【実施例】
【0079】
以下、本発明を製造例及び実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例等に限定されるものではなく、本発明の技術的な思想を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0080】
[製造例1]
<カカオ抽出物の調製>
カカオ抽出物は、カカオ豆1.9kgから調製した、カカオマス1.0kgを原料とした。カカオマス1.0kgにn−ヘキサン5Lを加え、室温条件で30分間に亘って撹拌して脱脂し、脱脂カカオマス875gを得た。この得られた脱脂カカオマス875gに含水アセトン(アセトン含量70容量%)6Lを加えて抽出し、次いでエバポレーターを用いて減圧下でアセトンを蒸発除去した。得られた水性画分を9倍容量のn−ブタノールで抽出し、得られたn−ブタノール相を濃縮してDiaion(登録商標) HP−2MGカラム(15cm×10cm I.D)(三菱化学株式会社製)に供して吸着させた。その後、当該カラムに0.1%(v/v)のトリフルオロ酢酸を含む含水エタノール(エタノール含量15%(v/v))を供して、テオブロミン(theobromine)を溶出させ、次いで含水メタノール(メタノール含量80%(v/v))を供した。斯くして得られた含水メタノール溶出画分を濃縮乾固し、プロアントシアニジンが豊富(proanthocyanidin-rich)な画分であるカカオ抽出物17gを得た。このカカオ抽出物を、以下「カカオリカープロアントシアニジン(cacao liquor proanthocyanidin)」として、「CLPr」と略称する。この得られたカカオ抽出物17gの総ポリフェノール含量をプルシアンブルー法(Price, L.M., et al., Rapid visual estimation and spectrophotometric determination of tannin content of sorghum grain. J. Agric. Food Chem., 1977, 25, 1268-1273)にて、エピカテキンを標準品として測定したところ、628.1mg/g(エピテキン相当量)であった。
【0081】
なお、上記で使用したアセトンまたはメタノールに代えてエタノールを使用することもできる。
【0082】
このカカオ抽出物に含まれる総ポリフェノール1g当たりの各ポリフェノールの含量(mg)を表1に示す。なお、このポリフェノール含量は、Natsumeらの論文(Natsume, M. etal., Analysis of Polyphenols in Cacao Liquor, Cocoa, and Chocolate by Normal-Phase and Reversed-Phase HPLC, Bioscience Biotechnology and Biochemistry 2000, 64, 2581-2587)の記載に準じて測定した。
【0083】
【表1】
【0084】
またこのカカオ抽出物の総ポリフェノール1g当たりに含まれる単量体及び多量体(二量体〜7量体)の量(mg)を表2に示す。なお、このポリフェノールの分子量は、Kelm らの論文(Kelm, M. A. et al., High-performance liquid chromatography separation and purification of cacao (Theobroma cacao L.) procyanidins according to degree of polymerization using a diol stationary phase. J Agric Food Chem 2006, 54, 1571-1576)の記載に準じて測定した。
【0085】
【表2】
【0086】
[実施例1]
<ポリフェノール摂取時間による血漿GLP−1濃度の影響の検証>
マウスを用いてポリフェノール摂取時間(朝、夕方)が血漿GLP−1濃度に与える影響を調べた。なお、マウスは夜行性哺乳動物であり、ヒトを始めとする昼行性哺乳動物とはその概日リズム(内因性リズム)が12時間ずれて逆転している。
【0087】
(1)被験マウス
C57BL/6マウス(雄5週齢 日本SLC社)を入手してから、1週間(馴化期間)が経過した後に、40匹を下記の8群に分け(各群5匹)、室温25±2℃、照明時間/日を8時〜20時の条件下で飼育した(明暗周期:明期8:00〜20:00、暗期20:00〜8:00)。なお、上記するようにマウスは夜行性の哺乳動物であるため、上記明暗周期において、明期は就眠/絶食時間帯、暗期は活動/摂食時間帯に相当する。
【0088】
下記において、符号「A」及び「B」はそれぞれカカオ抽出物朝投与及び夕方投与を意味する。また、符号「C」及び「H」はそれぞれ普通食給餌及び高脂肪食給餌を意味する。
No.1(A/C−0):カカオ抽出物非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.2(A/C−10):カカオ抽出物朝投与(10mg/kg体重)
No.3(A/H−0):カカオ抽出物非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.4(A/H−10):カカオ抽出物朝投与(10mg/kg体重)
No.5(B/C−0):カカオ抽出物非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.6(B/C−10):カカオ抽出物夕方投与(10mg/kg体重)
No.7(B/H−0):カカオ抽出物非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.8(B/H−10):カカオ抽出物夕方投与(10mg/kg体重)
【0089】
具体的には、40匹のマウスを、まず上記の通り、カカオ抽出物朝投与群(A:No.1〜4)及びカカオ抽出物夕方投与群(B:No.5〜8)の2つに分け、これらの群をさらにそれぞれ普通食給餌群(C)と高脂肪食給餌群(H)に分けた。また各群(朝投与/普通食給餌群[A/C]、朝投与/高脂肪食給餌群[A/H]、夕方投与/普通食給餌群[B/C]、夕方投与/高脂肪食給餌群[B/H])とも、カカオ抽出物投与群に対して、カカオ抽出物非投与群(対照)を設けた。
【0090】
(2)試験方法
上記製造例1で調製したカカオ抽出物(以下「CLPr」ともいう)を蒸留水で10倍に希釈し、これを上記No.2、No.4、No.6及びNo.8のマウスに対してCLPr量が10mg/kg体重(ポリフェノールの総量6mg/kg体重)になるように経口投与した。これらのマウスの対照群(No.1、No.3、No.5及びNo.7)には、CLPrに代えて蒸留水を10mg/kg体重の割合で投与した。なお、1〜4群のマウスには朝(9時)に、No.5〜8のマウスには夕方(17時)に、いずれも1回/日の割合でCLPrまたは蒸留水を投与した。
【0091】
上記実験中、No.1〜2及びNo.5〜6には普通食(D12450B(脂質エネルギー比10%)、リサーチダイエット社)を、No.3〜4及びNo.7〜8には高脂肪食(D12492(脂質エネルギー比60%)、リサーチダイエット社)を自由摂取させた。
【0092】
CLPr経口投与の開始から7日目(7日目の経口投与1時間後)に、各群のマウスをネンブタール麻酔下で心臓採血することにより屠殺した。各群のマウスから採取した血液を遠心分離(9,700g、10分間、4℃)して、血漿を得た。斯くして調製した血漿を用いて、各群マウスの血漿GLP−1濃度を、レビス(R)GLP−1(Active)(シバヤギ社)の測定キットを用いて測定した。なお、GLP−1はグルカゴン様ペプチドであり、血糖代謝に関与するインスリン分泌を促す。このため、血漿中のGLP−1濃度の増加は、インスリン分泌につながり、糖代謝が亢進することを意味する。
【0093】
(3)試験結果
朝投与群(A)のマウスの血漿GLP−1濃度を
図1(A)に、夕方投与群(B)のマウスの血漿GLP−1濃度を
図1(B)に示す。
図1(A)に示すように、朝投与群において、普通食給餌群(C)と高脂肪食給餌群(H)との別に関係なく、CLPr非投与群と比較して、CLPr投与群は血漿GLP−1濃度が有意に高値を示した。一方、夕方投与群において、普通食給餌群(C)及び高脂肪食給餌群(H)のいずれも、CLPr非投与群とCLPr投与群とで、血漿GLP−1濃度に有意差はなかった。この結果から、朝、マウスにCLPrを摂取または投与することで、GLP−1の分泌が促進され、糖代謝(エネルギー代謝)が亢進することが明らかになった。この結果をマウスとは概日リズムが逆の昼行性哺乳動物(ヒトを含む)に当てはめると、昼行性哺乳動物の場合は、夕方以降にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで、GLP−1の分泌が促進され、糖代謝(エネルギー代謝)が亢進すると考えられる。
【0094】
[実施例2]
マウスを用いて、ポリフェノール摂取時間(朝、夕方)による、血漿アディポネクチン濃度、リン酸化AMPK/総AMPK、各臓器における脂肪組織量、及び時計遺伝子の発現量に与える影響を調べた。ポリフェノールとして、実施例1と同様、製造例1で調製したカカオ抽出物(CLPr)を用いた。
【0095】
(1)被験マウス
C57BL/6マウス(雄5週齢 日本SLC社)を入手してから、1週間(馴化期間)が経過した後に、60匹を12群に分け(各群5匹)、下記のように分類した。
No.1(A/C−0):CLPr非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.2(A/C−1):CLPr朝投与(1mg/kg体重)
No.3(A/C−10):CLPr朝投与(10mg/kg体重)
No.4(A/H−0):CLPr非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.5(A/H−1):CLPr朝投与(1mg/kg体重)
No.6(A/H−10):CLPr朝投与(10mg/kg体重)
No.7(B/C−0):CLPr非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.8(B/C−1):CLPr夕方投与(1mg/kg体重)
No.9(B/C−10):CLPr夕方投与(10mg/kg体重)
No.10(B/H−0):CLPr非投与(0mg/kg体重)(対照)
No.11(B/H−1):CLPr夕方投与(1mg/kg体重)
No.12(B/H−10):CLPr夕方投与(10mg/kg体重)
【0096】
具体的には、60匹のマウスを、まず上記の通り、朝投与群(A:No.1〜6)及び夕方投与群(B:No.7〜12)の2つに分類し、これらの群をさらにそれぞれ普通食給餌群(C)と高脂肪食給餌群(H)の2つに分類した。またこれら4つに分類した各群(朝投与/普通食給餌群[A/C]、朝投与/高脂肪食給餌群[A/H]、夕方投与/普通食給餌群[B/C]、夕方投与/高脂肪食給餌群[B/H])を、さらに2つのCLPr投与群(1mg/kg投与群、10mg/kg投与群)と1つのCLPr非投与群(対照)とに分類した。
【0097】
(2)試験方法
上記製造例1で調製したカカオ抽出物(CLPr)を蒸留水で10倍に希釈し、これを上記No.2、No.5、No.8及びNo.11のマウスに対してCLPr量が1mg/kg体重(ポリフェノールの総量0.6mg/kg体重)になるように、また上記No.3、No.6、No.9及びNo.12のマウスに対してCLPr量が10mg/kg体重(ポリフェノールの総量6mg/kg体重)になるように、それぞれ経口投与した。これらのマウスの対照群(No.1、No.4、No.7及びNo.10)には、CLPrに代えて蒸留水を10mg/kg体重の割合で投与した。なお、No.1〜6のマウスには朝(9時)に、No.7〜12のマウスには夕方(17時)に、いずれも1回/日の割合でCLPrまたは蒸留水を投与した。
【0098】
上記実験中、No.1〜3及びNo.7〜9には普通食(D12450B)を、No.4〜6及びNo.10〜12には高脂肪食(D12492)を自由摂取させた。
CLPrの経口投与の開始から7日目(7日目の経口投与1時間後)に、各群のマウスをネンブタール麻酔下で心臓採血することにより屠殺した。各群のマウスから採取した血液を遠心分離(9,700g、10分間、4℃)して、血漿を得た。
斯くして調製した血漿を用いて、各群マウスの血漿アディポネクチン濃度を、レビスアディポネクチン(シバヤギ社)の測定キットを用いて測定した。またリン酸化AMPK/総AMPKをウエスタンブロット法で測定した。なお、アディポネクチンは、脂肪細胞が特異的に分泌するタンパク質であり、血漿中のアディポネクチン濃度の増加は、インスリンの感受性を高める、すなわち糖代謝を活性化していることを意味する。またリン酸化AMPK/総AMPKの増加は、AMPKが活性化されてリン酸化が進んでいることを示す。
【0099】
また、各群のマウスについて、体重を測定した後、白色脂肪細胞(内臓脂肪[精巣上体脂肪、腸間膜脂肪、腎周囲脂肪]、皮下脂肪)、褐色脂肪細胞、及び筋肉(腓腹筋、ヒラメ筋)を摘出し、各群間でこれらの重量(g/100g体重)を比較した。なお、統計処理にはTukey-Kramer multiple comparison testを用いて、p<0.05を有意差があると判定した。
【0100】
[測定結果]
(1)血漿アディポネクチン濃度
朝投与群(A)及び夕方投与群(B)の血漿アディポネクチン濃度を、それぞれ
図2(A)および(B)に示す。
図2(A)に示すように、朝(9時)のCLPr投与では、普通食給餌群(C)において血漿アディポネクチン濃度がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた。また高脂肪食給餌群(H)でも血漿アディポネクチン濃度がCLPrの投与により高まる傾向が見られた。なお、CLPr非投与群において、高脂肪食給餌群(H−0)の血漿アディポネクチン濃度は普通食給餌群(C−0)より低値の傾向が見られたが、CLPr投与群では、高脂肪食給餌群(H−1、H−10)と普通食給餌群(C−1、C−10)とで血漿アディポネクチン濃度は同程度であった(つまり、高脂肪食給餌群に対してCLPr投与により血漿アディポネクチン濃度が高まることを意味する)。一方、
図2(B)に示すように、夕方(17時)のCLPr投与では、全群において血漿アディポネクチン濃度は同程度であり、CLPr投与による影響は見られなかった。
【0101】
この結果から、朝、マウスにCLPrを摂取または投与することで、血漿アディポネクチン濃度が高まること、すなわちアディポネクチンの分泌が促進されることが明らかになった。
【0102】
(2)リン酸化AMPK/総AMPK
朝投与群(A)および夕方投与群(B)の各々について、リン酸化AMPKを総AMPKで除した比率(リン酸化AMPK/総AMPK)を、それぞれ
図3(A)および(B)に示す。
図3(A)および(B)はいずれも、CLPr非投与の普通食給餌群(C−0)を1(対照)として、各群のリン酸化AMPK/総AMPKを評価した結果を示す。
図3(A)に示すように、朝(9時)のCLPr投与では、普通食給餌群及び高脂肪食給餌群の両群においてリン酸化AMPK/総AMPKがCLPr投与量に依存して高まる傾向が見られた。一方、夕方(17時)の投与では、高脂肪食給餌群においてリン酸化AMPK/総AMPKがCLPr投与量に依存して高まる傾向は見られなかった。
【0103】
(3)脂肪細胞の重量
朝投与群(A)および夜投与群(B)のマウスの体重(g)および体重100g当たりの脂肪細胞の重量(g/100g体重)を、それぞれ表3および表4に示す。なお、表3及び4において、「白色脂肪細胞(g/100g体重)」とは、精巣上体脂肪、腸管膜脂肪、及び腎周囲脂肪(以上、内臓脂肪)、並びに皮下脂肪の、体重100gあたりの総量(g)を意味する。各表中の各値に記載する符号は、異符号を付した群間に有意差があることを意味する。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
朝投与群(A)および夕方投与群(B)のいずれのマウスも、高脂肪食給餌群(H)の内臓脂肪の白色脂肪細胞(精巣上体脂肪、腸管膜脂肪、および腎周囲脂肪)の重量は、普通食給餌群(C)のそれらよりも高値であった。
【0107】
朝投与群(A)では、高脂肪食給餌のCLPr高投与群(CLPr:10mg/kg体重)は、同給餌群のCLPr非投与群(CLPr:0mg/kg体重)と比較して、白色脂肪細胞の重量が低くなる傾向が見られた。なお、このCLPr高投与群の白色脂肪細胞の重量は、普通食給餌群の同群のそれと同程度である。また、朝投与群では、高脂肪食給餌のCLPr低投与群(CLPr:1mg/kg体重)は、同給餌群のCLPr非投与群(CLPr:0mg/kg体重)と比較して、腸管膜脂肪の重量が低くなる傾向が見られた(表3参照)。
【0108】
一方、夕方投与群(B)では、高脂肪食給餌のCLPr高投与群(CLPr:10mg/kg体重)の白色脂肪細胞の重量は、同給餌のCLPr非投与群(CLPr:0mg/kg体重)と同程度であり、また普通食給餌のCLPr高投与群よりも高くなる傾向が見られた(表4)。
【0109】
この結果から、朝、マウスにCLPrを摂取または投与することで、高脂肪食を摂取していても内臓脂肪の蓄積が効率的に抑制されることが明らかになった。また、朝、マウスにCLPrを摂取または投与することで、普通食を摂取していても、皮下脂肪や内臓脂肪の量が過剰に低下する傾向は見られなかった(表3)。このことから、朝、CLPrを摂取または投与することは、身体に安全であることがわかる。
【0110】
(4)RNA抽出および遺伝子発現の測定
実施例1においてCLPrの投与時間によって糖代謝に関与するインスリン分泌を促すGLP−1の分泌に差異が認められたことから、CLPr投与による時計遺伝子(Clock、Bmal1、Per1、Per2、Cry1、Cry2)、PGC−1α遺伝子、及びPPAR−α遺伝子の発現に対する影響を確認した。
【0111】
[方法]
マウスから採取した腓腹筋25mgをマイクロチューブに秤量し、500μLのTRIzol Reagentを加え、ポリトロンホモジナイザーで組織を粉砕した。ここに、クロロホルム100μLを加え、ボルテックスミキサーにて十分に混和し、室温(25℃±5℃)にて10分間静置した。 その後に、遠心分離(12,000g、15分間、4℃)して、上清を得た。この上清を新しいマイクロチューブに回収し、2−プロパノール300μlを加え、転倒混和し、室温にて10分間静置した。その後に、遠心分離(12,000g、 10分間、4℃)してRNA分画を沈殿させ、沈殿したRNA分画を、エタノールで洗浄してから、濃縮遠心機にて遠心乾固した。そして、脱イオン蒸留水(deionized -distilled water)30μLで、遠心乾固した総RNAを再溶解し、DNase(DNase1 recombinant RNase-free)処理した。このDNase処理したRNA5μL に、逆転写酵素のReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Kit(TOYOBO)を用いて、cDNAを合成した。合成したcDNAを、SYBR Green premix Taqを用いて、Real time PCR(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice、タカラバイオ社)で測定した。なお、内部標準にはGAPDHを用いた。普通食給餌(C)のCLPr非投与群の各遺伝子(PGC−1α遺伝子、及びPPAR−α遺伝子、Clock遺伝子、Bmal1遺伝子、Per1遺伝子、Pre2遺伝子、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子)の発現量を1(対照)として、各群(普通食給餌(C)のCLPr投与群、高脂肪食給餌(H)のCLPr非投与群及びCLPr投与群)の各遺伝子の発現量を相対的に評価した。なお、統計処理には、Tukey−Kramer multiple comparison testを用いて、p<0.05を有意差があると判定した。
【0112】
[結果]
朝投与群および夕方投与群のPPAR−α遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図4(A)および(B)に示す。朝投与では、普通肪食給餌群(C)及び高脂肪食給餌群(H)の両群において、PPAR−α遺伝子の相対発現量がCLPrの投与により高まる傾向が見られた(
図4(A))。これに対して、夕方投与では、高脂肪食給餌群(H)において、PPAR−α遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まるという傾向は見られなかった(
図4(B))。
【0113】
朝投与群および夕方投与群のPGC−1α遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図5(A)および(B)に示す。朝投与では、高脂肪食給餌群(H)において、PGC−1α遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた(
図5(A))。これに対して、夕方投与では、PGC−1α遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まるという傾向は見られなかった(
図5(B))。
【0114】
朝投与群および夕方投与群のClock遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図6(A)および(B)に示す。朝投与では、高脂肪食給餌群(H)において、Clock遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して有意に高まる傾向が見られた(
図6(A))。これに対して、夕方投与では、Clock遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向は見られなかった(
図6(B))。
【0115】
朝投与群および夕方投与群のBmal1遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図7(A)および(B)に示す。朝投与では、高脂肪食給餌群(H)において、Bmal1遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた(
図7(A))。これに対して、夕方投与では、Bmal1遺伝子の相対発現量がCLPrの投与により増加するものの、投与量に依存して高まる傾向は見られなかった(
図7(B))。
【0116】
朝投与群および夕方投与群のPer1遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図8(A)および(B)。朝投与では、各群間で有意差が認められなかった(
図8(A))。これに対して、夕方投与では、普通食給餌群(C)において、Per1遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた(
図8(B))。しかし、高脂肪食給餌群(H)において、Per1遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向は見られなかった(
図8(B))。
【0117】
朝投与群および夕方投与群のPer2遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図9(A)および(B)に示す。朝投与では、高脂肪食給餌群において、Per2遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた(
図9(A))。一方、夕方投与では、Per2遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向は見られなかった(
図9(B))。
【0118】
朝投与群および夕方投与群のCry1遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図10(A)および(B)に示す。朝投与、及び夕方投与のいずれも、Cry1遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向は見みられなかった。
【0119】
朝投与群および夕方投与群のCry2遺伝子の相対発現量をそれぞれ
図11(A)および(B)に示す。朝投与では、高脂肪食給餌群(H)において、Cry2遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向が見られた(
図11(A))。一方、夕方投与では、Cry2遺伝子の相対発現量がCLPrの投与量に依存して高まる傾向は見られなかった(
図11(B))。
【0120】
これらの結果から、朝、マウスにカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで、夕方にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与する場合と比較して、糖(グルコース)の取り込みが増えること、すなわち、糖(グルコース)代謝が亢進されることが示唆された。さらに、朝、マウスにカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで、高脂肪食などを摂取しても、過剰に(異常に)体脂肪を低下させることなく、余分な内臓脂肪の蓄積を短期間で効果的に抑制できることが確認された。つまり、朝、マウスに、カカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで、脂質代謝が亢進されることが確認された。これらの作用機序として、AMPKがリン酸化されて活性化され、PCG−1α遺伝子が誘導され、時間遺伝子のうち、特に、Clock遺伝子、Per2遺伝子、およびCry2遺伝子の発現が促進されることで、エネルギー代謝を高めて、内臓脂肪の蓄積を抑制し、肥満やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病を予防や改善すると考えることができる。
【0121】
これらの結果をマウスとは概日リズムが逆の昼行性哺乳動物(ヒトを含む)に当てはめると、昼行性哺乳動物の場合は、夜にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで上記現象が生じ、糖代謝及び脂肪代謝(エネルギー代謝)が亢進され、内臓脂肪の蓄積を抑制し、肥満やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病を予防や改善することができると考えられる。
【0122】
[実施例3]
<ポリフェノールの投与時間と各種遺伝子の発現量との関係>
マウスを用いて、ポリフェノールの投与時間と時計遺伝子およびエネルギー代謝関連遺伝子の発現量との関係を評価した。時計遺伝子として、肝臓の時計遺伝子であるPeriod遺伝子(Per1遺伝子、Per2遺伝子、Per3遺伝子)、Bmal1遺伝子、Dbp遺伝子(D-binding protein遺伝子)、Cryptochrome遺伝子(Cry1遺伝子、Cry2遺伝子)、およびClock遺伝子を用いた。また、エネルギー代謝関連遺伝子として、PPAR−α遺伝子(Ppar-α)、Rev−erba遺伝子、PGC1−α遺伝子(Pgc1-α)を用いた。またポリフェノールとして、製造例1で調製したカカオ抽出物(CLPr)を用いた。
【0123】
[方法]
C57BL/6マウス(雄7週齢 日本SLC社)を測定する遺伝子(Per1,Per2,Per3,Bmal1,Dbp,Cry1,Cry2,Clock,Ppar−arufwa,Rev−erba,及びPgc1−α遺伝子)の数に応じて11群に分け、各群をさらにCLPr投与群とCLPr非投与群(対照)にわけた(各群n=5)。なお、CLPr投与群には1回投与あたりCLPr量として150mg/kg体重(ポリフェノール総量として90mg)を投与した。これら各群のマウスは、室温25±2℃、照明時間/日を8時〜20時の条件下で飼育した(明暗周期:明期8:00〜20:00、暗期20:00〜8:00)。
【0124】
この明暗周期のもと、1日4回(zeitgeber timeとして、ZT3(11:00)、ZT9(17:00)、ZT15(23:00)、ZT21(5:00))、CLPr投与群にはCLPrを上記の量で、CLPr非投与群には蒸留水 (6.7 mL/ kg体重) を、胃ゾンデにて強制的に経口投与した。また、これらの各投与から180分後(ZT6(14:00)、ZT12(20:00)、ZT18(2:00)、ZT24(=ZT0)(8:00))に、各群のマウスを屠殺し、肝臓、脂肪組織、および筋肉を採取し、定法に従ってRT−PCRにより、各組織に発現している時計遺伝子およびエネルギー代謝関連遺伝子のmRNA発現量を測定した。
【0125】
[結果]
CLPrの投与時間とPer1、Per2、Per3、Bmal1、Dbp、およびPpar−α遺伝子の発現量との関係を
図12に示す。またCLPrの投与時間とCry1、Cry2、Clock、Rev−erba、およびPgc1−α遺伝子の発現量との関係を
図13に示す。なお、これらの各図は、個体毎に測定時間すべての遺伝子発現量の平均値を求め、それをそれぞれ1とした場合の相対比を、各遺伝子発現量の増減量として示す。
【0126】
図12及び13に示すように、夜行性哺乳動物であるマウスに、CLPrを明期ZT3に投与すると、肝臓において、Per1、Per2、Per3、DbpおよびPparα遺伝子の発現量は有意に増加し(各図中*で示す)、またCry2とPgc1−α遺伝子の発現量は増加傾向を示した。一方でBmal1遺伝子の発現量は有意に減少し、Cry1遺伝子の発現量は減少傾向を示した。しかし、明期ZT3以外の時間帯でCLPrを投与しても、これらの遺伝子の発現量は大きく変化しなかった。
【0127】
このことから、カカオ抽出物(ポリフェノール)はその投与タイミング(時間帯)により、時計遺伝子及びエネルギー代謝関連遺伝子の発現量に与える影響が異なることが判明した。またこれから、カカオ抽出物(ポリフェノール)はその投与タイミング(投与する時間帯)によって糖代謝や脂質代謝(エネルギー代謝)に関わる遺伝子の発現も変化することが示唆された。具体的には、マウスでは明期においてCLPr投与することで、投与から短時間で肝臓の時計遺伝子Per1、Per2、Per3、Dbp、及びPpar−α遺伝子の発現が増えていることから(摂取3時間目がピーク)、この時間帯(明期)にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取することで、糖代謝や脂質代謝に関わる遺伝子発現が変化して、内臓脂肪蓄積の抑制などが起こりやすいことが示唆された。また、それ以外の時間帯(暗期)でカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取した場合は、時計遺伝子、糖代謝および脂質代謝に関わる遺伝子の発現に特に影響がなく、体内エネルギーや体脂肪を維持できることが示唆された。
【0128】
なお、マウスは夜行性哺乳動物であることから、この結果を昼行性哺乳動物(ヒトを含む)に当てはめると、昼行性哺乳動物の場合は、暗期(日没〜日出まで)にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで内臓脂肪蓄積が抑制され、逆に明期(日出〜8時間程度まで)にカカオ抽出物(ポリフェノール)を摂取または投与することで体内エネルギーや体脂肪が維持できると考えられる。
【0129】
[実施例4]
<本発明の組成物の製造>
エタノールで抽出したカカオポリフェノール抽出物、カカオマス、全粉乳、カカオバター、砂糖、レシチンを含む組成物(混合物)を数種類で製造した。これらの組成物の総ポリフェノール含量をプルシアンブルー法にて、エピカテキンを標準品として測定したところ、ポリフェノールの含量(総量)は0.4mg重量%〜107mg重量%であった。これを専門パネルの10名が摂取したところ、いずれも風味と食感が良好であると評価された。