(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772662
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】キャンロール、乾式成膜装置、および養生帯素材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20201012BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20201012BHJP
H05K 3/14 20060101ALI20201012BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
C23C14/56 D
F16C13/00 C
H05K3/14 B
B32B1/08 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-162321(P2016-162321)
(22)【出願日】2016年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-31033(P2018-31033A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅川 吉幸
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−037655(JP,A)
【文献】
特開2016−069693(JP,A)
【文献】
特開2006−077286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
F16C 13/00−13/06
H05K 3/14−3/16
B32B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式成膜法により帯状の被成膜基材に成膜する乾式成膜装置に設けられるキャンロールであって、
キャンロール本体と、
前記キャンロール本体の外周面であって、前記被成膜基材からはみ出る露出部分に巻回された養生帯と、を備え、
前記養生帯は金属箔と導電性接着剤層とからなる積層構造を有し、
前記養生帯は、前記金属箔が前記被成膜基材と接触し、前記導電性接着剤層が前記キャンロール本体と接触するように、前記導電性接着剤層により前記キャンロール本体に貼り付けられている
ことを特徴とするキャンロール。
【請求項2】
前記金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上である
ことを特徴とする請求項1記載のキャンロール。
【請求項3】
前記金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載のキャンロール。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のキャンロールを備える
ことを特徴とする乾式成膜装置。
【請求項5】
前記キャンロールの外周面に対向する位置に設けられたスパッタリングカソードを備える
ことを特徴とする請求項4記載の乾式成膜装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の乾式成膜装置を用いて被成膜基材に成膜する
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
金属箔と導電性接着剤層とからなる養生帯と、
基層と粘着層とからなる保護フィルムと、を備え、
前記保護フィルムは前記粘着層により前記養生帯の前記金属箔側に剥離可能に貼り付けられている
ことを特徴とする養生帯素材。
【請求項8】
前記金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上である
ことを特徴とする請求項7記載の養生帯素材。
【請求項9】
前記金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下である
ことを特徴とする請求項7または8記載の養生帯素材。
【請求項10】
金属箔と導電性接着剤層とからなる養生帯と、前記養生帯の前記金属箔側に貼り付けられた保護フィルムとからなる養生帯素材を用いて、前記養生帯をキャンロール本体に取り付ける方法であって、
前記養生帯素材を前記キャンロール本体に巻き付けながら前記導電性接着剤層により貼り付け、
前記養生帯素材を前記保護フィルムの上から押さえてシワを伸ばし、
前記保護フィルムを前記養生帯から剥がす
ことを特徴とするキャンロールの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンロール、乾式成膜装置、および養生帯素材に関する。さらに詳しくは、成膜物質の付着を防止するために養生されたキャンロール、そのキャンロールを備える乾式成膜装置、およびキャンロールを養生するための養生帯素材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に導電膜を成膜した導電膜付樹脂フィルムに対して、フォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術によりパターニング処理を施すことによって得られる。近年、フレキシブル配線基板の配線パターンは、ますます微細化、高密度化する傾向にあり、これにともなって夾雑物を含まない高品質な導電膜付樹脂フィルムが求められている。
【0003】
導電膜付樹脂フィルムの製造方法として、導電膜を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付ける方法(3層基板の製造方法)、導電膜に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後に乾燥させる方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、または真空成膜法と湿式めっき法との併用で導電膜を成膜する方法(メタライジング法)等が知られている。
【0004】
上記製造方法のうち、メタライジング法で利用される真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が挙げられる。例えば、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングしてクロム層を成膜した後、銅をスパッタリングして銅からなる導体層を形成する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、長尺樹脂フィルムに連続的に成膜するスパッタリング装置が開示されている。このスパッタリング装置には、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムを巻き付けて冷却するクーリングローラ(キャンロールとも称される。)が備えられている。このようなスパッタリング装置を用いれば、連続的なメタライジング法による処理で導電膜付樹脂フィルムを製造することができる。
【0006】
ところで、上記のスパッタリング装置は、スパッタリングカソードに取り付けたターゲットにイオンをぶつけ、ターゲットを構成する粒子を叩き出して、その粒子(スパッタ粒子)を被成膜基材の表面に堆積させるものである。一部のスパッタ粒子は被成膜基材に向かわずに、それ以外の場所、例えばキャンロール自体に飛散してそこに付着する。これが剥離して製品である導電膜付樹脂フィルムを汚染するという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献3には、キャンロール等の支持体に被覆シートを貼り付けて、被成膜基材から外れて飛散したスパッタ粒子を、支持体に代えて被覆シートに付着させることが開示されている。成膜物質が付着した被覆シートを交換することで、製品の汚染を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特開昭62−247073号公報
【特許文献3】特開2006−77286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3の技術では、成膜物質により被覆シートが熱せられ、被覆シートの温度が上昇する。そのため、被成膜基材が熱に弱い素材であると、熱膨張によりシワが生じ、製品不良が発生するという問題がある。
【0010】
また、ロールツーロール方式のスパッタリング装置では、連続して長時間のスパッタリングが行われるため、被覆シートに付着した成膜物質はその厚みがしだいに増していく。しかも、被膜シートは絶縁物であるので、被膜シート上の成膜物質は帯電した状態となっている。そのため、被膜シート上の成膜物質と、成膜品の縁とが接触して異常放電が生じ、成膜品の縁が溶解して、製品不良が発生するという問題がある。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、被成膜基材から外れて付着した成膜物質に起因するシワの発生および異常放電を抑制できるキャンロール、乾式成膜装置、および養生帯素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明のキャンロールは、乾式成膜法により帯状の被成膜基材に成膜する乾式成膜装置に設けられるキャンロールであって、キャンロール本体と、前記キャンロール本体の外周面であって、前記被成膜基材からはみ出る露出部分に巻回された養生帯と、を備え、前記養生帯は金属箔と導電性接着剤層とからな
る積層構造を有し、前記養生帯は
、前記金属箔が前記被成膜基材と接触し、前記導電性接着剤層が前記キャンロール本体と接触するように、前記導電性接着剤層により前記キャンロール本体に貼り付けられていることを特徴とする。
第2発明のキャンロールは、第1発明において、前記金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上であることを特徴とする。
第3発明のキャンロールは、第1または第2発明において、前記金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下であることを特徴とする。
第4発明の乾式成膜装置は、請求項1、2または3記載のキャンロールを備えることを特徴とする。
第5発明の乾式成膜装置は、第4発明において、前記キャンロールの外周面に対向する位置に設けられたスパッタリングカソードを備えることを特徴とする。
第6発明の成膜方法は、請求項4または5記載の乾式成膜装置を用いて被成膜基材に成膜することを特徴とする。
第7発明の養生帯素材は、金属箔と導電性接着剤層とからなる養生帯と、
基層と粘着層とからなる保護フィルムと、を備え、前記保護フィルムは前記粘着層により前記養生帯の前記金属箔側に剥離可能に貼り付けられていることを特徴とする。
第8発明の養生帯素材は、第7発明において、前記金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上であることを特徴とする。
第9発明の養生帯素材は、第7または第8発明において、前記金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下であることを特徴とする。
第10発明のキャンロールの形成方法は、
金属箔と導電性接着剤層とからなる養生帯と、前記養生帯の前記金属箔側に貼り付けられた保護フィルムとからなる養生帯素材を用いて
、前記養生帯をキャンロール本体に取り付ける方法であって、前記養生帯素材を前記キャンロール本体に巻き付けながら前記導電性接着剤層により貼り付け、前記養生帯素材を前記保護フィルムの上から押さえてシワを伸ばし、前記保護フィルムを前記養生帯から剥がすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1発明によれば、養生帯が金属箔と導電性接着剤層とからなり、高い熱伝導性を有するので、成膜物質により与えられた熱をキャンロール本体に逃がすことができる。そのため、熱膨張により成膜品にシワが生じることを抑制できる。また、養生帯が高い電気伝導性を有するので、養生帯上に成膜物質が付着しても、電荷をキャンロール本体に逃すことができる。そのため、被成膜基材から外れて付着した成膜物質と成膜品の縁とが接触しても異常放電が生じない。
第2発明によれば、金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上であるので、成膜物質により与えられた熱を十分にキャンロール本体に逃がすことができる。
第3発明によれば、金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下であるので、成膜物質により与えられた電荷を十分にキャンロール本体に逃すことができる。
第4、第5発明によれば、キャンロール本体の露出部分に養生帯が巻回されているので、スパッタ粒子がキャンロール本体に付着することを防止でき、メンテナンス作業が容易である。
第6発明によれば、熱膨張により成膜品にシワが生じることを抑制できる。また、被成膜基材から外れて付着した成膜物質と成膜品の縁とが接触しても異常放電が生じないので、成膜品の縁が溶解して、製品不良が発生することがない。その結果、歩留まりを向上できる。
第7発明によれば、養生帯に保護フィルムが貼り付けられているので、養生帯素材をキャンロール本体に貼り付ける際に張力が加わっても金属箔にシワが入ることを抑制できる。また、養生帯素材をキャンロール本体に貼り付けた後に保護フィルムの上から押さえてシワを伸ばすことで、金属箔のシワをなくすことができる。
第8発明によれば、金属箔の熱伝導率が5W/(m・K)以上であるので、成膜物質により与えられた熱を十分にキャンロール本体に逃がすことができる。
第9発明によれば、金属箔の電気抵抗率が200μΩ・cm以下であるので、成膜物質により与えられた電荷を十分にキャンロール本体に逃すことができる。
第10発明によれば、養生帯に保護フィルムが貼り付けられているので、養生帯素材をキャンロール本体に貼り付ける際に張力が加わっても金属箔にシワが入ることを抑制できる。また、養生帯素材をキャンロール本体に貼り付けた後に保護フィルムの上から押さえてシワを伸ばすことで、金属箔のシワをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るキャンロールの正面図である。
【
図2】養生帯と成膜品との重なり部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
<スパッタリング装置>
図5に示すように、本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置Aは、ロールツーロール方式で連続的に帯状の被成膜基材fを搬送しつつ、スパッタリング法により被成膜基材fに成膜して成膜品mfを製造する装置であり、スパッタリングウェブコータとも称される。スパッタリング装置Aは乾式成膜装置の一種である。乾式成膜装置により行われる乾式成膜法として、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などの減圧雰囲気下での成膜法が挙げられる。
【0016】
スパッタリング装置Aは、真空チャンバー10内において、巻出ロール41から巻取ロール48に向かって搬送される被成膜基材fを、キャンロールCに巻きつけて冷却しながらスパッタリング処理を施す。キャンロールCは、スパッタリング処理により熱せられる被成膜基材fを冷却するため、内部に冷媒が循環している。本実施形態は、このキャンロールCに特徴を有するので後に詳説する。
【0017】
被成膜基材fとして長尺樹脂フィルムを用い、長尺樹脂フィルム上に導電膜を成膜することで成膜品mfとして導電膜付樹脂フィルムを連続的に製造することができる。導電膜付樹脂フィルムとは、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に導電膜が積層されたものである。導電膜には、銅薄膜等の金属膜のほか、合金膜、ITO(錫添加インジウム酸化物)膜やATO(錫添加アンチモン酸化物)膜等の導電性酸化物膜も含まれる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムのほか、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルムを用いることができる。特に、金属膜付樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が好ましい。
【0018】
真空チャンバー10には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が備えられている。真空チャンバー10内を1×10
-4Pa程度まで減圧した後、アルゴンガスや目的に応じて添加される酸素ガス等のスパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度まで圧力調整される。真空チャンバー10の形状や素材は、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定されない。
【0019】
真空チャンバー10内には、上記巻出ロール41、巻取ロール48、およびキャンロールCのほか、被成膜基材fの搬送経路を画定する各種のロールが設けられている。すなわち、真空チャンバー10内には、フリーロール42、47、張力センサロール43、46、フィードロール44、45が設けられており、被成膜基材fはこれらのロールに巻回されている。
【0020】
巻出ロール41からキャンロールCまでの搬送経路には、フリーロール42、張力センサロール43、フィードロール44が設けられている。巻出ロール41から巻き出された被成膜基材fは、フリーロール42により案内され、張力センサロール43により張力が測定され、フィードロール44によりキャンロールCに導入される。
【0021】
また、キャンロールCから巻取ロール48からまでの搬送経路には、フィードロール45、張力センサロール46、フリーロール47が設けられている。キャンロールC上でスパッタリング処理が施された成膜品mfは、フィードロール45により送り出され、張力センサロール46により張力が測定され、フリーロール47により案内されて、巻取ロール48に巻き取られる。
【0022】
キャンロールCはモータ駆動により回転する。このキャンロールCの周速度に対して、フィードロール44、45の回転数が調整されており、これによりキャンロールCの外周面に被成膜基材fを密着させて搬送することができる。また、巻出ロール41および巻取ロール48は、パウダークラッチ等によりトルク制御が行われており、被成膜基材fの張力バランスが保たれている。
【0023】
キャンロールCの外周面に対向する位置には、被成膜基材fの搬送経路に沿って4つのスパッタリングカソード51〜54が設けられている。各スパッタリングカソード51〜54には、キャンロールCの外周面に対向する面にターゲットが取り付けられており、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子が被成膜基材fの表面上に堆積して導電膜が成膜される。
【0024】
例えば、搬送経路上流側のスパッタリングカソード51にニッケル系合金のターゲットを取り付け、下流側のスパッタリングカソード52〜54に銅のターゲットを取り付けることで、被成膜基材fである長尺樹脂フィルムの表面にニッケル合金からなる下地金属層と、銅薄膜層とが積層された銅薄膜付樹脂フィルムmfを製造することができる。なお、下地金属層は、ニッケル合金のほか、クロム、ニッケルクロム合金、コンスタンタン、モネル等の金属や合金を用いることができる。その組成は金属膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の要求される特性に応じて選択される。
【0025】
上記のスパッタリング装置Aを用いて、被成膜基材fに導電膜を成膜することで、成膜品mfを製造することができる。なお、金属膜付樹脂フィルムの場合、金属膜をさらに厚くするには、金属膜付樹脂フィルムに湿式めっき処理を施して金属膜をさらに積層すればよい。湿式めっき処理を行う場合には、電気めっき処理のみで金属膜を形成してもよいし、無電解めっき処理と電解めっき処理と併用して金属膜を形成してもよい。また、金属膜付樹脂フィルムに対して、サブトラクティブ法やセミアディティブ法等によりパターンニング(配線加工)することによって、液晶テレビ、携帯電話等に使用されるフレキシブル配線基板が得られる。
【0026】
<キャンロール>
つぎに、本実施形態の特徴部分であるキャンロールCを説明する。
図1に示すように、キャンロールCは、キャンロール本体1と、キャンロール本体1の外周面に巻回された養生帯2とを備える。キャンロール本体1は、円柱状のロールであり、内部に冷媒が循環している。キャンロール本体1の素材は特に限定されないが、例えばステンレス鋼で形成されており、表面は硬質クロムめっきが施されている。
【0027】
キャンロール本体1の略中央部分には長尺樹脂フィルム等の被成膜基材fが巻回される。キャンロール本体1の幅寸法は被成膜基材fの幅寸法より大きく設定されているため、キャンロール本体1の両端部が露出する。この露出部分(被成膜基材fからはみ出る部分)に養生帯2が巻回されており、スパッタ粒子がキャンロール本体1に付着することを防止している。
【0028】
養生帯2は、被成膜基材fの縁が重なる位置に巻回されている。そのため、養生帯2のキャンロール本体1中央寄りの縁部分には、その上に被成膜基材fの縁が重ねられる。この重ね幅は特に限定されないが、被成膜基材fの搬送の振れ幅よりも大きくすることが好ましい。例えば、重ね幅を10mmとすることが好ましい。そうすれば、被成膜基材fの搬送の振れによりキャンロール本体1の外周面が露出することを防止できる。
【0029】
なお、本実施形態では、養生帯2をキャンロール本体1の両端部に2本設ける形態としたが、これに代えて、キャンロール本体1の中央部に幅広の養生帯2を1本設ける形態としてもよい。この場合、養生帯2の幅寸法は、被成膜基材fの幅寸法よりも大きくし、被成膜基材fの両方の縁が養生帯2の範囲内に収まるようにする。そうすると、被成膜基材fは、その全面が養生帯2を介してキャンロール本体1に巻回されることとなる。
【0030】
<養生帯>
図2に示すように、養生帯2は金属箔21と導電性接着剤層22とからなる積層構造を有する導電膜付金属箔である。養生帯2は導電性接着剤層22によりキャンロール本体1に貼り付けられている。すなわち、導電性接着剤層22がキャンロール本体1に接触しており、金属箔21が被成膜基材fに接触している。養生帯2の厚みは特に限定されないが、20〜100μmが好ましい。
【0031】
金属箔21は熱伝導率が5W/(m・K)以上であることが好ましい。また、金属箔21は電気抵抗率が200μΩ・cm以下であることが好ましい。換言すれば、金属箔21の素材として、このような性質を有する1種の金属、または複数種の金属を含有する合金を選択することが好ましい。例えば、金属として銅、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉄などが挙げられる。また、合金として、黄銅、アルミニウム青銅、ベリリウム銅などが挙げられる。金属箔21の厚みは特に限定されないが、8〜80μmが好ましい。
【0032】
導電性接着剤層22は接着性を有する樹脂の中に導電性を有する微粒子が含まれたものである。導電性接着剤層22は熱伝導性を有する。導電性接着剤層22の熱伝導率は導電性微粒子の添加量によって調整可能であり、0.5W/(m・K)以上であることが好ましく、0.5〜2.0W/(m・K)であることがより好ましい。また、導電性接着剤層22は電気伝導性を有し、電気抵抗率が10μΩ・cm以下であることが好ましい。導電性接着剤層22の厚みは特に限定されないが、10〜50μmが好ましい。
【0033】
導電性接着剤層22に含まれる導電性微粒子の素材は特に限定されないが、銅、ニッケル、銀、亜鉛、アルミニウム、スズ、チタン、モリブデン、バナジウム、タングステンなどの金属、炭素などの導電性を有する素材、これらのうちの複数種を含有する合金などが用いられる。導電性接着剤層22の樹脂成分は特に限定されないが、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂のほか、これらの混合物などが用いられる。なかでもシリコーン系樹脂が好ましい。シリコーン系樹脂は熱に強いので、養生帯2を長期間使用してもキャンロール本体1からの剥離を抑制できる。また、導電性接着剤層22の粘着力は、スパッタリング装置Aの運転中に養生帯2がキャンロール本体1から剥離しない強さであり、かつ、使用済みの養生帯2を剥がす際にキャンロール本体1に残らず、剥がしやすい強さであることが好ましい。なお、使用済みの養生帯2を剥がす際に、有機溶剤を併用してもよい。
【0034】
上記のキャンロールCを備えるスパッタリング装置Aを用いてスパッタリング処理を行
うと、スパッタリングカソード51〜54のターゲットから叩き出されたスパッタ粒子は、被成膜基材fの表面上に堆積する。また、被成膜基材fから外れて飛散したスパッタ粒子は養生帯2に付着し、養生帯2の表面に成膜物質Mが堆積する。
【0035】
そのため、スパッタ粒子がキャンロール本体1に付着することを防止できる。成膜物質Mが付着した養生帯2を交換することで、成膜物質Mの除去を行うことができるのでメンテナンス作業が容易となる。しかも、剥離した成膜物質Mによる汚染のない高品質な成膜品mfを製造できる。
【0036】
スパッタ粒子が養生帯2の表面上に堆積することにより養生帯2が加熱され、温度が上昇する。そうすると、被成膜基材fのうち養生帯2と重なる端部分に、熱膨張によるシワが生じる。被成膜基材fにシワが生じたまま成膜されると成膜品mfにシワが生じることとなり、製品不良となる。特に、被成膜基材fが熱に弱い素材であると、この影響が顕著となる。
【0037】
これに対して本実施形態では、養生帯2が金属箔21と導電性接着剤層22とからなり、その全体が高い熱伝導性を有するので、成膜物質Mにより与えられた熱をキャンロール本体1に逃がすことができる。なお、金属箔21の熱伝導率を5W/(m・K)以上とすれば、成膜物質Mにより与えられた熱を十分にキャンロール本体1に逃がすことができる。養生帯2はキャンロール本体1により冷やされ、温度が上昇しないので、熱膨張により成膜品mfにシワが生じることを抑制できる。
【0038】
ロールツーロール方式のスパッタリング装置Aでは、連続して長時間のスパッタリングが行われるため、被成膜基材fから外れて付着した成膜物質Mはその厚みがしだいに増していく。成膜物質Mは、電荷を帯びたスパッタ粒子により形成されるため、帯電した状態となる。成膜物質Mが帯電したままであると、成膜物質Mと導電膜付樹脂フィルムmfの縁とが接触した際に異常放電が生じ、成膜品mfの縁が溶解して、製品不良となる。
【0039】
これに対して本実施形態では、養生帯2が金属箔21と導電性接着剤層22とからなり、その全体が高い電気伝導性を有するので、養生帯2上に成膜物質Mが付着しても、電荷をキャンロール本体1に逃すことができる。なお、金属箔21の電気抵抗率を200μΩ・cm以下とすれば、成膜物質Mにより与えられた電荷を十分にキャンロール本体1に逃すことができる。そのため、成膜物質Mと成膜品mfの縁とが接触しても異常放電が生じない。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、熱膨張により成膜品mfにシワが生じて製品不良が発生することを抑制できる。また、成膜物質Mと成膜品mfの縁とが接触しても異常放電が生じないので、製品である成膜品mfの縁が溶解して、製品不良が発生することがない。その結果、歩留まりを向上することができる。
【0041】
<養生帯素材>
つぎに、養生帯2の素材である養生帯素材4を説明する。
図3に示すように、養生帯素材4は養生帯2と、養生帯2の金属箔21側の全面に貼り付けられた保護フィルム3とからなる。保護フィルム3は基層31と粘着層32とからなり、粘着層32により養生帯2に貼り付けられている。基層31としては伸びにくい素材が用いられる。例えば、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレンなどの樹脂のほか、紙が用いられる。粘着層32は保護フィルム3を養生帯2から剥離可能な粘着力を有するものが用いられる。例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが用いられる。
【0042】
養生帯2に保護フィルム3を貼り付けることで、養生帯2の保管中に金属箔21にシワが入ることを抑制できる。長尺の養生帯素材4を、ガムテープの様に、芯に巻きつけた状態としてもよい。このような状態とすれば、長尺の養生帯素材4の保存が容易になるとともに、金属箔21にシワが入ることをより抑制できる。
【0043】
<養生帯の取り付け方法>
つぎに、養生帯2のキャンロール本体1への取り付け方法を説明する。
図4(A)に示すように、まず、キャンロール本体1の外周面における被成膜基材fの縁が重なる位置に、養生帯素材4の一端を貼り付ける。そして、養生帯素材4をキャンロール本体1の外周面に巻き付けながら、導電性接着剤層22により貼り付ける。この際、養生帯素材4の他端を手で引っ張りながら巻き付ける。ここで、養生帯2には保護フィルム3が貼り付けられているので、養生帯素材4に張力が加わっても金属箔21が伸びにくい。そのため、金属箔21にシワが入ることを抑制できる。
【0044】
つぎに、キャンロール本体1に貼り付けた養生帯素材4を保護フィルム3の上から手で強く押さえる。これにより、金属箔21のシワを伸ばすことができ、導電性接着剤層22とキャンロール本体1との間に入った気泡を押し出すことができる。また、導電性接着剤層22を一様に押えることで、導電性接着剤層22がキャンロール本体1に密着し、導電性接着剤層22とキャンロール本体1との間の熱伝導性および電気伝導性を向上できる。
【0045】
なお、保護フィルム3の基層31の表面は、手が滑り易いように滑らかであることが好ましい。保護フィルム3の基層31の表面が滑らかであれば、金属箔21のシワを伸ばす作業、気泡を押し出す作業が容易になる。基層31の素材として樹脂を用いれば、その表面を滑らかにできる。また、基層31の素材として紙を用いる場合には、サイズ剤で加工された紙を用いれば、表面が滑らかであるので好ましい。
【0046】
つぎに、
図4(B)に示すように、保護フィルム3を養生帯2から剥がすことで、養生帯2のみがキャンロール本体1に取り付けられた状態となり、キャンロールCが形成される。
【0047】
養生帯2は、その一部が被成膜基材fに重ねられるので、シワが生じていると被成膜基材fの冷却が不均一となり、成膜された導電膜mが不均一となる等、成膜品mfに悪影響を及ぼす。しかし、上記のように養生帯2をキャンロール本体1の外周面にシワが生じることなく巻き付けることができるので、被成膜基材fを均一に冷却でき、均一な導電膜mを成膜できる。このように、成膜品mfへの悪影響を低減できる。
【符号の説明】
【0048】
A スパッタリング装置
C キャンロール
1 キャンロール本体
2 養生帯
21 金属箔
22 導電性接着剤層
3 保護フィルム
31 基層
32 粘着層
4 養生帯素材