(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768186
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】マルチワイヤ配線板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20201005BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
H05K3/46 J
H05K1/02 N
H05K3/46 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-193651(P2015-193651)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-69396(P2017-69396A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 了晃
【審査官】
ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/129752(WO,A1)
【文献】
特開平06−204629(JP,A)
【文献】
特開平04−062895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に貼り合わされた金属箔を回路加工して形成した内層パターンを有する内層基板と、この内層基板上に積層され、絶縁層と接着層とを有する布線層と、この布線層の接着層に絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンと、この布線パターン上に絶縁層を介して積層された導体パターンと、を有し、
前記布線層の同一の前記接着層に、絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンの上側を連続した絶縁被覆ワイヤで複数回交差するように配置された他の絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンによってシールドされた布線パターンと、他の布線パターンによってはシールドされない単独の布線パターンとを混在させて配置したマルチワイヤ配線板。
【請求項2】
請求項1において、他の絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンが、メアンダ状、ジグザグ状、これらの何れかの組み合せ又はこれら同士の組み合せとなるように配置されるマルチワイヤ配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤ配線板に関するものであり、特には、複数の種類のインピーダンス制御を配慮したマルチワイヤ配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高機能化や高速度化に対応するため、高周波信号の伝送特性(高周波特性)の改善に対する要求が益々強くなっている。
【0003】
このような高周波特性に対する要求に応える配線板として、信号線層である絶縁被覆ワイヤの上下に、絶縁層を介して、金属箔を加工して形成した電源層および/またはグランド層を配置した構造の配線板であって、当該信号線層である絶縁被覆ワイヤが2層以上であり、かつこの信号線同士の交差点の直上部又は直下部に配置される電源層又はグランド層の導体を部分的に除去したマルチワイヤ配線板が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、回路として使用されない絶縁被覆ワイヤを、回路として使用される絶縁被覆ワイヤの敷設される予定の箇所を避けて敷設することで、絶縁被覆ワイヤの層間、あるいは、内層パターンと絶縁被覆ワイヤの層間の均一な厚さ(絶縁距離)を実現し、インピーダンス制御を可能にしたマルチワイヤ配線板の製造方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−294683号公報
【特許文献2】特開2002−043749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2のマルチワイヤ配線板は、インピーダンス制御や高周波特性が優れるものの、1層の布線層について1種類のインピーダンス制御を行なうものであり、複数の種類のインピーダンス制御が必要な場合は、複数の布線層を用いたり、複数の内層を積層する必要があり、高多層化によるコスト増を招く要因でもあった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、布線層や内層を増やすことなく、複数の種類のインピーダンス制御が可能なマルチワイヤ配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に関する。
1. 絶縁基板上に貼り合わされた金属箔を回路加工して形成した内層パターンを有する内層基板と、この内層基板上に積層され、絶縁層と接着層とを有する布線層と、この布線層の接着層に絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンと、この布線パターン上に絶縁層を介して積層された導体パターンと、を有し、前記布線層
の同一の前記接着層に、
絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンの上側を連続した絶縁被覆ワイヤで複数回交差するように配置された他の
絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンによってシールドされた布線パターンと、他の布線パターンによってはシールドされない布線パターンとを混在させて配置したマルチワイヤ配線板
。
2. 項
1において、他の
絶縁被覆ワイヤを布線して形成した布線パターンが、メアンダ状、ジグザグ状、これらの何れかの組み合せ又はこれら同士の組み合せとなるように配置されるマルチワイヤ配線板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、布線層や内層を増やすことなく、複数の種類のインピーダンス制御が可能なマルチワイヤ配線板を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を示すマルチワイヤ配線板の布線パターンを示した概略平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示すマルチワイヤ配線板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態のマルチワイヤ配線板を、
図1及び
図2を用いて説明する。本実施の形態のマルチワイヤ配線板は、絶縁基板1
a上に貼り合わされた金属箔を回路加工して形成した内層パターン2aを有する内層基板3
aと、この内層基板3
a上に積層され、絶縁層4と接着層5とを有する布線層6と、この布線層6の接着層5に絶縁被覆ワイヤ7を布線して形成した布線パターン11
cと、この布線パターン11
c上に絶縁層10を介して積層された導体パターン2bと、を有し、前記布線層6が、同一の前記接着層5に、他の布線パターン11bによってシールドされた布線パターン11aと、他の布線パターンによってはシールドされない単独の布線パターン11cとを混在させて配置したものである。
【0012】
内層パターンを有する内層基板とは、特性インピーダンスを制御するためのグランド層となる内層パターンを有するものである。金属箔付き絶縁基板を用いて形成することができ、例えば、銅箔付きのガラスエポキシ基板やガラスポリイミド基板等、一般のプリント配線板の製造に用いられるものを使用することができる。内層パターンの形成のための金属箔の回路加工は、いわゆるサブトラクト法やセミアディティブ法、アディティブ法等、一般のプリント配線板の製造で用いられる方法で行うことができる。
【0013】
布線層には、絶縁層上に絶縁被覆ワイヤを固定するための接着層を形成したものを用いることができる。絶縁層としては、一般のプリント配線板で使用されるプリプレグを使用することができ、内層基板の上に、加熱加圧して形成することができる。接着層としては、マルチワイヤ配線板で一般に使用されるものが使用できる。例えば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂とカチオン型光重合開始剤及びスズ化合物を組み合わせたワニスが挙げられる。接着層を形成する方法としては、スプレーコーティング、ロールコーティング、スクリーン印刷等で、絶縁層上に直接塗布乾燥する方法が挙げられる。また、接着層を形成する他の方法としては、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレート等のキャリアフィルムに、一旦ロールコートして塗工乾燥しドライフィルムとした後、絶縁層4上にホットロールラミネートまたは積層プレスにより形成する方法が挙げられ、この場合、接着層の厚みを均一化でき、特性インピーダンスを良くする上で好ましい。このようなドライフィルムの例としてはAS−U01(日立化成株式会社製、商品名)が挙げられる。これにより、内層上に絶縁層と接着層を形成した布線層を有する布線基板を形成する。
【0014】
絶縁被覆ワイヤとは、信号線となるワイヤを、絶縁樹脂で被覆したワイヤをいう。絶縁被覆ワイヤは、信号線となるワイヤと、このワイヤの周囲に配置した絶縁層となるワイヤ被覆層とを備えている。ワイヤは、信号線となる電線であり、ワイヤとしては、銅が一般的に用いられる。また、ワイヤ径とは、ワイヤを被覆する絶縁樹脂を除く、電線のみの直径をいう。ワイヤ被覆層は、絶縁樹脂を用いて形成される。このような絶縁樹脂としては、フッ素系樹脂又はポリアミドイミド系樹脂又は低誘電ポリイミド樹脂の何れか1種類又はこれら2種類以上の組み合わせが用いられる。
【0015】
布線パターンは、絶縁被覆ワイヤを、専用の布線機を用いて超音波と荷重を加えながら、絶縁層上の接着層に溶融接着することで形成することができる。
【0016】
布線パターン上には絶縁層を介して積層された導体パターンが配置される。この導体パターンは、特性インピーダンスを制御するためのグランド層となるものである。
【0017】
本実施形態のマルチワイヤ配線板は、布線層が、同一の接着層に、他の布線パターンによってシールドされた布線パターンと、他の布線パターンによってはシールドされない単独の布線パターンとを混在させて配置して形成される。他の布線パターンによってシールドされた布線パターン(以下、シールドされた布線パターンということがある。)とは、他の布線パターンによって覆われた布線パターンをいい、他の布線パターンとは、覆われた当該布線パターンに対してシールドの役割を果たす、シールド用の布線パターンをいう。また、他の布線パターンによってはシールドされない単独の布線パターン(以下、単独の布線パターンという)とは、文字どおり、単独の布線パターンであり、他の布線パターンによって覆われたりはしていない。本実施の形態では、同一の接着層に、シールドされた布線パターンと単独の布線パターンとが、それぞれ布線されることによって混在して配置されている。
【0018】
(作用効果)
本実施の形態のマルチワイヤ配線板によれば、
図2に示すように、シールドされた布線パターン11aを挟んで、シールド用の布線パターン11bと、内層基板3aのグランド層としての内層パターン2aとが配置されており、シールド用の布線パターン11bと内層パターン2aとの間に絶縁距離14が形成される。一方、単独の布線パターン11cを挟んで、内層基板3bのグランド層としての導体パターン2bと、内層基板3aのグランド層としての内層パターン2aとが配置されており、導体パターン2bと内層パターン2aとの間に絶縁距離13が形成される。つまり、布線層6の同一の接着層5に配置された、シールドされた布線パターン11aと単独の布線パターン11cとが、異なる絶縁距離を有するグランド層の間に配置されることとなり、このため、1層の布線層について2種類のインピーダンス制御を行なうことが可能になる。したがって、布線層や内層を増やすことなく、複数の種類のインピーダンス制御が可能なマルチワイヤ配線板を提供することができる。
【0019】
(変形例)
本実施の形態のマルチワイヤ配線板において、他の布線パターン11bによってシールドされた布線パターン11aが、この布線パターン11aの上側を複数回交差するように配置された前記他の布線パターン11bによってシールドされてもよい。
【0020】
具体的には、
図1(a)〜(c)に示すように、他の布線パターンが、メアンダ状、ジグザグ状、これらの何れかの組み合せ又はこれら同士の組み合せとなるように配置されてもよい。
図1(a)は他の布線パターンがメアンダ状に配置された例であり、
図1(b)は他の布線パターンがメアンダ状の布線パターンを縦方向及び横方向にずらして組み合せて配置された例であり、
図1(c)は、他の布線パターンがジクザグ状の布線パターンを横方向にずらして組み合せて配置された例である。
【0021】
これにより、同一の接着層5に布線することが可能であり、しかも、シールドされた布線パターン11aに対して、他の布線パターン11bが十分なシールド効果を確保できる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は本実施例に限定されない。
【0023】
金属箔付き絶縁基板として、ガラス布ポリイミド系樹脂を用いた両面銅張積層板MCL−I−671(日立化成株式会社製、商品名)に通常のエッチング法により内層パターンを形成し、内層基板を作製した。この時、内層パターンの四隅に位置合わせ用のガイドパターンを同時に形成した。次いで、仕上り厚み55μmのガラス布ポリイミド系樹脂プリプレグGIA−671N(日立化成株式会社製、商品名)を当該基板の両面にプレス、硬化して絶縁層4を形成した。
【0024】
次いで、ワイヤ固定用の接着層として厚み80μmのAS−U01(日立化成株式会社製、商品名)を、当該基板の両面にロール温度100℃、送り速度0.4m/分の条件でホットロールラミネートして接着層を形成し、布線層を形成した。
【0025】
続いて、AS−U01の離形処理PETフィルムを剥がした布線層に、ワイヤ径0.065mmでポリイミド被覆層を有する絶縁被覆ワイヤであるHAW(日立化成株式会社製、商品名)を布線機により、超音波加熱を加えながら信号パターンを布線して、布線パターンを形成した。この時、製品パターンの布線前に、内層パターンの四隅に形成した位置合わせ用のガイドパターンに対応する位置に布線パターンを形成し、内層パターンのガイドパターンとの位置合わせを行った。
【0026】
次に、信号パターンを形成したのと同一の接着層に、ワイヤ径0.065mmでポリイミド被覆層を有する絶縁被覆ワイヤであるHAW(日立化成株式会社製、商品名)を用いてシールドされた布線パターンを形成した。シールドされた布線パターンは、配線ピッチ12milsのメアンダパターンもしくは25milsのメアンダパターンを12milsずらして形成した。
【0027】
その後、布線に続いて高圧水銀灯により、両面に500mJ/cm
2の光照射を行った。次いで、布線後の布線基板をシリコンゴムをクッション材として130℃、30分、20kgf/cm
2(1.96MPa)の条件で加熱プレスした。引き続き、高圧水銀灯により、両面に3J/cm
2の光照射を行って、接着層を硬化させた。
【0028】
次に、仕上り厚み55μmのガラス布ポリイミド系樹脂プリプレグ(日立化成株式会社製、GIA−671)2枚、その外側に18μm厚みの銅箔を両面に配置し、プレス、硬化させた。
【0029】
続いて、必要箇所に穴をあけた後、ホールクリーニングなどの前処理を行い、さらに、無電解銅めっき液に浸漬し、25μmの厚さにスルーホールめっきを行った後、表面に回路を形成してマルチワイヤ配線板(図示しない。)を完成させた。
【0030】
従来のように、2種類の異なる特性インピーダンス制御を行うマルチワイヤ配線板では、布線層を4層必要としていた。これに対して、本実施例のように、同一接着層にてシールドされた布線パターンを形成した場合では、布線層を2層に低減することができた。また、コスト指数が従来100であったものを80に抑制することができるマルチワイヤ配線板を提供することができた。
【符号の説明】
【0031】
1
a…絶縁基板
2…(2a、2bを含む)内層パターン又は導体パターン
2a…(グランド層としての)内層パターン
2b…(グランド層としての)内層パターン
3…(3a、3bを含む)内層基板
3a…内層基板
3b…内層基板
4…絶縁層
5…接着層
6…布線層
7…(7a、7bを含む)絶縁被覆ワイヤ
7a…シールドされた絶縁被覆ワイヤ
7b…シールド用の絶縁被覆ワイヤ
8…ワイヤ
9…絶縁被覆
10…絶縁層
11…(11a、11b、11cを含む)布線パターン又は信号パターン
11a…シールドされた布線パターン又は当該布線パターン又は信号パターン
11b…シールド用の布線パターン又は他の布線パターン
11c…(単独の)布線パターン又は信号パターン
12…マルチワイヤ配線板
13…(2aと2b間の)絶縁距離
14…(2aと7b間の)絶縁距離