特許第6771504号(P6771504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771504
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】耐熱性樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   C08J5/04CFD
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-70645(P2018-70645)
(22)【出願日】2018年4月2日
(62)【分割の表示】特願2014-528064(P2014-528064)の分割
【原出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-111914(P2018-111914A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-167884(P2012-167884)
(32)【優先日】2012年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 了慶
(72)【発明者】
【氏名】和志武 洋祐
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/037225(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/060976(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/129541(WO,A1)
【文献】 特開2008−238493(JP,A)
【文献】 特開2011−190549(JP,A)
【文献】 特開昭49−034945(JP,A)
【文献】 特表平10−506963(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129540(WO,A1)
【文献】 特開2011−037910(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04−5/10,5/24
B29B 11/16,15/08−15/14
B29C 70/00−70/88
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=99/1〜40/60として含むポリエステル系ポリマー(シロキサン単位と、アリレートエステル単位と、選択的にカーボネート単位と、を含むポリシロキサン−ポリエステルカーボネートコポリマーを除く)とで構成され
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%である、耐熱性樹脂複合体であって、電気または電子機器部品、土木または建材用部品、自動車または二輪車用構造部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブおよび内装部品からなる群から選択される航空機用部品として用いられ、密度が1.31〜2.00g/cmである、耐熱性樹脂複合体。
【請求項2】
マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上であり、半芳香族ポリアミド系樹脂およびポリカーボネート系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60として含むポリエステル系ポリマーとで構成され、
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%である、耐熱性樹脂複合体。
【請求項3】
マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=99/1〜40/60として含むポリエステル系ポリマー(シロキサン単位と、アリレートエステル単位と、選択的にカーボネート単位と、を含むポリシロキサン−ポリエステルカーボネートコポリマーを除く)とで構成され
前記強化繊維は、全芳香族ポリエステル系繊維及びパラ系アラミド繊維からなる群から選択された少なくとも一種で構成され、
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%である、耐熱性樹脂複合体。
【請求項4】
請求項の耐熱性樹脂複合体において、前記ポリエステル系ポリマーは、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=99/1〜40/60として含むポリエステル系ポリマーである、耐熱性樹脂複合体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂複合体において、24℃での曲げ強度が150MPa以上であり、且つ24℃に対する100℃の曲げ強度の保持率が70%以上である、耐熱性樹脂複合体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂複合体において、24℃での曲げ弾性率が5GPa以上であり、且つ24℃に対する100℃の曲げ弾性率の保持率が70%以上である、耐熱性樹脂複合体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂複合体において、密度が2.00g/cm以下、且つ厚さが0.3mm以上である、耐熱性樹脂複合体。
【請求項8】
マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60として含むポリエステル系ポリマー(シロキサン単位と、アリレートエステル単位と、選択的にカーボネート単位と、を含むポリシロキサン−ポリエステルカーボネートコポリマーを除く)とで構成され、
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%であり、密度が1.31〜2.00g/cmである、耐熱性樹脂複合体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2012年7月30日に出願した特願2012−167884の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、優れた力学物性と耐熱性を兼ね備えた耐熱性樹脂複合体およびその製造方法に関するものであり、また、前記複合体を製造するのに有用な耐熱性樹脂複合体用不織布に関するものである。更には、耐熱性や難燃性、寸法安定性、工程通過性に優れた耐熱性樹脂複合体に関するものであり、このような耐熱性樹脂複合体は、一般産業資材分野、電気・電子分野、土木・建築分野、航空機・自動車・鉄道・船舶分野、農業資材分野、光学材料分野、医療材料分野などにおいて、とくに高い温度環境下に曝される機会の多い用途に対して極めて有効に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂複合体は、軽量であり、比強度、比剛性に優れているため、電気・電子用途、土木・建築用途、自動車用途、航空機用途等に広く用いられている。繊維強化樹脂複合体では、力学特性を高めるため、強化繊維を連続繊維で使用することがあるが、そのような連続繊維は、賦形性が悪く、複雑な形状を有する繊維強化樹脂複合体の製造が困難な場合がある。そこで、特許文献1(特開昭61−130345号公報)および特許文献2(特開平6−107808号公報)には、強化繊維を不連続繊維とすることで、複雑な形状を有する繊維強化樹脂複合体を製造することが提案されている。
【0004】
また最近では、製品の安全や安心といった社会意識の高まりから、耐熱性素材への要求も高まっている。
そこで、特許文献3(特公平3−25537号公報)には、耐熱性繊維と未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維とを重量比で92:8〜20:80の割合で混綿してウェブを形成し、該未延伸繊維が加圧下で可塑化し融着作用を生じる温度条件で熱圧着を行う耐熱性不織布の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4(国際公開2007/097436号パンフレット)には、ナイロン6、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂繊維20〜65重量%と炭素繊維35〜80重量%からなる成形材料であって、単繊維状の炭素繊維と単繊維状の熱可塑性樹脂繊維からなり、該炭素繊維の重量平均繊維長(Lw)が1〜15mmの範囲であり、該炭素繊維の配向パラメータ(fp)が−0.25〜0.25の範囲である成形材料が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献5(特表2006−524755号公報)には、高性能の熱可塑性物質からなる溶融ファイバとしての少なくとも一つの第1のファイバと、前記溶融ファイバと比較して温度安定度が高い高性能材料からなる少なくとも一つの第2の補強ファイバと、PVAバインダーと、を含む不織マットから製造されるファイバ複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−130345号公報
【特許文献2】特開平06−107808号公報
【特許文献3】特公平3−25537号公報
【特許文献4】国際公開2007/097436号パンフレット
【特許文献5】特表2006−524755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3または4で用いられているポリフェニレンサルファイド繊維やナイロン6繊維、ポリプロピレン繊維のガラス転移温度は100℃未満である。ガラス転移温度とは、高分子鎖のミクロブラウン運動が始まる温度であるため、その温度を超えると、これらの高分子では、非晶部の分子が動き出してしまう。したがって、100℃以上では高分子の物性が大きく変化するため、高温下での使用は制限される。
【0009】
また、特許文献5では、実施例において、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維とカーボン繊維とPVAバインダー繊維とで構成された不織マットから、圧縮温度350℃において、ファイバ複合材料を形成しているが、ポリフェニレンサルファイド繊維は、上述のようにガラス転移温度が100℃未満であり、実用上制限される。
【0010】
本発明の目的は、高温に暴露される成形工程を経ても、良好な力学的特性を発揮できる耐熱性樹脂複合体を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記目的に加えて、高温でも使用に耐えうる耐熱性はもとより、使用温度下における耐久性を有する耐熱性樹脂複合体を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、このような耐熱性樹脂複合体を効率よく製造できる製造方法および製造に好適に用いることができる耐熱性樹脂複合体用不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記した耐熱性樹脂複合体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、実使用においても高い耐熱性を有する成形体を得るためには、熱融着によりマトリックスを構成する熱可塑性繊維のガラス転移温度が100℃以上である必要があることを見出した。
【0012】
一方で耐熱性熱可塑性繊維の熱融着を利用して樹脂複合体へ成形する場合、このような耐熱性を有する熱可塑性繊維の熱融着を行うためには極めて高い温度で加工しなければならず、例えば、特許文献5の実施例で使用されているPVAバインダー繊維はこのような高温下では熱分解を起こすため、得られたファイバ複合材料は、その力学的性質が低下することを新たな課題として見出した。
【0013】
そしてさらに研究を進めた結果、特定の耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維に加え、特定のバインダー繊維を組み合わせた不織布を加熱成形すると、高温への暴露を行う場合であっても、得られた成形品の力学的性質の低下を抑制できること、さらにこのような組み合わせにより、成形品を使用する際の耐熱性をも向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち本発明の第一の実施態様は、耐熱性樹脂複合体を作製するために用いられる不織布であって、
前記不織布は、耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維とポリエステル系バインダー繊維とを含み、
前記耐熱性熱可塑性繊維は、ガラス転移温度が100℃以上、平均繊度が0.1〜10dtex、及び平均繊維長が0.5〜60mmであり、
前記ポリエステル系バインダー繊維は、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60として含むポリエステル系ポリマーで構成され、
前記不織布を構成する熱可塑性繊維の割合が30〜80wt%である、耐熱性樹脂複合体用不織布である。
【0015】
前記ポリエステル系バインダー繊維の結晶化度は、50%以下であってもよい。また前記耐熱性熱可塑性繊維と前記ポリエステル系バインダー繊維との割合(重量比)が(前者)/(後者)=60/40〜99/1であってもよい。
【0016】
前記耐熱性熱可塑性繊維は、紡糸後、実質的に延伸を施されていない繊維であってもよい。耐熱性熱可塑性繊維は、例えば、ポリエーテルイミド系繊維、半芳香族ポリアミド系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、及びポリカーボネート系繊維からなる群から選択された少なくとも一種で構成されてもよい。
【0017】
前記強化繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、及びパラ系アラミド繊維からなる群から選択された少なくとも一種で構成されてもよい。
【0018】
前記不織布は、例えば目付けが5〜1500g/mであってもよい。
【0019】
本発明の第二の実施態様は、前記不織布を準備する準備工程と、
前記不織布を一枚ないしは多数枚重ね合わせ、耐熱性熱可塑性繊維の流動開始温度以上で加熱圧縮する加熱成形工程と、
を少なくとも備える耐熱性樹脂複合体の製造方法である。
【0020】
本発明の第三の実施態様は、マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックス樹脂は、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60として含むポリエステル系ポリマーとで構成され、
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%である、耐熱性樹脂複合体である。
【0021】
前記耐熱性樹脂複合体において、例えば、24℃での曲げ強度が150MPa以上であり、且つ24℃に対する100℃の曲げ強度の保持率が70%以上であってもよい。また、24℃での曲げ弾性率が5GPa以上であり、且つ24℃に対する100℃の曲げ弾性率の保持率が70%以上であってもよい。
【0022】
前記耐熱性樹脂複合体は、密度が2.00g/cm以下、且つ厚さが0.3mm以上であってもよい。
【0023】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた力学物性と耐熱性を兼ね備え、特に高い温度環境下に曝される機会の多い用途に適用される耐熱性樹脂複合体を提供することが可能である。また本発明の耐熱性樹脂複合体は、特別な加熱成形工程を必要とせず、圧縮成形やGMT成形などの通常の加熱成形工程で安価に製造することができ、更には、目的に応じてその形状も自由に設計可能であり、一般産業資材分野、電気・電子分野、土木・建築分野、航空機・自動車・鉄道・船舶分野、農業資材分野、光学材料分野、医療材料分野などをはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の第一の実施態様は、耐熱性樹脂複合体を作製するために用いられ、耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維とポリエステル系バインダー繊維とを含む不織布である。
【0026】
(耐熱性熱可塑性繊維)
本発明で用いる耐熱性熱可塑性繊維は、高い耐熱性を有しているため、そのガラス転移温度が100℃以上である。また熱可塑性繊維であるため、温度上昇により加熱溶融あるいは加熱流動が可能である。一般に、高分子の力学物性は非晶部の分子が動き出すガラス転移温度で大きく落ち込むことがよく知られている。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やナイロン6などのような200℃以上の融点を持つ熱可塑性繊維であっても、その力学物性は60〜80℃付近のガラス転移温度で大きく落ち込んでしまうため、耐熱性に優れているとは言い難い。従って、ガラス転移温度が100℃未満の熱可塑性繊維を用いると、得られる樹脂複合体の耐熱性が高いとは言えず、実使用に制限がかかるものとなる。本発明で用いる耐熱性熱可塑性繊維のガラス転移温度は、好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上である。なお、耐熱性熱可塑性繊維のガラス転移温度の上限値は繊維の種類に応じて適宜設定されるが、成形性の観点から200℃程度であってもよい。
【0027】
なお、本発明でいうガラス転移温度は、レオロジー社製の固体動的粘弾性装置「レオスペクトラDVE−V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めたものである。ここで、tanδのピーク温度とは、tanδの値の温度に対する変化量の第1次微分値がゼロとなる温度のことである。
【0028】
本発明で用いられる耐熱性熱可塑性繊維は、ガラス転移温度が100℃以上であれば特に制限されず、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよく、具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン系繊維などのフッ素系繊維;半芳香族ポリイミド系繊維、ポリアミドイミド系繊維、ポリエーテルイミド系繊維などのポリイミド系繊維;ポリスルフォン系繊維、ポリエーテルスルフォン系繊維などのポリスルフォン系繊維;半芳香族ポリアミド系繊維;ポリエーテルケトン系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、ポリエーテルケトンケトン系繊維などのポリエーテルケトン系繊維;ポリカーボネート系繊維;ポリアリレート系繊維;全芳香族ポリエステル系繊維などが挙げられる。これらのうち、力学物性や難燃性、耐熱性、成形性、入手のし易さなどの点から、ポリエーテルイミド系繊維、半芳香族ポリアミド系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、ポリカーボネート系繊維などが好適に用いられ、寸法安定性の点から、半芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリスルフォン系繊維、ポリカーボネート系繊維などが好適に用いられる。
【0029】
本発明で用いられる耐熱性熱可塑性繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、各種無機物などを含んでいてもよい。かかる無機物の具体例としては、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンブラック、黒鉛、炭化珪素などの炭素材料;タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アルミナシリケートなどの珪酸塩材料;セラミックビーズ、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物;ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉などのガラス類;セラミックビーズ;窒化ホウ素などが用いられる。
【0030】
本発明で用いる耐熱性熱可塑性繊維の製造においては、繊維形状を得ることができる限り特に限定されるものではなく、公知の溶融紡糸装置を用いることができる。すなわち、溶融押出し機で少なくとも熱可塑性ポリマーのペレットや粉体を溶融混練し、溶融ポリマーを紡糸筒に導きギヤポンプで計量し、紡糸ノズルから吐出させた糸条を巻き取ることで得られる。その際の引取り速度は特に限定されるものではないが、紡糸線上で分子配向が起きるのを低減させる観点から、500m/分〜4000m/分の範囲で引き取ることが好ましい。
【0031】
本発明の耐熱性熱可塑性繊維は、耐熱性樹脂複合体の製造工程での工程通過性や得られる樹脂複合体の寸法安定性や外観を良好にするために、実質的に延伸を施されていない未延伸繊維であるのが好ましい。
なお、「延伸」とは、溶融紡糸後、冷却された繊維に対して、ローラなどの引張手段を用いて繊維を引き伸ばす工程を意味し、ノズルからの吐出後、巻き取る工程において溶融原糸が引き伸ばされる工程は含まれない。
【0032】
本発明で用いる耐熱性熱可塑性繊維の単繊維の平均繊度は、0.1〜15dtexであることが必須である。力学物性の優れた耐熱性樹脂複合体を得るためには、前駆体となる不織布中の強化繊維を耐熱性熱可塑性繊維によって均一に分散させることが望ましい。
【0033】
平均繊度が細いほど、不織布を構成する耐熱性熱可塑性繊維の本数が多くなり、強化繊維をより均一に分散させることができるが、平均繊度が0.1dtexより小さいと、不織布製造工程において互いに絡まり、強化繊維を均一に分散できない可能性がある。また、特に湿式抄紙で不織布を製造する場合、工程中での濾水性が悪くなるなど、工程通過性を大幅に悪化させる可能性がある。一方、平均繊度が15dtexを超える場合、不織布を構成する耐熱性熱可塑性繊維の本数が少なすぎ、強化繊維を均一に分散できない可能性がある。耐熱性熱可塑性繊維の平均繊度は好ましくは0.1〜10dtex、より好ましくは0.2〜9dtex、さらに好ましくは0.3〜8dtex(例えば、0.3〜5dtex)である。
【0034】
本発明で用いる耐熱性熱可塑性繊維の単繊維の平均繊維長は0.5〜60mmであることが必須である。平均繊維長が0.5mmより小さい場合、不織布製造過程で繊維が脱落したり、また、特に湿式抄紙で不織布を製造する場合に、工程中での濾水性が悪くなるなど、工程通過性を大幅に悪化させる可能性があるので好ましくない。平均繊維長が60mmより大きい場合、不織布製造工程において絡まったりして、強化繊維を均一に分散できない可能性があるので好ましくない。好ましくは1〜55mm、より好ましくは3〜50mmである。なお、その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形であってもよいし、中空、扁平、多角形、T字形、L字形、I字形、十字形、多葉形、星形等の異形断面であってもかまわない。
【0035】
(強化繊維)
本発明で用いる強化繊維については、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、有機繊維であっても無機繊維であってもよく、また、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、セラミックファイバー、玄武岩繊維、各種金属繊維(例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス等)を例示することができ、また、有機繊維としては、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維、パラ系アラミド繊維、ポリスルフォンアミド系繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリイミド繊維、フッ素系繊維等を例示することができる。なお、有機繊維は、必要に応じて延伸処理された延伸繊維であってもよい。
強化繊維として用いられる有機繊維が熱可塑性繊維である場合、このような有機繊維の流動開始温度は、耐熱性熱可塑性繊維の流動開始温度よりも高いのが好ましい。
【0036】
これらの強化繊維のうち、力学物性や難燃性、耐熱性、入手のし易さの点から、炭素繊維、ガラス繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、パラ系アラミド繊維が好適に用いられる。
【0037】
本発明で用いられる強化繊維の単繊維の平均繊度は、耐熱性熱可塑性繊維に対して好適に分散できる範囲で適宜設定することができ、例えば、10〜0.01dtexであってもよく、好ましくは8〜0.1dtex、より好ましくは6〜1dtexであってもよい。
【0038】
本発明で用いられる強化繊維の単繊維の平均繊維長は、求められる複合体の強度などに応じて適宜設定することができ、例えば、1〜40mmであってもよく、好ましくは5〜35mm、より好ましくは10〜30mmであってもよい。
なお、繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形であってもよいし、中空、扁平、多角形、T字形、L字形、I字形、十字形、多葉形、星形等の異形断面であってもかまわない。
【0039】
(ポリエステル系バインダー繊維)
本発明で用いられるポリエステル系バインダー繊維は、不織布中において、耐熱性熱可塑性繊維と組み合わせることによって、耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維との分散性を向上させるとともに、不織布を樹脂複合体に成形した際に、耐熱性熱可塑性樹脂が発揮する耐熱性を損なうことなく、樹脂複合体への耐熱性を発揮させることができる。
ポリエステル系バインダー繊維は、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60(好ましくは99/1〜40/60)として含むポリエステル系ポリマーで構成されている。
【0040】
このようなポリエステル系ポリマーを用いることで、良好なバインダー特性と共に、高温の成形時においての熱分解を抑制できる。より好ましくは(A)/(B)=90/10〜45/55であり、更に好ましくは(A)/(B)=85/15〜50/50である。
【0041】
前記ポリエステル系ポリマーは、本発明の効果を損なわない限り、テレフタル酸とイソフタル酸以外の少量の他のジカルボン酸成分を、一種または複数種類組み合わせて含んでもよい。例えば、その他のジカルボン酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4、4′−ジフェニルジカルボン酸、3、3′−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸;ヘキサヒドロテレフタル酸、1、3−アダマンタンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などをあげることができる。
【0042】
また、ポリエステル系ポリマーを構成するジオール成分としては、エチレングリコールをジオール成分として用いることができる。また、それ以外にもジオール成分としては、例えば、クロロハイドロキノン、4、4′−ジヒドロキシビフェニル、4、4′−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4、4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4、4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、p−キシレングリコールなどの芳香族ジオール;ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールをあげることができる。これらのジオール成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明で用いるポリエステル系バインダー繊維を構成するポリエステル系ポリマーの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適用することができる。すなわち、ジカルボン酸成分とジオール成分とを出発原料としてエステル交換反応を経て溶融重合する方法、またはジカルボン成分とジオール成分を直接エステル化せしめた後に溶融重合する方法などで製造することができる。
【0044】
本発明で用いるポリエステル系バインダー繊維を構成するポリエステル系ポリマーの極限粘度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性や工程通過性やコストの点から、例えば0.4〜1.5の範囲であってもよく、0.6〜1.3の範囲であることが望ましい。ここで、極限粘度はフェノール/クロロエタン(重量比1/1)の混合溶液に溶解させ、30℃で測定した粘度より求めた粘度であり、「η」で表される。
【0045】
このようにして得られたポリエステル系ポリマーを、公知または慣用の方法により溶融紡糸することによって、ポリエステル系バインダー繊維を得ることができる。溶融紡糸では、加熱することにより溶融したポリエステル系ポリマーを細孔ノズルより空気中に吐出し、吐出された溶融糸条を細化させながら空気中などで冷却、固化し、その後一定の速度で引き取ることにより繊維化することができる。
【0046】
また、本発明で用いるポリエステル系バインダー繊維は、良好なバインダー性能を発揮する観点から、例えばその結晶化度が50%以下であってもよく、好ましくは45%以下、更に好ましくは40%以下であってもよい。結晶化度は、ジカルボン酸成分の共重合比や、繊維化工程における延伸比率などを調整することによって、所望の値とすることができる。なお、耐熱性樹脂複合体を成形する観点から、ポリエステル系バインダー繊維の結晶化度は5%以上であってもよい。
【0047】
本発明で用いるポリエステル系バインダー繊維の単繊維繊度は特に限定されず、例えば0.1〜50dtex、好ましくは0.5〜20dtexの平均繊度の繊維が広く使用できる。繊維の繊度はノズル径や吐出量より適宜調整すればよい。
【0048】
本発明で用いられるポリエステル系バインダー繊維の単繊維の平均繊維長は、求められる複合体の強度などに応じて適宜設定することができ、例えば、1〜40mmであってもよく、好ましくは5〜35mm、より好ましくは10〜30mmであってもよい。
【0049】
本発明で用いるポリエステル系バインダー繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形であってもよいし、中空、扁平、多角形、T字形、L字形、I字形、十字形、多葉形、星形等の異形断面であってもかまわない。
さらに、ポリエステル系バインダー繊維は、耐熱性樹脂複合体を形成できる限り、必要に応じて、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型などの複合繊維であってもよい。この場合、所定の結晶化度は、融着性を発揮する側のポリエステル系ポリマーが有していればよい。
【0050】
(不織布)
本発明の不織布は、不連続繊維が3次元構造に絡み合って結合している多孔質のシートであり、耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維とポリエステル系バインダー繊維とを少なくとも含んでいる。
【0051】
本発明で用いる不織布を構成する耐熱性熱可塑性繊維の割合は30〜80wt%であることが必須である。熱可塑性繊維の割合が30wt%より少ない場合、強化繊維を均一に分散することができず、これを加熱成形して得られた樹脂複合体は概観不良を起こすばかりでなく、力学物性の低いものになってしまう。また、熱可塑性繊維の割合が80wt%以上の場合、強化繊維の混合量が少なくなってしまい、十分な力学物性が持った樹脂複合体が得られない。好ましくは35〜75wt%であり、より好ましくは40〜70wt%である。
【0052】
また、不織布における耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維との割合(重量比)は(前者)/(後者)=30/70〜85/15であってもよい。好ましくは(前者)/(後者)=35/65〜75/25、より好ましくは40/60〜70/30であってもよい。
【0053】
不織布における耐熱性熱可塑性繊維とポリエステル系バインダー繊維との割合(重量比)は、例えば(前者)/(後者)=60/40〜99/1の範囲にあってもよく、好ましくは70/30〜99/1、より好ましくは80/20〜99/1であってもよい。
【0054】
さらに、不織布における耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維の総量と、ポリエステル系バインダー繊維との割合(重量比)は、例えば(前者)/(後者)=85/15〜99/1の範囲にあってもよく、好ましくは88/12〜99/1、より好ましくは90/10〜99/1であってもよい。
【0055】
このような特定の割合で耐熱性熱可塑性繊維とポリエステル系バインダー繊維とを組み合わせると、不織布を熱圧着する工程で、樹脂複合体の力学的特性が低減するのを有効に防止できるだけでなく、得られた樹脂複合体が高温度下にさらされた場合であっても、力学的特性を保持することが可能となる。
【0056】
本発明の不織布の製造方法は特に限定はなく、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、スチームジェット不織布、乾式抄紙法、湿式抄紙法などの公知または慣用の不織布の製造方法が挙げられる。なかでも、生産効率や強化繊維の不織布中での均一分散の面から、湿式抄紙法が好ましい。例えば、湿式抄紙法では、前記耐熱性熱可塑性繊維、強化繊維およびポリエステル系バインダー繊維を少なくとも含む水性スラリーを作製し、ついでこのスラリーを通常の抄紙工程に供すればよい。
【0057】
抄紙工程では、スラリーを乾燥させるための加熱下での乾燥工程が行われる。この際の加熱温度は、ポリエステル系バインダー繊維の軟化点以上であり、この乾燥工程において、スラリー中のポリエステル系バインダー繊維が耐熱性熱可塑性樹脂と強化繊維とを融着し、紙またはウェブ形状を有する不織布を形成することができる。
また、不織布を製造する際、ポリエステル系バインダー繊維による接着性を向上させるため、一旦得られたウェブに対して、さらに熱プレス、スルーエアボンドなどのサーマルボンド工程を行うのが好ましい。
また、不織布の均一性や圧着性を高めるために、スプレードライによりバインダーを塗布してもよい。
【0058】
本発明で用いる不織布の目付は5〜1500g/mであることが好ましく、より好ましくは6〜1400g/m、さらに好ましくは7〜1300g/mであってもよい。目付が小さすぎたり、大きすぎたりする場合、地合斑が大きくなり、また工程通過性が悪化する恐れがある。
【0059】
(耐熱性樹脂複合体の製造方法)
本発明の耐熱樹脂複合体の製造方法は、前記不織布を準備する工程と、前記不織布を一枚ないしは多数枚重ね合わせ、前記耐熱性熱可塑性繊維の流動開始温度以上で加熱圧縮する加熱成形工程と、を少なくとも備えている。なお、不織布は、単一の種類の不織布を複数用いてもよいし、異なる種類の不織布を組み合わせて用いてもよい。
なお、ここで流動開始温度とは、結晶性樹脂の場合はその融点であり、非結晶性樹脂の場合はそのガラス転移温度を意味している。
【0060】
加熱成形方法については特に制限はなく、スタンパブル成形や加圧成形、真空圧着成形、GMT成形のような一般的な圧縮成形が好適に用いられる。その時の成形温度は用いる耐熱性熱可塑性繊維の流動開始温度や分解温度に併せて設定すればよい。例えば、耐熱性熱可塑性繊維が結晶性の場合、成形温度は耐熱性熱可塑性繊維の融点以上、(融点+100)℃以下の範囲であることが好ましい。また、耐熱性熱可塑性繊維が非結晶性の場合、成形温度は耐熱性熱可塑性繊維のガラス転移温度以上、(ガラス転移温度+200)℃以下の範囲であることが好ましい。なお、必要に応じて、加熱成形する前にIRヒーターなどで予備加熱することもできる。
【0061】
加熱成形する際の圧力も特に制限はないが、通常は0.05N/mm以上(例えば0.05〜15N/mm)の圧力で行われる。加熱成形する際の時間も特に制限はないが、長時間高温に曝すとポリマーが劣化してしまう可能性があるので、通常は30分以内であることが好ましい。また、得られる耐熱性樹脂複合材料の厚さや密度は、強化繊維の種類や加える圧力で適宜設定可能である。更には、得られる耐熱性樹脂複合体の形状にも特に制限は無く、適宜設定可能である。目的に応じて、仕様の異なる不織布を複数枚積層したり、仕様の異なる不織布をある大きさの金型の中に別々に配置したりして、加熱成形することも可能である。場合によっては、他の強化繊維織物や樹脂複合体と併せて成形することもできる。そして、目的に応じて、一度加熱成形して得られた耐熱性樹脂複合体を、再度加熱成形することも可能である。
【0062】
得られた耐熱性樹脂複合体は、熱可塑性繊維と強化繊維とを含む不織布を前駆体として加熱成形されているため、繊維長の長い強化繊維を高含有率で含むことができるとともに、強化繊維をランダムに配置することも可能であるため、力学特性およびその等方性に優れる。また、不織布を加熱成形することにより優れた賦形性を達成することもできる。
【0063】
(耐熱性樹脂複合体)
本発明の耐熱性樹脂複合体は、マトリックス樹脂と、このマトリックス樹脂中に分散された強化繊維とで構成された耐熱性樹脂複合体であって、
前記マトリックスは、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性ポリマーと、テレフタル酸成分(A)とイソフタル酸成分(B)を、その共重合割合(モル比)が(A)/(B)=100/0〜40/60として含むポリエステル系ポリマーとで構成され、
前記耐熱性熱可塑性ポリマーの複合体中の割合が30〜80wt%である樹脂複合体である。
【0064】
前記のように得られた耐熱性樹脂複合体では、24℃での曲げ強度が、例えば150MPa以上であってもよく、好ましくは160MPa以上、更に好ましくは170MPa以上であってもよい。
また、耐熱性樹脂複合体では、24℃での曲げ弾性率が、例えば5GPa以上であってもよく、好ましくは5.5GPa以上、更に好ましくは6GPa以上であってもよい。
【0065】
更には、前記のように得られた耐熱性樹脂複合体は、24℃での曲げ強度に対する100℃での曲げ強度の保持率、および24℃での曲げ弾性率に対する100℃での曲げ弾性率の保持率はいずれも70%以上であることが好ましい。曲げ強度、曲げ弾性率のいずれかの保持率が70%より小さい場合、耐熱性を有しているとは言えない。好ましくは74%以上であり、より好ましくは78%以上である。
【0066】
本発明の耐熱性樹脂複合体は、その密度が2.00g/cm以下であることが好ましい。密度が2.00g/より大きいと、軽量化に資する耐熱性樹脂複合体とは言えず、用途が限られる場合がある。好ましくは1.95g/cm以下、より好ましくは1.90g/cm以下である。密度の下限値は、材料の選択などに応じて適宜決定されるが、例えば0.5g/cm程度であってもよい。
【0067】
また、本発明の耐熱性樹脂複合体は、その厚みが0.3mm以上(好ましくは0.5mm以上)であることが好ましい。厚みが薄すぎる場合、得られる耐熱性樹脂複合体の強力が低くなったり、生産コストが高くなるため、好ましくない。より好ましくは、0.7mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。また、厚みの上限は、樹脂複合体に求められる厚みに応じて適宜設定することができるが、例えば10mm程度であってもよい。
【0068】
本発明の耐熱性樹脂複合体は、優れた力学物性と耐熱性を兼ね備えているだけでなく、特別な工程を必要とせず安価に製造できることから、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、玩具用品、その他家電製品などの筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケースなどの電気、電子機器部品、支柱、パネル、補強材などの土木、建材用部品、各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの、外板、またはボディー部品、バンパー、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツなど外装部品、インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュールなどの内装部品、またはモーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク、燃料ポンプ、エアーインテーク、インテークマニホールド、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品などの自動車、二輪車用構造部品、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機用部品に好適に用いられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0070】
[耐熱性熱可塑性繊維のガラス転移温度 ℃]
繊維のガラス転移温度は、レオロジー社製固体動的粘弾性装置「レオスペクトラDVE−V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めた。
【0071】
[平均繊度 dtex]
マルチフィラメントから無作為に100本抜き出し、夫々の単繊維の繊度を測定し、平均繊度を求めた。
【0072】
[平均繊維長 mm]
カット糸から無作為に100本抜き出し、夫々の繊維長を測定し、平均繊維長を求めた。
【0073】
[ポリエステル系ポリマーの結晶化度]
PET系バインダー繊維の結晶化度は、広角X線回折法により求めた。すなわち、(株)リガク製X線発生装置(RAD−3A型)を用い、ニッケルフィルターで単色化したCu−Kα線で[010]の散乱強度を測定し、次式により結晶化度を算出した。
(結晶化度Xc)=(結晶部の散乱強度)/(全散乱強度)×100(%)
【0074】
[ポリエステル系ポリマーの極限粘度]
PET系バインダー繊維の固有粘度は、フェノール/クロロエタン(重量比1/1)の混合溶液に溶解させ、30℃で測定した溶液粘度から算出した。
【0075】
[不織布の目付 g/m
JIS L1913試験法に準じて測定し、n=3の平均値を採用した。
【0076】
[複合体の曲げ強度 MPa、曲げ弾性率 GPa]
24℃ならびに100℃における複合体の曲げ強度ならびに曲げ弾性率は、ASTM790に準拠して測定した。
【0077】
[参考例1]
(1)重合反応装置を用い、常法により280℃で重縮合反応を行い、テレフタル酸とイソフタル酸の共重合割合(モル比)が70/30、エチレングリコール100モル%からなる、固有粘度(η)が0.81であるPET系ポリマーを製造した。製造されたポリマーは、重合機底部よりストランド状に水中に押し出し、ペレット状に切断した。
(2)上記で得られたPET系ポリマーを、270℃に加熱された同方向回転タイプのベント式2軸押出し機に供給し、滞留時間2分を経て280℃に加熱された紡糸ヘッドに導き、吐出量45g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、紡糸速度1200m/分で引取り、2640dtex/1200fのPET系ポリマー単独からなるマルチフィラメントを得た。次いで得られた繊維を10mmにカットした。
得られた繊維は、結晶化度20%、極限粘度0.8、平均繊度2.2dtex、および円形の断面形状を有していた。
【0078】
[実施例1]
(1)ポリエーテルイミド系ポリマー(サービックイノベイティブプラスチックス社製「ULTEM9001」)を150℃で12時間真空乾燥した。
(2)上記(1)のポリマーを紡糸ヘッド温度390℃、紡糸速度1500m/分、吐出量50g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのマルチフィラメントを得た。次いで、得られた繊維を10mmにカットした。
(3)得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維の平均繊度は2.2dtex、平均繊維長は10.1mmで、ガラス転移温度は213℃であった。
(4)上記(3)で得られたPEI繊維50wt%、15mmのカット長のガラス繊維47wt%(平均繊度2.2dtex、平均繊維長15mm)、および参考例1で得られたPET系バインダー繊維3wt%(平均繊維長10mm)を水中に分散したスラリーを用いて湿式抄紙し、100℃で熱風乾燥後、目付け500g/mの紙を得た。
(5)得られた紙を6枚重ね合わせ(総目付け=3000g/m)、PEI繊維が全て溶ける温度である360℃で、圧力10N/mmの下、3分間圧縮成形して平板を成形した。
得られた平板の密度は1.68g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
(6)得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、260MPa、12GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、220MPa、10GPaであり、その保持率はそれぞれ、85%、83%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0079】
[実施例2]
実施例1の(2)において、PEI繊維のカット長を3mm(平均繊維長=3.2mm)にした以外は実施例1と同様な方法で平板(密度:1.69g/cm、厚さ:1.3mm)を得た。得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、250MPa、12GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、215MPa、10GPaであり、その保持率はそれぞれ、86%、83%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0080】
[実施例3]
実施例1の(4)において、PEI繊維を80wt%(耐熱性熱可塑性繊維)、ガラス繊維を17wt%(強化繊維)にした以外は、実施例1と同様の方法で平板(密度:1.41g/cm、厚さ:1.5mm)を得た。
得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、181MPa、8GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、157MPa、7GPaであり、その保持率はそれぞれ、87%、88%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0081】
[実施例4]
実施例1の(4)において、強化繊維として13mmのカット長のPAN系炭素繊維(東邦テナックス製;平均繊維径7μm、平均繊維長13mm)を用いた以外は実施例1と同様な方法で平板(密度:1.49g/cm、厚さ:1.5mm)を得た。
得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、360MPa、22GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、318MPa、20GPaであり、その保持率はそれぞれ、88%、91%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0082】
[実施例5]
(1)半芳香族ポリアミド系ポリマー(クラレ社製「ジェネスタPA9MT」)を80℃で12時間真空乾燥した。
(2)上記(1)のポリマーを紡糸ヘッド温度310℃、紡糸速度1500m/分、吐出量50g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、マルチフィラメントを得た。次いで、得られた繊維を5mmにカットした。
(3)得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維の平均繊度は0.7dtex、平均繊維長は5.2mmで、ガラス転移温度は121℃であった。
(4)上記(3)で得られた繊維60wt%(耐熱性熱可塑性繊維)、13mmのカット長のPAN系炭素繊維37wt%(平均繊維径7μm、平均繊維長13mm)、および参考例1で得られたPET系バインダー繊維(平均繊維長10mm)3wt%を水中に分散したスラリーを用いて湿式抄紙し、目付け500g/mの紙を得た。
(5)得られた紙を6枚重ね合わせ(総目付け=3000g/m)、半芳香族ポリアミド系ポリマー繊維が全て溶ける温度である330℃で、圧力10N/mmの下、5分間圧縮成形して平板を成形した。
得られた平板の密度は1.46g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
(6)得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、372MPa、24GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、310MPa、21GPaであり、その保持率はそれぞれ、83%、88%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0083】
[実施例6]
(1)実施例5の(4)において、耐熱性熱可塑性繊維を50wt%、強化繊維として13mmのカット長のパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製、ケブラー;平均繊度2.2dtex、平均繊維長13mm)を40wt%、PET系バインダー繊維を10wt%用いた以外は実施例5と同様な方法で平板を得た。
得られた平板の密度は1.31g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、300MPa、18GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、226MPa、15GPaであり、その保持率はそれぞれ、75%、83%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0084】
[実施例7]
(1)PEEK系ポリマー(Victrex社製「90G」)を80℃で12時間真空乾燥した。
(2)上記(1)のポリマーを紡糸ヘッド温度400℃、紡糸速度1500m/分、吐出量50g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、マルチフィラメントを得た。次いで、得られた繊維を5mmにカットした。
(3)得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維の平均繊度は8.8dtex、平均繊維長は5.1mmで、ガラス転移温度は146℃であった。
(4)上記(3)で得られた繊維を50wt%(耐熱性熱可塑性繊維)、13mmのカット長のPAN系炭素繊維を47wt%(平均繊維径7μm、平均繊維長13mm)、および参考例1で得られたPET系バインダー繊維(平均繊維長10mm)3wt%水中に分散したスラリーを用いて湿式抄紙し、100℃で熱風乾燥後、目付け500g/mの紙を得た。
(5)得られた紙を6枚重ね合わせ(総目付け=3000g/m)、PEEK繊維が全て溶ける温度である430℃で、圧力10N/mmの下、5分間圧縮成形して平板を成形した。
得られた平板の密度は1.50g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
(6)得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、352MPa、22GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、275MPa、19GPaであり、その保持率はそれぞれ、78%、86%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0085】
[実施例8]
(1)実施例7の(4)において、耐熱性熱可塑性繊維を30wt%、強化繊維を65wt%、バインダー繊維を5wt%用いた以外は実施例7と同様の方法で平板(密度:1.40g/cm、厚さ:1.5mm)を得た。得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、325MPa、20GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、235MPa、15GPaであり、その保持率はそれぞれ、72%、75%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0086】
[実施例9]
(1)PC系ポリマー(SABIC社製「FSTポリカ」)を80℃で12時間真空乾燥した。
(2)上記(1)のポリマーを紡糸ヘッド温度300℃、紡糸速度1500m/分、吐出量50g/分の条件で丸孔ノズルより吐出し、マルチフィラメントを得た。次いで、得られた繊維を50mmにカットした。
(3)得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維の平均繊度は2.2dtex、平均繊維長は50mmで、ガラス転移温度は132℃であった。
(4)上記(3)で得られた繊維を65wt%(耐熱性熱可塑性繊維)、13mmのカット長のPAN系炭素繊維を30wt%(平均繊維径7μm、平均繊維長13mm)、および参考例1で得られたPET系バインダー繊維(平均繊維長20mm)5wt%を混綿してエアレイド成形し、180℃の熱風乾燥器中で2分間熱処理して、目付100g/mのエアレイドウェブを得た。
(5)得られたウェブを30枚重ね合わせ(総目付け=3000g/m)、PC繊維が全て溶ける温度である330℃で圧縮成形して平板を成形した。
得られた平板の密度は1.37g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
(6)得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、220MPa、18GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、162MPa、16GPaであり、その保持率はそれぞれ、74%、89%であり、耐熱性に優れるものであった。
【0087】
[比較例1]
(1)平均繊度が2.2dtex、平均繊維長が10.3mm、ガラス転移温度が75℃のPET繊維(クラレ製「N701Y」)を50wt%(熱可塑性繊維)、13mmのカット長のPAN系炭素繊維を47wt%(平均繊維径7μm、平均繊維長13mm)、および参考例1で得られたPET系バインダー繊維(平均繊維長10mm)3wt%を水中に分散したスラリーを用いて湿式抄紙し、100℃で熱風乾燥後、目付け500g/mの紙を得た。
(2)得られた紙を6枚重ね合わせ(総目付け=3000g/m)、PET繊維が全て溶ける温度である200℃で、圧力10N/mmの下、5分間圧縮成形して平板を成形した。
得られた平板の密度は1.39g/cmであり、厚さは1.5mmであった。
(3)得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、200MPa、20GPaであったが、曲げ特性は熱可塑性繊維のガラス転移温度である75℃で大きく落ち込み、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、50MPa、4GPaであり、その保持率はそれぞれ、25%、20%であり、耐熱性に劣るものであった。
【0088】
[比較例2]
(1)実施例1の(4)において、PEI繊維を10wt%(耐熱性熱可塑性繊維)、ガラス繊維を80wt%(強化繊維)、PET系バインダー繊維を10wt%にした以外は、実施例1と同様な方法で平板(密度:2.01g/cm、厚さ:1.3mm)を得た。得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、120MPa、8GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、60MPa、5GPaであり、その保持率はそれぞれ、50%、63%であり、耐熱性に劣るものであった。成形品に占める熱可塑性樹脂の量が少なく、含浸性が悪いためであると考えられた。
【0089】
[比較例3]
(1)実施例1の(3)において、耐熱性熱可塑性繊維の平均繊度を20dtexに変えた以外は、実施例1と同様な方法で湿式抄紙による不織布試作を試みたが、耐熱性熱可塑性繊維の繊度が大きいため、不織布を構成する耐熱性熱可塑性繊維の構成本数が少なく、目が粗いものになった。そのため、抄紙工程中でのガラス繊維の分散性が悪く、さらに不織布の隙間からガラス繊維が脱落したため、極めて工程通過性が悪く、再現性良く不織布を試作することが出来なかった。
【0090】
[比較例4]
(1)実施例1の(3)において、耐熱性熱可塑性繊維の平均繊維長を70.8mmに変えた以外は、実施例1と同様な方法で湿式抄紙による不織布試作を試みたが、耐熱性熱可塑性繊維の繊維長が大きいため、耐熱性熱可塑性繊維同士が絡まったり、ガラス繊維の分散性が悪く、極めて工程通過性が悪く、再現性良く不織布を試作することが出来なかった。
【0091】
[比較例5]
(1)実施例1において、バインダー繊維をPVA系バインダー繊維((株)クラレ製、SPG05611)にした以外は、実施例1と同様の方法で平板を得たが平板には多くの気泡が噛んでいた。熱成形中に臭気があったことから推測されるように、高温での熱圧縮工程でバインダー繊維となるPVA系繊維が分解しガスを発生したため、概観不良をおこしたものと考えられる。それゆえ、得られた成形品の室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、220MPa、9GPa、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、150MPa、6GPaであり、その保持率はそれぞれ、68%、67%であり、耐熱性に劣るものであった。
【0092】
[比較例6]
(1)実施例1において、バインダー繊維をPE系バインダー繊維にした以外は、実施例と同様な方法で平板(密度:1.29g/cm、厚さ:1.5mm)を得た。得られた平板の外観は良好であり、室温での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、200MPa、8GPaであったが、100℃での曲げ強度、曲げ弾性率はそれぞれ、100MPa、4GPaであり、その保持率はそれぞれ50%であり、耐熱性に劣るものであった。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1の実施例1〜9から明らかなように、ガラス転移温度が100℃以上の耐熱性熱可塑性繊維と強化繊維が、特定の割合で含まれる不織布からから形成された耐熱性樹脂複合体は、曲げ特性に優れるだけでなく、耐熱性にも優れることが分かる。
【0096】
一方、表2の結果から明らかなように、不織布を構成する耐熱性熱可塑性繊維のガラス転移温度が100℃未満である比較例1では、室温での曲げ強度および曲げ弾性率は問題ない範囲にあるものの、100℃ではその曲げ強度および曲げ弾性率は大きく低下する。
【0097】
また、ガラス転移温度が100℃以上であっても、強化繊維に対する耐熱性熱可塑性樹脂の混合割合が少ない比較例2では、室温での曲げ強度が低減するだけでなく、100℃における曲げ強度および曲げ弾性率を保持することができない。
【0098】
更には、耐熱性熱可塑性繊維の平均繊度や平均繊度が大きい場合(比較例3および4)、工程通過性を大幅に悪化させ、再現性よく不織布を得ることができない。
【0099】
また、バインダー繊維として熱圧着温度で熱分解するPVA繊維を使用した比較例5では、実施例1と比較して室温での曲げ強度および曲げ弾性率が低いだけでなく、100℃における曲げ強度および曲げ弾性率を保持することができない。
【0100】
バインダー繊維としてPET系バインダー繊維より耐熱性が劣るPE繊維を使用した比較例6でも、曲げ弾性率が実施例1と比較して室温での曲げ強度および曲げ弾性率が低いだけでなく、100℃における曲げ強度および曲げ弾性率を保持することができない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、優れた力学物性と耐熱性を兼ね備え、特に高い温度環境下に曝される機会の多い用途に好適に使用可能な耐熱性樹脂複合体を提供することが可能である。また本発明の耐熱性樹脂複合体は、特別な加熱成形工程を必要とせず、圧縮成形やGMT成形などの通常の加熱成形工程で安価に製造することができ、更には、目的に応じてその形状も自由に設計可能であり、一般産業資材分野、電気・電子分野、土木・建築分野、航空機・自動車・鉄道・船舶分野、農業資材分野、光学材料分野、医療材料分野などをはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。
【0102】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。