JP,A)
【文献】 特表2005−513765(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/041991(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/045937(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0076581(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0060472(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが6未満の条件で表面が正に帯電する窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられ、
水と、
pHが6未満において表面が負に帯電しているコロイダルシリカと、
スチレンスルホン酸−マレイン酸共重合体、スチレンスルホン酸−メタクリル酸共重合体、およびビニルスルホン酸−アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のアニオン性共重合体と、
を含み、pHが2以上6未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物を用いて、pHが6未満の条件で表面が正に帯電した窒化ケイ素を含む研磨対象物表面の凸部を凹部に対して10倍以上の研磨速度で研磨する工程を有する、研磨方法。
【請求項3】
請求項2に記載の研磨方法で研磨する工程を含む、基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造プロセスにおいて使用される研磨用組成物およびそれを用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスにおいては、半導体デバイスの性能の向上につれて、配線をより高密度かつ高集積に製造する技術が必要とされている。このような半導体デバイスの製造プロセスにおいてCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)は、必須のプロセスとなっている。半導体回路の微細化が進むにつれ、パターンウェハの凹凸に要求される平坦性が高くなり、CMPによりナノオーダーの高い平坦性を実現することが求められている。CMPにより高い平滑性を実現するためには、パターンウェハの凸部を高い研磨速度で研磨する一方で凹部はあまり研磨しないことが好ましい。
【0003】
ここで、窒化ケイ素膜(SiN膜)からなるパターンウェハを使用する場合、窒化ケイ素膜は通常凹凸を有していることから、このような材料を研磨する際には、凸部だけでなく凹部も一緒に削られてしまい、凹凸が十分に解消されにくい。
【0004】
さらには、半導体ウェハは、回路を形成する多結晶シリコン、絶縁材料である酸化ケイ素、トレンチまたはビアの一部ではない二酸化ケイ素表面をエッチング中の損傷から保護するための窒化ケイ素といった異種材料から構成される。このため、多結晶シリコンや酸化ケイ素などの比較的柔らかく研磨剤と反応しやすい材料が、その周囲の窒化ケイ素等に比べて過度に削られるディッシングといった現象が起こり、段差が残ってしまう。
【0005】
これらのことから硬くて化学的に安定な窒化ケイ素などの材料からなるパターンウェハの研磨工程において段差を十分に解消することが求められている。
【0006】
この要求に応じるための技術として、例えば、特表2009−530811号公報(米国特許出願公開第2007/209287号明細書)には、タングステンを含む回路材料とハードコート層である窒化チタンとの両方を同時に研磨する用途で用いられる化学機械研磨用組成物として、(a)研磨剤、(b)マロン酸0.1mM〜10mM、(c)アミノカルボン酸0.1mM〜100mM、(d)硫酸イオン0.1mM〜100mM、及び(e)水、を含み、pHが1〜6である組成物が開示されている。
【0007】
また、特開2012−040671号公報(米国特許出願公開第2013/146804号明細書)には、窒化ケイ素などの化学反応性に乏しい研磨対象物を多結晶シリコンなどに比べて高速で研磨可能な研磨用組成物であって、有機酸を固定化したコロイダルシリカを含有し、pHが6以下である研磨用組成物が開示されている。
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、従来の研磨用組成物では、半導体研磨工程においてSiN膜などが有する凹凸を十分に解消できないという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、SiN膜の段差を十分に解消することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と共に特定のアニオン性共重合体を含む酸性の研磨用組成物を使用したところ、pH6未満で表面が正に帯電する窒化ケイ素の凸部を凹部に対して格段に高い研磨速度で研磨することができることを見出した。そして、上記知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物を研磨する用途で用いられ、水と、砥粒と、下記一般式1または下記一般式2で表される単位構造を有するアニオン性共重合体と、を含み、pHが6未満であり、前記アニオン性共重合体は、酸性度の異なる2種類以上の酸性基を有する、研磨用組成物である。
【0012】
【化1】
【0013】
(上記一般式1中、Qは、水素;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基からなる群から選択される炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等からなる群から選択される炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
1’は、単結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル結合のいずれかであり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
Xは、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、もしくはリン酸基から選択される酸性基、またはこれらの酸性基を少なくとも1つ有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、もしくは前記酸性基を少なくとも1つ有する炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。)
【0014】
【化2】
【0015】
(上記一般式2中、Arは、置換または無置換の炭素数6〜12の芳香族基であり、Arが置換の芳香族基である場合、置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基からなる群から選択される炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等からなる群から選択される炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる、
は、単結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル結合のいずれかであり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
Yは、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、もしくはリン酸基から選択される酸性基、またはこれらの酸性基を少なくとも1つ有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、もしくは前記酸性基を少なくとも1つ有する炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を説明する。
【0017】
<研磨用組成物>
本発明の第一は、研磨する際に使用される研磨用組成物のpH領域において表面が正に帯電する研磨対象物を研磨する用途で用いられ、砥粒、上記一般式1で表される単位構造または上記一般式2で表される単位構造を有するアニオン性共重合体を含み、pHが6未満である研磨用組成物である。このような構成とすることにより、凹凸を有するSiN膜を含むパターンウェハの凸部を高選択的に削り取ることができ、よってパターンウェハの段差を十分に解消することができる。
【0018】
本発明の研磨用組成物を用いることにより、凹凸を有するSiN膜を含むパターンウェハの凸部を高選択的に削り取ることができる詳細な理由は不明であるが、以下のメカニズムによると推測される。
【0019】
まずpHが6未満の条件において窒化ケイ素といった研磨対象物は、表面が正に帯電している一方、シリカ等の砥粒表面のヒドロキシ基はプロトン化され、表面の負の電荷が小さくなる。アニオン性共重合体が有する酸性度が異なる複数種類の酸性基のうち、比較的酸性度が低くイオン化しにくい酸性基は、シリカなどの砥粒表面との親和性を示す。一方、スルホン酸基といった酸性度が高くイオン化しやすい酸性基は、水相や正電荷を有する被研磨対象物との親和性を示す。
【0020】
このようなアニオン性共重合体は、正電荷を帯びた研磨対象物に静電的に吸着するが、凸部は砥粒との衝突により研磨圧力を受け、アニオン性共重合体と砥粒とが研磨圧力により互いに引き合うため凸部のアニオン性共重合体は、凹部に比べて研磨対象物の表面から除去されやすい。そのため凸部において、アニオン性共重合体の影響無く研磨が進行する。一方、凹部は立体的に砥粒が衝突しにくく、アニオン性共重合体が吸着した層が残りやすいため、研磨速度が抑えられるものと考えられる。
【0021】
なお、上記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0022】
[アニオン性共重合体]
本発明に係る研磨用組成物中に含まれるアニオン性共重合体は、酸性度が異なる2種類以上の酸性基を有し、好ましくは2種類の酸性度が異なる酸性基を有し、より好ましくは研磨用組成物のpHに対して高い酸解離定数の酸性基と、研磨用組成物のpHに対して低い酸解離定数の酸性基とを併有する。酸性度が異なる2種類以上の酸性基を有していれば、該アニオン性共重合体は、単位構造が、すべて一般式1または一般式2のいずれか一方のみで表されても、一般式1で表される構造単位と一般式2で表される単位構造との両方を有していてもよい。XおよびYは、構造が同一の酸性基であってもよい。また、前記アニオン性共重合体は、3種類以上の単位構造を有していてもよい。
【0023】
本発明に係る研磨用組成物は、前記アニオン性共重合体を含むことにより、窒化ケイ素などのpHが6未満の条件で表面が正の電荷を帯びた研磨対象物表面の凹凸の凸部を高選択的に削りとる作用を有する。例えば、本発明の好ましい一実施形態によれば、pHが6未満の条件下で表面が正に帯電した研磨対象物表面の凸部を、凹部に対して10倍以上の研磨速度で研磨する工程を有する研磨方法または基板の製造方法が提供される。
【0024】
前記アニオン性共重合体は、酸性基を有する2種類以上のモノマーの共重合体であってもよく、酸性基に変換しうる官能基を有する2種類以上のモノマーを共重合させた後にこれらの官能基を酸性基に変換したものであってもよい。共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよいが、好ましくは酸性基が種類ごとに偏在しているブロック共重合体である。
【0025】
また、本発明に係る研磨用組成物が含有するアニオン性共重合体は、下記一般式1で表される単位構造または下記一般式2で表される単位構造を有するものであれば特に限定されず、ビニル系共重合体であっても、縮合系共重合体であってもよい。前記アニオン性共重合体は、市販品を使用してもよく、市販の樹脂に酸性基を導入して得てもよい。
【0026】
【化3】
【0027】
(上記一般式1中、Qは、水素;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基からなる群から選択される炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等からなる群から選択される炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
1’は、単結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル結合のいずれかであり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
Xは、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、もしくはリン酸基から選択される酸性基、またはこれらの酸性基を少なくとも1つ有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、もしくは前記酸性基を少なくとも1つ有する炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。)
【0028】
【化4】
【0029】
(上記一般式2中、Arは、置換または無置換の炭素数6〜12の芳香族基であり、Arが置換の芳香族基である場合、置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基からなる群から選択される炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等からなる群から選択される炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる、
は、単結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、カルボニル結合のいずれかであり、
xは、0〜10の整数であり、
yは、0〜10の整数であり、
Yは、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、もしくはリン酸基から選択される酸性基、またはこれらの酸性基を少なくとも1つ有する炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、もしくは前記酸性基を少なくとも1つ有する炭素数6〜12の芳香族炭化水素基である。)
また単結合とは、共有電子対1組を共有することによる結合を示すため、Q1’またはQが、単結合を表すとき、Q1’またはQに炭素原子等の原子は含まれず、Q1’またはQの両隣りの原子が互いに単結合で結合していることを意味する。
【0030】
アニオン性共重合体が有する互いに異なる酸性度を示す酸性基または酸性基が結合した置換基は、構造が同一であっても異なっていてもよい。異なる酸性基の好ましい組合せとしては、スルホン酸基とカルボキシル基との組合せが挙げられる。また、同一の酸性基または酸性基が結合した置換基である場合には、主鎖の構造が互いに異なることによって酸性度の違いを発現させていてよい。例えばアクリル酸とフマル酸との共重合体の場合には、−CH(COOH)−で表される単位構造と−CHCH(COOH)−で表される単位構造とからなる。この場合、前者の単位構造は、酸性基が隣接した炭素に結合していることによって、プロトンが脱離した後に残る負電荷が隣接する酸性基により安定化され、酸性基のプロトンの脱離が促進される。よって、異なる酸性度を有する酸性基または酸性基が結合した置換基が同一の構造を有するアニオン性共重合体を使用した場合であっても、本発明の効果が得られると考えられる。
【0031】
アニオン性共重合体の分子量としては、保護作用の観点から500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。また、分散性の観点から100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定することができる。
【0032】
アニオン性共重合体の本発明に係る研磨用組成物への含有量としては、砥粒の含有量や研磨対象によって適宜調整でき、特に限定されないが、0.1〜100000ppmの範囲であってもよい。このような範囲であれば、窒化ケイ素等の研磨対象物を十分な研磨速度で平坦化することができる。
【0033】
アニオン性共重合体の酸性度が異なる酸性基の少なくとも1種類の酸性基の酸解離定数(pKa)は、研磨用組成物のpHに対して小さいことが好ましい。少なくとも1種類の酸性基の酸解離定数(pKa)が、研磨用組成物のpHに対して小さいことにより、アニオン性共重合体がイオン化し、研磨対象物に吸着しやすくなる。よって、凹部が砥粒により削り取られるのを抑制することができる。
【0034】
[アニオン性共重合体の調製]
本発明に係る研磨用組成物が含有するアニオン性共重合体は、従来公知の方法で合成することができ、例えば、以下のような方法によって製造することができる。
【0035】
(1)スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のアニオン性基を導入し得るモノマーの共重合体や、それらモノマーとビニル化合物モノマーとの共重合体にアニオン性基を導入する方法
上記のアニオン性基を導入し得るモノマーとしては、例えばエチレングリコールまたはポリエチレングリコールのジアクリル酸エステルもしくはジメタクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、ビニルスルホン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0036】
例えば、スチレンとジビニルベンゼンとの架橋共重合体をスルホン化することにより、本発明で用いるアニオン性共重合体を製造することができる。
【0037】
このような方法によるアニオン性共重合体の調製に使用し得る上記ビニル化合物モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル及び酢酸ビニル等のビニルエステル類や、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類、エチレン、プロピレン、イソプロピレンブタジエン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、クロロプレン、アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
【0038】
(2)メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸メチル、p−スチレンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸メチル等のアニオン性基を有するビニル化合物を共重合させる方法、もしくは、それらアニオン性基を有するビニル化合物と上記のビニル化合物モノマーとを共重合させる方法
この方法においては、必要により、イオン性基を有していないモノマーを共重合させたり、あるいは得られた共重合体中のカルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基を加水分解させたりしてイオン交換容量(カチオン交換容量)を調製することもできる。
【0039】
このような方法によるアニオン性共重合体の調製に使用し得るアニオン性基を有するビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記のものが挙げられる。
【0040】
カルボキシル基を有するビニル化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、2−エチルアクリル酸、3−tert−ブチルアクリル酸などのアクリル酸系モノマー;マレイン酸、メチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ムコン酸などのマレイン酸系モノマーが挙げられる。
【0041】
スルホン酸基を有するビニル化合物としては、例えば、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−n−ブタンスルホン酸、2−アクリルアミド−n−ヘキサンスルホン酸、2−アクリルアミド−n−オクタンスルホン酸、2−アクリルアミド−n−ドデカンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2,4,4−トリメチルペンタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−(4−クロロフェニル)プロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−n−テトラデカンスルホン酸、4−メタクリルアミドベンゼンスルホン酸ナトリウム、2−スルホエチルメタクリレート、p−ビニルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、エチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸などが挙げられる。
【0042】
ヒドロキシル基を有するビニル化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート−(メタ)アクリル酸付加物、1,1,1−トリメチロールプロパンまたはグリセロールのジ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0043】
リン酸基を有するビニル化合物としては、例えば、ビニルホスホン酸、(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0044】
(3)アニオン性基を有するフェノール類とアルデヒド類とを重縮合する方法
この方法において、アニオン性基を有するフェノール類としては、フェノールスルホン酸、ナフトールスルホン酸、p−オキシベンゼンスルホン酸、サリチル酸ソーダ等を例示することができる。また、アルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、グリオキサザール、フルフラール類などが使用される。この場合、カチオン交換容量を調整するために、フェノール、クレゾール、ナフトール、レゾール等を共重合成分として使用することもできる。
【0045】
(4)多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを重縮合させる方法
この方法においては、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体および5−ナトリウムスルホイソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を、テトラメチレングリコール、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加体成分と反応させてモノマーもしくはオリゴマーを形成し、その後真空下で重縮合させることによってポリエステルを調製できる。このようにして合成したポリ
エステルに後から酸性基を導入してもよく、あらかじめ酸性基に変換しうる置換基をモノマーに導入しておき、縮合重合後に酸性基に変換してもよい。
【0046】
(5)ビスフェノールと酸性基含有芳香族ジハライドとを重縮合させる方法
この方法においては、使用し得る酸性基含有芳香族ジハライドとして、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロジフェニルケトン、4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができる。
【0047】
(6)ジカルボン酸ジハライドとジアミンとを低温溶液重合、または界面重合等により反応させる方法
この方法において使用し得るジカルボン酸ジハライドとしては、例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドがあげられ、使用し得るジアミンとしてはp−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0048】
[砥粒]
本発明に係る研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0049】
使用される砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0050】
これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0051】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下で表面の電荷がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、pH6未満の酸性条件でも表面が負に帯電するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせるといった方法やシリカ表面にスルホン酸などの酸性官能基を導入するといった方法により得ることができる。なかでも、好ましいのは、Al(アルミニウム)ドープシリカまたは有機酸を固定化したコロイダルシリカである。
【0052】
Alドープシリカを得る方法としては、コロイダルシリカの分散液にアルミン酸ソーダを添加する方法を用いることができる。この方法は、特許第3463328号公報、特開昭63−123807号公報に詳細に記載され、この記載を本発明に適用することができる。
【0053】
有機酸を固定化したコロイダルシリカは、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基を化学的に結合させことにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0054】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、500nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度は向上し、また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に研磨キズ(スクラッチ)が生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0055】
砥粒の平均二次粒子径の上限は、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0056】
砥粒の平均二次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。
【0057】
砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる砥粒の平均会合度は1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する利点がある。
【0058】
砥粒の平均会合度はまた、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した場合に表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。
【0059】
研磨用組成物中の砥粒の含有量の下限は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、2質量%以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒の含有量の上限は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上し、また、研磨用組成物のコストを抑えることができる。
【0060】
[pH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHの値は、6未満である。pHの値が6以上であると、窒化ケイ素といった研磨対象物の表面の正の電荷が小さくなるため、表面が負に帯電した砥粒を用いて研磨対象物を高速度で研磨することも困難になる。研磨用組成物により窒化ケイ素などの研磨対象物を十分な研磨速度で研磨する観点から、研磨用組成物のpHの値は、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下であり、特に好ましくは3以下である。
【0061】
研磨用組成物のpHの値はまた、安全性の観点から1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0062】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するために、本発明の研磨用組成物はpH調整剤を含む。pH調整剤としては、下記のような酸またはキレート剤を用いることができる。
【0063】
酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、ニトロカルボン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、10−カンファースルホン酸、イセチオン酸、タウリンなどのスルホン酸が挙げられる。また、炭酸、塩酸、硝酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などの無機酸が挙げられる。
【0064】
キレート剤としては、ポリアミン、ポリホスホン酸、ポリアミノカルボン酸、ポリアミノホスホン酸等が挙げられる。
【0065】
これらのpH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらpH調整剤の中でも、無機酸、カルボン酸が好ましい。
【0066】
pH調整剤の添加量は特に制限されず、上記pHの範囲となるような添加量を適宜選択すればよい。
【0067】
[分散媒または溶媒]
本発明の研磨用組成物は、水を含む。不純物による研磨用組成物の他の成分への影響を防ぐ観点から、できる限り高純度な水を使用することが好ましい。具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。また、分散媒または溶媒として、研磨用組成物の他の成分の分散性などを制御する目的で、有機溶媒などをさらに含んでもよい。
【0068】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、錯化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤、界面活性剤、水溶性高分子等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、酸化剤、防腐剤、防カビ剤、水溶性高分子について説明する。
【0069】
〔酸化剤〕
研磨用組成物に添加し得る酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0070】
使用可能な酸化剤は、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい。
【0071】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.1g/L以上であることが好ましく、1g/L以上であることがより好ましく、3g/L以上であることがさらに好ましい。酸化剤の含有量が多くになるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度はより向上する。
【0072】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、200g/L以下であることが好ましく、100g/L以下であることがより好ましく、40g/L以下であることがさらに好ましい。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0073】
〔防腐剤および防カビ剤〕
本発明に係る研磨用組成物に添加し得る防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、及びフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0074】
〔水溶性高分子〕
本発明に係る研磨用組成物には、研磨対象物表面の親水性を向上させることや砥粒の分散安定性を向上させることを目的として水溶性高分子を添加してもよい。水溶性高分子としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリ(N−アシルアルキレンイミン)等のイミン誘導体;ポリビニルアルコール;変性(カチオン変性、またはノニオン変性)ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリビニルカプロラクタム;ポリオキシエチレン等のポリオキシアルキレン等;並びにこれらの構成単位を含む共重合体が挙げられる。これら水溶性高分子は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、上記一般式1で表される単位構造または上記一般式2で表される単位構造を有するアニオン性共重合体、pH調整剤、水および必要に応じて他の成分を、攪拌混合して得ることができる。
【0076】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。
【0077】
<研磨対象物>
本発明の被研磨材料は、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物であれば、特に制限されず、例えば、窒化ケイ素等の窒化物、アルミニウム−マグネシウム、シリコン−ゲルマニウム等の合金、またはこれらの複合材料などの研磨対象物を含む被研磨材料が挙げられる。これら研磨対象物は、単独でもまたは2種以上の組み合わせであってもよい。なお、研磨対象物は、単層構造でもよいし2種以上の多層構造であってもよい。多層構造の場合、各層は同じ材料を含んでもよいし、異なる材料を含んでもよい。
【0078】
被研磨材料の表面が、pHが6未満の条件において正に帯電するか否かについては、pHを6未満に調整した溶液における被研磨材料、若しくはその被研磨材料と同じ成分からなる粒子のゼータ電位を測定することによって判断できる。
【0079】
また、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物とは、pHが6未満の条件において正に帯電するpH領域をもつ物質であればよく、6未満のpH領域の全域において正に帯電している必要はない。
【0080】
さらに、本発明における被研磨材料は、上記の研磨対象物と、前記研磨対象物とは異なる材料を含む層と、を有していてもよい。
【0081】
前記研磨対象物とは異なる材料の例としては、例えば、多結晶シリコン、単結晶シリコン、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、シリコン酸化物等が挙げられる。これら材料は、単独でもまたは2種以上の組み合わせであってもよい。なお、研磨対象物とは異なる材料を含む層は、単層構造でもよいし2種以上の多層構造であってもよい。多層構造の場合、各層は同じ材料を含んでもよいし、異なる材料を含んでもよい。
【0082】
<研磨用組成物を用いた研磨方法>
上述のように、本発明の研磨用組成物は、窒化ケイ素などのpHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明の第二は、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物を本発明の研磨用組成物を用いて研磨する研磨方法である。また、本発明の第三は、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物を前記研磨方法で研磨する工程を含む基板の製造方法である。
【0083】
本発明の研磨用組成物を用いて、pHが6未満の条件で表面が正に帯電する研磨対象物を研磨する際には、通常の金属研磨に用いられる装置や条件を用いて行うことができる。一般的な研磨装置としては、片面研磨装置や両面研磨装置がある。片面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて基板を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、基板の対向面に研磨パッドが貼付した定盤を押し付けて定盤を回転させることにより被研磨材料の片面を研磨する。このとき、研磨パッドおよび研磨用組成物と、被研磨材料との摩擦による物理的作用と、研磨用組成物が被研磨材料にもたらす化学的作用とによって研磨される。前記研磨パッドとしては、不織布、ポリウレタン、スウェード等の多孔質体を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような加工が施されていることが好ましい。
【0084】
本発明による研磨方法における研磨条件として、研磨荷重、定盤回転数、キャリア回転数、研磨用組成物の流量、研磨時間が挙げられる。これらの研磨条件に特に制限はないが、例えば、研磨荷重については、基板の単位面積当たり0.1psi以上10psi以下であることが好ましく、0.5psi以上8.0psi以下であることがより好ましく、1.0psi以上6.0psi以下であることがさらに好ましい。一般に荷重が高くなればなるほど砥粒による摩擦力が高くなり、機械的な加工力が向上するため研磨速度が上昇する。この範囲であれば、十分な研磨速度が発揮され、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することを抑制することができる。定盤回転数、およびキャリア回転数は、10〜500rpmであることが好ましい。研磨用組成物の供給量は、被研磨材料の基盤全体が覆われる供給量であればよく、基板の大きさなどの条件に応じて調整すればよい。
【0085】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って例えば10倍以上に希釈することによって調整されてもよい。
【実施例】
【0086】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0087】
(実施例1〜10、比較例1〜7)
砥粒として表1に示したコロイダルシリカ、およびアニオン性共重合体を表3に示す量、水中で混合し、pH調整剤でpHを調整し、研磨用組成物を得た(混合温度約25℃、混合時間:約10分)。研磨用組成物のpHは、pHメーターにより確認した。
【0088】
なお、表3に示す砥粒、および研磨対象物の種類は、下記表1の通りである。
【0089】
【表1】
【0090】
本発明に係る研磨用組成物を用い、研磨対象基板を以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0091】
【表2】
【0092】
研磨速度は、以下の式により計算した。
【0093】
研磨速度[Å/min]=1分間研磨した時の膜厚の変化量
研磨速度の測定結果を下記表3に示す。なお、表3中の研磨速度比は、凸部の研磨速度を凹部の研磨速度で除すことにより算出される値である。
【0094】
【表3】
【0095】
上記表3の研磨速度比の結果から明らかなように、実施例1〜10の本発明の研磨用組成物を用いた場合、研磨対象物である窒化ケイ素膜の凸部が凹部に対して高選択的に削り取られていることが分かった。
【0096】
一方、有機化合物を添加していない研磨用組成物(比較例1)、非イオン性の有機高分子を使用した研磨用組成物(比較例2、3)、強酸性基を有するホモポリマーを使用した研磨用組成物(比較例4〜6)、アニオン性共重合体を使用しているがpHが6である研磨用組成物(比較例7)においては、高い研磨速度比は得られず、凸部を選択的に削り取る作用は見られなかった。
【0097】
なお、本出願は、2014年3月28日に出願された日本特許出願第2014−69265号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。