特許第6772152号(P6772152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6772152吸・遮音材用繊維、該繊維の使用及び吸・遮音材用繊維成型体
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  • 特許6772152-吸・遮音材用繊維、該繊維の使用及び吸・遮音材用繊維成型体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772152
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】吸・遮音材用繊維、該繊維の使用及び吸・遮音材用繊維成型体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20201012BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20201012BHJP
   D02G 1/02 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   G10K11/162
   D01F6/18 Z
   D02G1/02
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-539474(P2017-539474)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2017026884
(87)【国際公開番号】WO2018021319
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2017年8月1日
【審判番号】不服2019-7695(P2019-7695/J1)
【審判請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-146896(P2016-146896)
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 達彦
【合議体】
【審判長】 千葉 輝久
【審判官】 五十嵐 努
【審判官】 小池 正彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−222717(JP,A)
【文献】 特開2014−81638(JP,A)
【文献】 特開2009−186825(JP,A)
【文献】 特開2003−301361(JP,A)
【文献】 特開平7−261769(JP,A)
【文献】 特開2013−154583(JP,A)
【文献】 特開2007−86505(JP,A)
【文献】 特開2010−236200(JP,A)
【文献】 特開2006−2294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K11/00-13/00
D01F1/00-6/96
D02G1/00-3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、単繊維の繊維長が20〜60mm、下記の繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射吸音率の平均値が40%以上である吸・遮音材用アクリル繊維。
(繊維成型体)
繊維長が40mmの吸・遮音材用アクリル繊維を70質量%と、単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とする。
【請求項2】
前記繊維成型体とした時、周波数が315〜800Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が40%以上である請求項1に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
【請求項3】
前記繊維成型体とした時、周波数が400〜630Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が38%以上である請求項1または2に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
【請求項4】
捲縮数が8〜14個/25mm、捲縮率が5〜9%である請求項1〜のいずれか一項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
【請求項5】
前記繊維成型体とした時、周波数が200〜4000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上である請求項1〜のいずれか一項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
【請求項6】
前記繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射透過損失の平均値が6.3dB以上である請求項1〜のいずれか一項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
【請求項7】
単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、単繊維の繊維長が20〜60mm、下記の繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射吸音率の平均値が40%以上であるアクリル繊維の吸・遮音材としての使用。
(繊維成型体)
繊維長が40mmの吸・遮音材用アクリル繊維を70質量%と、単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とする。
【請求項8】
単繊維繊度が0.01〜0.5dtexであり、単繊維の繊維長が20〜60mmである吸・遮音材用アクリル繊維(以下「繊維L」という。)、熱融着繊維を含有し、
目付Dが600〜2000g/m、厚みが30〜50mmであって、
下記(1)を満たす吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
(1)繊維Lの含有率Cが20〜70質量%であり、目付D(g/m)と、繊維Lの含有率C(質量%)との関係が、D≧1600−30×Cを満たす。
【請求項9】
周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上である請求項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
【請求項10】
周波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上である請求項8または9に記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
【請求項11】
熱融着繊維の含有率が10〜50質量%であり、熱融着繊維の一部が溶融し、繊維同士が固定化されている部分を有する請求項8〜10のいずれか一項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
【請求項12】
さらに、熱融着繊維以外の、単繊維繊度が1.0dtexより大きい繊維Nの含有率が5〜70質量%である請求項8〜11のいずれか一項に記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は周波数が1000Hz以下の音の吸・遮音に効果的な繊維集合体の形成に適した吸・遮音材用繊維、該繊維の使用及び吸・遮音材用繊維成型体に関するものであり、自動車等の車体や住宅等の内外装材に使用され室内の静粛性を高める吸・遮音材用繊維及び吸・遮音材用繊維成型体に関するものである。
【技術背景】
【0002】
鉄道車両や自動車等に用いられる車両用部品から掃除機等の電化製品まで幅広い分野において吸・遮音材が用いられている。
【0003】
例えば、自動車の室内に流入される騷音は、エンジンで発生した音が車体を通じて流入される騷音と、タイヤと路面との接触時に発生される騷音が車体を通じて流入される騷音に分けられる。
【0004】
このような騷音を低減する方法として、流入する騒音を遮音材によって遮る方法と、流入した騒音を吸音材に吸収させる方法がある。
【0005】
遮音とは、発生した音響エネルギーが遮蔽物によって反射され、遮断されることであり、吸音とは、発生した音響エネルギーが素材の内部経路に沿って伝達されながら熱エネルギーに変換されて消滅することである。
【0006】
吸・遮音性能向上には、吸・遮音材の重量アップを伴うことが一般的であるが、最近、特に自動車分野において、燃費向上及び省資源のニーズが急速に高まり、吸・遮音材の軽量化が強く叫ばれるようになった。
【0007】
吸・遮音性能と軽量化の相反する課題を解決させる為には、伝達音に対する優れた遮音と他の伝達経路(窓他)から流入した騒音の効率良い吸音、言い換えると吸・遮音のバランスに優れた材料が求められている。
【0008】
例えば、自動車においては車内騒音の50%以上を占めるエンジン音のダッシュ部からの透過音は100〜1000Hz程度の周波数が主であり、この領域の音を効率的に吸・遮音することが求められている。
【0009】
その目的として、例えば特許文献1には、合成短繊維をマット状に成型し吸音材とすることが提案されている。一般的に用いられるガラス繊維の代わりに1〜50デニールの合成繊維を使用しているが、吸音効果を発揮させるには重量が大きくなり、自動車等の車体の軽量化には相反するものである。
【0010】
特許文献2には、単繊維繊度が0.6dtexのポリエステル繊維を含む防音材料が提案されているが、吸音効果は十分ではなかった。さらに単繊維繊度を細くすると製造コストが高くなり過ぎる問題があった。
【0011】
特許文献3には、ガラス繊維とセルロース繊維を組み合わせた吸音シートが提供されているが、シートの物理量をコントロールすることにより吸音性能を変化させており、軽量化ができていないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−242066号公報
【特許文献2】特開2016−034828号公報
【特許文献3】特表2014−521995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、吸・遮音材に用いられ、吸・遮音効果に優れる繊維集合体を得られる単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、単繊維の繊維長が15〜60mmの吸・遮音材用繊維を提供することにあり、1000Hz以下の音の吸音効果に適する当該繊維を使用した吸・遮音材用繊維成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1.単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、単繊維の繊維長が20〜60mm、下記の繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射吸音率の平均値が40%以上である吸・遮音材用アクリル繊維。
(繊維成型体)
繊維長が40mmの吸・遮音材用アクリル繊維を70質量%と、単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とする。
2.前記繊維成型体とした時、周波数が315〜800Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が40%以上である1に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
3.前記繊維成型体とした時、周波数が400〜630Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が38%以上である1または2に記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
.捲縮数が8〜14個/25mm、捲縮率が5〜9%である1〜のいずれかに記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
.前記繊維成型体とした時、周波数が200〜4000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上である1〜のいずれかに記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
.前記繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射透過損失の平均値が6.3dB以上である1〜のいずれかに記載の吸・遮音材用アクリル繊維。
.単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、単繊維の繊維長が20〜60mm、下記の繊維成型体とした時、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射吸音率の平均値が40%以上であるアクリル繊維の吸・遮音材としての使用。
(繊維成型体)
繊維長が40mmの吸・遮音材用アクリル繊維を70質量%と、単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とする。
.単繊維繊度が0.01〜0.5dtexであり、単繊維の繊維長が20〜60mmである吸・遮音材用アクリル繊維(以下「繊維L」ともいう。)、熱融着繊維を含有し、
目付Dが600〜2000g/m、厚みが30〜50mmであって、
下記(1)を満たす吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
(1)繊維Lの含有率Cが20〜70質量%であり、目付D(g/m)と、繊維Lの含有率C(質量%)との関係が、D≧1600−30×Cを満たす。
.周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上であるに記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
10.周波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上である8または9に記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
11.熱融着繊維の含有率が10〜50質量%であり、熱融着繊維の一部が溶融し、繊維同士が固定化されている部分を有する8〜10のいずれかに記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
12.さらに、熱融着繊維以外の、単繊維繊度が1.0dtexより大きい繊維Nの含有率が5〜70質量%である8〜11のいずれかに記載の吸・遮音材用アクリル繊維成型体。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、周波数が1000Hz以下の音の吸・遮音性に優れた繊維成型体を形成できる吸・遮音材用繊維を得ることができ、特に、自動車等の車体や住宅等の内外装材に使用され室内の静粛性を高めることのできる吸・遮音材用繊維を得ることができる。
【0016】
さらに、当該繊維を使用し、周波数が1000Hz以下の音の吸・遮音性に優れた繊維成型体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られた繊維A[アクリル 0.1dtex]、参考例1で得られた繊維E[アクリル 1dtex]及び比較例1で得られた繊維F[ポリエステル(PET)0.5dtex]の垂直入射吸音率(%)の測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の吸・遮音材用繊維は、単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上である。
【0019】
垂直入射吸音率の測定方法は、繊維長が40mmの吸・遮音材用繊維を70質量%と、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とした時の、JIS A 1405−2により垂直入射吸音率を測定する。
【0020】
単繊維繊度が0.01dtex以上であれば、成型体の製造時の該繊維の取り扱いが良好であり、製造コストも高くなり過ぎず、0.5dtex以下であれば、良好な吸・遮音性能を得ることができる。これらの観点から、前記単繊維繊度は0.05〜0.4dtexがより好ましく、0.1〜0.3dtexがさらに好ましい。
【0021】
また、周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上であれば、エンジン音及びダッシュ部からの透過音の低減効果に優れている。この観点から、前記垂直入射吸音率の平均値は43%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましい。
【0022】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が315〜800Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が40%以上であることが好ましい。
【0023】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が315〜800Hzの音における前記垂直入射吸音率に特に優れており、エンジン音の吸・遮音に優れるものである。この観点から、周波数が315〜800Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が45%以上であることがさらに好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0024】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が400〜630Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が38%以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が400〜630Hzの音における前記垂直入射吸音率に特に優れており、エンジン音の吸・遮音に優れるものである。
【0026】
この観点から、周波数が400〜630Hzの音における前記垂直入射吸音率の平均値が45%以上であることがさらに好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0027】
本発明の吸・遮音材用繊維に使用される繊維は特に限定されるものではないが、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維等の合成繊維、アセテート、プロミックス等の半合成繊維等を好適に用いることができる。
【0028】
中でも、軽量化の観点から、比重の小さいアクリル繊維、ナイロン繊維をより好適に用いることができ、さらに吸音性や細繊度繊維の生産性の観点から、アクリル繊維をより一層好適に用いることができる。
本発明の吸・遮音材用繊維としてアクリル繊維を用いると、周波数が200〜1000Hzの音の吸音性を良好にすることができる。
【0029】
本発明の吸・遮音材用繊維は、単繊維の繊維長が3〜60mmであることが好ましい。前記繊維長が3〜60mmであれば、繊維の分散性も良好で成型体が成型しやすく、より好ましくは15〜40mmであり、より一層好ましくは20〜35mmである。
【0030】
本発明の吸・遮音材用繊維は、捲縮数が8〜14個/25mm、捲縮率が5〜9%であることが好ましい。
【0031】
捲縮数が8〜14個/25mm、捲縮率が5〜9%であれば、繊維集合体にする時の成型性が良好になる。
【0032】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上であることが好ましい。
【0033】
垂直入射透過損失の測定方法は、繊維長が40mmの吸・遮音材用繊維を70質量%と、繊維長が51mm、融点が110℃のポリエステル熱融着繊維を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体とした時の、ASTM E2611に準拠して、垂直入射透過損失を測定する。
【0034】
周波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上であれば、車外またはエンジンルームから車内への透過音を効率良く低減できる。この観点から、前記垂直入射透過損失の平均値は10.0dB以上がより好ましく、11.0dB以上がさらに好ましい。
【0035】
本発明の吸・遮音材用繊維は、周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が6.3dB以上であることが好ましい。
【0036】
周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が6.3dB以上であれば、ダッシュ部からのエンジン音を遮音しやすくなる。この観点から、前記垂直入射透過損失の平均値は6.5dB以上がより好ましく、7.0dB以上がさらに好ましい。
【0037】
本発明の吸・遮音材用繊維の製造方法は、アクリロニトリル共重合体を溶媒に溶解し、固形分濃度を10〜30質量%とした紡糸溶液を、紡糸ノズルの吐出孔から、温度が20〜60℃、溶剤濃度が25〜50質量%の水溶液中に吐出し、単繊維繊度を0.01〜0.5dtexとするものである。
【0038】
紡糸溶液の固形分濃度が10質量%以上であれば、凝固浴での溶剤置換が速やかに行われ、30質量%以下であれば、紡糸溶液の粘度が高くなりすぎず、糸切れが起こりにくいので好ましい。これらの観点から、紡糸溶液の固形分濃度は、15〜28質量%が好ましく、18〜25質量%がさらに好ましい。
【0039】
本発明の単繊維繊度が0.01〜0.5dtex、周波数が200〜1000Hzの音における前記繊維成型体の垂直入射吸音率の平均値が40%以上である繊維は、吸・遮音材として使用することが好ましい。
【0040】
単繊維繊度が0.01〜0.5dtexのものは、吸・遮音性に優れているため、吸・遮音材として好適に使用することができる。
【0041】
上記のように、本発明の吸・遮音材用繊維としてはアクリル繊維を好適に用いることができるが、アクリル繊維を用いる場合を例として、以下に説明を行う。
【0042】
本発明におけるアクリル繊維とは、アクリロニトリル及びこれと重合可能な不飽和単量体からなる。このような不飽和単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、若しくはこれらのアルキルエステル類、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、さらに目的によってはビニルベンゼンスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダ、アリルスルホン酸ソーダ、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸ソーダ、ソディウムパラスルホフェニールメタリルエ−テル等のイオン性不飽和単量体を用いることができる。
【0043】
ポリマー中のアクリロニトリル単位の含有率は好ましくは80%以上であり、特に好ましくは85%以上であり、上限は99%以下が好ましい。
【0044】
これらのビニルモノマーは、単独或いは2種以上組み合わされていてもよい。また、本発明のアクリル繊維を構成するアクリロニトリル系ポリマーは、1種類のポリマーからなっていてもよいし、アクリロニトリル含有率の異なる2種以上のポリマーの混合物からなっていてもよい。
【0045】
上記アクリル系ポリマーの重合方法としては懸濁重合、溶液重合等が選択可能であるが特に限定しない。上記アクリル系ポリマーの分子量は通常アクリル繊維の製造に用いられる範囲の分子量であればよく、特に限定しないが、0.5重量%ジメチルホルムアミド溶液としたとき、25℃における還元粘度が1.5〜3.0の範囲にあることが好ましい。
【0046】
<紡糸原液>
紡糸原液はアクリル系ポリマーを15質量%〜28質量%となるように溶剤に溶解して調製するが、濃度が15質量%以上では、凝固時にノズル孔の形状と繊維断面の形状の差が大きくなく、目的の断面形状を得やすい。一方、28質量%以下の場合、紡糸原液の経時安定性が良く紡糸安定性が良好である。
【0047】
溶剤としてはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶剤の他、硝酸、ロダン酸塩水溶液、塩化亜鉛水溶液等を用いることができるが、断面形状をノズル孔により制御しようとする場合には、有機溶剤が有利に用いられる。
【0048】
<紡糸>
凝固糸の引き取り速度と紡糸原液の吐出線速度の比で定義される紡糸ドラフトを0.7〜3.0の範囲となるよう紡出、引き取りすることにより良好な紡糸状態を維持できる。紡糸ドラフトが0.7以上の場合には、凝固時にノズル孔の形状と繊維断面の形状の差が少なく目的の断面形状を得やすく、また、断面ムラも抑えられる。一方、3.0以下であれば凝固浴液中での糸切れが少なく、繊維自体を得ることが容易となる。
【0049】
得られた凝固糸は公知の方法、条件で延伸、洗浄、乾燥され、得られた繊維は用途に応じて所定の長さにカットされ原綿とすることができる。
【0050】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、繊維L(単繊維繊度が0.01〜0.5dtexの吸・遮音材用繊維)等を、ポリエステル繊維等の熱融着繊維で部分的に融着させたものである。本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、繊維L、熱融着繊維以外に、繊維M(繊維L、熱融着繊維以外の、単繊維繊度が0.5dtexより大きく1.0dtex以下である他の繊維)を含有することができる。
【0051】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、目付Dが400〜2000g/m、厚みが20〜50mmであって、下記(1)または(2)を満たす吸・遮音材用繊維成型体である。
(1)繊維Lの含有率Cが20〜90質量%であり、目付D(g/m)と、繊維Lの含有率C(質量%)との関係が、D≧1600−30×Cを満たす。
(2)繊維Lの含有率が5〜30質量%であり、さらに繊維Mを含有し、繊維Lと繊維Mとの合計の含有率が40〜90質量%である。
【0052】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、遮音性・吸音性に優れ、軽量であることから、自動車における車内騒音の防止等の用途に好適に用いることができる。
【0053】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体の目付が400g/m以上であれば、吸・遮音性能が良好となり易く、2000g/m以下であれば、軽量化がし易くなるので好ましい。これらの観点から、前記目付は500〜1800g/mがより好ましく、600〜1500g/mがさらに好ましい。
【0054】
さらに、本発明の吸・遮音材用繊維成型体の厚みが20mm以上であれば、吸・遮音性能が良好となり易く、50mm以下であれば、軽量化がし易くなるので好ましい。これらの観点から、前記厚みは23〜40mmがより好ましく、25〜35mmがさらに好ましい。
【0055】
上記(1)における繊維Lの含有率Cについては、繊維Lの含有率Cが20質量%以上であれば、吸・遮音性能が良好となり易く、90質量%以下であれば、熱融着繊維や繊維N(熱融着繊維以外の、単繊維繊度が1.0dtexより大きい繊維)を含有することができ、形態安定が得易くなり、コストを低くし易くなる。
【0056】
これらの観点から、繊維Lの含有率Cは、30〜80質量%がより好ましく、40〜60質量%がさらに好ましい。
【0057】
上記(1)における目付Dと、繊維Lの含有率Cとの関係(D≧1600−30×C)については、吸・遮音性能を担保するために、繊維Lの含有率Cが少ない場合には目付を大きくする必要があり、目付が小さい場合には繊維Lの含有率Cを多くする必要がある。
【0058】
上記(2)については、繊維Lの含有率Cが5〜30質量%と比較的少ない場合には、さらに繊維Mを含有させ、繊維Lと繊維Mとの合計の含有率を40質量%以上にすることにより吸・遮音性能を良好とすることができ、90質量%以下であれば、熱融着繊維の含有率が少なくなりすぎないため、形態安定が得易く、コストを低くし易くなる。
【0059】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上であることが好ましい。
【0060】
周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上であれば、エンジン音及びダッシュ部からの透過音を低減効果に優れたものとすることができる。この観点から、前記垂直入射吸音率の平均値は43%以上がより好ましく、46%以上がさらに好ましい。
【0061】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、繊維Lがアクリル繊維であることが好ましい。繊維Lとして、単繊維繊度が0.01〜0.5dtexと比較的小さいアクリル繊維を用いた場合には、図1に示すように、周波数が200〜1000Hzの音における吸音性を良好なものとすることができる。
【0062】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、周波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上であることが好ましい。
【0063】
波数が200〜4000Hzの音における垂直入射透過損失の平均値が9.0dB以上であれば、車外またはエンジンルームから車内への透過音を効率良く低減できる。この観点から、前記垂直入射透過損失の平均値は10.0dB以上がより好ましく、11.0dB以上がさらに好ましい。
【0064】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、熱融着繊維の含有率が10〜50質量%であり、熱融着繊維により固着化されていることが好ましい。熱融着繊維により、成型体を構成する繊維が固着化されていることで、複雑な形状でもその形状が維持できるため好ましい。
【0065】
熱融着繊維の含有率が10質量%以上であれば、繊維成型体の形状を維持し易くなり、50質量%以下であれば、本発明の吸・遮音材用繊維を含有でき、吸・遮音性能を良好にし易くなる。
【0066】
これらの観点から、熱融着繊維の含有率は15〜45質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。
【0067】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体において用いられる熱融着繊維の単繊維繊度は、1〜5dtexが好ましい。
【0068】
熱融着繊維の単繊維繊度が1dtex以上であれば、吸・遮音材用繊維成型体を構成する繊維同士を固着化し易くなり、5dtex以下であれば、吸音率の低下が少なくできる。
【0069】
これらの観点から、熱融着繊維の単繊維繊度は、1.5〜3dtexがさらに好ましい。
【0070】
本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、繊維L、繊維M等を熱融着繊維で部分的に融着させたものであるが、繊維Nとして、単繊維繊度が1.0dtex以上の繊維を用い、その含有率を5〜70質量%とすることができる。
【0071】
コストを低減するために、吸・遮音性能において、周波数が200〜1000Hzの音における垂直入射吸音率の平均値が40%以上である範囲で繊維Nを含有させることができる。
【0072】
繊維Nの含有率が5質量%以上であれば、コストの低減効果が顕著となり、70質量%以下であれば、吸・遮音性能が良好である範囲を保ち易い。
繊維Nは、コスト低減効果の観点から、リサイクル繊維を用いることが好ましい。
【0073】
これらの観点から、繊維Nの含有率は15〜60質量%がより好ましく、20〜50質量%がさらに好ましい。
【0074】
また、本発明の吸・遮音材用繊維成型体は、難燃性能を付与するためにガラス繊維、鉱物繊維等の無機繊維を含有させても良い。
【0075】
<実施例>
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。尚、実施例における各項目の測定は次の方法に拠った。
【0076】
<単繊維繊度の測定方法>
オートバイブロ式繊度測定器(サーチ制御電気社製、DeniorComputerDC−11)を使用し、温度25℃、湿度65%の条件下で測定した。測定は、25回行い、平均値を使用した。
【0077】
<捲縮数、捲縮率の測定方法>
JIS L 1015(2010) 8.12に準拠して測定した。
【0078】
<垂直入射吸音率・垂直入射透過損失の測定方法>
40mmに切断した吸・遮音材用繊維を70質量%と、ポリエステル熱融着繊維(単繊維繊度:2.2dtex、繊維長51mm、融点:110℃)を30質量%とを混合し、170℃で20分間加熱し、その後冷却して厚み30mm、目付1200g/mの繊維成型体を製造した。
【0079】
具体的には合計72gの混綿原料を縦200mm横300mm高さが50mmの容器に入れ、高さ30mmまで圧縮した後に、加熱成型を行った。
【0080】
当該繊維成型体を、JIS A 1405−2及びASTM E2611に準拠して、所定の周波数の範囲における垂直入射吸音率(以下、「吸音率」ともいう。)、垂直入射透過損失(以下、「透過損失」ともいう。)をそれぞれ測定した。測定装置は、日本音響エンジニアリング社製、型番WinZacを使用した。
【0081】
(実施例1)
アクリロニトリル単位が93質量%、酢酸ビニル単位が7質量%からなる共重合体を水系懸濁重合により得た。この重合体の0.5質量%ジメチルホルムアミド溶液、25℃における還元粘度は2.0であった。この共重合体をジメチルアセトアミドに溶解して共重合体濃度24質量%の紡糸原液とした。紡糸ノズルの吐出孔より前記紡糸原液を40℃、ジメチルアセトアミド50%水溶液中に紡糸した。さらに95℃の熱水で5倍に延伸し、洗浄、油剤付与、乾燥ロールによる乾燥を行い、更に機械捲縮により、捲縮数が10個/25mm、捲縮率が7%、単繊維繊度0.1dtexの表1記載の繊維Aを得た。
繊維Aを前記した測定方法により、吸音率、透過損失を測定した。その結果を表2に示す。
【0082】
(実施例2〜4、参考例1)
紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出量を変更して得られる繊度を調整した以外は、実施例1と同様にして、繊維B〜繊維Eを得た。
その後は、実施例1と同様にして繊維成型体を製造し、吸音率、透過損失を測定した。その結果を表2に示す。
【0083】
(比較例1)
単繊維繊度0.5dtexのポリエステル(PET)繊維Fを使用して、実施例1と同様にして、吸音率、透過損失を測定した。その結果を表2に示す。
アクリル繊維とポリエステル繊維とを、同じ単繊維繊度で比較すると、アクリル繊維の方が吸音率の性能は高い。
しかしながら、ポリエステル繊維であっても、単繊維繊度を小さくすれば、吸音率の性能は高くできると考えられる。これは、アクリル繊維の種々単繊維繊度による吸音率の効果から推測できる。
【0084】
(比較例2)
紡糸原液の紡糸ノズルからの吐出量を変更して得られる繊度を3.3dtexに調整した以外は、実施例1と同様にしてアクリル繊維Gを得た。
その後は、実施例1と同様にして繊維成型体を製造し、吸音率、透過損失を測定した。その結果を表2に示す。
単繊維繊度が大きいため、吸音率、透過損失とも低い値であった。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
(実施例5)
実施例1で得た単繊維繊度が0.1dtexの繊維Aを40mmに切断した短繊維A(繊維L)、単繊維繊度が2.2dtex、繊維長が50mmの熱融着ポリエステル短繊維(熱融着繊維)及び単繊維繊度が3.3dtex、繊維長が50mmのレギュラーアクリル短繊維(繊維N)を、短繊維Aが50質量%、熱融着ポリエスエル短繊維が30質量%及びレギュラーアクリル短繊維が20質量%の混率で混合し、170℃で20分間加熱し、目付が1200g/m、厚みが30mmの不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0088】
(実施例6)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0089】
(実施例7)
前記短繊維A(繊維L)、単繊維繊度が0.6dtex、繊維長が32mmのポリエステル短繊維(繊維M)、前記熱融着ポリエステル短繊維(熱融着繊維)及び前記レギュラーアクリル短繊維(繊維N)を、表3に示す混率で混合した以外は実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0090】
(実施例8、9)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例7と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0091】
(比較例3)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維の含有率が少ないため、吸音率が低下した。
【0092】
(比較例4)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維を含有しておらず、単繊維繊度の太いレギュラーアクリル繊維では、吸音率を高くできなかった。
【0093】
(比較例5)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維を含有しておらず、0.6dtexのポリエステル繊維では、吸音率を高くできなかった。
【0094】
(実施例10)
不織布の目付を600g/mに変えた以外は、実施例5と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0095】
(実施例11)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例10と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
【0096】
(比較例6)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例10と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明のアクリル繊維の含有率は30質量%であったが、目付が小さいため、吸音率が低下した。
【0097】
(比較例7)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例10と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維の含有率が少ないため、吸音率が低下した。
【0098】
(比較例8)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例10と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維を含有しておらず、単繊維繊度の太いレギュラーアクリル繊維では、吸音率を高くできなかった。
【0099】
(比較例9)
混合する短繊維の混率を表3に示す通りに変えた以外は、実施例10と同様にして不織布を得た。
吸音率と透過損失を測定した結果を表3に示す。
本発明の吸・遮音性アクリル繊維を含有しておらず、0.6dtexのポリエステル繊維では、吸音率を高くできなかった。
【0100】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の吸・遮音材用繊維を用いて不織布のような繊維集合体にし、吸音材・遮音材として利用することで、軽量で静音性が求められる素材(自動車内外装材、住宅用建材の吸・遮音材)に有利に適用できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
図1