特許第6769577号(P6769577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6769577キナクリドン固溶体及びこれを含有するインキ組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769577
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】キナクリドン固溶体及びこれを含有するインキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/52 20060101AFI20201005BHJP
   C09B 48/00 20060101ALI20201005BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20201005BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20201005BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20201005BHJP
   C09B 67/22 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   C09B67/52 Z
   C09B48/00
   C09B48/00 Z
   C09B67/20 H
   C09D11/02
   C09D11/322
   C09B67/22 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-506360(P2020-506360)
(86)(22)【出願日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2019013575
(87)【国際公開番号】WO2019202939
(87)【国際公開日】20191024
【審査請求日】2020年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2018-79077(P2018-79077)
(32)【優先日】2018年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124143
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】松村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 幸子
(72)【発明者】
【氏名】大竹 英弘
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−528668(JP,A)
【文献】 特開平10−219166(JP,A)
【文献】 特開2001−335577(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/208292(WO,A1)
【文献】 特開2006−096927(JP,A)
【文献】 特開2013−223958(JP,A)
【文献】 特開2002−146224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00 − 69/10
C09D 11/00 − 11/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122のみからなるキナクリドン固溶体顔料であって、
X線回折法により、
回折角2θ=11.9±0.2°の回折ピーク強度に対する
回折角2θ=14.8±0.2°の回折ピーク強度の比率が1.20以下である
ことを特徴とする、キナクリドン固溶体顔料。
【請求項2】
X線回折法により、回折角2θ=13〜14°において観測される最大ピークの半値幅から求められる結晶子の厚さが20nm以上40nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のキナクリドン固溶体顔料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料が、さらにキナクリドン顔料誘導体を含むことを特徴とするキナクリドン顔料。
【請求項4】
前記キナクリドン顔料誘導体の含有量が、
キナクリドン固溶体顔料100質量部に対して、キナクリドン顔料誘導体1〜10質量部であることを特徴とする、請求項3に記載のキナクリドン顔料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料と、キナクリドン顔料誘導体と、を少なくとも含むことを特徴とするインキ組成物。
【請求項6】
キナクリドン固溶体顔料100質量部に対して、キナクリドン顔料誘導体が1〜10質量部となるように含有することを特徴とする請求項5に記載のインキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、トナー、印刷インキ(インクジェット用など)など広範な用途に用いることができるキナクリドン固溶体及びこれを含有するインキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キナクリドン顔料は、塗料、トナー、印刷インキ(インクジェット用など)をはじめとする様々な用途で使用されているが、社会的ニーズや使用用途に合わせて新たな色相の提案は常に求められている。たとえば、インクジェット記録用のマゼンタインクにおいては、発色性に優れ、高彩度、高明度であることから、C.I.ピグメントバイオレット19やC.I.ピグメントレッド122、これらの混合物、又はこれらの固溶体などが検討されてきたが、近年、より黄味の色相を有する顔料が希求されている。このような色相改善は多数の顔料種候補からの選抜、これらの混合などにより無数の組合せが考えられ、さらに得られた顔料は少なくとも従来の色特性を維持している必要があり、このような検討は試行錯誤により行われるものである。
ここで、本発明に近い構成を開示するものとして、82.5−99重量%の未置換γ相のキナクリドンと、1−17.5重量%の1種または複数の2,9−及びまたは3,10−置換キナクリドンとからなるガンマ相のキナクリドン混晶顔料を開示した(特許文献:特開2000−281930)、少なくとも1種の2,5−ジアリールアミノ−3,6−ジヒドロテレフタル酸類を出発物質とした閉環工程と、該反応物のスルホン化工程と、得られたキナクリドン顔料の回収工程とを含むキナクリドンの製造方法を開示した(特許文献:特開2000−248189)がある。
固溶体(混晶と呼ばれることがある)とは、ある一つの結晶相の格子点にある原子が全く不規則に別種の原子と置換するか、あるいは格子間隙に別種の原子が統計的に分布されるように入り込んだ相、すなわち、ある結晶相に他物質が溶け込んだとみなされる混合相をいう。結晶相としては均一相であって2相の共存でないものに限られる。
固溶体は単なる混合物とは異なる物理的又は光学的性質を示す場合がある。
また、固溶体の存在は、例えば、結晶X線回折スペクトルを測定した場合には、単なる混合物の場合には、存在していなかった回折角に新たなピークが発現したり、逆に単なる混合物の場合に存在していた特定の回折角のピークが消失することで確認することができる。キナクリドン顔料である、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202およびC.I.ピグメントレッド209は、それぞれ単独で単一または複数(例えば、C.I.ピグメントバイオレット19では、α、βおよびγ型)の結晶構造を形成するだけでなく、それぞれを構成成分として、単独の結晶構造とは異なる固溶体を形成する。
また、これら固溶体を形成するためには、固溶体を形成し得る各成分の組成があり、構成成分が任意の割合で同一の固溶体を形成できるわけではない。
しかしながら、これまで報告されてきたキナクリドンの固溶体では、結晶子の大きさ、一次粒子の大きさや形を微細かつ均一に整えることは困難であり、インキとして使用した場合、目的の色相と発色を有し、かつ、良好な貯蔵安定性が得られていない。特に、インクジェットインク用キナクリドンマゼンタ顔料では、色相:黄味鮮明、かつ、貯蔵安定性良好なインクが得られるキナクリドン顔料が望まれているが、色相:黄味が得られるC.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド202の固溶体は、一次粒子が過剰に成長してしまうために、インクジェットインクに使用できる微細な一次粒子を得るためには、多大なエネルギーを要するソルベントソルトミリング法を使用する必要があること、ソルベントソルトミリング法を使用せずに、比較的小さい一次粒子が得られるC.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体では、色相:青味であり、一次粒子の大きさ・形が不揃いであるために、インクジェットインクとしての貯蔵安定性が悪い。また、いずれの固溶体についても、固溶体を形成している構成成分の比率を特定することは困難であり、固溶体の組成と色相や貯蔵安定性などの特性値との関係が明確でないといった課題があった。
このようなことから前記キナクリドン顔料については未だ改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−281930号公報
【特許文献2】特開2000−248189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のような実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、インクジェットインクなどにおいて、色相:黄味鮮明で優れた貯蔵安定性を有するキナクリドン顔料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122とで構成される特定の固溶体顔料を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明は、
『項1.C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122と、からなるキナクリドン固溶体顔料であって、X線回折法により、回折角2θ=11.9±0.2°の回折ピーク強度に対する回折角2θ=14.8±0.2°の回折ピーク強度の比率が1.20以下であることを特徴とする、キナクリドン固溶体顔料。(以下、本発明のキナクリドン固溶体顔料と表記する場合がある)。
項2.X線回折法により、回折角2θ=13〜14°に観測される最大ピークの回折ピークの半値幅から求められる結晶子の厚さが20nmから40nmであることを特徴とする、項1に記載のキナクリドン固溶体顔料。
項3.項1又は項2に記載のキナクリドン固溶体顔料が、さらにキナクリドン顔料誘導体を含むことを特徴とするキナクリドン顔料。
項4.前記キナクリドン顔料誘導体の含有量が、キナクリドン顔料誘導体1〜10質量部であることを特徴とする、項3に記載のキナクリドン顔料
項5.項1又は2に記載のキナクリドン固溶体顔料と、キナクリドン顔料誘導体と、を少なくとも含むことを特徴とするインキ組成物。
項6.キナクリドン固溶体顔料100質量部に対して、キナクリドン顔料誘導体が1〜10質量部となるように含有することを特徴とする項5に記載のインキ組成物。』に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のキナクリドン固溶体顔料によれば、インクジェットインクなどにおいて、色相:黄味鮮明で優れた貯蔵安定性を有するキナクリドン顔料を提供する。
<課題の裏返しを記載>。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
<キナクリドン固溶体顔料の説明>
本発明においてキナクリドン固溶体とは、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド122と、を必須成分として含み、より具体的には、C.I.ピグメントバイオレット19の結晶相にC.I.ピグメントレッド122が溶け込んだとみなされる混合相を形成しているものをいう。よって、この固溶体には、C.I.ピグメントバイオレット19の単結晶や、C.I.ピグメントレッド122の単結晶には存在しない、結晶X線回折による回折角に固有のピークを有する。このため、固溶体か、各単結晶の単なる混合物かは、結晶X線回折により容易に判別可能である。
【0010】
本発明のキナクリドン固溶体顔料は、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122と、からなるキナクリドン固溶体顔料であって、X線回折法により、回折角2θ=11.9±0.2°の回折ピークはC.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体に由来し、回折角2θ=14.8±0.2°の回折ピークは固溶体を形成しているC.I.ピグメントレッド122に由来する。したがって、回折角2θ=11.9±0.2°の回折ピーク強度に対する回折角2θ=14.8±0.2°の回折ピーク強度の比率は、固溶体中のC.I.ピグメントレッド122の比率を表す。C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体では、それぞれの成分が互いの結晶子の過剰な成長を抑制しながら固溶体としての結晶子を形成すると考えられる。この際、より均一な大きさと形の一次粒子を得るためには、結晶子から均一な状態とすることが必須であり、そのための要因として、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の比率が重要である。この回折ピーク強度比が1.20以下であることにより、上記した優れた効果を奏する。
【0011】
また、本発明のキナクリドン固溶体顔料は、X線回折法により、回折角2θ=13〜14°に観測される最大ピークの回折ピークの半値幅から求められる結晶子の厚さが20nm以上40nm以下であることが、前記「回折ピーク強度の比率」との組み合わせにおいて、より優れた貯蔵安定性を得られる点で好ましい。結晶子は一次粒子を形成する最小単位の構造であり、この結晶子が微細すぎると、生成する一次粒子も小さくなりやすい。後処理条件により一次粒子を大きく成長させても、その一次粒子は不安定であり、インクなどを作製する際の分散工程により過剰に微細な粒子を生成してしまう。いずれにしても、インクなどを作製した場合に、微細な粒子が多く含まれてしまうため、貯蔵した際にこれらの微細な粒子が再凝集して、インクとしての貯蔵安定性を損なってしまう。そこで、インクなどに安定に分散できるためには、結晶子の厚さを制御する必要がある。
【0012】
また、本発明のキナクリドン固溶体顔料は、さらにキナクリドン顔料誘導体を含有させることができる。キナクリドン顔料誘導体を併用することにより、より高い貯蔵安定性を得ることができる。なお、キナクリドン顔料中、キナクリドン顔料誘導体の存在は、例えば赤外線吸収スペクトル(IR)やマススペクトル(MS)などにより確認することができる。
【0013】
本発明において用いるキナクリドン顔料誘導体は、公知慣用のものをいずれも用いることができる。C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209およびC.I.ピグメントレッド122の骨格に、スルホン酸残基およびその金属塩、ジアルキルアミノアルキルアミノスルファモイル残基、フタルイミドメチル残基、ジアルキルアミノアルキル残基などの1種または複数置換されたキナクリドン顔料誘導体、例えば、キナクリドンスルホン酸、ジメチルアミノプロピルアミノスルファモイルキナクリドン、ピラゾリル−メチルキナクリドン、ジメチルアミノプロピルキナクリドンモノスルホンアミド、ジメチルアミノプロピルキナクリドンジスルホンアミドおよび2−フタルイミドメチルおよびジメチルアミノメチルキナクリドンなどが挙げられる。
なかでも、より優れた貯蔵安定性を与える観点から、スルホン酸およびその金属塩、ジメチルアミノプロピルアミノスルファモイル誘導体が好ましい。
本発明において、キナクリドン顔料誘導体を併用する場合には、キナクリドン固溶体顔料100質量部に対して、キナクリドン顔料誘導体1〜10質量部となるように用いることが好ましい。
【0014】
また、上記した誘導体以外の顔料誘導体もさらに併用しても構わない。その構造としては、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド209およびC.I.ピグメントレッド122の骨格だけでなく、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントブルー15(銅フタロシアニン)、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド254、255などの縮合多環系顔料の骨格を使用することができる。
【0015】
<製造方法>
ここで、本発明のキナクリドン固溶体顔料を得る方法の一例を示すが、これらに限定して解釈されるべきものではない。
【0016】
本発明に用いられる粗製キナクリドン固溶体顔料は、従来公知の方法により製造できる。例えば、粗製キナクリドン固溶体顔料の原料となる2,5−ジアニリノテレフタル酸(C.I.ピグメントバイオレット19の原料)と、2,5−ジ−トルイジノテレフタル酸(C.I.ピグメントレッド122の原料)とを、ポリリン酸中で脱水環化し、水中に投入した後、析出物を濾過、水洗する方法などが挙げられる。ここで、2,5−ジアニリノテレフタル酸と、2,5−ジ−トルイジノテレフタル酸との質量比は、80/20から20/80であり、結晶子をより均一に生成できることから、70/30から60/40であることが好ましい。
【0017】
本発明のキナクリドン固溶体顔料は、上記で得られる粗製キナクリドン固溶体顔料(実施例中では、「キナクリドン固溶体粗顔料」などと称する場合があるが、同じ意味である)を、大過剰の液媒体中で加熱することにより製造することができる。
ここで、液媒体は、粗製キナクリドン固溶体顔料を溶解しないものを選択して用いる。また、結晶制御を安定的に行う観点から、水可溶性有機溶媒を主成分として含むことが好ましい。
【0018】
このような水可溶性有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、イソブタノール、エチレングリコールなどが挙げられるが、製造時の加熱温度や価格並びに安全性を考慮すると、ジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコールやイソブタノールを用いることが好ましい。水可溶性有機溶媒の使用量は特に限定されないが、0.1〜20重量倍相当量の範囲、これ以上多く用いてもよいが、溶剤回収コストが増加する観点から前述の範囲で適宜設定されることが好ましい。
【0019】
このような水可溶性有機溶媒を主成分として含む液媒体のなかでも、水と、水可溶性有機溶媒とを含む液媒体を用いることが好ましい。この場合には、水と、水可溶性有機溶媒とを含む液媒体中の含水率が、20%から80%となるようにすることで、より好適に粗製キナクリドン固溶体顔料の溶解を防ぐことができる。ここで、液媒体全体の量は、特に限定されないが、粗製キナクリドン固溶体顔料の重量を基準にして、大過剰、なかでも5ないし10重量倍相当量の範囲が好ましい。
【0020】
この方法において、加熱温度は60℃〜150℃の範囲で行うことができ、70℃〜140℃の範囲で行うことが好ましい。加熱時間は特に限定されないが、より均一な粒子径の顔料が得られる観点から、2〜10時間とすることができる。ここで、本発明のキナクリドン固溶体顔料を得られやすい観点から、2段階の加熱工程を経ることが好ましい。より具体的には、前記温度範囲の中でも、より低温(たとえば60℃〜100℃)で前記加熱時間の範囲内での加熱を行い、その後、前記温度範囲の中でも、より高温(たとえば100℃を超える温度〜140℃)で前記加熱時間の範囲内での加熱を行うことが好ましい。
【0021】
この加熱工程は、予め温度や攪拌条件を固定して時間毎にサンプリングを行って、顔料の結晶X線回折測定を求めておき、実際の製造では、キナクリドン固溶体顔料が本発明の構成(前記「回折ピーク強度の比率」や、「結晶子の厚さ」)を満足するようになる時間で中止するようにすれば所望の目的物を得ることができる。
【0022】
本発明において、キナクリドン顔料誘導体を併用する場合には、その添加方法は特に限定されるものではないが、前記したような液媒体へ粗製キナクリドン固溶体顔料を加える際に、キナクリドン顔料誘導体をさらに加えてから加熱工程を行うことで、所望のキナクリドン顔料を得ることができ、また、液媒体から水可溶性有機溶媒を蒸留などにより除去した後の水系分散液に添加することもできる。ここで、キナクリドン顔料誘導体の使用量は、前述のとおりである。
【0023】
こうして得られた本発明のキナクリドン固溶体顔料は、着色機能を必要とするような用途であれば何れにも好適に使用できる。例えば、塗料、印刷インキ、着色成形品、静電荷像現像用トナー、液晶表示装置のカラーフィルタ、インクジェット記録用水性インク等の公知慣用の各種用途に使用することができる。
【0024】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において特に断りの無い限り、「%」は「質量%」を表すものとする。
【0025】
[製造例1]
2Lセパラブルフラスコに85%リン酸510gを量り取り、無水リン酸725gを加え攪拌し、84%ポリリン酸を作製した。ポリリン酸の温度が低下し約100℃となってから、C.I.ピグメントバイオレット19の原料である2,5−ジアニリノテレフタル酸255g、次いで、C.I.ピグメントレッド122の原料である2,5−ジ−トルイジノテレフタル酸170gを徐々に加え、原料の添加終了後、125℃で3時間の縮合反応を行なった。反応終了後、10Lステンレスカップに30℃の水を7L量り取り、この水を攪拌しながら,反応液を水中に投入し、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体粗顔料スラリーを得た。この固溶体スラリーをろ過・水洗して、固溶体粗顔料ウェットケーキ1550g(固形分26.5%)を得た。
【0026】
[製造例2]
2Lセパラブルフラスコに85%リン酸510gを量り取り、無水リン酸725gを加え攪拌し、84%ポリリン酸を作製した。ポリリン酸の温度が低下し約100℃となってから、C.I.ピグメントバイオレット19の原料である2,5−ジアニリノテレフタル酸212.5g、次いで、C.I.ピグメントレッド122の原料である2,5−ジ−トルイジノテレフタル酸212.5gを徐々に加え、原料の添加終了後、125℃で3時間の縮合反応を行なった。反応終了後、10Lステンレスカップに30℃の水を7L量り取り、この水を攪拌しながら,反応液を水中に投入し、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体粗顔料スラリーを得た。この固溶体スラリーをろ過・水洗して、固溶体粗顔料ウェットケーキ1560g(固形分26.3%)を得た。
【0027】
[製造例3]
2Lセパラブルフラスコに85%リン酸510gを量り取り、無水リン酸725gを加え攪拌し、84%ポリリン酸を作製した。ポリリン酸の温度が低下し約100℃となってから、C.I.ピグメントバイオレット19の原料である2,5−ジアニリノテレフタル酸297.5g、次いで、C.I.ピグメントレッド122の原料である2,5−ジ−トルイジノテレフタル酸127.5gを徐々に加え、原料の添加終了後、125℃で3時間の縮合反応を行なった。反応終了後、10Lステンレスカップに30℃の水を7L量り取り、この水を攪拌しながら,反応液を水中に投入し、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体粗顔料スラリーを得た。この固溶体スラリーをろ過・水洗して、固溶体粗顔料ウェットケーキ1540g(固形分26.6%)を得た。
【0028】
[実施例1]
製造例1で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ2264g、イソブタノール1940gおよび水2350gを内容積10Lの密閉容器に仕込み、40℃で3時間、さらに140℃で3時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料573gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は0.97、結晶子の厚さは26.1nmであった。
【0029】
[実施例2]
製造例1で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ189g、イソブタノール162gおよび水190gを内容積1Lの密閉容器に仕込み、40℃で3時間、さらに140℃で3時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料47.5gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は1.06、結晶子の厚さは26.1nmであった。
【0030】
[実施例3]
製造例1で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ189g、イソブタノール162gおよび水190gを内容積1Lの密閉容器に仕込み、140℃で5時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメント19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料44.5gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は1.01、結晶子の厚さは22.3nmであった。
【0031】
[実施例4]
製造例1で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ2190g、イソブタノール1940gおよび水2350gを内容積10Lの密閉容器に仕込み、80℃で3時間、さらに135℃で2時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料570gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は0.99、結晶子の厚さは31.3nmであった。
【0032】
[実施例5]
製造例1で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ135g、イソブタノール129gおよび水168gを内容積1Lの密閉容器に仕込み、130℃で5時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーに、ジクロロキナクリドンスルホン酸アルミニウム0.2gを添加し、60℃で30分攪拌した後、ろ過・水洗後、8℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料36.9gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は0.97、結晶子の厚さは26.1nmであった。
【0033】
[実施例6]
製造例3で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ188g、イソブタノール162gおよび水192gを内容積1Lの密閉容器に仕込み、40℃で3時間、さらに140℃で3時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料43.9gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は0.68、結晶子の厚さは13.2nmであった。
【0034】
[比較例1]
製造例2で得た固溶体粗顔料ウェットケーキ190g、イソブタノール162gおよび水190gを内容積1Lの密閉容器に仕込み、100℃で5時間、攪拌下に加熱処理した後、イソブタノールを蒸留により系内から回収し、固溶体顔料スラリーを得た。この固溶体顔料スラリーをろ過・水洗後、98℃で18時間乾燥し、さらに粉砕して、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の固溶体顔料43.5gを得た。この固溶体顔料のXRD回折ピーク強度比は1.31、結晶子の厚さは19.5nmであった。
【0035】
[X線回折法によるピーク強度比と結晶子の厚さの測定方法]
CuKα線をX線源とした粉末X線回折装置(PANalytical製:X’Pert PRO MPD)
を使用し、管球の電流40mA、電圧設定45kV、走査範囲(2θ)を4°〜35°の条件で測定した。
強度比は次の式で定義した。
【0036】
強度比「−」=(回折角2θ=11.9°付近の回折ピーク強度)/(回折角2θ=14.8°付近の回折ピーク強度)
【0037】
結晶子の厚さは、回折角2θが13°〜14°の範囲における最大ピークから、半値幅法によりシェラーの式に従い、シェラー定数を0.9として計算により求めた。
【0038】
[色相の評価方法]
作製した評価用インクを、印刷試験用プリンタで普通紙に単色印刷して色見本を作製した。色見本のベタ印字部を、X−Rite社製eXactで測色した。なお、ここで評価に用いた基準は以下の通りである。b*値が大きい(ゼロに近い)ほど色相は黄味で良好であることを表す。
○:b*≧−5.0
×:b*<−5.0
【0039】
[貯蔵安定性の評価方法]
作製した評価用インクを、スクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で2週間の加熱試験を行い、加熱試験前後の粘度変化を観察することにより、評価用インクの安定性の評価を実施した。測定には東機産業株式会社製TV−35を用いて、20℃、30.0 rpm、1分間予熱攪拌を行なった後、20℃、30.0 rpm、1分間撹拌の条件で測定した。貯蔵安定性は次の式で定義した。
貯蔵安定性[%]=[(評価用インク加熱2週間後の粘度[mPa・s])/(評価用インク作製当日の粘度[mPa・s])]×100
なお、ここで評価に用いた基準は以下の通りである。貯蔵安定性(%)は、数値が小さいほど経時での変化が少なく、貯蔵安定性が良好であることを表す。
◎:300>
○:300〜500
×:>500
【0040】
[キナクリドンインキ組成物のピーク強度比、色相および貯蔵安定性測定結果]
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1〜6は、比較例1に対して、b*値が−5.0以上と大きく色相は黄味であり、かつ、貯蔵安定性は500%以下であり、良好な結果となっている。これは、強度比が1.20以下で小さく、固溶体を形成するC.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122の比率が、結晶子の大きさと形を均一に整えるために効果的な範囲となっていることに起因していると推定される。特に、実施例1〜5は、貯蔵安定性の値が著しく小さく良好となっている。これは、強度比が1.20以下で小さいことに加え、結晶子の厚さが20〜40nmであることから、結晶子の大きさと形が整っているためでなく、結晶子の大きさが比較例1よりも大きくなっているために、インク中での分散安定性が良好となり、優れた貯蔵安定性を発現しているものと推測される。