特許第6768188号(P6768188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許6768188接着フィルム用接着剤組成物及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768188
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】接着フィルム用接着剤組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20201005BHJP
   C09J 161/06 20060101ALI20201005BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20201005BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20201005BHJP
   C09J 163/04 20060101ALI20201005BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   C09J7/35
   C09J161/06
   C09J133/14
   C09J163/02
   C09J163/04
   C09J11/04
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-1059(P2016-1059)
(22)【出願日】2016年1月6日
(65)【公開番号】特開2017-122159(P2017-122159A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年12月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮原 正信
(72)【発明者】
【氏名】管井 頌太
(72)【発明者】
【氏名】古谷 涼士
【審査官】 川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/133275(WO,A1)
【文献】 特開2012−214526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式粘弾性測定装置による80℃におけるずり粘度が2000〜4000Pa・sであって、60℃から110℃の粘度低下率が−120〜−160Pa・s/℃、120℃から140℃の粘度上昇率が105〜240Pa・s/℃で、150℃、0.5時間での硬化率が60%以上である接着フィルムを構成する接着剤組成物であって、前記接着剤組成物は、前記接着剤組成物100質量%を基準として(A)高分子量成分としてグリシジル基含有反復単位を3.0質量%含むアクリルゴム10〜20質量%と、(B)軟化点が30℃未満の熱硬化性成分としてビスフェノールF型エポキシ樹脂5〜15質量%と、(C)軟化点が50℃以上の熱硬化性成分としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂5〜15質量%と、(D)軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂10〜25質量%と、(E)平均粒径が0.1〜1.0μmである無機フィラー20〜60質量%を含む接着フィルム用接着剤組成物
【請求項2】
高分子量成分が、−40〜20℃のガラス転移温度(Tg)を有し、かつ、エポキシ基含有反復単位を0.5〜3.0質量%含み、重量平均分子量が10万以上、100万未満のエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体である請求項1に記載の接着フィルム用接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接着フィルム用接着剤組成物を、フィルム状に形成して得られる接着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子と半導体素子搭載用配線基板又は半導体素子同士を接着するための接着フィルム用接着剤組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子と半導体素子搭載用配線基板の接合には銀ペーストが主に使用されていた。しかし、近年の半導体素子の小型化・高性能化に伴い、使用される配線基板にも小型化・細密化が要求されるようになってきている。こうした要求に対して、銀ペーストでは、はみ出しや半導体素子の傾きに起因するワイヤボンド時における不具合の発生、接着フィルムの膜厚の制御困難性、および接着フィルムのボイド発生などにより前記要求に対処しきれなくなってきている。そのため、前記要求に対処するべく、近年、フィルム状の接着剤が使用されるようになってきた。
【0003】
さらに、近年、携帯電話、携帯オ−ディオ機器用のメモリパッケージチップを多段に積層したスタックドMCP(Multi Chip Package)が普及している。そして、画像処理技術及び携帯電話等の多機能化に伴い、このようなパッケージの高集積化、高密度化及び薄型化が進められている。そのような半導体装置を製造するためのフィルムとして、例えば特許文献1〜5に記載されている接着シートが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−279197号公報
【特許文献2】特開2002−222913号公報
【特許文献3】特許第3913481号公報(特許文献2の特許)
【特許文献4】特開2002−220576号公報
【特許文献5】特開2004−072009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体ウェハの薄膜化及び配線の微細化、高速化が進むにつれ、高い信頼性を備える半導体装置を実現できるような接着フィルムの開発要求が高まっている。特に、ダイアタッチ工程時に基板又は半導体チップへの接着剤の埋込性を確保するために低粘度であることが求められている。
【0006】
半導体素子をはじめとする各種電子部品を搭載した実装基板として最も重要な特性の一つとして信頼性がある。信頼性を低下させる要因の一つとして、接着フィルムが配線基板上の凹凸および基板上のチップを十分に埋め込ませることができない点が挙げられる。ラミネート工程、ダイシング工程で分割されたチップはダイボンド工程および加圧オーブンキュア工程にて基板の配線段差および基板上のチップを埋め込ませる必要がある。しかし、近年、さらなる高速化、高容量化にともない基板上のチップが拡大化してこれまでのダイアタッチ工程および加圧キュア工程で配線基板の凹凸およびチップを埋め込ませることができず、結果として実装基板の信頼性を低下させるという問題がある。
【0007】
また、近年、チップおよび基板の薄厚化によりダイボンド工程、キュア時の熱収縮によりチップおよび基板が反ることでダイボンドフィルムの端部の凹みが発生し信頼性を低下させるという問題がある。
【0008】
本発明はダイボンド工程や加圧キュア工程で基板の配線段差及びチップを十分に埋込み、また、ダイアタッチ、キュア工程によるチップ及び基板の反りに影響を受けず、接着フィルムの端部の凹みを発生させず、信頼性の高い実装基板を作製する上で必要な接着フィルム用接着剤組成物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のことを特徴とする。
<1>回転式粘弾性測定装置による80℃におけるずり粘度が2000〜4000Pa・sであって、60℃から110℃の粘度低下率が−120〜−160Pa・s/℃、120℃から140℃の粘度上昇率が105〜240Pa・s/℃で、150℃、0.5時間での硬化率が60%以上である接着フィルムを構成する接着剤組成物であって、前記接着剤組成物は、前記接着剤組成物100質量%を基準として(A)高分子量成分としてグリシジル基含有反復単位を3.0質量%含むアクリルゴム10〜20質量%と、(B)軟化点が30℃未満の熱硬化性成分としてビスフェノールF型エポキシ樹脂5〜15質量%と、(C)軟化点が50℃以上の熱硬化性成分としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂5〜15質量%と、(D)軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂10〜25質量%と、(E)平均粒径が0.1〜1.0μmである無機フィラー20〜60質量%を含む接着フィルム用接着剤組成物。
<2>高分子量成分が、−40〜20℃のガラス転移温度(Tg)を有し、かつ、エポキシ基含有反復単位を0.5〜3.0質量%含み、重量平均分子量が10万以上、100万未満のエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体である上記<1>に記載の接着フィルム用接着剤組成物。
<3>上記<1>または<2>に記載の接着フィルム用接着剤組成物を、フィルム状に形成して得られる接着フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着フィルムを用いた場合、ダイボンド工程や硬化工程で加えられる加熱温度領域で十分に配線段差、チップの充填性に優れ、かつ、チップ、基板の反りの影響による接着フィルム端部の凹みも無いことが可能となる。
また配線基板に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性を有する。このことから、本発明の接着フィルムによれば、半導体装置の信頼性の向上と共に、半導体装置の加工速度、歩留の向上をはかることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の接着フィルム(シート)は、半導体装置を製造する際に、ラミネート工程において、半導体ウェハの回路面の裏面に貼り付けられることを想定している。
なお、(メタ)アクリル共重合体は、メタアクリル共重合体又はアクリル共重合体、それらの混合物を意味する。
【0012】
本発明の接着フィルムは、80℃におけるずり粘度は、2000〜4000Pa・sであり、2200〜3800Pa・sであることが好ましく、2500〜3500Pa・sであることがより好しい。また、60℃から110℃の粘度低下率は−120〜−160Pa・s/℃、120℃から140℃の粘度上昇率は105〜240Pa・s/℃である。ずり粘度は、例えば、回転式粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0013】
本発明の接着フィルムは、(A)高分子量成分と、(B)軟化点が30℃未満の熱硬化性成分と、(C)軟化点が50℃以上の熱硬化性成分と、(D)軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂と、を含む樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物100質量%を基準として、前記(A)高分子量成分を10〜20質量%、前記(B)軟化点が30℃未満の熱硬化性成分を5〜15質量%、前記(C)軟化点が50℃以上の熱硬化性成分を5〜15質量%、前記(D)軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂を10〜25質量%含有する接着剤組成物である。
【0014】
(A)成分の高分子量成分は、官能基としてエポキシ基、カルボキシル基、水酸基などを架橋点として含むゴムを用いることができ、例えば官能基を含有した、NBRやアクリルゴムが挙げられる。ここでのアクリルゴムとは(メタ)アクリル酸エステルを主成分としたゴムであり、主としてブチル(メタ)アクリレートとアクリロニトリル等の共重合体や、エチル(メタ)アクリレートとアクリロニトリル等のアクリル共重合体等からなるゴムである。
官能基モノマーがカルボン酸タイプの(メア)アクリル酸や、水酸基タイプのヒドロキシメチルアクリレート又はヒドロキシメチルメタクリレート等を用いると、架橋反応が進行しやすく、ワニス状態でのゲル化、Bステージ状態での硬化度の上昇により接着力が低下する傾向がある。
アクリル共重合体の官能性モノマーとしては、後述の(B)、(C)成分の熱硬化性成分であるエポキシ樹脂と非相溶であるものが、硬化後にエポキシ樹脂とアクリル共重合体がそれぞれ分離し、耐リフロークラック性および耐熱性が有効に発現された接着剤を得ることができる点で好ましい。なかでも、エポキシ樹脂と非相溶であるグリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートを用いるのが好ましい。このエポキシ基含有反復単位の量は、エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体に0.5〜3.0質量%含有されることが必要である。この範囲にあると、接着力の確保とゲル化の防止が同時に図ることができる。
【0015】
また共重合体中のエポキシ基含有反復単位以外は、エチルもしくはブチル(メタ)アクリル反復単位、または両者の混合物を用いることができる。混合比率は、本発明の共重合体のガラス転移温度(以下「Tg」という)−40〜20℃を考慮して決定される。
【0016】
このエポキシ基含有反復単位を0.5〜3.0質量%含有するエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体は、たとえば、グリシジルを3質量%含有するナガセケムテックス株式会社製のHTR−860P−3を用いて、調製することができる。重合方法は特に限定されず、パール重合、溶液重合等を使用することができる。これにより、Bステージ状態での接着剤層のタック性が適切であり、取り扱い性が良好である。
【0017】
エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量は、10万〜100万であり、好ましくは50万〜100万である。重量平均分子量がこの範囲にあると、フィルム状、フィルム状での強度、可撓性、タック性を適切に制御することができるとともに、フロー性が良く、配線の回路充填性を良好に保つことができる。重量平均分子量は10万より小さい場合、シート状、フィルム状での強度や可撓性の低下、タック性の増大がみられるため、好ましくない。また、分子量が大きくなるにつれフロー性が小さく配線の回路充填性が低下してくるので、高分子量成分の重量平均分子量は、100万以下であることが好ましい。なお、本発明において、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものである。
【0018】
本発明で用いる(B)成分、(C)成分の熱硬化性成分は、熱硬化性樹脂及びその硬化剤であり、例えば、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、シアネート樹脂、(D)成分以外のフェノール樹脂が挙げられ、耐熱性が高い点で、エポキシ樹脂が好ましい。
(B)成分の軟化点が30℃未満の熱硬化性成分は、軟化点が30℃未満又は常温(25℃)で液体である熱硬化性樹脂で、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの中から1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、フィルムのタック性、柔軟性などの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
(C)成分の軟化点が50℃以上の熱硬化性成分は、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等が挙られ、これらの中から1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、軟化したときの流動性に優れるエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂など、一般に知られているものを適用することができる。
エポキシ樹脂は、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシなどの二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂などを使用することができる。
【0020】
本発明で用いる(D)成分の軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂は、(B)、(C)成分の熱硬化性成分と相溶し、軟化点が50〜100℃であれば特に限定されず、アルキルフェノール樹脂、p−フェニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型フェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂等が挙げられ、これらの中から1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、エポキシ樹脂硬化剤として機能するレゾール型フェノール樹脂を用いることが好ましい。また、固形フェノール樹脂の軟化点が50℃以上、100℃以下であることにより、エポキシ樹脂との相溶性を向上させ、また、貼り付け時に速やかに軟化するため、優れた貼り付け特性を得ることができる。
【0021】
本発明では、樹脂組成物100質量%を基準として、前記(A)高分子量成分を10〜20質量%、前記(B)軟化点が30℃未満の熱硬化性成分を5〜15質量%、前記(C)軟化点が50℃以上の熱硬化性成分を5〜15質量%、前記(D)軟化点が50〜100℃のフェノール樹脂を10〜25質量%含有するよう調整する。
また、(B)、(C)成分の熱硬化性成分がエポキシ樹脂であり、(A)成分の高分子量成分がエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体である場合、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の合計100質量部に対するエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体の配合量は、250〜1000質量部が好ましい。すなわち、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の合計質量Aと、エポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体の質量Bとの比率A/Bが、0.1〜0.4であることが好ましい。この範囲にあると、成形時のフロー性の抑制効果、高温での取り扱い性、配線基板の凹凸埋込み性が良好である。
【0022】
また、本発明で任意的に使用される無機フィラーは、特に限定されず、たとえば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウィスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等を使用することができ、これらは、1種または2種以上を併用することができる。
熱伝導性向上のためには、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が含有されていることが好ましい。溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与の目的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が含有されていることが好ましい。
【0023】
無機フィラーの使用量は、20〜60質量%が好ましい。この範囲にあると、接着剤層の貯蔵弾性、接着性、ボイド残存による電気特性のいずれもが確保できる。また、無機フィラーの平均粒径は、流動性の点から、0.1〜1.0μmが好ましい。平均粒径は、市販のレーザ回折式粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0024】
上記の熱硬化性成分の熱硬化性樹脂には、その硬化剤を用いる。また、本発明の接着剤組成物には、硬化促進剤を添加することもできる。硬化促進剤は、特に限定されず、各種イミダゾール類を用いることができる。イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチルー2−メチルイミダゾール等が挙げられ、これらは1種または2種以上を併用することもできる。
【0025】
硬化促進剤の添加量は、エポキシ樹脂および硬化剤としてのフェノール樹脂との合計質量100質量部に対して0.04〜5質量部が好ましく、0.04〜0.2質量部がより好ましい。この範囲にあると、硬化性と信頼性を両立することができる。
【0026】
接着フィルムを構成する樹脂組成物は、上記の(B)、(C)成分としてのエポキシ樹脂、硬化剤、(A)成分としてのエポキシ基含有(メタ)アクリル共重合体、(D)成分のフェノール樹脂、無機フィラー、硬化促進剤の他に、必要に応じて、触媒、添加剤、カップリング剤等の各種添加剤をさらに含んでも良い。特に制限は無いが、被着体に対して接着力を向上させるために、カップリング剤を含むことが好ましい。
【0027】
本発明の接着フィルムは、本発明の接着剤組成物を溶剤に溶解あるいは分散してワニスとし、支持体上に塗布、加熱し溶剤を除去することによって、フィルム状に形成して得ることができる。
【0028】
支持体としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリイミド等のプラスチックのフィルムを使用することができ、これら支持体は、表面を離型処理して使用することもできる。また支持体は、使用時に剥離して、接着フィルムのみとして使用することもでき、また、支持体とともに接着フィルム付き支持体として使用し、後に支持体を除去することもできる。
【0029】
上記のワニス化するための溶剤としては、特に限定されないが、フィルム作製時の揮発性等を考慮すると、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、2−エトキシエタノール、トルエン、キシレンなどの比較的低沸点の溶剤を使用するのが好ましい。また、塗膜性を向上させるために、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノンなどの比較的高沸点の溶剤を加えることもできる。
【0030】
本発明の接着剤組成物に無機フィラーを添加した際のワニスの製造には、無機フィラーの分散性を考慮して、らいかい機、三本ロール、ボールミル又はビーズミル等を使用するのが好ましく、これらを組み合せて使用することもできる。また、無機フィラーと低分子量物をあらかじめ混合した後、高分子量物を配合することによって、混合する時間を短縮することも可能となる。また、ワニスとした後、真空脱気等によってワニス中の気泡を除去することもできる。
【0031】
支持体へのワニスの塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、たとえば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0032】
接着フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、90〜135μmが好ましい。この範囲にあると、配線基板の凹凸およびチップ埋込み性を十分に発揮できるともに、経済的である。
【0033】
また、本発明の接着フィルムは、所望の厚さを得るために、2枚以上を貼り合わせることもできる。この場合には、接着フィルム同士の剥離が発生しないよう貼り合わせ条件を考慮する必要がある。
【0034】
本発明の接着フィルムは、それ自体で用いても構わないが、本発明の接着フィルムを従来公知のダイシングテープ上に積層したダイシングテープ一体型接着フィルムとして用いることもできる。ダイシングテープ上に接着フィルムを積層する方法としては、印刷のほか、予め作製した接着フィルムをダイシングテープ上にプレス、ホットロールラミネート方法で積層する方法が挙げられるが、連続的に製造でき、効率が良い点でホットロールラミネート方法が好ましい。尚、ダイシングテープの膜厚は、特に制限はなく、接着フィルムの膜厚やダイシングテープ一体型接着フィルムの用途によって適宜、当業者の知識に基づいて定められるものであるが、経済性がよく、フィルムの取扱い性が良い点で60〜200μm、好ましくは70〜170μmである。
【0035】
半導体搭載用配線基板としては、ダイパットを有するリードフレーム、セラミック基板や有機基板など基板材質に限定されることなく用いることができる。セラミック基板としては、アルミナ基板、窒化アルミ基板等を用いることができる。有機基板としては、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含漬させたFR−4基板、ビスマレイミド−トリアジン樹脂を含漬させたBT基板、さらにはポリイミドフィルムを基材として用いたポリイミドフィルム基板などを用いることができる。
【0036】
配線の形状としては、片面配線、両面配線、多層配線いずれの構造でも良く、必要に応じて電気的に接続された貫通孔、非貫通孔を設けても良い。さらに、配線が半導体装置の外部表面に現れる場合には、保護樹脂層を設けることが好ましい。
【0037】
接着フィルムを配線基板へ張り付ける方法としては、接着フィルムを所定の形状に切断し、その切断された接着フィルムを配線基板の所望の位置に熱圧着する方法が一般的ではあるが、これを限定するものではない。ダイシングテープ上に積層したダイシングテープ一体型接着フィルムを用いる場合、この接着フィルム面を回路形成したウェハの反対面に積層し、ダイシングにより個片化した接着フィルム付き半導体素子をダイシングテープから剥離して、接着フィルム面を配線基板に熱圧着する方法が好ましい。
接着フィルムの硬化は、150℃、0.5時間での硬化率が60%以上となるように接着剤組成物の配合を調整する。硬化率は実施例に記載の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0038】
半導体素子としては、IC、LSI、VLSI等一般の半導体素子を使用することができる。
【0039】
半導体素子と配線基板の間に発生する熱応力は、半導体素子と配線基板の面積差が小さい場合に著しいが、本発明の半導体装置は低弾性率の接着フィルムを用いることによりその熱応力を緩和して信頼性を確保する。これらの効果は、半導体素子の面積が、配線基板の面積の70%以上である場合に非常に有効に現れるものである。また、このように半導体素子と配線基板の面積差が小さい半導体装置においては、外部接続端子はエリア状に設けられる場合が多い。
【0040】
また、本発明の接着フィルムの特性として、前記接着フィルムを配線基板の所望の位置に熱圧着する工程や、ワイヤーボンディングで接続する工程等、加熱される工程において、接着剤層からの揮発分を抑制できる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜3及び比較例1、2)
(C)成分の熱硬化性成分のエポキシ樹脂として、エポキシ当量210g/eqのo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、商品名:YDCN−700−10、軟化点80℃)、(B)成分の熱硬化性成分のエポキシ樹脂として、エポキシ当量160g/eqのビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名EXA−830CRP、25℃で液状)、(D)成分のフェノール樹脂であるエポキシ樹脂硬化剤としてフェノール樹脂(三井化学株式会社製、商品名:XLC−LL、軟化点:75℃)、シランカップリング剤として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名:A−189)と、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名:A−1160)、フィラーとして、平均粒径が約0.5μmの真球状シリカ(株式会社アドマテックス製、商品名:アドマナノSC2050)からなる組成物に、シクロヘキサノンを加えて攪拌混合した。
【0043】
これに、(A)成分としてグリシジル基含有反復単位を3.0質量%含むアクリルゴム(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:HTR−860P−3、重量平均分子量80万、このアクリルゴムは、質量比で、ブチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレートが、38.6/28.7/29.7/3.0を含む)、さらに硬化促進剤として1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(四国化成工業株式会社、商品名:2PZ−CN)を混合し、真空脱気した。こうして作製したワニスを、離型処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布し、90℃で5分間、及び130℃で5分間加熱乾燥して、膜厚が120μmのBステージ状態の塗膜を形成し、キャリアフィルムを備えた接着フィルムを作製した。以下同様に表1の各接着フィルムを作製した。表1に実施例1〜3と比較例1、2の配合質量%を示した。
【0044】
表1中のPI−1 Mw5は、下記で示す方法で得た。温度計、攪拌機、冷却管、及び窒素流入管を装着した300mLフラスコ中に、4,4´−オキシジフタル酸二無水物(マナック社製、ODPA−M)10.0g(0.7mol)、デカメチレンビストリメリテート二無水物(黒金化成株式会社製)7.2g(0.3mol)、ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン株式会社製、D400)7.4g(0.48mol)、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(東レ・ダウコーニングシリコーン株式会社製、BY16−871EG)6.7g(0.58mol)、4,9−ジオキサデカン−1,12−ジアミン(BASF社製 B−12)0.5g(0.04mol)及びN−メチル−2−ピロリドン30gを仕込んで反応液を調製した。反応液を攪拌し、窒素ガスを吹き込みながら180℃で加熱することにより、水と共に50質量%のN−メチル−2−ピロリドンを共沸除去し、ポリイミド樹脂PI−1を得た。得られたポリイミド樹脂をGPCにより測定したところ、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が53,800であった。得られたポリイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は、38℃であった。
【0045】
【表1】
【0046】
(粘度の測定)
接着フィルムのずり粘度は、回転式粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製ARES−RDA)により測定した。
上記で得た接着シートからキャリアフィルム(ポリエチレンテレフタレート)を剥離した後、膜厚120μmのフィルムを直径8mmの円形に打ち抜いた。作製した円形のフィルムを同じく直径8mmの治具2枚ではさみ、周波数:1Hz、測定開始温度:35℃、測定終了温度:150℃、昇温速度5℃/分の測定条件で各温度での溶融粘度を測定した。そして80℃でのずり粘度、60℃と110℃の粘度変化を温度変化の50で除して粘度低下率を、120℃と140℃の粘度変化を温度変化の20で除して粘度上昇率をそれぞれ計算し、それらの結果を表1に示した。
粘度低下率=(110℃の粘度−60℃の粘度)/(110−60)
粘度上昇率=(140℃の粘度−120℃の粘度)/(140−120)
60〜110℃では、粘度が温度の上昇により低下し粘度低下率(値が負)となり、120℃から140℃の温度上昇では、硬化が進行し温度が高くなるほど粘度が高くなるので粘度上昇率(値が正)となる。
【0047】
(硬化率)
各種接着フィルムを直径5mm、高さ2.5mmのアルミパン(株式会社リガク製)に10.0mg精秤し、アルミ板で蓋をし、示差走査熱量計Thermo PlusシリーズDSC8230(株式会社リガク製)にて発熱量を測定した。測定条件は昇温速度10℃/minで、室温(25℃)〜300℃の温度域にて測定した。得られた発熱量から下記式より硬化率を算出した。
下記式のBステージの熱量(発熱量)は、上記で得られた接着フィルムを用いて測定した熱量(発熱量)であり、硬化後の熱量(発熱量)は、上記で得られた接着フィルムを150℃で0.5時間加熱した接着フィルムを用いて測定した熱量(発熱量)である。
硬化率(%)={(Bステージの熱量−硬化後の熱量)/(Bステージの熱量)}×100
【0048】
(埋込み評価)
接着フィルム付き半導体チップ(縦10mm、横8mm、高さ100μm)を100℃、40N、2秒の条件で、半導体チップ(縦7mm、横3mm、高さ30μm)付き基板(の半導体チップを埋めるよう)に圧着しサンプルを作製し、加圧式オーブンで熱硬化させた(150℃、30分)。その後、凹凸(半導体チップの高さ)への充填性を観察した。断面観察と基板裏面から目視で観察を行い、前記凹凸に空隙のないものを「○」、空隙のあるものを「×」として評価した。その結果を表2に示した。
【0049】
(接着フィルム端部の凹み評価)
接着フィルム付き半導体チップ(縦10mm、横8mm、高さ100μm)を100℃、40N、2秒の条件で、半導体チップ(縦7mm、横3mm、高さ30μm)付き基板に圧着しサンプルを作製し、加圧式オーブンで熱硬化させた(150℃、30分)。その後、凹凸への充填性を観察した。断面観察と基板裏面から目視で観察を行い、接着フィルム端部の凹がないものを「○」、あるものを「×」として評価した。その結果を表2に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
比較例1の(B)成分の軟化点が30℃未満の熱硬化性成分を含有しない接着フィルムは、80℃のずり粘度が高く、また、粘度低下率が大きく、硬化率が低いため埋め込み性やフィルム端部の凹みが見られた。ポリイミド樹脂を用いた比較例2は、80℃のずり粘度は低く良好であるが、粘度上昇率が低すぎ、埋め込み性は良いが、フィルム端部に凹みが生じてしまう。
これに対し、80℃のずり粘度、粘度低下率、粘度上昇率、硬化率が特定範囲内にあるように(A)〜(D)成分を用いた接着剤組成物による接着フィルムは、埋め込み性が良く、フィルム端部に凹みを生じることがない良好な特性を有する。
【0052】
以上、本発明について実施例を用いて説明してきたが、以下の作用効果を奏することがわかった。本発明の接着フィルムを用いた場合は、ダイボンド工程や硬化工程で加えられる加熱温度領域で十分に配線段差、チップの充填性、埋め込み性に優れ、かつ、チップ、基板の反りの影響による接着フィルム端部の凹みも無いことが可能となる。
また配線基板に半導体チップを実装する場合に必要な耐熱性、耐湿性を有する。このことから、本発明の接着フィルムによれば、半導体装置の信頼性の向上と共に、半導体装置の加工速度、歩留りの向上をはかることが可能となる。