特許第6768364号(P6768364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6768364
(24)【登録日】2020年9月25日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】電池外装用積層体、電池外装体及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20201005BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   H01M2/02 K
   B32B15/08 F
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-116658(P2016-116658)
(22)【出願日】2016年6月10日
(65)【公開番号】特開2017-59523(P2017-59523A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2019年4月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-184343(P2015-184343)
(32)【優先日】2015年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 宏和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】武井 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】金田 康宏
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 晃
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−192397(JP,A)
【文献】 特開2016−186872(JP,A)
【文献】 特開2016−195113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、
前記第1基材層が、ポリオレフィンからなる層であり、
前記第1接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)10質量部と、を含有する接着剤からなる層であることを特徴とする電池外装用積層体。
【請求項2】
前記複数のエポキシ基を含有する化合物が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂である、請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項3】
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量が、100〜300である請求項2に記載の電池外装用積層体。
【請求項4】
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂が、ビスフェノールA構造を有する請求項2又は3に記載の電池外装用積層体。
【請求項5】
前記第1腐食防止層が、ハロゲン化金属化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【請求項6】
前記ハロゲン化金属化合物が、鉄、クロム、マンガン又はジルコニウムの塩化物又はフッ化物である、請求項5に記載の電池外装用積層体。
【請求項7】
前記ステンレス鋼箔の厚さが10〜30μmである請求項1〜6のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【請求項8】
前記第1基材層が、ホモポリプロピレン又はブロックポリプロピレンである請求項1〜7のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電池外装用積層体を備える電池外装体であって、
電池を収納する内部空間を有し、電池外装用積層体の第1基材層の側が当該内部空間の側となることを特徴とする電池外装体。
【請求項10】
請求項9に記載の電池外装体を備えることを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池やキャパシタ等の外装体として良好な電池外装用積層体、並びに、当該積層体を用いて得られた電池外装体及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に対する意識が高まる中、太陽光や風力等の自然エネルギーの活用と共に、電気エネルギーを貯蔵するための蓄電池として、リチウムイオン電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタが注目を集めている。
これら電池に用いられる外装体としては、小型化と軽量化とを目的として、金属箔と樹脂層とを積層した電池外装用積層体が用いられている。このような電池外装用積層体を、凹部を有するトレー状となるように絞り成形等によって成形し、外装体容器本体とする。
また、前記外装体容器本体と同様にして、電池外装用積層体を成形して外装体蓋部を得る。この外装体容器本体の凹部に電池本体を収納した後、収納された電池本体を覆うように外装体蓋部を重ね、容器本体と外装体蓋部との側縁部を接着することにより、外装体に電池本体が収納された電池が得られる。
【0003】
例えば特許文献1には、基材層と、アルミ箔と、ポリプロピレン又はポリエチレン層からなる最内層とが順に積層された電池外装用積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−33393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池等の電池の応用分野が広がるなか、小型で大容量を有する電池の開発が進められている。同様に電池外装用積層体にも、機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)等の優れた特性を維持しつつ、積層体自体を薄膜化することが求められている。一般的に、電池外装用積層体の機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)及び遮光性は、主に、電池外装用積層体中の金属箔等の無機物層によって確保されている。金属箔としては、加工性に優れるアルミ箔が広く用いられている(特許文献1参照)。
しかしながら、アルミ箔は他の金属箔に比して加工性に優れることから、高い歩留りで積層体を製造することを可能とする一方、他の金属箔に比して突き刺し強度等の機械的強度が劣る。そのため、機械的強度を得るためにはアルミ箔の厚さを一定以下とすることができず、アルミ箔が用いられている現状では電池外装用積層体の薄膜化も困難であった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであって、薄膜化が可能であり、且つ、各種特性に優れる電池外装用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、アルミ箔に代えてステンレス鋼箔を用いることで、突き刺し強度等の機械的強度を担保しつつ薄膜化が可能な構成を採用した。しかしながら、ステンレス鋼箔を用いて電池外装用積層体を製造すると、従来のアルミニウム鋼箔では見られない接着不良によるものと思われる面欠陥や、耐電解液性に課題があることが分かった。そこで本発明者らは、鋭意検討を重ね、腐食防止剤で表面処理がなされたステンレス鋼箔と、基材層とを好適に接着することが可能な接着剤を新たに見出すことに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の第一の態様は、少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、前記第1基材層が、ポリオレフィンからなる層であり、前記第1接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)1〜20質量部と、を含有する接着剤からなる層であることを特徴とする電池外装用積層体である。
前記複数のエポキシ基を含有する化合物は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100〜300であることが好ましい。
前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA構造を有することが好ましい。
前記第1腐食防止層は、ハロゲン化金属化合物を含有することが好ましい。
前記ハロゲン化金属化合物は、鉄、クロム、マンガン又はジルコニウムの塩化物又はフッ化物であることが好ましい。
前記第1腐食防止層は、ポリビニルアルコール骨格を有する樹脂と、フッ化金属化合物と、リン酸化合物とを含有することが好ましい。
前記ステンレス鋼箔の厚さは、10〜30μmであることが好ましい。
前記第1基材層は、ホモポリプロピレン又はブロックポリプロピレンであることが好ましい。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の電池外装用積層体を備える電池外装体であって、電池を収納する内部空間を有し、電池外装用積層体の第1基材層の側が当該内部空間の側となることを特徴とする電池外装体である。
本発明の第三の態様は、前記第二の態様の電池外装体を備えることを特徴とする電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた特性を有し、且つ、高い歩留り及び生産性で製造が可能な電池外装用積層体を提供できる。また、本発明の電池外装用積層体は、薄膜化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る電池外装用積層体の、第1実施形態を示す概略断面図である。
図2】本発明に係る電池外装用積層体を用いて作製した、2次電池の一例を示す斜視図である。
図3】本発明に係る電池外装用積層体を用いて2次電池を製造する工程を示す斜視図である。
図4】本発明に係る電池外装用積層体を用いて2次電池を製造する工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより具体的に説明するものであるが、特に指定のない限り本発明を限定するものではない。
【0012】
[電池外装用積層体]
本発明の第一の態様の電池外装用積層体(以下、単に「積層体」ということがある。)は、少なくとも、第1基材層、第1接着剤層、第1腐食防止層、ステンレス鋼箔、及び第2基材層をこの順に備えてなる電池外装用積層体であって、
前記第1基材層が、ポリオレフィンからなる層であり、
前記第1接着剤層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)1〜20質量部と、を含有する接着剤からなる層である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電池外装用積層体10の概略構成を示す断面図である。
本実施形態に係る積層体10は、第1基材層11と、第1接着剤層12と、第1腐食防止層13と、ステンレス鋼箔14と、第2腐食防止層16と、第2接着剤層17と、第2基材層15と、をこの順に備えてなる。
すなわち、本実施形態に係る積層体10は、ステンレス鋼箔14の両面に形成された第1腐食防止層13及び第2腐食防止層16と、第1腐食防止層13上に第1接着剤層12を介して積層された第1基材層11と、第2腐食防止層16上に第2接着剤層17を介して積層された第2基材層15とを備える、7層構成からなる。
以下、各層について詳述する。
【0014】
第1基材層11は、ポリオレフィンからなる層である。ポリオレフィンからなる層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレン又はα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレン又はα−オレフィンとのブロック共重合体等が挙げられる。
なかでも、第1接着剤層12との接着性が向上することから、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体;以下、「ホモPP」ということがある。)、プロピレン−エチレンのブロック共重合体(以下、「ブロックPP」と言うことがある。)、プロピレン−エチレンのランダム共重合体(以下、「ランダムPP」と言うことがある)等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。なかでも、ホモPP又はブロックPPがより好ましく、機械強度に優れることから、ブロックPPが特に好ましい。
第1基材層11は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。
【0015】
第1基材層11に用いるポリオレフィンからなる層の融点は、電池外装用積層体10に必要な耐熱性を備えるものであれば特に限定されない。
第1基材層11の厚さは、例えば、1〜30μmとすることができる。
【0016】
第1接着剤層12は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)1〜20質量部と、を含有する接着剤からなる層である。
【0017】
上述のように、電池外装用積層体には、機械的強度、耐水性、耐薬品性(耐電解液性)等の各種の特性が要求される。これらの特性の多くは、電池外装用積層体中の金属箔が担っており、電池の耐久性の観点において電池外装体の金属箔は非常に重要な役割を果たしている。そして、電池使用時に当該金属箔が錆等により劣化しないよう、防錆処理が施された金属箔が用いられるのが常であった。
従来用いられていたアルミ箔に対しては、良好な腐食防止効果を有する腐食防止処理剤(腐食防止層)の構成が広く知られている。
一方本発明では、薄膜化と機械強度(突き刺し強度等)との両立のため、ステンレス鋼箔を採用する。ステンレス鋼は金属の中では錆びにくいことが知られているが、電解液と接触し得る等の極端な状況下で用いられる電池外装用積層体のステンレス鋼箔では、従来と同様に防錆処理が行われるのが好ましい。そして、ステンレス鋼箔に良好に防錆効果を付与し得る防錆処理剤と、従来のアルミ箔用防錆処理剤とは異なる組成となり得る。
【0018】
しかしながら、このようなステンレス鋼箔用防錆処理剤からなる第1腐食防止層をステンレス鋼箔表面に設けた結果、従来の接着剤では、当該第1腐食防止層表面と第1基材層表面とを良好に接着することができず、接着不良による面欠陥が発生し得ることが見出された。
そこで本発明者らはさらなる検討を行い、ステンレス鋼箔用の防錆層(第1腐食防止層)と第1基材層とを良好に接着しうる接着剤として、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)1〜20質量部と、を含有する接着剤を見出した。
そして、第1基材層と、このような接着剤からなる第1接着剤層と、第1腐食防止層と、ステンレス鋼箔とを用いることにより、(1)ステンレス鋼箔による、機械的強度(突き刺し強度等)の向上と薄膜化の実現、(2)第1腐食防止層による、ステンレス鋼箔の防錆効果と、それによる耐久性の向上、(3)第1接着剤層による、機械的強度(引き剥がし強度等)の向上と、積層体製造時の接着不良に起因する面欠陥の発生低減及び歩留まりの向上が達成され得る。
【0019】
・接着剤
本発明において第1接着剤層12を形成する接着剤は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の100質量部と、複数のエポキシ基を含有する化合物の(B)1〜20質量部と、を含有するものである。
以下、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を「(A)成分」、複数のエポキシ基を含有する化合物(B)を「(B)成分」ということがある。
【0020】
(酸変性ポリオレフィン樹脂(A))
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とは、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂であって、ポリオレフィン系樹脂中に、カルボキシ基や無水カルボン酸基等の酸官能基を有するものである。
(A)成分は、不飽和カルボン酸またはその誘導体によるポリオレフィン系樹脂の変性や、酸官能基含有モノマーとオレフィン類との共重合等により得られる。なかでも(A)成分としては、ポリオレフィン系樹脂を酸変性して得られたものが好ましい。
酸変性方法としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、ポリオレフィン樹脂と酸官能基含有モノマーとを溶融混練するグラフト変性が挙げられる。
【0021】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレン又はα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレン又はα−オレフィンとのブロック共重合体等が挙げられる。なかでも、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体;以下、「ホモPP」ということがある。)、プロピレン−エチレンのブロック共重合体(以下、「ブロックPP」と言うことがある。)、プロピレン−エチレンのランダム共重合体(以下、「ランダムPP」と言うことがある)等のポリプロピレン系樹脂が好ましく、特にランダムPPが好ましい。
共重合する場合の前記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、α−オレフィン等のオレフィン系モノマーが挙げられる。
【0022】
酸官能基含有モノマーは、エチレン性二重結合と、カルボキシ基又はカルボン酸無水物基とを同一分子内に持つ化合物であって、各種の不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、又はジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
カルボキシ基を有する酸官能基含有モノマー(カルボキシ基含有モノマー)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、エンド−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸(エンディック酸)などのα,β−不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
カルボン酸無水物基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸無水物基含有モノマー)としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸などの不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。
これらの酸官能基含有モノマーは、(A)成分において1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
なかでも酸官能基含有モノマーとしては、後述する(B)成分との反応性が高いことから酸無水物基を有する酸官能基含有モノマーが好ましく、カルボン酸無水物基含有モノマーがより好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
酸変性に用いた酸官能基含有モノマーの一部が未反応である場合は、未反応の酸官能基含有モノマーによる接着力の低下を防ぐため、予め未反応の酸官能基含有モノマーを除去したものを(A)成分として用いることが好ましい。
【0024】
(A)成分において、ポリオレフィン系樹脂又はオレフィン類由来の成分は、(A)成分の全量100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましい。
【0025】
(A)成分の融点は特に限定されるものではない。
例えば、本発明で用いる接着剤が有機溶剤を含有せず、(A)成分と後述する(B)成分とを溶融混練して接着剤を形成する場合であれば、(A)成分の融点は100℃〜180℃であることが好ましい。このような接着剤からなる接着剤層は、熱ラミネート用接着剤層として好適に使用できる。
上記範囲の融点を有する(A)成分を用いることにより、常法及び一般的な装置を用いた場合にも、(A)成分と後述する(B)成分とを、(A)成分の融点よりも十分に高い温度で溶融混練することができる。また、溶融混練を用いて(A)成分と後述する(B)成分とを反応させる場合、(A)成分に比して(B)成分の融点が低いことが好ましいが、上記範囲の融点を有する(A)成分を用いることにより、(B)成分の選択の自由度を高めることができる。
また、上述のように(A)成分の融点は、後述する(B)成分の融点よりも高いことが好ましいが、(A)成分の融点は(B)成分の融点よりも10℃以上高いことがより好ましく、20℃以上高いことがさらに好ましく、30℃以上高いことが特に好ましい。(A)成分の融点が(B)成分よりも十分に高いことにより、溶融混練を行った際に(B)成分が先に溶融し、樹脂の形状を保持した状態の(A)成分中に浸透し、均一に(A)成分と(B)成分とが反応する結果、良好な耐久性を得ることができる。
【0026】
一方、第1接着剤層12を、ドライラミネート用接着剤層とする場合であれば、(A)成分の融点は50〜100℃であることが好ましい。融点が50〜100℃と比較的低融点のポリオレフィンを含む接着剤からなる層を設けることにより、ステンレス鋼箔に歪みが発生しない程度の比較的低温で、すなわち100℃付近又はそれ以下の温度で、第1接着剤層を介して第1腐食防止層を有するステンレス鋼箔と第1基材層とを接着することが可能となる。
【0027】
なかでも(A)成分としては、接着性、及び適度な融点の観点から、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0028】
(複数のエポキシ基を含有する化合物(B))
(B)成分は、エポキシ基を複数含有する化合物である。(B)成分は低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。(A)成分との混和性を良好とする観点からは(B)成分は高分子化合物(樹脂)であることが好ましい。一方、溶剤への溶解性を良好とする観点からは、(B)成分は低分子化合物であることも好ましい。
【0029】
(B)成分の構造は、エポキシ基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンより合成されるフェノキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、1分子あたりのエポキシ含量が高く、(A)成分と共に特に緻密な架橋構造を形成できることから、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
本発明においてフェノールノボラック型エポキシ樹脂とは、フェノールとホルムアルデヒドとを酸縮合して得られるフェノールノボラック樹脂を基本構造とし、その構造の一部にエポキシ基が導入された化合物である。フェノールノボラック型エポキシ樹脂における1分子あたりのエポキシ基導入量は特に限定されるものではないが、エピクロルヒドリン等のエポキシ基原料とフェノールノボラック樹脂とを反応させることにより、フェノールノボラック樹脂中に多数存在するフェノール性水酸基に多数のエポキシ基が導入されるため、通常は多官能エポキシ樹脂となる。
【0031】
なかでもフェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、基本骨格としてフェノールノボラック構造を有し、且つ、ビスフェノールA構造を併せて有するビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。なお、フェノールノボラック型エポキシ樹脂中のビスフェノールA構造は、ビスフェノールAから誘導され得る構造であればよく、ビスフェノールAの両端水酸基がエポキシ基含有基等の基で置換されていてもよい。
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂の一例としては、下記一般式(1)で表される樹脂が挙げられる。
【0032】
【化1】
[式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、nは0〜10の整数であり、Rはエポキシ基を有する基である。]
【0033】
式(1)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基である。nが2以上の整数の場合、R、Rはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
式(1)で表される樹脂中は、下記(i)〜(iii)の少なくともいずれか1つを満たすことが好ましい。
(i)R及びRの両方がメチル基、(ii)R及びRの両方がメチル基、(iii)R及びRの両方がメチル基
例えば、上記(i)を満たすことにより、式(1)においてR及びRが結合する炭素原子と、当該炭素原子が結合する2つのヒドロキシフェニル基と、がビスフェノールAから誘導される構造を構成することとなる。
【0034】
式(1)中、Rはエポキシ基を有する基である。エポキシ基を有する基としては、エポキシ基、エポキシ基とアルキレン基との組み合わせ等が挙げられ、なかでもグリシジル基が好ましい。
【0035】
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100〜300であることが好ましく、200〜300であることがより好ましい。エポキシ当量(g/eq)は、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量であって、この値が小さいほど樹脂中のエポキシ基が多いことを意味する。エポキシ当量の比較的小さいフェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いることにより、フェノールノボラック型エポキシ樹脂の添加量を比較的少量とした場合にも、フェノールノボラック型エポキシ樹脂と被着体との接着性が良好となり、且つ、フェノールノボラック型エポキシ樹脂と前記(A)成分とが十分に架橋する。
【0036】
このようなビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂としては、三菱化学社製のjER154、jER157S70、jER−157S65;DIC社製のEPICLON
N−730A、EPICLON N−740、EPICLON N−770、EPICLON N−775(以上、いずれも商品名)等の市販品を用いることもできる。
【0037】
上記のようなエポキシ樹脂を用いることにより、(A)成分の酸官能基と、(B)成分のエポキシ基との双方が、被着体(特に被着体が有する水酸基等の官能基)に対する接着性官能基として機能することにより、第1基材層11と第1腐食防止層13とに対して、優れた接着性を奏することが可能となると考えられる。
また、(A)成分の酸官能基の一部と、(B)成分のエポキシ基の一部とが反応し、(A)成分と(B)成分の架橋構造ができ、この架橋構造により樹脂の強度が補強され、優れた接着性と共に良好な耐久性が得られるものと考えられる。
【0038】
本発明で用いられる接着剤において、(A)成分100質量部に対して、(B)成分は1〜20質量部で含有される。さらに好ましくは(A)成分100質量部に対して、(B)成分が5〜10質量部であり、最も好ましくは(A)成分100質量部に対して、(B)成分が5〜7質量部である。
本発明で用いられる接着剤は、所望により混和性のある添加剤、付加的な樹脂、可塑剤、安定剤、着色剤等を適宜含有することができる。
【0039】
また、本発明の接着剤は、さらに、有機溶剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
有機溶剤を含有して液状の接着剤とすることにより、例えばドライラミネートに好適な接着剤とすることができる。このような液状接着剤を、下層となる層の上に塗布及び乾燥することにより、接着剤層を形成することができる。
一方、有機溶剤を含有しない場合、酸変性ポリオレフィン樹脂とエポキシ樹脂とを溶融混練し、その後押出し成形等することにより、熱ラミネート等に好適な接着層を形成することができる。
有機溶剤を含有する場合、用いる有機溶剤としては上述の樹脂を好適に溶解し得るものであれば特に限定されるものではなく、例えばトルエン等を用いることができる。有機溶剤の使用量は特に限定されるものではないが、固形分が3〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%がより好ましく、10〜20質量%がさらに好ましい。
【0040】
第1接着剤層12の厚さは、例えば、0.5〜10μmとすることができる。厚さをこの範囲とすることによって、第1基材層11とステンレス鋼箔14とを高い接着力で接着させることができ、層間剥離を防ぐことができる。
【0041】
本態様において第1腐食防止層13は、ステンレス鋼箔14の錆等による腐食を防ぐための層である。
第1腐食防止層13は、ハロゲン化金属化合物を含有することが好ましく、後述するようなハロゲン化金属化合物を、直接ステンレス鋼箔14の表面にメッキ処理してもよい。
このような第1腐食防止層13を設けることにより、ステンレス鋼箔に良好に防錆効果を付与することが可能となる。
なかでも、第1腐食防止層13はさらに水溶性樹脂を含有することが好ましく、水溶性樹脂と、ハロゲン化金属化合物と、キレート剤とを含有した水溶性塗料を、塗布した後、乾燥・硬化させることによって形成されることが好ましい。
【0042】
・水溶性塗料
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂とポリビニルエーテル系樹脂のうち1種以上を用いるのが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂とは、ポリビニルアルコール樹脂、及び変性ポリビニルアルコール樹脂から選ばれる少なくとも1種の水溶性樹脂のことである。
ポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ビニルエステル系モノマーの重合体又はその共重合体をケン化することで製造することができる。
ビニルエステル系モノマーの重合体又はその共重合体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルや、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等のビニルエステル系モノマーの単独重合体又は共重合体、及びこれと共重合可能な他のモノマーの共重合体などが挙げられる。
共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、アルキルビニルエーテル等のエーテル基含有モノマー、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセト酢酸アリル、アセト酢酸エステル等のカルボニル基(ケトン基)含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類、塩化ビニルや塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、及び不飽和スルホン酸類などが挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常90〜100モル%が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、アルキルエーテル変性ポリビニルアルコール樹脂、カルボニル変性ポリビニルアルコール樹脂、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール樹脂、アセトアミド変性ポリビニルアルコール樹脂、アクリルニトリル変性ポリビニルアルコール樹脂、カルボキシル変性ポリビニルアルコール樹脂、シリコーン変性ポリビニルアルコール樹脂、エチレン変性ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。それらの中でも、アルキルエーテル変性ポリビニルアルコール樹脂、カルボニル変性ポリビニルアルコール樹脂、カルボキシル変性ポリビニルアルコール樹脂、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール樹脂が好ましい。
一般に入手可能な、ポリビニルアルコール系樹脂の市販品としては、例えば、日本酢ビ・ポパール(株)製のJ−ポバールDF−20(商品名)、日本カーバイド工業(株)製のクロスマーHシリーズ(商品名)などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂は、1種又は2種以上の混合物を用いてもよい。
【0043】
ポリビニルエーテル系樹脂としては、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ノルボルニルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ノルボルネニルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等の、脂肪族ビニルエーテルの単独重合体又は共重合体、及びこれと共重合可能な他のモノマーの共重合体などが挙げられる。ビニルエーテル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、上述したビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーと同様なものが挙げられる。
特に、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、その他、各種グリコールや多価アルコールのモノビニルエーテル等の、水酸基を有する脂肪族ビニルエーテルをモノマーに含むポリビニルエーテル系樹脂は、水溶性を有し、かつ水酸基に対する架橋反応が可能なので、本発明に好適に用いることができる。
これらのポリビニルエーテル系樹脂は、ビニルエーテルモノマーが樹脂の製造(重合)工程に利用可能であることから、ビニルエステル系ポリマーを経由して製造されるポリビニルアルコール系樹脂とは異なり、ケン化処理を経ることなく、製造可能である。また、ビニルエステル系モノマーとビニルエーテル系モノマーを含む共重合体、又はこれをケン化して得られる、ビニルアルコール−ビニルエーテル共重合体を用いることもできる。ポリビニルエーテル系樹脂以外のポリビニルアルコール系樹脂と、ポリビニルエーテル系樹脂の混合物を用いることもできる。
【0044】
水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂とポリビニルエーテル系樹脂のうち、いずれか一方のみを用いてもよいし、両方を併用してもよい。
【0045】
(ハロゲン化金属化合物)
ハロゲン化金属化合物は、前述の水溶性樹脂と混ぜ合わせる必要があることから、水溶性を有することが好ましい。
ハロゲン化金属化合物としては、例えば、ハロゲン化クロム、ハロゲン化鉄、ハロゲン化ジルコニウム、ハロゲン化チタン、ハロゲン化ハフニウム、チタンハロゲン化水素酸、およびそれらの塩、等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、フッ素が挙げられ、塩素又はフッ素が好ましい。また、特に好ましくはフッ素である。
なかでも、ハロゲン化金属化合物としては、鉄、クロム、マンガン又はジルコニウムの塩化物又はフッ化物が好ましい。
ハロゲン化金属化合物は、耐電解液性等の耐薬品性を向上させる作用を有する。すなわち、ステンレス鋼箔14の表面を不動態化し、電解液に対する耐腐食性を高めることができる。ハロゲン化金属化合物には、前記水溶性樹脂を架橋させる作用もある。
【0046】
(キレート剤)
水溶性塗料は、キレート剤を含有する。当該キレート剤は、金属イオンに配位結合し金属イオン錯体を形成し得る材料である。
キレート剤は、ハロゲン化金属化合物に由来の金属化合物(酸化クロム等)と、前記水溶性樹脂とを結合させて、第1腐食防止層13の圧縮強度を高めるため、第1腐食防止層13の厚みが、例えば0.2μmを越え、1.0μm以下である場合でも、第1腐食防止層13が脆化して割れや剥離が生じることはない。このため、ステンレス鋼箔14とと第1接着剤層12との間の接着強度、および、ステンレス鋼箔14とその上層側の層との間の接着強度を高めることができる。
また、キレート剤は、水溶性樹脂またはハロゲン化金属化合物と化学反応することにより、水溶性樹脂を耐水化する作用を有する。
【0047】
キレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、オキシカルボン酸系、(ポリ)リン酸系キレート剤が使用できる。
【0048】
アミノカルボン酸系キレート剤としては、例えば、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、1,2−プロパンジアミン四酢酸(1、2−PDTA)、1,3−プロパンジアミン四酢酸(1、3−PDTA)、1、4−ブタンジアミン四酢酸(1、4−BDTA)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA−OH)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、エチレンジアミンオルトヒドロキシフェニル酢酸(EDHPA)、SS−エチレンジアミンジコハク酸(SS−EDDS)、エチレンジアミンジコハク酸(EDDS)、β−アラニン二酢酸(ADA)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、L−アスパラギン酸−N,N−二酢酸(ASDA)、L−グルタミン酸−N,N−二酢酸(GLDA)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HBEDDA)が挙げられる。
【0049】
ホスホン酸系キレート剤としては、ホスホン酸(HP(=O)(OH))から誘導される−P(=O)(OH)構造を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、N,N,N−トリメチレンホスホン酸(NTMP)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミン−N,N,N',N'−テトラメチレンホスホン酸(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、が挙げられる。
【0050】
オキシカルボン酸系キレート剤としては、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、グルコヘプトン酸などがある。
【0051】
(ポリ)リン酸系キレート剤としては、リン酸、メタリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ピロリン酸、オルソリン酸、ヘキサメタリン酸及びこれらの塩などがある。
【0052】
一般に入手可能なキレート剤の市販品としては、例えば、キレストPD−4H(PDTA)等のアミノカルボン酸系キレート剤;キレストPH−540(EDTMP)、キレストPH−210(HEDP)、キレストPH−320(NTMP)、キレストPH−430(PBTC)等のホスホン酸系キレート剤(以上、いずれもキレスト(株)製のキレート剤であって、表記は商品名)が挙げられる。
【0053】
なかでもキレート剤としては、ホスホン酸系キレート剤、(ポリ)リン酸系キレート剤等のリン酸系のキレート剤(リン酸化合物)が好ましく、ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。
【0054】
水溶性塗料の全固形分中、水溶性樹脂は3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、10〜15質量%がさらに好ましい。また、水溶性塗料の全固形分中、ハロゲン化金属化合物は20〜60質量%が好ましく、30〜55質量%がより好ましく、40〜50質量%がさらに好ましい。水溶性塗料の全固形分中、キレート剤は20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましく、35〜45質量%がさらに好ましい。
【0055】
水溶性塗料は、水溶性樹脂と、ハロゲン化金属化合物と、キレート剤とを、水を含む溶媒に溶解して製造することができる。溶媒としては、水が好ましい。
水溶性塗料中の固形分濃度は、第1腐食防止層13の塗布性等を考慮して適宜決定することができるが、一般に0.1〜10質量%とすることができる。
【0056】
第1腐食防止層13の厚さは、0.05μm以上が好ましく、0.1μm超がより好ましい。第1腐食防止層13の厚さを0.05μm以上とすることによって、十分な耐腐食性を電池外装用積層体10に与えるとともに、ステンレス鋼箔14と第1接着剤層12との接着強度、および、ステンレス鋼箔14と第1基材層11との接着強度を高めることもできる。
また、第1腐食防止層13の厚さは、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。第1腐食防止層13の厚さを1.0μm以下とすることによって、ステンレス鋼箔14と第1接着剤層12との接着強度を高めるとともに、材料コストを抑制することができる。
【0057】
ステンレス鋼箔14は、ステンレス鋼製の金属箔であって、例えば、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系などのステンレス鋼から構成される。オーステナイト系としては、SUS304,316,301等があり、フェライト系としてはSUS430等があり、マルテンサイト系としてはSUS410等がある。
【0058】
ステンレス鋼箔14は、アルミニウム箔などの他の金属箔に比べて、突き刺し強度、引張強度などの機械的強度が高いため、40μm以下の薄さで用いた場合にも電池外装用積層体10に十分な機械的強度を付与することができる。この結果、ステンレス鋼箔14及び積層体10全体を薄くすることが可能となる。
また、機械的強度が高いことにより、絞り成形によって凹部を形成する際に、ピンホールの発生を低減することができ、結果として積層体で密閉された内容物の漏れ(例えば電池の液漏れ)を低減することが可能となる。加えて、ステンレス鋼箔14は、他の金属箔に比べて耐腐食性に優れるため、腐食による劣化を良好に防ぐことが可能となる。
【0059】
ステンレス鋼箔14の厚さは、100μm以下でが好ましく、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましく、10〜20μmが特に好ましい。上記下限値以上とすることによって、電池外装用積層体10に十分な機械的強度を与え、二次電池等の電池に使用した際に、電池の耐久性を高めることができる。また、ステンレス鋼箔14の厚さを、上記上限値以下とすることによって、電池外装用積層体10を十分に薄いものとすることができ、且つ、十分な絞り加工性を与えることができる。
【0060】
第2腐食防止層16は、第1腐食防止層13と同様の構成を有している。
【0061】
第2接着剤層17は、第1接着剤層12と同様の構成としてもよく、一般的なウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤からなる層であってもよい。第2接着剤層17の厚さは、例えば、0.5〜10μmとすることができる。厚さをこの範囲とすることによって、第2基材層15とステンレス鋼箔14とを高い接着力で接着させることができ、層間剥離を防ぐことができる。
【0062】
第2基材層15は、十分な機械的強度を有していれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ナイロン(Ny)等のポリアミド樹脂;延伸ポリプロピレン(OPP)等のポリオレフィン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等からなる合成樹脂フィルムが使用できる。なかでも、PETフィルムが好ましい。
第2基材層15の厚さは、例えば、1〜50μmとすることができ、1〜30μmが好ましく、3〜11μmがさらに好ましい。
【0063】
第2基材層15は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。多層構造を有する第2基材層15の例として、二軸延伸ポリアミド樹脂フィルム(ONy)の上に、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムが積層された2層フィルムを挙げることができる。なお、第2基材層15は、3層以上のフィルムが積層された多層構造であってもよい。
また、図1に示す実施形態において、第2基材層15は最外層となる。そのため、第2基材層は、樹脂に加えて顔料等の着色料を含有することにより、所望の色やデザインを有していてもよい。
【0064】
第2基材層15は、融点が200℃以上の耐熱性樹脂フィルムを用いた、単層または多層のフィルムからなることが好ましい。このような耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、PETフィルム、PENフィルム、PBTフィルム、ナイロンフィルム、PEEKフィルム、PPSフィルムなどがあるが、特に、コストの点で有利なPETフィルムが好ましい。このような耐熱性樹脂フィルムを使用することにより、電池外装用積層体10の耐熱性を高め、電池外装用積層体10が用いられる電池の耐久性を向上させることができる。
【0065】
図1に示した電池外装用積層体10では、ステンレス鋼箔14の両面に第1腐食防止層13及び第2腐食防止層16が形成されているが、電池外装用積層体10を用いた電池外装体において内面側とされ、電解液等と接触し得るのは第1基材層11側である。そのため、腐食防止層は、少なくともステンレス鋼箔14の第1基材層11側に形成されていればよい。すなわち、図1の電池外装用積層体10から、第2腐食防止層16を省略した構成とすることも可能である。
【0066】
図1に示した電池外装用積層体10では、第2基材層15を最外層としているが、第2基材層15のさらに外面側に、コーティング層を形成することもできる。
コーティング層(第1コーティング層)は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、セルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリアリールエーテル樹脂(PAE)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)からなる樹脂群より選択された少なくとも1種の樹脂より形成されている。コーティング層は、耐熱性に優れた材料で構成されていることが好ましい。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
コーティング層は、前記樹脂を一般的な有機溶剤に溶解して調製された溶剤型塗料を塗布・乾燥させて形成された、薄膜硬化層であることが好ましい。
コーティング層の形成により、電池外装用積層体10の絶縁性を高めるとともに、電池外装用積層体10の表面の傷を防止できる。また、電池外装用積層体10が、電解液に触れた場合でも、外観の変化(変色等)を防止することができる。
また、コーティング層を形成する溶剤型塗料に、着色剤や顔料を添加することで、コーティング層を着色することができる。加えて、コーティング層は、文字、図形、画像、模様などを表示するように着色や印刷を加え、意匠性を高めることもできる。
コーティング層の厚さは、例えば、0.1〜20μmとすることができ、2〜10μmが好ましい。
【0067】
図1に示した電池外装用積層体10では、第2基材層15と第2接着剤層17とが直接接しているが、第2基材層15の内面側に、意匠性を高めるための印刷層を設けることもできる。
印刷層は、上述したコーティング層と同様の構成とすることができる。
【0068】
電池外装用積層体10の厚さは、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmがより好ましく、30〜100μmがさらに好ましい。
【0069】
電池外装用積層体10が用いられる電池としては、二次電池であるリチウムイオン電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなどの、電解液に有機電解質を使用したものが挙げられる。有機電解質としては、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレンカーボネートなどの炭酸エステル類を媒質とするものが一般的であるが、特にこれに限定されない。
【0070】
本発明の電池外装用積層体は、例えば、ステンレス鋼箔の片面に第1腐食防止層を形成する工程、形成された第1腐食防止層上に、第1接着剤層を形成する工程、及び、第1基材層と、形成された第1接着剤層とが接するように配して、当該積層体をラミネートする工程、を有する方法により製造することができる。
以下、詳細に説明する。
【0071】
まず、ステンレス鋼箔14の片面に、第1腐食防止層13を形成する。
具体的には、上述のような水溶性塗料をステンレス鋼箔14の表面に塗布した後、加熱乾燥する。このとき、ステンレス鋼箔14の片面のみに水溶性塗料を塗布することにより、第1腐食防止層13のみを形成してもよく、ステンレス鋼箔14の両面に水溶性塗料を塗布することにより、第2腐食防止層16を同時に形成してもよい。なお、第2腐食防止層16を設ける場合、第2腐食防止層16は、第1接着剤層12等を形成する前の段階で形成されていることが好ましく、第1腐食防止層13と同時に形成されることがより好ましい。
また、第1腐食防止層13及び第2腐食防止層16を同時に形成する場合、ステンレス鋼箔14を水溶性塗料に浸漬して、ステンレス鋼箔14の両面に水溶性塗料を付着させた後、加熱乾燥することも好ましい。
【0072】
次いで、第1腐食防止層13の上に、第1接着剤層12を形成する。
具体的には、ステンレス鋼箔14の第1腐食防止層13が設けられた面の上に、上述のような接着剤からなる層を形成し、必要に応じて加熱し、乾燥する。
【0073】
接着剤が有機溶剤を含まない、熱ラミネート用接着剤である場合、(A)成分と(B)成分とを溶融混練することにより両成分を反応させた後、第1腐食防止層13上に塗布して乾燥させることにより、第1接着剤層12が形成される。
溶融混練は、一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、プラストミル、加熱ロールニーダー等の公知の装置を用いることができる。溶融混練時のエポキシ基の分解を抑制するため、水分等のエポキシ基と反応し得る揮発成分は、予め装置外へ除去しておき、且つ、反応中に揮発成分が発生する場合には脱気等により随時装置外へ排出することが望ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂が、酸官能基として酸無水物基を有する場合、エポキシ基との反応性が高く、より穏和な条件下で反応が可能となるため好ましい。溶融混練時の加熱温度は、両成分が十分に溶融し、且つ熱分解しないという点で、240〜300℃の範囲内から選択することが好ましい。なお、混練温度は、溶融混練装置から押し出された直後における、溶融状態の接着性樹脂組成物に、熱電対を接触させる等の方法によって測定することが可能である。
【0074】
また、接着剤が有機溶剤を含む、ドライラミネート用接着剤である場合、(A)成分と(B)成分とを有機溶剤中に溶解させた後、この溶液を第1腐食防止層13上に塗布して乾燥させることにより、第1接着剤層12が形成される。また、第1接着剤層12の形成は、後述する第1基材層11とのラミネート工程と共に、公知のドライラミネータ等を用いて一連の工程として行ってもよい。
【0075】
その後、第1基材層11と、形成された第1接着剤層12とが接するように配して、当該積層体をラミネートする。ラミネートは、70〜150℃のドライラミネートが好ましい。ドライラミネート時の圧力は、0.1〜0.5MPaとすることが好ましい。
具体的には、第1基材層11を構成するフィルムを予め準備し、当該フィルムを第1接着剤層上に配した上で、ドライラミネートを行う。ドライラミネートの温度は、第1接着剤層を介して第1基材層11と、第1腐食防止層13及びステンレス鋼箔14とが良好に接着される温度であれば特に限定されるものではなく、第1接着剤層12を構成する接着剤の材料や融点を考慮して決定することができる。ドライラミネート時の温度は、一般的には70〜150℃であって、80〜120℃が好ましい。
【0076】
本態様の電池外装用積層体は、第1基材層11と第1腐食防止層13及びステンレス鋼箔14とが第1接着剤層12を介して接着される構成であるため、接着時に上述のようなドライラミネートを採用することが可能となる。そして、ラミネート時に200℃超の加温が必要となる熱ラミネートに代えてドライラミネートを採用することにより、ラミネート時の温度を大幅に下げることができる。
一般的に、熱伝導率が低く膨張し難いステンレス鋼箔に高熱を付加した場合、ステンレス鋼箔の幅方向に歪み(カール)が発生しやすくなる。このようなステンレス鋼箔を用いて熱ラミネートを行う場合、面内で十分に熱が伝播せず、幅方向で熱圧着ローラーに接触していない部分が生じたり、ロールに接触していないことや、歪み自体によって熱圧着時に折れやシワが生じたりすることがある。また、ステンレス鋼箔に歪みが発生しない程度の高温まで加熱を行う場合、加工速度の低下や必要な熱量の増大によって生産性が低下し得る。
そして、本態様の電池外装用積層体の製造においてドライラミネートを採用する場合、折れやシワの発生を抑制し、好適な電池外装用積層体を製造することができる。
【0077】
なお、第1接着剤層12を形成する工程と、第1基材層11を配して(ドライ)ラミネートをする工程とは、一連の工程として公知の(ドライ)ラミネート装置を用いて行ってもよい。
【0078】
第2腐食防止層16、第2接着剤層17、第2基材層15の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、予め第2基材層15上に第2接着剤層17を形成して2層からなる積層体とする。そして、当該2層積層体と、第1基材層11、第1接着剤層12、第1腐食防止層13、ステンレス鋼箔14及び第2腐食防止層16を有する積層体とを、第2接着剤層17と第2腐食防止層16とが接するようにドライラミネートすることにより、7層からなる電池外装用積層体10を製造することができる。
【0079】
以上、図1に示す電池外装用積層体10に基づき、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、第2腐食防止層16を設けず、6層構成としてもよい。
また、第1基材層11の第1接着剤層12と接しない側や、第2基材層15の第2接着剤層17と接しない側に、他の層を設けて、7層又は8層以上の構成としてもよい。
【0080】
[電池外装体]
本発明の第二の態様の電池外装体は、第一の態様の電池外装用積層体を備える電池外装体であって、電池を収納する内部空間を有し、電池外装用積層体の第1基材層の側が当該内部空間の側となる電池外装体である。具体的には、第1基材層が内部空間に面するように第一の態様の電池外装用積層体を所望の形状に成形し、必要に応じて端部を密封等することにより得られるものである。
電池外装体の形状、大きさ等は特に限定されず、用いられる電池の種類に応じて適宜決定することができる。
電池外装体は、一の部材からなるものであってもよく、図2を用いて後述するように二以上の部材(例えば、容器本体及び蓋部)を組み合わせて形成されるものであってもよい。
【0081】
[電池]
本発明の第三の態様の電池は、第二の態様の電池外装体を備えたものである。
電池としては二次電池であるリチウムイオン電池等の二次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなどの、電解液に有機電解質を使用したものが挙げられる。
一例として、二次電池40の斜視図を図2に示す。二次電池40は、電池外装用容器20に、リチウムイオン電池27を内包したものである。
電池外装用容器20は、本発明の第一の態様の電池外装用積層体10からなる容器本体30と、電池外装用積層体10からなる蓋部33とを重ね、周縁部29をヒートシールすることにより形成されている。符号28は、リチウムイオン電池27の正極および負極に接続された電極リードである。
【0082】
図2に示す電池は、以下のようにして製造することができる。
まず、図3(a)に示すように、電池外装用積層体10を、凹部31を有するトレー状となるように、絞り成形などにより成形し、容器本体30を得る。凹部31の深さは、例えば、2mm以上とすることができる。
容器本体30の凹部31に、リチウムイオン電池(図2中のリチウムイオン電池27)を収納する。
次いで、図3(b)に示すように、電池外装用積層体10からなる蓋部33を容器本体30の上に重ね、容器本体30のフランジ部32と蓋部33の周縁部34をヒートシールすることによって、図2に示す二次電池40が得られる。すなわち、図3に示す電池では、容器本体30の上面が蓋部33に覆われることにより、凹部31と蓋部33とによって電池を収容する内部空間が形成される。
【0083】
また、本発明における電池は、以下のようにしても製造することができる。
まず、図4(a)に示すように、矩形の電池外装用積層体50において長手方向一端側の一部を、絞り成形などにより電池外装用積層体50の第1基材層の側から押圧して成形し、凹部51を有する成形体55を得る。凹部51の深さは、例えば、2mm以上とすることができる。
次いで、図示は省略するが、成形体55の凹部51に、リチウムイオン電池(図2中のリチウムイオン電池27)を収納する。
【0084】
次いで、成形体55の凹部51が形成されていない他端側の一部において、成形体55の短手方向に延在する折り曲げ線Lを形成するように、第1基材層の側に折り曲げる。ここで、成形体55において、折り曲げ線Lに対し凹部51側の領域を「第1領域551」、折り曲げ線Lに対し凹部51とは反対側の領域を「第2領域552」とする。
【0085】
次いで、第1領域551における凹部51の周囲52の第1基材層と、第2領域552において周囲52と重なる第1基材層(周縁部54)と、を重ね合わせる。これにより、第1領域551の凹部51に第2領域552が重なることになる。
【0086】
次いで、図4(b)に示すように、凹部51の周囲の第1基材層と第2領域552の第1基材層とをヒートシールすることによって、一の部材からなる電池外装体を有する二次電池60が得られる。すなわち、図4(b)に示す電池では、凹部51の上面が第2領域552に覆われることにより、凹部51と第2領域552とによって電池を収容する内部空間が形成される。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0088】
[実施例1〜15、比較例1〜5]
(実施例1〜5)
まず、厚さ20μmのステンレス鋼箔を用意した。このステンレス鋼箔の両面に、水溶性塗料(塗布量12g/m)を塗布し、200℃のオーブンにて加熱乾燥し、表1中に示す厚さの第1腐食防止層及び第2腐食防止層をそれぞれ形成した。
水溶性塗料は、水酸基を有するポリビニルアルコール骨格含有非結晶ポリマーの0.2質量%と、FeCl・4HOの0.8質量%と、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(商品名:キレストPH−320、キレスト(株)製)の0.7質量%を水に溶解してなる水溶液である。
【0089】
その後、形成された第1腐食防止層上に、第1の接着剤を塗布し、厚さ3μmの第1接着剤層を形成した。第1の接着剤は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点15℃)の100質量部と、ノボラック型エポキシ樹脂(三菱化学(株)社製、商品名:jER157S70、粘度=80、エポキシ当量=210)の7質量部とを室温で10分間溶融混練することにより得られたものである。
【0090】
このステンレス鋼箔を含む積層体における第1接着剤層と、厚さ6μmのポリプロピレン樹脂フィルムからなる第1基材層とを、120℃でドライラミネートにより積層した。
【0091】
また、厚さ6〜8μmの黒色を有する延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルムからなる第2基材層上に、ウレタン系接着剤(主剤:TM−K55(商品名、東洋モートン社製)、硬化剤:CAT−10L(商品名、東洋モートン社製))からなる第2接着剤層(厚さ3μm)を塗布により成形した。
この第2接着剤層と、上記で得られた積層体における第2腐食防止層とを対向させ、80℃のドライラミネートにより積層し、電池外装用積層体を得た。
【0092】
得られた電池外装用積層体の表面欠陥を目視により観察し、以下の評価条件で評価を行った。結果を「面欠陥」として表1に示す。
A:1mあたり、面内の欠陥が1個も観察されなかった。
B:1mあたり、面内の欠陥が1〜5個観察された。
C:1mあたり、面内の欠陥が6〜10個観察された。
D:1mあたり、面内の欠陥が11個以上観察された。
【0093】
3gの電解液(LiPFを1mol/リットル添加した、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1vol%の溶液)を用意し、電池外装用積層体を用いて作製した三方シール袋(内寸30mm×50mm、ヒートシール幅が7mm)内に充填した。この三方シール袋を、85℃の恒温槽内で2000時間静置した。
2000時間経過後、三方シール袋を開封して、金属箔よりも内側の層の剥離の有無を目視で観察し、以下の評価基準で評価を行った。結果を「耐電解液性」として表1に示す。
A:剥離が認められなかった
B:僅かな剥離が認められたが、許容範囲内であった
C:剥離が認められた
D:全面に亘って剥離してしまった
【0094】
また、上記電解液浸漬の後の試験片を純水に10時間浸漬した後、純水から取り出し、目視により状態の観察を行った。以下の評価基準で評価した結果を、「水浸漬後」として表1に示す。
A:剥離が認められなかった
B:僅かな剥離が認められたが、許容範囲内であった
C:剥離が認められた
D:全面に亘って剥離してしまった
【0095】
電池外装用積層体を200mm×100mmサイズに切り出し、試験片を得た。この試験片を100mm×50mmサイズの冷間成形用装置にセットし、絞り深さ6mmの条件でエンボス加工を行った。成型延伸部における破断やピンホールの発生に関して目視又は光学顕微鏡で観察を行った。同様の試験を10回行い、以下の評価基準で評価を行った結果を「成型性」として表1に示す。
A:成型延伸部に破断が起きず、ピンホールも発生しなかった。
B:成型延伸部に許容範囲内の僅かな破断が起きたか、又は、ピンホールの発生したサンプルが10サンプル中1〜3サンプルであった。
C:成型延伸部に小さな破断が起きたか、又は、ピンホールの発生したサンプルが10サンプル中1〜5サンプルであった。
D:成型延伸部に大きな破断が起きたか、又は、ピンホールの発生したサンプルが10サンプル中6サンプル以上であった。
【0096】
(実施例6〜10)
第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、表1に示す接着剤を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例11)
第1接着剤層と、第1基材層との120℃のドライラミネートを、200℃の熱ラミネートに変更した以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例12)
第1基材層を、ブロックPPフィルムからランダムPPフィルムに変更した以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例13〜14)
厚さ20μmのステンレス鋼箔を、表1に示す厚さのステンレス鋼箔に変更した以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例15)
第1及び第2腐食防止層を、フッ化クロムのメッキ処理により行い、厚さ250μmの第1及び第2腐食防止層を得た以外は実施例1と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1)
金属箔として、ステンレス鋼箔に代えて、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、且つ、第1の接着剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)のみを有し、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を有さない接着剤を用いた以外は実施例11と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例2)
金属箔として、ステンレス鋼箔に代えて、厚さ20μmのアルミニウム箔を用い、第1及び第2腐食防止層の、0.8質量%のFeCl・4HOに代えて0.8質量%のCrF・3HOを用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例3)
第1の接着剤として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)のみを有し、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を有さない接着剤を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例4)
第1腐食防止層及び第2腐食防止層を設けなかった以外は実施例1と同様にして電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例5)
第1接着剤層を形成する第1の接着剤において、表1に示す接着剤を用いた以外は実施例3と同様にして、電池外装用積層体を製造し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。
(bPP):ブロックポリプロピレン
(rPP):ランダムポリプロピレン
(Ad−NV1):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:jER154、エポキシ当量=178)の5質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−NV2):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂jER154の2質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−NV3):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂jER154の7質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−NV4):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂jER154の10質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−NV5):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂jER154の15質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−NV6):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)の100質量部、及びノボラックエポキシ樹脂jER154の5質量部を有する接着剤
(Ad−BPNV):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びビスフェノールA構造を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱化学製、商品名:jER157S70、粘度=80;エポキシ当量=210)の5質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−PN):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点80℃)の100質量部、及びフェノキシ樹脂(三菱化学社製、商品名:エピコート1001、エポキシ当量=450)の5質量部を有する固形分量15%のトルエン溶液接着剤
(Ad−PP):無水マレイン酸変性ポリプロピレン(融点140℃)の100質量部を有する接着剤
(SUS):ステンレス鋼箔
(AL):アルミ箔
【0108】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜15の電池外装用積層体は、面欠陥の発生が抑制され、電解液や水に接触した際にも剥離が低減され、且つ、良好な成形性を有するものであって、比較例1〜5の電池外装用積層体に比して優れた特性(加工性・成型性、機械的強度、薬液・水耐性)を有していた。
【0109】
[実施例16〜24]
上記実施例3において、第1腐食防止層及び第2腐食防止層中の0.8質量%のFeCl・4HOに代えて、0.8質量%の表2中に示すハロゲン化金属を用い、実施例16〜24の検討を行った。評価方法、評価基準は実施例1等と同じである。結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示す結果から、ハロゲン化金属化合物として各種の化合物を用いた場合にも、本願効果が得られることが確認できた。
図1
図2
図3
図4