(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ルツボは、前記シリコン融液を内面で直接支持する石英ルツボと、該石英ルツボの外側で前記石英ルツボを支持する黒鉛ルツボとを有し、前記石英ルツボの上端は前記黒鉛ルツボの上端よりも高い、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
前記ルツボ内に投入したシリコン原料を前記ヒータにより加熱、溶融して前記シリコン融液を形成する原料溶融工程の間も、前記ヒータの上端が前記ルツボの内面の底よりも低い位置にある、請求項5に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板として使用されるシリコンウェーハは、シリコン単結晶のインゴットを薄くスライスし、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程および鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て最終洗浄することにより製造される。そして、300mm以上の大口径のシリコン単結晶は、チョクラルスキー(Czochralski,CZ)法により製造するのが一般的である。
【0003】
図3は、CZ法により単結晶シリコンインゴットを製造する従来のシリコン単結晶引上げ装置300を示している。シリコン単結晶引上げ装置300は、その外郭をチャンバ10で構成され、その中心部にルツボ16が配置される。ルツボ16は二重構造を有しており、内側の石英ルツボ16Aと、外側の黒鉛ルツボ16Bとから構成され、シャフト駆動機構20により回転および昇降が可能なシャフト18の上端部に固定される。
【0004】
ルツボ16の外側には、ルツボ16を囲むように抵抗加熱式の筒状ヒータ24が配設され、その外側には、チャンバ10の内側面に沿って断熱体26が配設される。また、ルツボ16の上方には、種結晶Sを保持するシードチャック32を下端で保持する引上げワイヤ34がシャフト18と同軸上に配置され、ワイヤ昇降機構36が、引上げワイヤ34をシャフト18と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させつつ昇降させる。
【0005】
チャンバ10内には、ルツボ16の上方で育成中の単結晶シリコンインゴットIを囲むように筒状の熱遮蔽体22が配置される。この熱遮蔽体22は、育成中のインゴットIに対する、ルツボ16内のシリコン融液Mやヒータ24やルツボ16の側壁からの高温の輻射熱の入射量を調整したり、結晶成長界面近傍の熱の拡散量を調整するものであり、単結晶シリコンインゴットIの中心部および外周部の引上げ軸X方向の温度勾配を制御する役割を担っている。
【0006】
チャンバ10の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ10内に導入するガス導入口12が設けられる。また、チャンバ10の底部には、図示しない真空ポンプの駆動によりチャンバ10内の気体を吸引して排出するガス排出口14が設けられる。ガス導入口12からチャンバ10内に導入された不活性ガスは、育成中の単結晶シリコンインゴットIと熱遮蔽体22との間を下降し、熱遮蔽体22の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を流れた後、熱遮蔽体22の外側、さらにはルツボ16の外側に向けて流れ、その後ルツボ16の外側を下降してガス排出口14から排出される。
【0007】
このシリコン単結晶引上げ装置300を用いて、チャンバ10内を減圧下のArガス雰囲気に維持した状態で、ルツボ16内に充填した多結晶シリコンなどのシリコン原料をヒータ24の加熱により溶融させ、シリコン融液Mを形成する。次いで、ワイヤ昇降機構36によって引上げワイヤ34を下降させて、種結晶Sをシリコン融液Mに着液し、ルツボ16および引上げワイヤ34を所定の方向に回転させながら、引上げワイヤ34を上方に引き上げ、種結晶Sの下方にインゴットIを育成する。なお、インゴットIの育成が進行するにつれて、シリコン融液Mの量は減少するが、ルツボ16を上昇させて、融液面のレベルを維持する。
【0008】
チャンバ10の上部の開口部38にはCCDカメラ40が設けられる。CCDカメラ40は、結晶Iと融液Mとの境界部近傍を撮像する。結晶と融液との境界部に形成されるメニスカスは、結晶および融液よりも高輝度で撮像されるため、画像中のメニスカスは、リング状の高輝度帯(以下、「フュージョンリング」と称する。)として顕在化する。このフュージョンリングの間隔を結晶直径と認識して、この結晶直径が所望の一定値となるように、結晶引上げ速度と融液温度を制御する。
【0009】
このような従来のシリコン単結晶引上げ装置300では、特許文献1にも記載されているように、筒状のヒータ24は、ルツボ16の外側にルツボ16を囲むように配置される。つまり、筒状のヒータの上端24Aは、ルツボの底16Cよりも常に高い位置にある。これは、ヒータが、ルツボ内のシリコン原料を溶融し、さらに、形成したシリコン融液を維持するための加熱を行うものだからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のシリコン単結晶引上げ装置で製造された単結晶シリコンインゴット中には、その育成過程においてカーボンが混入し、その結果、当該インゴットから作製したシリコンウェーハのカーボン濃度が意図せず高くなってしまうという問題があった。シリコンウェーハ中のカーボン濃度が高くなると、デバイス熱処理工程中にキラー欠陥と呼ばれる電気的に活性なカーボン起因の欠陥が発生し、ウェーハのライフタイムを低下させてしまう問題が生じる。また、高濃度のカーボンは酸素析出物の形成を促進させるため、仮に酸素析出物がデバイスの表面に存在した場合はリーク不良が生じ、歩留まり低下の原因となる。このように、単結晶シリコンインゴット中へのカーボンのコンタミは、半導体デバイスの作製工程において悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、単結晶シリコンインゴット中の炭素濃度はデバイスの種類に応じて規格で厳しく制限される。
【0012】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、単結晶シリコンインゴット中のカーボン濃度を低減することが可能なシリコン単結晶引上げ装置及び単結晶シリコンインゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、チャンバ内での筒状ヒータの配置に着目した。結晶中のカーボン濃度が上昇する理由は、シリコン融液から発生したSiOガスと筒状ヒータの素材であるカーボンとの反応により発生するCOガスがシリコン融液に取り込まれることであると、本発明者らは考えた。そこで、筒状ヒータの配置を従来よりも低い位置、すなわちヒータ上端がルツボの底よりも低くなる位置に設置するとの着想を得た。この場合、シリコン融液から発生したSiOガスが不活性ガスの流れに乗ってヒータに到達し、そこでCOガスが発生したとしても、COガスはルツボ側に戻ることなく、直下のガス排出口から排出され、シリコン融液中には取り込まれない。
【0014】
筒状ヒータは、ルツボ内のシリコン原料を溶融し、さらに、形成したシリコン融液を維持するための加熱を行うものである以上、ルツボの外側にルツボを囲むように配置されるのが常識であった。本発明者らは、その常識に反して、ヒータの位置を下げることにより上記課題を解決することを試みた。そして、このようなヒータ位置の変更を行っても、ヒータの出力を上げることによって、シリコン融液の形成および維持が可能であり、単結晶インゴットの育成が成立することを見出したのである。
【0015】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)不活性ガスを導入するガス導入口を上部に有し、前記不活性ガスを排出するガス排出口を底部に有するチャンバと、
前記チャンバ内でシリコン融液を収容するルツボと、
前記チャンバの底部を鉛直方向に貫通して、前記ルツボを上端で支持するシャフトと、
前記シャフトを介して前記ルツボを回転させつつ昇降させるシャフト駆動機構と、
前記ルツボの上方に、前記シリコン融液から引き上げられる単結晶シリコンインゴットを囲むように設けられた筒状の熱遮蔽体と、
前記チャンバ内で前記シャフトを囲うように位置し、前記シリコン融液を加熱する筒状のヒータと、
前記熱遮蔽体の上端よりも下方で、前記チャンバの内側面に沿って設けられた筒状の断熱体と、
を有し、
前記ヒータは、その上端が、前記シリコン融液の収容量を許容最大量として、前記シリコン融液が前記熱遮蔽体に接触しない最上の位置に前記ルツボを位置させた際の、前記ルツボの内面の底よりも低い位置となるように配置することを特徴とするシリコン単結晶引上げ装置。
【0016】
(2)前記断熱体は、
第1の厚みを有し、前記ヒータの外側に少なくとも前記ヒータを包含する高さ範囲に延在する下部断熱体と、
前記下部断熱体と連続し、前記第1の厚みよりも厚い第2の厚みを有する上部断熱体と、
を有し、前記下部断熱体の内周面と前記ヒータの外周面との距離をDとしたとき、前記上部断熱体は、その下端が前記ヒータの上端から2.0×D以下の距離となる範囲で延在する、上記(1)に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【0017】
(3)前記下部断熱体及び前記上部断熱体は共通した外周面を有し、前記上部断熱体の内周面は前記下部断熱体の内周面よりも内側に位置し、
前記下部断熱体の内周面の位置から前記ルツボ側に突出した前記上部断熱体の下端面と、前記ヒータの上端面とが対向している、上記(2)に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【0018】
(4)前記ルツボは、前記シリコン融液を内面で直接支持する石英ルツボと、該石英ルツボの外側で前記石英ルツボを支持する黒鉛ルツボとを有し、前記石英ルツボの上端は前記黒鉛ルツボの上端よりも高い、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引上げ装置。
【0019】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のシリコン単結晶引上げ装置を用いて行う単結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記シリコン融液から前記単結晶シリコンインゴットを引き上げる結晶育成工程の間に、前記ヒータの上端が常に前記ルツボの内面の底よりも低い位置にあることを特徴とする単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【0020】
(6)前記ルツボ内に投入したシリコン原料を前記ヒータにより加熱、溶融して前記シリコン融液を形成する原料溶融工程の間も、前記ヒータの上端が前記ルツボの内面の底よりも低い位置にある、請求項5に記載の単結晶シリコンインゴットの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシリコン単結晶引上げ装置及び単結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、単結晶シリコンインゴット中のカーボン濃度を低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置)
図1を参照して、本発明の第1実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置100を説明する。シリコン単結晶引上げ装置100は、チャンバ10、ルツボ16、シャフト18、シャフト駆動機構20、筒状の熱遮蔽体22、筒状のヒータ24、筒状の断熱体26、シードチャック32、引上げワイヤ34、ワイヤ昇降機構36、およびCCDカメラ40を有する。
【0024】
チャンバ10の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ10内に導入するガス導入口12が設けられる。また、チャンバ10の底部には、図示しない真空ポンプの駆動によりチャンバ10内の気体を吸引して排出するガス排出口14が設けられる。
【0025】
ルツボ16は、チャンバ10の中心部に配置され、シリコン融液Mを収容する。ルツボ16は、石英ルツボ16Aと黒鉛ルツボ16Bの二重構造を有する。石英ルツボ16Aは、シリコン融液Mを内面で直接支持する。黒鉛ルツボ16Bは、石英ルツボ16Aの外側で石英ルツボ16Aを支持する。
図1に示すように、石英ルツボ16Aの上端は黒鉛ルツボ16Bの上端よりも高くなっており、すなわち、石英ルツボ16Aの上端部は黒鉛ルツボ16Bの上端から突出している。
【0026】
シャフト18は、チャンバ10の底部を鉛直方向に貫通して、ルツボ16を上端で支持する。そして、シャフト駆動機構20は、シャフト18を介してルツボ16を回転させつつ昇降させる。
【0027】
熱遮蔽体22は、ルツボ16の上方に、シリコン融液Mから引き上げられる単結晶シリコンインゴットIを囲むように設けられる。具体的には、熱遮蔽体22は、逆円錐台形状のシールド本体22Aと、このシールド本体22Aの下端部から引上げ軸X側(内側)に向かって水平方向に延設された内側フランジ部22Bと、シールド本体22Aの上端部からチャンバ側(外側)に向かって水平方向に延設された外側フランジ部22Cとを有し、外側フランジ部22Cは断熱体26に固定されている。熱遮蔽体22の機能は背景技術の欄において説明したとおりである。
【0028】
筒状のヒータ24は、チャンバ10内でシャフト18を囲うように位置する。ヒータ24は、カーボンを素材とする抵抗加熱式ヒータであり、ルツボ16内に投入されるシリコン原料を溶融してシリコン融液Mを形成し、さらに、形成したシリコン融液Mを維持するための加熱を行う。
【0029】
筒状の断熱体26は、熱遮蔽体22の上端よりも下方で、チャンバ10の内側面に沿って設けられる。本実施形態では、さらに、チャンバ内の底部にも断熱体が配置される。これらの断熱体を構成する断熱材は特に限定されないが、例えばカーボン、アルミナ、及びジルコニアを挙げることができる。断熱体26は、チャンバ10内の特に熱遮蔽体22よりも下方の領域に保熱効果を付与し、ルツボ16内のシリコン融液Mを維持しやすくする機能を有する。断熱体26の厚さTは、特に限定されず、従来と同等の一般的な厚さとすることができ、直径300mmの結晶を育成する引上げ装置においては30〜90mm程度、直径450mmの結晶を育成する引上げ装置においては45〜100mm程度とすることができる。
【0030】
ルツボ16の上方には、種結晶Sを保持するシードチャック32を下端で保持する引上げワイヤ34がシャフト18と同軸上に配置され、ワイヤ昇降機構36が、引上げワイヤ34をシャフト18と逆方向または同一方向に所定の速度で回転させつつ昇降させる。
【0031】
チャンバ10の上部の開口部38にはCCDカメラ40が設けられる。CCDカメラ40は、結晶Iと融液Mとの境界部近傍を撮像する。得られる画像中のフュージョンリングの間隔を結晶直径として、この結晶直径が所望の一定値となるように、結晶引上げ速度と融液温度を制御する。
【0032】
本実施形態の特徴的構成は、ヒータ24を、その上端24Aがルツボの内面の底16Cよりも低い位置になるように配置することである。これにより、育成される単結晶シリコンインゴットI中のカーボン濃度を低減することが可能である。
【0033】
このような効果が得られる作用について、本発明者らは以下のように考えている。ルツボ16内のシリコン融液Mからは、シリコン融液Mが石英ルツボ16A内面と反応することでSiOガスが発生する。SiOガスは、不活性ガスの流れに乗ってヒータ24に到達し、以下の反応式に示すように、ヒータの素材であるカーボンとの反応によりCOガスが発生する。
SiO↑ + 2C → CO↑ + SiC
なお、副生成物として生成するSiCはヒータ24の表面に析出する。
図3に示す従来技術のように、ヒータ24がルツボの近傍に位置する場合、COガスの一部がシリコン融液側に戻るガス流れが生じることがあり、COガスの一部がシリコン融液Mに取り込まれる。これに対して、本実施形態では、ヒータ24がチャンバ10内の下部で、ガス排出口14に近い位置にあるため、発生したCOガスはシリコン融液Mに取り込まれることなく、ほぼ全てがガス排出口14から排出される。その結果、シリコン融液M中のカーボン濃度が低減し、ひいては育成される単結晶シリコンインゴットI中のカーボン濃度を低減することとなる。
【0034】
また、本実施形態では、副次的な効果として、インゴットの直径制御性を向上させることができる。本実施形態では、ヒータ24がチャンバ10内の下部にあることによって、フュージョンリングの間隔を結晶直径とする直径制御方法において、シリコン融液面に加熱源であるヒータ24が直接写り込むことがなくなる。このため、ヒータからの輻射光がフュージョンリングの輝度計測に与える影響が小さくなり、より正確なフュージョンリングの幅を計測することができる。その結果、結晶直径をより高精度に計測することができる。
【0035】
なお、ルツボ16は、シリコン原料の投入時には、シリコン原料が熱遮蔽体22に接触しないようにチャンバ10内の下方に位置し、シリコン融液Mを収容している段階では、シリコン融液Mが熱遮蔽体22に接触しない位置にある。そして、結晶育成工程(引上げ工程)中には、シリコン融液面のレベル(高さ)を一定に維持するように、すなわち、熱遮蔽体22の下端とシリコン融液面との距離を一定に維持するように、シリコン融液の量の減少に伴ってルツボ16を上昇させる。そこで、本実施形態では、上記の作用効果を発揮するために、ヒータの上端24Aは、シリコン融液Mの収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体22に接触しない最上の位置にルツボ16を位置させた際の、ルツボの内面の底16Cよりも低い位置となるようにする。
【0036】
ここで、本明細書において「シリコン融液の収容量の許容最大量」とは、ルツボ内面の底16Cからのシリコン融液面の高さの、ルツボ内面の底16Cからルツボ16の上端までの高さに対する比率が90%となる収容量と定義する。この比率が90%を超えてシリコン融液を収容すると、地震などにより融液面の揺れが生じた時に、シリコン融液が石英ルツボの縁からこぼれてしまうおそれがあり、結晶育成に弊害が生じるからである。なお、通常の操業においては、製造効率を考慮して1チャージで極力多くのシリコン融液を形成することが好ましいことから、結晶育成工程の開始時のシリコン融液の収容量は、上記比率が80〜90%となるようにする。
【0037】
また、結晶育成工程では、熱遮蔽体22の下端とシリコン融液面との距離を一定に維持するが、当該距離は5〜100mm程度とすることが好ましい。5mm以上とすれば、結晶育成中の石英ルツボの上昇速度計算に誤差があったとしても、熱遮蔽体の下端がシリコン融液に浸漬しまう可能性がなく、100mm以下とすれば、ヒータからの輻射光を結晶が直接受けることがなく、結晶固化時に発生する潜熱を外部に逃がすことができ、結晶成長を確実に行うことができるからである。
【0038】
断熱体26の内周面とヒータ24の外周面との距離Dは、特に限定されず、従来と同等の一般的な距離とすることができ、直径300mmの結晶を育成する引上げ装置においては5〜100mm程度、直径450mmの結晶を育成する引上げ装置においては5〜150mm程度とすることができる。
【0039】
ヒータ24の寸法も特に限定されず、従来と同等の一般的な寸法とすればよく、引上げ軸X方向の長さは500〜700mm程度、厚みは20〜50mm程度とすることができる。なお、ヒータ24をルツボ16から遠ざけたことに伴い、シリコン原料の溶融およびシリコン融液の維持をするために、
図3に示す従来装置に比べて1〜3%程度ヒータ出力を上げる必要があるが、この程度の出力増加で単結晶インゴットの育成が成立する。
【0040】
(第2の実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置)
図2を参照して、本発明の第2実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置200を説明する。本実施形態のシリコン単結晶引上げ装置200は、断熱体26の構成が異なる以外は、第1実施形態によるシリコン単結晶引上げ装置100と同じ構成を有し、同じ効果を奏するものである。
【0041】
以下、断熱体26について詳細に説明する。本実施形態では、ヒータ24を従来よりも下方に移動させたことに伴い生じた空間にも断熱体を設けて、熱遮蔽体22よりも下方の領域の保熱効果を増強したものである。具体的には、断熱体26は、下部断熱体28と上部断熱体30を有する。下部断熱体28は、第1の厚みT1を有し、ヒータ24の外側に少なくともヒータ24を包含する高さ範囲に延在する。上部断熱体30は、下部断熱体28と連続し、第1の厚みT1よりも厚い第2の厚みT2を有する。
【0042】
そして、本実施形態では、上部断熱体30をヒータの上端24Aの近傍まで延在させることが重要である。具体的には、下部断熱体の内周面28Aとヒータの外周面24Bとの距離をDとしたとき、上部断熱体30は、その下端30Cがヒータの上端24Aから2.0×D以下の距離となる範囲で延在するものとする。
【0043】
この構成を採用することで、以下の2つの効果を得ることができる。第1に、ヒータの消費電力の削減である。第1の実施形態では、単結晶インゴットの育成を成立させるために、
図3に示す従来装置に比べて1〜3%程度とはいえ、ヒータ出力を上げる必要があった。これに対して本実施形態では、下部断熱体28よりも厚い上部断熱体30をヒータの上端24Aの近傍まで延在させたので、熱遮蔽体22よりも下方の領域の保熱効果が高まり、ヒータの出力を上げることなく単結晶インゴットの育成を成立することができる。本発明者らの検討によれば、むしろ、
図3に示す従来装置に比べて5〜7%程度ヒータ出力を下げても、単結晶インゴットの育成を成立させることができた。これは、ヒータ24をルツボ16から遠ざけたことによるルツボへの伝熱の減少量よりも、熱遮蔽体22よりも下方の領域の保熱効果の増強によるルツボへの伝熱の増加量が大きいことを意味しており、本発明者らが初めて見出した知見である。
【0044】
第2に、石英ルツボ16Aの上端部の倒れ込みを防止できることである。石英ルツボ16Aの上端部は黒鉛ルツボ16Bに保持されていない。このため、
図3に示す従来装置では、石英ルツボ16Aの上端部がヒータ24から輻射熱を直接受けるため、結晶育成工程の途中で当該上端部が軟化してルツボ16の内側に倒れ込むことがあった。この場合、ルツボ16が上昇を続けると、倒れ込んだ上端部が熱遮蔽体22に接触してしまい、結晶育成が続行できなくなる。また、本発明者らの検討によると、第1の実施形態のように、ヒータ24をルツボ16から遠ざけても、上端部の倒れ込みが発生することがあった。これは、単結晶インゴットの育成を成立させるべくヒータ出力を上げたためと思われる。これに対して本実施形態では、熱遮蔽体22よりも下方の領域の保熱効果を高めたことでヒータ出力は下げることができ、さらにヒータ24からの直接輻射熱も回避できることから、石英ルツボ16Aの上端部の倒れ込みを防止できる。
【0045】
下部断熱体の内周面28Aとヒータの外周面24Bとの距離Dは特に限定されず、従来と同等の一般的な距離とすることができ、直径300mmの結晶を育成する引上げ装置においては5〜100mm程度、直径450mmの結晶を育成する引上げ装置においては5〜150mm程度とすることができる。
【0046】
下部断熱体28の厚みT1は、断熱材がカーボンの場合は、直径300mmの結晶を育成する引上げ装置においては30〜90mm程度、直径450mmの結晶を育成する引上げ装置においては45〜100mm程度とすることができる。
【0047】
上部断熱体30の厚みT2は、特に限定されないが、本実施形態の効果を得る観点から、T1の2倍以上確保することが好ましい。T2の上限も特に限定されないが、チャンバ内空間の制約上、T1の5倍以下とすることが好ましい。
【0048】
本実施形態は、下部断熱体28よりも厚い上部断熱体30をヒータの上端24Aの近傍まで延在させる限り、断熱体の配置は特に限定されないが、
図2に示すように、下部断熱体28及び上部断熱体30は共通した外周面28B,30Bを有し、上部断熱体の内周面30Aは下部断熱体の内周面28Aよりも内側(引上げ軸X側)に位置し、下部断熱体の内周面28Aの位置からルツボ側に突出した上部断熱体の下端面30Cと、ヒータの上端面24Aとが対向している構成とすることが好ましい。
【0049】
(単結晶シリコンインゴットの製造方法)
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態による単結晶シリコンインゴットの製造方法を説明する。まず、ルツボ16内に多結晶シリコンナゲットなどのシリコン原料を充填し、チャンバ10内を減圧下のArガス雰囲気に維持する。この時、ルツボ16は、シリコン原料が熱遮蔽体22に接触しないようにチャンバ10内の下方に位置する。その後、ルツボ16内のシリコン原料をヒータ24で加熱し溶融し、シリコン融液Mを形成する。その後、ルツボ16を引き上げ開始位置まで上昇させる。
【0050】
次いで、ワイヤ昇降機構36によって引上げワイヤ34を下降させて、種結晶Sをシリコン融液Mに着液する。その後、ルツボ16および引上げワイヤ34を所定の方向に回転させながら、引上げワイヤ34を上方に引き上げ、種結晶Sの下方にインゴットIを育成する結晶育成工程を行う。なお、インゴットIの育成が進行するにつれて、シリコン融液Mの量は減少するが、ルツボ16を上昇させて、融液面のレベルを維持する。
【0051】
結晶育成工程では、まず単結晶を無転位化するためダッシュ法によるシード絞り(ネッキング)を行い、ネック部I
nを形成する。次に、必要な直径のインゴットを得るためにショルダー部I
sを育成し、シリコン単結晶が所望の直径になったところで直径を一定にして直胴部I
bを育成する。直胴部I
bを所定の長さまで育成した後、無転位の状態で単結晶をシリコン融液Mから切り離すためにテール絞り(テール部の形成)を行なう。
【0052】
本実施形態では、
図1,2に記載の装置100,200を用いることによって、結晶育成工程の間に、ヒータの上端24Aが常にルツボの内面の底16Cよりも低い位置にあるようにすることができる。これにより、既述のとおり、育成される単結晶シリコンインゴットI中のカーボン濃度を低減することが可能であり、さらに副次的に、インゴットの引上げ時の直径制御性を向上させることが可能である。
【0053】
さらに、結晶育成工程に加えて、ルツボ16内に投入したシリコン原料をヒータにより加熱、溶融してシリコン融液Mを形成する原料溶融工程の間も、ヒータの上端24Aがルツボの内面の底16Cよりも低い位置にあるようにすることが好ましい。これにより、原料溶融中にSi原料表面にCOガスの吸着を回避することができるため、シリコン融液中のカーボン濃度のさらなる低減につながる。
【実施例】
【0054】
本発明の効果を検証するため、以下に示す比較例1〜3、発明例1,2の5水準で、単結晶シリコンインゴットの製造を行った。プロセス条件は、各水準とも表1に示すとおりとした。
【0055】
【表1】
【0056】
(発明例1)
図1に示す構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いた。断熱体の厚さTは80mmとした。ヒータの寸法は、引上げ軸X方向の長さが600mm、厚みが50mmとした。断熱体の内周面とヒータの外周面との距離Dは30mmとした。そして、ヒータの上端は、シリコン融液の収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体に接触しない最上の位置にルツボを位置させた際の、ルツボの内面の底よりも150mm低い位置となるようにした。
【0057】
(発明例2)
図2に示す構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いた。下部断熱体の厚さT1は80mmとし、上部断熱体の厚さT2は160mmとした。ヒータの寸法は、発明例1と同じとした。下部断熱体の内周面とヒータの外周面との距離Dは30mmとした。そして、ヒータの上端は、シリコン融液の収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体に接触しない最上の位置にルツボを位置させた際の、ルツボの内面の底よりも150mm低い位置となるようにした。そして、上部断熱体の下端とヒータの上端との距離が50mmとなるように、上部断熱体の長さを設定した。
【0058】
(比較例1)
図3に示す構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いた。断熱体の厚さT、ヒータの寸法、および断熱体の内周面とヒータの外周面との距離Dは、いずれも発明例1と同じとした。そして、ヒータの上端は、シリコン融液Mの収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体に接触しない最上の位置にルツボを位置させた際の、ルツボの内面の底よりも520mm高い位置となるようにした。
【0059】
(比較例2)
ヒータ上端の位置を発明例1と比較例1との中間位置にした以外は、発明例1と同じ構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いた。ヒータ上端の位置は、シリコン融液の収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体に接触しない最上の位置にルツボを位置させた際の、融液面と石英ルツボの内面の底との間に位置する。
【0060】
(比較例3)
ヒータ上端の位置を発明例2と比較例1との中間位置にして、上部断熱体の下端とヒータの上端との距離が50mmとなるように、上部断熱体の長さを設定した以外は、発明例2と同じ構成のシリコン単結晶引上げ装置を用いた。ヒータ上端の位置は、シリコン融液の収容量を許容最大量として、シリコン融液が熱遮蔽体に接触しない最上の位置にルツボを位置させた際の、融液面と石英ルツボの内面の底との間に位置する。
【0061】
[評価方法]
(1)カーボン濃度(Cs濃度)
各水準で製造した単結晶シリコンインゴットの直胴部から切り出し、加工してシリコンウェーハを製造した。各ウェーハの中心1点において、FT−IR装置を用いて、シリコンの結晶位置に置換されたカーボンの濃度(Cs濃度)を測定した。比較例1のCs濃度を100とした指数評価を表2に示した。
【0062】
(2)石英ルツボ上端部の変形
育成した結晶を冷却後、チャンバを開放し、石英ルツボ上端の変形有無を目視で評価した。結果を表2に示す。
【0063】
(3)ヒータ電力量
各水準での直胴部上側から1930mmの位置におけるヒーターパワー値を抽出し、ヒータ電力量に換算した。各水準のヒータ電力量を表2に示した。
【0064】
(4)結晶の直径制御性
各々の水準での直径のばらつきが最大となる値で直径制御性を判断した。すなわち、直胴部の各位置において狙い直径と実績直径との差を計算し、その差の最大値を求めた。評価基準を以下のとおりとして、結果を表2に示した。
良:最大値(直径のばらつき)が±1mm未満
不良:最大値(直径のばらつき)が±1mm以上
【0065】
【表2】
【0066】
表2から明らかなとおり、本発明例1,2では、インゴット中のカーボン濃度を低減し、かつ、該インゴットの引上げ時の直径制御性を向上させることが可能である。また、本発明例2では、さらにヒータ電力量を効果的に削減でき、石英ルツボの上端部の変形も防止できた。
【0067】
(シミュレーション計算)
比較例1及び本発明例1,2の3条件について、炉内温度分布をシミュレーションから見積もり、石英ルツボ上端の倒れ込み防止ができる理由を検証した。
【0068】
図4は、石英ルツボ側面の上端を原点として、ルツボ底へ向かう方向の距離をX軸、石英ルツボ側面の温度をY軸として表記したグラフを示す。
図4から、本発明例1は、単結晶インゴットの育成を成立させるためにヒータ出力を上げたことから、石英ルツボの側面温度は比較例1と大差なかった。これに対して、本発明2は、石英ルツボ上端の側面温度が比較例1よりも約50℃低くなった。このことから、本発明例2では石英ルツボ上端部の低温化により内側への倒れこみが回避できたと推測される。