特許第6773896号(P6773896)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000020
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000021
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000022
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000023
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000024
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000025
  • 特許6773896-アリル配位子を含む金属錯体 図000026
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6773896
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】アリル配位子を含む金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/04 20060101AFI20201012BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C07F15/04
   C23C16/40
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-513826(P2019-513826)
(86)(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公表番号】特表2019-529403(P2019-529403A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2017071927
(87)【国際公開番号】WO2018046391
(87)【国際公開日】20180315
【審査請求日】2019年5月10日
(31)【優先権主張番号】62/385,356
(32)【優先日】2016年9月9日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シ,ビン
(72)【発明者】
【氏名】エルド,ジョビー
(72)【発明者】
【氏名】デゼラー,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】カンジョリア,ラヴィ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,グオ
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/018517(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/081797(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/050947(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 1/00−19/00
C23C 16/00−16/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造が式Iに対応する金属錯体:
【化1】
式中、Mはニッケルであり;
、R、R、R、RおよびRそれぞれ独立して、C〜C−アルキルであり、、R、RおよびR10がそれぞれ独立して、水素である
【請求項2】
上記R、R、R、R、RおよびR6それぞれ独立して、C〜C−アルキルである、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
上記R、R、R、R、RおよびRがそれぞれ独立してメチルまたはエチルである、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
上記錯体が
【化2】
である、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項5】
気相蒸着プロセスにより金属含有膜を形成する方法であって、構造が式Iに対応する少なくとも1つの金属錯体を蒸発させる工程を含む方法:
【化3】
式中、Mはニッケルであり;
、R、R、R、RおよびRそれぞれ独立して、C〜C−アルキルであり
および、R、R、RおよびR10がそれぞれ独立して、水素である
【請求項6】
上記R、R、R、R、RおよびR6それぞれ独立して、C〜C−アルキルである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
上記R、R、R、R、RおよびRがそれぞれ独立してメチルまたはエチルである、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
上記錯体が
【化4】
である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
上記気相蒸着プロセスが化学蒸着または原子層堆積である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記気相蒸着プロセスが化学蒸着であって、少なくとも1つの金属錯体が50℃〜70℃の温度で蒸発し、前記金属含有膜が1×1021原子/立方センチメートル〜2×1022原子/立方センチメートルの炭素濃度を有する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
上記気相蒸着プロセスが原子層堆積であって、少なくとも1つの金属錯体が50℃〜70℃の温度で蒸発し、前記金属含有膜が5×1019原子/立方センチメートル〜5×1021原子/立方センチメートルの炭素濃度を有する、請求項に記載の方法。
【請求項12】
上記金属錯体が、酸素供給源のパルスと交互のパルスで基板に送達され、前記酸素供給源がHO、H、O、オゾン、空気、i−PrOH、t−BuOH、およびNOからなる群より選択される、請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
水素、水素プラズマ、酸素、空気、水、アンモニア、ヒドラジン、ボラン、シラン、オゾン、およびそれらの任意の2つ以上の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの共反応物を蒸発させる工程をさらに含む、請求項5〜12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本技術は、一般に、2つのアリル配位子を含む金属錯体、およびその金属錯体を用いて金属含有薄膜を製造する方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
薄膜を形成するために様々な前駆体が使用され、様々な蒸着技術が用いられてきた。当該技術としては、反応性スパッタリング、イオンアシスト蒸着、ゾルゲル蒸着、化学気相蒸着(CVD)(有機金属CVDまたはMOCVDとしても知られている)、および原子層堆積(ALD)(原子層エピタキシーとしても知られている)が挙げられる。CVDおよびALDプロセスは、合成制御の向上、高い膜均一性、およびドーピングの効果的な制御といった利点を有するため、ますます使用されている。さらに、CVDおよびALDプロセスは、現代の超小型デバイスに関連する高度な非平面の構造において優れたコンフォーマルな段差被覆性を提供する。
【0003】
CVDは、基板表面上に薄膜を形成するために前駆体を使用する化学的プロセスである。典型的なCVDプロセスにおいて、前駆体は、低圧力または大気圧の反応チャンバ内で基板(例えば、ウェーハ)の表面上を通過する。前駆体は、基板表面上で反応および/または分解し、蒸着材料の薄膜を形成する。揮発性の副産物は、反応チャンバを通るガスフローによって除去される。蒸着膜厚の制御は困難となり得る。なぜなら、温度、圧力、ガスフロー体積および均一性、化学的減耗効果、ならびに時間などの多くの指標の組み合わせに依存するからである。
【0004】
ALDもまた、薄膜を蒸着する方法である。ALDは、表面反応に基づく自己制限的、連続的で独特な膜成長技術である。この表面反応は、正確な厚さ制御を可能にし、様々な組成の基板表面上に前駆体由来の材料のコンフォーマルな薄膜を蒸着することができる。ALDにおいては、前駆体は反応中に分離される。第1の前駆体は、基板表面上を通過し、基板表面上に単層を形成する。過剰な未反応の前駆体は、反応チャンバからポンプで排出される。その後、第2の前駆体は基板表面上を通過し、第1の前駆体と反応する。そして、基板表面上の第1の形成された単層膜の上に第2の単層膜を形成する。このサイクルを、所望の厚さの膜を形成するまで繰り返す。
【0005】
薄膜、特に金属含有薄膜には、ナノテクノロジーおよび半導体デバイスの製造などの様々な重要な用途がある。そのような用途の例として、高屈折率光学的被膜、腐食保護被膜、光触媒自己洗浄ガラス被膜、生体適合性被膜、電界効果トランジスタ(FET)における誘電性キャパシタ層およびゲート誘電絶縁膜、キャパシタ電極、ゲート電極、付着性分散バリア、および集積回路が含まれる。誘電性薄膜は、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)用の高κ誘電酸化物、赤外線検出器や非揮発性強誘電性ランダムアクセスメモリ(NV−FeRAMs)に使用される強誘電体ペロブスカイトなどの超小型電子用途にも使用される。超小型電子部品のサイズの継続的な縮小により、そのような薄膜技術の改善の必要性が高まっている。
【0006】
ニッケル含有薄膜(例えば、ニッケル金属、酸化ニッケル、窒化ニッケル)の作製に関する技術が特に興味深い。例えば、ニッケル含有膜は、触媒、電池、メモリデバイス、ディスプレイ、センサー、ならびに超微細および超小型電子技術などの分野において多くの実用的な用途が見出されている。電子用途の場合、揮発性、反応性および安定性を含む適切な特性を有するニッケル含有前駆体を使用する商業的に実行可能な気相蒸着が必要とされる。しかし、このような適切な特性を有する利用可能なニッケル含有化合物の数は限られている。例えば、ビス(アリル)ニッケル、(CNiは適切な揮発性および反応性を有するが、非常に低い熱安定性を有し、約20℃以上で分解することが知られている。例えば、Quisenberry,K., et al., J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 4376-4387およびSolomon, S., et al. Dalton Trans., 2010, 39, 2469-2483を参照のこと。したがって、ニッケル含有膜を調製するための気相蒸着における前駆体材料としての使用に適切な性能特性を有するニッケル錯体の開発に大きな関心がある。例えば、改良された性能特性(例えば、熱安定性、蒸気圧、および蒸着速度)を有するニッケル前駆体が必要であり、そのような前駆体から薄膜を蒸着する方法も必要である。
【0007】
〔発明の概要〕
一態様によれば、式Iの金属錯体が提供される:
【0008】
【化1】
【0009】
式中、Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され;
、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して、水素またはC〜C−アルキルである。
【0010】
他の態様では、式IIの金属錯体が提供される:
【0011】
【化2】
【0012】
式中、Mは本明細書に記載される通りであり;R、R、R、RおよびRは本明細書に記載される通りであり;Lは水素、C〜C−アルキル、(R11Cp、NR1213、3,5−R1415−CHN、Si(SiR161718および、
【0013】
【化3】
【0014】
からなる群より選択され;ここでCpはシクロペンタジエニル環であり、nは0〜5であり、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21およびR22はそれぞれ独立して、水素またはC〜C−アルキルである。
【0015】
他の態様では、CVDおよびALDなどの気相蒸着によって金属含有膜を形成する方法が、本明細書の式IおよびIIによる金属錯体を使用して提供される。
【0016】
上記で要約された本実施形態の特定の態様を含んでいる他の実施形態は、以下の詳細な説明によって明らかになるであろう。
【0017】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、ビス−(1−トリメチルシリルアリル)ニッケル(II)(Ni(TMS−アリル))の減量%と温度とのデータを示す熱重量分析(TGA)のグラフ表示である。
【0018】
図2は、Ni(TMS−アリル)を蒸着する場合の、共反応物なし、ならびに種々の還元性および酸化性の共反応物ありでの蒸着温度に対する、サイクル当たりのALD成長速度の依存性を示す。
【0019】
図3は、蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したALD成長NiO膜の成長速度の依存性を示す。
【0020】
図4は、蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したALD成長NiO膜の化学組成の依存性を示す。
【0021】
図5は、蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したパルスCVD成長NiO膜の平均成長速度の依存性を示す。
【0022】
図6は、蒸着温度の関数として、Ni(TMS−アリル)から蒸着したALD NiO膜とパルスCVD NiO膜との屈折率の実数部を比較したものを示す。
【0023】
図7は、蒸着温度の関数として、Ni(TMS−アリル)から蒸着したALD NiO膜とパルスCVD NiO膜とのSIMS分析による炭素濃度を比較したものを示す。
【0024】
〔詳細な説明〕
本技術のいくつかの実施形態の例を説明する前に、本技術は、以下の記述で説明される構成またはプロセス段階の細部に限定されないことを理解されたい。本技術は他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施または実行されることが可能である。また、金属錯体および他の化合物は、特定の立体化学的な配置を有する構造式を用いて本明細書に例示することができることも理解されたい。これらの例示は例としてのみ意図しており、開示された構造を特定の立体化学的な配置に限定するものとして解釈されるべきではない。むしろ、記載された構造は、示された化学式を有する全ての金属錯体および化合物を包含することを意図する。
【0025】
様々な態様において、金属錯体、その金属錯体の製造方法、および気相蒸着プロセスによって金属含有薄膜を形成するためにその金属錯体を使用する方法が提供される。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「金属錯体」(またはより単純には「錯体」)および「前駆体」は、互換的に使用され、そして、例えば、ALDまたはCVDなどの気相蒸着プロセスによって金属含有膜を調製するために使用され得る金属含有分子または化合物を指す。金属錯体は金属含有膜を形成するように、基板またはその表面上に蒸着、吸着、分解、送達、および/または通過させることができる。1つ以上の実施形態において、本明細書に開示される金属錯体は、ニッケル錯体である。
【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「金属含有膜」は、以下でより十分に定義されるような元素金属膜だけでなく、例えば、金属酸化物膜、金属窒化物膜、金属ケイ化物膜などの、1つ以上の元素と金属とを含む膜も含む。本明細書中で使用される場合、用語「元素金属膜」および「純金属膜」は、互換的に使用され、純金属からなる、または本質的に純金属からなる膜を指す。例えば、元素金属膜は、100%の純金属を含んでもよく、または元素金属膜は1つ以上の不純物と共に、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.9%、または少なくとも約99.99%の純金属を含んでもよい。文脈上別段の指示がない限り、用語「金属膜」は、元素金属膜を意味するものと解釈されるべきである。いくつかの実施形態において、金属含有膜は元素ニッケル膜である。他の実施形態において、金属含有膜は酸化ニッケル、窒化ニッケル、またはケイ化ニッケル膜である。このニッケル含有膜は、本明細書に記載される種々のニッケル錯体から調製され得る。
【0028】
本明細書中で使用される場合、用語「気相蒸着プロセス」はCVDおよびALDを含むが、これらに限定されず、任意の種類の気相蒸着技術を指すために使用される。様々な実施形態において、CVDは、従来の(すなわち連続フロー)CVD、液体注入CVD、または光アシストCVDの形態をとることができる。CVDは、パルス技術、すなわちパルスCVDの形態をとることもできる。他の実施形態において、ALDは従来の(すなわち、パルス注入)ALD、液体注入ALD、光アシストALD、プラズマアシストALD、またはプラズマ促進ALDの形態をとることができる。「気相蒸着プロセス」の語は、Chemical Vapour Deposition: Precursors, Processes, and Applications; Jones, A. C.; Hitchman, M. L., Eds. The Royal Society of Chemistry: Cambridge, 2009; Chapter 1, pp 1-36. に記載された種々の気相蒸着技術をさらに含む。
【0029】
(単独で、または別の用語(単数または複数)と組み合わせて)用語「アルキル」はメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシルなどのような、しかしこれらに限定されない、長さが1〜約12個の炭素原子の飽和炭化水素鎖を指す。アルキル基は、直鎖でも分枝鎖でもよい。「アルキル」は、アルキル基の全ての構造異性体を包含することを意図する。例えば、本明細書中で使用される場合、プロピルはn−プロピルおよびイソプロピルの両方を包含し;ブチルはn−ブチル、sec−ブチル、イソブチルおよびtert−ブチルを包含し;ペンチルはn−ペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、sec−ペンチルおよび3−ペンチルを包含する。さらに、本明細書中で使用される場合、「Me」はメチルを指し、「Et」はエチルを指し、「Pr」はプロピルを指し、「i−Pr」はイソプロピルを指し、「Bu」はブチルを指し、「t−Bu」はtert-ブチルを指し、「Np」はネオペンチルを指す。いくつかの実施形態において、アルキル基はC〜C−またはC〜C−アルキル基である。
【0030】
用語「アリル」は、金属中心に結合したアリル(C)配位子を指す。本明細書中で使用される場合、アリル配位子は共鳴二重結合を有し、アリル配位子の3つの炭素原子の全ては、π結合によるη−配位で金属中心に結合する。したがって、本発明の錯体はπ錯体である。これらの特徴は両方とも、破線の結合によって表される。アリル部が1つのX基で置換されている場合、X基はアリル水素を置換して[X]になり、2つのX基XおよびXで置換されている場合、[X]になり、XおよびXは同一または異なり、以下同様である。
【0031】
用語「シリル」は−SiZ基を指し、ここで、Z、ZおよびZの各々は、独立して、水素および場合により置換されたアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0032】
用語「トリアルキルシリル」は−SiZ基を指し、ここで、Z、ZおよびZはアルキルであり、Z、ZおよびZは、同じまたは異なるアルキルであってもよい。トリアルキルシリルの非限定的な例としては、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)およびtert-ブチルジメチルシリル(TBDMS)が挙げられる。
【0033】
金属アリル錯体を使用する、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンを含むいくつかの金属の蒸着は、蒸着のために不安定であるかまたは安定すぎるかのいずれかである熱安定性の問題のために、達成することが困難であり得る。本実施形態に開示の有機金属錯体は物性の制御を可能にするとともに、安定性の増加および簡素に高収率な合成を提供する。さらに本明細書に記載されるように、金属錯体は、金属中心に結合した、シリル、トリアルキルシリルおよび/またはアルキル置換アリル配位子などの立体的で嵩高い置換アリル配位子を含むことができる。いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、この置換アリル配位子(例えば、トリメチルシリルアリル)は適切な揮発性および反応性、ならびに増大した熱安定性を有する錯体をもたらすと考えられる。この錯体は、有機溶媒への溶解度が増大した液体の状態でも有利にあり得る。この点に関して、この置換アリル配位子の金属錯体は、種々の気相蒸着プロセスにおける薄い金属含有膜の調製のための優れた候補である。
【0034】
したがって、一態様として、式Iの錯体が提供される:
【0035】
【化4】
【0036】
式中、Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され;R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して、水素またはC〜C−アルキルであり得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、Mはニッケル、コバルトおよび鉄からなる群より選択され得る。他の実施形態において、Mはニッケル、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択することができる。特に、Mはニッケルであってもよい。
【0038】
、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は、それぞれ存在する場合に、同じであっても異なっていてもよい。例えば、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は全て水素であるか、または全てがアルキル(例えば、C〜C−アルキル)であってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、R、R、RおよびRは同じであっても異なっていてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、RおよびR10は、同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
一実施形態において、式Iの金属錯体はホモレプティック、すなわち、金属中心に結合した全ての配位子は同じであってよい。あるいは、式Iの金属錯体はヘテロレプティック、すなわち、金属中心に結合した配位子が異なり、および/または金属中心に結合した配位子の置換が異なってもよい。
【0040】
一実施形態において、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10のうちの9つまでが水素であってもよい。例えば、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10のうち、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または少なくとも8つが水素であってもよい。
【0041】
別の実施形態において、R、R、RおよびR10のうちの少なくとも1つが水素であってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、RおよびR10のうちの少なくとも2つ、または少なくとも3つが水素であってもよい。さらなる実施形態において、R、R、RおよびR10は水素であってもよい。
【0042】
別の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つが水素であってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つが水素であってもよい。さらなる実施形態において、R、R、R、R、RおよびRは水素であってもよい。
【0043】
別の実施形態において、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10のうちの9つまでが、それぞれ独立してアルキルであってもよい。例えば、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または少なくとも8つがアルキルであってもよい。
【0044】
別の実施形態において、R、R、RおよびR10のうちの少なくとも1つはアルキルであってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、RおよびR10のうちの少なくとも2つ、または少なくとも3つはアルキルであってもよい。さらなる実施形態において、R、R、RおよびR10はアルキルであってもよい。
【0045】
他の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つはアルキルであってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、R、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、または少なくとも5つはアルキルであってもよい。さらなる実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはアルキルであってもよい。
【0046】
本明細書において議論されるアルキル基は、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、またはC−アルキルであってもよい。さらなる実施形態において、アルキルは、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、C〜C−アルキル、またはC−アルキルである。アルキル基は、直鎖または分枝鎖であってもよい。特に、アルキルは直鎖である。さらなる実施形態において、アルキルは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、およびネオペンチルからなる群より選択される。
【0047】
いくつかの実施形態において、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は、それぞれ独立して水素またはC〜C−アルキルであってもよい。他の実施形態において、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は、それぞれ独立して水素またはC〜C−アルキルであってもよい。
【0048】
いくつかの実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよい。別の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであってもよい。特定の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはメチルであってもよい。
【0049】
別の実施形態において、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよい。別の実施形態において、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素またはメチルであってもよい。特定の実施形態において、R、R、RおよびR10は水素であってもよい。
【0050】
いくつかの実施形態において、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素、メチル、またはエチルであってもよい。別の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであってよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってよい。別の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素であってもよい。
【0051】
さらなる実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素であってもよい。特定の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素であってもよい。
【0052】
特定の実施形態において、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10は、それぞれ独立して水素またはC〜C−アルキルであってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素またはC〜C−アルキルであってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよい。
【0053】
別の実施形態において、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素であってもよい。これに加えて、またはこれに代えて、Mはニッケルであってもよく、R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであってもよく、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して水素であってもよい。
【0054】
構造が式1に対応する金属錯体の例を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
一実施形態において、2種以上の式Iの有機金属錯体の混合物が提供される。
【0057】
別の実施形態において、式IIの錯体が提供される:
【0058】
【化5】
【0059】
ここで、Mは本明細書に記載される通りであり;ここで、R、R、R、RおよびRは本明細書に記載される通りであり;Lは水素、C〜C−アルキル、(R11Cp、NR1213、3,5−R1415−CHN、Si(SiR161718および、
【0060】
【化6】
【0061】
からなる群より選択され;Cpはシクロペンタジエニル環であり、nは0〜5であり、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21およびR22はそれぞれ独立して水素またはC〜C−アルキルである。
【0062】
本明細書において提供される金属錯体は金属含有膜、例えば、元素ニッケル、酸化ニッケル、窒化ニッケル、およびケイ化ニッケルの膜を調製するために使用することができる。このように、別の態様において、気相蒸着プロセスによって金属含有膜を形成する方法が提供される。当該方法は、本明細書に開示されるように、構造が式(I)、式(II)、またはそれらの組み合わせに対応する少なくとも1つの有機金属錯体を蒸発させる方法を含む。例えば、これは、(1)少なくとも1つの錯体を蒸発させること、および(2)少なくとも1つの錯体を基板の表面に送達すること、または少なくとも1つの錯体を基板上に通過させること(および/または基板の表面上の少なくとも1つの錯体を分解すること)を含んでもよい。
【0063】
本明細書において開示される蒸着方法では、様々な基板を使用することができる。例えば、本明細書で開示されるような金属錯体は、これらに限定されないが、シリコン、結晶シリコン、Si(100)、Si(111)、酸化ケイ素、ガラス、歪みシリコン、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)、ドープされたシリコンまたは酸化ケイ素(例えば、炭素ドープされた酸化ケイ素)、窒化ケイ素、ゲルマニウム、ヒ化ガリウム、タンタル、窒化タンタル、アルミニウム、銅、ルテニウム、チタン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、およびナノスケールデバイス製造プロセス(例えば、半導体製造プロセス)で一般に遭遇する任意の数の他の基板などの、基板またはそれらの表面上に送達、通過、または蒸着されてもよい。当業者には理解されるように、基板は基板表面を研磨、エッチング、還元、酸化、ヒドロキシル化、アニール、および/またはベークするために、前処理プロセスに曝すことができる。1つ以上の実施形態において、基材表面は、水素終端表面を含む。
【0064】
ある実施形態において、金属錯体は、気相蒸着プロセスを容易にするために、炭化水素溶媒またはアミン溶媒のような適切な溶媒に溶解することができる。適切な炭化水素の溶媒としては、ヘキサン、ヘプタンおよびノナンなどの脂肪族炭化水素;トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素;ならびにジグリム、トリグリムおよびテトラグリムなどの脂肪族および環状エーテルが挙げられるが、これらに限定されない。適切なアミン溶媒の例として、オクチルアミンおよびN,N−ジメチルドデシルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、金属錯体をトルエンに溶解して、約0.05M〜約1Mの溶液を生成してもよい。
【0065】
別の実施形態において、少なくとも1つの金属錯体を「ニート」(キャリアガスで希釈していない)で基板表面に送達することができる。
【0066】
一実施形態において、気相蒸着プロセスは化学気相蒸着である。
【0067】
他の実施形態において、気相蒸着プロセスは原子層堆積である。
【0068】
ALDおよびCVDの方法は限定されないが、連続またはパルス注入プロセス、液体注入プロセス、光アシストプロセス、プラズマアシストプロセス、およびプラズマ促進プロセスなどの様々なタイプのALDおよびCVDのプロセスを包含する。明確にするために、本技術の方法は特に直接液体注入プロセスを含む。例えば、直接液体注入CVD(DLI−CVD)において、固体または液体の金属錯体を適切な溶剤に溶解し、そこから形成された溶液を蒸着チャンバに注入して金属錯体を蒸発させることができる。次いで、蒸発した金属錯体は、基板表面に輸送/送達される。一般に、DLI−CVDは、金属錯体が比較的低い揮発性を示すか、さもなければ蒸発することが困難であるような場合に特に有用であり得る。
【0069】
一実施形態において、金属含有膜を形成するために従来のCVDまたはパルスCVDを使用して、少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させる。従来のCVDプロセスについては、例えば、Smith, Donald(1995) Thin-Film Depotion: Principles and Practice. McGraw−Hillを参照のこと。
【0070】
一実施形態において、本明細書に開示される金属錯体のCVD成長条件は以下を含むが、これらに限定されない:
a.基板温度:50〜200℃、
b.エバポレータ温度(金属前駆体温度):0〜70℃、
c.反応器圧力:0〜10Torr、
d.アルゴンまたは窒素キャリアガスの流量:0〜50sccm、
e.オゾン処理の酸素流量:0〜300sccm、
f.水素流量:0〜50sccm、
g.実行時間:所望の膜厚によって異なる。
【0071】
別の実施形態において、光アシストCVDは、本明細書で開示される少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させることによって金属含有膜を形成するために使用される。
【0072】
さらなる実施形態において、従来の(すなわち、パルス注入)ALDは、本明細書で開示される少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させることによって金属含有膜を形成するために使用される。従来のALDプロセスについては、例えばGeorge SM., et al J. Phys. Chem., 1996, 100, 13121-13131を参照のこと。
【0073】
別の実施形態において、液体注入ALDは、本明細書で開示される少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させることによって金属含有膜を形成するために使用され、少なくとも1つの金属錯体はバブラーによる蒸気吸引とは対照的に、直接液体注入によって反応チャンバに送達される。液体注入ALDプロセスについては、例えばPotter R. J., et al., Chem. Vap. Deposition, 2005, 11(3), 159-169を参照のこと。
【0074】
本明細書中に開示される金属錯体のためのALD成長条件の例は以下を含むが、これらに限定されない:
a.基板温度:0〜275℃、
b.エバポレータ温度(金属前駆体温度):0〜70℃、
c.反応器圧力:0〜10Torr、
d.アルゴンまたは窒素キャリアガスの流量:0〜50sccm、
e.反応ガス流量:0〜300sccm、
f.パルスシーケンス(金属錯体/パージ/反応ガス/パージ):チャンバの大きさによって異なる、
g.回転数:所望の膜厚によって異なる。
【0075】
別の実施形態において、光アシストALDは、本明細書で開示される少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させることによって金属含有膜を形成するために使用される。光アシストALDプロセスについては、例えば、米国特許第4581249号を参照のこと。
【0076】
別の実施形態において、プラズマアシストALDまたはプラズマ促進ALDは、本明細書で開示される少なくとも1つの金属錯体を基板表面上に蒸発および/または通過させることによって金属含有膜を形成するために使用される。
【0077】
別の実施形態において、金属含有膜を基板表面上に形成する方法は、以下を含む:ALDプロセス中に、本明細書に記載の実施形態の1つ以上に係る気相の金属錯体に基板を曝露することにより、金属中心(例えば、ニッケル)によって表面に結合した金属錯体を含む層を表面上に形成させる工程;ALDプロセス中に、共反応物と結合した金属錯体を有する基板を曝露することにより、結合した金属錯体と共反応物との間で交換反応を生じ、これにより、結合した金属錯体を解離させ、基板表面上に元素金属の第1の層を生成する工程;および、上記ALDプロセスおよび上記処理を順次繰り返す工程。
【0078】
反応時間、温度、および圧力は金属表面相互作用を生成し、基板の表面上に層を形成するように選択される。ALD反応の反応条件は、金属錯体の特性に基づいて選択される。蒸着は大気圧で実施することができるが、より一般的には減圧で実施される。金属錯体の蒸気圧は、そのような用途において実用的であるために十分に低くあるべきである。基板温度は表面の金属原子間の結合を保ち、ガス反応物の熱分解を防止するために十分に高くあるべきである。しかし、基板温度は原料物質(すなわち、反応物質)を気相に保ち、表面反応に十分な活性化エネルギーを提供するのに十分な高さであるべきである。適切な温度は、使用される特定の金属錯体および圧力を含む種々のパラメーターに依存する。本明細書に開示されるALD蒸着法で使用するための特定の金属錯体の特性は当該技術分野で公知の方法を使用して評価することができ、反応に適切な温度および圧力の選択を可能にする。一般に、より低い分子量および配位子球の回転エントロピーを増加させる官能基の存在は、典型的な送達温度および増加した蒸気圧で液体を生じる融点をもたらす。
【0079】
蒸着法で使用するための金属錯体は、十分な蒸気圧、選択された基板温度での十分な熱安定性、および薄膜中の望ましくない不純物を含まずに基板表面上で反応を生じさせるのに十分な反応性、の要件の全てを有するであろう。十分な蒸気圧は、供給源の化合物の分子が完全な自己飽和反応を可能にするのに十分な濃度で基板表面上に存在することを確実にする。十分な熱安定性は、原料の化合物が薄膜中に不純物を生成する熱分解を受けないことを確実にする。
【0080】
したがって、これらの方法において利用される本明細書に開示される金属錯体は、液体、固体、または気体であってもよい。典型的には、金属錯体は、プロセスチャンバへの蒸気の一貫した輸送を可能にするのに十分な蒸気圧を有する周囲温度にて液体または固体である。
【0081】
一実施形態において、元素金属、金属窒化物、金属酸化物、または金属ケイ化物の膜は、本明細書に開示されるような少なくとも1つの金属錯体を、独立して、または共反応物と組み合わせて、蒸着のために送達することによって形成され得る。この点に関して、共反応物は、独立して、または少なくとも1つの金属錯体と組み合わせて、基板表面上に蒸着または送達または通過させることができる。容易に理解されるように、使用される特定の共反応物が、得られる金属含有膜の種類を決定する。このような共反応物の例として、水素、水素プラズマ、酸素、空気、水、アルコール、H、NO、アンモニア、ヒドラジン、ボラン、シラン、オゾン、またはそれらの任意の2つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好適なアルコールの例として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。好適なボランの例として、ボラン、ジボラン、トリボランなどのような水素化(すなわち、還元)ボランが含まれるが、これらに限定されない。好適なシランの例として、シラン、ジシラン、トリシランなどの水素化シランが挙げられるが、これらに限定されない。好適なヒドラジンの例として、ヒドラジン(N)、メチルヒドラジン、tert−ブチルヒドラジン、N,N−またはN,N’−ジメチルヒドラジンなどの1個以上のアルキル基で任意に置換されたヒドラジン(すなわち、アルキル置換ヒドラジン)、フェニルヒドラジンなどの1個以上のアリール基で任意に置換されたヒドラジン(すなわち、アリール置換ヒドラジン)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
一実施形態において、本明細書に開示される金属錯体が金属酸化物膜を提供するために、酸素含有共反応物のパルスと交互のパルスで基板表面に送達される。そのような酸素含有共反応物の例には、HO、H、O、オゾン、空気、i−PrOH、t−BuOH、またはNOなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
他の実施形態において、共反応物は還元剤、例えば水素を含む。この実施形態において、元素金属膜が得られる。特定の実施形態において、元素金属膜が純金属からなるか、または本質的に純金属からなる。このような純金属膜は、約80、85、90、95、または98%を超える金属を含有し得る。さらにより具体的な実施形態において、元素金属膜はニッケル膜である。
【0084】
他の実施形態において、本明細書に開示される少なくとも1つの金属錯体を、独立して、または、限定はしないがアンモニア、ヒドラジン、および/または他の窒素含有化合物(例えば、アミン)などの共反応物と組み合わせて、蒸着のために反応チャンバへ送達することによって金属窒化物膜を形成するために、共反応物が使用される。複数のこのような共反応物が使用され得る。さらなる実施形態において、金属窒化物膜は窒化ニッケル膜である。
【0085】
別の実施形態において、混合金属膜は、本明細書に開示される少なくとも1つの金属錯体を、本明細書に開示される少なくとも1つの金属錯体の金属以外の金属を含む第2の金属錯体と組み合わせて蒸発させるが、必ずしも同時に蒸発するとは限らない気相蒸着法によって形成され得る。
【0086】
特定の実施形態において、本技術の方法がダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)や、シリコンチップなどの基板上の記憶および論理の用途のための相補型金属酸化物半導体(CMOS)などの用途に利用される。
【0087】
本明細書中に開示される金属錯体のいずれも、元素金属、金属酸化物、金属窒化物、および/または金属ケイ化物の薄膜を調製するために使用され得る。このような膜は酸化触媒、アノード材料(例えば、SOFCまたはLIBアノード)、伝導層、センサー、拡散障壁/コーティング、超および非超伝導材料/コーティング、摩擦コーティング、および/または保護コーティングとしての用途を見出し得る。膜特性(例えば、導電率)は、蒸着に使用される金属、共反応物および/または共錯体の有無、生成される膜の厚さ、成長および後続プロセスの間に使用されるパラメーターおよび基板などの多くの要因に依存することが当業者には理解される。
【0088】
熱駆動CVDプロセスと反応性駆動ALDプロセスとの間には根本的な相違が存在する。最適な性能を達成するための前駆体特性の要件が大きく異なる。CVDでは、必要な化学種を基板上に蒸着させるための錯体のクリーンな熱分解が重要である。しかしながら、ALDにおいては、このような熱分解は何としても回避されなければならない。ALDにおいて、投入試薬間の反応は、表面で迅速でなければならず、その結果、基板上に標的物質が形成される。しかし、CVDでは、化学種間のそのような反応は、基板に到達する前のそれらの気相混合に起因して弊害があり、粒子形成につながる可能性がある。一般に、良好なCVD前駆体は、CVD前駆体に対する緩和された熱安定性要件のために、必ずしも良好なALD前駆体を形成しないことが認められている。本発明において、式Iの金属錯体は、ALD前駆体として機能するために十分な熱安定性および選択された共反応物に対する反応性を有し、それらは、CVDプロセスを通じて所望の材料を形成するために、より高い温度でクリーンな分解経路も有する。したがって、式Iに記載される金属錯体は有利に、実行可能なALDおよびCVD前駆体として有用である。
【0089】
さらに、本明細書に記載のALD法およびCVD法によって製造された薄膜中に存在する炭素濃度は、式Iの金属錯体、特にニッケル含有錯体を使用することによって効果的に制御することができる。有利には、薄膜中の炭素濃度の量は、ALDおよび/またはCVD法の間に温度を調節することによって、広範囲で増加または減少され得る。典型的には、薄膜への炭素の取り込みは膜の導電率を変化させ、デバイス性能を低下させる可能性があるため、回避されるべきである。しかしながら、本明細書に記載される方法によって製造される薄膜(例えば、ニッケル含有薄膜)におけるより高い炭素濃度は、一定の電子機器用途における薄膜の性能および機能を有益に増加させ得る。例えば、CVD中に、少なくとも1つの金属錯体(例えば、ニッケル錯体)を約50℃〜約70℃の温度で蒸発させて、約1×1021原子/立方センチメートル(原子/cm)〜約2×1022原子/cmの炭素濃度を有する金属含有膜を生成することができる。あるいは、ALD中に、少なくとも1つの金属錯体(例えば、ニッケル錯体)を約50℃〜約70℃の温度で蒸発させて、約5×1019原子/cm〜約5×1021原子/cmの炭素濃度を有する金属含有膜を生成してもよい。特に、炭素濃度は、ALDまたはCVD法の間に温度が低下するにつれて増加し得る。
【0090】
本明細書を通して、「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」または「実施形態」の参考例は、本実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、物質、または特性が本技術の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な場所における「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、または「実施形態において」などの語句の出現は、必ずしも本発明の同じ実施形態を指すとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、物質、または特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0091】
本明細書中の本技術は特定の実施形態を参照して記載されたが、これらの実施形態は本技術の原理および応用を単に例示しているに過ぎないことを理解されたい。本技術分野の精神および範囲から逸脱することなく、本技術分野の方法および装置に様々な修正および変形を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本技術は、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等の適用範囲内にある修正および変形を含むことが意図される。したがって、本技術は一般的に記載されるが、例示を目的として提供され、限定を意図していない以下の実施例を参考にすることによってより容易に理解されるのであろう。
【0092】
これに加えて、またはこれに代えて、本発明は、以下の実施形態の1つ以上を含むことができる。
【0093】
実施形態1。構造が式Iに対応する金属錯体:
【0094】
【化7】
【0095】
式中、Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され、好ましくは、Mはニッケルであり;R、R、R、R、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して、水素またはC〜C−アルキルであり、好ましくは水素またはC〜C−アルキル、より好ましくは水素、メチルまたはエチルである。
【0096】
実施形態2。Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され、好ましくは、Mはニッケルであり;R、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立してメチルまたはエチルであり;R、R、RおよびR10はそれぞれ独立して、水素、メチルまたはエチルであり、好ましくは水素である実施形態1に記載の金属錯体。
【0097】
実施形態3。R、R、R、R、RおよびRが同じである、実施形態1または2に記載の金属錯体。
【0098】
実施形態4。上記錯体がホモレプティックである、上記実施形態のいずれか1つに記載の金属錯体。
【0099】
実施形態5。上記錯体が、
【0100】
【化8】
【0101】
である、上記実施形態1のいずれか1つに記載の金属錯体。
【0102】
実施形態6。構造が式IIに対応する金属錯体:
【0103】
【化9】
【0104】
式中、Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され、好ましくは、Mはニッケルであり;R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素またはC〜C−アルキルであり、好ましくは水素またはC〜C−アルキルであり、より好ましくは水素、メチルまたはエチルである。
【0105】
実施形態7。Mはニッケル、コバルト、鉄、ルテニウムおよびマンガンからなる群より選択され、好ましくは、Mはニッケルであり;R、RおよびRがそれぞれ独立してメチルまたはエチルであり;RおよびRがそれぞれ独立して水素、メチルまたはエチルであり、好ましくは水素である、実施形態6に記載の金属錯体。
【0106】
実施形態8。R、RおよびRが同じである、実施形態6または7に記載の金属錯体。
【0107】
実施形態9。上記錯体がホモレプティックである、実施形態6、7または8のいずれか1つに記載の金属錯体。
【0108】
実施形態10。気相蒸着プロセスにより金属含有膜を形成する方法であって、少なくとも1つの金属錯体を上記実施形態のいずれか1つにより蒸発させる工程を含む方法。
【0109】
実施形態11。上記気相蒸着プロセスが、化学気相蒸着、好ましくはパルス化学気相蒸着、連続フロー化学気相蒸着、および/または液体注入化学気相蒸着である、実施形態10に記載の方法。
【0110】
実施形態12。上記少なくとも1つの金属錯体、好ましくはMがニッケルである金属錯体は約50℃〜約70℃で蒸発させられ、上記金属含有膜は約1×1021原子/立方センチメートル〜約2×1022原子/立方センチメートルの炭素濃度を有する、実施形態11に記載の方法。
【0111】
実施形態13。上記気相蒸着プロセスは、原子層堆積、好ましくは液体注入原子層堆積またはプラズマ促進原子層堆積である、実施形態10に記載の方法。
【0112】
実施形態14。上記少なくとも1つの金属錯体、好ましくはMがニッケルである金属錯体は約50℃〜約70℃で蒸発させられ、上記金属含有膜は約5×1019原子/立方センチメートル〜約5×1021原子/立方センチメートルの炭素濃度を有する、実施形態13に記載の方法。
【0113】
実施形態15。上記金属錯体は酸素供給源のパルスと交互のパルスで基板に送達され、好ましくは上記酸素供給源がHO、H、O、オゾン、空気、i−PrOH、t−BuOH、およびNOからなる群より選択される、実施形態10、11、12、13または14のいずれか1つに記載の方法。
【0114】
実施形態16。水素、水素プラズマ、酸素、空気、水、アンモニア、ヒドラジン、ボラン、シラン、オゾン、およびそれらの任意の2つ以上の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの共反応物を蒸発させる工程をさらに含み、好ましくは、少なくとも1つの共反応物はヒドラジン(例えば、ヒドラジン(N)、N,N−ジメチルヒドラジン)である、実施形態10、11、12、13、14または15のいずれか1つに記載の方法。
【0115】
実施形態17。上記方法は、DRAMまたはCMOSの用途に使用される、実施形態10、11、12、13、14、15または16のいずれか1つに記載の方法。
【0116】
〔実施例〕
特に断りのない限り、全ての合成操作は当技術分野で一般に知られている空気反応性物質を取り扱うための技術(例えば、シュレンク技術)を用いて、不活性雰囲気(例えば、精製窒素またはアルゴン)中で行われる。
【0117】
〔実施例1:錯体1(ビス−(1−トリメチルシリルアリル)ニッケル(II))(Ni(TMS−アリル))の調製〕
【0118】
【化10】
【0119】
ステップ1:K−トリメチルシリルアリルの調製
500mLのシュレンクフラスコに、アリルトリメチルシラン(26.0g、230mmol)および200mLの無水ヘキサンを入れ、溶液を形成した。当該溶液を−78℃に冷却し、ヘキサン(143.75mL、230mmol)中のn−ブチルリチウムの1.6M溶液を−78℃で滴下して添加し、反応混合物を形成した。反応混合物は淡黄色に変化した。−78℃で30分間以下の時間、撹拌した後、反応混合物を室温(18℃〜25℃)に温め、さらに4〜5時間撹拌して黄白色の透明な溶液を形成した。カリウムtert−ブトキシド(33.6g、299mmol)をN下で上記溶液に添加し、これを室温で一晩(6時間〜12時間)撹拌した。淡黄色の沈殿物が形成された。沈殿物を、グローブボックス中の焼結漏斗を通して濾過し、ペンタンで数回洗浄し、一晩(6時間〜12時間)乾燥させ、オフホワイト(淡黄色)の生成物、K−トリメチルシリルアリルを33gの収率で得て、C中のH−NMRによって同定した。
【0120】
ステップ2
500mLのシュレンクフラスコに、NiBr・1,2−ジメトキシエタン(10g、32.4mmol)および150mLの無水テトラヒドロフラン(THF)を入れた。K−トリメチルシリルアリル(10g、65.8mmol)のTHF溶液100mLを−78℃で滴下して添加し、反応混合物を形成した。反応混合物を室温(18℃〜25℃)までゆっくりと温め、N下で一晩(6時間〜12時間)撹拌した。溶媒を除去した後、残渣をペンタンで抽出した。ペンタンを除去し、暗褐色の液体(7.3g、75.5%)として粗生成物を生成した。粗生成物の蒸留を80℃、1.5Torrで行い、橙色の液体(62.1%)として6gのNi(TMS−アリル)を生成した。元素分析は、C1226SiNiについて同定した:C,50.54;H,9.19。検出:C,47.88;H,8.91。
【0121】
Ni(TMS−アリル)の熱重量分析(TGA)を行い、その結果を図1に示した。TGAのデータを、Nをキャリアガスとして大気圧下、600℃まで、10℃/分の昇温速度で得た。TGAサンプリングは、空気接触を避けるためにアルゴンを充填したグローブボックス内で行った。図1に示されるように、Ni(TMS−アリル)は約60℃で単一の重量の減少(〜80%)が始まり、約300℃で完了した。
【0122】
〔実施例2:NiOおよびNi膜のALDおよびパルスCVD成長〕
(一般的な方法)
Ni(TMS−アリル)をステンレス製バブラーで50℃、または蒸気吸引アンプルで60〜70℃に加熱し、窒素をキャリアガスとして用いてALD/CVD反応器に送達し、ALDまたはパルスCVDによって蒸着させた。オゾン(O)を酸素ガスからその場で、室温で生成し、共反応物としてニードルバルブを通してALD/CVD反応器に送達した。O濃度をモニターし、200g/m以下に維持した。使用した基板は以下の通りであった:厚さ測定、XPS(X線光電子分光法)およびSIMS(二次イオン質量分析法)解析に使用する場合、14〜17Åの厚さの範囲のネイティブなSiO層を有するシリコンチップ;または抵抗率測定に使用する場合、1kÅ以下の厚さの熱的SiO。HOを室温でニードルバルブを通してステンレス製アンプルに送達した。他のガス共反応物、H、NH、NOまたはOを、圧縮ガスシリンダーからニードルバルブを通して送達した。蒸着したままの膜を、光学エリプソメーターを用いた厚さおよび光学特性の測定、および4点プローブを用いたシート抵抗の測定に使用した。XPSおよびSIMS元素分析を、選択されたサンプルについて種々のフィルム深度で実施した。報告されたXPSおよびSIMSデータは、空気曝露に起因して存在し得る表面汚染物質を実質的に含まない膜を分析するために、NiO膜の表面層をスパッタ除去または除去した後で得られた。
【0123】
〔実施例2(a):HによるALD成長、NHによるALD成長、および共反応物なしのALD成長〕
Ni(TMS−アリル)を、キャリアガスとして20sccmの窒素を用いてALD/CVD反応器中に送達し、バブラーから5秒間パルスし、続いて10〜20秒間パージし、そして200℃〜275℃の複数の温度で280サイクルまで、共反応物なしで、または5〜10秒間パルスの還元ガス、HもしくはNHを用いて蒸着させ、続いて20sccmの窒素を用いて10〜20秒間パージした。蒸着したままの膜を取り出す前に窒素パージ下で、反応器中で50℃以下に冷却した。約580Åまでの膜厚が蒸着された。サイクルあたりの成長速度のデータを図1にプロットした。種々の抵抗率を有する導電性フィルムを得た。250℃で共反応物を使用しなかった場合、270〜920μΩ−cmの範囲の低い抵抗率が、蒸着したままの膜で達成された。
【0124】
図1に示すように、Ni(TMS−アリル)のTGA熱分解温度は160℃以下であった。
【0125】
〔実施例2(b):HO共反応物によるALD成長〕
Ni(TMS−アリル)を、キャリアガスとして10〜20sccmの窒素を用いてALD/CVD反応器中に送達し、蒸気吸引アンプルから1〜2秒間パルスし、続いて8〜15秒間パージし、次いでHOの1秒間パルスおよび15〜17秒間パージして、そして137〜268℃の温度で400サイクルまで蒸着させた。1サイクルあたりの成長速度は180℃以下ではほぼ0であり、蒸着温度の上昇に伴って急速に増加し、図2に示すような共反応物なし処理と同様の傾向を示した。表1に示すような組成を決定するために、選択された膜をXPSによって分析した。225℃および246℃で蒸着された膜のXPSは、結合エネルギーによって決定されるように、主にNi金属であること、ならびにいくらかのNiOおよび6%以下のSi不純物であるが、炭素または窒素を有さないことを明らかにした。
【0126】
【表2】
【0127】
〔実施例2(c):NOおよびO共反応物によるALD成長〕
Ni(TMS−アリル)を、20sccmの窒素をキャリアガスとして用いてALD/CVD反応器中に送達し、バブラーから5秒間パルスし、続いて11秒間パージし、次いでニードルバルブを通してNOまたはOを10秒間パルスし、14秒間パージし、そして175℃、300サイクルで蒸着した。1サイクルあたりの成長速度(約0.05Å/サイクル以下)も図2にプロットした。175℃でのこれらの酸化剤による熱分解はほとんどないか、または最小限の酸化しか示さず、180℃以下でのHOプロセスと類似していた。
【0128】
〔実施例2(d):O共反応物によるALD成長〕
Ni(TMS−アリル)を、キャリアガスとして20sccmの窒素を用いてALD/CVD反応器中に送達し、バブラーから5秒間パルスし、次いで20〜30秒間パージし、次いでニードルバルブを通して10秒間オゾンをパルスし、14秒間パージし、100〜225℃で275サイクルまで蒸着させた。1サイクルあたりの飽和温度依存性成長速度を図3にプロットした。ALDウィンドウを125℃〜200℃まで観察し、成長速度はNi(acac)、Ni(thd)、およびNi(EtCp)などの他の多くの既知のNi前駆体(1Å/サイクル以下)よりも有意に高い1.5Å/サイクル以下でほぼ一定だった。Varun Sharma, Master Thesis "Evaluation of Novel Metalorganic Precursors for Atomic Layer Deposition of Nickel-based Thin Films", Technische Univerisitat Dresden, 2015, p. 15を参照されたい。ALDウィンドウの上限値はALD/CVD反応器における前駆体の非常に短い接触時間に起因してTGA熱分解温度(160℃以下)よりも高く、図1に示すSi基板上の熱分解データとも一致する。
【0129】
選択されたALD NiO膜のXPSデータを図4に示す。蒸着温度の関数としての、Ni(TMS−アリル)とオゾンから蒸着した膜のNi/O比率は、100〜125℃で蒸着した場合に化学量論的NiO膜(Ni/O=1)に近いことを示す。蒸着温度と反対の傾向を有する膜中には少量のSiおよびCが存在する。C濃度はOの酸化力の減少から予想されるように、蒸着温度の低下と共に上昇する。他方、ALDウィンドウにおけるNiO中のSi濃度は温度の上昇と共に上昇し、表2に列挙される225℃以上でのHOプロセスからのNiO中のSi濃度よりも高く、このプロセスは主に熱分解である。
【0130】
〔実施例2(e):パルスCVD〕
パルスCVDプロセスでは、Ni(TMS−アリル)を、30sccmのNをキャリアガスとして用いてALD/CVD反応器に送達し、バブラーから3秒間パルスし、続いて120〜220mTorrの分圧でオゾンの連続流中で12秒間パージし、60〜200℃で200パルスまで蒸着させた。同じ量のNi(TMS−アリル)を用いたNiOの成長速度は図5に示すように蒸着温度の低下と共に急速に増加し、これは表面基板の前駆体の吸着の増加によるものと考えられる。60℃での成長速度の低下は、この温度でのNi(TMS−アリル)とOとの反応性の低下によるものと考えられる。
【0131】
〔実施例2(f):ALDおよびパルスCVD NiO膜の比較〕
ALDとパルスCVDにより蒸着したNiO膜の633nmにおける屈折率n(633)の実数部を偏光解析法により求め、その値を図6に示すように比較した。特に高温では傾向に差が見られた。ALD NiO膜は125℃以上でALDウィンドウ内に蒸着されたとき、有意に高いn(633)を有するが、パルスCVD膜のn(633)はALDプロセスよりも低く、変動が少ない。図7に示されるSIMS分析結果は、ALDおよびパルスCVD NiOの間の炭素濃度のより大きな差異を明らかにした。
【0132】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、発行された特許、および他の文書は、あたかもそれぞれの個々の刊行物、特許出願、発行された特許、または他の文書が参照によりその全体が組み込まれるように具体的かつ個々に示されるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる文に含まれる定義は、本開示における定義と矛盾する範囲で除外される。
【0133】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」という用語は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1】ビス−(1−トリメチルシリルアリル)ニッケル(II)(Ni(TMS−アリル))の減量%と温度とのデータを示す熱重量分析(TGA)のグラフ表示である。
図2】Ni(TMS−アリル)を蒸着する場合の、共反応物なし、ならびに種々の還元性および酸化性の共反応物ありでの蒸着温度に対する、サイクル当たりのALD成長速度の依存性を示す。
図3】蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したALD成長NiO膜の成長速度の依存性を示す。
図4】蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したALD成長NiO膜の化学組成の依存性を示す。
図5】蒸着温度に対する、オゾンを用いてNi(TMS−アリル)から蒸着したパルスCVD成長NiO膜の平均成長速度の依存性を示す。
図6】蒸着温度の関数として、Ni(TMS−アリル)から蒸着したALD NiO膜とパルスCVD NiO膜との屈折率の実数部を比較したものを示す。
図7】蒸着温度の関数として、Ni(TMS−アリル)から蒸着したALD NiO膜とパルスCVD NiO膜とのSIMS分析による炭素濃度を比較したものを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7