特許第6771887号(P6771887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771887
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】蒸発源および巻取式真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   C23C14/24 A
   C23C14/24 B
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-247915(P2015-247915)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-110284(P2017-110284A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】飯島 栄一
(72)【発明者】
【氏名】廣野 貴啓
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−292626(JP,A)
【文献】 特開平10−124868(JP,A)
【文献】 特開2012−214847(JP,A)
【文献】 特開2014−072005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発材料を収容可能な収容部と、前記収容部に収容された蒸発材料の蒸気を放出する円形状の開口部が形成された開口端部とを有するルツボと、
前記ルツボの周囲に配置され、前記ルツボに渦電流、または、前記ルツボ及び前記ルツボ内の導電性の前記蒸発材料に渦電流を発生させる誘導加熱用のコイルと、
前記開口部の外周側に前記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成され、前記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路が前記ルツボにおいて前記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路よりも高い抵抗値を有し、前記開口部の開口径よりも大きな内径を有する環状の板材で構成された第1のシールド部材と
を具備する蒸発源。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発源であって、
前記ルツボは、金属からなる
蒸発源。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸発源であって、
前記開口部の外周側に前記第1のシールド部材を介して前記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成された環状の第2のシールド部材をさらに具備する
蒸発源。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸発源であって、
前記第1のシールド部材は、前記第2のシールド部材と前記ルツボとの間に配置され、
前記第2のシールド部材は、前記第1のシールド部材よりも高い固有抵抗を有し、前記第2のシールド部材の開口部の開口径は、前記第1のシールド部材の開口部の開口径よりも大きな内径を有する板材で構成される
蒸発源。
【請求項5】
真空チャンバと、
フィルムを繰り出す巻出しローラと、前記巻出しローラから繰り出された前記フィルムを巻き取る巻取りローラとを有し、前記真空チャンバの内部に配置されたフィルム搬送機構と、
前記フィルム搬送機構により搬送される前記フィルムに蒸着膜を形成する蒸発源と
を具備し、
前記蒸発源は、
蒸発材料を収容可能な収容部と、前記収容部に収容された蒸発材料の蒸気を放出する開口部が形成された円形状の開口端部とを有するルツボと、
前記ルツボの周囲に配置され、前記ルツボに渦電流、または、前記ルツボ及び前記ルツボ内の導電性の前記蒸発材料に渦電流を発生させる誘導加熱用のコイルと、
前記開口部の外周側に前記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成され、前記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路が前記ルツボにおいて前記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路よりも高い抵抗値を有し、前記開口部の開口径よりも大きな内径を有する環状の板材で構成された第1のシールド部材と、を有する
巻取式真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱式の蒸発源およびこれを備えた巻取式真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻出しローラから連続的又は間欠的に送り出された長尺のベースフィルムを冷却用ローラに巻き付けながら、当該冷却用ローラに対向して配置された蒸発源からの蒸発物質をベースフィルム上に蒸着させ、蒸着後のベースフィルムを巻取りローラで巻き取る巻取式真空蒸着装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の巻取式真空蒸着装置を構成する蒸発源における蒸発物質の加熱には、誘導加熱による方法、抵抗加熱による方法および電子ビームの照射による方法などが使用される。巻取式真空蒸着装置に使用されるベースフィルムは、一般的には1000m以上の長尺フィルムを対象とするため、蒸発源に十分な蒸発物質を溜め込むか、蒸発源へ蒸発材料を供給することが必要となる。また、蒸発物質の蒸発必要温度によって適切な加熱方式が採用される。
【0004】
例えば、電子ビーム加熱式蒸発源は、ハース内に蒸発材料を溜め込むことが可能であり、蒸発材料の供給も可能なため、多くの物質の蒸発源として使用可能である。しかし、蒸発材料の加熱に高エネルギの電子線を使用するため、蒸発材料からの反射電子によりベースフィルムが帯電し、フィルム走行に支障をきたす場合がある。
【0005】
また、抵抗加熱式蒸発源は、抵抗体に電流を流して蒸発材料を加熱する構造であるため、比較的安価に構成することができるという利点がある。しかし、長尺のベースフィルムへの成膜を可能とするためには、蒸発源に蒸発材料を安定的に供給することができる材料供給機構が必要となり、しかもその供給形態としては、連続供給が可能なように蒸発材料をワイヤ状に加工する必要がある。このような要求に応えられる蒸発材料は、アルミニウムなどの特定の材料に限られてしまい、しかも、脱ガスされていないアルミニウムワイヤを供給し続けるため、アルミニウムに含まれるガス溜まりや抵抗体とアルミニウムとの連続的な接触などによりスプラッシュが発生し、高い成膜品質を維持することが困難である。
【0006】
これに対して、誘導加熱式蒸発源は、ルツボ内に十分な蒸発材料を溜め込むことが可能であるため、長尺のベースフィルムへの成膜にも十分に対応可能であり、また、種々の物質の蒸発にも適するという利点がある。このため、誘導加熱式蒸発源は、プラスチックフィルム、織物、ガラスフィルム、金属箔等のベースフィルム用の蒸発源として多くの分野で使用されている。
【0007】
一方、近年においては、予めアンダーコートが施されたベースフィルム、デバイスが形成されたベースフィルム、熱容量が非常に小さいベースフィルム、熱負荷に弱いベースフィルム、あるいは極薄のベースフィルムへの巻取蒸着の要求がますます増加している。このため、誘導加熱式蒸発源からの熱輻射によるベースフィルムの影響を小さくするため、ベースフィルムの入熱を抑え、熱負荷によるダメージを低減する技術が不可欠となっている。
【0008】
そこで、例えば特許文献2には、誘導加熱式蒸発源であって、蒸発材料を収容する容器と、その容器の周囲に配置された誘導コイルと、容器と誘導コイルとの間に配置された保温材と、容器の径よりやや大きな径の蒸着用孔が中央部に形成されたセラミック製の円盤体とを備え、当該円盤体で蒸発源から基板へ放出される熱を遮断する構造が開示されている。また、特許文献3には、蒸発源とフィルムとの間に、蒸発源からの輻射熱を遮蔽する冷却板を配置する連続蒸着フィルムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3795518号公報
【特許文献2】特開2005−38646号公報
【特許文献3】特開平11−323552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の蒸発源の構造では、容器が高周波誘導加熱されない材質で形成されたものであるため蒸発材料の加熱効率が悪く、したがって蒸発に要する電力消費量が大きくなるという問題がある。しかも、容器が円盤体の蒸着用孔を介して基板に対向しているため、容器から基板への熱輻射を遮断することができない。
【0011】
一方、特許文献3に記載の冷却板は、蒸発源からフィルムへの熱輻射を遮断することはできるものの、蒸発源からフィルムへ放出される蒸気流が冷却板により妨げられてしまうため、膜質の変化を招くおそれがある。例えば、蒸気流が通過する冷却板の開口部に蒸発物質が付着することで、開口部の大きさが経時的に変化し(狭くなり)、これにより安定した成膜レートを維持することができなくなる。その結果、フィルムに一定の膜質で安定に成膜することができなくなる。
【0012】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、蒸発源からの熱輻射を遮断しつつ、安定した成膜品質を確保することができる蒸発源及びこれを備えた巻取式真空蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸発源は、ルツボと、誘導加熱用のコイルと、第1のシールド部材とを具備する。
上記ルツボは、蒸発材料を収容可能な収容部と、上記収容部に収容された蒸発材料の蒸気を放出する開口部が形成された開口端部とを有する。
上記コイルは、上記ルツボの周囲に配置される。
上記第1のシールド部材は、上記開口部の外周側に上記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成される。
【0014】
上記蒸発源は、ルツボの開口部の外周側にルツボの開口端部に対向して配置された断熱性を有する第1のシールド部材を備えているため、開口部から放出される蒸発材料の蒸気流を阻害することなく、ルツボからの輻射熱を遮断することができる。
【0015】
上記開口部は、典型的には、円形状を有する。この場合、上記第1のシールド部材は、上記開口部の開口径よりも大きな内径を有する環状の板材で構成される。
【0016】
上記第1のシールド部材は、上記ルツボよりも高い固有抵抗を有する材料で構成されてもよい。
これにより、第1のシールド部材の誘導加熱による温度上昇を抑えて、第1のシールド部材による熱遮蔽機能を確保することができる。
【0017】
あるいは、上記第1のシールド部材において上記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路は、上記ルツボにおいて上記コイルからの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路よりも高い抵抗値を有してもよい。
【0018】
上記蒸発源は、第2のシールド部材をさらに具備してもよい。上記第2のシールド部材は、上記開口部の外周側に上記第1のシールド部材を介して上記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成される。
これにより、ルツボからの熱輻射の遮断機能をさらに高めることができる。
【0019】
上記第2のシールド部材は、上記第1のシールド部材よりも高い固有抵抗を有する材料で構成されてもよい。
これにより、第2のシールド部材の誘導加熱による温度上昇を抑えて、第2のシールド部材による熱遮蔽機能を確保することができる。
【0020】
本発明の一形態に係る巻取式真空蒸着装置は、真空チャンバと、フィルム搬送機構と、蒸発源とを具備する。
上記フィルム搬送機構は、フィルムを繰り出す巻出しローラと、上記巻出しローラから繰り出された上記フィルムを巻き取る巻取りローラとを有し、上記真空チャンバの内部に配置される。
上記蒸発源は、上記フィルム搬送機構により搬送される上記フィルムに蒸着膜を形成する。
上記蒸発源は、ルツボと、誘導加熱用のコイルと、第1のシールド部材とを有する。上記ルツボは、蒸発材料を収容可能な収容部と、上記収容部に収容された蒸発材料の蒸気を放出する開口部が形成された開口端部とを有する。上記コイルは、上記ルツボの周囲に配置される。上記第1のシールド部材は、上記開口部の外周側に上記開口端部に対向して配置され、断熱性を有する材料で構成される。
【0021】
上記巻取式真空蒸着装置において、蒸発源は、ルツボの開口部の外周側にルツボの開口端部に対向して配置された断熱性を有する第1のシールド部材を備えているため、開口部から放出される蒸発材料の蒸気流を阻害することなく、ルツボからの輻射熱を遮断することができる。これにより、フィルムの熱負荷によるダメージを抑えつつ、安定した成膜品質を確保することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、蒸発源からの熱輻射を遮断しつつ、安定した成膜品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る巻取式真空蒸着装置の構成を示す概略縦断面図である。
図2】上記巻取式真空蒸着装置における蒸発源の詳細を示す拡大断面図である。
図3】上記蒸発源におけるルツボとシールド部材との関係を示す側断面図であり、Aは、ルツボからシールド部材が分離した状態を示し、Bは、ルツボの開口端部にシールド部材が載置された状態を示している。
図4】上記蒸発源におけるシールド部材の平面図である。
図5】上記シールド部材の構成の変形例を示す概略側断面図である。
図6】上記巻取式真空蒸着装置における蒸発源の配列形態を示す概略平面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る蒸発源の構成を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る巻取式真空蒸着装置(以下、蒸着装置という)の構成を示す概略縦断面図である。
なお、図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示しており、本実施形態ではX軸及びY軸は水平方向を、Z軸は高さ方向をそれぞれ示す。
【0026】
[蒸着装置の全体構成]
蒸着装置1は、巻出しローラ2と、巻取ローラ3と、メインローラ4と、蒸発源6と、これらを収容する真空チャンバ7とを備える。
【0027】
(真空チャンバ)
真空チャンバ7は、密閉構造を有し、排気ラインLを介して真空ポンプPに接続される。これにより、真空チャンバ7は、その内部が所定の減圧雰囲気に排気又は維持可能に構成される。
【0028】
真空チャンバ7は内部に仕切板8を有する。当該仕切板8は、真空チャンバ7のZ軸方向における略中央部に配置されており、所定の大きさの開口部を有する。当該開口部の周縁部は、所定の隙間を空けてメインローラ4の外周面に対向している。真空チャンバ7の内部は、仕切板8により、仕切板8よりZ軸方向の上側にある搬送室9と、仕切板8よりZ軸方向の下側にある成膜室10とに区画される。
【0029】
成膜室10には排気ラインLが接続されている。したがって、真空チャンバ7の内部を排気する際には、まず、成膜室10の内部が排気される。一方、上述のように仕切板8とメインローラ4との間には所定の隙間があるため、この隙間を通して搬送室9の内部も排気される。これにより、成膜室10と搬送室9との間に圧力差が生じる。この圧力差により、後述する蒸発材料の蒸気流が搬送室9に侵入するのを防ぐことができる。
なお、本実施形態では、排気ラインLを成膜室10にのみ接続したが、搬送室9にも別の排気ラインを接続することにより、搬送室9と成膜室10とを同時にあるいは独立して排気してもよい。
【0030】
(フィルム搬送機構)
巻出しローラ2、巻取りローラ3、メインローラ4、ガイドローラ5A〜5Hは、フィルム搬送機構50を構成する。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及びメインローラ4は、それぞれ図示しない回転駆動部を備え、X軸に平行な軸まわりに回転可能に構成される。
【0031】
巻出しローラ2及び巻取りローラ3は、搬送室9内に配置され、それぞれの回転駆動部により図1の矢印で示す方向(時計回り)に所定速度で回転可能に構成される。なお、巻出しローラ2の回転方向はこれに限られず、メインローラ4に向かってフィルムを繰り出せる限り、どの方向に回転させてもよい。同様に、巻取りローラ3の回転方向も時計回りに限られず、メインローラ4からフィルムを巻き取れる限り、どの方向に回転させてもよい。
【0032】
メインローラ4は、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2と巻取りローラ3との間に配置される。具体的には、メインローラ4のZ軸方向における下部の少なくとも一部が、仕切板8に設けられた開口部を通して成膜室10に臨むような位置に配置される。
【0033】
また、メインローラ4は、巻出しローラ2及び巻取りローラ3と同様に、回転駆動部により時計回りに所定速度で回転可能に構成される。さらに、メインローラ4は、鉄あるいはステンレス鋼等の金属材料で筒状に構成され、その内部に図示しない冷却媒体又は熱媒体の循環機構を備える。これにより、メインローラ4上のフィルムを所定温度に冷却又は加熱することが可能となる。メインローラ4の大きさは特に限定されないが、典型的には、軸方向の長さ(軸長)はフィルムFの幅と同じかそれよりも長い。
【0034】
ガイドローラ5A,5B,5C,及び5Dは、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。また、ガイドローラ5E,5F,5G,及び5Hは、フィルムFの搬送経路において巻取りローラ3とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。各ガイドローラ5A〜5Hは、典型的には、独自の回転駆動部を備えていないフリーローラにより構成されるが、少なくとも1つは、フィルムFの張力を保持あるいは調整可能なテンションローラとして構成されてもよい。
【0035】
以上のようにして構成されるフィルム搬送機構50により、真空チャンバ7内においてフィルムFが所定の速度で搬送される。フィルム搬送機構50はさらに、図示せずとも、フィルムFの表面クリーニング、表面改質のための荷電ビーム照射装置(例えばイオンビーム照射装置、電子ビーム照射装置)、フィルムFの帯電除去のためのイオンボンバード機構、フィルムFの脱ガス、水分除去のためのヒータ機構、などを備えていてもよい。
【0036】
フィルムFは、材料としてポリエチレンテレフタレートを含むが、これに限られない。その他の材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、又はアクリル樹脂等の透明な樹脂を用いることができる。また、フィルムFは、織物、ガラスフィルム、金属箔等でもよい。
【0037】
フィルムFの厚さは、特に限定されず、例えば、約1.2μm〜100μmである。また、フィルムFの幅や長さについては特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。典型的には、フィルムFには、1000m以上の長尺フィルムが用いられる。
【0038】
(蒸発源)
蒸発源6は、成膜室10に配置され、フィルム搬送機構50により搬送されるフィルムFの表面に蒸着膜を形成する。本実施形態において蒸発源6は、図1に示すように、メインローラ4のZ軸方向における直下の位置に配置され、真空チャンバ7の底部に設置された支持台60の上に設置される。
【0039】
なお図示せずとも、成膜室10(図1参照)には、蒸発源6から放出される蒸発材料EMの蒸気が真空チャンバ7の内壁面や仕切板8への堆積を防止するための防着板や、メインローラ4上のフィルムFに対する成膜領域を区画するためのマスク部材が適宜の位置に配置されてもよい。
【0040】
蒸発源6は、蒸発材料EMを収容する容器としてのルツボ61と、ルツボ61の周囲に配置された誘導加熱用の誘導コイル62と、シールド部材63(第1のシールド部材)とを有する。
【0041】
誘導コイル62は、真空チャンバ7の外部に設置された図示しない交流電源に電気的に接続される。蒸発源6は、誘導加熱方式により、メインローラ4上のフィルムFの成膜面に堆積させる蒸発材料EMの蒸気を生成する。
【0042】
蒸発材料EMは特に限定されず、例えば、Ag、Al、Au、Cr、Cu、In、Sn、ZnS、SiO等が挙げられる。また、蒸発源6は単数に限られず、複数用いられてもよい。この場合、フィルムFの幅方向(X軸方向)に沿って直線的に又は千鳥足状に配列された複数の蒸発源が用いられる(図6参照)。
【0043】
図2は蒸発源6の詳細を示す拡大断面図、図3はルツボ61の拡大断面図である。
【0044】
ルツボ61は、カーボン、グラファイト、金属、ボロンナイトライド(BN)等の導電性を有する材料から構成される。ルツボ61は、蒸発材料EMを収容可能な収容部611と、収容部611に収容された蒸発材料EMの蒸気を放出する開口部612が形成された開口端部613とを有する(図3参照)。ルツボ61の形状は特に限定されず、本実施形態では有底の円筒形状に形成され、開口部612は、Z軸方向から見たときに、収容部611の外径と略同一の開口径(内径)を有する円形に形成される。
【0045】
誘導コイル62は、ルツボ61の周囲に巻回されることで、Z軸方向に沿ったコイル軸を有する。誘導コイル62には、上記交流電源により、50Hz〜1MHzの高周波が印加される。周波数は、蒸発材料EMの種類、ルツボ61のサイズ等により決定され、典型的には、1kHz〜100kHzの範囲に設定される。
【0046】
誘導コイル62は、高周波電力が印加されることで、ルツボ61に渦電流(誘導電流)を発生させ、そのジュール熱でルツボ61を加熱(誘導加熱)する。ルツボ61だけでなく、収容部611に収容された蒸発材料EMも同時に誘導加熱されてもよい。加熱温度は特に限定されず、ルツボ61からの熱伝達、熱輻射あるいは蒸発材料EMの直接加熱によって蒸発材料EMの蒸気圧が所定の圧力になる温度とされる。ここでいう所定の圧力は、蒸着装置の生産性を確保できる蒸発材料EMの蒸発レートが得られる圧力に設定され、具体的には、0.1Pa〜1000Paとされる。
【0047】
誘導コイル62は、内部に冷却水が循環可能な水冷構造を備えていてもよい。また図2に示すように、蒸発源6は、ルツボ61及び誘導コイル62を一体保持するためと、ルツボ61の断熱のための構造材64,65が設けられてもよい。構造材64,65は断熱性を有する材料で構成され、構造材64は、支持台60とルツボ61の間に配置され、構造材65は、誘導コイル62の周囲に配置される。これら構造材64,65は、相互に一体的に構成されてもよい。なお図示せずとも、ルツボ61と誘導コイル62との間に、これらの間の断熱とルツボ61の保護のための耐熱材がさらに設けられてもよい。
【0048】
ところで近年、予めアンダーコートが施されたベースフィルム、デバイスが形成されたベースフィルム、熱容量が非常に小さいベースフィルム、熱負荷に弱いベースフィルム、あるいは極薄のベースフィルムへの巻取蒸着の要求がますます増加している。このため、誘導加熱式蒸発源からの熱輻射によるベースフィルムの影響を小さくするため、ベースフィルムの入熱を抑え、熱負荷によるダメージを低減する技術が不可欠となっている。
【0049】
そこで本実施形態において蒸発源6は、シールド部材63を備える。
図3は、ルツボ61とシールド部材63との関係を示す側断面図であり、Aは、ルツボ61からシールド部材63が分離した状態を示し、Bは、ルツボ61の開口端部613にシールド部材63が載置された状態を示している。また、図4は、シールド部材63の平面図である。
【0050】
シールド部材63は、断熱性を有する材料で構成され、ルツボ61の開口部612の外周側に、ルツボ61の開口端部613に対向して配置される。シールド部材63は、ルツボ61の開口端部613にZ軸方向に対向して配置されることで、ルツボ61の開口端部613からメインローラ4上のフィルムFへの熱輻射を遮断する機能を有する。
【0051】
シールド部材63は、ルツボ61の加熱温度(例えば1400K以上)に対して耐熱性と熱遮断性を有する適宜の材料で構成され、例えば、水冷された金属、アルミナ、ジルコニア、マグネシア等の酸化物、あるいはイソライト等の複数の酸化物の混合物等で構成される。シールド部材63は、ルツボ61の開口端部613に接触するように載置されているが、適宜の支持機構を介して開口端部613に非接触で対向配置されてもよい。
【0052】
典型的には、シールド部材63は、ルツボ61よりも高い固有抵抗を有する材料で構成される。これにより、シールド部材63の誘導加熱による温度上昇を抑えて、シールド部材63による熱遮蔽機能を確保することができる。
【0053】
具体的に、ルツボ61は、固有抵抗値900〜1250μΩ・cmのグラファイトで構成される。この場合、シールド部材63は、アルミナ等の酸化物を主体とする高固有抵抗値(例えば1014Ω・cm以上)を有する材料で構成される。
【0054】
あるいは、シールド部材63において誘導コイル62からの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路は、ルツボ61において誘導コイル62からの誘導磁束が形成する渦電流の流れる回路よりも高い抵抗値を有するように構成されてもよい。誘導加熱方式では、ルツボ61の内部よりもその外周面側の方が、渦電流密度が高く、シールド部材63の内周側よりも外周側の方が、渦電流密度が高い。このため、これらルツボ61およびシールド部材63の外周側を比較して、前者よりも後者の方が、電気抵抗が高くなるように、各々の形状あるいは厚さ、あるいは材料等を選定するようにしてもよい。例えば、シールド部材63を水冷された金属等の導電性材料で構成しつつ、誘導コイル62から発生する誘導磁束による渦電流密度が高い領域を電気絶縁性の材料で構成するようにしてもよい。
【0055】
シールド部材63は、図3A,Bおよび図4に示すように、ルツボ61の開口部612を外部へ露出させる円形の通孔部631を有する。つまり、本実施形態のシールド部材63は、図3Aに示すように、ルツボ61の開口部612の開口径D1よりも大きな内径D2を有する円環状の板材で構成される。シールド部材63の内径D2がルツボ61の内径(D1)よりも大きく形成されることで、開口部612から放出される蒸発材料EMの蒸気流Vm(図2参照)を阻害することなく、安定した成膜レートを維持することができる。
【0056】
例えば、仮に、シールド部材63の内径がルツボ61の内径よりも小さいと、蒸発材料EMの蒸気流が当該シールド部材63の内周部に接触し、これにより蒸気流が乱れてフィルムFへの成膜レートが低下する原因となる。また、シールド部材63の内周部に接触した蒸気が当該内周部に堆積することで、シールド部材63の内径が徐々に小さくなり、これにより更に蒸気流が乱される原因となる。その結果、安定した成膜レートを維持することができなくなり、フィルムFに一定の膜質で成膜することができなくなる。
これに対して本実施形態によれば、このような問題を回避することができるため、フィルムFに一定の膜質で安定に成膜することができる。
【0057】
シールド部材63の内径D2(通孔部631の開口径)は、図3Aに示すように、ルツボ61の開口部612の開口径D1より大きく、かつ、ルツボ61の開口端部613の外径D3より小さい大きさに設定される。シールド部材63の内径D2が開口部612の開口径D1以下の場合、開口部612から放出される蒸発材料の蒸気流を乱すおそれがある。また、シールド部材63の内径D2が開口端部613の外径D3以上の場合、シールド部材63を開口端部613に対向配置させることができなくなり、開口端部613からの熱輻射を抑えられなくなる。
【0058】
典型的には、シールド部材63の内径D2は、開口端部613の外径D3と内径(開口部612の開口径D1)との差の半分以下の大きさに設定される。これにより、シールド部材63がない場合と比較して、開口端部613からの全熱輻射量の半分以上を遮蔽することが可能となる。なお、シールド部材63の外径D4は、典型的には、ルツボ61の開口端部613の外径よりも大きく設定される。
【0059】
シールド部材63の厚さは、ルツボ61の開口端部613からメインローラ4上のフィルムFへの熱輻射を抑制しつつ、蒸気流Vmを阻害しない厚さであれば特に限定されず、シールド部材63の構成材料、ルツボ61のサイズや加熱温度等に応じて適宜決定可能であり、例えば、数mm〜数十mmの厚さとされる。
【0060】
さらに、上述のように、シールド部材63は、ルツボ61の開口端部613の上に直接載置される。この場合、ルツボ61の開口端部613に対向するシールド部材63の表面(以下、対向面ともいう)は粗いほど好ましく、これによりルツボ61からの熱伝導によるシールド部材63の発熱を抑えることができる。このような観点から、シールド部材63は、酸化物粉末の焼結体等のように比較的表面粗さの大きな成形体で構成されてもよい。
【0061】
あるいは、図5に示すように、シールド部材63の上記対向面に、ルツボ61の開口端部613と接触する複数の脚部632が設けられてもよい。このような構成によれば、より少ない接触面積でシールド部材63をルツボ61の開口端部613に載置させることができるため、ルツボ61からシールド部材63への熱伝導が抑えられる。
【0062】
(コントローラ)
本実施形態の蒸着装置1は、真空チャンバ7の外部に設置されたコントローラ11をさらに備える(図1参照)。コントローラ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータ等により構成され、蒸着装置1の各部を統括的に制御する。コントローラ11は、例えば、真空ポンプPの動作の制御、各ローラの回転駆動及び位置制御、蒸発源6における蒸発材料EMの蒸発量の制御等を行う。
【0063】
[蒸着装置の動作]
次に、以上のようにして構成される蒸着装置1の典型的な動作について説明する。
【0064】
真空ポンプPにより、成膜室10内が排気され、これにより真空チャンバ7の内部が所定の圧力まで減圧される。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及びメインローラ4は、各々の回転軸のまわりに図1中矢印で示す方向(時計回り)にそれぞれ所定の速度で回転する。フィルムFは、巻出しローラ2により、時計回りに連続的又は間欠的に巻き出される。
【0065】
巻出しローラ2から巻き出されたフィルムFは、ガイドローラ5A,5B,5C,及び5Dによって走行をガイドされながら、所定の抱き角でメインローラ4の外周面に巻回される。そして、フィルムFは、メインローラ4による冷却作用(又は加熱作用)を受けながら、蒸発源6の直上を通過した後、ガイドローラ5E,5F,5G,及び5Hを介して巻取りローラ3に巻き取られる。
【0066】
蒸発源6においては、図示しない交流電源から誘導コイル62に交流電流が供給されることで、ルツボ61が所定温度に加熱される。ルツボ61の内部に収容された蒸発材料EMは、ルツボ61からの熱伝導あるいは熱輻射、あるいは誘導コイル62から発生する誘導磁束に起因する渦電流損失(ジュール熱)により加熱され、蒸発し、これにより、ルツボ61の開口部612からメインローラ4に向かう蒸気流Vmが形成される(図2参照)。蒸気流Vmは、メインローラ4の周面に所定速度で搬送されるフィルムFの表面(成膜面)に付着、堆積し、これにより、フィルムFの成膜面に所定厚みの蒸着膜が形成される。
【0067】
本実施形態において、蒸発源6は、図3A,Bに示すように、ルツボ61の開口端部613に対向配置されたシールド部材63を備えているため、蒸発材料EMの蒸発温度以上に加熱されたルツボ61の開口端部613からフィルムFへの熱輻射が効果的に遮蔽される。これにより、フィルムFの熱負荷によるダメージが低減するため、歩留りの向上を図ることが可能となる。
【0068】
特に本実施形態によれば、シールド部材63によってフィルムFの入力が抑えられるため、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムは勿論、これよりも熱負荷に対して弱いOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルムやCPP(無軸延伸ポリプロピレン)フィルム等への成膜にも、皺などの熱変形を引き起こすことなく、安定に成膜することが可能となる。
【0069】
さらに本実施形態によれば、シールド部材63の内径D2がルツボ61の開口部612の開口径D1よりも大きく形成されているため、開口部612から放出される蒸発材料EMの蒸気流Vmを阻害することなく、メインローラ4上のフィルムFへ到達させることができる。これにより、安定した成膜レートを維持することができるため、フィルムFに一定の膜質で薄膜を形成することができるとともに、歩留りの向上を図ることが可能となる。
【0070】
さらに、図6に示すように、フィルム幅方向(X軸方向)に沿って複数の蒸発源6を直線的に又は千鳥足状に配列させることにより、フィルムFの幅方向にわたって均一な膜質の薄膜を形成することが可能となる。したがって、Y軸方向に搬送されるフィルムFの全域に対して、均一な膜質の薄膜を安定に形成することが可能となる。
【0071】
[実験例]
以下、本発明者らにより行われた実験例について説明する。
【0072】
蒸発材料EMとしてアルミニウムを用い、フィルムFとして厚さ12μmのPETフィルムの表面に厚さ40nmのアルミニウム膜を成膜した。ルツボ61は、固有抵抗値が900〜1250μΩ・cmのグラファイト製とし、内径(開口部612の開口径D1)が115mm、外径(開口端部613の外径D3)が135mmのものを用いた。蒸発源6とフィルムFとの距離は270mm、誘導コイル62へ印加する高周波電力の周波数は9.9kHzとした。アルミニウムの蒸発温度は約1750K、ルツボ61の温度は1900Kとした。
【0073】
上記条件において、ルツボ61に収容したアルミニウム表面からの放射熱量とルツボ61の上部(開口端部613)からの放射熱量とを加えたメインローラ4上でのフィルムFへの熱量を測定したところ、蒸発源にシールド部材63を設置しないときの熱量を100としたとき、ルツボ61に上記構成のシールド部材63を設置したときのフィルムFへの熱量は65であった。このことから、ルツボ61にシールド部材63を設置することにより、シールド部材63を設置しない場合と比較して、蒸発源6からフィルムFへの輻射による熱負荷を、35%低減されることが確認された。
【0074】
また、メインローラ4の内部を循環する冷媒の温度を−15℃にして、メインローラ4上のフィルムFの表面温度を測定したところ、ルツボ61にシールド部材63を設置しなかった場合では50℃〜55℃であったのに対して、ルツボ61にシールド部材63を設置した本実施形態に係る蒸発源6の場合では、45℃〜50℃であった。当該蒸発源6によって、フィルムFに熱ダメージを与えることなく40nmのアルミニウム膜を堆積させることが可能な搬送速度は、1200m/minであった。
さらに、フィルムFとしてポリプロピレンフィルムを用いて同様にアルミニウム膜を蒸着させたところ、ルツボ61にシールド部材63を設置しなかった場合と比較して、ルツボ61にシールド部材63を設置した場合では、歩留りが50%以上向上したことが確認された。
【0075】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態に係る蒸発源を示す概略縦断面図である。
以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0076】
本実施形態の蒸発源16は、第1のシールド部材163と、第2のシールド部材164とを有する。第1のシールド部材163は、上述の第1の実施形態におけるシールド部材63と同様の構成を有する。第2のシールド部材164は、ルツボ61の開口部612の外周側に、第1のシールド部材163を介してルツボ61の開口端部613に対向して配置される。第2のシールド部材164は、第1のシールド部材163と同様に、断熱性を有する材料で構成される。
【0077】
本実施形態においては、第1のシールド部材163とメインローラ4(フィルムF)との間に、断熱性を有する第2のシールド部材164がさらに配置されているため、ルツボ61からフィルムFへの熱輻射の遮断機能をさらに一層、高めることができる。
【0078】
第2のシールド部材164は、第1のシールド部材163と同様に、円環状の板材で構成され、ルツボ61の開口部612を露出させる円形の通孔部1641を有する。通孔部1641の直径は、第1のシールド部材163の通孔部1631の直径以上の大きさとされる。これにより、ルツボ61の開口部612から放出される蒸発材料EMの蒸気流を乱さずに、フィルムFへ到達させることができる。
【0079】
第2のシールド部材164は、第1のシールド部材163に接触状態で載置される。これにより、第1および第2のシールド部材163,164のトータル厚みを小さくすることができるため、各シールド部材163,164の通孔部1631,1641の直径を必要以上に大きくすることなく、蒸気流が阻害されないようにすることができる。なお、これに限られず、適宜の支持機構を介して、第2のシールド部材164を第1のシールド部材163の上に非接触で対向配置させてもよい。また、図7において第2のシールド部材164の下面に、第1のシールド部材163の上面と接触する複数の脚部が設けられてもよい。
【0080】
また、第2のシールド部材164は、第1のシールド部材163よりも高い固有抵抗を有する材料で構成されてもよい。これにより、誘導コイル62から発生する誘導磁束によって第2のシールド部材164が第1のシールド部材163よりも誘導加熱されにくくなり、これにより第2のシールド部材164の温度上昇を抑えて、第2のシールド部材164による熱遮蔽機能を確保することができる。
【0081】
以上のように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0083】
例えば以上の実施形態では、シールド部材63,163,164がルツボ61の開口端部613に対向する円環状の板材で構成されたが、シールド部材63,163,164は、ルツボ61の開口端部613だけでなく、ルツボ61の外周面をも被覆することが可能な概略円筒状に形成されてもよい。
【0084】
また、ルツボ61は円筒形状のものに限られず、角筒状であってもよいし、開口部612も円形に限られない。この場合、シールド部材63,163,164もルツボ61の開口端部613の形状に対応するように、その形状を適宜変更してもよい。
【0085】
さらに以上の実施形態では、蒸発源6として、巻取式真空蒸着装置における蒸発源に本発明を適用した例について説明したが、これに限られず、例えば、半導体基板やガラス基板上への蒸着膜を形成することが可能なバッチ式あるいはインライン方式の蒸着装置における蒸発源にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…蒸着装置
2…巻出しローラ
3…巻取りローラ
4…メインローラ
6,16…蒸発源
7…真空チャンバ
61…ルツボ
611…収容部
612…開口部
613…開口端部
62…誘導コイル
63,163…(第1の)シールド部材
164…第2のシールド部材
EM…蒸発材料
F…フィルム
Vm…蒸気流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7