(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
硫酸ニッケル水溶液をアルカリ金属の水酸化物と炭酸ナトリウムとを含有するアルカリ水溶液で中和して水酸化ニッケル粒子を生成する中和工程と、前記水酸化ニッケル粒子を非還元性雰囲気中において850℃を超え950℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成する熱処理工程と、前記酸化ニッケル粉末を解砕する解砕工程とを含む酸化ニッケル微粉末の製造方法であって、
前記アルカリ水溶液は炭酸ナトリウム濃度が0.4〜0.8mol/Lであり、前記中和は連続晶析法を用い、前記酸化ニッケル微粉末に求められる総アルカリ金属品位又は比表面積に応じて反応時間を0.2〜5hの範囲内で調整することを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、酸化ニッケル微粉末は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて酸化性雰囲気下で焼成することによって製造される。これらの酸化ニッケル微粉末は、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料等の多様な用途に用いられている。例えば、電子部品用材料としての用途では、酸化ニッケル微粉末を酸化鉄や酸化亜鉛等の他の材料と混合した後、焼結することにより作製されるフェライト部品等が広く用いられている。
【0003】
上記フェライト部品のように、複数の材料を混合して焼成することにより、これらを反応させて複合金属酸化物を製造する場合は、生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、使用する原料としては一般に微細なものが好適に用いられている。その理由は、微細な原料を用いることで他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温度且つ短時間でも反応を均一に進ませることができるからである。このように複合金属酸化物を製造する方法においては、原料となる粉体の粒径を小さくすることが効率向上の重要な要素となる。
【0004】
また、環境及びエネルギーの両面から新しい発電システムとして期待されている固体酸化物形燃料電池では、その電極材料として酸化ニッケル微粉末が用いられている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極からなる単セルが複数セル積層された構造を有している。この燃料極としては、例えばニッケル又は酸化ニッケルと、安定化ジルコニアからなる固体電解質とを混合したものが通常用いられている。燃料極は、発電時に水素や炭化水素等の燃料ガスにより還元されてニッケルメタルとなり、ニッケルと固体電解質と空隙からなる三相界面が燃料ガスと酸素の反応場となるため、フェライト部品として用いる場合と同様に原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが発電効率向上の重要な要素となる。
【0005】
ところで、粉体が微細であることを測る指標としては、比表面積を用いることがある。また、粒径と比表面積には、下記の計算式1の関係があることが知られている。下記計算式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、計算式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分る。
【0006】
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
【0007】
近年、フェライト部品はますます高機能化する傾向にあり、また酸化ニッケル微粉末の用途はフェライト部品以外の電子部品等に広がっている。これに伴い、酸化ニッケル微粉末に含有される不純物元素の品位を低減することが求められている。不純物元素の中でも特に塩素や硫黄は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましい。
【0008】
例えば特許文献1には、原料段階におけるフェライト粉の硫黄成分の含有量がS換算で300〜900ppm且つ塩素成分の含有量がCl換算で100ppmであり、焼成後のフェライト焼結体の硫黄成分の含有量がS換算で100ppm以下且つ塩素成分の含有量がCl換算で25ppm以下のフェライト材料が開示されている。このフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これにより作製されたフェライト磁心及び積層チップ部品は、耐湿性と温度特性に優れていると記載されている。
【0009】
また、原料に硫酸ニッケルを用い、これを焙焼することで酸化ニッケル微粉末を製造する方法も提案されている。例えば、特許文献2には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で950〜1000℃で焙焼する第1段焙焼と、1000〜1200℃で焙焼する第2段焙焼とを行って酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、450〜600℃の仮焼による原料の硫酸ニッケルの脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。更に、特許文献4には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として硫酸ニッケルを焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
【0011】
上記の特許文献2や特許文献3の方法によれば不純物品位の低い酸化ニッケル微粉末が得られるが、熱処理を2回行うため生産コストが高くなってしまう。また、上記特許文献2〜4のいずれの方法においても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、逆に粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるため、粒径と硫黄品位を共に最適値に制御することは困難である。更に、加熱する際にSOxを含むガスが大量に発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題を抱えている。
【0012】
酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を晶析させ、これを焙焼する方法も提案されている。このように、水酸化ニッケル粒子を焙焼する場合は、陰イオン成分由来のガスの発生が少ないため、排ガス処理が不要となるか若しくは簡易な設備でよく、生産コストを抑えることが可能になると考えられる。
【0013】
例えば、特許文献5には、塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和することで生成した水酸化ニッケル粒子を500〜800℃の温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成し、得られた酸化ニッケル粉末に水を加えてスラリー化した後、湿式ジェットミルを用いて解砕すると同時に洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く、且つ微細な酸化ニッケル微粉末を得る方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法の一具体例について説明する。この本発明の一具体例の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、原料としての硫酸ニッケル水溶液を炭酸ナトリウムを含んだアルカリ水溶液で中和することで水酸化ニッケル粒子を生成する中和工程と、該中和工程で得た水酸化ニッケル粒子を非還元性雰囲気中において850℃を超え950℃未満の温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成する熱処理工程と、該熱処理の際に形成される酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕して酸化ニッケル微粉末を得る解砕工程とを有している。
【0021】
このように、本発明の一具体例の製造方法においては、原料のニッケル塩水溶液に硫酸ニッケルを使用することが重要である。すなわち、本発明者らは、硫黄成分の働きにより水酸化ニッケル粒子の熱処理時に熱処理温度が粒径に及ぼす影響を抑え得るとの知見を得、これに基づき原料に硫酸ニッケルを使用したところ、これにより生成される水酸化ニッケル粒子は、従来のニッケル塩の中和により生成した水酸化ニッケル粒子に比べて、後段の熱処理工程の温度を高温に設定しても微細な酸化ニッケル粉末が得られることを見出した。
【0022】
更に、熱処理温度を特定の範囲で制御したところ、微細な粒径を維持したまま酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を制御でき、電子部品用材料としての用途、特にフェライト部品の原料として用いる場合に好適な微細でかつ硫黄品位が制御された酸化ニッケル微粉末が得られることを見出した。しかも、この方法は塩化ニッケルを用いないため塩素が混入するおそれがなく、よって、原料に不可避的に含まれる不純物由来のもの以外は実質的に塩素を含有しない酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0023】
上記方法で微細な粒径の酸化ニッケル微粉末が得られる明確な理由は不明であるが、硫酸ニッケルの分解温度は848℃と高温であるため、中和により晶析した水酸化ニッケル粒子の表面や界面に硫酸塩として巻きこまれた硫黄成分が酸化ニッケル粉末の焼結を高温まで抑制していると考えられる。この場合、硫酸ニッケルの分解温度より高温で熱処理すれば硫黄成分は揮発されるため、熱処理後の酸化ニッケル粉末の硫黄品位を低減することができる。
【0024】
このように、水酸化ニッケル粒子内の水酸基の脱離により酸化ニッケル粉末の生成が行われる熱処理工程では、熱処理温度を適切に設定することによって、粒径の微細化と硫黄品位の制御が可能になる。具体的には、水酸化ニッケルの熱処理温度を、850℃を超え950℃未満の温度範囲、好ましくは860以上900℃以下の温度範囲にすることで、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を20質量ppm以下に制御すると共に、比表面積を2m
2/g以上4m
2/g未満にすることができる。
【0025】
また、本発明の一具体例の製造方法においては、中和工程における中和反応の反応時間を0.2h〜5hにすることで、総アルカリ金属の品位が低い水酸化物を得ることができ、かつ最終的に酸化ニッケル微粉末中に残存する硫黄品位を20質量ppm以下、総アルカリ金属の品位を20質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下に抑えることができる。この反応時間が5hを超えると、水酸化ニッケル中の総アルカリ金属の品位が5質量ppmを超え、その結果、酸化ニッケル微粉末中に残存する硫黄品位が20質量ppmを超えることがある。以下、かかる本発明の一具体例の酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。
【0026】
[中和工程]
先ず中和工程において、原料としての硫酸ニッケル水溶液を炭酸ナトリウムを含んだアルカリ水溶液で中和することで水酸化ニッケル粒子の析出を行う。原料として用いる硫酸ニッケルは、特に限定するものではないが、最終的に作製される酸化ニッケル微粉末が電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として用いられることから、腐食を生じにくくするため、原料中に含まれる不純物が100質量ppm未満であることが望ましい。
【0027】
また、硫酸ニッケル水溶液中のニッケルの濃度は、特に限定するものではないが、生産性を考慮するとニッケル濃度で50〜150g/Lが好ましい。この濃度が50g/L未満では生産性が低下するおそれがある。逆に150g/Lを超えると水溶液中の陰イオン濃度が高くなりすぎ、生成した水酸化ニッケル中の硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
【0028】
中和に用いるアルカリ水溶液に含まれるアルカリ成分としては、反応液中に残留するニッケルの量を考慮してアルカリ金属の水酸化物を使用する。アルカリ金属の水酸化物には例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを挙げることができ、コストの面から水酸化ナトリウムが好ましい。中和に用いるアルカリ水溶液は、上記のアルカリ金属の水酸化物以外に更に炭酸ナトリウムを0.4〜0.8mol/Lの濃度で含んでいる。これにより、詳細は不明ではあるが、晶析した水酸化ニッケル粒子の界面や表面に巻き込まれるナトリウム等のアルカリ金属成分や硫黄成分の量を低減することができる。
【0029】
上記アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度を0.4〜0.8mol/Lとする理由は、アルカリ水溶液に含まれる炭酸ナトリウムの濃度を徐々に増やしていくと、水酸化ニッケル粒子中の硫黄品位は一旦増加するが、炭酸ナトリウムの濃度を更に増やすと硫黄品位は減少に転じ、0.4mol/L以上では炭酸ナトリウムを添加しない場合よりも硫黄品位が低くなるからである。また、水酸化ニッケル粒子中のナトリウム等のアルカリ金属の品位は、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度を徐々に増やすことで低下させることができるが、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度が0.8mol/Lより高くなると逆にナトリウム等のアルカリ金属の品位は高くなるからである。
【0030】
このように、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度が0.4mol/L未満では、中和により得られる水酸化ニッケル粒子の硫黄品位が炭酸ナトリウムを含有させない場合よりも高くなることがあり、0.8mol/Lを超えると、中和により得られる水酸化ニッケル粒子のナトリウム等のアルカリ金属の品位が炭酸ナトリウムを含有させない場合よりも高くなることがある。ナトリウム等のアルカリ金属は、後段の熱処理工程において高融点の硫酸塩を形成し、硫黄成分の分解や揮発を阻害する方向に働くので、水酸化ニッケル粒子のアルカリ金属の品位が高いと、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位も高くなりやすい。
【0031】
尚、上記中和反応の晶析により生成される水酸化ニッケル粒子は、硫黄品位が2質量%以下であるのが好ましい。下限については特に限定はないが、アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウムの濃度が0.4〜0.8mol/Lの範囲では0.5質量%以上となる。アルカリ水溶液中の炭酸ナトリウム濃度を適宜調整することで、水酸化ニッケル粒子の硫黄品位をより好適な1.0〜2.0質量%に、最も好適な1.2〜1.8質量%にすることができる。
【0032】
上記中和工程では均質な水酸化ニッケル粒子を効率よく生産するため、反応槽内において十分に撹拌されている液に、予め調製しておいたニッケル塩水溶液である硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液とをいわゆるダブルジェット方式で添加する連続晶析法を採用している。即ち、反応槽内に予め準備したニッケル塩水溶液及びアルカリ水溶液のうちのいずれか一方に対して、もう一方を添加することで中和を行うのではなく、反応槽内において十分に攪拌されている乱流状態の液中に、好適には該攪拌を継続しながらニッケル塩水溶液とアルカリ水溶液とを同時並行的に且つ連続的に添加することで中和を行う。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水に上記アルカリ成分を添加して所定のpHに調整したものが好ましい。
【0033】
上記中和反応時は、反応槽内の反応液のpHを8.3〜9.0の範囲内に調整することが好ましい。このpHが8.3より低いと、水酸化ニッケル粒子中に残存する硫酸イオン等の陰イオン成分の濃度が増大し、これらが後段の熱処理工程の際に大量のSOx等となって炉体を傷めるおそれがある。逆にこのpHが9.0より高くなると、析出する水酸化ニッケル粒子が微細になりすぎ、この水酸化ニッケル粒子を含むスラリーを例えば濾過装置で固液分離する際に濾過性が低下することがある。更に、後段の熱処理工程で焼結が進みすぎて、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になることがある。
【0034】
上記した好適な中和条件であるpH9.0以下では反応後の水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、上記の中和工程による晶析がほぼ完了した後にpHを10程度まで上げることによって、上記の濾過により得られる濾液中のニッケル成分を低減させることができる。中和反応時は、pHをほぼ一定に保つことが好ましく、特にその変動幅が設定値を中心として絶対値で0.2以内となるように一定に制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物が増大したり酸化ニッケル微粉末の比表面積が低下したりするおそれがある。
【0035】
上記の中和反応時の反応液の温度には特に制約がなく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるためには50〜70℃の範囲内が好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル粒子中への硫黄の過度の含有を防止することができる。また、水酸化ニッケル粒子中へのナトリウムなどの不純物の巻き込みを抑制し、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物を低減することができる。この液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が不十分になって、水酸化ニッケル中への硫黄等の不純物の巻き込みが多くなるおそれがある。逆に液温が70℃を超えると水の蒸発量が増加し、水溶液中の硫黄等の不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル粒子中の硫黄等の不純物品位が高くなるおそれがある。
【0036】
上記の中和工程では、中和の反応時間を0.2〜5時間にしている。ここで中和の反応時間とは、所定の中和反応条件が維持される時間であり、例えば連続式完全混合槽型の反応槽で中和反応を行う場合は、その有効容量を硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液との合計供給量で除して得られる時間であり、この場合は中和工程に要する平均時間に相当する。例えば、オーバーフロー口を設けることで有効容積が10Lに維持されている反応槽に硫酸ニッケル水溶液とアルカリ水溶液とを合計20L/hで供給する場合、反応時間は10/20=0.5時間になる。
【0037】
上記反応時間が0.2h未満では、水酸化ニッケル粒子中に残存する硫黄量が増加して、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が20質量ppmを超えることがある。逆に反応時間が5hを超えると、水酸化ニッケル中に残存する総アルカリ金属の量が増加し、その結果、酸化ニッケル微粉末とした際の総アルカリ金属の品位が20質量ppmを超えるだけでなく、硫黄品位も20ppmを超えることがある。尚、酸化ニッケル微粉末の総アルカリ金属品位をより低くすることが求められる場合は、反応時間を0.2〜2.5時間とするのが好ましく、一方、比表面積が大きい酸化ニッケル微粉末が求められる場合は、反応時間を3.5〜5時間とするのが好ましい。
【0038】
上記中和反応の終了後は、析出した水酸化ニッケル粒子を含むスラリーを濾過等の固液分離手段により固液分離して該水酸化ニッケル粒子を濾過ケーキ等の湿潤状態の固形分の形態で回収する。この湿潤状態の固形分は、次の熱処理工程で処理する前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、その場合に用いる洗浄液としては水が好ましく、純水がより好ましい。
【0039】
洗浄時の水酸化ニッケルと水との混合割合は特に限定がないが、ニッケル塩に含まれるナトリウム等のアルカリ金属成分が十分に除去できる混合割合が好ましい。具体的には、残留するアルカリ金属等の不純物が十分に低減でき且つ水酸化ニッケル粒子を良好に分散させるため、50〜150gの水酸化ニッケルに対して1Lの洗浄液を混合することが好ましく、100g程度の水酸化ニッケルに対して1Lの洗浄液を混合するのがより好ましい。
【0040】
尚、洗浄時間については、上記の洗浄液の量や温度などの洗浄条件に応じて適宜定めることができ、残留不純物が十分に低減可能な時間とすればよい。また、1回の洗浄でアルカリ金属等の不純物が十分に低減しない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。特に、ナトリウム等のアルカリ金属は次工程の熱処理によっても除去できないため、この洗浄によって十分に除去することが好ましい。洗浄液に純水を用いる場合は、例えば洗浄後に測定した洗浄液の導電率が所定の値以下になるまで洗浄を繰り返すことで、不純物品位のばらつきを抑えることができる。
【0041】
[熱処理工程]
上記中和工程で生成された水酸化ニッケル粒子は、次に熱処理工程において非還元性雰囲気で熱処理が施されることで水酸基が脱離し、酸化ニッケル粉末となる。この熱処理は、850℃を超え950℃未満の温度範囲で行われる。この熱処理温度が950℃以上では、硫黄成分の分解が進行して上記焼結の抑制効果が不十分になる。その結果、熱処理によって生成される酸化ニッケル微粉末同士の焼結が顕著になり、その結合力も増大するので、後段の解砕工程での酸化ニッケル粉末の焼結体の解砕が困難になり、解砕できたとしても微細な酸化ニッケル微粉末を得るのは難しい。逆に、上記水酸化ニッケル粒子の熱処理温度が850℃以下の場合は、硫酸塩等の硫黄成分の分解による硫黄成分の揮発が不十分となり、水酸化ニッケル中に硫黄成分が残留するため、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が20質量ppmを超えるおそれがある。
【0042】
上記熱処理時の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定はないが、経済性を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を効率よく排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。尚、熱処理を行う装置には、一般的な焙焼炉を使用することができる。
【0043】
熱処理時間は、熱処理温度や処理量等の熱処理条件に応じて適宜設定することができ、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が2m
2/g以上4m
2/g未満になるように設定すればよい。前述したように、水酸化ニッケルに含まれる硫黄成分の働きにより、熱処理により生成される酸化ニッケルは微細となり、焼結体が含まれる場合であってもその結合力は比較的弱いので容易に解砕することができる。
【0044】
この焼結体の粉砕では、解砕後に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、解砕前の酸化ニッケル粉末の比表面積に対して約1.5〜2.5m
2/g程度増加するだけである。従って、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積に基づいて熱処理条件を設定することができる。すなわち、解砕前の酸化ニッケル粉末の比表面積が0.5〜1.5m
2/gとなるような条件で熱処理することが好ましい。熱処理温度を上記範囲で設定することにより、硫黄品位と比表面積を容易に制御できる。
【0045】
[解砕工程]
上記熱処理工程で生成された酸化ニッケル微粉末は、解砕工程で処理される。この解砕工程により、熱処理の際に形成される酸化ニッケル微粉末の焼結体を解砕することができる。前述したように熱処理工程では水酸化ニッケル粒子中の水酸基が離脱して酸化ニッケル粉末が形成されるが、その際、粒径の微細化が起こると共に、硫黄成分により抑制されてはいるものの、高温の影響で酸化ニッケル粉末同士の焼結がある程度進行する。熱処理後の酸化ニッケル粉末に対して解砕処理を行うことで、この焼結体が破壊されるため、極めて微細な酸化ニッケル微粉末が得られる。
【0046】
解砕方法としては、一般的にビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いる解砕法、又はジェットミル等の解砕メディアを用いない流体エネルギーによる解砕法があるが、上記の熱処理後の酸化ニッケル粉末の解砕処理においては、後者の解砕メディアを用いない解砕法を採用することが好ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易になるものの、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入するおそれがあるからである。特に、電子部品用材料として酸化ニッケル微粉末を用いる場合は、解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。
【0047】
低減すべき不純物がジルコニウムのみであるならば、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕することが考えられるが、この場合であっても解砕メディアを構成する他の不純物が混入し得るので、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末を得るのが困難になる。更に、解砕メディアがイットリア安定化ジルコニアに代表されるジルコニウムを含有しない場合は、強度や耐摩耗性が不十分になるため、この観点からも解砕メディアを用いない解砕法が望ましい。
【0048】
解砕メディアを用いない解砕法としては、ガス(気体)や溶媒(液体)を用い、それら流体により粉体の粒子同士を衝突させる方法や、液体などの溶媒により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法等がある。粉体の粒子同士を衝突させる解砕法を適用した装置としては、例えば、乾式ジェットミルや湿式ジェットミルがあり、具体的には前者にはナノグラインディングミル(登録商標)や、クロスジェットミル(登録商標)、後者にはアルティマイザー(登録商標)、スターバースト(登録商標)等がある。また、溶媒によりせん断力を与える解砕法を適用した装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕法を適用した装置としては、例えば、ナノメーカー(登録商標)等がある。
【0049】
上記解砕法のうち、粉体の粒子同士を衝突させる方法が、不純物混入のおそれが少なく、比較的大きな解砕力が得られることから好ましく、乾式によるものが特に好ましい。乾式が好ましい理由は、湿式解砕では解砕後に行う乾燥処理の際に酸化ニッケル微粉末が再凝集するおそれがあるが、乾式解砕ではこのような再凝集の問題が生じにくいからである。尚、本発明の一具体例の製造方法では、硫酸ニッケルを原料とするため、塩素除去のために洗浄を行う必要が特にない。従って乾燥工程の不要な乾式解砕を採用することができるため、製造コストを抑えることができる。上記の解砕条件には特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により目的とする粒度分布を有する酸化ニッケル微粉末を容易に得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0050】
[酸化ニッケル微粉末の物性]
以上説明した本発明の一具体例の酸化ニッケル微粉末の製造方法により製造される酸化ニッケル微粉末は、原料から不可避不純物として混入する以外に塩素が混入する工程を含まないので、塩素品位が極めて低い。加えて、硫黄品位が制御されると共に、ナトリウム等の総アルカリ金属の品位が低く、比表面積が大きい。具体的には、硫黄品位が20質量ppm以下、塩素品位が20質量ppm以下、総アルカリ金属の品位が20質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下である。また、比表面積は2m
2/g以上4m
2/g未満である。従って、電子部品用、特にフェライト部品用の材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料として好適である。尚、固体酸化物形燃料電池の電極用材料としては、硫黄品位が100質量ppm以下であることが好ましいとされている。
【0051】
また、上記した本発明の一具体例の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に、解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
【0052】
上記した本発明の一具体例の酸化ニッケル微粉末の製造方法で作製した酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD90(粒度分布曲線における粒子量の体積積算90%での粒径)が1μm以下であることが好ましく、0.2〜0.9μmがより好ましく、0.4〜0.8μmが最も好ましい。尚、酸化ニッケル微粉末は電子部品等の製造工程において、他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなることがあり、レーザー散乱法で測定したD90も小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末の比表面積で評価を行う方がより確実である。更に、本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOxが大量に発生することがない。従って、これを除害処理するための高価な設備が不要である。更に熱処理回数も1回で済むので、製造コストを低く抑えることができる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等によってなんら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例の塩素品位の分析は、分析対象物を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。硫黄品位の分析は、分析対象物を硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行った。ナトリウム品位の分析は、分析対象物を硝酸に溶解した後、原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z−2300)により評価することによって行った。酸化ニッケル微粉末の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算90%での粒径D90を求めた。比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0054】
[実施例1]
邪魔板とオーバーフロー口を有する攪拌機構付きの有効容積4Lの反応槽に純水を入れてから炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを添加して十分に攪拌し、炭酸ナトリウム濃度0.6mol/L、pH8.5の混合水溶液4Lを調製した。また、硫酸ニッケルを純水に溶解してニッケル濃度120g/Lに調整したニッケル水溶液と、水酸化ナトリウム及び濃度0.6mol/Lに調整された炭酸ナトリウムを含む添加用混合水溶液とを用意した。これらニッケル水溶液と添加用混合水溶液とを、前述の炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとを含む反応槽内の混合水溶液に同時並行的且つ連続的に添加して混合させ、中和反応を行った。この時、両供給ノズル出口部からそれぞれ供給を行ったニッケル水溶液及び添加用混合水溶液は、各々供給先の反応槽内において乱流状態で混合されていた。
【0055】
この中和反応の際、反応槽内の反応液はpH8.5を中心としてその変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整した。また、ニッケル水溶液を75mL/分の流量で添加することによって、添加用混合水溶液の流量と合わせて中和の反応時間を0.5時間に調整した。更に、反応槽内では反応液の温度を60℃とし、攪拌翼を用いて700rpmで撹拌した。
【0056】
上記の連続晶析法により水酸化ニッケル粒子を連続的に晶析させた。この晶析により生成した水酸化ニッケル粒子の沈殿物を含むスラリーをオーバーフローにより連続的に回収し、ヌッチェによる濾過と保持時間30分の純水レパルプを10回繰り返して、水酸化ニッケル粒子の濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを送風乾燥機を用いて130℃の大気中にて24時間かけて乾燥し、水酸化ニッケル粒子を得た(中和工程)。
【0057】
得られた水酸化ニッケル粒子のうち500gを大気焼成炉に供給し、900℃の大気で5時間かけて熱処理して酸化ニッケル粉末を生成した(熱処理工程)。この酸化ニッケル粒子の硫黄品位は10質量ppmであった。次に、得られた酸化ニッケル粉末から分取した300gをナノグラインディングミル(登録商標、徳寿工作所製)にてプッシャーノズル圧力1.0MPa、グラインディング圧力0.9MPaにて粉砕した(解砕工程)。このようにして作製した酸化ニッケル微粉末に対して硫黄(S)、塩素(Cl)、及びナトリウム(Na)の不純物品位を分析し、D90及び比表面積を測定した。
【0058】
[実施例2〜7]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.2時間(実施例2)、1.0時間(実施例3)、1.5時間(実施例4)、2.5時間(実施例5)、3.5時間(実施例6)、5.0時間(実施例7)に調整した以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0059】
[比較例1〜3]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.1時間(比較例1)、6.0時間(比較例2)、10.0時間(比較例3)に調整した以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0060】
[実施例8〜11]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.2時間(実施例8)、2.5時間(実施例9)、3.5時間(実施例10)、5.0時間(実施例11)に調整し、熱処理工程の熱処理温度を900℃に代えて860℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0061】
[比較例4、5]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.1時間(比較例4)、6.0時間(比較例5)に調整し、熱処理工程の熱処理温度を900℃に代えて860℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0062】
[実施例12〜15]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.2時間(実施例12)、2.5時間(実施例13)、3.5時間(実施例14)、5.0時間(実施例15)に調整し、熱処理工程の熱処理温度を900℃に代えて940℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0063】
[比較例6、7]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えてそれぞれ0.1時間(比較例6)、6.0時間(比較例7)に調整し、熱処理工程の熱処理温度を900℃に代えて940℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。
【0064】
[比較例8、9]
中和工程の反応時間を0.5時間に代えて2.5時間に調整し、熱処理工程の熱処理温度を900℃に代えてそれぞれ850℃(比較例8)、950℃(比較例9)とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を作製し、不純物品位等の分析、測定を行った。上記の実施例1〜15及び比較例1〜9の酸化ニッケル微粉末の分析、測定結果を反応時間及び熱処理温度と共に下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1の結果から分るように、実施例1〜15の酸化ニッケル微粉末はいずれも硫黄品位が20質量ppm以下に制御されている上、塩素品位は20質量ppm未満、ナトリウム品位が10質量ppm未満と不純物品位が極めて低くなっている。また、比表面積はいずれも2.0m
2/g以上4.0m
2/g未満の範囲内に収まっている。すなわち、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な不純物品位が低くて微細な酸化ニッケル微粉末が得られていることが分かる。これに対して比較例1〜9の酸化ニッケル微粉末は、不純物品位、比表面積値、及びD90のうちの少なくともいずれかが上記の範囲から外れており、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な酸化ニッケル微粉末が得られていないことが分かる。