(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、自発光型である、視野角が広い、視認性に優れる、低電圧で駆動できる、面発光で薄型化・軽量化可能である、多色表示可能であるなどの特徴を有している。このため、有機EL素子は、ディスプレイなどの画像表示装置や照明装置に好適に用いることができる。
【0003】
有機EL素子は、通常、透明基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極がこの順に積層されることにより構成されている。有機EL素子の発光は、以下に示す(i)〜(v)の過程を経て生じる。
(i)正孔および電子が電極から注入される。
(ii)注入された正孔および電子が輸送される。
(iii)発光層内で正孔と電子が再結合する。
(iv)発光材料が電子的励起状態を形成する。
(v)発光材料が電子的励起状態から光を放射する。
【0004】
有機EL素子では、高効率化するために、発光層の発光材料としてリン光材料を用いることが提案されている。発光材料は、エネルギーを得て電子的励起状態となるとき、一重項励起状態(S
1)と三重項励起状態(T
1)を1:3の確率で生成する。そして、発光材料が電子的励起状態から基底状態に戻る際に、光としてエネルギーを放出する。
発光材料として蛍光材料を用いた場合、S
1からのエネルギーしか光に変換されない。これに対し、リン光材料を用いた場合、S
1からのエネルギーだけでなく、T
1からのエネルギーも光に変換される。このため、発光材料として、蛍光材料を用いた有機EL素子よりも、リン光材料を用いた有機EL素子の方が、高効率化が期待できる(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0005】
リン光材料は、通常、ゲスト材料として、ホスト材料とともに用いられる。ホスト材料とリン光材料(ゲスト材料)とを含む発光層を有する有機EL素子では、正孔と電子との再結合により励起されたホスト材料のエネルギーがリン光材料に移動する。そのエネルギーによりリン光材料が励起され、光エネルギーとして放出される。ホスト材料からリン光材料への効率的なエネルギー移動を可能とするためには、ホスト材料の三重項励起状態(T
1)のエネルギーを、ゲスト材料であるリン光材料のT
1エネルギーよりも大きくすることが好ましい(例えば、非特許文献3参照)。ホスト材料のT
1エネルギーよりもゲスト材料のT
1エネルギーが大きいと、ゲスト材料からホスト材料への逆エネルギー移動が起こって、リン光発光の高効率化が妨げられる可能性がある。
【0006】
発光層に用いられるホスト材料は、これまでにも多数報告されている。例えば、ホスト材料として、カルバゾール系化合物などが挙げられる(例えば、非特許文献4参照)。カルバゾール系化合物は、比較的大きなT
1エネルギーを有する。ホスト材料として一般的に用いられるカルバゾール系化合物としては、下記一般式(10)で示されるCBPなどがある(例えば、非特許文献5参照)。
【0007】
【化1】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者は、上記課題を解決し、発光効率が高く、駆動電圧の低い有機EL素子を実現するために、発光層のホスト材料に着目し、鋭意検討を重ねた。
従来の有機EL素子においては、発光層のホスト材料として、カルバゾール系化合物である一般式(10)で示されるCBPが一般に用いられていた。CBPは、正孔輸送性のみを示し、S
1(一重項励起状態)エネルギーとT
1(三重項励起状態)エネルギーとの差が大きい材料であり、エネルギーギャップが大きい。このため、CBPを用いた発光層を有する有機EL素子では、電極から発光層への正孔および電子の移動におけるエネルギー障壁が大きく、駆動電圧が高かった。
【0019】
駆動電圧を低くするには、発光層のホスト材料として、CBPを用いた場合と同程度のT
1エネルギーを有し、CBPと比較してS
1エネルギーとT
1エネルギーとの差が小さい化合物を用いればよい。このことにより、CBPと比較してホスト材料のエネルギーギャップを小さくできる。
【0020】
そこで、本発明者は鋭意検討を重ね、発光層のホスト材料として、一般式(1)で示される化合物を用いればよいことを見出した。一般式(1)で示される化合物は、2,4,6−トリフェニル−1,3,5−トリアジンの1つのフェニル基の有する水素が、トリフェニルアミノ基の1つのフェニル基に置換された構造を有する。一般式(1)で示される化合物では、トリフェニルアミン骨格が正孔輸送性に寄与し、1,3,5−トリアジン骨格が電子輸送性に寄与する。このため、一般式(1)で示される化合物は、S
1エネルギーとT
1エネルギーとの差が小さい。したがって、一般式(1)で示される化合物をホスト材料として含む発光層を有する有機EL素子では、ホスト材料のエネルギーギャップが小さくなる。その結果、電極から発光層への正孔移動および/または電極から発光層への電子移動におけるエネルギー障壁が小さくなり、有機EL素子の駆動電圧が低くなる。しかも、一般式(1)で示される化合物をホスト材料として含む発光層を有する有機EL素子では、ホスト材料としてCBPを用いた場合と同等の高い発光効率が得られる。
【0021】
さらに、本発明者は鋭意検討を重ね、2つの電極間に形成された発光層を含む積層構造に含まれる正孔輸送層、発光層、電子輸送層から選ばれるいずれかが、一般式(1)で示される化合物を含む場合、電極から発光層への正孔移動および/または電子移動におけるエネルギー障壁を小さくでき、上記効果が得られることを確認し、本発明を想到した。
【0022】
「有機EL素子」
図1は、本実施形態の有機EL素子の一例を説明するための断面模式図である。
図1に示す本実施形態の有機EL素子1は、陽極9(電極)と陰極3(電極)との間に、発光層6を含む積層構造が形成されているものである。
本実施形態の有機EL素子1における積層構造は、正孔注入層8と、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層5と、電子注入層4とがこの順に形成されたものである。
【0023】
図1に示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0024】
(基板)
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。基板2の材料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス、パイレックス(登録商標)等が挙げられる。
【0025】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0026】
(陽極)
陽極9は、正孔注入層8または正孔輸送層7に正孔を注入する。このため、陽極9の材料としては、仕事関数が比較的大きい各種金属材料や、各種合金等が用いられる。陽極9の材料としては、例えば、金、ヨウ化銅、酸化スズ、アルミニウムドープの酸化亜鉛(ZnO:Al)、インジウム酸化スズ(ITO)、インジウム酸化亜鉛(IZO)、フッ素酸化スズ(FTO)等が挙げられる。これらの中でも、透明性や仕事関数の観点から、陽極9の材料として、ITO、IZO、FTOが好ましい。
【0027】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合、陽極9の材料として、透明導電材料が用いられる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合、陽極9の材料として、透明導電材料だけでなく、不透明材料を用いてもよく、反射性の材料を用いてもよい。
【0028】
(正孔注入層)
正孔注入層8に用いられる材料は、陽極の仕事関数と正孔輸送層7のイオン化ポテンシャル(IP)との関係、電荷輸送特性等の観点に応じて選ばれる。正孔注入層8の材料は、適切なIPと電荷輸送特性を有する化合物であればよく、低分子、高分子問わず、各種の有機化合物、無機化合物を選択して用いることができる。正孔注入層8の材料は、1種のみであってもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
正孔注入層8に用いられる無機化合物としては、例えば、モリブデン酸化物(MoOx)、酸化バナジウム(V
2O
5)等が挙げられる。無機化合物は、有機化合物と比較して安定である。このため、正孔注入層8に無機化合物を用いた場合、有機化合物を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られやすい。
【0030】
正孔注入層8に用いられる有機化合物としては、例えば、下記一般式(8−1)〜(8−19)で示される化合物が挙げられる。一般式(8−1)〜(8−19)で示される化合物の中でも、一般式(8−11)で示されるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)、一般式(8−19)で示されるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、一般式(8−4)で示される銅フタロシアニン(CuPc)が好ましく、特に、一般式(8−19)で示されるPEDOTが好ましい。
【0033】
(正孔輸送層)
正孔輸送層7に用いられる材料としては、例えば、下記一般式(7−1)〜(7−36)で示される化合物が挙げられる。一般式(7−1)〜(7−36)で示される化合物の中でも特に、一般式(7−1)で示されるα−NPDと、バンドギャップが大きく、電気的安定性・熱的安定性に優れる一般式(7−36)で示される化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。
正孔輸送層7の材料は、1種のみであってもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、正孔輸送層7は、1層のみで形成されていてもよいし、2層以上積層して形成されたものであってもよい。例えば、正孔輸送層7は、発光層6側に配置した一般式(7−36)で示される化合物からなる層と、正孔注入層8側に配置した一般式(7−1)で示されるα−NPDからなる層とを積層したものとすることができる。
【0038】
(発光層)
本実施形態の有機EL素子1に含まれる発光層6は、電荷輸送および電荷再結合を行うホスト材料と、発光材料であるゲスト材料とを含む。
「ホスト材料」
本実施形態では、ホスト材料として、一般式(1)で表わされる化合物を用いる。
【0039】
【化10】
(一般式(1)中のRは、それぞれ独立に水素、又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミノ基からなる群から選択される置換基である。)
【0040】
一般式(1)中のRは、それぞれ独立に水素、又は炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルアミノ基からなる群から選択される置換基である。一般式(1)中のRは、上記の中でも特に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜5のアルキルアミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましく、全て水素であることが最も好ましい。
【0041】
(化合物の同定)
一般式(1)で表わされる化合物は、核磁気共鳴(NMR)測定の結果を用いて同定できる。NMR測定を行うと、化合物固有のスペクトルが得られる。このスペクトルから、化合物中の原子の結合状態、化学シフト、カップリングの情報を知ることにより、化合物を同定できる。NMR測定は、少量の試料を各種重溶媒に溶かして行う。
【0042】
(化合物の発光スペクトル)
化合物の蛍光スペクトルを測定することで、化合物のS
1(一重項励起状態)エネルギーを求めることができる。また、化合物のリン光スペクトルを測定することで、化合物のT
1(三重項励起状態)エネルギーを求めることができる。
【0043】
「ゲスト材料」
ゲスト材料としては、蛍光材料および/またはリン光材料を用いる。ゲスト材料は、ホスト材料からのエネルギー移動を有効に行うために、ホスト材料の発光波長と重なる吸収波長を有することが好ましい。
【0044】
(リン光材料)
ゲスト材料がリン光材料である場合、ゲスト材料のT
1エネルギーは、ホスト材料のT
1エネルギーよりも小さいことが好ましい。
ゲスト材料として用いられるリン光材料としては、例えば、下記一般式(6−1)〜(6−29)で示される化合物が挙げられる。本実施形態では、ホスト材料として、一般式(1)で表わされる化合物を用いるため、一般式(6−1)〜(6−29)で示されるリン光材料の中でも特に、一般式(6−2)で示されるIr(mppy)
3などの緑色発光が好ましい。
【0047】
Ir(mppy)
3は、一般式(1)で表わされる化合物よりもT
1エネルギーが小さい。このため、ホスト材料として一般式(1)で表わされる化合物を用い、ゲスト材料としてIr(mppy)
3を用いた場合、ホスト材料からゲスト材料への効率的なエネルギー移動が起こる。その結果、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。また、Ir(mppy)
3が、一般式(1)で表わされる化合物の発光波長と重なる吸収波長を有するため、発光効率の高い有機EL素子1となる。
【0048】
ホスト材料として、一般式(1)で表わされる化合物を用い、ゲスト材料としてIr(mppy)
3を用いる場合、ホスト材料中のゲスト材料の含有量は、1〜6重量%であることが好ましい。ゲスト材料の含有量が上記範囲であると、ホスト材料からゲスト材料へのエネルギー移動が効率的に起こり、なおかつゲスト濃度増加による三重項−三重項消滅(TTA)による効率低下を防ぐことができる。このため、有機EL素子1の発光効率が良好となる。
【0049】
(蛍光材料)
ゲスト材料として用いられる蛍光材料としては、例えば、下記一般式(6−30)〜(6−51)で示される化合物が挙げられる。
【0052】
(電子輸送層)
適切な最低未占有分子軌道(LUMO)レベルを有する電子輸送層5を、陰極3または電子注入層4と発光層6との間に設けると、陰極3または電子注入層4から電子輸送層5への電子注入障壁が緩和され、電子輸送層5から発光層6への電子注入障壁が緩和される。また、電子輸送層5に用いられる材料が適切な最高被占有分子軌道(HOMO)レベルを有する場合、発光層6で再結合せずに対極へ流出する正孔が阻止される。その結果、発光層6内に正孔が閉じ込められて、発光層6内での再結合効率が高められる。
電子輸送層5は、電子注入障壁が問題とならず、発光層6の電子輸送能が十分に高い場合には、省略される場合がある。
【0053】
電子輸送層5に用いられる材料としては、例えば、下記一般式(5−1)〜(5−28)で示される化合物が挙げられる。一般式(5−1)〜(5−28)で示される化合物の中でも特に、一般式(5−4)で示されるTPBiが好ましい。
【0057】
(電子注入層)
電子注入層4に用いられる材料は、陰極3の仕事関数と電子輸送層5のLUMOレベル等の観点から選ばれる。電子注入層4に用いられる材料は、電子輸送層5を設けない場合には、発光層6のゲスト材料およびホスト材料のLUMOレベルを考慮して選ばれる。
電子注入層4に用いられる材料は、有機化合物でもよいし、無機化合物でもよい。電子注入層4が、無機化合物からなるものである場合には、例えば、アルカリ金属や、アルカリ土類金属の他、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム等を用いることができ、フッ化リチウムを用いることが好ましい。
【0058】
(陰極)
陰極3は、電子注入層4または電子輸送層5に電子を注入する。このため、陰極3の材料としては、仕事関数の比較的小さな各種金属材料、各種合金等が用いられる。陰極3の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、マグネシウム、カルシウム、金、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、マグネシウムインジウム合金(MgIn)、銀合金等が挙げられる。
【0059】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合、陰極3の材料として、金属からなる不透明電極を用いることができ、反射性の材料を用いてもよい。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合、陰極3の材料として、透明導電材料が用いられる。なお、陰極3の材料としてITOを用いた場合、ITOの仕事関数が大きいため、電子注入が困難となる。また、ITO膜は、スパッタ法やイオンビーム蒸着法を用いて成膜するため、成膜時に電子注入層4等にダメージが与えられる可能性がある。このため、陰極3の材料としてITOを用いる場合には、電子注入層4とITOとの間に、マグネシウム層や銅フタロシアニン層を設けることが好ましい。
【0060】
図1に示す有機EL素子1は、基板2上に、陽極9と、正孔注入層8と、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層5と、電子注入層4と、陰極3をこの順に形成することにより製造できる。陽極9、正孔注入層8、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層5、電子注入層4、陰極3の各層の形成方法は、特に限定されず、各層に用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いて形成できる。
【0061】
具体的には、例えば、陰極3および陽極9を形成する方法として、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等が挙げられる。
また、電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8の各層を形成する方法として、各層となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra−dilute Solution)法などが挙げられる。これらの形成方法の中でも特に、塗布法を用いることが好ましい。
【0062】
また、電子注入層4、電子輸送層5、正孔輸送層7、正孔注入層8のうちいずれかの層が無機材料からなるものである場合、無機材料からなる層は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等の方法を用いて形成できる。
【0063】
図1に示す有機EL素子1は、陽極9と陰極3との間に、発光層6を含む積層構造が形成され、発光層6が一般式(1)で示される化合物を含む。このため、本実施形態の有機EL素子1は、発光効率が高い。また、本実施形態の有機EL素子1は、駆動電圧が低く、消費電力が低い。
【0064】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、一般式(1)で示される化合物を含む層が発光層6である場合を例に挙げて説明したが、一般式(1)で示される化合物を含む層は、2つの電極間に形成された積層構造に含まれていればよく、発光層6に限定されない。
例えば、一般式(1)で示される化合物を含む層は、正孔輸送層7または電子輸送層5であってもよい。
【0065】
また、上述した実施形態においては、一般式(1)で示される化合物を、発光層6のホスト材料として用いる場合を例に挙げて説明したが、一般式(1)で示される化合物は、発光層のゲスト材料として用いることもできるし、発光層を一般式(1)で示される化合物のみで形成することもできる。
【0066】
また、上述した実施形態においては、基板2と発光層6との間に陽極9が配置された順構造の有機EL素子1を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陰極が配置された逆構造のものであってもよい。
【0067】
また、
図1に示す有機EL素子1においては、電子注入層4、電子輸送層5、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極3、電子注入層4、電子輸送層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0068】
また、
図1に示す有機EL素子1は、
図1に示す陽極9、正孔注入層8、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層5、電子注入層4、陰極3の各層の間に、他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層などを有していてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
「実験1」
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、以下に示す化合物からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
図2は、実験1で形成した薄膜に使用した化合物の
1H−NMR測定の結果(スペクトル)を示すグラフである。NMR測定は、実験1で形成した薄膜に使用した化合物を、重溶媒である重クロロホルム(CDCl
3)に溶解して行った。
図2に示す結果から、実験1で形成した薄膜に使用した化合物を同定した。
その結果、一般式(1)で示される化合物であり、一般式(1)中のRが全て水素である(下記一般式(11)で示される化合物)ことが確認できた。
【0070】
【化18】
【0071】
「実験2」
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、一般式(10)で示されるCBPからなる厚み50nmの薄膜を形成した。
「実験3」
ガラス材料からなる基板上に、真空蒸着法により、一般式(6−2)で示されるIr(mppy)
3からなる厚み50nmの薄膜を形成した。
【0072】
実験1および実験2で形成した薄膜について、HORIBA社製のFluoroMax−4を用い、波長300nmの励起光源を用いて、300K及び77Kにおける発光スペクトルを測定した。その結果を
図3および
図4に示す。
図3は、実験1で形成した薄膜の測定結果を示したグラフである。
図4は、実験2で形成した薄膜の測定結果を示したグラフである。
【0073】
常温(300K)での発光スペクトルは、蛍光発光を示している。したがって、常温(300K)での発光スペクトルから、S
1(一重項励起状態)エネルギーに相当する知見が得られる。
図3および
図4に示すように、一般式(1)で示される化合物(実験1)の蛍光発光は、CBP(実験2)の蛍光発光よりも長波長側にみられる。したがって、一般式(1)で示される化合物のS
1エネルギーは、CBPよりも小さい。
【0074】
また、実験1および実験2で形成した薄膜について、低温(77K)での発光スペクトル測定によりリン光発光を観測し、薄膜の三重項励起状態(T
1)のエネルギーを求めた。なお、低温での発光スペクトル測定は、蛍光発光成分を除去してリン光スペクトルを観測するために、励起光照射後50msの遅延を設けて測定した。このようにして求めた実験1および実験2で形成した薄膜の三重項励起状態(T
1)のエネルギーを表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
図3および
図4に示すように、一般式(1)で示される化合物のS
1エネルギーは、CBPよりも小さい。また、表1に示すように、一般式(1)で示される化合物(実験1)のT
1エネルギーは、CBP(実験2)とほぼ同程度である。したがって、一般式(1)で示される化合物は、CBPよりもエネルギーギャップが小さい。よって、一般式(1)で示される化合物は、発光層のホスト材料として、CBPよりも好ましい。
【0077】
また、実験3で形成した薄膜について、実験1および実験2と同様にして、薄膜の三重項励起状態(T
1)のエネルギーを求めた。
このようにして求めた実験3で形成した薄膜(Ir(mppy)
3)の三重項励起状態(T
1)のエネルギーを表1に示す。
【0078】
表1に示すように、一般式(1)で示される化合物(実験1)のT
1エネルギーは、一般的な緑色リン光材料であるIr(mppy)
3のT
1エネルギーよりも大きかった。
したがって、一般式(1)で示される化合物は、発光層のホスト材料に適している。
【0079】
「実施例」
以下に示す材料を用いて、以下に示す方法により、実施例の有機EL素子を作製した。
基板の陽極上に、真空蒸着法により、正孔注入層と、第2正孔輸送層と、第1正孔輸送層と、発光層と、電子輸送層と、電子注入層と、陰極とを、この順に形成し、実施例の有機EL素子を作製した。
【0080】
(基板、陽極)ITO(酸化インジウムスズ)からなる幅3mmにパターニングされた電極を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板。
(正孔注入層)PEDOT(Clevios HIL1.5)(厚み30nm)
(正孔輸送層)「第1正孔輸送層」一般式(7−36)で示される化合物(厚み10nm)「第2正孔輸送層」α−NPD(厚み20nm)
【0081】
(発光層)一般式(1)で示される化合物である一般式(11)で示される化合物をホスト材料として用い、ホスト材料中にゲスト材料であるIr(mppy)
3を1重量%含む(厚み30nm)
(電子輸送層)TPBi(厚み35nm)
(電子注入層)LiF膜(厚み0.8nm)
(陰極)Al膜(厚み100nm)
【0082】
「比較例」
発光層のホスト材料に使用した化合物を、一般式(10)で示されるCBPとしたこと以外は、実施例と同様にして、比較例の有機EL素子を作製した。
【0083】
このようにして得られた実施例および比較例の有機EL素子について、それぞれ電流密度1mA/cm
2における外部量子効率を測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、実施例の有機EL素子の外部量子効率は、比較例の有機EL素子の外部量子効率と同程度であった。
【0084】
【表2】
【0085】
また、実施例および比較例の有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS−100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。その結果を
図5に示す。
【0086】
図5に示すように、実施例の有機EL素子では、比較例の有機EL素子と比較して、印加電圧が同じである場合に高い輝度が得られており、駆動電圧が低かった。これは、発光層のホスト材料として、実施例で使用した一般式(1)で示される化合物が、比較例で使用したCBPと比較して、エネルギーギャップが小さいためであると推定される。
【0087】
また、実施例および比較例の有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電流密度と電力効率を調べた。その結果を
図6に示す。
【0088】
図6に示すように、実施例の有機EL素子では、比較例の有機EL素子と比較して、電流密度が同じである場合に高い電力効率が得られている。これは、発光層のホスト材料として、実施例で使用した一般式(1)で示される化合物が、比較例で使用したCBPと比較して、エネルギーギャップが小さいためであると推定される。