特許第6772442号(P6772442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772442
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】顕微鏡装置および観察方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20201012BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   G02B21/00
   G02B21/06
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-180297(P2015-180297)
(22)【出願日】2015年9月14日
(65)【公開番号】特開2017-58386(P2017-58386A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100134692
【弁理士】
【氏名又は名称】川村 武
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】浜田 啓作
(72)【発明者】
【氏名】大西 秀太朗
(72)【発明者】
【氏名】松爲 久美子
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 佑介
(72)【発明者】
【氏名】今村 健志
【審査官】 小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−062155(JP,A)
【文献】 特開2013−034127(JP,A)
【文献】 特開2015−031812(JP,A)
【文献】 特開2013−011856(JP,A)
【文献】 特表2005−521123(JP,A)
【文献】 特開2015−018045(JP,A)
【文献】 特開昭56−073306(JP,A)
【文献】 特表2011−508896(JP,A)
【文献】 特開2015−219502(JP,A)
【文献】 特開平06−313707(JP,A)
【文献】 特開平11−101942(JP,A)
【文献】 特開2015−022073(JP,A)
【文献】 特開2015−031813(JP,A)
【文献】 特開2015−102537(JP,A)
【文献】 特開2007−101268(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/059331(WO,A1)
【文献】 特表2002−525596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00
G02B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを有し、標本に照明光を照射する照明光学系と、
前記照明光の波面を調整する波面調整部と、
前記標本からの光を検出する検出部と、
前記検出部からの光に基づいて生成される前記標本の三次元画像に基づいて、前記標本の表面形状を検出する表面検出部と、
前記表面検出部の検出結果を使って、前記照明光の収差を算出する収差算出部と、
前記収差算出部の算出結果に基づいて、前記波面調整部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記対物レンズと前記標本の位置との相対位置を、前記対物レンズの光軸方向に変化させ、前記検出部からの光に基づいて複数の画像を生成し、
前記表面検出部は、前記複数の画像から取得される前記標本の三次元画像をもとに前記標本の表面形状に関する座標を検出することにより、前記標本の表面形状を検出し、
前記収差算出部は、前記表面検出部により検出された表面形状に関する情報と、入力部により入力された屈折率、前記対物レンズの光軸方向における前記標本の標本面の位置、および前記照明光学系の開口率に基づいて、前記収差を算出する、顕微鏡装置。
【請求項2】
前記収差算出部は、前記算出した収差に基づいて波面に関する情報を算出し、
前記制御部は、収差を算出するためのパラメータ入力を受け付けるパラメータ入力受付部および前記収差算出部により算出された波面に関する情報を出力する情報出力部を有するGUI画面を表示部に表示させる、請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記収差算出部は、前記照明光学系における複数の位置それぞれから前記標本に向かう光線を追跡し、前記照明光の収差を算出する、請求項1または請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記複数の位置は、前記波面調整部と共役な位置である、請求項に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記収差算出部は、前記表面検出部の検出結果から算出される前記標本の表面形状を表す数式をもとに、前記収差を算出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
記波面調整部は、前記対物レンズの後側焦点位置と共役な位置に配置される、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記収差算出部は、前記算出した収差に基づいてツェルニケ係数を算出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項8】
前記収差算出部は、前記算出した収差に基づいて波面を算出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項9】
前記検出部は、第1の時間間隔で光を検出し、
前記表面検出部は、第2の時間間隔で前記標本の表面形状を検出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項10】
前記表面検出部は、共焦点法を用いて得られる前記標本の検出結果に基づいて、前記標本の表面形状を検出し、
前記検出部は、多光子励起顕微鏡において、前記標本からの光を検出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項11】
前記表面検出部は、共焦点法を用いて得られる前記標本の検出結果に基づいて、前記標本の表面形状を検出し、
前記検出部は、前記共焦点法を用いて、前記標本からの光を検出する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項12】
前記表面検出部は、前記標本を撮像した画像を二値化し、前記標本の表面形状を検出する、請求項1から請求項1のいずれか一項に記載の顕微鏡装置。
【請求項13】
標本の表面形状を検出することと、
前記表面形状の検出結果を使って、前記標本に照射される照明光の収差を算出することと、
前記収差の算出結果に基づいて、前記照明光の波面を調整することと、
前記標本からの光を検出することと、を含み、
前記標本の表面形状の検出においては、対物レンズと前記標本の位置との相対位置を、前記対物レンズの光軸方向に変化させ、前記検出した前記標本からの光に基づいて複数の画像を生成し、
記複数の画像に基づき前記標本の表面形状に関する座標を検出することにより、前記標本の表面形状を検出
前記収差の算出においては、検出された前記標本の表面形状に関する情報と、入力部により入力された屈折率、前記対物レンズの光軸方向における前記標本の標本面の位置、および照明光学系の開口率に基づいて、前記収差を算出する、観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡装置および観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡装置は、例えば、生物の組織を含む標本の観察などに用いられる。顕微鏡装置は、例えば、標本のうち観察対象の面(以下、標本面という)に照明光を照射し、標本からの光を検出する。顕微鏡装置は、標本面において照明光の収差が大きくなると、得られる標本の像が劣化する。収差を低減する技術として、例えば、照明光の波面を調整する技術が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−101942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、標本の表面は、凹凸を有している場合もあり、顕微鏡装置の照明光学系の光軸に対して傾いている場合もある。このような場合、標本の表面形状に起因して発生する照明光の収差により、顕微鏡装置により得られる像が劣化する。本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、照明光の収差を低減できる顕微鏡装置および観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の態様に従えば、対物レンズを有し、標本に照明光を照射する照明光学系と、照明光の波面を調整する波面調整部と、標本からの光を検出する検出部と、検出部からの光に基づいて生成される標本の三次元画像に基づいて、標本の表面形状を検出する表面検出部と、表面検出部の検出結果を使って、照明光の収差を算出する収差算出部と、収差算出部の算出結果に基づいて、波面調整部を制御する制御部と、を備え、制御部は、対物レンズと標本の位置との相対位置を、対物レンズの光軸方向に変化させ、検出部からの光に基づいて複数の画像を生成し、表面検出部は、複数の画像から取得される標本の三次元画像をもとに標本の表面形状に関する座標を検出することにより、標本の表面形状を検出し、収差算出部は、表面検出部により検出された表面形状に関する情報と、入力部により入力された屈折率、対物レンズの光軸方向における標本の標本面の位置、および照明光学系の開口率に基づいて、収差を算出する、顕微鏡装置が提供される。また、本発明の態様に従えば、標本の表面形状を検出することと、表面形状の検出結果を使って、標本に照射される照明光の収差を算出することと、収差の算出結果に基づいて、照明光の波面を調整することと、標本からの光を検出することと、を含み、標本の表面形状の検出においては、対物レンズと標本の位置との相対位置を、対物レンズの光軸方向に変化させ、検出した標本からの光に基づいて複数の画像を生成し、複数の画像に基づき標本の表面形状に関する座標を検出することにより、標本の表面形状を検出収差の算出においては、検出された標本の表面形状に関する情報と、入力部により入力された屈折率、対物レンズの光軸方向における標本の標本面の位置、および照明光学系の開口率に基づいて、収差を算出する、観察方法が提供される。本発明の第1の態様に従えば、標本に照明光を照射する照明光学系と、照明光の波面を調整する波面調整部と、標本の表面形状を検出する表面検出部と、表面検出部の検出結果を使って、照明光の収差を算出する収差算出部と、収差算出部の算出結果に基づいて、波面調整部を制御する制御部と、波面調整部が制御された状態で標本からの光を検出する検出部と、を備える顕微鏡装置が提供される。
【0006】
本発明の第2の態様に従えば、標本の表面形状を検出することと、表面形状の検出結果を使って、標本に照射される照明光の収差を算出することと、収差の算出結果に基づいて、照明光の波面を調整することと、照明光の波面が調整された状態で標本からの光を検出することと、を含む観察方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、照明光の収差を低減できる顕微鏡装置および観察方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る顕微鏡装置を示す図である。
図2】本実施形態に係る表面検出処理を示す図である。
図3】本実施形態に係る収差の算出条件を示す図である。
図4】本実施形態に係る収差算出処理を示す図である。
図5】本実施形態に係る表面検出処理の他の例を示す図である。
図6】本実施形態に係る収差算出処理の他の例を示す図である。
図7】本実施形態に係る観察方法を示す図である。
図8】本実施形態に係る収差の計算条件設定処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る顕微鏡装置1(顕微鏡装置システム)を示す図である。顕微鏡装置1は、照明光の照射により標本Sから放射される光(以下、検出光という)を検出可能であり、標本Sの観察などに利用される。顕微鏡装置1は、例えば、蛍光顕微鏡装置であり、検出光は蛍光、りん光などである。以下、顕微鏡装置1が走査型の共焦点蛍光顕微鏡および多光子励起蛍光顕微鏡を含むものとして説明するがこれらの顕微鏡に限られない。顕微鏡装置1は、共焦点蛍光顕微鏡および多光子励起蛍光顕微鏡以外の蛍光顕微鏡を含んでもよい。例えば、顕微鏡装置1は、STED(Stimulated emission depletion)顕微鏡などの超解像顕微鏡を含んでもよい。また、顕微鏡装置1は、蛍光顕微鏡でなくてもよく、例えば反射型共焦点顕微鏡を含んでもよい。蛍光顕微鏡以外の顕微鏡を用いる場合、検出光は、標本Sで反射した照明光であってもよいし、標本Sを透過した照明光であってもよい。また、顕微鏡装置1は、走査型の顕微鏡装置でなくてもよい。
【0010】
標本Sは、例えば、観察対象物である生物標本(生体の組織等)を含んでいてもよいし、生物標本以外(ICウェハ等)を含んでいてもよい。標本Sは、観察対象物を保持する保持部材(例、カバーガラス、シャーレ)を含んでいてもよく、標本Sの表面は、この保持部材の表面であってもよい。
【0011】
顕微鏡装置1は、ステージ2と、光源部3と、照明光学系4と、波面調整部5と、第1検出部6と、第2検出部7と、表面検出部8と、収差算出部9と、制御部10と、表示部11と、入力部12と、記憶部13とを備える。
【0012】
顕微鏡装置1の各部は、概略すると以下のように動作する。照明光学系4は、光源部3から発せられた照明光を、ステージ2上の標本Sに照明光を照射する。波面調整部5は、照明光の波面を調整する。表面検出部8は、標本Sからの光を検出した結果をもとに、標本Sの表面形状を検出(抽出)する。収差算出部9は、表面検出部8の検出結果を使って、照明光の収差を算出する。制御部10は、収差算出部9の算出結果に基づいて、波面調整部5を制御する。第1検出部6又は第2検出部7は、波面調整部5により照明光の波面が調整された状態で、標本Sからの光を検出する。以下、顕微鏡装置1の各部について詳しく説明する。
【0013】
ステージ2は、その上面2aに標本Sを配置可能である。ステージ2の上面2aは、例えば、水平方向と平行に設定される。ステージ2は、上面2aに標本Sが配置された状態で、上面2aに垂直な方向(例、鉛直方向)に移動可能である。制御部10は、ステージ2を制御することにより、ステージ2上に配置されている標本Sの鉛直方向の位置を制御することができる。ステージ2は、標本Sを、上面2aと平行な方向に移動可能であってもよいし、上面2aの法線方向を軸として回転可能であってもよく、上面2aと平行な方向を軸として回転可能であってもよい。
【0014】
光源部3は、制御部10に制御され、照明光を発生する。光源部3は、光源20および
光強度変調器21を備える。光源20は、例えば、射出するレーザ光の波長が互いに異なる複数のレーザ光源を含む。光源20は、波長が異なる複数のレーザ光を、同時又は個別に射出可能である。光源20は、例えば、赤外光と可視光の2種類のレーザ光を射出可能である。光源20から射出される赤外光は、例えば、標本Sに含まれる蛍光物質の多光子励起を誘発するパルス状の光(以下、IRパルス光という)である。IRパルス光は、所定の周期(例、100フェムト秒)で射出される。光強度変調器は、例えば音響光学素子(Acousto-Optic Modulator;AOM)である。光強度変調器21は、光源20からの照明光が入射する位置に配置されている。光強度変調器21は、通過する照明光の強度を0%以上100%以下の間で変化させる。
【0015】
照明光学系4は、光源部3からの照明光を、波面調整部5を介して標本Sへ導く。照明光学系4は、光源部3側から波面調整部5側に向かう順に、複数のミラー22、ダイクロイックミラー23、走査部24、及びレンズ25を備える。複数のミラー22は、例えば折り曲げミラーであり、光源部3の光強度変調器21を透過したレーザ光をダイクロイックミラー23へ導く。ダイクロイックミラー23は、光源部3からの照明光が透過し、標本Sからの検出光が透過する特性を有する。走査部24は、例えばガルバノミラーを含み、ダイクロイックミラー23からの照明光を反射により偏向する。走査部24の反射面は、例えば、その少なくとも一部が対物レンズ43の瞳面(後側焦平面)P0と光学的に共役な瞳共役面P1に配置される。制御部10は、走査部24を制御することによって、走査部24から射出される照明光の向きを制御する。
【0016】
波面調整部5は、光源部3側から標本S側に向かう順に、レンズ26、ミラー27、波面調整素子28、レンズ29、ミラー30、及びミラー31を備える。なお、波面調整部5の少なくとも一部は、照明光学系4に含まれていてもよい。レンズ26は、レンズ25からの照明光が入射する位置に配置される。レンズ25およびレンズ26は、例えば、瞳面P0と光学的に共役な瞳共役面P2を形成する。ミラー27は、レンズ26からの照明光を波面調整素子28へ導く。
【0017】
波面調整素子28は、入射した光の波面を調整(変化)させることができる。波面調整素子28は、球面収差やコマ収差等の各種光学収差に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数の値を決定、設定、実現することが可能である。波面調整素子28は、ツェルニケ(Zernike)係数で表される収差量を決定、設定、実現することが可能である。波面調整素子28は、ツェルニケ(Zernike)多項式の係数を設定することで、その係数に相当する位相を入射した光の波面に与えることができる。ここでは、波面調整素子28がデフォーマブルミラーであるものとして説明する。波面調整素子28は、例えば、その反射面の少なくとも一部が瞳共役面P2(対物レンズ43の後側焦点位置と共役な位置)またはその近傍に配置される。なお、波面調整素子28は、反射型または透過型の液晶素子などの空間光変調素子であってもよい。波面調整素子28が液晶素子である場合に、その液晶層の少なくとも一部は、例えば瞳共役面P2またはその近傍に配置される。
【0018】
なお、波面調整素子28としてデフォーマブルミラーを用いる場合、波面調整部5には、デフォーマブルミラーの形状をモニタするモニタ装置34が設けられる。モニタ装置34は、照明光がデフォーマブルミラーに照射されている間に、デフォーマブルミラーに参照光を照射する。モニタ装置34は、例えば、参照レーザ装置35、光ファイバ36、ハーフミラー37、ミラー38、リレーレンズ39、及び波面センサ40を備える。
【0019】
参照レーザ装置35からの参照光は、光ファイバ36を介して、ハーフミラー37に入射する。ハーフミラー37で反射した参照光は、デフォーマブルミラー(波面調整素子28の反射面)に法線方向から入射する。デフォーマブルミラーで反射した参照光の一部は、ハーフミラー37を通ってミラー38で反射し、リレーレンズ39を通って波面センサ40に入射する。
【0020】
波面センサ40は、例えば、シャックハルトマン方式、干渉方式で参照光の波面の状態を検出する。制御部10は、波面センサ40の検出結果をもとに、デフォーマブルミラーの形状が目標の形状に近づくように、デフォーマブルミラーをフィードバック制御する。これらの一連のプロセスは、例えば、文献「Adaptive control of a micromachined continuous-membrane deformable mirror for aberration compensation(APPLIED OPTICS y Vol. 38, No. 1 y 1 January 1999),Methods for the characterization of deformable membrane mirrors(August 2005 Vol.44, No. 24 APPLIED OPTICS)」に記載されている手法を適用したものでよい。また、デフォーマブルミラーに対する制御はオープン制御でもよい。
【0021】
波面調整素子28で反射した照明光は、レンズ29を通ってミラー30で反射した後、ミラー31で反射する。ミラー31で反射した照明光は、照明光学系4のうち波面調整部5よりも標本S側に配置されている光学系に入射する。この光学系(照明光学系4)は、波面調整部5から標本Sに向かう順に、レンズ41、ダイクロイックミラー42、及び対物レンズ43を備える。波面調整部5のミラー31で反射した照明光は、レンズ41に入射する。波面調整部5のレンズ29、及びレンズ41は、例えば、対物レンズ43の瞳面P0と瞳共役面P2とを光学的に共役にする。レンズ41からの照明光は、対物レンズ43を介して標本Sに照射される。ダイクロイックミラー42は、レンズ41と対物レンズ43との間の光路に挿脱可能である。ダイクロイックミラー42は、照明光が透過し、検出光のうち、第2検出部7で検出するための光(例、蛍光、多光子励起による第2次高調波)を反射する特性を有する。
【0022】
第1検出部6は、例えば、共焦点法(ピンホールを介して検出器で検出する方法)により検出光を検出する。第1検出部6は、例えば、標本Sでの反射光を検出する反射型共焦点顕微鏡であるが、標本Sからの蛍光を検出する共焦点顕微鏡でもよい。第1検出部6は、照明光学系4のうちダイクロイックミラー23から標本Sまでの光路に配置される構成要素を、照明光学系4と共用している。標本Sからの検出光(例、蛍光)は、照明光と同じ光路を逆に進行してダイクロイックミラー23に入射し、ダイクロイックミラー23を透過する。第1検出部6は、ダイクロイックミラー23に対する検出光の透過側に、レンズ50、遮光部材51、レンズ52、ミラー53、レンズ54、及び光ファイバ55を備える。
【0023】
ダイクロイックミラー23を透過した検出光は、レンズ50を通って遮光部材51に入射する。遮光部材51は、対物レンズ43の前側焦点面と共役な位置に配置されている。遮光部材51は、レンズ50の焦点位置近傍にピンホール51aを有する。標本Sのうち対物レンズ43の焦点位置から外れた部分からの検出光は、遮光部材51によって遮られる。標本Sのうち対物レンズ43の焦点位置に配置されている部分からの検出光は、ピンホール51aを通ってレンズ52に入射した後、ミラー53で反射してレンズ54に入射する。レンズ54からの検出光は、光ファイバ55によって導かれる。
【0024】
第1検出部6は、光ファイバ55における検出光の射出側に、レンズ56、ダイクロイックミラー57、レンズ58、光検出器59、レンズ60、及び光検出器61を備える。光ファイバ55からの検出光は、レンズ56を通ってダイクロイックミラー57に入射する。ダイクロイックミラー57は、第1波長帯の光が透過し、第2波長帯の光が反射する特性を有する。検出光のうち第1波長帯の光は、ダイクロイックミラー57を透過し、レンズ58を通って光検出器59に入射する。光検出器59は、例えば光電子倍増管(Photo Multiplier Tube;PMT)を含む。
【0025】
光検出器59の検出結果を用いると、標本Sからの第1波長帯の光に応じた標本面の二次元画像を生成することができる。例えば、光検出器59の出力値を階調値で表し、この階調値を、標本S上の照明光の入射位置と関連付けて配列することにより、二次元画像が得られる。なお、標本S上の照明光の入射位置は、走査部24による照明光の偏向方向により定まり、制御部10による走査部24の制御情報から得られる。第1検出部がPMTを含む場合、PMTの出力を画像形式に変換する変換部は、第1検出部6に設けられていてもよいし、制御部10に設けられていてもよい。例えば、制御部10は、光検出器59の出力値を取得し、この出力値および走査部24の制御情報を用いて、光検出器59の出力結果を画像形式に変換してもよい。
【0026】
なお、第1検出部6は、例えば、PMTの代わりにCCDセンサやCMOSセンサなどのイメージセンサを含んでいてもよい。また、検出光が照明光と同じ波長帯である場合、ダイクロイックミラー23の代わりにハーフミラーを用いればよい。また、検出光が照明光の第2高調波である場合、ダイクロイックミラー23として、照明光が反射し、かつ照明光の第2高調波が透過する特性のものを用いて、対物レンズ43とレンズ41との間の光路からダイクロイックミラー42を退避させておけばよい。
【0027】
検出光のうち第2波長帯の光は、ダイクロイックミラー57で反射し、レンズ60を通って光検出器61に入射する。光検出器61は、例えば光検出器59と同様にして、第2波長帯の光を検出する。光検出器61の検出結果を用いると、標本Sからの第2波長帯の光に応じた標本面の二次元画像を生成することができる。
【0028】
第2検出部7は、例えば2光子励起顕微鏡などの多光子励起顕微鏡である。第2検出部7は、標本Sからの検出光のうちダイクロイックミラー42で反射した光を検出する。第2検出部7は、ダイクロイックミラー42に対する検出光の反射側に、レンズ65、ダイクロイックミラー66、レンズ67、光検出器68、レンズ69、及び光検出器70を備える。ダイクロイックミラー42で反射した検出光は、レンズ65を通ってダイクロイックミラー66に入射する。ダイクロイックミラー66は、第3波長帯の光が透過し、第4波長帯の光が反射する特性を有する。検出光のうち第3波長帯の光は、ダイクロイックミラー66を透過し、レンズ67を通って光検出器68に入射する。
【0029】
光検出器68は、例えば第1検出部6の光検出器59と同様にして、第3波長帯の光を検出する。光検出器68の検出結果を用いると、標本Sからの第3波長帯の光に応じた標本面の二次元画像を生成することができる。検出光のうち第4波長帯の光は、ダイクロイックミラー66で反射し、レンズ69を通って光検出器70に入射する。光検出器70は、例えば第1検出部6の光検出器59と同様にして、第4波長帯の光を検出する。光検出器70の検出結果を用いると、標本Sからの第4波長帯の光に応じた標本面の二次元画像を生成することができる。
【0030】
制御部10は、顕微鏡装置1の各部を制御する。制御部10は、例えば、メモリおよびCPUを有するコンピュータシステムにより構成される。表示部11、入力部12、及び記憶部13は、それぞれ、制御部10と接続されている。表示部11は、例えば、制御部10から供給される画像のデータにより、画像を表示する。制御部10は、例えば、取得した標本の画像のデータ、顕微鏡装置1の設定情報を示す画像のデータなどを表示部11に供給する。入力部12は、例えば、顕微鏡装置1の動作を指令する入力、顕微鏡装置1の設定を指定する入力などを受け付ける。入力部12は、例えばオペレータからの入力を制御部10に供給する。記憶部13は、例えば、取得した標本の画像のデータ、顕微鏡装置1の設定情報などを記憶する。
【0031】
次に、照明光の収差の補正に係る構成について説明する。本実施形態において、制御部10には、表面検出部8および収差算出部9が組み込まれている。表面検出部8は、例えば第1検出部6の検出結果を使って、標本Sの表面形状を検出する。収差算出部9は、表面検出部の検出結果を使って、照明光の収差を算出する。
【0032】
図2は、本実施形態に係る表面検出処理を示す図である。図2において、Z方向は、対物レンズ43の光射出側の光軸と平行な方向であり、例えば、鉛直方向に設定される。また、X方向は、Z方向に垂直な方向であり、例えば水平方向の任意の方向に設定される。Y方向は、Z方向およびX方向のそれぞれに垂直な方向である。ここでは、標本Sの表面が上に凸の曲面であるものとする。
【0033】
制御部10は、表面検出処理において、対物レンズ43(図1参照)の焦点面と標本Sとの相対位置を、対物レンズ43の光軸と平行な方向に変化させながら、標本Sの二次元画像を取得する。例えば、制御部10は、ステージ2を制御して標本Sの位置を変化させながら、第1検出部6に標本Sからの光を検出させ、標本Sの二次元画像を取得する。これにより、図2(A)に示すように、複数の画像PZ1〜PZ5が得られる。
【0034】
なお、表面検出処理における照明光の波長帯は、標本Sの蛍光観察時と同じであってもよいし、例えば標本Sに対するダメージが少ない波長帯に設定されていてもよい。例えば、表面検出処理における照明光の波長帯は、標本Sの観察時における照明光の波長帯よりも長波長に設定されていてもよい。また、標本Sが蛍光物質を含む場合、表面検出処理における照明光の波長帯は、蛍光物質の活性化波長または励起波長を外して設定されていてもよい。
【0035】
表面検出部8は、例えば、標本Sの画像に基づいて、標本Sの表面を検出する。例えば、表面検出部8は、図2(B)に示すように、複数の画像PZ1〜PZ5をそれぞれ二値化し、各画像における標本Sの表面(例、外縁Se(エッジ)を検出する。二値化の基準になる閾値は、シグナルとノイズを分離できるように設定される。例えば、同じ環境で標本が無い状態の信号(例、光検出器59の出力)を予め取得しておき、その値を閾値として設定してもよい。第1検出部6は、共焦点法により標本Sからの検出光を検出するので、標本Sのうち対物レンズ43の焦点面に配置されている部分のコントラストが高く、標本Sのエッジを精度よく検出することができる。
【0036】
複数の画像PZ1〜PZ2のそれぞれにおいて検出された標本Sのエッジは、各画像を取得した際の対物レンズ43の標本面における標本Sのエッジに相当する。表面検出部8は、例えば、画像PZ1における標本Sのエッジの検出結果をもとに、標本SのエッジのX方向の座標およびY方向の座標と、画像PZ1の元になる光を検出した際の標本SのZ方向の座標とを関連付ける。表面検出部8は、他の画像についても同様に、標本Sのエッジの座標とZ方向の座標とを関連付けことにより、標本Sの表面上の複数の点の3次元座標を含む表面データを生成する。
【0037】
なお、表面検出部8は、図2(C)に示すように、標本Sの表面上の複数の点の三次元座標をもとに、標本Sの高さの分布を示す分布図Im1を生成することができる。また、表面検出部8は、図2(D)に示すように、標本Sの表面上の複数の点の三次元座標をもとに、標本Sの表面形状を示す斜視図Im2を生成してもよい。制御部10は、分布図Im1を示す画像、斜視図Im2を示す画像を、表示部11(図1参照)に表示させることができる。
【0038】
なお、本実施形態において、表面検出部8は、第1検出部6の検出結果を利用して標本Sの表面を検出するが、他の検出部(例、第2検出部7)の検出結果を利用して標本Sの表面を検出してもよい。また、表面検出部8は、標本Sの観察(例、蛍光観察)に用いない検出部の検出結果を利用して、標本Sの表面を検出してもよい。また、標本Sの表面を検出する手法に限定はなく、例えば、表面検出部8は、標本Sの画像を二値化しないで標本Sの表面を検出してもよい。
【0039】
図3は、本実施形態に係る収差の算出条件を示す図である。収差算出部9は、例えば、照明光学系4における複数の位置それぞれから標本Sに向かう光線を追跡し、照明光の収差を算出する。例えば、収差算出部9は、理想球面ISから対物レンズ43の焦点43aに向かう複数の光線を追跡し、収差を算出する。理想球面ISは、対物レンズ43の光射出側の端面と、対物レンズ43の焦点面43bとの間に設定される仮想的な面である。理想球面ISは、焦点43aを中心とする球面の一部である。理想球面ISを出発点とする光線追跡を行う場合、標本Sの表面で生じる収差を、照明光学系4で発生する収差と分離して算出することができる。そのため、計算負荷を低減することができ、例えば計算時間を短縮することができる。
【0040】
なお、収差算出部9は、照明光学系4内の光路に設定される任意の面を出発点とする光線追跡を行ってもよい。例えば、収差算出部9は、波面調整素子28を出発点とする光線追跡を行ってもよい。また、収差算出部9は、瞳面P0を出発点とする光線追跡を行ってもよいし、瞳共役面P2を出発点とする光線追跡を行ってもよい。収差算出部9は、照明光学系4において波面調整部5(波面調整素子28)と共役な複数の位置それぞれから標本Sに向かう光線を追跡し、照明光の収差を算出してもよい。
【0041】
図4は、本実施形態に係る収差算出処理を示す図である。光線追跡においては、例えば、理想球面ISから出た光線Bについて、標本Sの表面Saで屈折しないと仮定した場合の理想光線B1と、標本Sの表面Saで屈折する場合の光線B2との光路長のずれを算出する。ここで、焦点43aに向かう光線がZ方向(対物レンズ43の光軸)となす角度θは、標本Sの表面Saで屈折しないと仮定した場合の理想光線の焦点面43bに対する入射角であり、以下の説明において方位角θという。方位角θの最大値は、照明光学系4の開口数(NA)により定まる。収差算出部9は、例えば、方位角θが最大値以下の範囲において光線追跡を行う。
【0042】
収差算出部9は、例えばオペレータに指定される計算条件の設定に従って、複数のグリッドGrを設定する。グリッドGrは、例えば、XZ平面に平行な面と理想球面ISとが交わるグリッド線GLx(図4(B)に示す)と、YZ平面に平行な面と理想球面ISとが交わるグリッド線GLy(図4(B)に示す)との交点(格子点)である。なお、図4(A)には、XZ平面上でのグリッドGrを図示したが、図4(B)に示すように、複数のグリッドGrは、XZ平面と垂直な方向にも設定されている。複数のグリッドGrの配置は、X方向およびY方向に等間隔であってもよいし、X方向とY方向の少なくとも一方において粗密を有していてもよい。
【0043】
また、収差算出部9は、光線Bの方向ベクトルを算出する。光線Bの方向ベクトルは、理想球面IS上のグリッドGrと焦点43aを結ぶ方向である。収差算出部9は、光線Bと標本Sの表面Saとの交点Sbを算出する。表面検出部8が生成した表面データが複数の点の座標で表される場合、収差算出部9は、表面データに含まれる複数の点のうち光線Bに最も近い点を抽出し、この点を交点Sbとする。そして、収差算出部9は、交点Sbにおける表面Saの法線ベクトルを求める。なお、収差算出部9は、表面データに含まれる複数の点のうち光線Bに近い方から3点を抽出し、この3点により定まる平面の法線方向をSbにおける表面Saの法線ベクトルとしてもよい。
【0044】
次に、収差算出部9は、光線Bの方向ベクトル、交点Sbにおける法線ベクトル、標本Sの表面Saに対して理想球面IS側の屈折率、及び標本Sの屈折率を用いて、表面Saで屈折した光線B2の方向ベクトルを算出する。表面Saに対して理想球面IS側の屈折率は、例えば、浸液を用いた観察においては浸液の屈折率であり、雰囲気ガスを介した観察においては雰囲気ガスの屈折率である。標本Sの屈折率は、例えば、標本Sと同様の組成物に対して測定した測定値であってもよいし、標本Sの組成に応じた推定値であってもよい。
【0045】
また、収差算出部9は、焦点43aと表面Sbとの間の光線B1の光路長と、焦点43aから光線B2に引いた垂線と光線B2との交点B2aと表面Sbとの間の光線B2の光路長との差を算出する。このようにして、1本の光線に関する収差が算出される。各グリッドGrからの光線に対して同様に収差を算出することによって、波面が得られる。なお、収差算出部9は、図4(C)に示すように、算出した収差をもとに、波面図Im3を生成することができる。制御部10は、波面図Im3を示す画像を表示部11(図1参照)に表示させることができる。
【0046】
ところで、対物レンズ43の焦点43aに対する方位角が大きい光線であるほど(NAが大きいほど)、収差が非線形的に大きくなる。そのため、XY平面と平行な方向において対物レンズ43の光軸から離れるにつれてグリッドGrが密に配置されている場合、収差分布を精度よく解像できる。このように、グリッドGr(複数の位置)は、照明光学系4の光軸から離れるにつれて密になるように配置されてもよい。
【0047】
収差算出部9は、例えば、算出した収差に基づいて波面を算出する。例えば、収差算出部9は、得られた波面を、瞳面P0における波面に変換し、変換した波面に基づいて、瞳共役面P2に配置されている、波面調整素子28における補正量を算出する。例えば、理想球面ISが、焦点43aを中心とする半径aの球であり、瞳面P0における理想球面ISが、焦点43aを中心とする半径bの球であった場合、得られた波面のx座標、y座標をb/a倍することにより、瞳面P0における波面に変換することができる。また、理想球面ISを、予め、瞳面P0上における理想球面としてもよい。収差算出部9は、例えば、算出した収差に基づいてツェルニケ係数を算出する。例えば、収差算出部9は、得られた波面をもとに、標本Sの表面Saでの屈折により発生する収差を表す情報として、ツェルニケ多項式の各項の係数の値を算出する。
【0048】
図5は、本実施形態に係る表面検出処理の他の例を示す図である。図5において、標本Sの表面は、Z方向に対して傾いた平面であるものとする。例えば、標本Sが生物の組織と組織を覆うカバーガラスを含む場合、標本Sの表面Saはカバーガラスの表面となり、ほぼ平面とみなせる場合がある。
【0049】
制御部10は、対物レンズ43の焦点面と標本Sとの相対位置を、対物レンズ43の光軸と平行な方向に変化させながら、図5(A)に示すように、複数の画像PZ1〜PZ5を取得する。なお、上述のように表面Saが平面状であることが予め分かっている場合、標本Sの表面の検出に必要とされる画像の数を減らすことができる。例えば、制御部10は、オペレータに標本Sの表面が平面状であることを指定された場合、表面検出処理で取得する画像の数を、表面の形状が指定されていない場合よりも少ない値に設定することもできる。
【0050】
表面検出部8は、図5(B)に示すように、複数の画像PZ1〜PZ5をそれぞれ二値化し、各画像における標本Sのエッジを検出する。表面検出部8は、標本Sのエッジの座標とZ方向の座標とを関連付けことにより、標本Sの表面上の複数の点の3次元座標を求め、近似法などにより標本Sの表面形状を表す数式の係数を算出する。図5においては、標本Sの表面が平面状であるので、表面形状を表す数式はAX+BY+CZ=Dで表される。表面形状を表す数式は、例えば球面などの曲面を表す数式であってもよい。また、表面検出部8は、表面形状の一部を数式で近似してもよい。表面検出部8は、表面形状の一部を平面で近似し、表面形状の他の一部を曲面で近似してもよい。顕微鏡装置1は、表面形状を数式で表すか否かの設定、表面形状を数式で表す際の関数形の設定などを、予め定めておくこともできるし、オペレータの指定により更新することもできる。
【0051】
なお、表面検出部8は、図5(C)に示すように、標本Sの高さの分布を示す分布図Im1を生成することができる。また、表面検出部8は、図4(D)に示すように、標本Sの表面形状を示す斜視図Im2を生成することができる。表面検出部8は、例えば表面形状を表す数式を用いて、分布図Im1や斜視図Im2を生成してもよい。
【0052】
図6は、図5に示した表面検出処理に対応する収差算出処理を示す図である。収差算出部9は、光線Bの方向ベクトルを算出し、光線Bと標本Sの表面Saとの交点Sbを算出する。標本Sの表面形状が数式で表されている場合、交点Sbの算出に要する計算負荷を減らすことができる。また、収差算出部9は、交点Sbにおける法線ベクトルを算出する。標本Sの表面形状が数式で表されている場合、交点Sbにおける法線ベクトルの算出に要する計算負荷を減らすことができる。例えば、表面Saが平面として数式で表されている場合、法線ベクトルは、交点Sbの位置に依らずに一定であるため、計算負荷が非常に少ない。
【0053】
また、収差算出部9は、光線Bの方向ベクトル、Sbにおける法線ベクトル、標本Sの表面Sbに対して理想球面IS側の屈折率、及び標本Sの屈折率を用いて、表面Saで屈折した光線B2の方向ベクトルを算出する。そして、図4を参照して説明したように、収差算出部9は、光線B1と光線B2との光路長の差を算出する。収差算出部9は、各グリッドGrにおいて、上述した光路長の差を算出することにより、波面を求める。収差算出部9は、得られた波面をもとにツェルニケ係数を算出する。なお、収差算出部9は、図6(B)に示すように、算出した収差をもとに、波面図Im3を生成することができる。
【0054】
制御部10は、上述した収差算出部9の算出結果に基づいて、波面調整部5を制御する。制御部10は、波面調整素子28に対して、補正対象の光学収差に対応するツェルニケ多項式の各項の係数を選択し、各項の係数の最適値を実現する制御パラメータによって波面調整素子28を制御する。なお、ツェルニケ多項式のいずれの項に対応する収差を補正するかは、適宜設定できる。例えば、ツェルニケ多項式の1項から4項(Z(1)〜Z(4))の係数(ツェルニケ係数)に応じた収差は、ステージ2を移動することなどで補正できるため、波面調整素子28による補正を行わなくてもよい。また、例えば図6に示したように標本Sの表面Saが傾いている場合、ツェルニケ多項式の1項から4項(Z(1)〜Z(4))の係数(ツェルニケ係数)に応じた収差を補正することにより、ステージ2の移動による補正を省略あるいは簡略化することもできる。また、例えば、ツェルニケ多項式の16以上の項の係数(ツェルニケ係数)に応じた収差は、波面調整素子で補正しなくてもよい。つまり、ツェルニケ多項式の項の係数の一部に応じた収差は、波面調整素子28により補正されなくてもよい。なお、収差算出部9は、波面調整素子28により補正しない収差に対応するツェルニケ係数を算出しなくてもよい。
【0055】
なお、顕微鏡装置1によりタイムラプス測定を行う場合、検出部(例、第1検出部6、第2検出部7)は、標本Sからの光を第1の時間間隔で検出する。また、表面検出部8は、第2の時間間隔で標本Sの表面形状を検出する。例えば、表面検出部8は、検出部が蛍光を検出してから次に蛍光を検出するまでの間に、標本Sの表面形状の少なくとも一部を検出してもよい。例えば、制御部10は、検出部に標本Sからの蛍光を検出させ、次に検出部に標本Sからの蛍光を検出させるまでの間に、表面検出部8に標本Sの表面形状を検出させてもよい。
【0056】
次に、上述のような顕微鏡装置1の動作に基づき、本実施形態に係る観察方法について説明する。ここでは、一例として、標本Sの表面形状を、共焦点観察により抽出し、標本Sの観察を多光子蛍光観察(特に2光子蛍光観察)で行う場合について説明する。図7は、本実施形態に係る観察方法を示す図である。
【0057】
標本Sの多光子蛍光観察に先立ち、制御部10は、共焦点観察で、ステップS1において標本Sの三次元画像を取得させる。例えば、制御部10は、ステージ2および対物レンズ43の少なくとも一方をZ方向(光軸方向)に移動させながら、第1検出部6によって標本Sの複数の画像を取得させる(図2(A)参照)。Z方向の位置が異なる複数の画像を取得することにより、標本の三次元画像が得られる。そして、表面検出部8は、ステップS2において、標本Sの三次元画像をもとに標本Sの表面形状を抽出する(図2(B)参照)。
【0058】
ステップS3において、制御部10(例、表面検出部8)は、表面形状を数式化する処理(数式化処理)を実行するか否かを判定する。例えば、制御部10は、図1に示した表示部11に、数式化処理を実行するか否かをオペレータに求める画像を表示し、オペレータから入力部12に入力された指令に応じて、数式化処理を実行するか否かを判定する。なお、数式化処理を実行するか否かを示す設定情報が記憶部13などに記憶されており、制御部10は、この設定情報に従って判定してもよい。
【0059】
表面検出部8は、数式化処理を実行すると判定された場合(ステップS3;Yes)、ステップS4において表面形状を表す数式を算出する。制御部10は、ステップS4の処理後、又は数式化処理を実行しないと判定された場合(ステップS3;N0)、ステップS5において収差の計算条件を設定する。
【0060】
図8は、本実施形態に係る計算条件設定処理を示す図である。制御部10は、計算条件設定処理において、例えば図8に示すような設定ウィンドウIm4(グラフィカルユーザーインターフェース)を表示部11に表示させる。設定ウィンドウIm4は、例えば、グリッド刻みの設定値を示す窓W1、標本Sと対物レンズ43との間の屈折率1の設定値を示す窓W2、標本Sの屈折率2の設定値を示す窓W3、Z方向における標本面の位置の設定値を示す窓W4、照明光学系4のNAの設定値を示す窓W5を含む。
【0061】
グリッド刻みの設定値は、例えば、X方向およびY方向のそれぞれにおけるグリッド(図4に示したグリッドGr)の数である。屈折率1の設定値は、浸液を介して観察を行う場合、浸液の屈折率に設定され、雰囲気ガスを介して観察を行う場合、雰囲気ガスの屈折率に設定される。屈折率2の設定値は、例えば、標本Sの組成に応じた推定値、または測定値が用いられる。オペレータは、例えば、変更する設定値がある場合、入力部12を操作することにより、項目を選択して設定値を入力することができる。
【0062】
また、設定ウィンドウIm4は、表面検出部8が検出した標本Sの表面形状を表示する窓W6、及び波面の情報を示す窓W7を含む。窓W6には、例えばオペレータの指令により、図2(C)に示した標本Sの高さの分布を示す分布図Im1を表示することもできるし、図2(D)に示した標本Sの斜視図を表示することもできる。窓W7には、例えば、収差算出処理前にグリッド刻みに応じた計算メッシュMを表示され、収差算出処理後に、得られた波面図が表示される。なお、窓W7に計算メッシュMを表示するか否か、波面図を表示するか否かは、オペレータの指令により切替可能である。表示部11は、例えば、算出(検出)された表面形状と波面との少なくとも一方を表示する。
【0063】
また、設定ウィンドウIm4は、収差算出処理後に、算出されたツェルニケ係数が表示される窓W8を含む。ここでは、n次のツェルニケ係数をz(n)で表され、図8の例では、各項のツェルニケ係数(z(1)〜z(15))を示す窓が設けられている。なお、オペレータは、ツェルニケ係数のうち算出の対象とする項を、設定ウィンドウIm4を利用して設定することもできる。
【0064】
図7の説明に戻り、ステップS6において、収差算出部9は、ステップS5において設定された計算条件に従って収差を算出し、収差の補正に必要とされるツェルニケ係数を求める。また、ステップS7において、制御部10は、収差算出部9が算出したツェルニケ係数に基づいて、標本Sの表面での屈折による収差の少なくとも一部を相殺するように、波面調整部5を制御する。例えば、制御部10は、ステップS7において波面調整素子28の駆動パラメータを設定することで、波面調整部5を制御する。
【0065】
ステップS8において制御部10は、光源部3を制御することにより、照明光学系4から標本Sへ照明光を照射させる。標本Sに含まれる蛍光物質を2光子励起するためには、例えば、超短パルス光で照射すると、励起効率を上げることができるため効率的に蛍光物質を2光子励起できる。標本Sに照明光が照射されると、標本Sに含まれる蛍光物質は、2光子励起され、蛍光を発する。この蛍光は、対物レンズ43を通ってダイクロイックミラー42に入射し、ダイクロイックミラー42で反射して第2検出部7に入射する。ステップS9において、制御部10は、第2検出部7を制御し、波面が調整された照明光が照射されている標本Sからの蛍光を検出させる。制御部10は、例えば、第2検出部7の出力値を使って標本Sの蛍光像を示す画像を生成する。制御部10は、例えば、標本Sの蛍光像を示す画像を表示部11に表示させる。このように、表面検出部8は、共焦点法を用いて得られる標本Sの検出結果に基づいて、標本Sの表面形状を検出し、第2検出部7は、多光子励起顕微鏡において、標本Sからの光を検出してもよい。また、表面検出部8は、共焦点法を用いて得られる標本Sの検出結果に基づいて、標本Sの表面形状を検出し、検出部(例、第1検出部6)は、共焦点法を用いて、標本Sからの光を検出してもよい。
【0066】
なお、1光子励起による蛍光観察を行う場合、顕微鏡装置1は、標本Sに含まれる蛍光物質の励起波長を含む波長帯の照明光を、照明光学系4から標本Sに照射する。また、顕微鏡装置1は、レンズ41と対物レンズ43との間の光路からダイクロイックミラー42を退避させておき、標本Sで発生した蛍光を例えば第1検出部6により検出する。これにより、標本Sの蛍光像が得られる。この場合、波面調整素子28が照明光の収差を補正するので、標本Sにおける蛍光の発生効率を上げることができる。また、波面調整素子28は、標本Sで発生した蛍光を検出する際に発生する収差も補正すことができるので、ピンホール51aにおける蛍光の集光効率を上げること(遮光部材51における蛍光のロスを減らすこと)ができる。
【0067】
なお、標本SにおいてZ方向の位置が異なる複数の標本面(観察対象の面)を設定する場合、収差算出部9は、各標本面に設定したときの収差を予め算出しておき、制御部10は、波面調整素子28の駆動パラメータを標本面ごとに設定する。なお、Z方向の位置が異なる複数の標本面に対する観察を行う場合、第1標本面の観察用の収差補正量を算出しておき、第1標本面の観察の少なくとも一部と並行して、次の第2標本面の観察用の収差補正量を算出してもよい。
【0068】
上述のような本実施形態に係る顕微鏡装置1は、対物レンズ43の焦点面43bにおいて照明光の収差を減らすように、照明光の波面を波面調整部5によって調整できるので、例えば焦点面からずれた位置での蛍光の発生が抑制される。そのため、標本Sのうち焦点面から部分からの蛍光などが、標本面からの蛍光(シグナル)に対してノイズとなることが抑制される。
【0069】
また、顕微鏡装置1は、表面検出部8により標本Sの表面を検出し、その検出結果をもとに収差算出部9により収差を算出(推定)するので、例えば、標本Sの内部を観察するよりも前に、波面調整部5による調整量を決定しておくことができる。そのため、例えば、標本Sの内部の観察時の検出結果を利用して波面をフィードバック制御する手法と比較して、高速化すること等が可能である。また、標本面の位置を変更する場合、照明光の波長を変更する場合などにおいて、既に取得されている標本Sの表面形状をもとに収差を算出しておくことができるので、高速化すること等が可能である。
【0070】
上述の実施形態において、制御部10は、コンピュータシステムを含み、記憶部13に記憶されている顕微鏡制御プログラムを読み出し、このプログラムに従って各種処理を実行する。この顕微鏡制御プログラムは、例えばコンピュータに、標本Sの表面形状を検出することと、表面形状の検出結果を使って、標本に照射される照明光の収差を算出することと、収差の算出結果に基づいて、照明光の波面を調整することと、照明光の波面が調整された状態で前記標本を撮像することと、を実行させるプログラムである。このプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。
【0071】
なお、本発明の技術範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上記の実施形態で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 顕微鏡装置、4 照明光学系、5 波面調整部、8 表面検出部、9 収差算出部、10 制御部、S 標本
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8