特許第6769850号(P6769850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6769850
(24)【登録日】2020年9月28日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】ボイルオフガスの液化システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20201005BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20201005BHJP
   F25B 25/00 20060101ALI20201005BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   F17C13/00 302A
   F25B21/00 A
   F25B25/00 B
   F25B1/00 399Y
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-234582(P2016-234582)
(22)【出願日】2016年12月1日
(65)【公開番号】特開2018-91391(P2018-91391A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】仲村 直子
(72)【発明者】
【氏名】小暮 孝之
(72)【発明者】
【氏名】平野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 規敏
【審査官】 家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−080361(JP,A)
【文献】 特開2004−361061(JP,A)
【文献】 特開2003−130290(JP,A)
【文献】 特表2016−505784(JP,A)
【文献】 特開平11−315998(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0182947(US,A1)
【文献】 特開2007−154233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/12
F25B 1/00
F25B21/00
F25B25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガスの貯留タンク内に発生したボイルオフガスの再液化システムであって、
励磁及び消磁が可能な磁界形成部、磁気作業物質の昇温によって蓄熱される温端部、及び前記磁気作業物質の降温によって蓄冷される冷却部を含み、前記ボイルオフガスを前記冷却部で液化する磁気冷凍機と、
前記温端部に冷媒を循環させて前記温端部の蓄熱を吸収する冷凍機と、
を備えることを特徴とするボイルオフガスの再液化システム。
【請求項2】
前記冷凍機は、
冷媒を圧縮する圧縮機、前記圧縮機で圧縮された前記冷媒を膨張させる膨張機、及び前記圧縮機で圧縮された前記冷媒と前記膨張機で膨張された前記冷媒とを熱交換する再生熱交換器と、を含んで逆ブレイトンサイクルを構成し、前記膨張機出口の前記冷媒で前記温端部の蓄熱を吸収する冷凍機であることを特徴とする請求項1に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項3】
前記貯留タンクに設けられ前記低温液化ガスを導出するための導出路と、
前記導出路に設けられ前記低温液化ガスを加温するための加温器と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒と前記加温器で加温された前記低温液化ガスとを熱交換する熱交換器と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項4】
前記冷凍機の排熱を前記加温器の熱源とすることを特徴とする請求項3に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項5】
前記加温器出口の前記低温液化ガスの温度を検出する第1温度計と、
前記第1温度計の検出値に基づいて前記加温器の加熱量を制御する第1制御部と、
を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項6】
前記磁気冷凍機の前記温端部と熱交換した後の前記冷媒の温度を検出する第2温度計と、
前記第2温度計の検出値に基づいて前記冷凍機の作動を制御する第2制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項7】
前記貯留タンクから前記ボイルオフガスを取り出し前記貯留タンクに戻すガス循環路を備え、
前記磁気冷凍機の前記冷却部が前記ガス循環路に設けられることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項8】
前記冷凍機は、前記ガス循環路に設けられ、前記再生熱交換器に流入する前の前記冷媒を前記ボイルオフガスで予冷する予冷器を含むことを特徴とする請求項7に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項9】
前記磁気冷凍機の前記磁界形成部は磁界形成コイルを含み、
前記ガス循環路に設けられたガス流量計と、
前記ガス流量計の検出値に基づいて前記磁気発生コイルに流す電流量を制御する第3制御部と、
を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項10】
前記磁気発生コイルが超低温に保持された超電導コイルであることを特徴とする請求項9に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項11】
前記磁気冷凍機が前記貯留タンクの気相部を形成する隔壁に設けられ、
前記冷却部を前記貯留タンクの前記気相部に配置し、前記気相部のボイルオフガスを液化させる凝縮器として作動させることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【請求項12】
複数の前記貯留タンクの各々に前記磁気冷凍機が設けられ、
1個の前記冷凍機で冷却された前記冷媒で前記磁気冷凍機の各々の前記温端部の蓄熱を吸収するものであることを特徴とする請求項11に記載のボイルオフガスの再液化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイルオフガスの液化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガスや液化石油ガス等の低温液化ガスを貯蔵する貯蔵タンクで発生するボイルオフガスは、貯蔵タンク内の圧力上昇を招くため、その処理方法として、(a)大気に放出するか、(b)他の設備の燃料として利用するか、あるいは(c)再液化する、等の処理方法が考えられる。
このうち、(c)の再液化方式は、(a)と比べて地球環境に対する負荷低減が可能であり、(b)方式のように、他の燃料系統に混合して高圧圧送する方式と比べて消費電力が低減できる、等の利点がある。また、貯留しているLNGの成分濃縮を抑制できるため、安定した成分比率のLNGガスを燃料系統に供給できるという利点がある。
【0003】
現状の再液化システムは、圧縮機で昇圧した後、熱交換器などで液化し、その後ポンプ圧送する方法が一般的である。しかし、このシステムではシステムが煩雑になるため、信頼性の低減や装置の大型化などが課題となる。
【0004】
特許文献1には、ボイルオフガスをガス燃焼器で燃焼させてできた加圧排ガスを利用して動力を回収し、回収した動力で圧縮機及び膨張機を備えた冷凍機を稼働させ、ボイルオフガスを冷却し液化するシステムが開示されている。
特許文献2には、LNGタンクのボイルオフガスをLNG運搬船の推進用プロペラを駆動するエンジンの燃料として利用すると共に、余剰のボイルオフガスを圧縮機及び膨張機を備えた冷凍機で冷却し液化する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−163400号公報
【特許文献2】特開2016−128737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に開示されているように、LNGや液化水素等の低温液化ガスのボイルオフガスを冷凍機で再液化する場合、極低温の冷却温度が要求されるため熱効率は低下する。そのため、冷凍機を稼働するための動力が増加するという問題がある。
【0007】
幾つかの実施形態は、ボイルオフガスの再液化に要する冷凍機の熱効率を高め、冷凍機の必要動力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)少なくとも一実施形態に係るボイルオフガスの液化システムは、
低温液化ガスの貯留タンク内に発生したボイルオフガスの再液化システムであって、
励磁及び消磁が可能な磁界形成部、磁気作業物質の昇温によって蓄熱される温端部、及び前記磁気作業物質の降温によって蓄冷される冷却部を含み、前記ボイルオフガスを前記冷却部で液化する磁気冷凍機と、
前記温端部に冷媒を循環させて前記温端部の蓄熱を吸収する冷凍機と、
を備える。
【0009】
磁気冷凍機は、磁気モーメントのエントロピが外部磁場によって変化する磁気熱量効果を利用した冷凍機であり、磁性体である磁気作業物質に対する磁場印加で得られる発熱効果(冷媒ガス圧縮方式の冷凍機の気体圧縮過程に相当)と、消磁で得られる磁気作業物質の吸熱効果(冷媒ガス圧縮方式の冷凍機の気体膨脹過程に相当)と、これらの過程の間に存在する2つの等温過程との4過程で構成される。理想的にはカルノーサイクルに近く、高い熱効率が得られる。さらに、圧縮機を使用しないため信頼性も高く、かつコンパクト化が可能になる。
他方、磁気冷凍機は磁気作業物質がキュリー点近傍に限定され作動温度範囲が狭い。そこで、他の冷凍機を組み合わせて使用することで、高効率で広い稼働温度範囲を有る再液化システムを実現できる。
【0010】
(2)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記冷凍機は、冷媒を圧縮する圧縮機、前記圧縮機で圧縮された前記冷媒を膨張させる膨張機、及び前記圧縮機で圧縮された前記冷媒と前記膨張機で膨張された前記冷媒とを熱交換する再生熱交換器と、を含んで逆ブレイトンサイクルを構成し、前記膨張機出口の前記冷媒で前記温端部の蓄熱を吸収する冷凍機である。
作動温度範囲が狭い磁気冷凍機に対して、逆ブレイトンサイクルを構成し、稼働温度範囲が比較的広く、室温から磁気冷凍機の稼働温度までの広い稼働温度範囲を有する冷凍機(以下「ブレイトン冷凍機」とも言う。)を組み合わせて使用することで、高効率で広い稼働温度範囲を有る再液化システムを実現できる。
【0011】
(3)一実施形態では、前記(1)又は(2)の構成において、
前記貯留タンクに設けられ前記低温液化ガスを導出するための導出路と、
前記導出路に設けられ前記低温液化ガスを加温するための加温器と、
前記圧縮機から吐出された前記冷媒と前記加温器で加温された前記低温液化ガスとを熱交換する熱交換器と、
を備える。
上記(3)の構成において、貯留タンクに貯留された低温液化ガスの一部を取り出し、気化させて需要先に供給する場合、上記導出路から取り出し、上記加温器及び上記熱交換器で加熱して気化させた後需要先に供給する。
このように、圧縮機から吐出した冷媒の保有熱を利用して低温液化ガスを気化させるので、低温液化ガスの気化に要する熱量を節減できる。
【0012】
(4)一実施形態では、前記(3)の構成において、
前記冷凍機の排熱を前記加温器の熱源とする。
上記(4)の構成によれば、需要先に供給する低温液化ガスの気化熱としてブレイトン冷凍機の排熱を利用することで、再液化システム全体の熱効率を向上できる。
【0013】
(5)一実施形態では、前記(3)又は(4)の構成において、
前記加温器出口の前記低温液化ガスの温度を検出する第1温度計と、
前記第1温度計の検出値に基づいて前記加温器の加熱量を制御する第1制御部と、
を備える。
上記(5)の構成によれば、加温器出口の低温液化ガスの温度を見ながら加温器の加熱量を制御するので、余分な加熱量を節減でき、システム全体の熱効率を向上できる。また、加温器出口の低温液化ガスの温度を制御することで、上記熱交換器に入る液化ガスの温度変動を抑制できるため、低温液化ガスの気化を確実に行うことができる。
【0014】
(6)一実施形態では、前記(1)〜(5)の何れかの構成において、
前記磁気冷凍機の前記温端部と熱交換した後の前記冷媒の温度を検出する第2温度計と、
前記第2温度計の検出値に基づいて前記冷凍機の作動を制御する第2制御部と、
を備える。
上記(6)の構成によれば、磁気冷凍機の排熱を吸収した冷媒の温度に基づいてブレイトン冷凍機の作動を制御し、ブレイトン冷凍機の冷却能力を制御するので、再液化システムを安定稼動できると共に、ブレイトン冷凍機の過剰な稼働を抑えることができ、ブレイトン冷凍機のCOPを向上できる。
【0015】
(7)一実施形態では、前記(1)〜(6)の何れかの構成において、
前記貯留タンクから前記ボイルオフガスを取り出し前記貯留タンクに戻すガス循環路を備え、
前記磁気冷凍機の前記冷却部が前記ガス循環路に設けられる。
上記(7)の構成によれば、上記ガス循環路を設けることで、磁気冷凍機の冷却部はガス循環路の任意の場所に設けることができ、磁気冷凍機の配置の自由度を広げることができる。
【0016】
(8)一実施形態では、前記(7)の構成において、
前記冷凍機は、前記ガス循環路に設けられ、前記再生熱交換器に流入する前の前記冷媒を前記ボイルオフガスで予冷する予冷器を含む。
上記(8)の構成によれば、上記予冷器において、前記再生熱交換器に流入する前の前記冷媒ブレイトン冷凍機の圧縮機から吐出した冷媒をボイルオフガスで予冷することで、ブレイトン冷凍機の冷却能力を向上できる。
【0017】
(9)一実施形態では、前記(7)又は(8)の構成において、
前記磁気冷凍機の前記磁界形成部は磁気発生コイルを含み、
前記ガス循環路に設けられたガス流量計と、
前記ガス流量計の検出値に基づいて前記磁気発生コイルに流す電流量を制御する第3制御部と、
を備える。
上記(9)の構成において、ガス循環路を流れるボイルオフガスの流量を検出し、その検出値に基づいて上記磁気発生コイルに流れる電流量を制御することで、形成される磁界の強さを制御できる。これによって、磁気冷凍機の冷凍能力を制御できるので、ボイルオフガスの液化を確実に行うことができる。
【0018】
(10)一実施形態では、前記(9)の構成において、
前記磁気発生コイルが超低温に保持された超電導コイルである。
上記(10)の構成によれば、磁気発生コイルとして超電導コイルを用いることで、小型で高磁場を形成できる。これによって、磁気作業物質の発熱作用及び吸熱作用を増大できるので、磁気冷凍機の冷却能力を高めることができる。
【0019】
(11)一実施形態では、前記(1)〜(6)の構成において、
前記磁気冷凍機が前記貯留タンクの気相部を形成する隔壁に設けられ、
前記冷却部を前記貯留タンクの前記気相部に配置し、前記気相部のボイルオフガスを液化させる凝縮器として作動させる。
上記(11)の構成によれば、ボイルオフガスを貯留タンクの気相部に設けられた冷却部で液化するので、上記ガス循環路が不要になると共に、貯留タンクの周囲に磁気冷凍機用の設置スペースが不要となり、再液化設備のコンパクト化及び低コスト化が可能になる。
【0020】
(12)一実施形態では、前記(11)の構成において、
複数の前記貯留タンクの各々に前記磁気冷凍機が設けられ、
1個の前記冷凍機で冷却された前記冷媒で前記磁気冷凍機の各々の前記温端部の蓄熱を吸収するものである。
ブレイトン冷凍機は大容量化が容易であり、ブレイトン冷凍機を大容量とすることで、1台のブレイトン冷凍機と複数の磁気冷凍機との組み合わせが可能になる。これによって、1台のブレイトン冷凍機で複数の貯留タンクで発生するボイルオフガスの再液化が可能になる。
なお、冷凍機を構成する膨張機出口の冷媒で温端部の蓄熱を吸収するのが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
幾つかの実施形態によれば、ボイルオフガスの再液化に用いられる冷凍機の熱効率を高め、再液化システムの必要動力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る再液化システムの系統図である。
図2】一実施形態に係る再液化システムの系統図である。
図3】一実施形態に係る磁気冷凍機の概略構成図である。
図4】一実施形態に係る磁気冷凍機のT−S線図である。
図5】一実施形態に係るブレイトン冷凍機の熱サイクルを示す線図である。
図6】一実施形態に係るブレイトン冷凍機の系統図である。
図7】一実施形態に係る再液化システムの概略構成図である。
図8】一実施形態に係る再液化システムの概略構成図である。
図9】一実施形態に係る再液化システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載され又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
幾つかの実施形態に係るボイルオフガスの液化システム10(10A、10B)は、図1及び図2に示すように、低温液化ガスLgの貯留タンク12の内部に発生したボイルオフガス(以下「BOG」とも言う。)を再液化するものであり、磁気冷凍機14と、冷凍機16とを備える。
【0025】
磁気冷凍機14は、励磁及び消磁が可能な磁界形成部17を備える。磁界形成部17は、例えば、電流を流すことで磁界を形成するコイル等で構成される。磁界形成部17によって磁場が形成されると、磁場中に存在する磁気作業物質18は発熱し、磁場が消えると吸熱作用を起こす。磁場印加で発生した磁気作業物質18の熱Qは温端部20に蓄熱される。また、磁気作業物質18は消磁で冷却部22から熱Qを吸熱する。
このように、温端部20では磁気作業物質18の昇温によって蓄熱され、冷却部22では磁気作業物質18の降温によって蓄冷される。
磁気冷凍機14は、BOGを冷却部22で冷却し液化する。
一実施形態では、磁気冷凍機14は、図3に示すように、磁気作業物質18と温端部20及び冷却部22との熱の移動は熱スイッチ24及び26で制御される。
【0026】
図4は、磁気冷凍機14の理想的なT−S線図を示す。図中、ラインB1、B2等は夫々異なる磁束密度線を示す。図4に示すように、磁気冷凍機14は、磁気作業物質18へのB2からB1の磁場印加で得られる発熱効果(気体の圧縮過程に相当)と、B1からB2の消磁で得られる吸熱効果(気体の膨張過程)、及び磁場印加過程及び消磁過程の間で行われる2つの等温過程からなる4過程で構成される。
【0027】
冷凍機16は温端部20に冷媒を循環する冷媒循環路30を備え、低温冷媒を温端部20に循環させて温端部20の熱を吸収する。
【0028】
磁気冷凍機14は、理想的にはカルノーサイクルに近い高効率を得ることができる。さらに、圧縮機を使用しないため信頼性も高く、かつコンパクト化が可能である。
他方、磁気冷凍機14は、磁気作業物質の作動温度がキュリー点近傍に限定され作動温度範囲が狭い。そのため、極低温を得るためには多段に組み合わせる必要がある。
しかし、一実施形態では、1台の磁気冷凍機14と1台の冷凍機16と組み合わせることで、磁気冷凍機を多段にすることなく極低温を得ることができる。
【0029】
一実施形態では、冷凍機16は、図1及び図2に示すように、冷媒を圧縮する圧縮機32(32a、32b、32c)と、圧縮機32で圧縮された冷媒を膨張させる膨張機34と、圧縮機32で圧縮された冷媒と膨張機34で膨張された冷媒とを熱交換する再生熱交換器36と、を含んで逆ブレイトンサイクルを構成する。これらサイクル構成機器は冷媒循環路30に設けられる。冷媒循環路30は膨張機34の出口側で磁気冷凍機14の温端部20に導設され、膨張機34で膨張され低温となった冷媒で温端部20の熱を吸収する。冷媒循環路30には、冷媒として例えばネオンが循環する。
ブレイトン冷凍機は、稼働温度範囲が比較的広く、室温から磁気冷凍機14の稼働温度までの広い稼働温度範囲を有する。
【0030】
上記構成によれば、磁気冷凍機14とブレイトン冷凍機と組み合わせることで、多段にすることなく極低温を得ることができる。
従って、1台の磁気冷凍機14と1台のブレイトン冷凍機との組み合わせで、高効率で広い稼働温度範囲を有る再液化システムを実現できる。
【0031】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、冷凍機16において、圧縮機32は3個の圧縮機32a、32b及び32cが冷媒循環路30に直列に設けられ、各圧縮機の出口に熱交換器38(38a、38b、38c)が設けられる。各圧縮機で圧縮された冷媒は各熱交換器で冷却される。
複数の圧縮機を直列に配置することで、圧縮比を高め冷凍能力を増大できると共に、各圧縮機から吐出される冷媒を冷却することで、圧縮機の総動力を低減でき、COPを向上できる。
【0032】
図5は、ブレイトン冷凍機によって構成される逆ブレイトンサイクルを示す。
図5において、過程aでは、3段の圧縮機32(32a、32b、32c)により冷媒ガスを順次断熱圧縮する。過程bでは、過程aで発生した圧縮熱を熱交換器38(38a、38b、38c)で外部へ放熱する。過程aと過程bとは圧縮機32の段数に応じて繰り返される。過程cでは膨張機34により冷媒ガスを断熱膨張する。過程dでは、過程cで発生した冷熱によって熱交換器で外部を冷却する。図1及び図2に示す実施形態では、膨張機34で冷却した冷媒ガスで温端部20に蓄熱された熱を採熱する。
【0033】
なお、図5に図示された数字1〜6の状態量は、図1及び図2に図示された数字1〜6の部位における状態量を示す。
過程aでは、圧縮工程を3段に分けることで各圧縮機を適正圧力比とし、各圧縮工程で発生した圧縮熱を各熱交換器38(38a、38b、38c)で外部へ放熱する。そのため、圧縮後の冷媒ガスが高圧とならないため、圧縮動力を低減できCOPを向上できる。
【0034】
一実施形態では、冷凍機16がブレイトン冷凍機のとき、図6に示すように、圧縮機32及び膨張機34をターボ型とし、ブレイトン冷凍機のCOPを最大とするため、3段圧縮、1段膨張とし、1段目と2段目の圧縮機32(32a、32b)を1個の駆動軸で共有させ、該駆動軸を1個のモータ39で駆動し、3段目の圧縮機32(32c)と膨張機34とを1個の駆動軸で共有させ、該駆動軸を1個のモータ39で駆動する。
この実施形態において、膨張機34で発生した動力は圧縮機32(32c)を駆動する動力の一部に使用され、ブレイトン冷凍機のCOP向上に寄与する。
【0035】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、貯留タンク12に低温液化ガスを導出するための導出路40が設けられ、導出路40は熱交換器38に導設される。導出路40には熱交換器38の上流側で低温液化ガスを加温するための加温器42が設けられる。
導出路40に流入した低温液化ガスは、まず加温器42で加温された後、熱交換器38で圧縮機32から吐出された冷媒と熱交換される。
上記構成において、貯留タンク12に貯留された低温液化ガスを導出路40を介してガス利用先に供給する場合、加温器42及び熱交換器38で加熱して気化させる。
このように、圧縮機32から吐出した冷媒の保有熱を利用して低温液化ガスを気化させるので、低温液化ガスの気化に要する熱量を節減でき、システム全体の熱効率を向上できる。
【0036】
一実施形態では、冷凍機16の排熱を加温器42の熱源とする。これによって、再液化システム全体の熱効率をさらに向上できる。
【0037】
一実施形態では、図2に示すように、加温器42の出口で低温液化ガスの温度を検出する第1温度計46を備える。制御部44は、第1温度計46の検出値に基づいて加温器42の加熱量を制御する。
これによって、加温器出口の低温液化ガスの温度を見ながら加温器42の加熱量を制御するので、余分な加熱量を節減でき、液化システム全体の熱効率を向上できる。また、熱交換器38に入る低温液化ガスの温度変動を抑制できるので、低温液化ガスを確実に気化できる。
【0038】
一実施形態では、図2に示すように、温端部20と熱交換し磁気冷凍機14の排熱を吸収した冷凍機16の冷媒の温度を検出する第2温度計48を備える。制御部44は、第2温度計48の検出値に基づいて冷凍機16、例えば、圧縮機32及び膨張機34の作動を制御する。
これによって、冷凍機16を安定稼働できると共に、冷凍機16の過剰な稼動を抑えることができ、冷凍機16のCOPを向上できる。
一実施形態では、圧縮機32及び膨張機34は遠心羽根を有するターボ型であり、第2温度計48の検出値に基づいて圧縮機32及び膨張機34の回転数を制御する。
【0039】
一実施形態では、図1及び図2に示すように、貯留タンク12からBOGを取り出し貯留タンク12に戻すガス循環路50を備える。磁気冷凍機14の冷却部22がガス循環路50に設けられる。ガス循環路50を流れるBOGは冷却部22によって冷却され液化する。
上記構成によれば、ガス循環路50の任意の場所に磁気冷凍機14の冷却部22を設けることができ、磁気冷凍機14の配置の自由度を広げることができる。
【0040】
一実施形態では、冷凍機16は、ガス循環路50に設けられる予冷器52を含む。予冷器52では、圧縮機32から吐出された冷媒をBOGで予冷する。
上記構成によれば、圧縮機32から吐出した冷媒をBOGで予冷するので、冷凍機16の冷却能力を向上でき、冷凍機16のCOPを向上できる。
【0041】
一実施形態では、磁気冷凍機14の磁界形成部17は磁気発生コイルを含む。また、図2に示すように、ガス循環路50にBOG流量を検出するガス流量計54を備える。制御部44は、ガス流量計54の検出値に基づいて磁気発生コイルに流す電流量を制御する。
上記構成によれば、ガス循環路50を流れるBOGの流量に基づいて磁気発生コイルに流れる電流量を制御することで、形成される磁界の強さを制御できる。これによって磁気冷凍機14の冷凍能力を制御でき、BOGの液化を確実に行うことができると共に、磁気冷凍機14を安定稼働できる。
【0042】
一実施形態では、磁界形成部17は超低温に保持された超電導コイルを含む。
上記構成によれば、磁気発生コイルとして超電導コイルを用いることで、高磁場を形成でき、これによって、磁気作業物質18の発熱作用及び吸熱作用を増大できるので、磁気冷凍機の冷却能力を高めることができる。
【0043】
一実施形態では、図7に示すように、磁気冷凍機14は貯留タンク12の気相部Gを形成する隔壁12aに設けられる。そして、冷却部22を貯留タンク12の気相部Gに配置し、気相部GのBOGを液化させる凝縮器として作動させる。
上記構成によれば、気相部GのBOGを冷却部22で直接液化するので、熱交換効率を向上できるため、所要冷凍能力を低減できる。また、ガス循環路50が不要になると共に、貯留タンク12の周囲に磁気冷凍機14の設置スペースが不要となり、再液化用設備のコンパクト化及び低コスト化が可能になる。
【0044】
一実施形態では、図8に示すように、冷凍機16の排熱を加温器42の熱源とする。これによって、再液化システム全体の熱効率をさらに向上できる。例えば、3段目圧縮機32(32c)の出口冷媒の一部を加温器42に供給する導出路58を設け、3段目圧縮機32(32c)の保有熱を加温器42の熱源として使用する。
【0045】
一実施形態では、図9に示すように、複数の貯留タンク12の各々に磁気冷凍機14が設けられ、1個の冷凍機16で冷却された冷媒、好ましくは、膨張機34の出口冷媒で複数の磁気冷凍機14の温端部20の熱を吸収する。
冷凍機16がブレイトン冷凍機であるとき大容量化が容易であり、冷凍機16を大容量とすることで、1台の冷凍機16と複数の磁気冷凍機14との組み合わせが可能になる。これによって、1台の冷凍機16で複数の貯留タンク12で発生するBOGの再液化が可能になる。
【0046】
LNGのボイルオフガスシステムとして磁気冷凍機とブレイトン冷凍機とを組み合わせた場合の消費増力を試算してみる。磁気作業物質10kg、磁気エントロピ変化量Δs=6.54J/kg・Kとすると、1回のサイクルで移動することができる熱量の最大値は7.4kJである。LNGタンクへの入熱量を1530kJとすると、運転周波数は0.06Hzとなる。
即ち、LNGの液化点である113Kを維持するために磁気冷凍機の温端部から444Wの熱量を外部に放出する必要がある。この熱量をブレイトン冷凍機で吸収すると仮定する。ブレイトン冷凍機の運転温度を117Kとすると、ブレイトン冷凍機の消費電力は約1.6kWになり、COPは0.28となる。このように、COPを向上でき、動力費を削減できる。
比較例として試算した従来方式(圧縮機で昇圧した後、熱交換器などで液化し、その後ポンプ圧送する方式)のCOPは0.12に留まる。
【0047】
幾つかの実施形態に係る再液化システムを適用可能な貯留タンクから発生するBOGは、LNG以外に、例えば液化窒素、液化水素等が考えられる。水素はクリーンなエネルギとして、また発電の一次エネルギとして期待される。より低い液化温度を有する液化水素に従来の再液化方式を採用すれば、熱効率はさらに低下することが考えられるが、上記幾つかの実施形態に係る再液化システムを適用することで熱効率を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
幾つかの実施形態によれば、ボイルオフガスの再液化に用いられる冷凍機の熱効率を高め、再液化システムの必要動力を低減できる。
【符号の説明】
【0049】
10(10A、10B) 再液化システム
12 貯留タンク
12a 隔壁
14 磁気冷凍機
16 冷凍機
17 磁界形成部
18 磁気作業物質
20 温端部
22 冷却部
24、26 熱スイッチ
30 冷媒循環路
32(32a、32b、32c) 圧縮機
34 膨張機
36 再生熱交換器
38(38a、38b、38c) 熱交換器
39 モータ
40、58 導出路
42 加温器
44 制御部
46 第1温度計
48 第2温度計
50 ガス循環路
52 予冷器
54 ガス流量計
G 気相部
Lg 低温液化ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9