(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび/またはカルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスに、アルミニウム化合物水溶液を添加してなり、前記アルミニウム化合物水溶液のpHが5〜13であるラテックス組成物。
前記カルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体にカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合して得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載のラテックス組成物。
前記カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび前記カルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の合計100重量部に対して、0.05〜1.0重量部の硫黄系加硫剤をさらに含有する請求項1〜4のいずれかに記載のラテックス組成物。
前記カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび前記カルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の合計100重量部に対して、0.05〜1.0重量部の硫黄系加硫促進剤をさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載のラテックス組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のラテックス組成物は、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび/またはカルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と略すことがある。)のラテックスに、アルミニウム化合物水溶液を添加してなる。
【0012】
カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックス
本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスは、イソプレンを含む単量体を重合して得られる合成ポリイソプレンに、カルボキシル基を導入することにより得られる重合体のラテックスである。以下においては、まず、本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの製造に用いる、合成ポリイソプレンについて
説明する。
【0013】
合成ポリイソプレンは、イソプレンの単独重合体であってもよいし、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレンのイソプレン単位の含有量は、柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体が得られやすいことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0014】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、ブタジエン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル(「アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸メチル」の意味であり、以下、(メタ)アクリル酸エチルなども同様。)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;などが挙げられる。これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0015】
合成ポリイソプレンは、従来公知の方法、たとえばトリアルキルアルミニウム−四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンと、必要に応じて用いられる共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを溶液重合して得ることができる。溶液重合により得られた合成ポリイソプレンの重合体溶液は、後述する合成ポリイソプレンラテックスの製造にそのまま用いてもよいが、該重合体溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、有機溶媒に溶解して、合成ポリイソプレンラテックスの製造に用いることもできる。
この際、合成した後に重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形の合成ポリイソプレンを用いることもできる。
【0016】
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2−ビニル結合単位、3,4−ビニル結合単位の4種類が存在する。得られるディップ成形体の引張強度向上の観点から、合成ポリイソプレンに含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0017】
合成ポリイソプレンの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000〜5,000,000、より好ましくは500,000〜3,000,000、さらに好ましくは700,000〜2,000,000である。合成ポリイソプレンの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、ディップ成形体の引張強度が向上するとともに、合成ポリイソプレンラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0018】
また、合成ポリイソプレンのポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは50〜100、より好ましくは60〜95、さらに好ましくは70〜90、最も好ましくは75〜85である。
【0019】
そして、このようにして製造される合成ポリイソプレンにカルボキシル基を導入することで、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンを得ることができる。合成ポリイソプレンに、カルボキシル基を導入する方法としては、特に限定されないが、たとえば、水相中で、合成ポリイソプレンにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する方法が挙げられる。この際において、水相中でカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合するためには、合成ポリイソプレンラテックスを用いることが望ましい。
【0020】
合成ポリイソプレンラテックスを得るための方法としては、たとえば、(1)有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独または、イソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、アニオン性界面活性剤の存在下に、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、が挙げられるが、イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成ポリイソプレンを用いることができ、引張強度等の機械的特性に優れるディップ成形体が得られやすい点から、上記(1)の製造方法が好ましい。
【0021】
上記(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンが特に好ましい。
【0022】
なお、有機溶媒の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20〜1,500重量部、更に好ましくは500〜1000、最も好ましくは100〜400である。
【0023】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤としては、たとえば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
【0024】
これらアニオン性界面活性剤の中でも、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0025】
また、合成ポリイソプレン由来の、微量に残留する重合触媒(特に、アルミニウムとチタニウム)をより効率的に除去でき、ラテックス組成物を製造する際における、凝集物の発生が抑制されることから、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩
、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることが好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩と、脂肪酸塩とを併用して用いることが特に好ましい。ここで、脂肪酸塩としては、ロジン酸ナトリウムおよびロジン酸カリウムが好ましく、また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが好ましい。また、これらの界面活性剤は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0026】
なお、上述したように、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることにより、得られるラテックスが、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有するものとなる。
【0027】
また、上記(1)の製造方法においては、アニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を併用してもよく、このようなアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤としては、α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性の界面活性剤が挙げられる。
【0028】
さらに、ディップ成形する際に使用する凝固剤による凝固を阻害しない範囲であれば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤も併用してもよい。
【0029】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。なお、2種類以上の界面活性剤を用いる場合においては、これらの合計の使用量を上記範囲とすることが好ましい。すなわち、たとえば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用量の合計を上記範囲とすることが好ましい。アニオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、乳化時に凝集物が多量に発生するおそれがあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、得られるディップ成形体にピンホールが発生する可能性がある。
【0030】
また、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用割合を、「脂肪酸塩」:「アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の合計」の重量比で、1:1〜10:1の範囲とすることが好ましく、1:1〜7:1の範囲とすることがより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が多すぎると、合成ポリイソプレンの取り扱い時に泡立ちが激しくなるおそれがあり、これにより、長時間の静置や、消泡剤の添加などの操作が必要になり、作業性の悪化およびコストアップに繋がるおそれがある。一方、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が少なすぎると、カルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する際に、カルボキシル基を有する単量体の添加時に凝集物が発生するおそれがある。
【0031】
上記(1)の製造方法で使用する水の量は、合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液100重量部に対して、好ましくは10〜1,000重量部、より好ましくは30〜500重量部、最も好ましくは50〜100である。使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げられ、軟水、イオン交換水および蒸留水が好ましい。
【0032】
有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機または分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液に、アニオン性界面活性剤を添加する方法としては、特に限定されず、予め、水もしくは合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液のいずれか、あるいは両方に添加してもよいし、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0033】
乳化装置としては、たとえば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。なお、乳化装置による乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すればよい。
【0034】
上記(1)の製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去することが望ましい。
乳化物から有機溶媒を除去する方法としては、得られる合成ポリイソプレンラテックス中における、有機溶媒(好ましくは脂環族炭化水素溶媒)の含有量を500重量ppm以下とすることのできる方法が好ましく、たとえば、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0035】
次いで、上記(1)の製造方法で得られた合成ポリイソプレンラテックスを用い、水相中で、合成ポリイソプレンにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合することで、本発明で用いる、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスを得ることができる。
【0036】
水相中で、合成ポリイソプレンにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合してカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスを得る方法としては、特に限定されず、従来公知のグラフト重合方法が採用できる。
【0037】
カルボキシル基を有する単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物;などを挙げることができるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。なお、これらの単量体は1種単独でも、2種以上を併用して用いてもよい。
また、上記カルボキシル基は、アルカリ金属やアンモニア等との塩になっているものも含まれる。
【0038】
カルボキシル基を有する単量体の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜100重量部、より好ましくは0.01重量部〜40重量部、さらに好ましくは0.5重量部〜20重量部である。カルボキシル基を有する単量体の使用量が少なすぎると、得られるディップ成形体の引張強度が低くなる傾向がある。逆に、カルボキシル基を有する単量体の使用量が多すぎると、得られるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの粘度が高くなりすぎて、取扱いが困難となる場合がある。
【0039】
カルボキシル基を有する単量体を合成ポリイソプレンラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0040】
また、本発明においては、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスに含まれる、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンのテトラヒドロフラン不溶解分が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは60重量%以上となるように、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスを製造する際には、上記(1)の製造方法で得られた合成ポリイソプレンラテックスに、カルボキシル基を有する単量体に加えて、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加して、水相中でカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合させるとともに、同時に合成ポリイソプレンを架橋反応させることが好ましい。テトラヒドロフラン不溶解分を30重量%以上とすることにより、得られるディップ成形体の引張強度をより高くすることができる。
【0041】
架橋反応に用いる有機過酸化物としては、たとえば、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられるが、得られるディップ成形体の機械的特性向上の観点から、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
有機過酸化物の使用量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0043】
還元剤としては、たとえば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
還元剤の使用量は、特に限定されないが、有機過酸化物1重量部に対して0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0045】
有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を用いて、カルボキシル基を有する単量体のグラフト重合と同時に合成ポリイソプレンの架橋を行う場合には、従来公知のグラフト重合方法が採用できる。また、有機過酸化物と還元剤の添加方法も一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法が可能である。
【0046】
反応温度としては、レドックス触媒でグラフト重合を行う場合には5〜70℃が好ましく、10〜70℃がより好ましい。
【0047】
なお、カルボキシル基を有する単量体のグラフト重合と、合成ポリイソプレンの架橋とは、別々に行ってもよく、この場合においてグラフト重合の重合触媒(グラフト重合触媒)としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができるが、得られるディップ成形体の機械的特性向上の観点から、有機過酸化物が好ましく、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが特に好ましい。
【0048】
上記グラフト重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。グラフト重合触媒の使用量は、その種類によって異なるが、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部である。また、グラフト重合触媒を添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0049】
なお、グラフト重合の転化率は、95重量%以上が好ましく、97重量%以上が特に好ましい。グラフト重合の転化率が低すぎる場合には、引張強度と引裂強度が低くなる傾向がある。
【0050】
このようにして得られるカルボキシル基含有合成ポリイソプレン中における、カルボキシル基を有する単量体の導入割合(カルボキシル基変性率)は、特に限定されないが、全イソプレン単位に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは1〜3重量%である。カルボキシル基を有する単量体の導入割合を上記範囲とすることにより、手袋などのディップ成形体の硬さが適度なものとなるとともに、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの機械的安定性が向上し、得られるディップ成形体の引張強度および引裂強度の向上効果が得られやすくなる。
【0051】
上記のようにして得られる、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0052】
pH調整剤としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0053】
また、グラフト重合した後、必要に応じ、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよいが、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックス中のアニオン性界面活性剤の残留量を調整することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0054】
グラフト重合後のカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスを遠心分離機にかける場合、ラテックスの機械的安定性の向上のため、予めpH調整剤を添加してラテックスのpHを7以上としておくことが好ましく、より好ましくはpHを9以上としておく。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
なお、ラテックスのpHを調整した際に、変性により導入したカルボキシル基は、塩の状態になっていてもよい。
【0055】
遠心分離は、たとえば、連続遠心分離機を用いて、遠心力を、好ましくは4,000〜5,000G、遠心分離前のカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を、好ましくは2〜15重量%、遠心分離機に送り込む流速を、好ましくは500〜2000Kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)を、好ましくは0.03〜1.6MPaの条件にて実施することが好ましい。
【0056】
本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは50〜70重量%である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、該ラテックスを貯蔵した際における重合体粒子の分離を抑制することができるとともに、重合体粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生することを抑制できる。
【0057】
本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスの体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは1〜2μmである。この体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0058】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックス中におけるアニオン性界面活性剤の合計含有量は、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。アニオン性界面活性剤の合計含有量が上記範囲にある場合に、泡立ちの発生が抑制され、引張強度に優れ、ピンホールの発生が無いディップ成形体が得られやすい。
【0059】
カルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ラテックス
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ラテックス(カルボキシル基含有SISラテックス)は、スチレンとイソプレンのブロック共重合体(SIS)(「S」はスチレンブロック、「I」はイソプレンブロックをそれぞれ表す。)のラテックスである。本発明のラテックス組成物においては、上述したカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスに加えて、または上述したカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスに代えて、カルボキシル基含有SISラテックスを用いることができる。
【0060】
本発明で用いるカルボキシル基含有SISラテックスは、スチレンおよびイソプレンを含む単量体を重合して得られるSISに、カルボキシル基を導入することにより得られるカルボキシル基含有SISのラテックスである。本発明で用いるカルボキシル基含有SISの製造方法としては、特に限定されないが、上述したカルボキシル基含有合成ポリイソプレンのラテックスと同様に、SISラテックスを得て、得られたSISラテックスを用い、水相中で、SISにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する方法を用いることができる。
【0061】
本発明で用いるSISラテックスの製造方法としては、特に限定されないが、有機溶媒に溶解または微分散したSISの溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、SISラテックスを製造する方法が好ましい。
【0062】
SISは、従来公知の方法、たとえばn−ブチルリチウムなどの活性有機金属を開始剤として、不活性重合溶媒中で、イソプレンとスチレンとをブロック共重合して得ることができる。そして、得られたSISの重合体溶液は、SISラテックスの製造にそのまま用いてもよいが、該重合体溶液から固形のSISを取り出した後、その固形のSISを有機溶媒に溶解して、SISラテックスの製造に用いることもできる。
この際、合成した後に重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形のSISを用いることもできる。
【0063】
有機溶媒としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを使用することができ、芳香族炭化水素溶媒および脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンおよびトルエンが特に好ましい。
なお、有機溶媒の使用量は、SIS100重量部に対して、通常50〜2,000、好ましくは80〜1,000重量部、より好ましくは10〜500重量部、さらに好ましくは150〜300重量部である。
【0064】
界面活性剤としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができ、アニオン性界面活性剤が好適であり、ロジン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0065】
界面活性剤の使用量は、SIS100重量部に対して、好ましくは0.1〜50重量部、より好ましくは0.5〜20重量部、最も好ましくは1〜10重量部である。この量が少なすぎると、ラテックスの安定性が劣る傾向にあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、ディップ成形時に問題が起きる可能性がある。
【0066】
上述したSISラテックスの製造方法で使用する水の量は、SISの有機溶媒溶液100重量部に対して、好ましくは10〜1,000重量部、より好ましくは30〜500重量部、最も好ましくは50〜100である。
使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げれる。また、メタノールなどのアルコールに代表される極性溶媒を水と併用してもよい。
【0067】
SISの有機溶媒溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができる。そして、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水もしくはSISの有機溶媒溶液または微細懸濁液のいずれか、あるいは両方に添加してもよいし、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0068】
上述したSISラテックスの製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去して、SISラテックスを得ることが好ましい。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0069】
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、SISラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよい。
【0070】
本発明で用いるSISラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは50〜70重量%である。固形分濃度が低すぎると、SISラテックスを貯蔵した際に、SISラテックス中のラテックス粒子(SIS粒子)が分離する懸念があり、逆に高すぎると、SIS粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生する場合がある。
【0071】
また、SISラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合しても良い。pH調整剤としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができ、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0072】
このようにして得られるSISラテックスに含まれる、SIS中のスチレンブロックにおけるスチレン単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、さらに好ましくは100重量%である。
また、SIS中のイソプレンブロックにおけるイソプレン単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは70〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、さらに好ましくは100重量%である。
なお、SIS中のスチレン単位とイソプレン単位の含有割合は、「スチレン単位:イソプレン単位」の重量比で、通常1:99〜90:10、好ましくは3:97〜70:30、より好ましくは5:95〜50:50、さらに好ましくは10:90〜30:70の範囲である。
【0073】
SISの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000〜1,000,000、より好ましくは50,000〜5,00,000、さらに好ましくは100,000〜3,00,000である。SISの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、ディップ成形体の引張強度と柔軟性のバランスが向上するとともに、SISのラテックスが製造しやすくなる
傾向がある。
【0074】
SISラテックス中のラテックス粒子(SIS粒子)の体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.5〜3μm、さらに好ましくは1〜2μmである。ラテックス粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、SISラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0075】
次いで、上記方法により得られたSISラテックスを用い、水相中で、SISにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合することで、本発明で用いる、カルボキシル基含有SISを得ることができる。SISにカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する方法としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有合成ポリイソプレンの場合と同様の方法を用いることができる。
【0076】
また、この際においても、カルボキシル基含有SISラテックスに含まれる、カルボキシル基含有SISのテトラヒドロフラン不溶解分が、好ましくは30重量%以上、より好ましくは60重量%以上となるように、カルボキシル基含有SISラテックスを製造する際には、上記方法により得られたSISラテックスに、カルボキシル基を有する単量体に加えて、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加して、水相中でカルボキシル基を有する単量体をグラフト重合させるとともに、同時にSISを架橋反応させることが好ましい。
【0077】
本発明で用いるカルボキシル基含有SIS中における、カルボキシル基を有する単量体の導入割合(カルボキシル基変性率)は、特に限定されないが、SISに含まれる全イソプレン単位に対して、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜6重量%である。カルボキシル基を有する単量体の導入割合を上記範囲とすることにより、手袋などのディップ成形体の硬さが適度なものとなるとともに、カルボキシル基含有SISのラテックスの機械的安定性が向上し、得られるディップ成形体の引張強度および引裂強度の向上効果が得られやすくなる。
【0078】
ラテックス組成物
本発明のラテックス組成物は、上記カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび/または上記カルボキシル基含有SISのラテックスに加えて、アルミニウム化合物水溶液を含有してなる。
【0079】
本発明のラテックス組成物において、アルミニウム化合物は、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび/またはカルボキシル基含有SISを架橋する架橋剤として作用し、これにより、柔軟で、引張強度等の機械的特性に優れるディップ成形体が得られる。また、得られるディップ成形体は、硫黄の含有量が低減されたものとなるため、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状の発生が有効に防止されたものとなる。
【0080】
本発明で用いるアルミニウム化合物水溶液としては、アルミニウム化合物が水に溶解したものであることが好ましいが、アルミニウム化合物の一部または全部が水中に分散したものであってもよい。アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、塩化アルミニウム、硝酸アルミウム、硫酸アルミニウム、アルミニウム金属、硫酸アルミニウムアンモニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウム・カリウム、アルミニウム・イソプロポキシド、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、亜硫酸アルミウムナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよび/またはカルボキシル基含有SISを良好に架橋することができるという観点より、アルミン酸の金属塩が好ましく、アルミン酸ナトリウムがより好ましい。
【0081】
本発明のラテックス組成物中におけるアルミニウム化合物の配合量は、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよびカルボキシル基含有SISの合計100重量部に対して、固形分換算で、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0082】
アルミニウム化合物水溶液における、アルミニウム化合物の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0083】
また、アルミニウム化合物水溶液のpHは、好ましくは5〜13であり、より好ましくは7〜12、さらに好ましくは10〜12である。pHを上記範囲とすることで、アルミニウム化合物水溶液中における、アルミニウム化合物の配位構造を架橋剤として作用するのに適切なものとすることができ、これにより、得られるディップ成形体の機械的特性をより適切に高めることができる。なお、アルミニウム化合物水溶液のpHは、たとえば、グリコール酸などの酸性化合物や、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性化合物を用いて調整することができる。
【0084】
また、本発明のラテックス組成物には、本発明の作用効果を阻害しない範囲(たとえば、得られるディップ成形体が人体に遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状を発生させない範囲)であれば、硫黄系加硫剤、硫黄系加硫促進剤等を配合してもよい。硫黄系加硫剤、硫黄系加硫促進剤を配合することにより、得られるディップ成形体の機械的特性をより高めることができる。
【0085】
硫黄系加硫剤としては、たとえば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノール・ジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノンー2)、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。なかでも、硫黄が好ましく使用できる。これらの硫黄系加硫剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0086】
硫黄系加硫剤の使用量は、本発明の作用効果を阻害しない範囲とすればよく、特に限定されないが、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよびカルボキシル基含有SISの合計100重量部に対して、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.05〜1.0重量部、さらに好ましくは0.05〜0.8重量部、最も好ましくは0.1〜0.4重量部である。
【0087】
硫黄系加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの加硫促進剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0088】
硫黄系加硫促進剤の使用量は、本発明の作用効果を阻害しない範囲とすればよく、特に限定されないが、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよびカルボキシル基含有SISの合計100重量部に対して、好ましくは1.0重量部以下、より好ましくは0.05〜1.0重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部、最も好ましくは0.05〜0.25重量部である。
【0089】
また、本発明のラテックス組成物は、さらに酸化亜鉛を含有することが好ましい。酸化亜鉛の含有量は、特に限定されないが、合成ポリイソプレンおよびSISの合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜2重量部である。この量が少なすぎるとディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、多すぎるとラテックス組成物中のカルボキシル基含有合成ポリイソプレン粒子や、カルボキシル基含有SIS粒子の安定性が低下し、粗大な凝集物が発生する場合がある。
【0090】
本発明のラテックス組成物には、さらに、分散剤;老化防止剤;カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;紫外線吸収剤;可塑剤;等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0091】
老化防止剤としては、2,6−ジ−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2’−メチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、などの硫黄原子を含有しないフェノール系老化防止剤;2,2’−チオビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノールなどのチオビスフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、4,4’―(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5−ジ−(t−アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの老化防止剤は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0092】
老化防止剤の使用量は、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンおよびカルボキシル基含有SISの合計100重量部に対して、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0093】
本発明のラテックス組成物の調製方法は、特に限定されないが、たとえば、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスおよび/またはカルボキシル基含有SISラテックスに、アルミニウム化合物水溶液、および必要に応じて配合される各種配合剤を混合する方法や、予め上記の分散機を用いて、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスおよび/またはカルボキシル基含有SISラテックス以外の所望の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液をカルボキシル基含有合成ポリイソプレンラテックスおよび/またはカルボキシル基含有SISラテックスに混合する方法などが挙げられる。
【0094】
本発明のラテックス組成物は、pHが7以上であることが好ましく、pHが7〜13の範囲であることがより好ましく、pHが8〜12の範囲であることがさらに好ましい。また、ラテックス組成物の固形分濃度は、15〜65重量%の範囲にあることが好ましい。
【0095】
本発明のラテックス組成物は、得られるディップ成形体の機械的特性をより高めるという観点より、ディップ成形に供する前に、熟成(前架橋)させることが好ましい。前架橋する時間は、特に限定されず、前架橋の温度にも依存するが、好ましくは1〜14日間であり、より好ましくは1〜7日間である。なお、前架橋の温度は、好ましくは20〜40℃である。
そして、前架橋した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
【0096】
膜成形体
本発明の膜成形体は、本発明のラテックス組成物からなる膜状の成形体である。本発明の膜成形体の膜厚は、好ましくは0.03〜0.50mm、より好ましくは0.05〜0.40mm、特に好ましくは0.08〜0.30mmである。
【0097】
本発明の膜成形体としては、特に限定されないが、本発明のラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形体であることが好適である。
【0098】
ディップ成形体
本発明のディップ成形体は、本発明のラテックス組成物をディップ成形して得られる。ディップ成形は、ラテックス組成物に型を浸漬し、型の表面に当該組成物を沈着させ、次に型を当該組成物から引き上げ、その後、型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。なお、ラテックス組成物に浸漬される前の型は予熱しておいてもよい。また、型をラテックス組成物に浸漬する前、または、型をラテックス組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
【0099】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ラテックス組成物に浸漬する前の型を凝固剤の溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ラテックス組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0100】
凝固剤の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。これらの水溶性多価金属塩は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0101】
凝固剤は、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有していてもよい。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0102】
型をラテックス組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された沈着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択すればよい。
【0103】
次いで、加熱して、型上に形成された沈着物を架橋させる。
架橋時の加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは60〜150℃、より好ましくは100〜130℃の加熱温度で、好ましくは10〜120分の加熱時間である。
加熱の方法は、特に限定されないが、オーブンの中で温風で加熱する方法、赤外線を照射して加熱する方法などがある。
【0104】
また、ラテックス組成物を沈着させた型を加熱する前あるいは加熱した後に、水溶性不純物(たとえば、余剰の界面活性剤や凝固剤)を除去するために、型を水または温水で洗浄することが好ましい。用いる温水としては好ましくは40℃〜80℃であり、より好ましくは50℃〜70℃である。
【0105】
架橋後のディップ成形体は、型から脱着される。脱着方法の具体例は、手で型から剥がす方法、水圧または圧縮空気圧力により剥がす方法等が挙げられる。架橋途中のディップ成形体が脱着に対する十分な強度を有していれば、架橋途中で脱着し、引き続き、その後の架橋を継続してもよい。
【0106】
本発明のディップ成形体は、引張強度などの機械的特性に優れており、しかも、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状の発生を防止可能なものであるため、手袋として特に好適に用いることができる。ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子または澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【0107】
また、本発明のディップ成形体は、上記手袋の他にも、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;指サックなどにも用いることができる。
【実施例】
【0108】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0109】
テトラヒドロフラン不溶解分量
ポリテトラフルオロエチレン製シャーレにラテックス15gを入れ、25℃で2日間風乾後、40℃で24時間真空乾燥することで得られたカルボキシル基含有合成ポリイソプレン300mgを精秤し、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンを100メッシュのステンレス鋼金網製の籠に入れた状態で、100mlのテトラヒドロフランに浸漬して25℃で48時間静置した。そして、浸漬させた籠をテトラヒドロフランから引き上げ、風乾した後、籠ごと60℃で一晩真空乾燥させた。乾燥後、籠に残った不溶解分量を精秤し、テトラヒドロフランに浸漬する前のカルボキシル基含有合成ポリイソプレン重量に対する割合(%)を算出することで、テトラヒドロフラン不溶解分量を求めた。
【0110】
ディップ成形体の引張強度、伸び、500%引張応力
ASTM D412に基づいて、膜厚が約0.2mmのフィルム状のディップ成形体を、ダンベル(商品名「スーパーダンベル(型式:SDMK−100C)」、ダンベル社製)で打ち抜き、引張強度測定用試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTG−1210」、A&D社製)で引張速度500mm/minで引っ張り、破断直前の引張強度(単位:MPa)、破断直前の伸び(単位:%)および伸び率が500%の時の引張応力(単位:MPa)を測定した。
【0111】
ディップ成形体の引裂強度
ASTM D624−00に基づいて、膜厚が約0.2mmのフィルム状のディップ成形体を、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で24時間以上放置した後、ダンベル(商品名「Die C」、ダンベル社製)で打ち抜き、引裂強度測定用の試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTG−1210」、A&D社製)で引張速度500mm/minで引っ張り、引裂強度(単位:N/mm)を測定した。
【0112】
応力保持率
膜厚が約0.2mmのフィルム状のディップ成形体を、テンシロン万能試験機(商品名「RTG−1210」、オリエンテック社製)を用いて、伸び率100%にした直後の引張応力と、伸び率100%で6分間保持した後の引張応力を測定して、応力保持率(伸び率100%で6分間保持した後の引張応力/伸び率100%にした直後の引張応力)(単位:%)を求めた。
【0113】
パッチテスト
膜厚が約0.2mmのフィルム状のディップ成形体を、10×10mmのサイズに切断して得た試験片を、被検者10人の腕にそれぞれ貼付した。その後、180分後に貼付部分を観察することで、即時型アレルギー(Type I)のアレルギー症状の発生有無を確認し、さらに48時間後に貼付部分を観察することで、遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状の発生有無を確認し、以下の基準で評価した。
○:全ての被検者について、貼付から180分後および48時間後のいずれにおいてもアレルギー症状がみられなかった。
×:全ての被検者について、貼付から180分後にはアレルギー症状がみられなかったが、一部の被検者については、貼付から48時間後にアレルギー症状がみられた。
【0114】
製造例1
重量平均分子量が1,300,000の合成ポリイソプレン(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン社製、イソプレンの単独重合体、シス結合単位量98%)100部をシクロヘキサン1,150部と混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、合成ポリイソプレンのシクロヘキサン溶液(a)を調製した。
【0115】
一方、ロジン酸ナトリウム10部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部を水と混合し、重量比で、ロジン酸ナトリウム/ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム=2/1の混合物を含有してなる、温度60℃で濃度1.5重量%のアニオン性界面活性剤水溶液(b)を調製した。
【0116】
次に、上記シクロヘキサン溶液(a)と、上記アニオン性界面活性剤水溶液(b)とを、重量比で1:1.5となるように(このときの固形分比は、ポリイソプレン:アニオン性界面活性剤=8:2.25)、商品名「マルチラインミキサーMS26−MMR−5.5L」(佐竹化学機械工業社製)を用いて混合し、続いて、商品名「マイルダーMDN310」(太平洋機工社製)を用い4100rpmで混合および乳化して、乳化液(c)を得た。なお、その際、シクロヘキサン溶液(a)とアニオン性界面活性剤水溶液(b)の合計のフィード流速は2,000kg/hr、温度は60℃、背圧(ゲージ圧)は0.5MPaとした。
【0117】
次いで、乳化液(c)を、−0.01〜−0.09MPa(ゲージ圧)の減圧下で80℃に加温し、シクロヘキサンを留去し、合成ポリイソプレンの水分散液(d)を得た。その際、消泡剤として、商品名「SM5515」(東レ・ダウコーニング社製)を用い、乳化液(c)中の合成ポリイソプレンに対して300重量ppmの量になるよう、噴霧しながら連続添加を行った。なお、シクロヘキサンを留去する際には、乳化液(c)がタンクの容積の70体積%以下になるように調整し、かつ、攪拌翼として3段の傾斜パドル翼を用い、60rpmでゆっくり攪拌を実施した。
【0118】
そして、シクロヘキサンの留去が完了した後、得られた水分散液(d)を、連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離し、軽液としての固形分濃度56重量%の合成ポリイソプレンラテックス(e1)を得た。なお、遠心分離の際の条件は、遠心分離前の水分散液(d)の固形分濃度10重量%、連続遠心分離時の流速は1300kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は1.5MPaであった。得られた合成ポリイソプレンラテックス(e1)は、固形分濃度が56重量%、体積平均粒子径が1.0μm、pH=10、B形粘度計で測定した粘度が120mPa・s、アニオン性界面活性剤の合計含有量が合成ポリイソプレン100部あたり3.0部であった。また、ラテックス(e1)中の凝集物は観察されず、ラテックス(e1)中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、250重量ppmであった。
【0119】
製造例2
合成ポリイソプレン(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン社製)に代えて、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)(商品名「QUINTAC 3620」日本ゼオン社製)を用いた以外は、製造例1と同様にしてスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ラテックス(e2)を得た。
【0120】
実施例1
カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスの調製
製造例1で得られた合成ポリイソプレンラテックス(e1)の合成ポリイソプレン100部に対して、蒸留水850部を添加して希釈した。この希釈したラテックスを窒素置換された攪拌機付き重合反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、メタクリル酸10部と蒸留水16部を混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
【0121】
さらに、別の容器を用い、蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(g)を調製した。この溶液(g)を重合反応容器内に添加した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)1部を添加して30℃で1時間反応を行い、さらに70℃で2時間反応させて、グラフト重合を行った。なお、グラフト重合の転化率は99重量%であった。また、メタクリル酸単量体単位の導入割合(カルボキシル基変性率)は、全イソプレン単位に対して3重量%であった。
【0122】
反応後、水酸化ナトリウムを添加してpHを10に調整した後、これを連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離(流速は1700kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は0.08MPa)を行い、固形分濃度が56重量%、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が180mPa・s、体積平均粒子径が1.0μm、アニオン性界面活性剤の合計含有量が1.9部(カルボキシル基含有合成ポリイソプレン100重量部に対して)、残留シクロヘキサンが10重量ppm、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドの分解物である1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノール(沸点:145℃)の残留量が119重量ppmのカルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスを得た。なお、ラテックス中のカルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のテトラヒドロフラン不溶解分量は30%以上であった。
【0123】
ラテックス組成物の調製
まず、スチレン−マレイン酸モノ−sec−ブチルエステル−マレイン酸モノメチルエステル重合体(商品名「Scripset550」、Hercules社製)に対して、水酸化ナトリウムを添加することで、重合体中のカルボキシル基を100%中和して、分散剤(i)としてのナトリウム塩水溶液(濃度10重量%)を調製した。そして、この分散剤(i)を、上記にて得られたカルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)100部に対して、固形分換算で0.8部になるようにして、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスに添加した。そして、得られた混合物を攪拌しながら、混合物中のカルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)100部に対して、pH12のアルミン酸ナトリウム水溶液を固形分換算で1部となるように、各配合剤の水分散液を添加した後、水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを10.5に調整したラテックス組成物(j)を得た。その後、得られたラテックス組成物(j)を、25℃の恒温槽で48時間熟成(前架橋)した。
【0124】
ディップ成形体の製造
表面がすり加工されたガラス型(直径約5cm、すり部長さ約15cm)を洗浄し、70℃のオーブン内で予備加熱した後、18重量%の硝酸カルシウムおよび0.05重量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名「エマルゲン109P」、花王社製)からなる凝固剤水溶液に5秒間浸漬し、取り出した。次いで、凝固剤で被覆されたガラス型を70℃のオーブン内で乾燥した。その後、凝固剤で被覆されたガラス型をオーブンから取り出し、上記にて得られたラテックス組成物(j)に、25℃、10秒間の条件にて浸漬してから取り出し、室温で60分間乾燥してフィルムで被覆されたガラス型を得た。そして、このフィルムで被覆されたガラス型を60℃の温水中に2分間浸漬した後、室温で30分間風乾した。その後、このフィルムで被覆されたガラス型を120℃のオーブン内に置き20分間架橋を行った。架橋されたフィルムで被覆されたガラス型を室温まで冷却し、タルクを散布した後、当該フィルムをガラス型から剥離することで、膜厚が約0.2mmのフィルム(ディップ成形体)を得た。そして、得られたフィルム(ディップ成形体)について、引張強度、伸び、500%引張応力、引裂強度、応力保持率、およびパッチテストの各測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
実施例2
ラテックス組成物を調製する際に、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)に対して添加したアルミン酸ナトリウム水溶液として、pHを8としたものを使用した以外は、実施例1と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
実施例3
合成ポリイソプレンラテックス(e1)に対して、添加するメタクリル酸希釈液の量を変更することで、グラフト重合によるメタクリル酸単量体単位の導入割合(カルボキシル基変性率)が、全イソプレン単位に対して1重量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有ポリイソプレン(A1−2)のラテックスを得た。
そして、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスに代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ポリイソプレン(A1−2)のラテックスを使用した以外は、実施例1と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
実施例4
ラテックス組成物を調製する際に、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−2)100部に対して、硫黄系加硫剤として硫黄0.4部、硫黄系加硫促進剤としてジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー EZ)およびジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー BZ−P(BZ))を合計で0.25部をそれぞれ添加した以外は、実施例3と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
実施例5
硫黄系加硫剤である硫黄の添加量を0.8部、硫黄系加硫促進剤であるジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー EZ)およびジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー BZ−P(BZ))の添加量を合計で0.5部に変更した以外は、実施例4と同様にして、pHが(10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
実施例6
製造例1で得られた合成ポリイソプレンラテックス(e1)の代わりに、製造例2で得られたスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ラテックス(e2)を使用するとともに、添加するメタクリル酸希釈液の量を、グラフト重合によるメタクリル酸単量体単位の導入割合(カルボキシル基変性率)が、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体に含まれる全イソプレン単位に対して1重量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、カルボキシル基含有SIS(A2−1)のラテックスを得た。
そして、カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスに代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有SIS(A2−1)のラテックスを使用した以外は、実施例5と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0130】
比較例1
カルボキシル基含有合成ポリイソプレン(A1−1)のラテックスに代えて、製造例1で得られた合成ポリイソプレン(未変性合成ポリイソプレン(A1’−3))のラテックスを使用した以外は、実施例1と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0131】
比較例2
アルミン酸ナトリウム水溶液を添加せず、さらに、硫黄系加硫剤である硫黄の添加量を1.6部、硫黄系加硫促進剤であるジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー EZ)およびジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、ノクセラー BZ−P(BZ))の添加量を合計で1.0部に変更した以外は、実施例4と同様にして、pHが10.5であるラテックス組成物およびディップ成形体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1より、カルボキシル基含有合成ポリイソプレンまたはカルボキシル基含有スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体のラテックスに、アルミニウム化合物水溶液を添加してなるラテックス組成物を用いて得られたディップ成形体は、パッチテストの結果が良好であることから、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状の発生を防止することができたものであり、さらに、引張強度、引張伸び、500%引張応力、引裂強度および応力保持率等の機械的特性に優れたものであった(実施例1〜6)。
一方、未変性合成ポリイソプレンを用いたラテックス組成物を用いて得られたディップ成形体は、アルミニウム化合物による架橋が進行せず、評価ができるようなディップ成形体を得ることができなかった(比較例1)。
また、アルミニウム化合物水溶液に代えて、相当量の硫黄系架橋剤および硫黄系架橋促進剤を用いた場合には、得られるディップ成形体は、パッチテストの結果、遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状が発生する結果となった(比較例2)。