(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769310
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】粉塵に対する分析方法および検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20201005BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20201005BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
G01N31/00 T
G01N31/22 124
G01N21/78 C
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-4323(P2017-4323)
(22)【出願日】2017年1月13日
(65)【公開番号】特開2017-129581(P2017-129581A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-8091(P2016-8091)
(32)【優先日】2016年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】上坂 昌弘
【審査官】
小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−052369(JP,A)
【文献】
特開2011−058881(JP,A)
【文献】
特開平04−335141(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0182333(US,A1)
【文献】
HARRIS, Wesley R. et al.,Time-Dependent Leaching of Coal Fly Ash by Chelating Agents,Environ. Sci. Technol.,1983年,Vol.17,p.139-145
【文献】
HONG, Kyung-Jin et al.,Extraction of heavy metals from MSW incinerator fly ashes by chelating agents,Journal of Hazardous Materials,2000年,Vol.B75,p.57-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 21/78
G01N 31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別するための当該粉塵に対する分析方法であって、
蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤と酸溶液とを前記粉塵に対して接触させた上で紫外線を照射し、亜鉛に由来する蛍光の有無を観察する、粉塵に対する分析方法。
【請求項2】
前記酸溶液は濃度0.1%以上の塩酸であり、
前記錯化剤は濃度0.5%以上の8−オキシキノリンおよび2−メチルオキシンの少なくともいずれかの溶液である、請求項1に記載の粉塵に対する分析方法。
【請求項3】
粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別するための検査キットであって、
前記粉塵を捕集可能な捕集材と、
酸溶液と、
蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤と、
を備えた、粉塵に対する検査キット。
【請求項4】
前記酸溶液は濃度0.1%以上の塩酸であり、
前記錯化剤は濃度0.5%以上の8−オキシキノリンおよび2−メチルオキシンの少なくともいずれかの溶液である、請求項3に記載の粉塵に対する検査キット。
【請求項5】
前記酸溶液は、硝酸、硫酸のいずれかである、請求項1に記載の粉塵に対する分析方法。
【請求項6】
前記錯化剤は、2−メチルオキシン以外のオキシン誘導体を使用した請求項1に記載の粉塵に対する分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉塵に対する分析方法および検査キットに属する。
【背景技術】
【0002】
製造現場において、中間物や製品に含まれる不純物に対して監視が行われている。例えば特許文献1においては、粉塵や付着遺物等に含まれる微量の金属成分に対する検出技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−52369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、粉塵に含まれる不純物としての金属元素のうち、亜鉛(金属Zn、以降、単にZnと称する。)に着目した。特許文献1の[0051]等にはZnの検出についての開示がある。その一方で、本発明者は、他の金属元素に由来する呈色の影響を排し、Znが粉塵に含有されているか否かを漏れなく判別するという点で、特許文献1には改善の余地があるという知見を得た。
【0005】
本発明の主な目的は、粉塵に亜鉛が含まれているか否かを漏れなくかつ簡便に判別可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別するための当該粉塵に対する分析方法であって、
蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤と酸溶液とを前記粉塵に対して接触させた上で紫外線を照射し、亜鉛に由来する蛍光の有無を観察する、粉塵に対する分析方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記酸溶液は濃度0.1%以上の塩酸であり、
前記錯化剤は濃度0.5%以上の8−オキシキノリンおよび2−メチルオキシンの少なくともいずれかの溶液である。
【0008】
本発明の第3の態様は、
粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別するための検査キットであって、
前記粉塵を捕集可能な捕集材と、
酸溶液と、
蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤と、
を備えた、粉塵に対する検査キットである。
【0009】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の発明において、
前記酸溶液は濃度0.1%以上の塩酸であり、
前記錯化剤は濃度0.5%以上の8−オキシキノリンおよび2−メチルオキシンの少なくともいずれかの溶液である。
【0010】
本発明の第5の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記酸溶液は、硝酸、硫酸の少なくともいずれかである。
【0011】
本発明の第6の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記錯化剤は、2−メチルオキシン以外のオキシン誘導体を使用したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉塵に亜鉛が含まれているか否かを正確かつ簡便に判別可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、以下の順に説明する。
1.粉塵に対する分析方法
1−1.準備工程
1−2.蛍光観察工程
2.検査キット
【0014】
<1.粉塵に対する分析方法>
本実施形態においては、粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別すべく、当該粉塵に対して分析を行う。具体的な好適例としては、濃度0.1%以上の塩酸と濃度0.5%以上の8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液とを粉塵に対して接触させる。そして、紫外線を照射し、亜鉛に由来する蛍光の有無を観察する。以下、説明する。
【0015】
1−1.準備工程
本工程においては、分析に係る諸々の準備を行う。
例えば、粉塵としては任意のものを使用して構わない。また、粉塵の捕収においては、公知の捕収材を使用する手法を採用しても構わない。
【0016】
捕収材としては粉塵を捕集して保持しておくことができるものであれば任意のものを使用して構わない。ただ、浸水性を有する捕集材が好ましい。浸水性を有する捕集材を使用すると、捕集材上に滴下した各溶液を捕集材が吸収して、各溶液とを捕集材との接触性を向上させることができる。それに加え、紫外線の照射を受けたときの蛍光領域が粉塵周辺の捕収材にまで広がるので、当該蛍光の視認性が良く、確実な判別を簡便に行えるという利点が得られる。
【0017】
捕収材の具体例としては、分析用ろ紙やスミヤー法ろ紙、ガラスろ紙などのシート状の部材や、綿棒などの粉塵を捕集して保持しておくことができるものが挙げられる。また、捕収の手法の具体例としては、ハイヴォリュームサンプラーなどで捕集材上に浮遊粉塵を捕集したり、堆積粉塵や降下粉塵を捕集材に付着させたりすることが挙げられる。
【0018】
また、後述の蛍光観察工程に使用される各種溶液も本工程にて準備する。本工程にて準備するのは主に塩酸と8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液である。もちろんこれら以外の公知の化合物を用途に応じて適宜準備しても構わない。
【0019】
塩酸の濃度は0.1%以上とするのが好ましい。0.1%以上ならば十分にZn由来の蛍光を観察できる。塩酸の濃度の上限については、Zn由来の蛍光が観察可能な程度に生じさえすれば特に限定は無いが、例えば4%以下(好ましくは1%以下)を例示可能である。
なお、塩酸以外だと、硝酸、硫酸のいずれかであってもよく、それらを混合したものであってもよい。
また、その濃度は0.1%以上とすることが好ましい。
【0020】
8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液の濃度は0.5%以上とするのが好ましい。0.5%以上ならば十分にZn由来の蛍光を観察できる。8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液の濃度の上限については、Zn由来の蛍光が観察可能な程度に生じさえすれば特に限定は無い。
また、8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液以外でも、蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤であれば使用しても差し支えないが、8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液が好ましい。また、本発明者の鋭意検討により、それらの中でも2−メチルオキシン溶液がより好ましいという知見が得られた。ただし、2−メチルオキシン以外のオキシン誘導体を使用して構わないし、8−オキシキノリンと2−メチルオキシンとを混合して使用しても構わない。
つまり、上記の錯化剤としては、8−オキシキノリンであるところのオキシンおよびオキシン誘導体(特に2−メチルオキシン)の少なくともいずれかを主成分(溶質において最多のモル分率)として含有する溶液を使用するのが好ましい。この内容について、本明細書においては、説明の簡略化のために、“8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液”と称する。
【0021】
本実施形態において8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液(さらには塩酸)をZn由来の蛍光の発生に使用するのには理由がある。塩酸でのZn溶解状況下では、8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシンはZn
2+と選択的に結合することにより錯体を形成する。そしてこの錯体に対し、後述の蛍光観察工程において紫外線が照射されると、当該錯体は蛍光を生じる。その結果、観察者は目視により粉塵にZnが含有されているか否かを判別することが可能となる。しかも、8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシンはZn
2+と選択的に錯体を形成するため、その他の金属元素に由来する蛍光の発生を抑制することができる。その結果、粉塵にZnが含有されているか否かの判別を漏れなく行うことができる。
【0022】
1−2.蛍光観察工程
本工程においては、粉塵が付着した捕収材に対し、上記の塩酸および8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシン溶液を接触させる。具体的には、捕収材における粉塵中のZnを塩酸により溶解してZn
2+へとイオン化する。そして当該イオンに対して8−オキシキノリンまたは2−メチルオキシンを接触させることにより、Zn錯体を形成する。
【0023】
そして、捕収材の上にZn錯体が存在する状況で、紫外線を照射する。なお、当該照射の際には公知の紫外線照射装置を使用して構わない。こうすることにより、捕収材の上にZn錯体が存在する場合、当該Zn錯体が蛍光を生じる。しかも当該Zn錯体は、その名の通り選択的にZn
2+に対して錯化されたものであり、粉塵にZnが含有されているか否かを漏れなく簡便に判断できる。また、蛍光を観察するため、Znが微量であっても漏れなく確実に観察可能となる。
【0024】
しかも、本実施形態によれば、捕収材の上で観察を行うことが可能である。そうなると操作が極めて簡便になり、例えば工場内においてリアルタイムな観察が可能となる。これは、工場内の汚染源を特定するためのスクリーニングや工場内に持ち込む物品の汚染度合いの確認のように早さが要求される作業を速やかに実行可能であり、しかもその場で直ぐ結果が得られることを意味する。
【0025】
以上に述べたように、本実施形態を採用することで、従来だと分析操作に必要な時間のため素早い判断が難しかった粉塵中に含まれるZnやZn化合物の検出を、その場で行うことが出来るようになる。しかも、工程内での汚染源調査や持込物の汚染状況の把握が簡便に出来るようになる。
まとめると、本実施形態によれば、粉塵に亜鉛が含まれているか否かを漏れなくかつ簡便に判別可能となる。
【0026】
<2.検査キット>
なお、上記の技術的思想を反映させた検査キットにも大きな技術的な特徴がある。例えば以下の検査キットが例示される。なお、好ましい例については上記の<1.粉塵に対する分析方法>と同様とする。
「粉塵に亜鉛が含まれているか否かを判別するための検査キットであって、
前記粉塵を捕集可能な捕集材と、
酸溶液と、
蛍光を発生可能な亜鉛錯体を生成可能な錯化剤と、
を備えた、粉塵に対する検査キット。」
上記の検査キットを用いることにより、粉塵に亜鉛が含まれているか否かを正確かつ簡便に判別可能となる。