(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772435
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】リチウムイオン2次電池用負極活物質およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20201012BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20201012BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/36 D
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-57934(P2015-57934)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-178008(P2016-178008A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 学
(72)【発明者】
【氏名】国吉 実
(72)【発明者】
【氏名】山本 教広
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昌則
【審査官】
青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−095797(JP,A)
【文献】
特開2014−187007(JP,A)
【文献】
特開2014−120429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折法又は動的光散乱法の粒度分布計による平均粒径(D50)が0.5μm以下であり、表面にCuがドープされ、かつXRDで測定してシリコン単相のピークパターンを持つシリコン系微粒子を10〜50重量%含み、残部が非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素、及び黒鉛であり、平均粒径(D50)が1〜40μm、BET法による比表面積が0.5〜50m2/gであり、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、合成ピッチ、タール類、セルロース、スクロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂又はポリイミド樹脂由来の炭素である非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素が、負極活物質の表面を覆っており、シリコン系微粒子が非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素と共に0.2μm以下の厚みの黒鉛薄層間に挟まれた構造であることを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極活物質。
【請求項2】
非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素がフェノール樹脂由来の炭素である請求項1に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質。
【請求項3】
シリコン系微粒子、熱処理により非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素になる炭素質物、および黒鉛を混合する工程と、圧密化する工程と、粉砕および球形化処理して略球状の複合粒子を形成する工程と、該複合粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
シリコン以外の1種以上のCu塩又はCu酸化物をシリコン表面に凝着する工程と、Cu塩又はCu酸化物を還元する工程から製造されるシリコン系粒子を用いる事を特徴とする請求項3記載のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池用の負極活物質およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレット型端末などモバイル機器の高性能化や、EV、PHEVなどリチウムイオン2次電池を搭載した車両の普及に伴い、リチウムイオン2次電池の高容量化の要求が高まっている。現在、リチウムイオン2次電池の負極材には主に黒鉛が用いられているが、さらなる高容量化のため、理論容量が高く、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なシリコン粒子を用いた負極材の開発が活発化している。
【0003】
一方、これらのシリコン粒子は、充電によってリチウムを吸蔵した際に、著しく体積膨張し、これらを用いた負極も構造が破壊されて導電性が切断される。従って、シリコン粒子を用いた負極はサイクル経過によって容量が著しく低下することが課題となっている。
【0004】
この課題に対し、これらのシリコン粒子を微粉砕し、黒鉛などで複合化する手法が提案されている。このような複合粒子は、シリコン微粒子がリチウムと合金化し、膨張しても、一粒子あたりの膨張が小さく、黒鉛によって導電性が確保されるため、これらの材料を単独で負極材として用いるよりもサイクル特性が著しく向上することが知られている。例えば、特許文献1には、比表面積30m
2/g以上の膨張黒鉛または薄片状黒鉛と、リチウムイオンと化合可能な電池活物質とを混合して混合物を得る混合工程と、該混合物に球形化処理を施し、黒鉛およびリチウムイオンと化合可能な電池活物質を含有する略球状のリチウム二次電池用複合負極活物質を製造する球形化工程とを有する、リチウム二次電池用複合負極活物質の製造方法が開示され、前記リチウムイオンと化合可能な負極活物質について、Si、Sn、Al、Sb、Inから選ばれる少なくとも1種の元素を含有し、平均粒子径は1μm以下が好ましいと記載されている。
【0005】
このようなシリコン微粒子を用いることにより、充電時のリチウム挿入による一粒子あたりの膨張が少なくなり、使用開始時にはサイクル特性が良好であるが、充電時、リチウムを吸蔵したシリコン微粒子が膨張とともに軟化し、粒子同士の互着が発生する。その結果、微粒子が粗大化し、粒子あたりの膨張が大きくなり、複合粒子の構造が破壊され、サイクル特性が悪化する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5227483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シリコン系微粒子と残部が非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素、及び黒鉛とを含んで複合化したリチウムイオン2次電池用負極活物質に関するものであり、放電容量が大きく、サイクル寿命が長いリチウムイオン2次電池を与える負極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、平均粒径(D50)が0.5μm以下であり表面に1種以上の金属がドープされ、かつXRDで測定してシリコン単相のピークパターンを持つシリコン系微粒子を10〜50重量%と、残部が非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素、及び黒鉛であるリチウムイオン2次電池用負極活物質を用いると、充電時のシリコン系微粒子同士の互着を抑制でき、サイクル特性が良好なリチウムイオン2次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
以下、本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質について詳細に説明する。
【0010】
本発明でいうシリコン系微粒子は、1種以上の金属が表面にドープされ、かつXRDで測定してシリコン単相のピークパタ−ンを持ち、負極活物質中に含まれるリチウムと化合可能な金属(Si、Sn、Al等)やこれらを含む合金や金属酸化物とは異なり、充電時の微粒子同士の互着を抑制でき、サイクル特性を向上させる効果が大きい。ドープに用いる金属としてはAg、Al、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、In、Li、Mg、Mn、Ni、Pb、Sb、Sn、Ti、Ta、V、W、Y、Znから選ばれた1種以上の組み合わせが望ましい。
【0011】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質において、シリコン系微粒子の平均粒径は0.5μm以下であり、0.3μm以下0.1μm以上が好ましい。0.5μmより大きいと、シリコン系微粒子と炭素前駆体との間に膨張応力による割れが発生し、導電パスが断絶されサイクル劣化が激しくなりやすい。また0.1μmより小さいと充放電の初回クーロン効率が低下してしまうことがある。なお、D50はレーザー回折法または動的光散乱法で測定した体積平均の粒子径である。
【0012】
シリコン系微粒子の含有量は10〜50重量%であり、15〜40重量%が好ましい。シリコン系微粒子の含有量が10重量%未満の場合、従来の黒鉛に比べて十分に大きい容量が得られず、50重量%より大きい場合、サイクル劣化が激しくなりやすい。
【0013】
本発明でいう非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素は、2000℃を超える熱処理で黒鉛化する易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)と、黒鉛化しにくい難黒鉛化炭素(ハードカーボン)がある。
【0014】
本発明でいう黒鉛には、グラフェン層がc軸に平行な結晶、または超音波等により層間剥離させたグラフェン等を用いることができる。グラフェン層がc軸に平行な結晶には、鉱石を精製した天然黒鉛、石油や石炭のピッチを黒鉛化した人造黒鉛や、これらを酸処理、酸化処理した後、熱処理することにより膨張させ黒鉛層間の一部が剥離してアコーディオン状となった膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物を圧縮させたものが望ましい。形状としては鱗片状、小判状もしくは球状、円柱状もしくはファイバー状が望ましい。または黒鉛の粒子サイズは、リチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子サイズより小さければ特に限定されない。黒鉛との複合化により本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質の導電性および強度が高まり、充放電のレート特性およびサイクル特性が向上する。黒鉛粒子のX線回折で測定される(002)面の面間隔d002は0.338nm以下であることが好ましく、これは高度に黒鉛化が進んだ黒鉛を意味している。d002がこの値を超える場合、黒鉛による導電性向上効果が小さくなる。
【0015】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質は、形状が丸みを帯びた平均粒径(D50)が1〜40μmの複合粒子であることが好ましく、特に好ましくは2〜30μmである。D50が1μm未満の場合、嵩高くなって高密度の電極が作製しにくくなり、40μmを超える場合、塗布した電極の凹凸が激しくなって均一な電極が作製しにくくなる。また、前記シリコン系微粒子の平均粒径が該負極活物質の平均粒径の1/5以下であり、非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素が、該負極活物質の表面を覆っていることが好ましい。
【0016】
形状が丸みを帯びた複合粒子とは、粉砕等により生成した粒子の角が取れているもの、球状もしくは回転楕円体形状、円板もしくは小判形状で厚みを有して角が丸いもの、またはそれらが変形したもので角が丸いものなどである。形状が丸みを帯びることにより複合粒子の嵩密度が高まり、負極にした時の充填密度が高まる。また、炭素前駆体がリチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子表面を覆っていることにより、充放電の過程で電解液に溶媒和したリチウムイオンが炭素前駆体の表面で溶媒から離れて、リチウムイオンのみがシリコン系微粒子および/または黒鉛と反応するため、溶媒の分解生成物が生成しにくくなり、充放電の効率が高まる。
【0017】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質においては、前記シリコン系微粒子が非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素と共に0.2μm以下の厚みの黒鉛薄層の間に挟まった構造であり、その構造が積層および/または網目状に広がっており、該黒鉛薄層がリチウムイオン2次電池用負極活物質粒子の表面付近で湾曲して覆っていることが好ましい。
【0018】
本発明でいう黒鉛薄層とは、先に述べた黒鉛を酸処理、酸化処理した後、熱処理することにより膨張させて黒鉛層間の一部が剥離してアコーディオン状となった膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、超音波等により層間剥離させたグラフェン等が圧縮力を受けることで生成した、グラフェン1層(厚み0.0003μm)〜数百層(厚み〜0.2μm)からなるものである。黒鉛薄層の厚みは薄い方が、黒鉛薄層間に挟まれたシリコン系微粒子と、炭素前駆体の層が薄くなって、シリコン系微粒子への電子の伝達が良くなり、厚みが0.2μmを超えると黒鉛薄層の電子伝達効果が薄まる。黒鉛薄層を断面で見て線状の場合、その長さはリチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子サイズの半分以上あることが電子伝達に好ましく、リチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子サイズと同等程度であることがさらに好ましい。黒鉛薄層が網目状の場合、黒鉛薄層の網がリチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子サイズの半分以上に渡って繋がっていることが電子伝達に好ましく、リチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子サイズと同等程度であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明においては、黒鉛薄層がリチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子表面付近で湾曲して覆うことが好ましい。そのような形状にすることで、黒鉛薄層端面から電解液が侵入して、シリコン系微粒子や黒鉛薄層端面と電解液が直接接して、充放電時に反応物が形成され、効率が下がるというリスクが低減する。
【0020】
本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質は、BET法による比表面積が0.5〜120m
2/gであることが好ましく、0.5〜50m
2/gがさらに好ましい。
【0021】
次に、本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質の製造方法について説明する。
【0022】
本発明のリチウムイオン2次電池用極活物質の製造方法は、シリコン系微粒子、炭素質物、さらに残部の黒鉛を混合する工程と、圧密化する工程と、粉砕および球形化処理して複合粒子を形成する工程と、該複合粒子を不活性雰囲気中で焼成する工程を含むものである。
【0023】
シリコン系微粒子の製造は、まずシリコン原料(インゴット、ウエハ、粉末などの状態)を粉砕機で粉砕し、場合によっては分級機を用いて、平均粒径(D50)が0.3μm以下のシリコン微粒子に調整する。このシリコン微粒子をアルコールスラリーとし、スラリー中に金属塩を溶解または金属酸化物を分散させ乾燥する等の方法によってシリコン微粒子表面に金属塩または金属酸化物を凝着させ、さらに窒素、アルゴン等の不活性ガス中で水素や一酸化炭素等の混合ガス中で加熱する等の方法で還元し製造する。
【0024】
使用する金属、金属塩、金属酸化物はAg、Al、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、In、Li、Mg、Mn、Ni、Pb、Sb、Sn、Ti、Ta、V、W、Y、Znから選ばれた1種以上の金属の単体、塩、酸化物であることが好ましく、Al、Cu、Mg、Ni、Pb、Znから選ばれた1種以上の単体、塩、酸化物であることがさらに好ましい。
【0025】
炭素質物としては、炭素を主体とする高分子で、不活性ガス雰囲気中での熱処理により非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素になるものであれば特に限定はなく、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、合成ピッチ、タール類、セルロース、スクロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアクリロニトリル、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が使用できる。
【0026】
残部の黒鉛には、天然黒鉛、石油や石炭のピッチを黒鉛化した人造黒鉛等、またはそれらを酸処理、酸化処理した後、熱処理することにより膨張させて黒鉛層間の一部が剥離してアコーディオン状となった膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、または超音波等により層間剥離させたグラフェン等を用いることができる。残部の黒鉛は予め混合工程で使用可能な大きさに整えて使用し、混合前の粒子サイズとしては天然黒鉛や人造黒鉛では1〜100μm、膨張黒鉛もしくは膨張黒鉛の粉砕物、グラフェンでは5μm〜5mm程度である。
【0027】
シリコン系微粒子、炭素質物、残部の黒鉛の混合は、溶媒にシリコン系微粒子、炭素質物、さらに残部の黒鉛を投入し、分散、混合し、次いで溶媒を除去することで行うことができる。用いる溶媒は、炭素質物を溶解できるものであれば特に制限なく使用できる。例えば、炭素質物としてピッチ、タール類を用いる場合には、キノリン、ピリジン、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、クレオソート油等が使用でき、ポリ塩化ビニルを用いる場合には、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ニトロベンゼン等が使用でき、フェノール樹脂、フラン樹脂を用いる場合には、エタノール、メタノール等が使用できる。
【0028】
混合装置としては、撹拌槽とホモミキサーを組合わせたもの、ニーダー、ナウターミキサー、レーディゲミキサー、ヘンシェルミキサ、ハイスピードミキサー等を用いることができる。これらで溶媒中の混合を行った後、溶媒の除去はこれらの装置の内、加熱乾燥機能が付帯されているもので続けて行うか、別途、振動乾燥機、パドルドライヤー、薄膜蒸発機等の乾燥機を用いて行う。溶媒除去は混合物中の溶媒残存率が5重量%以下になるまで行うことが好ましい。
【0029】
シリコン系微粒子、炭素質物、残部の黒鉛との混合物の圧密化は、ロールプレス、ローラーコンパクタ等の圧縮機によって軽装嵩密度400g/L以上になるまで圧縮し、解砕機で0.1〜5mmのフレーク状に解砕する事が好ましい。
【0030】
圧密化物の粉砕方法は、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル、ディスクミル等の乾式の粉砕装置を用い粉砕する。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、風力分級、ふるい分け等の乾式分級が用いられる。粉砕機と分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行うことが可能である。粉砕・分級後の目標の平均粒径(D50)1〜40μmである。
【0031】
粉砕物の球形化方法は、専用の球形化装置を通す方法と、上述の処理時間を調節することで球形化する方法がある。専用の球形化装置としては、ホソカワミクロン社のファカルティ(登録商標)、ノビルタ(登録商標)、メカノフュージョン(登録商標)、日本コークス工業社のCOMPOSI、奈良機械製作所社のハイブリダイゼーションシステム、アーステクニカ社のクリプトロンオーブ、クリプトロンエディ等が挙げられる。
【0032】
粉砕して得られた複合粒子は、アルゴンガスや窒素ガス気流中、もしくは真空など不活性雰囲気中で焼成する。焼成温度は600〜1000℃とすることが好ましい。焼成温度が600℃未満であると、炭素質物の焼結不足により、不可逆容量が大きくなり、またサイクル特性が悪くなる為、電池の特性が低下する傾向にある。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、シリコン系微粒子の平均粒径(D50)0.5μm以下への微粒化による粒子当たりの膨張体積の低減と表面への金属ドープによるシリコン系微粒子同士の互着の抑制、およびシリコン系微粒子と非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素または非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素と黒鉛との複合化による導電パスの確保によりサイクル特性の優れたリチウムイオン2次電池用負極活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1で得られたリチウムイオン2次電池用負極活物質粒子断面のFE−SEMによる2次電子像である。
【
図2】実施例1、比較例1〜2、参考例1に記載のシリコン系微粒子、及びシリコン微粒子のXRD測定結果である。
【
図3】参考例1、比較例2の充放電テスト後の負極表面のSEM画像である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
【0036】
実施例1
「表面に金属がドープされたシリコン系微粒子の作製」
純度3.5Nの金属シリコンをエタノールに20重量%混合し、ジルコニア製メディアのビーズミルを用いて湿式粉砕し、レーザー回折式粒度分布計での平均粒子径(D50)が0.16μmのシリコン微粒子スラリーを得た。このシリコン微粒子スラリーに硝酸銅エタノール溶液をシリコンに対するCuの添加量が4重量%となる様に添加し、120℃で乾燥しエタノールを除去した後、水素/窒素混合雰囲気中、600℃で1時間焼成処理し、シリコン系微粒子を得た。この微粒子をXRD測定した所、結晶性シリコンのみの回折パターンが得られた。
【0037】
「リチウムイオン2次電池用負極活物質の作製」
粒子径約0.5mm((200)面方向の幅)、厚み約0.02mmの天然黒鉛を、硝酸ナトリウム1重量%、過マンガン酸カリウム7重量%を添加した濃硫酸に24時間浸漬し、その後、水洗して乾燥し、酸処理黒鉛を得た。この酸処理黒鉛を窒素ガスを流通させた850℃のムライト管に通し、膨張させたものを捕集した。膨張黒鉛の(200)面方向の幅は約0.5mmで元の黒鉛の値を保っていたが、厚みは約4mmと約200倍に膨張し、外観はコイル状であり、SEM観察で黒鉛層が剥離し、アコーディオン状であることが確認された。
【0038】
シリコン系微粒子をスラリー濃度20%でエタノールスラリーとしたものを60g、上記膨張黒鉛を24g、炭素質物としてレゾール型のフェノール樹脂を10g、エタノール1Lを撹拌容器に入れて、ホモミキサーで1時間混合撹拌した。その後、混合液からロータリーエバポレーターで60℃、減圧下で溶媒を除去し約40gの混合乾燥物(軽装嵩密度80g/L)を得た。
【0039】
この混合乾燥物を3本ロールミルで、軽装嵩密度440g/Lに圧密化した。
【0040】
次に、この圧密化物をニューパワーミルで粉砕・球形化し、軽装嵩密度650g/Lの球形化粉末を得た。得られた粉末を、管状炉で窒素ガス雰囲気中、900℃で1時間焼成した。その後、目開き45μmの篩を通し、平均粒子径(D50)が20μm、軽装嵩密度810g/Lの本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質を得た。
【0041】
図1に、本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質の粒子をArイオンビームで切断した断面のFE−SEMによる2次電子像を示す。粒子の内部はシリコン系微粒子が炭素前駆体、0.2μm以下の厚みの黒鉛薄層(11)の間(12)に挟まった構造が網目状に広がり、積層していた。非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素はシリコン系微粒子に密着して覆っており、該負極活物質の粒子表面付近では、黒鉛薄層(11)が湾曲して粒子を覆っていた。さらに、該負極活物質のBET法による比表面積は18m
2/gであった。また、XRD測定で黒鉛の(002)面の面間隔d002は0.336nmであり、非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素、非晶質炭素に由来する非常にブロードな回折線も観察された。本発明のリチウムイオン2次電池用負極活物質を用いたリチウムイオン2次電池を以下のようにして作製した。
【0042】
「リチウムイオン二次電池用負極の作製」
得られたリチウムイオン2次電池用負極活物質を95.5重量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)に対して、導電助剤としてアセチレンブラック0.5重量%と、バインダとしてカルボキシメチルセルロース(CMC)1.5重量%とスチレンブタジエンゴム(SBR)2.5重量%、水とを混合して負極合剤含有スラリーを調製した。
【0043】
得られたスラリーを、固形分塗布量3mg/cm
2の厚みで銅箔に塗布し、大気下、110℃で0.5時間乾燥した。乾燥後、14mmφの円形に打ち抜き、圧力0.6t/cm
2で一軸プレスし、さらに真空下、110℃で3時間熱処理して、リチウムイオン2次電池用負極を得た。
【0044】
「評価用セルの作製」
評価用セルは、グローブボックス中でスクリューセルに上記負極、ポリプロピレン製セパレータ、ガラスフィルター、対極である金属リチウムおよびその基材のステンレス箔を、各々、電解液にディップした後、この順に積層し作製した。電解液はエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1対1で混合し、LiPF6を1.2mol/Lの濃度になるように添加、さらにフルオロエチレンカーボネートを2体積%添加したものを使用した。
【0045】
「評価条件」
評価用セルは25℃の恒温室にて、サイクル試験した。充電は、2mAの定電流で0.01Vまで充電後、0.01Vの定電圧で電流値が0.2mAになるまで行った。また放電は、2mAの定電流で1.5Vの電圧値まで行った。サイクル特性は、前記充放電条件にて50回充放電試験した後の放電容量を初回の放電容量と比較し、その容量維持率として評価した。
【0046】
セル評価の結果は初回放電容量615mAh/g、50回目放電容量567mAh/gであり、容量維持率が91%と高く良好であった。
【0047】
比較例1
シリコン微粒子の表面に金属をドープしなかった点以外は実施例1と同様の方法でリチウムイオン2次電池用負極活物質、負極、評価用セルの順に作成し、セル評価した。
【0048】
セル評価の結果は初回放電容量850mAh/g、50回目放電容量574mAh/gであり、容量維持率が67%と実施例1より劣化が速い傾向であった。
【0049】
参考例1
純度3.5Nの金属シリコンをエタノールに20重量%混合し、ジルコニア製メディアのビーズミルで、レーザー回折式粒度分布計で平均粒子径(D50)0.21μmのシリコン微粒子スラリーを得た。このシリコン微粒子スラリーに硝酸銅エタノール溶液をシリコンに対するCuの添加量が0.5重量%となる様に添加し、120℃で乾燥しエタノールを除去した後、水素/窒素混合雰囲気中、600℃で1時間焼成し、シリコン系微粒子を得た。この微粒子をXRD測定した所、結晶性シリコンのみの回折パターンが得られた。
【0050】
得られたシリコン系微粒子を非晶質の炭素及び/又は微結晶の炭素、黒鉛とは複合化せずリチウムイオン2次電池用負極活物質として、70重量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)に対して、導電助剤としてカーボンナノチューブ10重量%と、バインダーとしてポリイミド系バインダー20重量%を混合して負極合剤含有スラリーを調製した。
【0051】
得られたスラリーを、固形分塗布量が3mg/cm
2の厚みで銅箔に塗布し、大気下110℃で0.5時間乾燥した。乾燥後、14mmφの円形に打ち抜き、圧力0.6t/cm
2の条件で一軸プレスし、さらに真空下、110℃で3時間熱処理して、リチウムイオン2次電池用負極を得た。評価用のセル作製方法と評価条件は実施例1と同様に行った。
【0052】
セル評価の結果は初回放電容量2673mAh/g、50回目放電容量568mAh/gであり、容量維持率が49%と複合粒子化を行った実施例1、比較例1より劣化が大きい傾向であった。
【0053】
充放電後のシリコン系微粒子の形状をSEM観察した所、粒子同士の互着の抑制効果が確認された(
図3)。
【0054】
比較例2
参考例1で得られたシリコン微粒子を金属ドープせず、その後は参考例1と同様に負極、評価用セルを作製し、セル評価した。
【0055】
セル評価の結果は初回放電容量3248mAh/g、50回目放電容量1521mAh/gであり、50サイクル維持率が47%と比較例2を若干下回った。充放電後のシリコン系微粒子の形状をSEM観察した所、粒子同士の互着が確認された(
図3)。
【0056】
実施例、参考例と比較例の電池評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【符号の説明】
【0058】
11 負極活物質内部の黒鉛薄層
12 負極活物質内部のSi微粒子