(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
<本発明らによる本発明の着想の経緯>
まず、本発明の構成の具体的な説明に先立ち、本発明らによる本発明の着想の経緯について説明する。一般に、比表面積が1000m
2/gを超えるような多孔質炭素材料は、多孔質炭素材料の体積に対し細孔容積が数割以上を占め、嵩密度が低い。そして、このような高比表面積の多孔質炭素材料は、主に非晶質の炭素によって構成されている。
【0018】
固体高分子燃料電池等において、通常、触媒成分の酸化・還元反応に伴う酸化消耗は、多孔質炭素材料の端部(エッジ)、炭素欠陥部(5員環、6員環、官能基部分)を起点に生じる。したがって、酸化消耗を防止するためには、多孔質炭素材料の結晶性を高めて多孔質炭素材料の端部および炭素欠陥部を減少させることが一般に重要である。
【0019】
多孔質炭素材料の結晶性は、加熱処理により向上させることが可能である。しかしながら、多孔質炭素材料を単純に加熱処理して結晶性を高めようとすると、微視的な炭素の原子配列の変化を伴う構造変化に伴って、多孔質炭素材料内の細孔径の小さい細孔から順に潰れる、または、縮小してしまう。すなわち、多孔質炭素材料の結晶性の向上に伴って細孔容積が減少し、比表面積も減少する。
【0020】
ここで発明者らは、黒鉛化促進作用、すなわち結晶化を促進する作用を有する金属粒子(以下、「黒鉛化促進粒子」ともいう)を細孔内部に担持させて、当該作用を発揮する温度に加熱すると、金属粒子に接触した部分を起点としてその周辺で局所的に結晶化が進行することを見出した。時間の経過とともに結晶化が進行する領域は拡大するが、発明者らの経験的には、黒鉛化促進粒子から高々半径数nm程度の領域の結晶化のみが促進されると推定される。したがって多孔質炭素材料の細孔内に黒鉛化促進粒子を担持させ、適度な温度で焼成処理を行うと、細孔内表面が優先的に結晶化され、骨格部分の結晶化が抑制された構造を実現することができると考えられた。
【0021】
そして、このような結晶化機構が実現できれば、細孔内部の結晶性は高まるが、細孔を形成する骨格の構造は変化しない為、細孔が潰れない構造、すなわち比表面積の減少が抑制された構造を実現できると推察した。この推察に基づき、検討を鋭意進めた結果、この結晶化機構を実際に実現できることが判明し、本発明を完成するに至った。
【0022】
<多孔質炭素材料>
次に、本発明の一実施形態に係る多孔質炭素材料について説明する。本実施形態にかかる多孔質炭素材料は、主に炭素材料によって構成され、多数の細孔を有する、多孔質材料である。また、多孔質炭素材料は、当該炭素材料の表面上に白金等の触媒成分(特に、触媒金属粒子)を担持することのできる担体であることができる。言い換えると、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、炭素系触媒担体であり得る。
【0023】
本実施形態に係る多孔質炭素材料は、BET法によって評価されるBET比表面積が、450m
2/g以上1250m
2/g以下であり、
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ:°)25.5〜26°の領域および26.5°を含む領域に、それぞれピークが検出され、
25.5〜26°の領域のピークP1の強度I
P1に対する26.5°を含む領域のピークP2の強度I
P2の比I
P2/I
P1が、0.80以上5.5以下であり、
白金粒子を細孔内部に担持した場合における細孔内酸化開始温度が、350℃以上450℃以下である。
【0024】
本実施形態に係る多孔質炭素材料においては、上述した構造を念頭に、X線回折測定により、多孔質炭素材料の結晶性が発達した部分および発達していない部分の存在の確認および、これらの部分の量比を確認している。一方で、X線回折測定の結果からは、結晶性が発達した部分が多孔質炭素材料のどの部分に存在するかは特定できず、多孔質材料の結晶部分が細孔内表面付近に偏在する程度を知ることができない。
【0025】
そこで、本発明者らは、加熱による細孔内部の酸化消耗性に基づき、細孔内表面における結晶部分の偏在性を確認することを発案した。すなわち、細孔内表面において結晶化の程度が高い場合には、多孔質炭素材料は、白金粒子を担持した状態において加熱された場合であっても酸化消耗しにくく、重量の減少が小さい。一方で、細孔内表面において結晶化の程度が低く、非晶部分が露出している場合には、白金粒子を担持した状態において加熱された場合、酸化消耗しやすく、重量の減少が大きい。本発明者らは、このような現象を利用して、白金粒子を細孔内部に担持した場合における細孔内酸化開始温度により、細孔表面への結晶部分の偏在の程度を判断できることを見出した。
以下、本実施形態に係る多孔質炭素材料の各構成について説明する。
【0026】
まず、上述した本実施形態に係る多孔質炭素材料においては、粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ:°)25.5〜26°の領域および26.5°を含む領域に、それぞれピークが検出される。25.5〜26°の領域に現れるピークP1は、多孔質炭素材料における乱層構造に由来し、26.5°を含む領域(26.5°付近)に現れるピークP2は、多孔質炭素材料における黒鉛構造(結晶構造)に由来する。したがって、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、高度に結晶化された黒鉛構造領域と、それ以外の乱層構造とを有する。このように、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、局所的に結晶部位を配置して耐久性を高める一方で、他の部位については結晶性を比較的低くすることにより、全体としての比表面積を十分に高いものとしている。
【0027】
そして、上記のピークP1の強度I
P1に対するピークP2の強度I
P2の比I
P2/I
P1は、0.80以上5.5以下である。これにより、多孔質炭素材料における結晶構造と乱層構造との割合を適切なものとすることができ、耐久性を高いものとしつつ、上述したような十分に高い比表面積を得ることができる。
【0028】
これに対し、上記比I
P2/I
P1が5.5を超えると、多孔質炭素材料の乱層構造部分が減少する結果比表面積が減少することとなり、上述した範囲の比表面積を得ることが困難である。また、多孔質炭素材料の結晶部分が過度に多くなる結果、触媒粒子を担持しやすいグラフェンのエッジ部分が少なくなるため触媒粒子が担持しにくくなり、その結果、十分に粒径の小さい触媒粒子を担持しにくくなり、活性の低下などの原因となる。
また、上記比I
P2/I
P1が0.80未満であると、多孔質炭素材料の結晶構造部分が少なくなり、多孔質炭素材料の耐久性が劣るものとなる。
【0029】
上記比I
P2/I
P1は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは1.0以上3.0以下であり、より好ましくは1.0以上2.0以下である。これにより、上述したような効果をより顕著に得ることができる。
【0030】
また、上述したピークP1の半値幅は、特に限定されないが、好ましくは0.20°以上0.70°以下であり、より好ましくは0.20°以上0.60°以下である。上述したように、ピークP1は乱層構造に由来することから、ピークP1の半値幅は、乱層構造領域の大きさを表すものであり、半値幅が小さいと領域が大きいことを意味する。したがって、この値が上記範囲内にあることにより、多孔質炭素材料の比表面積を十分に大きくするための多孔質炭素材料中の乱層構造の量を十分に確保することができる。
【0031】
また、上述したピークP2の半値幅は、特に限定されないが、好ましくは0.10°以上0.70°以下であり、より好ましくは0.6°以下である。上述したように、ピークP2は結晶構造に由来することから、ピークP2の半値幅は、黒鉛結晶構造領域の大きさを表すものであり、半値幅が小さいと領域が大きいことを意味する。したがって、この値が上記範囲内にあることにより、多孔質炭素材料の耐久性を向上させるための多孔質炭素材料中の結晶構造の量を十分に確保することができる。
【0032】
また、上述したように、本実施形態に係る多孔質炭素材料について、白金粒子を細孔内部に担持した場合における細孔内酸化開始温度は、350℃以上450℃以下である。細孔内酸化開始温度は、細孔内表面の結晶化の程度の指標であると考えられる。すなわち、細孔内酸化開始温度が高いほど、細孔内表面に結晶性の高い炭素が配置されており、酸化消耗に対する耐性が向上すると考えられる。そして、細孔内酸化開始温度が上述した範囲内にあることにより、細孔内表面において結晶性が発達した部分を十分に配置することができるとともに、多孔質炭素材料全体の過度の結晶化を防止することができる。この結果、固体高分子形燃料電池内における細孔内表面における酸化消耗が十分に抑制されるとともに、多孔質炭素材料全体の比表面積を十分に大きなものとすることができ、且つ、触媒粒子の担持に有効なグラフェンエッジを適度に残すことができ、この結果触媒担体としての機能を高く維持できる。
【0033】
これに対し、細孔内酸化開始温度が前記下限値未満であると、細孔内表面に十分には結晶性の高い炭素が配置されておらず、固体高分子形燃料電池内における酸化消耗に対する耐性が低くなる。一方で、細孔内酸化開始温度が前記上限値を超えると、多孔質炭素材料全体として結晶化が過度に進行していることが考えられ、上述したような比表面積を得ることが困難となり、且つ、触媒粒子の担持に有効なグラフェンエッジが結晶発達とともに減少し、この結果触媒担体としての機能が著しく低下してしまう。
【0034】
本明細書において多孔質炭素材料の細孔内酸化開始温度は、白金粒子を細孔内部に担持させた状態で、空気流通下で加熱した際の重量減少を測定した際の、重量減少が開始する温度とすることができる。この場合において、重量減少が開始する温度は、多孔質炭素材料の初期の質量に対して、2質量%減少した時の温度が、測定誤差と再現性の観点から最適と判断した。また、測定条件としては、白金粒子の担持量を多孔質炭素材料に対し20質量%、加熱時の昇温速度を10℃/分、空気を乾燥空気、空気流通量を30mL/分とすることができる。白金粒子の粒子径は、細孔内酸化開始温度に影響をあまり与えるものではなく、特に限定されないが、1nm〜5nm、一般的には2nm〜4nm程度とすることができる。
【0035】
なお、上述した細孔内酸化開始温度の測定においては、酸化消耗は、空気中において多孔質炭素材料が燃焼することにより生じる。一方で、固体高分子形燃料電池の電極に多孔質炭素材料を使用した場合における酸化消耗は、上述した酸化開始温度よりも低い温度、例えば80℃程度かつ電位差の存在する環境下で生じる。また、固体高分子形燃料電池中の多孔質炭素材料は、水、水素、酸素等の存在下におかれる。したがって、上述した細孔内酸化開始温度の測定における酸化消耗と、固体高分子形燃料電池中における酸化消耗とは、反応機構が異なり、単純には比較できず、細孔内酸化開始温度の測定における酸化消耗の程度を固体高分子形燃料電池の耐久性と直接的に関連付けることは適切でない。本実施形態においては、上述した多孔質炭素材料の細孔内酸化開始温度を、あくまでも多孔質炭素材料の細孔内表面の結晶化の程度の指標として取り扱う。
【0036】
また、本実施形態に係る多孔質炭素材料のラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅ΔGは、特に限定されないが、例えば、50cm
−1以上65cm
−1以下、好ましくは55m
−1以上62cm
−1以下であり、より好ましくは55cm
−1以上60cm
−1以下である。ラマン分光法による測定されるGバンドは、ラマン分光スペクトルにおいて1590cm
−1付近に存在するグラファイトに起因するピークである。そして、このGバンドの半値幅ΔGは、多孔質炭素材料の結晶化の程度を示す。
【0037】
そして、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、半値幅ΔGが上記範囲内にあることにより、結晶性を全体として十分に高いものとして耐久性を高いものとしつつ、上述したような十分に高い比表面積を得ることができる。
【0038】
これに対し、半値幅ΔGが65cm
−1を超えると、多孔質炭素材料の結晶性が低くなりすぎる結果、多孔質炭素材料の構成によっては十分に細孔内表面の結晶性を高めることができない場合がある。一方で、半値幅ΔGが50cm
−1未満の場合、多孔質炭素材料の結晶性を高めるために比表面積を減少させる必要があり、多孔質炭素材料の構成によっては上述した範囲の比表面積を得ることが困難な場合がある。
【0039】
また、Gバンドの半値幅ΔGは、レーザーラマン分光光度計を用いて測定を行い、低波数領域(600cm
−1付近)と高波数領域(2000cm
−1付近)とを結ぶ直線をベースラインとした補正を実施した後にデータ処理を行って半値幅を算出する事により得られる。レーザーラマン分光光度計としては、例えば、NRS−3100型(日本分光(株)製)が挙げられる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る多孔質炭素材料のBET法によって評価されるBET比表面積は、450m
2/g以上1250m
2/g以下である。これにより、例えば触媒担体として用いた場合に触媒成分を担持するための表面を十分に有することができ、触媒活性を十分に高めることができる。
【0041】
上記BET比表面積が450m
2/g未満である場合、触媒成分を十分に担持するための表面積が不足し、即ち、例えば固体高分子燃料電池において高密度に触媒成分を担持できないために、必要な触媒量を確保するための触媒量が多くなり、その結果、触媒層が厚くなり、ガス拡散抵抗の増加、カソードの生成水の除去が困難になるなど、十分な触媒活性ひいては発電性能を発揮し得ない。一方、BET比表面積が1250m
2/gを超える場合、細孔を形成するための細孔壁の厚みが薄くなり、多孔質炭素材料それ自体の強度が低下するとともに、乱層構造の領域と黒鉛質結晶構造の領域を独立に制御が困難となり、即ちI
P2/I
P1を制御するのが困難となり、その結果、酸化消耗等に対する耐久性に劣るものとなる。即ち、本発明のI
P2/I
P1を制御するためには必然的にBETの上限が制限され、かつその上限値が1250m
2/gであることを、本発明者らは見出した。
【0042】
多孔質炭素材料のBET比表面積は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは600m
2/g以上1250m
2/g以下であり、より好ましくは750m
2/g以上1250m
2/g以下である。これにより、上述したような効果をより顕著に得ることができる。
【0043】
また、多孔質炭素材料の細孔径2nm以上10nm未満の細孔容量は、特に限定されないが、好ましくは0.40ml/g以上1.2ml/g以下、より好ましくは0.6ml/g以上1.2ml/g以下である。これにより、多孔質炭素材料に触媒金属を担持した場合であっても十分なガスの流路を設けることができ、かつ触媒活性を十分に高いものとすることができる。なお、細孔径2nm以上10nm未満の細孔容量は、自動比表面積測定装置(例えば、日本ベル社製、BELSORP mini)を用いて、窒素ガス吸着脱離特性を測定し、吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法で解析する事でより得られる。
【0044】
本実施形態に係る多孔質炭素材料は、上述したように多孔質材料であることができるが、その具体的な形状もまた限定されない。
例えば、多孔質炭素材料は、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体を有することができる。より具体的には、炭素メソポーラス構造体は、棒状体または環状体が3次元的に延在するとともに相互に結合してネットワークを構成し、いわゆるデンドライト状の3次元的な構造を有している。
【0045】
さらに、上記環状体は、製造方法等に起因して、一般には、グラフェンからなる表皮と、その内部に含まれる複数のグラフェン小包等の炭素粒とから構成される。ここで、「グラフェン」とは、炭素原子が六角形の網状に配列したものであって、単層の黒鉛に相当する。
【0046】
上記の炭素メソポーラス構造体は、製造方法に起因して、例えば樹状部分の長さが150nm以下となる。また、樹状部分の直径が、例えば150nm以下となる。すなわち、炭素メソポーラス構造体は、極めて微細な大きさの樹状構造物である。なお、樹状部分の長さの下限値および直径の下限値は、例えば50nmおよび20nmである。
【0047】
上記炭素メソポーラス構造体は、上述のような樹状部分を有するため、それ自体高い比表面積を有する。したがって、水素などの任意のガスを十分に吸蔵することができ、気体分子吸蔵体として十分に機能することができる。また、触媒担体としても十分に機能することができる。
【0048】
なお、当然、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、上述した炭素メソポーラス構造体に限定されるものではない。
【0049】
以上のような本実施形態に係る多孔質炭素材料は、細孔内表面に局所的に結晶部位を配置することにより、固体高分子形燃料電池の電極等に用いた際における酸化消耗が防止されており、耐久性に優れている。一方で、細孔内表面以外の部位については比較的結晶性を低いものとすることにより、多孔質炭素材料全体としての比表面積が十分に高いものとなり、この結果、多孔質炭素材料は、触媒金属等を担持した場合における反応活性に優れている。したがって、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、触媒担体として用いた際に反応活性および耐久性に同時に優れている。
【0050】
本実施形態に係る多孔質炭素材料は、任意の用途に使用可能であり、例えば、燃料電池やキャパシタ、一次電池もしくは二次電池等の電池における電極材料等に使用することができる。燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池、りん酸形燃料電池、アルカリ電解質形燃料電池、直接型燃料電池等が挙げられる。また、一次電池としては、例えば、リチウム電池、アルカリマンガン乾電池、ニッケル一次電池等が挙げられる。また、二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル・水素充電池等が挙げられる。
【0051】
一方で、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、触媒成分を担持するための触媒担体であることが好ましい。上述した多孔質炭素材料は、比較的大きな比表面積を有し、触媒成分、例えば触媒金属を十分に担持することができるとともに、酸化消耗等による耐久性に優れている。したがって、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、触媒担体として適している。この場合、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、炭素系触媒担体である。
【0052】
具体的には、上述した中でも、多孔質炭素材料は、特に電池、好ましくは燃料電池または二次電池、より好ましくは固体高分子形燃料電池の電極材料として使用されることが好ましい。電池においては一般に酸化還元反応が生じる環境が存在することから、酸化消耗に対する耐久性に優れた本実施形態に係る触媒担体用炭素材料は、これらの用途に適している。特に、固体高分子形燃料電池を初めとする燃料電池においては、水素、酸素ガス等の燃料が通過することが必要であり、反応活性を高めるために触媒成分を表面に十分に担持する必要があることから、比較的大きい比表面積を有する本実施形態に係る触媒担体用炭素材料は、これらの用途に適している。
【0053】
特に、本発明は、本実施形態に係る多孔質炭素材料を含む固体高分子形燃料電池用触媒にも関する。このような固体高分子形燃料電池用触媒は、アノードおよびカソードの少なくとも一方に利用されることができる。
【0054】
なお、本実施形態に係る多孔質炭素材料は、特に限定されないが、以下の方法により製造することが可能である。
【0055】
<多孔質炭素材料の製造方法>
次に、本発明の多孔質炭素材料の製造方法を、好適な実施形態を参照しつつ説明する。
本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、黒鉛化促進作用を有する金属粒子(黒鉛化促進粒子)を多孔質炭素材料の細孔内部に担持させる担持工程と、
前記細孔内部に前記金属粒子を担持した前記多孔質炭素材料を、不活性雰囲気下、1200℃以上2200℃以下で焼成する焼成工程と、を有する。
【0056】
《第1の実施形態》
まず、本発明の多孔質炭素材料の製造方法の第1の実施形態について説明する。
本実施形態においては、原料としての多孔質炭素材料の細孔内部に黒鉛化促進粒子を担持させ、その後、当該多孔質炭素材料を、不活性雰囲気下、かつ1200℃以上2200℃以下で焼成する。本実施形態に係る方法では、従来存在する炭素材料を黒鉛化促進粒子により改質することができる。
【0057】
具体的には、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法は、液性媒体中において多孔質の炭素材料に金属錯体および/または金属塩を吸着させる吸着工程と、
前記金属錯体および/または金属塩を還元し、多孔質炭素材料の細孔内に金属粒子を析出させる析出工程と、
多孔質炭素材料を、不活性雰囲気下、かつ1200℃以上2200℃以下で焼成する焼成工程と、
前記金属粒子由来の金属成分の少なくとも一部を前記多孔質炭素材料から除去する、金属成分除去工程と、を有する。
【0058】
(吸着工程)
まず、吸着工程においては、液性媒体中において多孔質炭素材料に金属錯体および/または金属塩を吸着させる。具体的には、例えば、多孔質炭素材料を液性媒体中に分散させておき、これに対して金属錯体および/または金属塩を添加し、撹拌することにより行うことができる。
【0059】
本工程で用いることのできる多孔質炭素材料としては、特に限定されず、従来から用いられている炭素材料を用いることができる。このような炭素材料としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック(ケッチェンブラック)、活性炭、鋳型炭素(メソポーラスカーボン)等公知の非晶質カーボンが挙げられる。また、上述したような特許文献1に記載の多孔質炭素材料も使用可能である。なお、原料となる多孔質炭素材料は、上述したようなBET比表面積および細孔容量を有することが好ましい。
【0060】
液性媒体としては、上述したような炭素材料を分散可能であれば特に限定されず、水や、公知の各種有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒として例示するならば、例えば水と混和可能な有機溶媒、より具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。
【0061】
また、液性媒体に多孔質炭素材料を分散させた分散液中の当該炭素材料の濃度は、特に限定されないが、例えば、1g/L以上100g/L以下、好ましくは5g/L以上20g/L以下である。
【0062】
また、金属錯体および/または金属塩としては、これから生じる黒鉛化促進粒子が炭素材料の黒鉛化(結晶化)を促進可能であれば特に限定されず、例えば、Al、Si、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ge、MoおよびAgからなる群から選択される1種以上の金属の錯体および塩が挙げられる。このような金属錯体および/または金属塩に由来する金属粒子は、炭素材料の黒鉛化(結晶化)を促進可能である。
【0063】
上述した中でも、金属錯体および/または金属塩は、好ましくはAl、Mg、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ge、MoおよびAgからなる群から選択される1種の金属の錯体または塩であり、より好ましくは、Cuおよび/またはAgの錯体または塩であり、特に好ましくはAgの錯体または塩である。特に、Cu、Agは、後述する焼成工程において、溶解して細孔内部表面へ濡れ広がることができる。そして溶解した金属と接触した多孔質炭素材料の部分が優先的に結晶化される。
【0064】
また、具体的な金属塩としては、例えば、上述した金属の塩化物、硝酸塩、有機酸塩、例えば乳酸塩等が挙げられる。具体的な金属錯体としては、例えば、上述した金属の塩化物錯体、有機錯体等が挙げられる。
【0065】
また、金属錯体および/または金属塩の添加は、それ自体を分散液に添加することによって行ってもよいが、金属錯体および/または金属塩を溶解または分散した液を分散液に添加することにより行ってもよい。この場合において金属錯体および/または金属塩を溶解または分散するための液性媒体としては、上述した液性媒体を用いることができる。
【0066】
金属錯体および/または金属塩の添加量は、特に限定されないが、例えば、多孔質炭素材料は、多孔質炭素材料の炭素成分の質量に対し、黒鉛化促進粒子を例えば10質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上担持するように、量を調節する。10質量%未満の担持量では、黒鉛化促進粒子の種類、焼成条件等によっては、後述する結晶工程において細孔表面が十分に結晶化できない場合がある。これにより、後述する焼成工程において細孔が潰れることが防止され、細孔表面が十分に結晶化できるとともに、最終的な金属粒子の除去が容易となる。一方で、金属錯体および/または金属塩の添加量の上限は、特に限定されないが、例えば、多孔質炭素の細孔容積すべてに金属を含浸させた状態が上限とすることができる。例えば銀の場合であれば、実質的に3000質量%以下とすることができる。
【0067】
次に、金属錯体および/または金属塩が添加された分散液を撹拌し、多孔質の炭素材料に金属錯体および/または金属塩を吸着される。撹拌時間は、特に限定されず、例えば、0.5間以上24時間以下、好ましくは1時間以上12時間以下とすることができる。
【0068】
また、撹拌は、一般的な撹拌翼やスターラ等を用いて行うことができる。
また、以上の処理における分散液の温度は、特に限定されず、例えば1〜100℃、好ましくは5〜50℃、より好ましくは常温であることができる。
【0069】
なお、吸着後においては、分散液中の液性媒体を除去することが好ましい。液性媒体の除去は、例えばエバポレータ等による減圧留去により行うことができる。
【0070】
(析出工程)
次に、金属錯体および/または金属塩を還元し、多孔質の炭素材料の細孔内に黒鉛化促進粒子としての金属粒子を析出させる。金属錯体および金属塩の還元は、いかなる方法によって行われてもよいが、例えば還元性を有する気体(還元ガス)を多孔質の炭素材料に接触させることにより行うことができる。
【0071】
還元ガスとしては、特に限定されず、例えば、NH
3、H
2等を挙げることができる。
【0072】
また、還元ガスを不活性ガス等と混合した混合ガスを用いてもよい。これにより、還元ガスを過度に使用することを防止することができる。このような不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素等が挙げられる。この場合において、混合した混合ガス中における還元ガスの割合は、圧力換算で1%以上100%以下であることができる。このような割合とすることにより、還元ガスによる金属塩の還元を確実かつ効率的におこなうことができる。
【0073】
また、還元ガスまたは混合ガスの流通量は、特に限定されないが、炭素材料1gあたり、10mL/min以上500mL/min以下とすることができる。このような流通量とすることにより、還元ガスによる金属塩の還元を確実かつ効率的に行うことができる。
【0074】
また、還元ガスと多孔質炭素材料との接触時間は、特に限定されないが、例えば、
1時間以上12時間以下、好ましくは1時間以上8時間以下とすることができる。これにより、還元時間を適切なものとすることができ、黒鉛化促進粒子としての金属粒子を十分に析出させることができるとともに、黒鉛化促進粒子が過度に大きくなった結果、黒鉛化促進粒子の分布が粗になって細孔内の結晶化の促進に斑が出ることを防止することができる。
【0075】
なお、還元ガスと多孔質の炭素材料との接触時において、多孔質炭素材料を加熱してもよい。これにより、黒鉛化促進粒子としての金属の析出が促進される。加熱温度としては、特に限定されないが、例えば、100℃以上1000℃以下、好ましくは150℃以上800℃以下であることができる。これにより、黒鉛化促進粒子としての金属粒子を十分に析出させることができるとともに、黒鉛化促進粒子が過度に大きくなった結果、黒鉛化促進粒子の分布が粗になって細孔内の結晶化の促進に斑が出ることを防止することができる。
【0076】
(焼成工程)
次に、多孔質炭素材料を、不活性雰囲気下、かつ1200℃以上2200℃以下で焼成する。多孔質炭素材料は、上述した吸着工程および析出工程により、その細孔内部に黒鉛化促進粒子が析出している。この状態で焼成を行うことにより、黒鉛化促進粒子の結晶化促進作用によって細孔の表面が優先的に結晶化される。一方で、黒鉛化促進粒子が付着していない多孔質炭素材料の部分、例えば骨格部分は、細孔表面と比較して結晶化の速度が遅くなる。したがって、焼成処理後に得られる多孔質炭素材料は、骨格部分において乱層構造が維持されるとともに、細孔内部が結晶化されたものとなり、上述したI
P2/I
P1の範囲および細孔内酸化開始温度の範囲を満足するものとなる。
【0077】
本工程において、不活性雰囲気とは、不活性ガスが存在する雰囲気をいう。不活性ガスとしては、上述したような気体を使用することができる。
【0078】
また、焼成温度は、1200℃以上2200℃以下である。焼成温度が前記範囲内にあることにより、細孔内部の結晶化を効率よく促進できるとともに、多孔質炭素材料全体の過度の結晶化を防止し、得られる多孔質炭素材料の比表面積を適切な範囲とすることができる。
【0079】
これに対し、焼成温度が前記下限値未満であると、多孔質炭素材料の結晶化が進行せず、ピークP1、P2が検出されないものとなる。また、多孔質炭素材料の結晶化が進行しない結果、細孔内酸化開始温度が上述した下限値より小さいものとなる。一方で、焼成温度が前記上限値を超えると、多孔質炭素材料において、細孔表面のみならずその全体が過度に結晶化される。この結果、I
P2/I
P1が高くなりすぎ、また、細孔内酸化開始温度も上述した上限値を超えるものとなる。さらに、多孔質炭素材料が過度に結晶化される結果、細孔が不本意に潰れてしまい、比表面積が上述した下限値未満となってしまう。
【0080】
焼成温度は、上述した範囲内であればよいが、好ましくは1300℃以上、2100℃以下であり、より好ましくは1400℃以上、2000℃以下である。
【0081】
また、焼成温度は、黒鉛化促進粒子を構成する金属の融点より高いも高いことが好ましい。この場合、細孔内に存在する黒鉛化促進粒子は溶融し、細孔内で濡れ広がることができる。このぬれ広がった黒鉛化促進粒子由来の金属は、細孔内表面の結晶化(黒鉛化)に寄与する。なお、黒鉛化のメカニズムとしては、細孔内表面に存在する炭素が金属に固溶し、その後再析出する際に炭素の結晶性が高まるものと推測される。このようなメカニズムによれば、多孔質炭素材料の炭素骨格は焼成処理により変化しないため、焼成処理により細孔が潰れることが防止される。この結果、本工程により、比表面積や細孔容量の低下が抑制された状態で、多孔質炭素材料の結晶性を高めることができる。
【0082】
また、焼成時間は、特に限定されないが、例えば、1時間以上10時間以下、好ましくは2時間以上8時間以下とすることができる。これにより、多孔質炭素材料全体の過度の結晶化を防止しつつ、細孔内部を十分に結晶化することができる。
【0083】
(金属成分除去工程)
次に、黒鉛化促進粒子由来の金属成分の少なくとも一部を除去する。これにより改質された多孔質炭素材料が得られる。
【0084】
金属成分の除去方法としては、特に限定されないが、例えば、酸性溶液による洗浄や、減圧下で加熱処理することにより金属を留去する方法が挙げられる。
【0085】
酸性溶液としては、例えば、濃硝酸、塩酸水溶液、硫酸水溶液等が挙げられる。これらによる金属の除去は、公知の方法に準じて行うことができる。
【0086】
また、減圧下で加熱処理を行う場合、本工程における周囲雰囲気の圧力は、特に限定されないが、例えば10Pa以上20000Pa以下、好ましくは100Pa以上10000Pa以下、さらに好ましくは300Pa以上、5000Pa以下の減圧雰囲気下で処理が行われる。なお、炭素材料の酸化消耗を防ぐため、減圧加熱処理の雰囲気は不活性雰囲気であることが好ましい。
【0087】
また、加熱温度としては、特に限定されないが、本工程においては、例えば、800℃以上1900℃以下、好ましくは900℃以上1800℃以下であることができる。
また、本工程における処理時間は、特に限定されないが、例えば0.5時間以上10時間以下、好ましくは1時間以上8時間以下である。
【0088】
なお、金属粒子由来の金属の除去が不要な場合、本工程は省略することができる。
【0089】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法について説明する。本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法は、金属アセチリドを得る金属アセチリド形成工程と、
金属アセチリドを加熱することにより分解させ、複合材料を得る分解工程と、
複合材料を、不活性雰囲気下、かつ1200℃以上2200℃以下で焼成する、焼成工程と、
前記複合材料から前記金属アセチリド由来の金属成分の少なくとも一部を除去する、金属成分除去工程と、を有する。
【0090】
ここで、金属アセチリドを構成する金属は、黒鉛化促進作用を有する。したがって、本実施形態においては、このような金属を利用して、炭素と金属とを有する複合材料の生成および複合材料の焼成を行うことにより、多孔質炭素材料の生成および結晶化を同一の工程、すなわち焼成工程において行うことができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0091】
(金属アセチリド形成工程)
本工程においては、まず、イオン化した金属の水溶液(「金属水溶液」という)に対しアセチレン系ガスを接触させることにより、金属アセチリドを生成させる。
【0092】
なお、本明細書において、「金属アセチリド」とは、金属原子とアセチレン系化合物とが結合した化合物であり、式(1)、または式(2)で表される化合物を指すものとする。
式(1) M-C≡C-M
式(2) M-C≡C-R
上記式(1)および式(2)中、Rは、H、フェニル基またはアルキル基であり、Mは、金属原子である。
【0093】
また、アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖または分岐状のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
【0094】
なお、アセチレン系ガスは、ガス状のアセチレン系化合物である。上記より、本明細書において、アセチレン系化合物は、一般式「H−C≡C−R」として表すことができる。式中のRは、上述した通りの定義である。
【0095】
金属水溶液に含まれる金属、すなわち金属アセチリドの金属としては、黒鉛化促進作用を有し、金属アセチリドを形成可能であれば特に限定されないが、Ag、Cu等が挙げられる。これらの金属は、好適に金属アセチリドを形成可能である。AgまたはCuを用いた場合、得られる多孔質炭素材料においてナノメートルサイズの細孔を形成しやすく、固体高分子形燃料電池の触媒担体やキャパシタの電極に適している。また、AgまたはCuを用いた場合、結晶体として、立体構造を形成しやすい。さらに、Ag、Cuは、後述する焼成工程において黒鉛化促進粒子として機能する。
【0096】
また、金属水溶液中おける金属は、好ましくは金属塩または金属錯体の溶解物(金属イオン)として存在する。このような金属塩、金属錯体としては、例えば、硝酸銀(I)、硝酸銅(II)、塩化銅(I)、塩化銀(I)等が挙げられる。
【0097】
また、金属水溶液中における上記金属の含有量は、金属種や溶液のpHに依存するが、例えば銀アセチリドの場合であれば、0.1質量%以上30.0質量%以下、好ましくは1.0質量%以上25.0質量%以下である。これにより、十分な量および濃度の金属アセチリドを得ることができるとともに、未反応の金属塩の量を低減させることができる。
【0098】
また、金属水溶液は、好ましくはアンモニアを含む。金属水溶液がアンモニアを適量含むことにより、上記金属の金属アセチリドへの化学変化を安定的に進行させることができる。
【0099】
金属水溶液に対するアセチレン系ガスの接触方法は、特に限定されないが、例えば、金属水溶液にアセチレン系ガスを通過させる、より具体的は金属水溶液にアセチレン系ガスを吹き込む方法が挙げられる。
【0100】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時における金属水溶液の温度は、特に限定されないが、例えば凝固点以上沸点以下、より具体的には室温とすることができる。
【0101】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時において、金属水溶液を撹拌することが好ましい。これにより、アセチレン系ガスと金属との接触の接触頻度が増加する結果、効率よく金属アセチリドが生成する。撹拌は、一般的な撹拌翼を用いて行ってもよいし、マグネットスターラー等の撹拌子を用いておこなってもよい。
【0102】
また、金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時間は、特に限定されず、金属水溶液中の金属が十分に金属アセチリドに変換されるまで行うことができる。金属水溶液とアセチレン系ガスとの接触時間は、例えば、1分以上1000分以下である。
【0103】
以上により金属アセチリドが得られる。このような金属アセチリドは、通常、金属水溶液中に不溶であるため、沈降している。例えば、銀アセチリドは、白色の嵩高い沈降物として得られる。この沈殿物は、例えば濾過して金属水溶液の液体成分から分離し、次の分解工程に供することができる。濾紙、メンブレンフィルターによる濾過、上澄み溶液の除去など、分離のプロセスは特に限定されない。
【0104】
(分解工程)
次に、得られた金属アセチリドを加熱することにより分解させ、複合材料を得る。金属アセチリドを加熱することにより、金属アセチリドがナノスケールにて爆発し、金属相と炭素相とに相分離し、その際、金属はナノサイズの粒子を形成し、または反応熱によりガス化して表面部分に噴出する。炭素相は、アセチレン分子等のアセチレン系化合物が3個集まってベンゼン環を形成しやすいために、芳香族性の高い構造を有する。また、金属がナノ粒子を形成するため、金属を除去した炭素相は、多孔質の構造体となる。さらに、金属は、後述する焼成工程において黒鉛化促進粒子として作用する。
【0105】
金属アセチリドの加熱は、例えば、以下のように行うことができる。濾過して得られた金属アセチリドの沈殿物を、減圧雰囲気下で例えば40℃以上100℃以下で加熱する。これにより、金属アセチリド中に残存した反応溶液中の溶媒を除去することができ、爆発の熱エネルギーが溶媒の気相への相転移の顕熱に費やされることを防ぎ、金属アセチリドの分解を効率化することができる。なお、この温度では、金属アセチリドは分解しない。
【0106】
次いで、形成された金属内包ナノ構造物を、例えば150℃以上で加熱する。上述したような比較的高い温度まで金属アセチリドを加熱することにより、金属アセチリドがナノスケールで爆発して分解し、金属と炭素が各々ナノ構造物を形成する。これにより、金属と、炭素とを含む複合材料が得られる。なお、同複合材料の炭素相の部分の基本構造は、前述のようにアセチレン系化合物による多環芳香族形成により、主として数層のグラフェンにより構成される。また、同複合材料においては、金属が爆発過程においてナノスケールの金属粒子を形成するため金属粒子を除去した炭素材料は、比表面積が大きく、また多孔性に富んでいる。
【0107】
(焼成工程)
次に、得られた複合材料を、不活性雰囲気下、かつ1200℃以上2200℃以下で焼成する。これにより複合材料において、炭素が乱層構造および結晶部分を含む構造を形成する。また、複合材料は、上述した吸着工程および析出工程により、その細孔内表面に金属粒子(黒鉛化促進粒子)が噴出している。この状態で焼成を行うことにより、黒鉛化促進粒子の黒鉛化促進作用によって細孔の表面が優先的に結晶化(黒鉛化)される。この結晶化の機構は、上述した第1の実施形態とほぼ同様である。
【0108】
また、焼成条件についても上述した第1の実施形態と同様とすることができる。なお、本実施形態において、焼成工程では複合材料における多孔質炭素材料の形成も行われる。
したがって、多孔質炭素材料の形成を考慮すると、焼成温度は、好ましくは1300〜2100℃、より好ましくは1400〜2000℃とすることができる。また、同様に、焼成時間は、好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜6時間とすることができる。
【0109】
(金属成分除去工程)
次に、金属アセチリド由来の金属成分の少なくとも一部を複合材料より除去する。これにより多孔質炭素材料が得られる。本工程は、上述した第1の実施形態と同様に行うことができる。
【0110】
なお、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法により製造される多孔質炭素材料は、上述したような性状を有するとともに、以下のような特徴的な形状を有している。
【0111】
例えば、金属が銀である場合、すなわち、多孔質炭素材料が銀アセチリド由来の場合、多孔質炭素材料は、炭素を含む棒状体または環状体が枝分かれした三次元構造を有する樹状の炭素メソポーラス構造体を有している。より具体的には、炭素メソポーラス構造体は、棒状体または環状体が3次元的に延在するとともに相互に結合してネットワークを構成し、いわゆるデンドライト状の3次元的な構造を有している。
【0112】
また、例えば、金属が銅である場合、より具体的には、多孔質炭素材料が銅メチルアセチリド由来の場合、多孔質炭素材料は、多数のミクロンオーダーの孔がランダムに形成され、棒状体および/または板状体が3次元的な網状に連結されて網状構造の一体型構造(モノリス)を有している。そして棒状体および板状体中には、肺胞状の細孔が形成されている。さらに、細孔を画定するグラフェン多層膜壁の任意の層が枝分かれを繰り返すことにより、隣接する細孔同士は互いに連通している。
【0113】
また、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法では、多孔質炭素材料の形成と黒鉛化とを同時に行うことができるため、予め原料となる多孔質炭素材料を別途、準備する必要がない。すなわち、本実施形態に係る多孔質炭素材料の製造方法は、生産性にも優れている。
【0114】
<固体高分子形燃料電池および固体高分子形燃料電池用電極>
本実施形態に係る多孔質炭素材料は、例えば
図1に示す固体高分子形燃料電池1に適用可能である。固体高分子形燃料電池1は、セパレータ10、20、ガス拡散層30、40、触媒層50、60、及び電解質膜70を備える。
【0115】
セパレータ10は、アノード側のセパレータであり、水素等の還元性ガスをガス拡散層30に導入する。セパレータ20は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散凝集相に導入する。セパレータ10、20の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0116】
ガス拡散層30は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ10から供給された還元性ガスを拡散させた後、触媒層50に供給する。ガス拡散層40は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ20から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層60に供給する。ガス拡散層30、40の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層30、40の例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質炭素材料、金属メッシュや金属ウール等の多孔質金属材料等が挙げられる。なお、ガス拡散層30、40の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0117】
触媒層50は、いわゆるアノードである。触媒層50内では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H
2→2H
++2e
− (E
0=0V)
【0118】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層50、及び電解質膜70を通って触媒層60に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層50、ガス拡散層30、及びセパレータ10を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ20に導入される。その後、電子は、セパレータ20、ガス拡散層40を通って触媒層60に到達する。
【0119】
アノードとなる触媒層50の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層50の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層60と同様の構成であってもよいし、触媒層60よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0120】
触媒層60は、いわゆるカソードである。触媒層60内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池1の外部に排出される。
O
2+4H
++4e
−→2H
2O (E
0=1.23V)
【0121】
このように、燃料電池1では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0122】
触媒層60には、本実施形態に係る多孔質炭素材料が含まれていることが好ましい。すなわち、触媒層60は、本実施形態に係る多孔質炭素材料と、電解質材料と、触媒成分(触媒金属)とを含む。これにより、触媒層60内の触媒利用率を高めることができ、ひいては、固体高分子形燃料電池1の触媒利用率を高めることができる。
【0123】
なお、触媒層60における触媒担持率は特に制限されないが、10〜80質量%であることが好ましい。ここで、触媒担持率は、触媒(すなわち、触媒担体用炭素材料に触媒成分を担持させた粒子)の総質量に対する触媒成分の質量%である。触媒担持率がこの範囲内の値となる場合、触媒利用率がさらに高くなる。なお、触媒担持率が10質量%未満となる場合、固体高分子形燃料電池1を実用に耐えるようにするために触媒層60を厚くする必要が生じうる。一方、触媒担持率が80質量%を超える場合、触媒凝集が起こりやすくなる。また、触媒層60が薄くなりすぎて、フラッディングが起こる可能性が生じる。
【0124】
また、触媒層60の厚さは特に制限されないが、5μm超20μm未満であることが好ましい。この場合、触媒層60内に酸化性ガスが拡散しやすく、かつ、フラッディングが生じにくくなる。触媒層60の厚さが5μm以下となる場合、フラッディングが生じやすくなる。触媒層60の厚さが20μm以上となる場合、触媒層60内で酸化性ガスが拡散しにくくなり、電解質膜70近傍の触媒成分が働きにくくなる。すなわち、触媒利用率が低下する可能性がある。
【0125】
電解質膜70は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜70は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層60に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機−有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、燃料電池1は、常温〜150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【0126】
<固体高分子形燃料電池の製造方法>
固体高分子形燃料電池1の製造方法は特に制限されず、従来と同様の製造方法であればよい。
【実施例】
【0127】
以下に、実施例を示しながら、本発明の実施形態について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0128】
1.多孔質炭素材料の製造(第1の実施形態)
(実施例1)
(i)吸着工程
まず、原料の多孔質炭素材料としてのEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製):1gを水中に分散させ、5g/Lの濃度のEC600JD水分散液を得た。
【0129】
次いで、金属塩としての硝酸銀:2gを水:200mLへ溶解させて硝酸銀水溶液を調製した。多孔質炭素材料に対し担持される銀の質量が20質量%となるような割合で、硝酸銀水溶液をEC600JD水分散液と混合して、マグネティックスターラにより一晩、常温で撹拌した。
【0130】
次いで、撹拌後の混合液から、ロータリーエバポレータにより水を除去した。これにより、細孔内に硝酸銀が吸着した多孔質炭素材料を得た。
【0131】
(ii)析出工程
次に、得られた多孔質炭素材料を坩堝に入れ、水素比率1%(分圧)のガス(キャリアーガス:アルゴン)を流通させながら200℃で、2時間保持し、多孔質炭素材料の細孔内に銀粒子を析出させた。これにより、銀の担持量が20質量%の多孔質炭素材料を得た。
【0132】
(iii)焼成工程
次に、多孔質炭素材料を収納した坩堝を、オーブンに入れ、1200℃で、3時間焼成を行った。なお、オーブンの坩堝周辺の雰囲気は、アルゴンであった。
【0133】
(iv)洗浄工程
次に、多孔質炭素材料から銀を除去した。銀の除去は、硝酸により行った。即ち、濃硝酸に焼成工程後の炭素材料を分散し、マグネティックスターラで撹拌しながら、オイルバス温度60℃で3時間処理することにより行った。これにより、実施例1に係る多孔質炭素材料を得た。
【0134】
(実施例2〜6)
焼成工程の温度条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0135】
(実施例7〜12)
多孔質炭素材料に担持させる金属の量を表1に示すように変更し、焼成時の温度を1600℃とした以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0136】
(実施例13)
(i)吸着工程
まず、EC600JD:1gを水中に分散させ、5g/Lの濃度のEC600JD水分散液を得た。
【0137】
次いで、金属塩としての乳酸銅:2gを水:200mLへ溶解させて乳酸銅水溶液を調製した。多孔質炭素材料に対し担持される銅の質量が15質量%となるような割合で、乳酸銅水溶液をEC600JD水分散液と混合して、マグネティックスターラにより一晩、常温で撹拌した。
【0138】
次いで、撹拌後の混合液から、ロータリーエバポレータにより水を除去した。これにより、細孔内に乳酸銅が吸着した多孔質炭素材料を得た。
【0139】
(ii)析出工程
次に、得られた多孔質炭素材料を坩堝に入れ、水素比率1%(分圧)のガス(キャリアーガス:アルゴン)を流通させながら200℃で、2時間保持し、多孔質炭素材料の細孔内に銅粒子を析出させた。これにより、銅の担持量が15質量%の多孔質炭素材料を得た。
【0140】
(iii)焼成工程
次に、多孔質炭素材料を収納した坩堝を、オーブンに入れ、1200℃で、3時間焼成を行った。なお、オーブンの坩堝周辺の雰囲気は、アルゴンガスであった。
【0141】
(iv)洗浄工程
次に、多孔質炭素材料から銅を除去した。銅の除去は、0.2モル/リットルの希塩酸中に上記の焼成工程後の多孔質炭素材料を浸漬し、80℃で一晩撹拌したのちにメンブレンフィルターで濾過し、90℃で5時間真空乾燥することにより行った。これにより、実施例13に係る多孔質炭素材料を得た。
【0142】
(実施例14〜18)
焼成工程の温度条件を表1に示すように変更した以外は、実施例13と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0143】
(比較例1〜3)
実施例1において、金属担持せずに、すなわち吸着工程と析出工程とを省略して、表1に記載の温度条件に変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0144】
(比較例4〜6)
焼成工程の温度条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0145】
(比較例7)
吸着工程および析出工程に代えて、3gのEC600JDと、3gのAg粒子粉末とを混合して、EC600JDに対してAg粒子を20質量%含む混合粉末を得た。得られた混合粉末について実施例1と同様に焼成工程および金属成分除去工程を行い、多孔質炭素材料を得た。
【0146】
(比較例8)
吸着工程および析出工程に代えて、3gのエスカーボン(登録商標)(新日鉄住金化学社製、「MCND」)と、3gのAg粒子粉末とを混合して、MCNDに対してAg粒子を20質量%含む混合粉末を得た。得られた混合粉末について実施例1と同様に焼成工程および金属成分除去工程を行い、多孔質炭素材料を得た。
【0147】
(比較例9)
吸着工程および析出工程に代えて、3gのEC600と、3gのCu粒子粉末とを混合して、MCNDに対してCu粒子を20質量%含む混合粉末を得た。得られた混合粉末について、焼成温度を1600℃とした以外は実施例1と同様に焼成工程および金属成分除去工程を行い、多孔質炭素材料を得た。
【0148】
(比較例10)
吸着工程および析出工程に代えて、3gのエスカーボン(登録商標)(新日鉄住金化学社製、「MCND」)と、3gのCu粒子粉末とを混合して、MCNDに対してCu粒子を20質量%含む混合粉末を得た。得られた混合粉末について焼成温度を1600℃とした以外は実施例1と同様に焼成工程および金属成分除去工程を行い、多孔質炭素材料を得た。
【0149】
2. 物性評価
(BET比表面積、細孔容量)
得られた実施例1〜18、比較例1〜10にかかる多孔質炭素材料について、BET比表面積、細孔容量を測定した。
BET比表面積については、各担体炭素材料を約50mg測り採り、90℃で真空乾燥した後、自動比表面積測定装置(日本ベル社製、BELSORP mini)を用いて、窒素ガス吸着脱離特性を測定した。この際に、吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法で解析し、比表面積を算出した。
また、比表面積の算出とともに、得られた吸着過程の吸着等温線をDollimore−Heal法で解析し、細孔径2nm以上10nm未満における細孔容量を算出した。
【0150】
(ラマン分光法による分析)
また、実施例1〜18、比較例1〜7の多孔質炭素材料について、ラマン分光法による分析および粉末X線回折法による分析を行った。
ラマン分光法による分析では、各担体炭素材料を約3mg測り採り、ラマン分光測定装置(日本分光(株)製、NRS−3100型)を用い、励起レーザー532nm、レーザーパワー100mW(試料照射パワー:1.1mW)、顕微配置:Backscattering、スリット:100μm×100μm、対物レンズ:×100、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:2000〜300cm
−1、積算回数:6回の測定条件で測定した。各測定で得られたラマンスペクトルから、G−バンドと呼ばれる1550〜1650cm
−1の範囲のピークの半値幅ΔGを得た。
【0151】
(粉末X線回折による分析)
粉末X線回折法では、Rigaku製の試料水平型強力X線回折装置RINT TTRIIIを用いて粉末X線回折パターンを測定した。測定は、常温で行い、0.02度ステップで1度/分で計測した。そして、得られたX線回折パターンから、回折角(2θ:°)25.5〜26.0°のピークP1と26.5°のピークP2の有無についての情報およびこれらのピークの半値幅およびピーク強度比I
P2/I
P1を得た。
【0152】
(細孔内酸化開始温度)
以下のようにして、多孔質炭素材料の細孔内に白金粒子を担持させ、多孔質炭素材料の細孔内酸化開始温度を測定した。
(i)白金粒子の担持
実施例1〜18および比較例1〜10に係る多孔質炭素材料0.1gを、それぞれ200mLのナスフラスコに入れ、メタノール25mLと蒸留水25mLの混合溶液を加えて超音波ホモジナイザーで5分間処理して、十分に多孔質炭素材料を溶液に分散させた。そこへジニトロジアンミン白金錯体硝酸溶液(田中貴金属社製、50g/LのPt濃度)をPtの質量担持率が20質量%になるようにフラスコへ加え、2分間撹拌した。その後オイルバスにセットしフラスコ内の液温が70℃になるように温度調節し、マグネティックスターラを用いて撹拌しながら10時間処理した。反応後の液をメンブレンフィルターで濾過し、濾過物を300mLのビーカーに採取し、再度蒸留水150mLを加えて、撹拌する。再度、メンブレンフィルターで濾過し、濾過物を回収し、90℃、5時間真空乾燥して、白金粒子を担持した多孔質炭素材料を得た。なお、多孔質炭素材料は、20質量%の白金粒子を担持していた。また、白金粒子の粒子径は、X線回折のPt(111)ピークの半値幅より、2〜4nmであると推定された。
【0153】
(ii)細孔内酸化開始温度の測定
得られた多孔質炭素材料について、熱重量分析法により、空気流通下における重量減少を測定し、初期の質量に対して、2質量%減少した時の温度を細孔内酸化開始温度とした。なお、熱重量分析において、昇温速度は10℃/分とし、流通する気体として乾燥空気を用い、乾燥空気の流通量は、30mL/分とした。
【0154】
以上の物性評価を、各実施例および各比較例の製造条件とともに表1、表2に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
3.固体高分子形燃料電池の調製と発電性能の評価
(i) 固体高分子型燃料電池用触媒(白金担持炭素材料)の作製
実施例1〜18および比較例1〜10において調製された多孔質炭素材料を用い、次のようにして白金担持炭素材料を調製した。
【0158】
上記各実施例1〜18および比較例1〜10の多孔質炭素材料を蒸留水中に分散させ、この分散液にエタノールを加え、オイルバスにセットし、分散液の温度が90℃になるようにオイルバスの温度を設定した。撹拌下にこの分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。その後、約2時間撹拌を続けた後、濾過し、得られた固形物の洗浄を行った。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕し、各実施例1〜18および比較例1〜10の白金触媒粒子担持炭素材料を作製した。
なお、この白金担持炭素材料の白金担持量については、多孔質炭素材料と白金粒子の合計質量に対して50質量%となるように調整し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)により測定して確認した。
【0159】
(ii) 触媒層の調製
以上のようにして調製された各実施例1〜18および比較例1〜10の白金担持炭素材料(Pt触媒)を用い、また、電解質樹脂としてDupont社製ナフィオン(登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂)を用い、Ar雰囲気下でこれらPt触媒とナフィオンとを白金触媒粒子担持炭素材料の質量に対してナフィオン固形分の質量が1.2倍の割合で配合し、軽く撹拌した後、超音波でPt触媒を解砕し、さらにエタノールを加えてPt触媒と電解質樹脂とを合わせた合計の固形分濃度が1質量%となるように調整し、Pt触媒と電解質樹脂とが混合した触媒層インク液を調製した。
【0160】
このようにして調製された固形分濃度1質量%の各触媒層インク液にさらにエタノールを加え、白金濃度が0.5質量%のスプレー塗布用触媒層インク液を作製し、白金の触媒層単位面積当たりの質量(以下、「白金目付量」という。)が0.2mg/cm
2となるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行い、各実施例1〜18および比較例1〜10の触媒層を作製した。
【0161】
(iii) MEAの作製
上記のようにして作製した各実施例1〜18および比較例1〜10の触媒層を用いて、以下の方法で膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を作製した。
【0162】
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接するとともに互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込み、120℃及び100kg/cm
2の加熱加圧下に10分間プレスし、ついで室温まで冷却した。その後、アノード及びカソード共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取り、電解質膜の両面にアノード及びカソードの各触媒層が定着した触媒層−電解質膜接合体を調製した。
【0163】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製:35BC)から一辺2.5cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出し、これらのカーボンペーパーの間に、アノードおよびカソードの各触媒層が一致してずれが無いように、上記触媒層−電解質膜接合体を挟み込み、120℃及び50kg/cm
2の加熱加圧下に10分間プレスし、各実施例1〜18および比較例1〜10のMEAを作製した。
【0164】
なお、作製された各MEAにおける触媒金属成分、炭素材料、電解質材料の各成分の目付量については、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの質量とプレス後に剥がしたテフロン(登録商標)シートの質量との差からナフィオン膜(電解質膜)に定着させた触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より算出した。
【0165】
(iv) 発電性能の評価
上記実施例1〜18および比較例1〜10で作製したMEAについて、それぞれ燃料電池のセルに組み込み、燃料電池測定装置にセットして、次の手順で燃料電池の発電性能の評価を行った。
【0166】
ガスについては、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、それぞれ利用率が40%と70%となるように、大気圧下に供給した。また、セル温度は80℃に設定した。供給するガスについてはカソード、アノード共に、加湿器中で65℃に保温された蒸留水でバブリングを行い、改質水素相当の水蒸気を含ませてセルに供給した。
【0167】
このような設定の下にセルにガスを供給した条件下で、負荷を徐々に増やし、200mA/cm
2におけるセル端子間電圧を出力電圧として記録し、燃料電池の初期の発電性能(劣化前の特性)として評価した。
【0168】
さらに、負荷を徐々に増やし、出力電圧が0.3Vになるときの出力電流の値を記録し、当該出力電流の値を0.3Vセル電圧における電流密度とした。
【0169】
出力性能の評価は、0.3Vセル電圧における電流密度(mA/cm
2)に基づいて行った。1500mA/cm
2以上の場合を合格ランク「◎」とし、1300mA/cm
2以上1500mA/cm
2未満の場合を合格ランク「○」、1300mA/cm
2未満の場合を不合格「×」とした。
【0170】
次に、耐久試験としては、セル端子間電圧を1.0Vに1秒間保持し、ついでセル端子間電圧を1.5Vに上昇させて1秒間保持した後に元のセル端子間電圧を1.0Vに戻すサイクルを4000回繰り返し、その後、耐久試験前の低加湿条件初期性能の評価試験の場合と同様に電池性能を測定した。ガスについては、カソードに空気を、アノードに純水素を、それぞれ利用率が40%と70%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で大気圧下に供給した。セル温度は80℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ60℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。
【0171】
各実施例1〜18および比較例1〜10について、耐久試験後の200mA/cm
2における出力電圧が耐久試験前の出力電圧と比較した出力電圧の低下率を求めた。耐久性の評価は、上記出力電圧の低下率に基づき行い、10%未満の場合を合格ランク「◎」とし、10%以上15%未満の場合を合格ランク「○」、15%以上の場合を不合格「×」とした。
【0172】
以上の結果を、まとめて表3に示す。
【表3】
【0173】
表3に示されるように、実施例1〜18に係る多孔質炭素材料を用いた場合、固体高分子燃料電池は、優れた出力性能および耐久性を有していた。なお、本実施例において固体高分子燃料電池はその多孔質炭素材料のみが各例で異なることから、出力性能は、各例における多孔質炭素材料の反応活性と大きく関連している。また、固体高分子燃料電池の耐久性は、多孔質炭素材料の耐久性、すなわち耐酸化消耗性と大きく関連している。
【0174】
これに対し、比較例に係る多孔質炭素材料を用いた場合、固体高分子燃料電池は、同時に優れた出力性能および耐久性を有することができなかった。
比較例1においては、X線回折において乱層構造および結晶構造に対応するピークP1、P2を検出することができず、また比表面積が過度に大きく、かつ細孔内酸化開始が低かった。このため、比較例1にかかる固体高分子燃料電池は、耐久性に劣っていた。比較例1についてのこのような結果は、黒鉛化促進粒子としての金属粒子を担持させずに低い温度で焼成を行った結果、十分に細孔表面の結晶構造を発達させることができなかったためであると考えられる。
【0175】
また、比較例2、3においては、比表面積が過度に低くなり、また細孔内酸化開始が低かった。このため、比較例2、3にかかる固体高分子燃料電池は、出力性能に劣っていた。比較例2、3についてのこのような結果は、黒鉛化促進粒子としての金属粒子を担持させずに焼成を行った結果、十分に細孔表面を選択的に結晶化できず、多孔質炭素材料全体が結晶化したためであると考えられた。
【0176】
比較例4、5においては、X線回折において乱層構造および結晶構造に対応するピークP1、P2を検出することができず、また細孔内酸化開始が低かった。このため、比較例1、2にかかる固体高分子燃料電池は、耐久性に劣っていた。比較例4、5についてのこのような結果は、焼成温度が過度に低かったことが影響していると考えられた。
【0177】
比較例6においては、X線回折においてI
P2/I
P1が過度に高くなり、また細孔内酸化開始が過度に高く、BET比表面積が過度に低かった。このため、比較例3にかかる固体高分子燃料電池は、出力性能が劣っていた。比較例6についてのこのような結果は、焼成温度が過度に高かったことが影響していると考えられた。
【0178】
比較例7、8においては、 X線回折において乱層構造および結晶構造に対応するピークP1、P2を検出することができず、また細孔内酸化開始が低かった。このため、比較例7、8にかかる固体高分子燃料電池は、耐久性に劣っていた。比較例7、8についてのこのような結果は、多孔質炭素材料の細孔内部に銀粒子を担持させず、単に多孔質炭素材料と銀粉とを混合したことが影響していると考えられた。
【0179】
比較例9、10においても、X線回折において乱層構造および結晶構造に対応するピークP1、P2を検出することができず、また細孔内酸化開始が低かった。このため、比較例9、10にかかる固体高分子燃料電池は、耐久性に劣っていた。比較例9、10についてのこのような結果は、多孔質炭素材料の細孔内部に銅粒子を担持させず、単に多孔質炭素材料と銅粉とを混合したことが影響していると考えられた。
【0180】
4.多孔質炭素材料の製造(第2の実施形態)
(実施例19)
(i)金属アセチリド形成工程
硝酸銀を5〜20質量%の濃度で含む1〜10質量%アンモニア水溶液をフラスコに用意し、アルゴンや乾燥窒素などの不活性ガスで残留酸素を除去した後に、溶液を攪拌すると共に超音波振動子を液体に浸して振動を与えながら、アセチレンガスを150mLの溶液に対し10〜50mL/minの流速で、溶液中に約5分間バブリングした。これによって、溶液中に銀アセチリドの固形物が生じ沈殿を始めた。次いで、沈殿物をメンブレンフィルターで濾過し、ろ過の際に、沈殿物をメタノールで洗浄して若干のエタノールを加え、沈殿物中にメタノールを含浸させた。
【0181】
(ii)分解工程
次に、メタノールを含浸させた状態の沈殿物を径6mm程度の試験管にそれぞれ50mgずつ入れ、これを真空加熱容器に入れて60℃〜80℃の温度で12時間加熱した。次に、沈殿物を真空中で連続して160℃〜200℃の温度まで急速に加熱し、20分加熱を実施した。ここで、試験管の中ではナノスケールの爆発反応が起こり、内包された銀が噴出し、表面及び内部に多数の噴出孔を形成する。これにより、銀内包ナノ構造物としての銀と炭素とを含む複合材料を得た。なお、複合材料中における銀の含有量は約80〜95質量%、残りが炭素であった。
【0182】
(iii)焼成工程
次に、複合材料を坩堝に収納し、当該坩堝を、筒状横型電気炉に入れ、1800℃で、約3時間焼成を行った。なお、電気炉の坩堝周辺の雰囲気は、アルゴンであった。これにより、銀が細孔内に担持され、細孔内表面が銀により改質された多孔質炭素材料を得た。
【0183】
(iv)洗浄工程
次に、多孔質炭素材料から銀を除去した。銀の除去は、濃硝酸中に焼成工程後の複合材料を分散させ、60℃で5時間処理した後、メンブレンフィルターで濾過し、再び、蒸留水に分散させ、再度、濾過し、90℃5時間、真空乾燥することにより行った。これにより、実施例19に係る多孔質炭素材料を得た。
【0184】
(実施例20、21)
焼成工程の温度条件を表2に示すように変更した以外は、実施例19と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0185】
(実施例22)
(i)金属アセチリド形成工程
塩化第一銅を0.01質量%の濃度で含む5.5質量%アンモニア水溶液をフラスコに用意し、これを激しく攪拌しながら窒素ガスで10%に希釈したメチルアセチレンガスを用い、1Lの溶液に対し10〜200mL/minの流速で約120分間、バブリングした。これによって、溶液中に銅メチルアセチリドの固形物が生じ沈殿を始めた。次いで、生じた沈殿物をメンブレンフィルターで濾過した。メンブレンフィルター上の沈殿物はさらに洗浄する目的で、数回メタノールを用いて濾過した。
【0186】
(ii)分解工程
沈殿物をビーカーに入れ、これを更に容量の大きなビーカーに入れてこれにテフロン(登録商標)の板4枚を重ねて置いて蓋とした。なお、テフロンの板の厚みは、それぞれ10mmであった。また、テフロンの板には、ガス抜けのための小さな穴があけられており、テフロンの板を配置する際には、隣接するテフロンの板同士で穴が重ならないようにした。テフロンの板で蓋をしたビーカーをステンレス製真空容器に入れ、100Pa以下に減圧し。メタノールを除去した。次いで、ステンレス真空容器内に水素ガスを導入し、0.3気圧の圧力に保持した状態で、反応容器内を250℃まで30分程度かけて昇温させた。加熱開始後2〜3時間経過し圧力が急激に1気圧強まで上昇するのを確認した後に加熱を停止し冷却した。この加熱工程により銅メチルアセチリドが急速な分解反応を起こし、銅と炭素の相分離し、表面及び内部に多数の銅のナノ粒子を形成する。このようにして、ビーカー内部に銅内包ナノ構造物としての銅と炭素とを含む複合材料を得た。なお、複合材料中における銅の含有量は、80〜95質量%であった。
【0187】
(iii)焼成工程
次に、複合材料を坩堝に収納し、当該坩堝を、横型管状電気炉に入れ、1800℃で、3〜5時間焼成を行った。なお、管状電気炉内の坩堝周辺の雰囲気は、アルゴンであった。これにより、銅が細孔内に担持され、細孔内表面が銅により改質された多孔質炭素材料を得た。
【0188】
(iv)洗浄工程
次に、多孔質炭素材料から銅を除去した。銅の除去は0.2モル/リットルの希塩酸中に上記の焼成工程後の多孔質炭素材料を浸漬し、80℃で一晩撹拌したのちにメンブレンフィルターで濾過し、90℃で5時間真空乾燥するにより行った。これにより、実施例22に係る多孔質炭素材料を得た。
【0189】
(実施例23、24)
焼成工程の温度条件を表2に示すように変更した以外は、実施例22と同様にして多孔質炭素材料を製造した。
【0190】
5. 物性評価
得られた実施例19〜24に係る多孔質炭素材料について、実施例1〜18、比較例1〜10の多孔質炭素材料の場合と同様に、物性評価を行った。
得られた物性評価を、各実施例の製造条件とともに表4に示す。
【0191】
【表4】
【0192】
6.固体高分子形燃料電池の調製と発電性能の評価
得られた実施例19〜24に係る多孔質炭素材料について、実施例1〜18、比較例1〜10の多孔質炭素材料の場合と同様に、MEAを製造し、発電性能および耐久性を評価した。結果を表5に示す。
【0193】
【表5】
【0194】
表5に示されるように、実施例19〜24に係る多孔質炭素材料を用いた場合、固体高分子燃料電池は、優れた出力性能および耐久性を有していた。
【0195】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。