(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
映像信号レベルの中央を境にした低輝度部と高輝度部とで特性の異なるHLG方式の映像信号を、表示装置に表示する表示光の強度に比例した信号に変換する映像信号変換装置であって、
前記映像信号の中央レベルにおいて、前記低輝度部の表示特性を示す第1伝達関数により求められる輝度と、前記高輝度部の表示特性を示す第2伝達関数により求められる輝度とが設定された基準輝度と一致するとともに、それぞれの伝達関数の傾きが一致し、前記映像信号の最大レベルの輝度が前記表示装置のピーク輝度に一致するように、前記第2伝達関数を特定するパラメータを算出する高輝度部特性変換パラメータ演算手段と、
前記映像信号の信号レベルが前記中央レベル以下であるか否かを判定する信号レベル判定手段と、
前記信号レベルが前記中央レベル以下と判定された映像信号に対して、前記第1伝達関数により変換を行う低輝度部特性変換手段と、
前記信号レベルが前記中央レベルよりも大きいと判定された映像信号に対して、前記高輝度部特性変換パラメータ演算手段で算出されたパラメータで特定される前記第2伝達関数により変換を行う高輝度部特性変換手段と、
を備えることを特徴とする映像信号変換装置。
【背景技術】
【0002】
従来のダイナミックレンジ(SDR:Standard Dynamic Range)の映像表示装置は、カメラで撮影された暗部から明部にわたる情報を、制作意図に応じて当該映像表示装置が表現可能な狭いレンジに収めている。具体的には、HDTV(High-definition television)における輝度のダイナミックレンジは、大凡0.1〜100cd/m
2(カンデラ毎平方メートル)の10
3である。
これに対し、高ダイナミックレンジテレビ(HDR−TV:High Dynamic Range Television)の映像表示装置は、近年、最大輝度が1000cd/m
2以上で黒レベルが10
−3cd/m
2以下のものが開発されている(非特許文献1参照)。
これによって、HDR−TVは、表現可能な明暗の範囲が拡大され、従来のSDRにおける高輝度部の白飛び等の発生をなくすことができる。
【0003】
なお、SDRのHDTV用表示装置については、国際電気通信連合無線通信部門(ITU−R)の勧告BT.1886で、HDTVの番組制作時に映像を評価するための基準となる映像表示装置が備えるべき基準EOTF(Electro-Optical Transfer Function)が規定されている。このEOTFは、再現される映像の階調特性を決定する電気−光伝達関数である(非特許文献2参照)。
【0004】
一方、HDR−TV用表示装置については、ITU−Rの勧告BT.2100で、基準EOTFが定められている(非特許文献3参照)。
この勧告BT.2100には、従来のテレビ方式と互換性のあるHDRの映像方式として、日本放送協会(NHK)と英国放送協会(BBC)とが共同で開発したHLG(Hybrid Log-Gamma:ハイブリッド・ログ・ガンマ)方式が、その方式の1つとして規定されている。
【0005】
ここで、
図7を参照して、HDR−TVの伝達関数について簡単に説明しておく。
勧告BT.2100では、伝達関数として、光−電気伝達関数(OETF:Opto-Electronic Transfer Function)、電気−光伝達関数(EOTF:Electro-Optical Transfer Function)、光−光伝達関数(OOTF:Opto-Optical Transfer Function)を規定している。
【0006】
図7(a)に示すように、OOTFは、現実のシーン光の明暗の階調を表示光の明暗の階調に変換するものである。このOOTFの変換特性は、必ずしもリニア(線形)な関係ではなく、観視環境に応じた調整を含んでいる。
図7(b),(c)に示すように、OETFは、現実のシーン光の明暗の階調を映像信号に変換するものである。このOETFは、撮像装置(カメラ)C内での処理に相当する。また、EOTFは、映像信号を光の明暗の階調に変換するものである。このEOTFは、映像表示装置D内での処理に相当する。
【0007】
図7(b),(c)の違いは、OOTFを撮像装置Cが持つか、映像表示装置Dが持つかによる違いである。
図7(b)のシステムは、撮像装置C
1でシーン光をOETFにより映像信号に変換する。そして、映像表示装置D
1が、EOTFにより映像信号を表示光に変換する。この場合、EOTFは、OETFの逆変換(Inverse OETF:OETF
−1)とOOTFとで実現される。HDR−TVでは、このモデルに基づく方式をHLG方式として規定している。
【0008】
図7(c)のシステムは、撮像装置C
2でシーン光をOETFにより映像信号に変換する。そして、映像表示装置D
2が、EOTFにより映像信号を表示光に変換する。この場合、OETFは、OOTFと、EOTFの逆変換(Inverse EOTF:EOTF
−1)とで実現される。HDR−TVでは、このモデルに基づく方式をPQ(Perceptual Quantization)方式として規定している。
【0009】
ここで、本発明に関係する方式として、
図7(b)に示したHLG方式について説明する。
HLG方式は、OETFとして、シーン光に比例した信号に対する映像信号E′を以下の式(1)と規定している。なお、非特許文献3ではシーン輝度Eを[0:12]で正規化しているが、ここでは「0:1」で正規化した式を用いて説明する。OETF
Lは、低輝度部(暗部から中間)の光−電気伝達関数、OETF
Hは、高輝度部(中間から明部)の光−電気伝達関数を示す。
【0010】
【数1】
【0011】
ここで、Ln(x)はxの自然対数を示し、a=0.17883277、b=0.28466892、c=0.55991073である。
【0012】
HLG方式のOETFは、
図8に示すように、黒(映像信号レベルE′=0)から映像信号レベルE′=1/2までの範囲でSDRのガンマ特性と同等の平方根特性となり、映像信号レベルE′=1/2からピーク白(映像信号レベルE′=1)までの範囲で対数特性となるように変換する。
そして、HLG方式のEOTFは、
図7(b)に示したように、映像表示装置D
1において、以下の式(2)に示すOETFの逆変換(OETF
−1)と、式(3)に示すOOTFによって、映像信号E′を表示光(輝度L)に変換する。
【0013】
【数2】
【数3】
【0014】
ここで、L
Wは映像表示装置D
1のピーク輝度、γはシーン光と表示光との間の非線形性の程度を示すシステムガンマである。
なお、前記式(2)は、前記式(1)より、以下の式(4)となる。
【0015】
【数4】
【0016】
そして、前記式(3)は、前記式(4)より、以下の式(5)となる。
【0017】
【数5】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前記したように、SDR用表示装置のピーク輝度は、約100cd/m
2であるのに対し、HDR−TV用表示装置のピーク輝度は、1000cd/m
2以上となっている。そのため、HDRの映像表示装置は、従来の映像表示装置の10倍以上のピーク輝度が想定されることに加え、表示装置に用いられる技術や性能に応じてピーク輝度のバリエーションが増えると考えられる。
【0020】
このような状況において、SDRの映像との整合性を考慮してHDRの映像制作を行おうとすると、暗部から中間までの輝度についてはSDRと同程度の輝度とし、中間から明部の輝度についてはSDRとは異なるHDRに相応しい表現とすることが考えられる。このとき、表示装置のピーク輝度によらずに所定のEOTFを映像表示装置に実装すると、暗部から中間の輝度も表示装置によって異なることとなり、映像制作を行う際に輝度の一貫性を保つことができないという問題がある。
【0021】
例えば、表示装置のピーク輝度L
W=2000cd/m
2、システムガンマγ=1.2の場合、前記式(2)〜式(5)により、映像信号E′と表示輝度Lとの関係は、
図9の実線で表される。この場合、映像信号レベルE′=1/2の輝度は100cd/m
2となる。
図9(b)は、
図9(a)の縦軸を対数目盛としたものである。
また、例えば、表示装置のピーク輝度L
W=1000cd/m
2、システムガンマγ=1.2の場合、前記式(2)〜式(5)により、映像信号E′と表示輝度Lとの関係は、
図9の一点鎖線で表される。この場合、映像信号レベルE′=1/2の輝度は50cd/m
2となる。
【0022】
すなわち、ピーク輝度が2000cd/m
2の映像表示装置では、映像信号レベルE′=1/2の輝度は100cd/m
2となり、SDRのピーク輝度と一致する。しかし、ピーク輝度が1000cd/m
2の映像表示装置では、映像信号レベルE′=1/2の輝度は50cd/m
2となり、SDRの映像表示装置よりも暗く表示されることになる。
【0023】
そのため、映像制作者は、ピーク輝度が1000cd/m
2の映像表示装置によって映像を評価して映像を制作すると、映像信号レベルを高くした、より明るい映像を制作してしまう。これは、本来、HDRの映像として表現したい明部の輝度範囲を狭くしてしまうことになり、SDRの映像との差が小さいものとなってしまうという問題がある。
【0024】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、HLG方式の映像信号を、表示装置のピーク輝度に応じた映像信号に変換する映像信号変換装置およびそのプログラム、ならびに、映像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記課題を解決するため、本発明に係る映像信号変換装置は、映像信号レベルの中央(E′=1/2)を境にした低輝度部と高輝度部とで特性の異なるHLG方式の映像信号を、表示装置に表示する表示光の強度に比例した信号に変換する映像信号変換装置であって、高輝度部特性変換パラメータ演算手段と、信号レベル判定手段と、低輝度部特性変換手段と、高輝度部特性変換手段と、を備える構成とした。
【0026】
かかる構成において、映像信号変換装置は、高輝度部特性変換パラメータ演算手段によって、特定の条件のもとで、高輝度部の表示特性を示す第2伝達関数を特定するパラメータを算出する。
ここで、特定の条件は、条件1として、映像信号の中央レベルにおいて、低輝度部の表示特性を示す第1伝達関数により求められる輝度と、高輝度部の表示特性を示す第2伝達関数により求められる輝度とが設定された基準輝度と一致すること、条件2として、映像信号の中央レベルにおいて、それぞれの伝達関数の傾きが一致すること、条件3として、映像信号の最大レベルの輝度が表示装置のピーク輝度に一致することである。
【0027】
そして、映像信号変換装置は、信号レベル判定手段によって、映像信号の信号レベルが中央レベル以下であるか否かを判定する。
そして、映像信号変換装置は、信号レベルが中央レベル以下と判定された映像信号に対して、低輝度特性変換手段によって、第1伝達関数により変換を行う。
また、映像信号変換装置は、信号レベルが中央レベルよりも大きいと判定された映像信号に対して、高輝度部特性変換手段によって、高輝度部特性変換パラメータ演算手段で算出されたパラメータで特定される第2伝達関数により変換を行う。
【0028】
このとき、条件1と条件2とによって、それぞれの伝達関数の変換値が映像信号の中央レベルにおいて滑らかに変化することになり、映像信号変換装置は、映像表示の違和感を無くすことができる。
さらに、条件3によって、映像信号を、表示装置のピーク輝度まで表示することができ、映像信号変換装置は、表示装置の性能を最大限に活かすことができる。
なお、映像信号変換装置は、コンピュータを、前記した各手段として機能させるための映像信号変換プログラムで動作させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明によれば、HDR用表示装置のピーク輝度に依存せずに、HDRの映像信号の主要部分の輝度レベルを基準輝度に合わせて表示することができるとともに、映像信号の最大輝度を表示装置のピーク輝度に合わせて表示することができる。
これによって、本発明は、表示装置の輝度性能を最大限に活かして、映像制作者が意図する輝度表現を再現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態に係る映像表示装置について、その特徴となる表示特性について説明した後、映像表示装置の構成および動作について順次説明する。
【0032】
≪映像表示装置の表示特性≫
<撮像装置の概要>
まず、映像表示装置の入力信号となる映像信号を特定するため、当該映像信号を生成する撮像装置の概要について説明する。
図1は、HLG方式の撮像装置C
1(
図7(b)のC
1相当)が映像信号を生成する処理内容を模式的に示したものである。
【0033】
図1に示すように、撮像装置C
1は、撮像素子等の受光手段によって、光の三原色で表されるシーン光{R,G,B}をシーン光の強度に比例した電気信号{E
R,E
G,E
B}に変換する。
そして、シーン光に比例した信号であるそれぞれの色信号Ex(X=R,G,B)([0:1]で正規化))が0≦Ex≦1/12の範囲であれば、撮像装置C
1は、以下の式(6)第一式の演算を行うことで映像信号{E
R′,E
G′,E
B′}を生成する。
【0034】
一方、色信号Ex(X=R,G,B)([0:1]で正規化))が1/12<Ex≦1の範囲であれば、撮像装置C
1は、以下の式(6)第二式の演算を行うことで映像信号{E
R′,E
G′,E
B′}を生成する。なお、OETF
Lは、低輝度部(暗部から中間の輝度)の光−電気伝達関数、OETF
Hは、高輝度部(中間から明部の輝度)の光−電気伝達関数を示す。また、Ln(x)はxの自然対数を示し、a,b,cは、前記式(1)と同じ値である。
【0036】
これによって、撮像装置C
1は、
図8に示すような、映像信号の所定の信号レベル(E′=1/2)を境に、“0”〜“1/2”の映像信号レベルではガンマ特性と同等の平方根特性、“1/2”〜“1”の映像信号レベルでは対数特性を持ったHDRの映像信号を生成することができる。
【0037】
<映像表示装置の概要>
図2は、HLG方式の撮像装置C
1(
図1)で撮像されたカラーの映像信号を表示光として表示する本発明の実施形態に係る映像表示装置1の処理内容を模式的に示したものである。
図2に示すように、映像表示装置1は、所定の信号レベル以下の映像信号に対して二乗特性変換とシステムガンマ特性変換、所定の信号レベルよりも大きい映像信号に対して指数特性変換とシステムガンマ特性変換を行うものである。
ここでは、映像表示装置1は、映像信号{E
R′,E
G′,E
B′}のそれぞれの色信号E′
X(X=R,G,B)([0:1]で正規化)が0≦Ex′≦1/2の範囲であれば、二乗特性変換とシステムガンマ特性変換として、以下の式(7)第一式の演算を行うことで、輝度Lの表示光{R
D,G
D,B
D}を発光させる。
一方、色信号E′
X(X=R,G,B)([0:1]で正規化)が1/2<Ex′≦1の範囲であれば、指数特性変換とシステムガンマ特性変換として、以下の式(7)第二式の演算を行い、輝度Lの表示光{R
D,G
D,B
D}を発光させる。
【0039】
ここで、L
REFは映像信号レベルE′=1/2の輝度、γはシステムガンマである。また、u,v,wは、映像信号レベルE′=1/2以下の特性とE′=1/2以上の特性とを予め定めた条件を満たすように定めたパラメータである。
以下、前記式(7)で表される表示特性について説明する。
【0040】
<表示特性>
映像表示装置の表示特性は、例えば、
図9で示した表示装置のピーク輝度が異なる場合でも、映像信号レベルE′=1/2以下の輝度は同じ(
図9の場合、映像信号レベルE′=1/2の輝度は100cd/m
2)であることが望ましい。これによって、表示装置の輝度性能によらず、映像の主要部分の再現特性の一貫性を保つことができる。
また、映像信号レベルE′=1/2以上の表示特性は、表示装置のピーク輝度に応じた特性であることが望ましい。これによって、表示装置の性能を活かすことができる。
以下、この表示特性を満たす前記式(7)の特定手法について説明する。
前記式(5)を、未定のパラメータu,v,wを用いて書き換えると、以下の式(8)となる。
【0042】
ここで、L
W0は映像信号レベルがE′=1/2のときにL=L
REFとなる輝度で、γはシステムガンマであり、L
W0(1/12)
γ=L
REFである。
この式(8)において、映像信号レベルE′=1/2以下の特性とE′=1/2以上の特性が連続するためには、以下の3つの条件を満たす必要がある。
【0043】
(条件1)
映像信号レベルE′=1/2の輝度は、指定された特定の輝度L
REF(cd/m
2)とすること。
(条件2)
映像信号レベルE′=1/2以下の表示特性を示す関数(式(8)の第一式)と、映像信号レベルE′=1/2以上の表示特性を示す関数(式(8)の第二式)とで、映像信号レベルE′=1/2の傾きが一致すること。
(条件3)
映像信号E′のレベルE′=1の輝度は、表示装置のピーク輝度L
W(cd/m
2)と一致すること。
【0044】
条件1から、式(8)の両式にE′=1/2を代入すると、以下の式(9)となる。
【0046】
このとき、前記式(8)は、以下の式(10)となる。
【0048】
また、前記式(9)から、exp((1/2−w)/u)+v=1が導かれ、以下の式(11)を導き出すことができる。なお、Ln(x)はxの自然対数を示す。
【0050】
また、条件2から、式(8)の両式をそれぞれE′で微分することによって得られるE′=1/2における傾きにより、以下の式(12)が導かれる。
【0052】
そして、式(11)と式(12)とから、以下の式(13)を導き出すことができる。
【0054】
また、条件3から、式(8)第二式にE′=1を代入すると、以下の式(14)が成り立つ。
【0056】
そして、式(9)と式(14)とから、以下の式(15)が成り立つ。
【0058】
そして、この式(15)から、以下の式(16)を導き出すことができる。
【数16】
【0059】
このように、条件1〜3で導き出された式(11)、式(13)および式(16)の連立方程式は、システムガンマγ、映像信号レベルE′=1/2の基準輝度L
REF、表示装置の最大輝度(ピーク輝度)L
Wを与えて解くことができる。
例えば、γ=1.2、L
REF=100(cd/m
2)、L
W=1000(cd/m
2)の場合、u=0.304141、v=1−4u=−0.216564、w=1/2−Ln[(4u)
u]=0.440379となる。
【0060】
この場合、映像信号E′と表示輝度Lとの関係は、
図4の破線で表される。
図4(b)は、
図4(a)の縦軸を対数目盛としたものである。なお、
図4の実線は、L
W=2000(cd/m
2)としたときの特性である。
図4に示すように、映像表示装置1の表示特性は、表示装置のピーク輝度が2000cd/m
2の場合(
図4中、実線)でも、1000cd/m
2の場合(
図4中、破線)でも、映像信号レベルE′=1/2以下の特性は変わらず、E′=1/2の表示輝度は、100cd/m
2となる。
このように、映像表示装置1は、表示装置のピーク輝度に関わらず、HDRの映像信号における50%以下の特性を一定にできる。
【0061】
≪映像表示装置の構成≫
次に、
図3を参照して、前記した表示特性を実現する本発明の実施形態に係る映像表示装置1の構成について説明する。
図3に示すように、映像表示装置1は、映像信号変換部(映像信号変換装置)10と、表示部(表示装置)20と、を備える。
【0062】
映像信号変換部10は、HLG方式の映像信号を、表示部20のピーク輝度に応じた映像信号に変換するものである。
ここで、映像信号変換部10は、輝度・システムガンマ設定手段11と、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12と、システム定数記憶手段13と、信号レベル判定手段14と、特性変換手段15と、を備える。
【0063】
輝度・システムガンマ設定手段11は、特性変換を特定するための輝度として、映像信号の中央レベルの輝度(映像信号レベルE′=1/2の輝度:基準輝度)と、表示部20のピーク輝度と、システムガンマとを設定するものである。この輝度・システムガンマ設定手段11は、操作者からの指示により、輝度(基準輝度L
REF、ピーク輝度L
W)とシステムガンマγとを設定するもので、例えば、表示部20を介して設定画面を表示して、リモコン装置等によって輝度を設定するものであってもよいし、物理的なツマミ等によって輝度やシステムガンマを設定するものであってもよい。
【0064】
この輝度・システムガンマ設定手段11は、設定された基準輝度L
REF、ピーク輝度L
Wおよびシステムガンマγを、システム定数記憶手段13に書き込み記憶するとともに、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12に高輝度部特性変換パラメータの演算を指示する。
【0065】
高輝度部特性変換パラメータ演算手段12は、映像信号レベルE′=1/2以上の映像信号を、映像表示装置1の表示部20のピーク輝度以内に収めるように変換するパラメータを演算するものである。
具体的には、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12は、以下の式(17)〜式(19)の連立方程式を解くことで、パラメータu,v,wを求める。
【0067】
この式(17)〜式(19)は、前記式(11),式(13),式(16)と同じものである。
ここで、基準輝度(映像信号レベルE′=1/2の輝度)L
REF、表示装置のピーク輝度(表示部20の最大輝度)L
Wおよびシステムガンマγは、輝度・システムガンマ設定手段11で設定される値である。
なお、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12は、この連立方程式を一般的な数式処理ソフトウェア(例えば、MATHEMATICA(登録商標)等)で解くことができる。
このパラメータu,v,wによって、式(7)第二式および式(10)第二式に示した伝達関数を特定することができる。
高輝度部特性変換パラメータ演算手段12は、求めたパラメータu,v,wをシステム定数記憶手段13に書き込み記憶する。
【0068】
システム定数記憶手段13は、映像信号変換部10内で使用するシステム定数を記憶するもので、半導体メモリ等の一般的な記憶装置である。
このシステム定数記憶手段13には、基準輝度L
REF、ピーク輝度L
W、システムガンマγおよび高輝度部特性伝達関数のパラメータu,v,wがシステム定数として書き込まれる。
【0069】
信号レベル判定手段14は、映像信号を入力し、その映像信号のレベルを判定するものである。この映像信号は、撮像装置C
1(
図1参照)で撮像された、信号レベルが“0”〜“1/2”で平方根特性、信号レベルが“1/2”〜“1”で対数特性を持ったHDRの映像信号(ここでは、RGBのカラー映像信号)である。
この信号レベル判定手段14は、各画素のRGBの色ごとに、映像信号レベルが1/2以下であるか否かを判定する。そして、信号レベル判定手段14は、映像信号レベルが1/2以下の信号については、当該信号を特性変換手段15の低輝度部特性変換手段151に出力する。また、信号レベル判定手段14は、映像信号レベルが1/2よりも大きい信号については、当該信号を特性変換手段15の高輝度部特性変換手段152に出力する。
【0070】
特性変換手段15は、画素ごとに映像信号の特性を変換するものである。
ここで、特性変換手段15は、低輝度部特性変換手段151と、高輝度部特性変換手段152と、を備える。
【0071】
低輝度部特性変換手段151は、信号レベル判定手段14で映像信号レベルが1/2以下であると判定された信号に対して、二乗特性変換とシステムガンマ変換を行うものである。すなわち、低輝度部特性変換手段151は、以下の式(20)に示す関数(第1伝達関数)により、撮像装置C
1(
図1参照)の平方根特性変換に対して逆変換とシステムガンマ変換を行うことで、信号レベルE′から表示光の強度に比例した信号レベルE
Dを算出する。
【0073】
ここで、αはコントラスト調整、βはブライトネス調整であって、適宜外部から設定可能な値である。なお、コントラスト調整、ブライトネス調整を行わない場合、α=1,β=0とすればよい。
具体的には、低輝度部特性変換手段151は、0以上1以下の範囲で正規化された映像信号{E
R′,E
G′,E
B′}のそれぞれの色信号をE′
X(X=R,G,B)としたとき、画素のRGBごとに、以下の式(21)の変換を行うことで、表示光の強度に比例した信号{E
DR,E
DG,E
DB}を生成する。
【0075】
なお、RGBの色ごとで輝度に寄与する割合が異なる。すなわち、Rの輝度寄与率をC
R(例えば、0.2627),Gの輝度寄与率をC
G(例えば、0.6780)、Bの輝度寄与率をC
B(例えば、0.0593)としたとき、表示輝度Y
Dは、以下の式(22)に示すように、RGBの輝度寄与率に応じた加重和となる。
【0077】
そこで、低輝度部特性変換手段151は、前記式(21)により求めた値に、色ごとの輝度寄与率を乗算して、色ごとの信号とする。
この低輝度部特性変換手段151は、変換した信号を表示部20に出力する。
【0078】
高輝度部特性変換手段152は、信号レベル判定手段14で映像信号レベルが1/2よりも大きいと判定された信号に対して、指数特性変換とシステムガンマ変換を行うものである。すなわち、高輝度部特性変換手段152は、以下の式(23)に示す関数(第2伝達関数)により、撮像装置C
1(
図1参照)の対数変換に対して逆変換とシステムガンマ変換を行うことで、信号レベルE′から表示光の強度に比例した信号レベルE
Dを算出する。
【0080】
ここで、αはコントラスト調整、βはブライトネス調整、u,v,wはシステム定数記憶手段13に記憶されているパラメータ値である。なお、コントラスト調整、ブライトネス調整を行わない場合、α=1,β=0とすればよい。
具体的には、高輝度部特性変換手段152は、0以上1以下の範囲で正規化された映像信号{E
R′,E
G′,E
B′}のそれぞれの色信号をE′
X(X=R,G,B)に対して、画素のRGBごとに、以下の式(24)の変換を行うことで、表示光の強度に比例した信号{E
DR,E
DG,E
DB}を生成する。
【0082】
なお、高輝度部特性変換手段152は、前記式(24)により求めた値に、低輝度部特性変換手段151と同様に、色ごとの輝度寄与率を乗算して、色ごとの信号とする。
この高輝度部特性変換手段152は、変換した信号を表示部20に出力する。
【0083】
以上説明した特性変換手段15では、システムガンマをRGB各色に適用することとした。しかし、システムガンマを輝度成分のみに適用することとしてもよい。
その場合、低輝度部特性変換手段151は、信号レベルE′
X(X=R,G,B)からシーン光の強度に比例した信号レベルE
Xを以下の式(25)により算出する。
【0085】
そして、低輝度部特性変換手段151は、シーン輝度Yを以下の式(26)に示すようにRGBの輝度寄与率に応じて加重和演算し、表示光の強度に比例した信号{E
DR,E
DG,E
DB}を、以下の式(27)により生成すればよい。
【0087】
ここで、αはコントラスト調整、βはブライトネス調整である。なお、コントラスト調整、ブライトネス調整を行わない場合、α=1,β=0とすればよい。
また、システムガンマを輝度成分のみに適用する場合、高輝度部特性変換手段152は、信号レベルE′
X(X=R,G,B)からシーン光の強度に比例した信号レベルE
Xを、パラメータu,v,wを用いて以下の式(28)により算出する。
【0089】
そして、高輝度部特性変換手段152は、低輝度部特性変換手段151と同様に、前記式(26),式(27)により、表示光の強度に比例した信号{E
DR,E
DG,E
DB}を生成すればよい。
【0090】
なお、映像信号変換部10は、図示を省略したコンピュータを、輝度・システムガンマ設定手段11、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12、信号レベル判定手段14、特性変換手段15として機能させるための映像信号変換プログラムで動作させることができる。
【0091】
表示部20は、特性変換手段15で得られた表示光の強度に比例した信号を、前記式(7)および前記式(10)で示される表示光として出力するものである。この表示部20は、カラーの映像信号を表示光として表示する一般的な表示手段であって、例えば、液晶ディスプレイ等である。
この表示部20によって、映像表示装置1は、映像信号を映像として観察者に視認させることができる。
【0092】
以上説明したように映像表示装置1を構成することで、映像表示装置1は、表示部20のピーク輝度に関わらず、HDRの映像信号レベルE′=1/2以下の表示輝度を一定の特性に合わせることができる。これによって、映像表示装置1は、映像制作者が意図する映像を再現することができる。
【0093】
≪映像表示装置の動作≫
次に、映像表示装置1の動作について説明する。ここでは、映像表示の前に行う映像表示装置1における高輝度部特性変換のパラメータを特定する動作(パラメータ特定動作)と、映像信号を表示する動作(映像表示動作)とに分けて説明する。
【0094】
<パラメータ特定動作>
最初に、
図5を参照(構成については適宜
図3参照)して、パラメータ特定動作について説明する。
図5に示すように、映像表示装置1は、映像信号変換部10の輝度・システムガンマ設定手段11によって、操作者からの指示により、基準輝度(映像信号レベルE′=1/2の輝度)、表示装置のピーク輝度(表示部20の最大輝度)およびシステムガンマを設定する(ステップS1)。
【0095】
そして、映像表示装置1は、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12によって、ステップS1で設定された基準輝度L
REF、ピーク輝度L
Wおよびシステムガンマγにより、前記式(17)〜式(19)の連立方程式を解くことで、高輝度部の特性変換を行う伝達関数のパラメータu,v,wを算出する(ステップS2)。
【0096】
そして、映像表示装置1は、高輝度部特性変換パラメータ演算手段12によって、算出したパラメータをシステム定数記憶手段13に書き込み記憶する(ステップS3)。
以上の動作によって、映像表示装置1は、映像信号に高輝度部特性変換を行うために用いる伝達関数のパラメータu,v,wを、予めシステム定数記憶手段13に記憶する。
【0097】
<映像表示動作>
次に、
図6を参照(構成については適宜
図3参照)して、映像表示動作について説明する。
図6に示すように、映像表示装置1は、外部から映像信号を入力する(ステップS10)。
そして、映像表示装置1は、信号レベル判定手段14によって、ステップS10で入力された映像信号の信号レベルを各画素のRGBごとに、その映像信号レベルが1/2以下であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0098】
ここで、映像信号レベルが1/2以下である場合(ステップS11でYes)、映像表示装置1は、特性変換手段15の低輝度部特性変換手段151によって、前記式(20)により、映像信号に対して、低輝度部特性変換を行う(ステップS12)。
【0099】
一方、映像信号レベルが1/2よりも大きい場合(ステップS11でNo)、映像表示装置1は、特性変換手段15の高輝度部特性変換手段152によって、システム定数記憶手段13に記憶されているパラメータu,v,wの値を用いて、前記式(23)により、映像信号に対して、高輝度部特性変換を行う(ステップS13)。なお、ステップS12,S13において、特性変換手段15は、色ごとの輝度寄与率を乗算して、色ごとの映像信号を生成することとする。
そして、映像表示装置1は、表示部20によって、ステップS12またはステップS13で変換された映像信号を表示光として出力する(ステップS14)。
【0100】
なお、ここでは、システムガンマをRGB各色に適用する例で説明したが、システムガンマを輝度成分のみに適用することとしてもよい。その場合、映像表示装置1は、ステップS12において、低輝度部特性変換手段151によって、前記式(25)および式(26)により、シーン光の強度に比例した信号レベルおよびシーン輝度を算出し、前記式(27)の演算を行えばよい。
また、システムガンマを輝度成分のみに適用する場合、映像表示装置1は、ステップS13において、高輝度部特性変換手段152によって、前記式(28)および式(26)により、シーン光の強度に比例した信号レベルおよびシーン輝度を算出し、前記式(27)の演算を行えばよい。
【0101】
以上の動作によって、映像表示装置1は、表示部20のピーク輝度に関わらず、映像の主要部分である50%の輝度レベルを、表示部20の特定の輝度に合わせることができる。
これによって、映像表示装置1は、映像の主要部分である50%以下の輝度レベルの再現特性の一貫性を保つことができるとともに、表示部20のピーク輝度まで有効に活用することができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態に係る映像表示装置1の構成および動作について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
例えば、ここでは、輝度・システムガンマ設定手段11を介して、ピーク輝度を設定することとしたが、表示部20のピーク輝度が既知の場合は、予めシステム定数記憶手段13に設定しておくこととしてもよい。
また、ここでは、基準輝度やシステムガンマを設定することとしたが、この基準輝度やシステムガンマは、予めシステム定数記憶手段13に記憶しておくこととしてもよい。
その場合、映像表示装置1は、構成から輝度・システムガンマ設定手段11を省略してもよい。