(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用して硫黄と共に硫化焙焼しニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して炭素質還元剤を用いて還元し鉄−ニッケル合金(以下、「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して硫酸でニッケルやコバルトを浸出して得た浸出液に硫化剤を添加して混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した種々の製錬方法の中で、炭素源と共に還元してニッケル酸化鉱石を製錬する場合、先ず、その原料鉱石を塊状物化やスラリー化等するための前処理が行われる。具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉状や微粒状から塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石を、バインダーや還元剤等と混合し、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm〜30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
このペレットは、例えば、水分を飛ばすためにある程度の通気性が必要である。さらに、ペレット内で還元反応が均一に生じないと、組成が不均一になり、メタルが分散、偏在してしまうことから、製錬炉に装入されて還元加熱等の製錬操作が始まっても、その形状を維持していることが重要となる。
【0005】
そして特に重要なことが、還元初期において、ペレット表面にシェル状のメタルが生成することである。ペレット表面に均一なメタルシェルが有効に生成しないと、ペレット内の還元剤成分(例えば、炭素質還元剤であれば一酸化炭素)が抜けてしまい、効率的に還元できないだけでなく、還元率の制御も困難になる。また、部分的な組成のばらつきも大きくなり、結果として目的とするフェロニッケルを製造することができなくなる。
【0006】
このような均一なメタルシェルを生成させるためには、原料混合物のペレットの形状やその強度等が非常に重要となる。すなわち、形状が歪なものであればペレット表面で局所的なメタル化が進んでしまい、均一なメタルシェルが生成されない。また、ペレット強度が低いと、成形後に次工程へ移動させる際や、乾燥時、還元時等にクラックが生じることがあり、割れの原因にもなる。
【0007】
このように、ペレット表面に均一なメタルシェルを生成させるためには、ペレットの形状や強度等が非常に重要な要素になる。また、単にメタルシェルを生成させるだけでなく、コスト競争の激しい金属製錬においては、生産性が高く、効率よく塊状化させる技術が求められている。
【0008】
例えば、特許文献1には、移動炉床炉を利用してフェロニッケルを製造する際の前処理方法として、酸化ニッケル及び酸化鉄を含有する原料と、炭素質還元剤とを混合して混合物となす混合工程において、混合物の余剰炭素量を調整してペレットを製造し、そのペレットを炉内に装入して還元工程を行う技術が開示されている。
【0009】
具体的に、特許文献1には、原料と炭素質還元剤とを混合機により混合し、得られた混合物はそのまま移動炉床炉に装入してもよいが、造粒機で塊成化することが好ましく、塊成化することにより、ダスト発生量が減るとともに移動炉床炉内における塊成物(混合物)内部の伝熱効率が向上して還元速度が上昇することが記載されている。なお、塊成化に用いる造粒機としては、ブリケットプレス等の圧縮成形機やディスク型ペレタイザー等の転動造粒機のほか押出成形機を用いることができることが記載されている。
【0010】
しかしながら、塊状化(塊成化)するにあたり、一般的な圧縮成型機や転動造粒機を使用するだけでは、メタルシェルを生成する必要がある塊状化の場合、高い生産性を保ちながら効率よく塊状化処理をすることは難しい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石のペレットを用い、そのペレットを製錬炉(還元炉)に装入して還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0024】
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱をペレット化し、そのペレット中のニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄−ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石からペレットを製造するペレット製造工程S1と、得られたペレットを所定の還元温度で還元加熱する還元工程S2と、還元工程S2にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する分離工程S3とを有する。
【0026】
<1.ペレット製造工程>
ペレット製造工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱からペレットを製造する。
図2は、ペレット製造工程S1における処理の流れを示す処理フロー図である。この
図2に示すように、ペレット製造工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料を混合する混合処理工程S11と、得られた混合物を塊状物に形成(造粒)する塊状化処理工程S12と、得られた塊状物を乾燥する乾燥処理工程S13とを有する。
【0027】
(1)混合処理工程
混合処理工程S11は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、この混合処理工程S11では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と共に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm〜0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。
【0028】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、このニッケル酸化鉱石は、構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe
2O
3)とを含有する。
【0029】
本実施の形態においては、ペレットを製造するにあたり、特定量の炭素質還元剤を混合して混合物とし、その混合物によりペレットを形成する。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、上述した原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等のものであることが好ましい。粒度や粒度分布が同等であることにより、均一に混合し易くなり、還元反応も均一に生じることになるため好ましい。
【0030】
炭素質還元剤の混合量、すなわち塊状物を構成してペレットの内部に存在することになる炭素質還元剤の量としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、40.0%以下の割合とすることが好ましく、35.0%以下とすることがより好ましい。なお、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、形成されるペレット内に含まれる酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレット内に含まれる酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。
【0031】
このように、ペレットの内部に存在する炭素質還元剤の量(炭素質還元剤の混合量)を、化学当量の合計値を100%としたときに40.0%以下の割合とすることで、より効果的に、そのペレットの表面にメタルシェルを均一に生成させることができる。また、還元反応が進み過ぎて鉄の生成量が多くなってしまうと鉄−ニッケル合金中のニッケル品位が低下することがあるが、ペレット内部の炭素質還元剤の量を40.0%以下とすることで、ニッケル品位の低下を抑えることができる。
【0032】
なお、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、8.0%以上の割合とすることが好ましく、12.0%以上の割合とすることがより好ましい。このように、炭素質還元剤の混合量を8.0%以上とすることにより、ニッケル品位の高い鉄−ニッケル合金が製造し易くなる。
【0033】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する添加剤である鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0034】
また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0035】
下記表1に、混合処理工程S11にて混合する、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0037】
(2)塊状化処理工程
塊状化処理工程S12は、混合処理工程S11にて得られた原料粉末の混合物を塊状物に形成(造粒)する工程である。
【0038】
ここで、
図3は、塊状化処理工程S12における処理の流れを示す処理フロー図である。
図3に示すように、塊状化処理工程S12は、少なくともニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して得られた混合物を、棒状又は円柱状に成形する成形工程S31と、成形して得られた混合物を平板状又は円盤状に切断する切断工程S32とを有する。
【0039】
このように本実施の形態においては、原料粉末の混合物を棒状又は円柱状に成形し、続いて、その成形物を切断して、平板状又は円盤状の塊状物とすることを特徴としており、得られた塊状物から平板状又は円盤状のペレットを製造する。このような平板状又は円盤状のペレットによれば、形状のばらつきが非常に小さく、安定していることから、安定した品質が得られ、またパン型造粒機で造粒したペレットのように表面に凸凹が生じるようなことがなく、滑らかに仕上げることができる。また、平板状又は円盤状のペレットを還元炉で還元加熱処理することによって、その表面に均一にメタルシェルを生成させることができ、還元反応の効率低下や得られるフェロニッケルの組成ばらつきの発生を効果的に防ぐことができる。
【0040】
[成形工程]
成形工程S31は、混合処理工程S11にて得られた、原料粉末の混合物(少なくとも、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して得られた混合物)を成形する工程である。具体的に、成形工程S31では、混合物を、棒状又は円柱状に成形する。
【0041】
成形工程S31では、例えば、ペレット成形装置を用いて混合物を成形することができる。ペレット成形装置としては、特に限定されないが、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、特に、二軸スクリュータイプの混練機(二軸混練機)を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、得られるペレットの強度を高めることができる。また、二軸混練機を備えたものを用いることにより、高圧、高せん断で混練できるだけでなく、連続的に高い生産性を保ちながらペレットを製造することができ、特に好ましい。
【0042】
なお、ブリケットプレスを用いて成形することも可能であるが、高いせん断を加えることができず、ペレットの強度が十分に向上しない可能性があり、これにより、処理中にクラックが発生したり、崩壊したりしやすくなり、また形状もバラつきが生じて広い範囲での粒度分布ができてしまう。また、ブリケットプレスを用いた場合には、成形したペレットからはみ出した部分(金型との間からはみ出すもので、いわゆる「耳」と呼ばれる部分)ができてしまい、品質や収率の低下を避けることが困難になる。
【0043】
また、後述する切断工程S32での成形した混合物の切断の操作を連続的に行うようにするために、使用するペレット成形装置における排出口に切断機が設けられたものを用いることがより好ましい。このようなペレット成形装置を用いることで、所望とする形状に高い精度で切断することができ、形状のばらつきがないペレットを、連続的な操作のなかで高い生産性を保ちながら製造することができる。また、このように連続的な処理により製造することで、得られるペレット同士の品質のばらつきを小さくすることができる。
【0044】
[切断工程]
切断工程S32は、成形して得られた棒状又は円柱状の混合物(成形物)を切断する工程である。具体的に、切断工程S32では、棒状又は円柱状の成形物を、平板状又は円盤状に切断する。ここで、平板状又は円盤状との形状を、「ディスク状」とも表現する。
【0045】
図4は、切断工程S32にて成形物を切断して得られる、ディスク状の塊状物を模式的に示す図であり、(A)は外観斜視図であり、(B)は上面図及び側面図である。
図4に示すディスク状の塊状物を「塊状物1」と表記する。なお、ペレットの製造工程S1では、このようにして得られたディスク状の塊状物を乾燥することでペレットを製造することができるため、そのペレットの形状も、
図4の模式図に示すものと同様であって、ディスク状のペレットとなる(「ペレット1」とも表記する)。
【0046】
ディスク状の塊状物(ペレット)1の大きさとしては、特に限定されないが、その直径(D)が5mm〜30mm程度であることが好ましい。また、その直径(D)と高さ(H)のとの比であるアスペクト比(下記(1)式)としては、0.3以上2.0以下の範囲であることが好ましく、0.5以上1.5以下であることがより好ましい。
アスペクト比=D/H ・・・(1)式
【0047】
なお、
図4に示すように、直径(D)とは、円板面の一方を下にして上面から視たときその円板面の直径をいい、高さ(H)とは、円板面の一方を下にして載置したときの底面であるその円板面からの高さをいう。
【0048】
このように、アスペクト比が、好ましくは0.3以上2.0以下の範囲、より好ましくは0.5以上1.5以下の範囲となるディスク状のペレット1とすることによって、製造されるペレットの割れを効果的に防ぐことができ、それによりペレット表面に均一なメタルシェルを生成させて、所望とする還元反応を生じさせることができる。
【0049】
また、このようにディスク状のペレット1とし、その円板面が下になるように還元炉の炉床に載置することで、還元炉内でペレットが移動したり、転がったりすることを防ぐことができ、還元反応を安定して生じさせることができ、組成のばらつきを抑えることができる。また、ディスク状のペレットであることにより、ペレット内でメタル化したフェロニッケルが均一に沈降するようになり、そのメタルの分離が容易となって、回収率を向上させることができる。
【0050】
なお、上述したように、切断工程S32における混合物の切断処理は、成形工程S31での成形処理に引き続き連続的な操作で行うようにすることが好ましい。具体的には、排出口に切断機が設けられたペレット成形装置を使用し、そのペレット成形装置に混合物を投入し、棒状又は円柱状に成形したのち、排出される成形物をその排出口にて切断機によりディスク状に切断する。このように、連続的な処理で塊状物を製造することで、生産性を高くすることができ、またペレット同士の品質のばらつきを小さくすることができる。
【0051】
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程S13は、塊状化処理工程S12にて得られたディスク状の塊状物を乾燥処理する工程である。ここで、塊状化処理により得られた塊状物は、その水分が例えば50重量%程度と過剰に含まれている。そのため、過剰の水分を含むペレットを急激に還元温度まで昇温すると、水分が一気に気化し、膨張してペレットが破壊することがある。
【0052】
したがって、得られたディスク状の塊状物に対して乾燥処理を施し、例えば塊状物の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるようにすることで、次工程の還元工程S2における還元加熱処理で、ペレットが崩壊することを防ぐことができる。また、塊状物は、過剰な水分によりべたべたした状態となっていることが多く、乾燥処理を施すことによって、取り扱いを容易にすることができる。
【0053】
具体的に、乾燥処理工程S13における塊状物に対する乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば300℃〜400℃の熱風を塊状物に対して吹き付けて乾燥させる。なお、この乾燥処理時における塊状物の温度としては100℃未満とすることが、ペレットが破壊されにくくなり好ましい。
【0054】
なお、還元炉への装入等の取り扱い時や還元加熱処理時に、破壊が生じない態様となっていれば、乾燥処理工程S13における乾燥処理を省略することができる。
【0055】
下記表2に、乾燥処理後のペレットにおける固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、ペレットの組成としては、これに限定されるものではない。
【0057】
(4)加熱処理(予熱処理)工程
ペレット製造工程S1においては、上述した乾燥処理工程S13にて乾燥処理を施した塊状物であるペレットを、所定の温度に加熱する加熱処理工程を設けてもよい。この加熱処理は、次工程の還元工程S2における所定の還元温度での加熱に先立つ加熱処理であり、「予熱処理」ということもできる。以下では、この工程を予熱処理工程ともいう。
【0058】
製造するペレットはディスク状のものであって、例えば直径が5mm〜30mmであり、アスペクト比が0.3以上2.0以下の大きさのものである。このペレットとしては、その形状を維持できる強度、例えば1mの高さから落下させた場合でも破壊するペレットの割合が1%以下程度となる強度を有するペレットであることが好ましい。このようなペレットは、還元工程S2に装入する際の落下等の衝撃に耐えることが可能であってその形状を維持することができるものであり、また、ペレットとペレットとの間に適切な隙間が形成されて、還元工程S2における還元反応が有効に且つ効率的に進行するようになる。
【0059】
この点、乾燥処理を施した後に加熱処理(予熱処理)を施してペレットを製造することによって、還元工程S2において、例えば1400℃程度の高い温度でペレットを還元加熱する際にも、ヒートショックによるペレットの割れ(破壊、崩壊)を効果的に防ぐことができる。例えば、還元炉に装入した全ペレットのうちの崩壊するペレットの割合を僅かな割合とすることができ、ペレットの形状をより効果的に維持することができる。
【0060】
具体的に、予熱処理工程においては、乾燥処理後のペレットを350℃〜600℃の温度に加熱する加熱処理を施す。また、好ましくは400℃〜550℃の温度に加熱する。このように、350℃〜600℃、好ましくは400℃〜550℃の温度に加熱することによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱石に含まれる結晶水を減少させることができ、例えば約1400℃の還元炉に装入して急激に温度を上昇させた場合であっても、その結晶水の離脱によるペレットの崩壊を抑制することができる。
【0061】
また、このように、還元工程S2における還元加熱処理に先立ち、予め加熱処理を施すことによって、ペレットを構成するニッケル酸化鉱石、炭素質還元剤、そのほか任意に添加する酸化鉄、バインダー、フラックス成分等の粒子の熱膨張が2段階となってゆっくりと進むようになり、これにより、粒子の膨張差に起因するペレットの崩壊を抑制することができる。
【0062】
なお、予熱処理工程における加熱処理時間としては、特に限定されず、ニッケル酸化鉱石を含む塊状物の大きさに応じて適宜調整すればよいが、得られるペレットの大きさが10mm〜30mm程度となる通常の大きさの塊状物であれば、15分〜30分程度の処理時間とすることができる。
【0063】
<2.還元工程>
還元工程S2では、ペレット製造工程S1で得られたディスク状のペレットを所定の還元温度に還元加熱する。この還元工程S2におけるペレットの還元加熱処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0064】
還元工程S2における還元加熱処理は、還元炉等を用いて行われる。具体的には、ニッケル酸化鉱石を含むペレットを、例えば1400℃程度の温度に加熱した還元炉に装入することによって還元加熱する。
【0065】
還元工程S2における還元加熱処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすいペレットの表面近傍においてペレット中の酸化ニッケル及び酸化鉄が還元されメタル化して、鉄−ニッケル合金となり、シェル(以下、「殻」ともいう)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってペレット中のスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、1個のペレット中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、酸化物からなるスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0066】
そして、還元工程S2における還元加熱処理の処理時間をさらに10分程度まで延ばすことにより、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤の炭素成分が、鉄−ニッケル合金に取り込まれて融点を低下させる。その結果、鉄−ニッケル合金は溶解して液相となる。
【0067】
具体的に、本実施の形態においては、ディスク状のペレットを製造し、そのペレットを還元炉にて還元加熱していることから、安定してペレット表面にメタルシェルを生成させることができ、またそれにより、安定的に且つ効率よく還元反応が進行して、組成のばらつきのないフェロニッケルを、高い生産性で効率よく製造することができる。
【0068】
上述したように、ペレット中のスラグは熔融して液相となっているが、既に分離して生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入するペレットと比較すると、50%〜60%程度の体積に収縮している。
【0069】
上述した還元反応が最も理想的に進行した場合、装入したペレット1個に対して、メタル固相1個とスラグ固相1個とを混在させた1個の混合物として得られ、「だるま状」の形状の固体となる。ここで、「だるま状」とは、メタル固相とスラグ固相とが接合した形状である。このような「だるま状」の形状を有する混合物である場合、その混合物は粒子のサイズとしては最大となるので、還元炉から回収する際に、回収の手間が少なく、メタル回収率の低下を抑制することができる。
【0070】
また、還元工程S2では、得られたペレットを還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上にペレットを載置するようにしてもよい。また、炉床炭素質還元剤上に載置したペレットを、さらにその炭素質還元剤を用いて覆い隠す状態とすることができる。このように、炉床に炭素質還元剤が敷き詰められた還元炉にペレットを装入し、さらにペレットを覆い隠すように炭素質還元剤で包囲させた状態で還元加熱処理を施すことで、ペレットの強度がより効果的に維持され、崩壊を抑制しながら、効果的に製錬反応を進行させることができる。
【0071】
還元加熱処理に用いる還元炉としては、特に限定されないが、移動炉床炉を用いることが好ましい。還元炉として移動炉床炉を使用することにより、連続的に還元反応が進行し、一つの設備で反応を完結させることができ、各工程における処理を別々の炉を用いて行うよりも処理温度の制御を的確に行うことができる。また、各処理間でのヒートロスを低減して、より効率的な操業が可能となる。つまり、別々の炉を使用した反応を行った場合、ペレットを、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じ、また反応雰囲気に変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができない。これに対して、移動炉床炉を使用して一つの設備で各処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。これらのことにより、より効果的に、ニッケル品位が高い鉄−ニッケル合金を得ることができる。
【0072】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎にペレットが製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0073】
<3.分離工程>
分離工程S3では、還元工程S2にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する。具体的には、ペレットに対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物からメタル相を分離して回収する。
【0074】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混合物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0075】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した「だるま状」の混合物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を付与することで、その「だるま状」の混合物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0076】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタル相を回収する。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
[ペレットの製造]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85重量%、平均粒径:約200μm)を混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe
2O
3)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに、20%の割合となる量で含有させた。
【0079】
次に、得られた混合物を試料No.1〜No.12に分け、そのうち、No.1〜No.9の9つの混合物試料については、二軸スクリュータイプの混練機に、その試料排出口に切断機を取りつけたペレット成形装置を用いて円柱状に成形した。また、その切断機では、円柱状の成形物を、断面形状が円形であるディスク状になるようにして切断した。
【0080】
得られた塊状物について、ペレット成形装置に投入した試料の重量と、得られたディスク状の塊状物の重量に基づき、下記(2)式を用いて造粒後のペレット収率を算出した。
造粒後のペレット収率(%)=ディスク状塊状物重量÷投入試料重量×100
・・・(2)式
【0081】
一方、No.10〜No.12の3つの混合物試料については、パン型造粒機を用いて造粒した。具体的に、試料10の混合物については、直径が10mm〜13mmの球状の塊状物となるように、試料11の混合物については、直径が15mm〜18mmの球状の塊状物となるように、試料12の混合物については、直径が20mm〜23mmの球状の塊状物となるように、造粒機回転数や試料投入量等を調整しながら造粒した。なお、造粒後、それぞれ、直径10mm〜13mm、15mm〜18mm、20mm〜23mmの球状ペレットのみとなるように分級した。
【0082】
得られた塊状物について、パン型造粒機に投入した試料の重量と、得られた球状の塊状物の重量に基づき、下記(3)式を用いて造粒後のペレット収率を算出した。
造粒後のペレット収率(%)=分級後の球状塊状物重量÷投入試料重量×100
・・・(3)式
【0083】
次に、塊状物の固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、300℃〜400℃の熱風を塊状物に吹き付けて乾燥処理を施して、ペレット(No.1〜No.12の12試料のペレットを製造した。下記表3に、乾燥処理後のペレットの固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0084】
【表3】
【0085】
本実施例では、No.1〜No.9のペレット試料(ディスク状)を用いた処理を実施例1〜実施例9とし、No.10〜No.12のペレット試料(球状)を用いた処理を比較例1〜比較例3とした。
【0086】
[ペレットに対する還元加熱処理]
製造したペレットを還元炉に装入して、還元加熱処理を施した。具体的には、予め、還元炉の炉床に、灰(主成分はSiO
2であり、その他の成分としてAl
2O
3、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上にペレット試料を1000個置いた。なお、No.1〜No.9のディスク状のペレットについては、その円状面(円板面)を下にして、円状面と炉床面とが平行となるように安定させて載置した。
【0087】
その後、実質的に酸素を含まない窒素雰囲気とし、ペレットを還元炉に装入した。なお、装入時の温度条件は、500±20℃とした。
【0088】
次に、還元温度を1400℃として、還元炉内でペレットを還元加熱した。ペレットの表面にメタルシェルが生成されるとともに、混合物であるペレット内での還元が効率的に進行するように、処理時間を15分とした。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、試料を大気中へ取り出した。
【0089】
No.1〜No.12の12試料の球状ペレットに対して同様の還元加熱処理を施したのち、それぞれのペレットにおいて、「割れ」、「崩壊」、「ペレット体積の4分の1以上の欠け」、「隙間1mm以上の大きなクラックの発生」の有無を判断し、いずれか1つ以上の欠陥が発生したペレット試料を『不良』と判断した。一方で、そのような不良箇所がなく、きれいに還元処理されたペレット試料を『良品』と判断した。なお、良品個数を投入個数(1000個)で割り、還元処理後の収率(%)を算出した。
【0090】
また、それぞれのペレットにおいて、ニッケルメタル率、メタル中のニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(株式会社島津製作所製,S−8100)のより分析して算出した。
【0091】
なお、ニッケルメタル率、メタル中のニッケル含有率は、以下の式により算出した。
ニッケルメタル率=
ペレット中のメタル化したNi量÷(ペレット中の全てのNi量)×100(%)
メタル中のニッケル含有率=
ペレット中のメタル化したNi量÷(ペレット中のメタルしたNiとFeの合計量)
×100(%)
【0092】
下記表4に、それぞれのペレット試料における、アスペクト比、球状ペレットの直径、造粒後と還元処理後のペレット収率を示す。また、ICP分析により測定された測定結果を示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4の結果に示されるように、ディスク状のペレットを製造し、そのペレットを用いて還元加熱処理を施すことで、良好にペレット中のニッケルをメタル化することができ、ニッケル含有量が19.0%〜21.4%と高品位のフェロニッケルを製造することができることが分かった(実施例1〜実施例9)。また、このようなディスク状のペレットは、還元加熱処理時に、還元炉に振動が生じても転動することなく安定していた。
【0095】
このように、良好なフェロニッケルとして製造できた理由としては、ディスク状のペレットを用いたことにより、均一に且つ安定してメタルシェルが生成され、これによってメタルシェル内で還元剤が抜けることなく、また均一に安定して還元反応が生じたことによると考えられる。
【0096】
これに対して、比較例1〜比較例3の結果に示されるように、球状のペレットの場合、実施例で用いたディスク状のペレット試料と比較して、ニッケルメタル化率も平均して低めとなり、メタル中のニッケル含有量も17.4%〜18.8%となりフェロニッケルとしては低い値であった。