特許第6769306号(P6769306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6769306-鉛蓄電池用セパレータ及び鉛蓄電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769306
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータ及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20201005BHJP
【FI】
   H01M2/16 F
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-571923(P2016-571923)
(86)(22)【出願日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】JP2016051007
(87)【国際公開番号】WO2016121511
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-13117(P2015-13117)
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】平井 響子
(72)【発明者】
【氏名】河添 宏
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−100808(JP,A)
【文献】 特開平09−092252(JP,A)
【文献】 特開平02−086056(JP,A)
【文献】 特開2006−310274(JP,A)
【文献】 特開2003−297328(JP,A)
【文献】 特開2002−216733(JP,A)
【文献】 特開平11−260335(JP,A)
【文献】 特開2001−283810(JP,A)
【文献】 特開2011−238492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
H01M 10/00−10/04
H01M 10/06−10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維、ポリオレフィン系樹脂及びアルミニウム化合物を含み、
平均細孔径が10μm以下であり、
前記ガラス繊維の含有量が87.0質量%以上であり、
前記アルミニウム化合物が硫酸アルミニウムを含む、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
吸水率が500質量%以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂の含有量が前記ガラス繊維の総量に対して0.5〜10質量%である、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
前記アルミニウム化合物の含有量が前記ガラス繊維の総量に対して0.5〜6質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の鉛蓄電池用セパレータを備える、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータ及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型鉛蓄電池は、密閉容器内にセパレータと電極板とが積層配置された構成を備えるものである。密閉型鉛蓄電池は、密閉容器を使用しているため、耐漏液性に優れ、補水を必要としないといった特徴を有している。密閉型鉛蓄電池内の電解液は、セパレータの孔内に流動することがないように保持されている。そのため、密閉型鉛蓄電池用セパレータには、電解液の吸水性が良好な、ガラス繊維主体の不織布セパレータが使用されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
一方、密閉型鉛蓄電池の高出力化に伴い、ハイレート特性を向上させるために薄型のセパレータが要求されている。しかしながら、ガラス繊維主体の不織布セパレータでは、引張強度、貫通強度等の機械的強度が低く、薄膜化した場合、電池組立時の負荷でセパレータが断裂すること、又は、極板の突起物等がセパレータを貫通して正極板と負極板とが電気的に短絡(ショート)することがある。
【0004】
密閉型鉛蓄電池用セパレータの機械的強度を高める方法として、ガラス繊維マットとシリカコートポリオレフィン系繊維とを重ね合わせることが提案されている(下記特許文献2参照)。また、ガラス繊維、有機繊維、アニオン性合成樹脂バインダーエマルジョン及びイオン性無機添加剤等を用いてセパレータを製造する方法が提案されている(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−106869号公報
【特許文献2】特開2002−313305号公報
【特許文献3】特許第2745308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電解液(例えば硫酸水溶液)を有する鉛蓄電池の鉛蓄電池用セパレータに対しては、優れた電池特性を得るために、吸水性(例えば電解液の吸水性)と機械的強度とを両立することが求められている。これに対し、セパレータの機械的強度を充分に向上させるためには、有機繊維の割合を多くすることが有効であるが、表面が疎水性である有機繊維は、電解液に対する濡れ性が低く、吸水性を低下させる傾向にある。そのため、上記特許文献2に記載されているようなガラス繊維マットとシリカコートポリオレフィン系繊維とを重ね合わせる方法では、機械的強度を高める点では有効であるが、吸水性が低下する可能性がある。同様に、上記特許文献3のセパレータについては、吸水性が充分でない可能性がある。これらを鉛蓄電池(例えば密閉型鉛蓄電池)に適用した場合、充分な電池特性が得られないことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、吸水性及び機械的強度に優れる鉛蓄電池用セパレータ、並びに、当該鉛蓄電池用セパレータを備える鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ガラス繊維、ポリオレフィン系樹脂及びアルミニウム化合物を含む、鉛蓄電池用セパレータを提供する。
【0009】
本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、吸水性及び機械的強度に優れる。本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、機械的強度に優れることにより、組立作業性に優れ、薄型化が可能であり、長期使用可能な耐久性を有する。本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、密閉型鉛蓄電池に特に好適である。
【0010】
前記鉛蓄電池用セパレータの吸水率は、500質量%以上であることが好ましい。この場合、電池特性が更に向上する。
【0011】
前記ポリオレフィン系樹脂の含有量は、前記ガラス繊維の総量に対して0.5〜10質量%であることが好ましい。この場合、吸水性及び機械的強度を更に高度に両立させることができる。
【0012】
前記アルミニウム化合物の含有量は、前記ガラス繊維の総量に対して0.5〜6質量%であることが好ましい。この場合、吸水性及び機械的強度を更に高度に両立させることができる。
【0013】
本発明は、前記鉛蓄電池用セパレータを備える、鉛蓄電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸水性及び機械的強度に優れる鉛蓄電池用セパレータ、並びに、当該鉛蓄電池用セパレータを備える鉛蓄電池を提供することができる。本発明によれば、鉛蓄電池へのセパレータの応用を提供することができる。本発明によれば、密閉型鉛蓄電池へのセパレータの応用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例3で作製した鉛蓄電池用セパレータの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
<鉛蓄電池用セパレータ>
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、ガラス繊維、ポリオレフィン系樹脂及びアルミニウム化合物を含む。
【0019】
ガラス繊維としては、鉛蓄電池の電解液である硫酸と接触することから、耐酸性ガラス繊維が好ましく、含アルカリガラス繊維がより好ましい。
【0020】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータでは、ガラス繊維同士が、ポリオレフィン系樹脂とアルミニウム化合物とで結着されていることが好ましい。当該鉛蓄電池用セパレータは、ガラス繊維とポリオレフィン系樹脂とアルミニウム化合物とを混合し、湿式抄紙することにより得ることができる。抄造後の乾燥工程にてポリオレフィン系樹脂を溶融させることにより、ガラス繊維同士をより強固に結着させることができる。溶融のため、追加で乾燥させてもよい。その場合、乾燥温度は、ポリオレフィン系樹脂の溶融点である135℃程度が好ましい。
【0021】
ガラス繊維の平均繊維径は、繊維径が細いガラス繊維ほどセパレータの孔を微細化でき、機械的強度及び耐浸透短絡性に更に優れたセパレータとなる観点から、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。ガラス繊維の平均繊維径は、繊維径が太いガラス繊維ほど抄造時の濾水性に優れるため、生産効率を向上できる観点から、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましい。これらの観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、0.5〜5μmであることが好ましく、0.8〜3μmであることがより好ましく、0.8〜2μmであることが更に好ましい。
【0022】
「ガラス繊維の平均繊維径」とは、無作為に走査型電子顕微鏡(SEM)観察の領域をセパレータから選んだ後、この領域をSEM観察して無作為に100本のガラス繊維を選び、これらのガラス繊維の測定結果に基づいて算出される平均(算術平均)繊維径である。ガラス繊維としては、平均繊維径の等しいものを単独で用いてもよく、平均繊維径の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
セパレータ(例えば多孔質シート)におけるガラス繊維の目付量は、製造時の濾水性が低下することが抑制されることにより、材料の濃度分布が生じることが抑制されるため、セパレータの内部構造が不均一化することが抑制される観点から、400g/m以下であることが好ましく、350g/m以下であることがより好ましく、300g/m以下であることが更に好ましく、250g/m以下であることが特に好ましい。セパレータ(例えば多孔質シート)におけるガラス繊維の目付量は、セパレータの厚みが過剰に減少することが抑制されることにより、短絡が容易に抑制される観点から、30g/m以上であることが好ましく、100g/m以上であることがより好ましく、150g/m以上であることが更に好ましく、200g/m以上であることが特に好ましい。これらの観点から、セパレータ(例えば多孔質シート)におけるガラス繊維の目付量は、30〜400g/mであることが好ましく、30〜350g/mであることがより好ましく、100〜300g/mであることが更に好ましく、150〜300g/mであることが特に好ましく、200〜300g/mであることが極めて好ましく、200〜250g/mであることが非常に好ましい。
【0024】
セパレータ(例えば多孔質シート)の密度は、電池特性(出力特性、電池容量等)に更に優れる観点、及び、製造時の乾燥が容易である観点から、0.1〜0.2g/cmであることが好ましく、0.12〜0.18g/cmであることがより好ましく、0.13〜0.15g/cmであることが更に好ましい。
【0025】
ガラス繊維は、セパレータの主材料として用いることができる。セパレータにおけるガラス繊維の含有量は、吸水性及び機械的強度のバランスに優れる観点から、セパレータの総量に対して下記の範囲であることが好ましい。セパレータにおけるガラス繊維の含有量は、99.9質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましい。セパレータにおけるガラス繊維の含有量は、60質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。これらの観点から、セパレータにおけるガラス繊維の含有量は、60〜99.9質量%が好ましく、85〜98質量%がより好ましく、90〜98質量%が更に好ましい。ガラス繊維を主材料とするセパレータ(例えば多孔質シート)の作製方法は、特に限定されず、常法に従って抄造等により得ることができる。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂としては、耐酸性及び耐水性に優れるものが好ましく、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂は、電池内部でのセパレータの親水性を向上させる観点から、スルホ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の親水基を有していてもよい。ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
鉛蓄電池用セパレータ中のポリオレフィン系樹脂の含有量は、吸水量が低下することが容易に抑制される観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量は、機械的強度が容易に高くなる観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量は、吸水性と機械的強度とを更に高度に両立する観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。また、セパレータ(例えば多孔質シート)を構成するガラス繊維の平均繊維径が太いほど、目的の機械的強度を達成するために必要なポリオレフィン系樹脂の割合が増加する傾向にある。
【0028】
セパレータを製造するためのスラリー(溶液)として、ポリオレフィン系樹脂を含有するスラリーは、ポリオレフィン系樹脂が分散媒に分散した分散系溶液であってもよく、ポリオレフィン系樹脂が溶媒に均一に溶解した均一溶液であってもよい。ポリオレフィン系樹脂の分散媒及び溶媒は、特に限定されないが、抄造工程に適用するためには、水系であることが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂は抄造時に投入されてもよい。具体的には、主材料となるガラス繊維を離解、分散後のガラス溶液中にポリオレフィン系樹脂を添加し、抄造時にセパレータ内部に堆積させる。また、抄造後のシート(例えば多孔質シート)へスプレー等によりポリオレフィン系樹脂を噴霧し、シート表面及び/又は内部へ浸透させてもよく、シートに含浸又は塗布しても構わない。
【0030】
アルミニウム化合物(アルミニウムを含む化合物)としては、耐酸性、耐水性及び吸水性に更に優れる観点から、無機化合物であることが好ましい。アルミニウム化合物としては、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、スラリー(溶液)を酸性にする観点、又は、凝集剤としての機能を併せもつ観点から、硫酸アルミニウムが好ましい。また、アルミニウム化合物としては、アルミニウム以外の元素を含んでいてもよく、例えば、マグネシウム及び/又はシリコンを含んでいてもよい。アルミニウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0031】
セパレータを製造するためのスラリーを作製するに際し、アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等)は、ガラス繊維を分散させた分散液中に投入することが好ましい。アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等)は、水中ではアニオン(硫酸イオン等)とアルミニウムイオンとに乖離し、ガラス表面の親水基と相互作用する。通常ガラスの表面電荷はマイナスであるが、アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等)は、この表面電荷をプラスにする効果がある。ポリオレフィン系樹脂の表面電荷は水分散液中ではマイナスであり、ガラス繊維の表面に定着し難いが、アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム等)の効果によってガラス繊維の表面電荷がプラスになることで、静電的作用によりポリオレフィン系樹脂のガラス繊維表面への定着が容易になる。これにより、吸水性及び機械的強度に優れる鉛蓄電池用セパレータを得ることができる。
【0032】
硫酸アルミニウムは、乾燥後、硫酸イオンを含んだ水酸化アルミニウムとなり、高温加熱等によっては一部がアルミナとなる。これにより、セパレータがポリオレフィン系樹脂を含んでも、通常よりも親水性に富み、吸水性を維持しながら高い機械的強度を達成し易い。
【0033】
酸化アルミニウムは、凝集性、ガラスとの親和性、及び、耐硫酸性に優れる観点から、アルミナゾルであることが好ましい。前記アルミナゾルは、陰イオンを安定剤として用いて、粒子径が5〜200nmのアルミナ水和物粒子を水中で分散させた分散液であることが好ましい。前記陰イオンとしては、Cl、CHCOO、NO3−等が挙げられる。アルミナ水和物粒子は、正に帯電しているため、硫酸アルミニウムと同じく、ガラス表面電荷をプラスにする効果がある。
【0034】
鉛蓄電池用セパレータ中のアルミニウム化合物の含有量は、セパレータ中の孔が小さくなることに伴い吸水量が低下することが抑制され、電解液の拡散が阻害されにくくなる観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して、6質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。アルミニウム化合物の含有量は、ポリオレフィン系樹脂の定着量が増加して機械的強度が高くなる観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましい。アルミニウム化合物の含有量は、吸水性と機械的強度とを更に高度に両立する観点から、鉛蓄電池用セパレータ中のガラス繊維の総量に対して0.5〜6質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましく、1〜3質量%であることが更に好ましく、1.5〜2.5質量%であることが特に好ましい。また、セパレータ(例えば多孔質シート)を構成するガラス繊維の平均繊維径が太いほど、目的の機械強度を達成するために必要なアルミニウム化合物の割合が増加する傾向にある。
【0035】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの膜厚は、ハイレート特性に優れた鉛蓄電池となり易い観点から、3.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であることがより好ましく、2.0mm以下であることが更に好ましい。本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの膜厚は、耐浸透短絡性に優れた鉛蓄電池となり易い観点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることが更に好ましい。これらの観点から、本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの膜厚は、0.1〜3.0mmであることが好ましく、0.5〜2.5mmであることがより好ましく、1.0〜2.0mmであることが更に好ましい。
【0036】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの吸水率は、電池特性(出力特性、電池容量等)に優れる観点から、500質量%以上であることが好ましく、600質量%以上であることがより好ましく、700質量%以上であることが更に好ましい。吸水率の上限に特に制限はないが、実用的な観点からは、1800質量%以下であることが好ましく、1600質量%以下であることがより好ましい。なお、前記吸水率は、乾燥状態のセパレータの質量に対する、乾燥状態のセパレータを25℃で飽和吸水させたときの吸水量(湿潤状態の質量−乾燥状態の質量)の割合(吸水量/乾燥状態の質量)である。
【0037】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの細孔径は、短絡が容易に抑制される観点、硫酸イオンの拡散性に優れる観点、及び、反応時に発生するガスの脱ガス性に優れる観点から、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの細孔径は、短絡が容易に抑制される観点、硫酸イオンの拡散性に優れる観点、及び、反応時に発生するガスの脱ガス性に優れる観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが更に好ましく、3μm以上であることが特に好ましく、5μm以上であることが極めて好ましい。これらの観点から、本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの細孔径は、0.1〜30μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましく、1〜6μmであることが更に好ましく、3〜6μmであることが特に好ましく、5〜6μmであることが極めて好ましい。細孔径は、水銀圧入法、バブルポイント法(JIS K 3832)等により測定することができる。
【0038】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、機械的強度が高く、吸水性(例えば電解液の吸水性)にも優れることから、鉛蓄電池に好適に用いることができる。
【0039】
<鉛蓄電池用セパレータの製造方法>
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの製造方法としては、特に制限は無く、湿式抄造、乾式抄造等が挙げられる。本実施形態においては、これらの中でも、湿式法に基づく抄造法を採用することが好ましい。本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの製造方法は、例えば、ガラス繊維、アルミニウム化合物及びポリオレフィン系樹脂を含むスラリーを調製する工程と、スラリーを抄紙して抄造体を作製する工程と、加圧機を用いて抄造体を厚み方向に圧縮して圧縮体を作製する工程と、圧縮体を樹脂の軟化点以上の温度で乾燥(熱処理)する工程と、を備える。
【0040】
単独で製造されたセパレータを複数枚重ねても構わなく、セパレータの製造段階で積層させながら製造して積層させても構わない。
【0041】
(スラリーを調製する工程)
本工程においては、例えば、ガラス繊維、ポリオレフィン系樹脂及びアルミニウム化合物を、必要に応じてパルプ等のその他の原料成分と共に所定の分散媒に分散させてスラリーを調製する。スラリーの調製は、例えば、ミキサー、ボールミル、パルパー等により行うことができる。なお、分散媒としては水が一般的に用いられる。
【0042】
(抄造体を作製する工程〜圧縮体を作製する工程)
これらの工程では、JISP8222「パルプ試験用手抄き紙の調製方法」に従い、一般的な抄紙機を用いてスラリーを抄紙して抄造体を作製した後、さらに加圧機を用いて抄造体を厚み方向に圧縮して圧縮体を作製する。なお、所望の圧縮体を得るためには、抄造体を410MPaにて5分間圧縮することが好ましい。
【0043】
(圧縮体の乾燥工程)
本工程は、脱水後のセパレータを完全に乾燥させるために行う。この時の乾燥温度は通常105℃だが、ポリオレフィン系樹脂の軟化点以上の温度であってもよい。軟化点以上の温度に調整することで樹脂の一部が融解してテンプレートとして機能し、セパレータの機械的強度を容易に高くすることができる。
【0044】
<鉛蓄電池>
本実施形態に係る鉛蓄電池は、上述の鉛蓄電池用セパレータを備えることを特徴とする。本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極(正極板等)及び負極(負極板等)を更に備えることができる。鉛蓄電池の作製方法は、特に限定されず、常法に従って作製することができる。
【0045】
鉛蓄電池としては、例えば、液式鉛蓄電池及び密閉型鉛蓄電池が挙げられる。密閉型鉛蓄電池の方式としては、例えば、電解液を鉛蓄電池用セパレータに保持する方式である制御弁式鉛蓄電池が挙げられる。制御弁式鉛蓄電池は、蓄電池内部では、流動するフリーの電解液が存在せず、蓄電池を横置きしても電解液がこぼれることがないという利点がある。また、充電中に水の電気分解反応が起こっても、水素ガスの発生を抑え、発生する酸素ガスも負極板表面での化学反応により元の水に還元して電解液中に戻す作用があり、水分が失われることが無く、液量の点検及び補水が不要であるという利点もある。
【0046】
本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、機械的強度及び吸水性を両立し易い観点から、特に、制御弁式鉛蓄電池に好適に用いることができる。
【0047】
制御弁式鉛蓄電池では、蓄電池内部の気密を保つため、ふた部分に内蔵されたゴム弁(排気弁)は閉じた状態になっているが、過大な充電電流が流れて蓄電池の内圧が上昇した時にゴム弁が開いて圧を逃がすような構造となっている。このほか、制御弁式鉛蓄電池は均等充電・電解液比重測定が不要である等、保守が極めて簡略化できるという特長がある。制御弁式鉛蓄電池の用途としては、例えば、無停電電源装置が挙げられる。
【0048】
鉛蓄電池(例えば制御弁式鉛蓄電池)は、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0049】
負極板を作製する方法について説明する。まず、活物質の原料である鉛粉に対して、補強用短繊維、炭素材料、硫酸バリウム等を添加して混練した混合物に、水、及び、スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂、リグニンスルホン酸等)などを加えて混合し、希硫酸を更に加えて負極活物質ペーストを作製する。
【0050】
補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。
【0051】
炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0052】
負極活物質ペースト中の補強用短繊維の含有量は、鉛粉の総量に対して0.05〜0.3質量%が好ましい。炭素材料の含有量は、鉛粉の総量に対して0.2〜1.4質量%であることが好ましい。硫酸バリウムの含有量は、鉛粉の総量に対して0.01〜1.0質量%であることが好ましい。スルホン基及び/又はスルホン酸塩基を有する樹脂(ビスフェノール系樹脂、リグニンスルホン酸等)の含有量は、鉛粉の総量に対して樹脂固形分で0.01〜2.0質量%であることが好ましい。
【0053】
次に、上記負極活物質ペーストを集電体格子に充填し熟成した後に乾燥させ、未化成の負極板を作製する。熟成条件は、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間であることが好ましい。乾燥条件は、温度50〜80℃で15〜30時間であることが好ましい。
【0054】
集電体格子としては、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金、又は、これらに砒素、セレン、銀若しくはビスマスを微量添加した鉛−カルシウム−錫系合金、鉛−カルシウム系合金等からなるものを使用することができる。
【0055】
正極板を作製する場合は、例えば、鉛粉に対して補強用短繊維を加え、水及び希硫酸を更に加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製する。この正極活物質ペーストを集電体格子に充填し熟成した後に乾燥させ、未化成の正極板を作製する。集電体格子の種類、熟成条件及び乾燥条件は、負極板の場合とほぼ同様である。
【0056】
上記のように作製した負極板と正極板とを、本実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータを介して積層し、同極性の極板同士をストラップで連結させて極板群とする。この極板群を電槽内に配置した未化成電池に希硫酸を入れ、化成して鉛蓄電池とする。硫酸の比重は1.25〜1.35であることが好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
<鉛蓄電池用セパレータの作製>
(実施例1)
平均繊維径1.0μmのガラス繊維(Johns−Manville株式会社、製品名:108A)13.75g(目付量:220g/m)、精製水1361.25g及び界面活性剤(明成化学工業株式会社、製品名:パスコールHA−52)0.5gを試験用2Lパルパー(熊谷理機工業株式会社)に加えた後、10分間攪拌した。次に、硫酸アルミニウム0.275g及びポリプロピレンエマルジョン0.55g(不揮発分:0.1375g)を加え充分攪拌後に角型スタンダードシートマシン(熊谷理機工業株式会社)に投入した。注水後、充分攪拌し、濾水することにより、膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを得た。このセパレータをろ紙で挟みながら410MPaにて5分間圧縮し、脱水した。脱水後のセパレータを、105℃に設定した回転ドライヤーにて乾燥させた。なお、セパレータは、主に、ガラス繊維、硫酸アルミニウム、及び、ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分により構成されている。
【0059】
(実施例2)
ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を0.9625gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0060】
(実施例3)
ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を0.6875gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.4mm、密度0.157g/cmのセパレータを作製した。図1は、実施例3で作製した鉛蓄電池用セパレータの1000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
【0061】
(実施例4)
硫酸アルミニウムの使用量を0.6875gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0062】
(実施例5)
硫酸アルミニウムの使用量を0.6875gに変更し、ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を1.375gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.47mm、密度0.149g/cmのセパレータを作製した。
【0063】
(実施例6)
硫酸アルミニウムの使用量を0.1375gに変更し、ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を0.6875gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.43mm、密度0.153g/cmのセパレータを作製した。
【0064】
(実施例7)
ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を0.4125gに変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0065】
(実施例8)
硫酸アルミニウムをアルミナゾル(日産化学株式会社製、商品名:アルミナゾル)に変更した以外は実施例1と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0066】
(実施例9)
硫酸アルミニウムをアルミナゾル(日産化学株式会社製、商品名:アルミナゾル)に変更した以外は実施例3と同様にして膜厚1.48mm、密度0.148g/cmのセパレータを作製した。
【0067】
(実施例10)
硫酸アルミニウムをアルミナゾル(日産化学株式会社製、商品名:アルミナゾル)に変更した以外は実施例4と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0068】
(比較例1)
ポリプロピレンエマルジョンを用いないこと以外は、実施例1と同様にして膜厚1.55mm、密度0.142g/cmのセパレータを作製した。
【0069】
(比較例2)
硫酸アルミニウムを用いることなく、ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分を0.6875gに変更した以外は、実施例1と同様にして膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0070】
(比較例3)
硫酸アルミニウム及びポリプロピレンエマルジョンを用いることなくガラス繊維のみを用いた以外は、実施例1と同様に膜厚1.5mm、密度0.146g/cmのセパレータを作製した。
【0071】
実施例及び比較例で作製した鉛蓄電池用セパレータの組成を表1に示す。なお、表1中、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、ポリプロピレンエマルジョンの不揮発分の含有量である。
【0072】
<セパレータ物性の評価>
実施例及び比較例の各セパレータについて、吸水性、機械的強度(引張強度)及び細孔径を以下の方法によって評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[吸水性]
セパレータを20mm×20mmの大きさにカットして得られた試験片の25℃、65.0%RHにおける質量(乾燥状態)を1mgの単位まで測定した。次いで、室温(25℃±2℃)の蒸留水に試験片を浸漬して2分間含水させた後、水中から引き上げて1分間放置した後の試験片の質量(湿潤状態)を測定し、次の式によって吸水率を算出した。
吸水率(質量%:g/g)=[湿潤状態の試験片の質量−乾燥状態の試験片の質量]/乾燥状態の試験片の質量×100
【0074】
[機械的強度]
セパレータを10mm×40mmの大きさにカットして得られた試験片を準備し、精密万能試験機(株式会社島津製作所、製品名:AGS−X)を用い、チャック間距離20mm、引張速度5mm/分、25.0℃の条件で引張試験を行い、破断時の応力の引張強度を機械的強度として評価した。
【0075】
[細孔径]
セパレータの細孔径は、水銀圧入法により、水銀ポロシメータオートポアIV−9510(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。セパレータを0.5cm×1cmの短冊状に切ることによりサンプルを作製し、これをサンプルフォルダ内にセットし、サンプルへ圧力を加えながら水銀を注入し、圧力応答から細孔径を求めた。
【0076】
<鉛蓄電池特性(初回容量)の評価>
実施例の各セパレータを用いて制御弁式鉛蓄電池を作製し、初回容量を測定した。
【0077】
[制御弁式鉛蓄電池の作製]
酸化鉛及び鉛を主成分とするボールミル式鉛粉と、前記鉛粉の全量を基準としてアクリル繊維0.07質量%と、所定量の水及び希硫酸とを混練して正極活物質ペースト(正極用ペースト状活物質)を作製した。作製した正極活物質ペーストを、幅が43mm、長さが67mm、厚さが2.7mmの鉛−カルシウム−錫合金製の集電体に充填して未化成のペースト式正極板を作製した。そして、温度40℃、湿度95%の大気中で24時間放置し熟成した後に50℃、16時間で乾燥して未化成の正極板を作製した。
【0078】
次に、酸化鉛及び鉛を主成分とするボールミル式鉛粉と、前記鉛粉の全量を基準として、ビスパーズP215(ビスフェノールとアミノベンゼンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、商品名、日本製紙株式会社製)0.2質量%(樹脂固形分)と、アクリル繊維0.1質量%と、ファーネスブラック0.2質量%と、硫酸バリウム1質量%と、所定量の水及び希硫酸(比重1.280)とを混練して負極活物質ペースト(負極用ペースト状活物質)を作製した。作製した負極活物質ペーストを、幅が43mm、長さが67mm、厚さが1.6mmの鉛−カルシウム−錫合金製の集電体に充填して未化成のペースト式負極板を作製した。そして、温度40℃、湿度95%の大気中で24時間放置し熟成した後に50℃、16時間で乾燥して未化成の負極板を作製した。
【0079】
作製した正極板4枚と負極板5枚とを実施例の各セパレータを介して積層し、電極の耳部を溶接して電極群とし、20kg/dmの群加圧となるようABS製の電槽に組み込んだ。これに電解液を注入し、周囲温度が約25℃、充電量が定格容量の250%、化成時間が48時間の条件で電槽化成を行い、公称容量が9Ah−12Vの制御弁式鉛蓄電池を作製した。
【0080】
[初回容量の試験方法]
鉛蓄電池の初回容量は、制御弁式鉛蓄電池を満充電状態にし、周囲温度25℃、0.1CA(1.8A)で終止電圧が1.75V(1.75V/セル)まで放電した際に得られた容量とした。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例のセパレータは、ガラス繊維、ポリオレフィン系樹脂及びアルミニウム化合物を含むことにより、吸水性及び機械的強度に優れることが確認できる。
図1