特許第6770264号(P6770264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6770264エマルション塗料の製造方法及び無機ケイ酸塩高分子粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770264
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】エマルション塗料の製造方法及び無機ケイ酸塩高分子粒子
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20201005BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20201005BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20201005BHJP
   C01B 33/26 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/61
   C09D5/02
   C01B33/26
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-90307(P2016-90307)
(22)【出願日】2016年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-197673(P2017-197673A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文彦
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 はるか
(72)【発明者】
【氏名】芝原 敦
(72)【発明者】
【氏名】新井 健司
(72)【発明者】
【氏名】西野 元作
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−150434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合し、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を得る工程と、
該無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去する工程と、
該塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させて、無機ケイ酸塩高分子粒子(ただし、酸化チタン表面を持つ基材を有する無機ケイ酸塩高分子粒子を除く。)の懸濁液を得る工程と、
該無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、樹脂エマルションを混合する工程を含むことを特徴とするエマルション塗料の製造方法。
【請求項2】
前記無機ケイ酸塩高分子粒子は、無機ケイ酸塩高分子のみからなる粒子であることを特徴とする請求項1に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項3】
前記無機ケイ酸塩高分子は、アロフェン及びアロフェン前駆体から得られた類縁化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素化合物の水溶液及び前記アルミニウム化合物の水溶液は、それぞれ濃度が1mmol/L〜10mol/Lであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウムに対する前記ケイ素のモル比が0.1〜5.0であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項6】
前記ケイ素化合物の水溶液と、前記アルミニウム化合物の水溶液を、1mL/min〜10000L/minで急速混合することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項7】
前記ケイ素化合物の水溶液と、前記アルミニウム化合物の水溶液を混合した液は、pHが3〜10であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項8】
前記無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を10〜50℃で0.1〜72時間撹拌する工程をさらに含み、
該撹拌された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から前記副生成物の塩を除去することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項9】
前記無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を20〜150℃で12〜240時間水熱反応させることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項10】
前記無機ケイ酸塩高分子粒子は、比表面積が200m/g以上であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項11】
前記無機ケイ酸塩高分子粒子は、粒径が0.01〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂エマルションの固形分に対する前記無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.01〜0.50であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のエマルション塗料の製造方法によりエマルション塗料を製造する工程と、
該エマルション塗料を塗装対象物に塗布して、膜厚が1〜300μmの塗膜を形成する工程を含むことを特徴とする塗膜の形成方法。
【請求項14】
アルミニウムとケイ素を含み、表面がアルミノール基及び/又はシラノール基で覆われており、多孔質構造を有する無機ケイ酸塩高分子粒子(ただし、酸化チタン表面を持つ基材を有する無機ケイ酸塩高分子粒子を除く。)であって、
粒径が0.1〜10μmの範囲であり、
比表面積が200m/g以上であり、
前記アルミニウムに対する前記ケイ素のモル比が0.5〜3.0であることを特徴とする無機ケイ酸塩高分子粒子。
【請求項15】
無機ケイ酸塩高分子のみからなる粒子であることを特徴とする請求項14に記載の無機ケイ酸塩高分子粒子。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の無機ケイ酸塩高分子粒子と、樹脂を含むエマルション塗料であって、
前記樹脂に対する前記無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.15〜0.25であることを特徴とするエマルション塗料。
【請求項18】
請求項17に記載のエマルション塗料を塗布して形成されている塗膜であって、
膜厚が3〜100μmであり、
水に対する静的接触角が79°以上であり、
少なくとも一部が濡れ性を有することを特徴とする塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション塗料の製造方法塗膜の形成方法、無機ケイ酸塩高分子粒子、懸濁液、エマルション塗料及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料は、通常、様々な材料や製品、部品の表面に、数μmから数百μm程度の膜厚で塗布されており、基材の保護(長寿命化)の他、各々の用途に応じて、それらの表面に色合いや風合い、艶や光輝感を持たせるようにすることで、その機能を発揮している。塗膜の主な機能は、美観と被塗物の保護である。サブミリオーダーの膜厚で美観を保ち、過酷な環境から被塗物を長期に亘り保護する耐久性は、塗膜の重要な機能の一つである。
【0003】
塗膜は、常に何らかの形で外界と接触した状態に晒されており、紫外光や降雨等による自然暴露、人的要素の強い物理的化学的攻撃を受ける状態に置かれている。塗膜の性能は、これら外的環境因子を含める様々な外的刺激に対して、どれだけの耐久性を有するかで決定されることになる。このため、耐久性の評価試験は、自動車、土木用機械類、橋梁や備蓄タンク等の大型鋼構造物、ビルや体育館等の大型公共建築物等の屋外で使用される、あらゆる機械や構造物の総合的性能を評価する上で、重要な判断基準として用いられる。
【0004】
1960年代以降の石油化学の発展により、樹脂合成や高分子化学の研究分野が進展し、耐候性に優れた素材の研究開発が行われるようになった。さらに近年では、従来の耐候性に加え、耐汚染性を有する塗膜の技術開発競争が行われており、その市場ニーズは極めて高い。特に、近年の建築物は、高層化・高意匠化が進んでおり、塗膜の汚染が目立ち易く、再塗工が困難な事例が多い。特に、壁面部に付着した汚染物質が雨水の流下に伴って形成される雨筋汚れが発生しやすく、美観が損なわれることが問題になっている。
【0005】
そこで、雨筋汚れの発生を低減し、長期間に亘り建築物の美観を維持することを可能にする塗料に対する需要が高まっている。近年注目されている方法の一つに、塗膜の表面の親水化が挙げられる。これは、塗膜の表面を親水化させることによって、疎水性の高い汚染物質の付着を防止すると共に、雨水が表面に拡散することにより汚染物質を流去しやすくする方法である。
【0006】
光触媒を含む塗料を、例えば、壁材等の基材に塗装して、光触媒機能を発揮させる試みがなされている。このような塗料により形成される塗膜は、表面に付着した汚染物質を光触媒の触媒能で分解できる上に、親水性を有する光触媒が塗膜の表面に露出しているので、汚れが付着しにくいという特性を発揮する。したがって、光触媒を含有する塗膜は、自ら汚れを除去するセルフクリーニング機能を有している。
【0007】
しかしながら、樹脂を含む有機系塗料を用いる場合には、樹脂が光触媒と接触するために、その触媒作用により樹脂が分解され、塗膜が劣化するという問題がある。こうした点を踏まえて、光触媒を用いること無く、親水性及び耐汚染性を発現する塗膜を構築することが望まれている。
【0008】
一般的に、塗料に対する無機系分散安定剤としてコロイダルシリカの存在が知られており、現在では、塗膜の親水化により、耐汚染性を付与する技術に関する研究が行われている。
【0009】
例えば、特許文献1には、粒子の内部に尿素が固定化された非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカが開示されている。
【0010】
特許文献2には、粒子の内部にε−カプロラクタムが固定化されたシリカ粒子よりなるコロイダルシリカが開示されている。
【0011】
特許文献3には、ポリビニルピロリドンを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜15の範囲にありかつ長径/短径比の平均値が1.5〜10である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカが開示されている。ここで、コロイダルシリカは、ポリビニルピロリドンの存在下で活性珪酸を原料として製造される。
【0012】
特許文献4には、(A)無水マレイン酸と不飽和脂肪酸のディールスアルダー反応物、(B)塩基性化合物、および(C)無機フィラーを含有する親水性樹脂組成物及び親水性樹脂組成物を含有する水性塗料組成物が開示されている。
【0013】
特許文献5には、親水性建築資材を製造するための酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を含有するコンパウンドを含む結合剤系の使用が開示されている。ここで、結合剤系中のAl及びSiOとして計算される酸化物の合計が、無水結合剤系を基準として、40質量%以上であり、且つ硬化した建築資材の表面に置かれた油滴の接触角が90°以上である。その際、接触角の測定を水中で行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−42522号公報
【特許文献2】特開2009−184855号公報
【特許文献3】特開2013−227177号公報
【特許文献4】特開2010−275410号公報
【特許文献5】特表2013−537163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1〜3では、コロイダルシリカの形状のみに着目しており、表面の水酸基の露出量や組成に着目しておらず、組成は単一である。
【0016】
また、特許文献4では、反応に必要な(B)塩基性化合物と副生成物が、様々な場面で使用される塗料マトリクスに与える影響を考慮していない。
【0017】
さらに、特許文献5では、既存の酸化アルミニウムと酸化ケイ素の表面特性を利用しているに過ぎない。
【0018】
そのため、こうした塗料組成物は、シリカの表面特性や、有機化合物の塗料マトリクスとの親和性に依存する方法が多数を占めており、それらの問題を解消できる新しい塗料や塗膜を開発することが強く要請されていた。
【0019】
表面の高い親水性を獲得するためには、比表面積が高く、メソ細孔を有する固体の使用が有効であり、また、固体マトリクスの電荷分布も制御できることが望ましい。例えば、火山噴出物の風化鉱物として、地球表層中に産出するケイ酸塩群は、その特異な形状に起因する微細構造により、比表面積及び細孔容積が高く、選択的イオン交換能を有することが明らかとなっている。
【0020】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、既存光触媒材料等を使用せずに塗膜の表面を親水化し、汚染物質の付着を低減して、耐汚染性に優れる塗膜を開発することを目標として、鋭意研究を重ねた。
【0021】
その結果、本発明者らは、光触媒材料を使用すること無く、水熱反応を利用して、環境親和材料として有用な多孔質材料としての、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液を得た後、樹脂エマルションと混合して、親水性及び耐汚染性に優れるエマルション塗料として応用することが可能であるとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
本発明の一態様は、親水性及び耐汚染性に優れる塗膜を形成することが可能なエマルション塗料及び無機ケイ酸塩高分子粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様は、エマルション塗料の製造方法において、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合し、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を得る工程と、該無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去する工程と、該塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させて、無機ケイ酸塩高分子粒子(ただし、酸化チタン表面を持つ基材を有する無機ケイ酸塩高分子粒子を除く。)の懸濁液を得る工程と、該無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、樹脂エマルションを混合する工程を含む。
本発明の他の一態様は、アルミニウムとケイ素を含み、表面がアルミノール基及び/又はシラノール基で覆われており、多孔質構造を有する無機ケイ酸塩高分子粒子(ただし、酸化チタン表面を持つ基材を有する無機ケイ酸塩高分子粒子を除く。)であって、粒径が0.1〜10μmの範囲であり、比表面積が200m/g以上であり、前記アルミニウムに対する前記ケイ素のモル比が0.5〜3.0である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、親水性及び耐汚染性に優れる塗膜を形成することが可能なエマルション塗料及び無機ケイ酸塩高分子粒子を提供することができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】アロフェン粒子の原子間力顕微鏡写真である。
図2】2.5ヶ月屋外曝露した試験片(アルミ板)の写真である。
図3】6ヶ月屋外曝露した試験片(アルミ板)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
【0027】
(エマルション塗料の製造方法)
エマルション塗料の製造方法は、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合し、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を調製する工程と、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去する工程と、塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させて、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液を得る工程と、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、樹脂エマルションを混合する工程を含む。これにより、親水性及び耐汚染性に優れる塗膜を形成することができる。
【0028】
無機ケイ酸塩高分子粒子は、表面が親水性基(アルミノール基及び/又はシラノール基)で覆われている多孔質構造を有する。
【0029】
無機ケイ酸塩高分子粒子のBET比表面積は、200m/g以上であることが好ましく、300m/g以上であることがさらに好ましい。無機ケイ酸塩高分子粒子の比表面積が200m/g以上であることにより、無機ケイ酸塩高分子粒子の表面における水酸基の露出割合を向上させると共に、無機ケイ酸塩高分子粒子の水中での分散性を向上させることができる。なお、無機ケイ酸塩高分子粒子の比表面積は、通常、400m/g以下である。
【0030】
無機ケイ酸塩高分子粒子の粒径は、0.01〜100μmの範囲であることが好ましく、0.1〜10μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
ケイ素化合物としては、モノケイ酸又はその誘導体であれば、制限されるものではなく、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸アルキル、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジル等)等が挙げられ、1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0032】
アルミニウム化合物としては、水溶液中でアルミニウムイオンを生成することが可能であれば、制限されるものではなく、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシド等が挙げられ、1種又は2種以上を併用して使用することができる。
【0033】
ケイ素化合物の水溶液及びアルミニウム化合物の水溶液は、それぞれ濃度が1mmol/L〜10mol/Lであることが好ましく、20mmol/L〜0.5mol/Lであることがさらに好ましい。これにより、副生成物の生成を抑制することができる。
【0034】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を調製する際に、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を急速混合することが好ましい。これにより、副生成物の生成を抑制することができる。
【0035】
また、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を調製する際に、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を同時混合してもよい。
【0036】
ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を同時混合する際の速度は、1mL/min〜10000L/minであることが好ましく、1mL/min〜50L/minであることがさらに好ましい。これにより、副生成物の生成を抑制することができる。
【0037】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を調製する際のアルミニウムに対するケイ素のモル比は、0.1〜5.0であることが好ましく、0.5〜3.0であることがさらに好ましい。これにより、無機ケイ酸塩高分子粒子の細孔構造を制御することができる。アルミニウムに対するケイ素のモル比が0.1以上であることにより、副生成物として、ベーマイト(α−AlO(OH))やギブサイト(α−Al(OH))が生成するのを抑制することができ、5.0以下であることにより、副生成物として、非晶質シリカが生成するのを抑制することができる。
【0038】
ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合した液のpHは、3〜8であることが好ましく、6〜8であることがさらに好ましい。これにより、無機ケイ酸塩高分子粒子の化学組成を制御することができる。
【0039】
ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合した液のpHを調整するために、アルミニウム化合物の水溶液に予め酸成分を添加しておく、又は、ケイ素化合物の水溶液に予めアルカリ成分を添加しておくことも有効である。
【0040】
酸成分としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。
【0041】
アルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0042】
この時、酸成分又はアルカリ成分と共に、凝集阻止剤として、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール、界面活性剤等の試剤を添加してもよい。
【0043】
なお、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合した液のpHが弱酸性領域であれば、アルカリ性水溶液を、0.1〜5mL/minの速度で滴下して、pHが中性付近になるように調整して、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子を生成させることができる。
【0044】
アルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の水溶液が挙げられる。
【0045】
勿論、ケイ素化合物の水溶液と、アルミニウム化合物の水溶液を混合した液のpHが中性付近の6.5〜8の領域であっても、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子は生成する。
【0046】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去する前に、撹拌或いは振盪することが好ましい。
【0047】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を撹拌或いは振盪する温度は、10〜60℃であることが好ましく、20〜40℃であることがさらに好ましい。
【0048】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を撹拌或いは振盪する時間は、0.1〜72時間であることが好ましく、1〜24時間であることがさらに好ましい。
【0049】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去する方法としては、特に制限されないが、例えば、限外濾過、遠心分離等が挙げられる。
【0050】
無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液から副生成物の塩を除去した後、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液と略同量の水を添加し、良く分散させることが好ましい。
【0051】
無機ケイ酸塩高分子粒子の形態を制御するために、塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液に、必要に応じて、酸性水溶液を添加してもよい。
【0052】
酸性水溶液が添加された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液のpHは、3〜6であることが好ましく、3.5〜4.5であることがさらに好ましい。
【0053】
酸性水溶液としては、例えば、塩化水素、硫酸、硝酸、酢酸、過塩素酸等の水溶液が挙げられる。
【0054】
塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させることにより、化学組成や細孔構造の制御されている無機ケイ酸塩高分子粒子を生成させることができる。
【0055】
塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させる温度は、20〜150℃であることが好ましく、40〜105℃であることがさらに好ましい。
【0056】
塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させる時間は、12〜240時間であることが好ましく、24〜72時間であることがさらに好ましい。
【0057】
この時、水分が蒸発しないような方法で、加熱熟成すれば良く、例えば、反応装置として、オートクレーブをはじめとする密閉容器や、冷却管付きマントルヒーター等を用いることができる。
【0058】
塩が除去された無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を水熱反応させる好適な条件は、100℃前後で48時間程度である。
【0059】
得られる無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液は、そのまま用いてもよいし、水で数回洗浄した後、用いてもよい。
【0060】
また、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液に、アルカリ性水溶液を添加することで、pHを8〜12程度に調整し、生成物をゲル状物質として凝集させて回収してもよい。
【0061】
アルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の水溶液が挙げられる。
【0062】
なお、凝集阻止剤を添加している場合は、有機溶媒中、200℃以下で1時間以上抽出除去してもよい。メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、ベンゼン等が挙げられる。
【0063】
本実施形態では、無機ケイ酸塩高分子の前駆体として、アロフェンの前駆体又はその誘導体の非晶質体又は準結晶質体を用いてもよい。それにより、無機ケイ酸塩高分子粒子として、中空球状のアロフェン粒子を合成することもできる。
【0064】
上記のようにして、反応条件やアルミニウムに対するケイ素のモル比を制御することにより、物理的特性を変化させた、無機ケイ酸塩高分子粒子を合成することができる。
【0065】
次に、無機ケイ酸塩高分子粒子として、アロフェン粒子を合成する条件の一例を示す。
【0066】
例えば、100mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液と、100mmol/Lの塩化アルミニウム水溶液を調製する。それぞれを、アルミニウムに対するケイ素のモル比が0.75となるように秤量し、塩化アルミニウム水溶液に、オルトケイ酸ナトリウム水溶液を添加する。この時の混合液のpHが5〜7付近になることが望ましく、十分に撹拌して、アロフェンの前駆体の懸濁液が生成する。この混合液のpHを制御するために、予め無機酸水溶液あるいは無機塩基水溶液を添加しておいてもよい。混合液が酸性側に移行するときには、透明な水溶液へと変化するが、その後、水酸化ナトリウム水溶液を1ml/min程度で添加して、pHを6〜7付近まで調整すると、アロフェンの前駆体粒子が生成する。アロフェンの前駆体粒子が生成するのと同時に、塩化ナトリウムが生成するので、塩化ナトリウムを遠心分離等を用いて除去し、アロフェンの前駆体粒子の懸濁液を洗浄する。その後、100℃で48時間、オートクレーブを用いて水熱反応させることで、アロフェン粒子の懸濁液が得られる。
【0067】
図1に、得られるアロフェン粒子の原子間力顕微鏡写真を示す。図1の矢印部から、塊状の球状のアロフェン粒子の凝集体が多数確認される。
【0068】
得られるアロフェン粒子は、比表面積が409m/gであり、X線回折図形において、非晶質ケイ酸塩に由来するブロードなピークのみが確認される。
【0069】
なお、アロフェン粒子の表面特性や物理的性質は、アルミニウムに対するケイ素のモル比、オルトケイ酸ナトリウム水溶液及び塩化アルミニウム水溶液の濃度、アロフェンの前駆体粒子の懸濁液の濃度によって制御される。
【0070】
本実施形態において、無機ケイ酸塩高分子粒子は、多孔質性や細孔径分布及び形状を、無機ケイ酸塩高分子の前駆体の組成や、水熱反応の温度、時間を変えることによって制御することができる。ケイ素化合物の水溶液、アルミニウム化合物の水溶液の濃度や、水熱反応の温度、時間を減少させると、薄膜状の無機ケイ酸塩ドメインが生成する。一方、ケイ素化合物の水溶液、アルミニウム化合物の水溶液の濃度や、水熱反応の温度、時間を上昇させると、無機ケイ酸塩ドメインを巨大化させることができる。
【0071】
本実施形態において、無機ケイ酸塩高分子粒子は、表面が親水性基であるシラノール基やアルミノール基で覆われていることと、表面に細孔を有する多孔質構造となっているため、親水性が極めて高い。
【0072】
また、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、樹脂エマルションを混合しても、樹脂と接触している部分が、光触媒とは異なる不活性なセラミック材料であるため、樹脂の分解を抑制することができる。
【0073】
本実施形態のエマルション塗料の形態としては、特に限定されないが、透明クリヤー、着色クリヤー、エナメル、リシン調等の凹凸柄、スパッタ調等の多彩模様柄等の塗料が挙げられる。
【0074】
樹脂エマルションを構成する樹脂としては、エマルション塗料に適用することが可能であれば、特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂が挙げられる。中でも、アクリルシリコーン樹脂が好ましい。
【0075】
アクリルシリコーン樹脂中のシリコーン成分の含有量は、1〜60質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがさらに好ましい。アクリルシリコーン樹脂中のシリコーン成分の含有量が1質量%以上であることにより、塗膜の耐候性を向上させることができる。一方、アクリルシリコーン樹脂中のシリコーン成分の含有量が60質量%以下であることにより、エマルション塗料を重ね塗りした場合に、先に形成された塗膜上にエマルション塗料が付着しやすくなると共に、塗膜が割れにくくなる。
【0076】
樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比は、0.01〜0.50であることが好ましく、0.10〜0.50であることがさらに好ましく、0.15〜0.50であることが特に好ましい。樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.01以上であることにより、塗膜の親水性を向上させることができる。一方、樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.50以下であることにより、塗膜の耐水性を確保することができる。
【0077】
エマルション塗料の固形分濃度は、2〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがさらに好ましく、3〜50質量%であることが特に好ましい。これにより、塗膜の造膜性を向上させることができる。
【0078】
エマルション塗料は、必要に応じて、造膜助剤を含んでいてもよい。
【0079】
造膜助剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコール系エーテル変性物、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコール系エーテル変性物、テキサノール等が挙げられる。
【0080】
また、エマルション塗料は、必要に応じて、消泡剤、増粘剤、凍結抑止剤、湿潤剤、水溶性樹脂、浸透助剤、防腐剤、表面調整剤、ゲル化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤、着色顔料、体質顔料、輝度顔料、遮熱顔料、光触媒顔料等の顔料、寒水石、着色石、着色樹脂チップ等のエマルション塗料に相溶しない意匠材を含んでいてもよい。
【0081】
本実施形態のエマルション塗料の製造方法によれば、無機ケイ酸塩高分子粒子を簡便に製造することができるので、生産性が良好であり、かつ、エマルション塗料とした際も、樹脂の凝集も抑制され、貯蔵安定性に優れている。また、エマルション塗料により形成される塗膜は、表面が親水性であり、煤煙、土埃等の汚染物質が付着しにくく、汚染物質が付着しても雨水により洗い流されることから、優れた耐汚染性と美観を保持することができる。さらに、樹脂の劣化を低減することができるため、塗膜が安定である。
【0082】
(塗膜の形成方法)
塗膜の形成方法は、エマルション塗料の製造方法によりエマルション塗料を製造する工程と、エマルション塗料を塗装対象物に塗布して塗膜を形成する工程を含む。
【0083】
塗膜の膜厚は、1〜300μmであり、1〜200μmであることが好ましく、3〜100μmであることがさらに好ましい。塗膜の膜厚が1μm未満であると、塗膜の強度を確保することができず、クラックが発生する場合がある。一方、塗膜の膜厚が300μmを超えると、無機ケイ酸塩高分子粒子が塗膜の表層部に十分に存在することができず、塗膜の耐汚染性を向上させる効果が不十分になる場合がある。
【0084】
エマルション塗料の塗布方法としては、例えば、刷毛、ローラー、エアースプレー、エアーレススプレー等の公知の方法を用いることができる。
【0085】
なお、膜厚を均一にするために、エマルション塗料を複数回重ね塗りしてもよい。
【0086】
また、エマルション塗料を塗装対象物に塗布した後、自然乾燥させてもよいし、必要に応じて、加熱乾燥させてもよい。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、部は、質量部を意味する。
【0088】
(無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液の調製)
100mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム及び塩化アルミニウム水溶液を調製した。次に、Alに対するSiのモル比が2.0となるように、オルトケイ酸ナトリウム水溶液と塩化アルミニウム水溶液を室温で急速混合し、1時間撹拌した。このとき、pHが7以上の塩基性であったため、1mol/Lの塩酸を用いて、pHを7に調整し、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を得た。懸濁液を20℃で1時間撹拌し、前駆体生成反応を十分に完結させた。遠心分離機を用いて、脱イオン水で充分に無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液を洗浄し、副生成物の塩を除去した後、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液と同量の脱イオン水を添加し、良く分散させた。洗浄後の無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液をテフロン(登録商標)容器に封入し、100℃で48時間加熱して水熱反応させ、無機ケイ酸塩高分子粒子を生成させた。その後、遠心分離機を用いて、脱イオン水で無機ケイ酸塩高分子粒子を充分に洗浄した後、無機ケイ酸塩高分子の前駆体粒子の懸濁液と同量の脱イオン水を添加し、良く分散させることで、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液を得た。ここで、無機ケイ酸塩高分子は、アロフェン及びアロフェン前駆体から得られた類縁化合物を含む。
【0089】
電気乾燥機を用いて、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液を40℃で乾燥させ、無機ケイ酸塩高分子粒子を得た。
【0090】
次に、無機ケイ酸塩高分子粒子のX線回折図形、BET比表面積、化学組成を測定した。
【0091】
(X線回折図形)
自動X線回折装置RINT2100V/PC(リガク社製)を用いて、無機ケイ酸塩高分子粒子のX線回折図形を測定した。
【0092】
その結果、無機ケイ酸塩高分子粒子は、非晶質ケイ酸塩の特徴であるブロードなピークが25°及び40°付近に確認された。
【0093】
(比表面積)
触媒分析装置BELCAT−A(マイクロトラック・ベル社製)を用いて、流通式窒素吸着法により、無機ケイ酸塩高分子粒子の比表面積を測定した。
【0094】
その結果、無機ケイ酸塩高分子粒子は、比表面積が228m/gであった。
【0095】
(化学組成)
蛍光X線分析装置MESA−500(堀場製作所社製)を用いて、無機ケイ酸塩高分子粒子の化学組成を測定した。
【0096】
表1に、無機ケイ酸塩高分子粒子の化学組成を示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1から、無機ケイ酸塩高分子粒子は、Alに対するSiのモル比が2.06であり、ケイ素リッチであることが確認された。
【0099】
(粒度分布)
粒度分布測定装置ZETASIZER−3000HSA(マルバーンインスツルメンツ社製)を用いて、動的光散乱法により粒度分布を測定した。
【0100】
その結果、無機ケイ酸塩高分子粒子は、粒径が0.1μmから10μmの範囲に分布し、粒径が1μm付近にシャープなピークを示す粒度分布曲線が確認された。無機ケイ酸塩高分子粒子の体積平均粒径は1.2μmであった。
【0101】
次に、無機ケイ酸塩高分子粒子を用いて、エマルション塗料Aを調製した。
【0102】
(エマルション塗料Aベースの調製)
アクリル樹脂エマルションのボンコートVONCOAT CF−6140(DIC社製)70部と、消泡剤BYK−028(ビックケミー社製)1部と、造膜助剤テキサノール(イーストマンケミカル社製)5部と、水24部とを混合した後、ディソルバで撹拌・混合し、エマルション塗料Aベースを得た。
【0103】
(実施例1−1)
エマルション塗料Aベースと、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、水で、アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.06となるように混合し、エマルション塗料Aを得た。
【0104】
(実施例1−2)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.12に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、エマルション塗料Aを得た。
【0105】
(実施例1−3)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.18に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、エマルション塗料Aを得た。
【0106】
(実施例1−4)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.25に変更した以外は、実施例1−1と同様にして、エマルション塗料Aを得た。
【0107】
(比較例1−1)
無機ケイ酸塩高分子粒子を添加しなかった以外は、実施例1−1と同様にして、エマルション塗料Aを得た。
【0108】
次に、エマルション塗膜の外観及び親水性を評価した。
【0109】
(エマルション塗膜Aの形成)
20mil(1mil=25.4μm)アプリケーターを用いて、PETフィルムにエマルション塗料Aを塗布した後、指触乾燥するまで室温で養生した。その後、80℃で2日間養生してエマルション塗膜Aを形成し、試験片を得た。エマルション塗膜Aの膜厚は55μmであった。
【0110】
(外観)
エマルション塗膜Aの外観を目視により確認した。
【0111】
(親水性)
自動接触角測定装置OCA35(dataphysics社製)を用いて、エマルション塗膜Aの水に対する静的接触角を測定した。
【0112】
また、霧吹きでエマルション塗膜Aに水を噴霧したときの濡れ具合を目視により観察し、濡れ性を評価した。なお、エマルション塗膜Aの濡れ性の判定基準は、以下の通りである。
【0113】
A:良好な濡れ性が確認される
B:濡れ性は良好であるが一部撥水する
C:濡れ性が一部確認される
D:撥水性が高く、濡れ性が確認されない
表2に、エマルション塗膜Aの外観及び親水性の評価結果を示す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2から、実施例1−1〜1−4のエマルション塗膜Aは、良好な塗膜が形成されていることが確認された。また、実施例1−1〜1−4のエマルション塗膜Aの水に対する静的接触角は、大きな変動が確認されなかった。一方、実施例1−1〜1−4のエマルション塗膜Aの濡れ性は大幅に向上することが明らかとなった。後述するエマルション塗膜Bの濡れ性と耐汚染性の相関関係から、実施例1−1〜1−4のエマルション塗膜Aは、耐汚染性に優れると考えられる。
【0116】
この系においては、アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.18以上であると、エマルション塗膜Aの特性が最も好適であると結論した。
【0117】
次に、無機ケイ酸塩高分子粒子を用いて、エマルション塗料Bを調製した。
【0118】
(エマルション塗料Bベースの調製)
アクリル樹脂エマルションのボンコートVONCOAT CF−6140(DIC社製)55部と、非イオン性グアルゴム誘導体の1.5質量%水溶液25部(固形分換算で0.23部)との混合液(a)を準備した。
【0119】
別途、着色顔料としての、チタン白3部と、アニオン性高分子分散剤オロタン731(日本アクリル化学社製)2部と、水15部との混合液(b)を準備した。
【0120】
混合液(a)に混合液(b)を加えて撹拌し、エマルション(c)を得た。
【0121】
含水ケイ酸マグネシウムの4質量%水分散液40部に、重ホウ酸アンモニウムの5質量%水溶液5部と、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液30部を加え、撹拌混合した後、水25部を加えて希釈し、分散媒(d)を得た。
【0122】
分散媒(d)40部と、エマルション(c)60部を、ディソルバで撹拌して、着色顔料の懸濁液(e)を得た。
【0123】
アクリル樹脂エマルションのボンコートVONCOAT SA−6360(DIC社製)40部に、着色顔料の懸濁液(e)57部と、アルカリ可溶型増粘剤SNシックナー636(サンノプコ社製)1部と、25質量%アンモニア水溶液1部と、水1部とを混合し、ディソルバで撹拌し、エマルション塗料Bベースを得た。
【0124】
(実施例2−1)
エマルション塗料Bベースと、無機ケイ酸塩高分子粒子の懸濁液と、水で、アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比が0.18となるように混合し、エマルション塗料Bを得た。
【0125】
(実施例2−2)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.35に変更した以外は、実施例2−1と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0126】
(実施例2−3)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.50に変更した以外は、実施例2−1と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0127】
(比較例2−1)
無機ケイ酸塩高分子粒子を添加しなかった以外は、実施例2−1と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0128】
次に、エマルション塗膜の耐汚染性及び親水性を評価した。
【0129】
(エマルション塗膜Bの形成)
塗布量が0.45kg/mになるように、アルミ板にエマルション塗料Bをスプレー塗布し、室温で17時間養生した。その後、50℃で72時間養生してエマルション塗膜Bを形成し、試験片を得た。
【0130】
(耐汚染性)
試験片を2.5ヶ月屋外曝露した時に、エマルション塗膜Bに生じる雨筋の汚れ度合いを目視により観察した。なお、エマルション塗膜Bの耐汚染性の判定基準は、以下の通りである。
【0131】
A:雨筋汚れが殆ど認められない
B:淡い雨筋汚れが認められる
C:濃い雨筋汚れが顕著に認められる
(親水性)
自動接触角測定装置OCA35(dataphysics社製)を用いて、エマルション塗膜Bの水に対する静的接触角を測定した。
【0132】
また、霧吹きでエマルション塗膜Bに水を噴霧したときの濡れ具合を目視により観察し、濡れ性を評価した。なお、エマルション塗膜Bの濡れ性の判定基準は、以下の通りである。
【0133】
A:良好な濡れ性が確認される
B:濡れ性は良好であるが一部撥水する
C:濡れ性が一部確認される
D:撥水性が高く、濡れ性が確認されない
表3に、エマルション塗膜Bの耐汚染性及び親水性の評価結果を示す。
【0134】
【表3】
【0135】
図2に、2.5ヶ月屋外曝露した試験片の写真を示す。
【0136】
表3及び図2から、実施例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bは、比較例2−1のエマルション塗膜Bと対比すると、耐汚染性及び親水性が優れることがわかる。具体的には、比較例2−1のエマルション塗膜Bには、全体的に濃い雨筋汚れが生じていた。これに対して、実施例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bでは、雨筋汚れが殆ど確認されなかった。このことから、実施例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bは、高い耐汚染性及び親水性を示すことが明らかとなった。
【0137】
表3から、エマルション塗膜Bの水に対する静的接触角は、無機ケイ酸塩高分子の添加量が増加しても、あまり変動しないが、エマルション塗膜Bの濡れ性は、無機ケイ酸塩高分子の添加量の増加に伴い、向上することがわかる。
【0138】
以上のことから、エマルション塗膜の耐汚染性と、濡れ性の間には明らかな相関関係が確認された。実施例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bの耐汚染性において確認された雨筋汚れが低減する理由は、既存の親水性塗膜の挙動とは明らかに異なり、水に対する静的接触角だけでは説明できない。即ち、エマルション塗膜の表面に落下した雨滴等の汚染液滴の界面移動メカニズムにより、こうした現象が惹起されるものと考えられる。
【0139】
これらのことより、実施例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bは、その表面特性が改質され、無機ケイ酸塩高分子由来の耐汚染性と濡れ性を有し、既存の塗膜とは異なる複合機能を有することが明らかとなった。
【0140】
(実施例2−4)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対する無機ケイ酸塩高分子粒子の質量比を0.20に変更した以外は、実施例2−1と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0141】
(比較例2−2)
無機ケイ酸塩高分子粒子の代わりに、粉末状態のコロイダルシリカのアデライトAT−50(アデカ社製)を用いた以外は、実施例2−4と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0142】
(比較例2−3)
アクリル樹脂エマルションの固形分に対するコロイダルシリカの質量比を0.50に変更した以外は、比較例2−2と同様にして、エマルション塗料Bを得た。
【0143】
次に、エマルション塗膜の耐汚染性を評価した。
【0144】
(エマルション塗膜Bの形成)
塗布量が0.45kg/mになるように、アルミ板にエマルション塗料Bをスプレー塗布し、室温で14日間養生してエマルション塗膜Bを形成し、試験片を得た。
【0145】
(耐汚染性)
試験片を6ヶ月屋外曝露した時に、エマルション塗膜Bに生じる雨筋の汚れ度合いを目視により観察した。なお、エマルション塗膜Bの耐汚染性の判定基準は、以下の通りである。
【0146】
A:雨筋汚れが殆ど認められない
B:淡い雨筋汚れが認められる
C:濃い雨筋汚れが顕著に認められる
表4に、エマルション塗膜Bの耐汚染性の評価結果を示す。
【0147】
【表4】
【0148】
図3に、6ヶ月屋外曝露した試験片の写真を示す。
【0149】
表4及び図3から、実施例2−3、2−4のエマルション塗膜Bは、比較例2−1〜2−3のエマルション塗膜Bと対比すると、耐汚染性が優れることがわかる。具体的には、無機ケイ酸塩高分子又はコロイダルシリカを添加していない比較例2−1のエマルション塗膜Bには、濃い雨筋汚れが生じていた。これに対して、無機ケイ酸塩高分子を添加した実施例2−3、2−4のエマルション塗膜Bの雨筋汚れは、添加量が増加するに従い、薄くなる傾向が観測され、実施例2−3のエマルション塗膜Bでは、雨筋汚れは確認されなかった。このことから、実施例2−3、2−4のエマルション塗膜Bは、高い耐汚染性を示すことが明らかとなった。一方、コロイダルシリカを添加した比較例2−2、2−3のエマルション塗膜Bは、雨筋汚れが明確に観測され、実施例2−3、2−4のエマルション塗膜Bと比較して、耐汚染性が低いことが示唆される。これは、コロイダルシリカの表面の水酸基では達成できない、濡れ性を含めた汚染液滴が滑落する際のエマルション塗膜の表面に対する分子間力と重力の関係を、無機ケイ酸塩高分子粒子の表面に露出しているシラノール及びアルミノール基が絶妙に均衡し、結果的に制御しているためであると考えられる。このように、実施例2−3、2−4のエマルション塗膜Bは、コロイダルシリカでは達成し得なかった優れた親水性及び耐汚染性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本実施形態のエマルション塗料は、添加されている無機ケイ酸塩高分子粒子の優れた耐水性、耐熱性や耐腐食性、特異な形状を利用して、薬剤のマイクロカプセルや浄水用フィルタ等、広範な産業分野で利用することが可能である。しかも、無機ケイ酸塩高分子粒子は、医薬品や化粧品等にも使用され、食品添加物としても使用を認可されているため、安全性が高く、低コストで耐汚染性や耐候性にも優れるため、経済的である。
【0151】
ここで、無機ケイ酸塩高分子粒子は、長期間に亘り、表面の親水性が持続するため、フィラーとして、有機繊維やプラスチックス等の媒体に添加することが可能である。このため、本実施形態のエマルション塗料は、自動車内や浴室等の住居内空間にも応用することが可能である。
図1
図2
図3