特許第6772621号(P6772621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772621
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20201012BHJP
   H01L 33/60 20100101ALI20201012BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   H01L33/50
   H01L33/60
   C09K11/08 J
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-147393(P2016-147393)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-18931(P2018-18931A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】岩浅 真規子
(72)【発明者】
【氏名】梶川 幸治
【審査官】 大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−340748(JP,A)
【文献】 特開2008−021973(JP,A)
【文献】 特開2006−049553(JP,A)
【文献】 特開2004−363564(JP,A)
【文献】 特開2016−037483(JP,A)
【文献】 特開2009−065145(JP,A)
【文献】 特開2010−209311(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/069101(WO,A1)
【文献】 特開2015−188050(JP,A)
【文献】 特開2004−168996(JP,A)
【文献】 特開2010−285583(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0029927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
C09K 11/08 − 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
420nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、
380nm以上435nm以下の範囲においてリン酸水素カルシウムの反射率に対する相対反射率が55%以下であり、450nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する第一蛍光体を含む蛍光部材と、
を備え、
前記第一蛍光体は、下記式
Ca10(POCl:Eu
で表される組成を有する発光装置。
【請求項2】
420nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、
380nm以上435nm以下の範囲においてリン酸水素カルシウムの反射率に対する相対反射率が55%以下であり、450nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する第一蛍光体を含む蛍光部材と、
を備え、
前記第一蛍光体は、下記式
Ca10(PO(Cl,Br):Eu
で表される組成を有する発光装置
【請求項3】
前記蛍光部材は、500nm以上600nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する第二蛍光体を更に含む請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記蛍光部材は、620nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する第三蛍光体を更に含む請求項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記蛍光部材は、樹脂を含み、前記第一蛍光体の前記樹脂に対する含有率が1質量%以上40質量%以下である請求項1からのいずれか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(Light emitting diode、以下、「LED」と呼ぶ。)のような発光素子を用いる発光装置として、青色発光の発光素子と黄色発光等の蛍光体とを用いる白色系の発光装置がよく知られている。このような発光装置は、一般照明、車載照明、ディスプレイ、液晶用バックライト等の幅広い分野で使用されている。また単色青色光を発光する発光装置として、発光波長が390nmから420nmの発光素子と、410nmから480nmの青色発光の蛍光体を備える発光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−171000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、このような発光装置から発せられる、短波長の光、特に波長435nm以下の高エネルギー光について、例えば、人間の眼に悪影響を及ぼすことが懸念されている。このような高エネルギー光を軽減する方法としてカラーフィルターを用いる場合には、青色領域の発光強度が低下するため、発光装置の発光強度も低下することになる。一方、発光装置の製造工程において、発光ピーク波長が長い発光素子を選択する方法では、所望の範囲から発光ピーク波長が外れてしまうため、実用的ではない。
【0005】
そこで、本開示に係る一実施形態は、発光強度の低下を抑制しつつ波長435nm以下の高エネルギー光を低減可能な発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる第一態様は、420nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、380nm以上435nm以下の範囲においてリン酸水素カルシウムの反射率に対する相対反射率が55%以下であり、450nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する第一蛍光体を含む蛍光部材とを備える発光装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る一実施形態によれば、発光強度の低下を抑制しつつ波長435nm以下の高エネルギー光を低減可能な発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本実施形態に係る発光装置の別の一例を示す概略断面図である。
図3】第一蛍光体の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルの一例を示す図である。
図4】第一蛍光体の波長に対する分光反射率の一例を示す図である。
図5A】比較例1から3で得られた発光装置の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図5B】実施例1から3で得られた発光装置の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図5C】実施例4から6で得られた発光装置の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図5D】実施例7及び8で得られた発光装置の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図6A】比較例4、実施例9及び12で得られた発光装置のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図6B図6Aの部分拡大図である。
図7A】比較例5、実施例10、13及び15で得られた発光装置のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図7B図7Aの部分拡大図である。
図8A】比較例6、実施例11、14及び16で得られた発光装置のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す図である。
図8B図8Aの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る発光装置を、実施の形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、発光装置を例示するものであって、本発明は、発光装置を以下のものに特定しない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また平均粒径は、フィッシャー・サブ・シーブ・サイザーズ・ナンバー(Fisher Sub Sieve Sizer's No.)と呼ばれる数値であり、空気透過法を用いて測定される。蛍光体の半値幅は、発光スペクトルにおいて最大発光強度の50%の発光強度を示す発光スペクトルの波長幅を意味する。
【0010】
本実施形態に係る発光装置100を図1に基づいて詳細に説明する。発光装置100は、表面実装型発光装置の一例である。
発光装置100は、可視光の短波長側(例えば、380nm以上485nm以下の範囲)の光を発し、発光ピーク波長が420nm以上470nm以下の範囲内にある窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を配置する成形体40と、を備える。成形体40は、第1のリード20及び第2のリード30と、樹脂部42とが一体的に成形されてなるものである。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が配置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は蛍光部材50により被覆されている。蛍光部材50は例えば、発光素子10からの光を波長変換する蛍光体71(第一蛍光体)と樹脂とを含有してなる。
【0011】
図2に示す発光装置200では、蛍光部材50は蛍光体70として第一蛍光体71、第二蛍光体72及び第三蛍光体73の少なくとも3種の蛍光体と樹脂とを含有してなる。
【0012】
第一蛍光体71は、380nm以上435nm以下の範囲においてリン酸水素カルシウムの反射率に対する相対反射率が55%以下であり、450nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する。特定の発光ピーク波長を有する発光素子10に、特定の反射率及び発光ピーク波長を有する第一蛍光体71を含む蛍光部材50を組合せて発光装置100を構成することで、発光強度の低下を抑制しつつ波長435nm以下の高エネルギー光を低減することが可能となる。
【0013】
発光素子10
発光素子10の発光ピーク波長は、420nm以上470nm以下の範囲にあり、発光効率の観点や最終的に得たい発光装置全体としての色調の観点から、430nm以上460nm以下の範囲にあることが好ましい。この範囲に発光ピーク波長を有する発光素子10の光の一部を蛍光体70の励起光として用いることにより、発光素子10の光の一部を外部に放射される光の一部として有効に利用することができるため、高効率な発光装置を得ることができる。さらに、発光ピーク波長が近紫外領域よりも長波側にあり、紫外線の成分が少ないため、光源としての安全性にも優れる。
【0014】
発光素子10の発光スペクトルの半値幅は例えば、30nm以下とすることができる。
発光素子10にはLEDなどの半導体発光素子を用いることが好ましい。励起光源として、例えば、窒化物系半導体(InAlGa1−X−YN、ここでX及びYは、0≦X、0≦Y、X+Y≦1を満たす)を用いた半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0015】
蛍光部材50
蛍光部材50は、発光素子10から発せられる光を吸収し、青色に発光する第一蛍光体71の少なくとも1種を含み、必要に応じてその他の蛍光体、樹脂等を含むことができる。蛍光部材50が第一蛍光体71を含むことで、発光素子10から発せられる光のうち波長435nm以下の高エネルギー光の少なくとも一部が吸収される。そして、例えば、450nm以上470nm以下の範囲に発光素子10からの光と第一蛍光体71からの蛍光とが重なって単一の発光ピーク波長を有する光が形成されることにより、発光強度の低下を抑制しつつ435nm以下の短波長の高エネルギー光が低減された発光スペクトルを有する発光装置100を構成することができる。
【0016】
第一蛍光体71
第一蛍光体71は、380nm以上435nm以下の範囲においてリン酸水素カルシウムの反射率に対する相対反射率が55%以下であり、45%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。相対反射率が55%以下であることで、波長435nm以下の高エネルギー光の少なくとも一部が吸収され、人体への悪影響が低減された発光装置とすることができる。ここで、第一蛍光体71の相対反射率は、リン酸水素カルシウム(CaHPO、平均粒径2.7μm)の380nm以上435nm以下の各波長における分光反射率を100%とした場合の第一蛍光体71の分光反射率として測定される。相対反射率が55%以下であるとは、380nm以上435nm以下の範囲における相対反射率の最大値が55%以下であることを意味する。
【0017】
第一蛍光体71の発光ピーク波長は450nm以上470nm以下の範囲にあり、455nm以上465nm以下の範囲にあることが好ましい。第一蛍光体71の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば20nm以上60nm以下であり、20nm以上50nm以下が好ましい。
【0018】
また、第1蛍光体71の発光ピーク波長を発光素子10の発光ピーク波長の近傍に位置させることにより、単一の発光ピークを有する発光スペクトルの発光装置を構成することもできる。この単一の発光ピーク波長の半値幅をより狭くするために、第1蛍光体71の発光ピーク波長と、発光素子10の発光ピーク波長との差は、例えば30nm以下、好ましくは20nm以下とすることができる。この場合、第一蛍光体71を、発光素子10と同じように蛍光体の励起光源として利用することができる。
【0019】
第一蛍光体71は、発光強度維持と波長435nm以下の高エネルギー光低減の観点から、例えば式(I)で表される組成を有することが好ましく、式(Ia)又は(Ib)で表される組成を有することがより好ましい。
(I) (Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO(F,Cl,Br,I,OH):Eu
(Ia) Ca10(POCl:Eu
(Ib) Ca10(PO(Cl,Br):Eu
【0020】
第一蛍光体71の平均粒径は、例えば3μm以上40μm以下であり、5μm以上30μm以下が好ましい。平均粒径を所定値以上とすることにより発光強度を大きくすることができる。平均粒径を所定値以下とすることにより、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0021】
蛍光部材50中の第一蛍光体71の含有率は、蛍光部材50に含まれる樹脂に対して、例えば1質量%以上であり、5質量%以上が好ましい。また第一蛍光体71の含有率は、蛍光部材50が含む樹脂に対して、例えば40質量%以下であり、35質量%以下が好ましい。蛍光部材50中の第一蛍光体71の含有率を上記範囲内とすることにより、発光装置の発光強度を維持しつつ、波長435nm以下の高エネルギー光が低減された発光スペクトルを有する発光装置100を構成することができる。
【0022】
発光装置100が第一蛍光体71を含む蛍光部材50を備えることで、発光装置100から発せられる波長435nm以下の高エネルギー光が低減される。発光装置100における波長435nm以下の高エネルギー光の低減率は、例えば10%以上であり、20%以上が好ましい。ここで波長435nm以下の高エネルギー光の低減率は、380nm以上435nm以下の範囲における発光強度の積分値について、同様の発光素子10を備えながら、第一蛍光体71を含む蛍光部材50を備えない発光装置を基準(低減率0%)とし、詳細は実施例で後述するが、積分球で測定される放射束で補正された積分値に基づいて算出される。
【0023】
第二蛍光体72
蛍光部材50は第一蛍光体71に加えて第二蛍光体72を含んでいてもよい。蛍光部材50が第二蛍光体72を含むことで、発光素子10、第一蛍光体71及び第二蛍光体72が発する光の混合色を発する発光装置を構成することができる。第二蛍光体72は発光ピーク波長を500nm以上600nm以下の範囲に有し、510nm以上580nm以下範囲に有することが好ましい。第二蛍光体72の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば20nm以上130nm以下である。また第二蛍光体72は発光ピーク波長を510nm以上550nm以下の範囲に有し、半値幅が20nm以上80nm以下であることがより好ましい。
【0024】
第二蛍光体72は、例えば下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び(IId)のいずれかで表される組成を有する少なくとも1種の蛍光体を含むことが好ましい。これらのうち、例えば画像表示装置に適用する場合に発光装置の色再現性の範囲を拡大する上で、比較的半値幅が狭い発光スペクトルを有する式(IIa)、(IIc)または(IId)で表される組成を有する少なくとも1種の蛍光体を含むことがより好ましい。また式(IIb)で表される組成を有する少なくとも1種の蛍光体を含むことで、良好な発光効率を有する発光装置を構成することができる。
(IIa) Si6−zAl8−z:Eu (0<z≦4.2)
(IIb) LnAl5−pGa12:Ce
式(IIb)中、LnはY、Lu、Gd及びTbからなる群から選択される少なくとも1種であり、pは0≦p≦3を満たす。
(IIc) (Sr1−x−y,M,Eu)Ga
式(IIc)中、Mは、Be、Mg、Ca、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、x及びyは0.03≦x≦0.25、0≦y<0.97及びx+y<1を満たす。
(IId) M118MgSi16:Eu
式(IId)中、M11は、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種であり、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0025】
第二蛍光体72の平均粒径は、例えば1μm以上40μm以下であり、5μm以上30μm以下が好ましい。平均粒径を所定値以上とすることにより発光強度を大きくすることができる。平均粒径を所定値以下とすることにより、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0026】
蛍光部材50が第二蛍光体72を含む場合、第二蛍光体72の含有率は、蛍光部材50に含まれる樹脂に対して、例えば5質量%以上であり、10質量%以上が好ましい。また第二蛍光体72の含有率は、蛍光部材72に含まれる樹脂に対して、例えば90質量%以下であり、80質量%以下が好ましい。
【0027】
第三蛍光体73
蛍光部材50は第一蛍光体71及び第二蛍光体72に加えて、第三蛍光体73を含んでいてもよい。蛍光部材50が第一蛍光体71、第二蛍光体72及び第三蛍光体73を含む発光装置200を例えば、画像表示装置に適用する場合、より広い色再現域を達成することができる。第三蛍光体73は発光ピーク波長を620nm以上670nm以下の範囲に有し、625nm以上660nm以下の範囲に有することが好ましい。第三蛍光体73の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば5nm以上100nm以下であり、5nm以上30nm以下が好ましい。
【0028】
第三蛍光体73は、例えば下記式(IIIa)から(IIIf)のいずれかで表される組成を有する少なくとも1種の蛍光体を含むことが好ましい。これらのうち、発光装置の色再現性の範囲を拡大する上で、比較的半値幅が狭い発光スペクトルを有する、(IIIa)、(IIIb)、(IIId)または(IIIf)で示される組成を有する少なくとも1種の蛍光体を含むことが好ましい。
(IIIa) A[M1−aMn
式(IIIa)中、Aは、アルカリ金属及びアンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を示し、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を示し、aは0.01<a<0.2を満たす。
(IIIb) (i-j)MgO・(j/2)Sc・kMgF・mCaF・(1-n)GeO・(n/2)M:zMn
式(IIIb)中、MはAl、Ga及Inからなる群から選択される少なくとも1種であり、i、j、k、m、n及びzはそれぞれ、2≦i≦4、0<k<1.5、0<z<0.05、0≦j<0.5、0<n<0.5、及び0≦m<1.5を満たす数である。
(IIIc) (Ca1−p−qSrEu)AlSiN
式(IIIc)中、p及びqは、0≦p≦1.0、0<q<1.0及びp+q<1.0を満たす数である。
(IIId) MAl3−ySi
式(IIId)中、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Eu、Ce、Tb及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、v、w、x、y及びzは、それぞれ0.80≦v≦1.05、0.80≦w≦1.05、0.001<x≦0.1、0≦y≦0.5、3.0≦z≦5.0を満たす数である。
(IIIe) (Ca1−r−s−tSrBaEuSi
式(IIIe)中、r、s及びtは、0≦r≦1.0、0≦s≦1.0、0<t<1.0及びr+s+t≦1.0を満たす数である。
(IIIf) (Ca,Sr)S:Eu
【0029】
第三蛍光体73の平均粒径は、例えば1μm以上40μm以下であり、5μm以上30μm以下が好ましい。平均粒径を所定値以上とすることにより発光強度を大きくすることができる。平均粒径を所定値以下とすることにより、発光装置の製造工程における作業性を向上させることができる。
【0030】
蛍光部材50が第三蛍光体73を含む場合、第三蛍光体73の含有率は、蛍光部材50に含まれる樹脂に対して、例えば5質量%以上であり、10質量%以上が好ましい。また第三蛍光体73の含有率は、蛍光部材50含まれる樹脂に対して、例えば90質量%以下であり、80質量%以下が好ましい。
【0031】
樹脂
蛍光部材50は、蛍光体70に加えて少なくとも1種の樹脂を含むことができる。樹脂は熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。熱硬性樹脂として、具体的には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。
【0032】
その他成分
蛍光部材50は、第一蛍光体71及び樹脂に加えてその他の成分を必要に応じて含んでいてもよい。その他の成分としては、シリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等のフィラー、光安定化剤、着色剤等を挙げることができる。蛍光部材が例えば、その他の成分としてフィラーを含む場合、その含有量は樹脂に対して0.01質量%から20質量%とすることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
第一蛍光体71として、以下の組成を有する2種のハロリン酸蛍光体を準備した。
Ca10(POCl:Eu (以下、「CCA」ともいう)
Ca10(PO(Cl,Br):Eu (以下、「CBA」ともいう)
【0035】
図3にCCA及びCBAの発光スペクトルを示す。図3では、それぞれの最大発光強度を1とした場合の相対発光強度の波長に対する発光スペクトルが示されている。また図4にCCA及びCBAの分光反射率を示す。図4では、波長に対する、各波長におけるリン酸水素カルシウム(CaHPO,平均粒径2.7μm)の反射率を100%とした場合の相対反射率が示されている。380nm以上435nm以下の範囲における第一蛍光体71の相対反射率の最大値は、435nmにおける値としてCCAが33%であり、CBAが43%であり、どちらも55%以下であった。
【0036】
図3から、CCA及びCBAは460nm付近に発光ピーク波長を有することが分かる。また図4から、380nm以上480nm以下の範囲においてCCAの方がCBAよりも反射率が低い、すなわち、この波長域においてCBAよりもCCAの方が発光素子からの光をより多く吸収することが分かる。
【0037】
(実施例1)
シリコーン樹脂と、そのシリコーン樹脂に対して10質量%のCCAとを混合分散した後、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を得た。次に凹部を有する成形体40を準備し、凹部の底面に発光ピーク波長が443nmである発光素子10を配置した後、蛍光体含有樹脂組成物を、発光素子10の上に注入、充填し、さらに加熱することで樹脂組成物を硬化させた。このような工程により発光装置100を作製した。
【0038】
(実施例2)
発光素子10を、発光ピーク波長が447nmの発光素子に変更したこと以外は実施例1と同様にして発光装置100を作製した。
【0039】
(実施例3)
発光素子10を、発光ピーク波長が455nmの発光素子に変更したこと以外は実施例1と同様にして発光装置100を作製した。
【0040】
(実施例4)
シリコーン樹脂に対して30質量%のCCAを用いたこと以外は実施例1と同様にして発光装置100を作製した。
【0041】
(実施例5)
シリコーン樹脂に対して30質量%のCCAを用いたこと以外は実施例2と同様にして発光装置100を作製した。
【0042】
(実施例6)
シリコーン樹脂に対して30質量%のCCAを用いたこと以外は実施例3と同様にして発光装置100を作製した。
【0043】
(実施例7)
CCAの代わりにCBAを用いたこと以外は実施例5と同様にして発光装置100を作製した。
【0044】
(実施例8)
CCAの代わりにCBAを用いたこと以外は実施例6と同様にして発光装置100を作製した。
【0045】
(比較例1)
CCAを配合せず、シリコーン樹脂のみを凹部に注入したこと以外は実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0046】
(比較例2)
発光素子10を、発光ピーク波長が447nmの発光素子に変更したこと以外は比較例1と同様にして発光装置を作製した。
【0047】
(比較例3)
発光素子10を、発光ピーク波長が455nmの発光素子に変更したこと以外は比較例1と同様にして発光装置を作製した。
【0048】
以下の表1に実施例1から8と比較例1から3の構成を示す。また図5Aに比較例1から3で得られた発光装置の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す。図5Bに実施例1から3で得られた発光装置100の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す。図5Cに実施例4から6で得られた発光装置100の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示す。図5Dに実施例7及び8で得られた発光装置100の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルをそれぞれ示す。なお、図5Aから図5Dに示される発光スペクトルは、図5Aに示される比較例1の発光ピーク波長における発光強度を基準(100%)として相対的に描いている。図5Bから図5Dに示されるように、実施例1から8の発光装置100の発光スペクトルは、単一の発光ピークを有する。また、発光素子10の発光ピーク波長が長くなる程、発光装置100の発光スペクトルにおける発光ピーク波長も長くなっていることが分かる。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1から8で得られた発光装置100及び比較例1から3で得られた発光装置について、積分球を用いて放射束を測定し、発光素子10の発光ピーク波長別に各比較例の放射束を100%として実施例に係る発光装置100の放射束を相対値(%)として算出した。また放射束と発光スペクトルから以下のようにして435nm以下の発光強度低減率を算出した。結果を発光素子10の発光ピーク波長443nm、447nm及び455nmごとに表2から4にまとめた。
【0051】
発光素子10の発光ピーク波長ごとに、比較例を基準として、実施例の発光装置100の放射束が比較例の放射束と等しくなる係数を求めた。380nm以上435nm以下の範囲で、先に求めた係数を掛けた発光強度の積分値を算出した。比較例の発光装置の積分値を基準(0%)として下式により、実施例の発光装置100における435nm以下の発光強度低減率を算出した。
435nm以下の発光強度低減率(%)
={1−(実施例の積分値/比較例の積分値)}×100
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
実施例1から8で得られた発光装置100では、発光素子10の発光ピーク波長443nm、447nm及び455nmのそれぞれについて、比較例1から3で得られた発光装置に比べて、435nm以下の範囲における発光強度が20%以上低減されている。また、この時の放射束は90%以上を維持している。具体的に例えば、発光素子10の発光ピーク波長が比較的短波長である443nmである実施例1においては、第一蛍光体(CCA)71の含有率がシリコーン樹脂に対して10質量%であり、比較例1に対して435nm以下の発光強度低減率は24%でありながら、放射束は99%を維持している。また、実施例4では、CCAの含有率がシリコーン樹脂に対して30質量%であり、435nm以下の発光強度低減率が48%にも達していながら、放射束は94%を維持している。
【0056】
実施例2及び5、並びに実施例3及び6の評価結果に見られるように、発光素子10の発光ピーク波長が長波長になるほど435nm以下の発光強度低減率は小さくなる。例えば、第一蛍光体71(CCA)の含有率が樹脂に対して10質量%の場合、発光素子10の発光ピーク波長が443nmである実施例1では、発光強度低減率は24%であるが、発光素子10の発光ピーク波長が455nmである実施例3では、発光強度低減率は20%と低くなっている。これは第一蛍光体71であるCCAまたはCBAの分光反射率が青色領域において長波長ほど高くなるため、つまり発光素子10の発光を吸収し難くなるためと考えられる。
【0057】
実施例7及び8で用いた第一蛍光体71は、青色領域における反射率がCCAより高いCBAであり、実施例7及び8の発光強度低減率はそれぞれ45%及び31%である。これを第一蛍光体71がCCAである実施例5及び6の発光強度低減率の46%及び37%と比較すると、発光強度低減率がやや小さくなっている。これは発光素子10の発光波長域の青色領域でCBAがCCAより反射率が高いため、つまり発光素子の発光をCCAよりもCBAが吸収しにくいためと考えられる。
【0058】
(実施例9)
第一蛍光体71としてCCAをシリコーン樹脂に対して10質量%、第二蛍光体72として式(IIa)で表されるβサイアロン蛍光体を27質量%、第三蛍光体73として式(IIIa)で表されるKSF蛍光体を73質量%用いて色度座標がx=0.300、y=0.290付近となるように配合した蛍光体70と、シリコーン樹脂とを混合分散した後、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を得た。次に凹部を有する成形体40を準備し、凹部の底面に発光ピーク波長が443nmである発光素子を配置した後、蛍光体含有樹脂組成物を、発光素子10の上に注入、充填し、さらに加熱することで樹脂組成物を硬化させた。このような工程により発光装置200を作製した。
【0059】
(実施例10から16)
第一蛍光体71の種類及び対樹脂含有率を以下の表5から7に示すように変更したことと、発光素子10の発光ピーク波長を、実施例10、13及び15では447nmに、実施例11、14及び16では455nmに変更したことと、第二蛍光体72及び第三蛍光体73の対樹脂含有率を色度座標がx=0.300、y=0.290付近となるように変更したこと以外は実施例9と同様にして発光装置200を作製した。
【0060】
(比較例4から6)
第一蛍光体71を使用しなかったこと以外は実施例9と同様にして発光装置を作製した。但し、比較例5では発光素子10の発光ピーク波長を447nmに変更し、比較例6では455nmに変更した。
【0061】
実施例9から16で得られた発光装置200、比較例4から6で得られた発光装置について、任意のカラーフィルターを透過させた後の発光特性、NTSC含有比(%)及びDCI包含率(%)をシミュレーションにより求めた。相対輝度は、発光素子10の発光ピーク波長ごとに比較例の発光装置の輝度を基準(100%)として算出した。また放射束の代わりに相対輝度で補正したこと以外は上記と同様にして435nm以下の発光強度低減率を算出した。結果を表5から7に示す。
【0062】
図6Aに比較例4で得られた発光装置、実施例9及び12で得られた発光装置200のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示し、図6Bにその部分拡大図を示す。図7Aに比較例5で得られた発光装置、実施例10、13及び15で得られた発光装置200のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示し、図7Bにその部分拡大図を示す。図8Aに比較例6で得られた発光装置、実施例11、14及び16で得られた発光装置200のカラーフィルター透過後の波長に対する相対発光強度を示す発光スペクトルを示し、図8Bにその部分拡大図を示す。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
発光素子10の発光ピーク波長が最も短い443nmの場合、第一蛍光体71としてのCCAの含有率がシリコーン樹脂に対して30質量%である実施例12では、435nm以下の発光強度低下率は40%であり、相対輝度比は93%である。色再現範囲を評価するNTSC比、DCI包含率については、実施例12及び比較例4のNTSC比がそれぞれ86.4%及び87.3%であり、DCI包含率がそれぞれ85.5%と同じ値となっており同等の色再現範囲となっている。このように実施例12の発光装置200では色再現範囲の数値を低下させることなく、435nm以下の発光強度を40%も低減している。また相対輝度は90%以上を維持している。
【0067】
発光素子10の発光ピーク波長が最も長い455nmの場合、第一蛍光体71のCCAの含有率がシリコーン樹脂に対して30質量%である実施例14では、435nm以下の発光強度低減率は36%であり、相対輝度は95%である。色再現範囲を評価するNTSC比、DCI包含率については実施例14及び比較例6のNTSC比がそれぞれ83.5%及び84.0%であり、DCI包含率がそれぞれ84.4%及び84.7%となっており同等の色再現範囲となっている。このように実施例14の発光装置200では色再現範囲の数値を低下させることなく、435nm以下の発光強度を35%以上低減している。また相対輝度は90%以上を維持している。
【0068】
さらに、実施例15及び16では、第一蛍光体71が青色領域における分光反射率がCCAより高いCBAであり、実施例15及び16の435nm以下の発光強度低減率はそれぞれ39%及び35%である。第一蛍光体71がCCAである実施例13及び14の発光強度低減率の41%及び36%と比較すると、435nm以下の発光強度低減率は少し小さくなっている。これは発光素子10の発光波長域の青色領域でCBAがCCAより反射率が高いため、つまり半導体発光素子の発光を吸収しにくいためと考えられる。しかしながら、第一蛍光体71がCCAの実施例13とCBAの実施例15における色再現範囲を評価するNTSC比はそれぞれ86.1%及び86.2%であり、DCI包含率はそれぞれ85.5%と同じ値である。第一蛍光体71がCCAの実施例14とCBAの実施例16におけるNTSC比はそれぞれ83.5%及び83.6%であり、DCI包含率はそれぞれ84.4%と同じ値である。第一蛍光体71としてCBAを使用するとCCAを使用する場合より435nm以下の発光強度低減率はやや小さくなるものの、CBAを使用してもCCAを使用する場合と同様に実用的には問題ない程度と考えられる。
以上のように、本発明の一実施形態により得られた発光装置を液晶用バックライト光源として使用した液晶テレビ、モバイル機器等は発光強度を低減させることなく、435nm以下の発光強度を低減することができる。そのため、本発明の一実施形態にかかる発光装置は、例えば、眼への悪影響を抑えることが可能になる。
【符号の説明】
【0069】
10:発光素子、50:蛍光部材、70:蛍光体、71:第一蛍光体、72:第二蛍光体、73:第三蛍光体、100、200:発光装置。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B